(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014473
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/04 20060101AFI20240125BHJP
B60C 11/03 20060101ALI20240125BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20240125BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
B60C9/04 Z
B60C11/03 B
B60C11/03 100B
B60C9/18 K
B60C9/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117324
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】光延 裕紀
(72)【発明者】
【氏名】富▲高▼ 祐
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA32
3D131AA39
3D131BA01
3D131BB01
3D131BB03
3D131BC14
3D131CB05
3D131DA04
3D131DA15
3D131DA30
3D131DA34
3D131DA43
3D131EB05U
3D131EB11V
3D131EB11X
3D131EB27V
3D131EB46V
3D131EB46X
3D131EB47X
3D131EB81X
3D131EB88X
3D131EC01V
3D131EC01X
3D131EC06V
(57)【要約】
【課題】PRCFの調整幅の自由度を高くすることができるとともに、PRCFを効果的に抑制することを可能とする空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド30の複数の陸50は、ショルダー陸51、52と、中央陸53、54と、を含み、一対のショルダー陸51、52は、タイヤ周方向に交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置されるとともに、少なくともその一部が接地幅領域39に配置される複数の傾斜溝51a、52aを有し、カーカスプライ70は、プライ本体部70Aと、プライ本体部70Aからビードコア11で折り返され、ショルダー陸51、52まで延びてベルト31とタイヤ径方向で重なる一対のプライ折り返し部70Bと、を有し、プライ本体部70Aのプライコード70dのタイヤ周方向に対する傾斜方向は、接地幅領域39における傾斜溝51a、52aのタイヤ周方向に対する傾斜方向と逆方向である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビードコアを有する一対のビードと、
前記一対のビードのそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、
前記一対のサイドウォールの間に配置され、所定の接地幅領域を含むトレッド面を有するとともに、複数のベルトコードを有するベルトが埋設されているトレッドと、
前記一対のビードの間に配置され、複数のプライコードを有するカーカスプライと、を備えた空気入りタイヤであって、
前記トレッドは、
タイヤ周方向に沿って配置される複数の陸と、
タイヤ軸方向において前記複数の陸の間に配置され、タイヤ周方向に延びる複数の主溝と、を備え、
前記複数の陸は、
タイヤ軸方向の両端にそれぞれ配置される一対のショルダー陸と、
タイヤ軸方向において前記一対のショルダー陸の間に配置される少なくとも1つの中央陸と、を含み、
前記一対のショルダー陸のそれぞれは、タイヤ周方向に交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置されるとともに、少なくともその一部が前記接地幅領域に配置される複数の傾斜溝を有し、
前記カーカスプライは、前記一対のビードの間に配置されるプライ本体部と、前記プライ本体部から前記一対のビードのビードコアでそれぞれ折り返され、その折り返し端部が前記ショルダー陸まで延びて前記ベルトとタイヤ径方向で重なる一対のプライ折り返し部と、を有し、
前記トレッドに配置された前記プライ本体部における前記プライコードのタイヤ周方向に対する傾斜方向は、前記接地幅領域における前記傾斜溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向と逆方向である、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記ベルトコードは、タイヤ周方向に対して、前記トレッドに配置される前記プライコードと同じ傾斜方向側に延びているとともに、当該ベルトコードとタイヤ周方向とがなす角度θ2は、前記トレッドに配置される前記プライコードとタイヤ周方向とがなす角度θ1よりも小さい、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーカスプライの前記折り返し端部における前記プライコードの延びる方向と、前記ベルトコードの延びる方向が、略直交している、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記傾斜溝とタイヤ周方向とのなす角度と、前記トレッドに配置されている前記プライコードのタイヤ周方向とのなす角度との差が、±10°以内である、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカスプライにおける前記一対のプライ折り返し部の、タイヤ軸方向で互いに対向する前記折り返し端部の先端である折り返し端のそれぞれは、最もタイヤ軸方向外側に位置する前記主溝のタイヤ軸方向外側端縁から、前記接地幅領域の接地端までの領域におけるタイヤ軸方向長さに対し、前記接地端から15%のタイヤ軸方向領域内に配置されている、請求項3に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
四輪自動車等の車両においては、ステアリングホイールを手放した状態ではSAT(Self Aligning Torque:セルフアライニングトルク)により直進することが通常と考えられるが、進行方向が直進から徐々に逸れる偏向性を示す場合がある。この車両偏向性は、タイヤの特性に起因するものであり、CRCF(Conicity Residual Cornering Force:コニシティ残留コーナリングフォース)やPRCF(Ply steer Residual Cornering Force:プライステア残留コーナリングフォース)の影響によって発生する。CRCFは、例えば1つのタイヤの左右の厚み差等の形状変化に起因してタイヤに横力が生じることによって発生する力である。一方、PRCFは、タイヤのトレッドの表層に近い部分に埋設されているベルトのコードの向き(タイヤ周方向に対する傾斜角度)やトレッドパターンによって発生する力であり、設計によって調整できるものとされている。例えば特許文献1には、トレッドのリブ/ブロックの踏面に形成する細溝を、当該細溝により発生する反力がベルトのコード方向の傾斜により発生する偏向力を相殺させる方向に作用するように、溝深さ方向に対して傾斜させた空気入りタイヤが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PRCFを調整するにあたり、上記特許文献1のようにトレッドパターンを変更する場合にはタイヤ成形用の金型を変更することになるが、その金型が決定した後においてトレッドパターンを再度調整することは困難である。一方、ベルトのコードの傾斜角度を変更することによりPRCFの調整は可能であるが、ベルトのコードの傾斜角度はタイヤ自体の性能を決定する要素でもあるため、調整の幅が限定的となる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、PRCFの調整幅の自由度を高くすることができるとともに、PRCFを効果的に抑制することを可能とする空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の空気入りタイヤは、ビードコアを有する一対のビードと、前記一対のビードのそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォールと、前記一対のサイドウォールの間に配置され、所定の接地幅領域を含むトレッド面を有するとともに、複数のベルトコードを有するベルトが埋設されているトレッドと、前記一対のビードの間に配置され、複数のプライコードを有するカーカスプライと、を備えた空気入りタイヤであって、前記トレッドは、タイヤ周方向に沿って配置される複数の陸と、タイヤ軸方向において前記複数の陸の間に配置され、タイヤ周方向に延びる複数の主溝と、を備え、前記複数の陸は、タイヤ軸方向の両端にそれぞれ配置される一対のショルダー陸と、タイヤ軸方向において前記一対のショルダー陸の間に配置される少なくとも1つの中央陸と、を含み、前記一対のショルダー陸のそれぞれは、タイヤ周方向に交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置されるとともに、少なくともその一部が前記接地幅領域に配置される複数の傾斜溝を有し、前記カーカスプライは、前記一対のビードの間に配置されるプライ本体部と、前記プライ本体部から前記一対のビードのビードコアでそれぞれ折り返され、その折り返し端部が前記ショルダー陸まで延びて前記ベルトとタイヤ径方向で重なる一対のプライ折り返し部と、を有し、前記トレッドに配置された前記プライ本体部における前記プライコードのタイヤ周方向に対する傾斜方向は、前記接地幅領域における前記傾斜溝のタイヤ周方向に対する傾斜方向と逆方向である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、PRCFの調整幅の自由度を高くすることができるとともに、PRCFを効果的に抑制することを可能とする空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る空気入りタイヤのタイヤ軸方向の半断面を示す図である。
【
図2】実施形態に係る空気入りタイヤのトレッドの一部を示す正面図である。
【
図3】実施形態に係るカーカスプライおよびベルトの構成を模式的に示す展開図である。
【
図4A】タイヤ周方向に対するカーカスプライのプライコードおよび第1の傾斜溝のそれぞれの傾斜角度を示す図である。
【
図4B】タイヤ周方向に対するカーカスプライのプライコードおよび第2の傾斜溝のそれぞれの傾斜角度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤであるタイヤ1のタイヤ軸方向の断面を示している。
図2は、タイヤ1が備えるトレッド面37の一部を示す正面図である。
【0010】
図1の断面図は、タイヤ1を図示しない正規リムに装着して正規内圧を充填した無負荷状態のタイヤ軸方向断面図(タイヤ子午線断面図)である。正規リムとは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRA、およびETRTOであれば”Measuring Rim”である。正規内圧とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、トラックバス用タイヤ、ライトトラック用タイヤの場合は、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表”TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば”INFLATION PRESSURE”である。乗用車用タイヤの場合は通常180kPaとするが、タイヤに、Extra Load、または、Reinforcedと記載されたタイヤの場合は220kPaとする。
【0011】
タイヤ1の基本的な構造は、タイヤ軸方向の断面において左右対称となっている。
図1は、タイヤ1の右半分の半断面を示しており、不図示の左半分も同じ構造である。
図1中、符号S1は、タイヤ赤道面である。タイヤ赤道面S1は、タイヤ回転軸に直交する面であり、かつ、タイヤ軸方向中心に位置する面である。
【0012】
ここで、タイヤ軸方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向であり、
図1における紙面左右方向である。
図1においては、タイヤ軸方向Xとして図示している。タイヤ軸方向内側とは、タイヤ赤道面S1に近づく方向であり、
図1においては紙面左側である。タイヤ軸方向外側とは、タイヤ赤道面S1から離れる方向であり、
図1においては紙面右側である。
【0013】
また、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向であり、
図1における紙面上下方向である。
図1においては、タイヤ径方向Yとして図示している。タイヤ径方向外側とは、タイヤ回転軸から離れる方向であり、
図1においては紙面上側である。タイヤ径方向内側とは、タイヤ回転軸に近づく方向であり、
図1においては紙面下側である。
【0014】
図1に示すように、タイヤ1は、一対のビード10と、一対のビード10のそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20の間に配置されたトレッド30と、一対のビード10の間に架け渡されて配置されたカーカスプライ70と、カーカスプライ70のタイヤ内腔側に配置されたインナーライナー80と、を備えている。
【0015】
一対のビード10は、タイヤ軸方向両側、かつ、タイヤ径方向内側の端部に配置されている。ビード10は、ビードコア11と、ビードコア11からタイヤ径方向外側に延びるビードフィラー12と、チェーハー13と、リムストリップゴム14と、を有している。
【0016】
ビードコア11は、ゴムが被覆された金属製のビードワイヤがタイヤ周方向に複数回巻かれた環状の部材である。ビードコア11は、空気が充填されたタイヤ1を、リムに固定する役目を果たす部材である。ビードフィラー12は、タイヤ径方向内側からタイヤ径方向外側に延びるにつれて厚みが減じる先細り形状となっている。ビードフィラー12は、ビード10の周辺部分の剛性を高め、高い操縦性および安定性を確保するために設けられる。ビードフィラー12は、例えば、周囲のゴム部材よりも硬度の高いゴムにより構成される。ビードコア11のタイヤ径方向外側の面に、ビードフィラー12のタイヤ径方向内側の面が例えば接着剤等を用いて接合されている。
【0017】
チェーハー13は、ビードコア11およびビードフィラー12を囲むカーカスプライ70の外側をさらに囲んでいる。リムストリップゴム14は、チェーハー13およびカーカスプライ70のタイヤ軸方向外側に配置されている。チェーハー13およびリムストリップゴム14は、タイヤ1が装着されるリムの内面に接触する。リムストリップゴム14のタイヤ軸方向外側の外表面には、タイヤ周方向に沿ったリムライン14aが形成されている。
【0018】
サイドウォール20は、カーカスプライ70のタイヤ軸方向外側に配置されたサイドウォールゴム21を含んでいる。サイドウォールゴム21は、タイヤ1のタイヤ周方向外側の側面を構成する。サイドウォールゴム21のタイヤ径方向内側端21cは、リムストリップゴム14のタイヤ径方向外側端14bを覆っている。サイドウォールゴム21は、タイヤ1がクッション作用をする際に最もたわむ部分であり、通常、耐疲労性を有する柔軟なゴムが採用される。
【0019】
トレッド30は、無端状のベルト31およびキャッププライ35と、トレッドゴム36と、を備えている。ベルト31は、カーカスプライ70のタイヤ径方向外側に配置されている。キャッププライ35は、ベルト31のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム36は、キャッププライ35のタイヤ径方向外側に配置されている。なお、キャッププライ35は2枚あってもよい。あるいは、キャッププライ35を有さない構成であってもよい。キャッププライ35を有さない場合、ベルト31のタイヤ軸方向の端をタイヤ外表面側から押さえるエッジプライを配置してよい。エッジプライは1枚であってもよいし、2枚であってもよい。
【0020】
ベルト31は、トレッド30を補強する部材である。実施形態のベルト31は、インナーライナー80のタイヤ径方向外側に配置された内側ベルト32と、内側ベルト32のタイヤ径方向外側に配置された外側ベルト33と、を備えた2層構造である。内側ベルト32および外側ベルト33は、いずれも複数のスチールコード等のベルトコードがゴムで覆われた構造を有している。
【0021】
内側ベルト32は、外側ベルト33よりも幅広である。したがって、内側ベルト32のタイヤ軸方向外端32aは、外側ベルト33のタイヤ軸方向外端33aよりもタイヤ軸方向外側に位置している。ベルト31を設けることにより、タイヤ1の剛性が確保され、路面に対するトレッド30の接地性が向上する。なお、ベルト31は2層構造に限らず、1層、あるいは3層以上の構造を有していてもよい。ベルト31は本開示において特徴的な構成を有するが、それについては後で詳述する。
【0022】
キャッププライ35は、ベルト31とともにトレッド30を補強する部材である。キャッププライ35は、例えば、ポリアミド繊維等の絶縁性を有する複数の有機繊維コードがゴムで覆われた構造を有している。キャッププライ35のタイヤ軸方向外端35aは、内側ベルト32のタイヤ軸方向外端32aよりもタイヤ軸方向外側に位置している。キャッププライ35は、ベルト31全体をタイヤ外表面側から覆っている。実施形態のキャッププライ35は1層であるが、2層以上の構造であってもよい。キャッププライ35を設けることにより、耐久性の向上や、走行時のロードノイズの低減を図ることができる。
【0023】
トレッドゴム36は、キャッププライ35のタイヤ径方向外側に配置されている。トレッドゴム36は、トレッド30の外表面であるトレッド面37を構成する部材である。トレッドゴム36のタイヤ軸方向外側端36bは、キャッププライ35のタイヤ軸方向外端35aを越えてタイヤ径方向内側に湾曲し、サイドウォールゴム21のタイヤ径方向外側端21bを覆っている。
【0024】
トレッド面37には、トレッドパターン38が設けられている。
図2を参照して、トレッドパターン38を説明する。なお、
図2には、タイヤ軸方向Xおよびタイヤ周方向Cを示している。
【0025】
トレッドパターン38は、タイヤ周方向に延びて配置される複数の陸50と、タイヤ軸方向において陸50の間に配置される複数の主溝60と、を備えている。トレッドパターン38を構成する複数の陸50および複数の主溝60は、いずれもタイヤ周方向に沿って環状に延びている。実施形態のトレッドパターン38は、いわゆるタイヤの対称パターンに近似するパターンである。
【0026】
トレッド面37は、走行時において実際に路面に接地する領域である接地幅領域39を有する。接地幅領域39は、タイヤ軸方向両端の接地端、すなわち
図2において左側の第1の接地端39Aと右側の第2の接地端39Bとの間の領域である。トレッド面37において、第1の接地端39Aおよび第2の接地端39Bよりもタイヤ軸方向外側の領域は、通常では路面に接地しない。ここで、トレッドゴム36におけるタイヤ軸方向外側の部分であって、第1の接地端39Aおよび第2の接地端39Bのそれぞれからタイヤ軸方向外側端36b(
図1参照)までの部分を、ショルダー40という。ショルダー40は、サイドウォール20から接地幅領域39に移行する部分である。
【0027】
ここで、接地端とは、正規リムに装着され正規内圧が充填された空気入りタイヤが接地し、そこへ正規荷重が負荷された条件下での、接地面のタイヤ軸方向端のことである。正規荷重とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば”最大負荷能力”、TRAであれば表”TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば”LOAD CAPACITY”である。タイヤが乗用車用の場合には、前記荷重の88%に相当する荷重である。タイヤがレーシングカート用の場合、正規荷重は392Nである。
【0028】
実施形態の陸50は、タイヤ軸方向両端に左右一対の状態で配置された第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52と、第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52との間に左右一対の状態で配置された第1の中央陸53および第2の中央陸54と、を含む。実施形態の各陸は、いずれもタイヤ周方向に連続するリブ状に形成されている。なお、第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52は、タイヤ軸方向の両端に配置される左右一対のショルダー陸の一例である。また、第1の中央陸53および第2の中央陸54は、タイヤ軸方向において第1のショルダー陸51と第2のショルダー陸52との間に配置される中央陸の一例である。
【0029】
実施形態の主溝60は、第1の中央陸53と第2の中央陸54との間の中央主溝61と、第1のショルダー陸51と第1の中央陸53との間の第1の中間主溝62と、第2のショルダー陸52と第2の中央陸54との間の第2の中間主溝63と、を含む。中央主溝61は、そのタイヤ軸方向中央にタイヤ1の赤道S2が通る位置に配置されている。第1の中間主溝62および第2の中間主溝63は、いずれも最もタイヤ軸方向外側に位置する主溝である。中央主溝61および各中間主溝62、63は、タイヤ周方向に連続する溝である。
【0030】
第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52の幅(タイヤ軸方向寸法)は略同じであり、トレッド面37の半幅領域(赤道S2からタイヤ軸方向外側の左右それぞれの幅の領域)の例えば50%以上80%以下程度の幅を有する。
【0031】
第1のショルダー陸51は、トレッドパターン38として、タイヤ軸方向の方向成分を有する複数の第1の傾斜溝51aと、複数の第1のサイプ51bと、を有している。第2のショルダー陸52は、トレッドパターン38として、タイヤ軸方向の方向成分を有する複数の第2の傾斜溝52aと、複数の第2のサイプ52bと、複数の第3のサイプ52cと、を有している。なお、実施形態での第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aは、いずれも溝幅が1mmを超える溝である。実施形態での第1のサイプ51b、第2のサイプ52bおよび第3のサイプ52cは、いずれも溝幅が1mm以下の溝である。これら傾斜溝51a、52aおよびサイプ51b、52b、52cは、いずれもタイヤ周方向に交差する方向に延びている。なお、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aは、いずれも接地幅領域39に配置される傾斜溝の一例である。
【0032】
第1のショルダー陸51の複数の第1の傾斜溝51aは、タイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。複数の第1の傾斜溝51aは、例えばタイヤ周方向にバリアブルピッチで配置されている。第1の傾斜溝51aは、タイヤ周方向の一方側(
図2において下側)に緩やかな凸となるような円弧形状を有している。第1の傾斜溝51aのタイヤ軸方向内側端は第1の中間主溝62に到達せず、終端している。一方、第1の傾斜溝51aのタイヤ軸方向外側端は、第1のショルダー陸51側のショルダー40まで延び、ショルダー40の外表面に開放している。
【0033】
第2のショルダー陸52の複数の第2の傾斜溝52aは、タイヤ周方向に間隔をおいて配置されている。複数の第2の傾斜溝52aは、例えばタイヤ周方向にバリアブルピッチで配置されている。第2の傾斜溝52aは、第1の傾斜溝51aとは反対側のタイヤ周方向側(
図2において上側)に緩やかな凸となるような円弧形状を有している。第2の傾斜溝52aのタイヤ軸方向内側端は第2の中間主溝63に到達せず、終端している。一方、第2の傾斜溝52aのタイヤ軸方向外側端は、第2のショルダー陸52側のショルダー40まで延び、ショルダー40の外表面に開放している。
【0034】
第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aは、凸の向きが互いに異なっているが同じ円弧形状であり、
図2において互いに点対称になるように配置されている。第1の傾斜溝51aは、そのタイヤ軸方向の中央やや外側に、第1の接地端39Aが通る状態に配置されている。第2の傾斜溝52aは、そのタイヤ軸方向の中央やや外側に、第2の接地端39Bが通る状態に配置されている。
【0035】
第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aは、ともにそのタイヤ軸方向内側のおよそ半分の部分が、接地幅領域39で延びている。そして、接地幅領域39において第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aが延びる方向は、ともに同じ方向であり、互いに略平行である。これら傾斜溝51a、52aの接地幅領域39での延在方向(
図2において、直線Gで示す)は、タイヤ周方向と角度θ3で交差している。この角度θ3は、直線Gとタイヤ周方向とがなす鋭角側の角度である。例えばこの角度θ3は、65°程度とされるが、これに限定はされない。
【0036】
第1のショルダー陸51に形成されている複数の第1のサイプ51bのそれぞれは、タイヤ周方向に隣接する一対の第1の傾斜溝51aの間のほぼ中央に配置されている。これら第1のサイプ51bは、タイヤ周方向に隣接する第1の傾斜溝51aに倣った形状であって、
図2において下側に緩やかな凸となるような円弧形状を有している。第1のサイプ51bのタイヤ軸方向内側端は、第1の中間主溝62のタイヤ軸方向外側端縁62aに到達して開放している。一方、第1のサイプ51bのタイヤ軸方向外側端は、第1の接地端39Aよりも僅かにタイヤ軸方向外側に位置して終端している。第1のサイプ51bは、全体的にはタイヤ軸方向内側に向かうにつれて
図2おいて上側に延びるように傾斜している。
【0037】
第2のショルダー陸52に形成されている複数の第2のサイプ52bのそれぞれは、タイヤ周方向に隣接する一対の第2の傾斜溝52aの間のほぼ中央に配置されている。これら第2のサイプ52bは、タイヤ周方向に隣接する第2の傾斜溝52aに倣った形状であって、第1のサイプ51bとは反対側のタイヤ周方向側(
図2において上側)に緩やかな凸となるような円弧形状を有している。第2のサイプ52bのタイヤ軸方向内側端は、第2の中間主溝63のタイヤ軸方向外側端縁63aに到達して開放している。一方、第2のサイプ52bのタイヤ軸方向外側端は、第2の接地端39Bよりも僅かにタイヤ軸方向外側に位置して終端している。第2のサイプ52bは、全体的にはタイヤ軸方向内側に向かうにしたがって第1のサイプ51bとはタイヤ周方向反対側(
図2おいて下側)に延びるように傾斜している。
【0038】
第2のショルダー陸52のみに形成された第3のサイプ52cは、第2の傾斜溝52aのタイヤ軸方向内端から、第2の中間主溝63に到達するまで延びている。この第3のサイプ52cは、第2の傾斜溝52aが第2の中間主溝63に向かって延長するような態様で形成されている。
【0039】
第1の中央陸53および第2の中央陸54の幅(タイヤ軸方向寸法)は互いに同じである。第1の中央陸53および第2の中央陸54の幅は、例えば第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52の幅の20%以上70%以下程度である。
【0040】
第1の中央陸53の、中央主溝61側の幅方向端縁には、中央主溝61に開放する複数の第1の切欠き53aが形成されている。第1の切欠き53aは、中央主溝61側に向かうにつれて一方のタイヤ周方向側(
図2において下側)に向くようにタイヤ軸方向に対して傾斜している。複数の第1の切欠き53aは、タイヤ周方向にリアブルピッチに配置されている。一方、第1の中央陸53の第1の中間主溝62側の幅方向端縁には、第1の中間主溝62に開放する複数の第2の切欠き53bが形成されている。第2の切欠き53bは、第1の切欠き53aと同じ形状であって、第1の中間主溝62側に向かうにつれて第1の切欠き53aとは反対側(
図2において上側)に向くように傾斜している。複数の第2の切欠き53bは、第1の切欠き53aと同じピッチでタイヤ周方向に配置されている。複数の第2の切欠き53bのそれぞれは、タイヤ周方向において第1の切欠き53aの中間位置に配置されている。
【0041】
第2の中央陸54の第2の中間主溝63側の幅方向端縁には、第2の中間主溝63に開放する複数の第3の切欠き54aが形成されている。第3の切欠き54aは、第2の中間主溝63側に向かうにつれて、第1の切欠き53aと同じ方向に向くように傾斜している。複数の第3の切欠き54aは、第1の切欠き53aと同じピッチでタイヤ周方向に配置されている。
【0042】
3つの主溝60、すなわち中央主溝61、第1の中間主溝62および第2の中間主溝63は、いずれも主に排水性を確保するための溝である。これら3つの主溝60の幅はほぼ同じであるが、3つとも異なる幅であってもよく、2つが同じで1つが異なっていてもよい。主溝60の幅は、例えば各中央陸53、54の幅の20%以上60%以下程度であるが、これに限定はされない。
【0043】
図1に戻ってカーカスプライ70を説明する。カーカスプライ70は、タイヤ1の骨格となるプライを構成している。上述したトレッド30のベルト31は、カーカスプライ70のタイヤ外面側に配置されている。トレッド30においては、タイヤ内腔側からタイヤ外面側に向かって、インナーライナー80、カーカスプライ70、ベルト31およびキャッププライ35が、この順で積層され、キャッププライ35のタイヤ外面側にトレッドゴム36が配置されている。
【0044】
カーカスプライ70は、プライ本体部70Aと、左右一対のプライ折り返し部70Bと、左右一対のプライ屈曲部70Cと、を有する。プライ本体部70Aは、一方のビードコア11のタイヤ軸方向内側から、一方のサイドウォール20、トレッド30および他方のサイドウォール20を経て、他方のビードコア11のタイヤ軸方向内側まで延在する部分である。
【0045】
プライ折り返し部70Bは、プライ本体部70Aのタイヤ径方向内端からビードコア11周りに折り返されることにより、ビードコア11およびビードフィラー12のタイヤ軸方向外側においてタイヤ径方向外側に延び、さらに、サイドウォール20、ショルダー40を経て、トレッド30のタイヤ軸方向外側の端部まで延びている。
【0046】
プライ折り返し部70Bの、ビードフィラー12のタイヤ径方向外端12aよりもタイヤ径方向外側の部分は、プライ本体部70Aのタイヤ軸方向外側に重なっている。プライ折り返し部70Bの終端部である折り返し端部71aは、内側ベルト32のタイヤ軸方向外側端32bにおけるタイヤ内腔側まで延び、そのタイヤ軸方向外側端32bに重なっている。折り返し端部71aの先端である折り返し端71bは、外側ベルト33のタイヤ軸方向外端33aよりも僅かにタイヤ軸方向内側に位置している。左右一対のプライ折り返し部70Bのそれぞれの折り返し端71bは、タイヤ軸方向で互いに対向している。
【0047】
プライ屈曲部70Cは、プライ本体部70Aからビードコア11周りにU字状に屈曲し、プライ折り返し部70Bにつながる部分である。プライ屈曲部70Cは、ビードコア11のタイヤ軸方向内側に接触している。プライ本体部70Aとプライ折り返し部70Bとは、プライ屈曲部70Cを介して連続している。
【0048】
カーカスプライ70は、並列された複数のプライコードをゴムで被覆した構成を有する。プライコードは、ポリエステルやポリアミド等の絶縁性の有機繊維コード等により構成され、タイヤ1の骨格として機能する。このような構造を有するカーカスプライ70は、本開示においてさらに特徴的な構成を有するが、それについては後で詳述する。
【0049】
なお、実施形態のカーカスプライ70は1層構造であるが、カーカスプライ70は、2層あるいはそれ以上の複数層の構造を有するものであってもよい。しかしながら1層構造であると、軽量化が図れるため好ましい。
【0050】
上述したビード10のチェーハー13は、プライ屈曲部70Cを含むカーカスプライ70のタイヤ径方向内側端を取り囲んでいる。また、リムストリップゴム14は、カーカスプライ70のプライ折り返し部70Bおよびチェーハー13のタイヤ軸方向外側に配置されている。
【0051】
インナーライナー80は、一対のビード10の間のタイヤ内面を覆っている。インナーライナー80は、トレッド30、ショルダー40およびサイドウォール20にわたる領域では、カーカスプライ70の内面を覆っている。また、インナーライナー80は、サイドウォール20からビード10にわたる領域では、カーカスプライ70およびチェーハー13の内面を覆っている。したがってインナーライナー80は、タイヤ1の内壁面を構成する。インナーライナー80は、耐空気透過性ゴムにより構成されており、タイヤ内腔内の空気が外部に漏れるのを防ぐ。
【0052】
ここで、ビードフィラー12に採用するゴムとしては、少なくともサイドウォールゴム21およびインナーライナー80よりも硬度が高いゴムが用いられる。ゴムの硬度は、JIS K6253に準拠して、23℃雰囲気において、タイプAデュロメータで測定される値(デュロメータ硬さ)である。
【0053】
例えば、サイドウォールゴム21の硬度を基準としたとき、ビードフィラー12の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1.2倍以上2.3倍以下程度が好ましい。リムストリップゴム14の硬度は、サイドウォールゴム21の硬度の1倍以上1.6倍以下程度がより好ましい。このような硬度とすることで、タイヤとしての柔軟性とビード10付近の剛性のバランスを確保することができる。
【0054】
以上が実施形態に係るタイヤ1の基本構成である。次いで、カーカスプライ70およびベルト31に係る特徴的な構成について説明する。
【0055】
図3は、
図1において矢視III方向からトレッド30の外表面を構成するトレッドゴム36およびキャッププライ35を省略してタイヤ1を見たときの、周方向の一部を模式的に示す展開図である。すなわち、
図3においては、トレッド30におけるベルト31、カーカスプライ70が示されている。上述したようにベルト31は内側ベルト32および外側ベルト33を含むが、ここでは外側ベルト33をベルト31として図示している。ベルト31は、タイヤ軸方向中央に配置されている。ベルト31のタイヤ軸方向外側端は、カーカスプライ70のプライ折り返し部70Bにおける折り返し端部71aの一部を覆っている。なお、ベルト31が2層の構造を有している場合、少なくとも1層のベルトのタイヤ軸方向外側端が、カーカスプライ70のプライ折り返し部70Bにおける折り返し端部71aの一部を覆っていればよい。
図3においては、ベルト31およびカーカスプライ70の層構成を明らかにするために、ベルト31の周方向を破断している。なお、
図3には、タイヤ軸方向Xおよびタイヤ周方向Cを示している。
【0056】
また、
図3には、
図2に対応するようにして、接地幅領域39、中央主溝61、第1の中間主溝62および第2の中間主溝63とともに、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aをそれぞれ1つずつ示している。
【0057】
カーカスプライ70は、並列された複数のプライコード70dを含んでいる。プライコード70dは、ポリエステルやポリアミド等の絶縁性の有機繊維コード等により構成されている。複数のプライコード70dがゴムにより被覆されて、カーカスプライ70が構成されている。トレッド30のタイヤ軸方向外側の第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52において、カーカスプライ70の折り返し端部71aのプライコード70dは、プライ本体部70Aのプライコード70dの傾斜方向と逆方向に傾斜している。
【0058】
ベルト31は、並列された複数のベルトコード31dを含んでいる。ベルトコード31dは、スチールコード等により構成されている。複数のベルトコード31dがゴムにより被覆されて、ベルト31が構成されている。
【0059】
トレッド30に配置されたプライ本体部70Aにおける複数のプライコード70dは、タイヤ周方向に対して角度θ1で傾斜している。この角度θ1は、プライコード70dと、タイヤ周方向とがなす鋭角側の角度である。例えばこの角度θ1は、55°以上75°以下であることが好ましいが、この範囲に限定はされない。
【0060】
プライ本体部70Aのプライコード70dが延びる方向は、上述した第1のショルダー陸51の第1の傾斜溝51aおよび第2のショルダー陸52の第2の傾斜溝52aが接地幅領域39において延びる方向(
図2および
図3の直線Gで示す方向)と、交差している。
【0061】
図4Aは、カーカスプライ70のプライ本体部70Aのプライコード70dと、第1の傾斜溝51aとの配置の関係を示している。
図4Bは、カーカスプライ70のプライ本体部70Aのプライコード70dと、第2の傾斜溝52aとの配置の関係を示している。
図4Aに示すように、第1の傾斜溝51aが接地幅領域39において延びる方向Gとタイヤ周方向に沿う線C1とがなす角度θ3と、カーカスプライ70のプライ本体部70Aのプライコード70dとタイヤ周方向に沿う線C1とがなす角度θ1は、略同じ角度である。これと同様に、
図4Bに示すように、第2の傾斜溝52aが接地幅領域39において延びる方向Gとタイヤ周方向に沿う線C1とがなす角度θ3と、カーカスプライ70のプライ本体部70Aのプライコード70dとタイヤ周方向に沿う線C1とがなす角度θ1は、略同じ角度である。ここで、角度θ1はタイヤ周方向に沿って延びる線C1に対し、タイヤ軸方向の一方側(
図4A、
図4Bで左側)に形成され、角度θ3はタイヤ周方向に沿って延びる線C1に対し、タイヤ軸方向の他方側(
図4A、
図4Bで右側)に形成される。すなわち、カーカスプライ70のプライ本体部70Aのプライコード70dのタイヤ周方向に対する傾斜方向は、接地幅領域39における第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aのタイヤ周方向に対する傾斜方向と逆方向である。なお、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aとタイヤ周方向とのなす角度θ3と、プライコード70dのタイヤ周方向とのなす角度θ1とは、同じ角度であることが好ましいが、互いに異なっていてもよく、例えば、その差が±10°以内であることが好ましい。
【0062】
図3に示すように、実施形態のベルトコード31dは、タイヤ周方向に対して、トレッド30に配置されるプライコード70dと同じ傾斜方向側に延びている。ここでいう同じ傾斜方向側とは、タイヤ周方向の一方側に向けて延びる状態において、タイヤ軸方向の一方側に傾斜しながら延びる状態をいい、タイヤ軸方向の他方側には延びていない方向をいう。そして、ベルトコード31dとタイヤ周方向とがなす鋭角側の角度θ2は、プライコード70dとタイヤ周方向とがなす鋭角側の角度θ1よりも小さい。ここで、角度θ1と角度θ2との和は、90°±5°であることが好ましい。
【0063】
また、実施形態においては、カーカスプライ70の折り返し端部71aにおけるプライコード70dと、ベルトコード31dとのなす角度θ4は、略90°であることが好ましい。すなわち、カーカスプライ70の折り返し端部71aにおけるプライコード70dの延びる方向と、ベルトコード31dの延びる方向は、略直交していることが好ましい。例えば、角度θ4は、90°±10°であることが好ましい。
【0064】
また、実施形態のカーカスプライ70において、左右一対の折り返し端部71aの折り返し端71bのそれぞれは、接地幅領域39の両端の接地端の内側に位置し、かつ、その接地端に近接している。
【0065】
具体的には、
図3において左側の折り返し端71bは、左側の第1の接地端39Aからタイヤ軸方向内側に設定される所定のタイヤ軸方向領域39W1内に配置されている。このタイヤ軸方向領域39W1は、第1の接地端39Aから第1の中間主溝62のタイヤ軸方向外側端縁62aまでの領域におけるタイヤ軸方向長さL1の15%の幅を有する。
図2にも、タイヤ軸方向領域39W1内に折り返し端71bが配置されていることを示している。
【0066】
一方、
図3において右側の折り返し端71bも同様であって、その折り返し端71bは、右側の第2の接地端39Bからタイヤ軸方向内側に設定される所定のタイヤ軸方向領域39W2内に配置されている。このタイヤ軸方向領域39W2は、第2の接地端39Bから第2の中間主溝63のタイヤ軸方向外側端縁63aまでの領域におけるタイヤ軸方向長さL2の15%の幅を有する。
図2にも、タイヤ軸方向領域39W2内に折り返し端71bが配置されていることを示している。
【0067】
以上説明した実施形態に係るタイヤ1によれば、以下の効果を奏する。
【0068】
(1)実施形態に係るタイヤ1は、ビードコア11を有する一対のビード10と、一対のビード10のそれぞれからタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール20と、一対のサイドウォール20の間に配置され、所定の接地幅領域39を含むトレッド面37を有するとともに、複数のベルトコード31dを有するベルト31が埋設されているトレッド30と、一対のビード10の間に配置され、複数のプライコード70dを有するカーカスプライ70と、を備えた空気入りタイヤであって、トレッド30は、タイヤ周方向に沿って配置される複数の陸50と、タイヤ軸方向において複数の陸50の間に配置され、タイヤ周方向に延びる複数の主溝60と、を備え、複数の陸50は、タイヤ軸方向の両端にそれぞれ配置される左右一対のショルダー陸である第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52と、タイヤ軸方向において第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52の間に配置される中央陸としての第1の中央陸53および第2の中央陸54と、を含み、第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52のそれぞれは、タイヤ周方向に交差する方向に延び、かつ、タイヤ周方向に間隔をおいて配置されるとともに、少なくともその一部が接地幅領域39に配置される複数の第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aを有し、カーカスプライ70は、一対のビード10の間に配置されるプライ本体部70Aと、プライ本体部70Aから一対のビード10のビードコア11でそれぞれ折り返され、その折り返し端部71aが第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52まで延びてベルト31とタイヤ径方向で重なる一対のプライ折り返し部70Bと、を有し、トレッド30に配置されたプライ本体部70Aにおけるプライコード70dのタイヤ周方向に対する傾斜方向は、接地幅領域39における第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aのタイヤ周方向に対する傾斜方向と逆方向である。
【0069】
実施形態のタイヤ1は、タイヤ周方向に対して同じ方向に交差して延びる第1のショルダー陸51の複数の第1の傾斜溝51aおよび第2のショルダー陸52の複数の第2の傾斜溝52aによって、前述した車両偏向性の一つの成分であるPRCFが発生する可能性を有する。このPRCFは、特に、接地幅領域39での第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aの延びる方向に応じて発生する。ここで、実施形態のタイヤ1の、トレッド30に配置されたプライ本体部70Aにおけるプライコード70dは、接地幅領域39における第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aのタイヤ周方向に対する傾斜方向と逆方向に傾斜して延びている。また、そのプライコード70dは、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aのそれぞれに、タイヤの厚み方向すなわちタイヤ径方向で重なっている。
【0070】
実施形態のタイヤ1では、トレッド30に配置されているプライコード70dにより、走行時においてタイヤ周方向に対する傾斜方向に応じたねじり力が発生する。実施形態では、このねじり力が、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aによって発生するPRCFを打ち消すように作用する。この打ち消し作用は、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aに対して重なっている部分のプライコード70dが、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aとは逆方向に傾斜して延びていることにより生じる。プライコード70dの傾斜方向を、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aの傾斜方向と逆方向になるようにカーカスプライ70の配置を調整することにより、PRCFを効果的に打ち消すことができる。すなわち、実施形態のタイヤ1は、カーカスプライ70の配置を調整してプライコード70dの傾斜方向を調整することにより、PRCFを調整することができる。したがって、実施形態のタイヤ1によれば、PRCFの調整幅の自由度を高くすることができるとともに、PRCFを効果的に抑制することが可能となる。
【0071】
また、トレッド30のタイヤ軸方向外側の第1のショルダー陸51および第2のショルダー陸52において、カーカスプライ70の折り返し端部71aのプライコード70dは、プライ本体部70Aのプライコード70dの傾斜方向と逆方向に傾斜している。このため、プライ本体部70Aのプライコード70dによって生じる可能性のあるタイヤのバランス低下を、折り返し端部71aのプライコード70dによって打ち消すことができる。
【0072】
(2)実施形態に係るタイヤ1においては、ベルト31のベルトコード31dは、タイヤ周方向に対して、トレッド30に配置されるプライコード70dと同じ傾斜方向側に延びているとともに、当該ベルトコード31dとタイヤ周方向とがなす角度θ2は、トレッド30に配置されるプライコード70dとタイヤ周方向とがなす角度θ1よりも小さいことが好ましい。
【0073】
実施形態のタイヤ1においては、ベルト31のベルトコード31dによってもPRCFが発生し、そのPRCFは、ベルトコード31dの傾斜角度に応じたものとなる。実施形態のように、ベルトコード31dとタイヤ周方向とがなす角度θ2は、トレッド30に配置されるプライコード70dとタイヤ周方向とがなす角度θ1よりも小さいことが好ましい。このようにベルトコード31dとタイヤ周方向とがなす角度θ2が、トレッド30に配置されるプライコード70dとタイヤ周方向とがなす角度θ1よりも小さいことにより、ベルトコード31dにより発生するPRCFと第1のプライコード71dにより発生するPRCFが合わさり、パターン成分により発生するPRCFの抑制効果を得ることができる。
【0074】
(3)実施形態に係るタイヤ1においては、カーカスプライ70の折り返し端部71aにおけるプライコード70dの延びる方向と、ベルトコード31dの延びる方向は、略直交していることが好ましい。
【0075】
これにより、スリップアングルが付与される際にベルト31に発生しているねじり方向の変形が、SATにより直進状態に戻る際に効率よく元に戻され、その結果、ベルト31の残留応力を抑制することができる。
【0076】
(4)実施形態に係るタイヤ1においては、第1の傾斜溝51aおよび第2の傾斜溝52aと、タイヤ周方向とのなす角度θ3と、トレッド30に配置されているプライコード70dのタイヤ周方向とのなす角度θ1との差が、±10°以内であることが好ましい。
【0077】
これにより、PRCFの調整幅の自由度を高くすることができるとともに、PRCFを効果的に抑制することが可能となる。
【0078】
(5)実施形態に係るタイヤ1においては、カーカスプライ70における一対のプライ折り返し部70Bの、タイヤ軸方向で互いに対向する折り返し端部71aの先端である折り返し端71bのうち、第1のショルダー陸51側の折り返し端71bは、最もタイヤ軸方向外側に位置する第1の中間主溝62のタイヤ軸方向外側端縁62aから接地幅領域39の第1の接地端39Aまでの領域におけるタイヤ軸方向長さL1に対し、第1の接地端39Aから15%のタイヤ軸方向領域39W1内に配置され、第2のショルダー陸52側の折り返し端71bは、最もタイヤ軸方向外側に位置する第2の中間主溝63のタイヤ軸方向外側端縁63aから接地幅領域39の第2の接地端39Bまでの領域におけるタイヤ軸方向長さL2に対し、第2の接地端39Bから15%のタイヤ軸方向領域39W2内に配置されていることが好ましい。
【0079】
これにより、カーカスプライ70のプライ本体部70Aのプライコード70dによるPRCFの抑制効果を確保しつつ、プライ本体部70Aのプライコード70dによって生じる可能性のあるタイヤのバランス低下を、折り返し端部71aのプライコード70dによって打ち消すことができる。
【0080】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
【0081】
例えば、タイヤ軸方向両側の第1のショルダー陸51と第2のショルダー陸52との間の主溝および中央陸のパターンは、上記実施形態の態様に限られず、例えばタイヤ軸方向中央に配置された1つの中央陸の両側に、左右一対の主溝が配置されたパターン等であってもよい。
【0082】
実施形態に係る構成は、乗用車用の空気入りタイヤの他に、ライトトラック、トラック、バス等の各種車両用の空気入りタイヤに適用できる。
【符号の説明】
【0083】
1 タイヤ(空気入りタイヤ)
10 ビード
11 ビードコア
20 サイドウォール
30 トレッド
31 ベルト
31d ベルトコード
37 トレッド面
39 接地幅領域
39A 第1の接地端(接地端)
39B 第2の接地端(接地端)
39W1、39W2 タイヤ軸方向領域
50 陸
51 第1のショルダー陸(ショルダー陸)
51a 第1の傾斜溝(傾斜溝)
52 第2のショルダー陸(ショルダー陸)
52a 第2の傾斜溝(傾斜溝)
53 第1の中央陸(中央陸)
54 第2の中央陸(中央陸)
60 主溝
62a、63a 主溝のタイヤ軸方向外側端縁
70 カーカスプライ
70A プライ本体部
70B プライ折り返し部
70d プライコード
71a 折り返し端部
71b 折り返し端