(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144536
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】モデル生成装置、推定装置、モデル生成方法および推定方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/30 20060101AFI20241003BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20241003BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20241003BHJP
C02F 1/00 20230101ALI20241003BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D21/30 A
B01D21/01 B
C02F1/52 Z
C02F1/00 T
C02F1/00 V
G05B23/02 G
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024117982
(22)【出願日】2024-07-23
(62)【分割の表示】P 2020182963の分割
【原出願日】2020-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2019230608
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】権 大維
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸和
(72)【発明者】
【氏名】布 光昭
(57)【要約】
【課題】浄水場へ流入する流入水の水質に応じた、凝集剤の注入率の推定精度を向上させる。
【解決手段】モデル生成装置(1c)は、注入前濁度を含む水質データと、流入水への薬注率とを含むデータセットの集合をクラスタリングして複数のクラスタを生成するクラスタリング部(101)と、生成された複数のクラスタ毎に、水質データを説明変数とし、薬注率を目的変数とする回帰モデルを生成する回帰モデル生成部(102)と、所定長の周期毎に更新処理を実行する更新部(104)と、を備え、前記更新処理は、クラスタリング部(101)に、前回のクラスタ生成時以降に生成された前記データセットをクラスタリングの対象に追加して前記クラスタを再生成させるとともに、回帰モデル生成部(102)に、前記再生成されたクラスタ毎に前記回帰モデルを再生成させる処理である。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルを生成するモデル生成装置であって、
凝集剤を注入する前の前記流入水の濁度である注入前濁度を含む水質データと、前記流入水へ注入した凝集剤の注入率とを含むデータセットの集合をクラスタリングして複数のクラスタを生成するクラスタリング部と、
前記生成された複数のクラスタ毎に、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルを生成するモデル生成部と、
所定長の周期毎に更新処理を実行する更新部と、を備え、
前記更新処理は、前記クラスタリング部に、前回のクラスタ生成時以降に生成された前記データセットをクラスタリングの対象に追加して前記クラスタを再生成させるとともに、前記モデル生成部に、前記再生成されたクラスタ毎に前記回帰モデルを再生成させる処理である、モデル生成装置。
【請求項2】
前記注入前濁度に関連するパラメータが属する数値範囲が、前記注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わったとき、前記更新処理の周期長を、前記切り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替える更新周期切替部をさらに備える、請求項1に記載のモデル生成装置。
【請求項3】
前記更新部は、前記パラメータが属する前記数値範囲が切り替わったとき、即時に前記更新処理を実行する、請求項2に記載のモデル生成装置。
【請求項4】
前記所定長の周期毎に、前記パラメータが属する数値範囲が、前記注入前濁度の減少を示す数値範囲に切り替わったか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記判定部にて前記切り替わりが判定されたとき、前記更新周期切替部は、前記更新処理の周期長を、前記切り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替える、請求項2または3に記載のモデル生成装置。
【請求項5】
前記パラメータは、前記注入率、前記注入前濁度および前記流入水が取水された地域の降水量の少なくともいずれかである、請求項2から4のいずれか1項に記載のモデル生成装置。
【請求項6】
前記パラメータとして用いられる前記注入率は、前記回帰モデルを用いて推定された注入率である、請求項5に記載のモデル生成装置。
【請求項7】
前記モデル生成部は、所定の閾値以上の前記注入前濁度を含む前記データセットのみから成る集合を対象として、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルである濁水用回帰モデルを生成する、請求項1から6のいずれか1項に記載のモデル生成装置。
【請求項8】
前記モデル生成部が生成する前記濁水用回帰モデルは、線形回帰モデルである、請求項7に記載のモデル生成装置。
【請求項9】
請求項7または8に記載のモデル生成装置が生成した前記濁水用回帰モデルを用いて、前記浄水場に現在流入している流入水である現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定装置であって、
凝集剤を注入する前の前記現流入水の濁度を含む水質データと、前記モデル生成装置が生成した複数の前記クラスタとの距離に基づき、前記クラスタのいずれかを特定するクラスタ特定部と、
前記特定されたクラスタの前記濁水用回帰モデルを用いて、前記現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定部と、
前記浄水場へ将来流入する流入水である将来流入水において、凝集剤を注入する前の濁度が所定の閾値以上となることが予測される事象の発生を特定する事象特定部と、
前記事象の発生が特定された場合、当該事象に基づき推定された前記将来流入水の前記水質データと、前記濁水用回帰モデルとを用いて前記将来流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定部と、を備える、推定装置。
【請求項10】
浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルを生成するモデル生成装置が実行するモデル生成方法であって、
凝集剤を注入する前の前記流入水の濁度である注入前濁度を含む水質データと、前記流入水へ注入した凝集剤の注入率とを含む複数のデータセットの集合をクラスタリングして複数のクラスタを生成するクラスタリングステップと、
前記生成された複数のクラスタ毎に、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする回帰モデルを生成するモデル生成ステップと、
所定長の周期毎に更新処理を実行する更新ステップと、を含み、
前記更新ステップは、前記クラスタリングステップにて、前回のクラスタ生成時以降に生成された前記データセットをクラスタリングの対象に追加して前記クラスタを再生成するとともに、前記モデル生成ステップにて、前記再生成されたクラスタ毎に前記回帰モデルを再生成する、モデル生成方法。
【請求項11】
前記モデル生成ステップにて、所定の閾値以上の前記注入前濁度を含む前記データセットのみから成る集合を対象として、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルである濁水用回帰モデルを生成する、請求項10に記載のモデル生成方法。
【請求項12】
請求項11に記載のモデル生成方法により生成された前記濁水用回帰モデルを用いて、前記浄水場に現在流入している流入水である現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定方法であって、
凝集剤を注入する前の前記現流入水の濁度を含む水質データと、前記モデル生成方法により生成された複数の前記クラスタとの距離に基づき、前記クラスタのいずれかを特定するクラスタ特定ステップと、
前記特定されたクラスタの前記濁水用回帰モデルを用いて、前記現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定ステップと、
前記浄水場へ将来流入する流入水である将来流入水において、凝集剤を注入する前の濁度が所定の閾値以上となることが予測される事象の発生を特定する事象特定ステップと、
前記事象の発生が特定された場合、当該事象に基づき推定された前記将来流入水の前記水質データと、前記濁水用回帰モデルとを用いて前記将来流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定ステップと、を含む、推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルを生成するモデル生成装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場に流入する流入水の水質などの入力データを回帰モデルに入力し、流入水中の物質を凝集させる凝集剤の注入率(薬注率)を推定する技術が従来技術として知られている(下記特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-119956号公報
【特許文献2】特開2005-329359号公報
【特許文献3】特開2007-061800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術では、薬注率の推定に用いる回帰モデルが1つのみであるため、薬注率の推定精度が十分でないという問題がある。例えば、流入水の水質が急変した場合に推定精度が低下する、特定の浄水場における流入水の水質が回帰モデルと乖離しており、推定精度が低い、などの問題がある。
【0005】
本発明の一態様は、浄水場へ流入する流入水の水質に応じた、凝集剤の注入率の推定精度を向上させるモデル生成装置などを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルを生成するモデル生成装置であって、凝集剤を注入する前の前記流入水の濁度である注入前濁度を含む水質データと、前記流入水へ注入した凝集剤の注入率とを含むデータセットの集合をクラスタリングして複数のクラスタを生成するクラスタリング部と、前記生成された複数のクラスタ毎に、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルを生成するモデル生成部と、所定長の周期毎に更新処理を実行する更新部と、を備え、前記更新処理は、前記クラスタリング部に、前回のクラスタ生成時以降に生成された前記データセットをクラスタリングの対象に追加して前記クラスタを再生成させるとともに、前記モデル生成部に、前記再生成されたクラスタ毎に前記回帰モデルを再生成させる処理である。
【0007】
また、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、前記注入前濁度に関連するパラメータが属する数値範囲が、前記注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わったとき、前記更新処理の周期長を、前記切り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替える更新周期切替部をさらに備えてもよい。
【0008】
また、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、前記更新部が、前記パラメータが属する前記数値範囲が切り替わったとき、即時に前記更新処理を実行してもよい。
【0009】
また、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、前記所定長の周期毎に、前記パラメータが属する数値範囲が、前記注入前濁度の減少を示す数値範囲に切り替わったか否かを判
定する判定部をさらに備え、前記判定部にて前記切り替わりが判定されたとき、前記更新周期切替部が、前記更新処理の周期長を、前記切り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替えてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、前記パラメータが、前記注入率、前記注入前濁度および前記流入水が取水された地域の降水量の少なくともいずれかであってもよい。
【0011】
また、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、前記パラメータとして用いられる前記注入率が、前記回帰モデルを用いて推定された注入率であってもよい。
【0012】
また、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、前記モデル生成部が、所定の閾値以上の前記注入前濁度を含む前記データセットのみから成る集合を対象として、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルである濁水用回帰モデルを生成するものであってもよい。
【0013】
また、本発明の一態様に係るモデル生成装置は、前記モデル生成部が生成する前記濁水用回帰モデルが、線形回帰モデルであってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様に係る推定装置は、前記濁水用回帰モデルを用いて、前記浄水場に現在流入している流入水である現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定装置であって、凝集剤を注入する前の前記現流入水の濁度を含む水質データと、前記モデル生成装置が生成した複数の前記クラスタとの距離に基づき、前記クラスタのいずれかを特定するクラスタ特定部と、前記特定されたクラスタの前記濁水用回帰モデルを用いて、前記現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定部と、前記浄水場へ将来流入する流入水である将来流入水において、凝集剤を注入する前の濁度が所定の閾値以上となることが予測される事象の発生を特定する事象特定部と、前記事象の発生が特定された場合、当該事象に基づき推定された前記将来流入水の前記水質データと、前記濁水用回帰モデルとを用いて前記将来流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定部と、を備えるものであてもよい。
【0015】
また、本発明の一態様に係るモデル生成方法は、浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルを生成するモデル生成装置が実行するモデル生成方法であって、凝集剤を注入する前の前記流入水の濁度である注入前濁度を含む水質データと、前記流入水へ注入した凝集剤の注入率とを含む複数のデータセットの集合をクラスタリングして複数のクラスタを生成するクラスタリングステップと、前記生成された複数のクラスタ毎に、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする回帰モデルを生成するモデル生成ステップと、所定長の周期毎に更新処理を実行する更新ステップと、を含み、前記更新ステップは、前記クラスタリングステップにて、前回のクラスタ生成時以降に生成された前記データセットをクラスタリングの対象に追加して前記クラスタを再生成するとともに、前記モデル生成ステップにて、前記再生成されたクラスタ毎に前記回帰モデルを再生成する方法であってもよい。
【0016】
また、本発明の一態様に係るモデル生成方法は、前記モデル生成ステップにて、所定の閾値以上の前記注入前濁度を含む前記データセットのみから成る集合を対象として、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルである濁水用回帰モデルを生成する方法であってもよい。
【0017】
また、本発明の一態様に係る推定方法は、前記濁水用回帰モデルを用いて、前記浄水場に現在流入している流入水である現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定方法
であって、凝集剤を注入する前の前記現流入水の濁度を含む水質データと、前記モデル生成方法により生成された複数の前記クラスタとの距離に基づき、前記クラスタのいずれかを特定するクラスタ特定ステップと、前記特定されたクラスタの前記濁水用回帰モデルを用いて、前記現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定ステップと、前記浄水場へ将来流入する流入水である将来流入水において、凝集剤を注入する前の濁度が所定の閾値以上となることが予測される事象の発生を特定する事象特定ステップと、前記事象の発生が特定された場合、当該事象に基づき推定された前記将来流入水の前記水質データと、前記濁水用回帰モデルとを用いて前記将来流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定ステップと、を含む方法であってよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、浄水場に流入する流入水の水質に応じた凝集剤の注入率の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る薬注率推定システムの概要を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る薬注率推定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図2に示す薬注率推定システムに含まれるモデル生成装置が実行する回帰モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図2に示す薬注率推定システムに含まれるモデル生成装置が回帰モデルの生成に使用するデータセットにおいて、注入前濁度と沈澱池出口濁度との関係を示す図である。
【
図5】
図2に示す薬注率推定システムに含まれる推定装置が実行する薬注率推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態2に係る薬注率推定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図6に示す薬注率推定システムに含まれるモデル生成装置が回帰モデルの生成に使用するデータセットにおいて、注入前濁度と沈澱池出口濁度との関係を示す図である。
【
図8】
図6に示す薬注率推定システムに含まれるモデル生成装置が実行する濁水用回帰モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図9】
図6に示す薬注率推定システムに含まれる推定装置が実行する薬注率推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図6に示す薬注率推定システムに含まれるモデル生成装置が生成する濁水用回帰モデルの一例を示す図である。
【
図11】本発明の実施形態3に係る薬注率推定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】
図11に示す薬注率推定システムに含まれるモデル生成装置が実行する学習モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図13】
図11に示す薬注率推定システムに含まれる推定装置が実行する薬注率推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図14】本発明の変形例において、浄水場が取水する河川の一例を示す概略図である。
【
図15】本発明の変形例において使用されるデータセットに含まれる総降水量の算出例を示す図である。
【
図16】本発明の実施形態4に係る薬注率推定システムの要部構成の一例を示すブロック図である。
【
図17】各更新判定パラメータの数値範囲と、更新周期との対応関係を示す図である。
【
図18】
図16に示す薬注率推定システムに含まれるモデル生成装置が実行する、クラスタおよび回帰モデルの更新周期の切替処理の具体例を示す図である。
【
図19】切替処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図20】
図19に示す切替処理に含まれる更新処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図21】切替処理の流れの別の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施形態1〕
<薬注率推定システムの概要>
図1は、本実施形態に係る薬注率推定システム100の概要を示す図である。薬注率推定システム100は、浄水場へ流入する水(流入水、以下、「原水」と称する)へ注入する凝集剤の注入率である薬注率を、原水の水質に応じて推定する。ここで、凝集剤とは、原水に含まれる物質を凝集させ沈澱させるための薬剤である。また、薬注率は、原水に注入する凝集剤の、原水に対する割合である。薬注率は、従来、ジャーテストの結果、過去の知見、所定の計算式などを用いて決定されている。なお、本開示に係る凝集剤の注入は、凝集沈澱急速ろ過方式における凝集剤の注入であってもよいし、膜ろ過方式の前処理としての凝集剤の注入であってもよい。
【0021】
(回帰モデルの生成)
薬注率推定システム100は、原水の水質に応じた薬注率の推定を実現するために、原水の水質データを説明変数とし、薬注率を目的変数とした回帰モデルを生成する。薬注率推定システム100は、原水の水質データと薬注率とを含むデータセットD1の集合、すなわち、複数のデータセットD1の入力を受け付ける(
図1のa1)。データセットD1は、過去に浄水場に流入した原水の水質データと、当該原水に対して実際に注入された凝集剤の薬注率とを含む。なお、水質データとは、凝集剤注入前の原水の濁度(以下、「注入前濁度」と称する)を含むデータである。ただし、水質データに含まれるデータは、注入前濁度に限定されない。水質データは、例えば
図1に示すように、pH、水温などを含んでもよい。
【0022】
続いて、薬注率推定システム100は、当該集合をクラスタリングし、それぞれのクラスタの回帰モデルを生成する(
図1のb)。当該回帰モデルは、水質データと薬注率とを変数とする回帰モデルである。なお、
図1の例では、薬注率推定システム100は3つのクラスタを生成しているが、クラスタの数、換言すれば回帰モデルの数はこの例に限定されない。
【0023】
(薬注率の推定)
回帰モデルを生成した薬注率推定システム100は、浄水場に現在流入している原水(現流入水、以下、「現原水」と称する場合がある)の水質データD2の入力を受け付ける(
図1のa2)。そして、薬注率推定システム100は、生成した複数のクラスタのうち、水質データD2とクラスタの重心(以下、単に「重心」と称する場合がある)との距離が最も近いクラスタの回帰モデルを用いて、薬注率D3を推定する(
図1のa3)。
【0024】
<薬注率推定システム100の要部構成>
図2は、薬注率推定システム100の要部構成の一例を示すブロック図である。薬注率推定システム100は、モデル生成装置1、推定装置2、入力装置3、出力装置4および記憶装置5を含んでいる。
【0025】
入力装置3は、ユーザの入力を受け付け、当該入力に基づく入力信号をモデル生成装置1または推定装置2へ出力する。
【0026】
出力装置4は、推定装置2が生成した情報を出力する。出力装置4による出力方法は特に限定されない。出力装置4は、例えば、当該情報を画像として表示する表示装置であってもよいし、当該情報を音声として出力する音声出力装置であってもよい。また、出力装置4は、当該情報を電気信号として、凝集剤注入装置(不図示)へ出力する制御信号出力装置であってもよい。
【0027】
記憶装置5は、薬注率推定システム100にて使用されるプログラムおよびデータを保持する。記憶装置5が保持(記憶)するデータについては後述する。
【0028】
モデル生成装置1は、原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定するための回帰モデルを生成する。モデル生成装置1は、制御部10を備えている。制御部10は、モデル生成装置1の各部を統括して制御する。制御部10は、一例として、プロセッサおよびメモリにより実現される。この例において、プロセッサは、ストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部10に含まれている各部が構成される。
【0029】
当該各部として、制御部10は、クラスタリング部101および回帰モデル生成部102(モデル生成部)を含む。
【0030】
クラスタリング部101は、水質データと薬注率とを含むデータセット(
図1のデータセットD1)の集合をクラスタリングし、複数のクラスタを生成する。クラスタリング部101は、一例として、既存のクラスタリング手法(例えば、既存の非階層的手法)を用いて、複数のクラスタを生成する。クラスタリング部101は、入力装置3から上記集合を受け付けると、例えば、
図2に示す第1クラスタ511、第2クラスタ512および第3クラスタ513を生成する。クラスタリング部101は、クラスタリングの結果を回帰モデル生成部102へ出力する。
【0031】
なお、上記集合は、モデル生成装置1のストレージ、または、記憶装置5に記憶されていてもよい。この例の場合、クラスタリング部101は、入力装置3から受け付けた、上記集合の読み出し指示に従い、上記集合を上記ストレージまたは記憶装置5から読み出す。
【0032】
回帰モデル生成部102は、クラスタリング部101が生成した複数のクラスタ毎に、水質データと薬注率とを変数とする回帰モデルを生成する。換言すれば、回帰モデル生成部102は、各クラスタのデータセット、すなわち、水質データと薬注率とを対応付けたデータを教師データとして機械学習を行い、各クラスタにおける学習モデルとして回帰モデルを生成する。この教師データにおいて、水質データが入力データであり、薬注率が正解データである。当該回帰モデルに、現原水の水質データを入力データとして入力すると、回帰モデルにおいて当該水質データに対応する薬注率が出力される。
【0033】
回帰モデル生成部102は、一例として、非線形の回帰モデルを生成する。回帰モデル生成部102は、例えば、ランダムフォレスト(RF:Random Forest)、勾配ブーステ
ィング(GBR:Gradient Boosted tree Regression)またはニューラルネットワーク(NN:Neural Network)を用いて非線形の回帰モデルを生成する。
【0034】
回帰モデル生成部102は、例えば、第1クラスタ511の回帰モデルとして、
図2に示す第1回帰モデル521を生成する。また、回帰モデル生成部102は、第2クラスタ512の回帰モデルとして、
図2に示す第2回帰モデル522を生成する。また、回帰モ
デル生成部102は、第3クラスタ513の回帰モデルとして、
図2に示す第3回帰モデル523を生成する。
【0035】
これにより、クラスタと回帰モデルとの組み合わせが複数生成される。回帰モデル生成部102は、当該複数の組み合わせを記憶装置5に格納する。本実施形態では、当該複数の組み合わせを、
図2に示すようにクラスタ51と称する。
【0036】
推定装置2は、モデル生成装置1が生成した回帰モデルを用いて、現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。推定装置2は、制御部20を備えている。制御部20は、推定装置2の各部を統括して制御する。制御部20は、一例として、プロセッサおよびメモリにより実現される。この例において、プロセッサは、ストレージ(不図示)にアクセスし、ストレージに格納されているプログラム(不図示)をメモリにロードし、当該プログラムに含まれる一連の命令を実行する。これにより、制御部20に含まれている各部が構成される。
【0037】
当該各部として、制御部20は、クラスタ特定部201および薬注率推定部202(推定部)を含む。
【0038】
クラスタ特定部201は、入力装置3から受け付けた現原水の水質データ(
図1の水質データD2)と、各クラスタの重心との距離に基づき、クラスタ51のうちのいずれかのクラスタを特定する。クラスタ特定部201は、一例として、第1クラスタ511、第2クラスタ512および第3クラスタ513のうち、現原水の水質データと重心との距離が最も近いクラスタを特定する。クラスタ特定部201は、クラスタの特定結果を薬注率推定部202へ出力する。
【0039】
薬注率推定部202は、特定されたクラスタの回帰モデルを用いて、現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。薬注率推定部202は、当該回帰モデルに水質データを入力することにより、薬注率を取得する。そして、薬注率推定部202は、取得した薬注率を、薬注率の推定結果として出力装置4に出力させる。出力装置4が上述した制御信号出力装置である場合、当該薬注率に基づき、凝集剤注入装置が現原水へ凝集剤を注入することができる。
【0040】
<回帰モデル生成処理の流れ>
図3は、モデル生成装置1が実行する回帰モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0041】
クラスタリング部101は、原水の水質データと当該原水に対して実際に注入された凝集剤の薬注率とを含むデータセットの集合を取得する(ステップS1、以下「ステップ」の記載を省略)。
【0042】
図4は、上記データセットの水質データに含まれる注入前濁度と、当該原水濁度の原水に凝集剤を注入した後、浄水場の沈澱池出口における原水の濁度(沈澱池出口濁度)との関係を示す図である。
【0043】
クラスタリング部101は、一例として、沈澱池出口濁度が所定値以下となるデータセットのみをクラスタリングの対象とする。例えば、クラスタリング部101は、沈澱池出口濁度が、
図4に示す閾値T1以下となるデータセットのみをクラスタリングの対象とする。閾値T1の具体的な値は、
図4に示す「1(度)」であってもよいが、この例に限定されない。
【0044】
クラスタリング部101は、一例として、ストレージに記憶されている閾値T1に基づき、入力装置3から入力された集合から、沈澱池出口濁度が閾値T1を超えるデータセットを破棄してもよい。また、クラスタリング部101は、一例として、ストレージに記憶されている閾値T1に基づき、沈澱池出口濁度が閾値T1以下であるデータセットのみを、ストレージ(または記憶装置5)から読み出してもよい。これらの例の場合、データセットは、沈澱池出口濁度を含む。
【0045】
また、一例として、モデル生成装置1のユーザは、沈澱池出口濁度が閾値T1以下であるデータセットのみを、モデル生成装置1に入力してもよい。
【0046】
再び
図3を参照して、回帰モデル生成処理の流れの説明に戻る。クラスタリング部101は、取得した集合をクラスタリングし、複数のクラスタを生成する(S2、クラスタリングステップ)。クラスタリング部101は、クラスタリングの結果を回帰モデル生成部102へ出力する。
【0047】
回帰モデル生成部102は、クラスタ毎に、水質データと薬注率とを変数とする非線形の回帰モデルを生成する(S3、モデル生成ステップ)。これにより、複数の回帰モデルを含むクラスタ51が生成される。回帰モデル生成部102はクラスタ51を記憶装置5に格納する。
【0048】
(クラスタ51の更新)
クラスタリング部101および回帰モデル生成部102は、定期的にクラスタ51の更新(自動更新)を行うことが好ましい。この例において、データセットはモデル生成装置1のストレージまたは記憶装置5に記憶されており、クラスタリング部101は、当該ストレージまたは記憶装置5からデータセットの集合を取得する。
【0049】
上記データセットは、クラスタ51の生成後も、原水に対して凝集剤の注入が行われる度にストレージまたは記憶装置5に格納される。
【0050】
クラスタリング部101は、一例として、クラスタリングを実行したとき、タイマ(不図示)を起動し、クラスタリング実行からの経過時間を計測する。そして、当該経過時間が所定値に到達したとき、クラスタリング部101は、再度データセットの集合を取得し、クラスタリングを実行(クラスタを更新)する。そして、クラスタリング部101は、クラスタリングの結果を回帰モデル生成部102へ出力する。回帰モデル生成部102は、クラスタ毎に回帰モデルを更新する。
【0051】
なお、クラスタおよび回帰モデルの更新方法は、クラスタおよび回帰モデルの生成方法と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0052】
<薬注率推定処理の流れ>
図5は、推定装置2が実行する薬注率推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0053】
クラスタ特定部201は、入力装置3から、現原水の水質データを取得する(S11)。クラスタ特定部201は、クラスタ51に含まれる第1クラスタ511、第2クラスタ512および第3クラスタ513のうち、取得した水質データと重心との距離が最も近いクラスタを特定する(S12、クラスタ特定ステップ)。クラスタ特定部201は、クラスタの特定結果を薬注率推定部202へ出力する。
【0054】
薬注率推定部202は、特定されたクラスタから生成された回帰モデルを用いて、薬注
率を推定する(S13、推定ステップ)。例えば、取得した水質データと重心との距離が最も近いクラスタとして、クラスタ特定部201が、第1クラスタ511を特定した場合、薬注率推定部202は、第1回帰モデル521に、現原水の水質データを入力し、薬注率を取得する。薬注率推定部202は、取得した薬注率を、薬注率の推定結果として出力装置4に出力させる(S14)。
【0055】
<効果>
以上のように、本実施形態に係るモデル生成装置1は、水質データと薬注率とを含むデータセットをクラスタリングし、各クラスタにおける回帰モデルを生成する。つまり、モデル生成装置1は、薬注率を推定するための回帰モデルを複数生成することができる。そして、本実施形態に係る推定装置2は、これら複数の回帰モデルのうち、現原水の水質データと重心との距離が最も近いクラスタの回帰モデルを用いて、現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。これにより、現原水の水質に応じた薬注率の推定精度を向上させることができる。
【0056】
回帰モデルを複数生成するため、例えば、或る浄水場で現原水の水質が急変した場合であっても、当該水質を示す水質データに最も近いクラスタの回帰モデルを用いて薬注率を推定することができる。
【0057】
また、流入してくる原水の水質は、浄水場ごとに異なる。また、有する設備の違いなどにより、同様の水質の原水に対して注入される凝集剤の薬注率が、浄水場ごとに異なる場合もあり得る。ここで、回帰モデルが1つのみの場合、上述した原水の水質や薬注率の浄水場ごとの傾向が平均化され、当該傾向と回帰モデルとが乖離する可能性がある。このため、回帰モデルが1つのみの場合において薬注率の推定精度を向上させるためには、浄水場ごとに回帰モデルをカスタマイズする必要が生じる。
【0058】
これに対し、モデル生成装置1は、データセットのクラスタリング結果に基づき、回帰モデルを複数生成するため、生成された回帰モデルのいずれかは、上記傾向との乖離が小さい回帰モデルとなる。このため、浄水場ごとに回帰モデルをカスタマイズする必要が無い。換言すれば、回帰モデルの汎用性が向上する。
【0059】
また、モデル生成装置1は、沈澱池出口濁度が閾値T1以下となるデータセットのみをクラスタリングの対象としてもよい。これにより、回帰モデルが、沈澱池出口濁度が閾値T1以下となるデータセットから生成されることとなる。よって、濁度の高い水が沈澱池、さらには、浄水場から流出する可能性が低減され、その結果、流出した水を飲用することによるクリプトスポリジウムなどへの感染リスクを低下させることができる。
【0060】
また、モデル生成装置1は、第1回帰モデル521、第2回帰モデル522および第3回帰モデル523として非線形の回帰モデルを生成してもよい。原水の注入前濁度を含む水質データと薬注率との相関関係は非線形であることが、出願人の検証により見出された。このため、非線形の回帰モデルを生成することにより、線形の回帰モデルの場合と比べて、薬注率の推定精度を向上させることができる。また、非線形回帰はより多様な形式を利用できるため、各クラスタのデータセットから生成する回帰モデルを非線形とすることにより、当該回帰モデルを線形とする構成に比べて、回帰モデルの汎用性をさらに向上させることができる。
【0061】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0062】
本実施形態に係る薬注率推定システム100aは、所定の閾値以上の注入前濁度を含むデータセットのみから成る集合を対象として、水質データを説明変数とし、薬注率を目的変数とする濁水用回帰モデルを生成する。そして、薬注率推定システム100aは、現原水の注入前濁度が上記所定の閾値以上である場合、濁水用回帰モデルを用いて、現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。
【0063】
<薬注率推定システム100aの要部構成>
図6は、薬注率推定システム100aの要部構成の一例を示すブロック図である。以下、薬注率推定システム100aの各部材については、薬注率推定システム100の同名の部材との相違点のみを説明する。
【0064】
薬注率推定システム100aは、モデル生成装置1a、推定装置2aおよび記憶装置5aを含む点が、薬注率推定システム100と異なる。
【0065】
(モデル生成装置1aの要部構成)
モデル生成装置1aの制御部10aは、クラスタリング部101aおよび回帰モデル生成部102a(モデル生成部)を含んでいる。
【0066】
クラスタリング部101aが、クラスタリング部101と異なる点は、所定の閾値未満の注入前濁度を含むデータセットのみから成る集合を対象としてクラスタリングを実行する点である。つまり、本実施形態に係る第1回帰モデル521、第2回帰モデル522および第3回帰モデル523は、所定の閾値未満の注入前濁度を含むデータセットから生成される。
【0067】
図7は、上記データセットの水質データに含まれる注入前濁度と、沈澱池出口濁度との関係を示す図である。
【0068】
クラスタリング部101aは、一例として、沈澱池出口濁度が、
図7に示す閾値T1以下となり、かつ、注入前濁度が、
図7に示す閾値T2未満となるデータセットのみをクラスタリングの対象とする。
【0069】
閾値T1の具体的な値は、
図7に示す「1(度)」であってもよいが、この例に限定されない。また、閾値T2の具体的な値は、
図7に示す「150(度)」であってもよいが、この例に限定されない。
【0070】
再び
図6を参照し、モデル生成装置1aの要部構成の説明に戻る。回帰モデル生成部102aが、回帰モデル生成部102と異なる点は、所定の閾値以上の注入前濁度を含むデータセットのみから成る集合に基づき、
図6に示す濁水用回帰モデル52を生成する点である。つまり、回帰モデル生成部102aは、注入前濁度が高い原水のデータセットのみを用いて、回帰モデルを生成する。回帰モデル生成部102aは、一例として、線形の濁水用回帰モデル52を生成する。回帰モデル生成部102aは、例えば、一般化線形回帰(GLR:Generalized Liner Regression)または部分的最小二乗回帰(PLS:Partial Least Squares Regression)を用いて、線形の濁水用回帰モデル52を生成する。
【0071】
回帰モデル生成部102aは、一例として、沈澱池出口濁度が、
図7に示す閾値T1以下となり、かつ、注入前濁度が、
図7に示す閾値T2以上となるデータセット(以下、「濁水データセット」と称する場合がある)のみから濁水用回帰モデル52を生成する。
【0072】
換言すれば、回帰モデル生成部102aは、濁水データセット、すなわち、水質データ
と薬注率とを対応付けたデータを教師データとして機械学習を行い、学習モデルとして濁水用回帰モデル52を生成する。この教師データにおいて、水質データが入力データであり、薬注率が正解データである。濁水用回帰モデル52に、現原水の水質データを入力データとして入力すると、濁水用回帰モデル52において当該水質データに対応する薬注率が出力される。
【0073】
回帰モデル生成部102aは、生成した濁水用回帰モデル52を記憶装置5aに格納する。換言すれば、記憶装置5aは、濁水用回帰モデル52を記憶している点が、記憶装置5と異なる。
【0074】
(推定装置2aの要部構成)
推定装置2aの制御部20aは、クラスタ特定部201aおよび薬注率推定部202a(推定部)および注入前濁度判定部203を含んでいる。
【0075】
再び
図6を参照し、薬注率推定システム100aの要部構成の説明に戻る。注入前濁度判定部203は、入力装置3から受け付けた現原水の水質データに含まれる注入前濁度が、所定の閾値(例えば、
図7に示す閾値T2)以上であるか否かを判定する。注入前濁度が所定の閾値以上であると判定した場合、注入前濁度判定部203は、判定結果を薬注率推定部202aへ出力する。注入前濁度が所定の閾値以上でない、すなわち、注入前濁度が所定の閾値未満となると判定した場合、注入前濁度判定部203は、判定結果をクラスタ特定部201aへ出力する。
【0076】
クラスタ特定部201aは、注入前濁度判定部203からの判定結果を取得した場合、現原水の水質データと、各クラスタの重心との距離に基づき、クラスタ51のうちのいずれかのクラスタを特定する。この特定処理の詳細は、クラスタ特定部201が実行する特定処理と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0077】
薬注率推定部202aは、注入前濁度判定部203からの判定結果を取得した場合、濁水用回帰モデル52を用いて、現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。薬注率推定部202aは、濁水用回帰モデル52に水質データを入力することにより、薬注率を取得する。そして、薬注率推定部202aは、取得した薬注率を、薬注率の推定結果として出力装置4に出力させる。出力装置4が上述した制御信号出力装置である場合、当該薬注率に基づき、凝集剤注入装置が現原水へ凝集剤を注入することができる。
【0078】
なお、クラスタ特定部201aが特定したクラスタの回帰モデルを用いた薬注率の推定処理は、薬注率推定部202が実行する推定処理と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0079】
<濁水用回帰モデル生成処理の流れ>
図8は、モデル生成装置1aが実行する濁水用回帰モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、モデル生成装置1aが実行する、クラスタリング結果に基づく回帰モデル生成処理は、モデル生成装置1が実行する回帰モデル生成処理と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0080】
回帰モデル生成部102aは、注入前濁度が閾値T2以上の原水の水質データと、当該原水に対して実際に注入された薬注率とを含むデータセットの集合を取得する(S21)。当該データセットは、上述したとおり、沈澱池出口濁度が閾値T1以下のデータセットであってもよい。
【0081】
回帰モデル生成部102aは、一例として、ストレージに記憶されている閾値T1に基
づき、入力装置3から入力された集合から、沈澱池出口濁度が閾値T1を超えるデータセットを濁水用回帰モデル52生成のためのデータセットから排除してもよい。また、回帰モデル生成部102aは、一例として、ストレージに記憶されている閾値T2に基づき、入力装置3から入力された集合から、注入前濁度が閾値T2未満のデータセットを濁水用回帰モデル52生成のためのデータセットから排除してもよいまた、回帰モデル生成部102aは、一例として、ストレージに記憶されている閾値T1およびT2に基づき、沈澱池出口濁度が閾値T1以下、かつ、注入前濁度が閾値T2以上であるデータセットのみを、ストレージ(または記憶装置5a)から読み出してもよい。これらの例の場合、データセットは、沈澱池出口濁度を含む。
【0082】
また、一例として、モデル生成装置1aのユーザは、沈澱池出口濁度が閾値T1以下、かつ、注入前濁度が閾値T2以上であるデータセットのみを、モデル生成装置1aに入力してもよい。
【0083】
回帰モデル生成部102aは、取得した集合から、水質データと薬注率とを変数とする線形の濁水用回帰モデル52を生成する(S22)。回帰モデル生成部102aは、生成した濁水用回帰モデル52を記憶装置5aへ格納する。
【0084】
(濁水用回帰モデル52の更新)
回帰モデル生成部102aは、定期的に濁水用回帰モデル52の更新(自動更新)を行うことが好ましい。この例において、データセットはモデル生成装置1aのストレージまたは記憶装置5aに記憶されており、回帰モデル生成部102aは、当該ストレージまたは記憶装置5aからデータセットの集合を取得する。
【0085】
上記データセットは、濁水用回帰モデル52の生成後も、原水に対する凝集剤の注入が行われる度にストレージまたは記憶装置5aに格納される。
【0086】
回帰モデル生成部102aは、一例として、濁水用回帰モデル52の生成(または更新)を実行したとき、タイマ(不図示)を起動し、当該実行からの経過時間を計測する。そして、当該経過時間が所定値に到達したとき、回帰モデル生成部102aは、再度データセットの集合を取得し、濁水用回帰モデル52を更新する。
【0087】
なお、濁水用回帰モデル52の更新方法は、濁水用回帰モデル52の生成方法と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。また、クラスタ51の更新については、実施形態1で説明したため、ここでは説明を繰り返さない。
【0088】
<薬注率推定処理の流れ>
図9は、推定装置2aが実行する薬注率推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0089】
注入前濁度判定部203は、入力装置11から、現原水の水質データを取得する(S31)。注入前濁度判定部203は、取得した現原水の注入前濁度が、閾値T2以上であるか否かを判定する(S32)。
【0090】
当該注入前濁度が閾値T2以上でない、すなわち、注入前濁度が閾値T2未満であると判定した場合(S32でNO)、注入前濁度判定部203は、判定結果をクラスタ特定部201aへ出力する。そして、薬注率推定処理は、
図5のステップS12へ進む。以降の処理については、実施形態1で既に説明しているため、ここでは説明を繰り返さない。
【0091】
取得した現原水の注入前濁度が閾値T2以上であると判定した場合(S32でYES)
、注入前濁度判定部203は、判定結果を薬注率推定部202aへ出力する。
【0092】
薬注率推定部202aは、濁水用回帰モデル52を用いて、薬注率を推定する(S33)。薬注率推定部202aは、濁水用回帰モデル52に水質データを入力することにより、薬注率を取得する。そして、薬注率推定部202aは、取得した薬注率を、薬注率の推定結果として出力装置4に出力させる(S34)。
【0093】
<効果>
以上のように、本実施形態に係る薬注率推定システム100aに含まれるモデル生成装置1aは、閾値T2以上の注入前濁度を含むデータセットのみから成る集合を対象として、濁水用回帰モデル52を生成する。つまり、モデル生成装置1aは、凝集剤注入前の原水が高濁度の場合に特化した回帰モデルを生成する。
【0094】
また、薬注率推定システム100aに含まれる推定装置2aは、現原水の注入前濁度が閾値T2以上である場合、濁水用回帰モデル52を用いて現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。
【0095】
これにより、何らかの要因(例えば、浄水場の上流地域での降雨の発生、ダムの放流など)で凝集剤注入前の原水が高濁度となった場合における注入率の推定精度を向上させることができる。よって、原水の濁度の急変時(濁度の急な上昇時)に行う必要があるジャーテストの頻度を抑えることができ、浄水場の職員の負担を軽減することができる。
【0096】
また、モデル生成装置1aは、濁水用回帰モデル52として、線形の回帰モデルを生成してもよい。これにより、非線形回帰モデルより外挿に強い線形モデルを生成することから、例えばこれまでに経験したことが無いほど高濁度の流入水であっても、注入率をある程度適切に推定することができる。
【0097】
図10は、濁水用回帰モデル52の一例を示す図である。
図10に示す各点が、各データセットを示し、破線(グラフ)が、当該データセットに基づき生成された濁水用回帰モデル52を示す。なお、
図10では、理解を容易にするために、水質データは注入前濁度(原水濁度)のみとしている。
【0098】
図10に示すように、濁水用回帰モデル52を生成するためのデータセットにおける、注入前濁度の最大値は約320(度)である。換言すれば、320(度)以上の濁度の原水の浄水場への流入は未経験である。ここで、例えば、350(度)の濁度の原水が、浄水場へ流入したとする。従来のようにジャーテストを実施して薬注率を決定する場合、このような高濁度の原水に対して注入される凝集剤の薬注率の知見がないため、ジャーテストの回数が増える、ジャーテストの時間がかかるなどの問題が発生する。
【0099】
これに対して、モデル生成装置1aは、
図10に示す濁水用回帰モデル52を生成するので、上記のような高濁度(350度)の原水が流入したとしても、濁水用回帰モデル52から、薬注率を約77(mg/L)と迅速に推定することができる。結果として、上述したとおり、ジャーテストの頻度を抑えることができ、浄水場の職員の負担を軽減することができる。
【0100】
〔実施形態3〕
本発明のさらなる別の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0101】
本実施形態に係る薬注率推定システム100bは、浄水場へ将来流入する原水である将来原水(将来流入水)において、注入前濁度が所定の閾値以上となることが予測される事象(以下、「濁水要因」と称する)の発生を特定する。そして、薬注率推定システム100bは、濁水要因の発生を特定した場合、濁水用回帰モデル52を用いて将来原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。なお、本実施形態では、水質データは注入前濁度のみとする。
【0102】
本実施形態に係る濁水要因は、所定地域での降雨の発生であるが、濁水要因はこの例に限定されない。例えば、濁水要因は、所定地域での降雨の発生予報、浄水場の上流にあるダムからの放流量の増加、当該ダムにおける貯水量が所定値以上となったこと、などであってもよい。なお、所定地域とは、降水が浄水場に流入する可能性がある地域であり、例えば、浄水場の上流の河川流域のうち、降雨の発生が注入前濁度に最も影響する地域(1km四方メッシュ)である。所定地域は複数であってもよい。また、本実施形態に係る降雨は、1km四方メッシュにおける1時間あたりの降水量が30mm以上である豪雨を指すものとするが、この例に限定されない。
【0103】
<薬注率推定システム100bの要部構成>
図11は、薬注率推定システム100bの要部構成の一例を示すブロック図である。以下、薬注率推定システム100bの各部材については、薬注率推定システム100の同名の部材との相違点のみを説明する。
【0104】
薬注率推定システム100bは、モデル生成装置1b、推定装置2bおよび記憶装置5aを含む点が、薬注率推定システム100と異なる。なお、記憶装置5aについては実施形態2で説明しているため、ここでは説明を繰り返さない。
【0105】
図11に示すように、薬注率推定システム100bは、気象情報サーバ200と通信可能な構成である。気象情報サーバ200は、気象庁または気象予報を提供する企業のサーバである。一例として、薬注率推定システム100bは、気象情報サーバ200から、降雨の発生情報を受信する。当該発生情報は、降雨の発生位置(1km四方メッシュ)を示す位置データ、および、当該発生位置にて発生した降雨の、1時間あたりの降水量を含む。
【0106】
(モデル生成装置1bの要部構成)
モデル生成装置1bの制御部10bは、クラスタリング部101a、回帰モデル生成部102a(モデル生成部)および学習部103を含んでいる。なお、クラスタリング部101aおよび回帰モデル生成部102aについては実施形態2で説明しているため、ここでは説明を繰り返さない。
【0107】
学習部103は、上記発生情報と、上記発生情報が示す降雨の発生後の原水の注入前濁度とを教師データとして機械学習を行い、学習モデルを生成する。この教師データにおいて、発生情報が入力データであり、注入前濁度が正解データである。
【0108】
発生情報の正解データとしての注入前濁度は、降水が浄水場に流入するまでの時間を考慮したものであることが好ましい。具体的には、当該注入前濁度は、降雨の降水を含む原水が、所定地域から浄水場へ到着するまでに要する時間だけ、当該降雨の発生時点から経過した時点の原水の注入前濁度であることが好ましい。これにより、教師データにおいて発生情報に組み合わせられる注入前濁度を、発生情報が示す降雨の降水を含む原水の注入前濁度とすることができる。
【0109】
学習部103は、生成した学習モデルを推定装置2bへ送信する。あるいは、学習部1
03は、生成した学習モデルを記憶装置5aへ格納してもよい。後者の場合、推定装置2bは、記憶装置5aから当該学習モデルを読み出して使用する。
【0110】
(推定装置2bの要部構成)
推定装置2bの制御部20bは、クラスタ特定部201、薬注率推定部202bおよび水質推定部204(事象特定部)を含んでいる。
【0111】
水質推定部204は、濁水要因の発生を特定した場合、学習部103が生成した学習モデルを用いて、注入前濁度を推定する。具体的には、水質推定部204は、気象情報サーバ200から、上記所定地域の降雨の発生情報をピンポイントで取得する。水質推定部204は、取得した当該発生情報を学習モデルへ入力し、注入前濁度の推定値を取得する。そして、水質推定部204は、取得した推定値を薬注率推定部202bへ出力する。
【0112】
薬注率推定部202bは、水質推定部204から注入前濁度の推定値を取得した場合、濁水用回帰モデル52を用いて、将来原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。すなわち、薬注率推定部202bは、濁水用回帰モデル52を用いて、これから浄水場へ流入してくる、降雨の降水を含む原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。薬注率推定部202bは、濁水用回帰モデル52に注入前濁度を入力することにより、薬注率を取得する。そして、薬注率推定部202bは、取得した薬注率を、薬注率の推定結果として出力装置4に出力させる。なお、クラスタ特定部201が特定したクラスタの回帰モデルを用いた薬注率の推定処理は、薬注率推定部202が実行する推定処理と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0113】
<学習モデル生成処理の流れ>
図12は、モデル生成装置1bの学習部103が実行する学習モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0114】
学習部103は、教師データとして、所定地域において発生した降雨の降水量、すなわち、所定地域の位置データを含む発生情報と、当該降雨発生後の注入前濁度とを取得する(S41)。一例として、学習部103は、入力装置3から取得した指示に基づき、モデル生成装置1bのストレージまたは記憶装置5aに記憶されている、発生情報と注入前濁度との組(教師データ)の集合を読み出す。または、学習部103は、モデル生成装置1bのユーザが入力した上記集合を、入力装置3から取得する。
【0115】
学習部103は、取得した教師データの集合を用いて機械学習を行うことにより、発生情報を入力として、注入前濁度を出力とする学習モデルを生成する(S42)。
【0116】
なお、モデル生成装置1bが実行する、クラスタリング結果に基づく回帰モデル生成処理は、モデル生成装置1が実行する回帰モデル生成処理と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。また、モデル生成装置1bが実行する濁水用回帰モデル生成処理は、モデル生成装置1aが実行する濁水用回帰モデル生成処理と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0117】
(学習モデルの更新)
学習部103は、学習モデルの更新(自動更新)を行うことが好ましい。この例において、モデル生成装置1bが所定地域の位置データを含む発生情報を受信した場合、当該発生情報と、当該発生情報が示す降雨が流入した原水に対して実際に注入された凝集剤の薬注率との組(教師データ)が、ストレージまたは記憶装置5aに格納される。
【0118】
一例として、学習部103は、教師データが、ストレージまたは記憶装置5aに新たに
所定数格納された場合、新たに格納された教師データを含む全教師データを読み出し、学習モデルを更新する。なお、学習モデルの更新方法は、学習モデルの生成方法と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0119】
また、クラスタ51の更新については実施形態1で、濁水用回帰モデル52の更新については実施形態2で説明したため、ここでは説明を繰り返さない。
【0120】
<薬注率推定処理の流れ>
図13は、推定装置2bが実行する薬注率推定処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図13は、濁水要因の発生を特定したことに伴い、将来原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する場合の処理の流れを示す。なお、現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する処理(発生情報を受信していない場合の薬注率推定処理)は、推定装置2が実行する薬注率推定処理と同様であるため、ここでは説明を繰り返さない。
【0121】
水質推定部204は、気象情報サーバ200から、上記所定地域の降雨の発生情報を受信(S51)すなわち、所定地域における降雨の発生を特定した場合、水質推定部204は、受信した発生情報と、学習部103が生成した学習モデルとを用いて、注入前濁度を推定する(S52)。水質推定部204は、当該学習モデルに発生情報を入力することにより、注入前濁度の推定値を取得する。水質推定部204は、当該推定値を薬注率推定部202bへ出力する。
【0122】
薬注率推定部202bは、取得した注入前濁度の推定値と濁水用回帰モデル52とを用いて、薬注率を推定する(S53)。薬注率推定部202bは、濁水用回帰モデル52に水質データを入力することにより、薬注率を取得する。そして、薬注率推定部202bは、取得した薬注率を、薬注率の推定結果として出力装置4に出力させる(S54)。
【0123】
<効果>
以上のように、本実施形態に係る薬注率推定システム100bに含まれる推定装置2bは、浄水場に将来流入する将来原水において、注入前濁度が所定の閾値以上となる濁水要因の発生を特定した場合、濁水用回帰モデル52を用いて将来原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。
【0124】
これにより、濁水要因により将来原水が高濁度となる可能性が高い場合、将来原水に対して注入される凝集剤の薬注率を、浄水場への将来原水の流入前に推定することができる。また、将来原水が高濁度となることを事前に予測することができるので、高濁度の原水が予測される場合のみにおいて、注入前濁度の監視を強化することが可能となる。
【0125】
薬注率推定システム100bに含まれるモデル生成装置1bは、一例として、発生情報と注入前濁度とを教師データとして機械学習を行うことにより、発生情報を入力として、注入前濁度を出力する学習モデルを生成する。そして、推定装置2bは、濁水要因が発生した場合、当該濁水要因の発生情報と上記学習モデルとを用いて注入前濁度を推定する。そして、推定装置2bは、推定した注入前濁度と濁水用回帰モデル52とを用いて将来原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する。これにより、推定装置2bは、将来原水に対して注入される凝集剤の薬注率を、当該将来原水の流入前に推定することができる。
【0126】
〔実施形態1~3の変形例〕
モデル生成装置1および1aが取得するデータセットは、原水が浄水場に流入する前、すなわち、原水が取水対象(河川など)に存在していた期間の、特定地域の降水(降雨)に関する降水データを含んでいてもよい。ここで、特定地域とは、降水が浄水場に流入す
る可能性がある地域であり、例えば、浄水場の上流の河川流域のうち、降雨の発生が水質データに最も影響する地域(1km四方メッシュ)である。特定地域は複数であってもよい。また、降水データとは、特定地域の降水量(1時間あたり)の合計値、すなわち、総降水量であるものとして説明する。なお、総降水量の定義はこの例に限定されない。例えば、総降水量は、1日あたりの降水の総量であってもよい。
【0127】
図14は、浄水場90が取水する河川99の一例を示す概略図であり、上記特定地域を示す図である。なお、
図14では、説明を分かりやすくするために、上記特定地域が3つ(地域R1、R2、R3)であるものとした。データセットを生成するデータセット生成装置(不図示)は、一例として、作業員の操作入力に基づき、気象情報サーバ(不図示)と通信し、地域R1、R2およびR3の1時間あたりの降水量を取得する。データセット生成装置は、別の例として、各地の1時間あたりの降水量を取得した後で、当該降水量に、地域R1、R2およびR3の1時間あたりの降水量が含まれるか否かを判定してもよい。地域気象情報サーバは、気象庁または気象予報を提供する企業のサーバである。
【0128】
図15は、総降水量の算出例を示す図である。
図15の例は、或る日の10時30分に浄水場90に流入した原水に含まれる総降水量の算出例を示している。当該原水が地域R1、R2およびR3を流れていた時刻は、10時30分より前である。換言すれば、原水が浄水場90に流入した時刻と、地域R1、R2およびR3を流れていた時刻との間にはタイムラグがある。データセット生成装置は、このタイムラグを考慮して総降水量を算出する。
【0129】
具体的には、地域R1、R2およびR3の各々において、各地域から浄水場90まで原水が到達するのに要する時間(すなわち、タイムラグ)を予め特定しておく。
図15の例では、当該時間は、地域R1が60分、地域R2が300分、地域R3が120分であるものとした。
【0130】
データセット生成装置は、浄水場90に原水が流入した時刻である10時30分から、タイムラグだけ過去に遡った時点の、各地域の降水量を算出する。
図15では、当該時点を「降水確認時刻」と称する。
図15の例において、データセット生成装置は、9時30分の地域R1の降水量を取得する。また、データセット生成装置は、5時30分の地域R2の降水量を取得する。また、データセット生成装置は、8時30分の地域R3の降水量を取得する。
図15では、これら降水量を「地域別降水量」と称する。
図15の例において、地域R1の地域別降水量は6(mm/h)、地域R2の地域別降水量は5(mm/h)、地域R3の地域別降水量は4(mm/h)であるものとした。
【0131】
データセット生成装置は、取得した地域別降水量を合計し、総降水量を算出する。
図15の例では、総降水量は、6+5+4=15(mm/h)となる。
【0132】
データセット生成装置は、10時30分に流入した原水のデータセットに、算出した総降水量を含める。これにより、モデル生成装置1および1aが生成する学習モデルは、原水に含まれる降水が考慮されたものとなる。
【0133】
また、データセットはさらに、原水に流入し得るダムからの放流水のデータ(例えば、当該ダムの放流量)を含んでいてもよい。この例において、ダムからの放流水が浄水場90まで到達するのに要する時間(すなわち、タイムラグ)を予め特定しておく。データセット生成装置は、浄水場90に原水が流入した時刻から、タイムラグだけ過去に遡った時点の放流量を特定し、10時30分に流入した原水の水質データに含める。
【0134】
また、水質データはさらに、原水のアルカリ度、凝集剤注入前の原水に対して実際に注
入された次亜塩素酸ナトリウムの注入率、凝集剤注入前の原水に対して実際に注入された苛性ソーダの注入率などを含んでいてもよい。
【0135】
実施形態1において、モデル生成装置1と推定装置2とを一体の装置として構成してもよい。同様に、実施形態2において、モデル生成装置1aと推定装置2aとは一体であってもよく、実施形態3において、モデル生成装置1bと推定装置2bとは一体であってもよい。
【0136】
実施形態1~3において、推定装置は、モデル生成装置が生成したクラスタ51、濁水用回帰モデル52および学習モデルをモデル生成装置から受信し、自装置のストレージに格納してもよい。
【0137】
モデル生成装置1、1aおよび1bは、クラスタ51の生成において、データセットの集合に、沈澱池出口濁度が閾値T1を超えるデータセットを含めてもよい。
【0138】
また、モデル生成装置1aおよび1bは、クラスタ51の生成において、データセットの集合に、注入前濁度が閾値T2以上のデータセットを含めてもよい。
【0139】
実施形態3において、水質データは注入前濁度以外のデータを含んでいてもよい。例えば、水質データは、実施形態1および上述の変形例に記載したpH、水温、沈澱池出口濁度、降水データ、ダムからの放流水の情報、原水のアルカリ度、次亜塩素酸ナトリウムの注入率、苛性ソーダの注入率の少なくとも何れかを含んでいてもよい。
【0140】
推定装置2bは、発生情報の取得を、現原水に対して注入される凝集剤の薬注率を推定する処理のトリガとしてもよい。具体的には、推定装置2bは、現原水の水質データが入力された場合、発生情報を取得しているか否かを判定する。発生情報を取得している場合、推定装置2bは、濁水用回帰モデルを用いて薬注率を推定する。一方、発生情報を取得していない場合、推定装置2bは、クラスタ51のうち、入力された水質データと重心との距離が最も近いクラスタの回帰モデルを用いて薬注率を推定する。なお、この例の場合、推定装置2bの制御部20bは、水質推定部204を含まなくてもよく、モデル生成装置1bの制御部10bは、学習部103を含まなくてもよい。
【0141】
推定装置2bは、発生情報を取得した旨を、浄水場の作業員へ報知する出力を行なってもよい。これにより、当該作業員は、高濁度の原水が流入することを認識することができる。
【0142】
推定装置2bは、降雨の発生情報を受信した後で、当該発生情報に所定地域での降雨の発生を示す発生情報が含まれるか否かを判定する構成であってもよい。この例の場合、水質推定部204は、例えば、取得した発生情報の各々に含まれる位置データと、ストレージに記憶されている所定地域の位置データとが一致するか否かを判定することにより、所定地域での降雨の発生を示す発生情報が含まれるか否かを判定する。そして、所定地域での降雨の発生を示す発生情報が含まれると判定した場合、水質推定部204は、所定地域の降雨の発生情報を学習モデルへ入力する。
【0143】
〔実施形態4〕
本発明のさらなる別の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0144】
本実施形態に係る薬注率推定システム100cは、クラスタおよび回帰モデルを周期的
に更新するとともに、所定のパラメータの変動に応じて更新周期を変更する。
【0145】
<薬注率推定システム100cの要部構成>
図16は、薬注率推定システム100cの要部構成の一例を示すブロック図である。以下、薬注率推定システム100cの各部材については、薬注率推定システム100の同名の部材との相違点のみを説明する。
【0146】
薬注率推定システム100cは、モデル生成装置1c、推定装置2cおよび記憶装置5cを含む点が、薬注率推定システム100と異なる。
【0147】
(モデル生成装置1cの要部構成)
モデル生成装置1cの制御部10cは、クラスタリング部101、回帰モデル生成部102、更新部104、パラメータ判定部105(判定部)および更新周期切替部106を含んでいる。
【0148】
更新部104は、クラスタおよび回帰モデルの更新処理を周期的に実行する。以下では、周期の長さを「更新周期」とも称する。例えば、更新部104は、クラスタリングの実行時に起動されたタイマ(不図示)が計測している経過時間が所定値に到達したとき、更新処理を実行する。更新周期の標準値(所定長の周期)は、一例として1か月である。
【0149】
更新部104は、更新処理として、データセット53を記憶装置5cから読み出し、更新指示とともにクラスタリング部101へ出力する。データセット53は、データセットの集合であり、前回のクラスタ生成時以降に生成されたデータセットを含む。
【0150】
これにより、更新部104は、クラスタリング部101に、前回のクラスタ生成時以降に生成されたデータセットをクラスタリングの対象に追加してクラスタを再生成させる。クラスタリング部101は、再生成したクラスタを回帰モデル生成部102へ出力する。
【0151】
これにより、回帰モデル生成部102は、再生成されたクラスタ毎に回帰モデルを再生成する。換言すれば、更新部104は、更新指示により、回帰モデル生成部102に、再生成されたクラスタ毎に回帰モデルを再生成させる。
【0152】
また、更新部104は、更新周期切替部106から更新周期を切り替えた旨の通知を受けると、更新処理を実行する。
【0153】
なお、更新部104が更新処理を実行する時刻は、更新周期によらず一定であることが望ましい。当該時刻は例えば0時であってもよい。この例において、更新部104は、0時以外に更新周期切替部106から通知を受けた場合、0時になるまで待機する。
【0154】
パラメータ判定部105は、所定のパラメータが、当該パラメータが取り得る値の全範囲を複数に分割して得られる各々の数値範囲のうち、いずれに含まれているかを特定し、当該パラメータが含まれる数値範囲が前回の特定時から切り替わっているか否かを判定する。なお、以降、当該パラメータを「更新判定パラメータ」と表記する。
【0155】
本実施形態に係る更新判定パラメータは、薬注率、注入前濁度および取水地降水量の少なくともいずれかである。取水地降水量は、流入水の取水地における降水量である。薬注率、注入前濁度および取水地降水量は注入前濁度に関連するパラメータであり、具体的には、注入前濁度の増減を直接的または間接的に示すパラメータである。なお、本実施形態では、薬注率は推定装置2cが推定した推定値であり、注入前濁度および取水地降水量は、実際の値であるとする。パラメータ判定部105は、推定装置2cから薬注率を受信し
、入力装置3から、作業者などが入力した注入前濁度および取水地降水量を受信する。なお、パラメータ判定部105は、取水地降水量を薬注率推定システム100c外の装置、例えば、実施形態3で説明した気象情報サーバ200から受信してもよい。
【0156】
図17は、各更新判定パラメータの数値範囲と、更新周期との対応関係を示す図である。テーブル81は、薬注率の数値範囲と更新周期との対応関係を示す。テーブル81において、薬注率の数値範囲「25mg/L未満」と、更新周期「1か月」とが対応している。また、薬注率の数値範囲「25mg/L以上50mg/L未満」と、更新周期「2週間」とが対応している。また、薬注率の数値範囲「50mg/L以上75mg/L未満」と、更新周期「1週間」とが対応している。また、薬注率の数値範囲「75mg/L以上」と、更新周期「1日」とが対応している。
【0157】
テーブル82は、注入前濁度の数値範囲と更新周期との対応関係を示す。テーブル82において、注入前濁度の数値範囲「50度未満」と、更新周期「1か月」とが対応している。また、注入前濁度の数値範囲「50度以上100度未満」と、更新周期「2週間」とが対応している。また、注入前濁度の数値範囲「100度以上150度未満」と、更新周期「1週間」とが対応している。また、注入前濁度の数値範囲「150度以上」と、更新周期「1日」とが対応している。
【0158】
テーブル83は、取水地降水量の数値範囲と更新周期との対応関係を示す。テーブル83において、取水地降水量の数値範囲「5mm/h未満」と、更新周期「1か月」とが対応している。また、取水地降水量の数値範囲「5mm/h以上10mm/h未満」と、更新周期「2週間」とが対応している。また、取水地降水量の数値範囲「10mm/h以上15mm/h未満」と、更新周期「1週間」とが対応している。また、取水地降水量の数値範囲「15mm/h以上」と、更新周期「1日」とが対応している。
【0159】
なお、
図17に示す数値範囲と更新周期との対応関係は一例であり、この対応関係を
図17に示す例に限定する意図はない。
【0160】
パラメータ判定部105は、これら更新判定パラメータを受信したとき、当該更新判定パラメータが属する数値範囲が、注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わっているか否かを判定する。具体的には、パラメータ判定部105は、受信した更新判定パラメータが含まれる数値範囲を特定する。そして、特定した数値範囲が、前回受信した更新判定パラメータが含まれていた数値範囲と同一であるか否かを判定する。同一である場合、パラメータ判定部105は処理を終了する。同一でない場合、パラメータ判定部105は、今回受信した更新判定パラメータが、前回受信した更新判定パラメータから増加しているか、または減少しているかを判定する。増加している場合、パラメータ判定部105は、特定した数値範囲に対応付けられている更新周期を示す情報を、更新周期切替部106へ出力する。減少している場合、パラメータ判定部105は処理を終了する。
【0161】
また、パラメータ判定部105は、標準値の更新周期毎に、更新パラメータが属する数値範囲が、注入前濁度の減少を示す数値範囲に切り替わったか否かを判定する。具体的には、パラメータ判定部105は、更新周期が標準値(本実施形態では1か月)でない場合、クラスタリングの実行時に起動されたタイマ(不図示)が計測している経過時間を監視する。そして、当該経過時間が標準値に到達したとき、パラメータ判定部105は、更新判定パラメータが含まれる数値範囲を特定する。特定した数値範囲が、前回特定した数値範囲と同一でなく、かつ、更新判定パラメータが減少している場合、パラメータ判定部105は、特定した数値範囲に対応付けられている更新周期を示す情報を、更新周期切替部106へ出力する。以降、この処理を「定期判定」と表記する。
【0162】
更新周期切替部106は、パラメータ判定部にて数値範囲の切り替わりが判定されたとき、クラスタおよび回帰モデルの更新周期を、切替後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替える。具体的には、更新周期切替部106は、パラメータ判定部105から更新周期を示す情報を取得したとき、現在の更新周期を、当該情報が示す更新周期に切り替える。更新周期切替部106は、更新周期を切り替えるとその旨を更新部104へ通知する。これにより更新処理が実行される。
【0163】
(推定装置2cの要部構成)
図16に戻り説明する。推定装置2cの制御部20cは、クラスタ特定部201および薬注率推定部202cを含んでいる。薬注率推定部202cは、薬注率の推定値、すなわち、クラスタ特定部201が特定したクラスタの回帰モデルから取得した薬注率を、モデル生成装置1cのパラメータ判定部105へ送信する。これにより、パラメータ判定部105は、上述したとおり薬注率の推定値を受信する。
【0164】
<更新周期の切替処理の具体例>
図18は、制御部10cが実行する、クラスタおよび回帰モデルの更新周期の切替処理の具体例を示す図である。なお、
図18では、当該切替処理をわかりやすく説明するため、更新判定パラメータとして薬注率の推定値のみを記載している。
【0165】
タイミングt1以前において、薬注率の推定値は25mg/L未満であるとする。つまり、タイミングt1以前において、クラスタおよび回帰モデルの更新周期は、標準値の1か月(
図18では「1M」と表記)である。また、タイミングt1において、前回の更新から1か月が経過し、更新部104が更新処理を実行したものとする。
【0166】
タイミングt1から1か月経過する間に、薬注率の推定値は25mg/L以上となっていないため、この期間において切替処理は実行されない。タイミングt1から1か月後のタイミングt2において、更新部104は更新処理を実行する。
【0167】
タイミングt3において、薬注率の推定値が25mg/L以上50mg/L未満となっている。パラメータ判定部105は、更新周期として「2週間」を特定し、更新周期切替部106へ出力する。更新周期切替部106は、更新周期を2週間(
図18では「2W」と表記)に設定する。また、更新周期切替部106は、更新周期を切り替えた旨を更新部104へ通知する。これにより、更新部104が更新処理を実行する。
【0168】
タイミングt4は、タイミングt3から2週間が経過する前のタイミングである。タイミングt4において、薬注率の推定値が50mg/L以上75mg/L未満となっている。パラメータ判定部105は、更新周期として「1週間」を特定し、更新周期切替部106へ出力する。更新周期切替部106は、更新周期を1週間(
図18では「1W」と表記)に設定する。これにより、タイミングt3の時点で設定された2週間の更新周期を示す矢印71において、実線部分と点線部分とのうち、実線部分のみ(つまりt3からt4まで)が、実際に更新周期が2週間に設定されていた期間となる。また、更新周期切替部106は、更新周期を切り替えた旨を更新部104へ通知する。これにより、更新部104が更新処理を実行する。
【0169】
タイミングt5は、タイミングt2から1か月が経過するタイミング、すなわち定期判定のタイミングである。
図18の例において、タイミングt5における更新周期は標準値の1か月ではないため、パラメータ判定部105は、タイミングt5における薬注率の推定値が含まれる数値範囲を特定する。当該数値範囲は50mg/L以上75mg/L未満であり、タイミングt4で特定した数値範囲と同一であるため、パラメータ判定部105は、更新周期の切り替え処理を実行せず、更新周期は1週間が維持される。
【0170】
タイミングt6~t9は、前回の更新処理から、設定された更新周期である1週間が経過するタイミングである。タイミングt6~t9において、更新部104は更新処理を実行する。
【0171】
タイミングt10は、タイミングt5から1か月が経過するタイミング、すなわち定期判定のタイミングである。
図18の例において、タイミングt10における更新周期は標準値の1か月ではないため、パラメータ判定部105は、タイミングt10における薬注率の推定値が含まれる数値範囲を特定する。当該数値範囲は25mg/L以上50mg/L未満であり、タイミングt4で特定した数値範囲と同一でなく、かつ、薬注率の推定値が減少している。このため、パラメータ判定部105は、数値範囲「25mg/L以上50mg/L未満」に対応する更新周期「2週間」を更新周期切替部106へ出力する。更新周期切替部106は、更新周期を2週間に設定する。また、更新周期切替部106は、更新周期を切り替えた旨を更新部104へ通知する。これにより、更新部104が更新処理を実行する。
【0172】
タイミングt11およびt12は、前回の更新処理から、設定された更新周期である2週間が経過するタイミングである。タイミングt11およびt12において、更新部104は更新処理を実行する。
【0173】
タイミングt13は、タイミングt10から1か月が経過するタイミング、すなわち定期判定のタイミングである。
図18の例において、タイミングt13における更新周期は標準値の1か月ではないため、パラメータ判定部105は、タイミングt13における薬注率の推定値が含まれる数値範囲を特定する。当該数値範囲は25mg/L未満であり、タイミングt10で特定した数値範囲と同一でなく、かつ、薬注率の推定値が減少している。このため、パラメータ判定部105は、数値範囲「25mg/L未満」に対応する更新周期「1か月」を更新周期切替部106へ出力する。更新周期切替部106は、更新周期を1か月に設定する。また、更新周期切替部106は、更新周期を切り替えた旨を更新部104へ通知する。これにより、更新部104が更新処理を実行する。
【0174】
タイミングt14は、タイミングt13から1か月が経過するタイミング、すなわち定期判定のタイミングである。
図18の例において、タイミングt14における更新周期は標準値の1か月であるため、パラメータ判定部105は、タイミングt14において、薬注率の推定値が含まれる数値範囲を特定しない。また、タイミングt14は、前回の更新処理から、設定された更新周期である1か月が経過するタイミングである。このため、タイミングt14において更新部104は更新処理を実行する。
【0175】
なお、パラメータ判定部105および更新周期切替部106は、更新判定パラメータである注入前濁度および取水地降水量についてもここで説明した処理と同様の処理を実行する。つまり、本実施形態に係るモデル生成装置1cは、薬注率、注入前濁度および取水地降水量のうち、いずれか1つが属する数値範囲が切り替わった場合、更新周期を切り替える。なお、複数の更新判定パラメータにおいて、切り替え後に属する数値範囲に対応する更新周期がそれぞれ異なる場合、パラメータ判定部105は、最も短い更新周期を更新周期切替部106へ出力すればよい。
【0176】
<切替処理の流れ>
図19は、切替処理の流れの一例を示すフローチャートである。当該フローチャートにおいて、ステップS61の時点における更新周期は標準値(本実施形態では1か月)であるとする。
【0177】
まず、更新部104は、更新周期が到来したか(更新タイミングとなったか)否かを判定する(S61)。更新タイミングとなったと判定した場合(S61でYES)、更新部104は更新処理を実行する(S62)。更新タイミングとなっていないと判定した場合(S61でNO)、切替処理はステップS63へ進む。
【0178】
ここで、ステップS62の更新処理の流れについて説明する。
図20は、更新処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0179】
更新部104は、データセットの集合、すなわちデータセット53を記憶装置5cから読み出す(S71)。そして、更新部104は、データセット53をクラスタリング部101へ出力する。
【0180】
クラスタリング部101は、集合(データセット53)をクラスタリングし、複数のクラスタを再生成する(S72)。そして、クラスタリング部101は、クラスタリングの結果を回帰モデル生成部102へ出力する。
【0181】
回帰モデル生成部102は、クラスタ毎に回帰モデルを再生成する(S73)。これにより、複数の回帰モデルを含むクラスタ51が再生成される。回帰モデル生成部102はクラスタ51を記憶装置5cに格納する。以上で、更新処理は終了し、切替処理に戻る。
【0182】
再び
図19を参照し、切替処理の続きを説明する。パラメータ判定部105は、受信した更新判定パラメータについて、属する数値範囲が正の方向に切り替わったか否かを判定する(S63)。ここで、「正の方向に切り替わる」とは、今回受信した更新判定パラメータが属する(含まれる)数値範囲が、前回受信した更新判定パラメータが属する数値範囲と同一でなく、かつ、更新判定パラメータの値が増加していることを指す。
【0183】
正の方向に切り替わっていると判定した場合(S63でYES)、更新周期切替部106は、更新周期を、更新判定パラメータが属する数値範囲に応じて、標準値より短い周期に設定する(S68)。具体的には、パラメータ判定部105は、今回受信した更新判定パラメータが属する数値範囲に対応する更新周期を示す情報を、更新周期切替部106へ出力する。本実施形態の例では、当該情報が示す更新周期は、標準値である1か月より短い周期である2週間、1週間、1日のいずれかであって、かつ、現在の周期より短い周期である。更新周期切替部106は、現在の更新周期を、取得した情報が示す更新周期に切り替える。また、更新周期切替部106は、更新周期を切り替えた旨を更新部104へ送信する。これにより、ステップS62の更新処理が実行される。
【0184】
正の方向に切り替わっていないと判定した場合(S63でNO)、パラメータ判定部105は、定期判定のタイミングとなったか否かを判定する(S64)。定期判定のタイミングとなったと判定した場合(S64でYES)、パラメータ判定部105は、現在の更新周期が標準値であるか否かを判定する(S65)。現在の更新周期が標準値でないと判定した場合(S65でNO)、パラメータ判定部105は、更新判定パラメータが属する数値範囲を特定する(S66)。具体的には、パラメータ判定部105は、定期判定のタイミングにおける更新判定パラメータを含む数値範囲を特定する。
【0185】
続いて、パラメータ判定部105は、特定した数値範囲が負の方向に切り替わっているか否かを判定する(S67)。ここで、「負の方向に切り替わる」とは、今回受信した更新判定パラメータが属する(含まれる)数値範囲が、前回受信した更新判定パラメータが属する数値範囲と同一でなく、かつ、更新判定パラメータの値が減少していることを指す。
【0186】
負の方向に切り替わっていると判定した場合(S67でYES)、更新周期切替部106は、更新周期を、更新判定パラメータが属する数値範囲に応じて、現在の周期より長い周期に設定する(S69)。具体的には、パラメータ判定部105は、今回受信した更新判定パラメータが属する数値範囲に対応する更新周期を示す情報を、更新周期切替部106へ出力する。本実施形態の例では、当該情報が示す更新周期は、標準値である1か月、2週間、1週間のいずれかである。更新周期切替部106は、現在の更新周期を、取得した情報が示す更新周期に切り替える。また、更新周期切替部106は、更新周期を切り替えた旨を更新部104へ送信する。これにより、ステップS62の更新処理が実行される。
【0187】
負の方向に切り替わっていないと判定した場合(S67でNO)、切替処理はステップS61へ戻る。また、ステップS64において定期判定のタイミングとなっていないと判定した場合(S64でNO)、および、ステップS65において更新周期が標準値であると判定した場合(S65でYES)、切替処理はステップS61へ戻る。
【0188】
<効果>
以上のように、モデル生成装置1cは、所定長の更新周期(本実施形態では1か月)毎に更新処理を実行する更新部104を備える。これにより、モデル生成装置1cは、クラスタおよび回帰モデルを定期的かつ自動的に更新することができるので、時間経過による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0189】
また、モデル生成装置1cは、受信した薬注率、注入前濁度および取水地降水量の少なくともいずれかについて、これらの属する数値範囲が正の方向に切り替わったとき、更新周期を、切り替え後の数値範囲に応じてあらかじめ定められた周期であって、現在の更新周期より短い周期に切り替える更新周期切替部106を備える。
【0190】
薬注率、注入前濁度および取水地降水量の増加は、気象状況の変動(大雨の発生など)を示し、これが原水の水質を変動させる可能性がある。そして、この水質の変動により、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度が低下するおそれがある。上記の構成によれば、薬注率、注入前濁度および取水地降水量が上昇して、属する数値範囲が切り替わったとき、更新周期をより短い周期に切り替えるので、原水の水質変動による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0191】
また、モデル生成装置1cは、標準値の更新周期(本実施形態では1か月)毎に、薬注率、注入前濁度および取水地降水量の少なくともいずれかについて、これらの属する数値範囲が負の方向に切り替わったか否かを判定するパラメータ判定部105を備える。更新周期切替部106は、負の方向に切り替わったと判定されたとき、更新周期を、切り替え後の数値範囲に応じてあらかじめ定められた周期であって、現在の更新周期より長い周期に切り替える。
【0192】
上昇した薬注率、注入前濁度および取水地降水量の低下は、変動した気象状況が元に戻ったこと、すなわち、原水の水質の変動が小さくなったことを示す。上記の構成によれば、標準値の更新周期毎に行われる判定において、属する数値範囲が切り替わったと判定されたとき、更新周期をより長い周期に切り替えるので、クラスタおよび回帰モデルの更新による処理負荷を低減させることができる。
【0193】
また、薬注率、注入前濁度および取水地降水量の属する数値範囲が切り替わったタイミングでなく、定期的なタイミングで更新周期を切り替えるので、高頻度での更新をある程度維持することができる。これにより、原水の水質変動の影響が残っている可能性がある期間において高頻度でクラスタおよび回帰モデルを更新することができる。結果として、
原水の水質変動による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0194】
また、更新部104は、受信した薬注率、注入前濁度および取水地降水量の少なくともいずれかについて、これらの属する数値範囲が切り替わったとき、即時に更新処理を実行する。これにより、原水の水質変動による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を最小限にすることができる。
【0195】
また、パラメータ判定部105は、推定装置2cが推定した薬注率を用いて、薬注率が属する数値範囲が切り替わったか否かを判定する。これにより、凝集剤を原水へ注入する前に、クラスタおよび回帰モデルの更新周期を切り替えることができる。また、凝集剤を原水へ注入する前に、クラスタおよび回帰モデルを更新することができる。
【0196】
〔実施形態4の変形例〕
パラメータ判定部105は、更新判定パラメータが属する数値範囲が負の方向に切り替わったか否かの判定を、更新判定パラメータを受信したタイミングで行ってもよい。
【0197】
図21は、この変形例に係る切替処理の流れの一例を示すフローチャートである。なお、当該フローチャートにおいて、
図19に示すフローチャートと同一の処理を実行するステップについては、
図19のフローチャートと同一のステップ番号を付している。また、当該ステップについて、ここでは説明を繰り返さない。
【0198】
受信した更新判定パラメータの属する数値範囲が、正の方向に切り替わっていないと判定した場合(S63でNO)、パラメータ判定部105は、当該数値範囲が負の方向に切り替わっているか否かを判定する(S81)。負の方向に切り替わっていると判定した場合(S81でYES)、切替処理はステップS69に進む。負の方向に切り替わっていないと判定した場合(S81でNO)、切替処理はステップS61に戻る。
【0199】
更新周期切替部106は、更新周期をより短い周期に切り替えた場合のみ、更新部104へ通知を送信してもよい。換言すれば、更新部104は、更新周期がより短い周期に切り替わった場合のみ、即時の更新処理を実行してもよい。
【0200】
実施形態4では、パラメータ判定部105は、薬注率の推定値を受信して、当該推定値が属する数値範囲が切り替わったか否かを判定していた。これに対し、パラメータ判定部105は、薬注率の実際の値を受信して、当該値が属する数値範囲が切り替わったか否かを判定してもよい。この例において、パラメータ判定部105は、入力装置3から当該値を受信してもよい。換言すれば、入力装置3は、作業者などによる薬注率の実際の値の入力操作を受け付け、当該入力操作が示す値をモデル生成装置1cへ送信する。
【0201】
実施形態4では、パラメータ判定部105は、注入前濁度および取水地降水量の実際の値を受信して、当該値が属する数値範囲が切り替わったか否かを判定していた。これに対し、パラメータ判定部105は、注入前濁度および取水地降水量の推定値を受信して、当該値が属する数値範囲が切り替わったか否かを判定してもよい。
【0202】
この例において、モデル生成装置1cは、実施形態3で説明した学習部103を備える。また、推定装置2cは、実施形態3で説明した水質推定部204を備える。パラメータ判定部105は、水質推定部204が推定した注入前濁度を受信し、当該注入前濁度が属する数値範囲が切り替わったか否かを判定する。
【0203】
また、この例において、パラメータ判定部105は、例えば気象情報サーバ200から
、取水地降水量の推定値(換言すれば、取水地の予想降水量)を受信し、当該推定値が属する数値範囲が切り替わったか否かを判定する。
【0204】
更新判定パラメータは、薬注率、注入前濁度および取水地降水量に限定されない。例えば、更新判定パラメータは、取水地の上流にあるダムの放流量を含んでいてもよい。
【0205】
実施形態4では、モデル生成装置1cは、更新判定パラメータのいずれかについて、属する数値範囲が切り替わった場合、更新周期を切り替える構成であった。これに対し、モデル生成装置1cは、すべての更新判定パラメータが切り替わった場合に更新周期を切り替える構成であってもよい。この例において、モデル生成装置1cは、すべての更新判定パラメータが同一の更新周期に対応する数値範囲に属したとき、当該更新周期に切り替える。
【0206】
更新部104は、データセット53として、過去のデータセットのすべてを用いなくてもよい。更新部104は、例えば、現時点から所定期間前までのデータセットを読み出し、クラスタリング部101へ出力してもよい。換言すれば、更新部104は、Moving Window手法を用いてクラスタおよび回帰モデルを更新してもよい。
【0207】
また例えば、更新部104は、更新周期切替部106から通知を受けた場合、当該通知のトリガとなった更新判定パラメータ、すなわち、直近に受信した更新判定パラメータと類似する水質データを含むデータセットを特定し、当該データセットをクラスタリング部101へ出力してもよい。換言すれば、更新部104は、Just in Time手法を用いてクラスタおよび回帰モデルを更新してもよい。
【0208】
更新部104は、実施形態2で説明した濁水用回帰モデル52を実施形態4で説明した方法で更新してもよい。
【0209】
実施形態4に係る薬注率推定システム100cにおいて、実施形態1~3の各種変形例を適用してもよい。
【0210】
〔ソフトウェアによる実現例〕
モデル生成装置1、1a、1bおよび1c、並びに、推定装置2、2a、2bおよび2cの制御ブロック(特に制御部10、10a、10bおよび10c、並びに、制御部20、20a、20bおよび20c)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0211】
後者の場合、制御部10、10a、10bおよび10c、並びに、制御部20、20a、20bおよび20cは、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば少なくとも1つのプロセッサ(制御装置)を備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な少なくとも1つの記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例え
ば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る
。
【0212】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【0213】
〔付記事項〕
本発明は別態様として以下の通り表現することもできる。すなわち、本発明の別態様に係るモデル生成装置は、浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルを生成するモデル生成装置であって、凝集剤を注入する前の前記流入水の濁度である注入前濁度を含む水質データと、前記流入水へ注入した凝集剤の注入率とを含むデータセットの集合をクラスタリングして複数のクラスタを生成するクラスタリング部と、前記生成された複数のクラスタ毎に、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルを生成するモデル生成部と、を備える。
【0214】
前記の構成によれば、データセットをクラスタリングし、各クラスタにおける回帰モデルを生成するので、注入率を推定するための回帰モデルを複数生成することができる。これにより、水質に応じた注入率の推定精度を向上させることができる。
【0215】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記クラスタリング部は、沈澱池出口における前記流入水の濁度が所定の閾値以下となる前記データセットのみをクラスタリングの対象としてもよい。
【0216】
前記の構成によれば、沈澱池出口における水の濁度が所定の閾値以下であるデータセットのみから生成された回帰モデルを注入率の推定に用いることができる。これにより、沈澱池出口における水の濁度が所定の閾値以下になるであろう凝集剤の注入率を推定することができる。そして、当該注入率で凝集剤を注入することで、濁度の高い水が流出する可能性が低減される。その結果、後段の急速ろ過池のろ過水の濁度の低下、当該急速ろ過池における逆洗頻度の低減、流出した水を飲用することによるクリプトスポリジウムなどへの感染リスクの低下などを実現することができる。
【0217】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記データセットは、前記流入水の水質に影響を及ぼす降水の降水量を含む降水データを含んでいてもよい。
【0218】
前記の構成によれば、前記降水データを含むデータセットから回帰モデルを生成するので、流入水の水質に影響を及ぼす降水を考慮に入れた、凝集剤の注入率の推定を行うことができる。
【0219】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記降水データに含まれる前記降水量は、前記流入水へ前記降水が流入する地域の降水量であって、当該地域から前記浄水場へ前記流入水が到達するのに要する時間だけ、前記流入水の流入時から過去に遡った時点の降水量であることが好ましい。
【0220】
前記の構成によれば、降水を含むであろう流入水の水質データと、当該降水が各地域において発生した時点での降水量を含む降水データとがデータセットに含まれるので、各地域から浄水場へ水が到達する時間のタイムラグを考慮した高精度な推定を実現することができる。
【0221】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記モデル生成部が生成する前記回帰モデルは、非線形回帰モデルであってもよい。
【0222】
注入前濁度を含む水質データと凝集剤の注入率との相関関係は非線形であることが、出願人の検証により見出された。このため、前記の構成によれば、線形回帰モデルの場合と比べて、注入率の推定精度を向上させることができる。
【0223】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、所定長の周期毎に更新処理を実行する更新部をさらに備え、前記更新処理は、前記クラスタリング部に、前回の前記クラスタ生成時以降に生成された前記データセットをクラスタリングの対象に追加して前記クラスタを再生成させるとともに、前記モデル生成部に、前記再生成されたクラスタ毎に前記回帰モデルを再生成させる処理であってもよい。
【0224】
本発明に係る薬注率の推定において、同一のクラスタおよび回帰モデルを使用し続けると、薬注率の推定値と実際の値との乖離が大きくなることが出願人の検証により見出された。これに対し、前記の構成によれば、クラスタおよび回帰モデルを定期的かつ自動的に更新することができるので、時間経過による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0225】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記注入前濁度に関連するパラメータが属する数値範囲が、前記注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わったとき、前記更新処理の周期長を、前記切り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替える更新周期切替部をさらに備えてもよい。
【0226】
注入前濁度に関連するパラメータが、注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わると、薬注率の推定値と実際の値との乖離が大きくなる可能性がある。これに対し、前記の構成によれば、注入前濁度に関連するパラメータが、注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わったとき、更新処理の周期長を切り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替えるので、クラスタおよび回帰モデルの適切な更新によって上記の乖離を抑制することができる。結果として、注入前濁度の増加による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0227】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記更新部は、前記パラメータが属する前記数値範囲が切り替わったとき、即時に前記更新処理を実行してもよい。
【0228】
前記の構成によれば、注入前濁度に関連するパラメータが、注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わったとき、即時に更新処理を実行するので、薬注率の推定値と実際の値との乖離が大きくなる前に、当該乖離を抑制することができる。
【0229】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記所定長の周期毎に、前記パラメータが属する数値範囲が、前記注入前濁度の減少を示す数値範囲に切り替わったか否かを判定する判定部をさらに備え、
前記判定部にて前記切り替わりが判定されたとき、前記更新周期切替部は、前記更新処理の周期長を、前記切り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替えてもよい。
【0230】
注入前濁度に関連するパラメータが、注入前濁度の減少を示す数値範囲に切り替わると、薬注率の推定値と実際の値との乖離が小さくなり、クラスタおよび回帰モデルの更新を高頻度で行う必要性が低くなっていく。前記の構成によれば、注入前濁度に関連するパラメータが、注入前濁度の増加を示す数値範囲に切り替わったとき、更新処理の周期長を切
り替え後の数値範囲に応じて予め定められた長さに切り替えるので、クラスタおよび回帰モデルの適切な更新によって上記の乖離を抑制することができる。
【0231】
また、パラメータが属する数値範囲が切り替わったタイミングではなく、定期的なタイミングで更新処理の周期長を切り替えることとなるので、高頻度での更新をある程度維持することができる。これにより、注入前濁度の増加の影響が残っている可能性がある期間において、高頻度でクラスタおよび回帰モデルを更新することができる。結果として、注入前濁度の増加による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0232】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記パラメータは、前記注入率、前記注入前濁度および前記流入水が取水された地域の降水量の少なくともいずれかであってもよい。
【0233】
これらのパラメータは、いずれも注入前濁度の増減を直接的または間接的に示すパラメータであるので、これらのパラメータが属する数値範囲の切り替わりに基づき更新処理の周期長を切り替えることにより、注入前濁度の増加による、回帰モデルを用いた薬注率の推定精度の低下を抑制することができる。
【0234】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記パラメータとして用いられる前記注入率は、前記回帰モデルを用いて推定された注入率であってもよい。
【0235】
前記の構成によれば、凝集剤を流入水へ注入する前に、クラスタおよび回帰モデルの更新頻度を切り替えることができる。また、パラメータの属する数値範囲が切り替わったタイミングで即時に更新処理を実行する態様においては、凝集剤を流入水へ注入する前に、クラスタおよび回帰モデルを更新することができる。
【0236】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記モデル生成部は、所定の閾値以上の前記注入前濁度を含む前記データセットのみから成る集合を対象として、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする前記回帰モデルである濁水用回帰モデルを生成してもよい。
【0237】
前記の構成によれば、凝集剤注入前の流入水が高濁度の場合に特化した回帰モデルを生成するため、何らかの要因で凝集剤注入前の流入水が高濁度となった場合における注入率の推定精度を向上させることができる。これにより、流入水の濁度の急変時(濁度の急な上昇時)に行う必要があるジャーテストの頻度を抑えることができ、浄水場の職員の負担を軽減することができる。
【0238】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置では、前記モデル生成部が生成する前記濁水用回帰モデルは、線形回帰モデルであることが好ましい。
【0239】
前記の構成によれば、非線形回帰モデルより外挿に強い線形モデルを生成することから、例えばこれまでに経験したことが無いほど高濁度の流入水であっても、注入率をある程度適切に推定することができる。
【0240】
本発明の別態様に係る推定装置は、前記モデル生成装置が生成した前記回帰モデルを用いて、前記浄水場に現在流入している流入水である現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定装置であって、凝集剤を注入する前の前記現流入水の濁度を含む水質データと、前記モデル生成装置が生成した複数の前記クラスタとの距離に基づき、前記クラスタのいずれかを特定するクラスタ特定部と、前記特定されたクラスタの前記回帰モデルを用
いて、前記現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定部と、を備える。
【0241】
前記の構成によれば、現流入水の水質データとの距離に基づいて特定したクラスタの回帰モデルを用いて注入率を推定するので、現流入水の水質データに応じた注入率の推定精度を向上させることができる。
【0242】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置は、前記浄水場に現在流入している流入水である現流入水において、凝集剤を注入する前の濁度が所定の閾値以上である場合、前記モデル生成装置が生成した前記濁水用回帰モデルを用いて前記現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定部、を備える。
【0243】
前記の構成によれば、何らかの要因で凝集剤注入前の流入水が高濁度となった場合における注入率の推定精度を向上させることができる。これにより、流入水が高濁度であるときに行っているジャーテストの頻度を抑えることができ、浄水場の作業者の負担を軽減することができる。
【0244】
また、本発明の別態様に係るモデル生成装置は、前記浄水場へ将来流入する流入水である将来流入水において、凝集剤を注入する前の濁度が所定の閾値以上となることが予測される事象の発生を特定する事象特定部と、前記事象の発生が特定された場合、当該事象に基づき推定された前記将来流入水の前記水質データと、前記モデル生成装置が生成した前記濁水用回帰モデルとを用いて前記将来流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定部と、を備える。
【0245】
前記の構成によれば、流入してくる流入水が高濁度となることが予測された場合、当該流入水への凝集剤の注入率を流入前に推定することができる。また、流入水が高濁度となることを予測することができるので、流入時濁度の監視を強化することが可能となる。
【0246】
また、上記の課題を解決するために、本発明の別態様に係るモデル生成方法は、浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルを生成するモデル生成装置が実行するモデル生成方法であって、凝集剤を注入する前の前記流入水の濁度である注入前濁度を含む水質データと、前記流入水へ注入した凝集剤の注入率とを含む複数のデータセットの集合をクラスタリングして複数のクラスタを生成するクラスタリングステップと、前記生成された複数のクラスタ毎に、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする回帰モデルを生成するモデル生成ステップと、を含む。
【0247】
前記の構成によれば、本発明の別態様に係るモデル生成装置と同様の作用効果を奏する。
【0248】
また、上記の課題を解決するために、本発明の別態様に係る推定方法は、浄水場に流入する流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定するための回帰モデルであって、凝集剤を注入する前の前記流入水の濁度である注入前濁度を含む水質データと、前記流入水へ注入した凝集剤の注入率とを含む複数のデータセットの集合がクラスタリングされた複数のクラスタ毎に生成された、前記水質データを説明変数とし、前記注入率を目的変数とする回帰モデルを用いて、前記浄水場に現在流入している流入水である現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定装置が実行する推定方法であって、凝集剤を注入する前の前記現流入水の濁度を含む水質データと、前記モデル生成方法により生成された複数の前記クラスタとの距離に基づき、前記クラスタのいずれかを特定するクラスタ特定ステップと、前記特定されたクラスタの前記回帰モデルを用いて、前記現流入水へ注入する凝集剤の注入率を推定する推定ステップと、を含む。
【0249】
前記の構成によれば、本発明の別態様に係る推定装置と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0250】
1、1a、1b、1c モデル生成装置
2、2a、2b、2c 推定装置
52 濁水用回帰モデル
101、101a クラスタリング部
102、102a 回帰モデル生成部(モデル生成部)
104 更新部
105 パラメータ判定部(判定部)
106 更新周期切替部
201、201a クラスタ特定部
202、202a、202b、202c 薬注率推定部(推定部)
204 水質推定部(事象特定部)
511 第1クラスタ(クラスタ)
512 第2クラスタ(クラスタ)
513 第3クラスタ(クラスタ)
521 第1回帰モデル(回帰モデル)
522 第2回帰モデル(回帰モデル)
523 第3回帰モデル(回帰モデル)