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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144768
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】調光装置、および、調光シート
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20241003BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024131192
(22)【出願日】2024-08-07
(62)【分割の表示】P 2019200183の分割
【原出願日】2019-11-01
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】阿部 創平
(57)【要約】
【課題】調光シートを通した物体の認識に乖離が生じることを抑制可能とした調光装置を提供する。
【解決手段】調光装置10は、調光シート10Aと、調光シート10Aに駆動電圧を印加する駆動回路10Dとを備える。調光シート10Aは、択一的に発現する第1特性と第2特性とを備え、第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きく、第2特性において、単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値が、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光シートと、
前記調光シートに駆動電圧を印加する駆動回路と、
を備え、
前記調光シートは、
択一的に発現する第1特性と第2特性とを備え、
前記第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きく、
前記第2特性において、前記単位電圧当たりにおける前記ヘイズの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおける前記クラリティの値での変化量の絶対値以上であり、
前記ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠し、
前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに対して前記調光シートが広がる平面の法線方向に沿って入射した光の平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量Lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Lとするときに、以下の式(1)によって算出される
100×(L-L)/(L+L) … 式(1)
調光装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、
前記クラリティにおいて前記調光シートが前記第1特性を発現する範囲内に含まれる前記クラリティの所定値に対応する駆動電圧を印加することによって、前記調光シートに前記第1特性を発現させ、
前記ヘイズにおいて前記調光シートが前記第2特性を発現する範囲内に含まれる前記ヘイズの所定値に対応する駆動電圧を印加することによって、前記調光シートに前記第2特性を発現させる
請求項1に記載の調光装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、
前記第1特性を発現し、漸次的に変化するヘイズの値が、98%以上100%以下に収束し、かつ、クラリティの値が80%以下である第1状態を前記調光シートが有するための第1駆動電圧の印加と、
前記第2特性を発現し、漸次的に変化するクラリティの値が、99%以上100%以下に収束し、かつ、ヘイズの値が15%以下である第2状態を前記調光シートが有するための第2駆動電圧の印加と、を切り替え自在に構成される
請求項1または2に記載の調光装置。
【請求項4】
前記単位電圧は、5V以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項5】
前記調光シートは、
一対の透明電極層と、
調光層と、を備え、
前記調光層は、液晶分子を含み、前記一対の透明電極層間に位置し、
前記液晶分子の配向に応じて第1特性と第2特性とを択一的に発現する
請求項1から4のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項6】
択一的に発現する第1特性と第2特性とを備え、
前記第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きく、
前記第2特性において、前記単位電圧当たりにおける前記ヘイズの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおける前記クラリティの値での変化量の絶対値以上であり、
前記ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠し、
前記クラリティは、調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに対して前記調光シートが広がる平面の法線方向に沿って入射した光の平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量Lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Lとするときに、以下の式(1)によって算出される
100×(L-L)/(L+L) … 式(1)
調光シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光装置、および、調光シートに関する。
【背景技術】
【0002】
調光装置は、調光シートと、駆動回路とを備える。調光シートは、調光層と、調光層の厚さ方向において調光層を挟む一対の透明電極とを備える。調光層は、例えば、複数のドメインを含むポリマーネットワークと、ポリマーネットワーク内に充填され、複数の液晶分子を含む液晶組成物とを含む。駆動回路は、一対の透明電極間に電圧を印加する。調光シートにおいて、一対の透明電極間の電位差に応じて液晶分子の配向状態が変わることによって、調光層の透過率が変わる。調光シートの透過率は、全光線透過率における拡散透過率の割合であるヘイズを用いて評価されている。(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-31870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、調光シートが有するヘイズの値は、所定範囲内の印加電圧の変化に応じて変化し、所定範囲外の印加電圧の変化に対してほぼ一定値を示す。一方、調光シートが有する散乱の度合いは、上記所定範囲外の印加電圧の変化に対しても変化する。結果として、相互に等しいヘイズの値を有した調光シートの間では、散乱の度合い、ひいては、調光シートを通した物体の認識に乖離が生じてしまう。
【0005】
本発明は、調光シートを通した物体の認識に乖離が生じることを抑制可能にした調光装置、および、調光シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための調光装置は、調光シートと、前記調光シートに駆動電圧を印加する駆動回路と、を備える。前記調光シートは、択一的に発現する第1特性と第2特性とを備え、前記第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きく、前記第2特性において、前記単位電圧当たりにおける前記ヘイズの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおける前記クラリティの値での変化量の絶対値以上である。前記ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠し、前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに対して前記調光シートが広がる平面の法線方向に沿って入射した光の平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量Lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Lとするときに、以下の式(1)によって算出される。
100×(L-L)/(L+L) … 式(1)
【0007】
上記課題を解決するための調光シートは、択一的に発現する第1特性と第2特性とを備え、前記第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きく、前記第2特性において、前記単位電圧当たりにおける前記ヘイズの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおける前記クラリティの値での変化量の絶対値以上である。前記ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠し、前記クラリティは、調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに対して前記調光シートが広がる平面の法線方向に沿って入射した光の平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量Lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Lとするときに、以下の式(1)によって算出される。
100×(L-L)/(L+L) … 式(1)
【0008】
上記構成によれば、第1特性を発現する調光シートでの散乱の度合いは、クラリティの値によって把握される。第2特性を発現する調光シートでの散乱の度合いは、ヘイズの値によって把握される。そのため、ヘイズなどの単一のパラメーターによって散乱の度合いが把握される構成と比べて、調光シートを通じた物体の認識に乖離が生じることを抑制できる。例えば、調光シートの製造時において調光シートの透過率を評価した結果や、調光シートの透過率を段階的に変更するように調光シートを駆動した結果において、調光シート間でのずれが生じることを抑制できる。
【0009】
上記調光装置において、前記駆動回路は、前記クラリティにおいて前記調光シートが前記第1特性を発現する範囲内に含まれる前記クラリティの所定値に対応する駆動電圧を印加することによって、前記調光シートに前記第1特性を発現させ、前記ヘイズにおいて前記調光シートが前記第2特性を発現する範囲内に含まれる前記ヘイズの所定値に対応する駆動電圧を印加することによって、前記調光シートに前記第2特性を発現させてもよい。
【0010】
上記構成によれば、調光シートにおいて第1特性が発現される状態では、その状態において散乱の度合いを支配するクラリティの所定値が得られる。また、調光シートにおいて第2特性が発現される状態では、その状態において散乱の度合いを支配するヘイズの所定値が得られる。結果として、上記乖離の抑制効果を得ることの実効性を高められる。
【0011】
上記調光装置において、前記駆動回路は、前記第1特性を発現し、漸次的に変化するヘイズの値が、98%以上100%以下に収束し、かつ、クラリティの値が80%以下である第1状態を前記調光シートが有するための第1駆動電圧の印加と、前記第2特性を発現し、漸次的に変化するクラリティの値が、99%以上100%以下に収束し、かつ、ヘイズの値が15%以下である第2状態を前記調光シートが有するための第2駆動電圧の印加と、を切り替え自在に構成されてもよい。
【0012】
上記構成によれば、駆動回路が、調光シートに印加する駆動電圧を第1電圧と第2電圧との間で切り替えることによって、調光シートの状態を、不透明な状態である第1状態と、透明な状態である第2状態との間で切り替えることが可能である。
【0013】
上記調光装置において、前記単位電圧は、5V以下であってもよい。この構成によれば、単位電圧が5Vよりも高い場合に比べて、調光シートに印加される電圧値の変化がより小さくとも、第1特性でのクラリティの優位性、および、第2特性でのヘイズの優位性を得ることができる。そのため、単位電圧が5Vよりも高い場合に比べて、各特性において、より細かく散乱の度合いを把握することが可能である。
【0014】
上記調光装置において、前記調光シートは、一対の透明電極層と、調光層と、を備え、前記調光層は、液晶分子を含み、前記一対の透明電極層間に位置し、前記液晶分子の配向に応じて第1特性と第2特性とを択一的に発現してもよい。この構成によれば、液晶分子を含む調光層を有した調光シートを備える調光装置において、調光シートを通した物体の認識に乖離が生じることが抑えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、調光シートを通した物体の認識に乖離が生じることを抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】調光装置の第1の構成において調光層に駆動電圧が印加されていない状態を示す断面図。
図2】調光装置の第1の構成において調光層に駆動電圧が印加されている状態を示す断面図。
図3】調光装置の第2の構成において調光層に駆動電圧が印加されていない状態を示す断面図。
図4】調光装置の第2の構成において調光層に駆動電圧が印加されている状態を示す断面図。
図5】クラリティの測定装置の構成を測定対象である調光装置とともに模式的に示す図。
図6】調光シートにおけるヘイズとクラリティとの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1から図6を参照して、調光装置、および、調光シートの一実施形態を説明する。以下では、調光装置の構成、クラリティの測定方法、および、実施例を順に説明する。なお、本実施形態では、調光シート越しに存在する物体、例えば、調光シートによって秘匿したい物体を総称して対象と表す。対象には、例えば、人物、装置、および、静物などが含まれる。
【0018】
[調光装置の構成]
図1から図4を参照して、調光装置の構成を説明する。
本実施形態における調光装置には、以下に説明する第1の構成と第2の構成とが含まれる。
【0019】
[第1の構成]
図1および図2を参照して、調光装置の第1の構成を説明する。
図1は、調光装置の第1の構成において、調光シートに駆動電圧が印加されていない状態を示している。駆動電圧は、調光シートが備える調光層に含まれる液晶分子の配向を変えるための電圧である。これに対して、図2は、調光装置の第1の構成において、駆動電圧の一例であって、液晶分子の配向が駆動電圧の増大によって変化し難い程度の電圧である飽和電圧が印加されている状態を示している。第1の構成では、調光シートに印加される駆動電圧の大きさが大きくなるほど、液晶分子の配向が、図1に示される配向から図2に示される配向に向けて変わる。
【0020】
図1が示すように、調光装置10は、調光シート10Aを備えている。調光シート10Aは、調光層11、一対の透明電極層12、および、一対の透明基材13を備えている。本実施形態において、調光層11は、ポリマーネットワーク11Aと、液晶組成物11Bとを備えている。ポリマーネットワーク11Aは、複数のドメイン11Dを含む。各ドメイン11Dは、ポリマーネットワーク11A内に形成された空隙である。ドメイン11Dは、ポリマーネットワーク11Aによって孤立した空間であってもよいし、他のドメイン11Dと繋がる空間であってもよい。液晶組成物11Bは、ドメイン11D内に充填され、複数の液晶分子11BLを含む。調光層11に含まれる液晶分子11BLの配向が変わることによって、調光層11の透過率が変わる。
【0021】
一対の透明電極層12は、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとから構成される。調光層11は第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間に位置し、一対の透明電極層12が、調光層11の厚さ方向において、調光層11を挟んでいる。各透明電極層12は、可視光領域の光に対する透過性を有する。各透明電極層12を形成する材料は、例えば、透明導電性酸化物(TCO)、および、導電性ポリマーなどであってよい。一対の透明基材13は、調光層11の厚さ方向において、一対の透明電極層12を挟んでいる。各透明基材13は、可視光領域の光に対する透過性を有する。各透明基材13を形成する材料は、例えば、ガラス、および、合成樹脂などであってよい。
【0022】
調光装置10は、調光シート10Aに接続される駆動回路10Dをさらに備えている。駆動回路10Dは、第1透明電極層12Aと第2透明電極層12Bとの間に駆動電圧を印加する。透明電極層12に印加される駆動電圧の大きさが変わることによって、調光層11に含まれる液晶分子の配向が変わり、これによって、調光シート10Aにおけるヘイズの値およびクラリティの値が変わる。
【0023】
調光シート10Aは、第1特性と第2特性とを備える。第1特性と第2特性とは、調光層11における液晶分子11BLの配向に応じて択一的に発現する。第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きい。第2特性において、単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値が、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値以上である。ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠したパラメーターである。これに対して、クラリティ(clarity)は、後述する式(1)によって規定されるパラメーターである。
【0024】
調光シート10Aに印加する駆動電圧を駆動電圧Vから駆動電圧Vに変えたときのヘイズの変化量ΔHは、下記式(2)によって算出される。ただし、駆動電圧Vを印加したときのヘイズの値がヘイズHであり、駆動電圧Vを印加したときのヘイズの値がヘイズHである。また、駆動電圧Vは、駆動電圧Vよりも大きく、駆動電圧Vから駆動電圧Vを減算した値が、単位電圧(V-V)である。
ΔH=(H-H)/(V-V) …式(2)
【0025】
また、調光シート10Aに印加する駆動電圧を駆動電圧Vから駆動電圧Vに変えたときのクラリティの変化量ΔCは、下記式(3)によって算出される。ただし、駆動電圧Vを印加したときのクラリティの値がクラリティCであり、駆動電圧Vを印加したときのクラリティの値がクラリティCである。また、駆動電圧Vは、駆動電圧Vよりも大きい。
ΔC=(C-C)/(V-V) …式(3)
【0026】
上記式(2)によって算出されたヘイズの変化量における絶対値が|ΔH|であり、上記式(3)によって算出されたクラリティの変化量における絶対値が|ΔC|である。上述した第1特性は、以下の式(4)によって定義され、かつ、第2特性は、以下の式(5)によって定義される。
|ΔH|<|ΔC| … 式(4)
|ΔH|≧|ΔC| … 式(5)
【0027】
駆動回路10Dは、クラリティにおける所定値に対応した駆動電圧を透明電極層12間に印加することによって、調光シート10Aに第1特性を発現させる。また、駆動回路10Dは、ヘイズにおける所定値に対応した駆動電圧を透明電極層12間に印加することによって、調光シート10Aに第2特性を発現させる。このように、調光シート10Aにおいて第1特性が発現される状態では、その状態において濁り感の指標となる散乱の度合いを支配するクラリティの所定値が得られる。また、調光シート10Aにおいて第2特性が発現される状態では、その状態において透け感の指標となる散乱の度合いを支配するヘイズの所定値が得られる。結果として、乖離の抑制効果を得ることの実効性を高められる。
【0028】
単位電圧(V-V)は、5V以下であることが好ましい。単位電圧(V-V)が5Vよりも高い場合に比べて、調光シート10Aに印加される電圧値の変化がより小さくとも、第1特性でのクラリティの優位性、および、第2特性でのヘイズの優位性を得ることができる。そのため、単位電圧(V-V)が5Vよりも高い場合に比べて、各特性において、より細かく散乱の度合いを把握することが可能である。
【0029】
駆動回路10Dは、第1駆動電圧の印加と第2駆動電圧の印加とを切り替えることが可能である。駆動回路10Dは、第1駆動電圧の印加と第2駆動電圧の印加とを切り替え自在に構成されている。すなわち、駆動回路10Dは、駆動電圧を第1駆動電圧から第2駆動電圧に切り替えることが可能であり、また、第2駆動電圧から第1駆動電圧に切り替えることが可能である。駆動回路10Dは、こうした駆動電圧の切り替えを任意のタイミングで行うことが可能である。
【0030】
第1駆動電圧は、調光シート10Aが、第1特性を発現し、漸次的に変化するヘイズの値が98%以上100%以下に収束し、かつ、クラリティの値が80%以下である第1状態を有するための電圧である。第1状態は、調光シート10Aにおいて最も不透明な状態を含む。第2駆動電圧は、調光シート10Aが、第2特性を発現し、漸次的に変化するクラリティの値が99%以上100%以下に収束し、かつ、ヘイズの値が15%以下である第2状態を有するための電圧である。第2状態は、調光シート10Aにおいて最も透明な状態を含む。
【0031】
上述したように、図1が示す調光装置10では、一対の透明電極層12に対して駆動電圧が印加されていない。このとき、各ドメイン11D内に位置する複数の液晶分子11BLの配向方向はランダムである。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光装置10に入射した光は、調光層11において等方的に散乱される。これにより、調光シート10Aに駆動電圧が印加されたときに比べて、調光シート10Aにおけるヘイズの値が高くなり、かつ、クラリティの値が低くなる。図1が示す調光シート10Aは、上述した第1状態の一例を有している。
【0032】
上述したように、図2が示す調光シート10Aでは、一対の透明電極層12に対して駆動回路10Dが飽和電圧を印加している。これにより、複数の液晶分子11BLの配向が、ランダムな配向から、光を透過する方向である例えば垂直配向に変わる。言い換えれば、各液晶分子11BLは、調光層11が広がる平面に対して、液晶分子11BLの長軸がほぼ垂直であるように、ドメイン11D内に位置している。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光シート10Aに入射した光は、調光層11においてほぼ散乱されることなく調光層11を透過する。このとき、調光シート10Aに駆動電圧が印加されないときに比べて、調光シート10Aにおけるヘイズの値が低くなり、クラリティの値が高くなる。図2が示す調光シート10Aは、上述した第2状態の一例を有している。
【0033】
[第2の構成]
図3および図4を参照して、調光装置の第2の構成を説明する。
図3は、調光装置の第2の構成において、調光シートに駆動電圧が印加されていない状態を示し、これに対して、図4は、調光装置の第2の構成において、調光シートに駆動電圧の一例である飽和電圧が印加されている状態を示している。第2の構成では、調光シートに印加される駆動電圧の大きさが大きくなるほど、液晶分子の配向が、図3に示される配向から図4に示される配向に向けて変わる。
【0034】
図3が示すように、調光装置20が備える調光シート20Aは、調光層11、一対の透明電極層12、および、一対の透明基材13に加えて、一対の配向層21を備えている。一対の配向層21は、調光層11の厚さ方向において調光層11を挟み、かつ、調光層11の厚さ方向において一対の透明電極層12よりも調光シート20Aの中央部寄りに位置している。言い換えれば、一方の配向層21は、調光層11と一方の透明電極層12との間に位置し、かつ、他方の配向層21は、調光層11と他方の透明電極層12との間に位置している。
【0035】
調光装置20において、調光装置10と同様、調光シート20Aは、第1特性と第2特性とを択一的に発現する。第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きい。第2特性において、単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値が、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値以上である。単位電圧(V-V)は、5V以下であることが好ましい。
【0036】
また、駆動回路10Dは、調光装置10の駆動回路10Dと同様、クラリティにおける所定値に対応した駆動電圧を透明電極層12間に印加することによって、調光シート20Aに第1特性を発現させる。また、駆動回路10Dは、ヘイズにおける所定値に対応した駆動電圧を透明電極層12間に印加することによって、調光シート20Aに第2特性を発現させる。駆動回路10Dは、第1駆動電圧の印加と第2駆動電圧の印加とを切り替えることが可能である。駆動回路10Dは、第1駆動電圧の印加と第2駆動電圧の印加とを切り替え自在に構成されている。すなわち、駆動回路10Dは、駆動電圧を第1駆動電圧から第2駆動電圧に切り替えることが可能であり、また、第2駆動電圧から第1駆動電圧に切り替えることが可能である。駆動回路10Dは、こうした駆動電圧の切り替えを任意のタイミングで行うことが可能である。
【0037】
第1駆動電圧は、調光シート20Aが、第1特性を発現し、漸次的に変化するヘイズの値が98%以上100%以下に収束し、かつ、クラリティの値が80%以下である第1状態を有するための電圧である。第2駆動電圧は、調光シート20Aが、第2特性を発現し、漸次的に変化するクラリティの値が99%以上100%以下に収束し、かつ、ヘイズの値が15%以下である第2状態を有するための電圧である。
【0038】
各配向層21が垂直配向層である場合には、調光シート20Aに駆動電圧が印加されていない状態において、各ドメイン11Dに含まれる液晶分子11BLの配向は垂直配向である。言い換えれば、各液晶分子11BLは、調光層11が広がる平面に対して、液晶分子11BLの長軸がほぼ垂直であるように、ドメイン11D内に位置している。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光シート20Aに入射した光は、調光層11においてほぼ散乱されることなく調光層11を透過する。これにより、調光シート20Aに駆動電圧が印加されないときと比べて、調光シート20Aにおけるヘイズの値が低くなり、クラリティの値が高くなる。図3が示す調光シート20Aは、上述した第2状態の一例を有している。
【0039】
上述したように、図4が示す調光シート20Aでは、一対の透明電極層12に対して飽和電圧を印加している。これにより、複数の液晶分子11BLの配向が変わる。例えば、複数の液晶分子11BLの配向は、垂直配向から水平配向に変わる。このとき、各液晶分子11BLは、液晶分子11BLの長軸が、調光層11が広がる平面に沿って延びるように、ドメイン11D内に位置している。そのため、一対の透明基材13のいずれかから調光シート20Aに入射した光は、調光層11において散乱される。このとき、調光シート20Aに駆動電圧が印加されないときと比べて、調光シート20Aにおけるヘイズの値が高くなり、クラリティの値が低くなる。図4が示す調光シート20Aは、上述した第1状態の一例を有している。
【0040】
[クラリティの算出方法]
図5を参照して、クラリティの算出方法を説明する。図5は、クラリティの算出に用いられる測定装置の一例を模式的に示している。
【0041】
図5が示すように、クラリティの測定装置40は、照射部41、受光部42、および、積分球43を備えている。照射部41は、光源41Aとレンズ41Bとを備えている。光源41Aは白色LEDであり、レンズ41Bは、光源41Aが放出した光を平行光に変換する。受光部42は、中央センサー42Cと、外周センサー42Rとを備える。中央センサー42Cおよび外周センサー42Rは、それぞれ環状を有する。外周センサー42Rは、中央センサー42Cの外側に位置している。なお、測定装置40は、測定対象のクラリティを測定だけでなく、ヘイズの測定にも用いることが可能である。測定装置40の積分球43は、ヘイズの測定時にのみ用いられる。
【0042】
測定装置40において、調光シート10A,20Aは、照射部41と積分球43との間に配置される。レンズ41Bから射出された平行光の光束における直径は、本実施形態では14mmである。調光シート10A,20Aを透過した光には、調光層11に入射した平行光LPの光軸に対して直進する直進光LSと、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光LNSとが含まれる。受光部42では、中央センサー42Cが直進光LSを受光し、外周センサー42Rが狭角散乱光LNSを受光する。中央センサー42Cが受光した直進光LSの光量をLに設定し、外周センサー42Rが受光した狭角散乱光LNSの光量をLに設定する。
【0043】
クラリティは、調光層11を透過した光のなかで、調光層11に入射した平行光LPの光軸に対して直進する直進光LSの光量を光量Lとし、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光LNSの光量を光量Lとするときに、以下の式(1)によって算出される。
100×(L-L)/(L+L) … 式(1)
【0044】
このように、クラリティとは、狭角散乱光を用いて調光シート10A,20Aの状態を評価するパラメーターである。そのため、クラリティによれば、調光シート10A,20Aを通した対象の像において、対象における非常に微小な部分が、どの程度鮮明であるかを評価することが可能である。これにより、観察者が、調光シート10A,20Aを介して対象を視認したときには、調光シート10A,20Aにおけるクラリティの値が小さいほど、調光シート10A,20A越しの対象における輪郭がぼやける、言い換えれば、対象の鮮明さが低下する。このように、クラリティとは、調光シート10A,20Aを介して視認された対象の像における鮮明さを評価するものである。
【0045】
[ヘイズの算出方法]
測定装置40を用いて測定された光量を用いて、調光シート10A,20Aにおけるヘイズを算出することが可能である。上述したように、ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠する方法によって算出される。また、測定装置40を用いてヘイズを測定する場合には、積分球43内に配置された受光部によって、調光シート10A,20Aを透過した光を受光する。
【0046】
ヘイズとは、調光シート10A,20Aを通過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°より大きくそれた透過光の百分率のことである。言い換えれば、ヘイズの測定において、上述した平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内の光が平行光であり、±2.5°より大きい光が広角散乱光である。広角散乱光の透過率を拡散透過率Tとし、平行光の透過率を平行光線透過率Tとし、平行光線透過率Tと拡散透過率Tとの和を全光線透過率Tとする。このとき、ヘイズは、全光線透過率T中の拡散透過率Tの割合である。
【0047】
このように、ヘイズとは広角散乱光を用いて調光シート10A,20Aの状態を評価するパラメーターである。そのため、ヘイズによれば、調光シート10A,20Aを目視によって観察した場合に、観察者が知覚する調光シート10A,20A全体の濁り度合いを評価することが可能である。これにより、観察者が、調光シート10A,20Aを介して対象を視認したときには、調光シート10A,20Aにおけるヘイズの値が大きいほど、調光シート10A,20A越しの対象と、対象の周囲とのコントラストが低下し、観察者には対象がかすんで見える。
【0048】
しかも、調光シート10A,20Aにおいて、クラリティの値およびヘイズの値は、調光シート10A,20Aに印加される駆動電圧の全範囲のなかで、相互に異なる範囲において、単位電圧当たりにおける一方の変化量の絶対値が、他方の変化量の絶対値よりも大きい。調光シート10A,20Aに印加される駆動電圧の全範囲のなかで、第1範囲において、単位電圧当たりにおけるクラリティの変化量の絶対値が、ヘイズの変化量の絶対値よりも大きく、かつ、第1範囲とは異なる第2範囲において、単位電圧当たりにおけるヘイズの変化量の絶対値が、単位電圧当たりにおけるクラリティの変化量の絶対値よりも大きい。
【0049】
しかも、第1範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加される場合には、第2範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加された場合に比べて、ヘイズの値が高く、かつ、クラリティの値が低い場合を含む。言い換えれば、第1範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加される場合には、第2範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加される場合に比べて、調光シート10A,20Aの透過率が低い場合が含まれる。
【0050】
言い換えれば、第2範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加される場合には、第1範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加される場合に比べて、ヘイズの値が低く、かつ、クラリティの値が高い場合を含む。言い換えれば、第2範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加される場合には、第1範囲に含まれる駆動電圧が調光シート10A,20Aに印加される場合に比べて、調光シート10A,20Aの透過率が高い場合が含まれる。
【0051】
そのため、例えば、調光シート10A,20Aの製造時において、調光シート10A,20Aの透過率が相対的に低い範囲については、クラリティの値を用いて調光シート10A,20Aの性能を管理することによって、調光シート10A,20Aが特定の駆動状態である場合における調光シート10A,20Aの性能に生ずるばらつきを抑えることが可能である。これに対して、調光シート10A,20Aの透過率が相対的に高い範囲については、ヘイズの値を用いて調光シート10A,20Aの性能を管理することによって、調光シート10A,20Aが特定の駆動状態である場合における調光シート10A,20Aの性能に生ずるばらつきを抑えることが可能である。
【0052】
結果として、調光シート10A,20Aの製造段階において、調光シート10A,20Aを通した物体の認識にずれが生じることを、製品間において抑えることが可能である。
また、例えば、調光シート10A,20Aの駆動時において、調光シート10A,20Aの透過率が相対的に低い範囲については、クラリティの値を用いて調光シート10A,20Aに印加する駆動電圧の大きさを制御することによって、調光シート10A,20Aが特定の駆動状態である場合における調光シート10A,20Aの性能に生ずるばらつきを抑えることが可能である。これに対して、調光シート10A,20Aの透過率が相対的に高い範囲については、ヘイズの値を用いて調光シート10A,20Aに印加する駆動電圧の大きさを制御することによって、調光シート10A,20Aが特定の駆動状態である場合における調光シート10A,20Aの性能に生ずるばらつきを抑えることが可能である。
【0053】
結果として、調光シート10A,20Aの段階的な制御を伴う調光シート10A,20Aの駆動時において、調光シート10A,20Aを通した物体の認識に乖離が生じることを抑制できる。
【0054】
[実施例]
以下、調光装置の実施例を説明する。
ポリマーネットワーク型の調光層を有した調光シートを準備した。調光シートに、調光シートに駆動電圧を出力する駆動回路を電気的に接続することによって、調光装置を得た。なお、本実施例では、上述した第1の構成を有する調光装置に含まれる調光シートを準備した。調光シートに印加する駆動電圧の大きさを変更しながら、調光シートにおけるヘイズの値とクラリティの値とを測定した。
【0055】
ヘーズメーター(NDH7000SP、日本電色工業(株)製)を用いて、JIS K
7136:2000に準拠した方法によって、調光シートにおけるヘイズの値を測定した。また、ヘイズ・透明性測定器(ヘイズガードi、BYK-Gardner社製)を用いて、上述した測定方法によって、調光シートにおけるクラリティの値を測定した。測定されたヘイズの値とクラリティの値から、電圧変化量ΔV、ヘイズの変化量の絶対値|ΔH|、および、クラリティの変化量の絶対値|ΔC|を算出した。
【0056】
ヘイズおよびクラリティの測定結果は、図6および表1に示すとおりであった。また、各値の算出結果は、表1に示す通りであった。なお、図6において、実線で囲まれる範囲が、0V以上12V以下の範囲に含まれるいずれかの大きさを有した駆動電圧を調光シートに対して印加した場合に得られるヘイズの値とクラリティの値との関係である。また、図6において、破線で囲まれる範囲が、13V以上100V以下の範囲に含まれるいずれかの大きさを有した駆動電圧を調光シートに対して印加した場合に得られるヘイズの値とクラリティの値との関係である。
【0057】
【表1】
【0058】
図6が示すように、調光シートに印加される駆動電圧が0V以上12V以下の範囲に含まれる場合には、駆動電圧の大きさが変わることによって、クラリティの値が急峻に変わる一方で、駆動電圧の大きさが変わっても、ヘイズの値がほぼ変わらないことが認められた。
【0059】
これに対して、調光シートに印加される駆動電圧が13V以上100V以下の範囲に含まれる場合には、駆動電圧の大きさが変わることによって、ヘイズの値が急峻に変わる一方で、駆動電圧の大きさが変わっても、クラリティの値がほぼ変わらないことが認められた。
【0060】
また、表1が示すように、調光シートに対して0V以上12V以下の範囲に含まれるいずれかの駆動電圧が印加される場合には、クラリティの値における変化量の絶対値|ΔC|が、ヘイズの値における変化量の絶対値|ΔH|よりも大きいことが認められた。これに対して、調光シートに対して13V以上100V以下の範囲に含まれるいずれかの駆動電圧が印加される場合には、ヘイズの値における変化量の絶対値|ΔH|が、クラリティの値における変化量の絶対値|ΔC|以上であることが認められた。
【0061】
図6が示すように、ポリマーネットワーク型の調光層を有した調光シートでは、ヘイズおよびクラリティを示す曲線において傾きが大きい範囲を有する。上述したように、ヘイズは広角散乱光を用いて調光シートの状態を評価するパラメーターであり、クラリティは、狭角散乱光を用いて調光シートの状態を評価するパラメーターである。そのため、以下の2つの場面の両方に適した調光シートが得られる。
【0062】
1つは、透明時から広角散乱の度合いのみを細かく高めることを求められる場面である。具体的には、例えば、車両用の窓に適用された調光シートにおいて、車室内に外光の明るさが求められる一方で、車室内に存する人間の姿勢や仕草などの対象は外部から視認不能であることが必要な場面である。このような場面において、ヘイズおよびクラリティの曲線における傾きが大きい調光シートであれば、平行光の進行方向に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱がほとんどない範囲で広角散乱の度合いのみを細かく変えることができる。
【0063】
もう1つは、広角散乱を飽和させたうえで狭角散乱の度合いのみを細かく高めることが求められる場面である。具体的には、例えば、車両用の窓に適用された調光シートにおいて、車室内に外光を取り込むことは不要である一方で、調光シートの近傍に位置する貴重品などの秘匿したい対象を外部から視認不能であることが必要な場面である。このような場面において、ヘイズおよびクラリティの曲線における傾きが大きい調光シートであれば、平行光の進行方向に対する角度が±2.5°よりも大きい広角散乱がほとんど飽和している範囲で狭角散乱の度合いのみを細かく変えることができる。このように、ヘイズおよびクラリティを示す曲線における傾きが大きい調光シートは、上記両方の場面に対応可能である。なお、上述した内容は、車室に限らず、会議室および住宅などにおいて調光シートによって2つの空間を仕切る場合においても同様である。
【0064】
以上説明したように、調光装置、および、調光シートにおける一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)第1特性を発現する調光シート10A,20Aでの散乱の度合いは、クラリティの値によって把握される。第2特性を発現する調光シート10A,20Aでの散乱の度合いは、ヘイズの値によって把握される。そのため、ヘイズなどの単一のパラメーターによって散乱の度合いが把握される構成と比べて、調光シート10A,20Aを通じた物体の認識に乖離が生じることを抑制できる。
【0065】
(2)調光シート10A,20Aにおいて第1特性が発現される状態では、その状態において散乱の度合いを支配するクラリティの所定値が得られる。また、調光シート10A,20Aにおいて第2特性が発現される状態では、その状態において散乱の度合いを支配するヘイズの所定値が得られる。結果として、上記(1)に準じた乖離の抑制効果を得ることの実効性を高められる。
【0066】
(3)駆動回路10Dが、調光シート10A,20Aに印加する駆動電圧を切り替えることによって、調光シート10A,20Aの状態を、不透明な状態である第1状態と、透明な状態である第2状態との間で切り替えることが可能である。
【0067】
(4)単位電圧が5Vよりも高い場合に比べて、調光シート10A,20Aに印加される電圧値の変化がより小さくとも、第1特性でのクラリティの優位性、および、第2特性でのヘイズの優位性を得ることができる。そのため、単位電圧が5Vよりも高い場合に比べて、各特性において、より細かく散乱の度合いを把握することが可能である。
【0068】
(5)液晶分子11BLを含む調光層11を有した調光シート10A,20Aを備える調光装置10,20において、調光シート10A,20Aを通した物体の認識に乖離が生じることが抑えられる。
【0069】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
[駆動回路]
・駆動回路10Dは、調光シート10A,20Aに第1特性を発現させる場合に、クラリティにおける所定値に対応した駆動電圧を調光シート10A,20Aに印加しなくてもよい。この場合には、駆動回路10Dは、ヘイズにおける所定値に対応した駆動電圧を印加してもよいし、あるいは、クラリティにおける所定値、および、ヘイズにおける所定値のいずれにも対応しない駆動電圧を印加してもよい。
【0070】
また、駆動回路10Dは、調光シート10A,20Aに第2特性を発現させる場合に、ヘイズにおける所定値に対応した駆動電圧を調光シート10A,20Aに印加しなくてもよい。この場合には、駆動回路10Dは、クラリティにおける所定値に対応した駆動電圧を印加してもよいし、あるいは、ヘイズにおける所定値、および、クラリティにおける所定値のいずれにも対応しない駆動電圧を印加してもよい。
【0071】
これらの場合であっても、調光シート10A,20Aが、液晶分子の配向に応じて択一的に発現する第1特性と第2特性とを備えることによって、例えば、調光シート10A,20Aの製造段階において、調光シート間でのずれが生じることを抑制できる。そのため、上述した(1)に準じた効果を少なからず得ることはできる。
【0072】
・駆動回路10Dは、調光シート10A,20Aの状態を第1状態と第2状態とを含む3つ以上の状態に切り替え可能であってもよい。この場合、駆動回路10Dは、調光シート10A,20Aにおけるクラリティの値が、第1状態での値と第2状態での値との間の範囲に含まれ、かつ、ヘイズの値が、第1状態での値と第2状態での値との間の範囲に含まれる第3状態に変化させることができる。駆動回路10Dは、調光シート10A,20Aを第1状態に設定する場合の駆動電圧、および、第2状態に設定する場合の駆動電圧とは異なる駆動電圧を調光シート10A,20Aに印加することによって、調光シート10A,20Aの状態を第3状態に設定することが可能である。
【0073】
・調光装置10,20は、調光シート10A,20Aの透過率を変更するために調光装置10,20の駆動を制御する制御部をさらに備えることも可能である。この場合には、制御部は、調光シート10A,20Aに第2特性を発現させるための相互に異なるヘイズを駆動電圧に変換するためのテーブルなどの情報を備え、外部の操作機器などから指定されるヘイズに対応づけられた駆動電圧を駆動回路に印加させる。加えて、制御部は、調光シート10A,20Aに第1特性を発現させるための相互に異なるクラリティを駆動電圧に変換するためのテーブルなどの情報を備え、外部の操作機器などから指定されるクラリティに対応付けられた駆動電圧を駆動回路に印加させる。こうした制御部を備える調光装置10,20によれば、乖離の抑制効果を得ることの実効性を高めることができる。
【0074】
[調光シート]
・単位電圧は、5V以上10V以下の範囲における任意の値を採ることができる。上記範囲のいずれの値を単位電圧とした場合であっても、調光シートが、液晶分子の配向に応じて択一的に発現する第1特性と第2特性とを有することによって、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【0075】
・調光シート10A,20Aが有する形状は、平面状であってもよいし、二次元方向に曲率を有した曲面状であってもよいし、三次元方向に曲率を有した曲面状であってもよい。調光シート10A,20Aは、可撓性を有した透明基材13を備えることが可能である。この場合には、調光シート10A,20Aは、調光シート10A,20Aに対する曲面加工にも優れた適応を示す。
【0076】
[調光層]
・調光層11は、ポリマーネットワーク型液晶に限らない。調光層11は、例えば、高分子分散型液晶(PDCL)、または、カプセル型ネマティック液晶(NCAP)であってもよい。
【0077】
・調光層11は、二色性色素を含み、二色性色素に由来する所定の色を呈してもよい。この場合であっても、調光シート10A,20Aが、液晶分子の配向に応じて択一的に発現する第1特性と第2特性とを備えていれば、上述した(1)に準じた効果を得ることはできる。
【符号の説明】
【0078】
10,20…調光装置、10A,20A…調光シート、10D…駆動回路、11…調光層、11A…ポリマーネットワーク、11B…液晶組成物、11BL…液晶分子、11D…ドメイン、12…透明電極層、13…透明基材、21…配向層、40…測定装置、41A…光源、41…照射部、41B…レンズ、42…受光部、42C…中央センサー、42R…外周センサー、43…積分球。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調光シートと、
前記調光シートに駆動電圧を印加する駆動回路と、
を備え、
前記調光シートは、
択一的に発現する第1特性と第2特性とを備え、
前記第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きく、
前記第2特性において、前記単位電圧当たりにおける前記ヘイズの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおける前記クラリティの値での変化量の絶対値以上であり、
35Vの電圧印加時に前記ヘイズの値が15%以下であり、
12Vの電圧印加時に前記クラリティの値が90%以上であり、
前記ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠し、
前記クラリティは、前記調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに対して前記調光シートが広がる平面の法線方向に沿って入射した光の平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量Lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Lとするときに、以下の式(1)によって算出される
100×(L-L)/(L+L) … 式(1)
調光装置。
【請求項2】
前記駆動回路は、
前記クラリティにおいて前記調光シートが前記第1特性を発現する範囲内に含まれる前記クラリティの所定値に対応する駆動電圧を印加することによって、前記調光シートに前記第1特性を発現させ、
前記ヘイズにおいて前記調光シートが前記第2特性を発現する範囲内に含まれる前記ヘイズの所定値に対応する駆動電圧を印加することによって、前記調光シートに前記第2特性を発現させる
請求項1に記載の調光装置。
【請求項3】
前記駆動回路は、
前記第1特性を発現し、漸次的に変化するヘイズの値が、98%以上100%以下に収束し、かつ、クラリティの値が80%以下である第1状態を前記調光シートが有するための第1駆動電圧の印加と、
前記第2特性を発現し、漸次的に変化するクラリティの値が、99%以上100%以下に収束し、かつ、ヘイズの値が15%以下である第2状態を前記調光シートが有するための第2駆動電圧の印加と、を切り替え自在に構成される
請求項1または2に記載の調光装置。
【請求項4】
前記単位電圧は、5V以下である
請求項1から3のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項5】
前記調光シートは、
一対の透明電極層と、
調光層と、を備え、
前記調光層は、液晶分子を含み、前記一対の透明電極層間に位置し、
前記液晶分子の配向に応じて第1特性と第2特性とを択一的に発現する
請求項1から4のいずれか一項に記載の調光装置。
【請求項6】
択一的に発現する第1特性と第2特性とを備え、
前記第1特性において、単位電圧当たりにおけるクラリティの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおけるヘイズの値での変化量の絶対値よりも大きく、
前記第2特性において、前記単位電圧当たりにおける前記ヘイズの値での変化量の絶対値が、前記単位電圧当たりにおける前記クラリティの値での変化量の絶対値以上であり、
35Vの電圧印加時に前記ヘイズの値が15%以下であり、
12Vの電圧印加時に前記クラリティの値が90%以上であり、
前記ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠し、
前記クラリティは、調光シートを透過した光のなかで、前記調光シートに対して前記調光シートが広がる平面の法線方向に沿って入射した光の平行光の光軸に沿って直進する直進光の光量を光量Lとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Lとするときに、以下の式(1)によって算出される
100×(L-L)/(L+L) … 式(1)
調光シート。