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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144683
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】フィルタモジュール及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   H03H 7/46 20060101AFI20241003BHJP
   H03H 7/01 20060101ALI20241003BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20241003BHJP
   H01F 27/29 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H03H7/46 C
H03H7/01 A
H01F27/00 S
H01F27/29 123
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024126486
(22)【出願日】2024-08-02
(62)【分割の表示】P 2022546236の分割
【原出願日】2021-08-20
(31)【優先権主張番号】P 2020147515
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三川 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
(57)【要約】
【課題】通過域より高周波数側に広帯域に亘って良好な減衰特性を有するフィルタモジュール、このフィルタモジュールに用いられるフィルタ素子、及びそれらを備える電子機器を構成する。
【解決手段】フィルタモジュール101は、グランド電極が形成された回路基板20と、この回路基板20に実装されたローパスフィルタ11とで構成される。ローパスフィルタ11は、第1インダクタL1、第2インダクタL2及びキャパシタC2を備え、第1インダクタL1と第2インダクタL2とは和動接続され、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間の経路のインダクタンスをLp、グランド端子GNDとグランド電極との間の経路のインダクタンスをLg、第1インダクタL1と第2インダクタL2との相互インダクタンスをMで表すとき、Lp+Lg-M≧0かつLp-M<0の関係にある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランド電極が形成された回路基板と、
第1端子と第2端子との間に直列に接続され互いに磁界結合する第1インダクタ及び第2インダクタと、前記第1インダクタと前記第2インダクタとの接続部とグランド端子との間に接続されるキャパシタと、を備え、
前記第1インダクタ、前記第2インダクタ、及び、前記キャパシタは、前記回路基板上に配置されており、
前記第1インダクタと前記第2インダクタとは和動接続され、
前記第1インダクタと前記第2インダクタとの磁界結合により前記接続部と前記グランド端子との間に生じる相互インダクタンスをMで表し、前記接続部と前記グランド端子との間のインダクタンスをLp、前記グランド端子と前記グランド電極との間の経路のインダクタンスをLgで表すとき、Lp+Lg-M≧0かつLp-M<0の関係にある、
フィルタモジュール。
【請求項2】
前記インダクタンスLp、前記インダクタンスLg、及び前記相互インダクタンスMが、Lp+Lg-M>0の関係にある、
請求項1に記載のフィルタモジュール。
【請求項3】
前記キャパシタに並列接続される第3インダクタを有する、
請求項1又は2に記載のフィルタモジュール。
【請求項4】
前記第1インダクタ及び前記第2インダクタは、複数の絶縁体層の積層体に形成されたコイル状導体で構成され、
前記キャパシタは、前記複数の絶縁体層の積層方向に互いに対向するキャパシタ電極及び前記絶縁体層で構成され、
前記コイル状導体の巻回軸方向を視て、前記コイル状導体は少なくとも一部に前記キャパシタ電極に重ならない部分を有する、
請求項1から3のいずれかに記載のフィルタモジュール。
【請求項5】
前記第1端子は前記積層体に形成された第1端子電極で構成され、前記第2端子は前記積層体に形成された第2端子電極で構成され、
前記コイル状導体の巻回軸方向を視て、前記キャパシタ電極は、前記第1端子電極又は前記第2端子電極の少なくとも一方に重ならない部分を有する、
請求項4に記載のフィルタモジュール。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載のフィルタモジュールを備える電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波フィルタ回路が構成されたフィルタモジュール、このフィルタモジュールに用いられるフィルタ素子、及びそれを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、積層体の内部に形成された2つのコイルと複数のキャパシタとによって構成されたローパスフィルタが開示されている。この2つのコイルは、複数の絶縁体層の積層方向に延在する中心軸をそれぞれ有する螺旋状のコイルである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-21449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のローパスフィルタは、その内部の2つのコイルの接続部とグランド端子との間に構造上の寄生インダクタが存在する。
【0005】
また、特許文献1に記載のローパスフィルタは回路基板に実装して使用される。このローパスフィルタのグランド端子は回路基板のグランド端子に接続されるが、回路基板のグランド端子と回路基板の基準電位電極(通常、広面積に拡がるグランド電極)との間にも寄生インダクタが存在する。
【0006】
以上のことを図12A図12Bを参照して説明する。図12Aは特許文献1に示されているローパスフィルタの等価回路図であり、図12Bは、そのローパスフィルタを回路基板に実装した状態での等価回路図である。
【0007】
図12Aにおいて、ローパスフィルタ10は、第1端子T1、第2端子T2及びグランド端子GNDを備え、シリーズ接続のインダクタL1,L2及びグランドへのシャント接続のキャパシタC1,C2,C3によってローパスフィルタが構成される。
【0008】
しかし、インダクタL1とインダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間には寄生インダクタンス等のインダクタンス成分が生じる。図12A中のインダクタLpはこのインダクタンス成分を明示した素子である。このインダクタンス成分Lpは、それに直列接続されたキャパシタC2と共振するので、その共振周波数に減衰極が生じ、それより高い周波数帯においては減衰量が低下するため、高周波数帯側において広帯域に減衰が必要な場合に使用することが困難となる。
【0009】
また、図12Bに示すように、ローパスフィルタ10が実装される回路基板20には、回路基板の基準電位電極(広面積に拡がるグランド電極)とローパスフィルタ10のグランド端子GNDが接続されるグランド端子接続パッドとの間に寄生インダクタンス等のインダクタンス成分が生じる。図12B中のインダクタLgはこのインダクタンス成分を明示した素子である。したがって、実使用状態では、インダクタンス成分Lpとインダクタンス成分Lgとの合成インダクタンスとキャパシタC2のキャパシタンスとで共振し、その共振周波数で減衰極が生じる。そのため、この減衰極より高い周波数帯においては減衰量が低下する。
【0010】
一方、最近の用途では、減衰域の所定減衰量を確保する周波数帯が広がる傾向がある。例えば、5G(5th Generation)やUWB(Ultra Wide Band)といった高周波広帯域の周波数帯を遮断するローパスフィルタでは、減衰させるべき周波数帯域が広帯域にわたる。したがって、ローパスフィルタの減衰域の減衰量が広帯域にわたって確保されることが要求される。
【0011】
そこで、本発明の目的は、通過域より高周波数側に広帯域に亘って良好な減衰特性を有するフィルタモジュール、このフィルタモジュールに用いられるフィルタ素子、及びそれらを備える電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本開示の一例としてのフィルタモジュールは、グランド電極が形成された回路基板と、当該回路基板に実装されたフィルタ素子とで構成されるフィルタモジュールであって、前記フィルタ素子は、第1端子と第2端子との間に直列に接続され、互いに磁界結合する、第1インダクタ及び第2インダクタと、前記第1インダクタと前記第2インダクタとの接続部とグランド端子との間に接続されるキャパシタと、を備え、前記第1インダクタと前記第2インダクタとは和動接続され、前記第1インダクタと前記第2インダクタとの磁界結合により、前記接続部と前記グランド端子との間に生じる相互インダクタンスをMで表し、前記接続部と前記グランド端子との間のインダクタンスをLp、前記グランド端子と前記グランド電極との間の経路のインダクタンスをLgで表すとき、Lp+Lg-M≧0かつLp-M<0の関係にある、ことを特徴とする。
【0013】
上記構成により、第1インダクタと第2インダクタとの磁界結合により、グランド端子にシャント接続される経路に生じる負の相互インダクタンスによって、第1インダクタと第2インダクタとの接続部と回路基板のグランド電極との間に生じる合成インダクタンス成分が抑制され、この合成インダクタンスとキャパシタのキャパシタンスとによる共振周波数が使用周波数帯より高域に移動する。また、Lp+Lg-M≧0の関係にあることにより、上記合成インダクタンスとキャパシタのキャパシタンスとの共振による減衰極が生じる。
【0014】
(2)本開示の一例としてのフィルタ素子は、グランド電極が形成されている回路基板に実装されるフィルタ素子であって、前記グランド電極に接続されるグランド端子と、第1端子と第2端子との間に直列に接続され互いに磁界結合する第1インダクタ及び第2インダクタと、前記第1インダクタと前記第2インダクタとの接続部と前記グランド端子との間に接続されるキャパシタと、を備え、前記第1インダクタと前記第2インダクタとは和動接続され、前記第1インダクタと前記第2インダクタとの磁界結合により、前記接続部と前記グランド端子との間に生じる相互インダクタンスをMで表し、前記接続部と前記グランド端子との間のインダクタンスをLpで表すとき、Lp-M<0の関係にある、ことを特徴とする。
【0015】
上記構成により、第1インダクタと第2インダクタとの磁界結合により、グランド端子にシャント接続される経路に生じる負の相互インダクタンスによって、第1インダクタと第2インダクタとの接続部と回路基板のグランド電極との間に生じる合成インダクタンス成分が抑制され、この合成インダクタンスとキャパシタのキャパシタンスとによる共振周波数が使用周波数帯より高域に移動する。
【0016】
(3)本開示の一例としての電子機器は、前記フィルタモジュール又は前記フィルタ素子を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、通過域より高周波数側に、広帯域に亘って良好な減衰特性を有するフィルタモジュール、このフィルタモジュールに用いられるフィルタ素子、及びそれを備える電子機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1Aは第1の実施形態に係るフィルタモジュール101の回路図である。図1Bはフィルタモジュール101の等価回路図である。
図2図2は、第1インダクタL1と第2インダクタL2との磁界結合により生じる相互インダクタンスを回路素子として表した等価回路図である。
図3図3A図3Bは、ローパスフィルタ11の斜視図である。
図4図4はローパスフィルタ11の各絶縁体層及びそれらに形成されている導体パターンを示す分解下面図である。
図5図5はフィルタモジュール101の透過係数の周波数特性を示す図である。
図6図6は第2の実施形態に係るフィルタモジュール102の斜視図である。
図7図7はフィルタモジュール102の正面図である。
図8図8はフィルタモジュール102の透過係数の周波数特性を示す図である。
図9図9Aは第3の実施形態に係るフィルタモジュール103の回路図である。図9Bはフィルタモジュール103の等価回路図である。
図10図10はバンドパスフィルタ13の透過係数の周波数特性を示す図である。
図11図11は第4の実施形態に係る電子機器201の構成を示すブロック図である。
図12図12Aは特許文献1に示されているローパスフィルタの等価回路図であり、図12Bは、そのローパスフィルタを回路基板に実装した状態での等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上、複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0020】
《第1の実施形態》
図1Aは第1の実施形態に係るフィルタモジュール101の回路図である。図1Bはフィルタモジュール101の等価回路図である。このフィルタモジュール101は、ローパスフィルタ11と、グランド電極が形成された回路基板20と、を有する。
【0021】
図1Aに示すローパスフィルタ11は、第1端子T1、第2端子T2及びグランド端子GNDを備える。また、ローパスフィルタ11は、第1端子T1と第2端子T2との間に直列に接続され、互いに磁界結合する、第1インダクタL1及び第2インダクタL2と、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間に接続されるキャパシタC2と、を備える。以下、インダクタの符号と該インダクタのインダクタンスの符号とは共通して使用する。したがって、例えば、インダクタL1のインダクタンスはL1で示す。
【0022】
図1Aに示す第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間には寄生インダクタンス等のインダクタンス成分Lpが生じる。図1Bはこのインダクタンス成分をインダクタLpで表している。
【0023】
回路基板20のグランド電極は回路基板20の基準電位電極であり、通常、広面積に拡がる電極である。つまり、本明細書において「グランド電極」とは、回路における基準電位となる平面状の電極である。図1Bに示すように、回路基板20の基準電位電極とローパスフィルタ10のグランド端子GNDが接続されるグランド端子接続パッドとの間に寄生インダクタンス等のインダクタンス成分Lgが生じる。図1Bはこのインダクタンス成分をインダクタLgで表している。
【0024】
図2は、第1インダクタL1と第2インダクタL2との磁界結合により生じる相互インダクタンスを回路素子として表した等価回路図である。図2に示すように、第1端子T1と第2端子T2との間に接続される回路を、インダクタLA,LB,LCによるT型等価回路で表すとき、相互インダクタンスを表すインダクタLCは、シリーズ接続されたインダクタLA,LBの接続点とグランド端子GNDとの間にシャント接続される。第1インダクタL1と第2インダクタL2とは和動接続されているので、インダクタLAのインダクタンスは(L1+M)、インダクタLBのインダクタンスは(L2+M)、インダクタLCのインダクタンスは(-M)である。
【0025】
上記構成により、第1インダクタL1と第2インダクタL2との磁界結合により、グランド端子GNDにシャント接続される経路に負の相互インダクタンス(-M)が生じる。この負の相互インダクタンス(-M)によって、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPと、回路基板20のグランド電極との間に生じるインダクタンス成分が抑制される。したがって、負の相互インダクタンス(-M)とインダクタンス成分Lp及びインダクタンス成分Lgとの合成インダクタンスと、キャパシタC2のキャパシタンスとによる共振周波数(減衰極周波数)は使用周波数帯より高域に移動する。
【0026】
因みに、特許文献1に記載のローパスフィルタにおいては、2つのコイルは差動接続されているので、その磁界結合により発生する相互インダクタンスは正となるため、ローパスフィルタのグランド端子GNDにシャントに接続される経路に生じる合成インダクタンスはさらに大きくなる。
【0027】
図1Bにおいて、回路基板20のグランド電極と、ローパスフィルタ11のグランド端子GNDとの間に生じるインダクタンス成分Lgと、インダクタンス成分Lpと、相互インダクタンス(-M)との関係は次のとおりである。
【0028】
Lp+Lg-M≧0
Lp-M<0
このことにより、インダクタンス成分Lgは、負のインダクタンス(Lp-M)により抑制される。また、Lp+Lg-M≧0であることにより、上記合成インダクタンスとキャパシタC2のキャパシタンスとの共振による減衰極が生じる。
【0029】
図3A図3Bは、ローパスフィルタ11の斜視図である。図3A図3Bとでは視点が異なる。また、いずれも内部を透過的に表している。
【0030】
ローパスフィルタ11は、それぞれ矩形の複数の絶縁体層が積層されて構成される直方体形状の積層体1を備える。この積層体1の外面に、第1端子電極ET1、第2端子電極ET2及び2つのグランド端子電極EGNDが形成されている。
【0031】
第1インダクタL1は、複数の絶縁体層の積層体1に形成されたコイル状導体CL1で構成されていて、第2インダクタL2は、複数の絶縁体層の積層体1に形成されたコイル状導体CL2で構成されている。
【0032】
キャパシタC2は、複数の絶縁体層の積層方向に互いに対向するキャパシタ電極C2a,C2b,C2c及びこれらキャパシタ電極で挟まれる絶縁体層で構成されている。
【0033】
第1インダクタL1のコイル状導体CL1と第2インダクタL2のコイル状導体CL2との接続部とキャパシタ電極C2bとは層間接続導体Vを介して接続されている。
【0034】
第1インダクタL1のコイル状導体CL1の一端は第1端子電極ET1に導通していて、第2インダクタL2のコイル状導体CL2の一端は第2端子電極ET2に導通している。キャパシタ電極C2a,C2cはグランド端子電極EGNDに導通していて、キャパシタ電極C2bは、層間接続導体Vを介して、第1インダクタL1のコイル状導体CL1と第2インダクタL2のコイル状導体CL2との接続部に導通している。
【0035】
図4はローパスフィルタ11の各絶縁体層及びそれらに形成されている導体パターンを示す分解下面図である。
【0036】
積層体1は絶縁体層S1~S11の積層により形成されている。図4においては、各絶縁体層の下面図を表している。絶縁体層S1は最上層の絶縁体層であり、絶縁体層S11は最下層の絶縁体層である。絶縁体層S2~S10は、最上層の絶縁体層S1と最下層の絶縁体層S11との間にある絶縁体層である。
【0037】
絶縁体層S1~S4に形成されているコイル状導体CL1a,CL1b,CL1c,CL1dによって、図3A図3Bに示したコイル状導体CL1が構成される。同様に、コイル状導体CL2a,CL2b,CL2c,CL2dによってコイル状導体CL2が構成される。
【0038】
また、絶縁体層S8~S10に形成されているキャパシタ電極C2a,C2b,C2cと絶縁体層S9,S10とによってキャパシタC2が構成される。
【0039】
コイル状導体CL1,CL2の巻回軸WA方向(図3A図3B参照)を視たとき、コイル状導体CL1,CL2は少なくとも一部にキャパシタ電極C2a,C2b,C2cに重ならない部分を有する。このことにより、コイル状導体CL1,CL2とキャパシタ電極C2a,C2b,C2cとの間に生じる不要な寄生容量が抑制される。
【0040】
絶縁体層S1~S11には側部端子電極E1,E2が形成されている。また、絶縁体層S8~S10には側部端子電極E1,E2,E3,E4が形成されている。各絶縁体層に形成されている側部端子電極E1,E2,E3,E4は同一符号の端子電極同士で導通する。
【0041】
コイル状導体CL1aの一端は側部端子電極E1に導通し、コイル状導体CL2aの一端は側部端子電極E2に導通する。キャパシタ電極C2a及びキャパシタ電極C2cは側部端子電極E3,E4にそれぞれ導通する。
【0042】
コイル状導体の巻回軸WA方向を視て、キャパシタ電極C2a,C2b,C2cは、第1端子電極ET1及び第2端子電極ET2に重ならない部分を有する。このことにより、キャパシタ電極C2a,C2b,C2cと第1端子電極ET1及び第2端子電極ET2との間に生じる不要な寄生容量が抑制される。なお、コイル状導体の巻回軸WA方向を視て、キャパシタ電極C2a,C2b,C2cが、第1端子電極ET1又は第2端子電極ET2の一方に重ならない部分を有する構造であってもよい。例えば、キャパシタ電極C2a,C2b,C2cが、第1端子電極ET1に重ならない部分を有する構造であれば、図1Aに示したキャパシタC2と第1端子T1との間の寄生容量を抑制できる。同様に、キャパシタ電極C2a,C2b,C2cが、第2端子電極ET2に重ならない部分を有する構造であれば、キャパシタC2と第2端子T2との間の寄生容量を抑制できる。
【0043】
積層体1の各絶縁体層S1~S11は、感光性絶縁ペースト及び感光性導電ペーストのスクリーン印刷、露光及び現像によって形成され、これら絶縁体層S1~S11の積層形成によって積層体1は形成される。
【0044】
具体的には、感光性絶縁ペースト層をスクリーン印刷し、紫外線を照射し、アルカリ溶液で現像する。これにより外部電極用の開口やビアホール等を有する絶縁基材パターンを形成する。また、感光性導電ペーストをスクリーン印刷し、紫外線を照射し、アルカリ溶液で現像することによって導体パターンを形成する。この絶縁基材パターン及び導体パターンの積層によって、マザー積層体を得る。その後、このマザー積層体を個片に分断することによって多数の積層体1を得る。各外部電極の表面には、はんだ付け性向上、導電率向上、耐環境性向上を目的として、例えばNi / Auめっきを施す。
【0045】
上記積層体1の形成方法はこれに限らない。例えば、導体パターン形状に開口したスクリーン版による導体ペーストを印刷し積層する工法でもよい。また、絶縁基材に導体箔を貼付し、導体箔のパターンニングによって各絶縁体層の導体パターンを形成してもよい。外部電極の形成方法についてもこれに限らず、例えば、積層した素体に対する導体ペーストのディッピングやスパッタリング法によって、積層体1の底面及び側面に外部電極を形成してもよく、さらに、その表面にめっき加工を施してもよい。
【0046】
図5はフィルタモジュール101の透過係数の周波数特性を示す図である。図5の横軸は周波数、縦軸は透過係数である。図5において、特性Aは本実施形態のローパスフィルタ11の特性であり、特性B,C,Dは比較例としてのフィルタモジュールの特性である。特性Bは、図1A図1Bに示した相互インダクタンスMを0としたときの特性である。
【0047】
本実施形態のフィルタモジュール101の特性Aと比較例のフィルタモジュールの特性Bとを比較すると、いずれも通過周波数帯域は無線LANとして使用される2.4GHz帯であり、挿入損失が-3dBとなる遮断周波数は約4.5GHzであるが、比較例のフィルタモジュールの特性Bの減衰極周波数が8.5GHzであるのに対し、本実施形態のフィルタモジュール101では、減衰極周波数が12.5GHzである。
【0048】
図5中に矢印記号で表すように、遮断周波数と減衰極周波数との周波数差が小さいと、減衰極周波数から高い周波数域にかけての減衰量の跳ね上がりが急峻であり、かつ跳ね上がりが大きい(減衰がより浅い)。遮断周波数と減衰極周波数との周波数差が大きいと、減衰極周波数から高い周波数域にかけての減衰量の跳ね上がりが緩やかであり、跳ね上がりが小さい(減衰がより深い)。したがって、本実施形態のフィルタモジュール101は、特性Bを示す比較例としてのフィルタモジュールに比べて、減衰極より高周波数域での減衰量が大きい。これは、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間に生じるインダクタンス成分Lp及び回路基板のインダクタンス成分Lgが負の相互インダクタンス(-M)で抑制されるからである。
【0049】
図5において、特性Cは、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド電極との間に生じるインダクタンス成分Lp、インダクタンス成分Lg及び相互インダクタンス(-M)の合成インダクタンス(Lp+Lg-M)が0である場合の特性である。特性Dは、合成インダクタンス(Lp+Lg-M)が負である場合の特性である。このように、インダクタンス成分Lp、インダクタンス成分Lg及び相互インダクタンス(-M)との合成インダクタンスが0又は負であれば、キャパシタC2とで共振が生じないので、減衰極が生じない。そのため遮断周波数より高周波数域での所定の減衰量が確保できない。また、インダクタンス成分Lp、インダクタンス成分Lg及び相互インダクタンス(-M)の合成インダクタンスが負の場合は、急峻性が著しく劣化してしまい、広帯域にわたって深い減衰を得ることがより困難となる。よって合成インダクタンス(Lp+Lg-M)は正であることが望ましい。
【0050】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、ローパスフィルタとそれを実装する回路基板とで構成されるフィルタモジュールについて例示する。
【0051】
図6は第2の実施形態に係るフィルタモジュール102の斜視図である。図7はフィルタモジュール102の正面図である。回路基板20の上面にはローパスフィルタ11の各端子を接続するためのパッドが形成されている。また、ローパスフィルタ11のグランド端子電極EGNDが接続されるパッドから連続する配線電極31が形成されている。回路基板20の下面にはグランド電極30が形成されている。このグランド電極30は回路基板20の基準電位電極であり、広面積に拡がっている。本実施形態では、グランド電極30の面積は、ローパスフィルタ11を平面視したときの矩形の長辺の2乗より大きい。回路基板20の内部には、上面の配線電極31と下面のグランド電極30とを接続する層間接続導体32A,32Bが形成されている。したがって、ローパスフィルタ11のグランド端子電極EGNDは、[配線電極31]-[層間接続導体32A,32B]-[グランド電極30]の経路で回路基板20のグランド電極30に導通する。
【0052】
配線電極31のインダクタンス成分及び層間接続導体32A,32Bのインダクタンス成分は、図2に示したインダクタンス成分Lgに相当する。
【0053】
図8はフィルタモジュール102の透過係数の周波数特性を示す図である。図8の横軸は周波数、縦軸は透過係数である。この例では、通過周波数帯域が、無線LANとして使用されている2.4GHz帯であり、挿入損失が-3dBとなる遮断周波数は約4GHzであり、最も低い減衰極の減衰極周波数は19GHz以上である。このように、減衰極周波数が使用周波数帯より高域に移動することによって、フィルタモジュール102の減衰域を広帯域化できる。
【0054】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続点とグランドとの間に接続される回路がこれまでに示した例とは異なるフィルタモジュールについて示す。
【0055】
図9Aは第3の実施形態に係るフィルタモジュール103の回路図である。図9Bはフィルタモジュール103の等価回路図である。このフィルタモジュール103は、グランド電極が形成された回路基板20と、バンドパスフィルタ13と、を有する。
【0056】
バンドパスフィルタ13は、第1端子T1、第2端子T2及びグランド端子GNDを備える。また、バンドパスフィルタ13は、第1端子T1と第2端子T2との間に直列に接続された第1インダクタL1、第2インダクタL2及びキャパシタC11,C12と、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間に接続された、キャパシタC2と第3インダクタL3との並列回路と、を備える。
【0057】
バンドパスフィルタ13は、第1端子T1と第2端子T2との間にシリーズに接続されている、第1インダクタL1、第2インダクタL2及びキャパシタC11,C12による回路により、及び、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続点とグランドとの間に接続される第3インダクタL3及びキャパシタC2との並列回路により、バンドパスフィルタ特性を示す。
【0058】
図9Aに示す第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間には寄生インダクタンス等のインダクタンス成分が生じる。図9Bはこのインダクタンス成分をインダクタLpで表している。
【0059】
図9Bに示すように、第1インダクタL1及び第2インダクタL2による回路を、インダクタLA,LB,LCによるT型等価回路で表すとき、相互インダクタンスを表すインダクタLCは、シリーズ接続されたインダクタLA,LBの接続点とグランド端子GNDとの間に接続される。第1インダクタL1と第2インダクタL2とは和動接続されているので、インダクタLAのインダクタンスは(L1+M)、インダクタLBのインダクタンスは(L2+M)、インダクタLCのインダクタンスは(-M)である。
【0060】
回路基板20のグランド電極は回路基板20の基準電位電極であり、通常、広面積に拡がる電極である。図9Bに示すように、回路基板20の基準電位電極とバンドパスフィルタ13のグランド端子GNDが接続されるグランド端子接続パッドとの間に寄生インダクタンス等のインダクタンス成分Lgが生じる。
【0061】
図9Bにおいて、回路基板20のグランド電極と、バンドパスフィルタ13のグランド端子GNDとの間に生じるインダクタンス成分Lgと、インダクタンス成分Lpと、相互インダクタンス(-M)との合成インダクタンスは0より大きい。つまり、インダクタンス成分LgのインダクタンスをLgで表し、インダクタンス成分LpのインダクタンスをLpで表すと、(Lp+Lg-M)≧0である。
【0062】
上記構成により、第1インダクタL1と第2インダクタL2との磁界結合により、グランド端子GNDにシャント接続される経路に生じる負の相互インダクタンス(-M)によって、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPと、回路基板20のグランド電極との間に生じるインダクタンス成分が抑制される。したがって、第3インダクタL3及びキャパシタC2の並列共振周波数より高域での、上記シャント接続される経路のインダクタンスが抑制されて、通過域より高域における減衰量が大きくなる。
【0063】
図10はバンドパスフィルタ13の透過係数の周波数特性を示す図である。図10の横軸は周波数、縦軸は透過係数である。図10において、特性Aは本実施形態のバンドパスフィルタ13の特性であり、特性Bは比較例としてのバンドパスフィルタの特性である。特性Bは、図9Bに示した相互インダクタンスMを0としたときの特性である。
【0064】
本実施形態のバンドパスフィルタ13の特性Aと比較例のバンドパスフィルタの特性Bとを比較すると、いずれも通過帯域の中心周波数は約2.4GHzであるが、比較例のローパスフィルタの特性Bの減衰極周波数が8.5GHzであるのに対し、本実施形態のローパスフィルタ11では、減衰極周波数が12.5GHzである。
【0065】
本実施形態のバンドパスフィルタ13は、特性Bを示す比較例としてのバンドパスフィルタに比べて、減衰極より高周波数域での減衰量が大きい。これは、第1インダクタL1と第2インダクタL2との接続部CPとグランド端子GNDとの間に生じるインダクタンス成分Lpが負の相互インダクタンス(-M)で抑制されるからである。
【0066】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、以上に示したフィルタモジュール又はフィルタ素子を備える電子機器について例示する。
【0067】
図11は第4の実施形態に係る電子機器201の構成を示すブロック図である。この電子機器201は、例えばいわゆるスマートフォンや携帯電話器である。この電子機器201は、デュプレクサ53、アンテナ54、制御回路50、インターフェイス及びメモリ51、周波数シンセサイザ52を備える。送信系は、送話器61、送信信号処理回路62、送信ミキサ63、送信フィルタ64及びパワーアンプ65で構成されている。受信系は、ローノイズアンプ71、受信フィルタ72、受信ミキサ73、受信信号処理回路74及び受話器75で構成されている。パワーアンプ65から出力される送信信号はデュプレクサ53を介してアンテナ54へ出力される。また、アンテナ54で受信された信号はデュプレクサ53を介してローノイズアンプ71で増幅される。なお、通話ではなくデータ通信などの場合には、制御回路50は受信信号を処理する。
【0068】
送信フィルタ64や受信フィルタ72には、本発明のフィルタモジュール又はフィルタ素子を適用できる。また、デュプレクサ53の低周波数側のフィルタに本発明のフィルタモジュール又はフィルタ素子を適用できる。
【0069】
また、パワーアンプ65の前後、ローノイズアンプ71の前後、送信ミキサ63の前後、受信ミキサ73等の前後にフィルタを設ける場合に、それらのフィルタに、本発明のフィルタモジュール又はフィルタ素子を適用できる。
【0070】
また、現在のスマートフォンや携帯電話器は、複数のアンテナや、複数の周波数帯で使用されるので、バンドパスフィルタや分波器が多用されるが、これらバンドパスフィルタや分波器として、ローパスフィルタ特性を有する本発明のフィルタモジュール又はフィルタ素子とハイパスフィルタとを組み合わせることで構成することもできる。
【0071】
最後に、本発明は上述した実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【符号の説明】
【0072】
C1,C2,C3,C11,C12…キャパシタ
C2a,C2b,C2c…キャパシタ電極
CL1,CL2…コイル状導体
CL1a,CL1b,CL1c,CL1d…コイル状導体
CL2a,CL2b,CL2c,CL2d…コイル状導体
CP…接続部
E1,E2,E3,E4…側部端子電極
EGND…グランド端子電極
ET1…第1端子電極
ET2…第2端子電極
GND…グランド端子
L1…第1インダクタ
L2…第2インダクタ
L3…第3インダクタ
LA,LB,LC…インダクタ
Lg,Lp…インダクタンス成分
M…相互インダクタンス
S1~S11…絶縁体層
T1…第1端子
T2…第2端子
V…層間接続導体
WA…巻回軸
1…積層体
10…ローパスフィルタ
11…ローパスフィルタ(フィルタ素子)
13…バンドパスフィルタ(フィルタ素子)
20…回路基板
30…グランド電極
31…配線電極
32A,32B…層間接続導体
50…制御回路
51…メモリ
52…周波数シンセサイザ
53…デュプレクサ
54…アンテナ
61…送話器
62…送信信号処理回路
63…送信ミキサ
64…送信フィルタ
65…パワーアンプ
71…ローノイズアンプ
72…受信フィルタ
73…受信ミキサ
74…受信信号処理回路
75…受話器
101,102,103…フィルタモジュール
201…電子機器
図1
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