(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144782
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】スクロール圧縮機
(51)【国際特許分類】
F04C 18/02 20060101AFI20241003BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F04C18/02 311F
F04C29/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024133270
(22)【出願日】2024-08-08
(62)【分割の表示】P 2021565492の分割
【原出願日】2020-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019229887
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】兵藤 章史
(72)【発明者】
【氏名】作田 淳
(72)【発明者】
【氏名】今井 悠介
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 敏
(57)【要約】
【課題】オルダムリングと、オルダムリングと接触する軸受け部材或いは旋回スクロールとの接触面を小さくして摺動損失の低減を図ることができるとともに、オルダムリング周辺に存在する冷凍機油の流動性を上げて粘性抵抗を低減できるため、高効率なスクロール圧縮機を実現できる。
【解決手段】スクロール圧縮機は、旋回スクロールの自転を防止するオルダムリング17を備え、オルダムリング17は環状部17aの軸方向上面に環状部17aの内周と外周とを連通させる上部環状部連通路17dを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器内に配置され、冷媒を圧縮する圧縮機構部であって、固定スクロールと、旋回スクロールと、前記旋回スクロールを旋回駆動する回転軸と、を有する圧縮機後部と、
前記密閉容器内に配置され、前記圧縮機構部を駆動する電動機構部と、
を備えたスクロール圧縮機であって、
前記固定スクロールは、円板状の固定スクロール鏡板と、前記固定スクロール鏡板の正面に配置された固定渦巻きラップと、を有し、
前記旋回スクロールは、円板状の旋回スクロール鏡板と、前記旋回スクロール鏡板の正面に配置された旋回渦巻きラップと、を有し、
前記スクロール圧縮機は、前記旋回スクロール鏡板の背面に配置されて前記旋回スクロールの自転を防止するオルダムリングを有し、
前記オルダムリングは、環状部と、前記環状部の軸方向上面及び軸方向下面のうち一方に配置されて前記環状部の軸方向に突出する、一対の第1のキー部及び一対の第2のキー部と、を有し、
前記オルダムリングの前記環状部の前記軸方向上面及び前記軸方向下面の少なくとも一方に、前記環状部の内周と外周とを連通させる環状部連通路が配置された、
スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記オルダムリングの前記第1のキー部又は前記第2のキー部の側面に、前記オルダムリングの進行方向と略平行で、かつ、前記オルダムリングの内周と外周とを連通させるキー部連通路が配置された、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記オルダムリングの環状部の軸方向上面に前記環状部の内周と外周を連通させる上部環状部連通路が配置され、
前記オルダムリングの前記環状部の軸方向下面に前記環状部の内周と外周とを連通させる下部環状部連通路が配置され、
前記上部環状部連通路及び前記下部環状部連通路は、前記上部環状部連通路の最も深い部分の深さDuと前記下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdとがDu<Ddとなるように構成された、
請求項1または請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記第1キー部は前記固定スクロールと嵌合し、前記第2キー部は前記旋回スクロールと嵌合し、
前記上部環状部連通路は、前記第2のキー部の各々を直線で結ぶ方向と略平行に形成され、
前記下部環状部連通路は、前記第1のキー部の各々を直線で結ぶ方向と略平行に形成されている、
請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdと、前記オルダムリングの環状部の連通路の存在する部分を除いた最も薄い部分の厚さDtとが、Dt/10≦Dd≦Dt/2となるように構成された、
請求項3または請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdが、前記上部環状部連通路の最も深い部分の深さDuの2倍以上となるように構成された、
請求項3または請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記密閉容器は、内部が高圧の作動流体で満たされるように構成された、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【請求項8】
前記スクロール圧縮機は、前記旋回スクロールの背面に中間圧領域を有し、前記旋回スクロールが前記中間圧領域の圧力により前記固定スクロールに押し付けられるように構成された、
請求項1~7のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、特に空気調和機、給湯器又は冷蔵庫等の冷凍機に用いられる、スクロール圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、空気調和機等に用いられているスクロール圧縮機を開示する。このスクロール圧縮機は、固定スクロールに対して旋回スクロールが旋回運動することで冷媒の圧縮を行うように構成されている。旋回スクロールの自転を防止する機構として、オルダムリングが用いられている。オルダムリングは、軸受け部材及び旋回スクロールと摺動する。このため、摺動損失の低減による高効率化、又は摺動による騒音の抑制等を実現する手法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、オルダムリングを用いた圧縮機について、高効率化をより一層進めたスクロール圧縮機を提供する。
【0005】
本開示のスクロール圧縮機は、旋回スクロールの自転を防止するオルダムリングを備え、オルダムリングは環状部の軸方向上面あるいは軸方向下面の少なくとも一方に、環状部の内周と外周とを連通させる環状部連通路が設けられた構成としてある。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施の形態1におけるスクロール圧縮機の縦断面図
【
図2】同スクロール圧縮機の固定スクロールを示す上面図
【
図3】同スクロール圧縮機の旋回スクロールを示す背面図
【
図4】同スクロール圧縮機のオルダムリングを示す上面図
【
図5】同スクロール圧縮機のオルダムリングを示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本開示の基礎となった知見等)
発明者らが本開示に想到するに至った当時、スクロール圧縮機は、特許文献1に記載されているように、オルダムリングを用いて旋回スクロールの自転を防止しているが、このオルダムリングと軸受け部材又は旋回スクロールとの間には摺動損失が生じる。また、オルダムリングの近傍には冷凍機油が存在しており、冷凍機油の粘性による抵抗が圧縮機の高効率化に対する障害となっている。このことから、発明者等は、圧縮機の高効率化にはオルダムリングと軸受け部材又は旋回スクロールとの間の摺動損失を低減すると同時に、冷凍機油の粘性抵抗を低減することも必要になることを見出し、これを解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0008】
本開示は、オルダムリングと軸受け部材又は旋回スクロールとの間の摺動損失を低減すると同時に、冷凍機油の粘性抵抗を低減して効率を高めたスクロール圧縮機を提供する。
【0009】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0010】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0011】
(実施の形態1)
以下、
図1~
図5を用いて、実施の形態1を説明する。
【0012】
[1-1.構成]
図1に示すように、スクロール圧縮機100は、密閉容器1内に、冷媒を圧縮する圧縮機構部10と、圧縮機構部10を駆動する電動機構部20と、が配置されて構成されている。
【0013】
密閉容器1は、上下方向に沿って延びる円筒状に形成された胴部1aと、胴部1aの下部開口を塞ぐ下蓋1bと、胴部1aの上部開口を塞ぐ上蓋1cと、で構成されている。
【0014】
密閉容器1には、圧縮機構部10に冷媒を導入する冷媒吸込管2と、圧縮機構部10にて圧縮された冷媒を密閉容器1の外に吐出する冷媒吐出管3と、が設けられている。
【0015】
圧縮機構部10は、固定スクロール11と、旋回スクロール12と、旋回スクロール12を旋回駆動する回転軸13と、を有している。
【0016】
電動機構部20は、密閉容器1に固定されたステータ21と、ステータ21の内側に配置されたロータ22と、を備える。ロータ22には回転軸13が固定される。回転軸13の上端には、回転軸13に対して偏心した偏心軸13aが形成されている。
【0017】
固定スクロール11及び旋回スクロール12の下方には、固定スクロール11及び旋回スクロール12を支持する主軸受30が設けられている。
【0018】
主軸受30には、回転軸13を軸支する軸受部31と、ボス収容部32と、が構成されている。主軸受30は、溶接又は焼き嵌め等によって密閉容器1に固定される。回転軸13の下端部13bは、密閉容器1の下部に配置された副軸受18に軸支されている。
【0019】
固定スクロール11は、円板状の固定スクロール鏡板11aと、固定スクロール鏡板11aから立設された渦巻状の固定渦巻きラップ11bと、固定渦巻きラップ11bの周囲を取り囲むように立設された外周壁部11cと、を備える。固定スクロール鏡板11aの略中心部に吐出ポート14が形成されている。
【0020】
旋回スクロール12は、円板状の旋回スクロール鏡板12aと、旋回スクロール鏡板12aのラップ側端面から立設された旋回渦巻きラップ12bと、旋回スクロール鏡板12aの反ラップ側端面(旋回スクロール鏡板12aのラップ側端面と反対側の面)に形成された円筒状のボス部12cと、を備えている。旋回スクロール鏡板12aの背面には、旋回スクロール12の自転を防止するオルダムリング17が配置されている。
【0021】
固定スクロール11の固定渦巻きラップ11bと旋回スクロール12の旋回渦巻きラップ12bとは相互に噛み合わされ、固定渦巻きラップ11bと旋回渦巻きラップ12bとの間に複数の圧縮室15が形成される。
【0022】
ボス部12cは、旋回スクロール鏡板12aの略中央に形成される。偏心軸13aはボス部12cに挿入され、ボス部12cはボス収容部32に収容される。
【0023】
固定スクロール11は、外周壁部11cで複数本のボルト(図示せず)を用いて主軸受30に固定される。一方、旋回スクロール12は、旋回スクロール12の自転を防止するオルダムリング17を介して固定スクロール11に支持されている。旋回スクロール12の自転を防止するオルダムリング17は、固定スクロール11と主軸受30との間に設けられている。これにより、旋回スクロール12は、固定スクロール11に対して自転しないで旋回運動をする。
【0024】
密閉容器1の底部には、潤滑油を貯留する貯油部4が形成されている。回転軸13の下端には容積型の冷凍機油ポンプ5が設けられている。冷凍機油ポンプ5は、冷凍機油ポンプ5の吸い込み口が貯油部4内に存在するように配置される。冷凍機油ポンプ5は、回転軸13によって駆動され、密閉容器1の底部に設けられた貯油部4にある潤滑油を、圧力条件や運転速度に関係なく確実に吸い上げるので、冷凍機油切れの心配が解消される。
【0025】
回転軸13には、回転軸13の下端部13bから偏心軸13aに至る回転軸冷凍機油供給孔13cが形成されている。
【0026】
冷凍機油ポンプ5で吸い上げられた潤滑油は、回転軸13内に形成された回転軸冷凍機油供給孔13cを通じて、副軸受18の軸受、軸受部31及びボス部12c内に供給される。
【0027】
冷媒吸込管2から吸入される冷媒は、吸入ポート15aから圧縮室15に導かれる。圧縮室15は、外周側から中央部に向かって容積を縮めながら移動する。圧縮室15で所定の圧力に到達した冷媒は、固定スクロール11の中央部に設けられた吐出ポート14から吐出室6に吐出される。吐出ポート14には吐出リード弁(図示せず)が設けられている。圧縮室15で所定の圧力に到達した冷媒が吐出リード弁を押し開くことで、冷媒が吐出室6に吐出される。吐出室6に吐出された冷媒は、密閉容器1内の上部に導出され、冷媒吐出管3から吐出される。
【0028】
図2~
図5は、旋回スクロール12の自転を防止する自転防止機構を示している。自転防止機構は、固定スクロール11の固定スクロール上面11dに設けられた固定スクロールキー溝11e(
図2参照)と、旋回スクロール12の旋回スクロール背面12dに設けられた旋回スクロールキー溝12e(
図3参照)と、
図4および
図5に示すオルダムリング17と、によって構成されている。
【0029】
図4に示すように、オルダムリング17は、環状部17aと、第1のキー部17bと、第2のキー部17cと、を備えている。本実施の形態の例では、第1のキー部17bは、環状部17aの軸方向上面に配置されて環状部17aの軸方向に突出する一対のキー部である。第2のキー部17cは、環状部17aの軸方向上面に配置されて環状部17aの軸方向に突出する他の一対のキー部である。第1のキー部17bは、固定スクロールキー溝11eと嵌合するとともに固定スクロールキー溝11eと摺動する。第2のキー部17cは、旋回スクロールキー溝12eと嵌合するとともに旋回スクロールキー溝12eと摺動する。環状部17aの軸方向上面は旋回スクロール背面12dと摺動し、環状部17aの軸方向下面は軸受部31と摺動する。
【0030】
図4及び
図5に示すように、オルダムリング17の環状部17aの軸方向上面に、環状部17aの内周と外周とを連通させる上部環状部連通路17dが形成されている。オルダ ムリング17の環状部17aの軸方向下面に、環状部17aの内周と外周とを連通させる下部環状部連通路17e(
図4では破線で示す)が形成されている。オルダムリング17の環状部17aの第1のキー部17bまたは第2のキー部17c、もしくは、第1のキー部17b及び第2のキー部17cの両方に、キー部の内周と外周とを連通させるキー部連通路17f(
図5参照)が形成されている。
【0031】
オルダムリング17の上部環状部連通路17dは、一対の第2のキー部17cを直線で結ぶ方向と略平行に形成されている。下部環状部連通路17eは、一対の第1のキー部17bを直線で結ぶ方向と略平行に形成されている。すなわち、上部環状部連通路17d及び下部環状部連通路17eは、オルダムリング17の進行方向と略平行になるように形成されている。
【0032】
本実施の形態の例では、オルダムリング17の環状部17aに設けられた上部環状部連通路17d及び下部環状部連通路17eは、上部環状部連通路17dの最も深い部分の深さDuと下部環状部連通路17eの最も深い部分の深さDdとの関係が、Du<Ddとなるように形成されている。更にこの実施の形態では、下部環状部連通路17eは、連通路(本実施の形態では、上部環状部通路部17d及び下部環状部連通路17e)の存在する部分を除いた環状部17aの最も薄い部分における厚さDtに対して、下部環状部連通路17eの最も深い部分の深さDdが、Dt/10≦Dd≦Dt/2となるように形成されている。
【0033】
[1-2.動作]
以上のように構成されたスクロール圧縮機100について、以下その動作、作用について説明する。
【0034】
上記構成のスクロール圧縮機100は、オルダムリング17の環状部17aの上面に上部環状部連通路17dが設けられている。また、オルダムリング17の環状部17aの下面に下部環状部連通路17eが設けられている。従って、上部環状部連通路17dと旋回スクロール背面12dとの接地面(接触面)および下部環状部連通路17eと軸受部31との接地面(接触面)を小さくすることができるため、摺動損失を低減できる。また、上部環状部連通路17d及び下部環状部連通路17eを備えることで、上部環状部連通路17dと旋回スクロール背面12dとの接触面及び下部環状部連通路17eと軸受部31との接触面に存在する冷凍機油の流れが円滑化され、冷凍機油の粘性抵抗が低減される。オルダムリング17のキー部側面に、オルダムリング17の進行方向と略平行で、かつ、オルダムリング17の内周と外周とを連通させるキー部連通路17fが形成されているので、冷凍機油の流れを更に円滑化し、冷凍機油の粘性抵抗を低減させることができる。
【0035】
また、本実施の形態では、上部環状部連通路17d及び下部環状部連通路17eは、オルダムリング17の旋回運動と略同じ方向に沿って形成されている。このため、冷凍機油の流れを円滑化させることができ、冷凍機油の粘性抵抗の低減効果を高めることができる。例えば、上部環状部連通路17dを流れる冷凍機油は旋回スクロール12から相対的に見ると、旋回スクロール12の旋回運動と同方向に流れるようになる。また、下部環状部連通路17eを流れる冷凍機油は軸受部31から相対的に見ると、旋回スクロール12の旋回運動と同方向に流れるようになる。このように、冷凍機油が旋回運動と同方向に流れるようになるので、冷凍機油の流れが円滑なものとなり、冷凍機油の粘性抵抗の低減効果が期待できる。
【0036】
なお、環状部17aに設けられる環状部連通路は、上部環状部連通路17d及び下部環状部連通路17eのいずれか一方のみであってもよい。この場合においても、効果は半減するものの、摺動抵抗低減の効果及び冷凍機油の粘性抵抗低減の効果を得ることができ、スクロール圧縮機の高効率化を実現することができる。
【0037】
上部環状部連通路17d及び下部環状部連通路17eの両方が設けられた本実施の形態において、オルダムリング17の環状部17aに設けられた上部環状部連通路17dの最も深い部分の深さDuと下部環状部連通路17eの最も深い部分の深さDdとがDu<Ddとなるように、上部環状部連通路17d及び下部環状部連通路17eが構成されている。このため、冷凍機油の流動性をより向上させることができる。すなわち、圧縮機の運転中、冷凍機油は自重によって鉛直下向きの流れになるため、冷凍機油はオルダムリング17の下部に存在する可能性が高い。そのため、Du<Dd、つまり下部環状部連通路17eを深くしておくことでオルダムリング17下部の冷凍機油の流動性を上げ、冷凍機油の粘性抵抗を低減させることができる。よって、粘性損失低減の効果を効率的に向上させることができる。
【0038】
特にオルダムリング17の下部環状部連通路17eの最も深い部分の深さDdを上部環状部連通路17dの最も深い部分の深さDuの2倍以上となるようにした場合には、冷凍機油の自重の影響を吸収して冷凍機油の流動性を十分に高めることができ、より高い粘性損失低減の効果を得ることができる。
【0039】
本実施の形態のスクロール圧縮機100では、圧縮機の密閉容器内が高圧の作動流体で満たされている。内部高圧型の圧縮機の場合、オルダムリング17は軸受部31と固定スクロール11とに挟まれた空間に配置されている。高圧型のスクロール圧縮機では軸受部31と固定スクロール11とに挟まれた空間にオルダムリング17が存在するため、低圧型のスクロール圧縮機と比較してオルダムリング17の近傍に冷凍機油がたまりやすくなる。このため、高圧型のスクロール圧縮機においては、低圧型のスクロール圧縮機の場合に比べて粘性損失低減の効果が高いものとなる。
【0040】
本実施の形態のスクロール圧縮機100では、旋回スクロール背面12dを吐出圧力と吸入圧力の間の圧力(中間圧力)領域としており、中間圧力によって旋回スクロール12が固定スクロール11に押し付けられる構成となっている。中間圧力領域を設けることで、オルダムリング17周辺も中間圧力領域となり、オルダムリング17周辺の周辺が低圧空間である場合に比べてオルダムリング17周辺の冷凍機油量が増加する。そのため、低圧型の場合に比べて粘性損失低減の効果が高いものとなる。なお、スクロール圧縮機100は、上述の中間圧力と、中間圧力よりも低い低圧及び中間圧力よりも高い高圧の少なくともいずれかの圧力と、が旋回スクロール背面12dに作用するように構成されていてもよい。すなわち、スクロール圧縮機100は、旋回スクロール背面12dに少なくとも中間圧力が作用する構成であればよい。
【0041】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態におけるスクロール圧縮機は、オルダムリングの環状部の軸方向上面及び軸方向下面の少なくとも一方に、環状部の内周と外周とを連通させる環状部連通路が形成されている。このため、オルダムリングと接地(接触)する軸受け部材及び/又は旋回スクロールとオルダムリングとの接地面(接触面)が小さくなり、摺動損失の低減を図ることができる。また、連通路を介してオルダムリング周辺に存在する冷凍機油の流動性を上げて粘性抵抗を低減することもできるため、高効率なスクロール圧縮機を実現することができる。
【0042】
スクロール圧縮機においては、環状部連通路がオルダムリングの上下の両面に設けられるとともに、上部環状部連通路の最も深い部分の深さDuと下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdとの関係がDu<Ddとなるように構成されていてもよい。これにより、オルダムリング下部の冷凍機油の流動性を上げて、冷凍機油の粘粘性損失低減の効果を高めることができる。
【0043】
スクロール圧縮機においては、オルダムリングのキー部側面に、オルダムリングの進行方向と略平行で、かつ、オルダムリングの内周と外周とを連通させるキー部連通路が形成されていてもよい。これにより、キー部連通路を介して冷凍機油の流れを円滑化して、冷凍機油の粘性抵抗を低減させることができる。
【0044】
スクロール圧縮機においては、上部環状部連通路及び下部環状部連通路の両方がオルダムリングの進行方向と略平行に形成されていてもよい。これにより、冷凍機油が旋回運動と同方向に流れることにより冷凍機油の流れが円滑なものとなり、冷凍機油の粘性抵抗低減の効果を高めることができる。
【0045】
スクロール圧縮機においては、下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdが、連通路の存在する部分を除いたオルダムリングの環状部の最も薄い部分の厚さDtに対して、Dt/10≦Dd≦Dt/2となるように構成されていてもよい。これにより、冷凍機油の流動性が高まり、より高い粘性損失低減効果が期待できる。
【0046】
スクロール圧縮機においては、下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdを、上部環状部連通路の最も深い部分の深さDuの2倍以上としてもよい。これにより、冷凍機油の流動性を十分に高めることができ、より高い粘性損失低減の効果を得ることができる。
【0047】
以上、本開示について上記実施の形態を用いて説明したが、上記実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、又は省略などを行うことができる。
【0048】
なお、本開示のスクロール圧縮機の冷媒としては、R32、二酸化炭素、又は炭素間に二重結合を有する冷媒を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示にかかるスクロール圧縮機は、摺動損失の低減及び冷凍機油の粘性抵抗の低減により高効率化を図ることができるため、温水暖房装置、空気調和装置、給湯器、又は冷凍機などの冷凍サイクル装置に有用である。
【符号の説明】
【0050】
1 密閉容器
1a 胴部
1b 下蓋
1c 上蓋
2 冷媒吸込管
3 冷媒吐出管
4 貯油部
5 冷凍機油ポンプ
6 吐出室
10 圧縮機構部
11 固定スクロール
11a 固定スクロール鏡板
11b 固定渦巻きラップ
11c 外周壁部
11d 固定スクロール上面
11e 固定スクロールキー溝
12 旋回スクロール
12a 旋回スクロール鏡板
12b 旋回渦巻きラップ
12c ボス部
12d 旋回スクロール背面
12e 旋回スクロールキー溝
13 回転軸
13a 偏心軸
13b 下端部
13c 回転軸冷凍機油供給孔
14 吐出ポート
15 圧縮室
15a 吸入ポート
17 オルダムリング
17a 環状部
17b 第1のキー部(キー部)
17c 第2のキー部(キー部)
17d 上部環状部連通路
17e 下部環状部連通路
17f キー部連通路
18 副軸受
20 電動機構部
21 ステータ
22 ロータ
30 主軸受
31 軸受部
32 ボス収容部
100 スクロール圧縮機
【手続補正書】
【提出日】2024-08-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器と、
前記密閉容器内に配置され、冷媒を圧縮する圧縮機構部であって、固定スクロールと、旋回スクロールと、前記旋回スクロールを旋回駆動する回転軸と、を有する圧縮機後部と、
前記密閉容器内に配置され、前記圧縮機構部を駆動する電動機構部と、
を備え、
前記密閉容器は、内部が高圧の作動流体で満たされるように構成されたスクロール圧縮機であって、
前記固定スクロールは、円板状の固定スクロール鏡板と、前記固定スクロール鏡板の正面に配置された固定渦巻きラップと、を有し、
前記旋回スクロールは、円板状の旋回スクロール鏡板と、前記旋回スクロール鏡板の正面に配置された旋回渦巻きラップと、を有し、
前記スクロール圧縮機は、前記旋回スクロール鏡板の背面に配置されて前記旋回スクロールの自転を防止するオルダムリングを有し、
前記オルダムリングは、環状部と、前記環状部の軸方向上面及び軸方向下面のうち一方に配置されて前記環状部の軸方向に突出する、一対の第1のキー部及び一対の第2のキー部と、を有し、
前記オルダムリングの前記環状部の前記軸方向上面及び前記軸方向下面の少なくとも一方に、前記環状部の内周と外周とを連通させる環状部連通路が配置され、
前記環状部連通路は、前記オルダムリングの旋回運動と同じ方向に沿って形成され、
前記環状部連通路では、冷凍機油が前記旋回スクロールの旋回運動と同方向に流れる
スクロール圧縮機。
【請求項2】
前記オルダムリングの前記第1のキー部又は前記第2のキー部の側面に、前記オルダムリングの進行方向と略平行で、かつ、前記オルダムリングの内周と外周とを連通させるキー部連通路が配置された、
請求項1に記載のスクロール圧縮機。
【請求項3】
前記オルダムリングの環状部の軸方向上面に前記環状部の内周と外周を連通させる上部環状部連通路が配置され、
前記オルダムリングの前記環状部の軸方向下面に前記環状部の内周と外周とを連通させる下部環状部連通路が配置され、
前記上部環状部連通路及び前記下部環状部連通路は、前記上部環状部連通路の最も深い部分の深さDuと前記下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdとがDu<Ddとなるように構成された、
請求項1または請求項2に記載のスクロール圧縮機。
【請求項4】
前記第1キー部は前記固定スクロールと嵌合し、前記第2キー部は前記旋回スクロールと嵌合し、
前記上部環状部連通路は、前記第2のキー部の各々を直線で結ぶ方向と略平行に形成され、
前記下部環状部連通路は、前記第1のキー部の各々を直線で結ぶ方向と略平行に形成されている、
請求項3に記載のスクロール圧縮機。
【請求項5】
前記下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdと、前記オルダムリングの環状部の連通路の存在する部分を除いた最も薄い部分の厚さDtとが、Dt/10≦Dd≦Dt/2となるように構成された、
請求項3または請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項6】
前記下部環状部連通路の最も深い部分の深さDdが、前記上部環状部連通路の最も深い部分の深さDuの2倍以上となるように構成された、
請求項3または請求項4に記載のスクロール圧縮機。
【請求項7】
前記スクロール圧縮機は、前記旋回スクロールの背面に中間圧領域を有し、前記旋回スクロールが前記中間圧領域の圧力により前記固定スクロールに押し付けられるように構成された、
請求項1~6のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。