IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 井関農機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-作業車両 図1A
  • 特開-作業車両 図1B
  • 特開-作業車両 図2
  • 特開-作業車両 図3
  • 特開-作業車両 図4A
  • 特開-作業車両 図4B
  • 特開-作業車両 図5A
  • 特開-作業車両 図5B
  • 特開-作業車両 図6
  • 特開-作業車両 図7
  • 特開-作業車両 図8
  • 特開-作業車両 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144574
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   A01B 69/00 20060101AFI20241003BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01B69/00 301
A01B69/00 303A
A01B69/00 303M
A01B69/00 303V
A01C11/02 331D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024118796
(22)【出願日】2024-07-24
(62)【分割の表示】P 2023019950の分割
【原出願日】2017-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】土居 義典
(72)【発明者】
【氏名】小佐野 光
(72)【発明者】
【氏名】堀田 直岐
(72)【発明者】
【氏名】飛田 秀平
(57)【要約】
【課題】直進走行の制御の開始直後であっても植付始めの乱れがなく、植付精度が低下するおそれのない作業車両を提供すること。
【解決手段】制御部は、対地作業部が対地作業を行える対地作業可能状態で、姿勢検出部)により検出した走行車体の姿勢が、本来の進行方向に沿う姿勢で走行しているときに直進サポートが利用可能であることを報知する報知装置を備え、走行車体の操舵状態を検出する検出部を備え、制御部は、対地作業部が対地作業を行える対地作業可能状態で、検出部が検出した操舵状態が走行車体を直進させる状態ではない場合、直進サポートが利用不可能であることを報知装置により報知することを特徴とする。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部に対地作業部(50)を連結可能であり、操舵装置(110)により操舵される転
舵輪(4)を備えた走行車体(2)と、
前記走行車体(2)の位置情報を取得する位置情報取得装置(120)と、
前記位置情報取得装置(120)が取得した位置情報に基づき前記操舵装置(110)を制御して前記走行車体(2)の自動直進走行を支援する直進サポートを行う制御部(150)と、前記走行車体(2)の進行方向が本来の進行方向である前記直進サポートにおける走行車体(2)の直進走行の基準となる方向からずれているか検出する姿勢検出部(170)を備え、
前記制御部(150)は、前記対地作業部(50)が対地作業を行える対地作業可能状態で、前記姿勢検出部(170)により検出した前記走行車体(2)の姿勢が、本来の進行方向に沿う姿勢で走行しているときに前記直進サポートが利用可能であることを報知する報知装置(200)を備え、
前記走行車体(2)の操舵状態を検出する検出部を備え、
前記制御部(150)は、前記対地作業部(50)が対地作業を行える対地作業可能状態で、前記検出部が検出した操舵状態が前記走行車体(2)を直進させる状態ではない場合、前記直進サポートが利用不可能であることを前記報知装置(200)により報知することを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記走行車体(2)は、
進行方向の目安となる指標部材を備え、前記指標部材を前記報知装置(200)として機能させることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記位置情報取得装置(120)には、走行機体(2)の傾きを検出する慣性航法装置
が備えられ、
前記位置情報取得装置(120)は、フレーム(124)により支持し、
前記位置情報取得装置(120)から延在する配線が前記フレーム(124)に沿って
配索され、
前記フレーム(124)を回動させて前記位置情報取得装置(120)を下方へ移動さ
せることができることを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、苗の植付け等の作業を行う際に用いる苗移植機等の作業車両には、直進走行を支援する自動操舵装置が設けられたものがあり、例えば、操舵装置の操舵輪を制御して直進位置に保持することによって自動直進走行を行うものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-24541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、特許文献1に開示された従来の作業車両は、自動操舵装置による直進走行の制御を開始するときに、操舵装置による舵角が直進状態に見合った所定範囲内にあるか否かを認識することが作業者にとって困難であることは考慮されていない。また、走行車体自体が進行方向に対して真っ直ぐな姿勢になっているか否かを識別するにも、作業者には熟練した技術や長年の経験が必要となる。
【0005】
そのため、従来の作業車両では、自動操舵装置による直進走行の制御を開始した直後の植付け始めが乱れ、植付精度が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、直進走行の制御の開始直後であっても植付始めの乱れがなく、植付精度が低下するおそれのない作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、請求項1に記載の作業車両(1)は、後部に対地作業部(50)を連結可能であり、操舵装置(110)により操舵される転
舵輪(4)を備えた走行車体(2)と、
前記走行車体(2)の位置情報を取得する位置情報取得装置(120)と、
前記位置情報取得装置(120)が取得した位置情報に基づき前記操舵装置(110)を制御して前記走行車体(2)の自動直進走行を支援する直進サポートを行う制御部(150)と、前記走行車体(2)の進行方向が本来の進行方向である前記直進サポートにおける走行車体(2)の直進走行の基準となる方向からずれているか検出する姿勢検出部(170)を備え、
前記制御部(150)は、前記対地作業部(50)が対地作業を行える対地作業可能状態で、前記姿勢検出部(170)により検出した前記走行車体(2)の姿勢が、本来の進行方向に沿う姿勢で走行しているときに前記直進サポートが利用可能であることを報知する報知装置(200)を備え、
前記走行車体(2)の操舵状態を検出する検出部を備え、
前記制御部(150)は、前記対地作業部(50)が対地作業を行える対地作業可能状態で、前記検出部が検出した操舵状態が前記走行車体(2)を直進させる状態ではない場合、前記直進サポートが利用不可能であることを前記報知装置(200)により報知することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の作業車両(1)は、請求項1において、前記走行車体(2)は、進行方向の目安となる指標部材を備え、前記指標部材を前記報知装置(200)として機能させることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の作業車両(1)は、請求項1または2において、前記位置情報取得装置(120)には、走行機体(2)の傾きを検出する慣性航法装置が備えられ、前記位置情報取得装置(120)は、フレーム(124)により支持し、前記位置情報取得装置(120)から延在する配線が前記フレーム(124)に沿って配索され、前記フレーム(124)を回動させて前記位置情報取得装置(120)を下方へ移動させることができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の作業車両によれば、走行車体が旋回した後に姿勢検出部が検出した走行車体の姿勢が真っ直ぐな状態で走行しているときに、利用可能であることを報知装置により報知するため、走行車体が想定された進行方向に対して斜め方向へ進行することが防止される。したがって、作業車両が例えば苗植付機などの場合、作業開始直後の苗の植付始めが乱れてしまうことの防止効果をより高めることができる。
【0011】
請求項2に記載の作業車両によれば、請求項1の発明の効果に加えて、例えばランプなどによる報知を行う場合、作業者は目線を前方から逸らす必要がないため、報知内容を認識し易くなる。
【0012】
請求項3に記載の作業車両によれば、請求項1または2に記載の発明の効果に加えて、輸送する場合や納屋などへ格納する際に、位置情報取得装置の厚みが高さ的な障害となる場合、位置情報取得装置を取り外すことなく、全体車高を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1Aは、実施形態に係る苗移植機の直進サポートの概要を示す説明図である。
図1B図1Bは、実施形態に係る苗移植機の直進サポートにおける報知機能の概要を示す説明図である。
図2図2は、実施形態に係る苗移植機の側面図である。
図3図3は、操縦部の説明図である。
図4A図4Aは、センターマスコットの全体側面図である。
図4B図4Bは、センターマスコットの一部正面図である。
図5A図5Aは、実施形態に係る苗移植機が備えるアンテナフレームの正面視による説明図である。
図5B図5Bは、同上のアンテナフレームの側面視による説明図である。
図6図6は、同上のアンテナフレームの斜視図である。
図7図7は、コントローラを中心とした機能ブロック図である。
図8図8は、直進サポートの一例を示すフローチャートである。
図9図9は、直進サポートにおける基準走行線の登録手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態に係る作業車両を、乗用型の苗移植機として図面を参照しながら詳細に説明する。なお、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、以下では苗移植機全体を指して機体と呼ぶ場合がある。
【0015】
図1Aは、実施形態に係る苗移植機1の直進サポートの概要を示す説明図、図1Bは、実施形態に係る苗移植機の直進サポートにおける報知機能の概要を示す説明図である。
なお、図1Aおよび図1Bでは、いずれも苗移植機1が、例えば枕地などで旋回した直後の状態を示している。本実施形態に係る苗移植機1は、後部に苗植付部50を連結するとともに、前輪4および後輪5を備える走行車体2を備えている。
【0016】
また、直進サポートとは、走行車体2の前輪4の舵角θと、当該走行車体2の位置情報とに基づき、制御部であるコントローラ150(図7参照)がハンドル32の動作を制御することによって、圃場における苗移植機1の自動直進走行を支援する機能を指す。ここでは、舵角θを、前輪4の切れ角としているが、例えば、ハンドル32の操舵角を検出するようにしてもよい。また、苗移植機1の位置情報は、走行車体2に設けられた、位置情報取得装置としてのGNSSユニット120(図7参照)により取得される。
【0017】
また、以下の説明においては、苗移植機1の前後、左右の方向基準は、作業者が着座可能な操縦座席28(図2参照)からみて、走行車体2の走行方向を基準とする。
【0018】
本実施形態に係る苗移植機1は、図1A(a)に示すように、走行車体2が旋回した後に舵角センサ130(図7参照)が検出した舵角θが直進状態を示す値ではない場合、すなわち、進行方向L1となるべき直進方向に対して所定値以上の角度を舵角θが示す場合、直進サポートを禁止するようにしている。ここで、直進方向となるべき進行方向L1は、予め設定登録された基準走行線L2を基準としている。
【0019】
また、苗移植機1は、図1A(b)に示すように、走行車体2が旋回した後に姿勢センサ170(図7参照)により検出した走行車体2の姿勢が、進行方向L1に対して斜め姿勢となっている場合、直進サポートを禁止するようにしている。なお、斜め姿勢であると判断する基準となる舵角θは、例えば5度以上と規定される。すなわち、換言すれば、前輪4の切れ角が逆に5度未満であれば、走行車体2の姿勢は進行方向L1に対して略真っ直ぐであると判断し、直進サポートを継続する。
【0020】
すなわち、機体全体が進行方向に対して真っ直ぐなのか否かを明確に認識するためには、熟練した技術や長年の経験が必要である。しかし、本実施形態では、走行車体2が旋回した後に舵角センサ130や姿勢センサ170が検出した値が、機体の姿勢が直進状態を示さない場合、コントローラ150により自動的に直進サポートが禁止される。したがって、直進制御を開始するとき、例えば、図1A(a),(b)の仮想軌跡L3のように機体が斜めに進み、植付始めが乱れて植付精度が低下するおそれがなく、ひいては、植付姿勢などが乱れを原因とする苗の育成不良の発生も抑制できる。
【0021】
また、図1Bに示すように、本実施形態に係る苗移植機1は、直進サポートの実行可否を含むサポート状況を、例えばセンターマスコット350を発光させるなどして報知することができるため、旋回操作から直進サポートに切り替える際の操作性が向上する。このように、本実施形態に係る苗移植機1は、直進サポートにおける従来からの課題を改善し、自動直進開始時の安全性と作業性を向上させるとともに、作業者が機体の情報を認識しやすくしている。
【0022】
なお、図1Aおよび図1Bにおける前輪4は転舵輪に相当し、苗植付部50が対地作業部に相当する。また、ハンドル32は、操舵装置110の一部を構成する。操舵装置110についての詳細は後述する。
【0023】
図2は、実施形態に係る苗移植機1の側面図、図3は、操縦部の説明図である。図2および図3を参照しながら、苗移植機1の具体的な構成について説明する。図2に示すように、苗移植機1の走行車体2には、苗植付部50が、昇降装置である苗植付部昇降機構40を介して昇降可能に取付けられる。また、走行車体2は、左右一対の前輪4と、左右一対の後輪5とが共に駆動する四輪駆動車であり、ハンドル32が回動されることによって転舵輪となる前輪4が操舵され、圃場や圃場間の道などを走行することが可能である。
【0024】
また、走行車体2は、車体の略中央に配置されたメインフレーム7と、このメインフレーム7の上に搭載された原動機であるエンジン10と、エンジン10の動力を前・後輪4,5と苗植付部50とに伝える動力伝達装置15とを備える。この苗移植機1では、動力源であるエンジン10には、ディーゼル機関やガソリン機関等の内燃機関が用いられ、発生した動力は、走行車体2を前進や後進させるために用いるのみでなく、苗植付部50を駆動させるためにも使用される。
【0025】
また、動力伝達装置15は、エンジン10から伝達される駆動力を変速して出力する、いわゆるHST(Hydro Static Transmission)と云われる油圧式無段変速装置16と、この油圧式無段変速装置16にエンジン10からの動力を伝える動力伝達部17とを有する。
【0026】
また、動力伝達装置15は、ミッションケース18を有する。すなわち、エンジン10からの駆動力は、動力伝達部17を介して油圧式無段変速装置16に伝達され、この油圧式無段変速装置16で変速した動力がミッションケース18に伝達される。そして、ミッションケース18は、後述する高速モードと低速モードとに切り替える副変速機構(不図示)を内設しており、メインフレーム7の前部に取り付けられる。
【0027】
ミッションケース18から前輪4および後輪5に伝達される動力は、一部が左右の前輪ファイナルケース13を介して前輪4に伝達可能であり、残りが左右の後輪ギヤケース22を介して後輪5に伝達可能となっている。左右それぞれの前輪ファイナルケース13は、ミッションケース18の左右それぞれの側方に配設される。左右の前輪4は、車軸131を介して左右の前輪ファイナルケース13に連結されており、かかる前輪ファイナルケース13は、ハンドル32の操舵操作に応じて駆動し、前輪4を転舵させることができる。
【0028】
同様に、左右それぞれの後輪ギヤケース22には、車軸220を介して後輪5が連結されている。一方、ミッションケース18からは、図示しない作業機駆動軸から走行車体2の後部に設けた植付クラッチ500を介して苗植付部50へ動力が伝達される。なお、植付クラッチ500は、後に詳述するコントローラ150に接続された植付クラッチモータ510によって動作する(図7参照)。
【0029】
ところで、エンジン10は、走行車体2の左右方向における略中央で、且つ、作業者が乗車時に足を載せるフロアステップ26よりも上方に突出させた状態で配置される。フロアステップ26は、走行車体2の前部とエンジン10の後部との間に亘って設けられてメインフレーム7上に取り付けられており、その一部が格子状になることにより、靴に付いた泥を圃場に落とすことができる。また、フロアステップ26の後方には、後輪5のフェンダを兼ねたリアステップ27が設けられる。リアステップ27は、後方に向うに従って上方に向う方向に傾斜した傾斜面を有し、エンジン10の左右それぞれの側方に配置される。
【0030】
また、エンジン10は、これらのフロアステップ26とリアステップ27とから上方に突出しており、これらのステップ26,27から突出している部分には、エンジン10を覆うエンジンカバー11が配設される。
【0031】
そして、エンジンカバー11の上部に、作業者が着席する操縦座席28が設置され、かかる操縦座席28の前方で、且つ走行車体2の前側中央部に操縦部30が設けられる。かかる操縦部30は、フロアステップ26の床面から上方に突出した状態で配置されており、フロアステップ26の前部側を左右に分断している。
【0032】
操縦部30には、ステアリングポスト315が設けられ、このステアリングポスト315の上部には、作業者による操舵が可能なハンドル32が設けられる。そして、ステアリングポスト315に設けられた計器パネル33には、図3に示すように、後述する基準点登録スイッチ83をはじめとする各種スイッチやメータなどが設けられる。また、操縦部30には、ステアリングポスト315の下側部分に着脱自在に取付けられた、後述するタブレット端末装置140を備えている。また、操縦部30の所定位置には、例えば、報知装置200の一例となるブザー215が設けられる(図7参照)。
【0033】
さらに、操縦部30には、ステアリングポスト315の近傍に主変速レバー81と副変速レバー82とが設けられる。主変速レバー81は、操縦部30の右側に設けられ、副変速レバー82は、操舵輪であるハンドル32の下方に設けられている。
【0034】
主変速レバー81は、走行車体2の前後進と走行出力を切替操作するレバーであり、先端に設けられた把持部810を作業者が握って操作することにより、後述する油圧式無段変速装置16のトラニオン(不図示)の回動角度を調節して走行車体2の速度調節を行うことができる。
【0035】
他方、副変速レバー82は、走行車体2の走行速度を規定する走行モードを、走行する場所に応じて低速モードと高速モードとに切り替えるレバーである。ここで、低速モードとは、苗移植機1が圃場で植付作業を行うに相応しい速度範囲に規定される走行モードである。他方、高速モードとは、例えば、苗移植機1を圃場間で移動させたりする際の走行モードであり、低速モードのときよりも高速で走行することが可能となる。これらのモード切替えは、副変速レバー82の位置に応じて、ミッションケース18内に設けられた副変速機構により行われる。
【0036】
また、操縦部30の前部には、開閉可能なフロントカバー31が設けられる。そして、このフロントカバー31の前端中央に位置するように、走行の指標となる指標部材としてのセンターマスコット350が取り付けられている。なお、図2では、便宜上、図示を省略しているが、走行車体2の前側左右には予備苗載台400,400(図5A参照)が設けられている。
【0037】
図4Aは、センターマスコット350の全体側面図、図4Bは、センターマスコット350の一部正面図である。図4Aおよび図4Bを用いて、本実施形態に係るセンターマスコット350について説明する。
【0038】
本実施形態に係るセンターマスコット350は、走行車体2の前部中央位置に取付けられており、操縦座席28に座した作業者が苗移植機1を運転する際に、進行方向の目安となるように機能するものである。また、本実施形態に係るセンターマスコット350は、前述した直進サポートの実行可否を含むサポート状況を報知する報知装置200としても機能する。
【0039】
すなわち、センターマスコット350は、図4Aに示すように、走行車体2の前部中央位置に、進行方向に沿って複数並設される。具体的には、それぞれ下部が湾曲形成されるとともに、先端が上方に延伸した第1支柱353aと第2支柱353bとが、フロントカバー31の前端中央に位置するように取付けられる。
【0040】
そして、第1支柱353aの先端には第1レンズ部351が、第2支柱353bの先端には第2レンズ部352が設けられている。第2支柱353bの中途には、係止バー356が設けられており、操縦部30の前部に設けられたフロントカバー31を開けた際には、かかる係止バー356に係止して、開放状態を保持することができる(図5A参照)。
【0041】
なお、第1支柱353aおよび第2支柱353bの区別の必要がない場合、両者を合わせてマスコット支柱353と記す場合がある。かかるマスコット支柱353の基端は、枢支部355を介して走行車体2のメインフレーム7の前部側に前後傾動自在に取付けられる。
【0042】
かかるセンターマスコット350の第1レンズ部351および第2レンズ部352は、図4Bに示すように、複数のランプ354a~354eを備えており、かかるランプ354a~354eの発光によって報知装置200を構成する表示部210(図7参照)として機能するように構成される。なお、複数のランプ354a~354eを総称する場合はランプ354と記す。
【0043】
また、図4Aに示すように、第1支柱353aは相対的に長尺で前側に位置し、この第1支柱353aの後ろ側に密着した状態で第1支柱353aよりも短尺に形成された第2支柱353bが配設される。第1支柱353aは、中途で前方へ屈曲し、その後、先端が上部へ延伸している。
【0044】
そのため、それぞれ発光して報知装置200(表示部210)として機能する第1レンズ部351と第2レンズ部352とは、所定の高低差をもって前後方向に離隔して配置されることになり、作業者からの視認性は良好となって、第1レンズ部351の発光と第2レンズ部352の発光とをご認認識するおそれがない。また、複数のレンズ部351,352を用いることで、報知内容を多様化することができる。
【0045】
ここで、報知装置200としての作用について例を挙げて説明する。例えば、直進サポートが実行されて自動直進可能な場合、センターマスコット350の第1レンズ部351が備える下側のランプ354dが点滅し、実際に自動直進している場合は、当該下側のランプ354dは点灯する。他方、何らかの理由により直進サポートが利用できない場合は、下側のランプ354dは消灯した状態になるのである。このとき、上側のランプ354eが、例えば赤色で点灯することで、直進サポートの利用不可である状況を報知するようにしてもよい。
【0046】
他方、第1レンズ部351に対して下側に位置する第2レンズ部352では、直進サポートの状況ではなく、苗植付部50の状況をランプ報知するようにしてもよい。例えば、図示はしないが、苗の残量や肥料の残量を検出するセンサを設けておき、苗植付部50における苗が所定量以下になると、その残量に応じて第2レンズ部352の下側の左ランプ354aや右ランプ354bが点灯あるいは点滅させるのである。また、肥料が所定量以下になると、第2レンズ部352の上側ランプ354cが点滅あるいは点灯させるようにする。なお、上述した報知とは反対に、第1レンズ部351で苗植付部50の状況を、第2レンズ部352で直進サポートの状況を報知するようにしてもよい。
【0047】
このように、本実施形態に係る苗移植機1は、報知装置200となるセンターマスコット350を用いて、直進サポートの状況に加え、苗植付部50が備える苗や肥料などの作業資材の残量に関する情報をも報知することができるようにしている。
【0048】
センターマスコット350は、前方を向いている作業者の視界に常に存在するため、作業者は目線を前方から逸らすことなく、常時、苗移植機1の状況を把握することができ、安全性の向上に大きく寄与することができる。
【0049】
また、苗移植機1に直進サポートを行わせるためには、予め、ティーチング作業が必要になる。ティーチング作業では、例えば、直進サポートを実行して直進制御するために基準走行線L2を、受信アンテナ121を利用しつつ走行基準登録部152(図7参照)により登録する。
【0050】
すなわち、本実施形態に係る苗移植機1のコントローラ150(図7参照)は、直進サポートにおける走行車体2の直進進行の基準となる基準走行線L2(図1Aおよび図1Bを参照)を登録する走行基準登録部152を有する。
【0051】
かかる走行基準登録部152は、直進サポートの開始位置および終了位置を、それぞれ基準始点P1および基準終点P2として取得し、取得した基準始点P1および基準終点P2を結ぶ線分を、基準走行線L2として登録するようにしている。
【0052】
基準始点P1および基準終点P2の取得操作は、操縦部30に設けられた基準点登録スイッチ83を操作して行うことができる。基準点登録スイッチ83は、いわゆる跳ね返りスイッチにより構成されており、一回目の操作を基準始点P1の取得操作、二回目の操作を基準終点P2の取得操作としている。そして、基準点登録スイッチ83を長押し操作すれば、基準始点P1および基準終点P2の取得操作がキャンセルされるようにしている。
【0053】
このとき、報知装置200、すなわちセンターマスコット350では、ランプ354a~354eにより構成される表示部210により、基準始点P1および基準終点P2の取得状況を報知することができる。また、報知装置200のブザー215がスイッチ操作に伴って鳴るようにすることで、視覚および聴覚を通して確認しながら基準始点P1および基準終点P2の取得操作を行うことができる。なお、基準始点P1および基準終点P2の取得操作をキャンセルする長押し操作時には、ブザー音も長く鳴るようにするとよい。
【0054】
ここで、センターマスコット350による報知について説明する。例えば、第2レンズ部352を用いるとして、基準走行線L2を規定する基準始点P1および基準終点P2が未取得の場合、当該第2レンズ部352の2つある下側の左右ランプ354a,354bは共に消灯しており、基準始点P1のみが取得済の場合は左ランプ354aが点灯する。
【0055】
そして、基準始点P1および基準終点P2のいずれもが取得済になると、左右ランプ354a,354bが共に点灯する。この場合、例えば上側のランプ354cを、ティーチング作業を実行中である場合には点滅させ、終了すると点灯させるようにしてもよい。
【0056】
なお、もちろんではあるが、かかる基準始点P1および基準終点P2の取得状況の報知を、第1レンズ部351で行うようにしてもよい。その場合、例えば、基準始点P1および基準終点P2が未取得の場合、第1レンズ部351の上下のランプ354e,354dは共に消灯し、基準始点P1のみが取得済の場合は上のランプ354eが点灯する。そして、基準始点P1および基準終点P2のいずれもが取得済になると、上下のランプ354e,354dが共に点灯するのである。
【0057】
上述のようにして基準走行線L2(図1Aおよび図1Bを参照)を登録する際に用いられる基準点登録スイッチ83は、図3に示すように、操縦部30の左側に設けられている。すなわち、走行車体2の前後進と走行出力を切替操作する主変速レバー81と、基準始点P1および基準終点P2を取得するための操作スイッチである基準点登録スイッチ83とは、ハンドル32を挟んで互いに対向する位置に設けられる。このように、主変速レバー81と基準点登録スイッチ83とを、左右反対側に互いに対峙するように配設したため、例えば、直進サポートの前準備であるティーチング作業を行う際に、機体の前後進させる主変速レバー81の操作と基準点登録スイッチ83との操作を作業者が勘違いなどで誤操作するおそれを可及的に減じている。
【0058】
ところで、本実施形態に係る苗移植機1は、図2に示すように、受信アンテナ121(図7参照)を内蔵したGNSSユニット120が走行車体2に配設されている。このGNSSユニット120は、受信アンテナ121で時間的に所定の間隔でGNSS座標を取得することにより、地球上での位置情報を所定間隔で取得することができる。また、本実施形態に係るGNSSユニット120には、受信アンテナ121に加え、図示しないが、ジャイロセンサや加速度センサを利用した慣性航法装置と、これらを制御する制御基板が内蔵される。
【0059】
図5Aは、実施形態に係る苗移植機1が備えるアンテナフレームの正面視による説明図、図5Bは、アンテナフレームの側面視による説明図、図6は、アンテナフレームの斜視図である。図2図5Aおよび図5Bに示すように、GNSSユニット120は、前輪4の車軸131の直上方に位置するように、走行車体2の前端側に基端が連結されたアンテナフレーム124の頂部に取り付けられている。通常状態におけるアンテナフレーム124の高さは、標準的な一般男性がフロアステップ26上で起立しても頭部と干渉しない程度の高さに設定される。
【0060】
アンテナフレーム124は、図6に示すように、左右の前側下部フレーム124a,124aと、前側上部フレーム124bと、上部L形フレーム124cと、後側縦フレーム124dとから構成される。
【0061】
左右の前側下部フレーム124a,124aの基端部には、一対のブラケット127,127が設けられており、かかるブラケット127,127を介して前側下部フレーム124aは走行車体2のバンパ700に取付けられる。
【0062】
前側上部フレーム124bは、左右の前側下部フレーム124a,124aに回動連結具124f,124fを介してそれぞれ基端が回動自在に連結された左右の縦フレーム1241,1242を有する平面視略コ字状のフレームであり、側面視では略く字状に形成される(図2参照)。
【0063】
左右の回動連結具124f,124f同士は、図6に示すように、ノブボルト128で連結固定し、図2に示すように、回動連結具124f,124fとフロントカバー31との間には補強フレーム124eを掛け渡している。このように、簡単な構成によって前側下部フレーム124a,124aや左右の縦フレーム1241,1242のガタツキを防止している。
【0064】
左右の前側下部フレーム124a,124aは、図5Aに示すように、上端側がフロントカバー31と接触しない程度まで内側へ向けて斜めに立設されている。そのため、操縦部30と機体左右側に配置された予備苗載台400,400との間には、例えば作業者が機体前方とフロアステップ26との間を移動できるだけのスペースQが形成される。
【0065】
そして、左右の縦フレーム1241,1242の上部間に架け渡されたアルミブロック122上にGNSSユニット120を配設している。このように、GNSSユニット120と鋼管製のアンテナフレーム124との間にアルミブロック122を介在させることによって、受信アンテナ121に直接取付けるよりも受信感度を向上させている。
【0066】
上部L形フレーム124cは、先端部が前側上部フレーム124bの後端部に連接されており、図示は省略したが、GNSSユニット120から延在するハーネスなどの配線が当該上部L形フレーム124cに沿って配索されている。
【0067】
後側縦フレーム124dは、下端を操縦座席28の後部側において、リアステップ27に連結される。操縦座席28の後方には、施肥装置70の貯留ホッパ71,71が左右にそれぞれ配設されているが、かかる左右の貯留ホッパ71,71の間に後側縦フレーム124dを位置させているため、貯留ホッパ71を開閉する際に干渉することがない。
【0068】
このように、GNSSユニット120を配設するためのアンテナフレーム124は、前側をバンパ700とフロントカバー31とに、後側をリアステップ27に連結しており、構造的に安定する3点支持としたため、きわめて安定した状態で走行車体2に取付けることができる。
【0069】
後側縦フレーム124dの上端部には、上部L形フレーム124cの他端部を着脱自在に連結する連結部125が設けられており、上部L形フレーム124cを着脱自在に連結している。連結部125は、例えば、上部L形フレーム124cと後側縦フレーム124dとの連結端部に、それぞれ形成されたピン挿入孔(不図示)と、かかるピン挿入孔に挿脱可能な締結ピン(不図示)とにより構成するとよい。このように、簡単な構成によって、上部L形フレーム124cと後側縦フレーム124dとを着脱自在に連結することができる。
【0070】
こうして、上部L形フレーム124cを後側縦フレーム124dから離脱させ、図5Bに示すように、回動連結具124f,124fによって、前側下部フレーム124a,124aに対して前側上部フレーム124bおよび上部L形フレーム124cを後部下方に向けて回動させる簡単な操作によって、アンテナフレーム124の高さを低くすることができる(図5B参照)。
【0071】
したがって、例えば、苗移植機1を輸送する場合や納屋などへ格納する際に、GNSSユニット120の厚みが高さ的な障害となる場合、GNSSユニット120を取り外すことなく、全体車高を低くすることができる。
【0072】
また、アンテナフレーム124(前側上部フレーム124bおよび上部L形フレーム124c)を回動させる構成として、回動連結具124fを設けた簡単な構成としているため、コストの増加を抑制するとともに、アンテナフレーム124全体のガタツキを最小限にすることができる。しかも、回動操作を1アクションで行える利便性を有する。
【0073】
ところで、本実施形態では、図6に示すように、後側縦フレーム124dの上端近傍に略Y字状に形成したフレーム受具126を設けている。したがって、アンテナフレーム124を折り畳んで高さを低くする場合、上部L形フレーム124cをフレーム受具126に係止することで安定保持することができる。
【0074】
ここで、図2に戻り、苗植付部50およびその他の構成について説明する。図2に示すように、苗植付部50は、走行車体2の後部に、苗植付部昇降機構40を介して昇降可能に取付けられている。苗植付部昇降機構40は昇降リンク装置41を備えており、この昇降リンク装置41は、走行車体2の後部と苗植付部50とを連結させる平行リンク機構を備える。かかる平行リンク機構は、上リンク41aと下リンク41bとを有し、これらのリンク41a,41bが、メインフレーム7の後部端に立設した背面視門型のリンクベースフレーム43に回動自在に連結される。そして、リンク41a,41bの他端側が苗植付部50に回転自在に連結されている。こうして、苗植付部50は走行車体2に昇降可能に連結されることになる。
【0075】
また、苗植付部昇降機構40は、油圧によって伸縮する油圧昇降シリンダ44を有し、油圧昇降シリンダ44の伸縮動作によって、苗植付部50を昇降させることができる。油圧昇降シリンダ44は、前述した油圧式無段変速装置16により駆動され、苗植付部昇降機構40の昇降動作によって、苗植付部50を非作業位置まで上昇させたり、対地作業位置(植付位置)まで下降させたりすることができる。
【0076】
また、苗植付部50は、苗を植え付ける範囲を、複数の区画、あるいは複数の列で植え付けることができる。例えば、苗を6つの区画で植え付ける、いわゆる6条植の苗植付部50とすることができる。苗植付部50は、苗植付装置60と、苗載置台51及びフロート47(48,49)を備える。このうち、苗載置台51は、走行車体2の後部に複数条の苗を積載する苗載置部材として設けられており、走行車体2の左右方向において仕切られた植付条数分の苗載せ面52を有し、それぞれの苗載せ面52に土付きのマット状苗を載置することが可能である。
【0077】
また、苗植付装置60は、苗載置台51の下部に配設されており、当該苗載置台51の前面側に配設される植付支持フレーム55によって支持される。苗植付装置60は、苗載置台51に載置された苗を苗載置台51から取って圃場に植え付ける装置であり、植付伝動ケース64と植付体61とを有する。植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場に植え付けることができるように構成されており、植付伝動ケース64は、植付体61に駆動力を供給することができる。
【0078】
また、植付伝動ケース64は、エンジン10から苗植付部50に伝達された動力を、植付体61に供給可能に構成されており、植付体61は、植付伝動ケース64に対して回転可能に連結される。また、植付体61は、苗載置台51から苗を取って圃場に植え付ける植込杆62と、植込杆62を回転可能に支持すると共に植付伝動ケース64に対して回転可能に連結されるロータリケース63とを有する。ロータリケース63は、植付伝動ケース64から伝達された駆動力によって植込杆62を回転させる際に、回転速度を変化させながら回転させることのできる不等速伝動機構(不図示)を内装している。これにより、植付体61の回転時には、植込杆62は、ロータリケース63に対する回転角度によって回転速度が変化しながら回転をすることができる。
【0079】
このように構成される苗植付装置60は、2条毎に1つずつ配設されている。すなわち、複数の苗植付装置60は、それぞれ植付条が割り当てられている。また、各植付伝動ケース64は、2条分の植付体61を回転可能に備えている。つまり、1つの植付伝動ケース64には、2つのロータリケース63が、機体左右方向の両側に連結される。
【0080】
また、フロート47は、走行車体2の移動と共に、圃場面上を滑走して整地するものであり、走行車体2の左右方向における苗植付部50の中央に位置するセンターフロート48と、左右方向における苗植付部50の両側に位置するサイドフロート49とを有する。
【0081】
センターフロート48には、圃場の状況に合わせて苗植付部50を上下へ昇降させる油圧感度機構としてのフロートポテンショメータ154(図7参照)を備える。
【0082】
また、苗植付部50の下方側の位置における前側には、圃場の整地を行う整地用ロータ67,67が設けられる。この整地用ロータ67は、後輪ギヤケース22を介して伝達されるエンジン10からの出力によって回転可能に構成される。なお、本実施形態に係る苗移植機1では、かかる整地用ロータ67,67が接地していることを条件として、後述するコントローラ150が直進サポートを実行するようにしている。すなわち、苗植付作業を行っている場合にのみ直進サポートが実行されるようになっている。
【0083】
また、苗植付部50の左右両側には、次の植付条に進行方向の目安になる線を形成する線引きマーカ68が備えられる。線引きマーカ68は、苗移植機1が圃場内における直進前進時に、圃場の畦際で転回した後に直進前進する際の目印を圃場上に線引きする。しかしながら、本実施形態に係る苗移植機1は、GNSS(Global Positioning System)を利用して直進サポートを実行することができるため、線引きマーカ68を廃止することもできる。
【0084】
また、走行車体2における操縦座席28の後方には、施肥装置70が搭載される。施肥装置70は、肥料を貯留する左右の貯留ホッパ71,71と、貯留ホッパ71,71から供給される肥料を設定量ずつ繰り出す繰出し装置72と、繰出し装置72により繰り出される肥料を圃場に供給する施肥通路である施肥ホース74と、施肥ホース74に搬送風を供給するブロア73とを備える。このブロア73により、施肥ホース74内の肥料が苗植付部50側に移送される。さらに、施肥装置70は、施肥ホース74によって肥料が移送される施肥ガイド75と、施肥ホース74によって移送された肥料を苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込む作溝器76とを有する。
【0085】
図7は、苗移植機1のコントローラ150を中心とした機能ブロック図である。本実施形態に係る苗移植機1は、電子制御によって各部を制御することが可能になっており、苗移植機1は、各部を制御する制御部としてのコントローラ150を備える。このコントローラ150は、CPU(Central Processing Unit)等を有する処理部や、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶部、さらには入出力部が設けられ、これらは互いに接続されて互いに信号の受け渡しが可能である。記憶部には、苗移植機1を制御するコンピュータプログラムが格納される。
【0086】
図示するように、コントローラ150には、タブレット端末装置140をはじめ、各種アクチュエータ類や、各部の情報を取得するセンサ類等が接続される。なお、本実施形態においては、コントローラ150とタブレット端末装置140とは、所定の無線通信規格による無線接続としている。
【0087】
コントローラ150には、アクチュエータ類として、例えば、エンジン10の吸気量を調節するスロットルモータ100、油圧式無段変速装置16のトラニオンの回動角度を変化させるトラニオン駆動モータ165、植付クラッチ500を作動させる植付クラッチモータ510が接続される。
【0088】
また、コントローラ150には、舵角センサ130、方位センサ160、姿勢センサ170、傾きセンサ180、および着座センサ190、さらには主変速レバー81や副変速レバー82の操作量を傾動角度で検出するレバーセンサなどを含むその他各種センサ199が接続されている。
【0089】
舵角センサ130は、例えば、操舵輪であるハンドル32の回動角度を検出するセンサ、あるいは、ハンドル32の操作によって転舵輪である前輪4が操舵された際の切れ角を検出するセンサである。舵角センサ130が検出した値を、コントローラ150は、記憶部のRAMに格納する。
【0090】
方位センサ160は、機体の向きを検出するセンサであり、自動車のカーナビゲーションシステムなどに一般的に採用されている。コントローラ150は、かかる方位センサ160から取得した値に基いて、機体の実際の進行方向を導出することができる。
【0091】
したがって、コントローラ150は、走行車体2が旋回した後に舵角センサ130が検出した舵角が直進状態を示す値ではない場合、あるいは、方位センサ160が検出した方角や姿勢センサ170が検出した姿勢が直進方向を示す値ではない場合、直進サポートを禁止することができる。そのため、苗の植付作業を開始した直後の苗の植付姿勢が乱れてしまうことを防止でき、結果的に苗の育成に悪影響を与えることを未然に排除することができる。
【0092】
本実施形態に係る姿勢センサ170は、走行車体2の姿勢が、進行方向L1に対してどの程度斜め姿勢になっているかを検出するもので、ジャイロセンサなどで構成される。
【0093】
本実施形態に係る傾きセンサ180は、走行車体2の上下方向の傾き、すなわち前傾姿勢または後傾姿勢の程度を検出するもので、加速度センサなどを用いて構成される。
【0094】
着座センサ190は、操縦座席28に設けられた、ロードセルや感圧フィルムセンサなどにより構成されたセンサであり、作業者が操縦座席28に着座していることを検出することができる。
【0095】
また、コントローラ150には、報知装置200として、例えばセンターマスコット350に設けられた第1レンズ部351および第2レンズ部352からなる表示部210と、警報などを発するブザー215とが接続される。なお、これら表示部210やブザー215は、本実施形態では走行車体2に予め設けられているものとしているが、同様な機能を、外部から持ち込み可能なタブレット端末装置140に付与することもできる。
【0096】
コントローラ150は、ブザー215や表示部210を用いて、直進サポートの実行や停止などを含む実施状況を報知できる。したがって、作業者は、機体を旋回させた後の舵角や機体の姿勢などが、直進サポートを実行するのに相応しい状況であるかを容易に認識できるため、旋回操作から直進サポートに切り替える操作性が向上する。なお、かかるブザー215や表示部210を用いて、コントローラ150は、例えば、動力伝達装置15の異常(クラッチ機構のギヤ抜け等)を作業者に報知することもできる。
【0097】
また、苗移植機1は、コントローラ150により制御可能な操舵装置110と、位置情報取得装置であるGNSSユニット120と、情報処理端末装置であるタブレット端末装置140とを備えており、これらがコントローラ150に接続される。
【0098】
操舵装置110は、ハンドル32と、かかるハンドル32と連動連結する伝動機構(不図示)を備えるとともに、任意の回転力をハンドル32に付与する直進サポート機構310を備えており、コントローラ150による自動操舵を可能にしている。伝動機構には、ハンドル32を回動させるステアリングモータ112(図7参照)が含まれる。コントローラ150は、例えば、図示しない直進サポートスイッチが操作されると、GNSSユニット120が取得した位置情報に基づき、直進サポート機構310を介してハンドル32を自動操舵することにより、走行車体2を直進方向に維持することが可能である。
【0099】
かかる直進サポートを実行中に、コントローラ150は、走行車体2が旋回した後に舵角センサ130が検出した舵角θが直進状態を示す値ではない場合、あるいは、姿勢センサ170により検出した走行車体2の姿勢が、進行方向に対して斜め姿勢である場合、直進サポートを禁止する。
【0100】
GNSSユニット120は、GNSSで使用される人工衛星からの信号を受信する受信アンテナ121(図1参照)を有し、地球上における苗移植機1の位置情報(座標情報)を取得し、取得した位置情報をコントローラ150に伝達する。
【0101】
かかるGNSSユニット120で取得した機体の位置データから、コントローラ150は、苗移植機1の実速度を導出することもできる。すなわち、一定時間内における機体の移動量から実走行速度を逐次算出することができる。したがって、コントローラ150は、例えば、前輪4および後輪5がスリップなどした場合でも、後輪5の回転量と関係なく、苗移植機1の実車速を取得することができる。
【0102】
タブレット端末装置140は、内蔵される端末通信部144とコントローラ150に接続される車体通信部151との間で無線接続可能に構成されるとともに、制御部141と、情報を表示する表示部および各種の入力操作を行う入力操作部とを兼用するタッチパネル142と、情報を記憶する記憶部143とを備える。この記憶部143に、一または複数の圃場の地図情報や、その他、苗移植機1の制御に必要な各種プログラムや各種データが記憶されている。
【0103】
タブレット端末装置140は、所謂マップ機能を有しており、本実施形態に係る苗移植機1は、GNSSユニット120により取得した走行車体2の位置情報に基づき、タッチパネル142上において、機体位置を、作業領域を含む圃場の地図情報上に重畳表示することができる。
【0104】
また、コントローラ150は、タブレット端末装置140に対し、直進サポートの実行可否を含むサポート状況をタッチパネル142上で報知させることもできる。また、サポート状況に加え、苗植付部50が備える苗や肥料などの残量に関する情報を報知することもできる。すなわち、本実施形態の変形例として、タッチパネル142、あるいはこれを備えるタブレット端末装置140を報知装置200に含む構成とすることができる。
【0105】
また、苗移植機1は、基準点登録スイッチ83、フロートポテンショメータ154、さらには、主として操縦部30に設けられる各種スイッチ153を備えており、これらがコントローラ150に接続される。
【0106】
基準点登録スイッチ83は、図3に示したように、計器パネル33の左側部に設けられており、直進サポートの開始位置となる基準始点P1および終了位置となる基準終点P2を取得する際の操作スイッチとして機能する。
【0107】
フロートポテンショメータ154は、圃場の凹凸に追従して上下動するセンターフロート48に設けられており、このセンターフロート48の上下動を感知して苗植付部50を圃場の凹凸に応じて昇降させることができる。
【0108】
本実施形態に係る苗移植機1は、上述してきた構成を有し、以下、苗移植機1が実行する直進サポートの一例について説明する。図8は、直進サポートの一例を示すフローチャートである。
【0109】
図8に示すように、コントローラ150は、例えばスイッチ操作などにより、直進サポートが開始されると(ステップS110)、機体が旋回中であると判定されるまで旋回中か否かを判定する(ステップS120)。すなわち、コントローラ150は、舵角センサ130、方位センサ160、姿勢センサ170などの検出結果から旋回中であるか否かを判定する。なお、機体が旋回中であることを検出するには、例えば、ハンドル32の回転する速度を検出して所定の回転速度以上の場合に旋回中であると判定することもできる。あるいは、ハンドル32の操舵角が180度以上、あるいは前輪4の舵角θ(切れ角)が30度以上の場合は旋回中と判断することもできる。
【0110】
旋回中であると判定すると(ステップS120:Yes)、コントローラ150は、機体の旋回が終了したか否かを判定する(ステップS130)。コントローラ150は、機体の旋回が終了するまでこの検出処理を繰り返すことになる。そして、旋回が終了したと判定すると(ステップS130:Yes)、コントローラ150は、舵角センサ130による検出角度が所定角度αより大きいか否かを判定する(ステップS140)。ここで、舵角θの閾値となる所定角度αは舵角θの絶対値で表され、ここでは5度としているが、この値に限定されるものではなく、閾値としては実験的に適宜定めることができる。
【0111】
そして、コントローラ150は、検出角度すなわち舵角θが所定角度αよりも大きいと判定すると(ステップS140:Yes)、直進制御禁止処理を行う(ステップS160)。すなわち、直進サポートの実行を中止する。
【0112】
一方、ステップS140において、コントローラ150は、検出角度すなわち舵角θが所定角度αよりも大きくないと判定すると(ステップS140:No)、走行車体2が進行方向に対して所定角度以上傾いているか否かを判定する(ステップS150)。すなわち、コントローラ150は、方位センサ160の検出値により、走行車体2が、予め設定登録された基準走行線L2(図1参照)を基準とした進行方向L1(図1参照)に対して所定角度以上傾いているか否かを判定する。
【0113】
そして、所定角度以上傾いていないと判定した場合は(ステップS150:No)、コントローラ150は、直進サポート処理を終了する一方、所定角度以上傾いていると判定した場合(ステップS150:Yes)、コントローラ150は、処理をステップS160に移し、直進制御禁止処理を行った後、直進サポート処理を終了する。
【0114】
ここで、図9を参照しながら、前述した直進サポートを実行するに際して基準となる基準走行線L2の登録手順について説明する。図9は、直進サポートにおける基準走行線L2の登録手順を示す説明図である。
【0115】
図9に示すように、先ず、基準始点P1を取得する(ステップS210)。すなわち、圃場内において、苗の植付作業を実施する際の機体の進行方向に沿って苗移植機1を停止させ、直進方向に機体を向ける。そして、基準点登録スイッチ83を操作することで、その位置を、直進サポートの開始位置となる基準始点P1として取得する。このとき、報知装置200により、基準始点P1の取得が完了したことを示す第1の報知を行う(ステップS220)。ここでは、前述したように、センターマスコット350に設けられた表示部210のランプ354a~354eの発光による報知が行われる。
【0116】
次いで、基準終点P2の取得を行う(ステップS230)。これは、基準始点P1の取得を終えた後、直進サポートを実行させる距離だけ苗移植機1を直進させて停止し、基準点登録スイッチ83を操作する。基準点登録スイッチ83の二回目の操作が直進サポートの終了位置となる基準終点P2の取得操作となる。このとき、報知装置200により、基準終点P2の取得が完了したことを示す第2の報知を行う(ステップS240)。ここでも、センターマスコット350に設けられた表示部210のランプ354a~354eの発光による報知が行われる。
【0117】
基準始点P1および基準終点P2の取得が完了すると、コントローラ150の走行基準登録部152は、取得した基準始点P1および基準終点P2を結ぶ線分を基準走行線L2として生成する(ステップS250)。これにより、直進サポートを実行する際の直進方向を規定することができる。
【0118】
そして、生成した基準走行線L2を登録すると、報知装置200により、基準走行線L2が登録されたことを示す第3の報知を行う(ステップS260)。これも、表示部210のランプ354a~354eの発光による報知としている。
【0119】
上述した実施形態から以下の苗移植機1が実現する。
【0120】
(1)後部に苗植付部50を連結可能であり、操舵装置110により操舵される前輪4,4を備えた走行車体2と、走行車体2の位置情報を取得するGNSSユニット120と、前輪4、4の舵角θを検出する舵角センサ130と、GNSSユニット120が取得した位置情報に基づき操舵装置110を制御して走行車体2の自動直進走行を支援する直進サポートを行うコントローラ150とを備え、コントローラ150は、走行車体2が旋回した後に舵角センサ130が検出した舵角θが直進状態を示す値ではない場合、直進サポートを禁止する苗移植機1。
【0121】
(2)上記(1)において、走行車体2の姿勢を検出する姿勢センサ170を備え、コントローラ150は、走行車体2が旋回した後に姿勢センサ170により検出した走行車体2の姿勢が、進行方向に対して斜め姿勢である場合、直進サポートを禁止する苗移植機1。
【0122】
(3)上記(1)または(2)において、直進サポートの実行可否を含むサポート状況を報知する報知装置200を備える苗移植機1。
【0123】
(4)上記(3)において、走行車体2は、進行方向の目安となるセンターマスコット350を備え、センターマスコット350を報知装置200として機能させる苗移植機1。
【0124】
(5)上記(4)においてセンターマスコット350は、走行車体2の前部中央位置に、進行方向に沿って複数並設されている苗移植機1。
【0125】
(6)上記(4)または(5)において、センターマスコット350は、複数のランプ354)を備え、各ランプ354の発光により報知装置200として機能する苗移植機1。
【0126】
(7)上記(3)から(6)のいずれかにおいて、報知装置200は、サポート状況に加え、苗植付部50が備える作業資材の残量に関する情報を報知する苗移植機1。
【0127】
(8)上記(3)から(7)のいずれかにおいて、直進サポートにおける走行車体2の直進進行の基準となる基準走行線L2を登録する走行基準登録部152を有し、走行基準登録部152は、直進サポートの開始位置および終了位置を、基準始点P1および基準終点P2として取得し、取得した基準始点P1および基準終点P2を結ぶ線分を、基準走行線L2として登録するとともに、報知装置200は、基準始点P1および基準終点P2の取得状況を報知する苗移植機1。
【0128】
(9)上記(8)において、走行車体2の前後進を操作する主変速レバー81と、基準始点P1および基準終点P2の取得操作を行う基準点登録スイッチ83とを備え、主変速レバー81と基準点登録スイッチ83とは、ハンドル32を挟んで互いに対向する位置に設けられる苗移植機1。
【0129】
上述してきた実施形態はあくまで一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、表示要素などのスペック(構造、種類、方向、形状、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質など)は、適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0130】
1 苗移植機(作業車両)
2 走行車体
4 前輪(転舵輪)
32 ハンドル(操舵輪)
50 苗植付部(対地作業部)
81 主変速レバー
83 基準点登録スイッチ
110 操舵装置
120 GNSSユニット(位置情報取得装置)
130 舵角センサ(舵角検出部)
150 コントローラ(制御部)
152 走行基準登録部
170 姿勢センサ(姿勢検出部)
200 報知装置
350 センターマスコット(指標部材)
354 ランプ
L1 進行方向
L2 基準走行線
P1 基準始点
P2 基準終点
θ 舵角
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9