(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144607
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241003BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024119467
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2020560635の分割
【原出願日】2019-12-04
(31)【優先権主張番号】P 2018235792
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018235801
(32)【優先日】2018-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 丞
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰義
(72)【発明者】
【氏名】成田 和平
(57)【要約】
【課題】高容量で充放電サイクル特性に優れた、二次電池用正極活物質を提供する。充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活物質を提供する。高容量の二次電池を提供する。充放電特性の優れた二次電池を提供する。安全性又は信頼性の高い二次電池を提供する。
【解決手段】リチウム、コバルト、酸素およびアルミニウムを有し、粉末X線回折により得られるパターンについてリートベルト解析を行ったとき、R-3mの空間群を有する結晶構造を有し、X線光電子分光の分析においてアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.2倍以下である正極活物質。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム、コバルト、酸素およびアルミニウムを含む粒子を有する正極活物質であって、
前記正極活物質は、R-3mの空間群を有する結晶構造を有し、
前記結晶構造は、CuKα1線による粉末X線回折により得られるパターンのリートベルト解析により推定され、
前記粒子の断面についてEDX線分析をした場合において、
前記粒子の表面からの距離が20nm以上200nm以下に第1の領域を有し、前記第1の領域において、前記EDX線分析におけるアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.04倍以上1.6倍末満であり、
前記粒子の表面からの距離がlμm以上3μm以下に第2の領域を有し、前記第2の領域において、前記EDX線分析におけるアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.03倍未満である正極活物質。
【請求項2】
請求項1において、
前記粒子の前記断面は、集束イオンビーム加工観察装置による加工により露出される正極活物質。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記正極活物質は、前記粒子の表面に接する被膜を有し、
前記被膜は炭素を有し、
前記被膜が有するコバルトの原子数は、前記被膜が有する炭素の原子数の0.05倍未満である正極活物質。
【請求項4】
リチウム、コバルト、酸素、ニッケルおよびアルミニウムを含む粒子を有する正極活物質であって、
前記正極活物質は、CuKα1線による粉末X線回折により得られるパターンについてリートベルト解析を行ったとき、R-3mの空間群を有する結晶構造を有し、
前記粒子の断面についてEDX線分析をした場合において、
前記粒子の表面からの距離が20nm以上200nm以下に第1の領域を有し、前記第1の領域において、前記EDX線分析におけるアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.04倍以上1.6倍末満であり、
前記粒子の表面からの距離がlμm以上3μm以下に第2の領域を有し、前記第2の領域において、前記EDX線分析におけるアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.03倍未満である正極活物質。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1の領域において、前記EDX線分析におけるニッケルの原子数はアルミニウムの原子数の0.5倍未満である正極活物質。
【請求項6】
請求項4または請求項5において、
前記粒子の前記断面は、集束イオンビーム加工観察装置による加工により露出される正極活物質。
【請求項7】
請求項4乃至請求項6のいずれか一において、
前記正極活物質は、前記粒子の表面に接する被膜を有し、
前記被膜は炭素を有し、
前記被膜が有するコバルトの原子数は、前記被膜が有する炭素の原子数の0.05倍未満である正極活物質。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一において、
グロー放電質量分析により測定される硫黄の原子数が150ppm wt以上2000ppmwt以下である正極活物質。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか一において、
グロー放電質量分析により測定されるチタンの原子数が300ppm wt以下である正極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一様態は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置または電子機器、またはそれらの製造方法に関する。特に、二次電池に用いることのできる正極活物質、二次電池、および二次電池を有する電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチウムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高エネルギー密度であるリチウムイオン二次電池は、携帯電話、スマートフォン、タブレット、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、次世代クリーンエネルギー自動車(ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)等)など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
リチウムイオン二次電池に要求されている特性としては、さらなる高エネルギー密度化、サイクル特性の向上及び様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【0006】
そこでリチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化を目指した、正極活物質の改良が検討されている(特許文献1および特許文献2)。また、正極活物質の結晶構造に関する研究も行われている(非特許文献1乃至非特許文献3)。
【0007】
X線回折(XRD)は、正極活物質の結晶構造の解析に用いられる手法の一つである。非特許文献5に紹介されているICSD(Inorganic Crystal Structure Database)を用いることにより、XRDデータの解析を行うことができる。
【0008】
また、非特許文献6および非特許文献7に示されるように、第一原理計算を用いることにより、化合物の結晶構造、組成等に応じたエネルギーを算出することができる。
【0009】
特許文献3には第一原理計算を利用してLiNi1-xMxO2の元素間距離を算出する例が示されている。また、特許文献4には第一原理計算により求めた酸化珪素化合物の生成エネルギーについて述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-216760号公報
【特許文献2】特開2006-261132号公報
【特許文献3】特開2016-91633号公報
【特許文献4】国際公開第2011/077654号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Toyoki Okumura et al,”Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in O3-and O2-lithium cobalt oxides from first-principle calculation”, Journal of Materials Chemistry, 2012, 22, p.17340-17348
【非特許文献2】Motohashi, T. et al,”Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO2(0.0≦x≦1.0) ”, Physical Review B, 80(16) ,2009, 165114
【非特許文献3】Zhaohui Chen et al, “Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society, 2002, 149(12) A1604-A1609
【非特許文献4】W. E. Counts et al, Journal of the American Ceramic Society, 1953, 36[1] 12-17. Fig.01471
【非特許文献5】Belsky, A. et al.,“New developments in the Inorganic Crystal Structure Database(ICSD): accessibility in support of materials research and design”, Acta Cryst., 2002, B58 364-369.
【非特許文献6】Dudarev, S. L. et al,”Electron-energy-loss spectra and the structural stability of nickel oxide: An LSDA1U study”, Physical Review B, 1998, 57(3) 1505.
【非特許文献7】Zhou, F. et al,”First-principles prediction of redox potentials in transition-metal compounds with LDA+U”, Physical Review B, 2004, 70 235121.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の一態様は、高容量で充放電サイクル特性に優れた、二次電池用正極活物質を提供することを課題の一とする。または、生産性のよい正極活物質の作製方法を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、高容量の二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、充放電特性の優れた二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0013】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0014】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様は、リチウム、コバルト、酸素およびアルミニウムを有し、CuKα1線による粉末X線回折により得られるパターンについてリートベルト解析を行ったとき、R-3mの空間群を有する結晶構造を有し、X線光電子分光の分析においてアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.2倍以下である正極活物質である。
【0016】
また上記構成において、X線光電子分光における取出角は40°以上50°以下であることが好ましい。
【0017】
また上記構成において、粒子を有し、粒子の断面がTEM-EDXにより分析される場合において、粒子の表面からの距離が20nm以上200nm以下である第1の領域において、TEM-EDXの分析においてアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.04倍以上1.6倍未満であり、粒子の表面からの距離が1μm以上3μm以下である第2の領域において、TEM-EDXの分析においてアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.03倍未満であることが好ましい。
【0018】
また上記構成において、粒子の断面は、集束イオンビーム加工観察装置による加工により露出されることが好ましい。
【0019】
また上記構成において、正極活物質は、粒子の表面に接する被膜を有し、被膜は炭素を有し、被膜が有するコバルトの原子数は、被膜が有する炭素の原子数の0.05倍未満であることが好ましい。
【0020】
また上記構成において、マグネシウムを有し、X線光電子分光の分析において、マグネシウムの原子数はコバルトの原子数の0.4倍以上1.5倍以下であることが好ましい。
【0021】
または本発明の一態様は、リチウム、コバルト、酸素、ニッケルおよびアルミニウムを有し、CuKα1線による粉末X線回折により得られるパターンについてリートベルト解析を行ったとき、R-3mの空間群を有する結晶構造を有し、X線光電子分光の分析において、アルミニウムの原子数はコバルトより低く、ニッケルより高い正極活物質である。
【0022】
また上記構成において、X線光電子分光における取出角は40°以上50°以下であることが好ましい。
【0023】
また上記構成において、粒子を有し、粒子の断面がTEM-EDXにより分析される場合において、粒子の表面からの距離が20nm以上200nm以下である第1の領域において、TEM-EDXの分析においてアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.04倍以上1.6倍未満であり、粒子の表面からの距離が1μm以上3μm以下である第2の領域において、TEM-EDXの分析においてアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.03倍未満であることが好ましい。
【0024】
また上記構成において、第1の領域において、TEM-EDXの分析においてニッケルの原子数はアルミニウムの原子数の0.5倍未満であることが好ましい。
【0025】
また上記構成において、粒子の断面は、集束イオンビーム加工観察装置による加工により露出されることが好ましい。
【0026】
また上記構成において、正極活物質は、粒子の表面に接する被膜を有し、被膜は炭素を有し、被膜が有するコバルトの原子数は、被膜が有する炭素の原子数の0.05倍未満であることが好ましい。
【0027】
また上記構成において、グロー放電質量分析により測定される硫黄の濃度が150ppm wt以上2000ppm wt以下であることが好ましい。
【0028】
また上記構成において、グロー放電質量分析により測定されるチタンの濃度が300ppm wt以下であることが好ましい。
【0029】
また本発明の別の一態様は、粒子の集合体であり、第1の粒子群と第2の粒子群を有し、リチウム、コバルト、酸素およびアルミニウムを有し、CuKα1線による粉末X線回折により得られるパターンについてリートベルト解析を行ったとき、R-3mの空間群を有する結晶構造を有し、ICP-MS、GD-MSまたは原子吸光の元素分析によるマグネシウムの原子数はMg1であり、コバルトの原子数はCo1であり、Mg1/Co1は0.001以上0.06以下であり、第1の粒子群の粒度分布は、第1の極大ピークを有し、第2の粒子群の粒度分布は、第2の極大ピークを有し、第1の極大ピークは9μm以上25μm以下に極大値を有し、第2の極大ピークは0.1μm以上9μm未満に極大値を有する正極活物質である。
【0030】
また上記構成において、第1の極大ピークの極大値の強度をI1とし、第2の極大ピークの極大値の強度をI2とし、I1/I2は0.01以上0.6以下であることが好ましい。
【0031】
また上記構成において、マグネシウムを有し、粒子の集合体は、X線光電子分光の分析によるマグネシウムの原子数はコバルトの原子数の0.4倍以上1.5倍以下であることが好ましい。
【0032】
また上記構成において、粒度分布は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定されることが好ましい。
【0033】
また上記構成において、X線光電子分光における取出角は40°以上50°以下であることが好ましい。
【0034】
または本発明の一態様は、上記のいずれか一に記載の正極活物質を有する正極と、負極と、電解液と、を有し、充電と放電を1回ずつ行い、放電から第1の放電容量を求め、その後、充電と放電を交互に50回ずつ行い、最後の放電から第2の放電容量を求め、第2の放電容量は、第1の放電容量の90%倍以上である二次電池である。
【0035】
また上記構成において、充電はCCCV条件にて行われ、CC充電電流は0.01C以上1.0C以下であり、CC充電の上限電圧はLi/Li+基準で4.55V以上であり、CV充電の終止電流は0.001C以上であり、放電はCC条件にて行われ、CC放電電流は0.05C以上2.0C以下であり、測定温度は15℃以上55℃以下であることが好ましい。
【0036】
または本発明の一態様は、上記のいずれか一に記載の正極活物質を有する正極を有し、対極として金属リチウムを用い、充電と放電を1回ずつ行い、放電から第1の放電容量を求め、その後、充電と放電を交互に50回行い、最後の放電から第2の放電容量を求め、第2の放電容量は、第1の放電容量の90%倍以上であり、充電はCCCV条件にて行われ、CC充電電流は0.01C以上1.0C以下であり、CC充電の上限電圧はLi/Li+基準で4.55V以上であり、CV充電の終止電流は0.001C以上であり、放電はCC条件にて行われ、CC放電電流は0.05C以上2.0C以下であり、測定温度は15℃以上55℃以下である二次電池である。
【0037】
または、本発明の一態様は、リチウムおよびコバルトを有する複合酸化物と、アルミニウムと、を混合し第1の混合物を作製する第1のステップと、第1の混合物を加熱する第2のステップと、を有し、第1のステップにおいて、第1の混合物が有するアルミニウムと、複合酸化物が有するコバルトと、の原子数比がアルミニウム:コバルト=C_a:1で表され、C_aは0.0005以上0.02以下である正極活物質の作製方法である。
【0038】
また、上記構成において、第2のステップにおける加熱の温度は700℃以上920℃以下であることが好ましい。
【0039】
または、本発明の一態様は、リチウムおよびコバルトを有する複合酸化物と、マグネシウムと、フッ素と、を混合し第1の混合物を作製する第1のステップと、第1の混合物を加熱して第2の混合物を作製する第2のステップと、第2の混合物と、アルミニウムと、を混合し第3の混合物を作製する第3のステップと、第3の混合物を加熱する第4のステップと、を有し、第3のステップにおいて第3の混合物が有するアルミニウムと、第1のステップにおいて複合酸化物が有するコバルトと、の原子数比がアルミニウム:コバルト=C_a:1で表され、C_aは0.0005以上0.02以下である正極活物質の作製方法である。
【0040】
また、上記構成において、第1のステップにおいて第1の混合物が有するマグネシウムと、複合酸化物が有するコバルトと、の原子数比がマグネシウム:コバルト=C_m:1で表され、C_mは0.001以上0.06以下であることが好ましい。
【0041】
また、上記構成において、第4のステップにおける加熱の温度は700℃以上920℃以下であることが好ましい。
【0042】
または、本発明の一態様は、リチウムおよびコバルトを有する複合酸化物と、マグネシウムと、フッ素と、を混合し第1の混合物を作製する第1のステップと、第1の混合物を加熱して第2の混合物を作製する第2のステップと、第2の混合物と、アルミニウムと、ニッケルと、を混合し第3の混合物を作製する第3のステップと、第3の混合物を加熱する第4のステップと、を有し、第3のステップにおいて第3の混合物が有するアルミニウムと、第1のステップにおいて複合酸化物が有するコバルトと、の原子数比がアルミニウム:コバルト=C_a:1で表され、C_aは0.0005以上0.02以下であり、第3のステップにおいて第3の混合物が有するニッケルと、第1のステップにおいて複合酸化物が有するコバルトと、の原子数比がニッケル:コバルト=C_n:1で表され、C_nは0.0005以上0.02以下である正極活物質の作製方法である。
【0043】
また、上記構成において、第1のステップにおいて第1の混合物が有するマグネシウムと、複合酸化物が有するコバルトと、の原子数比がマグネシウム:コバルト=C_m:1で表され、C_mは0.001以上0.06以下であることが好ましい。
【0044】
また、上記構成において、第4のステップにおける加熱の温度は700℃以上920℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0045】
本発明の一態様により、高容量で充放電サイクル特性に優れた、二次電池用正極活物質、およびその作製方法を提供することができる。また、生産性のよい正極活物質の作製方法を提供することができる。また、二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活物質を提供することができる。また、高容量の二次電池を提供することができる。また、充放電特性の優れた二次電池を提供することができる。また、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することができる。また、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは本発明の一態様の正極活物質の断面の一例を説明する図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは本発明の一態様の正極活物質の断面の一例を説明する図である。
【
図3】
図3は本発明の一態様の正極の断面の一例を説明する図である。
【
図4】
図4は本発明の一態様の正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図5】
図5は従来の正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図6】
図6は結晶構造から計算されるXRDパターンである。
【
図7】
図7Aおよび
図7Bはリチウムサイトの占有率とエネルギーの関係の計算結果である。
【
図8】
図8はリチウムサイトの占有率とc軸の関係の計算結果である。
【
図9】
図9はリチウムサイトの占有率とc軸の関係を示す図である。
【
図10】
図10は本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図34】
図34は電池の放電容量維持率と放電エネルギーの関係を示す図である。
【
図35】
図35は電池の放電容量維持率と放電エネルギーの関係を示す図である。
【
図36】
図36は電池の放電容量維持率と放電エネルギーの関係を示す図である。
【
図37】
図37は電池の放電容量維持率と放電エネルギーの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0048】
なお本明細書等において、「第1」、「第2」、「第3」という序数詞は、構成要素の混同を避けるために付したものである。従って、構成要素の数を限定するものではない。また、構成要素の順序を限定するものではない。また例えば、本明細書等の実施の形態の一において「第1」に言及された構成要素が、他の実施の形態、あるいは特許請求の範囲において「第2」に言及された構成要素とすることもありうる。また例えば、本明細書等の実施の形態の一において「第1」に言及された構成要素を、他の実施の形態、あるいは特許請求の範囲において省略することもありうる。
【0049】
なお図面において、同一の要素または同様な機能を有する要素、同一の材質の要素、あるいは同時に形成される要素等には同一の符号を付す場合があり、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0050】
また、本明細書等において結晶面および方向はミラー指数で示す。結晶面および方向の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。
【0051】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(例えばA,B,C)からなる固体において、ある元素(例えばB)が空間的に不均一に分布する現象をいう。
【0052】
本明細書等において、活物質等の粒子の表層部とは、表面から10nm程度までの領域をいう。ひびやクラックにより生じた面も表面といってよい。また表層部より深い領域を、内部という。
【0053】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0054】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0055】
また本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する擬スピネル型の結晶構造とは、空間群R-3mであり、スピネル型結晶構造ではないものの、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占め、陽イオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する結晶構造をいう。なお、擬スピネル型の結晶構造は、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。
【0056】
また擬スピネル型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl2型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06NiO2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0057】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。擬スピネル型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。これらが接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(最も単純な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶、擬スピネル型結晶、および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。
【0058】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断することができる。X線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。TEM像等では、陽イオンと陰イオンの配列が、明線と暗線の繰り返しとして観察できる。層状岩塩型結晶と岩塩型結晶において立方最密充填構造の向きが揃うと、結晶間で、明線と暗線の繰り返しのなす角度が5度以下、より好ましくは2.5度以下である様子が観察できる。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観察できない場合があるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができる。
【0059】
また本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。例えばLiCoO2の理論容量は274mAh/g、LiNiO2の理論容量は274mAh/g、LiMn2O4の理論容量は148mAh/gである。
【0060】
また本明細書等において、挿入脱離可能なリチウムが全て挿入されているときの充電深度を0、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離したときの充電深度を1ということとする。
【0061】
また本明細書等において、充電とは、電池内において正極から負極にリチウムイオンを移動させ、外部回路において負極から正極に電子を移動させることをいう。正極活物質については、リチウムイオンを離脱させることを充電という。また充電深度が0.74以上0.9以下、より詳細には充電深度が0.8以上0.83以下の正極活物質を、高電圧で充電された正極活物質ということとする。そのため、例えばLiCoO2において219.2mAh/g充電されていれば、高電圧で充電された正極活物質である。またLiCoO2において、25℃環境下で、充電電圧を4.525V以上4.65V以下(対極リチウムの場合)として定電流充電し、その後電流値が0.01C、あるいは定電流充電時の電流値の1/5から1/100程度となるまで定電圧充電した後の正極活物質も、高電圧で充電された正極活物質ということとする。
【0062】
同様に、放電とは、電池内において負極から正極にリチウムイオンを移動させ、外部回路において正極から負極に電子を移動させることをいう。正極活物質については、リチウムイオンを挿入することを放電という。また充電深度が0.06以下の正極活物質、または高電圧で充電された状態から充電容量の90%以上の容量を放電した正極活物質を、十分に放電された正極活物質ということとする。例えばLiCoO2において充電容量が219.2mAh/gならば高電圧で充電された状態であり、ここから充電容量の90%である197.3mAh/g以上を放電した後の正極活物質は、十分に放電された正極活物質である。また、LiCoO2において、25℃環境下で電池電圧が3V以下(対極リチウムの場合)となるまで定電流放電した後の正極活物質も、十分に放電された正極活物質ということとする。
【0063】
また本明細書等において、非平衡な相変化とは、物理量の非線形変化を起こす現象をいうこととする。例えば容量(Q)を電圧(V)で微分(dQ/dV)することで得られるdQ/dV曲線におけるピークの前後では、非平衡な相変化が起き、結晶構造が大きく変わっていると考えられる。
【0064】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の正極活物質等について説明する。
【0065】
[正極活物質]
二次電池の充電電圧を高めることにより放電容量を増加させることができる。また正極活物質が結晶構造を有する場合、充電電圧を高めることによりその結晶構造が変化する場合がある。
【0066】
充電に伴う結晶構造の変化が不可逆である場合には、充放電の繰り返しにより正極活物質の結晶構造が崩れ、放電容量が低下する懸念がある。
【0067】
二次電池の充電電圧の上昇に伴い、正極の電圧は一般的に上昇する。本発明の一態様の正極活物質は、高い電圧においても安定な結晶構造を有する。充電において正極活物質の結晶構造が安定であることにより、充放電の繰り返しに伴う容量の低下を抑制することができる。
【0068】
また、二次電池のショートは二次電池の充電動作や放電動作における不具合を引き起こすのみでなく、発熱および発火を招く恐れがある。安全な二次電池を実現するためには、高い充電電圧においてもショート電流が抑制されることが好ましい。本発明の一態様の正極活物質は、高い充電電圧においてもショート電流が抑制され、高い容量と安全性と、を両立することができる。
【0069】
本発明の一態様の正極活物質を用いた二次電池は、高い容量、優れた充放電サイクル特性、および安全性を同時に満たすことが好ましい。
【0070】
コバルト酸リチウム、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム、ニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウムなどに代表される、層状構造を有する正極活物質は、二次電池の充放電において、挿入脱離される正極活物質の体積あたり、および重量あたりのリチウム量が極めて高い。よってこれらの正極活物質を用いた二次電池は容量が高いという利点がある。
【0071】
一方、層状構造を有する正極活物質は充電電圧が高くなるのに伴い、キャリアイオンとなる金属、より具体的には例えばリチウムが脱離することにより、格子定数の変化が生じ、あるいは層のズレが生じ、結晶構造が崩れやすい場合がある。例えばキャリアイオンとなる金属が層間に位置する場合には、該金属の脱離により層に垂直方向の格子定数の変化が顕著に生じる場合がある。
【0072】
本発明の一態様の正極活物質は、第1の金属(以降、金属A)、第2の金属(以降、金属M)および酸素に加え、マグネシウムを有することが好ましい。金属Aは例えば、キャリアイオンとなる金属である。金属Mは一または複数の金属であり、酸化還元反応を担う金属を有することが好ましい。また発明者らは、マグネシウムを有する該正極活物質にアルミニウムを加えることにより、他の元素を加える場合に比べて、高い電圧における二次電池のショートが抑制されることを見出した。
【0073】
ショートの抑制は安全性上好ましい一方で、ショートの抑制により放電容量が低下してしまう場合がある。例えばアルミニウムはショート電流の抑制に効果的である一方、その濃度が高すぎると容量の低下を招く懸念がある。ここで発明者らは、前述のマグネシウムおよびアルミニウムを有する正極活物質において、さらにニッケルを加えることにより、他の元素を加える場合に比べて、二次電池の放電容量の低下がより効果的に抑制されることを見出した。
【0074】
ここで本発明の一態様の正極活物質が粒子を有する場合には、該粒子において、マグネシウム、アルミニウムおよびニッケルはそれぞれ濃度勾配を有することが好ましく、例えば表面近傍の濃度が高いことが好ましい。一方、ニッケルは、マグネシウムおよびアルミニウムと比較して、粒子の中に取り込まれる濃度が高くなる場合がある。つまりニッケルと比較してマグネシウムおよびアルミニウムの濃度勾配が表面側に偏って、より急峻なプロファイルを有する場合がある。
【0075】
ここで高い充電電圧とは例えば、4.55V(vs Li/Li+)以上、より好ましくは4.6V(vs Li/Li+)以上、さらに好ましくは4.65V(vs Li/Li+)以上である。
【0076】
金属Aは例えばリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、およびカルシウム、ベリリウム、マグネシウム等の第2族の元素を用いることができ、金属Aとしてリチウムを用いることが好ましい。金属Mは例えばコバルト、マンガンおよび鉄から選ばれる一以上であり、金属Mとしてコバルトを有することが好ましい。またこれらの元素に加えて金属Mとしてニッケルおよびマンガンから選ばれる一以上を有してもよい。
【0077】
正極活物質が有する結晶構造として例えば、層状岩塩型の結晶構造、スピネル型の結晶構造、およびオリビン型の結晶構造等が挙げられる。なかでも本発明の一態様の正極活物質は層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。また、層状岩塩型の結晶構造は、空間群R-3mで表される場合がある。
【0078】
正極活物質100が粒子101を有する場合を考える。粒子101は金属A、金属Mおよび酸素を有する。粒子101はマグネシウムおよびアルミニウムを有することが好ましい。粒子101において、マグネシウムおよびアルミニウムは濃度勾配を有することが好ましく、例えば粒子101の表面近傍の濃度が高いことが好ましい。あるいは粒子101の表層部の濃度が高いことが好ましい。
【0079】
例えば粒子101において、マグネシウムおよびアルミニウムは、XPS等で測定される濃度が、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)、あるいはGD-MS(グロー放電質量分析法)等で測定される濃度よりも高いことが好ましい。
【0080】
また例えば粒子101において、マグネシウムおよびアルミニウムは、加工によりその断面を露出させ、断面をTEM-EDXを用いて分析する場合に、表層部の濃度が、表層部より深い領域の濃度に比べて高いことが好ましい。加工は例えばFIBにより行うことができる。
【0081】
粒子101はニッケルを有することが好ましい。粒子101において、ニッケルは濃度勾配を有することが好ましく、例えば粒子101の表面近傍の濃度が高い場合がある。あるいは粒子101の表層部の濃度が高い場合がある。
【0082】
例えば粒子101において、ニッケルは、XPS等で測定される濃度に比べて、ICP-MS、あるいはGD-MS等で測定される濃度のほうが高い場合がある。
【0083】
また例えば粒子101においてニッケルは、加工によりその断面を露出させ、断面をTEM-EDXを用いて分析する場合に、表層部の濃度が、表層部より深い領域の濃度に比べて高い場合がある。
【0084】
正極活物質100が有するマグネシウム、アルミニウムおよびニッケルは例えば、その一部が結晶構造の内部に取り込まれない場合がある。結晶構造の内部に取り込まれるとは例えば、正極活物質100が金属A、金属Mおよび酸素を有する結晶構造を有し、該結晶構造において、該結晶構造が有する元素の一部がマグネシウム、アルミニウムおよびニッケルの一以上に置換されることを指す。あるいは、該結晶構造の格子間にマグネシウム、アルミニウムおよびニッケルの一以上が位置してもよい。
【0085】
正極活物質100が有するマグネシウム、アルミニウムおよびニッケルの一部が結晶構造の内部に取り込まれなくてもよい。また正極活物質100は例えば、マグネシウム、アルミニウムおよびニッケルの一以上を主成分として有する粒子102を有してもよい。また例えば、粒子102は粒子101の表面に接してもよい。
【0086】
粒子102は例えば、マグネシウム、アルミニウムおよびニッケルの少なくともいずれかの濃度が、第2の金属の濃度よりも高い。
【0087】
図1Aには正極活物質100が有する粒子101の断面の一例を示す。粒子101は、領域111および領域112を有する。
【0088】
図1Bに示すように、粒子101の表面から領域111までの距離x1は、粒子101の表面から領域112までの距離x2よりも小さい。
【0089】
粒子表面からの距離として例えば粒子の断面の表面の接線から垂直な方向の距離を用いることができる。あるいは、粒子断面の表面から粒子断面の中心、または重心へ線を引いた方向の距離を用いることができる。
【0090】
図2Aは、
図1Bとは異なる方向の距離を用いた場合の一例を示す。
【0091】
二次電池が正極、負極および電解液を有する場合において、二次電池の充放電では電解液が分解し、分解した生成物が電極の構成要素、例えば活物質が有する粒子101や粒子102の表面に被膜103が堆積する場合がある。
図2Bは粒子101の表面に被膜103が堆積する例を示す。
【0092】
図3は正極の断面の一例である。
図3には、粒子101および粒子102を有する正極活物質層109が集電体108上に形成される例を示す。正極活物質層および集電体については後に詳述する。
【0093】
正極活物質100が有するコバルトの原子数を1としたとき、マグネシウムの原子数の相対値は例えば0.001以上0.06以下が好ましく、0.003以上0.03以下がより好ましい。また、コバルトの原子数を1としたときアルミニウムの原子数の相対値は例えば0.0005以上0.02以下が好ましく、0.001以上0.015以下がより好ましく、0.001以上0.009以下がより好ましい。コバルトの原子数を1としたときニッケルの原子数の相対値は例えば0.0005以上0.02以下が好ましく、0.001以上0.015以下がより好ましく、0.001以上0.009以下がより好ましい。コバルトの原子数、マグネシウムの原子数、アルミニウムの原子数およびニッケルの原子数は例えばICP-MSにより評価することができる。
【0094】
正極活物質100の粒度分布は、9μm以上25μm以下の範囲に極大ピークを有することが好ましい。あるいは、本発明の一態様の正極活物質の粒度分布において、平均粒子径(D50)が9μm以上25μm以下であることが好ましい。
【0095】
正極活物質100が有する粒子の粒径は例えば、SEMによる表面観察、TEMによる断面観察等を用いて評価することができる。また正極活物質100が有する粒子の粒径は粒度分布により評価することができる。正極活物質100の粒度分布は例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0096】
また、正極活物質100の粒度分布の極大ピークが9μm以上25μm以下である場合に、正極活物質100が有するコバルトの原子数を1としたとき、マグネシウムの原子数の相対値は例えば0.001以上0.06以下が好ましく、0.003以上0.03以下がより好ましく、0.007以上0.025以下がより好ましい。コバルトの原子数およびマグネシウムの原子数は例えばICP-MSにより評価することができる。
【0097】
正極活物質100はフッ素等のハロゲンを有することが好ましい。
【0098】
正極活物質100において、チタンの原子数は例えば300ppm wt以下である。
【0099】
正極活物質100は、150ppm wt以上2000ppm wt以下の硫黄を有する場合がある。
【0100】
正極活物質100のチタンの原子数および硫黄の原子数は例えば、GD-MSにより測定することができる。
【0101】
また正極活物質100は、粒度分布の異なる複数の粒子群の集合体であることが好ましい。それぞれの粒子については例えば上記に記載の粒子101や粒子102の記載を参照することができる。
【0102】
正極活物質100が粒度分布の異なる複数の粒子群の集合体である場合、粒度分布は第1の極大ピークと、第2の極大ピークと、を有することが好ましい。第1の極大ピークの値は例えば9μm以上25μm以下であることが好ましい。第2の極大ピークの値は例えば0.1μm以上9μm未満であることが好ましい。あるいは、正極活物質100は第1の粒子群と、第2の粒子群と、を有し、第1の粒子群の粒度分布において、平均粒子径(D50)は9μm以上25μm以下であることが好ましく、第2の粒子群の粒度分布において、平均粒子径(D50)は0.1μm以上9μm未満であることが好ましい。
【0103】
第1の極大ピークと第2の極大ピークが重なりを有する場合には、関数を用いてピーク分離を行い、それぞれのピーク強度およびピークの半値幅等を解析してもよい。
【0104】
正極活物質100が粒度分布の異なる複数の粒子群を有することにより、正極活物質100を用いた正極活物質層の密度が高まる場合がある。正極活物質層の密度を高めることにより、二次電池が有する体積あたりの活物質量を高めることができる。よって、二次電池の体積あたりの容量を高められる場合がある。一方、正極活物質の密度が高い場合には、電解液が活物質層の有する粒子間に入りづらい懸念がある。そのような場合には例えば、二次電池の出力特性が低下する懸念がある。
【0105】
本発明の一態様の正極活物質は高い充電電圧においても安定であるため、充電容量を高めることができ、その結果として、二次電池の放電容量を高めることができる。よって、正極活物質の密度を過剰に高めなくとも、二次電池の体積あたりの容量が充分に高い場合がある。
【0106】
また、正極活物質層において、正極活物質以外の材料、例えば導電助剤、バインダ等の割合を少なくすることにより、正極活物質層の密度を高めることができる。
【0107】
正極活物質層の厚さは例えば、10μm以上200μm以下である。あるいは、50μm以上150μm以下である。正極活物質層の担持量は例えば、正極活物質がコバルトを有する層状岩塩型結晶構造を有する材料を有する場合に、1mg/cm2以上50mg/cm2以下である。あるいは、5mg/cm2以上30mg/cm2以下である。正極活物質層の密度は例えば、正極活物質がコバルトを有する層状岩塩型結晶構造を有する材料を有する場合に、2.2g/cm3以上4.9g/cm3以下である。あるいは、3.8g/cm3以上4.5g/cm3以下である。ここで担持量は例えば集電体の片面の正極活物質層の値である。
【0108】
<XPS>
X線光電子分光(XPS)では、表面から2乃至8nm程度(通常5nm程度)の深さまでの領域の分析が可能であるため、表層部の約半分の領域について、各元素の濃度を定量的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析することができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1原子%程度、検出下限は元素にもよるが約1原子%である。XPSの濃度の単位は例えば原子%である。
【0109】
正極活物質100が第1の粒子群と第2の粒子群を有する場合、第1の粒子群におけるマグネシウムの原子数は、第2の粒子群におけるマグネシウムの原子数に比べて高い場合がある。
【0110】
正極活物質100についてICP-MS、GD-MSまたは原子吸光の元素分析をしたとき、コバルトの原子数(Co1)を1としたときの、マグネシウムの原子数(Mg1)の相対値は0.4以上1.5以下が好ましく、0.5以上1.1以下がより好ましい。つまりMg1/Co1は0.001以上0.06以下が好ましい。
【0111】
またフッ素等のハロゲンの原子数の相対値は0.05以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.00以下がより好ましい。
【0112】
また、正極活物質100についてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.8eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVとは異なる値である。つまり、正極活物質100がフッ素を有する場合、フッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0113】
さらに、正極活物質100についてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである1305eVと異なる値であり、酸化マグネシウムの結合エネルギーに近い値である。つまり、正極活物質100がマグネシウムを有する場合、フッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0114】
正極活物質100においてXPSで評価されるアルミニウムの原子数は、マグネシウムより低く、ニッケルより高い場合がある。また、正極活物質100においてXPSで検出されるコバルトの原子数を1としたとき、アルミニウムの原子数の相対値は例えば0.2以下、あるいは0.15以下である。ニッケルは、後述する作製方法における熱処理を行った後、XPSで検出されない場合がある。
【0115】
また本発明の一態様の正極活物質において、後述する作製方法を行うことにより、ステップS24で用いる複合酸化物と比較して炭酸を含む結合が減少する場合がある。
【0116】
<EDX>
EDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することをEDX面分析と呼ぶ場合がある。またEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価することを線分析と呼ぶ場合がある。
【0117】
EDX面分析(例えば元素マッピング)により、内部、表層部および結晶粒界近傍における、マグネシウムおよびフッ素の濃度を定量的に分析することができる。また、EDX線分析により、マグネシウムおよびフッ素の濃度のピークを分析することができる。EDXの濃度の単位は例えば原子%である。
【0118】
正極活物質100が有する粒子101についてEDX線分析をしたとき、粒子101の表面からの距離が20nm以上200nm以下である第1の領域において、EDX分析でのアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.04倍以上1.6倍未満が好ましい。また、粒子101の表面からの距離が1μm以上3μm以下である第2の領域において、EDX分析でのアルミニウムの原子数はコバルトの原子数の0.03倍未満であることが好ましい。
【0119】
より具体的なEDX分析の方法として例えば、FIBを用いて加工して粒子の断面を露出させ、TEM-EDX分析により分析する方法を挙げることができる。
【0120】
[正極活物質の構造の一例]
図4および
図5を用いて、正極活物質について説明する。
図4および
図5では、正極活物質が有する遷移金属としてコバルトを用いる場合について述べる。
【0121】
図5に示す正極活物質は、後述する作製方法にてハロゲンおよびマグネシウムが添加されないコバルト酸リチウム(LiCoO
2)である。
図5に示すコバルト酸リチウムは、非特許文献1および非特許文献2等で述べられているように、充電深度によって結晶構造が変化する。
【0122】
図5に示すように、充電深度0(放電状態)であるコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する領域を有し、ユニットセル中にCoO
2層が3層存在する。そのためこの結晶構造を、O3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO
2層とはコバルトに酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。
【0123】
また充電深度1のときは、空間群P-3m1の結晶構造を有し、ユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型結晶構造と呼ぶ場合がある。
【0124】
また充電深度が0.88程度のときのコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、P-3m1(O1)のようなCoO
2の構造と、R-3m(O3)のようなLiCoO
2の構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし
図5をはじめ本明細書では、他の構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0125】
H1-3型結晶構造は一例として、非特許文献3に記載があるように、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。このようにH1-3型結晶構造は、1つのコバルトおよび2つの酸素を用いたユニットセルにより表される。一方、後述するように、本発明の一態様の擬スピネル型の結晶構造は好ましくは、1つのコバルトおよび1つの酸素を用いたユニットセルにより表される。これは、擬スピネルの構造の場合とH1-3型構造の場合では、コバルトと酸素との対称性が異なり、擬スピネルの構造の方が、H1-3型構造に比べてO3の構造からの変化が小さいことを示す。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すのがより好ましいか、の選択は例えば、XRDのリートベルト解析において、GOF(good of fitness)の値がより小さくなるように選択すればよい。
【0126】
充電電圧がリチウム金属の酸化還元電位を基準に4.6V以上になるような高電圧の充電、あるいは充電深度が0.8以上になるような深い深度の充電と、放電とを繰り返すと、コバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m(O3)の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり、非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0127】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO
2層のずれが大きい。
図5に点線および矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO
2層がR-3m(O3)から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。
【0128】
さらに体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のO3型結晶構造の体積の差は3.0%以上である。
【0129】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、P-3m1(O1)のようなCoO2層が連続した構造は不安定である可能性が高い。
【0130】
そのため、高電圧の充放電を繰り返すとコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるためだと考えられる。
【0131】
本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充放電の繰り返しにおいて、CoO2層のずれを小さくすることができる。さらに、体積の変化を小さくすることができる。よって、本発明の一態様の正極活物質は、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態において安定な結晶構造を取り得る。よって、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態を保持した場合において、ショートが生じづらい場合がある。そのような場合には安全性がより向上するため、好ましい。
【0132】
本発明の一態様の正極活物質では、十分に放電された状態と、高電圧で充電された状態における、結晶構造の変化および同数の遷移金属原子あたりで比較した場合の体積の差が小さい。
【0133】
正極活物質100の充放電前後の結晶構造の一例を、
図4に示す。
【0134】
図4の充電深度0(放電状態)の結晶構造は、
図5と同じR-3m(O3)である。一方、正極活物質100は、十分に充電された充電深度の場合、H1-3型結晶構造とは異なる構造の結晶を有する。本構造は、空間群R-3mであり、スピネル型結晶構造ではないものの、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占め、陽イオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。よって、本構造を本明細書等では擬スピネル型の結晶構造と呼ぶ。なお、
図4に示されている擬スピネル型の結晶構造の図では、コバルト原子の対称性と酸素原子の対称性について説明するために、リチウムの表示を省略しているが、実際はCoO
2層の間にコバルトに対して例えば20原子%以下のリチウムが存在する。また、O3型結晶構造および擬スピネル型の結晶構造のいずれの場合も、CoO
2層の間、つまりリチウムサイトに、希薄にマグネシウムが存在することが好ましい。また、酸素サイトに、ランダムかつ希薄に、フッ素等のハロゲンが存在することが好ましい。
【0135】
なお、擬スピネル型の結晶構造は、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。
【0136】
また擬スピネル型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl2型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06NiO2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0137】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。擬スピネル型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。これらが接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(最も単純な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶、擬スピネル型結晶、および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。
【0138】
正極活物質100では、高電圧で充電し多くのリチウムが離脱したときの、結晶構造の変化が、従来の正極活物質よりも抑制されている。例えば、
図4中に点線で示すように、これらの結晶構造ではCoO
2層のずれがほとんどない。
【0139】
より詳細に説明すれば、正極活物質100は、充電電圧が高い場合にも構造の安定性が高い。例えば、
図5に示す従来の正極活物質においてはH1-3型結晶構造となる充電電圧、例えばリチウム金属の電位を基準として4.6V程度の電圧においてもR-3m(O3)の結晶構造を保持できる充電電圧の領域が存在し、さらに充電電圧を高めた領域、例えばリチウム金属の電位を基準として4.65V乃至4.7V程度の電圧においても擬スピネル型の結晶構造を取り得る領域が存在する。さらに充電電圧を高めるとようやく、H1-3型結晶が観測される場合がある。なお、二次電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合には、例えば二次電池の電圧が4.3V以上4.5V以下においてもR-3m(O3)の結晶構造を保持できる充電電圧の領域が存在し、さらに充電電圧を高めた領域、例えばリチウム金属の電位を基準として4.35V以上4.55V以下においても擬スピネル型の結晶構造を取り得る領域が存在する。
【0140】
そのため、正極活物質100においては、高電圧で充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい。
【0141】
なお擬スピネル型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。
【0142】
CoO2層間、つまりリチウムサイトにランダムかつ希薄に存在するマグネシウムは、CoO2層のずれを抑制する効果がある。そのためCoO2層間にマグネシウムが存在すると、擬スピネル型の結晶構造になりやすい。そのためマグネシウムは正極活物質100の粒子全体に分布していることが好ましい。またマグネシウムを粒子全体に分布させるために、正極活物質100の作製工程において、加熱処理を行うことが好ましい。
【0143】
しかしながら、加熱処理の温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じてマグネシウムがコバルトサイトに入る可能性が高まる。マグネシウムがコバルトサイトに存在すると、R-3mの構造を保つ効果がなくなってしまう。さらに、加熱処理の温度が高すぎると、コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念される。
【0144】
そこで、マグネシウムを粒子全体に分布させるための加熱処理よりも前に、コバルト酸リチウムにフッ素化合物等のハロゲン化合物を加えておくことが好ましい。ハロゲン化合物を加えることでコバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることで、カチオンミキシングが生じにくい温度で、マグネシウムを粒子全体に分布させることが容易となる。さらにフッ素化合物が存在すれば、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することが期待できる。
【0145】
なお、マグネシウム濃度を所望の値以上に高くすると、結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。マグネシウムが、リチウムサイトに加えて、コバルトサイトにも入るようになるためと考えられる。
【0146】
<充電方法>
ある複合酸化物が、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するための高電圧充電は、例えば対極リチウムでコインセル(CR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して充電することができる。
【0147】
より具体的には、正極には、正極活物質、導電助剤およびバインダを混合したスラリーを、アルミニウム箔の正極集電体に塗工したものを用いることができる。
【0148】
対極にはリチウム金属を用いることができる。なお対極にリチウム金属以外の材料を用いたときは、二次電池の電位と正極の電位が異なる。本明細書等における電圧および電位は、特に言及しない場合、正極の電位である。
【0149】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2wt%で混合されたものを用いることができる。
【0150】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いることができる。
【0151】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いることができる。
【0152】
上記条件で作製したコインセルを、4.6V、0.5Cで定電流充電し、その後電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電する。なおここでは1Cは137mA/gとする。温度は25℃とする。このようにして充電した後に、コインセルをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体して正極を取り出せば、高電圧で充電された正極活物質を得られる。この後に各種分析を行う際、外界成分との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気で密封することが好ましい。例えばXRDは、アルゴン雰囲気の密閉容器内に封入して行うことができる。
【0153】
<XRD>
擬スピネル型の結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα1線による理想的な粉末XRDパターンを
図6に示す。また比較のため充電深度0のLiCoO
2(O3)と、充電深度1のCoO
2(O1)の結晶構造から計算される理想的なXRDパターンも示す。なお、LiCoO
2(O3)およびCoO
2(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)(非特許文献5参照)より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step size=0.01、波長λ1=1.540562×10
-10m、λ2は設定なし、Monochromatorはsingleとした。H1-3型結晶構造のパターンは非特許文献3に記載の結晶構造情報から同様に作成した。擬スピネル型の結晶構造のパターンは本発明の一態様の正極活物質のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングし、他と同様にXRDパターンを作成した。
【0154】
図6に示すように、擬スピネル型の結晶構造では、2θ=19.30±0.20°(19.10°以上19.50°以下)、および2θ=45.55±0.10°(45.45°以上45.65°以下)に回折ピークが出現する。より詳しく述べれば、2θ=19.30±0.10°(19.20°以上19.40°以下)、および2θ=45.55±0.05°(45.50°以上45.60°以下)に鋭い回折ピークが出現する。しかしH1-3型結晶構造およびCoO
2(P-3m1、O1)ではこれらの位置にピークは出現しない。そのため、高電圧で充電された状態で2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°のピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100の特徴であるといえる。
【0155】
これは、充電深度0の結晶構造と、高電圧充電したときの結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、両者の主な回折ピークのうち2つ以上、より好ましくは3つ以上において、ピークが出現する位置の差が、2θ=0.7以下、より好ましくは2θ=0.5以下であるということができる。
【0156】
なお、本発明の一態様の正極活物質100は高電圧で充電したとき擬スピネル型の結晶構造を有するが、粒子のすべてが擬スピネル型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリートベルト解析を行ったとき、擬スピネル型の結晶構造が50wt%以上であることが好ましく、60wt%以上であることがより好ましく、66wt%以上であることがさらに好ましい。擬スピネル型の結晶構造が50wt%以上、より好ましくは60wt%以上、さらに好ましくは66wt%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0157】
また、測定開始から100サイクル以上の充放電を経ても、リートベルト解析を行ったとき擬スピネル型の結晶構造が35wt%以上であることが好ましく、40wt%以上であることがより好ましく、43wt%以上であることがさらに好ましい。
【0158】
また、正極活物質の粒子が有する擬スピネル型の結晶構造の結晶子サイズは、放電状態のLiCoO2(O3)の1/10程度までしか低下しない。そのため、充放電前の正極と同じXRDの測定条件であっても、高電圧充電後に明瞭な擬スピネル型の結晶構造のピークが確認できる。一方単純なLiCoO2では、一部が擬スピネル型の結晶構造に似た構造を取りえたとしても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。結晶子サイズは、XRDピークの半値幅から求めることができる。
【0159】
<dQ/dVvsV曲線>
また、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧で充電した後、例えば0.2C以下の低いレートで放電すると、放電終了間近に特徴的な電圧の変化が表れることがある。この変化は、放電曲線から求めたdQ/dVvsV曲線において、3.5Vから3.9Vの範囲に、少なくとも1つのピークが存在することで明瞭に確かめることができる。
【0160】
[第一原理計算]
次に、本発明の一態様の正極活物質において、マグネシウムの添加により結晶構造の安定性等がどのように変化するか、第一原理計算により見積もった。
【0161】
前述のO3型結晶構造とH1-3型結晶構造において、それぞれリチウムを脱離させた場合のエネルギーの変化について、第一原理計算を用いて計算した。またそれぞれの結晶構造において、リチウムサイトのリチウムを2%、マグネシウムに置換した場合についても計算を行った。
【0162】
第一原理計算を用いて格子および原子位置を最適化し、エネルギーを求めた。ソフトウェアとしてVASP(The Vienna Ab initio simulation package)を用いた。また、汎関数にはLDA(局所密度近似(Local density approximation))+Uを用いた。コバルトのUポテンシャルは4.91とした。電子状態擬ポテンシャルにはPAW(Projector Augmented Wave)法により生成されたポテンシャルを用いた。カットオフエネルギーは600eVとした。k点は1×1×1メッシュを用いてサンプリングした。ここで、Uポテンシャルについては非特許文献6および非特許文献7を参照することができる。
【0163】
計算に用いた原子数は、マグネシウム添加無の場合には、リチウムが(48-x)個、コバルトが48個、酸素が96個、マグネシウム添加有の場合には、リチウムが(47-x)個、マグネシウムが1個、コバルトが48個、酸素が96個である。xは脱離させたリチウム原子の個数である。
【0164】
本明細書等では、このようにして求められるエネルギーを安定化エネルギーと呼ぶ場合がある。
【0165】
リチウムサイトにマグネシウムを1個置換した結晶構造モデルからリチウムをx個脱離させた結晶構造モデルのエネルギーの差ΔEは以下の数式1により計算することができる。
【0166】
【0167】
ここでEtotal(Li47Mg1Co48O96)はLi48Co48O96のリチウム原子1個をMgに置換した構造のエネルギー、Etotal(Li47-xMg1Co48O96)はLi48Co48O96のリチウム原子1個をMgに置換し、リチウム原子をx個脱離させた構造のエネルギー、Eatom(Li)はリチウム原子1個のエネルギー、Eatom(Co)はコバルト原子1個のエネルギー、Eatom(Mg)はマグネシウム原子1個のエネルギーである。また上記数式1はリチウム原子1個をマグネシウム原子に置換した結晶構造モデルであるが、リチウム原子をマグネシウム原子に置換しないモデルについても同様に計算を行った。
【0168】
【0169】
図7Aの横軸はリチウムサイトの占有率、縦軸はエネルギー差ΔEを示す。
図7Bは、
図7A内に鎖線で示す、リチウムサイトの占有率が0%の時にエネルギー差ΔEが6eVとなる直線と、計算結果との差を縦軸にプロットした図である。二次電池の充電により正極活物質のリチウムは脱離する。よって、リチウムサイトの占有率が低下する際のエネルギーを計算することにより、充電によりリチウムが脱離した状態を考察することができる。
【0170】
図7Aおよび
図7Bに示すように、リチウムサイトの占有率が低下するとエネルギー差ΔEが上昇し、結晶構造が不安定になる。また、
図7Bからわかるように、O3型結晶構造とH1-3型結晶構造のエネルギーが交差し、その交点で相変化が生じることが示唆される。マグネシウムを1原子置換した構造においてはO3型結晶構造とH1-3型結晶構造の交点が観測されるリチウムサイトの占有率が、マグネシウムを置換していない構造に比べて低い。すなわち、相変化が生じずにより多くのリチウムを脱離させることができることが示唆される。
【0171】
図7Aおよび
図7Bに示す計算結果より、マグネシウムを添加することにより、高い充電電圧における正極活物質の充電が安定になるといえる。
【0172】
図8の横軸はリチウムサイトの占有率、縦軸はc軸の格子定数を表す。リチウムサイトの占有率の低下に伴いc軸の格子定数は増加し、その後、減少する様子がみられた。
【0173】
図9には本発明の一態様の正極活物質において、XRDの実測値から算出したc軸の値と、リチウムサイトの占有率の関係を示す。ここでコバルト酸リチウムの理論容量を274mAh/gとした。
図9より計算結果との現象の一致がみられている。
【0174】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0175】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を示す。
【0176】
[正極活物質の作製方法の一例]
次に、
図10を用いて、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例について説明する。
【0177】
<ステップS11>
ステップS11として、まず混合物902の材料である、フッ素源や塩素源等のハロゲン源およびマグネシウム源を用意する。これらに加えてリチウム源を用意してもよい。
【0178】
フッ素源としては、例えばフッ化リチウム、フッ化マグネシウム等を用いることができる。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述するアニール工程で溶融しやすいため好ましい。塩素源としては、例えば塩化リチウム、塩化マグネシウム等を用いることができる。マグネシウム源としては、例えばフッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等を用いることができる。リチウム源としては、例えばフッ化リチウム、炭酸リチウムを用いることができる。つまり、フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用いることができる。またフッ化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。
【0179】
本実施の形態では、フッ素源としてフッ化リチウムLiFを用意し、フッ素源およびマグネシウム源としてフッ化マグネシウムMgF2を用意することとする。フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF2は、LiF:MgF2=65:35(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる(非特許文献4)。一方、フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF2のモル比は、LiF:MgF2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF2=x:1(x=0.33近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において近傍とは、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0180】
また、次の混合および粉砕工程を湿式で行う場合は、溶媒を用意する。溶媒としてはアセトン等のケトン、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本実施の形態では、アセトンを用いることとする。
【0181】
<ステップS12>
次に、ステップS12として、上記の混合物902の材料を混合および粉砕する。混合は乾式または湿式で行うことができるが、湿式はより小さく粉砕することができるため好ましい。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。この混合および粉砕工程を十分に行い、混合物902を微粉化することが好ましい。
【0182】
<ステップS13>
次に、ステップS13において、上記で混合、粉砕した材料を回収し、混合物902を得る。
【0183】
混合物902は、例えば平均粒子径(D50)が600nm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。このように微粉化された混合物902ならば、後の工程でリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と混合したときに、複合酸化物の粒子の表面に混合物902を均一に付着させやすい。複合酸化物の粒子の表面に混合物902が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物粒子の表層部にもれなくハロゲンおよびマグネシウムを分布させやすいため好ましい。表層部にハロゲンおよびマグネシウムが含まれない領域があると、充電状態において前述の擬スピネル型の結晶構造になりにくいおそれがある。
【0184】
次に、ステップS21乃至ステップS24を経て、金属A、金属Mおよび酸素を有する複合酸化物を得る。
【0185】
<ステップS21>
まずステップS21として、金属A、金属Mおよび酸素を有する複合酸化物の材料として、金属A源および金属M源を用意する。
【0186】
金属Aとしてリチウムを用いる例について説明する。リチウム源としては、例えば炭酸リチウム、フッ化リチウム等を用いることができる。
【0187】
金属Mとしては例えば、コバルト、マンガン、ニッケルの少なくとも一を用いることができる。
【0188】
正極活物質として層状岩塩型の結晶構造を用いる場合、材料の比は、層状岩塩型をとりうるコバルト、マンガン、ニッケルの混合比とすればよい。また、層状岩塩型の結晶構造をとりうる範囲で、これらの遷移金属にアルミニウムを加えてもよい。
【0189】
金属M源としては、金属Mとして例示した上記金属の酸化物、水酸化物等を用いることができる。コバルト源としては、例えば酸化コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。マンガン源としては、酸化マンガン、水酸化マンガン等を用いることができる。ニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、等を用いることができる。
【0190】
<ステップS22>
次にステップS22として、上記の金属A源および金属M源を混合する。混合は乾式または湿式で行うことができる。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。
【0191】
<ステップS23>
次にステップS23として、上記で混合した材料を加熱する。本工程は、後の加熱工程との区別のために、焼成または第1の加熱という場合がある。加熱は800℃以上1100℃未満で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、出発材料の分解および溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、金属Mとして用いる、酸化還元反応を有する金属が過剰に還元される、金属Aが蒸散するなどの原因で欠陥が生じるおそれがある。例えば金属Mとしてコバルトを用いた場合、コバルトが2価となる欠陥が生じうる。
【0192】
加熱時間は、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。焼成は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気(例えば露点-50℃以下、より好ましくは-100℃以下)で行うことが好ましい。例えば1000℃で10時間加熱することとし、昇温は200℃/h、乾燥雰囲気の流量は10L/minとすることが好ましい。その後加熱した材料を室温まで冷却することができる。例えば規定温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0193】
ただし、ステップS23における室温までの冷却は必須ではない。その後のステップS24およびステップS31乃至ステップS33の工程を行うのに問題がなければ、冷却は室温より高い温度までとしてもよい。
【0194】
なお、正極活物質が有する金属については、上述のステップS22およびステップS23において導入してもよいし、金属のうち一部については後述するステップS41乃至ステップS44において導入することもできる。より具体的には、ステップS22およびステップS23において金属M1(M1はコバルト、マンガン、ニッケルおよびアルミニウムより選ばれる一以上)を導入し、ステップS41乃至ステップS44において金属M2(M2は例えば、マンガンニッケルおよびアルミニウムより選ばれる一以上)を導入する。このように、金属M1と金属M2を導入する工程を分けることにより、それぞれの金属の深さ方向のプロファイルを変えることができる場合がある。例えば、粒子の内部に比べて表層部で金属M2の濃度を高めることができる。また、金属M1の原子数を基準とし、該基準に対する金属M2の原子数の比を、内部よりも表層部において、より高くすることができる。
【0195】
本発明の一態様の正極活物質において好ましくは、金属M1としてコバルトを選択し、金属M2としてニッケルおよびアルミニウムを選択する。
【0196】
<ステップS24>
次にステップS24として、上記で焼成した材料を回収し、金属A、金属Mおよび酸素を有する複合酸化物を得る。具体的には、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、またはニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムなどを得る。
【0197】
また、ステップS24としてあらかじめ合成された金属A、金属Mおよび酸素を有する複合酸化物を用いてもよい。この場合、ステップS21乃至ステップS23を省略することができる。
【0198】
例えば、あらかじめ合成された複合酸化物として、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム粒子(商品名:セルシードC-10N)を用いることができる。これは平均粒子径(D50)が約12μmであり、グロー放電質量分析法(GD-MS)による不純物分析において、マグネシウム濃度およびフッ素濃度が50ppm wt以下、カルシウム濃度、アルミニウム濃度およびシリコン濃度が100ppm wt以下、ニッケル濃度が150ppm wt以下、硫黄濃度が500ppm wt以下、ヒ素濃度が1100ppm wt以下、その他のリチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度が150ppm wt以下である、コバルト酸リチウムである。
【0199】
または、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム粒子(商品名:セルシードC-5H)を用いることもできる。これは平均粒子径(D50)が約6.5μmであり、GD-MSによる不純物分析において、リチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度がC-10Nと同程度かそれ以下である、コバルト酸リチウムである。
【0200】
本実施の形態では、金属Mとしてコバルトを用い、あらかじめ合成されたコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製セルシードC-10N)を用いることとする。
【0201】
<ステップS31>
次にステップS31として、混合物902と、ステップS24で得られる複合酸化物と、を混合する。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物中の遷移金属の原子数TMと、混合物902が有するマグネシウムの原子数MgMix1との比は、TM:MgMix1=1:y(0.001≦y≦0.06)であることが好ましく、TM:MgMix1=1:y(0.003≦y≦0.03)であることがより好ましい。
【0202】
ステップS31の混合は、複合酸化物の粒子を破壊しないためにステップS12の混合よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。
【0203】
<ステップS32>
次にステップS32として、上記で混合した材料を回収し、混合物903を得る。
【0204】
なお、本実施の形態ではフッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの混合物を、不純物の少ないコバルト酸リチウムに添加する方法について説明しているが、本発明の一態様はこれに限らない。ステップS33の混合物903の代わりに、コバルト酸リチウムの出発材料にマグネシウム源およびフッ素源を添加して焼成したものを用いてもよい。この場合は、ステップS11乃至ステップS14の工程と、ステップS21乃至ステップS24の工程を分ける必要がないため簡便で生産性が高い。
【0205】
または、あらかじめマグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いてもよい。マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いれば、ステップS32までの工程を省略することができより簡便である。
【0206】
さらに、あらかじめマグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムに、さらにマグネシウム源およびフッ素源を添加してもよい。
【0207】
<ステップS33>
次にステップS33として、混合物903を加熱する。本工程は、先の加熱工程との区別のために、アニールまたは第2の加熱という場合がある。
【0208】
アニールは、適切な温度および時間で行うことが好ましい。適切な温度および時間は、ステップS24のリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物の粒子の大きさおよび組成等の条件により変化する。粒子が小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。
【0209】
例えばステップS24の粒子の平均粒子径(D50)が12μm程度の場合、アニール温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば3時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましく、60時間以上がさらに好ましい。
【0210】
一方、ステップS24の粒子の平均粒子径(D50)が5μm程度の場合、アニール温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば1時間以上10時間以下が好ましく、2時間程度がより好ましい。
【0211】
アニール後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0212】
ステップS33においてアニール温度が高すぎると、粒子が焼結する場合がある。
【0213】
混合物903をアニールすると、まず混合物902のうち融点の低い材料(例えばフッ化リチウム、融点848℃)が溶融し、複合酸化物粒子の表層部に分布すると考えられる。次に、この溶融した材料の存在により他の材料の融点降下が起こり、他の材料が溶融すると推測される。例えば、フッ化マグネシウム(融点1263℃)が溶融し、複合酸化物粒子の表層部に分布すると考えられる。
【0214】
そして表層部に分布した混合物902が有する元素は、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物中に固溶すると考えられる。
【0215】
この混合物902が有する元素の拡散は、複合酸化物粒子の内部よりも、表層部および粒界近傍の方が速い。そのためマグネシウムおよびハロゲンは、表層部および粒界近傍において、内部よりも高濃度となる。後述するが表層部および粒界近傍のマグネシウム濃度が高いと、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0216】
<ステップS34>
次にステップS34として上記でアニールした材料を回収し、第2の複合酸化物を得る。
【0217】
次に、ステップS34において得られる複合酸化物にさらなる処理を施す。ここでは金属M2を添加するための処理を行う。該処理をステップS24よりも後に行うことにより、正極活物質の粒子表層部における金属M2の濃度を内部に比べて高くすることができる場合があり、好ましい。
【0218】
また金属M2の添加は例えば、ステップS31において、混合物902等とともに金属M2を有する材料を混合することにより行ってもよい。この場合は工程数を減らして簡略化できるため好ましい。
【0219】
あるいは、以降に説明する通り、ステップS31乃至ステップS33の後に金属M2の添加工程を行ってもよい。この場合は例えば、マグネシウムと金属M2との化合物の形成を抑制できる場合がある。
【0220】
以下に示すステップS41乃至ステップS43を経て、本発明の一態様の正極活物質において、金属M2を添加する。金属M2の添加は例えば、ゾル-ゲル法をはじめとする液相法、固相法、スパッタリング法、蒸着法、CVD(化学気相成長)法、PLD(パルスレーザデポジション)法等の方法を適用することができる。
【0221】
<ステップS41>
まずステップS41として、金属源を準備する。また、ゾル-ゲル法を適用する場合には、ゾル-ゲル法に用いる溶媒を準備する。金属源としては、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属酸化物、等を用いることができる。金属M2がアルミニウムの場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、金属源が有するアルミニウムの原子数の相対値が0.005以上0.02以下となればよい。金属M2がアルミニウムに加えてニッケルを有する場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、金属源が有するニッケルの原子数の相対値が0.0005以上0.02以下となればよい。
【0222】
ここでは一例として、ゾル-ゲル法を適用し、金属源としてアルミニウムイソプロポキシドを、溶媒としてイソプロパノールを用いる例を示す(
図10のステップS41)。
【0223】
<ステップS42>
次にステップS42として、アルミニウムアルコキシドをアルコールに溶解させ、さらにコバルト酸リチウム粒子を混合する。
【0224】
次に、金属アルコキシドのアルコール溶液とコバルト酸リチウムの粒子の混合液を、水蒸気を含む雰囲気下で撹拌する。撹拌はたとえばマグネチックスターラーで行うことができる。撹拌時間は、雰囲気中の水と金属アルコキシドが加水分解および重縮合反応を起こすのに十分な時間であればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH(Relative Humidity、相対湿度)の条件下で行うことができる。また、湿度制御、および温度制御がされていない雰囲気下、例えばドラフトチャンバー内の大気雰囲気下において攪拌を行ってもよい。そのような場合には攪拌時間をより長くすることが好ましく、例えば室温において12時間以上、とすればよい。
【0225】
雰囲気中の水蒸気と金属アルコキシドを反応させることで、液体の水を加える場合よりもゆっくりとゾル-ゲル反応を進めることができる。また常温で金属アルコキシドと水を反応させることで、たとえば溶媒のアルコールの沸点を超える温度で加熱を行う場合よりもゆっくりとゾル-ゲル反応を進めることができる。ゆっくりとゾル-ゲル反応を進めることで、厚さが均一で良質な被覆層を形成することができる。
【0226】
例えば、金属M2としてアルミニウムを添加する場合には、金属M2の原子数の相対値は例えば金属M1と金属M2の和に対して、0.0005以上0.02以下が好ましく、0.001以上0.015以下がより好ましく、0.001以上0.009以下がより好ましい。金属M2としてニッケルを添加する場合には、金属M2の原子数の相対値は例えば金属M1と金属M2の和に対して、0.0005以上0.02以下が好ましく、0.001以上0.015以下がより好ましく、0.001以上0.009以下がより好ましい。
【0227】
<ステップS43>
次にステップS43として、上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収し、回収した残渣合を乾燥し、混合物904を得る。沈殿物の回収方法としては、ろ過、遠心分離、蒸発乾固等を適用することができる。沈殿物は金属アルコキシドを溶解させた溶媒と同じアルコールで洗浄することができる。乾燥工程は例えば、80℃で1時間以上4時間以下、真空または通風乾燥することができる。なお、蒸発乾固を適用する場合には、本ステップにおいては溶媒と沈殿物の分離を行なわなくてもよく、例えば次のステップ(ステップS44)の焼成工程において、沈殿物を回収すればよい。
【0228】
<ステップS44>
次にステップS44として、得られた混合物904を焼成する。
【0229】
焼成時間は、規定温度の範囲内での保持時間を1時間以上50時間以下とすることが好ましく、2時間以上20時間以下がより好ましい。焼成時間が短すぎると表層部に形成される金属M2を有する化合物の結晶性が低い場合がある。あるいは、金属M2の拡散が不充分となる場合がある。あるいは有機物が表面に残存する場合がある。しかし焼成時間が長すぎると、金属M2の拡散が進みすぎて表層部および結晶粒界近傍の濃度が低くなる恐れがある。また、生産性が低下する。
【0230】
規定温度としては500℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上920℃以下がより好ましく、800℃以上900℃以下がさらに好ましい。規定温度が低すぎると表層部に形成される金属M2を有する化合物の結晶性が低い場合がある。あるいは、金属M2の拡散が不充分となる場合がある。あるいは有機物が表面に残存する場合がある。
【0231】
また、焼成は酸素を含む雰囲気で行うことが好ましい。酸素分圧が低い場合、焼成温度をより低くしないとCoが還元するおそれがある。
【0232】
本実施の形態では、規定温度を850℃として2時間保持することとし、昇温は200℃/h、酸素の流量は10L/minとする。
【0233】
焼成後の冷却は、冷却時間を長くとると、結晶構造を安定させやすく好ましい。たとえば、規定温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。ここで、ステップS44における焼成温度は、ステップS33における焼成温度よりも低い、ことが好ましい。
【0234】
<ステップS45>
次にステップS45として、冷却された粒子を回収し、本発明の一態様の正極活物質100を作製することができる。このとき、回収された粒子をさらに、ふるいにかけることが好ましい。
【0235】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0236】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質を有する二次電池に用いることのできる材料の例について説明する。
【0237】
<二次電池の構成例1>
以下に、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0238】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0239】
<正極活物質層>
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を有する。また、正極活物質層は、正極活物質に加えて、活物質表面の被膜、導電助剤またはバインダなどの他の物質を含んでもよい。
【0240】
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることができる。先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
【0241】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることができる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
【0242】
導電助剤により、活物質層中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤により、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる。
【0243】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を用いることができる。
【0244】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0245】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いることにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。スプレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤であるグラフェン化合物を被膜として形成することが好ましい。また、電気的な抵抗を減少できる場合があるため好ましい。ここでグラフェン化合物として例えば、グラフェン、マルチグラフェン、又はRGOを用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン(graphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0246】
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積が大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多くなりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持量が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤としてグラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成することができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0247】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合の断面構成例を説明する。
【0248】
図11Aに、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェンを用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好ましい。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複数のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0249】
活物質層200の縦断面においては、
図11Bに示すように、活物質層200の内部において概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。
図11Bにおいてはグラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活物質100を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。
【0250】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の容量を増加させることができる。
【0251】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を蒸発除去し、酸化グラフェンを還元するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行ってもよい。
【0252】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よりも少量で粒状の正極活物質100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させることができる。よって、正極活物質100の活物質層200における比率を増加させることができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0253】
また、予め、スプレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤であるグラフェン化合物を被膜として形成し、さらに活物質同士間をグラフェン化合物で導電パスを形成することもできる。
【0254】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0255】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉などを用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
【0256】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0257】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0258】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合することが好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよい。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉を用いることができる。
【0259】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書においては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、それらの塩も含むものとする。
【0260】
フッ素系樹脂は機械的強度に優れる、耐薬品性が高い、耐熱性が高い、等の利点がある。フッ素系樹脂の一であるPVDFは、フッ素系樹脂の中でも極めて優れた特性を有し、機械的強度を有し、加工性に優れ、耐熱性も高い。
【0261】
一方、PVDFは、活物質層を塗工する際に作製されるスラリーがアルカリ性になると、ゲル化する場合がある。あるいは不溶化する場合がある。バインダのゲル化や不溶化により、集電体と活物質層との密着性が低下してしまう場合がある。本発明の一態様の正極活物質を用いることにより、スラリーのpHを低下させ、ゲル化や不溶化を抑制できる場合があり好ましい。
【0262】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0263】
[正極の作製方法]
本発明の一態様の正極活物質を有する正極の作製方法の一例として、スラリーを作製し、該スラリーを塗工することにより電極を作製することができる。電極作製に用いるスラリーの作製方法の一例を述べる。
【0264】
ここで、スラリーの作製に用いる溶媒は、極性溶媒であることが好ましい。例えば、水、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)及びジメチルスルホキシド(DMSO)のいずれか一種又は二種以上の混合液を用いることができる。
【0265】
本発明の一態様の正極活物質が第1の粒子群と第2の粒子群を有する場合、第1の粒子群と第2の粒子群は所望の比率で混合されている。混合比率を第1の粒子群:第2の粒子群=1:w(重量比)とした場合、wは好ましくは0.01以上0.6以下、より好ましくは0.03以上0.6以下、さらに好ましくは0.04以上0.5以下、さらに好ましくは0.09以上0.3以下である。
【0266】
本発明の一態様の正極活物質は第1の粒子群と第2の粒子群の混合の割合に応じた粒度分布を有する場合がある。また、それぞれの粒子群の割合に応じて、それぞれの粒子群に対応する極大ピークの強度、あるいは面積は、その割合の比に応じた大きさの値を有する場合がある。また、一つの粒子群が有する極大ピークは1の場合もあるし、2以上の場合もある。2以上の場合には複数の極大ピークの和の面積を用いればよい場合がある。
【0267】
第1の粒子群および第2の粒子群が混合された正極活物質と、導電助剤と、結着剤と、溶媒と、を混合し、混合物Jを作製する。混合は常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。混合の工程において例えば、混練機を用いることができる。
【0268】
次に、混合物Jの粘度を測定する。その後、必要に応じて溶媒を添加し、粘度の調整を行う。以上の工程により、活物質層を塗工するためのスラリーを得る。
【0269】
ここで例えば、混合物Jの粘度がより高いほど、混合物内において、活物質、結着剤、および導電助剤の分散性が優れる(互いによく混じり合う)場合がある。よって、例えば混合物Jの粘度はより高いことが好ましい。一方、混合物Jの粘度が高すぎる場合には、例えば電極の塗工速度が低くなる場合があり、生産性の観点から好ましくない場合がある。
【0270】
次に、作製したスラリーを用いて、集電体上に活物質層を作製する方法について説明する。
【0271】
まず、集電体上に、スラリーを塗布する。ここで、スラリーを塗布する前に、集電体上に表面処理を行ってもよい。表面処理としては例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、アンダーコート処理等が挙げられる。ここでアンダーコートとは、集電体上にスラリーを塗布する前に、活物質層と集電体との界面抵抗を低減する目的や、活物質層と集電体との密着性を高める目的で集電体上に形成する膜を指す。なお、アンダーコートは、必ずしも膜状である必要はなく、島状に形成されていてもよい。また、アンダーコートが活物質として容量を発現しても構わない。アンダーコートとしては、例えば炭素材料を用いることができる。炭素材料としては例えば、黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック、カーボンナノチューブなどを用いることができる。
【0272】
スラリーの塗布には、スロットダイ方式、グラビア、ブレード法、およびそれらを組み合わせた方式等を用いることができる。また、塗布には連続塗工機などを用いてもよい。
【0273】
次に、スラリーの溶媒を蒸発させることにより、活物質層を形成することができる。
【0274】
スラリーの溶媒の蒸発工程は、50℃以上200℃以下、好ましくは60℃以上90℃以下の温度範囲で行うとよい。蒸発は例えば大気雰囲気の常圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。減圧雰囲気下で行うことにより蒸発時間を短縮できる場合がある。あるいは、蒸発温度を低くすることができる場合がある。
【0275】
蒸発工程はホットプレート、乾燥炉、等を用いて行うことができる。
【0276】
活物質層は集電体の両面に形成されていてもよいし、片面のみに形成されていてもよい。または、部分的に両面に活物質層が形成されている領域を有しても構わない。
【0277】
活物質層から溶媒を蒸発させた後、ロールプレス法や平板プレス法等の圧縮方法によりプレスを行うことが好ましい。
【0278】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0279】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0280】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0281】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0282】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
【0283】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0284】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0285】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
【0286】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
【0287】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0288】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物でも起こる。
【0289】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0290】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0291】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0292】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、二次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
【0293】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0294】
二次電池に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0295】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などの添加剤を添加してもよい。添加する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0296】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0297】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。
【0298】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。
【0299】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0300】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0301】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0302】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0303】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0304】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0305】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0306】
[外装体]
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0307】
<二次電池の構成例2>
以下に、二次電池の構成の一例として、固体電解質層を用いた二次電池の構成について説明する。
【0308】
図12Aに示すように、本発明の一態様の二次電池400は、正極410、固体電解質層420および負極430を有する。
【0309】
正極410は正極集電体413および正極活物質層414を有する。正極活物質層414は正極活物質411および固体電解質421を有する。また正極活物質層414は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0310】
固体電解質層420は固体電解質421を有する。固体電解質層420は、正極410と負極430の間に位置し、正極活物質411および負極活物質431のいずれも有さない領域である。
【0311】
負極430は負極集電体433および負極活物質層434を有する。負極活物質層434は負極活物質431および固体電解質421を有する。また負極活物質層434は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。なお、負極430に金属リチウムを用いる場合は、
図12Bのように、固体電解質421を有さない負極430とすることができる。負極430に金属リチウムを用いると、二次電池400のエネルギー密度を向上させることができ好ましい。
【0312】
また、
図13Aに示すように、正極410、固体電解質層420および負極430の組み合わせを積層した二次電池としてもよい。複数の正極410、固体電解質層420および負極430を積層することで、二次電池の電圧を高くすることができる。
図13Aは、正極410、固体電解質層420および負極430の組み合わせを4層積層した場合の概略図である。
【0313】
また本発明の一態様の二次電池は、薄膜型全固体電池であってもよい。薄膜型全固体電池は気相法(真空蒸着法、パルスレーザー堆積法、エアロゾルデポジション法、スパッタ法)を用いて正極、固体電解質、負極、配線電極等を成膜して作製することができる。たとえば
図13Bに薄膜型全固体電池450の例を示す。
図13Bに示すように、基板440上に配線電極441および配線電極442を形成した後、配線電極441上に正極410を形成し、正極410上に固体電解質層420を形成し、固体電解質層420および配線電極442上に負極430を形成して薄膜型全固体電池450を作製することができる。基板440としては、セラミックス基板、ガラス基板、プラスチック基板、金属基板などを用いることができる。
【0314】
固体電解質層420が有する固体電解質421としては、例えば硫化物系固体電解質、酸化物系固体電解質、ハロゲン化物系固体電解質等を用いることができる。
【0315】
硫化物系固体電解質には、チオシリコン系(Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4等)、硫化物ガラス(70Li2S・30P2S5、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・38SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、50Li2S・50GeS2等)、硫化物結晶化ガラス(Li7P3S11、Li3.25P0.95S4等)が含まれる。硫化物系固体電解質は、高い伝導度を有する材料がある、低い温度で合成可能、また比較的やわらかいため充放電を経ても導電経路が保たれやすい等の利点がある。
【0316】
酸化物系固体電解質には、ペロブスカイト型結晶構造を有する材料(La2/3-xLi3xTiO3等)、NASICON型結晶構造を有する材料(Li1-XAlXTi2-X(PO4)3等)、ガーネット型結晶構造を有する材料(Li7La3Zr2O12等)、LISICON型結晶構造を有する材料(Li14ZnGe4O16等)、LLZO(Li7La3Zr2O12)、酸化物ガラス(Li3PO4-Li4SiO4、50Li4SiO4・50Li3BO3等)、酸化物結晶化ガラス(Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3等)が含まれる。酸化物系固体電解質は、大気中で安定であるといった利点がある。
【0317】
ハロゲン化物系固体電解質には、LiAlCl4、Li3InBr6、LiF、LiCl、LiBr、LiI等が含まれる。また、これらハロゲン化物系固体電解質を、ポーラスアルミナやポーラスシリカの細孔に充填したコンポジット材料も固体電解質として用いることができる。
【0318】
また、異なる固体電解質を混合して用いてもよい。
【0319】
中でも、NASICON型結晶構造を有するLi1+xAlxTi2-x(PO4)3(0<x<1)(以下、LATP)は、アルミニウムとチタンという、本発明の一態様の正極活物質100が有してもよい元素を含むため、サイクル特性の向上について相乗効果が期待でき好ましい。また、工程の削減による生産性の向上も期待できる。なお本明細書等において、NASICON型結晶構造とは、M2(XO4)3(M:遷移金属、X:S、P、As、Mo、W等)で表される化合物であり、MO6八面体とXO4四面体が頂点を共有して3次元的に配列した構造を有するものをいう。
【0320】
[外装体と二次電池の形状]
本発明の一態様の二次電池400の外装体には、様々な材料および形状のものを用いることができるが、正極、固体電解質層および負極を加圧する機能を有することが好ましい。
【0321】
例えば
図14は、全固体電池の材料を評価するセルの一例である。
【0322】
図14Aは評価セルの断面模式図であり、評価セルは、下部部材761と、上部部材762と、それらを固定する固定ねじや蝶ナット764を有し、押さえ込みねじ763を回転させることで電極プレート753を押して評価材料を固定している。ステンレス材料で構成された下部部材761と、上部部材762との間には絶縁体766が設けられている。また上部部材762と、押さえ込みねじ763の間には密閉するためのOリング765が設けられている。
【0323】
評価材料は、電極プレート751に載せられ、周りを絶縁管752で囲み、上方から電極プレート753で押されている状態となっている。この評価材料周辺を拡大した斜視図が
図14Bである。
【0324】
評価材料としては、正極750a、固体電解質層750b、負極750cの積層の例を示しており、断面図を
図14Cに示す。なお、
図14A、
図14B、
図14Cにおいて同じ箇所には同じ符号を用いる。
【0325】
正極750aと電気的に接続される電極プレート751および下部部材761は、正極端子に相当するということができる。負極750cと電気的に接続される電極プレート753および上部部材762は、負極端子に相当するということができる。電極プレート751および電極プレート753を介して評価材料に押圧をかけながら電気抵抗などを測定することができる。
【0326】
また、本発明の一態様の二次電池の外装体には、気密性に優れたパッケージを使用することが好ましい。例えばセラミックパッケージや樹脂パッケージを用いることができる。また、外装体を封止する際には、外気を遮断し、密閉した雰囲気下、例えばグローブボックス内で行うことが好ましい。
【0327】
図15Aに、
図14と異なる外装体および形状を有する本発明の一態様の二次電池の斜視図を示す。
図15Aの二次電池は、外部電極771、772を有し、複数のパッケージ部材を有する外装体で封止されている。
【0328】
図15A中の一点破線で切断した断面の一例を
図15Bに示す。正極750a、固体電解質層750bおよび負極750cを有する積層体は、平板に電極層773aが設けられたパッケージ部材770aと、枠状のパッケージ部材770bと、平板に電極層773bが設けられたパッケージ部材770cと、で囲まれて封止された構造となっている。パッケージ部材770a、770b、770cには、絶縁材料、例えば樹脂材料やセラミックを用いることができる。
【0329】
外部電極771は、電極層773aを介して正極750aと電気的に接続され、正極端子として機能する。また、外部電極772は、電極層773bを介して負極750cと電気的に接続され、負極端子として機能する。
【0330】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0331】
(実施の形態4)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池の形状の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形態の記載を参酌することができる。
【0332】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。
図16Aはコイン型(単層偏平型)の二次電池の外観図であり、
図16Bは、その断面図である。
【0333】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。
【0334】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0335】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0336】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、
図16Bに示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0337】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0338】
ここで
図16Cを用いて二次電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用いた二次電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向きになる。なお、リチウムを用いた二次電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反応電位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書においては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、充電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負極は「負極」または「-極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソード(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
【0339】
図16Cに示す2つの端子には充電器が接続され、二次電池300が充電される。二次電池300の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。
【0340】
[円筒型二次電池]
次に円筒型の二次電池の例について
図17を参照して説明する。円筒型の二次電池600の外観図を
図17Aに示す。
図17Bは、円筒型の二次電池600の断面を模式的に示した図である。
図17Bに示すように、円筒型の二次電池600は、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0341】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を電池缶602に被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0342】
円筒型の蓄電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0343】
また、
図17Cのように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0344】
図17Dはモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を点線で示した。
図17Dに示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板を重畳して設けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していてもよい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのためモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。温度制御装置617が有する熱媒体は絶縁性と不燃性を有することが好ましい。
【0345】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0346】
[二次電池の構造例]
二次電池の別の構造例について、
図18乃至
図22を用いて説明する。
【0347】
図18A及び
図18Bは、二次電池の外観図を示す図である。二次電池913は、回路基板900を介して、アンテナ914、及びアンテナ915に接続されている。また、二次電池913には、ラベル910が貼られている。さらに、
図18Bに示すように、二次電池913は、端子951と、端子952と、に接続されている。
【0348】
回路基板900は、端子911と、回路912と、を有する。端子911は、端子951、端子952、アンテナ914、アンテナ915、及び回路912に接続される。なお、端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子などとしてもよい。
【0349】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914及びアンテナ915は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。又は、アンテナ914若しくはアンテナ915は、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アンテナ914若しくはアンテナ915を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0350】
アンテナ914の線幅は、アンテナ915の線幅よりも大きいことが好ましい。これにより、アンテナ914により受電する電力量を大きくできる。
【0351】
二次電池は、アンテナ914及びアンテナ915と、二次電池913との間に層916を有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0352】
【0353】
【0354】
図19Aに示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914が設けられ、
図19Bに示すように、二次電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0355】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ918の両方のサイズを大きくすることができる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914に適用可能な形状のアンテナを適用することができる。アンテナ918を介した二次電池と他の機器との通信方式としては、NFC(近距離無線通信)など、二次電池と他の機器との間で用いることができる応答方式などを適用することができる。
【0356】
又は、
図19Cに示すように、
図18A及び
図18Bに示す二次電池913に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続される。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお、
図18A及び
図18Bに示す二次電池と同じ部分については、
図18A及び
図18Bに示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0357】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペーパーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0358】
又は、
図19Dに示すように、
図18A及び
図18Bに示す二次電池913にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に電気的に接続される。なお、
図18A及び
図18Bに示す二次電池と同じ部分については、
図18A及び
図18Bに示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0359】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい。センサ921を設けることにより、例えば、二次電池が置かれている環境を示すデータ(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0360】
さらに、二次電池913の構造例について
図20を用いて説明する。
【0361】
図20Aに示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、
図20Aでは、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0362】
なお、
図20Bに示すように、
図20Aに示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、
図20Bに示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0363】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナ914やアンテナ915などのアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
【0364】
さらに、捲回体950の構造について
図21に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0365】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して
図18に示す端子911に接続される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して
図18に示す端子911に接続される。
【0366】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0367】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、
図22乃至
図26を参照して説明する。ラミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることもできる。
【0368】
図22を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次電池980は、
図22Aに示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、
図21で説明した捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0369】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリード電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0370】
図22Bに示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム982とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納することで、
図22Cに示すように二次電池980を作製することができる。捲回体993は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有するフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0371】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する蓄電池を作製することができる。
【0372】
また、
図22Bおよび
図22Cでは2枚のフィルムを用いる例を示しているが、1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体993を収納してもよい。
【0373】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0374】
また
図22では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池980の例について説明したが、例えば
図23のように、外装体となるフィルムにより形成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としてもよい。
【0375】
図23Aに示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されている。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0376】
図23Aに示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0377】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0378】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を
図23Bに示す。
図23Aでは簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、
図23Bに示すように、複数の電極層で構成する。
【0379】
図23Bでは、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16としても二次電池500は、可撓性を有する。
図23Bでは負極集電体504が8層と、正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、
図23Bは負極の取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0380】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を
図24及び
図25に示す。
図24及び
図25は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。
【0381】
図26Aは正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、
図26Aに示す例に限られない。
【0382】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、
図24に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図26B、
図26Cを用いて説明する。
【0383】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図26Bに積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0384】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0385】
次に、
図26Cに示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0386】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508(図示しない。)を外装体509の内側へ導入する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0387】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0388】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について
図27および
図28を参照して説明する。
【0389】
図27Aに、曲げることのできる二次電池250の上面概略図を示す。
図27B、
図27C、
図27Dはそれぞれ、
図27A中の切断線C1-C2、切断線C3-C4、切断線A1-A2における断面概略図である。二次電池250は、外装体251と、外装体251の内部に収容された正極211aおよび負極211bを有する。正極211aと電気的に接続されたリード212a、および負極211bと電気的に接続されたリード212bは、外装体251の外側に延在している。また外装体251で囲まれた領域には、正極211aおよび負極211bに加えて電解液(図示しない)が封入されている。
【0390】
二次電池250が有する正極211aおよび負極211bについて、
図28を用いて説明する。
図28Aは、正極211a、負極211bおよびセパレータ214の積層順を説明する斜視図である。
図28Bは正極211aおよび負極211bに加えて、リード212aおよびリード212bを示す斜視図である。
【0391】
図28Aに示すように、二次電池250は、複数の短冊状の正極211a、複数の短冊状の負極211bおよび複数のセパレータ214を有する。正極211aおよび負極211bはそれぞれ突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極211aの一方の面のタブ以外の部分に正極活物質層が形成され、負極211bの一方の面のタブ以外の部分に負極活物質層が形成される。
【0392】
正極211aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極211bの負極活物質の形成されていない面同士が接するように、正極211aおよび負極211bは積層される。
【0393】
また、正極211aの正極活物質が形成された面と、負極211bの負極活物質が形成された面の間にはセパレータ214が設けられる。
図28では見やすくするためセパレータ214を点線で示す。
【0394】
また
図28Bに示すように、複数の正極211aとリード212aは、接合部215aにおいて電気的に接続される。また複数の負極211bとリード212bは、接合部215bにおいて電気的に接続される。
【0395】
【0396】
外装体251は、フィルム状の形状を有し、正極211aおよび負極211bを挟むように2つに折り曲げられている。外装体251は、折り曲げ部261と、一対のシール部262と、シール部263と、を有する。一対のシール部262は、正極211aおよび負極211bを挟んで設けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部263は、リード212a及びリード212bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶことができる。
【0397】
外装体251は、正極211aおよび負極211bと重なる部分に、稜線271と谷線272が交互に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体251のシール部262及びシール部263は、平坦であることが好ましい。
【0398】
図27Bは、稜線271と重なる部分で切断した断面であり、
図27Cは、谷線272と重なる部分で切断した断面である。
図27B、
図27Cは共に、二次電池250及び正極211aおよび負極211bの幅方向の断面に対応する。
【0399】
ここで、正極211aおよび負極211bの幅方向の端部、すなわち正極211aおよび負極211bの端部と、シール部262との間の距離を距離Laとする。二次電池250に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極211aおよび負極211bが長さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外装体251と正極211aおよび負極211bとが強く擦れ、外装体251が破損してしまう場合がある。特に外装体251の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電解液により腐食されてしまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定することが好ましい。一方で、距離Laを大きくしすぎると、二次電池250の体積が増大してしまう。
【0400】
また、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さが厚いほど、正極211aおよび負極211bと、シール部262との間の距離Laを大きくすることが好ましい。
【0401】
より具体的には、積層された正極211aおよび負極211bおよび図示しないがセパレータ214の合計の厚さをtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0倍以下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以下であることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに対する信頼性の高い電池を実現できる。
【0402】
また、一対のシール部262の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを正極211aおよび負極211bの幅(ここでは、負極211bの幅Wb)よりも十分大きくすることが好ましい。これにより、二次電池250に繰り返し曲げるなどの変形を加えたときに、正極211aおよび負極211bと外装体251とが接触しても、正極211aおよび負極211bの一部が幅方向にずれることができるため、正極211aおよび負極211bと外装体251とが擦れてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0403】
例えば、一対のシール部262の間の距離Lbと、負極211bの幅Wbとの差が、正極211aおよび負極211bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8倍以上5.0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下を満たすことが好ましい。
【0404】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式2の関係を満たすことが好ましい。
【0405】
【0406】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好ましくは1.0以上2.0以下を満たす。
【0407】
また、
図27Dはリード212aを含む断面であり、二次電池250、正極211aおよび負極211bの長さ方向の断面に対応する。
図27Dに示すように、折り曲げ部261において、正極211aおよび負極211bの長さ方向の端部と、外装体251との間に空間273を有することが好ましい。
【0408】
図27Eに、二次電池250を曲げたときの断面概略図を示している。
図27Eは、
図27A中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0409】
二次電池250を曲げると、曲げの外側に位置する外装体251の一部は伸び、内側に位置する他の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体251の外側に位置する部分は、波の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体251の内側に位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変形する。このように、外装体251が変形することにより、曲げに伴って外装体251にかかる応力が緩和されるため、外装体251を構成する材料自体が伸縮する必要がない。その結果、外装体251は破損することなく、小さな力で二次電池250を曲げることができる。
【0410】
また、
図27Eに示すように、二次電池250を曲げると、正極211aおよび負極211bとがそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極211aおよび負極211bは、シール部263側の一端が固定部材217で固定されているため、折り曲げ部261に近いほどずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正極211aおよび負極211bにかかる応力が緩和され、正極211aおよび負極211b自体が伸縮する必要がない。その結果、正極211aおよび負極211bが破損することなく二次電池250を曲げることができる。
【0411】
また、正極211aおよび負極211bと外装体251との間に空間273を有していることにより、曲げた時内側に位置する正極211aおよび負極211bが、外装体251に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0412】
図27および
図28で例示した二次電池250は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外装体の破損、正極211aおよび負極211bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化しにくい電池である。二次電池250が有する正極211aに、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、さらにサイクル特性に優れた電池とすることができる。
【0413】
図29Aは、3個のラミネート型の二次電池500を第1のプレート521と第2のプレート524の間に挟み、固定する様子を示す斜視図である。
図29Bに示すように固定器具525aおよび固定器具525bを用いて第1のプレート521と第2のプレート524との間の距離を固定することで、3個の二次電池500を加圧することができる。
【0414】
図29A、及び
図29Bでは3個のラミネート型の二次電池500を用いる例を示したが、特に限定されず、4個以上の二次電池500を用いることもでき、10個以上を用いれば、小型車両の電源として利用することができ、100個以上用いれば車載用の大型電源として利用することもできる。また、過充電を防ぐために保護回路や、温度上昇をモニタするための温度センサをラミネート型の二次電池500に設けてもよい。
【0415】
全固体電池においては、積層した正極や負極の積層方向に所定の圧力を加えることで、内部における界面の接触状態を良好に保つことができる。正極や負極の積層方向に所定の圧力を加えることで、全固体電池の充放電によって積層方向に膨張することを抑えることができ、全固体電池の信頼性を向上させることができる。
【0416】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0417】
(実施の形態5)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明する。
【0418】
まず実施の形態3の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する例を
図30A乃至
図30Gに示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0419】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0420】
図30Aは、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0421】
図30Bは、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図30Cに示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極を有している。例えば、集電体は銅箔であり、一部ガリウムと合金化させて、集電体と接する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が曲げられた状態での信頼性が高い構成となっている。
【0422】
図30Dは、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。また、
図30Eに曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部または全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0423】
図30Fは、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7205、入出力端子7206などを備える。
【0424】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0425】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0426】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0427】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0428】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0429】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。例えば、
図30Eに示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0430】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0431】
図30Gは、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させることもできる。
【0432】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状況を変更することができる。
【0433】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0434】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0435】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を
図30H、
図31および
図32を用いて説明する。
【0436】
日用電子機器の二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、大容量の二次電池が望まれている。
【0437】
図30Hはタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。
図30Hにおいて電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アトマイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルやセンサなどを含むカートリッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電や過放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。
図30Hに示した二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いことが望ましい。本発明の一態様の二次電池は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提供できる。
【0438】
次に、
図31Aおよび
図31Bに、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示す。
図31Aおよび
図31Bに示すタブレット型端末9600は、筐体9630a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示部9631aと表示部9631bを有する表示部9631、スイッチ9625乃至スイッチ9627、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とすることができる。
図31Aは、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、
図31Bは、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0439】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体9630bに渡って設けられている。
【0440】
表示部9631は、全て又は一部の領域をタッチパネルの領域とすることができ、また当該領域に表示されたアイコンを含む画像、文字、入力フォームなどに触れることでデータ入力をすることができる。例えば、筐体9630a側の表示部9631aの全面にキーボードボタンを表示させて、筐体9630b側の表示部9631bに文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。
【0441】
また、筐体9630b側の表示部9631bにキーボードを表示させて、筐体9630a側の表示部9631aに文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。また、表示部9631にタッチパネルのキーボード表示切り替えボタンを表示するようにして、当該ボタンに指やスタイラスなどで触れることで表示部9631にキーボードを表示するようにしてもよい。
【0442】
また、筐体9630a側の表示部9631aのタッチパネルの領域と筐体9630b側の表示部9631bのタッチパネルの領域に対して同時にタッチ入力することもできる。
【0443】
また、スイッチ9625乃至スイッチ9627は、タブレット型端末9600を操作するためのインターフェースだけでなく、様々な機能の切り替えを行うことができるインターフェースとしてもよい。例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、タブレット型端末9600の電源のオン・オフを切り替えるスイッチとして機能してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切り替える機能、又は白黒表示やカラー表示の切り替える機能を有してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、表示部9631の輝度を調整する機能を有してもよい。また、表示部9631の輝度は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時の外光の光量に応じて最適なものとすることができる。なお、タブレット型端末は光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内蔵させてもよい。
【0444】
また、
図31Aでは筐体9630a側の表示部9631aと筐体9630b側の表示部9631bの表示面積とがほぼ同じ例を示しているが、表示部9631a及び表示部9631bのそれぞれの表示面積は特に限定されず、一方のサイズと他方のサイズが異なっていてもよく、表示の品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表示を行える表示パネルとしてもよい。
【0445】
図31Bは、タブレット型端末9600を2つ折りに閉じた状態であり、タブレット型端末9600は、筐体9630、太陽電池9633、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634を有する。また、蓄電体9635として、本発明の一態様に係る蓄電体を用いる。
【0446】
なお、上述の通り、タブレット型端末9600は2つ折りが可能であるため、未使用時に筐体9630aおよび筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレット型端末9600を提供できる。
【0447】
また、この他にも
図31Aおよび
図31Bに示したタブレット型端末9600は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。
【0448】
タブレット型端末9600の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構成とすることができる。なお蓄電体9635としては、リチウムイオン電池を用いると、小型化を図れる等の利点がある。
【0449】
また、
図31Bに示す充放電制御回路9634の構成、および動作について
図31Cにブロック図を示し説明する。
図31Cには、太陽電池9633、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、
図31Bに示す充放電制御回路9634に対応する箇所となる。
【0450】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の充電を行う構成とすればよい。
【0451】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成としてもよい。
【0452】
図32に、他の電子機器の例を示す。
図32において、表示装置8000は、本発明の一態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置8000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能となる。
【0453】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0454】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0455】
図32において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池8103を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光源8102、二次電池8103等を有する。
図32では、二次電池8103が、筐体8101及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いることで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0456】
なお、
図32では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示しているが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0457】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0458】
図32において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。
図32では、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池8203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0459】
なお、
図32では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0460】
図32において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。
図32では、二次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0461】
なお、上述した電子機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電子機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることで、電子機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0462】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0463】
本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させることができる。また、本発明の一態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって、二次電池の特性を向上することができ、よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器に搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。
【0464】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0465】
(実施の形態6)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0466】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0467】
図33において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図33Aに示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は、車内の床部分に対して、
図17Cおよび
図17Dに示した二次電池のモジュールを並べて使用すればよい。また、
図20に示す二次電池を複数組み合わせた電池パックを車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0468】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0469】
図33Bに示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図33Bに、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0470】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0471】
また、
図33Cは、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図33Cに示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0472】
また、
図33Cに示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
【0473】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0474】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例0475】
<正極活物質の作製>
図10のフローを参照し、コバルトの原子数を100としたとき、マグネシウム、ニッケルおよびアルミニウムが表1に示す原子数となるよう正極活物質を作製した。
【0476】
【0477】
まずステップS11乃至ステップS13によりマグネシウムおよびフッ素を有する混合物902を作製した。LiFとMgF2のモル比が、LiF:MgF2=1:3となるよう秤量し、乾式で混合および粉砕をした。混合および粉砕はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。処理後の材料を回収し、混合物902とした。
【0478】
次に、複合酸化物として日本化学工業株式会社製のセルシードC-10Nを準備した(ステップS24)。
【0479】
次に、混合物902および複合酸化物を混合した(ステップS31)。複合酸化物が有するコバルトの原子数を100とした場合に、混合物902が有するマグネシウムの原子数が表1に示す値となるように秤量した。混合は、乾式で混合した。混合はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。
【0480】
次に、処理後の材料を回収し、混合物903を得た(ステップS32)。
【0481】
次に、混合物903をアルミナ坩堝に入れ、酸素雰囲気のマッフル炉にて850℃、60時間アニールした(ステップS33)。アニールの際には、アルミナ坩堝にふたをした。酸素の流量は10L/minとした。昇温は200℃/hrとし、降温は10時間以上かけて行った。加熱処理後の材料を回収し、ふるいにかけ、第2の複合酸化物を得た(ステップS34)。
【0482】
次に、ステップS41としてニッケルを加え、ステップS41乃至ステップS44を再度行ってアルミニウムを加えた。なお、ステップS41乃至ステップS44を行わなかった条件の試料も作製した。
【0483】
まず金属源である水酸化ニッケルと、第2の複合酸化物と、をボールミル混合した。コバルトの原子数を100とした場合に、ニッケルの原子数が表1に示す値となるように、それぞれ混合した。混合はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。混合後、300μmφのふるいにかけた。その後、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、ふたをして、酸素雰囲気にて850℃、2時間アニールした。
【0484】
次に、ゾル-ゲル法により、アルミニウムを含む被覆層を形成した。金属源としてはAlイソプロポキシドを用いて、溶媒としては2-プロパノールを用いた。コバルトの原子数を100とした場合に、アルミニウムの原子数がそれぞれ表1に示す値となるように混合した。その後、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、ふたをして、酸素雰囲気にて850℃、2時間アニールした。その後、53μmφのふるいにかけ、粉体を回収し、表1に示す条件振りのそれぞれの正極活物質を得た。得られた正極活物質のうち、マグネシウム、ニッケルおよびアルミニウムの原子数がそれぞれ1、0.5および0.5の条件について、粒度分布を測定した結果を
図46に示す。
【0485】
<二次電池の作製>
上記で得られたそれぞれの正極活物質を用い、各々の正極を作製した。正極活物質、ABおよびPVDFを活物質:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合したスラリーを集電体に塗工したものを用いた。スラリーの溶媒としてNMPを用いた。
【0486】
集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を蒸発させた。その後、210kN/mで加圧を行った後、さらに1467kN/mで加圧を行った。以上の工程により、正極を得た。正極の担持量はおよそ7mg/cm2とした。
【0487】
作製した正極を用いて、CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製した。
【0488】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0489】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、で混合されたものを用いた。なお、サイクル特性の評価を行った二次電池については、電解液にビニレンカーボネート(VC)を2wt%添加した。
【0490】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0491】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0492】
<サイクル特性>
次に、作製した二次電池についてサイクル特性の評価を行った。25℃において、充電をCCCV(0.5C、4.6V、終止電流0.05C)、放電をCC(0.5C、2.5V)で繰り返し充放電を行い、サイクル特性を評価した。
【0493】
50サイクル後のサイクル特性の結果を
図34乃至
図36に示す。横軸は放電容量維持率、縦軸は放電エネルギーである。
図34、
図35および
図36にはそれぞれマグネシウムの量がコバルトを100とした場合に対して0.5、1.0および2.0の値をまとめた。また表2にはマグネシウムの量が2.0の場合の50サイクル後の放電容量維持率、表3には放電エネルギーをそれぞれ示す。
【0494】
【0495】
【0496】
図37にはニッケルおよびアルミニウムを、ともに0.25または0.5とした2条件、およびステップS41乃至ステップS44を行わずニッケルおよびアルミニウムを加えなかった条件(図の凡例に「Ni: -, Al: -」と記載)における放電容量維持率と放電エネルギーを抜粋して示す。
【0497】
ニッケル量が0.1より大きく1未満、アルミニウム量は0.1以上1未満とした各条件において、より優れた特性が得られた。またマグネシウム量が1の条件で特に優れた特性が得られた。
【0498】
<連続充電耐性>
次にコバルトの原子数を100とした場合に、マグネシウムの原子数を1.0または1.5、かつニッケルおよびアルミニウムの原子数を共に添加無しまたは0.25とした正極活物質を作製し、上記の方法を参照して二次電池を作製し、連続充電耐性の評価を行った。
【0499】
作製したそれぞれの正極活物質を用いた二次電池について25℃で1回充放電を行った。充電はCCCV(0.2C、4.5V、終止電流0.02C)とし、充電後2分間の休止時間を設けた。放電はCC(0.2C、3.0V)とし、放電後2分間の休止時間を設けた。
【0500】
その後、連続充電として60℃にて、充電をCCCV(0.5C)で行った。上限電圧は4.6Vとした。1Cは191.7mA/gとした。
【0501】
マグネシウムの原子数がコバルトの原子数を100とした場合に対して1.0とした場合の結果を
図38Aに、1.5とした場合の結果を
図38Bに、それぞれ示す。
【0502】
ニッケルおよびアルミニウムを添加した条件において優れた連続耐性が得られた。
【0503】
<XPS>
コバルトの原子数を100とした場合に、マグネシウム、ニッケルおよびアルミニウムの量を、それぞれ表4に示す4つの条件(XPS-1乃至XPS-4)となるよう上記の方法を参照して正極活物質を作製し、XPS分析を行った。
【0504】
【0505】
XPSで得られた各元素の濃度を表5に示す。
【0506】
【0507】
ニッケルを添加した条件においてもXPSによる分析では検出下限以下となった。またアルミニウムを添加した条件において、アルミニウムが検出された。またアルミニウムにおいても、マグネシウムの量の4分の1よりも低い値となった。このことから例えば、マグネシウムに比べてアルミニウムは粒子内に拡散しやすい可能性があり、また、アルミニウムに比べてニッケルは粒子内に拡散しやすい可能性がある。
【0508】
<正極のXRD>
得られた正極活物質のうち、マグネシウム、ニッケルおよびアルミニウムの原子数がそれぞれ1、0.5および0.5の条件の正極活物質を用いて正極を作製した。
【0509】
この正極について、容量確認のため1回充放電した後、4.5V、4.55Vまたは4.6Vで充電してXRD解析を行った。
【0510】
容量確認の充電はCCCV(0.2C、4.5V、終止電流0.05C)とし、充電後20分の休止時間を設けた。放電はCC(0.2C、3V)とし放電後20分の休止時間を設けた。温度は25℃、1C=191mA/gとした。
【0511】
その後の4.5V、4.55Vまたは4.6Vでの充電はCCCV(0.2C、各電圧、終止電流0.02C)とした。充電後、アルゴン雰囲気下のグローブボックスで二次電池の解体を行い、正極を取り出し、DMCで洗浄を行った。その後、アルゴン雰囲気の密閉容器に封入してXRD解析を行った。
図39および
図40にXRDの結果を示す。
図39および
図40はそれぞれ、横軸の2θの範囲が異なる。
【0512】
得られたXRDの結果から格子定数を求めたところ、充電電圧が4.5V,4.55Vおよび4.6Vにおいてそれぞれ、a軸が2.812、2.814および2.818[×10-10m]であり、c軸が14.28、14.04および13.79[×10-10m]であった。