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特開2024-144558熱電変換素子及びその製造方法並びに熱電変換デバイス
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  • 特開-熱電変換素子及びその製造方法並びに熱電変換デバイス 図1
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  • 特開-熱電変換素子及びその製造方法並びに熱電変換デバイス 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144558
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】熱電変換素子及びその製造方法並びに熱電変換デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/856 20230101AFI20241003BHJP
【FI】
H10N10/856
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024118445
(22)【出願日】2024-07-24
(62)【分割の表示】P 2020001230の分割
【原出願日】2020-01-08
(71)【出願人】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】李 相錫
(72)【発明者】
【氏名】河野 淳一郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 夏実
(72)【発明者】
【氏名】アーメード ツベア
(57)【要約】
【課題】 作製が簡単で長さに制約がない熱電変換素子、これを用いた熱電変換デバイスを提供する。
【解決手段】 ホール濃度が相対的に低い領域であるp型熱電変換部と前記p型熱電変換部と電気的に接続されたホール濃度が相対的高い領域であるp型熱電変換部で構成されるホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子であって、前記p型熱電変換部及びp型熱電交換部は、前記ホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維の一部に導電性被膜を形成した後に通電処理を行い、該ホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維内のホール密度に異方性を付与して形成したものであることを特徴とするホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子である。また、熱電変換素子を自立電源としたセンサデバイス、水質モニタリング装置のセンサノードの自立電源にできる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維の一部に金属ペーストを塗布してホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維に導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と、
導電性被膜を形成したホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維に電流を流してホール密度の異方性を形成する通電工程と、
ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維から導電性被膜を剥離する導電性被膜剥離工程と、
からなるp型熱電変換部と前記p型熱電変換部と電気的に接続されたp型熱電変換部で構成されるホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記ホールドープ化合物が非金属ハロゲン化物であることを特徴とする請求項1に記載のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の製造方法で製造したホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子を自立電源とするセンサデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、熱電変換素子、特にカーボンナノ繊維を用いた熱電変換素子及びその製造方法並びにそれを用いた熱電変換デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換素子は、金属などの電気伝導性の電極を介してp型熱電材料とn型熱電材料とを電気的に接合したpn接合対を形成することにより作製できる。この熱電変換素子は、接合対間に温度差を与えることでゼーベック効果に基づく熱起電力を発生する素子である。熱電変換素子を応用した熱電発電は、熱エネルギーを直接電力に変換することができるため可動部を必要とせず、体温で作動する腕時計や僻地用電源、宇宙用電源に用いられる。
一般的な熱電変換素子では、p型熱電材料及びn型熱電材料は層状であるため高温部と低温部を距離的に離した熱電変換デバイスの作製は難しい。
【0003】
近年、カーボンナノチューブを導電性材料とするドーパントを含むカーボンナノチューブからなる熱電変換材料が提案されている。例えば、
特許文献1には、ドーパントの吸着量を向上させるためカーボンナノチューブ及びドーパントを亜臨界流体中又は超臨界流体中において混錬して分散する熱電変換材料が提案されている。しかし、熱電変換材料は不織布状としたものであって、高温部と低温部を距離的に離した熱電変換デバイスについての開示はない。
【0004】
特許文献2には、導電性高分子、カーボンナノチューブ、及びオニウム塩化合物を含有して、導電率異方性が1.5~10である熱電変換材料が提案されている。オニウム塩化合物の共存下において特定の外部エネルギーを付与すると、オニウム塩化合物が酸を発生して優れたドーパントとして機能するためである。しかし、熱電変換材料は積層体としたものであって、高温部と低温部を距離的に離した熱電変換デバイスについての開示はない。
【0005】
特許文献3には、クロロスルホン酸にカーボンナノチューブを溶解した紡糸ドープから低抵抗率を有するカーボンナノチューブ繊維を湿式紡糸して製造する方法が提案されている。しかし、高温部と低温部を距離的に離した熱電変換材料としての開示はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016-219513号公報
【特許文献2】特開2013-098299号公報
【特許文献3】WO2013-034672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、導電性カーボンナノチューブからなる繊維にホール濃度が相対的に低い領域(以下、「p型熱電変換部」という。)とホール濃度が相対的高い領域(以下、「p型熱電変換部」という。)からなる接合対(以下、「pp接合対」という。)を形成することにより、作製が簡単で長さに制約がない熱電変換素子、これを用いた熱電変換デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の課題は、以下の態様により解決できる。具体的には、
【0009】
(態様1) p型熱電変換部と前記p型熱電変換部と電気的に接続されたp型熱電変換部で構成されるホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子であって、前記p型熱電変換部及びp型熱電交換部は、前記ホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維の一部に導電性被膜を形成した後に通電処理を行い、該ホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維内のホール密度に異方性を付与して形成したものであることを特徴とするホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子である。
ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維の一部に金属ペーストを塗布して導電性被膜を形成し、通電処理を施すことにより、導電性被膜へのホール(キャリア)の移動を促して、ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維内のホール密度に異方性を付与する。導電性被膜を剥離することで、ホール密度の低いp型熱電変換部とホール密度の高いp型熱電変換部によりpp接合対が形成される。これにより、長さの制約のない導電性カーボンナノチューブ繊維を、p型熱電変換部とp型熱電変換部が電気的に接続されたpp接合対を簡単かつ任意な長さで製作することができる。
【0010】
(態様2) 前記p型熱電変換部と前記p型熱電変換部で構成されるpp接合対を複数有する(態様1)に記載のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子である。
ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維内に導電性被膜を複数個所形成した後通電処理を行うことで、p型熱電変換部とp型熱電変換部が電気的に接続されたpp接合対を複数有する熱電変換素子を作製することができるからである。
【0011】
(態様3) 前記ホールドープ化合物が非金属ハロゲン化物であることを特徴とする(態様1)または(態様2)のいずれかに記載のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子である。
カーボンナノチューブ繊維紡糸ドープの組成物として用いることからカーボンナノチューブとのと相溶性が高いこと、金属ペーストによる導電性被膜形成後の通電処理により導電性カーボンナノチューブ繊維内のホール密度の異方性を付与することからホールの移動性が高いこと、などの観点から非金属ハロゲン化物が好ましいからである。
【0012】
(態様4) (態様1)から(態様3)のいずれかに記載のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子を自立電源とするセンサデバイスである。
熱電変換素子を自立電源とする計測装置のセンサデバイスとすることができるからである。
【0013】
(態様5) ホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維の一部に金属ペーストを塗布してホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維に導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と
導電性被膜を形成したホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維に電流を流してホール密度の異方性を形成する通電工程と、
ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維から導電性被膜を剥離する導電性被膜剥離工程と
からなるp型熱電変換部と前記p型熱電変換部と電気的に接続されたp型熱電変換部で構成されるホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子の製造方法である。
ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維の一部に金属ペーストを塗布して導電性被膜を形成し、通電処理を施すことにより、導電性被膜へのホール(キャリア)の移動を促して、ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維内のホール密度に異方性を付与でき、導電性被膜を剥離することで、ホール密度の低いp型熱電変換部とホール密度の高いp型熱電変換部によりpp接合対が形成される。これにより、長さの制約のない導電性カーボンナノチューブ繊維を、p型熱電変換部とp型熱電変換部が電気的に接続されたpp接合対を簡単かつ任意な長さで製作することができる。
【0014】
(態様6) 前記ホールドープ化合物が非金属ハロゲン化物であることを特徴とする(態様5)に記載のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子の製造方法である。
カーボンナノチューブ繊維紡糸ドープの組成物として用いることからカーボンナノチューブとのと相溶性が高いこと、金属ペーストによる導電性被膜形成後の通電処理により導電性カーボンナノチューブ繊維内のホール密度の異方性を付与することからホールの移動性が高いこと、などの観点から非金属ハロゲン化物が好ましいからである。
【発明の効果】
【0015】
本願発明のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子は、導電性カーボンナノチューブ繊維を用いることで、長さに制約のない熱電変換素子とすることができる。これにより、温度差を広くとることができて発電効率が高くなる。
また、p型熱電変換部とp型熱電変換部をそれぞれ個別に製作してpp接合対を形成する必要がなく、金属ペーストによる導電性被膜の被覆、通電と導電性被膜剥離により、p型熱電変換部とp型熱電変換部を一体として同時に製作できる。
さらに、導電性被膜の長さを適宜設定することにより、複数のpp接合対を製作できるので、熱電変換素子の設計範囲が広がる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本願発明のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子の製造プロセスの1態様を示す模式図である。
図2】本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子のpn接合対を複数有する熱電変換素子の1態様を示す模式図である。
図3】本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子を自立電源とするセンサデバイスを示した模式図である。
図4】本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子を自立電源とするセンサノードを備えた浮上式水質モニタリング装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願発明の熱電変換素子は、ホール濃度が相対的に低い領域であるp型熱電変換部と前記p型熱電変換部と電気的に接続されたホール濃度が相対的高い領域であるp型熱電変換部で構成されるホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維で構成される。ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維の一部に金属ペーストを塗布して導電性被膜を形成後、通電処理を行い、次いで、導電性被膜を剥離することでホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維内のホール(キャリア)密度に異方性を付与して、p型熱電変換部とp型熱電変換部を電気的に接合したpp接合対を設けた熱電変換素子である。異なる素材でpn接合対を形成する従来の熱電変換素子とは異なり、pp接合対を簡単に形成することができる。
【0018】
(1)カーボンナノチューブ繊維
本願発明のカーボンナノチューブ繊維は、カーボンナノチューブを含む紡糸用ドープを湿式又は乾式紡糸法により繊維としたものである。カーボンナノチューブは、少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも75重量%、最も好ましくは95重量%含む。
本願発明で使用されるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、二層カーボンナノチューブ(DWNT)、多層カーボンナノチューブ(MWNT)、それらの混合物を好適に選択することができる。また、平均外径に対する平均長さの比は、少なくとも10倍、より好ましくは100倍、最も好ましくは1000倍である。開端カーボンナノチューブであっても、閉端カーボンナノチューブであってもよい。さらに、ラマンスペクトル測定によりG/D比で定義される高品質を有していることが好ましい。G/D比は紡糸用ドープを調製するために必要なカーボンナノチューブの溶解に必要な条件だからである。G/D比は、少なくとも4以上が好ましく、より好ましくは10以上である。
【0019】
カーボンナノチューブ繊維の紡糸用ドープは、好適な溶媒、好ましくは超酸、最も好ましくはクロロスルホン酸にカーボンナノチューブを溶解させることにより調製される。紡糸用ドープには、高分子材料、凝固剤、界面活性剤、塩、ナノ粒子、染料、または導電性を向上させるホールドープ化合物を好適に含むことができる。カーボンナノチューブは、溶媒に溶解される前に、精製および/または乾燥されることが好ましい。
【0020】
(2)ホールドープ化合物
ホールドープ化合物は、カーボンナノチューブから電子を引き抜く(ホールドープ)ことでカーボンナノチューブの導電性を向上させる化合物である。ホールドープ化合物は、非金属非ハロゲン化物(例、硫酸、硝酸、ニトロメタン等)、非金属ハロゲン化物(例、クロロスルホン酸、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、N-フェニルビストリフルオロメタンスルホニルイミド等)、金属非ハロゲン化物(例、硝酸銀、硝酸ニッケル等)、及び金属ハロゲン化物(例、塩化金、塩化白金、塩化イリジウム等)の4種類がある。
本願発明では、カーボンナノチューブ繊維用ドープ組成物として用いること、金属ペーストによる導電性被膜形成後の通電処理により導電性カーボンナノチューブ繊維内のホール密度の異方性を付与すること、の観点から非金属ハロゲン化物が好ましい。特に、クロロスルホン酸は望ましい。
【0021】
(3)金属ペースト
本願発明の金属ペーストは、ホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維に導電性被膜を形成する役割を担うものである。通電処理によりホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維から導電性被膜へホール(キャリア)を移動することにより、カーボンナノチューブ繊維内のホール密度に異方性を付与して電気的に接続されたpp接合対を簡単に形成する。
本願発明の金属ペーストとしては、バインダー樹脂および/または金属ナノ粒子(例、銀、金、白金、パラジウム、ロジウム、これらの混合物等)を有機溶剤に分散したものを好適に用いることができる。金属ペーストとしては、導電性の高い被膜を形成できることから、銀ナノ粒子を含むものを好適に用いることができる。
【0022】
(4)熱電変換素子
本願発明のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子は、ホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維の一部に金属ペーストを塗布してホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維に導電性被膜を形成する導電性被膜形成工程と、導電性被膜を形成したホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維に電流を流してホール密度の異方性を形成する通電工程と、ホールドープ化合物を含むカーボンナノチューブ繊維から導電性被膜を剥離する導電性被膜剥離工程と、により製造される。
図1は、本願発明のホールドープ化合物を含む導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子の製造プロセスの1態様を示す模式図である。以下に説明する。
【0023】
(4-1) 導電性被膜形成工程
図1(a)は、ホールドープ化合物によりカーボンナノチューブ繊維内にホール2が形成された導電性カーボンナノチューブ繊維1である。図1(b)は、導電性カーボンナノチューブ繊維1の一部に金属ペーストを塗布して導電性被膜3を形成する。導電性被膜3は、通電工程でのホール2の移動にムラが生じないように金属ペーストを均一に塗布することが必要である。導電性被膜3の厚みは0.5~1mmが好ましい。
【0024】
(4-2)通電工程
図1(c)は、導電性被膜の構成成分である金属から電子の移動により、導電性被膜で被覆をしない導電性カーボンナノチューブ繊維1の一部のホール2が導電性被膜3側に移動することを示している。この結果、導電性カーボンナノチューブ繊維部分1内のホール2の密度に異方性が生じる。
通電工程での通電条件(電圧、時間)は、導電性カーボンナノチューブ繊維の長さ及び太さによって好適に選択できる。電圧は、1~20V、通電時間は、15~60minが好ましい。
【0025】
(4-3)導電性被膜剥離工程
図1(d)は、通電処理後、導電性被膜を剥離した導電性カーボンナノチューブ繊維1とホール2の密度を模式的示したものである。導電性被膜で被覆をしなかった導電性カーボンナノチューブ繊維1の部分はホール密度が低下してp型熱電変換部6となり、導電性被膜で被覆した導電性カーボンナノチューブ繊維1の部分はホール密度の変化はなく相対的にホール密度が高くなりp型熱電変換部5となる。結果としてp型熱電変換部6とpp型熱電変換部5の界面にpp接合対4が形成され導電性カーボンナノチューブ繊維は熱電変換素子となる。
【0026】
(4-4)熱電変換素子の態様
図2は、本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子のpp接合対を複数有する熱電変換素子の態様を示す模式図である。導電性カーボンナノチューブ繊維1に間欠的に導電性被膜3を形成した後通電処理及び導電性被膜の剥離処理を行うことで、導電性カーボンナノチューブ繊維1に複数のp型熱電変換部6とp型熱電変換部5が形成され、pp接合対を複数有する熱電変換素子とすることができる。これによりp型熱電変換部6とp型熱電変換部5の長さを適宜調節することができる。また、p型熱電変換部6とp型熱電変換部5の配置をずらした熱電変換素子を併置することもできる。
本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子は、導電性カーボンナノチューブ繊維を複数本束ねて用いることできる。
【0027】
(5)熱電変換素子を自立電源とするセンサデバイス
図3は、本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子を自立電源とするセンサデバイスを示した模式図である。導電性カーボンナノチューブ繊維のp型熱電変換部6とp型熱電変換部5の界面であるpp接合対を温熱源、繊維端部を冷熱源とすることで、温度差起電力電源8となる。この電源とセンサ9を接続することで、種々の計測ができるセンサデバイスとなる。
【0028】
(6)熱電変換素子を自立電源とする水質モニタリング装置
図4は、本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子を自立電源とするセンサノードを備えた浮上式水質モニタリング装置を示す模式図である。この浮上式水質モニタリング装置は、池、湖に浮かべて、水面上と水面下との温度差による温度差発電によりセンサノード(無線機能と簡単なデータ処理能力をつけたセンサ)を稼働させることにより、水温変化等の計測データを無線機能により逐次送信する装置である。この浮上式水質モニタリング装置の自立電源に本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子を用いている。本願発明の導電性カーボンナノチューブ繊維からなる熱電変換素子は、p型熱電変換部6とp型熱電変換部5の長さを1m以上とすることができ、水面上と水面下との温度差を大きくでき、起電力も大きくなるからである。
【0029】
図4に示す浮上式水質モニタリング装置は、浮きを兼ねる基板11、センサノード13、センサノード保護用透明キャップ12で構成される水面浮上部10と、p型熱電変換部6とp型熱電変換部5からなる導電性カーボンナノチューブ繊維1を熱電変換素子として、水面上を温熱源、水面下を冷熱源として発電している。
【実施例0030】
次に本願発明の効果を奏する実施態様を実施例として示す。また、その試験結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
<実施例1>
(1)導電性カーボンナノチューブ繊維の製作
平均長さが3μm、G/D比が17、主成分が二層カーボンナノチューブ1gを、10mlのクロロスルホン酸に完全に混合することにより、6重量%のカーボンナノチューブを含む紡糸ドープを調製した。
65μmの直径を有する単一の紡糸孔を有する紡糸口金から紡糸ドープを押出し、押し出されたカーボンナノチューブ繊維は水を含む凝固液中に導入した。カーボンナノチューブ繊維は、押出速度10m/min、巻取速度13m/min、実効延伸倍率1.3倍で巻き取り機に巻き取った。
繊維を水洗して、オーブン乾燥(110℃、120min)し、熱電変換素子用導電性カーボンナノチューブ繊維とした。繊維の物性値は、以下の通りであった。
<物性値>
繊維抵抗率 43±4μΩ・cm
繊維直径 16±0.2μm
引張強さ 0.58±0.07GPa
弾性率 146±27GPa
【0033】
(2)熱電変換素子の製作
熱電変換素子用導電性カーボンナノチューブ繊維1mを100本束ねて熱電変換素子用繊維束とした。熱電変換素子用繊維束1mの半分50cmに銀ペースト(藤倉化成製 ドータイト D362)を隙間なく塗布乾燥して、導電性被膜を形成した。
導電性被膜を形成した熱電変換素子用繊維束に以下の条件で通電処理を行った。次いで、溶剤(トルエン)を用いて、導電性被膜を剥離して、評価用熱電変換素子とした。
<通電条件>
印加電圧 10V
通電時間 60min
【0034】
(3)熱電変換素子の性能評価
評価用熱電変換素子について、ゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置(MMRテクノロジーズ社製 SB-200)を用いて測定した。ゼーベック係数は、6.93μV/Kであった。
【0035】
<実施例2-4>
(1)熱電変換素子の製作
通電時間をそれぞれ50、30、15minとした以外は、実施例1と同様にして、評価用熱電変換素子とした。
【0036】
(2)熱電変換素子の性能評価
評価用熱電変換素子について、ゼーベック係数を、ゼーベック効果測定装置(MMRテクノロジーズ社製 SB-200)を用いて測定した。ゼーベック係数は、それぞれ、5.57μV/K、4.29μV/K、1.82μV/Kであった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明により、長さに制約のない熱電変換素子を簡易に提供できる。
【符号の説明】
【0038】
1 導電性カーボンナノチューブ繊維
2 ホール
3 導電性被膜
4 pp接合対
5 p型熱電変換部
6 p型熱電変換部
7 導体
8 温度差起電力電源
9 センサ
10 水面浮上部
11 浮きを兼ねる基板
12 センサノード保護用透明キャップ
13 センサノード
図1
図2
図3
図4