(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144703
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】光透過性導電膜および透明導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C23C14/08 D
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024128659
(22)【出願日】2024-08-05
(62)【分割の表示】P 2021545722の分割
【原出願日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2020049864
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020074854
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020074853
(32)【優先日】2020-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020134832
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020134833
(32)【優先日】2020-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020140238
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020140239
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020140240
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020140241
(32)【優先日】2020-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020149474
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020200421
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020200422
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】鴉田 泰介
(57)【要約】
【課題】低抵抗化を図るのに適するとともに黄色味を抑制するのに適した光透過性導電膜、当該光透過性導電膜を備える透明導電性フィルム、および、透明導電性フィルム付き物品を提供する。
【解決手段】光透過性導電膜20は、インジウム含有導電性酸化物を含み、かつ、クリプトンを0.1原子%未満の含有割合で含有する第1領域21を、厚さ方向の少なくとも一部に含む。光透過性導電膜20は、インジウム含有導電性酸化物を含み、かつ、クリプトンを含有しない第2領域22を、厚さ方向の少なくとも一部に含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さを有する光透過性導電膜であって、
インジウム含有導電性酸化物を含み、かつ、クリプトンを0.1原子%未満の含有割合で含有する第1領域を、前記厚さ方向の少なくとも一部に含み、
インジウム含有導電性酸化物を含み、かつ、クリプトンを含有しない第2領域を、前記厚さ方向の少なくとも一部に含む、光透過性導電膜。
【請求項2】
前記第2領域はアルゴンを含有する、請求項1に記載の光透過性導電膜。
【請求項3】
パターニングされている、請求項1または2に記載の光透過性導電膜。
【請求項4】
透明基材と、
前記透明基材の厚さ方向一方面側に配置された、請求項1から3のいずれか一つに記載の光透過性導電膜と、を備える透明導電性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性導電膜および透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、タッチパネル、および光センサなどの各種デバイスにおける透明電極は、光透過性と導電性とを兼ね備えた膜(光透過性導電膜)から形成される。光透過性導電膜は、デバイスが備える帯電防止層としても用いられる。光透過性導電膜は、例えば、スパッタリング法で透明基材上に導電性酸化物を成膜することによって、形成される。スパッタリング法では、ターゲット(成膜材料供給材)に衝突してターゲット表面の原子を弾き出すためのスパッタリングガスとして、アルゴンなどの不活性ガスが用いられる。このような光透過性導電膜に関する技術については、例えば下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光透過性導電膜には、低抵抗であることが要求される。特に透明電極用途の光透過性導電膜には、その要求が強い。また、ディスプレイ用途や窓用途、車載用途などの光透過性導電膜には、良好な外観の確保の観点から、黄色味が抑えられていることも要求される。
【0005】
本発明は、低抵抗化を図るのに適するとともに黄色味を抑制するのに適した光透過性導電膜、および、当該光透過性導電膜を備える透明導電性フィルムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明[1]は、厚さを有する光透過性導電膜であって、クリプトンを0.1原子%未満の含有割合で含有する領域を、前記厚さ方向の少なくとも一部に含む、光透過性導電膜を含む。
【0007】
本発明[2]は、前記厚さ方向の全域において、クリプトンを0.1原子%未満の含有割合で含有する、上記[1]に記載の光透過性導電膜を含む。
【0008】
本発明[3]は、クリプトンを含有しない領域を、厚さ方向の少なくとも一部に含む、上記[1]に記載の光透過性導電膜を含む。
【0009】
本発明[4]は、クリプトンを含有しない前記領域はアルゴンを含有する、上記[3]に記載の光透過性導電膜を含む。
【0010】
本発明[5]は、パターニングされている、上記[1]から[4]のいずれか一つに記載の光透過性導電膜を含む。
【0011】
本発明[6]は、透明基材と、前記透明基材の厚さ方向一方面側に配置された、上記[1]から[5]のいずれか一つに記載の光透過性導電膜と、を備える透明導電性フィルムを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光透過性導電膜は、クリプトンを0.1原子%未満の含有割合で含有する領域を厚さ方向の少なくとも一部に含むことから、低抵抗化を図るのに適するとともに黄色味を抑制するのに適する。本発明の透明導電性フィルムは、そのような光透過性導電膜を備えるため、低抵抗化を図るのに適するとともに黄色味を抑制するのに適する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の透明導電性フィルムの一実施形態の断面模式図である。
【
図2】
図1に示す透明導電性フィルムの光透過性導電膜が厚さ方向の一部の領域でKrを含有する場合の例を模式的に表す。
図2Aは、光透過性導電膜が、第1領域(Kr含有領域)と第2領域(Kr非含有領域)とを透明基材側からこの順で含む場合を表す。
図2Bは、光透過性導電膜が、第2領域(Kr非含有領域)と第1領域(Kr含有領域)とを透明基材側からこの順で含む場合を表す。
【
図3】
図1に示す透明導電性フィルムの製造方法を表す。
図3Aは、樹脂フィルムを用意する工程を表し、
図3Bは、樹脂フィルム上に機能層を形成する工程を表し、
図3Cは、機能層上に光透過性導電膜を形成する工程を表し、
図3Dは、光透過性導電膜の結晶化工程を表す。
【
図4】
図1に示す透明導電性フィルムにおいて、光透過性導電膜がパターニングされた場合を表す。
【
図5】スパッタリング法により光透過性導電膜を形成する際の酸素導入量と、形成される光透過性導電膜の比抵抗との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
透明導電性フィルムXは、
図1に示すように、透明基材10と、光透過性導電膜20とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。透明導電性フィルムX、透明基材10、および光透過性導電膜20は、それぞれ、厚さ方向Dに直交する方向(面方向)に広がる形状を有する。透過性導電フィルムXおよびこれに含まれる光透過性導電膜20は、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、ヒーター部材、照明装置、および画像表示装置などに備えられる一要素である。
【0015】
透明基材10は、樹脂フィルム11と、機能層12とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。
【0016】
樹脂フィルム11は、可撓性を有する透明な樹脂フィルムである。樹脂フィルム11の材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、およびポリスチレン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、およびポリエチレンナフタレートが挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびシクロオレフィンポリマーが挙げられる。アクリル樹脂としては、例えばポリメタクリレートが挙げられる。樹脂フィルム11の材料としては、例えば透明性および強度の観点から、好ましくはポリエステル樹脂が用いられ、より好ましくはPETが用いられる。
【0017】
樹脂フィルム11における機能層12側表面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0018】
樹脂フィルム11の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは30μm以上である。樹脂フィルム11の厚さは、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは75μm以下である。樹脂フィルム11の厚さに関するこれら構成は、透明導電性フィルムXの取り扱い性を確保するのに適する。
【0019】
樹脂フィルム11の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。このような構成は、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、ヒーター部材、照明装置、および画像表示装置などに透明導電性フィルムXが備えられる場合に当該透明導電性フィルムXに求められる透明性を確保するのに適する。樹脂フィルム11の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0020】
機能層12は、本実施形態では、樹脂フィルム11における厚さ方向Dの一方面上に配置されている。また、本実施形態では、機能層12は、光透過性導電膜20の露出表面(
図1では上面)に擦り傷が形成されにくくするためのハードコート層である。
【0021】
ハードコート層は、硬化性樹脂組成物の硬化物である。硬化性樹脂組成物が含有する樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、およびメラミン樹脂が挙げられる。また、硬化性樹脂組成物としては、例えば、紫外線硬化型の樹脂組成物、および、熱硬化型の樹脂組成物が挙げられる。高温加熱せずに硬化可能であるために透明導電性フィルムXの製造効率向上に役立つ観点から、硬化性樹脂組成物としては、好ましくは、紫外線硬化型の樹脂組成物が用いられる。紫外線硬化型の樹脂組成物としては、具体的には、特開2016-179686号公報に記載のハードコート層形成用組成物が挙げられる。
【0022】
機能層12における光透過性導電膜20側表面は、表面改質処理されていてもよい。表面改質処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、オゾン処理、プライマー処理、グロー処理、およびカップリング剤処理が挙げられる。
【0023】
ハードコート層としての機能層12の厚さは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上である。このような構成は、光透過性導電膜20において充分な耐擦過性を発現させるのに適する。ハードコート層としての機能層12の厚さは、機能層12の透明性を確保する観点からは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。
【0024】
透明基材10の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上、特に好ましくは30μm以上である。透明基材10の厚さは、好ましくは310μm以下、より好ましくは210μm以下、さらに好ましくは110μm以下、特に好ましくは80μm以下である。透明基材10の厚さに関するこれら構成は、透明導電性フィルムXの取り扱い性を確保するのに適する。
【0025】
透明基材10の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。このような構成は、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、電磁波シールド部材、ヒーター部材、照明装置、および画像表示装置などに透明導電性フィルムXが備えられる場合に当該透明導電性フィルムXに求められる透明性を確保するのに適する。透明基材10の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0026】
光透過性導電膜20は、本実施形態では、透明基材10における厚さ方向Dの一方面上に配置されている。光透過性導電膜20は、本発明の光透過性導電膜の一実施形態であり、光透過性と導電性とを兼ね備える。光透過性導電膜20は、光透過性導電材料から形成された層である。光透過性導電材料は、主成分として、例えば導電性酸化物を含有する。
【0027】
導電性酸化物としては、例えば、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも一種類の金属または半金属を含有する金属酸化物が挙げられる。具体的には、導電性酸化物としては、インジウム含有導電性酸化物およびアンチモン含有導電性酸化物が挙げられる。インジウム含有導電性酸化物としては、例えば、インジウムスズ複合酸化物(ITO)、インジウム亜鉛複合酸化物(IZO)、インジウムガリウム複合酸化物(IGO)、およびインジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)が挙げられる。アンチモン含有導電性酸化物としては、例えば、アンチモンスズ複合酸化物(ATO)が挙げられる。高い透明性と良好な電気伝導性とを実現する観点からは、導電性酸化物としては、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。このITOは、InおよびSn以外の金属または半金属を、InおよびSnのそれぞれの含有量より少ない量で含有してもよい。
【0028】
導電性酸化物としてITOが用いられる場合、当該ITOにおける酸化インジウム(In2O3)および酸化スズ(SnO2)の合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、一層好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上である。ITOにおけるインジウム原子数に対するスズ原子数の比率(スズ原子数/インジウム原子数)は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.03以上、一層好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.07以上である。これら構成は、光透過性導電膜20の耐久性を確保するのに適する。
【0029】
ITOにおける酸化インジウム(In2O3)および酸化スズ(SnO2)の合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。ITOにおけるインジウム原子数に対するスズ原子数の比率(スズ原子数/インジウム原子数)は、好ましくは0.16以下、より好ましくは0.14以下、さらに好ましくは0.13以下である。これら構成は、後述の透明導電性フィルム製造方法の成膜工程で形成される非晶質の光透過性導電膜20において、加熱による結晶化のしやすさを確保するのに適する。
【0030】
ITOにおけるインジウム原子数に対するスズ原子数の比率は、例えば、測定対象物について、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy)によってインジウム原子とスズ原子の存在比率を特定することにより、求められる。ITOにおける酸化スズの上記含有割合は、例えば、そのようにして特定されたインジウム原子とスズ原子の存在比率から、求められる。ITOにおける酸化スズの上記含有割合は、スパッタ成膜時に用いるITOターゲットの酸化スズ(SnO2)含有割合から判断してもよい。
【0031】
光透過性導電膜20は、希ガス原子としてクリプトン(Kr)を含有する。光透過性導電膜20における希ガス原子は、本実施形態では、光透過性導電膜20を形成するための後述のスパッタリング法においてスパッタリングガスとして用いられる希ガス原子に由来する。本実施形態において、光透過性導電膜20は、スパッタリング法で成膜された膜(スパッタ膜)である。
【0032】
光透過性導電膜20は、Krの含有割合が、0.1原子%未満、好ましくは0.09原子%以下、より好ましくは0.08原子%以下、さらに好ましくは0.07原子%以下、一層好ましくは0.06原子%以下、特に好ましくは0.05原子%以下のKr含有領域を、厚さ方向Dの一部に含む。当該領域のKr含有割合は、例えば0.0001原子%以上である。好ましくは、光透過性導電膜20は、厚さ方向Dの全域において、このようなKr含有割合を充足する(この場合、光透過性導電膜20における厚さ方向Dの全域が、Kr含有領域である)。具体的には、光透過性導電膜20におけるKrの含有割合は、厚さ方向Dの全域において、0.1原子%未満、好ましくは0.09原子%以下、より好ましくは0.08原子%以下、さらに好ましくは0.07原子%以下、一層好ましくは0.06原子%以下、特に好ましくは0.05原子%以下である。これら構成は、透明導電性フィルムXの製造過程において、非晶質の光透過性導電膜20を加熱により結晶化させる時に、良好な結晶成長を実現して大きな結晶粒を形成するのに適し、従って、低抵抗の光透過性導電膜20を得るのに適する(光透過性導電膜20内の結晶粒が大きいほど、光透過性導電膜20の抵抗は低い)。また、光透過性導電膜20のKr含有量に関する上記構成は、光透過性導電膜20の黄色味を抑制するのにも適する。すなわち、Kr含有量に関する上記構成は、光透過性導電膜20において、低抵抗化と黄色味の抑制とを両立させるのに適する。
【0033】
光透過性導電膜20のKr含有割合は、光透過性導電膜20をスパッタ成膜する時の各種条件の調整によって制御できる。当該条件としては、例えば、スパッタ成膜時に成膜室内に導入されるスパッタリングガスのKr含有割合、および、当該スパッタリングガスの導入量が挙げられる。
【0034】
光透過性導電膜20におけるKrなど希ガス原子の存否および含有量は、例えば、実施例に関して後述するラザフォード後方散乱分析(Rutherford Backscattering Spectrometry)によって同定される。光透過性導電膜20におけるKrなど希ガス原子の存否は、例えば、実施例に関して後述する蛍光X線分析によって同定される。分析対象の光透過性導電膜において、ラザフォード後方散乱分析によると、希ガス原子含有量が検出限界値(下限値)以上でないために定量できず、且つ、蛍光X線分析によると、希ガス原子の存在が同定される場合、当該光透過性導電膜は、Krなど希ガス原子の含有割合が0.0001原子%以上である領域を含む、と判断する。
【0035】
光透過性導電膜20のKr含有領域におけるKrの含有割合は、厚さ方向Dにおいて非一様であってもよい。例えば、厚さ方向Dにおいて、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸増または漸減してもよい。或いは、厚さ方向Dにおいて、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸増する部分領域が透明基材10側に配置され、且つ、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸減する部分領域が透明基材10とは反対側に配置されてもよい。或いは、厚さ方向Dにおいて、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸減する部分領域が透明基材10側に配置され、且つ、透明基材10から遠ざかるほどKr含有割合が漸増する部分領域が透明基材10とは反対側に配置されてもよい。
【0036】
光透過性導電膜20が、Kr以外の希ガス原子を含有する場合、Kr以外の希ガス原子としては、例えば、アルゴン(Ar)およびキセノン(Xe)が挙げられる。透明導電性フィルムXの製造コスト低減の観点からは、光透過性導電膜20は、好ましくはXeを含有しない。
【0037】
光透過性導電膜20における希ガス原子(Krを含む)の含有割合は、厚さ方向Dの全域において、好ましくは1.2原子%以下、より好ましくは1.1原子%以下、さらに好ましくは1.0原子%以下、一層好ましくは0.8原子%以下、より一層好ましくは0.5原子%以下、ことさらに好ましくは0.4原子%以下、とても好ましくは0.3原子%以下、特に好ましくは0.2原子%以下である。このような構成は、透明導電性フィルムXの製造過程において、非晶質の光透過性導電膜20を加熱により結晶化させる時に、良好な結晶成長を実現して大きな結晶粒を形成するのに適し、従って、低抵抗の光透過性導電膜20を得るのに適する。光透過性導電膜20における希ガス原子含有割合は、好ましくは、厚さ方向Dの全域において例えば0.0001原子%以上である。
【0038】
図2は、光透過性導電膜20が厚さ方向Dの一部の領域でKrを含有する場合の例を模式的に表す。
図2Aは、光透過性導電膜20が、第1領域21と第2領域22とを、透明基材10側からこの順で含む場合を表す。第1領域21はKrを含有する。第2領域22は、Krを含有せず、例えば、Kr以外の希ガス原子を含有する。
図2Bは、光透過性導電膜20が、第2領域22と第1領域21とを、透明基材10側からこの順で含む場合を表す。
図2では、第1領域21と第2領域22との境界が仮想線によって描出されているが、含有量が微量である希ガス原子以外の組成において第1領域21と第2領域22とが有意には異ならない場合などには、第1領域21と第2領域22との境界は明確には判別できない場合もある。
【0039】
光透過性導電膜20が第1領域21(Kr含有領域)および第2領域22(Kr非含有領域)を含む場合、光透過性導電膜20の黄色味を抑制する観点、および、透明導電性フィルムXの黄色味を抑制する観点からは、好ましくは、光透過性導電膜20は、第1領域21と第2領域22とを、透明基材10側からこの順で含む。
【0040】
光透過性導電膜20が第1領域21および第2領域22を含む場合、第1領域21と第2領域22との合計厚さに対する第1領域21の厚さの割合は、例えば1%以上であり、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、特に好ましくは50%以上である。同割合は、100%未満である。また、第1領域21と第2領域22との合計厚さに対する第2領域22の厚さの割合は、例えば99%以下、好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは60%以下、特に好ましくは50%以下である。これら構成は、光透過性導電膜20の黄色味を抑制する観点、および、透明導電性フィルムXの黄色味を抑制する観点から、好ましい。
【0041】
光透過性導電膜20の厚さは、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、さらに好ましくは50nm以上、一層好ましくは80nm以上、特に好ましくは100nm以上である。このような構成は、光透過性導電膜20の低抵抗化を図るのに適する。また、光透過性導電膜20の厚さは、例えば1000nm以下であり、好ましくは300nm未満、より好ましくは250nm以下、さらに好ましくは200nm以下、ことさらに好ましくは160nm以下、特に好ましくは150nm未満、最も好ましくは148nm以下である。このような構成は、光透過性導電膜20の圧縮残留応力を低減して、透明導電性フィルムXの反りを抑制するのに適する。
【0042】
光透過性導電膜20の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上である。このような構成は、光透過性導電膜20において透明性を確保するのに適する。また、光透過性導電膜20の全光線透過率は、例えば100%以下である。
【0043】
光透過性導電膜20は、本実施形態では結晶質膜である。光透過性導電膜が結晶質膜であることは、例えば、次のようにして判断できる。まず、光透過性導電膜(透明導電性フィルムXでは、透明基材10上の光透過性導電膜20)を、濃度5質量%の塩酸に、20℃で15分間、浸漬する。次に、光透過性導電膜を、水洗した後、乾燥する。次に、光透過性導電膜の露出平面(透明導電性フィルムXでは、光透過性導電膜20における透明基材10とは反対側の表面)において、離隔距離15mmの一対の端子の間の抵抗(端子間抵抗)を測定する。この測定において、端子間抵抗が10kΩ以下である場合、光透過性導電膜は結晶質膜である。また、透過型電子顕微鏡により光透過性導電膜における結晶粒の存在を平面視で観察することによっても、当該光透過性導電膜が結晶質膜であることを判断できる。
【0044】
光透過性導電膜20(結晶質膜)の比抵抗は、好ましくは2.2×10-4Ω・cm以下、より好ましくは2×10-4Ω・cm以下、さらに好ましくは1.9×10-4Ω・cm以下、特に好ましくは1.8×10-4Ω・cm以下である。このような構成は、タッチセンサ装置、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ部材、ヒーター部材、電磁波シールド部材、照明装置、および画像表示装置などに、透明導電性フィルムXが備えられる場合に、光透過性導電膜20に求められる低抵抗性を確保するのに適する。また、当該光透過性導電膜20の比抵抗は、好ましくは0.1×10-4Ω・cm以上、より好ましくは0.5×10-4Ω・cm以上、さらに好ましくは1.0×10-4Ω・cm以上である。
【0045】
光透過性導電膜20の比抵抗は、光透過性導電膜20の表面抵抗に厚さを乗じて求められる。比抵抗は、例えば、光透過性導電膜20におけるKr含有割合の調整、および、光透過性導電膜20をスパッタ成膜する時の各種条件の調整により、制御できる。当該条件としては、例えば、光透過性導電膜20が成膜される下地(本実施形態では透明基材10)の温度、成膜室内への酸素導入量、成膜室内の気圧、および、ターゲット上の水平磁場強度が挙げられる。
【0046】
透明導電性フィルムXは、例えば以下のように製造される。
【0047】
まず、
図3Aに示すように、樹脂フィルム11を用意する。
【0048】
次に、
図3Bに示すように、樹脂フィルム11の厚さ方向Dの一方面上に機能層12を形成する。樹脂フィルム11上への機能層12の形成により、透明基材10が作製される。
【0049】
ハードコート層としての上述の機能層12は、樹脂フィルム11上に、硬化性樹脂組成物を塗布して塗膜を形成した後、この塗膜を硬化させることによって形成できる。硬化性樹脂組成物が紫外線化型樹脂を含有する場合には、紫外線照射によって前記塗膜を硬化させる。硬化性樹脂組成物が熱硬化型樹脂を含有する場合には、加熱によって前記塗膜を硬化させる。
【0050】
樹脂フィルム11上に形成された機能層12の露出表面は、必要に応じて、表面改質処理される。表面改質処理としてプラズマ処理する場合、不活性ガスとして例えばアルゴンガスを用いる。また、プラズマ処理における放電電力は、例えば10W以上であり、また、例えば5000W以下である。
【0051】
次に、
図3Cに示すように、透明基材10上に、非晶質の光透過性導電膜20を形成する(成膜工程)。具体的には、スパッタリング法により、透明基材10における機能層12上に材料を成膜して非晶質の光透過性導電膜20を形成する(この光透過性導電膜20は、後述の結晶化工程において、加熱によって結晶質の光透過性導電膜20に転化される)。
【0052】
スパッタリング法では、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施できるスパッタ成膜装置を使用するのが好ましい。透明導電性フィルムXの製造において、ロールトゥロール方式のスパッタ成膜装置を使用する場合、長尺状の透明基材10を、装置が備える繰出しロールから巻取りロールまで走行させつつ、当該透明基材10上に材料を成膜して光透過性導電膜20を形成する。また、当該スパッタリング法では、一つの成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用してもよいし、透明基材10の走行経路に沿って順に配置された複数の成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用してもよい(上述の第1領域21および第2領域22を含む光透過性導電膜20を形成する場合には、2以上の複数の成膜室を備えるスパッタ成膜装置を使用する)。
【0053】
スパッタリング法では、具体的には、スパッタ成膜装置が備える成膜室内に真空条件下でスパッタリングガス(不活性ガス)を導入しつつ、成膜室内のカソード上に配置されたターゲットにマイナスの電圧を印加する。これにより、グロー放電を発生させてガス原子をイオン化し、当該ガスイオンを高速でターゲット表面に衝突させ、ターゲット表面からターゲット材料を弾き出し、弾き出たターゲット材料を透明基材10における機能層12上に堆積させる。
【0054】
成膜室内のカソード上に配置されるターゲットの材料としては、光透過性導電膜20に関して上述した導電性酸化物が用いられ、好ましくはインジウム含有導電性酸化物が用いられ、より好ましくはITOが用いられる。ITOが用いられる場合、当該ITOにおける酸化スズおよび酸化インジウムの合計含有量に対する酸化スズの含有量の割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、一層好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下、より好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0055】
スパッタリング法は、好ましくは、反応性スパッタリング法である。反応性スパッタリング法では、スパッタリングガスに加えて反応性ガスが、成膜室内に導入される。
【0056】
厚さ方向Dの全域にわたってKrを含有する光透過性導電膜20を形成する場合(第1の場合)には、スパッタ成膜装置が備える1または2以上の成膜室に導入されるガスは、スパッタリングガスとしてのKrと反応性ガスとしての酸素とを含有する。スパッタリングガスは、Kr以外の不活性ガスを含有してもよい。Kr以外の不活性ガスとしては、例えば、Kr以外の希ガス原子が挙げられる。希ガス原子としては、例えば、ArおよびXeが挙げられる。成膜室に導入されるガスにおけるKrの含有割合は、好ましく50体積%以上、より好ましく60体積%以上、さらに好ましく70体積%以上であり、また、例えば100体積%以下である。
【0057】
上述の第1領域21と第2領域22とを含む光透過性導電膜20を形成する場合(第2の場合)、第1領域21を形成するための成膜室に導入されるガスは、スパッタリングガスとしてのKrと反応性ガスとしての酸素とを含有する。スパッタリングガスは、Kr以外の不活性ガスを含有してもよい。Kr以外の不活性ガスの種類については、第1の場合において上述したのと同様である。成膜室に導入されるガスにおけるKrの含有割合は、好ましく50体積%以上、より好ましく60体積%以上、さらに好ましく70体積%以上であり、また、例えば100体積%以下である。
【0058】
また、上記第2の場合、第2領域22を形成するための成膜室に導入されるガスは、スパッタリングガスとしてのKr以外の不活性ガスと、反応性ガスとしての酸素とを含有する。Kr以外の不活性ガスとしては、第1の場合におけるKr以外の不活性ガスとして上記した不活性ガスが挙げられ、好ましくはArが用いられる。
【0059】
反応性スパッタリング法において成膜室に導入されるスパッタリングガスおよび酸素の合計導入量に対する、スパッタリングガスの導入量の割合は、例えば85流量%以上であり、また、例えば99.99流量%以下である。成膜室に導入されるスパッタリングガスおよび酸素の合計導入量に対する、酸素の導入量の割合は、例えば0.01流量%以上であり、また、例えば15流量%以下である。
【0060】
スパッタリング法による成膜(スパッタ成膜)中の成膜室内の気圧は、例えば0.02Pa以上であり、また、例えば1Pa以下である。
【0061】
スパッタ成膜中の透明基材10の温度は、例えば100℃以下、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは10℃以下、特に好ましくは0℃以下であり、また、例えば-50℃以上、好ましくは-20℃以上、より好ましくは-10℃以上、さらに好ましくは-7℃以上である。
【0062】
ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、例えば、DC電源、AC電源、MF電源、およびRF電源が挙げられる。電源としては、DC電源とRF電源とを併用してもよい。スパッタ成膜中の放電電圧の絶対値は、例えば50V以上であり、また、例えば500V以下である。ターゲット表面上の水平磁場強度は、例えば10mT以上、好ましくは60mT以上であり、また、例えば300mT以下である。このような構成は、光透過性導電層20内のクリプトン原子が過剰量になることを抑制するのに好ましく、従って、形成される光透過性導電膜20において黄色味の抑制および低抵抗化をするのに好ましい。
【0063】
本製造方法では、次に、
図3Dに示すように、加熱によって光透過性導電膜20を非晶質から結晶質へと転化(結晶化)させる(結晶化工程)。加熱の手段としては、例えば、赤外線ヒーターおよびオーブン(熱媒加熱式オーブン,熱風加熱式オーブン)が挙げられる。加熱時の環境は、真空環境および大気環境のいずれでもよい。好ましくは、酸素存在下での加熱が実施される。加熱温度は、高い結晶化速度を確保する観点からは、例えば100℃以上であり、好ましくは120℃以上である。加熱温度は、透明基材10への加熱の影響を抑制する観点から、例えば200℃以下であり、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下である。加熱時間は、例えば10時間以下であり、好ましくは200分以下、より好ましくは90分以下、さらに好ましくは60分以下であり、また、例えば1分以上、好ましくは5分以上である。
【0064】
以上のようにして、透明導電性フィルムXが製造される。
【0065】
透明導電性フィルムXにおける光透過性導電膜20は、
図4に模式的に示すように、パターニングされてもよい。所定のエッチングマスクを介して光透過性導電膜20をエッチング処理することにより、光透過性導電膜20をパターニングできる。光透過性導電膜20のパターニングは、上述の結晶化工程より前に実施されてもよいし、結晶化工程より後に実施されてもよい。パターニングされた光透過性導電膜20は、例えば、配線パターンとして機能する。
【0066】
透明導電性フィルムXの光透過性導電膜20は、クリプトンを0.1原子%未満の含有割合で含有する領域を厚さ方向の少なくとも一部に含むことから、低抵抗化を図るのに適するとともに黄色味を抑制するのに適する。透明導電性フィルムXは、そのような光透過性導電膜20を備えるため、低抵抗化を図るのに適するとともに黄色味を抑制するのに適する。具体的には、後記の実施例および比較例をもって示すとおりである。
【0067】
透明導電性フィルムXにおいて、機能層12は、透明基材10に対する光透過性導電膜20の高い密着性を実現するための密着性向上層であってもよい。機能層12が密着性向上層である構成は、透明基材10と光透過性導電膜20との間の密着力を確保するのに適する。
【0068】
機能層12は、透明基材10の表面(厚さ方向Dの一方面)の反射率を調整するための屈折率調整層(index-matching layer)であってもよい。機能層12が屈折率調整層である構成は、透明基材10上の光透過性導電膜20がパターニングされている場合に、当該光透過性導電膜20のパターン形状を視認されにくくするのに適する。
【0069】
機能層12は、透明基材10から光透過性導電膜20を実用的に剥離可能にするための剥離機能層であってもよい。機能層12が剥離機能層である構成は、透明基材10から光透過性導電膜20を剥離して、当該光透過性導電膜20を他の部材に転写するのに適する。
【0070】
機能層12は、複数の層が厚さ方向Dに連なる複合層であってもよい。複合層は、好ましくは、ハードコート層、密着性向上層、屈折率調整層、および剥離機能層からなる群より選択される2以上の層を含む。このような構成は、選択される各層の上述の機能を、機能層12において複合的に発現するのに適する。好ましい一形態では、機能層12は、樹脂フィルム11上において、密着性向上層と、ハードコート層と、屈折率調整層とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。好ましい他の形態では、機能層12は、樹脂フィルム11上において、剥離機能層と、ハードコート層と、屈折率調整層とを、厚さ方向Dの一方側に向かってこの順で備える。
【0071】
透明導電性フィルムXは、物品に対して貼り合わされ、且つ必要に応じて光透過性導電膜20がパターニングされた状態で、利用される。透明導電性フィルムXは、例えば固着機能層を介して、物品に対して貼り合わされる。
【0072】
物品としては、例えば、素子、部材、および装置が挙げられる。すなわち、透明導電性フィルム付き物品としては、例えば、透明導電性フィルム付き素子、透明導電性フィルム付き部材、および透明導電性フィルム付き装置が挙げられる。
【0073】
素子としては、例えば、調光素子および光電変換素子が挙げられる。調光素子としては、例えば、電流駆動型調光素子および電界駆動型調光素子が挙げられる。電流駆動型調光素子としては、例えば、エレクトロクロミック(EC)調光素子が挙げられる。電界駆動型調光素子としては、例えば、PDLC(polymer dispersed liquid crystal)調光素子、PNLC(polymer network liquid crystal)調光素子、および、SPD(suspended particle device)調光素子が挙げられる。光電変換素子としては、例えば太陽電池などが挙げられる。太陽電池としては、例えば、有機薄膜太陽電池および色素増感太陽電池が挙げられる。部材としては、例えば、電磁波シールド部材、熱線制御部材、ヒーター部材、およびアンテナ部材が挙げられる。装置としては、例えば、タッチセンサ装置、照明装置、および画像表示装置が挙げられる。
【0074】
透明導電性フィルム付き物品は、それが備える透明導電性フィルムXの光透過性導電膜20が低抵抗化に適することから、光透過性導電膜20の光透過性および導電性に依存性を示す機能について高性能化を図るのに適する。また、透明導電性フィルム付き物品は、それが備える透明導電性フィルムXの光透過性導電膜20が黄色味の抑制に適することから、良好な外観を確保するのに適する。
【0075】
上述の固着機能層としては、例えば、粘着層および接着層が挙げられる。固着機能層の材料としては、透明性を有し且つ固着機能を発揮する材料であれば、特に制限なく用いられる。固着機能層は、好ましくは、樹脂から形成されている。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、および合成ゴムが挙げられる。凝集性、接着性、適度な濡れ性などの粘着特性を示すこと、透明性に優れること、並びに、耐候性および耐熱性に優れることから、前記樹脂としては、アクリル樹脂が好ましい。
【0076】
固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、光透過性導電膜20の腐食抑制のために、腐食防止剤を配合してもよい。固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、光透過性導電膜20のマイグレーション抑制のために、マイグレーション防止剤(例えば、特開2015-022397号に開示の材料)を配合してもよい。また、固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、物品の屋外使用時の劣化を抑制するために、紫外線吸収剤を配合してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、サリチル酸化合物、シュウ酸アニリド化合物、シアノアクリレート化合物、および、トリアジン化合物が挙げられる。
【0077】
また、透明導電性フィルムXの透明基材10を、物品に対して固着機能層を介して固定した場合、透明導電性フィルムXにおいて光透過性導電膜20(パターニング後の光透過性導電膜20を含む)は露出する。このような場合、光透過性導電膜20の当該露出面にカバー層を配置してもよい。カバー層は、光透過性導電膜20を被覆する層であり、光透過性導電膜20の信頼性を向上させ、また、光透過性導電膜20の受傷による機能劣化を抑制できる。そのようなカバー層は、好ましくは、誘電体材料から形成されており、より好ましくは、樹脂と無機材料との複合材料から形成されている。樹脂としては、例えば、固着機能層に関して上記した樹脂が挙げられる。無機材料としては、例えば、無機酸化物およびフッ化物が挙げられる。無機酸化物としては、例えば、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化アルミニウム、二酸化ジルコニウム、および酸化カルシウムが挙げられる。フッ化物としては、例えばフッ化マグネシウムが挙げられる。また、カバー層(樹脂および無機材料の混合物)には、上記の腐食防止剤、マイグレーション防止剤、および紫外線吸収剤を配合してもよい。
【実施例0078】
本発明について、以下に実施例を示して具体的に説明する。本発明は実施例に限定されない。また、以下に記載されている配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上述の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合量(含有量)、物性値、パラメータなどの上限(「以下」または「未満」として定義されている数値)または下限(「以上」または「超える」として定義されている数値)に代替することができる。
【0079】
〔比較例3〕
樹脂フィルムとしての長尺のPETフィルム(厚さ50μm,東レ社製)の一方の面に、アクリル樹脂を含有する紫外線硬化性樹脂を塗布して塗膜を形成した。次に、紫外線照射によって当該塗膜を硬化させてハードコート層(厚さ2μm)を形成した。このようにして、樹脂フィルムと機能層としてのハードコート層とを備える透明基材を作製した。
【0080】
次に、反応性スパッタリング法により、透明基材におけるハードコート層上に、厚さ30nmの非晶質の光透過性導電膜を形成した。反応性スパッタリング法では、ロールトゥロール方式で成膜プロセスを実施できるスパッタ成膜装置(DCマグネトロンスパッタリング装置)を使用した。本実施例におけるスパッタ成膜の条件は、次のとおりである。
【0081】
ターゲットとしては、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度は10質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた(ターゲット上の水平磁場強度は90mT)。成膜温度(光透過性導電膜が積層される透明基材の温度)は-5℃とした。また、装置が備える成膜室内の到達真空度が0.7×10
-4Paに至るまで成膜室内を真空排気した後、成膜室内に、スパッタリングガスとしてのKrと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.3Paとした。成膜室に導入されるKrおよび酸素の合計導入量に対する酸素導入量の割合は約2.6流量%であり、その酸素導入量は、
図5に示すように、比抵抗-酸素導入量曲線の領域R内であって、形成される膜の比抵抗の値が6.4×10
-4Ω・cmになるように調整した。
図5に示す比抵抗-酸素導入量曲線は、酸素導入量以外の条件は上記と同じ条件で光透過性導電膜を反応性スパッタリング法で形成した場合の、光透過性導電膜の比抵抗の酸素導入量依存性を、予め調べて作成できる。
【0082】
次に、透明基材上の光透過性導電膜を、熱風オーブン内での加熱によって結晶化させた(結晶化工程)。本工程において、加熱温度は165℃とし、加熱時間は1時間とした。
【0083】
以上のようにして、比較例3の透明導電性フィルムを作製した。比較例3の透明導電性フィルムの光透過性導電膜(厚さ30nm,結晶質)は、単一のKr含有ITO層からなる。
【0084】
〔実施例2〕
以下のこと以外は、比較例3の透明導電性フィルムと同様にして、実施例2の透明導電性フィルムを作製した。
【0085】
光透過性導電膜の形成において、透明基材上に光透過性導電膜の第1領域(厚さ28nm)を形成する第1スパッタ成膜と、当該第1領域上に光透過性導電膜の第2領域(厚さ102nm)を形成する第2スパッタ成膜とを、順次に実施した。
【0086】
本実施例における第1スパッタ成膜の条件は、次のとおりである。ターゲットとしては、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体(酸化スズ濃度は10質量%)を用いた。ターゲットに対する電圧印加のための電源としては、DC電源を用いた(ターゲット上の水平磁場強度は90mT)。成膜温度は-5℃とした。また、装置が備える第1成膜室内の到達真空度を0.7×10-4Paにした後、成膜室内に、スパッタリングガスとしてのKrと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.2Paとした。成膜室への酸素導入量は、形成される膜の比抵抗の値が6.4×10-4Ω・cmになるように調整した。
【0087】
本実施例における第2スパッタ成膜の条件は、次のとおりである。装置が備える第2成膜室内の到達真空度を0.7×10-4Paにした後、成膜室内に、スパッタリングガスとしてのArと、反応性ガスとしての酸素とを導入し、成膜室内の気圧を0.4Paとした。本実施例において、第2スパッタ成膜における他の条件は、第1スパッタ成膜と同じである。
【0088】
以上のようにして、実施例2の透明導電性フィルムを作製した。実施例2の透明導電性フィルムの光透過性導電膜(厚さ130nm,結晶質)は、Kr含有ITO層からなる第1領域(厚さ28nm)と、Ar含有ITO層からなる第2領域(厚さ102nm)とを、透明基材側から順に有する。
【0089】
〔比較例4〕
スパッタ成膜における次のこと以外は、比較例3の透明導電性フィルムと同様にして、比較例4の透明導電性フィルムを作製した。スパッタリングガスとしてクリプトンとアルゴンとの混合ガス(Kr90体積%,Ar10体積%)を用いた。成膜室内の気圧を0.2Paとした。
【0090】
比較例4の透明導電性フィルムの光透過性導電膜(厚さ30nm,結晶質)は、KrおよびArを含有する単一のITO層からなる。
【0091】
〔比較例1〕
以下のこと以外は、比較例3の透明導電性フィルムと同様にして、比較例1の透明導電性フィルムを作製した。
【0092】
スパッタ成膜において、スパッタリングガスとしてArを使用し、且つ、厚さ130nmの光透過性導電膜を成膜した。
【0093】
比較例2の透明導電性フィルムの光透過性導電膜(厚さ130nm)は、単一のAr含有ITO層からなる。
【0094】
〔比較例2〕
スパッタ成膜においてスパッタリングガスとしてArを使用したこと以外は、比較例3と同様にして、光透過性導電膜を形成した。比較例2の透明導電性フィルムの光透過性導電膜(厚さ30nm)は、単一のAr含有ITO層からなる。
【0095】
〈光透過性導電膜の厚さ〉
実施例2および比較例1~4における各光透過性導電膜の厚さを、FE-TEM観察により測定した。具体的には、まず、FIBマイクロサンプリング法により、実施例2および比較例1~4における各光透過性導電膜の断面観察用サンプルを作製した。FIBマイクロサンプリング法では、FIB装置(商品名「FB2200」,Hitachi製)を使用し、加速電圧を10kVとした。次に、断面観察用サンプルにおける光透過性導電膜の厚さを、FE-TEM観察によって測定した。FE-TEM観察では、FE-TEM装置(商品名「JEM-2800」,JEOL製)を使用し、加速電圧を200kVとした。
【0096】
実施例2における光透過性導電膜の第1領域の厚さは、当該第1領域の上に第2領域を形成する前の中間作製物から断面観察用サンプルを作製し、当該サンプルのFE-TEM観察により測定した。実施例2における光透過性導電膜の第2領域の厚さは、実施例2における光透過性導電膜の総厚から第1領域の厚さを差し引いて求めた。
【0097】
〈比抵抗〉
実施例2および比較例1~4における各透明導電性フィルムの光透過性導電膜の比抵抗を調べた。具体的には、まず、JIS K 7194(1994年)に準拠した四端子法により、透明導電性フィルムの光透過性導電膜の表面抵抗を測定した。その後、表面抵抗値と光透過性導電膜の厚さとを乗じることにより、比抵抗(Ω・cm)を求めた。その結果を表1に示す。
【0098】
〈黄色味の評価〉
実施例2および比較例1~4における各透明導電性フィルムの光透過性導電膜の黄色味を調べた。具体的には、積分球式分光透過率測定器(装置名「DOT-3C」,村上色彩技術研究所製)により、透明導電性フィルムの透過色について、L*a*b*表色系におけるb*を測定した(b*の値が小さいほど、黄色味が小さい色相であることを示す)。本測定では、光源としてD65光源を用いた。本測定の結果を表1に示す。
【0099】
〈光透過性導電膜内の希ガス原子の定量分析〉
実施例2および比較例1~4における各光透過性導電膜に含有されるKrおよびAr原子の含有量を、ラザフォード後方散乱分光法(RBS)によって分析した。検出元素である、In+Sn(RBSでは、InとSnを分離しての測定が困難であるため、2元素の合算として評価した)、O、Ar、Krの5元素に関して、元素比率を求めることにより、光透過性導電膜におけるKr原子およびAr原子の存在量(原子%)を求めた。使用装置および測定条件は、下記のとおりである。分析結果として、Kr含有量(原子%)およびAr含有量(原子%)を表1に示す。Kr含有量の分析に関し、比較例3,4では、検出限界値(下限値)以上の確かな測定値が得られなかった(検出限界値は、測定対象の光透過性導電膜の厚さによって異なり、比較例3の光透過性導電膜の厚さでは、検出限界値は0.10原子%である)。そのため、表1では、光透過性導電膜のKr含有量について、検出限界値を下回っていることを示すため、「< 0.10」と表記する。
【0100】
実施例2においては、Kr原子の含有量を特定するため、光透過性導電膜の第1領域の上に第2領域を形成する前の中間作製物からKr含有量測定用サンプルを作製し、比較例3,4と同様にしてKr含有量を求めた。ただし、比較例3,4と同様、検出下限以下であったので、前記第1領域の光透過性導電膜の厚さでの検出限界値(0.10)未満であることを示すために「< 0.10」と表記する。また、Ar原子の含有量は、第1領域と第2領域の積層体からなる光透過性導電膜(厚さ130nm)を検体として、比較例1~4と同様にして第2領域のAr原子の含有量を求めた。
【0101】
<使用装置>
Pelletron 3SDH(National Electrostatics Corporation製)
<測定条件>
入射イオン:4He++
入射エネルギー:2300keV
入射角:0deg
散乱角:160deg
試料電流:6nA
ビーム径:2mmφ
面内回転:無
照射量:75μC
【0102】
〈光透過性導電膜内のKr原子の確認〉
実施例2および比較例3,4における各光透過性導電膜がKr原子を含有することは、次のようにして確認した。まず、走査型蛍光X線分析装置(商品名「ZSX PrimusIV」,リガク社製)を使用して、下記の測定条件にて蛍光X線分析測定を5回繰り返し、各走査角度の平均値を算出し、X線スペクトルを作成した。そして、作成されたX線スペクトルにおいて、走査角度28.2°近傍にピークが出ていることを確認することにより、光透過性導電膜にKr原子が含有されることを確認した。
【0103】
<測定条件>
スペクトル;Kr-KA
測定径:30mm
雰囲気:真空
ターゲット:Rh
管電圧:50kV
管電流:60mA
1次フィルタ:Ni40
走査角度(deg):27.0~29.5
ステップ(deg):0.020
速度(deg/分):0.75
アッテネータ:1/1
スリット:S2
分光結晶:LiF(200)
検出器:SC
PHA:100~300
【0104】
【0105】
[評価]
実施例2および比較例3,4の各透明導電性フィルムでは、光透過性導電膜がKrを含有する。このような光透過性導電膜の比抵抗は、比較例1,2における光透過性導電膜(Krを含有しない)の比抵抗より低い。
【0106】
加えて、実施例2および比較例3,4の各透明導電性フィルムでは、光透過性導電膜のKr含有量が0.1原子%未満である。このような光透過性導電膜を備える透明導電性フィルムでは、比較例1,2の各透明導電性フィルムよりも、b*の値が小さく、従って、黄色味が抑制されている。具体的には、次のとおりである。
【0107】
実施例2および比較例1~4の透明導電性フィルムにおいて、透過色のb*の値は、各フィルムの光透過性導電膜の厚さに依存する(透明基材の透過色のb*の値は、全ての透明導電性フィルムで同じである)。光透過性導電膜の厚さが同じである比較例3,4の透明導電性フィルムと比較例2の透明導電性フィルムとでは、比較例3,4の透明導電性フィルムは、比較例2の透明導電性フィルムよりも、b*の値が小さく、黄色味が抑制されている。すなわち、比較例3,4における光透過性導電膜は、比較例2における光透過性導電膜よりも、黄色味が抑制されている。また、光透過性導電膜の厚さが同じである実施例2の透明導電性フィルムと比較例1の透明導電性フィルムとでは、実施例2の透明導電性フィルムは、比較例1の透明導電性フィルムよりも、b*の値が小さく、黄色味が抑制されている。すなわち、実施例2における光透過性導電膜は、比較例1における光透過性導電膜よりも、黄色味が抑制されている。
本発明の光透過性導電膜は、例えば、液晶ディスプレイ、タッチパネル、および光センサなどの各種デバイスにおける透明電極をパターン形成するための導体膜として用いることができる。本発明の透明導電性フィルムは、そのような導体膜の供給材として用いることができる。