(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144785
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、基材の製造方法及び基材
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20241007BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241007BHJP
C03C 17/34 20060101ALI20241007BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/24 301C
C03C17/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140357
(22)【出願日】2021-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】516065135
【氏名又は名称】株式会社IHI物流産業システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】深谷 重一
(72)【発明者】
【氏名】中田 泰詩
(72)【発明者】
【氏名】青山 哲平
(72)【発明者】
【氏名】中田 昌一
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬晃
(72)【発明者】
【氏名】三幣 康太
(72)【発明者】
【氏名】三條 夕介
【テーマコード(参考)】
4D075
4G059
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA37
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4G059GA11
(57)【要約】
【課題】製造ライン、運搬ラインにおいて、基材に由来する異物が付着しにくい保護皮膜を形成可能な積層体の製造方法、基材の製造方法及び基材を提供する。
【解決手段】基材に、2種類以上の異なる組成を有する保護皮膜形成用水溶液をそれぞれ塗布して、複層皮膜を形成する皮膜形成工程を含む、基材及び複層皮膜を有する積層体の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、2種類以上の異なる組成を有する保護皮膜形成用水溶液をそれぞれ塗布して、複層皮膜を形成する皮膜形成工程を含む、基材及び複層皮膜を有する積層体の製造方法。
【請求項2】
複層皮膜は、接着性、保護性及び剥離性からなる群から選択される少なくとも1種を調整することができる、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
2種類以上の異なる組成を有する保護皮膜形成用水溶液の塗布を連続して行う、請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
皮膜形成工程において、基材の温度が0℃以上400℃以下である、請求項1~3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
基材を形成する基材形成工程を含み、基材形成工程と皮膜形成工程を連続して行う、請求項1~4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は可塑剤及び水を含有する、請求項1~5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、ポリビニルアルコール樹脂及び水を含有する、請求項1~6のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、ポリビニルアルコール樹脂を含まないか、又は、第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量は、第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量よりも少ない、請求項1~7のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液の可塑剤含有量は、第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液の可塑剤含有量よりも多い、請求項1~8のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、可塑剤含有量が0.1~80重量%、水含有量が20~99.9重量%である、請求項1~9のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、ポリビニルアルコール樹脂含有量が0.1~50重量%、可塑剤含有量が0.1~50重量%、水含有量が10~99.8重量%である、請求項1~10のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の積層体の製造方法、及び、複層皮膜を基材から除去する除去工程を含む、基材の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の基材の製造方法により得られる基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法、基材の製造方法及び基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、板ガラス等の基材は、光学表示装置の表面層や基板、窓ガラス等に幅広く利用されており、特に、光学表示装置等の基板用途においては、該基材表面の汚れや粉塵等を除去する必要があり、例えば、予め強いアルカリ水溶液等で洗浄したり、高温で処理して表面の汚染分を焼き飛ばし洗浄したりすることで清浄な状態を実現している。
これに対して、例えば、特許文献1には、ガラス基材の保護膜として、平均重合度600以下、鹸化度40モル%以上のポリビニルアルコールを用いることが記載されている。
また、特許文献2には、ガラス基材の表面をポリビニルアルコール系フィルムで被覆して保護する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-226537号公報
【特許文献2】特開2006-327881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高精彩液晶用のガラス等の基材については、薄膜化が進むことで、表面付着異物の管理基準が大幅に厳しくなっている。特に、基材の製造ライン及び運搬ラインにおいて、基材のカットカレット等の異物の基材表面への付着が問題となっている。
【0005】
本発明は、製造ライン、運搬ラインにおいて、異物の付着を抑制することができる保護皮膜を形成可能な積層体の製造方法、基材の製造方法及び基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材に、2種類以上の異なる組成を有する保護皮膜形成用水溶液をそれぞれ塗布して、複層皮膜を形成する皮膜形成工程を含む、基材及び複層皮膜を有する積層体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、2種類以上の異なる組成を有する保護皮膜形成用水溶液をそれぞれ塗布して複層皮膜を形成することで、製造ライン、運搬ラインにおいて、基材に由来する異物が付着しにくい保護皮膜を形成することが可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明の積層体の製造方法は、基材に、2種類以上の異なる組成を有する保護皮膜形成用水溶液をそれぞれ塗布して、複層皮膜を形成する皮膜形成工程を含む。
これにより、上記複層皮膜は、接着性、保護性及び剥離性からなる群から選択される少なくとも1種を調整することができる。
【0009】
上記皮膜形成工程では、2種類以上の異なる組成を有する保護皮膜形成用水溶液の塗布を連続して行うことが好ましい。この場合、皮膜同士の接着性が高めることができ、同時に基材からの剥離性にも優れた複層皮膜を形成することができる。
また、塗布を連続して行う場合は、第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布した後、第2に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布する方法、第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布した後、2回以上の複数回に保護皮膜形成用水溶液を塗布する方法等が挙げられる。
なお、本明細書では、第2に塗布する保護皮膜形成用水溶液、又は、第2以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のいずれかのことを「第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれか」という。
【0010】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は可塑剤及び水を含有することが好ましい。
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、可塑剤を含有することで、保護皮膜の靭性を向上させることができる。また、上記可塑剤を含有することで、保護皮膜の水に対する溶解性を向上させることもできる。更に、上記可塑剤を含有することで、保護皮膜の基材からの剥離を向上させることもできる。
【0011】
上記可塑剤としては、特に制限はなく、例えば、多価アルコール、ポリエーテル、フェノール誘導体、アミド化合物等が挙げられる。また、多価アルコールにエチレンオキサイドを付加した化合物を挙げることができる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を用いてもよい。
【0012】
上記多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
上記ポリエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
上記フェノール誘導体としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS等が挙げられる。上記アミド化合物としては、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
なかでも、グリセリン、ジグリセリン、ジエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましく、グリセリン及びジグリセリンからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが更に好ましく、ジグリセリンを用いることが更により好ましい。
【0013】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、上記可塑剤含有量が0.1~80重量%であることが好ましい。上記可塑剤含有量が上記範囲内であると、基材表面の親水性を制御し、皮膜形成を均一に行えて、更に保護皮膜のガラスへの接着強度を抑制することができる。
上記可塑剤含有量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は70重量%である。更に好ましい下限は1重量%、更に好ましい上限は60重量%である。更により好ましい下限は1.5重量%、更により好ましい上限は50重量%である。特に好ましい下限は2重量%、特に好ましい上限は40重量%である。特により好ましい下限は2.5重量%、特により好ましい上限は30重量%である。
【0014】
また、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液にポリビニルアルコール樹脂が含まれている場合は、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液の可塑剤含有量は、第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のいずれかの可塑剤含有量よりも多いことが好ましい。上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液の可塑剤含有量は、第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液の可塑剤含有量よりも多いことがより好ましい。
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液の可塑剤含有量と、上記第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液の可塑剤含有量との差は、0.1~80重量%であることが好ましい。
より好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は70重量%である。更に好ましい下限は1重量%、更に好ましい上限は60重量%である。更により好ましい下限は1.5重量%、更により好ましい上限は50重量%である。特に好ましい下限は2重量%、特に好ましい上限は40重量%である。特により好ましい下限は2.5重量%、特により好ましい上限は30重量%である。
【0015】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、ポリビニルアルコール樹脂100重量部に対して、上記可塑剤を1重量部以上、1000重量部以下含有することが好ましい。上記可塑剤の含有量が上記範囲内であると、保護皮膜のガラスへの接着強度を抑制することができる。上記可塑剤含有量のより好ましい下限は3重量部、より好ましい上限は750重量部である。更に好ましい下限は5重量部、更に好ましい上限は500重部である。更により好ましい下限は10重量%、更により好ましい上限は250重量%である。特に好ましい下限は15重量%、特に好ましい上限は100重量%である。特により好ましい下限は5重量%、特により好ましい上限は75重量%である。
【0016】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、水を含有することが好ましい。
上記水としては特に限定されず、例えば、イオン交換水、純水等が挙げられる。これらは、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0017】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、上記水含有量が20~99.9重量%であることが好ましい。上記水含有量が上記範囲内であると、均一な皮膜形成を行うことができる。
上記水含有量のより好ましい下限は30重量%、より好ましい上限は99.5重量%である。更に好ましい下限は40重量%、更に好ましい上限は99.0重量%である。更により好ましい下限は50重量%、更により好ましい上限は98.5重量%である。特に好ましい下限は60重量%、特に好ましい上限は98.0重量%である。特により好ましい下限は70重量%、特により好ましい上限は98.0重量%である。
【0018】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、ポリビニルアルコール樹脂等の水溶性樹脂を含んでもよい。本発明の好適な実施態様において、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、ポリビニルアルコール樹脂を含まないか、又は、第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量は、第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量よりも少ないことが好ましい。
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、ポリビニルアルコール樹脂を含まないか、又は、第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量は、第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量よりも少ない場合、保護皮膜の基材層からの剥離性を更に高めることができる。
上記ポリビニルアルコール樹脂を用いることで、保護皮膜の強度を向上することが可能となる。また、土中生分解性を付与することができる。
【0019】
上記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、好ましい下限が50モル%、好ましい上限が99.5モル%である。上記範囲内とすることで、均一な水溶液が作製でき、製膜のできる水溶液を作製とすることができる。
上記ケン化度のより好ましい下限は60モル%、更に好ましい下限は70モル%、特に好ましい下限は80モル%である。より好ましい上限は99モル%である。更に好ましい上限は95モル%である。特に好ましい上限は90モル%である。
水溶液化及び、常温での水溶液の貯蔵安定性の観点から上記ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は98モル%以上ではなく、98モル%以下の中ケン化が好ましく、特に90モル%以下の部分ケン化品が好ましい。
なお、上記ケン化度は、JIS K6726に準拠して測定される。ケン化度は、ケン化によるビニルアルコール単位に変換される単位のうち、実際にビニルアルコール単位にケン化されている単位の割合の平均値を示す。
【0020】
上記ポリビニルアルコール樹脂の重合度は特に限定されないが、好ましい下限は100、好ましい上限は2500である。より好ましい下限は200、より好ましい上限は1800 である。更に好ましい下限は250、更に好ましい上限は1300、特に好ましい下限は300、特に好ましい上限は1000である。上記範囲内であると、皮膜強度と製膜性の両方を高いレベルで両立することができる。なお、上記重合度は、JIS K6726に準拠して測定される。
【0021】
上記ポリビニルアルコール樹脂は、ケン化度、重合度等が異なる2種以上の樹脂を混合したものであってもよいし、変性物と未変性物との混合物であってもよい。
【0022】
上記ポリビニルアルコール樹脂は、従来公知の方法に従って、ビニルエステルを重合してポリマーを得た後、ポリマーをケン化、すなわち加水分解することにより得られる。ケン化には、一般に、アルカリ又は酸が用いられる。ケン化には、アルカリを用いることが好ましい。上記ポリビニルアルコールとしては、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
上記ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル及び安息香酸ビニル等が挙げられる。ケン化度を好適な範囲に制御しやすいので、上記ビニルエステルを重合して得られるポリマーは、ポリビニルエステルであることが好ましい。
【0024】
上記ビニルエステルの重合方法は特に限定されない。この重合方法として、溶液重合法、塊状重合法及び懸濁重合法等が挙げられる。
【0025】
上記ビニルエステルを重合する際に用いる重合触媒としては、例えば、2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート(Tianjin McEIT社製「TrigonoxEHP」)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-ブチルペルオキシジカーボネート、ジ-セチルペルオキシジカーボネート及びジ-s-ブチルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。上記重合触媒は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記ポリビニルアルコール樹脂には、変性ポリビニルアルコール樹脂が含まれてもよい。
上記変性ポリビニルアルコール樹脂は、上記ビニルエステルと他のモノマーとの共重合体であってもよく、ポリビニルアルコール樹脂を変性させたものであってもよい。
上記変性ポリビニルアルコール樹脂としては、例えば、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、スルホン酸変性ポリビニルアルコール、オレフィン変性ポリビニルアルコール、ニトリル変性ポリビニルアルコール、アミド変性ポリビニルアルコール、ピロリドン変性ポリビニルアルコールやケイ素原子を含む変性ポリビニルアルコール、或いはポリビニルアルコールと(アクリルアミド、ビニルピロリドン、アクリロニトリル)の共重合物とのグラフト重合体等が挙げられる。
【0027】
上記他のモノマー、すなわち共重合されるコモノマーとしては、例えば、オレフィン類、(メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド誘導体、N-ビニルアミド類、ビニルエーテル類、ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、アリル化合物、マレイン酸及びその塩、マレイン酸エステル、イタコン酸及びその塩、イタコン酸エステル、ビニルシリル化合物、ポリビニルピロリドン、並びに酢酸イソプロペニル等が挙げられる。上記他のモノマーは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン及びイソブテン等が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、及び(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が挙げられる。上記(メタ)アクリルアミド誘導体としては、アクリルアミド、n-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩等が挙げられる。上記N-ビニルアミド類としては、N-ビニルピロリドン等が挙げられる。上記ビニルエーテル類としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル及びn-ブチルビニルエーテル等が挙げられる。上記ニトリル類としては、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。上記ハロゲン化ビニル類としては、塩化ビニル及び塩化ビニリデン等が挙げられる。上記アリル化合物としては、酢酸アリル及び塩化アリル等が挙げられる。上記ビニルシリル化合物としては、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
上記変性ポリビニルアルコール樹脂における変性量(変性した構成単位の割合)の好ましい上限は25モル%、より好ましい上限は20モル%である。更に好ましい上限は15モル%である。また、変性量の好ましい下限は2モル%である。上記範囲内とすることで、皮膜物性と、水溶性とを高いレベルで両立することができる。
【0030】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液がポリビニルアルコール樹脂を含有する場合、ポリビニルアルコール樹脂の含有量は、0.1~30重量%であることが好ましい。上記含有量を0.1重量%以上とすることで、被覆率の高い皮膜を形成する(基板が高温の場合、水の水蒸気化が発生するので、塗布した水溶液が破泡して、皮膜が形成され難くなることを抑制できる)ことができる。また、30重量%以下とすることによって、均一な皮膜形成を行う(濃度が高すぎると、特にケン化度の高いものは常温にて部分的にゲル化を起こすので、均一な塗布ができなくなる)ことができる。上記含有量のより好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は20重量%である。更に好ましい下限は2重量%、更に好ましい上限は15重量%である。
また、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量は、上記第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量、又は上記第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のいずれかのポリビニルアルコール樹脂含有量よりも少ないことが好ましい。この場合、皮膜の接着性、保護性、剥離を更に高めることができる。
上記第2又はそれ以降に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量と、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液のポリビニルアルコール樹脂含有量との差は、0.1~50重量%であることが好ましい。
【0031】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液には、本発明の効果を妨げない範囲で、公知の各種添加剤を配合してもよい。上記添加剤としては、界面活性剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、チタンカップリング剤、レベリング剤、チキソ付与剤、皮張り防止剤、増粘剤、希釈剤、反応性希釈剤、架橋剤、フィラー、色素(顔料、染料)、防腐、防カビ剤等が挙げられる。
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、更に、防カビ剤を含有することが好ましい。
なお、上記防カビ剤としては、アルコール系防カビ剤、アルデヒド系防カビ剤、チアゾリン系防カビ剤、イミダゾール系防カビ剤、エステル系防カビ剤、塩素系防カビ剤、過酸化物系防カビ剤、カルボン酸系防カビ剤、カーバメイト系防カビ剤、スルファミド系防カビ剤、第四アンモニウム塩系防カビ剤、ピリジン系防カビ剤、フェノール系防カビ剤、ヨウ素系防カビ剤、トリアゾール系防カビ剤等が挙げられる。
【0032】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、回転式粘度計(例:TVC-10、東機産業社製)で測定した場合の粘度が0.1mPa・s以上1Pa・s以下であることが好ましい。上記範囲内であると、均一な皮膜を形成することができる。
上記粘度のより好ましい下限は0.5mPa・s、より好ましい上限は0.5Pa・sである。更に好ましい下限は1mPa・s、更に好ましい上限は0.4Pa・sである。更により好ましい下限は1.5mPa・s、更により好ましい上限は0.3Pa・sである。
なお、上記粘度は23℃で測定したものである。
【0033】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液は、ガラス基板(SCHOTT社製 TEMPAX Float)との温度23℃、湿度60%R/Hにおける接触角が20°以上70°以下であるが好ましい。上記範囲内であると、ガラス基板上に均質な皮膜を形成しやすくなる。
上記接触角のより好ましい下限は25°、より好ましい上限は60°である。更に好ましい下限は30°、更に好ましい上限は50°である。
なお、上記接触角は接触角計により測定することができる。例として、接触角計としてDMo-502(協和界面科学株式会社製、解析ソフトFAMAS)、接触角測定基板としてガラス(テンパックス)0.5mm、測定方法としてはθ/2法(A half-angle Method)が挙げられる。
【0034】
基材に保護皮膜形成用水溶液を塗布する際の保護皮膜形成用水溶液の温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上、更により好ましくは40度以上、特に好ましくは60℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは95以下であり、更に好ましくは90℃以下であり、更により好ましくは85℃以下、特に好ましくは80℃以下である。保護皮膜形成用水溶液の温度は上記範囲内であると、保護皮膜の形成が均一かつ迅速に行われ、加工性が向上する。
【0035】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を製造する方法としては特に限定されず、例えば、可塑剤及び水に加えて、必要に応じて、ポリビニルアルコール樹脂を公知の方法で混合する方法が挙げられる。
【0036】
上記基材に第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布する工程において、塗布する方法としては、ロールコート、ディップコート、スピンコート、ファウンテンコート、スプレーによる塗布等が挙げられる。なかでも、塗布の効率性や皮膜の均一性の観点から、スプレーによる塗布が好ましい。
【0037】
上記皮膜形成工程において、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布する際の基材の温度が0℃以上400℃以下であることが好ましい。上記範囲内であると、高温の基板に塗布すると発泡体層が作製できて、低温なら塗布後に加熱乾燥で発泡体を作製することができる。
上記温度のより好ましい下限は15℃、より好ましい上限は380℃、更に好ましい下限は40℃、更に好ましい上限は360℃であり、更により好ましい下限は75℃、更により好ましい上限は340℃であり、特に好ましい下限は100℃、特に好ましい上限は320℃であり、特により好ましい下限は150℃、特により好ましい上限は300℃である。
基材温度が400℃以下であると、破泡して、カットカレット等の異物の基板表面への付着を抑制することができ、皮膜と基材の結合が適度なものとなり、除去が容易になる。基材温度が0℃以上であると、後加熱なしでも、発泡体を容易に形成できる。
【0038】
上記基材の温度を調整する方法としては、例えば、フュージョン法を用いてガラスを成形する場合は、溶融ガラスを除冷する工程において、塗布する方法が挙げられる。また、固化後のガラスを用いる場合はガラスを加熱する方法が挙げられる。上記温度は塗布時での基材表面の温度を意味する。
なお、上記皮膜形成工程において、基材の状態としては特に限定されず、例えば、ガラスが成形され、固化する前の状態のほか、ガラスが固化した後の状態も含む。
また、上記基材は、必要に応じて、研磨されていてもよく、表面処理されていてもよい。
【0039】
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布する際の厚みの好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は100μmである。発泡体の厚み上記範囲内であれば、発泡体層を剥離する事も水溶させる事も可能になる。上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布する際の厚みはより好ましい下限が1μm、より好ましい上限が80μmである。更に好ましい下限が1.5μm、更に好ましい上限が60μm、更により好ましい下限が2.0μm、更により好ましい上限が40μm、特に好ましい下限が2.5μm、特に好ましい上限が30μm特により好ましい上限が3μm、特により好ましい上限が25μmである。
【0040】
上記皮膜形成工程では、第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布した後、第2に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布する方法、第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布した後、2回以上の複数回に保護皮膜形成用水溶液を塗布する方法を用いることが好ましい。
上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布した後、更に、第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液を塗布することで、保護皮膜付き積層体基板を重ね合わせた場合のブロッキング防止性を更に向上することができ、また、剥離性を向上させることができる。
【0041】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、ポリビニルアルコール樹脂、可塑剤及び水を含有することが好ましい。上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかを構成するポリビニルアルコール樹脂、可塑剤及び水としては、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液と同様のものを使用することができる。
【0042】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかにおけるポリビニルアルコール樹脂の含有量は、0.1~50重量%であることが好ましい。上記含有量を0.1重量%以上とすることで、被覆率が高い皮膜を形成することができ、50重量%以下とすることによって、均一な塗布を行えて均一な皮膜を形成することができる。上記含有量のより好ましい下限は1重量%、より好ましい上限は40重量%である。更に好ましい下限は3重量%、更に好ましい上限は35重量%であり、更により好ましい下限は5重量%であり、更により好ましい上限は30重量%であり、特に好ましい下限は8重量%であり、特に好ましい上限は25重量%である。
【0043】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、上記可塑剤含有量が0.1~50重量%であることが好ましい。上記可塑剤含有量が上記範囲内であると、ガラス表面の親水性を制御し、皮膜形成を均一に行うことができる。
上記可塑剤含有量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は40重量%である。
更に好ましい下限は1.0重量%、更に好ましい上限は30重量%である。更により好ましい下限は1.5重量%、更により好ましい上限は25.0重量%である。特に好ましい下限は3.0重量%、特に好ましい上限は20.0重量%である。特により好ましい下限は5.0重量%、特により好ましい上限は15.0重量%である。
【0044】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、ポリビニルアルコール樹脂100重量部に対して、上記可塑剤を0.25重量部以上、50000重量部以下含有することが好ましい。上記可塑剤の含有量が上記範囲内であると、皮膜に靭性を付与することができる。
上記可塑剤含有量のより好ましい下限は1.25重量部、より好ましい上限は40000重量部である。
更に好ましい下限は2.5重量部、更に好ましい上限は30000重量部である。更により好ましい下限は3.75重量部、更により好ましい上限は25000重量部である。特に好ましい下限は7.5重量部、特に好ましい上限は20000重量部である。特により好ましい下限は12.5重量部、特により好ましい上限は15000重量部である。
【0045】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、上記水含有量が10~99.8重量%であることが好ましい。上記水含有量が上記範囲内であると、基材表面に均一な塗布して均質な皮膜を作製することができる。
水溶液中の水の含有濃度が低すぎるとスプレーによる形成の際、糸引き問題が発生する事がある。
上記水含有量のより好ましい下限は20重量%、より好ましい上限は99.0重量%である。
更に好ましい下限は30重量%、更に好ましい上限は97.0重量%である。更により好ましい下限は40重量%、更により好ましい上限は95.0重量%であり、特に好ましい下限は42.5重量%であり、特に好ましい上限は92.5重量%であり、特により好ましい下限は45.0重量%であり、特により好ましい上限は90.0重量%である。
なお、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液及び上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液はそれぞれ、含有成分の含有量の合計は100重量%である。
【0046】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、回転式粘度計(例:TVC-10、東機産業社製)で測定した場合の粘度が0.1mPa・s以上3.0Pa・s以下であることが好ましい。上記範囲内であると、被覆率の高い、均一な皮膜を形成することができる。
上記粘度のより好ましい下限は0.5mPa・s、より好ましい上限は1.8Pa・sである。更に好ましい下限は 1.5mPa・s、更により好ましい上限は1.0Pa・sである。更により好ましい下限は、1.0mPa・s、更に好ましい上限は0.7Pa・sである。特に好ましい下限は50.0mPa・s、更により好ましい上限は0.5Pa・sである。
なお、上記粘度は23℃で測定したものである。
【0047】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液のいずれかは、ガラス基板(例:SCHOTT社製 TEMPAX Float)との温度23℃、湿度60%RHにおける接触角が10°以上75°以下であることが好ましい。上記範囲内であると、ガラス基板上に均質な皮膜を形成しやすくなる。
上記接触角のより好ましい下限は20°、より好ましい上限は70°である。更に好ましい下限は25°、更に好ましい上限は65°であり、更により好ましい下限は30°であり、さらより好ましい上限は60°である。
なお、上記接触角は接触角計により測定することができる。例として、接触角計としてDMo-502(協和界面科学社製、解析ソフトFAMAS)、接触角測定基板としてガラス(テンパックス)0.5mm、測定方法としてはθ/2法(A half-angle Method)が挙げられる。
【0048】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液を製造する方法としては特に限定されず、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、可塑剤及び水を公知の方法で混合する方法が挙げられる。
【0049】
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液を塗布する工程としては、上記第1に塗布する保護皮膜形成用水溶液を塗布する方法と同様の方法を用いることができる。
上記第2又はそれ以降に塗布する複数の保護皮膜形成用水溶液を塗布する工程は、基材の片面のみに行ってもよく、両面に行ってもよい。
【0050】
上記皮膜形成工程を行った後、乾燥する工程(二次乾燥)を行ってもよい。これにより、基材温度に関係なく複層皮膜を形成する事ができるとすることができる。上記二次乾燥における乾燥温度は50℃以上、450℃以下であることが好ましい。
【0051】
本発明の積層体の製造方法は、基材を形成する基材形成工程を含み、基材形成工程と皮膜形成工程を連続して行うことが好ましい。この場合、基材表面への異物の付着や基材表面の傷つきの発生を抑制することができる。
上記基材としては、ガラス、プラスチック基材(有機高分子基材)、金属基材等が挙げられる。
上記ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、溶融石英等が挙げられる。本発明は、高精彩液晶用の薄型ガラスに特に好適に用いることができる。
上記プラスチック基材としては、ポリカーボネート板及びポリ(メタ)アクリル樹脂板等が挙げられる。上記ポリ(メタ)アクリル樹脂板としては、ポリメチル(メタ)アクリレート板等が挙げられる。
上記金属基材としては、銅、鉄、錫、アルミニウム、銀、ステンレス、真鍮、ニッケル、チタン、及び、それらの合金などの金属からなる基材が挙げられる。具体的には、鋼板、銅板、アルミニウム板、アルミニウムめっき鋼板等が挙げられる。
【0052】
上記基材成形工程としては、公知の方法を用いることができる。
上記基材がガラスである場合、ガラスを成形する方法としては、スロットダウンドロー法、フュージョン法、フロート法等が挙げられる。なかでも、フュージョン法を用いることが好ましい。
上記フュージョン法とは、溶融したガラス原料を細長い樋状の湧き出し口へ導入し、その長手方向に沿う両側に溢れ出させて下へ流し落とし、流れ落ちた溶融ガラスを樋の下で再び合流させそのまま下へ落としながら除冷して固化させることでガラスとするものである。
なお、本発明では、市販のガラス、プラスチック基材、金属基材等の基材を用いた場合についても、上記基材を成形する工程を行ったものとする。
【0053】
本発明の積層体の製造方法により、基材及び単層皮膜もしくは基材及び複層皮膜を有する積層体が得られる。
【0054】
上記複層皮膜は、基材と反対側主面の表面粗さSa(ISO 25178記載の算術平均高さ)が0.1μm以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、30μmが実質的な上限である。
上記範囲であると、自着力を低減することができる。上記表面粗さSaは、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.4μm以上、特に好ましくは0.5μm以上である。
また、本発明において形成される複層皮膜は、基材と反対側主面の表面粗さSz(ISO 25178記載の最大高さ)が10μm以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、300μmが実質的な上限である。
上記範囲であると、基材へ加えられる表面擦傷や基材にかかる圧力による損傷から、基材を保護することができる。
上記表面粗さSzは、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上、特に好ましくは50μm以上である。
また、上記複層皮膜は、基材と反対側主面の表面粗さSdr(ISO 25178記載の最大高さ)が0.1以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、30が実質的な上限である。上記範囲であると、基材へ加えられる表面擦傷や、基材にかかる圧力による損傷から基材を保護したり、基材の断熱性を高めたりすることができる。
上記表面粗さSdrは、より好ましくは0.2以上、更に好ましくは0.3以上、更により好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.7以上、特により好ましくは0.9以上である。
なお、上記表面粗さSa、Sz及びSdrは、作製した複層皮膜の主面を、レーザー顕微鏡(例:形態解析レーザー顕微鏡、VK-X1050、キーエンス社製)で、1mm×1mmの範囲を計測し、ISO 25178に準拠して算出される。これをランダムに10か所測定し、平均値をそれぞれの値とした。
【0055】
上記複層皮膜は、基材側主面の表面粗さSa(ISO 25178記載の算術平均高さ)が0.05μm以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、15μmが実質的な上限である。
上記範囲であると、複層皮膜の基材への接着性を低減し剥離性を向上することができる。上記表面粗さSaは、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上、更により好ましくは0.3μm以上、特に好ましくは0.4μm以上、特により好ましくは0.5μm以上である。
また、上記複層皮膜は、基材側主面の表面粗さSz(ISO 25178記載の最大高さ)が8μm以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、240μmが実質的な上限である。
上記範囲であると、複層皮膜の基材への接着性を低減し剥離性を向上することができる。上記表面粗さSzは、より好ましくは16μm以上、更に好ましくは24μm以上、更により好ましくは32μm以上、特に好ましくは40μm以上、特により好ましくは48μm以上である。
また、上記複層皮膜は、基材側主面の表面粗さSdr(ISO 25178記載の最大高さ)が0.05以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、15が実質的な上限である。上記範囲であると、基材へ加えられる表面擦傷や、基材にかかる圧力による損傷から基材を保護したり、基材の断熱性を高めたりすることができる。
上記表面粗さSdrは、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.2以上、更により好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.4以上、特により好ましくは0.5以上である。
なお、上記表面粗さSa、Sz及びSdrは、作製した複層皮膜の基材側主面を、レーザー顕微鏡(例:形態解析レーザー顕微鏡、VK-X1050、キーエンス社製)で、1mm×1mmの範囲を計測し、ISO 25178に準拠して算出される。これをランダムに10か所測定し、平均値をそれぞれの値とした。
【0056】
上記複層皮膜は、平均気泡径(発泡径)の好ましい下限が0.05μm、好ましい上限が280μmである。上記平均気泡径がこの範囲内にあることにより、基材表面の擦傷等からの保護性を高めることができる。上記平均気泡径のより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は225μmである。
更に好ましい下限は1.0μm、更に好ましい上限は180μmであり、更により好ましい下限は1.5μm、更により好ましい上限は135μmであり、特に好ましい下限は2.0μm、特に好ましい上限は108μmであり、特により好ましい下限は2.5μm、特に好ましい上限は90μmである。
なお、上記平均気泡径は、気泡の断面観察写真より気泡壁部と空隙部とをレーザー顕微鏡(例:形態解析レーザー顕微鏡、VK-X1050、キーエンス社製)で観察して、空隙部のサイズを測定する方法により測定することができる。
【0057】
上記複層皮膜の厚みの好ましい下限は1.0μm、好ましい上限は300μmである。発泡体の厚み上記範囲内であれば、発泡体層を剥離する事も水溶させる事も可能にすることができる。上記複層皮膜の厚みはより好ましい下限が2.0μm、より好ましい上限が250μmである。
更に好ましい下限は4.0μm、更に好ましい上限は200μmであり、更により好ましい下限は6.0μm、更により好ましい上限は150μmであり、特に好ましい下限は8.0μm、特に好ましい上限は120μmであり、特により好ましい下限は10.0μm、特に好ましい上限は100μmである。
JIS K6783準拠の定圧厚さ測定機(例:テクロック社製、PG-02J)を用いて、作製した皮膜の厚みを測定できる。
【0058】
本発明の積層体は、複層皮膜と基材との剥離強度が、180°剥離強度試験で2N以下であることが好ましい。上記剥離強度が2N以下であることで、基材から複層皮膜を剥離することができる。上記剥離強度の好ましい上限は1.5N、好ましい下限は特に限定されないが0.01Nである。
上記180°剥離強度は、ISO29862:2007又はJIS Z 0237:2009に準じた方法で測定できる。
90°剥離強度も同様に、ISO29862:2007又はJISZ 0237:2009に準じた方法で測定ができる。
【0059】
本発明の積層体の製造方法、及び、複層皮膜を基材から除去する除去工程を含む、基材の製造方法、並びに、本発明の基材の製造方法により得られる基材もまた本発明の1つである。
上記除去工程としては、手作業又は機械的手段により複層皮膜の端部を持ち上げて除去する方法、複層皮膜の端部にエアー等を噴射して除去する方法等が挙げられる。
また、水等の溶媒を用いて複層皮膜を溶解して除去する方法も用いることができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、製造ライン、運搬ラインにおいて、基材に由来する異物が付着しにくい保護皮膜を形成可能な積層体の製造方法、基材の製造方法及び基材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0061】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
(保護皮膜形成用水溶液[内層用、外層用]の作製)
未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 203 重合度300、ケン化度88モル%)100重量部、可塑剤としてジグリセリン30重量部を水370重量部に溶解、混合して樹脂含有量20重量%、可塑剤含有量6重量%の保護皮膜形成用水溶液[内層用]を作製した。
また、未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 103 重合度300、ケン化度98.4モル%)100重量部、可塑剤としてジグリセリン10重量部を水890重量部に溶解、混合して樹脂含有量10重量%、可塑剤含有量1重量%の保護皮膜形成用水溶液[外層用]を作製した。
【0063】
(保護皮膜[ガラス皮膜]の作製)
ガラス基板(コーニング社製、EagleXG 150mm×150mm×0.5mm)をホットプレート上でガラス基板の中央部が300℃になるように加熱した。
加熱したガラス基板をスプレー台に移動させ、ガラス中央部が250℃になった時点で、得られた保護皮膜形成用水溶液[内層用]をガラス基板上に1回スプレー塗布し、更に、その上から、得られた保護皮膜形成用水溶液[外層用]を1回スプレー塗布してから、バッチ式熱風循環乾燥炉(150℃設定)にて60秒乾燥し、ガラス基板の表面に2層[内層、外層]のガラス皮膜が形成された積層体を得た。
なお、保護皮膜形成用水溶液[内層用、外層用]を塗布する際のスプレーガンとしてはAGB50(旭サナック社製 口径1.0mmφ、キャップHN400A)、塗料供給機器としては圧送ポンプPT-10DW(アネスト岩田社製)及び塗装ロボットとしてはEPX-1250 DX100(安川電機社製)を用いた。
【0064】
(実施例2)
(保護皮膜形成用水溶液[外層用]の作製)
未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 203 重合度300、ケン化度88モル%)100重量部を用い、可塑剤を添加しなかった以外は実施例1の(保護皮膜形成用水溶液[内層用]の作製)と同様にして、保護皮膜形成用水溶液[外層用]を作製した。
【0065】
(保護皮膜[ガラス皮膜]の作製)
ガラス基板(コーニング社製、EagleXG 150mm×150mm×0.5mm)をホットプレート上でガラス基板の中央部が300℃になるように加熱した。
加熱したガラス基板をスプレー台に移動させ、ガラス中央部が250℃になった時点で、実施例1で得られた保護皮膜形成用水溶液[内層用]をガラス基板上に1回スプレー塗布し、更に、その上から、得られた保護皮膜形成用水溶液[外層用]を1回スプレー塗布してから、バッチ式熱風循環乾燥炉(150℃設定)にて60秒乾燥し、ガラス基板の表面に2層[内層、外層]のガラス皮膜が形成された積層体を得た。
なお、保護皮膜形成用水溶液[内層用、外層用]を塗布する際のスプレーガンとしてはAGB50(旭サナック社製 口径1.0mmφ、キャップHN400A)、塗料供給機器としては圧送ポンプPT-10DW(アネスト岩田社製)及び塗装ロボットとしてはEPX-1250 DX100(安川電機社製)を用いた。なお、以下の実施例、比較例でも、スプレー塗布を行う場合は、上記と同様のスプレーガン、塗料供給機器、塗装ロボットを用いてスプレー塗布を行った。
【0066】
(実施例3)
(保護皮膜形成用水溶液[内層用、外層用]の作製)
未変性のポリビニルアルコールを添加せず、可塑剤としてジグリセリン100重量部を水1900重量部に溶解、混合して、可塑剤含有量5重量%の保護皮膜形成用水溶液[内層用]を作製した。
また、未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 203 重合度300、ケン化度88モル%)100重量部、可塑剤としてジグリセリン15重量部を水385重量部に溶解、混合して樹脂含有量20重量%、可塑剤含有量3重量%の保護皮膜形成用水溶液[外層用]を作製した。
【0067】
(保護皮膜[ガラス皮膜]の作製)
ガラス基板(コーニング社製、EagleXG 150mm×150mm×0.5mm)をホットプレート上でガラス基板の中央部が400℃になるように加熱した。
加熱したガラス基板をスプレー台に移動させ、ガラス中央部が350℃になった時点で、得られた保護皮膜形成用水溶液[内層用]をガラス基板上に1回スプレー塗布し、更に、その上から、得られた保護皮膜形成用水溶液[外層用]を1回スプレー塗布してから、バッチ式熱風循環乾燥炉(150℃設定)にて60秒乾燥し、ガラス基板の表面に2層[内層、外層]のガラス皮膜が形成された積層体を得た。
【0068】
(実施例4)
未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 203 重合度300、ケン化度88モル%)100重量部に代えて、未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 205 重合度500、ケン化度88モル%)100重量部を用い、可塑剤の添加量、樹脂含有量、可塑剤含有量を表1に示す通りとした以外は実施例3と同様にして、保護皮膜形成用水溶液[外層用]を作製した。
得られた保護皮膜形成用水溶液[外層用]を用いた以外は実施例3と同様にして、ガラス基板(コーニング社製 EagleXG 150mm×150mm×0.5mm)の表面に2層[内層、外層]のガラス皮膜が形成された積層体を得た。
【0069】
(実施例5)
可塑剤としてジグリセリン15重量部に代えて、グリセリン18重量部を用い、可塑剤の添加量、樹脂含有量、可塑剤含有量を表1に示す通りとした以外は実施例3と同様にして、保護皮膜形成用水溶液[外層用]を作製した。
得られた保護皮膜形成用水溶液[外層用]を用いた以外は実施例3と同様にして、ガラス皮膜が形成された積層体を作製した。
【0070】
(実施例6)
未変性のポリビニルアルコールを添加せず、可塑剤としてグリセリン100重量部を水1940重量部に溶解、混合して、可塑剤含有量3重量%の保護皮膜形成用水溶液[内層用]を作製した。
未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 203 重合度300、ケン化度88モル%)100重量部に代えて、未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製 SELVOL 205 重合度500、ケン化度88モル%)100重量部を用い、可塑剤としてジグリセリン15重量部に代えて、グリセリン18重量部を用い、可塑剤の添加量、樹脂含有量、可塑剤含有量を表1に示す通りとした以外は実施例3と同様にして、保護皮膜形成用水溶液[外層用]を作製した。
得られた保護皮膜形成用水溶液[内層用]及び保護皮膜形成用水溶液[外層用]を用いた以外は実施例3と同様にして、ガラス皮膜が形成された積層体を作製した。
【0071】
(比較例1)
未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製、SELVOL 203、重合度300、ケン化度88モル%)100重量部を使用せず、可塑剤であるジグリセリンだけを表1に示す通りに水溶液として作製した。
ガラス基板(コーニング社製、EagleXG 150mm×150mm×0.5mm)をホットプレート上でガラス基板の中央部が300℃になるように加熱した。
加熱したガラス基板をスプレー台に移動させ、ガラス中央部が350℃になった時点で、得られた水溶液をガラス基板上に1回スプレー塗布し、バッチ式熱風循環乾燥炉(150℃設定)にて60秒乾燥し、ガラス基板の表面にガラス皮膜が形成された積層体を得た。
なお、得られたガラス皮膜は可塑剤であるジグリセリンと水分だけで構成されていた。
【0072】
(比較例2)
表1に示す通りに可塑剤であるジグリセリンだけを水溶液として作製した事以外は比較例1と同様にして、可塑剤含有量40重量%の保護皮膜形成用水溶液、ガラス皮膜が形成された積層体を作製した。皮膜は可塑剤であるジグリセリンと水分だけで構成されていた。
【0073】
(比較例3)
ジグリセリンに変えてグリセリンを可塑剤として、表1に示す通りに水溶液を作製した事以外は比較例1と同様にして、可塑剤含有量3重量%の保護皮膜形成用水溶液、ガラス皮膜が形成された積層体を作製した。皮膜は可塑剤であるグリセリンと水分だけで構成されていた。
【0074】
(比較例4)
表1に示す通りに可塑剤であるグリセリンだけを水溶液として作製した事以外は比較例3と同様にして、可塑剤含有量20重量%の保護皮膜形成用水溶液、ガラス皮膜が形成された積層体を作製した。皮膜は可塑剤であるグリセリンと水分だけで構成されていた。
【0075】
(比較例5)
未変性のポリビニルアルコール(積水化学工業社製、SELVOL 203、重合度300、ケン化度88モル%))100重量部に代えて、未変性のポリビニルアルコール(重合度500、ケン化度88モル%)100重量部を用い、可塑剤の添加量、樹脂濃度を表1に示す通りとした以外は比較例1と同様にして、保護皮膜形成用水溶液、ガラス皮膜が形成された積層体を作製した。
【0076】
<評価>
実施例及び比較例で得られた保護皮膜形成用水溶液(水溶液)、ガラス皮膜が形成された積層体について以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0077】
1.保護皮膜形成用水溶液の評価
(接触角測定)
接触角計(協和界面科学社製、DMo-502)及び解析ソフトFAMAS(協和界面科学社製)を用い、θ/2法(A half-angle Method)により、温度23℃、湿度60%R/Hにて接触角測定を実施した。
測定条件としては、液適量を2μLとして、接触角測定基板として0.5mm厚みのガラス(TEMPAX Float、SCHOTT社製)を用い、経時測定モードで、測定までの待ち時間を100msecとした。測定間隔は1000msecで、繰り返し5回の測定を行った。評価結果のうち4100msecの5回のデータを平均して測定結果とした。
【0078】
(粘度測定)
作製した保護皮膜形成用水溶液をマヨネーズ瓶に分取して蓋をし、温度23℃、湿度60%RHで2日間(48時間)養生した。養生後の保護皮膜形成用水溶液を、回転式粘度計(東機産業社製、TVC-10)を用いて、温度23℃、湿度60%RHの条件下で、JIS K7117-1に準拠した方法で粘度評価を実施した。
【0079】
2.被膜、積層体の評価
(厚み評価)
得られたガラス皮膜が形成された積層体からガラス皮膜を剥離して、ガラス皮膜の厚みをJIS K6783準拠の定圧厚さ測定機(例: テクロック社製 PG-02J)を用いて測定した。剥離が難しい場合は、ガラス皮膜が形成された積層体の厚みを上記定圧厚さ測定機で測定し、あらかじめ同様の方法で測定しておいたガラス基板の厚みを引いた値を厚みとして用いた。
【0080】
(表面粗さ)
表面粗さSa、Sz及びSdrは、作製したガラス皮膜が形成された積層体からガラス皮膜を剥離し、基材と反対側の主面(空気界面側表面)及びガラス基材側の主面(ガラス界面側表面)を、それぞれレーザー顕微鏡(例:形態解析レーザー顕微鏡、VK-X1050、キーエンス社製)で、1mm×1mmの範囲を計測した。得られた計測値から、ISO 25178に準拠して各表面粗さを算出した。これをランダムに10か所測定し、平均値をそれぞれの値とした。
【0081】
(被覆率)
得られたガラス皮膜をガラスから剥離して、レーザー顕微鏡(例:形態解析レーザー顕微鏡VK-X1050、キーエンス社製)で、1mm×1mmの領域を10か所測定し、皮膜が無い部分の割合をそれぞれ平均化し評価した。
◎:90%以上の領域で皮膜による被覆がなされている
○:90%未満、80%以上の領域で皮膜による被覆がなされている
△:80%未満、70%以上の領域で皮膜による被覆がなされている
×:皮膜による被覆が70%未満である
【0082】
(発泡性)
得られた積層体のガラス皮膜を剥離し、剥離した皮膜の断面をレーザー顕微鏡(例:形態解析レーザー顕微鏡VK-X1050、キーエンス社製)で確認し、発泡の有無を確認し、以下の基準で評価した。
○:発泡していた
×:発泡が認められなかった
【0083】
(発泡径)
得られた積層体のガラス皮膜をカットして、カミソリ刃で厚さ方向に平行な面に沿って切断した。
その後、レーザー顕微鏡(例:形態解析レーザー顕微鏡VK-X1050、キーエンス社製)厚さ方向の切断面に関して、法線方向の最大発泡径を測定した。
その操作を、測定箇所を変えて10回繰り返し、観察された発泡径の平均値を平均気泡径とした。なお、各気泡の発泡径は、観察された気泡に対して内接する内接円を描いた時の直径が最大となる内接円の直径とした。
得られた発泡径(平均気泡径)について、以下の基準で評価した。
◎:発泡径がガラス皮膜の厚みの20%以上であった
〇:発泡径がガラス皮膜の厚みの20%未満5%以上であった
△:発泡径がガラス皮膜の厚みの5%未満1%以上であった
×:発泡径がガラス皮膜の厚みの1%未満であった
【0084】
(結晶化度)
得られた積層体のガラス皮膜から作製した試験片について、XRD回折装置(リガク社製、Rint2500)を用いて、X線入射角2θ=2°~40°における回折光の計測を行い、ピークとハローの強度から、結晶化度を算出し、以下の基準で評価した。
なお、測定条件は、X線管球はCuKα線(λ=1.54Å)、X線出力は40kV200mA、走査方法はステップスキャン(FT法)、ステップ幅は0.02、1ステップあたり2秒間反射強度とした。
また、結晶化度の測定は積層体からガラス皮膜を剥離し、ガラスと密着していた面を「ガラス界面」として測定し、反対面を「表面」として測定した。2層構成である場合も同様に、ガラスと密着していた面を「ガラス界面」として測定し、反対面を「表面」として測定した。
高:50%以上
中:50%未満30%以上
低:30%未満
【0085】
(剥離・除去性)
[剥離性]
得られた積層体(150mm×150mm)を皮膜側からガラスカッター(三星ダイヤモンド社製、MS500)を用い、ガラスカッティングツール(三星ダイヤモンド社製、Mrcs-APIO「Mrcs-ADP030065080-115000000A4」)を使用して、周辺10mmカットし、130mm角のサンプルを作製した。その後、角部に粘着テープ(積水化学工業社製、セロテープ(登録商標) No.252、24mm幅)を付着させ、約135°の角度で剥離を行い、以下の基準で評価した。
◎:皮膜が完全に剥離できた
○:皮膜が一部残るものの、皮膜が完全にちぎれずに一回の剥離で剥離できた
△:一部破断が発生するものの複数回の剥離にて皮膜が剥離できた
×:皮膜が破断してしまい剥離できなかった
【0086】
[180°剥離強度]
作製した皮膜とガラス基板の接着力を評価するため、得られた積層体(150mm×150mm)をカットして、25mm×150mmの皮膜付きガラスサンプルを作製し、180°剥離試験用サンプルとした。なお、カットの方法は上述の[剥離性]の場合と同様とした。
皮膜の全面に、基材付き粘着テープ(テープ品番スプライシングテープNO.642、寺岡製作所製)を貼付して裏打ちを施してから、粘着テープで裏打ちされた皮膜と粘着テープごとテンシロン万能材料試験機(RTF-2430、ジーエルサイエンス社製)で180°剥離強度を測定した。測定方法はISO29862:2007又はJIS Z 0237:2009に準じた。
なお、皮膜面を剥がす際には裏打ち面の背面が重なるようにテープの端を把持して180°に折り返して、皮膜面を25mm剥がした後、試験機下側の治具に皮膜面を剥がした部分を固定し、上側の治具に基材付き粘着テープを固定した。
評価条件は300mm/sec、温度25℃、湿度50%で実施した。
【0087】
[水溶性]
得られた積層体からガラス皮膜を1cm2剥離し、10℃の水を入れたビーカーに浸漬し、以下の基準で水溶性[10℃水溶性]を評価した。なお、95℃の水を入れた場合の水溶性[95℃水溶性]についても評価した。
○:60秒以内に溶解した
△:61秒以上120秒以内に溶解した
×:120秒以内に溶解しなかった
【0088】
(皮膜除去後残渣)
得られた積層体のガラス皮膜をガラス基板より除去した後の残渣を評価した。
なお、ガラス皮膜の除去は、「1.剥離による除去」、「2.水洗浄による除去」、「3.剥離後に水洗浄による除去(剥離後水洗浄)」の3通りの方法で実施した。
[1.剥離による除去]
得られた積層体(150mm×150mm)をカットして、10mm×10mmのガラス皮膜付きガラスサンプルを作製し、ガラス皮膜を剥離により除去した。
[2.水洗浄による除去]
得られた積層体(150mm×150mm)のガラス皮膜面に、85~90℃のスチームを最大蒸気圧0.2MPa、2L/minでスリット幅0.1mmのノズルから噴霧照射の後、90℃の温水洗浄を行い、次にスリットノズルで常温水洗浄を行い、ガラス皮膜を除去した。
「3.剥離後に水洗浄による除去(剥離後水洗浄)」
得られた積層体(150mm×150mm)をカットして、10mm×10mmのガラス皮膜付きガラスサンプルを作製し、ガラス皮膜を剥離により除去した。
次いで、ガラス皮膜を剥離により除去したサンプルに、85~90℃のスチームを最大蒸気圧0.2MPa、2L/minでスリット幅0.1mmのノズルから噴霧照射の後、90℃の温水洗浄を行い、次にスリットノズルで常温水洗浄を行った。
【0089】
[XPS評価]
「1.剥離による除去」「2.水洗浄による除去」「3.剥離後に水洗浄による除去(剥離後水洗浄)」を行った部分のガラス表面をX電子分光(XPS、PHI5000 VersaProbe II、アルバックファイ社製)により測定し、最表面の残存物の組成と定量化を行った。
測定条件は、単色化AlKα(1486.6eV)を光源として用い、光電子取出角45度、X線ビーム径200μmにて測定した。
なお、作製に使用したものと同一種類のガラス基板に関して、上記同様に「1.剥離による除去」「2.水洗浄による除去」「3.剥離後に水洗浄による除去(剥離後水洗浄)」を行い、リファレンスサンプルとした。
ガラス表面のXPS評価を実施し、リファレンスサンプルの炭素原子量(atom%)を基準とした、炭素原子量(%)を算出し[(測定した炭素原子量/リファレンスサンプルの炭素原子量)×100]、以下の基準で評価した。なお、リファレンスサンプルを基準とした炭素原子量(%)は、ガラス皮膜除去後の目視できないレベルの残存皮膜量に比例し、これが少なければ少ないほど、皮膜除去後のガラス表面の洗浄による清浄化が容易であることを示す。
◎:炭素原子量が150%以下である
○:炭素原子量が150%超、250%以下である
△:炭素原子量が250%超、400%以下である
×:炭素原子量が400%超である
【0090】
(貯蔵性)
得られた2枚の積層体(150mm×150mm)を、ガラス皮膜面同士が密着するように重ねて、その上から同サイズ以上のSUS板3.0kgを乗せて、25℃50%RHの環境下に1週間放置した。その後、2枚の積層体の剥離を行い、ガラス皮膜の破損割合を確認し、以下の基準で評価した。
◎:ガラス皮膜の破損割合が10%以下である
○:ガラス皮膜の破損割合が10%超、30%以下である
△:ガラス皮膜の破損割合が30%超、50%以下である
×:ガラス皮膜の破損割合が50%超である
【0091】
(異物排除効果)
得られた積層体のガラス皮膜側にシリカ粒子(平均粒子径:3μm)を0.05g乾式スプレーし皮膜に付着させた。次いで、皮膜を剥離し、シリカ粒子の有無を光学顕微鏡で15cm角ガラスの中央部の5cm四方を確認し、以下の基準で評価した。
◎:シリカ粒子が10個以下確認できた
○:シリカ粒子を11個以上20個以下確認できた
△:シリカ粒子を21個以上50個以下確認できた
×:シリカ粒子を51個以上確認できた
【0092】
(表面保護性:対擦傷性)
得られた積層体のガラス皮膜側に、シリカ粒子(平均粒子径:3μm)0.05gを乾式スプレーして皮膜に付着させ、更にその上に同じサイズのガラス基板(コーニング社製、EagleXG 150mm×150mm×0.5mm)を積層し、面方向にこすり合わせた。その後、皮膜を剥離して、表面を観察し、以下の基準で評価した。
〇:表面に擦傷傷が無かった
×:表面に擦傷傷があった
【0093】
(環境適応性)
剥離した皮膜について、土中生分解性を有するか否かを評価した。土中生分解性を有する場合は、環境適合性を有しているといえる。
なお、水洗浄により除去可能な皮膜は、水に完全に溶解することができ、洗剤入りジェルボールの洗剤を包んでいるフィルム等と同様に、通常の下水廃棄が可能であることから、環境適合性を有している。
〇:土中生分解性を有している
×:土中生分解性が無い
【0094】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明によれば、製造ライン、運搬ラインにおいて、基材に由来する異物が付着しにくい保護皮膜を形成可能な積層体の製造方法、基材の製造方法及び基材を提供することができる。