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特開2024-144697呈味増強用組成物、その製造方法、食品、及び、食品の呈味を増強する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144697
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】呈味増強用組成物、その製造方法、食品、及び、食品の呈味を増強する方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/00 20160101AFI20241003BHJP
   A23L 27/30 20160101ALI20241003BHJP
   A23L 23/10 20160101ALI20241003BHJP
   C07K 5/06 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/00 E
A23L27/30 C
A23L23/10
C07K5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024128198
(22)【出願日】2024-08-02
(62)【分割の表示】P 2024512208の分割
【原出願日】2024-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2023013624
(32)【優先日】2023-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 絹子
(72)【発明者】
【氏名】小林 瑠乃
(72)【発明者】
【氏名】坂根 久美
(72)【発明者】
【氏名】白水 崇
(72)【発明者】
【氏名】松原 啓子
(72)【発明者】
【氏名】鴨井 享宏
(57)【要約】
【課題】本発明は、食品に配合することにより、前記食品の呈味を増強することができる呈味増強用組成物及びその製造方法、並びに、呈味が増強された食品及び食品の呈味を増強する方法を提供する。
【解決手段】第1の実施形態は、環状ジペプチドを含有する呈味増強用組成物に関する。第2の実施形態は、コリアンダー等の香辛料を加熱することにより前記香辛料中の環状ジペプチドを増加させることを含む、前記呈味増強用組成物の製造方法に関する。第3の実施形態は、前記呈味増強用組成物を含有する食品に関する。第4の実施形態は、前記呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む、食品の呈味を増強する方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ジペプチドを含有する呈味増強用組成物。
【請求項2】
前記環状ジペプチドが、プロリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、アスパラギン酸、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択される1以上を含有する、請求項1に記載の呈味増強用組成物。
【請求項3】
前記環状ジペプチドが、環状(Pro-Asn)、環状(Pro-His)、環状(Pro-Asp)、環状(Pro-Pro)、環状(Pro-Val)、環状(Pro-Tyr)、環状(Pro-Leu)、環状(Pro-Ile)、環状(Pro-Glu)、環状(Pro-Gly)、環状(Pro-Met)、環状(Arg-Pro)、環状(Thr-Pro)、環状(hyPro-Pro)、環状(Leu-Leu)、環状(Ile-Leu)、環状(Ile-Ile)、環状(Leu-Asp)、環状(Ile-Asp)、環状(Leu-Ser)、環状(Ile-Ser)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Leu-His)、環状(Ile-His)、環状(Leu-Met)、環状(Ile-Met)、環状(Arg-Leu)、環状(Arg-Ile)、環状(hyPro-Leu)、環状(hyPro-Ile)、環状(Thr-Leu)、環状(Thr-Ile)、環状(Gly-His)、環状(Gly-Ser)、環状(Gly-Arg)、環状(Gly-Val)、環状(Gly-Leu)、環状(Gly-Ile)、環状(Gly-Phe)、環状(Gly-Tyr)、環状(Gly-Thr)、環状(Gly-Gly)、環状(Gly-Ala)、環状(Phe-Leu)、環状(Phe-Ile)、環状(Phe-Ser)、環状(Phe-Ala)、環状(Phe-Asp)、環状(Phe-Thr)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Tyr)、環状(Phe-Phe)、環状(Glu-His)、環状(Glu-Glu)、環状(Glu-Arg)、環状(Glu-Gly)、環状(Glu-Asp)、環状(Glu-Tyr)、環状(Glu-Phe)、環状(Glu-Leu)、環状(Glu-Ile)、環状(Tyr-Asp)、環状(Tyr-His)、環状(Tyr-Ser)、環状(Val-Arg)、環状(Val-Tyr)、環状(Val-Val)、環状(Val-Phe)、環状(Val-Ser)、環状(Ala-His)、環状(Ala-Arg)、環状(Ala-Pro)、環状(Ala-Tyr)、環状(Ala-Val)、環状(Ala-Leu)、環状(Ala-Ile)、環状(Ala-Asp)及び環状(Ala-Asn)からなる群から選択される1以上である、請求項1又は2に記載の呈味増強用組成物。
【請求項4】
前記環状ジペプチドが、環状(Ala-Leu)、環状(Ala-Ile)、環状(Thr-Pro)、環状(Pro-His)、環状(Ala-Pro)、環状(Arg-Pro)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Ala)、環状(Pro-Pro)、環状(hyPro-Pro)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Gly-Val)、環状(Ala-Val)、環状(Pro-Met)、環状(hyPro-Leu)、環状(hyPro-Ile)、環状(Pro-Leu)、環状(Pro-Ile)及び環状(Pro-Val)からなる群から選択される1以上である、請求項3に記載の呈味増強用組成物。
【請求項5】
前記環状ジペプチドが、環状(Pro-Met)、環状(Glu-His)、環状(Ala-His)、環状(Gly-His)、環状(Tyr-His)、環状(Leu-His)、環状(Ile-His)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Glu-Gly)、環状(Pro-His)及び環状(Glu-Phe)からなる群から選択される1以上である、請求項3に記載の呈味増強用組成物。
【請求項6】
さらにスルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物。
【請求項7】
前記有機酸が、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群から選択される1以上である、請求項6に記載の呈味増強用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物の製造方法であって、
コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料を加熱することにより前記香辛料中の前記環状ジペプチドを増加させること、
を含む方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物を含有する食品。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む、
食品の呈味を増強する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呈味増強用組成物、その製造方法、食品、及び、食品の呈味を増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食塩(塩化ナトリウム)は食品に好ましい味を付与するとともに、生命の維持に不可欠な元素である塩素及びナトリウムの供給源として食品に用いられる。一方で、食塩の過剰摂取は高血圧症等の多くの疾患の原因であることが知られており、食塩の摂取量の抑制が望まれている。
【0003】
特許文献1は、パプリカ、柚子の果皮及び/又は陳皮、ジンジャー並びにオールスパイスを所定比率で含有し、更に赤唐辛子、クミン、コリアンダー及びセロリーシードから選択される少なくとも1種のスパイスを含有し得る、塩味増強用スパイスミックを開示する。特許文献1では、前記塩味増強用スパイスミックがスモークされたスパイスを含むことで塩味増強効果をより高めることができると記載されている。スモークされたスパイスの具体例として、スモークされたパプリカが記載されている。特許文献1によれば、前記塩味増強用スパイスミックスは、食塩と共に食品に添加することで、食品の塩味を増強する効果を奏する。
【0004】
特許文献2は、コショウ、ショウガ、クローブ及びシナモンの混合物を含有する塩味増強剤、及び、コショウ、ショウガ、クローブ、シナモン及びトウガラシの混合物を含有する塩味増強剤を開示する。
【0005】
特許文献3は、コリアンダー、クミン、陳皮、アニス、セロリ、ターメリック、フェヌグリーク、ガーリック、唐辛子、パプリカ、フェンネル、黒胡椒、ジンジャー及びアサフォエティダからなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa以上の圧力下で、加熱価が15~170となる条件で加熱する工程を含むカラメル香増強香辛料の製造方法、並びに、ターメリック、唐辛子、フェヌグリーク、クミン、コリアンダー、陳皮、ガーリック、パプリカ、フェンネル、アニス、セロリ、黒胡椒、ジンジャー、フェヌグリークリーブス及び桂皮からなる群から選択される少なくとも1種の香辛料を、ゲージ圧0.05MPa未満の条件下で、加熱価が50~180となるように加熱する工程を含むアーモンド香増強香辛料の製造方法を開示する。特許文献3は更に、コリアンダーを、加熱価が800以上となる条件で加熱することにより、炭火香増強香辛料が得られることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-102142号公報
【特許文献2】特開2012-239398号公報
【特許文献3】特開2020-103257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食品に配合することにより、前記食品の呈味を増強することができる呈味増強用組成物及びその製造方法を提供する。本発明はまた、食品の呈味を増強する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、食品の呈味を増強することができる呈味増強用組成物及び呈味増強用組成物の製造方法、並びに、呈味が増強された食品、並びに、食品の呈味を増強する方法として以下の手段を見出した。
【0009】
[1]環状ジペプチドを含有する呈味増強用組成物。当該呈味増強用組成物は例えば塩味増強用組成物であってよい。
【0010】
[2]前記環状ジペプチドが、プロリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、アスパラギン酸、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択される1以上を含有する、[1]に記載の呈味増強用組成物。
【0011】
[3]前記環状ジペプチドが、環状(Pro-Asn)、環状(Pro-His)、環状(Pro-Asp)、環状(Pro-Pro)、環状(Pro-Val)、環状(Pro-Tyr)、環状(Pro-Leu)、環状(Pro-Ile)、環状(Pro-Glu)、環状(Pro-Gly)、環状(Pro-Met)、環状(Arg-Pro)、環状(Thr-Pro)、環状(hyPro-Pro)、環状(Leu-Leu)、環状(Ile-Leu)、環状(Ile-Ile)、環状(Leu-Asp)、環状(Ile-Asp)、環状(Leu-Ser)、環状(Ile-Ser)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Leu-His)、環状(Ile-His)、環状(Leu-Met)、環状(Ile-Met)、環状(Arg-Leu)、環状(Arg-Ile)、環状(hyPro-Leu)、環状(hyPro-Ile)、環状(Thr-Leu)、環状(Thr-Ile)、環状(Gly-His)、環状(Gly-Ser)、環状(Gly-Arg)、環状(Gly-Val)、環状(Gly-Leu)、環状(Gly-Ile)、環状(Gly-Phe)、環状(Gly-Tyr)、環状(Gly-Thr)、環状(Gly-Gly)、環状(Gly-Ala)、環状(Phe-Leu)、環状(Phe-Ile)、環状(Phe-Ser)、環状(Phe-Ala)、環状(Phe-Asp)、環状(Phe-Thr)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Tyr)、環状(Phe-Phe)、環状(Glu-His)、環状(Glu-Glu)、環状(Glu-Arg)、環状(Glu-Gly)、環状(Glu-Asp)、環状(Glu-Tyr)、環状(Glu-Phe)、環状(Glu-Leu)、環状(Glu-Ile)、環状(Tyr-Asp)、環状(Tyr-His)、環状(Tyr-Ser)、環状(Val-Arg)、環状(Val-Tyr)、環状(Val-Val)、環状(Val-Phe)、環状(Val-Ser)、環状(Ala-His)、環状(Ala-Arg)、環状(Ala-Pro)、環状(Ala-Tyr)、環状(Ala-Val)、環状(Ala-Leu)、環状(Ala-Ile)、環状(Ala-Asp)及び環状(Ala-Asn)からなる群から選択される1以上である、[1]又は[2]に記載の呈味増強用組成物。
【0012】
[4]前記環状ジペプチドが、環状(Ala-Leu)、環状(Ala-Ile)、環状(Thr-Pro)、環状(Pro-His)、環状(Ala-Pro)、環状(Arg-Pro)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Ala)、環状(Pro-Pro)、環状(hyPro-Pro)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Gly-Val)、環状(Ala-Val)、環状(Pro-Met)、環状(hyPro-Leu)、環状(hyPro-Ile)、環状(Pro-Leu)、環状(Pro-Ile)及び環状(Pro-Val)からなる群から選択される1以上である、[3]に記載の呈味増強用組成物。
【0013】
[5]前記環状ジペプチドが、環状(Pro-Met)、環状(Glu-His)、環状(Ala-His)、環状(Gly-His)、環状(Tyr-His)、環状(Leu-His)、環状(Ile-His)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Glu-Gly)、環状(Pro-His)及び環状(Glu-Phe)からなる群から選択される1以上である、[3]に記載の呈味増強用組成物。
【0014】
[6]さらにスルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の呈味増強用組成物。
【0015】
[7]前記有機酸が、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群から選択される1以上である、[6]に記載の呈味増強用組成物。
【0016】
[8][1]~[7]のいずれかに記載の呈味増強用組成物の製造方法であって、
コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料を加熱することにより前記香辛料中の前記環状ジペプチドを増加させること、
を含む方法。
【0017】
[9][1]~[7]のいずれかに記載の呈味増強用組成物を含有する食品。
【0018】
[10][1]~[7]のいずれかに記載の呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む、
食品の呈味を増強する方法。当該呈味増強用組成物は例えば塩味増強用組成物であってよい。
【0019】
[11]食品の呈味を増強するための、環状ジペプチドの使用。
【0020】
[12]前記環状ジペプチドが、[1]~[5]のいずれかで規定した環状ジペプチドである、[11]に記載の使用。
【0021】
[13]前記環状ジペプチドが、前記環状ジペプチドと、スルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上との組み合わせである、[11]又は[12]に記載の使用。
【0022】
[14]前記有機酸が、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群から選択される1以上である、[13]に記載の使用。
【0023】
[15]前記環状ジペプチドが、加熱処理された、コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料中に含まれる、[11]~[14]のいずれかに記載の使用。
【0024】
[16]環状ジペプチドを、食品に配合することを含む、食品の呈味を増強する方法。
【0025】
[17]前記環状ジペプチドが、[1]~[5]のいずれかで規定した環状ジペプチドである、[16]に記載の方法。
【0026】
[18]前記環状ジペプチドが、前記環状ジペプチドと、スルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上との組み合わせである、[16]又は[17]に記載の方法。
【0027】
[19]前記有機酸が、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群から選択される1以上である、[18]に記載の方法。
【0028】
[20]前記環状ジペプチドが、加熱処理された、コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料中に含まれる、[16]~[19]のいずれかに記載の方法。
【0029】
[21]食品の呈味を増強する用途のための、環状ジペプチド。
【0030】
[22]前記環状ジペプチドが、[1]~[5]のいずれかで規定した環状ジペプチドである、[21]に記載の環状ジペプチド。
【0031】
[23]前記環状ジペプチドが、前記環状ジペプチドと、スルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上との組み合わせである、[21]又は[22]に記載の環状ジペプチド。
【0032】
[24]前記有機酸が、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群から選択される1以上である、[23]に記載の環状ジペプチド。
【0033】
[25]前記環状ジペプチドが、加熱処理された、コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料中に含まれる、[21]~[24]のいずれかに記載の環状ジペプチド。
【0034】
[26]食品の呈味を増強する用途のための添加物の製造における、環状ジペプチドの使用。
【0035】
[27]前記環状ジペプチドが、[1]~[5]のいずれかで規定した環状ジペプチドである、[26]に記載の使用。
【0036】
[28]前記環状ジペプチドが、前記環状ジペプチドと、スルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上との組み合わせである、[26]又は[27]に記載の使用。
【0037】
[29]前記有機酸が、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群から選択される1以上である、[28]に記載の使用。
【0038】
[30]前記環状ジペプチドが、加熱処理された、コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料中に含まれる、[26]~[29]のいずれかに記載の使用。
【0039】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号特願2023-013624号の開示内容を包含する。
また本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【発明の効果】
【0040】
本発明の一以上の実施形態に係る呈味増強用組成物は、食品に配合することにより、前記食品の呈味を増強することができる。
【0041】
本発明の一以上の実施形態に係る呈味増強用組成物の製造方法によれば、前記呈味増強用組成物を製造することができる。
【0042】
本発明の一以上の実施形態に係る食品は、呈味が増強された食品である、
【0043】
本発明の一以上の実施形態に係る食品の呈味を増強する方法によれば、前記呈味増強用組成物を、食品に配合することにより、前記食品の呈味を増強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】未加熱のコリアンダー及び加熱処理したコリアンダー中の、複数の環状ジペプチドの、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図2】未加熱のコリアンダー及び加熱処理したコリアンダー中の、複数の環状ジペプチドの、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図3】未加熱のコリアンダー及び加熱処理(焙煎)したコリアンダー中の、スルフロール及び酢酸スルフロールの内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比、並びに、酒石酸、リンゴ酸及びtrans-アコニット酸の、内標準物質(99μg/gのリビトール)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図4】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Phe-Leu/Ile)(1)、環状(Pro-Asn)(2)環状(Leu/Ile-Leu/Ile)(3)及び環状(Thr-Leu/Ile)(4)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図5】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Phe-Ser)(5)、環状(Gly-His)(6)、環状(Gly-Ser)(7)及び環状(Gly-Arg)(8)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図6】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Ala-His)(9)、環状(Glu-His)(10)、環状(Glu-Arg)(11)及び環状(Ala-Arg)(12)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図7】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Glu-Glu)(13)、環状(Glu-Gly)(14)、環状(Glu-Asp)(15)及び環状(Pro-His)(16)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図8】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Glu-Tyr)(17)、環状(Leu/Ile-Asp)(18)、環状(Pro-Asp)(19)及び環状(Val-Arg)(20)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図9】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Thr-Pro)(21)、環状(hyPro-Pro)(22)、環状(Gly-Val)(23)及び環状(Ala-Pro)(24)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図10】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Ala-Tyr)(25)、環状(Arg-Leu/Ile)(26)、環状(Leu/Ile-Ser)(27)及び環状(Ala-Val)(28)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図11】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Pro-Pro)(29)、環状(Gly-Leu/Ile)(30)、環状(Gly-Phe)(31)及び環状(Pro-Tyr)(32)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図12】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Phe-Asp)(33)、環状(Pro-Val)(34)、環状(Ala-Leu/Ile)(35)及び環状(Val-Tyr)(36)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図13】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Tyr-Ser)(37)、環状(Phe-Ala)(38)、環状(Val-Val)(39)及び環状(Pro-Leu/Ile)(40)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図14】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Phe-Tyr)(41)、環状(Phe-Thr)(42)、環状(Phe-Pro)(43)及び環状(Leu/Ile-Val)(44)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図15】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、環状(Val-Phe)(45)、環状(Tyr-Asp)(46)、環状(Ala-Asp)(47)及び環状(Val-Ser)(48)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図16】未加熱のパプリカ(比較例201、202)及び所定条件で加熱処理したパプリカ(実施例201~216)中の、スルフロール及び酢酸スルフロールの、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比、並びに、酒石酸及びtrans-アコニット酸の、内標準物質(99μg/gのリビトール)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図17】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Phe-Phe)(1)、環状(Phe-Leu/Ile)(2)及び環状(Leu/Ile-Val)(3)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図18】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Phe-Pro)(4)、環状(Phe-Tyr)(5)及び環状(Pro-Leu/Ile)(6)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図19】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Val-Val)(7)、環状(Phe-Ala)(8)及び環状(Tyr-Ser)(9)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図20】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Pro-Val)(10)、環状(Pro-Tyr)(11)及び環状(Pro-Pro)(12)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図21】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Leu/Ile-Ser)(13)、環状(Arg-Leu/Ile)(14)及び環状(Ala-Tyr)(15)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図22】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Gly-Tyr)(16)、環状(Ala-Pro)(17)及び環状(Gly-Val)(18)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図23】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(hyPro-Pro)(19)、環状(Thr-Pro)(20)及び環状(Val-Arg)(21)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図24】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Pro-Asp)(22)、環状(Arg-Pro)(23)及び環状(Glu-Tyr)(24)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図25】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Pro-His)(25)、環状(Glu-Asp)(26)及び環状(Gly-Arg)(27)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図26】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Gly-His)(28)、環状(Leu/Ile-Leu/Ile)(29)及び環状(Glu-Glu)(30)の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図27】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、環状(Leu/Ile-Asp)(31)及び環状(Phe-Asp)(32))の、前記内標準物質に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図28】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、スルフロール(上)、及び、酢酸スルフロール(中)の内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比、並びに、cis-アコニット酸(下)の、内標準物質(99μg/gのリビトール)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図29】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、trans-アコニット酸(上)、酒石酸(中)及びリンゴ酸(下)の、内標準物質(99μg/gのリビトール)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図30】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、クエン酸の、内標準物質(99μg/gのリビトール)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図31】未加熱のクミン(比較例301)及び所定条件で加熱処理したクミン(実施例301~319)中の、カルベオール(上)、ネロリドール(中)及びα-テルピネン-7-アール(下)の、内標準物質(625μg/gの4-メチルチアゾール)に対する、GC-MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図32】未加熱のアサフォエティダ(比較例401)及び所定条件で加熱処理したアサフォエティダ(実施例401~404)中の、環状(Gly-Thr)(1)、環状(Gly-His)(2)、環状(Ala-Asp)(3)及び環状(Val-Ser)(4)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図33】未加熱のアサフォエティダ(比較例401)及び所定条件で加熱処理したアサフォエティダ(実施例401~404)中の、環状(Gly-Arg)(5)、環状(Ala-His)(6)、環状(Glu-Asp)(7)及び環状(Phe-Phe)(8)、の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図34】未加熱のアサフォエティダ(比較例401)及び所定条件で加熱処理したアサフォエティダ(実施例401~404)中の、環状(Leu/Ile-Leu/Ile)(9)、環状(Ala-Arg)(10)、環状(Leu/Ile-Val)(11)及び環状(Phe-Pro)(12)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図35】未加熱のアサフォエティダ(比較例401)及び所定条件で加熱処理したアサフォエティダ(実施例401~404)中の、環状(Phe-Leu/Ile)(13)、環状(Pro-Pro)(14)、環状(Glu-Phe)(15)及び環状(Arg-Leu/Ile)(16)、の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図36】未加熱のアサフォエティダ(比較例401)及び所定条件で加熱処理したアサフォエティダ(実施例401~404)中の、環状(Pro-Leu/Ile)(17)、環状(Pro-Glu)(18)、環状(Glu-Leu/Ile)(19)及び環状(Ala-Pro)(20)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図37】未加熱のアサフォエティダ(比較例401)及び所定条件で加熱処理したアサフォエティダ(実施例401~404)中の、環状(Pro-Val)(21)及び環状(Pro-His)(22)の、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
図38】未加熱のアサフォエティダ(比較例401)及び所定条件で加熱処理したアサフォエティダ(実施例401~404)中の、スルフロールの、内標準物質(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比、並びに、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸の、内標準物質(99μg/gのリビトール)に対する、LC-MS/MSで得られた抽出イオンクロマトグラムでのピーク面積比を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
<呈味増強>
本明細書において「呈味」とは、食品が有する呈味を指し、例えば、塩味、甘味、酸味、苦味、旨味、コク味、甘旨味、辛味、渋味、味の広がり、及び、香ばしさから選択される1以上の呈味であることができる。そして呈味の「増強」とは、食品を喫食した時に感じられる呈味を増強することを指し、例えば、呈味成分を通常よりも低減した量で含む食品(例えば減塩食品)を喫食した時に感じられる弱い呈味を増強することを指す。
【0046】
本明細書において食品を喫食したときに感じられる呈味は、最初に感じられる「トップ」、続いて感じられる「ミドル」、最後に感じられる「ラスト」の三段階に分けることができる。本明細書における呈味の増強は、これらの呈味のうち少なくとも1種を増強することを指す。
【0047】
本明細書において呈味のうち塩味とは、食塩(塩化ナトリウム)を喫食したときに感じられる味である。塩味は、食塩自体の呈味と、食塩以外の食材と食塩とが組み合わされて感じられる呈味とを包含する。例えば、食塩を含む食品のトップの呈味としては、食塩の刺激的な味である「塩角」が挙げられ、ミドルの呈味としては、「膨らみ」や「香ばしさ」が挙げられ、ラストの呈味としては、「金属様の複雑味」や「後伸び」が挙げられる。また塩味には、食塩以外の食材の味が食塩により高められる「呈味の押し上げ」による味も含まれ得る。本明細書における塩味の増強は、これらの塩味(呈味)のうち少なくとも1種を増強することを指す。
【0048】
本明細書において呈味の増強とは、より好ましくは食塩、ショ糖、クエン酸、酒石酸、ナリンギン、グルタミン酸又はその塩、アスパラギン酸又はその塩、コハク酸又はその塩、イノシン酸又はその塩、グアニル酸又はその塩、グリシン又はその塩、アラニン又はその塩、唐辛子、黒コショウ、動物又は植物由来エキス、及び、調味料から選択される1以上の呈味成分に由来する呈味の増強である。前記1以上の呈味成分における塩としては、それぞれ、ナトリウム塩が挙げられる。前記動物又は植物由来エキスとしてはビーフエキス、チキンエキス、ポークエキス、魚介エキス、ガーリックエキス、及び、オニオンエキスから選択される1以上のエキスが挙げられる。前記調味料としては、トマトペースト、バナナペースト、リンゴペースト、ハチミツ、醤油、味噌、ケチャップ、ウスターソース、マヨネーズ、チーズ、めんつゆ、脱脂大豆、脱脂粉乳、酵母エキス、タンパク質加水分解物、及び、カレーパウダーから選択される1以上が挙げられる。本明細書において呈味の増強は、より好ましくは、前記1以上の呈味成分を含む食品、特に、前記1以上の呈味成分を通常よりも少ない量で含む食品における、前記1以上の呈味成分に由来する呈味の増強を指す。
【0049】
<呈味増強用組成物>
本発明の第1の実施形態は、
環状ジペプチドを含有する呈味増強用組成物、
に関する。
【0050】
本実施形態に係る呈味増強用組成物は、食品に配合することにより、前記食品の呈味を増強することができる。例えば、本実施形態に係る呈味増強用組成物を配合した、上述のような1以上の呈味成分を通常よりも低減した量で含む食品(例えば食塩を通常の量よりも低減した量で含む減塩食品)は、それを配合していない食品に比べて、1以上の呈味成分を通常の量で含む食品に近い呈味を有することができ、より好ましくは、1以上の呈味成分を通常の量で含む食品と同等の呈味を有することができる。
【0051】
本実施形態に係る呈味増強用組成物中の前記環状ジペプチドは、好ましくは、構成アミノ酸として、プロリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、アスパラギン酸、ヒスチジン、アラニン、セリン、アルギニン、トレオニン、アスパラギン及びメチオニンからなる群から選択される1以上を含有し、特に好ましくは、プロリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、アスパラギン酸、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択される1以上を含有する。前記群から選択される1以上のアミノ酸を含有する環状ジペプチドは、呈味増強作用が特に高いため好ましい。前記群から選択される1以上のアミノ酸を含有する環状ジペプチドの具体例は、好ましくは、環状(Pro-Asn)、環状(Pro-His)、環状(Pro-Asp)、環状(Pro-Pro)、環状(Pro-Val)、環状(Pro-Tyr)、環状(Pro-Leu)、環状(Pro-Ile)、環状(Pro-Glu)、環状(Pro-Gly)、環状(Pro-Met)、環状(Arg-Pro)、環状(Thr-Pro)、環状(hyPro-Pro)、環状(Leu-Leu)、環状(Ile-Leu)、環状(Ile-Ile)、環状(Leu-Asp)、環状(Ile-Asp)、環状(Leu-Ser)、環状(Ile-Ser)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Leu-His)、環状(Ile-His)、環状(Leu-Met)、環状(Ile-Met)、環状(Arg-Leu)、環状(Arg-Ile)、環状(hyPro-Leu)、環状(hyPro-Ile)、環状(Thr-Leu)、環状(Thr-Ile)、環状(Gly-His)、環状(Gly-Ser)、環状(Gly-Arg)、環状(Gly-Val)、環状(Gly-Leu)、環状(Gly-Ile)、環状(Gly-Phe)、環状(Gly-Tyr)、環状(Gly-Thr)、環状(Gly-Gly)、環状(Gly-Ala)、環状(Phe-Leu)、環状(Phe-Ile)、環状(Phe-Ser)、環状(Phe-Ala)、環状(Phe-Asp)、環状(Phe-Thr)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Tyr)、環状(Phe-Phe)、環状(Glu-His)、環状(Glu-Glu)、環状(Glu-Arg)、環状(Glu-Gly)、環状(Glu-Asp)、環状(Glu-Tyr)、環状(Glu-Phe)、環状(Glu-Leu)、環状(Glu-Ile)、環状(Tyr-Asp)、環状(Tyr-His)、環状(Tyr-Ser)、環状(Val-Arg)、環状(Val-Tyr)、環状(Val-Val)、環状(Val-Phe)、環状(Val-Ser)、環状(Ala-His)、環状(Ala-Arg)、環状(Ala-Pro)、環状(Ala-Tyr)、環状(Ala-Val)、環状(Ala-Leu)、環状(Ala-Ile)、環状(Ala-Asp)及び環状(Ala-Asn)からなる群から選択される1以上であり、より好ましくは、環状(Ala-Leu)、環状(Ala-Ile)、環状(Thr-Pro)、環状(Pro-His)、環状(Ala-Pro)、環状(Arg-Pro)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Ala)、環状(Pro-Pro)、環状(hyPro-Pro)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Gly-Val)、環状(Ala-Val)、環状(Pro-Met)、環状(hyPro-Leu)、環状(hyPro-Ile)、環状(Pro-Leu)、環状(Pro-Ile)及び環状(Pro-Val)からなる群から選択される1以上である。
環状ジペプチドのこれらの具体例は、呈味増強作用が特に高い。前記環状ジペプチドの、呈味増強作用が特に高い別の好ましい具体例は、環状(Pro-Met)、環状(Glu-His)、環状(Ala-His)、環状(Gly-His)、環状(Tyr-His)、環状(Leu-His)、環状(Ile-His)、環状(Leu-Val)、環状(Ile-Val)、環状(Glu-Gly)、環状(Pro-His)及び環状(Glu-Phe)からなる群から選択される1以上であり、より好ましくは、当該群から選択される5以上の環状ジペプチドの混合物であり、特に好ましくは、当該群の全ての環状ジペプチドの混合物(ただし、環状(Leu-His)及び環状(Ile-His)は、これらのうち少なくとも一方を含み、且つ、環状(Leu-Val)及び環状(Ile-Val)は、これらのうち少なくとも一方を含む)である。本明細書において、環状(Phe-Phe)等は2つのアミノ酸からなる環状のジペプチドを表す。本明細書において、「Leu/Ile」は、ロイシン(Leu)及びイソロイシン(Ile)の一方または両方の混合物であることを表す。例えば、「環状(Leu/Ile-Val)」は、環状(Leu-Val)と環状(Ile-Val)の一方又は両方の混合物を意味する。本明細書において「hyPro」とは、γ-ヒドロキシ-プロリンを指す。本明細書におい環状ジペプチドを構成するアミノ酸は、いずれも、L体であってもよいし、D体であってもよいし、L体とD体との混合物であってもよい。
【0052】
塩味の増強は、上述の通り、トップ、ミドル及びラストのうち1以上の呈味を増強することを指す。一方、環状ジペプチドは、構成アミノ酸の違いに応じて、呈味の増強のプロフィールが異なる場合がある。本実施形態に係る呈味増強用組成物に、トップの呈味を増強する作用を付与するためには、トップの呈味を増強する作用を有する1以上の環状ジペプチドを配合することができる。同様に、本実施形態に係る呈味増強用組成物に、ミドルの呈味を増強する作用を付与するためには、ミドルの呈味を増強する作用を有する1以上の環状ジペプチドを配合することができ、ラストの呈味を増強する作用を付与するためには、ラストの呈味を増強する作用を有する1以上の環状ジペプチドを配合することができる。また、本実施形態に係る呈味増強用組成物に、トップ、ミドル及びラストのうち複数の段階の呈味を増強する作用を付与するためには、増強しようとする呈味に応じて複数の環状ジペプチドを組み合わせて配合することができる。
【0053】
本実施形態に係る呈味増強用組成物は、少なくとも環状ジペプチドを含有する。本実施形態に係る呈味増強用組成物は、好ましくは、環状ジペプチドに加えて、さらにスルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上を含有する。環状ジペプチドと、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上との組み合わせにより、呈味増強作用が更に高まる。本実施形態に係る呈味増強用組成物における有機酸は、好ましくは、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群から選択される1以上である。
【0054】
本実施形態に係る呈味増強用組成物において、前記環状ペプチドは、人為的に製造された又は天然由来の前記環状ジペプチドの精製物として配合されてもよいし、前記環状ジペプチドを含む天然由来材料として配合されてもよい。前記環状ジペプチドの精製物は、前記環状ジペプチドを高濃度で含む形態であればよく、前記環状ジペプチドを例えば30質量%~100質量%、好ましくは50質量%~100質量%、より好ましくは75質量%~100質量%の濃度で含む形態であってよい。前記環状ジペプチドを含む天然由来材料としては、コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料を加熱することで得られる、前記環状ジペプチドの含有量が増加した香辛料やその抽出物が挙げられる。前記香辛料の好ましい実施形態については本発明の第2の実施形態に関して説明する。前記香辛料を加熱することにより、前記環状ジペプチドに加えて、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上の含有量が増加する。
【0055】
本実施形態に係る呈味増強用組成物は、前記環状ジペプチド又は前記環状ペプチドを含む天然由来材料のみからなるものであってもよいし、前記環状ジペプチド又は前記環状ペプチドを含む天然由来材料と他の成分とを含むものであってもよい。他の成分としては呈味増強作用を有する1以上の成分や、食品として許容される1以上の成分が例示できる。本実施形態に係る呈味増強用組成物は、粉末、顆粒、ペースト、液体等の形態であることができ、所望の形態とするために必要に応じて、賦形剤、担体等の、食品として許容される1以上の成分を含むことができる。
【0056】
本実施形態に係る呈味増強用組成物は、前記環状ジペプチドを、好ましくは0.1質量%以上100質量%以下、より好ましくは1質量%以上100質量%以下、更に好ましくは5質量%以上100質量%以下、特に好ましくは10質量%以上100質量%以下の割合で含有することができる。
【0057】
本実施形態に係る呈味増強用組成物が、前記環状ジペプチドを含む天然由来材料として含有する態様では、前記天然由来素材を、好ましくは30質量%以上100質量%以下、より好ましくは50質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下、最も好ましくは95質量%以上100質量%以下の割合で含有することができる。
【0058】
本実施形態に係る呈味増強用組成物中の前記環状ジペプチドを含む天然由来材料は、好ましくは粉末状であり、粒度は例えば1000μm以下である。ここで粒度はJISに規定される標準ふるいの目開きにより求めることができる。前記環状ジペプチドを含む天然由来材料は、油脂を更に含んでいてもよい。
【0059】
<呈味増強用組成物の製造方法>
本発明の第2の実施形態は、
本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物の製造方法であって、
コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料を加熱することにより前記香辛料中の前記環状ジペプチドを増加させること、
を含む方法、
に関する。
【0060】
本発明者らは、前記香辛料を加熱した場合に、前記香辛料中の環状ジペプチドが増加することを見出した。本発明者らはまた、前記香辛料を加熱した場合に、環状ジペプチドに加えて、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、及び、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上も増加することを見出した。
【0061】
コリアンダーとは、セリ科の一年草であるコリアンダー(Coriandrum sativum)の種子を指す。加熱に供するコリアンダーは、コリアンダーのホール種子であってもよいし、ホール種子を粉砕して得られた粉砕物であってもよいが、好ましくはホール種子である。
【0062】
パプリカとは、ナス科の多年草であるパプリカ(Capsicum annuum var. grossum)の果実の果皮及び果肉の部分を乾燥させ粉末状とした香辛料(パプリカ粉末)を指す。以下、パプリカとは、特に明示しない限り香辛料として利用できるパプリカ粉末を指す。パプリカ粉末を加熱に供することができる。
【0063】
クミンとは、セリ科の一年草であるクミン(Cuminum cyminum)の種子を指す。加熱に供するクミンは、クミンのホール種子であってもよいし、ホール種子を粉砕して得られた粉砕物であってもよいが、好ましくはホール種子である。
【0064】
本明細書において、アサフォエティダとは、香辛料として利用される、セリ科植物のアサフォエティダ(Ferula assa-foetida)から採取される樹脂を乾燥させたものである。香辛料として利用されるアサフォエティダは、アサフォエティダ樹脂に加えて、アラビアガム、米粉等の添加物を更に含む場合がある。例えばアサフォエティダ樹脂と添加剤とを含む粉末状のアサフォエティダが香辛料として市販されている。本明細書において、アサフォエティダとは、特に明示しない限り、香辛料として利用される、前記添加物を含んでいてもよいアサフォエティダを指す。以下に説明する各実施形態に使用するアサフォエティダの質量は、アサフォエティダ樹脂の含量が12質量%であるとして換算した場合の質量で表す。例えば「加熱処理したアサフォエティダ200mg」とは、使用したアサフォエティダのアサフォエティダ樹脂含量が6質量%である場合には、アサフォエティダ樹脂含量を12質量%として換算した質量としては400mgとなる。
【0065】
続いて前記香辛料のうちコリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上を加熱する処理について説明する。
【0066】
コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上を加熱する処理は、コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上を、油脂を添加することなく加熱することを含む加熱処理(以下「第1加熱処理」と称する場合がある)、又は、コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上を油脂とともに加熱することを含む加熱処理(以下「第2加熱処理」と称する場合がある)であることが好ましい。
【0067】
コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上に対する前記第1加熱処理の好ましい態様について以下に説明する。
【0068】
コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上を、油脂を添加することなく加熱する第1加熱処理では、コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上のみを加熱してもよし、コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上と水との混合物を加熱してもよい。コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上と水との混合物を加熱処理する場合の、水の配合量は特に限定されないが、好ましくは、加熱後の水分活性が後述する範囲となるように水の配合量を適宜設定することができる。
【0069】
コリアンダーを加熱する場合の前記第1加熱処理は、加熱価が好ましくは100以上、より好ましくは1000以上、更に好ましくは5000以上となるように、更に、加熱価が好ましくは100以上、20000以下となるように、温度及び時間を設定することが好ましい。パプリカ及びクミンを加熱する場合の前記第1加熱処理は、加熱価が好ましくは15以上、好ましくは50以上、好ましくは60以上、好ましくは100以上、好ましくは130以上、更に好ましくは190以上、最も好ましくは200以上となるように、更に、加熱価が好ましくは15以上、1000以下、好ましくは15以上、600以下、より好ましくは60以上、500以下、更に好ましくは100以上、410以下、特に好ましくは190以上、410以下となるように、温度及び時間を設定することが好ましい。加熱価が前記範囲となる条件で加熱処理したコリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上は、環状ジペプチドを多く含むため特に好ましい。加熱価が前記範囲となる加熱条件は、好ましくは、後述する温度及び時間での加熱を含むことができる。
【0070】
ここで加熱価は、式によって表される値(以下「CV値」)を、加熱時間(分)で積分した値として求められる。
【0071】
(式):CV値=10[(品温-基準温度)/Z値]
本明細書において「基準温度」は110℃、「Z値」は30(℃)とする。
【0072】
第1加熱処理において、コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の加熱は、例えば110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、特に好ましくは128℃以上であり、例えば110℃以上、300℃以下、好ましくは120℃以上、250℃以下、好ましくは125℃以上、200℃以下、好ましくは128℃以上、180℃以下、好ましくは128℃以上、160℃以下、より好ましくは128℃以上、150℃以下の温度で行うことができる。コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の加熱は、前記温度範囲での加熱時間が例えば5分間以上、好ましくは10分間以上、好ましくは20分間以上、より好ましくは30分間以上、例えば5分間以上、120分間以下、好ましくは10分間以上90分間以下、より好ましくは20分間以上、75分以下の時間となるように行うことができる。
【0073】
コリアンダーに対する第1加熱処理は、密閉しない開放系での加熱処理でもよいし、加圧密閉条件下での加熱処理でもよいが、好ましくは密閉しない開放系での加熱処理である。開放系でのコリアンダーの加熱処理は、過熱水蒸気を用いた加熱や、オーブンを用いた加熱により行うことができる。コリアンダーの加熱処理に使用する加熱装置としては、過熱水蒸気渦流混合機、オーブン、平釜焙煎機、縦型加熱混合機、マイクロ波加熱装置等が例示できる。
【0074】
パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上に対する第1加熱処理は、ゲージ圧が好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上の圧力条件で行うことができる。加熱時の圧力の上限は特に限定されないが、装置の面から考えるとゲージ圧0.6MPa以下が好ましい。
【0075】
パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上に対する第1加熱処理は、加圧密閉加熱、過熱水蒸気加熱、オーブン加熱等の各種手段を用いることができるが、好ましくは加圧密閉加熱を用いる。加圧密閉加熱に使用する加熱装置としては、加圧密閉釜、レトルト殺菌機等が例示できる。加圧密閉加熱以外の他の加熱を利用する場合は、オーブン、平釜焙煎機、縦型加熱混合機、マイクロ波加熱装置、過熱水蒸気渦流混合機、過熱水蒸気殺菌機等を適宜用いることができる。
【0076】
次にコリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上に対する前記第2加熱処理の好ましい態様について以下に説明する。
【0077】
前記第2加熱処理では、コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の香辛料を油脂とともに加熱する。前記第2加熱処理により得られた加熱処理した前記香辛料は、呈味を増強する作用が特に強く好ましい。前記第2加熱処理における油脂の使用量は特に限定されないが、例えば、前記香辛料100質量部に対し、例えば10質量部以上、500質量部以下、好ましくは50質量部以上、200質量部以下の油脂を使用できる。前記油脂としては、食品として許容される植物、動物等に由来する食用油脂であれば特に限定されない。油脂は、脂肪酸のエステル交換、水素添加等の技術により融点が調節されたものであってもよい。
【0078】
前記第2加熱処理は、上記で定義した加熱価が好ましくは0.3以上、より好ましくは0.3以上、6000以下となるように温度及び時間を設定することが好ましい。パプリカに対する前記第2加熱処理における加熱価の範囲としては、例えば0.3以上、6000以下、好ましくは2.5以上、450以下、より好ましくは30以上、110以下が挙げられる。コリアンダー又はクミンに対する前記第2加熱処理における加熱価の範囲としては、例えば1以上、6000以下、好ましくは20以上、4000以下、より好ましくは100以上、1000以下、特に好ましくは200以上、600以下が挙げられる。。加熱価が前記範囲となる条件で加熱処理した前記香辛料は、環状ジペプチドを多く含むため特に好ましい。加熱価が前記範囲となる加熱条件は、好ましくは、後述する温度及び時間での加熱を含むことができる。
【0079】
前記第2加熱処理では、コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の香辛料と油脂との混合物を、例えば90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上であり、例えば90℃以上、230℃以下、好ましくは100℃以上、220℃以下、より好ましくは120℃以上、220℃以下、より好ましくは130℃以上、210℃以下、より好ましくは150℃以上、210℃以下、特に好ましくは160℃以上、210℃以下の温度で加熱することができる。前記第2加熱処理は、前記温度範囲での加熱時間が例えば1分間以上、好ましくは2分間以上、好ましくは3分間以上、例えば1分間以上、10分間以下、好ましくは2分間以上、7分間以下、より好ましくは3分間以上、7分間以下の時間となるように行うことができる。これらの条件での前記第2加熱処理で得られた前記香辛料は、環状ジペプチドを特に多く含むため好ましい。
【0080】
コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の香辛料に対する前記第2加熱処理は開放系でも密閉系でも行うことができる。
【0081】
コリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の香辛料に対する前記第2加熱処理は、過熱水蒸気を用いた加熱や、オーブンを用いた加熱により行うことができる。前記第2加熱処理に使用する加熱装置としては、オーブン、平釜焙煎機、縦型加熱混合機、マイクロ波加熱装置等が例示できる。
【0082】
前記第1加熱処理又は前記第2加熱処理により加熱されたコリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の香辛料は、加熱処理後に更に熟成処理に供してもよい。前記熟成処理は、空気雰囲気下で室温よりも高い温度で保存する処理であり、例えば空気を封入した密閉容器中で、例えば30℃~50℃、好ましくは35℃~45℃で、例えば5日間~15日間、好ましくは7日間~10日間の時間保存する処理であることができる。
【0083】
前記第1加熱処理又は前記第2加熱処理により加熱されたコリアンダー、パプリカ及びクミンからなる群から選択される1以上の香辛料は、25℃で測定した水分活性が好ましくは0.85以下、より好ましくは0.81以下、特に好ましくは0.80以下である。
【0084】
続いて前記香辛料のうちアサフォエティダを加熱する処理について説明する。
【0085】
アサフォエティダを加熱する処理もまた、アサフォエティダを、油脂を添加することなく加熱することを含む加熱処理(以下「第1加熱処理」と称する場合がある)、又は、アサフォエティダを油脂とともに加熱することを含む加熱処理(以下「第2加熱処理」と称する場合がある)であることが好ましい。
【0086】
アサフォエティダに対する前記第1加熱処理の好ましい態様について以下に説明する。
【0087】
アサフォエティダに対する前記第1加熱処理は、上記で定義した加熱価が好ましくは15以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは100以上となるように、更に、加熱価が好ましくは15以上、1000以下、より好ましくは50以上、500以下、更に好ましくは100以上、410以下、最も好ましくは100以上、300以下となるように、温度及び時間を設定することが好ましい。加熱価の好ましい範囲としては例えば50以上300以下が挙げられる。加熱価が前記範囲となる条件で加熱処理したアサフォエティダは、環状ジペプチドを多く含むため特に好ましい。加熱価が前記範囲となる加熱条件は、好ましくは、後述する温度及び時間での加熱を含むことができる。
【0088】
アサフォエティダに対する前記第1加熱処理では、例えば110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上、特に好ましくは128℃以上であり、例えば100以上、180℃以下、好ましくは120℃以上、160℃以下、より好ましくは125℃以上、150℃以下、特に好ましくは128℃以上、150℃以下の温度で加熱を行うことができる。前記第1加熱処理は、前記温度範囲での加熱時間が例えば20分間以上、好ましくは30分間以上、例えば20分間以上、120分間以下、好ましくは30分間以上、90分間以下、より好ましくは30分間以上、60分間以下の時間となるように行うことができる。これらの条件での前記第1加熱処理で得られたアサフォエティダは、環状ジペプチドを多く含むため好ましい。
【0089】
前記第1加熱処理は、ゲージ圧が好ましくは0.05MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上の圧力条件で行うことができる。加熱時の圧力の上限は特に限定されないが、装置の面から考えるとゲージ圧0.6MPa以下が好ましい。
【0090】
前記第1加熱処理には、アサフォエティダのみを供してもよいし、アサフォエティダと水との混合物を供してもよい。アサフォエティダと水との混合物における水の配合量は特に限定されないが、好ましくは、加熱後の水分活性が後述する範囲となるように水の配合量を適宜設定することができる。
【0091】
前記第1加熱処理には、加圧密閉加熱、過熱水蒸気加熱、オーブン加熱等の各種手段を用いることができるが、好ましくは加圧密閉加熱を用いる。加圧密閉加熱に使用する加熱装置としては、加圧密閉釜、レトルト殺菌機等が例示できる。加圧密閉加熱以外の他の加熱を利用する場合は、オーブン、平釜焙煎機、縦型加熱混合機、マイクロ波加熱装置、過熱水蒸気渦流混合機、過熱水蒸気殺菌機等を適宜用いることができる。
【0092】
次にアサフォエティダに対する前記第2加熱処理の好ましい態様について以下に説明する。
【0093】
前記第2加熱処理では、アサフォエティダを油脂とともに加熱する。前記第2加熱処理により得られた加熱処理したアサフォエティダは、呈味を増強する作用が特に強く好ましい。前記第2加熱処理における油脂の使用量は特に限定されないが、例えば、アサフォエティダ100質量部に対し、例えば10質量部以上、500質量部以下、好ましくは50質量部以上、200質量部以下の油脂を使用できる。前記油脂としては、食品として許容される植物、動物等に由来する食用油脂であれば特に限定されない。油脂は、脂肪酸のエステル交換、水素添加等の技術により融点が調節されたものであってもよい。
【0094】
前記第2加熱処理は、上記で定義した加熱価が好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上となるように温度及び時間を設定することが好ましい。前記第2加熱処理における加熱価の上限としては例えば100以下、好ましくは50以下、より好ましくは40以下が挙げられる。すなわち加熱価は好ましくは5以上、100以下、より好ましくは10以上、50以下、更に好ましくは20以上、40以下が挙げられる。加熱価が前記範囲となる条件で加熱処理したアサフォエティダは、環状ジペプチドを多く含むため特に好ましい。加熱価が前記範囲となる加熱条件は、好ましくは、後述する温度及び時間での加熱を含むことができる。
【0095】
前記第2加熱処理では、アサフォエティダと油脂との混合物を、例えば90℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上、特に好ましくは125℃以上であり、例えば30分間以上、180℃以下、好ましくは100℃以上、160℃以下、より好ましくは110℃以上、150℃以下の温度で加熱することができる。前記第2加熱処理は、前記温度範囲での加熱時間が例えば2分間以上、好ましくは3分間以上、例えば2分間以上、10分間以下、好ましくは3分間以上、7分間以下の時間となるように行うことができる。これらの条件での前記第2加熱処理で得られたアサフォエティダは、環状ジペプチドを特に多く含むため好ましい。
【0096】
前記第2加熱処理は開放系でも密閉系でも行うことができる。
【0097】
前記第2加熱処理は、過熱水蒸気を用いた加熱や、オーブンを用いた加熱により行うことができる。前記第2加熱処理に使用する加熱装置としては、オーブン、平釜焙煎機、縦型加熱混合機、マイクロ波加熱装置等が例示できる。
【0098】
加熱処理して得られたアサフォエティダは、25℃で測定した水分活性が好ましくは0.70以下、より好ましくは0.60以下、特に好ましくは0.50以下である。
【0099】
続いて、本実施形態において、コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料を加熱することにより増加する環状ジペプチド、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上について説明する。
【0100】
コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料を加熱することにより、本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物に関して説明した環状ジペプチド、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上が増加する。当該環状ジペプチドは、好ましくは、構成アミノ酸として、プロリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、アスパラギン酸、ヒスチジン、アラニン、セリン、アルギニン、トレオニン、アスパラギン及びメチオニンからなる群から選択される1以上を含有する環状ジペプチドであり、特に好ましくは、プロリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、フェニルアラニン、グルタミン酸、チロシン、バリン、アスパラギン酸、ヒスチジン及びアラニンからなる群から選択される1以上を含有する環状ジペプチドであり、その好適な具体例は既述の通りである。
【0101】
コリアンダーを加熱することにより増加する環状ジペプチドとしては、典型的には実施例の末尾に示す表に記載のコリアンダーID:1~60が付与された環状ジペプチドから選択される1以上が挙げられる。更にコリアンダーを加熱することにより、スルフロール、酢酸スルフロール及び有機酸から選択される1以上が増加し、特に、スルフロール、酢酸スルフロール、酒石酸、リンゴ酸及びtrans-アコニット酸から選択される1以上が増加する。
【0102】
パプリカを加熱することにより増加する環状ジペプチドとしては、典型的には実施例の末尾に示す表に記載のパプリカID:1~48が付与された環状ジペプチドから選択される1以上が挙げられる。更にパプリカを加熱することにより、スルフロール、酢酸スルフロール及び有機酸から選択される1以上が増加し、特に、スルフロール(4-メチル-5-チアゾールエタノール)、酢酸スルフロール、trans-アコニット酸及び酒石酸から選択される1以上が増加する。
【0103】
クミンを加熱することにより増加する環状ジペプチドとしては、典型的には実施例の末尾に示す表に記載のクミンID:1~32が付与された環状ジペプチドから選択される1以上が挙げられる。更に、クミンを加熱することにより、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸から選択される1以上が増加し、特に、スルフロール、酢酸スルフロール、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸から選択される1以上が増加する。
【0104】
アサフォエティダを加熱することにより増加する環状ジペプチドとしては、典型的には実施例の末尾に示す表に記載のアサフォエティダID:1~22が付与された環状ジペプチドから選択される1以上が挙げられる。更に、アサフォエティダを加熱することにより、スルフロール、酢酸スルフロール及び有機酸から選択される1以上が増加し、特に、スルフロール、酒石酸、リンゴ酸及びクエン酸から選択される1以上が増加する。
【0105】
本実施形態に係る呈味増強用組成物の製造方法は、加熱後の前記香辛料自体を呈味増強用組成物としてもよいし、加熱後の前記香辛料から前記環状ジペプチドを抽出、濃縮又は精製する工程を更に含んでもよいし、加熱後の前記香辛料自体を、或いは、加熱後の前記香辛料から抽出、濃縮又は精製された前記環状ジペプチドを、粉末、顆粒、ペースト、液体等の形態に加工する工程を更に含んでもよい。
【0106】
<呈味が増強された食品>
本発明の第3の実施形態は、
本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物を含有する食品、
に関する。
【0107】
本実施形態に係る食品は、呈味が増強された食品である。本実施形態に係る食品は、好ましくは、上述のような1以上の呈味成分を通常よりも低減した量で含む食品(例えば食塩の含有量を通常の量よりも低減した減塩食品)である。本実施形態に係る食品は、好ましくは1以上の呈味成分を含むことができ、より好ましくは食塩を含むことができる。
【0108】
本実施形態に係る食品中の本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物の配合量は特に限定されず食品の形態に応じて適宜調整することができる。例えば、本実施形態に係る食品が食塩を含有する食品である場合、当該食品の食塩相当量100,000gに対して、環状ジペプチドが好ましくは0.005g以上、より好ましくは0.010g以上、特に好ましくは0.020g以上、好ましくは0.005g以上、50.0g以下、より好ましくは0.010g以上、20.0g以下、特に好ましくは0.020g以上、10.0g以下となるように本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物を配合することができる。
【0109】
本実施形態に係る食品の種類は限定されないが、例えば、カレーソース、シチューソース、畜肉食品、総菜類、菓子類等の食品が例示できる。
<呈味を増強する方法>
本発明の第4の実施形態は、
本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物を、食品に配合することを含む、
食品の呈味を増強する方法、
に関する。
【0110】
本実施形態に係る方法は、食品の呈味を増強することができるため、上述のような1以上の呈味成分を通常よりも低減した量で含む食品(例えば食塩の含有量を通常の量よりも低減した減塩食品)における呈味の増強に好適に使用することができる。
【0111】
本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物の配合量は特に限定されず食品の形態に応じて適宜調整することができる。例えば塩味増強の目的では、食品の食塩相当量100,000gに対して、環状ジペプチドが好ましくは0.005g以上、より好ましくは0.010g以上、特に好ましくは0.020g以上、好ましくは0.020g以上、50.0g以下、より好ましくは0.010g以上、20.0g以下、特に好ましくは0.020g以上、10.0g以下となるように本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物を配合することができる。
【0112】
食品の種類は限定されないが、例えば、カレーソース、シチューソース、畜肉食品、総菜類、菓子類等の食品が例示できる。前記食品は、上述のような1以上の呈味成分を通常よりも低減した量で含む食品であってもよい。前記食品は1以上の呈味成分、例えば食塩を含有する食品であってもよい。
【0113】
<一以上の更なる実施形態>
本発明の、一以上の更なる実施形態は、
食品の呈味を増強するための、環状ジペプチドの使用、
環状ジペプチドを、食品に配合することを含む、食品の呈味を増強する方法、
食品の呈味を増強する用途のための、環状ジペプチド、或いは、
食品の呈味を増強する用途のための添加物の製造における、環状ジペプチドの使用、
に関する。
【0114】
本実施形態において、前記環状ジペプチドは、好ましくは、本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物に含まれる環状ジペプチドに関して説明した特徴を備えることができる。
【0115】
本実施形態において、前記環状ジペプチドは、前記環状ジペプチドと、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール、α-テルピネン-7-アール、及び有機酸からなる群から選択される1以上との組み合わせであることができる。
【0116】
本実施形態において、前記環状ジペプチドは、加熱処理された、コリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダからなる群から選択される1以上の香辛料中に含まれることができる。前記加熱処理された香辛料は、好ましくは、本発明の第1の実施形態に係る呈味増強用組成物に含まれ得る加熱処理された香辛料に関して説明した特徴を備えることができる。
【0117】
本実施形態において、前記食品は、好ましくは、本発明の第3及び第4の実施形態に関して説明した特徴を備えることができる。
【0118】
本実施形態において、前記環状ジペプチドは、好ましくは、食品に対し、前記食品の食塩相当量100,000gに対して、環状ジペプチドが好ましくは0.005g以上、より好ましくは0.010g以上、特に好ましくは0.020g以上、好ましくは0.005g以上、50.0g以下、より好ましくは0.010g以上、20.0g以下、特に好ましくは0.020g以上、10.0g以下となるように配合して、前記食品の呈味を増強する用途に用いることができる。
【実施例0119】
1.実験1:加熱処理したコリアンダー及びそれに含まれる環状ジペプチドによる呈味増強作用
1.1.加熱処理したコリアンダーの調製
コリアンダーを下記表に示す条件で加熱処理したコリアンダーを調製した。加熱価は、既述の通り前記式(「基準温度」は110℃、「Z値」は30(℃))によるCV値を加熱時間(分)で積分した値である。加熱条件の欄に記載の温度及び時間は最高到達温度及びその保持時間であるのに対し、加熱価の計算には温度上昇時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化も考慮した。
【0120】
【表1】
【0121】
対照は加熱殺菌を含む加熱処理をしていないコリアンダーである。
【0122】
コリアンダーの加熱処理は、ホールのコリアンダーシード100gを開放式の容器(オーブン)に入れ、表1に示す加熱条件、加熱価となるように行った。
【0123】
未加熱(対照)及び加熱処理したコリアンダーの水分活性(Aw)を、それぞれ上記表に記載の温度条件で測定した。
【0124】
1.2.成分分析
上記の未加熱のコリアンダー(対照)及び加熱処理したコリアンダーに含まれる成分を以下の手順で分析した。
【0125】
(1)LC-MS/MS検液調製
10mL容試験管に、未加熱のコリアンダー(対照)又は加熱処理したコリアンダー200mgを採取し、超純水5mLを加えた。試験管を80℃に設定した恒温水槽で30分間加温後、室温になるまで静置した。試験管にアセトニトリル(富士フイルム和光純薬)5mLを添加し、更にPositiveモードの内標準としてL-リシン-13一塩酸塩(富士フイルム和光純薬)、及び、Negativeモードの内標準としてリビトール(富士フイルム和光純薬)を添加した。コリアンダーに対して、L-リシン-13一塩酸塩は47μg/g、リビトールは99μg/gとなるように添加した。試験管を高速振とう機(CM-1000、東京理化器械)で室温、1,800rpm、30分間撹拌し、遠心分離後に試験管内の溶液0.5mLを限外濾過フィルター(ナノセップ遠心ろ過デバイス3K、日本ポール)に移した。限外濾過フィルターを室温、15,000rpm×20分間遠心後、フィルター下のろ液に超純水0.5mL加え、10秒間ボルテックスした。0.2μmフィルターに負荷後の溶液をLC-MS/MS検体とした(n=2)。
【0126】
(2)LC-MS/MS分析条件
LC-orbitrap-MSの分析条件を下記に示す。
分析装置:
LC:Vanquish Flex(Thermo Fisher Scientific)
MS:ID-X(Thermo Fisher Scientific)
分析カラム:Unison UK-C18,3μm[粒子径]、250mm[長さ]×4.6mm[内径](Imtakt)
LC条件:
カラム温度:40℃
注入量:5μL
モード:ESI positive、ESI Negative
流速:0.3mL/分
移動相:
A液 0.1%ギ酸水溶液(ギ酸:LCMSグレード、富士フイルム和光純薬)
B液 アセトニトリル(LCMSグレード、富士フイルム和光純薬)
移動相組成-分析時間70分間
【0127】
【表2】
【0128】
MS条件:
イオン源温度:230℃、コリジョンエネルギー:30eV
モニタリングイオン:下記の表に示す。
【0129】
(3)データ解析
LC-MS/MSクロマトグラムから、各成分のプリカーサーイオン>プロダクトイオンの精密質量を抽出し、ピーク面積を得た。各検体中の成分は、プロダクトイオンのピーク面積比(=各成分のプロダクトイオンのピーク面積/内標準のプロダクトイオンのピーク面積)として算出して比較した。
下記表において「化合物ID」は、加熱処理したコリアンダー、並びに、後述する加熱処理したパプリカ、クミン及びアサフォエティダにおいて、未加熱のものと比較して増加していることが確認された64の環状ジペプチドを特定する番号である。
下記表において「コリアンダーID」は、加熱処理したコリアンダーにおいて、未加熱のものと比較して増加していることが確認された60の環状ジペプチドを特定する番号である。
下記表においてA1、A2は、「化合物ID」及び「コリアンダーID」により特定される各環状ジペプチドを構成する2つのアミノ酸を示す。
【0130】
【表3】
【0131】
【表4】
【0132】
【表5】
【0133】
各試料から調製されたLC-MS/MS検体中で検出された環状ペプチド類の内標準に対するピーク面積比を図1~2及び下記表に示す。また、各試料から調製されたLC-MS/MS検体中で検出されたスルフロール、酢酸スルフロール、有機酸(酒石酸、リンゴ酸及びtrans-アコニット酸)の内標準に対するピーク面積比を図3に示す。コリアンダーを加熱することで、上記表に示す60の環状ジペプチド、並びに、スルフロール、酢酸スルフロール及び有機酸(酒石酸、リンゴ酸及びtrans-アコニット酸)の含量が顕著に増加したことが確認された。
【0134】
【表6】
【0135】
上記表中、「n.d.」は、所定の化合物が検出されなかったことを示す。また上記表中、「*」は、未加熱コリアンダーにおいて所定の化合物が検出されなかった(n.d.)ため倍率が算出できないことを示す。
【0136】
1.3.環状ジペプチドによる呈味増強効果
(1)通常のカレールウの作成
小麦粉20gと牛脂30gを鍋に入れ、120℃で加熱撹拌し、小麦粉ルウを作成した。この小麦粉ルウに塩10g、砂糖10g、コーンスターチ10g、カレーパウダー5g、その他の調味原料(野菜・果物エキス、酵母エキス、魚介エキス)15gを加え、105℃に加熱処理後、冷却固化させ、ブロック状の通常のカレールウを作成した。
【0137】
このカレールウの100gあたりの食塩相当量は10.6gであった。
【0138】
(2)減塩カレールウの作成
(1)の通常のカレールウから塩の量を7gにした以外は同じ手順で、減塩カレールウを作成した。
【0139】
この減塩カレールウの100gあたりの食塩相当量は7.7gであった。
【0140】
(3)官能評価用の環状ジペプチド水溶液の調製
上記1.1.で調製した加熱処理したコリアンダーに含まれる、上記1.2.で増加が確認された環状ジペプチドのうち、下記の表に示す14の環状ジペプチドの水溶液をそれぞれ調製した。各水溶液中の環状ジペプチドの濃度は、当該環状ジペプチドの、上記1.2.で確認された内標準(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対するピーク面積比から推定される、上記1.1.で調製した加熱処理したコリアンダー中の濃度と同等となるように設定した。
【0141】
(4)官能評価
(2)の減塩カレールウ44gを300gの熱湯に溶いたものを2つ準備した。
【0142】
そのうちの1つに、上記1.1.で調製した加熱処理したコリアンダー又は未加熱のコリアンダーを粉末化したもの、或いは、(3)で調製した環状ジペプチド水溶液(加熱処理したコリアンダー相当)を、終濃度が0.2%(w/w)となるように添加し、官能評価を行った。
【0143】
(1)の通常のカレールウ44gを300gの熱湯に溶いた。
【0144】
減塩カレールウの湯溶き品と通常のカレールウの湯溶き品を比較対象とし、呈味の強さを「呈味の押し上げ」の観点から、以下の評価基準で4名の評価者が評価した。本実験での「呈味の押し上げ」は、食塩とカレールウの他の食材とが組み合わされて奏される作用であり、「塩味」の一態様である。このため本実験での「呈味」は「塩味」と表現することもできる。
【0145】
「呈味の押し上げ」の1点、2点、3点、4点、5点をそれぞれ以下のように定め、各サンプルの呈味を3名の評価者が0.1点刻みで評価し、平均点を求めた。
1点:減塩カレールウと同程度の呈味
2点:減塩カレールウよりもやや強い呈味
3点:減塩カレールウよりも強い呈味
4点:減塩カレールウよりもかなり強い呈味
5点:通常のカレールウと同程度の呈味の強さである
【0146】
評価点の平均が、1.0以下を「F」、1.1以上1.9以下を「C」、2.0以上2.5以下を「B」、2.6以上2.9以下を「A」、3.0以上を「AA」とした。
【0147】
評価結果を下記表に示す。実施例1~14の環状ジペプチドを添加した減塩カレールウの湯溶き品は、環状ジペプチドを添加していない減塩カレールウと比較して「呈味の押し上げ」が強く感じられ、特に実施例2、3、7、11、13及び14の環状ジペプチドを添加した減塩カレールウの湯溶き品は、通常のカレールウの湯溶き品と同程度の呈味が感じられた。また、加熱処理したコリアンダーを添加した減塩カレールウの湯溶き品は、未加熱のコリアンダー(対照)を添加した減塩カレールウと比較して「呈味の押し上げ」が強く感じられた。
【0148】
【表7】
【0149】
【表8】
【0150】
2.実験2:加熱処理したパプリカによる呈味増強作用
2.1.加熱処理したパプリカの調製
パプリカ粉末を下記表に示す条件で加熱処理したパプリカを調製した。加熱価は、既述の通り前記式(「基準温度」は110℃、「Z値」は30(℃))によるCV値を加熱時間(分)で積分した値である。加熱条件の欄に記載の温度及び時間は最高到達温度及びその保持時間であるのに対し、加熱価は、温度上昇時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化に基づき計算した。
【0151】
【表9】
【0152】
比較例201は加熱殺菌を含む加熱処理をしていないパプリカ粉末である。
【0153】
比較例202は、比較例201のパプリカ粉末を、下記の実施例207~210と同じ方法により、40℃で8日間加温して熟成させたものである。
【0154】
パプリカ粉末の所定の温度及び時間の「加水無」の加熱は以下の手順で行った。
100gのパプリカ粉末をアルミ箔パウチに充填し、密封した。密封したパウチを、所定の温度及び時間でレトルト式殺菌器にて加熱処理し、水冷した。レトルト式殺菌器での加熱処理は、ゲージ圧0.2MPaの加圧下で行った。
【0155】
パプリカ粉末の所定の温度及び時間の「加水有」の加熱は以下の手順で行った。
100gのパプリカ粉末と10gの水をアルミ箔パウチに充填し、密封した。密封したパウチを、所定の温度及び時間でレトルト式殺菌器にて加熱処理し、水冷した。レトルト式殺菌器での加熱処理は、ゲージ圧0.2MPaの加圧下で行った。
【0156】
実施例207~210のパプリカ粉末は、所定の条件で加熱したパプリカ粉末を、アルミ箔パウチに充填し、空気を含むように密封した。密封したパウチを40℃で8日間保存し熟成した。
【0157】
実施例211~216のパプリカ粉末は、以下の手順で油中加熱したものである。
100gのパーム油(融点45℃)を加熱し、80℃に達した時点で、100gのパプリカ粉末を混合し、得られた混合物を撹拌しながら、上記表に示す所定の温度まで加熱し、当該温度で所定の時間保持したのち、混合物を冷却した。冷却は、60℃程度まではパプリカ粉末が混合物中で分離しない程度に撹拌しながら行い、その後は冷蔵庫中で固化するまで行った。なお実施例211~213の「達温」とは、混合物が所定の温度に到達した時点で直ちに加熱を停止し冷却を開始したことを意味する。
【0158】
比較例201及び実施例201~210のパプリカ粉末の水分活性(Aw)を、それぞれ上記表に記載の温度条件で測定した。
2.2.呈味増強効果
上記1.3.(1)、(2)に記載の手順で通常のカレールウ及び減塩カレールウを調製した。
上記1.3.(2)の減塩カレールウ44gを300gの熱湯に溶いたものを2つ準備した。
【0159】
そのうちの1つに終濃度0.0464質量%となるように比較例又は実施例のパプリカ粉末を添加した。
【0160】
上記1.3.(1)の通常のカレールウ44gを300gの熱湯に溶いた。
【0161】
減塩カレールウの湯溶き品と通常のカレールウの湯溶き品を比較対象とし、呈味の強さを「ミドルの膨らみ」の観点から、以下の評価基準で3名の評価者(評価者1、2、3)が評価した。本実験での「呈味(ミドルの膨らみ)」は、食塩とカレールウの他の食材とが組み合わされて奏されるミドルの呈味であり、「塩味」の一態様である。このため本実験での「呈味(ミドルの膨らみ)」は「塩味(ミドルの膨らみ)」と表現することもできる。
【0162】
呈味(ミドルの膨らみ)の1点、2点、3点、4点、5点をそれぞれ以下のように定め、各サンプルの呈味を3名の評価者が0.1点刻みで評価し、平均点を求めた。
1点:減塩カレールウと同程度の呈味
2点:減塩カレールウよりもやや強い呈味
3点:減塩カレールウよりも強い呈味
4点:減塩カレールウよりもかなり強い呈味
5点:通常のカレールウと同程度の呈味の強さである
【0163】
評価点の平均が、比較例201及び202を上回り且つ2.0以下を「C」、2.1以上2.5以下を「B」、2.6以上3.0以下を「A」、3.1以上5.0以下を「AA」とした。
【0164】
評価結果を下記表に示す。実施例201~216の加熱処理したパプリカは、比較例201、202のパプリカと比較して、呈味の「ミドルの膨らみ」を増強する作用が高いことが確認された。
【0165】
【表10】
【0166】
2.3.成分分析
比較例201~202及び実施例201~216のパプリカ試料に含まれる成分を以下の手順で分析した。
【0167】
(1)LC-MS/MS検液調製
10mL容試験管にパプリカ試料200mg(前記パプリカ試料が、油脂とともに加熱処理したパプリカ試料である場合は、油脂を除いたパプリカ試料として換算した質量を指す)を採取し、超純水5mLを加えた。試験管を80℃に設定した恒温水槽で30分間加温後、室温になるまで静置した。試験管にアセトニトリル(富士フイルム和光純薬)5mLを添加し、更にPositiveモードの内標準としてL-リシン-13一塩酸塩(富士フイルム和光純薬)、及び、Negativeモードの内標準としてリビトール(富士フイルム和光純薬)を添加した。パプリカ試料(前記パプリカ試料が、油脂とともに加熱処理したパプリカ試料である場合は、油脂を除いたパプリカ試料として換算した質量を指す)に対して、L-リシン-13一塩酸塩は47μg/g、リビトールは99μg/gとなるように添加した。試験管を高速振とう機(CM-1000、東京理化器械)で室温、1,800rpm、30分間撹拌し、遠心分離後に試験管内の溶液0.5mLを限外濾過フィルター(ナノセップ遠心ろ過デバイス3K、日本ポール)に移した。限外濾過フィルターを室温、15,000rpm×20分間遠心後、フィルター下のろ液に超純水0.5mL加え、10秒間ボルテックスした。0.2μmフィルターに負荷後の溶液をLC-MS/MS検体とした(n=2)。上記のパプリカ試料200mgとは、油脂を除いたパプリカ試料として換算した質量を意味し、パプリカのみ又はパプリカと水との混合物を加熱処理した実施例201~210の加熱処理パプリカ試料の質量としては200mgを意味し、パプリカと油脂との混合物を加熱処理した実施例211~216の加熱処理パプリカ試料の質量としては400mgを指す。
【0168】
(2)LC-MS/MS分析条件
LC-orbitrap-MSの分析条件を下記に示す。
分析装置:
LC:Vanquish Flex(Thermo Fisher Scientific)
MS:ID-X(Thermo Fisher Scientific)
分析カラム:Unison UK-C18,3μm[粒子径]、250mm[長さ]×4.6mm[内径](Imtakt)
LC条件:
カラム温度:40℃
注入量:5μL
モード:ESI positive、ESI Negative
流速:0.3mL/分
移動相:
A液 0.1%ギ酸水溶液(ギ酸:LCMSグレード、富士フイルム和光純薬)
B液 アセトニトリル(LCMSグレード、富士フイルム和光純薬)
移動相組成-分析時間70分間
【0169】
【表11】
【0170】
MS条件:
イオン源温度:230℃、コリジョンエネルギー:30eV
モニタリングイオン:下記表に示す。
【0171】
(3)データ解析
LC-MS/MSクロマトグラムから、各成分のプリカーサーイオン>プロダクトイオンの精密質量(下記表)を抽出し、ピーク面積を得た。各検体中の成分は、プロダクトイオンのピーク面積比(=各成分のプロダクトイオンのピーク面積/内標準のプロダクトイオンのピーク面積)を算出して比較した。下記表においてA1、A2は、各環状ジペプチドを構成する2つのアミノ酸を示す。
【0172】
【表12】
【0173】
【表13】
【0174】
【表14】
【0175】
各試料から調製されたLC-MS/MS検体中で検出された環状ペプチド類、有機酸(酒石酸及びtrans-アコニット酸)、スルフロール及び酢酸スルフロールの内標準に対するピーク面積比を図4~16に示す。図中のバーは標準偏差を表す。
【0176】
図4~16に示す結果は、加熱処理した実施例201~216のパプリカが、加熱していない比較例201及び比較例202のパプリカと比較して、環状(Phe-Leu/Ile)、環状(Pro-Asn)、環状(Leu/Ile-Leu/Ile)、環状(Thr-Leu/Ile)、環状(Phe-Ser)、環状(Gly-His)、環状(Gly-Ser)、環状(Gly-Arg)、環状(Ala-His)、環状(Glu-His)、環状(Glu-Arg)、環状(Ala-Arg)、環状(Glu-Glu)、環状(Glu-Gly)、環状(Glu-Asp)、環状(Pro-His)、環状(Glu-Tyr)、環状(Leu/Ile-Asp)、環状(Pro-Asp)、環状(Val-Arg)、環状(Thr-Pro)、環状(hyPro-Pro)、環状(Gly-Val)、環状(Ala-Pro)、環状(Ala-Tyr)、環状(Arg-Leu/Ile)、環状(Leu/Ile-Ser)、環状(Ala-Val)、環状(Pro-Pro)、環状(Gly-Leu/Ile)、環状(Gly-Phe)、環状(Pro-Tyr)、環状(Phe-Asp)、環状(Pro-Val)、環状(Ala-Leu/Ile)、環状(Val-Tyr)、環状(Tyr-Ser)、環状(Phe-Ala)、環状(Val-Val)、環状(Pro-Leu/Ile)、環状(Phe-Tyr)、環状(Phe-Thr)、環状(Phe-Pro)、環状(Leu/Ile-Val)、環状(Val-Phe)、環状(Tyr-Asp)、環状(Ala-Asp)、環状(Val-Ser)、スルフロール、酢酸スルフロール、酒石酸及びtrans-アコニット酸を多く含んでいたことを示す。これらの成分の量は、呈味の増強作用の強さと相関する傾向が認められた。特に、環状(Gly-His)、環状(Gly-Ser)、環状(hyPro-Pro)、環状(Gly-Val)、環状(Tyr-Asp)及び環状(Ala-Asp)は、未加熱のパプリカには含まれない(検出限界以下)、加熱処理したパプリカに特異的な成分である。
【0177】
2.4.各種の食材に対する呈味増強効果
(1)試料の調製
下記表の「基本味」、「出汁原料」、「調味料」、「原料」の欄に記載の食材を、それぞれ、下記表に示す濃度(%(w/w))となるように水に加えて希釈し、食材希釈液を調製した。前記食材希釈液の各々に、実施例203の加熱処理パプリカ粉末を、終濃度が0.05%(w/w)となるように混合したものを試料として調製した。パプリカ粉末を添加していない前記食材希釈液を陰性対照試料とした。また、陽性対照試料として、各食材について、下記表に示す濃度の約1.2倍の濃度の食材希釈液を調製した。
【0178】
下記表の「食品」の欄に示すカレー等の食品を、市販の即席食品のキットを用いて調製した。各食品は、呈味増強の評価を容易にするために、前記キットで指定されている量の約1.2倍の量の水を用いて調製した。調製された食品の各々に、実施例203の加熱パプリカ粉末を、終濃度として0.03~0.07%(w/w)の範囲となるようにそれぞれ混合したものを試料として調製した。パプリカ粉末を添加していない前記各食品を陰性対照試料とした。また、陽性対照試料として、前記キットで指定されている量の水を用いて各食品を調製した。
【0179】
(2)官能評価
各食材から調製した試料の味の強さを、3名の評価者(評価者1、2、3)が食して評価した。
【0180】
1点、2点、3点、4点、5点をそれぞれ以下のように定めた。各試料の味の強さを3名の評価者が0.5点刻みで評価し、平均点を求めた。
1点:陰性対照試料と同程度の味
2点:陰性対照試料よりもやや強い呈味
3点:陰性対照試料よりもやや強い呈味
4点:陰性対照試料よりもやや強い呈味
5点:陽性対照試料と同程度の呈味
【0181】
評価点の平均が、1.0点(陰性対照試料)を上回り且つ2.0以下を「C」、2.1以上2.5以下を「B」、2.6以上3.0以下を「A」、3.1以上5.0以下を「AA」とした。
【0182】
評価結果を下記表に示す。実施例203の加熱処理したパプリカ粉末は、さまざまな食材の味を増強する作用が高いことが確認された。
【0183】
【表15】
【0184】
3.実験3:加熱処理したクミンによる呈味増強作用
3.1.加熱処理したクミンの調製
クミンのホール種子(クミンシード)を下記表に示す条件で加熱処理した。加熱価は、既述の通り前記式(「基準温度」は110℃、「Z値」は30(℃))によるCV値を加熱時間(分)で積分した値である。加熱条件の欄に記載の温度及び時間は最高到達温度及びその保持時間であるのに対し、加熱価の計算には温度上昇時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化も考慮した。
【0185】
【表16】
【0186】
比較例301は加熱殺菌を含む加熱処理をしていないクミンシードである。
【0187】
クミンシードの所定の温度及び時間の「加水無」の加熱は以下の手順で行った。
100gのクミンシードをアルミ箔パウチに充填し、密封した。密封したパウチを、所定の温度及び時間でレトルト式殺菌器にて加熱処理し、水冷した。レトルト式殺菌器での加熱処理は、ゲージ圧0.2MPaの加圧下で行った。
【0188】
クミンシードの所定の温度及び時間の「加水有」の加熱は以下の手順で行った。
100gのクミンシードと10gの水をアルミ箔パウチに充填し、密封した。密封したパウチを、所定の温度及び時間でレトルト式殺菌器にて加熱処理し、水冷した。レトルト式殺菌器での加熱処理は、ゲージ圧0.2MPaの加圧下で行った。
【0189】
実施例307、308、313、314のクミンシードは、加熱後に、以下の手順で粉砕及び熟成を行った。
加熱後のクミンシードを、スタンプミルを用いて20gあたり3分間粉砕して粉末化した。アルミ箔パウチに充填し、空気を含むように密封した。密封したパウチを40℃で8日間保存し熟成した。
【0190】
実施例307、308、313、314以外の比較例、実施例のクミンも、同様の条件で粉砕して粉末化し、以下の水分活性測定、呈味増強作用の確認、及び、成分分析における試料として用いた。実施例307、308、313、314のクミンは熟成後そのまま試料として用いた。
【0191】
実施例315~319は、以下の手順でクミンシードの粉砕物を油中加熱したものである。
【0192】
未加熱のクミンシードを、スタンプミルを用いて75gあたり5分間粉砕して粉末化した。
【0193】
100gのパーム油(融点45℃)を加熱し、80℃に達した時点で、100gのクミンシード粉砕物を混合し、得られた混合物を撹拌しながら、上記表に示す所定の温度まで加熱し、当該温度で所定の時間保持したのち、混合物を冷却した。冷却は、60℃程度まではクミンシード粉砕物が混合物中で分離しない程度に撹拌しながら行い、その後は冷蔵庫中で固化するまで行った。なお実施例315の「達温」とは、混合物が所定の温度に到達した時点で直ちに加熱を停止し冷却を開始したことを意味する。
【0194】
比較例301及び実施例301~314のクミンの水分活性(Aw)を、それぞれ上記表に記載の温度条件で測定した。
【0195】
3.2.呈味増強効果
上記1.3.(1)、(2)に記載の手順で通常のカレールウ及び減塩カレールウを調製した。
上記1.3.(2)の減塩カレールウ44gを300gの熱湯に溶いたものを2つ準備した。
【0196】
そのうちの1つに終濃度0.0619質量%となるように比較例又は実施例のクミンを添加した。
【0197】
(1)の通常のカレールウ44gを300gの熱湯に溶いた。
【0198】
減塩カレールウの湯溶き品と通常のカレールウの湯溶き品を比較対象とし、呈味の強さを「トップの塩角」と「ミドルの膨らみ」の観点から、以下の評価基準で3名の評価者(評価者1、2、3)が評価した。本実験での「呈味(トップの塩角)」及び「呈味(ミドルの膨らみ)」は、それぞれ、食塩とカレールウの他の食材とが組み合わされて奏されるトップ及びミドルの呈味であり、「塩味」の一態様である。このため本実験での「呈味(トップの塩角)」及び「呈味(ミドルの膨らみ)」は、それぞれ、「塩味(トップの塩角)」及び「塩味(ミドルの膨らみ)」と表現することもできる。
【0199】
呈味(「トップの塩角」及び「ミドルの膨らみ」)の1点、2点、3点、4点、5点をそれぞれ以下のように定め、各サンプルの呈味を3名の評価者が0.1点刻みで評価し、平均点を求めた。
1点:減塩カレールウと同程度の呈味
2点:減塩カレールウよりもやや強い呈味
3点:減塩カレールウよりも強い呈味
4点:減塩カレールウよりもかなり強い呈味
5点:通常のカレールウと同程度の呈味の強さである
【0200】
「トップの塩角」及び「ミドルの膨らみ」のどちらの評価項目についても、評価点の平均が、比較例301を上回り且つ2.0以下を「C」、2.1以上2.5以下を「B」、2.6以上を「A」とした。
【0201】
評価結果を下記表に示す。実施例301~319の加熱処理したクミンは、比較例301のクミンと比較して、「トップの塩角」及び「ミドルの膨らみ」のどちらの観点からも呈味を増強する作用が高いことが確認された。
【0202】
【表17】
【0203】
【表18】
【0204】
3.3.成分分析
比較例301及び実施例301~319のクミン(クミン試料)に含まれる成分を以下の手順で分析した。
【0205】
3.3.1.LC-MS/MSによる成分分析
(1)LC-MS/MS検液調製
10mL容試験管にクミン試料200mg(前記クミン試料が、油脂とともに加熱処理したクミン試料である場合は、油脂を除いたクミン試料として換算した質量を指す)を採取し、超純水5mLを加えた。試験管を80℃に設定した恒温水槽で30分間加温後、室温になるまで静置した。試験管にアセトニトリル(富士フイルム和光純薬)5mLを添加し、更にPositiveモードの内標準としてL-リシン-13一塩酸塩(富士フイルム和光純薬)、及び、Negativeモードの内標準としてリビトール(富士フイルム和光純薬)を添加した。クミン試料(前記クミン試料が、油脂とともに加熱処理したクミン試料である場合は、油脂を除いたクミン試料として換算した質量を指す)に対して、L-リシン-13一塩酸塩は47μg/g、リビトールは99μg/gとなるように添加した。試験管を高速振とう機(CM-1000、東京理化器械)で室温、1,800rpm、30分間撹拌し、遠心分離後に試験管内の溶液0.5mLを限外濾過フィルター(ナノセップ遠心ろ過デバイス3K、日本ポール)に移した。限外濾過フィルターを室温、15,000rpm×20分間遠心後、フィルター下のろ液に超純水0.5mL加え、10秒間ボルテックスした。0.2μmフィルターに負荷後の溶液をLC-MS/MS検体とした(n=2)。上記のクミン試料200mgとは、油脂を除いたクミン試料として換算した質量を意味し、クミンのみ又はクミンと水との混合物を加熱処理した実施例301~314の加熱処理クミン試料の質量としては200mgを意味し、クミンと油脂との混合物を加熱処理した実施例315~319の加熱処理クミン試料の質量としては400mgを指す。
【0206】
(2)LC-MS/MS分析条件
上記1.2.(2)に記載の条件でLC-MS/MS分析を行った。
【0207】
(3)データ解析
LC-MS/MSイオンクロマトグラムから、各成分のプリカーサーイオン>プロダクトイオンの精密質量(下記表)を抽出し、ピーク面積を得た。各検体中の成分は、プロダクトイオンのピーク面積比(=各成分のプロダクトイオンのピーク面積/内標準のプロダクトイオンのピーク面積)として算出して比較した。下記表においてA1、A2は、各環状ジペプチドを構成する2つのアミノ酸を示す。
【0208】
【表19】
【0209】
【表20】
【0210】
【表21】
【0211】
3.3.2.GC-MSによる成分分析
(1)GC-MS検液調製
10mL容試験管にクミン試料15mg(前記クミン試料が、油脂とともに加熱処理したクミン試料である場合は、油脂を除いたクミン試料として換算した質量を指す)を採取し、アセトン5mL(富士フイルム和光純薬)、メタノール5mL(富士フイルム和光純薬)を加えた。内標準として4-メチルチアゾール(東京化成)を、クミン試料(クミンとして換算した質量)に対して625μg/gとなるように添加した。試験管を高速振とう機(CM-1000、東京理化器械)で室温、1,800rpm、30分間撹拌した。撹拌後に遠心分離を行い、遠心分離後に試験管内の溶液0.1mLをGC-MSバイアルに採取し、更に、アセトン1mLを加えてGC-MS検体とした(n=2)。上記のクミン試料15mgとは、油脂を除いたクミン試料として換算した質量を意味し、クミンのみ又はクミンと水との混合物を加熱処理した実施例301~314の加熱処理クミン試料の質量としては15mgを意味し、クミンと油脂との混合物を加熱処理した実施例315~319の加熱処理クミン試料の質量としては30mgを指す。
【0212】
(2)GC-MS分析条件
GC-orbitrap-MSの分析条件を下記に示す。
分析装置:
GC:TRACE1310(Thermo Fisher Scientific)
MS:QExactiveGC(Thermo Fisher Scientific)
分析カラム:TG-WAXMS[長さ]60m[内径]0.25mm[膜厚]0.25μm(Thermo Fisher Scientific)
オートサンプラー:TRIPLUS RSH(Thermo Fisher Scientific)、
GC条件:
注入方式:液打ち
注入量:1μL
ガス:ヘリウム、130kPa(圧力)
注入口温度:240℃
オーブン温度:40℃(1分保持)-10℃/分-110℃-2℃/分-180℃-3℃/分-240℃-10℃/分-250℃(6分保持)、計70分
MS条件:
トランスファー温度:240℃
イオン源温度:230℃
イオン化法:EI positive
MSスキャン:m/z30-450
モニタリングイオン:下記の表に示す。
【0213】
(3)データ解析
GC-MSクロマトグラムから、各成分の精密質量(下記表)を抽出し、ピーク面積を得た。各検体中の成分は、ピーク面積比(=各成分のピーク面積/内標準のピーク面積)を算出して比較した。
【0214】
【表22】
【0215】
3.3.3.成分分析の結果
【0216】
各試料から調製された検体中で検出された環状ペプチド類、有機酸(酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸)、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール及びα-テルピネン-7-アールの内標準に対するピーク面積比を図17~31に示す。図中のバーは標準偏差を表す。
【0217】
図17~31に示す結果は、加熱処理した実施例301~314のクミンが、加熱していない比較例301のクミンと比較して、環状(Phe-Phe)、環状(Phe-Leu/Ile)、環状(Leu/Ile-Val)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Tyr)、環状(Pro-Leu/Ile)、環状(Val-Val)、環状(Phe-Ala)、環状(Tyr-Ser)、環状(Pro-Val)、環状(Pro-Tyr)、環状(Pro-Pro)、環状(Leu/Ile-Ser)、環状(Arg-Leu/Ile)、環状(Ala-Tyr)、環状(Gly-Tyr)、環状(Ala-Pro)、環状(Gly-Val)、環状(hyPro-Pro)、環状(Thr-Pro)、環状(Val-Arg)、環状(Pro-Asp)、環状(Arg-Pro)、環状(Glu-Tyr)、環状(Pro-His)、環状(Glu-Asp)、環状(Gly-Arg)、環状(Gly-His)、環状(Leu/Ile-Leu/Ile)、環状(Glu-Glu)、環状(Leu/Ile-Asp)、環状(Phe-Asp)、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、cis-アコニット酸、trans-アコニット酸、スルフロール、酢酸スルフロール、カルベオール、ネロリドール及びα-テルピネン-7-アールを多く含んでいたことを示す。なかでも130℃又は140℃で加熱処理を行った実施例305~314のクミンは前記成分の増加が特に顕著であった。特に、環状(Phe-Tyr)、環状(Phe-Ala)、環状(Tyr-Ser)、環状(Leu/Ile-Ser)、環状(Ala-Tyr)、環状(Gly-Tyr)、環状(Ala-Pro)、環状(Gly-Val)、環状(hyPro-Pro)及び環状(Glu-Glu)は、未加熱のクミンには含まれない(検出限界以下)、加熱処理したクミンに特異的な成分である。
【0218】
3.4.各種の食材に対する呈味増強効果
(1)試料の調製
下記表に示す食材の希釈液又は食品に、実施例305の加熱処理したクミンを添加した試料、並びに、それらの陰性対照試料及び陽性対照試料を、上記2.4.(1)に記載の方法において、実施例203の加熱処理したパプリカ粉末の代わりに、実施例305の加熱処理したクミンを、食材希釈液試料中の終濃度が0.05%(w/w)、食品試料中の終濃度が0.03~0.07%(w/w)となるように添加する方法により調製した。
【0219】
(2)官能評価
各食材から調製した試料の味の強さを、3名の評価者が喫食して評価した。評価の基準及び方法は上記2.4.(2)に記載の通り。
【0220】
評価結果を下記表に示す。実施例305の加熱処理したクミンは、さまざまな食材の味を増強する作用が高いことが確認された。
【0221】
【表23】
【0222】
4.実験4:加熱処理したアサフォエティダによる呈味増強作用
4.1.加熱処理したアサフォエティダの調製
以下の実験で使用したアサフォエティダ粉末は、アサフォエティダ(樹脂)12質量%、アラビアガム60質量%及び米粉28質量%を含む。当該アサフォエティダ粉末は、アサフォエティダを溶解し、アラビアガム及び米粉と混合し、乾燥後、粉末化したものである。
前記アサフォエティダ粉末を、下記表に示す条件で加熱処理した。加熱価は、既述の通り前記式(「基準温度」は110℃、「Z値」は30(℃))によるCV値を加熱時間(分)で積分した値である。加熱条件の欄に記載の温度及び時間は最高到達温度及びその保持時間であるのに対し、加熱価の計算には温度上昇時及び降下時の温度及び時間を含む温度の経時変化も考慮した。
【0223】
【表24】
【0224】
比較例401は加熱殺菌を含む加熱処理をしていないアサフォエティダ粉末である。
【0225】
アサフォエティダ粉末の実施例401の加熱(130℃30分、加水無)は以下の手順で行った。
100gのアサフォエティダ粉末をアルミ箔パウチに充填し、密封した。密封したパウチを、所定の温度及び時間でレトルト式殺菌器にて加熱処理し、水冷した。レトルト式殺菌器での加熱処理は、ゲージ圧0.2MPaの加圧下で行った。
【0226】
実施例402、403、404におけるアサフォエティダ粉末の油中加熱は以下の手順で行った。
アサフォエティダ粉末(うちアサフォエティダ12質量%)と、パーム油(融点45℃)とを、50:50の質量比で混合し、撹拌しながら所定の温度及び時間で加熱したのち冷却して、常温で固形カレールウ状の、油中加熱アサフォエティダを得た。
【0227】
比較例401のアサフォエティダ粉末の水分活性(Aw)を、上記表に記載の温度条件で測定した。
【0228】
4.2.呈味増強効果
上記1.3.(1)、(2)に記載の手順で通常のカレールウ及び減塩カレールウを調製した。
上記1.3.(2)の減塩カレールウ44gを300gの熱湯に溶いたものを2つ準備した。
【0229】
そのうちの1つに終濃度0.00077質量%となるように比較例又は実施例のアサフォエティダを添加した。実施例402、403又は404の油中加熱アサフォエティダの添加量は、油脂を含む添加量である。
【0230】
上記1.3.(1)の通常のカレールウ44gを300gの熱湯に溶いた。
【0231】
減塩カレールウの湯溶き品と通常のカレールウの湯溶き品を比較対象とし、呈味の強さを「呈味の押し上げ」の観点から、以下の評価基準で3名の評価者(評価者1、2、3)が評価した。本実験での「呈味の押し上げ」は、食塩とカレールウの他の食材とが組み合わされて奏される作用であり、「塩味」の一態様である。このため本実験での「呈味」は、「塩味」と表現することもできる。
【0232】
「呈味の押し上げ」の1点、2点、3点、4点、5点をそれぞれ以下のように定め、各サンプルの呈味を3名の評価者が0.1点刻みで評価し、平均点を求めた。
1点:減塩カレールウと同程度の呈味
2点:減塩カレールウよりもやや強い呈味
3点:減塩カレールウよりも強い呈味
4点:減塩カレールウよりもかなり強い呈味
5点:通常のカレールウと同程度の呈味の強さである
【0233】
評価点の平均が、比較例401を上回り且つ2.0以下を「C」、2.1以上2.5以下を「B」、2.6以上3.0以下を「A」、3.1以上5.0以下を「AA」とした。
【0234】
評価結果を下記表に示す。実施例401~404の加熱処理したアサフォエティダは、比較例401のアサフォエティダと比較して、「呈味の押し上げ」を増強する作用が高いことが確認された。
【0235】
【表25】
【0236】
4.3.成分分析
比較例401及び実施例401~404のアサフォエティダに含まれる成分を以下の手順で分析した。
【0237】
(1)LC-MS/MS検液調製
10mL容試験管に、比較例401又は実施例401のアサフォエティダ200mg、或いは、実施例402、403又は404の油中加熱アサフォエティダ400mg(アサフォエティダ樹脂含量を12質量%として換算した質量として200mg)を採取し、超純水5mLを加えた。試験管を80℃に設定した恒温水槽で30分間加温後、室温になるまで静置した。試験管にアセトニトリル(富士フイルム和光純薬)5mLを添加し、更にPositiveモードの内標準としてL-リシン-13一塩酸塩(富士フイルム和光純薬)を、アサフォエティダ(実施例402、403、404の油中加熱アサフォエティダについては、アサフォエティダ樹脂含量を12質量%として換算した質量)に対して47μg/gとなるように、Negativeモードの内標準としてリビトール(富士フイルム和光純薬)を、アサフォエティダ(実施例402、403、404の油中加熱アサフォエティダについては、アサフォエティダ樹脂含量を12質量%として換算した質量)に対して99μg/gとなるように添加した。試験管を高速振とう機(CM-1000、東京理化器械)で室温、1,800rpm、30分間撹拌し、遠心分離後に試験管内の溶液0.5mLを限外濾過フィルター(ナノセップ遠心ろ過デバイス3K、日本ポール)に移した。限外濾過フィルターを室温、15,000rpm×20分間遠心後、フィルター下のろ液0.3mLを固相抽出カラムInertSep C18(100mg/1mL,GLサイエンス)に負荷し、溶出液を採取した。InertSep C18はろ液を負荷する前に50%(w/w)アセトニトリル水1mLでコンディショニングを行った。さらにアセトニトリル0.5mLをInertSep C18に負荷し、溶出液を採取した。溶出液に超純水1.5mL加え、10秒間ボルテックスした。0.2μmフィルターに負荷後の溶液をLC-MS/MS検体とした(n=2)。
【0238】
(2)LC-MS/MS分析条件
上記1.2.(2)に記載の条件でLC-MS/MS分析を行った。
【0239】
(3)データ解析
LC-MS/MSクロマトグラムから、各成分のプリカーサーイオン>プロダクトイオンの精密質量(下記表)を抽出し、ピーク面積を得た。各検体中の成分は、プロダクトイオンのピーク面積比(=各成分のプロダクトイオンのピーク面積/内標準のプロダクトイオンのピーク面積)を算出して比較した。下記表においてA1、A2は、各環状ジペプチドを構成する2つのアミノ酸を示す。
【0240】
【表26】
【0241】
【表27】
【0242】
【表28】
【0243】
各試料から調製されたLC-MS/MS検体中で検出された環状ペプチド類、有機酸(酒石酸、リンゴ酸、クエン酸)及びスルフロールの内標準に対するピーク面積比を図32~38に示す。図中のバーは標準偏差を表す。
【0244】
図32~38に示す結果は、実施例401~404の加熱処理したアサフォエティダが、加熱していない比較例401のアサフォエティダと比較して、環状(Gly-Thr)、環状(Gly-His)、環状(Ala-Asp)、環状(Val-Ser)、環状(Gly-Arg)、環状(Ala-His)、環状(Glu-Asp)、環状(Phe-Phe)、環状(Leu/Ile-Leu/Ile)、環状(Ala-Arg)、環状(Leu/Ile-Val)、環状(Phe-Pro)、環状(Phe-Leu/Ile)、環状(Pro-Pro)、環状(Glu-Phe)、環状(Arg-Leu/Ile)、環状(Pro-Leu/Ile)、環状(Pro-Glu)、環状(Glu-Leu/Ile)、環状(Ala-Pro)、環状(Pro-Val)、環状(Pro-His)、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、及びスルフロールを多く含んでいたことを示す。特に、呈味増強作用の強い油中加熱した実施例402~404のアサフォエティダにおいて前記成分が顕著に増加した。これらの成分の量は、呈味の増強作用の強さと相関する傾向が認められた。特に、環状(Val-Ser)、環状(Pro-Pro)及び環状(Pro-Glu)は、未加熱のアサフォエティダには含まれない(検出限界以下)、加熱処理したアサフォエティダに特異的な成分である。
【0245】
4.4.各種の食材に対する呈味増強効果
(1)試料の調製
下記表に示す食材の希釈液又は食品に、実施例403の加熱処理したアサフォエティダを添加した試料、並びに、それらの陰性対照試料及び陽性対照試料を、上記2.4.(1)に記載の方法において、実施例203の加熱処理したパプリカ粉末の代わりに、実施例403の加熱処理したアサフォエティダを、食材希釈液試料中の終濃度が0.025%(w/w)、食品試料中の終濃度が0.015~0.035%(w/w)となるように添加する方法により調製した。
【0246】
(2)官能評価
各食材から調製した試料の味の強さを、3名の評価者が喫食して評価した。評価の基準及び方法は上記2.4.(2)に記載の通り。
【0247】
評価結果を下記表に示す。実施例403の加熱処理したアサフォエティダは、さまざまな食材の味を増強する作用が高いことが確認された。
【0248】
【表29】
【0249】
5.呈味増強作用の強さと相関する環状ジペプチド
上記実験1~4では、加熱処理したコリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダが、未加熱のものと比較して呈味増強作用を有することが確認された。上記実験1~4では更に、加熱処理したコリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダでは、未加熱ものと比較して複数の環状ジペプチドが増加していることが確認された。
【0250】
加熱処理したコリアンダー、パプリカ、クミン及びアサフォエティダにおいて、未加熱ものと比較して増加していることが確認された、64の環状ジペプチドを下記表に示す。実験1において説明した通り、各環状ジペプチドに「化合物ID」を付与し、加熱処理したコリアンダーにおいて増加が確認された環状ジペプチドには「コリアンダーID」を付与した。同様に、加熱処理したパプリカにおいて増加が確認された環状ジペプチドには「パプリカID」を付与し、加熱処理したクミンにおいて増加が確認された環状ジペプチドには「クミンID」を付与し、加熱処理したアサフォエティダにおいて増加が確認された環状ジペプチドには「アサフォエティダID」を付与した。下記表においてA1、A2は、「化合物ID」により特定される各環状ジペプチドを構成する2つのアミノ酸を示す。
【0251】
【表30】
【0252】
6.実験6:環状ジペプチドによる呈味増強効果
(1)官能評価用の環状ジペプチド水溶液の調製
下記の表に示す環状ジペプチドの、それぞれについて、内標準(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対するピーク面積比から推定される、上記1.1.で調製した加熱処理コリアンダー中の濃度と同じとなるように設定した水溶液(以下「加熱処理コリアンダー相当水溶液」)、又は、上記2.1で調製した実施例203の加熱処理パプリカ中の濃度と同じとなるように設定した水溶液(以下「加熱処理パプリカ相当水溶液」)とを調製した。
出願人が調製した環状ジペプチドを本実験に用いた。Leu/Ileを含む環状ジペプチドとして、Leuを含む環状ジペプチドとIleを含む環状ジペプチドの等量混合物を用いた。
【0253】
(2)評価試料の調製
上記1.3.(1)、(2)に記載の手順により、通常のカレールウ及び減塩カレールウを調製した。
【0254】
前記減塩カレールウ44gを300gの熱湯に溶いたものを2つ準備した。
そのうちの1つに、下記表に示す個々の環状ジペプチドの、加熱処理コリアンダー相当水溶液又は加熱処理パプリカ相当水溶液を、終濃度が0.5%(w/w)又は1.0%(w/w)となるように添加した。
【0255】
前記通常のカレールウ44gを300gの熱湯に溶いた。
【0256】
減塩カレールウの湯溶き品と通常のカレールウの湯溶き品を比較対象とし、呈味の強さを「トップの塩角」、「ミドルの膨らみ(厚味の増強)」、「ラストの呈味の押し上げ(伸び)」の観点から、以下の評価基準で3名の評価者が評価した。
【0257】
「トップの塩角」、「ミドルの膨らみ(厚味の増強)」、「ラストの呈味の押し上げ(伸び)」の1点、2点、3点、4点、5点をそれぞれ以下のように定め、各サンプルの呈味を3名の評価者が0.1点刻みで評価し、平均点を求めた。
1点:減塩カレールウと同程度の呈味
2点:減塩カレールウよりもやや強い呈味
3点:減塩カレールウよりも強い呈味
4点:減塩カレールウよりもかなり強い呈味
5点:通常のカレールウと同程度の呈味の強さである
【0258】
評価点の平均が、1.0以下を「F」、1.1以上1.9以下を「C」、2.0以上2.5以下を「B」、2.6以上2.9以下を「A」、3.0以上を「AA」とした。
【0259】
評価結果を下記表に示す。下記表において「ID」は上記の化合物IDを指す。「コリアンダー0.5%」、「コリアンダー1.0%」は、それぞれ、環状ジペプチドの前記加熱処理コリアンダー相当水溶液を終濃度0.5%(w/w)、1.0%(w/w)となるように添加したことを指す。「パプリカ0.5%」、「パプリカ1.0%」は、それぞれ、環状ジペプチドの前記加熱処理パプリカ相当水溶液を終濃度0.5%(w/w)、1.0%(w/w)となるように添加したことを指す。
【0260】
各環状ジペプチドを添加した減塩カレールウの湯溶き品は、環状ジペプチドを添加していない減塩カレールウと比較して、「トップの塩角」、「ミドルの膨らみ(厚味の増強)」、「ラストの呈味の押し上げ(伸び)」のいずれも強く感じられた。
【0261】
【表31】
【0262】
【表32】
【0263】
7.実験7:環状ジペプチドの、各種の食材に対する呈味増強効果
(1)試料の調製
環状(Pro-Met)(ID:60)、環状(Glu-His)(ID:8)、環状(Ala-His)(ID:13)、環状(Gly-His)(ID:4)、環状(Tyr-His)(ID:57)、環状(Leu/Ile-His)(ID:59)、環状(Leu/Ile-Val)(ID:46)、環状(Glu-Gly)(ID:12)、環状(Pro-His)(ID:18)、及び、環状(Glu-Phe)(ID:53)の混合物を、各々の濃度が、内標準(47μg/gのL-リシン-13一塩酸塩)に対するピーク面積比から推定される、上記1.1.で調製した加熱処理コリアンダー中の濃度と同じとなるように設定した水溶液(以下「混合環状ジペプチド水溶液」)を調製した。
【0264】
使用した環状ジペプチドは、実験6において記載した通りである。
【0265】
下記表に示す食材の希釈液又は食品に、前記混合環状ジペプチド水溶液を添加した試料、並びに、それらの陰性対照試料及び陽性対照試料を、上記2.4.(1)に記載の方法において、実施例203の加熱処理したパプリカ粉末の代わりに、前記混合環状ジペプチド水溶液を、食材希釈液試料又は食品試料中の前記水溶液としての終濃度が1.0%(w/w)となるように添加する方法により調製した。
【0266】
(2)官能評価
各食材及び食品から調製した試料の味の強さを、3名の評価者(評価者1、2、3)が評価した。評価点の基準は上記2.4.の(2)に記載の通りである。
【0267】
評価点の平均が、1点(陰性対照試料)以下を「F」、1点(陰性対照試料)を上回り且つ1.9以下を「C」、2.0以上2.5以下を「B」、2.6以上2.9以下を「A」、3.0以上5.0以下を「AA」とした。
【0268】
評価結果を下記表に示す。上記の10種の環状ジペプチドを、加熱処理コリアンダーと同じ濃度で含む前記混合環状ジペプチド水溶液は、さまざまな味を増強する作用が高いことが確認された。
【0269】
【表33】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38