(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144734
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】アクティブペン
(51)【国際特許分類】
G06F 3/03 20060101AFI20241003BHJP
H03H 1/02 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
G06F3/03 400B
H03H1/02
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024129833
(22)【出願日】2024-08-06
(62)【分割の表示】P 2020190704の分割
【原出願日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】 JP2020/031081
(32)【優先日】2020-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000139403
【氏名又は名称】株式会社ワコム
(74)【代理人】
【識別番号】110004277
【氏名又は名称】弁理士法人そらおと
(72)【発明者】
【氏名】宮本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】小池 健
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 直樹
(57)【要約】
【課題】アップリンク信号の受信に遅延が発生することを防止する。
【解決手段】アクティブペン2は、互いに異なる位置に設けられたペン先電極21及びリング電極22と、ペン先電極21に変化を与えることでダウンリンク信号DSを送信する送信回路と、リング電極22を用いてアップリンク信号USを検出する受信回路と、ペン先電極21の電位の変化が受信回路により検出されたアップリンク信号USの電位に影響することを阻止するストップフィルタ26と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる位置に設けられた第1及び第2の電極と、
前記第1の電極に変化を与えることでダウンリンク信号を送信する送信回路と、
前記送信回路が前記第1の電極から前記ダウンリンク信号を送信しているときに前記第2の電極を用いてアップリンク信号を検出する受信回路と、
前記第1の電極の電位の変化が前記受信回路により検出された前記アップリンク信号の電位に影響することを阻止するストップフィルタと、
を含むアクティブペン。
【請求項2】
前記ダウンリンク信号は、所定周波数の正弦波を基にした信号であり、
前記ストップフィルタは、前記所定周波数を含む特定の周波数帯域を阻止するバンドストップフィルタである、
請求項1に記載のアクティブペン。
【請求項3】
前記アップリンク信号は、パルス波によって構成される、
請求項2に記載のアクティブペン。
【請求項4】
前記アップリンク信号は、前記特定の周波数帯域に含まれない周波数の正弦波を基にした信号である、
請求項2に記載のアクティブペン。
【請求項5】
前記アップリンク信号は、第1のパルス波であり、
前記ダウンリンク信号は、前記第1のパルス波とはエッジ期間の時間長が異なる第2のパルス波であり、
前記ストップフィルタは、前記第1のパルス波を通過させる一方、前記第2のパルス波を阻止するよう構成されたハイパスフィルタである、
請求項1に記載のアクティブペン。
【請求項6】
前記アップリンク信号及び前記ダウンリンク信号はそれぞれパルス波であり、
前記ストップフィルタは、
前記アップリンク信号を構成するパルス波を通過させる一方、前記ダウンリンク信号を構成するパルス波を阻止するよう構成されたハイパスフィルタと、
前記ダウンリンク信号のエッジ期間に前記受信回路への入力をミュートするミュート回路と、を含む、
請求項1に記載のアクティブペン。
【請求項7】
前記ミュート回路は、前記ハイパスフィルタと前記受信回路の間に設けられる、
請求項6に記載のアクティブペン。
【請求項8】
前記受信回路は、相関演算により前記アップリンク信号を受信するよう構成される、
請求項6又は7に記載のアクティブペン。
【請求項9】
前記ストップフィルタは、
前記ダウンリンク信号の振幅を制御して出力するゲイン回路と、
前記第2の電極に到来した前記アップリンク信号から前記ゲイン回路の出力信号を減じてなる出力を行う差動回路と、を含む、
請求項1に記載のアクティブペン。
【請求項10】
前記ストップフィルタは、前記差動回路の出力信号の振幅が小さくなるように前記ゲイン回路による前記ダウンリンク信号の振幅の制御量を制御するフィードバック回路、をさらに含む、
請求項9に記載のアクティブペン。
【請求項11】
前記送信回路及び前記受信回路を含む集積回路、をさらに含み、
前記集積回路は、前記送信回路が前記第1の電極から前記ダウンリンク信号を送信しているときに前記第2の電極に到来した前記アップリンク信号を検出するよう前記受信回路を制御する、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載のアクティブペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアクティブペンに関し、特に、送信と受信の両方を行うアクティブペンに関する。
【背景技術】
【0002】
センサコントローラが送信するアップリンク信号の受信を行う一方、センサコントローラに対してダウンリンク信号の送信を行うよう構成されたアクティブペンが知られている。特許文献1には、この種のアクティブペンの例が開示されている。
【0003】
特許文献1には各種のアクティブペンが開示されているが、そのうちデュアルモードスタイラスは、双方向通信である第1の通信方法と、アクティブペンからセンサコントローラへの一方向通信である第2の通信方法との両方に対応しているアクティブペンである。デュアルモードスタイラスは、アップリンク信号を受信すると第1の通信方法で動作し、アップリンク信号を受信しないままペンタッチ操作を検出すると第2の通信方法で動作するよう構成される。
【0004】
特許文献2~5のそれぞれには、アクティブペンの通信方法の例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6059410号公報
【特許文献2】国際公開第2017/029836号公報
【特許文献3】国際公開第2015/111159号公報
【特許文献4】米国特許第8536471号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2012-0105362号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のデュアルモードスタイラスは、アップリンク信号の受信とダウンリンク信号の送信とを時分割で行うよう構成されている。しかしながら、このように送信と受信とを時分割で行うこととすると、ダウンリンク信号を送信している間(例えば約4msecの期間)にはアップリンク信号を受信できないことになる。そうすると、アップリンク信号の受信に遅延が発生し、第1の通信方法での動作開始が遅延してしまう場合があるので、改善が必要とされていた。
【0007】
したがって、本発明の目的の一つは、アップリンク信号の受信に遅延が発生することを防止できるアクティブペンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面によるアクティブペンは、互いに異なる位置に設けられた第1及び第2の電極と、昇圧回路を用いて前記第1の電極に変化を与えることでダウンリンク信号を送信する送信回路と、前記第2の電極を用いてアップリンク信号を検出する受信回路と、前記第1の電極の電位の変化が前記受信回路により検出された前記アップリンク信号の電位に影響することを阻止するストップフィルタと、を含むアクティブペンである。
【0009】
本発明の第2の側面によるアクティブペンは、第1の電極からダウンリンク信号を送信しているときに第2の電極に到来したアップリンク信号を検出する処理を行う第1の動作モードと、前記第1の電極からの前記ダウンリンク信号の送信と前記第2の電極に到来した前記アップリンク信号の検出とを時分割で行う第2の動作モードと、を含み、前記第1の動作モードでの動作中に前記アップリンク信号が検出された場合に、前記第2の動作モードに遷移する、アクティブペンである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の側面によれば、アクティブペンは、アップリンク信号の受信とダウンリンク信号の送信とを、時分割ではなく同時に行うことができる。したがって、アップリンク信号の受信に遅延が発生することの防止が可能になる。
【0011】
本発明の第2の側面によれば、センサコントローラを未だ検出しておらず、センサコントローラによるアップリンク信号の送信タイミングが分からないアクティブペンは、アップリンク信号の受信とダウンリンク信号の送信とを同時に行うことができる一方、一旦アップリンク信号を検出し、センサコントローラによるアップリンク信号の送信タイミングを知ったアクティブペンは、アップリンク信号の受信とダウンリンク信号の送信とを時分割で行うことができる。したがって、アップリンク信号の受信に遅延が発生することを防止しつつ、一旦アップリンク信号が検出された後には、ノイズの少ない状態でアップリンク信号の検出を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態による位置検出システム1の構成を示す図である。
【
図2】
図1に示した集積回路25の状態遷移図である。
【
図3】センサコントローラ31が第1の通信方法に対応するセンサコントローラ31-1である場合に関して、アクティブペン2及びセンサコントローラ31の動作を説明する図である。
【
図4】センサコントローラ31が第2の通信方法に対応するセンサコントローラ31-2である場合に関して、アクティブペン2及びセンサコントローラ31の動作を説明する図である。
【
図5】
図1に示したアクティブペン2内の構成を模式的に示す図である。
【
図6】
図5に示したストップフィルタ26の第1の例であるストップフィルタ26aの構成を示す図である。
【
図7】
図6の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。
【
図8】アップリンク信号US1のエッジのみを抽出してなるエッジ信号によりアップリンク信号US1を受信するために集積回路25内に設けられる受信回路の構成を示す図である。
【
図9】
図8に示した受信回路によって生成される出力信号FOの例を示す図である。
【
図10】
図5に示したストップフィルタ26の第2の例であるストップフィルタ26bの構成を示す図である。
【
図11】
図10の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。
【
図12】
図10の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。
【
図13】
図5に示したストップフィルタ26の第3の例であるストップフィルタ26cの構成を示す図である。
【
図14】
図13の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。
【
図15】
図5に示したストップフィルタ26の第4の例であるストップフィルタ26dの構成を示す図である。
【
図16】
図15の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。
【
図17】
図5に示したストップフィルタ26の第5の例であるストップフィルタ26eの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施の形態による位置検出システム1の構成を示す図である。同図に示すように、位置検出システム1は、アクティブペン2と、アクティブペン2を検出する位置検出装置である電子機器3とを備えて構成される。電子機器3の例としては、タブレットコンピュータやデジタイザを備えたデバイスが挙げられる。
【0015】
電子機器3は、タッチ面3aと、タッチ面3aの直下に配置されたセンサ電極群30と、センサ電極群30に接続されたセンサコントローラ31と、これらを含むセンサコントローラ31の各部を制御するホストプロセッサ32とを有している。センサコントローラ31は、センサ電極群30を介してアクティブペン2と通信することによって、タッチ面3a内におけるアクティブペン2の位置を導出するとともに、アクティブペン2からデータを取得し、導出した位置及び取得したデータを、都度ホストプロセッサ32に供給する機能を有する集積回路である。ホストプロセッサ32は、電子機器3の中央処理装置であり、描画アプリケーションを含む各種のプログラムを実行可能に構成される。描画アプリケーションは、センサコントローラ31から供給された位置及びデータに基づいてデジタルインクを生成し、電子機器3内のメモリに記憶するとともに、ディスプレイに表示する機能を有するプログラムである。
【0016】
アクティブペン2がタッチ面3aに接近しているとき、アクティブペン2とセンサ電極群30の間には静電容量CXが生ずる。センサコントローラ31は、この静電容量CXを通じてアクティブペン2との間で電荷をやり取りする(静電結合する)ことにより、アクティブペン2と通信可能に構成される。
【0017】
アクティブペン2は、双方向通信である第1の通信方法と、アクティブペン2からセンサコントローラ31への一方向通信である第2の通信方法との両方に対応しているアクティブ型の静電スタイラス(デュアルスタイラス)である。第1の通信方法は、例えば特許文献2に記載された通信方法(AES2.0方式)であり、第2の通信方法は、例えば、特許文献3に記載された通信方法(AES1.0方式)、特許文献4に記載された通信方法、又は、特許文献5に記載された通信方法である。
【0018】
以下では、センサコントローラ31からアクティブペン2に対して送信される信号をアップリンク信号USと称し、アクティブペン2からセンサコントローラ31に対して送信される信号をダウンリンク信号DSと称する。アップリンク信号USは、各送信ビットを所定チップ長のチップ列(拡散符号)により拡散してなるパルス波(矩形波)によって構成される。アップリンク信号US1のチップ長(=アップリンク信号US1のパルス周期)は例えば1μsec又は2μsecなどの時間であり、エッジ期間(立ち上がり期間又は立ち下がり期間)は例えば10nsecである。AES2.0で言えば、マンチェスター符号化後のパルス波のパルス周期が2μsecとなる。一方、ダウンリンク信号DSは、パルス波(矩形波)、若しくは、正弦波を基にした信号(所定周波数の正弦波信号と、該正弦波信号を変調してなる信号とを含む)によって構成される。ダウンリンク信号DSの詳細については、後述する。
【0019】
図1に示すように、アクティブペン2は、芯体20と、ペン先電極21(第1の電極)と、リング電極22(第2の電極)と、圧力センサ23と、バッテリー24と、集積回路25と、ストップフィルタ26とを有して構成される。芯体20は、アクティブペン2のペン軸を構成する部材である。芯体20の先端はアクティブペン2のペン先を構成し、末端は圧力センサ23に当接している。ペン先電極21及びリング電極22は互いに異なる位置に設けられた導電体であり、ペン先電極21はアクティブペン2のペン先に配置され、リング電極22は、ペン先電極21よりもアクティブペン2の中央寄りの位置に、芯体20を取り囲むように配置される。
【0020】
圧力センサ23は、芯体20の先端に加わる圧力を検出するセンサである。圧力センサ23が検出した圧力は、筆圧値として集積回路25に供給される。バッテリー24は、集積回路25が動作するために必要な電力を供給する役割を果たす。
【0021】
集積回路25は、昇圧回路、送信回路、受信回路、及び処理回路を含む各種の回路によって構成される集積回路である。送信回路はペン先電極21及びリング電極22に接続されており、昇圧回路を用いてペン先電極21又はリング電極22に変化を与えることによって、ダウンリンク信号DSを送信する役割を果たす。受信回路はリング電極22に接続されており、リング電極22を用いてアップリンク信号USの検出動作を行うことによって、アップリンク信号USを受信する役割を果たす。処理回路は、ダウンリンク信号DSを生成し、生成したダウンリンク信号DSを送信回路に送信させる処理を行う。第1の通信方法を行う場合においては、このダウンリンク信号DSの生成は、受信回路によって受信されたアップリンク信号USに基づいて行われる。
【0022】
ストップフィルタ26は、リング電極22と集積回路25の間に挿入されるフィルタ回路である。ストップフィルタ26の詳しい構成については後述するが、ストップフィルタ26は、リング電極22を用いたアップリンク信号USの検出と、ペン先電極21からのダウンリンク信号DSの送信とを同時に行えるようにするために設けている回路である。
【0023】
詳しく説明すると、ダウンリンク信号DSを送信するために用いる昇圧回路による電位の上昇幅は18~20Vにも達するため、ダウンリンク信号DSの送信に伴うペン先電極21の電位の変化は受信回路にも影響を及ぼす。結果として、受信回路により検出されるアップリンク信号USの電位にダウンリンク信号DSが重畳されてしまうことから、ダウンリンク信号DSの送信と同時にはアップリンク信号USを検出することが難しくなってしまう。アクティブペン2がホバー状態にあり、リング電極22がセンサ電極群30から遠い場合には、アップリンク信号USの受信強度が小さくなることから、アップリンク信号USの検出はさらに困難になる。ストップフィルタ26は、ダウンリンク信号DSの送信に伴うペン先電極21の電位の変化が集積回路25内の受信回路により検出されたアップリンク信号USの電位に影響することを阻止し、それによって、リング電極22を用いたアップリンク信号USの検出と、ペン先電極21からのダウンリンク信号DSの送信とを同時に行えるようにする役割を果たす。
【0024】
図2は、集積回路25の状態遷移図である。同図に示すように、集積回路25は、ディスカバリモード(第1の動作モード)と、第1のモード(第2の動作モード)と、第2のモードとのいずれかで動作するよう構成される。
【0025】
ディスカバリモードは、集積回路25がまだ電子機器3を検出していない場合の動作モードである。集積回路25は、電源が投入されるとまずディスカバリモードにエントリするよう構成される。また、第1及び第2のモードはそれぞれ、集積回路25が第1及び第2の通信方法に対応するセンサコントローラ31と通信を行うための動作モードである。
【0026】
ここで、以下の説明では、第1の通信方法において用いられるアップリンク信号USをアップリンク信号US1と称し、第1の通信方法において用いられるダウンリンク信号DSのうちペン先電極21から送信される信号をダウンリンク信号DS1a、リング電極22から送信される信号をダウンリンク信号DS1bとそれぞれ称する場合がある。また、第2の通信方法においてにおいて用いられるダウンリンク信号DSのうちペン先電極21から送信される信号をダウンリンク信号DS2aと称し、リング電極22から送信される信号をダウンリンク信号DS2bと称する場合がある。
【0027】
さて、ディスカバリモードにエントリしている集積回路25は、リング電極22を用いてアップリンク信号US1の検出動作を行うとともに、ペン先電極21からダウンリンク信号DS2aの送信を行う(ステップS1)。この検出動作と送信とは、時分割ではなく同時に実行される。
【0028】
ステップS1においてアップリンク信号US1を検出した集積回路25は、第1のモードにエントリし(ステップS2)、第1の通信方法による通信を開始する。具体的には、まず検出したアップリンク信号US1の受信タイミングに基づいて、アップリンク信号US1及びダウンリンク信号DS1a,DS1bの送受信スケジュールを取得する。そして集積回路25は、送受信スケジュールに従ってまずダウンリンク信号DS1a,DS1bの送信を行い(ステップS10)、アップリンク信号US1の受信タイミングが到来すると(ステップS11)、アップリンク信号US1の検出動作を実行する(ステップS12)。ステップS10の送信とステップS12の検出動作とは、時分割により実行される。
【0029】
ここで、アップリンク信号US1は、アクティブペン2に対する命令を示すコマンドによって変調された信号である。また、ダウンリンク信号DS1aは、例えば無変調のパルス波又は正弦波である位置信号と、アクティブペン2が有しているデータによって変調されたデータ信号とを含む信号である。
【0030】
位置信号は、センサコントローラ31がアクティブペン2のペン先の位置を導出するために使用される。一方、データ信号は、センサコントローラ31がアクティブペン2から各種のデータを取得するために使用される。データ信号に関して集積回路25は、センサコントローラ31から受信したアップリンク信号US1に含まれるコマンドに従い、データ信号により送信するデータを取得するよう構成される。こうして取得されるデータには、上述した筆圧値の他、集積回路25の内蔵メモリに格納されるペンID、アクティブペン2の表面に設けられるスイッチのオンオフ状態を示すスイッチ情報などが含まれ得る。
【0031】
ダウンリンク信号DS1bは、無変調のパルス波又は正弦波である位置信号のみによって構成される。ただし、ダウンリンク信号DS1bを構成するパルス波又は正弦波は、ダウンリンク信号DS1aのそれとは異なる周波数(パルス周期)によって構成される。これは、センサコントローラ31がダウンリンク信号DS1aとダウンリンク信号DS1bとを区別して受信できるようにするためである。センサコントローラ31は、ダウンリンク信号DS1bに基づいてリング電極22の位置を導出し、ダウンリンク信号DS1a内の位置信号に基づいて導出したペン先の位置との間の距離を導出することにより、アクティブペン2の傾きを取得する。
【0032】
ステップS12でアップリンク信号US1の検出動作を実行した結果としてアップリンク信号US1を検出した場合、集積回路25は第1のモードを維持し、ステップS10に戻ってダウンリンク信号DS1a,DS1bの送信を行う(ステップS13)。一方、アップリンク信号US1を検出しなかった場合、集積回路25は第1のモードを抜けてディスカバリモードに戻り、処理を継続する(ステップS14)。なお、集積回路25は、アップリンク信号US1を所定回数にわたり検出しなかった場合に、第1のモードを抜けてディスカバリモードに戻ることとしてもよい。
【0033】
集積回路25は、ディスカバリモードにエントリしている間、筆圧値の監視も行う。その結果として筆圧値が0より大きい値となったことを検出した場合、集積回路25は、アクティブペン2のペン先がタッチ面3aに接触した(ペンタッチが発生した)と判断して第2のモードにエントリし(ステップS3)、第2の通信方法による通信を開始する。
【0034】
具体的に説明すると、集積回路25はまず、変数Countを1ずつ増加させながら(ステップS21)、繰り返しダウンリンク信号DS2a,DS2bの送信を行う(ステップS20)。
【0035】
ここで、ダウンリンク信号DS2a,DS2bは、ダウンリンク信号DS1a,DS1bと同様の信号である。センサコントローラ31はダウンリンク信号DS2a,DS2bに基づいて、第1の通信方法の場合と同様に、アクティブペン2の位置及び傾きを取得するとともに、アクティブペン2から各種のデータを取得する。ただし、アップリンク信号US1が存在しないので、アクティブペン2が送信するデータをセンサコントローラ31側から要求することはできない。
【0036】
変数Countが所定値Nに達した場合、集積回路25は、変数Countを1に戻すとともに(ステップS22)、ペンタッチ判定を行う(ステップS23)。ペンタッチ判定は、要するに筆圧値が0であるか否かの判定であり、集積回路25は、筆圧値が0でない場合にアクティブペン2がペンタッチ状態にあると判定する一方、筆圧値が0である場合にアクティブペン2がペンタッチ状態にない(すなわち、ホバー状態である)と判定する。アクティブペン2がペンタッチ状態にあると判定した場合、集積回路25は第2のモードを維持し、ステップS20に戻ってダウンリンク信号DS2a,DS2bの送信を続ける(ステップS24)。一方、アクティブペン2がペンタッチ状態にないと判定した場合、集積回路25は第2のモードを抜けてディスカバリモードに戻り、処理を継続する(ステップS25)。
【0037】
図3及び
図4は、アクティブペン2及びセンサコントローラ31の動作を説明する図である。
図3に示すセンサコントローラ31-1は第1の通信方法に対応するセンサコントローラ31を示し、
図3に示すセンサコントローラ31-2は第2の通信方法に対応するセンサコントローラ31を示している。以下、この
図3及び
図4を参照しながら、アクティブペン2及びセンサコントローラ31の動作について、改めて詳しく説明する。
【0038】
初めに
図3を参照すると、センサコントローラ31をまだ発見していない集積回路25はディスカバリモードにエントリしており、ペン先電極21からダウンリンク信号DS2aを送信しているときに、リング電極22に到来したアップリンク信号US1の検出も行う。なお、同図に示す「R」は、信号の検出動作(受信動作)を表している。一方、センサコントローラ31-1は、所定の周期UpIntvでアップリンク信号US1を送信するとともに、アップリンク信号US1を送信していないときにはダウンリンク信号DS1a,DS1bの検出動作を行う。
【0039】
時刻t1でアクティブペン2がアップリンク信号US1の受信可能エリアに入る(ペンダウン)と、その後の時刻t2において、集積回路25はアップリンク信号US1を受信することになる。こうしてアップリンク信号US1を受信した集積回路25は第1のモードにエントリし、その後は、アップリンク信号US1の受信タイミングにより決定される送受信スケジュールにより、ダウンリンク信号DS1a,DS1bの送信と、アップリンク信号US1の検出動作とを時分割で繰り返し実行する。
図3には示していないが、アップリンク信号US1の検出動作を行ってもアップリンク信号US1を受信しなかった場合、集積回路25は自身の動作モードをディスカバリモードに戻す。
【0040】
次に
図4を参照すると、アップリンク信号US1を受信しないまま時刻t3で筆圧値が0になったことを検出した集積回路25は、第2のモードにエントリする。そして、第2のモードにエントリしている間、ダウンリンク信号DS2a,DS2bの送信を繰り返し実行する。時刻t4でペンアップが発生すると、集積回路25は、時刻t4から時間Tが経過した時刻t5に、第2のモードを抜けてディスカバリモードに戻る。時間Tの時間長は、
図2に示した所定値Nによって決定される。時間Tの間にペンタッチ状態に戻った場合、集積回路25は、ディスカバリモードに戻らず第2のモードを継続する。
【0041】
次に、リング電極22を用いたアップリンク信号USの検出と、ペン先電極21からのダウンリンク信号DSの送信とを同時に実行できるようにするためのストップフィルタ26について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0042】
図5は、アクティブペン2内の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、ストップフィルタ26は、リング電極22と集積回路25とを結ぶ配線に間挿される。したがって、リング電極22に到来したアップリンク信号US1は、ストップフィルタ26を介して集積回路25に供給されることになる。
【0043】
図5に示した静電容量CYは、ペン先電極21及びペン先電極21と集積回路25とを結ぶ配線と、リング電極22及びリング電極22と集積回路25との間に発生する寄生容量を表している。この寄生容量CYが存在しているため、リング電極22にアップリンク信号US1が到来しているときにペン先電極21からダウンリンク信号DS2aを送信すると、アップリンク信号US1にダウンリンク信号DS2aが重畳することになる。ストップフィルタ26は、こうしてダウンリンク信号DS2aが重畳したアップリンク信号US1からダウンリンク信号DS2aのみを除去し、アップリンク信号US1のみが集積回路25に供給されるようにする役割を果たす。
【0044】
ストップフィルタ26の具体的な構成としては、各種の構成を採用することが可能である。そこで以下では、5種類のストップフィルタ26a~26eを例示し、それぞれについて詳しく説明することとする。
【0045】
図6は、ストップフィルタ26の第1の例であるストップフィルタ26aの構成を示す図である。同図には、ダウンリンク信号DS2aが所定周波数の正弦波を基にした信号により構成される場合の例を示している。このようなダウンリンク信号DS2aは例えばAES1.0で使用されるもので、その場合の上記所定周波数は1.8MHzとなる。
【0046】
ここで、同図及び後掲の
図10及び
図13においては、アクティブペン2及びセンサコントローラ31の構成を等価回路によって示している。具体的に説明すると、まず発振器V1はセンサコントローラ31に対応しており、アップリンク信号US1を生成する。発振器V2は集積回路25内の送信回路に対応しており、ダウンリンク信号DS2aを生成する。静電容量CXは、リング電極22とセンサ電極群30(
図1を参照)との間に形成される静電容量を表している。静電容量C1は、リング電極22及びリング電極22と集積回路25とを結ぶ配線と、接地端との間に形成される静電容量を表している。電圧Vringは、リング電極22に現れる信号(ダウンリンク信号DS2aが重畳した状態のアップリンク信号US1)に対応しており、電圧Vfiltoutはストップフィルタ26の出力信号に対応している。電圧Vfiltoutが供給される集積回路25内の回路は実際には受信回路であるが、
図6及び後掲の
図10及び
図13においては、簡易的に静電容量C2と抵抗R1の直列回路のみを図示している。電圧Vrxinは、電圧Vfiltoutの入力を受けた受信回路によって受信される信号に対応している。
【0047】
さて、
図6の例によるストップフィルタ26aは、上記所定周波数(ダウンリンク信号DS2aの搬送波周波数)を含む特定の周波数帯域を阻止するバンドストップフィルタ(ノッチフィルタ)によって構成される。具体的に説明すると、
図6に示すように、ストップフィルタ26aは、それぞれ抵抗値Rの2つの抵抗素子が直列に接続され、該2つの抵抗素子の接続点が容量値2Cのキャパシタを介して接地されてなる第1の回路と、それぞれ容量値Cの2つのキャパシタが直列に接続され、該2つのキャパシタの接続点が抵抗値R/2の抵抗素子を介して接地されてなる第2の回路とを含んで構成される。第1の回路及び第2の回路は、リング電極22と集積回路25との間に並列に接続され、容量値C及び抵抗値Rは、ノッチ周波数1/2πCRが上記所定周波数に等しくなるように設定される。
【0048】
図7は、
図6の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。同図には、アップリンク信号US1、電圧Vring、電圧Vfiltout、電圧Vrxinを示している。このシミュレーションにおいて、上記所定周波数は1.8MHzとし、アップリンク信号US1のパルス周期は2μsecとした。電圧Vringのうち図示した期間Xの部分には、ダウンリンク信号DS2aがアップリンク信号US1に重畳されない状態で現れている。
【0049】
図7に示されるように、電圧Vringにおいてはアップリンク信号US1にダウンリンク信号DS2aが重畳されている一方で、電圧Vfiltout,Vrxinにはアップリンク信号US1が単独で現れている。この結果から、ストップフィルタ26aによってダウンリンク信号DS2aが選択的に阻止されていることが理解される。
【0050】
ただし、
図7から理解されるように、電圧Vfiltout,Vrxinに現れるアップリンク信号US1は、元のパルス波ではなく、パルス波のエッジのみを抽出してなるエッジ信号となっている。したがって、集積回路25内の受信回路は、このエッジ信号によりアップリンク信号US1を受信できるように構成する必要がある。以下、そのように構成された受信回路の構成について、詳しく説明する。
【0051】
図8は、上記エッジ信号によりアップリンク信号US1を受信するために集積回路25内に設けられる受信回路の構成を示す図である。同図に示すように、この場合の集積回路25は、増幅回路40と、ΔΣ変調部41と、パルス密度検出部42と、ゲイン制御部43と、エッジマッチドフィルタ44と、パターン記憶部45と、アップリンク信号復元部46とを有して構成される。
【0052】
増幅回路40は、
図6に示したストップフィルタ26aから出力された電圧Vfiltoutを増幅し、出力信号DOとしてΔΣ変調部41に供給する回路である。増幅回路40は、ゲイン制御部43により増幅率を制御可能に構成された可変ゲインの増幅器により構成される。
【0053】
ΔΣ変調部41は、増幅回路40の出力信号DOに対して、少なくとも正、負それぞれに対応する2つの基準電位VTP,VTN(VTP=-VTN>0)を用いた比較を行い、比較結果のフィードバック処理を行う機能部であり、
図8に示すように、減算回路41aと、加算回路41bと、比較回路41cと、遅延回路41d,41eとを有して構成される。
【0054】
比較回路41cは、加算回路41bの出力信号IOと基準電位VTP,VTNとを比較する回路であり、比較結果の出力端子、正側出力端子(+1)、負側出力端子(-1)という3つの出力端子を有して構成される。このうち比較結果の出力端子から出力される信号は、ΔΣ変調部41の出力信号COを構成する。
【0055】
比較回路41cの動作は次のとおりである。すなわち、比較回路41cは、加算回路41bの出力信号IOが基準電位VTPを上回っている場合に、出力信号COとして+1を出力するとともに、正側出力端子の電位をハイ、負側出力端子の電位をローとする。また、比較回路41cは、加算回路41bの出力信号IOが基準電位VTNを下回っている場合に、出力信号COとして-1を出力するとともに、負側出力端子の電位をハイ、正側出力端子の電位をローとする。その他の場合、比較回路41cは、出力信号COとして0を出力するとともに、正側出力端子及び負側出力端子の電位をともにローとする。このような比較回路41cの動作の結果として、比較回路41cの出力信号COは、+1,0,-1のいずれかの値を取る3値のパルス信号となる。
【0056】
比較回路41cは、アップリンク信号US1を構成するチップ列のチップ長よりも短い周期で動作するよう構成される。したがって、出力信号COは、アップリンク信号US1を構成するチップ列の1チップに対して複数のチップ(例えば4つのチップ)を含むパルス信号となる。
【0057】
遅延回路41dは、比較回路41cの正側出力端子の電位をΔ倍したうえで、例えば1クロック分(出力信号COの1チップ分)だけ遅延させて減算回路41aにフィードバックする回路である。同様に、遅延回路41eは、比較回路41cの負側出力端子の電位を-Δ倍したうえで、例えば1クロック分だけ遅延させて減算回路41aにフィードバックする回路である。なお、Δの具体的な値は、基準電位VTPに等しい値とすることが好適である。
【0058】
減算回路41aは、増幅回路40の出力信号DOから遅延回路41d,41eの出力信号に応じた量の電位を減じてなる信号を出力する回路である。この減算によれば、1クロック前の出力信号IOが基準電位VTPを上回っていた場合には、加算回路41bの入力信号の電位レベルが下がり、1クロック前の出力信号IOが基準電位VTNを下回っていた場合には、加算回路41bの入力信号の電位レベルが上がるので、加算回路41bの出力信号IOの電位レベルを一定の範囲内に収めるという効果が得られる。
【0059】
加算回路41bは、減算回路41aの出力信号を積分してなる信号を出力する回路である。加算回路41bの出力信号IOは、1クロック前の加算回路41bの出力信号に減算回路41aの出力信号を加算したものとなる。
【0060】
パルス密度検出部42は、ΔΣ変調部41の出力信号COのパルス密度を検出し、その結果をゲイン制御部43に通知する機能部である。ゲイン制御部43は、パルス密度検出部42から通知されたパルス密度に基づいて増幅回路40のゲインを制御することにより、出力信号DOの絶対値が大きすぎたり小さすぎたりすることによって出力信号COが固定されてしまうことを防止する役割を担う。
【0061】
パターン記憶部45は、センサコントローラ31がアップリンク信号USの送信に使用する可能性のある複数の拡散符号(2値のチップ列)のそれぞれについて、+1、0、1のいずれかの値を取る複数のチップにより構成される3値のチップ列を既知のパターンとして記憶する記憶回路により構成される。
【0062】
エッジマッチドフィルタ44は、1つの拡散符号に対応するチップ数分のチップ列を格納可能に設定された先入れ先出し方式のシフトレジスタを有しており、ΔΣ変調部41の出力信号COを1チップ取得する都度、このシフトレジスタに格納していく。そして、新たな1チップを格納する都度、その時点でシフトレジスタに格納されているチップ列と、パターン記憶部45に記憶される複数の既知のパターンのそれぞれとの相関を算出し、その結果を逐次、出力信号FOとしてアップリンク信号復元部46に供給する。
【0063】
アップリンク信号復元部46は、出力信号FOが所定値以上となった場合に、その出力信号FOの算出に用いたパターンに対応する拡散符号が検出されたと判定する。そして、次々に検出される拡散符号に基づいてアップリンク信号US1を復元する。集積回路25は、こうして復元されたアップリンク信号USを復調することにより、センサコントローラ31が送信したコマンドを受信する。
【0064】
図9は、
図8に示した受信回路によって生成される出力信号FOの例を示す図である。ただし、同図には、受信したアップリンク信号US1のチップ列に対応するパターンを用いて相関を算出した場合を示している。また、
図9(c)は電圧Vfiltoutを受信回路に入力した場合であるが、比較のため、
図9(a)にはノイズなしの理想的なアップリンク信号USを受信回路に入力した場合を、
図9(b)には電圧Vringを受信回路に入力した場合をそれぞれ示している。
図9に示す結果から、
図6に示したストップフィルタ26aと
図8に示した受信回路とを組み合わせることにより、ノイズなしの理想的なアップリンク信号USを受信回路に入力した場合と同様に、アップリンク信号US1を正しく受信可能になることが理解される。
【0065】
図10は、ストップフィルタ26の第2の例であるストップフィルタ26bの構成を示す図である。同図には、ダウンリンク信号DS2aがパルス波によって構成される場合の例を示している。ただし、同じくパルス波であるアップリンク信号US1に比べると、ダウンリンク信号DS2aのパルス周期は大幅に長く、また、エッジ期間の時間長も長くなる。具体的な例を挙げると、パルス周期は例えば4μsec~40μsecとなり、エッジ期間は例えば100nsec~5μsecとなる。
【0066】
ストップフィルタ26bは、アップリンク信号US1を構成するパルス波(第1のパルス波)を通過させる一方、ダウンリンク信号DS2aを構成するパルス波(第2のパルス波)を阻止するよう構成されたハイパスフィルタ50によって構成される。ハイパスフィルタ50の具体的な構成は、例えば
図10に示すとおり、一端がリング電極22に接続され、他端が集積回路25に接続された容量値Cのキャパシタと、該キャパシタの他端と接地端の間に接続された抵抗値Rの抵抗素子とによって構成されたCRフィルタとすることが好適である。容量値C及び抵抗値Rは、ストップフィルタ26bがアップリンク信号US1を通過させる一方、ダウンリンク信号DS2aを阻止することとなるように設定される。
【0067】
図11は、
図10の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。同図には、アップリンク信号US1、ダウンリンク信号DS2a、電圧Vring、電圧Vfiltoutを示している。
図11の例においては、アップリンク信号US1のパルス周期を2μsecとし、ダウンリンク信号DS2aのパルス周期を40μsecとした。また、アップリンク信号US1のエッジ期間E1の時間長を10nsecとし、ダウンリンク信号DS2aのエッジ期間E2の時間長を2μsecとした。
【0068】
図11に示されるように、電圧Vringにおいてはアップリンク信号US1にダウンリンク信号DS2aが重畳されている一方で、電圧Vfiltoutにおいてはダウンリンク信号DS2aがほぼ消えている。この結果から、ストップフィルタ26bによっても、ダウンリンク信号DS2aが選択的に阻止されていることが理解される。ただし、
図11の例においても電圧Vfiltoutに現れるアップリンク信号US1は、元のパルス波ではなくパルス波のエッジのみを抽出してなるエッジ信号となっている。したがって、集積回路25内の受信回路としては、第1の例と同様に、
図8を参照して説明した構成を有する受信回路を用いることが好ましい。
【0069】
ここで、
図10に示した構成のストップフィルタ26bを用いる場合、ダウンリンク信号DS2aのエッジ期間E2の時間長とアップリンク信号US1のエッジ期間E1の時間長との差が小さくなると、電圧Vringからダウンリンク信号DS2aを除去することが困難になる場合がある。以下、具体的な例を挙げて説明する。
【0070】
図12は、
図11と同様、
図10の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。
図11との違いは、ダウンリンク信号DS2aのエッジ期間E2の時間長を200nsecとした点にある。
図12に示すように、この場合、ダウンリンク信号DS2aのエッジが電圧Vfiltoutに明確に残ってしまっている。
【0071】
図13は、ストップフィルタ26の第3の例であるストップフィルタ26cの構成を示す図である。このストップフィルタ26cを用いれば、上述したストップフィルタ26bの課題を解決することが可能になる。以下、詳しく説明する。
【0072】
ストップフィルタ26cは、
図10にも示したハイパスフィルタ50の後段にミュート回路51を設けた構成を有している。ミュート回路51は、ハイパスフィルタ50を構成するキャパシタの他端と接地端の間に接続されたスイッチ素子SWと、クロック回路CLKとを有して構成される。スイッチ素子SWは、非反転入力端子と反転入力端子とを有しており、非反転入力端子の電位と反転入力端子の電位の差が所定値以上である場合にストップフィルタ26cの出力端を接地する一方、そうでない場合にこの接地を行わないよう構成される。また、クロック回路CLKは、ダウンリンク信号DS2aのエッジ期間にハイとなり、その他の期間にローとなる信号を出力し、スイッチ素子SWの非反転入力端子に供給するよう構成される。このようなスイッチ素子SW及びクロック回路CLKの動作により、ダウンリンク信号DS2aのエッジ期間にストップフィルタ26cの出力(=電圧Vfiltout)がミュートされることになる。
【0073】
図14は、
図13の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。アップリンク信号US1及びダウンリンク信号DS2aの波形は、
図12の例と同様である。
図14と
図12とを比較すると理解されるように、
図14の例では、電圧Vfiltoutからダウンリンク信号DS2aのエッジが消えている。この結果から、ミュート回路51が電圧Vringからダウンリンク信号DS2aを除去する役割を果たしていることが理解される。
【0074】
ここで、ミュート回路51を用いると、アップリンク信号US1のパルスが一部欠けてしまう可能性がある。そこで、第1及び第2の例と同様に第3の例においても、集積回路25内の受信回路としては、
図8を参照して説明した構成を有する受信回路を用いることが好ましい。こうすることで、エッジマッチドフィルタ44による相関演算によってアップリンク信号US1を復元することができるので、ミュート回路51の作用によってアップリンク信号US1のパルスが多少欠けたとしても、アップリンク信号US1を正しく受信することが可能になる。
【0075】
図15は、ストップフィルタ26の第4の例であるストップフィルタ26dの構成を示す図である。同図に示すように、ストップフィルタ26dは、ゲイン回路52と、差動回路53とを含んで構成される。
【0076】
ゲイン回路52は、ダウンリンク信号DS2aの振幅を制御して出力する回路である。ゲイン回路52の入力端は集積回路25内の送信回路の出力端に接続され、出力端は差動回路53の反転入力端子に接続される。ゲイン回路52は、寄生容量CYを介してアップリンク信号US1に重畳されるダウンリンク信号DS2aと同程度にまで、ダウンリンク信号DS2aの振幅を減衰する役割を果たす。
【0077】
差動回路53は、リング電極22に到来したアップリンク信号US1からゲイン回路52の出力信号を減じてなる出力を行う回路である。差動回路53の非反転入力端子はリング電極22に接続されており、したがって差動回路53の非反転入力端子には、寄生容量CYを介してダウンリンク信号DS2aが重畳した状態のアップリンク信号US1が入力される。上述したように、ゲイン回路52の出力信号は、アップリンク信号US1に重畳されるダウンリンク信号DS2aと同程度の振幅にまで減衰したダウンリンク信号DS2aとなっているので、差動回路53の出力信号は、ダウンリンク信号DS2aが重畳していない状態のアップリンク信号US1となる。
【0078】
図16は、
図15の構成を用いて各信号のシミュレーションを行った結果を示す図である。
図16(a)は、センサコントローラ31によって生成されるアップリンク信号US1を示し、
図16(b)~(d)はそれぞれ、
図15に示したノードn1~n3に現れる信号を示している。なお、
図16には、アップリンク信号US1及びダウンリンク信号DS2aがともにパルス波によって構成され、かつ、ダウンリンク信号DS2aのパルス周期がアップリンク信号US1のパルス周期よりも大幅に長い例を示している。
【0079】
図16から理解されるように、ノードn1に現れる信号は、センサコントローラ31によって生成されるアップリンク信号US1と、ノードn2に現れるダウンリンク信号DS2aとが重畳したものとなっている。そして、ノードn3に現れる信号は、ノードn1に現れる信号からノードn2に現れるダウンリンク信号DS2aが除去された結果、元のアップリンク信号US1と同様の波形を有する信号となっている。この結果から、ストップフィルタ26dがリング電極22に到来した信号からダウンリンク信号DS2aを除去する役割を果たしていることが理解される。
【0080】
ここで、
図15及び
図16の例では考慮していないが、実際のゲイン回路52の入力には、寄生容量CYを介してペン先電極21側に回り込んだアップリンク信号US1が重畳することになる。この重畳の影響が無視できない場合には、ストップフィルタ26内において、ダウンリンク信号DS2aからアップリンク信号US1の成分を除去する必要がある。次に説明する第5の例では、この除去を可能にするストップフィルタ26について説明する。
【0081】
図17は、ストップフィルタ26の第5の例であるストップフィルタ26eの構成を示す図である。同図に示すように、ストップフィルタ26eは、FIR(Finite Impulse Response)フィルタ54と、引き算器55と、フィードバック回路56とを含んで構成される。
【0082】
FIRフィルタ54は、特定の信号成分のみを抽出するように構成されたデジタルフィルタである。ストップフィルタ26eにおいてFIRフィルタ54は、集積回路25内の送信回路から出力されるダウンリンク信号DS2aからアップリンク信号US1の成分を除去するフィルタ回路、及び、ダウンリンク信号DS2aの振幅を制御して出力するゲイン回路としての役割を果たす。引き算器55は、
図15に示した差動回路53と同様に、リング電極22に到来したアップリンク信号US1からFIRフィルタ54の出力信号を減じてなる出力を行う差動回路である。
【0083】
フィードバック回路56は、引き算器55の出力信号の振幅が小さくなるように(すなわち、出力エネルギーが小さくなるように)、FIRフィルタ54によるダウンリンク信号DS2aの振幅の制御量を制御する回路である。具体的には、LMS(least mean squares)アルゴリズムを用いて、FIRフィルタ54の伝達関数に含まれる各係数の値を制御することが好ましい。フィードバック回路56による制御の結果として、FIRフィルタ54から出力される信号は、アップリンク信号US1の成分を有しない純粋なダウンリンク信号DS2aに近い信号となる。したがって、ストップフィルタ26eによれば、寄生容量CYを介してFIRフィルタ54の入力にアップリンク信号US1が重畳したとしても、リング電極22に到来した信号からダウンリンク信号DS2aを効果的に除去することが実現される。
【0084】
以上説明したように、本実施の形態によるアクティブペン2によれば、リング電極22と集積回路25の間にストップフィルタ26を設けたので、アップリンク信号US1の受信とダウンリンク信号DS2aの送信とを、時分割ではなく同時に行うことができる。したがって、アップリンク信号US1の受信に遅延が発生することを防止できるようになる。
【0085】
また、本実施の形態によるアクティブペン2によれば、センサコントローラ31を未だ検出しておらず、センサコントローラ31によるアップリンク信号USの送信タイミングが分からない段階(ディスカバリモード)では、アップリンク信号USの受信とダウンリンク信号DSの送信とを同時に行うことができる一方、一旦アップリンク信号USを検出し、センサコントローラ31によるアップリンク信号USの送信タイミングが判明した段階(第1のモード)では、アップリンク信号USの受信とダウンリンク信号DSの送信とを時分割で行うことができる。したがって、アップリンク信号USの受信に遅延が発生することを防止しつつ、一旦アップリンク信号USが検出された後には、ノイズの少ない状態でアップリンク信号USの検出を行うことが可能になる。また、ペン先電極21とリング電極22の両方からダウンリンク信号DSを送信することができるので、アクティブペン2の傾きを利用することが可能になる。
【0086】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明が、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施され得ることは勿論である。
【0087】
例えば、上記実施の形態では、パルス波であるアップリンク信号US1を用いる場合を取り上げて説明したが、本発明は、正弦波を基にした信号により構成されるアップリンク信号USを用いる場合にも好適に適用可能である。この場合において、
図6に示したストップフィルタ26aを用いる場合、アップリンク信号USは、ストップフィルタ26aによって阻止される特定の周波数帯域に含まれない周波数の正弦波を基にした信号とすればよい。
【0088】
また、上記実施の形態では、リング電極22と集積回路25の間にストップフィルタ26を固定的に挿入する例を説明したが、ストップフィルタ26を経由する第1の経路と、ストップフィルタ26を経由しない第2の経路と、これらを切り替えるスイッチとを設け、集積回路25からこのスイッチを制御することにより、アップリンク信号US1の検出動作とダウンリンク信号DS2aの送信とを同時に行う場合(ディスカバリモード)には第1の経路を有効化し、その他の場合(第1及び第2のモード)には第2の経路を有効化することとしてもよい。
【0089】
また、上記実施の形態では、デュアルモードスタイラスであるアクティブペン2に本発明を適用した例を説明したが、本発明は、ダウンリンク信号DSの送信とアップリンク信号USの受信とを同時に行う必要のあるアクティブペン2に対して、広く適用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 位置検出システム
2 アクティブペン
3 電子機器
3a タッチ面
20 芯体
21 ペン先電極
22 リング電極
23 圧力センサ
24 バッテリー
25 集積回路
26,26a~26e ストップフィルタ
30 センサ電極群
31 センサコントローラ
32 ホストプロセッサ
40 増幅回路
41 ΔΣ変調部
41a 減算回路
41b 加算回路
41c 比較回路
41d,41e 遅延回路
42 パルス密度検出部
43 ゲイン制御部
44 エッジマッチドフィルタ
45 パターン記憶部
46 アップリンク信号復元部
50 ハイパスフィルタ
51 ミュート回路
52 ゲイン回路
53 差動回路
54 FIRフィルタ
55 引き算器
56 フィードバック回路
C2 静電容量
CLK クロック回路
CX 静電容量
CY 寄生容量
DS,DS1a,DS1b,DS2a,DS2b ダウンリンク信号
E1,E2 エッジ期間
SW スイッチ素子
US,US1 アップリンク信号