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  • 特開-スラブ軌道の築造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144657
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】スラブ軌道の築造方法
(51)【国際特許分類】
   E01B 37/00 20060101AFI20241003BHJP
   E01B 1/00 20060101ALI20241003BHJP
   E01B 3/40 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E01B37/00 C
E01B1/00
E01B3/40
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024125605
(22)【出願日】2024-08-01
(62)【分割の表示】P 2020091812の分割
【原出願日】2020-05-27
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390019998
【氏名又は名称】東亜道路工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000162995
【氏名又は名称】興和化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】303059071
【氏名又は名称】独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 哲男
(72)【発明者】
【氏名】宮川 幸久
(72)【発明者】
【氏名】小池 敏之
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊治
(72)【発明者】
【氏名】江崎 孝二
(57)【要約】
【課題】 スラブ軌道築造の際に、路盤コンクリートの汚れを防止すると共に、軌道スラブを一定高さに設置しやすいようにするためのスラブ軌道の築造方法を提供する。
【解決手段】 注入袋本体1と注入口2とを備えているスラブ軌道築造用注入袋を準備する。注入袋本体1は積層不織布で構成されている。注入口2は積層不織布よりも引張強度の高い織物又は編物で構成されている。積層不織布は、熱可塑性極細繊維が集積されてなる極細繊維不織布の両面に、熱可塑性極細繊維よりも高繊度の熱可塑性長繊維が集積されてなる長繊維不織布が積層接合されてなる。コンクリート又はその上に設けた路盤コンクリートと軌道スラブの間に、又はコンクリート床版又はその上に設けた路盤コンクリート上に設置した係止突起と軌道スラブの間に、スラブ軌道築造用注入袋を挿入する。そして、注入口2から充填材を圧送注入することにより、スラブ軌道を築造する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性極細繊維が集積されてなる極細繊維不織布の両面に、該熱可塑性極細繊維よりも高繊度の熱可塑性長繊維が集積されてなる長繊維不織布が、該熱可塑性極細繊維又は該熱可塑性長繊維自体の接着性によって接合されてなる積層不織布で構成された注入袋本体と、該積層不織布よりも引張強度の高い織物又は編物で形成された注入口を備えてなるスラブ軌道築造用注入袋を準備する工程、
コンクリート又はその上に設けた路盤コンクリートと軌道スラブの間に、前記スラブ軌道築造用注入袋を挿入する工程及び
前記注入口から充填材を圧送注入する工程
を具備することを特徴とするスラブ軌道の築造方法。
【請求項2】
コンクリート又はその上に設けた路盤コンクリートと軌道スラブの間に、前記スラブ軌道築造用注入袋を挿入する工程に代えて、コンクリート床版又はその上に設けた路盤コンクリート上に設置した係止突起と軌道スラブの間に、請求項1記載のスラブ軌道築造用注入袋を挿入する工程を採用する請求項1記載のスラブ軌道の築造方法。
【請求項3】
熱可塑性極細繊維がポリオレフィン系極細繊維であり、熱可塑性長繊維がポリオレフィン系長繊維である請求項1又は2記載のスラブ軌道の築造方法。
【請求項4】
織物又は編物がナイロン製タフタである請求項1又は2記載のスラブ軌道の築造方法。
【請求項5】
軌道スラブが平板軌道スラブ又は枠形軌道スラブである請求項1又は2記載のスラブ軌道の築造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新幹線等の鉄道のスラブ軌道の築造方法に関し、路盤コンクリート等と軌道スラブの間に充填材注入袋を挿入するスラブ軌道の築造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道において、軌道敷設は一般に道床にバラストを用いる有道床軌道が使用されていたが、近年、列車の高速化や通行回数の増加により道床破壊や保線作業の労力と経費が増加し、それに対応するために軌道のメインテナンスフリー化を主な目的としてスラブ軌道が開発され、既に新幹線や在来線の諸所に用いられている。
【0003】
スラブ軌道は、図1に示す如く、盛土、トンネル又は橋梁等の表層であるコンクリート床板11上に打設されてなる路盤コンクリート12上に、軌道スラブ13が設置され、軌道スラブ13上にレール14が敷設されてなるものである。そして、路盤コンクリート12と軌道スラブ13の間には、セメントアスファルトモルタルや合成樹脂等の充填材よりなる水平層15が設けられ、軌道スラブ13が一定高さとなるように設置されている。また、路盤コンクリート12上には係止突起16が配されており、係止突起16の側面と軌道スラブ13の側面の間には、充填材よりなる垂直層17が設けられ、軌道スラブ13が車両の進行方向にずれにくいようにされている。
【0004】
従来より、充填材よりなる水平層15を設けるのに、充填材注入袋が用いられている。すなわち、注入袋に充填材を注入し、水平層15を設けている。この注入袋の素材としては、不織布が用いられている(特許文献1及び2)。しかしながら、一般的な不織布では充填材が漏れて、路盤コンクリート12を汚したり、軌道スラブ13を一定高さに設置しにくいということがあった。特に、特許文献2記載の注入袋は、セメントアスファルトが漏れるのを前提とし、注入袋の側面をアスファルトで被覆することを特徴としている(特許文献2、請求項1及び2)。
【0005】
【特許文献1】特開平1-271501号公報
【特許文献2】特許第5329263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、注入袋から、セメントアスファルトモルタル等の充填材が漏れ出すのを防止し、スラブ軌道築造の際に、路盤コンクリートの汚れを防止すると共に、軌道スラブを一定高さに設置しやすいようにしたスラブ軌道の築造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、注入袋本体及び注入口の素材として特定のものを採用することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、熱可塑性極細繊維が集積されてなる極細繊維不織布の両面に、該熱可塑性極細繊維よりも高繊度の熱可塑性長繊維が集積されてなる長繊維不織布が、該熱可塑性極細繊維又は該熱可塑性長繊維自体の接着性によって接合されてなる積層不織布で構成された注入袋本体と、該積層不織布よりも引張強度の高い織物又は編物で形成された注入口を備えてなるスラブ軌道築造用注入袋を準備する工程、コンクリート又はその上に設けた路盤コンクリートと軌道スラブの間に、前記スラブ軌道築造用注入袋を挿入する工程及び前記注入口から充填材を圧送注入する工程を具備することを特徴とするスラブ軌道の築造方法に関するものである。また、本発明は、コンクリート床版又はその上に設けた路盤コンクリート上に設置した係止突起と軌道スラブの間に、前記スラブ軌道築造用注入袋を挿入した後、注入口から充填材を圧送注入するスラブ軌道の築造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るスラブ軌道の築造方法に用いるスラブ軌道築造用注入袋は、注入袋本体が積層不織布で構成されており、注入口が当該積層不織布よりも引張強度の高い織物又は編物で形成されている。したがって、注入口から充填材を圧送注入したとき、注入口が破断しにくく、充填材が漏れ出すのを防止しうるという効果を奏する。また、積層不織布中の極細繊維不織布は、繊維径の細い極細繊維が集積されてなるものであるため、繊維間隙が微小であり、注入した充填材中の液体成分が漏れ出しにくくなっている。積層不織布中の長繊維不織布は繊維径が太いため、機械的強度に優れており、充填材注入中やその後においても破断したり破裂しにくくなっている。また、積層不織布は各繊維間に間隙が形成されているため通気性があり、充填材注入時に充填材に混入されている空気を外部に逃がすことができる。したがって、本発明に係るスラブ軌道の築造方法を採用すれば、路盤コンクリートが汚れるのを防止しうると共に、軌道スラブを一定高さに設置しやすくなる。さらに、本発明に用いるスラブ軌道築造用注入袋は、外部からの雨水等も侵入しにくいため、充填材が劣化しにくく、長寿命のスラブ軌道が得られるという特有の効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来のスラブ軌道構造を示す模式的斜視図である。
図2】本発明で用いるスラブ軌道築造用注入袋の平面図の一例であって、かかる形状の注入袋は平板軌道スラブの築造に使用されるものである。
図3】本発明で用いるスラブ軌道築造用注入袋の平面図の他の例であって、かかる形状の注入袋は枠形軌道スラブの築造に使用される。
図4図2又は図3のスラブ軌道築造用注入袋を作成する際に用いる注入袋片の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いるスラブ軌道築造用注入袋は、注入袋本体1と注入口2を備えている。注入袋本体1は、積層不織布で構成されている。積層不織布は、熱可塑性極細繊維が集積されてなる極細繊維不織布の両面に、この熱可塑性極細繊維よりも高繊度の熱可塑性長繊維が集積されてなる長繊維不織布が積層接合されてなるものである。熱可塑性極細繊維の素材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン又はエチレン-プロピレン重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂並びにナイロン6又はナイロン66等のポリアミド系樹脂等が用いられる。熱可塑性極細繊維の繊度は0.001~1デシテックス程度である。かかる極細繊度の繊維が集積されることにより、極細繊維相互間に微小空隙が形成されることになり、通気性は有するものの、通水性が極端に低下し、注入される充填材が漏れにくくなるのである。極細繊維不織布は、いわゆるメルトブローン法で得ることができ、その目付は10~100g/m2程度である。
【0011】
極細繊維不織布の両面に積層接合される長繊維不織布を構成する熱可塑性長繊維の素材としても、熱可塑性極細繊維の場合と同様に、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂等が用いられる。熱可塑性極細繊維と熱可塑性長繊維の素材は、同種のものであるのが好ましく、たとえば、ポリオレフィン系樹脂同士であるのが好ましい。同種の素材の方が、極細繊維と長繊維との親和性が良好で、接着接合しやすいからである。熱可塑性長繊維の繊度は、極細繊維の繊度よりも高繊度であり、1~30デシテックス程度である。熱可塑性長繊維の繊度が、熱可塑性極細繊維の繊度よりも高いので、積層不織布の引張強度等の機械的物性が向上し、注入袋本体1が破断したり破裂しにくくなる。長繊維不織布の目付は5~100g/m2程度である。なお、長繊維不織布は従来公知の方法で得ることができ、いわゆるスパンボンド法で得るのが好ましい。
【0012】
極細繊維不織布と長繊維不織布を積層接合するには、たとえば、以下の如き方法が採用される。すなわち、スパンボンド法で長繊維不織布を得た後、この長繊維不織布表面にメルトブローン法にて熱可塑性極細繊維を吹き付けることにより、極細繊維不織布を形成する。その後、極細繊維不織布表面にスパンボンド法で熱可塑性長繊維を集積して長繊維不織布を形成することにより、極細繊維不織布両面に長繊維不織布が積層接合されてなる積層不織布を得ることができる。極細繊維不織布と長繊維不織布とは、長繊維不織布表面に未だ軟化状態の熱可塑性極細繊維を吹き付け、また未だ軟化状態の極細繊維不織布表面に熱可塑性長繊維を集積することにより、各積層間が熱可塑性極細繊維自体の接着性で接合する。また、さらに接合を進行させたい場合は、積層不織布を一対の加熱ロール間に通すことより、熱可塑性極細繊維及び/又は熱可塑性長繊維を軟化させて、熱可塑性極細繊維及び/又は熱可塑性長繊維自体の接着性で接合することもできる。この際、メルトブローン法にて二段又は三段以上に亙って熱可塑性極細繊維を吹き付け、極細繊維不織布が二層又は三層以上になっていてもよい。また、スパンボンド法で長繊維不織布を得た後、この長繊維不織布表面にメルトブローン法にて熱可塑性極細繊維を吹き付けて得られた極細繊維不織布と長繊維不織布の二層積層物を二枚準備し、極細繊維不織布同士が当接するように積層し、極細繊維不織布両面に長繊維不織布が積層接合されてなる積層不織布を得てもよい。
【0013】
積層不織布の目付は、30~150g/m2程度である。この積層不織布は充填材中の液体成分が漏れだしにくいものであり、耐水性に優れている。たとえば、耐水圧試験機を用いて、500mmH2Oの水圧を30分間かけたとき、水の滲み出し量は50cc以下程度である。積層不織布を構成している熱可塑性極細繊維や熱可塑性長繊維中に、紫外線吸収剤や光安定剤等の耐候剤を含有させておくことも好ましいことである。スラブ軌道築造用注入袋は長期に亙って屋外で使用される場合が多いので、劣化を防止するためである。
【0014】
注入口2は充填材を注入する部位であり、圧力を掛けて注入袋本体1中に充填材を圧送するための部位である。したがって、注入袋本体1に比べて引張強度等の機械的強度の高い素材で形成する。たとえば、ナイロン製タフタ等の織物や編物を素材として形成するのが好ましい。
【0015】
図2に示す形状のスラブ軌道築造用注入袋を作成する方法としては、たとえば、以下の方法が挙げられる。すなわち、図4に示す注入袋片を二枚準備する。この注入袋片は、積層不織布よりなる注入袋本体片1aに、織物又は編物よりなる注入口片2aがミシン糸等の糸条5によって縫製されてなるものである。もちろん、糸条5による縫製ではなく、ホットメルト接着剤等によって、接着されていてもよい。なお、4は、係止突起を嵌合させるための凹部である。かかる注入袋片を二枚重合し、その重合周縁をミシン糸等の糸条3によって縫製することにより、スラブ軌道築造用注入袋を得ることができる。もちろん、この場合も、糸条3による縫製ではなく、ホットメルト接着剤等によって、接着されていてもよい。また、図4に示す注入袋片一枚を、上下方向に折り返して重合し、重合周縁をミシン糸等の糸条3によって縫製することにより、図3に示す形状のスラブ軌道築造用注入袋を作成することもできる。なお、この場合は、折り返し辺は縫製や接着等を行う必要はない。
【0016】
図2に示す形状のスラブ軌道築造用注入袋は、その本体が平板軌道スラブと略同様の形状となっているので、平板軌道スラブを用いてスラブ軌道を築造する際に用いられる。すなわち、路盤コンクリートと平板軌道スラブの間に、図2に示すスラブ軌道築造用注入袋を挿入し、注入口2から注入袋本体1にセメントアスファルトモルタルやウレタン樹脂等の充填材を注入する。そして、セメントアスファルトモルタルやウレタン樹脂等が硬化すれば、スラブ軌道構造を築造することができる。また、図3に示す形状のスラブ軌道築造用注入袋は、枠形軌道スラブを用いてスラブ軌道を築造する際に用いられる。すなわち、レールの左右の枠の部位と路盤コンクリートの間に、図3に示す形状のスラブ軌道築造用注入袋を挿入し、注入口2から注入袋本体1に充填材を注入することにより、スラブ軌道構造を築造することができる。
【0017】
また、本発明に用いるスラブ軌道築造用注入袋は、係止突起と軌道スラブの間に適用することもできる。すなわち、係止突起と軌道スラブの間の垂直方向の間隙に、スラブ軌道築造用注入袋を挿入し、注入口2から注入袋本体1に充填材を注入して、スラブ軌道構造を築造することができる。この箇所に適用するスラブ軌道築造用注入袋は図示していないが、たとえば、図3に示す如き形状のものを、係止突起の側面に巻回すればよい。なお、スラブ軌道を築造した後、注入口2は切り落としてもよいし、結び止めしておいてもよい。
【符号の説明】
【0018】
1 注入袋本体
1a 注入袋本体片
2 注入口
2a 注入口片
3 注入袋本体片と注入口片の重合周縁を縫製するための糸条
4 係止突起を嵌合させるための凹部
5 注入袋本体片と注入口片を縫製するための糸条
11 コンクリート床板
12 路盤コンクリート12
13 軌道スラブ
14 レール
16 係止突起
図1
図2
図3
図4