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  • 特開-電解コンデンサおよびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144678
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電解コンデンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H01G9/00 290H
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024125997
(22)【出願日】2024-08-01
(62)【分割の表示】P 2020181136の分割
【原出願日】2020-10-29
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村中 隆則
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴行
(72)【発明者】
【氏名】後藤 公平
(72)【発明者】
【氏名】八並 隆浩
(57)【要約】
【課題】第1導電性ポリマー層に対する第2導電性ポリマー層の密着性を高め、電解コンデンサの耐電性を高める。
【解決手段】電解コンデンサの製造方法は、第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とを含む第1溶液を用いて、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子の外側に第1導電性ポリマー層を形成する工程と、アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2分散液を用いて、前記第1導電性ポリマー層の外側に第2導電性ポリマー層を形成する工程と、アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーとアミン化合物とを含む第3分散液を用いて、前記第2導電性ポリマー層の外側に第3導電性ポリマー層を形成する工程とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とを含む第1溶液または第1分散液を、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子の外側に前記第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2溶液または第2分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第2溶液の溶媒または前記第2分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記第2導電性ポリマーを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程と、
アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーとアミン化合物とを含む第3溶液または第3分散液を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3溶液の溶媒または前記第3分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程とを備える、電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記第3溶液および前記第3分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とを含む第1溶液または第1分散液を、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子の外側に前記第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2溶液または第2分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第2溶液の溶媒または前記第2分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記第2導電性ポリマーを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程と、
アミン化合物を含み、導電性ポリマーを含まない第3A溶液または第3A分散液を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させた後、アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第3B溶液または第3B分散液を、前記第3A溶液または前記第3A分散液が含浸された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3A溶液の溶媒または前記第3A分散液の分散媒および前記第3B溶液の溶媒または前記第3B分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程とを備える、電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記第3B溶液および前記第3B分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項3に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記第1導電性ポリマー層の上面および前記第2導電性ポリマー層の上面には、それぞれ凹凸が形成され、
前記第2導電性ポリマー層の上面の凹凸は、前記第1導電性ポリマー層の上面の凹凸よりも小さい、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
シラン化合物を含み、導電性ポリマーおよびアミン化合物を含まない第4溶液または第4分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成され、前記第2導電性ポリマー層が形成される前の前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第4溶液の溶媒または前記第4分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記シラン化合物を含むシラン化合物層を形成する工程を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
シラン化合物を含み、導電性ポリマーおよびアミン化合物を含まない第5溶液または第5分散液を、前記誘電体皮膜が形成され、前記第1導電性ポリマー層が形成される前の前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第5溶液の溶媒または前記第5分散液の分散媒を除去して、前記誘電体皮膜の外側に前記シラン化合物を含むシラン化合物層を形成する工程を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記第1溶液および前記第1分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記第2溶液および前記第2分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性ポリマー陰極層を備える電解コンデンサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型かつ大容量で低ESRのコンデンサとして、誘電体皮膜が形成された陽極基体と、誘電体皮膜の少なくとも一部を覆うように形成された導電性ポリマー陰極層とを具備する電解コンデンサが知られている。
【0003】
特許文献1には、導電性ポリマー陰極層を備える電解コンデンサの耐電圧特性を向上させるための技術として、
[1]第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とシラン化合物とを含む第1溶液を、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを酸化重合させて、前記コンデンサ素子の外側に、前記第1導電性ポリマーとシラン化合物とを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
[2]アミン化合物を含む第2溶液を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、次いでアニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含む分散液を、前記第2溶液が含浸された前記コンデンサ素子に追加含浸させた後、前記第2溶液の溶媒および前記分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に、前記第2導電性ポリマーとアミン化合物とを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程とを備える、電解コンデンサの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/002351号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された電解コンデンサの製造方法は、第1導電性ポリマー層に対する第2導電性ポリマー層の密着性を高めることなどにより、電解コンデンサとしての耐電圧特性を向上させるものであるが、各工程において使用する材料の選択や各工程において制御すべきパラメータの設定などにより、所望の耐電圧特性向上効果が得られない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願第1発明に係る電解コンデンサの製造方法は、
[1]第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とを含む第1溶液または第1分散液を、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子の外側に前記第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
[2]アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2溶液または第2分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第2溶液の溶媒または前記第2分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記第2導電性ポリマーを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程と、
[3]アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーとアミン化合物とを含む第3溶液または第3分散液を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3溶液の溶媒または前記第3分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程とを備える。
【0007】
また、本願第2発明に係る電解コンデンサの製造方法は、
[1]第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とを含む第1溶液または第1分散液を、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子の外側に前記第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
[2]アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2溶液または第2分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第2溶液の溶媒または前記第2分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記第2導電性ポリマーを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程と、
[3]アミン化合物を含み、導電性ポリマーを含まない第3A溶液または第3A分散液を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させた後、アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第3B溶液または第3B分散液を、前記第3A溶液または前記第3A分散液が含浸された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3A溶液の溶媒または前記第3A分散液の分散媒および前記第3B溶液の溶媒または前記第3B分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程とを備える。
【発明の効果】
【0008】
本願第1発明または第2発明に係る電解コンデンサの製造方法によれば、第1導電性ポリマー層に対する第2導電性ポリマー層の密着性および第2導電性ポリマー層に対する第3導電性ポリマー層の密着性をさらに高めることができ、電解コンデンサとしての耐電圧特性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る電解コンデンサの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本願第1・第2発明の一実施形態に従って製造される電解コンデンサは、陽極基体、陽極基体上に形成された誘電体皮膜、誘電体皮膜の少なくとも一部を覆う第1導電性ポリマー層、第1導電性ポリマー層の少なくとも一部を覆う第2導電性ポリマー層、および第2導電性ポリマー層の少なくとも一部を覆う第3導電性ポリマー層を備える。
【0011】
ここで、第1導電性ポリマー層は、アニオン性の第1ドーパントがドープされた第1導電性ポリマーを含み、第2導電性ポリマー層は、アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、第3導電性ポリマー層は、アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーとアミン化合物とを含む。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に従って製造される電解コンデンサの構造を概略的に示す断面図である。図1において、電解コンデンサ100は、表面に誘電体皮膜12が形成された陽極基体11と、誘電体皮膜12上に形成された導電性ポリマー層13と、導電性ポリマー層13上に形成された陰極層とを有するコンデンサ本体10を備える。陰極層は、陰極引出層としてのカーボン層14および銀ペースト層15を有する。
【0013】
電解コンデンサ100は、さらに、陽極リード16と、陽極端子17と、接着層18と、陰極端子19とを備える。陽極リード16の一端は陽極基体11に埋設されており、他端がコンデンサ本体10の外部へ突出するように配置される。陽極端子17は、溶接により、その一端が陽極リード16に接続される。また、陰極端子19は、導電性の接着剤からなる接着層18を介して、コンデンサ本体10の最外層である銀ペースト層15と接続するように配置される。
【0014】
電解コンデンサ100は、外装樹脂20をさらに備える。外装樹脂20は、陽極端子17の一部および陰極端子19の一部が外装樹脂20から露出するように、陽極リード16、陽極端子17、接着層18および陰極端子19が配置されたコンデンサ本体10を封止する。
【0015】
導電性ポリマー層13は、第1導電性ポリマー層と第2導電性ポリマー層と第3導電性ポリマー層とを備える。第1導電性ポリマー層は、誘電体皮膜12を覆うように形成されており、第2導電性ポリマー層は、第1導電性ポリマー層を覆うように形成されており、第3導電性ポリマー層は、第2導電性ポリマー層を覆うように形成されている。
【0016】
本願第1・第2発明の一実施形態に従った電解コンデンサの製造方法は、
[1]第1導電性ポリマー(例えば、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)の原料となるモノマー(例えば、3,4-エチレンジオキシチオフェン)と前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤(例えば、第二鉄カチオン)と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材(例えば、パラトルエンスルホン酸アニオン)とを含む第1溶液(例えば、n-ブタノールを溶媒として用いた溶液)を、陽極基体(例えば、タンタル粉の焼結体)と誘電体皮膜(例えば、タンタル粉の焼結体の表面を陽極酸化した皮膜)とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子の外側に前記第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
[2]アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマー(例えば、ポリスチレンスルホン酸アニオンがドープされたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含み、後述の第3導電性ポリマー層に含まれるようなアミン化合物を含まない第2分散液(例えば、水を分散媒として用いた分散液)を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第2分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記第2導電性ポリマーを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程とを備える。
【0017】
その上で、本願第1発明の一実施形態に従った電解コンデンサの製造方法は、
[3]アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマー(例えば、ポリスチレンスルホン酸アニオンがドープされたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)とアミン化合物(例えば、N,N-ジメチルオクチルアミン、1,8-ジアミノオクタンなど)とを含む第3分散液(例えば、水を分散媒として用いた分散液)を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程を備える。
【0018】
また、本願第2発明の一実施形態に従った電解コンデンサの製造方法は、上記本願第1発明の一実施形態に従った電解コンデンサの製造方法における第3導電性ポリマー層を形成する工程の代わりに、
[3]アミン化合物(例えば、N,N-ジメチルオクチルアミン、1,8-ジアミノオクタンなど)を含み、導電性ポリマーを含まない第3A溶液(例えば、水を溶媒として用いた溶液)を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させた後、アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマー(例えば、ポリスチレンスルホン酸アニオンがドープされたポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン)を含み、アミン化合物を含まない第3B分散液(例えば、水を分散媒として用いた分散液)を、前記第3A溶液が含浸された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3A溶液の溶媒および前記第3B分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程を備える。
【0019】
ここで、第1導電性ポリマー層を形成する工程においては、コンデンサ素子の外側直近(すなわち、誘電体皮膜の上方直近)の場所で第1導電性ポリマーの原料モノマーを酸化重合(いわゆる「その場重合」)させて、コンデンサ素子の外側に第1導電性ポリマー層を形成するので、第1導電性ポリマー層の上面には、重合進行の不均一や層成長の不均一などに伴う細かい凹凸が生じる。
【0020】
一方、従来の技術(例えば、特許文献1に記載された技術)において、第2導電性ポリマー層に含まれるアミン化合物は、第1導電性ポリマー層中の第1導電性ポリマーにドープされたアニオン性の第1ドーパントと、第2導電性ポリマー層中の第2導電性ポリマーにドープされたアニオン性の第2ドーパントとの静電的反発を抑制して、第1導電性ポリマー層と第2導電性ポリマー層との密着性を高めるものであるが、第2導電性ポリマー層の形成に用いられる第2導電性ポリマーの分散液にアミン化合物が混じると、その分散液の粘度が高くなり、第1導電性ポリマー層が形成されたコンデンサ素子に含浸させる際に、第1導電性ポリマー層上の細かい凹凸の凹部(特に、小径で深めの凹部)に十分入り込まず、第1導電性ポリマー層と第2導電性ポリマー層との密着性を思うように高めることができないことがある。
【0021】
そこで、本願第1・第2発明においては、第2導電性ポリマー層の形成に用いられる第2導電性ポリマーの分散液にアミン化合物を混入させないことにより、第1導電性ポリマー層中の第1導電性ポリマーに含まれるアニオン性ドーパントとの静電的反発の抑制を多少犠牲にしてでも、第1導電性ポリマー層上の細かい凹凸の凹部にまで、低粘度の第2導電性ポリマー分散液を含浸させて第2導電性ポリマー層を形成する。
【0022】
このようにして形成された第2導電性ポリマー層の上面にも、第1導電性ポリマー層の上面に生じていた凹凸の跡形は残りやすいが、第1導電性ポリマー層の上面に生じていた凹凸に比べて小さい(すなわち、なだらかで浅い)凹凸が生じるにとどまる。
【0023】
その第2導電性ポリマー層上に、本願第1・第2発明における第3導電性ポリマー層が、従来の技術(例えば、特許文献1に記載された技術)における第2導電性ポリマー層の形成手法と同様な手法により形成される。
【0024】
第2導電性ポリマー層の上面の凹凸は、上述のように緩和されているので、アミン化合物が混入して粘度が高くなった第3導電性ポリマーの分散液でも、そのようになだらかで浅い凹凸の凹部には十分に入り込むことができ、第3導電性ポリマー層は第2導電性ポリマー層に密着する。
【0025】
本願第1・第2発明の上記実施形態において、第2導電性ポリマー層がアミン化合物を含まないことによる第1導電性ポリマー層との間での静電的反発抑制効果の低減を補う手段としては、第1導電性ポリマー層の外側で第2導電性ポリマー層の内側に、シラン化合物を含むシラン化合物層を形成してもよい。
【0026】
具体的には、シラン化合物(例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を含み、導電性ポリマーおよびアミン化合物を含まない第4溶液または第4分散液を、第1導電性ポリマー層が形成され、第2導電性ポリマー層が形成される前の前記コンデンサ素子に含浸させ、第4溶液の溶媒または第4分散液の分散媒を除去して、第1導電性ポリマー層の外側にシラン化合物を含むシラン化合物層を形成すればよい。
【0027】
また、コンデンサ素子の誘電体皮膜に対する第1導電性ポリマー層の密着性を高めるためには、誘電体皮膜の外側で第1導電性ポリマー層の内側に、シラン化合物を含むシラン化合物層を形成してもよい。
【0028】
具体的には、シラン化合物(例えば、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を含み、導電性ポリマーおよびアミン化合物を含まない第5溶液または第5分散液を、誘電体皮膜が形成され、第1導電性ポリマー層が形成される前の前記コンデンサ素子に含浸させ、第5溶液の溶媒または第5分散液の分散媒を除去して、誘電体皮膜の外側にシラン化合物を含むシラン化合物層を形成すればよい。
【0029】
さらに、第1・第2・第3導電性ポリマー層の機械的特性(例えば、強度。硬度、弾性、靭性、熱膨張性など)や、電気的特性(例えば、コンデンサ通常動作時の低抵抗性、誘電体皮膜の局部損傷時に導電性ポリマー層自体が局部的に高抵抗化することによるコンデンサ機能修復性など)を調整するため、第1・第2・第3導電性ポリマー層に、適宜シラン化合物を含有させてもよい。
【0030】
具体的には、第1・第2・第3導電性ポリマー層を形成する際に用いられる第1溶液、第1分散液、第2溶液、第2分散液、第3溶液、第3分散液、第3B溶液および前記第3B分散液に、適宜シラン化合物を混入させればよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本願第1・第2発明の一実施形態に従って製造される電解コンデンサは、小型かつ大容量で、低ESR特性および耐電圧特性に優れたコンデンサが搭載されるべき種々の電子機器に利用される。
【符号の説明】
【0032】
10 コンデンサ本体
11 陽極基体
12 誘電体皮膜
13 導電性ポリマー層
14 カーボン層
15 銀ペースト層
16 陽極リード
17 陽極端子
18 接着層
19 陰極端子
20 外装樹脂
100 電解コンデンサ
図1
【手続補正書】
【提出日】2024-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とを含む第1溶液または第1分散液を、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子の外側に前記第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2溶液または第2分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第2溶液の溶媒または前記第2分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記第2導電性ポリマーを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程と、
アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーとアミン化合物とを含む第3溶液または第3分散液(ただし、前記第3溶液および前記第3分散液が亜リン酸ジエステルを含む場合を除く)を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3溶液の溶媒または前記第3分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程とを備える、電解コンデンサの製造方法。
【請求項2】
前記第3溶液および前記第3分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項1に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項3】
第1導電性ポリマーの原料となるモノマーと前記モノマーを酸化重合させるための酸化剤と前記第1導電性ポリマーにドープされるアニオン性の第1ドーパント材とを含む第1溶液または第1分散液を、陽極基体と誘電体皮膜とを備えるコンデンサ素子に含浸させ、前記モノマーを重合させて、前記コンデンサ素子の外側に前記第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層を形成する工程と、
アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2溶液または第2分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第2溶液の溶媒または前記第2分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記第2導電性ポリマーを含む第2導電性ポリマー層を形成する工程と、
アミン化合物を含み、導電性ポリマーを含まない第3A溶液または第3A分散液を、前記第2導電性ポリマー層が形成された前記コンデンサ素子に含浸させた後、アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第3B溶液または第3B分散液(ただし、前記第3B溶液および前記第3B分散液が亜リン酸ジエステルを含む場合を除く)を、前記第3A溶液または前記第3A分散液が含浸された前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第3A溶液の溶媒または前記第3A分散液の分散媒および前記第3B溶液の溶媒または前記第3B分散液の分散媒を除去して、前記第2導電性ポリマー層の外側に前記第3導電性ポリマーを含む第3導電性ポリマー層を形成する工程とを備える、電解コンデンサの製造方法。
【請求項4】
前記第3B溶液および前記第3B分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項3に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項5】
前記第1導電性ポリマー層の上面および前記第2導電性ポリマー層の上面には、それぞれ凹凸が形成され、
前記第2導電性ポリマー層の上面の凹凸は、前記第1導電性ポリマー層の上面の凹凸よりも小さい、請求項1~4のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
シラン化合物を含み、導電性ポリマーおよびアミン化合物を含まない第4溶液または第4分散液を、前記第1導電性ポリマー層が形成され、前記第2導電性ポリマー層が形成される前の前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第4溶液の溶媒または前記第4分散液の分散媒を除去して、前記第1導電性ポリマー層の外側に前記シラン化合物を含むシラン化合物層を形成する工程を備える、請求項1~5のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項7】
シラン化合物を含み、導電性ポリマーおよびアミン化合物を含まない第5溶液または第5分散液を、前記誘電体皮膜が形成され、前記第1導電性ポリマー層が形成される前の前記コンデンサ素子に含浸させ、前記第5溶液の溶媒または前記第5分散液の分散媒を除去して、前記誘電体皮膜の外側に前記シラン化合物を含むシラン化合物層を形成する工程を備える、請求項1~6のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項8】
前記第1溶液および前記第1分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記第2溶液および前記第2分散液は、それぞれシラン化合物を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の電解コンデンサの製造方法。
【請求項10】
陽極基体と、前記陽極基体上に形成された誘電体皮膜と、前記誘電体皮膜の少なくとも一部を覆う導電性ポリマー陰極層と、を備え、
前記導電性ポリマー陰極層は、
前記誘電体皮膜上に形成され、アニオン性の第1ドーパントがドープされた第1導電性ポリマーを含む第1導電性ポリマー層と、
前記第1導電性ポリマー層上に形成され、アニオン性の第2ドーパントがドープされた第2導電性ポリマーを含み、アミン化合物を含まない第2導電性ポリマー層と、
前記第2導電性ポリマー層上に形成され、アニオン性の第3ドーパントがドープされた第3導電性ポリマーとアミン化合物と含む第3導電性ポリマー層とを有し、
前記第1導電性ポリマー層の上面および前記第2導電性ポリマー層の上面には、それぞれ凹凸が形成され、前記第2導電性ポリマー層の上面の凹凸は、前記第1導電性ポリマー層の上面の凹凸よりもなだらかで浅い、
電解コンデンサ。
【請求項11】
前記第3導電性ポリマー層は、シラン化合物を含む、請求項10に記載の電解コンデンサ。
【請求項12】
前記第1導電性ポリマー層および前記第2導電性ポリマー層は、それぞれシラン化合物を含む、請求項10または11に記載の電解コンデンサ。