(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144477
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】複合繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 9/08 20060101AFI20241003BHJP
D01F 8/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D01F9/08 Z
D01F8/18
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024117093
(22)【出願日】2024-07-22
(62)【分割の表示】P 2022510764の分割
【原出願日】2021-03-26
(31)【優先権主張番号】P 2020056310
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100221501
【弁理士】
【氏名又は名称】式見 真行
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 洪
(72)【発明者】
【氏名】立石 貴志
(72)【発明者】
【氏名】山田 高明
(57)【要約】
【課題】圧電材料として機能し得る従来のPZTファイバよりも強度が向上した複合繊維を提供すること。
【解決手段】少なくとも金属焼結体とセラミック焼結体とから構成される複合繊維を提供する。当該複合繊維では前記金属焼結体と前記セラミック焼結体とが互いに隣接して繊維体を成している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも金属焼結体とセラミック焼結体とから構成される複合繊維であって、前記金属焼結体と前記セラミック焼結体とが互いに隣接して繊維体を成し、
前記金属焼結体と前記セラミック焼結体とが界面を形成し、前記界面が面粗さを有し、前記面粗さが前記界面の断面視における線粗さで規定された粗さであって、前記線粗さが15nm以上1000nm以下であり、
前記金属焼結体が金属単体焼結体であり、前記セラミック焼結体が金属酸化物セラミック焼結体であり、
前記金属焼結体が金属の結晶粒から構成され、前記セラミック焼結体がセラミックの結晶粒から構成されている、複合繊維。
【請求項2】
前記界面が結晶粒から構成されている、請求項1に記載の複合繊維。
【請求項3】
前記金属焼結体を構成する結晶粒と前記セラミック焼結体を構成する結晶粒とで界面を形成する、請求項1または2に記載の複合繊維。
【請求項4】
前記金属焼結体を構成する結晶粒が金属の結晶成長により形成された結晶粒であり、前記セラミック焼結体を構成する結晶粒がセラミックの結晶成長により形成された結晶粒である、請求項1~3のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項5】
前記複合繊維の断面視において前記界面が隙間を有していない、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項6】
前記金属焼結体が前記複合繊維の中心部に位置付けられている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項7】
前記セラミック焼結体が前記複合繊維の中心部に位置付けられている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項8】
前記複合繊維の中心部が前記金属焼結体から構成されており、前記複合繊維の外側部の少なくとも一部が前記セラミック焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項9】
前記複合繊維の中心部が前記セラミック焼結体から構成されており、前記複合繊維の外側部の少なくとも一部が前記金属焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項10】
前記複合繊維の中心部が前記金属焼結体から構成されており、前記複合繊維の外側部も独立して前記金属焼結体から構成されていて、前記中心部と前記外側部との間に配置される中間部が前記セラミック焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項11】
前記複合繊維の軸方向の第1端部が前記金属焼結体から構成されており、前記第1端部に対向する第2端部も独立して前記金属焼結体から構成されていて、前記第1端部と前記第2端部との間に配置される接続部が前記セラミック焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項12】
前記複合繊維の軸方向または軸方向に垂直な方向の断面において前記複合繊維の中部が前記金属焼結体から構成されており、前記複合繊維の上部および下部がそれぞれ独立して前記セラミック焼結体から構成されている、あるいは前記複合繊維の中部が前記セラミック焼結体から構成されており、前記複合繊維の上部および下部がそれぞれ独立して前記金属焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項13】
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記第1層が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記第2層が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記芯部分が結晶粒から構成されない金属を含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項14】
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記第1層が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記第2層が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記芯部分が結晶粒から構成されないセラミックを含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項15】
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記芯部分が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記第1層が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記第2層が結晶粒から構成されない金属を含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項16】
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記芯部分が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記第1層が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記第2層が結晶粒から構成されないセラミックを含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項17】
前記金属焼結体を構成する金属成分が、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、白金(Pt)、鉄(Fe)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種から構成される、請求項1~16いずれかに記載の複合繊維。
【請求項18】
前記金属焼結体がニッケル金属単体または銅金属単体である、請求項1~17のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項19】
前記セラミック焼結体を構成するセラミック成分が、酸素(O)と、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、セシウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)およびエルビウム(Er)からなる群から選択される少なくとも1種とから構成される、請求項1~18のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項20】
前記セラミック焼結体が、チタン酸バリウムまたはチタン酸ビスマスナトリウムである、請求項1~19のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項21】
前記複合繊維の引張り強度が5kgf/mm2以上400kgf/mm2以下である、請求項1~20のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項22】
曲率半径が3mm以上200mm以下となるような可撓性を有している、請求項1~21のいずれかに記載の複合繊維。
【請求項23】
前記複合繊維の繊維径が1μm以上500μm以下である、請求項1~22のいずれかに記載の複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合繊維に関し、より具体的には少なくとも金属焼結体とセラミック焼結体とから構成され得る複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物、自動車、船舶、航空機などの構造物に利用可能な振動センサやアクチュエータとしてチタン酸ジルコン酸鉛ファイバ(PZTファイバ)を用いた圧電ファイバが知られている(例えば特許文献1~6)。また、このようなPZTファイバを応力センサ、振動センサやアクチュエータとして機能させるために構造体中にPZTファイバを埋め込んだスマートボードなども知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2003-12829
【特許文献2】特願2005-171752
【特許文献3】特願2004-15489
【特許文献4】特願2005-59552
【特許文献5】特願2005-313715
【特許文献6】特願2010-198092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者らは、従前のチタン酸ジルコン酸鉛ファイバ(PZTファイバ)には克服すべき課題があることに気付き、そのための対策を取る必要性を見出した。具体的には以下の課題があることを本願発明者らは見出した。
【0005】
例えば
図11(A)に示すように特許文献1などに記載のチタン酸ジルコン酸鉛ファイバ(PZTファイバ)100は、金属ワイヤ101(チタンワイヤ、白金ワイヤなどの金属細線)にチタン酸ジルコン酸鉛結晶(PZT結晶)を被覆することにより形成され得るPZT薄層102を有する。
【0006】
例えば水熱合成法により金属ワイヤ表面にPZT結晶を成長させることでPZTファイバを製造することができる。あるいは押出成形法を用いることによってもPZTファイバを製造することができる。例えば
図13に示す通り押出成形法ではPZTペースト105(PZT粉末とバインダと水、場合によっては有機溶媒や、種々の成型添加材等を加えて混錬したもの)を金属ワイヤ101とともに同時押出することで金属コア入りのPZTファイバ成形体を作製し、次いで、このPZTファイバ成形体を加熱することで脱バインダのプロセスを経た後、さらに高温で焼結することで金属ワイヤ表面にPZT薄層が形成されたPZTファイバを製造することができる。
【0007】
このように水熱合成法や押出成形法などにより製造され得るPZTファイバでは金属ワイヤ表面が単にPZT結晶で被覆されただけの構造を有することからPZT薄層102が割れ易い。例えば振動センサやアクチュエータなどに使用する場合(特に航空機の分野で使用する場合)、例えば
図11(B)および(C)に示すように炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のプリプレグ201を積層して成る構造体202にPZTファイバ100を部分的に埋設することで補強してスマートボード200として使用している(
図11(B)および(C)参照)。
【0008】
例えば、スマートボード200を振動センサやアクチュエータとして使用する場合、PZTファイバ100が圧電材料であるため振動を検知すると電位を発生してセンサとして機能し、逆にPZTファイバ100に電位を印加するとその電位に応じてPZTファイバが伸縮ないしは、振動してアクチュエータとして機能することができる。例えば、
図12(A)に示す通りPZTファイバ100が電位の印加により矢印で示す軸方向に沿って伸びると、
図12(B)に示すように構造体202とともに湾曲することができる。このようにスマートボード200では、複数のPZTファイバ100のうち所定のPZTファイバがセンサとして機能して振動を検知し、所定の別のPZTファイバが振動を抑制(制振)するようにアクチュエータとして作動することができる。尚、
図12においてPZTファイバ100の破線より下側の部分はPZTファイバ100が構造体202(具体的にはCFRPプリプレグ201)に埋設されていることを示す(
図11(C)参照)。
【0009】
このようにPZTファイバを振動センサやアクチュエータにて使用する場合、PZTファイバには、ある程度の強度や可撓性が必要である。しかし、本願発明者らは高分子学会 高分子7月号(Vol.57 No.7, 2008)の記載内容より、従来のPZTファイバの強度(引張り強度または破断伸び荷重)は4kgf/mm2程度であり、繊維として容易に壊れやすく、切れやすく、割れやすく、さらなる強度の向上が必要であることがわかった。
【0010】
また、
図14に示す通り、白金(Pt)などの金属細線301にPZT膜302を形成したPZTファイバ300ではPZTと金属細線(Pt)との間に熱膨張係数の差による層間剥離が発生し、その界面から割れやすいことがわかった。これは、繊維として物理的に強度が低い原因となる。
【0011】
本願発明はかかる課題に鑑みて為されたものである。即ち、本発明の主たる目的は、圧電材料として機能し得る従来のPZTファイバよりも強度が向上した複合繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、従来技術の延長線上で対応するのではなく、新たな方向で対処することによって上記課題の解決を試みた。その結果、上記主たる目的が達成された複合繊維の発明に至った。
【0013】
本発明では、少なくとも金属焼結体とセラミック焼結体とから構成され得る複合繊維であって、金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接して繊維体を成している複合繊維が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、圧電材料として機能し得る従来のPZTファイバよりも強度が向上した複合繊維が得られる。より具体的には、層間剥離が顕著に抑制され、引張り強度が5kgf/mm2以上、好ましくは6kgf/mm2以上の複合繊維が得られる。また、曲げたときの曲率半径が200mm以下、好ましくは10mm以下の可撓性を有する複合繊維が得られる。尚、本明細書に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものでなく、また、付加的な効果があってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る複合繊維を模式的に示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る複合繊維に含まれる隣接した金属焼結体とセラミック焼結体の断面、特に金属焼結体とセラミック焼結体との界面を模式的に示す概略断面図である。
【
図3】
図3は、結晶粒から構成された金属焼結体(Ni)と、同じく結晶粒から構成されたセラミック焼結体(BT)との界面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図4】
図4は、本発明の別の実施形態に係る複合繊維を模式的に示す概略図である。
【
図5】
図5は、本発明の他の実施形態に係る複合繊維を模式的に示す概略図である。
【
図6】
図6(A)は、本発明の別の実施形態に係る複合繊維を模式的に示す概略斜視図であり、
図6(B)は、
図6(A)の複合繊維のY-Y’での断面を示す。
【
図7】
図7は、金属芯(Ni)と第1層(Ni結晶粒層)と第2層(BaTiO
3結晶粒層)とから構成された複合繊維の断面を示す電子顕微鏡写真である。
【
図8】
図8は、複合繊維の製造方法の一例を模式的に示す概略図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施例1で製造された複合繊維に含まれる隣接した金属焼結体(Ni)とセラミック焼結体(BT)の断面を示す電子顕微鏡写真(5.0kV、2500倍)である。
【
図10】
図10は、比較例1で製造された複合繊維に含まれる隣接した金属焼結体とセラミック焼結体の断面を示す電子顕微鏡写真(5.0kV、2500倍)である。
【
図11】
図11は、従来のPZTファイバならびにPZTファイバを構造体に埋設したスマートボードを模式的に示す概略図である。
【
図12】
図12は、従来のスマートボードを振動センサおよびアクチュエータとして使用する場合を模式的に示す概略図である。
【
図13】
図13は、従来のPZTファイバの製造方法の一例を模式的に示す概略図である。
【
図14】
図14は従来のPZTファイバを模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、複合繊維に関し、より具体的には、少なくとも「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とから構成または形成され得る複合繊維であって、金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接して繊維体を成している複合繊維に関する(以下「本開示の複合繊維」または単に「複合繊維」もしくは「繊維」と呼ぶ場合もある)。
【0017】
本開示の複合繊維は、概して、従来のPZTファイバなどの圧電繊維よりも高い強度を有する。従来のPZTファイバは単に「金属ワイヤ」に「PZT結晶」を被覆させただけの構造を有することから4kgf/mm
2程度の強度(引張り強度、破断伸び荷重)しか有しておらず、上述のように層間剥離を引き起こすことから繊維単体では容易に破断する。このようなPZTファイバを振動センサやアクチュエータにおいて使用する場合、例えば
図11(B)に示すように炭素繊維強化プラスチック(CFRP)プリプレグなどの構造体でPZTファイバを補強しなければならない。
【0018】
しかし、本開示の複合繊維は、以下にて詳しく説明する通り、「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とが互いに隣接して繊維体を成している構造を有することから、例えば5kgf/mm2以上、好ましくは6kgf/mm2以上の強度(引張り強度、破断伸び荷重など)を提供することができる。
【0019】
また、このような強度の増加によって、細径化が可能となるので本開示の複合繊維は曲げたときの曲率半径が従来のPZTファイバよりも小さく、例えば200mm以下、好ましくは10mm以下の曲率半径を有するような可撓性を奏することができる。
【0020】
このように本開示の複合繊維は従来のPZTファイバと比べて優れた強度や可撓性などの性能を有する。このような性能は、「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とが互いに隣接して「繊維体」を成している構造、特に共焼結により「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とが互いに結合している構造に起因するものである。尚、本願発明およびその効果は特定の理論などに拘泥されるものではない。
【0021】
(複合繊維)
「複合繊維」とは、概して、異なる2種類以上の材料から構成され得る繊維を意味し、本開示の複合繊維では、少なくとも「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とを含んで成る繊維を意味する。
【0022】
本開示において「繊維体」(または「複合繊維」もしくは「繊維」)とは、細長い形状の物体または物品を意味し、その長さに特に制限はない。本開示において「繊維体」の形状、特に断面の形状に特に制限はなく、例えば円形、楕円形、矩形、異形の断面などを有していてよい。
【0023】
本開示において「金属焼結体」とは、少なくとも以下に記載の「金属成分」が焼成されて成る金属または合金、好ましくは金属単体を意味する。換言すると「金属成分」は「金属焼結体」を構成し得る成分といえる。あるいは「金属成分」は「金属焼結体」に含まれ得る成分ともいえる。
【0024】
本開示において「金属成分」とは、金属(好ましくは金属単体)を構成し得る成分(元素)であれば特に制限はなく、例えば、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、白金(Pt)、鉄(Fe)およびニッケル(Ni)からなる群から選択される少なくとも1種から構成される(以下、「金属元素」と呼ぶ場合もある)。本開示の複合繊維において金属成分はニッケルあるいは銅であることが好ましい。
【0025】
本開示の複合繊維において、金属焼結体は、ニッケル(金属単体)あるいは銅(金属単体)であることが好ましく、ニッケル金属(元素)あるいは銅金属(元素)の粒子または結晶粒が互いに結合して成る構造を有していることがより好ましい。
【0026】
本開示において「セラミック焼結体」とは、少なくとも以下に記載の「セラミック成分」が焼成されて成るセラミック、好ましくはセラミック結晶を意味する。換言すると「セラミック成分」は「セラミック焼結体」を構成し得る成分といえる。あるいは「セラミック成分」は「セラミック焼結体」に含まれ得る成分ともいえる。
【0027】
本開示において「セラミック成分」とは、セラミック(セラミック結晶、特に金属酸化物)を構成し得る成分(元素)であれば特に制限はなく、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、インジウム(In)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、バリウム(Ba)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、ランタン(La)、セシウム(Ce)、ネオジウム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)、硫黄(S)、リン(P)、フッ素(F)および塩素(Cl)からなる群から選択される少なくとも1種から構成される(以下、「セラミック元素」と呼ぶ場合もある)。本開示の複合繊維においてセラミック成分はチタン、バリウムおよび酸素、あるいはビスマス、ナトリウム、チタンおよび酸素であることが好ましい。
尚、セラミック成分はガラス成分を含んでいてもよい。ガラス成分として、例えば、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、ホウ酸塩系ガラス、ホウケイ酸塩系ガラス、ホウケイ酸バリウム系ガラス、ホウ酸亜塩系ガラス、ホウ酸バリウム系ガラス、ホウケイ酸ビスマス塩系ガラス、ホウ酸ビスマス亜鉛系ガラス、ビスマスケイ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、アルミノリン酸塩系ガラスおよびリン酸亜塩系ガラスからなる群より選択される少なくとも一種を挙げることができる。
【0028】
本開示の複合繊維において、セラミック焼結体は、結晶粒または微結晶を含むことが好ましく、なかでもチタン酸バリウム(BaTiO3)(BT)、あるいはチタン酸ビスマスナトリウム((Bi1/2Na1/2)TiO3)(BNT)、あるいはガラスであることがより好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態に係る複合繊維は、例えば
図1(A)に示す通り、少なくとも金属焼結体1とセラミック焼結体2とから構成され得る複合繊維10である。
図1(B)には、複合繊維10の断面(繊維の軸方向に垂直な方向での断面)を模式的に示し、
図1(C)には、
図1(B)のX-X’での断面(繊維の軸方向での断面)を模式的に示す。
【0030】
例えば
図1では断面が略円形の金属焼結体1とセラミック焼結体2とが略同心円状で配置された複合繊維10を示す。本開示の複合繊維の断面は円形や同心円状に限定されるものでない。
【0031】
金属焼結体1およびセラミック焼結体2は、以下にて詳しく説明する通り、一体的に形成または製造されてよい。例えば上記の金属成分およびセラミック成分の共焼結により金属焼結体1およびセラミック焼結体2を一体的に形成または製造することが好ましい。より具体的には上記の金属成分(金属元素)を含むペーストおよび上記のセラミック成分(セラミック元素)を含むペーストをそれぞれ所望の形状に成形した後に共焼結により焼成することで金属焼結体1とセラミック焼結体2とを一体的に形成または製造することができる。
【0032】
上記所望の形状への成形手段はペーストを利用する方法に限定されず、上記金属成分(金属元素)および上記セラミック成分(セラミック元素)の熱CVDなどによる化学蒸着法やスパッタなどによる物理蒸着法によっても金属焼結体およびセラミック焼結体を成形および製造することができる。
【0033】
例えば
図1に示すように、本開示の複合繊維では、金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接して(接して又は面して又は結合して)繊維体を構成していることを特徴とする。このような構成により本開示の複合繊維では従来のPZTファイバよりも向上した強度や可撓性、層間剥離の抑制効果などを提供することができる。
【0034】
より具体的には、例えば
図2に示す通り、本開示の複合繊維では金属焼結体1とセラミック焼結体2とが互いに隣接して配置されている。金属焼結体1とセラミック焼結体2とが界面3を形成するように構成されていてよい。
【0035】
本開示において「界面」とは、隣接する「金属焼結体」と「セラミック焼結体」との境界を意味する。
【0036】
金属焼結体とセラミック焼結体とで形成され得る界面は、結晶粒から構成されていてよい。本開示において「結晶粒」とは、20000分の1ミリメートルから10分の1ミリメートル程度の不規則な形をした微結晶を意味する。
【0037】
金属焼結体は、金属(又は金属成分)の結晶粒から構成されていてよい(
図3参照)。換言すると、金属焼結体は、金属(又は金属成分)の多結晶体であってよい。金属焼結体における結晶粒の大きさ(以下、金属結晶粒の「結晶粒度」と呼ぶ場合もある)に特に制限はない。金属焼結体における結晶粒の大きさは、例えば0.1μm~10μmである。ここで金属焼結体における結晶粒の大きさは、断面視における結晶粒または微結晶の最大の寸法を意味する。
【0038】
金属焼結体に含まれ得る結晶粒の大きさは金属成分に依存してよく、例えば焼成前の金属成分の粉末の粒径が0.05μm~5μmであることが好ましい。
【0039】
セラミック焼結体は、セラミック(又はセラミック成分)の結晶粒から構成されていてよい(
図3参照)。換言すると、セラミック焼結体は、セラミック(又はセラミック成分)の多結晶体であってよい。セラミック焼結体における結晶粒の大きさ(以下、セラミック結晶粒の「結晶粒度」と呼ぶ場合もある)に特に制限はない。セラミック焼結体における結晶粒の大きさは、例えば0.1μm~10μmである。ここでセラミック焼結体における結晶粒の大きさは、断面視における結晶粒または微結晶の最大の寸法を意味する。
【0040】
セラミック焼結体に含まれ得る結晶粒の大きさはセラミック成分に依存してよく、例えば焼成前のセラミック成分の粉末の粒径が0.05μm~5μmであることが好ましい。
【0041】
ここで
図2を参照すると、金属焼結体1が金属(又は金属成分)の結晶粒から構成されることが好ましく、セラミック焼結体2がセラミック(又はセラミック成分)の結晶粒から構成されることが好ましい。金属焼結体1およびセラミック焼結体2がともに共焼結により形成されることがより好ましい(
図3参照)。共焼結によって金属焼結体およびセラミック焼結体の両方において結晶成長により結晶粒または微結晶を形成することができるからである。
【0042】
本開示の複合繊維では、金属焼結体を構成し得る結晶粒とセラミック焼結体を構成し得る結晶粒とで界面を形成してよい(
図3参照)。また、結晶粒の境界は結晶粒界とも呼ばれ、このような結晶粒界が金属焼結体とセラミック焼結体との界面を形成してよい。あるいは、結晶粒界または結晶粒の輪郭の一部を共有するように金属焼結体とセラミック焼結体とが界面を形成してよい。
このとき、金属焼結体を構成し得る結晶粒が金属(又は金属成分)の結晶成長により形成され得る結晶粒であることが好ましい(
図3参照)。
セラミック焼結体を構成し得る結晶粒がセラミック(又はセラミック成分)の結晶成長により形成され得る結晶粒であることが好ましい(
図3参照)。
金属および/またはセラミックの焼成工程または共焼結工程において結晶成長が進行することがより好ましい。
これらの結晶成長は、焼成温度、昇温速度、保持時間、降温速度、雰囲気、圧力、焼結助剤、添加元素などによって、より適切に制御することができる。
【0043】
本開示の複合繊維において界面は「面粗さ」を有していてよい。特に本開示の複合繊維において界面が結晶粒から形成され得る場合には界面が「面粗さ」を有することが好ましい(
図2および
図3参照)。換言すると、界面は凹凸を有していてよく、特に結晶粒に基づく微細な凹凸を有していてよく、このような界面は断面視において直線的でなく、非直線的であってよい(
図2および
図3参照)。換言すると、界面は断面視において折れ線のような形状であってよい(
図2および
図3参照)。
【0044】
また、このような界面は、断面視において隙間またはギャップまたはボイドを有していないことを特徴とする。従来では金属とセラミックとの境界が直線的であり、断面視において隙間などを有することから、層間剥離や強度不足を引き起こすことが問題であった。しかし、本開示の複合繊維では界面の面粗さ、ひいては微細な凹凸によって層間剥離や強度不足の問題を解消することができる。
【0045】
本開示において「面粗さ」とは、界面の凹凸の程度を示すことから「表面粗さ」または「表面の粗さ」と呼ばれ、単に「粗さ」と呼ばれる場合もある。「面粗さ」は、例えば、電子顕微鏡写真などから界面の断面視における「線粗さ」を測定することによって規定することができる。本開示では「面粗さ」は「線粗さ」と互いに交換可能に使用することができる用語である。
【0046】
具体的には、線粗さは金属焼結体およびセラミック焼結体からなる界面の線粗さと、金属体およびセラミック焼結体からなる界面の線粗さとをそれぞれ算出することによって界面構造の差異を判別することができる。
例えば、本開示の複合繊維の試料断面を研磨した後にSEM観察を行う。SEM画像から界面の線粗さを判別できる視野を無作為に各3視野抽出する。画像解析ソフトを用いて抽出した視野画像の端面と金属焼結体およびセラミック焼結体の界面との2つの交点を結んだ直線を中心線と定義し、実際の境界と中心線との距離を、中心線に沿って等間隔で30点測定する。これらの距離の平均値と標準偏差によって、線粗さが評価できる。
【0047】
具体的な線粗さの値(測定値)は、例えば15nm以上1000nm以下、好ましくは75nm以上300nm以下、より好ましくは100nm以上300nm以下である。
境界と中心線との距離の標準偏差(SD)は、例えば12nm以上500nm以下、好ましくは50nm以上150nm以下である。
【0048】
例えば
図2および
図3に示すように金属焼結体の結晶粒とセラミック焼結体の結晶粒とが界面を形成し得る場合、断面視の奥行き方向にも同様の線粗さが確認できるため界面は二次元的または三次元的に広がる表面粗さ又は凹凸を有することができる。
【0049】
このような面粗さを有する界面が金属焼結体とセラミック焼結体との密着度を向上させることができ、層間剥離を抑制し、より向上した破壊強度を有する複合繊維を得ることができる。さらに、このような結晶粒の存在によって、プロセス中の熱履歴に起因する残留応力が均一に緩和された構造を得ることができる。
【0050】
このような結晶粒は、複数または多数の結晶子から構成されてもよいし、単一の結晶子から構成されてもよい。
【0051】
金属成分とセラミック成分は、明確に区分されていてもよく、その少なくとも一部が互いに混ざり合っていてもよい。
【0052】
また、界面の近傍の領域は、非晶質の部分を含んでいてもよい。従って、界面の近傍の領域は、非晶質であってもよく、結晶質であってもよく、非晶質と結晶質の双方がともに存在していてもよい。
【0053】
本開示において「非晶質」(「アモルファス」または「無定形」と呼ばれることもある)とは、結晶状態でないこと(noncrystalline state)を意味する。
【0054】
本開示において「界面の近傍の領域」とは、具体的には界面に隣接する領域を意味し、例えば、界面から1500nm、好ましくは500nmの範囲内の領域である。
【0055】
尚、金属焼結体およびセラミック焼結体には、それぞれ原料に起因または存在する不純物や焼結助剤、共材などに含まれ得る成分や不純物などが存在していてもよい。このような成分は5%未満の量で存在していてよい。
【0056】
結晶粒の存在については、対象の領域を含む範囲を透過型電子顕微鏡または走査型電子顕微鏡または走査イオン顕微鏡などを用いて、結晶方位の差異によるコントラスト差を観察することで結晶粒の有無を判別することができる。
結晶粒の結晶性については、対象の領域を含む範囲をX線回折または微小部X線回折を用いた結晶構造解析法を行うことで評価することができる。
また、X線回折または微小部X線回折を用いた結晶構造解析法によって、対象の領域が結晶質であるか、非晶質であるか、あるいはその両方が存在しているかについて調べることもできる。
結晶質による回折線は急峻なピークとして検出され、非晶質による散乱光はハロー(halo)(連続的)として検出され得る。
【0057】
本開示の複合繊維では、少なくとも金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接して、金属(又は金属成分)の結晶粒から構成され得る金属焼結体と、セラミック(又はセラミック成分)の結晶粒から構成され得るセラミック焼結体とが面粗さを有する界面を形成することによって、特に共焼結により形成された二次元的または三次元的に広がる凹凸を有する界面が形成されることによって、金属焼結体とセラミック焼結体との間に生じ得る応力集中を緩和することができる。その結果、金属焼結体とセラミック焼結体との間で発生し得る層間剥離を抑制することができ、金属焼結体とセラミック焼結体との結合強度をより向上させることができる。
【0058】
ひいては複合繊維の強度(破断強度、特に引張り強度または破断伸び荷重)を向上させること(高強度化)ができる。また、本開示の複合繊維において、このような結晶粒で構成され得る複雑な凹凸を有する界面の存在によって、層間剥離を抑制することができ、複合繊維の強度をより向上させることで複合繊維の細径化(小サイズ化)も可能となり、ひいては本開示の複合繊維の可撓性を向上させることもできる。尚、本開示の複合繊維において強度や可撓性が向上するメカニズムは上記の理論に拘泥されるものではない。
【0059】
本開示の複合繊維において、繊維全体の引張り強度(破断伸び荷重)は、例えば5kgf/mm2以上、好ましくは6kgf/mm2以上、より好ましくは10kgf/mm2以上、さらにより好ましくは14kgf/mm2以上または20kgf/mm2以上、特に好ましくは50kgf/mm2以上400kgf/mm2以下であり、従来のPZTファイバよりもかなり向上した強度を提供することができる。
【0060】
本開示の複合繊維において、引張り強度(破断伸び荷重)は、セラミック焼結体<複合繊維<金属焼結体の順に大きくなることが好ましい。
【0061】
本開示の複合繊維では、例えば200mm以下の曲率半径を有するような可撓性を有し、従来のPZTファイバよりも向上した可撓性を奏することができる。ここで、「曲率半径」とは、本開示の複合繊維を例えば手で曲げたときに折れたり破断する直前の曲率半径を意味する。それでいて、本開示の複合繊維は、電気的な特性を維持できていることが好ましい。
【0062】
本開示の複合繊維の繊維径は、例えば500μm以下、好ましくは1μm以上500μm以下であり、従来のPZTファイバと比べて細径化(小サイズ化)を達成することができる。ここで、本開示の複合繊維の「繊維径」とは、繊維の軸方向に垂直な方向での断面における最大の寸法(例えば直径)を意味する。
【0063】
本開示の複合繊維において、金属焼結体とセラミック焼結体との断面積比(金属/セラミック)に特に制限はなく、例えば1/99~99/1、好ましくは1/8~8/1である。
また、本開示の複合繊維において、金属焼結体とセラミック焼結体との重量比(金属/セラミック)に特に制限はなく、例えば1/99~99/1、好ましくは1/8~8/1である。
【0064】
ここで、
図1に示す本発明の一実施形態に係る複合繊維10では、金属焼結体1が繊維10の「中心部」に位置付けられている(換言すると繊維10の「中心部」が金属焼結体1から構成されている)。また、
図1に示す実施形態では、セラミック焼結体2が繊維10の「外側部」に位置付けられている(換言すると繊維10の「外側部」がセラミック焼結体2から構成されている)。このような実施形態では、複合繊維の「中心部」が金属性を有することから「中心部」を電気的に接続することができる。尚、本開示の複合繊維は、
図1に示される実施形態に限定されるものではない。
【0065】
本開示において繊維の「中心部」とは、繊維の軸方向に垂直な方向の断面において繊維の幾何学的中心を含む部分を意味する。
「外側部」とは、繊維の軸方向に垂直な方向での断面において繊維の最も外側に位置する部分を意味する。
「外側部」と「中心部」との間にはさらに「中間部」が存在していてもよい。
【0066】
本開示において「中心部」および「外側部」ならびに「中間部」は、それぞれ独立して「金属焼結体」または「セラミック焼結体」から構成されていてよい。ただし「金属焼結体」および「セラミック焼結体」は本開示に従って互いに隣接して位置付けられていることが好ましい。
【0067】
本発明の他の実施形態に係る複合繊維によると、セラミック焼結体が複合繊維の中心部に位置付けられていてよい。その場合、金属焼結体が複合繊維の外側部に位置付けられていてよい。このような実施形態では、複合繊維の外側部を電気的に接続することができる。
【0068】
本発明のさらなる他の実施形態に係る複合繊維によると、複合繊維の中心部が金属焼結体から構成されていてよい。その場合、複合繊維の外側部の少なくとも一部がセラミック焼結体から構成されていてよい。このような実施形態では、複合繊維の中心部を外部と電気的に接続することができる。
【0069】
本開示において「外側部の少なくとも一部」とは、複合繊維の軸方向の少なくとも一部および/または複合繊維の周方向の少なくとも一部を意味する。本開示の複合繊維は、いずれの方向においても、外側部で0~100%(ただし0%は含まない)、好ましくは50~100%の範囲で構成又は被覆されていればよい。
【0070】
本発明のさらなる他の実施形態に係る複合繊維によると、複合繊維の中心部がセラミック焼結体から構成されていてよい。その場合、複合繊維の外側部の少なくとも一部が金属焼結体から構成されていてよい。このような実施形態では、複合繊維の外側部を外部と電気的に接続することができる。
【0071】
本発明のさらなる他の実施形態に係る複合繊維によると、複合繊維の中心部が金属焼結体から構成されていてよい。その場合、複合繊維の外側部も独立して金属焼結体から構成されていてよく、中心部と外側部との間に配置され得る中間部がセラミック焼結体から構成されていてよい。このような実施形態では、複合繊維の中心部および/または外側部を外部と電気的に接続することができる。
【0072】
尚、上記の実施形態では、いずれにおいても金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接して位置付けられていることが好ましい。このような位置関係を満たすのであれば、本開示の複合繊維は様々な形態の多層構造を有することができる。
【0073】
(電極構造)
本開示の複合繊維は、別の実施形態として、例えば
図4に示すような電極構造を有していてよい。本開示の複合繊維が電極構造を有することによって、電子部品用の材料として、特に電子部品素子として本開示の複合繊維を利用することができる。
【0074】
(a)
例えば
図4(a)に示す複合繊維20は、略円形の断面を有していて、中心部21と外側部22とが略同心円状に配置された構造を有している。尚、複合繊維20の断面の形状は、円形や同心円状の形状に限定されるものではない。
複合繊維20では中心部21および外側部22の一方が「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の一方から構成されていてよく、中心部21および外側部22の他方が「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の他方から構成されていてよい。複合繊維20において「金属焼結体」および「セラミック焼結体」は互いに隣接して位置付けられていることが好ましい。
図4(a)(上)のA-A’での断面を示す
図4(a)(下)の断面図(軸方向の断面図)にて示される繊維径D
a(最大寸法または最大直径)は、例えば500μm以下、好ましくは1μm以上500μm以下である。
【0075】
(b)
図4(b)に示す複合繊維30は、断面が略円形の中心部31に断面が略C字状(又は略三日月状)の外側部32aおよび断面が逆略C字状(又は略三日月状)の外側部32b(以下、外側部32aおよび32bをまとめて「外側部32」と呼ぶ)が間隔をあけて配置された構造を有している。尚、複合繊維30の断面の形状は図示する形状に限定されるものではない。
複合繊維30では中心部31および外側部32の一方が「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の一方から構成されていて、中心部31および外側部32の他方が「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の他方から構成されている。複合繊維30において「金属焼結体」および「セラミック焼結体」は互いに隣接して位置付けられていることが好ましい。
外側部32に含まれる「金属焼結体」または「セラミック焼結体」は、外側部32a、32bにおいて同一であっても異なっていてもよい。
図4(b)(上)のB-B’での断面を示す
図4(b)(下)の断面図(軸方向の断面図)にて示される繊維径D
b(最大寸法または最大直径)は、例えば500μm以下、好ましくは1μm以上500μm以下である。
【0076】
(c)
図4(c)に示す複合繊維40は、断面が略円形の中心部41の一部に断面が略C字状(又は略三日月状)の外側部42が配置された構造を有している。尚、複合繊維40の断面の形状は図示する形状に限定されるものではない。
複合繊維40では中心部41および外側部42の一方が「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の一方から構成されていて、中心部41および外側部42の他方が「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の他方から構成されている。複合繊維40において「金属焼結体」および「セラミック焼結体」は互いに隣接して位置付けられていることが好ましい。
図4(c)(上)のC-C’での断面を示す
図4(c)(下)の断面図(軸方向の断面図)にて示される繊維径D
c(最大寸法または最大直径)は、例えば500μm以下、好ましくは1μm以上500μm以下である。
【0077】
(d)
図4(d)に示す複合繊維50は、略円形の断面を有していて、中心部51と、外側部52と、中心部51と外側部52との間に配置された中間部53とが略同心円状に配置された構造を有している。尚、複合繊維50の断面の形状は、円形や同心円状に限定されるものではない。
複合繊維50では中心部51および外側部52がともに「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の一方から構成されていて、中間部53が「金属焼結体」および「セラミック焼結体」の他方から構成されている。複合繊維50において「金属焼結体」および「セラミック焼結体」は互いに隣接して位置付けられていることが好ましい。
図4(d)(上)のD-D’での断面を示す
図4(d)(下)の断面図(軸方向の断面図)にて示される繊維径D
d(最大寸法または最大直径)は、例えば500μm以下、好ましくは1μm以上500μm以下である。
【0078】
例えば、上記の実施形態(a)および(c)において、繊維の「中心部」が「金属焼結体」から構成されていて、繊維の「外側部」が「セラミック焼結体」から構成されていることが好ましい。このような構成とすることで繊維の中心部を電極として機能させることができる。
【0079】
例えば、上記の実施形態(b)および(c)において、繊維の「中心部」が「セラミック焼結体」から構成されていて、繊維の「外側部」が「金属焼結体」から構成されていることが好ましい。このような構成とすることで繊維の外側部を電極として機能させることができる。
【0080】
例えば、上記の実施形態(d)において、繊維の「中心部」が「金属焼結体」から構成されていて、繊維の「外側部」も独立して「金属焼結体」から構成されていて、「中間部」が「セラミック焼結体」から構成されていることが好ましい。「中心部」と「外側部」の「金属焼結体」が同じであることがより好ましい。このような構成とすることで繊維の中心部および/または外側部を電極として機能させることができる。
【0081】
(その他の実施形態)
本開示の複合繊維は、その他の実施形態として、例えば、
図5(A)に示すような繊維の軸方向に金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接した形態や、
図5(B)に示すようなサンドイッチ構造で金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接した形態などを含む。
【0082】
図5(A)に示す実施形態では、例えば、複合繊維60の軸方向の第1端部61が「金属焼結体」から構成されており、第1端部に対向する反対側の第2端部62も独立して「金属焼結体」から構成されていて、第1端部61と第2端部62との間に配置され得る接続部63が「セラミック焼結体」から構成されていることが好ましい。このような構成とすることで繊維の両端部(61,62)を電極として機能させることができる。
また、第1端部61および第2端部62がそれぞれ独立して「セラミック焼結体」から構成されていて、接続部63が「金属焼結体」から構成されていてもよい。
あるいは、上記の態様において接続部63が「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とが交互に連続し得る構成を有していてもよい。
【0083】
図5(B)に示す実施形態では、例えば、複合繊維70の軸方向または軸方向に垂直な方向の断面において複合繊維の中部(中層)73が「金属焼結体」から構成されており、複合繊維70の上部(上層)71および下部(下層)72がそれぞれ独立して「セラミック焼結体」から構成されていることが好ましい。このような構成とすることで繊維の中部(中層)73を電極として機能させることができる。図示する実施形態では、繊維の断面は略矩形(四角形)であるが、このような断面形状に限定されるものではない。
あるいは、複合繊維70の中部(中層)73が「セラミック焼結体」から構成されており、複合繊維70の上部(上層)71および下部(下層)72がそれぞれ独立して「金属焼結体」から構成されていてもよい。このような構成とすることで繊維の上下部(上下層)(71,72)を電極として機能させることができる。
【0084】
本開示の複合繊維は上記の実施形態に限定されるものではない。以下、本開示の複合繊維の製造方法について簡単に説明する。
【0085】
(本開示の複合繊維の製造方法)
本開示の複合繊維では少なくとも「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とが例えば共焼結により一体的に互いに隣接して形成または製造されることが好ましい。「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とを一体的に隣接させて形成することで、界面、特に上述の金属成分の結晶粒とセラミック成分の結晶粒とで構成され得る複雑な凹凸を有する界面、なかでも特に上記の面粗さを有する界面を形成することができる。
【0086】
本開示の複合繊維の製造方法に特に制限はなく、従来公知のセラミックの焼成技術などを応用して本開示の複合繊維を適宜製造することができる。
【0087】
例えば、上記の金属成分(金属元素)を含む原材料を必要に応じて焼結助剤や共材、バインダ樹脂、溶剤、分散剤、可塑剤などとともにペーストにしたものと、上記のセラミック成分(セラミック元素)を含む原材料を必要に応じて焼結助剤や共材、バインダ樹脂、溶剤、分散剤、可塑剤などとともにペーストにしたものをそれぞれ準備した後に適宜成形して共に焼成することで金属焼結体とセラミック焼結体とが一体的に隣接して形成された複合繊維を製造することができる。このとき、例えば多重ノズル(二重ノズル、三重ノズルなどの複合紡糸用ノズル)や成形型などを用いて各ペーストを所望の形状に成形してもよい。
【0088】
例えば二重ノズルなどの多重ノズルを用いて金属焼結体用ペーストおよびセラミック焼結体用ペーストを成形して繊維化する場合、芯部分又は芯として、他の材料、例えば「結晶粒から構成されない金属」および/または「結晶粒から構成されないセラミック」などを使用してよい。
【0089】
本開示の複合繊維において芯部分として使用することができる「結晶粒から構成されない金属」とは、例えば、金属または合金であって、上記の「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とは別に予め形成または製造された金属または合金を意味する。換言すると上記の「金属焼結体」と「セラミック焼結体」の共焼結よりも前に形成または製造された金属または合金を意味する。従って、上記の「金属焼結体」と「セラミック焼結体」の共焼結と同時に焼結により形成または製造され得る金属または合金は「結晶粒から構成されない金属」には該当しない。
芯部分として使用することができる「結晶粒から構成されない金属」として、例えば市販の金属製または合金製のワイヤ、特に圧延などで製造された金属製または合金製のワイヤなどを使用してよい。より具体的にはニッケル線および銅線などを使用してよい。
【0090】
本開示の複合繊維において芯部分として使用することができる「結晶粒から構成されないセラミック」とは、例えば、セラミックであって、上記の「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とは別に予め形成または製造されたセラミックを意味する。換言すると上記の「金属焼結体」と「セラミック焼結体」の共焼結よりも前に形成または製造されたセラミックを意味する。従って、上記の「金属焼結体」と「セラミック焼結体」の共焼結と同時に焼結により形成または製造され得るセラミックは「結晶粒から構成されないセラミック」には該当しない。
「結晶粒から構成されないセラミック」として、例えば市販のセラミックファイバなどを使用してよい。より具体的にはガラスファイバなどを使用してもよい。
【0091】
例えば
図6(A)に示すように、本開示の複合繊維は、芯部分(又は芯又はコア)(C)と、芯部分(C)を覆う第1層(11)と、この第1層(11)を覆う第2層(12)とを含んでいてよい。
【0092】
より具体的には、
図6(A)に示すように、本開示の複合繊維が、芯部分(C)と、この芯部分(C)を覆う第1層(11)と、第1層(11)を覆う第2層(12)とを含み、芯部分(C)が「結晶粒から構成されない金属」を含み、第1層(11)が「金属焼結体」、具体的には金属の結晶粒から構成された上記金属焼結体を含み、第2層(12)が「セラミック焼結体」、具体的にはセラミックの結晶粒から構成された上記セラミック焼結体を含んでいてよい。
このような複合繊維では、「金属焼結体」から構成され得る第1層および「セラミック焼結体」から構成され得る第2層がともに結晶粒から構成されることで上記の面粗さを有する界面を形成して互いに結合することで繊維の強度が向上してよい。さらに芯部分(C)が「結晶粒から構成されない金属」、より具体的には金属ワイヤを含むことで繊維の強度がさらに向上してよい。このとき第1層を「金属焼結体」から構成することで芯部分(C)との結合力がさらに向上してよく、複合繊維の強度が顕著に向上してよい。
【0093】
例示として、芯部分としてニッケル線(金属Ni芯)を使用し、第1層がニッケル(Ni)結晶粒層であり、第2層がチタン酸バリウム(BaTiO
3)結晶粒層である複合繊維を
図7に示す(実施例13参照)。
【0094】
例えば
図6(A)に示すように、本開示の複合繊維が、芯部分(C)と、この芯部分(C)を覆う第1層(11)と、第1層(11)を覆う第2層(12)とを含み、芯部分(C)が「結晶粒から構成されないセラミック」を含み、第1層(11)が「セラミック焼結体」、具体的にはセラミックの結晶粒から構成された上記セラミック焼結体を含み、第2層(12)が「金属焼結体」、具体的には金属の結晶粒から構成された上記金属焼結体を含んでいてよい。
このような複合繊維では、「セラミック焼結体」から構成され得る第1層および「金属焼結体」から構成される第2層がともに結晶粒から構成され得ることで上記の面粗さを有する界面を形成して互いに結合することで繊維の強度が向上してよい。さらに芯部分(C)が「結晶粒から構成されないセラミック」、より具体的にはセラミックファイバを含むことで繊維の強度がさらに向上してよい。このとき第1層を「セラミック焼結体」から構成することで芯部分(C)との結合力がさらに向上してよく、複合繊維の強度が顕著に向上してよい。
【0095】
このような構造の複合繊維は、例えば
図13に示す押出成形法で用いる従来の装置に二重ノズルを使用して金属焼結体用ペーストとセラミック焼結体用ペーストを芯部分(C)を核として同心円状に成形することで製造することができる。
【0096】
本開示の複合繊維では、例えば
図6に示す第2層(12)が「結晶粒から構成されない金属」および/または「結晶粒から構成されないセラミック」であってもよい。
【0097】
第2層(12)が「結晶粒から構成されない金属」である場合、第2層(12)は金属または合金のメッキ層や蒸着膜やスパッタ膜であってよい。
【0098】
第2層(12)が「結晶粒から構成されないセラミック」である場合、第2層(12)はセラミックのコーティング層や蒸着膜やスパッタ膜であってよい。
【0099】
例えば
図6(A)に示すように、本開示の複合繊維は、芯部分(C)と、この芯部分(C)を覆う第1層(11)と、第1層(11)を覆う第2層(12)とを含み、芯部分(C)が「セラミック焼結体」、具体的にはセラミックの結晶粒から構成された上記セラミック焼結体を含み、第1層(11)が「金属焼結体」、具体的には金属の結晶粒から構成された金属焼結体を含み、第2層(12)が「結晶粒から構成されない金属」を含んでいてよい。
このような複合繊維では、「セラミック焼結体」から構成され得る芯部分および「金属焼結体」から構成され得る第1層がともに結晶粒から構成されることで上記の面粗さを有する界面を形成して互いに結合することで繊維の強度が向上してよい。さらに第2層(12)が「結晶粒から構成されない金属」を含むことで繊維の強度がさらに向上してよい。このとき第1層を「金属焼結体」から構成することで第2層(12)との結合力がさらに向上してよく、複合繊維の強度が顕著に向上してよい。
【0100】
例えば
図6(A)に示すように、本開示の複合繊維は、芯部分(C)と、この芯部分(C)を覆う第1層(11)と、第1層(11)を覆う第2層(12)とを含み、芯部分(C)が「金属焼結体」、具体的には金属の結晶粒から構成された上記金属焼結体を含み、第1層(11)が「セラミック焼結体」、具体的にはセラミックの結晶粒から構成された上記セラミック焼結体を含み、第2層(12)が「結晶粒で構成されないセラミック」を含んでいてよい。
このような複合繊維では、「金属焼結体」から構成され得る芯部分および「セラミック焼結体」から構成され得る第1層がともに結晶粒から構成されることで上記の面粗さを有する界面を形成して互いに結合することで繊維の強度が向上してよい。さらに第2層(12)が「結晶粒から構成されないセラミック」を含むことで繊維の強度がさらに向上してよい。このとき第1層を「セラミック焼結体」から構成することで第2層(12)との結合力がさらに向上してよく、複合繊維の強度が顕著に向上してよい。
【0101】
芯部分(C)、第1層(11)および第2層(12)の厚みの比に特に制限はなく、所望の用途に応じて適宜決定すればよい。複合繊維の全体の厚み又は直径(最大寸法または最大直径)は、例えば500μm以下、好ましくは1μm以上500μm以下である。
【0102】
また、スクリーン印刷法等の印刷法、グリーンシートを用いるグリーンシート法、またはそれらの複合法などの積層技術により本開示の複合繊維を製造することもできる。このような積層技術を利用する場合、焼成前または焼成後の積層体を裁断により適切に繊維化することで本開示の複合繊維を製造してもよい(例えば
図8参照)。
【0103】
本開示の複合繊維の製造方法は上記のものに限定されない。以下、実施例により本開示の複合繊維についてさらに詳しく説明する。
【実施例0104】
実施例1~10
(1)金属焼結体用ペーストの調製
金属焼結体用ペーストは、Ni粉末と、共材であるBa,Tiを含むペロブスカイト型酸化物と、ポリカルボン酸系分散剤と、バインダ樹脂と、有機溶剤とからなる。Ni粉末の平均粒径は、0.2μmのものを用いた。また、Ba,Tiを含むペロブスカイト型酸化物の平均粒径は、30nmのものを用いた。バインダ樹脂として、例えば、ブチルカルビトールに樹脂を溶解した樹脂溶液が用いられる。ブチルカルビトールに溶解される樹脂としては、たとえば、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート等が用いられる。金属焼結体用ペーストの調製に当たっては、Ni粉末を50重量部と、共材としてBa,Tiを含むペロブスカイト型酸化物を5重量部と、ブチルカルビトールにエチルセルロースを10重量部溶解した樹脂溶液と、ポリカルボン酸系分散剤1重量部と、残部としてブチルカルビトールとが調合され、ボールミルにより金属焼結体用ペーストを調製した。
【0105】
(2)セラミック焼結体用ペーストの調製
セラミック焼結体用ペーストは、Ba,Tiを含むペロブスカイト型酸化物と、ポリビニルブチラール系バインダ樹脂と、可塑剤と、トルエンなどの有機溶剤とからなる。Ba,Tiを含むペロブスカイト型酸化物の平均粒径は、100nmのものを用いた。セラミック焼結体用ペーストの調製に当たっては、Ba,Tiを含むペロブスカイト型酸化物を90重量部と、ポリビニルブチラール系バインダ樹脂を10重量部と、可塑剤と、トルエンが調合され、ボールミルによりセラミック焼結体用ペーストを調製した。
【0106】
図8に模式的に示す通り、上記セラミック焼結体用ペーストを支持基体(図示せず)に塗布して乾燥させることで第1セラミック焼結体用グリーンシート81を作製した(
図8(A))。
上記金属焼結体用ペーストを印刷により第1セラミック焼結体用グリーンシート81に積層して金属焼結体用印刷層82を形成した(
図8(B))。
第1セラミック焼結体用グリーンシート81と同様にして上記セラミック焼結体用ペーストから第2セラミック焼結体用グリーンシート83を作製して支持基体から剥離した後、この第2セラミック焼結体用グリーンシート83を金属焼結体用印刷層82に積層して圧着することで積層体80を作製した(
図8(C))。
次いで、例えば
図8(C)に模式的に示す破線に沿って積層体80を細長く裁断(カット)して「複合繊維前駆体」を作製した。
なお、第1セラミック焼結体用グリーンシート81と、金属焼結体用印刷層82と、第2セラミック焼結体用グリーンシート83の厚さは、以下の表1の通りとした(単位:μm)。
【0107】
【0108】
(焼成工程)
「複合繊維前駆体」を以下の条件で焼成することで「金属焼結体」と「セラミック焼結体」とが互いに隣接して成る繊維体として複合繊維を製造した。
焼成条件
窒素雰囲気中、400℃、10時間の条件で脱脂処理した後、窒素-水素-水蒸気混合雰囲気中、トップ温度1200℃、酸素分圧10-9~10-10MPaの条件で焼成した。
【0109】
実施例1で作製した複合繊維の断面(軸方向の断面)を
図8(D)に模式的に示す。より具体的には、
図8(D)は、金属焼結体として形成されたニッケル金属(Ni)(92)(断面中央部)がセラミック焼結体として形成されたチタン酸バリウム(BaTiO
3)(BT)(91,93)(断面上下部)の間にサンドイッチ状で挟まれていて、金属焼結体とセラミック焼結体とが互いに隣接した構造を模式的に示す。
【0110】
(断面観察)
電子顕微鏡(日本電子社製、JCM-5700)を用いて上記で作製した実施例1の複合繊維の断面(軸方向の断面)を観察した。複合繊維の断面の電子顕微鏡写真を
図9に示す(5.0kV、2500倍)。
【0111】
図9の電子顕微鏡写真は、Ni厚さ15.6μm、BaTiO
3(BT)の厚さは6.0μmとなった(表2)。金属焼結体(Ni)とセラミック焼結体(BaTiO
3)は剥離している箇所がなく、密着した接合状態であった。
また、実施例2~10のNi厚さ、BaTiO
3の厚さを以下の表2に示す(単位:μm)。
【0112】
【0113】
(強度測定)
実施例1~10で作製した複合繊維の引張り強度を強度試験機(島津製作所製、MST-1)を用いて測定した。また、実施例1~10で作製した複合繊維の曲率半径を評価した。以下の表3は、実施例1~10で作製した複合繊維における引張強度および曲率半径の評価結果を示す。
【0114】
【0115】
実施例1~10の複合繊維では、いずれにおいても10kgf/mm2以上の引張り強度を示し、15mm以下の曲率半径を示した。
【0116】
比較例1(ニッケル箔を使用した複合繊維)
(1)ニッケル箔の準備
金属焼結体用ペーストに代わりに(株)ニラコより厚さ15μmのニッケル箔を入手した。
(2)セラミック焼結体用ペーストの調製
実施例1~10と同様にしてセラミック焼結体用ペーストを調製した。
【0117】
図8に模式的に示す通り、セラミック焼結体用ペーストを支持基体(図示せず)に塗布して乾燥させることで第1セラミック焼結体用グリーンシート81を作製した(
図8(A))。
金属焼結体用印刷層82の代わりとしてニッケル箔を第1セラミック焼結体用グリーンシート81に積層した(
図8(B))。
第1セラミック焼結体用グリーンシート81と同様にして上記セラミック焼結体用ペーストから第2セラミック焼結体用グリーンシート83を作製して支持基体から剥離した後、この第2セラミック焼結体用グリーンシート83をニッケル箔に積層して圧着することで積層体80を作製した(
図8(C))。
次いで、例えば
図8(C)に模式的に示す破線に沿って積層体80を細長く裁断(カット)して「複合繊維前駆体」を作製した。
なお、第1セラミック焼結体用グリーンシート81と、ニッケル層82と、第2セラミック焼結体用グリーンシート83の厚さは以下の表4の通りとした(単位:μm)。
【0118】
【0119】
(焼成工程)
「複合繊維前駆体」を以下の条件で焼成することで「ニッケル層(金属箔層)」と「セラミック焼結体」とが互いに隣接して成る繊維体として複合繊維を製造した(すなわち「セラミック焼結体(BT)」と「Ni層(金属箔層)」と「セラミック焼結体(BT)」とが互いに隣接して成る3層構造の繊維体)。
焼成条件
窒素雰囲気中、400℃、10時間の条件で脱脂処理した後、窒素-水素-水蒸気混合雰囲気中、トップ温度1200℃、酸素分圧10-9~10-10MPaの条件で焼成した。
【0120】
(断面観察)
電子顕微鏡(日本電子社製、JCM-5700)を用いて上記で作製した複合繊維の断面(軸方向の断面)を観察した。複合繊維の断面の電子顕微鏡写真を
図10に示す(5.0kV、2500倍)。
【0121】
【0122】
図10に示す通り、熱膨張係数の違いからBaTiO
3層に応力がかかり、BaTiO
3(BT)層が破断していた。Ni-BaTiO
3(BT)層の剥がれも起きた。このようなことから比較例1の複合繊維は物理的に圧電繊維として機能しないことがわかった。
【0123】
(強度測定)
比較例1で作製した複合繊維の引張り強度を強度試験機(島津製作所製、MST-1)を用いて測定した。また、比較例1で作製した複合繊維の曲率半径を評価した。以下の表6は、比較例1の複合繊維の引張強度と、曲率半径の評価結果を示す。
【0124】
【0125】
表6に示す結果から、比較例1の複合繊維は、実施例1の複合繊維と比較して、約60%程度の引張強度しか有していないことがわかった。
【0126】
実施例11
実施例1と同様にして金属焼結体用ペーストおよびセラミック焼結体用ペーストを用いて二重ノズルを通して同心円状に金属焼結体用ペーストとセラミック焼結体用ペーストとが配置された円形断面を有する複合繊維前駆体を作製した(中心部:金属焼結体(Ni)用ペースト、外側部;セラミック焼結体(BT)用ペースト、断面積比(金属/セラミック):1/1)。
【0127】
次いで、実施例1と同様の焼成条件で複合繊維前駆体を焼成して円形断面を有する複合繊維を作製した(繊維径:90μm)(中心部:金属焼結体(Ni)、外側部;セラミック焼結体(BT))。
【0128】
実施例11で作製した複合繊維の強度を実施例1と同様に測定した。
実施例11で作製した複合繊維の引張り強度は19.1kgf/mm2であった。
また、実施例11で作製した複合繊維の曲率半径は5mmであった。
【0129】
実施例12
以下の金属焼結体用ペーストおよびセラミック焼結体用ペーストを用いたことを除いて実施例11と同様にして二重ノズルを通して同心円状に以下の金属焼結体用ペーストとセラミック焼結体用ペーストとが配置された円形断面を有する複合繊維前駆体を作製した(中心部:金属焼結体(Cu)用ペースト、外側部;セラミック焼結体(BNT)用ペースト、断面積比(金属(Cu)/セラミック(BNT)):1/1)。
【0130】
(1)金属焼結体用ペーストの調製
金属焼結体用ペーストは、Cu粉末と、共材であるBi,Na,Tiを含むペロブスカイト型酸化物と、ポリカルボン酸系分散剤と、バインダ樹脂と、有機溶剤からなる。Cu粉末の平均粒径は、0.2μmのものを用いた。また、Bi,Na,Tiを含むペロブスカイト型酸化物の平均粒径は、30nmのものを用いた。バインダ樹脂として、例えば、ブチルカルビトールに樹脂を溶解した樹脂溶液が用いられる。ブチルカルビトールに溶解される樹脂としては、たとえば、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート等が用いられる。金属焼結体用ペーストの調製に当たっては、Cu粉末を50重量部と、共材としてBi,Na,Tiを含むペロブスカイト型酸化物を5重量部と、ブチルカルビトールにエチルセルロースを10重量部溶解した樹脂溶液と、ポリカルボン酸系分散剤1重量部と、残部としてブチルカルビトールとが調合され、ボールミルにより金属焼結体用ペーストを調製した。
【0131】
(2)セラミック焼結体用ペーストの調製
セラミック焼結体用ペーストは、Bi,Na,Tiを含むペロブスカイト型酸化物と、ポリビニルブチラール系バインダ樹脂と、可塑剤と、トルエンなどの有機溶剤からなる。Bi,Na,Tiを含むペロブスカイト型酸化物の平均粒径は、100nmのものを用いた。セラミック焼結体用ペーストの調製に当たっては、Bi,Na,Tiを含むペロブスカイト型酸化物を90重量部と、ポリビニルブチラール系バインダ樹脂を10重量部と、可塑剤と、トルエンが調合され、ボールミルによりセラミック焼結体用ペーストを調製した。
【0132】
次いで、実施例1と同様の焼成条件で複合繊維前駆体を焼成して円形断面を有する複合繊維を作製した(繊維径:100μm)(中心部:金属焼結体(Cu)、外側部;セラミック焼結体(チタン酸ビスマスナトリウム)(BNT))。
【0133】
実施例12で作製した複合繊維の強度を実施例1と同様に測定した。
実施例12で作製した複合繊維の引張り強度は15.4kgf/mm2であった。
また、実施例12で作製した複合繊維の曲率半径は5mmであった。
【0134】
実施例13
実施例1で準備した金属焼結体(Ni)用ペーストおよびセラミック焼結体(BT)用ペーストならびにニッケル線(ワイヤ)(直径:50μm)を用いて従来と同様にニッケル線(ワイヤ)をワイヤガイドに通して(
図13参照)(ただし、この実施例では二重ノズルを使用した)、金属焼結体(Ni)用ペーストとセラミック焼結体(BT)用ペーストとが同心円状に配置された円形断面を有する複合繊維前駆体を作製した(芯部分:Ni線(ワイヤ)、第1層(内側部):金属焼結体(Ni)用ペースト、第2層(外側部);セラミック焼結体(BT)用ペースト、断面積比(Ni線/Ni層/BT層):0.70/0.30/1.0)。
【0135】
次いで、実施例1と同様の焼成条件で複合繊維前駆体を焼成して円形断面を有する複合繊維を作製した(繊維径:88μm)(芯部分:金属Ni、第1層(内側部):金属焼結体(Ni)、第2層(外側部);セラミック焼結体(BT))。
【0136】
実施例13で作製した複合繊維の強度を実施例1と同様に測定した。
実施例13で作製した複合繊維の引張り強度は19.8kgf/mm2であった。
また、実施例13で作製した複合繊維の曲率半径は5mmであった。
【0137】
(断面観察)
電子顕微鏡(日本電子社製、JCM-5700)を用いて実施例13で作製した複合繊維の断面(軸方向に対して垂直方向の断面(軸断面))を観察した。複合繊維の断面の電子顕微鏡写真を
図7に示す(5.0kV、2500倍)。
【0138】
図7に示す通り、実施例13の複合繊維には層間剥離やひびが全くないことがわかった。このようなことから実施例13の複合繊維は引張り強度が高く圧電繊維として機能することがわかった。
【0139】
比較例2
厚さ15μmの銅箔(ニラコ製)および実施例12で調製したセラミック焼結体用ペーストを用いたことを除いて比較例1と同様にして「Cu層(金属箔層)」と「セラミック焼結体(BNT)」とが互いに隣接して成る複合繊維、すなわち「セラミック焼結体(BNT)」と「Cu層(金属箔層)」と「セラミック焼結体(BNT)」とが互いに隣接して成る3層構造の繊維体)を製造した。
【0140】
比較例2で作製した複合繊維の強度を実施例1と同様に測定した。
比較例2で作製した複合繊維の引張り強度は6.0kgf/mm2であった。
また、比較例2で作製した複合繊維の曲率半径は10mmであった。
【0141】
比較例2で作製した複合繊維は比較例1で作製した複合繊維と同様に熱膨張係数の違いからBNT層に応力がかかり、BNT層が破断していた。また、BMT層の剥がれも起きた。このようなことから比較例2の複合繊維は圧電繊維として機能しないことがわかった。
【0142】
(線粗さの決定)
実施例3と比較例1で作製した複合繊維の金属焼結体とセラミック焼結体との界面の線粗さを測定した。
実施例3と比較例1で作製した複合繊維の試料断面を研磨した後にSEM観察を行った。隣接した金属焼結体(Ni)とセラミック焼結体(BT)の界面を観察できる断面をSEM(15.0kV、5000倍)で観察した。SEM画像から界面を判別できる視野を無作為に各3視野抽出した。画像解析ソフト(三谷商事株式会社、WinROOF)を用いて、抽出した視野画像の端面と金属焼結体およびセラミック焼結体の界面との2つの交点を結んだ直線を中心線と定義し、実際の境界と中心線との距離を、中心線に沿って等間隔で30点測定した。これらの距離の平均値と標準偏差によって、線粗さの評価とした。結果を以下の表7に示す。
【0143】
【0144】
本開示の複合繊維は上記の実施例で例示したものに限定されない。
本開示の複合繊維は、建築物、自動車、船舶、航空機などの構造物において使用するセンサ、特に振動センサや、アクチュエータなどにおいて利用することができる。また、本開示の複合繊維は電子部品素子としても利用することができる。
前記金属焼結体を構成する結晶粒が金属の結晶成長により形成された結晶粒であり、前記セラミック焼結体を構成する結晶粒がセラミックの結晶成長により形成された結晶粒である、請求項1~3のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維の中心部が前記金属焼結体から構成されており、前記複合繊維の外側部の少なくとも一部が前記セラミック焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維の中心部が前記セラミック焼結体から構成されており、前記複合繊維の外側部の少なくとも一部が前記金属焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維の中心部が前記金属焼結体から構成されており、前記複合繊維の外側部も独立して前記金属焼結体から構成されていて、前記中心部と前記外側部との間に配置される中間部が前記セラミック焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維の軸方向の第1端部が前記金属焼結体から構成されており、前記第1端部に対向する第2端部も独立して前記金属焼結体から構成されていて、前記第1端部と前記第2端部との間に配置される接続部が前記セラミック焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維の軸方向または軸方向に垂直な方向の断面において前記複合繊維の中部が前記金属焼結体から構成されており、前記複合繊維の上部および下部がそれぞれ独立して前記セラミック焼結体から構成されている、あるいは前記複合繊維の中部が前記セラミック焼結体から構成されており、前記複合繊維の上部および下部がそれぞれ独立して前記金属焼結体から構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記第1層が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記第2層が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記芯部分が結晶粒から構成されない金属を含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記第1層が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記第2層が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記芯部分が結晶粒から構成されないセラミックを含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記芯部分が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記第1層が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記第2層が結晶粒から構成されない金属を含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。
前記複合繊維が、芯部分と、該芯部分を覆う第1層と、該第1層を覆う第2層とを含み、前記芯部分が前記金属の結晶粒から構成された前記金属焼結体を含んで成り、前記第1層が前記セラミックの結晶粒から構成された前記セラミック焼結体を含んで成り、前記第2層が結晶粒から構成されないセラミックを含んで成る、請求項1~4のいずれかに記載の複合繊維。