(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144788
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ベアリングレスモータシステム、圧縮機及び冷凍装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20241004BHJP
H02K 7/09 20060101ALI20241004BHJP
F16C 32/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H02P27/06
H02K7/09
F16C32/04 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056899
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三和 大輝
(72)【発明者】
【氏名】阪脇 篤
(72)【発明者】
【氏名】井上 達貴
【テーマコード(参考)】
3J102
5H505
5H607
【Fターム(参考)】
3J102AA01
3J102BA03
3J102BA17
3J102CA10
3J102CA22
3J102CA23
3J102DA03
3J102DA09
3J102DA10
3J102GA13
5H505AA06
5H505BB04
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG02
5H505GG04
5H505HB01
5H505HB05
5H505LL07
5H505LL22
5H505LL60
5H607AA04
5H607BB07
5H607BB14
5H607GG17
5H607GG20
5H607HH03
(57)【要約】
【課題】回転子の電気角に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるベアリングレスモータを提供する。
【解決手段】ベアリングレスモータ(110)は、回転軸(101)に設けられた回転子(111)と、軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)を有する固定子(112)とを備える。第1インバータ(114)は、軸支持巻線(113)に電力を供給して回転軸(101)を非接触で支持する軸支持力を生じさせる。第2インバータ(116)は、モータ巻線(115)に電力を供給して回転軸(101)に回転トルクを生じさせる。制御部(200)は、第1及び第2インバータ(114,116)の一方又は両方から、軸支持力の変動が低減するように、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(101)と、
前記回転軸(101)に設けられた回転子(111)と、前記回転子(111)の径方向外側に設けられ且つ軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)を有する固定子(112)とを備えるベアリングレスモータ(110)と、
前記軸支持巻線(113)に電力を供給して前記回転軸(101)を非接触で支持する軸支持力を生じさせる第1インバータ(114)と、
前記モータ巻線(115)に電力を供給して前記回転軸(101)に回転トルクを生じさせる第2インバータ(116)と、
前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)を制御する制御部(200)と
を備え、
前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方から、前記軸支持力の変動が低減するように、前記ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項2】
請求項1のベアリングレスモータシステムにおいて、
前記軸支持巻線(113)及び前記モータ巻線(115)は、前記固定子(112)に周方向に並んで設けられた複数の第1スロット(121)に配置され、
前記高調波の次数は、前記第1スロット(121)の個数を前記ベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、及び、前記極対数のそれぞれの中から選択される1つ又は複数の要素に基づいて決定される、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項3】
請求項1のベアリングレスモータシステムにおいて、
前記回転子(111)は、複数の永久磁石(123A,123B)を有し、
前記永久磁石(123A,123B)は、前記回転子(111)に周方向に並んで設けられた複数の第2スロット(122)に配置され、
前記高調波の次数は、前記第2スロット(122)の個数を前記ベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、及び、前記回転子(111)の1磁極を構成する前記永久磁石(123A,123B)の個数のそれぞれの中から選択される1つ又は複数の要素に基づいて決定される、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項4】
請求項1のベアリングレスモータシステムにおいて、
前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方の制御信号に補正信号を加えることによって、前記高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項5】
請求項4のベアリングレスモータシステムにおいて、
前記補正信号は、前記回転子(111)の電気角、前記軸支持巻線(113)の電流値、及び、前記モータ巻線(115)の電流値に基づいて決定される、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項のベアリングレスモータシステム(100)と、
前記ベアリングレスモータ(100)により駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(102,103)と
を備える、
圧縮機。
【請求項7】
請求項6の圧縮機(10)を備える、
冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベアリングレスモータシステム、圧縮機及び冷凍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータと磁気軸受の磁気回路とを一体化したベアリングレスモータが知られている(特許文献1)。ベアリングレスモータは、固定子に設けられたスロット内にモータ巻線と軸支持巻線と有する。これにより、1組の回転子及び固定子によって、モータの回転軸を回転させるモータトルクと、回転軸を非接触で支持する軸支持力の両方を発生することができる。軸支持力は、回転軸の径方向に作用し、回転軸を固定子の中心に浮上させる力である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のベアリングレスモータでは、軸支持力と軸支持電流との関係は、モータの回転子の電気的な回転角度(電気角:回転子の機械的な回転角度にモータの極対数を乗じた角度)に依存しないことを前提に、軸支持電流を制御して所望の軸支持力を得ようとしている。
【0005】
ところが、実際には、軸支持力と軸支持電流との関係は、モータの磁気回路の形状によって決定される空間高調波の影響により、回転子の回転角度(電気角)に依存して変化するため、回転軸に径方向の振動が生じ、最悪の場合、タッチダウンが発生するという問題があった。
【0006】
本開示の目的は、回転子の回転角度(電気角)に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるベアリングレスモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、回転軸(101)と、ベアリングレスモータ(110)と、第1インバータ(114)と、第2インバータ(116)と、制御部(200)とを備えるベアリングレスモータシステム(100)である。前記ベアリングレスモータ(110)は、前記回転軸(101)に設けられた回転子(111)と、前記回転子(111)の径方向外側に設けられ且つ軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)を有する固定子(112)とを備える。前記第1インバータ(114)は、前記軸支持巻線(113)に電力を供給して前記回転軸(101)を非接触で支持する軸支持力を生じさせる。前記第2インバータ(116)は、前記モータ巻線(115)に電力を供給して前記回転軸(101)に回転トルクを生じさせる。前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)を制御する。前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方から、前記軸支持力の変動が低減するように、前記ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる。
【0008】
第1の態様では、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を軸支持巻線(113)又はモータ巻線(115)に供給する。このため、回転子(111)の回転角度(電気角)に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるので、回転軸(101)を滑らかに回転させることができる。
【0009】
本開示の第2の態様は、第1の態様において、前記軸支持巻線(113)及び前記モータ巻線(115)は、前記固定子(112)に周方向に並んで設けられた複数の第1スロット(121)に配置される。前記高調波の次数は、前記第1スロット(121)の個数を前記ベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、及び、前記極対数のそれぞれの中から選択される1つ又は複数の要素に基づいて決定される。
【0010】
第2の態様では、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波により、軸支持巻線(113)とモータ巻線(115)との相互インダクタンスの大きさがベアリングレスモータ(110)の回転子(111)の回転角度(電気角)に依存して変動することを抑制することができる。
【0011】
本開示の第3の態様は、第1又は第2の態様において、前記回転子(111)は、複数の永久磁石(123A,123B)を有し、前記永久磁石(123A,123B)は、前記回転子(111)に周方向に並んで設けられた複数の第2スロット(122)に配置される。前記高調波の次数は、前記第2スロット(122)の個数を前記ベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、及び、前記回転子(111)の1磁極を構成する前記永久磁石(123A,123B)の個数のそれぞれの中から選択される1つ又は複数の要素に基づいて決定される。
【0012】
第3の態様では、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波により、軸支持巻線(113)とモータ巻線(115)との相互インダクタンスの大きさが回転子(111)の回転角度(電気角)に依存して変動することを抑制することができる。
【0013】
本開示の第4の態様は、第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方の制御信号に補正信号を加えることにより、前記高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる。
【0014】
第4の態様では、軸支持用の第1インバータ(114)の制御信号、又はモータ駆動用の第2インバータ(116)の制御信号に、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波の影響を打ち消す高調波を重畳することができる。
【0015】
本開示の第5の態様は、第4の態様において、前記補正信号は、前記回転子(111)の電気角、前記軸支持巻線(113)の電流値、及び、前記モータ巻線(115)の電流値に基づいて決定される。
【0016】
第5の態様では、第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方の制御信号に補正信号を加えることによって、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波の影響を打ち消すことができる。
【0017】
本開示の第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つのベアリングレスモータシステム(100)と、前記ベアリングレスモータ(100)により駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(102,103)とを備える圧縮機(10)である。
【0018】
第6の態様では、圧縮機(10)を構成するベアリングレスモータシステム(100)において、回転子(111)の回転角度(電気角)に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるので、圧縮機(10)の動作が安定して信頼性が向上する。
【0019】
本開示の第7の態様は、第6の態様の圧縮機(10)を備える冷凍装置(1)である。
【0020】
第7の態様では、冷凍装置(1)に用いる圧縮機(10)を構成するベアリングレスモータシステム(100)において、回転子(111)の回転角度(電気角)に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるので、冷凍装置(1)の動作が安定して信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムを備えた圧縮機の概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムの電気回路構成を示す図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムの電気回路構成を示す図である。
【
図4】
図4は、ベアリングレスモータの回転軸に垂直な方向の断面構成の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、ベアリングレスモータの回転軸に垂直な方向の断面構成の他例を示す図である。
【
図6】
図6は、電気角に依存してベアリングレスモータの軸支持力が変動する様子を示す図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムの制御部の構成を示す図である。
【
図8】
図8は、
図7に示す制御部において軸支持用インバータの制御信号に補正信号を加える構成の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムの制御部における補正量計算の一例を説明する図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムの制御部における補正量計算の一例を説明する図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムの制御部における補正量計算の他例を説明する図である。
【
図12】
図12は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムの制御部における補正量計算の他例を説明する図である。
【
図13】
図13は、第1実施形態のベアリングレスモータシステムにおいて軸支持用インバータから出力される電流の波形を示す図である。
【
図14】
図14は、第2実施形態の空気調和装置(冷凍装置の一例)の概略構成図である。
【
図15】
図15は、第2実施形態の空気調和装置に適用可能な圧縮機の構成のバリエーションを示す模式図である。
【
図16】
図16は、第2実施形態の空気調和装置に適用可能な圧縮機の構成のバリエーションを示す模式図である。
【
図17】
図17は、第2実施形態の空気調和装置に適用可能な圧縮機の構成のバリエーションを示す模式図である。
【
図18】
図18は、第2実施形態の空気調和装置に適用可能な圧縮機の構成のバリエーションを示す模式図である。
【
図19】
図19は、第2実施形態の空気調和装置に適用可能な圧縮機の構成のバリエーションを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示の実施形態について図面を参照しながら説明する。尚、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。また、図面において、同一の符号は同一の構成要素を表わすが、長さ、幅、厚さ、深さ等の図面上の寸法は、図面の明瞭化及び簡略化のために実際の尺度から適宜変更されており、実際の相対寸法と対応しない場合がある。
【0023】
(第1実施形態)
<ベアリングレスモータシステムの構成>
以下、第1実施形態のベアリングレスモータシステム(100)を圧力容器(150)の内部に設けて圧縮機(10)を構成する場合について例示するが、ベアリングレスモータシステム(100)の用途は特に限定されるものではない。
【0024】
図1に示すように、ベアリングレスモータシステム(100)は、主として、回転軸(101)と、スラスト磁気軸受(105,107)と、ベアリングレスモータ(110)と、ラジアル磁気軸受(130)とを備える。以下の説明では、回転軸(101)の軸線に沿う方向を軸方向、回転軸(101)を中心とする円に沿う方向を周方向、回転軸(101)の軸線に対して垂直な方向を径方向と称する。
【0025】
回転軸(101)の軸方向の一端には、圧縮機(10)の圧縮機構を構成する第1インペラ(102)及び第2インペラ(103)が設けられる。尚、
図1では、圧縮機構を構成する配管等の要素、制御部、電源部等の図示を省略している。
【0026】
スラスト磁気軸受(105,107)は、回転軸(101)の軸方向の他端に配置され、回転軸(101)に対して軸方向の双方向に電磁力を作用させる。具体的には、径方向に広がる円盤部(104)が回転軸(101)に設けられ、円盤部(104)に対し軸方向の一方に電磁力を作用させる第1スラスト磁気軸受(105)と、円盤部(104)に対し軸方向の他方に電磁力を作用させる第2スラスト磁気軸受(107)とが配置されている。これにより、スラスト磁気軸受(105,107)は、円盤部(104)を電磁力によって非接触で支持することができる。
【0027】
第1スラスト磁気軸受(105)は、第1電磁石用コイル(106)を有する。第2スラスト磁気軸受(107)は、第2電磁石用コイル(108)を有する。スラスト磁気軸受(105,107)は、第1及び第2電磁石用コイル(106,108)に流れる電流を制御することにより、円盤部(104)の位置、つまり回転軸(101)の軸方向の位置を制御することができる。
【0028】
ベアリングレスモータ(110)は、電磁力によって回転軸(101)を回転駆動し且つ回転軸(101)のラジアル荷重を非接触で支持するように構成される。ラジアル磁気軸受(130)は、回転軸(101)のラジアル荷重を非接触で支持するように構成される。ベアリングレスモータ(110)とラジアル磁気軸受(130)とは、回転軸(101)の軸方向に並ぶように配置される。本例では、ベアリングレスモータ(110)は、スラスト磁気軸受(105,107)の近くに位置し、ラジアル磁気軸受(130)は、インペラ(102,103)の近くに位置する。ベアリングレスモータ(110)及びラジアル磁気軸受(130)によって、回転軸(101)の径方向位置が制御される。
【0029】
ベアリングレスモータ(110)は、回転子(111)と固定子(112)とを有する。回転子(111)は、回転軸(101)に固定される。固定子(112)は、回転子(111)の径方向外側に設けられ、圧力容器(150)の内周壁に固定される。回転子(111)のコア部には、複数の永久磁石(123A,123B)(
図4、
図5参照)が埋設される。固定子(112)は、複数のティース部(112b)(
図4、
図5参照)を有し、各ティース部(112b)には軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)が巻回される。回転軸(101)を非接触で支持する軸支持力は、軸支持巻線(113)に電力供給することで生じる。回転軸(101)を回転させる回転トルクは、モータ巻線(115)に電力供給することで生じる。軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)はそれぞれ、3相以上の多相巻線(本例ではU相、V相、W相の3相巻線)である。
【0030】
ラジアル磁気軸受(130)は、圧力容器(150)の内周壁に固定される。回転軸(101)におけるラジアル磁気軸受(130)と対向する部分に配置された磁性体(131)の径は、他の部分の径よりも太くてもよい。ラジアル磁気軸受(130)は、複数のティース部(図示省略)を有する固定子(132)と、各ティース部に巻回された電磁石用コイル(135)とを有する。
【0031】
<ベアリングレスモータシステムの回路>
図2に示すように、ベアリングレスモータ(110)の軸支持巻線(113)には、第1インバータ(114)から電力が供給される。
図3に示すように、ベアリングレスモータ(110)のモータ巻線(115)には、第2インバータ(116)から電力が供給される。インバータ(114,116)は、例えばスイッチング素子を用いて構成されるPWM(Pulse Width Modulation)方式のインバータであってもよい。インバータ(114,116)は、圧力容器(150)の外部に配置され、圧力容器(150)の内外を電気的に接続する専用の気密端子を介して、巻線(113,115)と接続される。インバータ(114,116)は、入力された直流電流を変換して巻線(113,115)に供給するための三相交流電流を生成する。
【0032】
本実施形態のベアリングレスモータシステム(100)では、インバータ(114,116)は、制御部(200)(
図7参照)によって制御される。制御部(200)は、第1インバータ(114)及び第2インバータ(116)の一方又は両方から、ベアリングレスモータ(110)軸支持力の変動が低減するように、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる(
図2、
図3参照)。制御部(200)によるインバータ制御の詳細については後述する。
【0033】
尚、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数fと回転子(111)の電気角(機械角にモータの極対数を乗じたもの)φとの間には、φ=∫ωdt=∫2πfdtの関係が成り立つ。電気角φは、回転子(111)の機械的な回転角度にベアリングレスモータ(110)の極対数を乗じた角度であり、ωは角回転速度(電気角)(=モータの極対数×角回転速度(機械角))であり、∫dtは時間積分であり、πは円周率である。
【0034】
<ベアリングレスモータの構造>
ベアリングレスモータ(110)の種類は、特に制限されず、例えば、SPM(Surface Permanent Magnet)型ベアリングレスモータ、Inset型ベアリングレスモータ、IPM(Interior Permanent Magnet)型ベアリングレスモータ、BPM(Buried Permanent Magnet)型ベアリングレスモータ、Consequent Pole型ベアリングレスモータ等であってもよい。或いは、回転子が磁石を含まない同期リラクタンス型ベアリングレスモータであってもよい。
【0035】
図4は、4極36スロットのBPM型ベアリングレスモータとしてベアリングレスモータ(110)が構成された場合の断面構成を例示する。
図4に示す構成では、固定子(112)は、環状のバックヨーク(112a)と、バックヨーク(112a)の周方向に並んで設けられた36個のティース(112b)とを有する。各ティース(112b)は径方向内側に延び、隣り合うティース(112b)とバックヨーク(112a)とに囲まれた第1スロット(121)が36個構成され、各第1スロット(121)に軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)が配置される。回転子(111)には、周方向に並んで24個の第2スロット(122)が設けられ、各第2スロット(122)には磁極がN極の永久磁石(123A)又は磁極がS極の永久磁石(123B)が配置される。磁極がN極の永久磁石(123A)及び磁極がS極の永久磁石(123B)はそれぞれ、周方向に隣接する6個の第2スロット(122)に配置される。すなわち、隣接する6個の第2スロット(122)に配置された磁極がN極の永久磁石(123A)と、隣接する6個の第2スロット(122)に配置された磁極がS極の永久磁石(123B)とが周方向に交互に2組ずつ配置される。従って、
図4に示すベアリングレスモータ(110)の場合、極対数は2である。
【0036】
図5は、6極9スロットのIPM型ベアリングレスモータとしてベアリングレスモータ(110)が構成された場合の断面構成を例示する。
図5に示す構成では、固定子(112)は、環状のバックヨーク(112a)と、バックヨーク(112a)の周方向に並んで設けられた9個のティース(112b)とを有する。各ティース(112b)は径方向内側に延び、隣り合うティース(112b)とバックヨーク(112a)とに囲まれた第1スロット(121)が9個構成され、各第1スロット(121)に軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)が配置される。回転子(111)には、周方向に並んで6個の第2スロット(122)が設けられ、各第2スロット(122)には磁極がN極の永久磁石(123A)又は磁極がS極の永久磁石(123B)が2つずつ離間して設けられる。すなわち、隣接する2個の磁極がN極の永久磁石(123A)と、隣接する2個の磁極がS極の永久磁石(123B)とが周方向に交互に3組ずつ配置される。従って、
図5に示すベアリングレスモータ(110)の場合、極対数は3である。
【0037】
<インバータ制御>
ベアリングレスモータにおける軸支持力と軸支持電流との関係は、回転座標系を用いて、下式のように表される。
【0038】
【0039】
【0040】
ここで、Fx、Fyは回転座標系における軸支持力、isd、isqは軸支持電流、Mは軸支持力と軸支持電流との相関係数の行列、Mmd、Mmqは軸支持巻線とモータ巻線との相互インダクタンス、imd、imqはモータ電流である。
【0041】
回転軸を非接触で支持するためには、固定子座標系において軸支持力を直接的に制御する必要があり、そのためには、下式のように、回転座標系における軸支持力Fx、Fyを、固定子座標系における軸支持力Fx,φ、Fy,φに回転変換する。
【0042】
【0043】
ここで、φは回転子の電気角(回転子の機械的な回転角度にモータの極対数を乗じた角度)である。
【0044】
従来、回転座標系における軸支持力Fx、Fyと軸支持電流isd、isqとの関係は、回転子の回転角度(電気角φ)に依存しないことを前提に、所望の軸支持力Fx,φ、Fy,φが得られるようにインバータ制御を行っていたが、回転軸に径方向の振動が生じることを十分に抑制できなかった。
【0045】
本願発明者らがその原因を究明したところ、ベアリングレスモータの磁気回路の特徴によって決定される空間高調波により、回転子の回転角度(電気角φ)に依存して、軸支持巻線とモータ巻線との相互インダクタンスの大きさが変動する結果、
図6に示すように、回転子の回転角度(電気角φ)に依存して、意図せぬ軸支持力の変動が生じていることが判明した。
【0046】
ベアリングレスモータの磁気回路の特徴によって決定される空間高調波の原因としては、以下のものがあげられる。
(1)固定子のスロット形状、回転子のスロット形状
スロットは、空気と銅線や磁石とで構成されるため、透磁率が低くて磁気抵抗が大きいので、磁束が通りづらい。これにより、固定子や回転子のスロット数に応じた高調波成分が発生する。
(2)ベアリングレスモータの磁石形状
回転子の1磁極が複数の磁石で構成される場合、磁石同士を区画する領域で磁力(起磁力)が弱くなるので、各磁極で磁石の個数(分割数)に応じた高調波成分が発生する。
(3)ベアリングレスモータの極対数
回転子が機械的に1回転する際に電気的に何周期回転するかに応じて、高調波成分が発生する。例えば2極対のベアリングレスモータでは、回転子が機械的に1回転する際に、電気的には2周期回転することになる。
【0047】
本願発明者らは、以上の知見に基づき、軸支持力の変動が低減するように、言い換えると、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波の影響を抑制するように、軸支持巻線(113)に電力を供給する第1インバータ(114)、及びモータ巻線(115)に電力を供給する第2インバータ(116)の一方又は両方から、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させるという発明に想到した。これにより、電気角に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるので、回転軸(101)に径方向の振動が生じることを抑制して、回転軸(101)を滑らかに回転させることができる。
【0048】
ベアリングレスモータ(110)の回転周波数の自然数倍の周波数を持つ高調波成分(次数)は、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴に応じて、以下の要素の1つ又は2つ以上の組合せによって決定される。
(1)ベアリングレスモータ(110)が電気的に1周期回転する際に通過する固定子スロット(第1スロット(121))の個数倍の高調波成分
(2)ベアリングレスモータ(110)が電気的に1周期回転する際に通過する回転子スロット(第2スロット(122))の個数倍の高調波成分
(3)回転子(111)の1磁極を構成する永久磁石(磁極がN極の永久磁石(123A)及び磁極がS極の永久磁石(123B))の個数倍の高調波成分
(4)ベアリングレスモータ(110)の極対数倍の高調波成分
尚、ベアリングレスモータ(110)が電気的に1周期回転する際に通過する固定子スロット(第1スロット(121))の個数は、第1スロット(121)の個数をベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数に等しい。また、ベアリングレスモータ(110)が電気的に1周期回転する際に通過する回転子スロット(第2スロット(122))の個数は、第2スロット(122)の個数をベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数に等しい。
【0049】
例えば
図4に示す4極36スロットのベアリングレスモータ(BPM型)であれば、軸支持用又はモータ駆動用のインバータから出力される電圧又は電流に重畳される高調波成分(次数)は以下のように決定される。
(1)ベアリングレスモータが電気的に1周期回転する際に通過する固定子スロットの個数倍の高調波成分は、4極であることを考慮し、回転子が機械的に180度回転するときに固定子スロットを18個通過するので、18次となる。この次数は、固定子スロットの個数(36個)をベアリングレスモータの極対数2で除した数と等しい。
(2)ベアリングレスモータが電気的に1周期回転する際に通過する回転子スロットの個数倍の高調波成分は、4極であることを考慮し、回転子が機械的に180度回転するときに回転子スロットを12個通過するので、12次となる。この次数は、回転子スロットの個数(24個)をベアリングレスモータの極対数2で除した数と等しい。
(3)回転子の1磁極を構成する永久磁石(磁極がN極の永久磁石及び磁極がS極の永久磁石)の個数倍の高調波成分は、N極、S極の各磁極が6個の磁石で構成されているので、6次となる。
(4)ベアリングレスモータの極対数倍の高調波成分は、2極対なので、2次となる。
【0050】
以上から、
図4に示す4極36スロットのベアリングレスモータ(BPM型)であれば、軸支持力の変動が低減するように、軸支持用又はモータ駆動用のインバータから出力される電圧又は電流に、ベアリングレスモータの回転周波数の2次、6次、12次、及び18次の高調波成分を重畳すればよい。
【0051】
また、例えば
図5に示す6極9スロットのベアリングレスモータ(IPM型)であれば、軸支持用又はモータ駆動用のインバータから出力される電圧又は電流に重畳される高調波成分(次数)は以下のように決定される。
(1)ベアリングレスモータが電気的に1周期回転する際に通過する固定子スロットの個数倍の高調波成分は、6極であることを考慮し、回転子が機械的に120度回転するときに固定子スロットを3個通過するので、3次となる。この次数は、固定子スロットの個数(9個)をベアリングレスモータの極対数3で除した数と等しい。
(2)ベアリングレスモータが電気的に1周期回転する際に通過する回転子スロットの個数倍の高調波成分は、6極であることを考慮し、回転子が機械的に120度回転するときに回転子スロットを2個通過するので、2次となる。この次数は、回転子スロットの個数(6個)をベアリングレスモータの極対数3で除した数と等しい。
(3)回転子の1磁極を構成する永久磁石(磁極がN極の永久磁石及び磁極がS極の永久磁石)の個数倍の高調波成分は、N極、S極の各磁極が2個の磁石で構成されているので、2次となる。
(4)ベアリングレスモータの極対数倍の高調波成分は、3極対なので、3次となる。
【0052】
以上から、
図5に示す6極9スロットのベアリングレスモータ(IPM型)であれば、軸支持力の変動が低減するように、軸支持用又はモータ駆動用のインバータから出力される電圧又は電流に、ベアリングレスモータの回転周波数の2次、及び3次の高調波成分を重畳すればよい。
【0053】
以下、軸支持用の第1インバータ(114)及びモータ駆動用の第2インバータ(116)の一方又は両方から、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させるために、制御部(200)が、第1インバータ(114)及び第2インバータ(116)の一方又は両方の制御信号に補正信号を加える場合を例として、詳しく説明する。但し、本開示の技術はこれに限定されるものではなく、例えば、制御部(200)の構成自体を変更することによって、具体的には、制御部(200)において機械学習したモデルを使用したり、或いは、制御部(200)において回転子(111)の電気角等に応じて制御ゲインを変更するなどの方式によって、第1インバータ(114)及び第2インバータ(116)の一方又は両方から、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させてもよい。
【0054】
<インバータ制御信号の補正>
図7に示すように、本実施形態のベアリングレスモータシステム(100)の制御部(200)は、主として、軸支持制御部(210)と、モータ制御部(220)とを有する。制御部(200)は、例えば、プロセッサと、プロセッサを動作させるためのプログラムや情報を記憶するメモリとから構成される。
【0055】
軸支持制御部(210)は、軸支持用の第1インバータ(114)を制御する。これにより、第1インバータ(114)は、軸支持巻線三相電圧(vsu,vsv,vsw)及び軸支持巻線三相電流(isu,isv,isw)を軸支持巻線(113)に供給し、軸支持巻線(113)から回転軸(101)に軸支持力fx、fyが作用する。このとき、回転軸(101)の径方向位置(x、y)がギャップセンサ(118)によって計測される。尚、軸支持巻線(113)が生じる軸支持力fx、fyは、パーミアンス変動(L変動)、界磁磁場変動、及び、モータ巻線(115)を流れるモータ電流の変動の影響を受ける。
【0056】
モータ制御部(220)は、モータ駆動用の第2インバータ(116)を制御する。これにより、第2インバータ(116)は、モータ巻線三相電圧(vmu,vmv,vmw)及びモータ巻線三相電流(imu,imv,imw)をモータ巻線(115)に供給し、モータ巻線(115)から回転子(111)に回転トルクTが作用する。このとき、回転子(111)の機械的な回転角度θがエンコーダ(117)によって計測される。
【0057】
本例では、軸支持制御部(210)及びモータ制御部(220)による第1インバータ(114)及びを第2インバータ(116)の制御には、PWM(Pulse Width Modulation)方式を用いる。具体的には、インバータ(114,116)は、ある一定の周期の中でHレベルの出力を行う期間とLレベルの出力を行う期間との比率(デューティ比)を変えたパルスを出力可能に構成され、軸支持制御部(210)及びモータ制御部(220)がデューティ比の設定を変えることによって、インバータ(114,116)から出力される電圧及び電流が制御される。
【0058】
軸支持制御部(210)は、本例では、位置制御器(211)と、軸支持巻線電流指令演算部(212)と、電流制御器(213)と、逆dq座標変換部(214)と、PWM変調部(215)とから構成される。
【0059】
位置制御器(211)は、予め設定された径方向位置指令値(x*,y*)から径方向位置の計測値(x、y)を減じた位置偏差値にPID演算を適用して、回転軸(101)を安定的に浮上させるための軸支持力指令値(fx
*,fy
*)を算出する。
【0060】
軸支持巻線電流指令演算部(212)は、軸支持力指令値(fx
*,fy
*)に基づいて、軸支持巻線電流指令値(isd*,isq*)を算出する。このとき、前述の通り、軸支持力と軸支持巻線電流との関係はモータ巻線電流によって変化するため、モータ巻線電流検出値(imd,imq)を考慮して軸支持巻線電流指令値(isd*,isq*)を算出する。モータ巻線電流検出値(imd,imq)は、dq座標変換部(202)から軸支持巻線電流指令演算部(212)へ入力される。dq座標変換部(202)は、回転子(111)の電気角φに基づいて、モータ巻線三相電流検出値(imu,imv,imw)を、回転座標系におけるモータ巻線電流検出値(imd,imq)に変換する。回転子(111)の電気角φは、電気角計算部(201)からdq座標変換部(202)へ入力される。電気角計算部(201)は、回転子(111)の機械的な回転角度θの計測値に、ベアリングレスモータ(110)の極対数を乗じることによって、回転子(111)の電気角φを算出する。
【0061】
電流制御器(213)は、軸支持巻線電流指令値(isd*,isq*)から軸支持巻線電流検出値(isd,isq)を減じた電流偏差値にPI演算を適用して、軸支持巻線電流指令値(isd*,isq*)に軸支持巻線電流を調整するために軸支持巻線(113)に印加する軸支持巻線電圧指令値(vsd*,vsq*)を算出する。軸支持巻線電流検出値(isd,isq)は、dq座標変換部(202)から電流制御器(213)へ入力される。dq座標変換部(202)は、回転子(111)の電気角φに基づいて、軸支持巻線三相電流検出値(isu,isv,isw)を、回転座標系における軸支持巻線電流検出値(isd,isq)に変換する。回転子(111)の電気角φは、電気角計算部(201)からdq座標変換部(202)へ入力される。電気角計算部(201)は、回転子(111)の機械的な回転角度θの計測値に、ベアリングレスモータ(110)の極対数を乗じることによって、回転子(111)の電気角φを算出する。
【0062】
逆dq座標変換部(214)は、回転子(111)の電気角φに基づいて、回転座標系における軸支持巻線電圧指令値(vsd*,vsq*)を、軸支持巻線三相電圧指令値(vsu*,vsv*,vsw*)に変換する。回転子(111)の電気角φは、電気角計算部(203)から逆dq座標変換部(214)へ入力される。電気角計算部(203)は、回転子(111)の機械的な回転角度θの計測値に、ベアリングレスモータ(110)の極対数を乗じることによって、回転子(111)の電気角φを算出する。
【0063】
PWM変調部(215)は、軸支持巻線三相電圧(線間電圧)(vsu,vsv,vsw)の平均値が軸支持巻線三相電圧指令値(vsu*,vsv*,vsw*)と等しくなるように、軸支持巻線三相電圧指令値(vsu*,vsv*,vsw*)と主回路(電源)電圧検出値(vdc)との比率から、PWM用比較値(デューティ比)を算出し、軸支持用PWMタイマ出力(制御信号)として、軸支持用の第1インバータ(114)に入力する。
【0064】
モータ制御部(220)は、本例では、回転速度計算部(221)と、回転速度制御器(222)と、電流制御器(223)と、逆dq座標変換部(224)と、PWM変調部(225)とから構成される。
【0065】
回転速度計算部(221)は、回転子(111)の機械的な回転角度θの計測値の時間変化から、ベアリングレスモータ(110)(回転子(111))の角回転速度(ω)を検出する。
【0066】
回転速度制御器(222)は、予め設定された角回転速度指令値(ω*)から角回転速度の検出値(ω)を減じた角回転速度偏差値にPID演算を適用して、所望の角回転速度を実現するためのモータ巻線電流指令値(imd*,imq*)を算出する。
【0067】
電流制御器(223)は、モータ巻線電流指令値(imd*,imq*)からモータ巻線電流検出値(imd,imq)を減じた電流偏差値にPI演算を適用して、モータ巻線電流指令値(imd*,imq*)にモータ巻線電流を調整するためにモータ巻線(115)に印加するモータ巻線電圧指令値(vmd*,vmq*)を算出する。モータ巻線電流検出値(imd,imq)は、dq座標変換部(202)から電流制御器(223)へ入力される。dq座標変換部(202)は、回転子(111)の電気角φに基づいて、モータ巻線三相電流検出値(imu,imv,imw)を、回転座標系におけるモータ巻線電流検出値(imd,imq)に変換する。回転子(111)の電気角φは、電気角計算部(201)からdq座標変換部(202)へ入力される。電気角計算部(201)は、回転子(111)の機械的な回転角度θの計測値に、ベアリングレスモータ(110)の極対数を乗じることによって、回転子(111)の電気角φを算出する。
【0068】
逆dq座標変換部(224)は、回転子(111)の電気角φに基づいて、回転座標系におけるモータ巻線電圧指令値(vmd*,vmq*)を、モータ巻線三相電圧指令値(vmu*,vmv*,vmw*)に変換する。回転子(111)の電気角φは、電気角計算部(203)から逆dq座標変換部(224)へ入力される。電気角計算部(203)は、回転子(111)の機械的な回転角度θの計測値に、ベアリングレスモータ(110)の極対数を乗じることによって、回転子(111)の電気角φを算出する。
【0069】
PWM変調部(225)は、モータ巻線三相電圧(線間電圧)(vmu,vmv,vmw)の平均値がモータ巻線三相電圧指令値(vmu*,vmv*,vmw*)と等しくなるように、モータ巻線三相電圧指令値(vmu*,vmv*,vmw*)と主回路(電源)電圧検出値(vdc)との比率から、PWM用比較値(デューティ比)を算出し、モータ用PWMタイマ出力(制御信号)として、モータ駆動用の第2インバータ(116)に入力する。
【0070】
本例では、軸支持用の第1インバータ(114)から、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させるために、
図8に示すように、軸支持制御部(210)に補正量計算部(216)を設ける。
【0071】
補正量計算部(216)は、位置制御器(211)から軸支持巻線電流指令演算部(212)に入力される制御信号である軸支持力指令値(fx
*,fy
*)に、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波の影響を抑制するように、補正信号を加える。補正量計算部(216)は、回転子(111)の電気角φ、回転座標系における軸支持巻線電流検出値(isd,isq)、及び、回転座標系におけるモータ巻線電流検出値(imd,imq)に基づいて補正量を算出し、算出された補正量を補正信号として、制御信号である軸支持力指令値(fx
*,fy
*)にフィードフォワードで加える。
【0072】
補正量計算部(216)による補正量計算では、電流センサで検出される軸支持巻線電流検出値(isd,isq)に代えて、電圧センサで検出される軸支持巻線電圧検出値(vsd,vsq)、力センサで検出される軸支持力検出値(fx,fy)、又は、ギャップセンサで検出される回転軸(101)の径方向位置検出値を用いてもよい。また、モータ巻線電流検出値(imd,imq)に代えて、電圧センサで検出されるモータ巻線電圧検出値(vmd,vmq)、又は、トルクメータで検出される回転子(111)の回転トルク検出値(T)を用いてもよい。補正量計算の詳細については後述する。
【0073】
図8に示す例では、位置制御器(211)から軸支持巻線電流指令演算部(212)に入力される制御信号(軸支持力指令値(f
x
*,f
y
*))に補正信号を加えたが、これに代えて、軸支持巻線電流指令演算部(212)から電流制御器(213)に入力される制御信号(軸支持巻線電流指令値(isd
*,isq
*))、電流制御器(213)から逆dq座標変換部(214)に入力される制御信号(軸支持巻線電圧指令値(vsd
*,vsq
*)(逆dq座標変換前))、逆dq座標変換部(214)からPWM変調部(215)に入力される制御信号(軸支持巻線三相電圧指令値(vsu
*,vsv
*,vsw
*)(逆dq座標変換後))、又は、位置制御器(211)に入力される制御信号(径方向位置指令値(x
*,y
*))に補正信号を加えてもよい。
【0074】
或いは、軸支持用の第1インバータ(114)の制御信号に補正信号を加えることに代えて、モータ駆動用の第2インバータ(116)の制御信号に補正信号を加えてもよい。具体的には、回転速度制御器(222)から電流制御器(223)に入力される制御信号(モータ巻線電流指令値(imd*,imq*))、電流制御器(223)から逆dq座標変換部(224)に入力される制御信号(モータ巻線電圧指令値(vmd*,vmq*))(逆dq座標変換前)、又は、逆dq座標変換部(224)からPWM変調部(225)に入力される制御信号(モータ巻線三相電圧指令値(vmu*,vmv*,vmw*)(逆dq座標変換後))に補正信号を加えてもよい。
【0075】
ベアリングレスモータでは、モータトルクを発生させる磁気回路と、軸支持力を発生させる磁気回路とが共通となっているため、軸支持巻線の電流値及びモータ巻線の電流値の両方が軸支持力に影響を与える。このため、軸支持力の変動を抑制させるための補正信号をモータ駆動用インバータの制御信号のみに加えることも可能である。言い換えると、軸支持用インバータの制御信号及びモータ駆動用インバータの制御信号のどちらを補正しても、出力される軸支持力の大きさを補正することができる。従って、軸支持力の変動を低減するために、状況に応じて、(1)軸支持用インバータの制御信号のみ補正する方式、(2)モータ駆動用インバータの制御信号のみ補正する方式、(3)軸支持用インバータ及びモータ駆動用インバータの両方の制御信号を補正する方式のいずれかを用いることができる。
【0076】
<補正量計算>
補正量計算部(216)では、回転子(111)の電気角φ、回転座標系における軸支持巻線電流(isd,isq)、及び、回転座標系におけるモータ巻線電流(imd,imq)のそれぞれの値毎に、制御信号の補正量をテーブルデータとして予め準備しておき、当該テーブルデータを用いて、回転子(111)の電気角φ、回転座標系における軸支持巻線電流(isd,isq)、及び、回転座標系におけるモータ巻線電流(imd,imq)のそれぞれの検出値に基づいて補正量を算出してもよい。テーブルデータは、制御部(200)のメモリに記憶させてもよい。
【0077】
テーブルデータは、例えば、ベアリングレスモータの設計情報に基づき事前に磁場解析を行うことによって作成してもよい。この方法では、ベアリングレスモータの図面から磁場解析の解析モデルを作成し、軸支持巻線電流及びモータ巻線電流を変化させながら様々な条件で磁場解析を行い、径方向に作用する軸支持力の波形を取得し、当該波形から、回転子の回転角度(電気角)、モータ巻線電流、軸支持巻線電流の各値について軸支持力の変動を低減する補正量を計算してテーブルデータにまとめる。
【0078】
具体的には、任意のモータ巻線電流(imd1,imq1)、及び任意の軸支持巻線電流(isd1,isq1)を入力電流として磁場解析を行い、回転子の電気角φごとの径方向の軸支持力を得る(
図9の(A)参照)。次に、得られた径方向の軸支持力波形を直流成分(
図9の(B)参照)と変動成分(
図9の(C)参照)とに分ける。次に、径方向の軸支持力波形の変動成分波形を反転する(-1を乗じる)ことによって、回転子の電気角φごとの補正量を算出し(
図9の(D)参照)、この補正量の波形に基づき、
図10に模式的に示すようなテーブルデータを作成する。同様に、様々なモータ巻線電流((imd2,imq2),(imd3,imq3)など)及び軸支持巻線電流((isd2,isq2),(isd3,isq3)など)を入力電流として磁場解析を行い、前述の手順でテーブルデータの作成を行う。尚、
図10の(A)は、モータ巻線電流がimd1,imq1で、軸支持巻線電流がisd1,isq1のときの回転子の電気角φごとの補正量を示し、
図10の(B)は、モータ巻線電流がimd2,imq2で、軸支持巻線電流がisd2,isq2のときの回転子の電気角φごとの補正量を示す。また、
図10に示すテーブルデータでは、補正量を模式的に文字で示しているが、実際には、前述のように算出した数値が入る。
【0079】
図10に示すテーブルデータから、例えば、モータ巻線電流検出値がimd1[A],imq1[A]、軸支持巻線電流検出値がisd1[A],isq1[A]、回転子の電気角検出値が4[deg]の場合、位置制御器(211)から軸支持巻線電流指令演算部(212)に入力される制御信号である軸支持力指令値に加える補正信号(補正量)はFX
4[N]となる。この場合、軸支持力指令値f
x
*,f
y
*のそれぞれに加える補正量Δf
x
*,Δf
y
*は、径方向の軸支持力補正量をx方向、y方向に分解して、Δf
x
*=FX
4cosφ、Δf
y
*=FX
4sinφとなる。尚、
図10に示すテーブルデータでは、電気角が14[deg]までの補正量が登録されているが、実際のテーブルデータでは電気角が360[deg]までの補正量が登録される。
【0080】
或いは、別の方法として、例えば、ベアリングレスモータの磁気回路の特徴から補正信号を算出する数式を構築し、当該数式における高調波成分のゲイン及び位相のテーブルデータを実機の運転情報(キャリブレーション)から作成してもよい。この方法では、まず、ベアリングレスモータの磁気回路の特徴に基づき、インバータの制御信号に加える補正信号の高調波成分の次数を決定する。次に、決定した各次数の高調波成分の振幅及び位相を実機の運転情報(キャリブレーション)を用いて決定する。詳しくは、回転子の回転角度(電気角)、軸支持巻線電流及びモータ巻線電流を変化させながら実機を運転し、各運転条件において軸支持力の変動量が低減するように制御信号に重畳する高調波成分の振幅及び位相を決定する。続いて、回転子の回転角度(電気角)、モータ巻線電流、軸支持巻線電流の各値について決定した高調波成分の振幅及び位相をテーブルデータにまとめる。
【0081】
ベアリングレスモータの磁気回路の特徴によって重畳する高調波成分の個数は異なるが、例えば、重畳する高調波成分が1つの場合、補正信号X(φ)は、電気角φの関数として、以下のように表される。
【0082】
【0083】
尚、kは高調波成分の次数を示し、Xk、γkはそれぞれ高調波成分の振幅及び位相を示す。前述の通り、Xk、γkはキャリブレーションによって決定される。また、imd、imqは回転座標系におけるモータ巻線電流を示し、isd、isqは回転座標系における軸支持巻線電流を示す。
【0084】
例えば
図4に示す4極36スロットのベアリングレスモータ(BPM型)の場合、磁気回路の特徴から、2次、6次、12次、18次の高調波成分を下記の数式で表される補正信号X(φ)として、軸支持巻線電流指令演算部(212)に入力される制御信号である軸支持力指令値(f
x
*,f
y
*)に加えてもよい。
【0085】
【0086】
ここで、X2(imd,imq,isd,isq)、X6(imd,imq,isd,isq)、X12(imd,imq,isd,isq)、X18(imd,imq,isd,isq)は、各次数の高調波成分の振幅であり、モータ巻線電流、軸支持巻線電流によって異なる。また、γ2(imd,imq,isd,isq)、γ6(imd,imq,isd,isq)、γ12(imd,imq,isd,isq)、γ18(imd,imq,isd,isq)は、各次数の高調波成分の位相であり、モータ巻線電流、軸支持巻線電流によって異なる。
【0087】
各次数の高調波成分の振幅及び位相は、具体的には、以下のように決定してもよい。まず、制御部(200)のプログラム(マイコンソフトウェア)内の変数をDA変換して出力できるようにすると共に、軸支持力指令値(f
x
*,f
y
*)の制御信号と、回転軸(101)の径方向位置(浮上位置)(x、y)のギャップセンサ検出信号とを出力可能な状態にする。次に、モータ巻線電流及び軸支持巻線電流を変化させながら、実機の運転を開始し、任意のモータ巻線電流(imd1,imq1)及び任意の軸支持巻線電流(isd1,isq1)において、補正信号の各次数の高調波成分の振幅及び位相を変化させる。その際、浮上位置検出波形を確認し、浮上位置検出波形の変動が低減される補正信号の各次数の高調波成分の振幅及び位相を決定する。
図11は、制御信号に加える補正信号の高調波成分の振幅及び位相を変化させたときの浮上位置波形を模式的に示す。
図11に示す例では、実線のケース1、一点鎖線のケース2、破線のケース3の中では、ケース3の浮上位置波形の変動が最小なので、ケースCの高調波成分の振幅及び位相をテーブルデータに登録する。
図12は、ケース1~3における各次数の高調波成分の振幅及び位相であるX
2(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)、γ
2(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)、X
6(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)、γ
6(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)、X
12(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)、γ
12(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)、X
18(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)、γ
18(i
md,i
mq,i
sd,i
sq)を示す。
図12では、各振幅及び各位相を模式的に文字で示しているが、実際には、実機の運転時に補正信号として設定した数値が入る。
【0088】
同様に、様々なモータ巻線電流((imd2,imq2),(imd3,imq3)など)及び軸支持巻線電流((isd2,isq2),(isd3,isq3)など)においても、浮上位置波形の変動が低減される補正信号の各次数の高調波成分の振幅及び位相を決定する。このようにして、モータ巻線電流及び軸支持巻線電流の各値において、浮上位置波形の変動が低減される補正信号の各次数の高調波成分の振幅及び位相をテーブルデータとしてまとめる。
【0089】
<電圧計算例>
制御部(200)においてインバータ制御信号に補正信号を加えない場合、制御信号は基本波のみ(角回転速度の1倍の周波数のみ)となり、例えば三相電圧(vu、vv、vw)は、電源電圧をVm、電気角をφとして、以下のように表される。尚、以下の説明は、軸支持巻線(113)、モータ巻線(115)に共通するものであり、また、三相電流についても同様である。
【0090】
【0091】
この三相電圧を回転座標系のdq軸電圧に変換するdq軸変換行列Zは、以下のように表される。
【0092】
【0093】
dq軸変換行列Zを用いて、三相(UVW相)電圧(vu、vv、vw)は、以下のようにdq軸電圧(vd,vq)に変換される。
【0094】
【0095】
従って、d軸電圧vdは、以下のように算出される。
【0096】
【0097】
また、q軸電圧vqは、以下のように算出される。
【0098】
【0099】
以上に説明したように、インバータ制御信号に補正信号を加えず、制御信号が基本波のみ(1次)である場合、回転行列を乗じてdq座標変換を行うと、直流電圧になる。尚、以上の計算は、U相の位相を0[deg]とした場合のものである。
【0100】
それに対して、制御部(200)においてインバータ制御信号に補正信号として6次の高調波成分を加えた場合、例えば三相電圧(vu、vv、vw)は、電源電圧をVm、電気角をφ、6次高調波の振幅をV6として、以下のように表される。
【0101】
【0102】
前述のdq軸変換行列Zを用いて、三相(UVW相)電圧(vu、vv、vw)は、以下のようにdq軸電圧(vd,vq)に変換される。
【0103】
【0104】
従って、d軸電圧vdは、以下のように算出される。
【0105】
【0106】
尚、d軸電圧vdの算出の際、Vm×√2/3=Vm’、 V6×√2/3=V6’とした。また、右辺第2式において、Vm’を含む第1、3、5項の総和は0となる。また、右辺第4式から第5式への変形には、以下の関係式を用いている。
【0107】
【0108】
一方、q軸電圧vqは、以下のように算出される。
【0109】
【0110】
尚、q軸電圧vqの算出の際、Vm×√2/3=Vm’、 V6×√2/3=V6’とした。また、右辺第2式において、Vm’を含む第1、3、5項の総和は√3/2×Vmとなる。また、右辺第4式から第5式への変形には、以下の関係式を用いている。
【0111】
【0112】
以上に説明したように、インバータ制御信号に補正信号として6次の高調波成分を加え、6次の高調波成分が重畳した合成波(本例では三相電圧)をdq座標変換すると、直流電圧成分に5次の高調波成分が重畳した波形となる。このことから、N次の高調波成分が重畳した合成波をdq座標変換すると、直流成分に(N-1)次の高調波成分が重畳した波形となることが分かる。
【0113】
例えば
図4に示す4極36スロットのベアリングレスモータ(BPM型)では、回転周波数(角回転速度)の2次、6次、12次、18次の高調波成分の補正信号を制御信号に加える必要があるが、この場合、dq変換変換を行うと、直流成分に、角回転速度の1倍、5倍、11倍、17倍の周波数が重畳した波形となる。
【0114】
このように、例えば三相交流であるモータ電流及び軸支持電流をdq座標変換をする際に、高調波の次数が1次下がるため、dq座標変換後の制御信号を補正する補正信号の次数も1次下がることになる。例えば6次の高調波を電圧又は電流に重畳したしたい場合、dq座標変換後の制御信号には5次の高調波成分の補正信号を加える。具体的には、dq座標変換後の制御信号である軸支持巻線電流指令値(isd
*,isq
*)(
図7の電流制御器(213)への制御信号)、軸支持巻線電圧指令値(vsd
*,vsq
*)(逆dq座標変換前)(
図7の逆dq座標変換部(214)への制御信号)等を補正する補正信号の高調波成分は、ベアリングレスモータの磁気回路の形状の特徴によって決定される補正対象の空間高調波の次数から1次下げた次数となる。すなわち、dq座標軸において制御信号を補正する補正信号の高調波成分と、uvw座標軸又はxy座標軸において制御信号を補正する補正信号の高調波成分とでは、次数が1次異なることになる。
【0115】
<実施形態の特徴>
以上に説明したように、本実施形態のベアリングレスモータシステム(100)では、制御部(200)は、軸支持用の第1インバータ(114)及びモータ駆動用の第2インバータ(116)の一方又は両方から、軸支持力の変動が低減するように、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる。このため、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波により、軸支持巻線(113)とモータ巻線(115)との相互インダクタンスの大きさが回転子の回転角度(電気角)に依存して変動することを抑制することができる。従って、回転子の回転角度(電気角)に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるので、回転軸(101)に径方向の振動が生じることを抑制して、回転軸(101)を滑らかに回転させることができる。
【0116】
従来、回転子の構造がSPM型、Inset型、IPM型、BPM型、Consequent Pole型などの様々な構造において、回転子の回転角度(電気角)が変化すると、ベアリングレスモータの磁気回路の特徴によって決定される空間高調波に起因して、電気角に依存して前述の相互インダクタンスが変化して軸支持力が変動していた。それに対して、本実施形態のインバータ制御は、回転子の構造が変更されても適用可能であり、軸支持力の変動を抑制することができる。
【0117】
図13は、本実施形態のベアリングレスモータシステム(100)において軸支持用の第1インバータ(114)から出力される電流の波形を模式的に示す。ベアリングレスモータシステム(100)が、軸支持巻線(113)を交流で駆動するSPM型、Inset型、IPM型、BPM型等であれば、出力電流波形は、
図13の(A)のようになり、軸支持巻線(113)を直流で駆動するConsequent Pole型等であれば、出力電流波形は、
図13の(B)のようになる。尚、
図13の(A)、(B)において、インバータ制御信号に高調波成分の補正信号を加えない従来技術による場合の出力電流波形を破線で示している。
【0118】
本実施形態のベアリングレスモータシステム(100)において、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波の次数が、軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)の配置される第1スロット(121)の個数をベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、永久磁石(123A,123B)の配置される第2スロット(122)の個数をベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、回転子(111)の1磁極を構成する永久磁石(123A,123B)の個数、並びに、ベアリングレスモータ(110)の極対数のそれぞれの中から選択される1つ又は複数の要素に基づいて決定されてもよい。これにより、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波により、軸支持巻線(113)とモータ巻線(115)との相互インダクタンスの大きさが回転子(111)の回転角度(電気角)に依存して変動することを抑制することができる。
【0119】
本実施形態のベアリングレスモータシステム(100)において、制御部(200)は、軸支持用の第1インバータ(114)及びモータ駆動用の第2インバータ(116)の一方又は両方の制御信号に補正信号を加えることにより、ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させてもよい。これにより、第1インバータ(114)の制御信号又は第2インバータ(116)の制御信号に、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波の影響を打ち消す高調波を重畳することができる。この場合、補正信号は、回転子(111)の回転角度(電気角)、軸支持巻線(113)の電流値、及び、モータ巻線(115)の電流値に基づいて決定されると、第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方の制御信号に補正信号を加えることによって、ベアリングレスモータ(110)の磁気回路の特徴によって決定される空間高調波の影響を打ち消すことができる。
【0120】
本実施形態のベアリングレスモータシステム(100)を備えた圧縮機(10)では、ベアリングレスモータシステム(100)において、回転子(111)の回転角度(電気角)に依存せずに所望の軸支持力を発生させることができるので、圧縮機(10)の動作が安定して信頼性が向上する。
【0121】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態(変形例を含む。以下同じ。)のベアリングレスモータシステム(100)が設けられた圧縮機(10)を備える冷凍装置の一例として、
図14に示す空気調和装置(1)について説明する。
【0122】
空気調和装置(1)は、蒸気圧縮式の冷凍サイクルによって、対象空間の空調を行う装置である。空気調和装置(1)は、冷房運転を実行可能であり、主として、圧縮機(10)と、熱源側熱交換器(3)と、膨張機構(4)と、利用側熱交換器(5)とを備える。
【0123】
圧縮機(10)は、吸入管(6)を流れる低圧の冷媒を、吸入口(11)を介して吸入し、吸入口(11)を介して吸入した冷媒を圧縮して高圧の冷媒とした後に、吐出口(12)を介して吐出管(7)へと吐出する。尚、吸入管(6)は、利用側熱交換器(5)から出た冷媒を圧縮機(10)の吸入側(吸入口(11))へと導く冷媒管であり、吐出管(7)は、圧縮機(10)から吐出口(12)を介して吐出された冷媒を熱源側熱交換器(3)の入口へと導く冷媒管である。
【0124】
圧縮機(10)は、例えば第1実施形態で述べたように、主として、回転軸(101)と、インペラ(102,103)と、ベアリングレスモータ(110)とを備える。インペラ(102,103)には、回転軸(101)からベアリングレスモータ(110)の駆動力が伝達され、回転軸(101)を軸心としてインペラ(102,103)は回転する。これにより、圧縮機(10)は、吸入口(11)を介して流入する吸入冷媒を圧縮する。
【0125】
熱源側熱交換器(3)は、冷却源としての水又は空気と熱交換させることにより、圧縮機(10)から吐出された冷媒の放熱を行う冷媒の放熱器として機能する。熱源側熱交換器(3)の一端は、吐出管(7)を介して圧縮機(10)の吐出口(12)に接続される。熱源側熱交換器(3)の他端は、膨張機構(4)に接続される。
【0126】
膨張機構(4)は、熱源側熱交換器(3)で放熱された冷媒の減圧を行う機構であり、例えば、電動膨張弁から構成される。膨張機構(4)の一端は、熱源側熱交換器(3)に接続される。膨張機構(4)の他端は、利用側熱交換器(5)に接続される。
【0127】
利用側熱交換器(5)は、加熱源としての水又は空気と熱交換させることにより、膨張機構(4)で減圧された冷媒の加熱を行う冷媒の加熱器として機能する。利用側熱交換器(5)の一端は、膨張機構(4)に接続される。利用側熱交換器(5)の他端は、吸入管(6)を介して圧縮機(10)の吸入口(11)に接続される。
【0128】
以上に説明したように、空気調和装置(1)において、圧縮機(10)、熱源側熱交換器(3)、膨張機構(4)及び利用側熱交換器(5)は、吸入管(6)及び吐出管(7)を含む冷媒配管によって順次接続されることにより、冷媒が循環する経路(8)を構成する。
【0129】
本実施形態の冷凍装置(空気調和装置(1))によると、第1実施形態のベアリングレスモータシステム(100)により駆動される圧縮機(10)を用いるため、ベアリングレスモータシステム(100)が回転子(111)の回転角度(電気角)に依存せずに所望の軸支持力を発生することができるので、冷凍装置の動作が安定して信頼性が向上する。
【0130】
尚、本実施形態の冷凍装置(空気調和装置(1))に適用可能な圧縮機(10)の構成は、
図1に示す例に限定されない。
図1に示す例では、回転軸(101)の軸方向の一端に2つのインペラ(102,103)を設けたが、これに代えて、
図15に示すように、単一のインペラ(102)のみを設けてもよいし、或いは、
図16に示すように、第2インペラ(103)を回転軸(101)の軸方向の他端に設けてもよい。また、
図1に示す例では、1つのベアリングレスモータ(110)と1つのラジアル磁気軸受(130)によって回転軸(101)の径方向の軸支持を行ったが、これに代えて、
図17に示すように、ラジアル磁気軸受(130)は用いずに、2つのベアリングレスモータ(110)によって回転軸(101)の径方向の軸支持を行ってもよい。また、
図1に示す例では、スラスト磁気軸受(105,107)を回転軸(101)におけるインペラ(102,103)の反対側の端部に配置したが、これに代えて、
図18に示すように、スラスト磁気軸受(105,107)をインペラ(102,103)の近くに配置してもよいし、或いは、
図19に示すように、ベアリングレスモータ(110)とラジアル磁気軸受(130)との間に配置してもよい。
【0131】
(その他の実施形態)
前記実施形態(変形例を含む。以下同じ。)では、ベアリングレスモータシステム(100)を圧縮機(10)に適用する場合を例示したが、ベアリングレスモータシステム(100)の用途は特に限定されず、発電機等の回転電機、又はその回転電機を備えた各種機器等に適用可能である。
【0132】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態及び変形例は、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0133】
以上に説明したように、本開示は、ベアリングレスモータシステム、圧縮機及び冷凍装置について有用である。
【符号の説明】
【0134】
1 空気調和装置(冷凍装置)
10 圧縮機
100 ベアリングレスモータシステム
101 回転軸
102 第1インペラ(圧縮機構)
103 第2インペラ(圧縮機構)
110 ベアリングレスモータ
111 回転子
112 固定子
113 軸支持巻線
114 第1インバータ
115 モータ巻線
116 第2インバータ
121 第1スロット
122 第2スロット
123A,123B 永久磁石
【手続補正書】
【提出日】2024-07-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(101)と、
前記回転軸(101)に設けられた回転子(111)と、前記回転子(111)の径方向外側に設けられ且つ軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)を有する固定子(112)とを備えるベアリングレスモータ(110)と、
前記軸支持巻線(113)に電力を供給して前記回転軸(101)を非接触で支持する軸支持力を生じさせる第1インバータ(114)と、
前記モータ巻線(115)に電力を供給して前記回転軸(101)に回転トルクを生じさせる第2インバータ(116)と、
前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)を制御する制御部(200)と
を備え、
前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方から、前記軸支持力の変動が低減するように、前記ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させ、
前記軸支持巻線(113)及び前記モータ巻線(115)は、前記固定子(112)に周方向に並んで設けられた複数の第1スロット(121)に配置され、
前記高調波の次数は、前記第1スロット(121)の個数を前記ベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、及び、前記極対数のそれぞれの中から選択される1つ又は複数の要素に基づいて決定される、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項2】
回転軸(101)と、
前記回転軸(101)に設けられた回転子(111)と、前記回転子(111)の径方向外側に設けられ且つ軸支持巻線(113)及びモータ巻線(115)を有する固定子(112)とを備えるベアリングレスモータ(110)と、
前記軸支持巻線(113)に電力を供給して前記回転軸(101)を非接触で支持する軸支持力を生じさせる第1インバータ(114)と、
前記モータ巻線(115)に電力を供給して前記回転軸(101)に回転トルクを生じさせる第2インバータ(116)と、
前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)を制御する制御部(200)と
を備え、
前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方から、前記軸支持力の変動が低減するように、前記ベアリングレスモータ(110)の回転周波数に2以上の自然数を乗じた高調波が重畳した電圧又は電流を出力させ、
前記回転子(111)は、複数の永久磁石(123A,123B)を有し、
前記永久磁石(123A,123B)は、前記回転子(111)に周方向に並んで設けられた複数の第2スロット(122)に配置され、
前記高調波の次数は、前記第2スロット(122)の個数を前記ベアリングレスモータ(110)の極対数で除した数、及び、前記回転子(111)の1磁極を構成する前記永久磁石(123A,123B)の個数のそれぞれの中から選択される1つ又は複数の要素に基づいて決定される、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項3】
請求項1又は2のベアリングレスモータシステムにおいて、
前記制御部(200)は、前記第1インバータ(114)及び前記第2インバータ(116)の一方又は両方の制御信号に補正信号を加えることによって、前記高調波が重畳した電圧又は電流を出力させる、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項4】
請求項3のベアリングレスモータシステムにおいて、
前記補正信号は、前記回転子(111)の電気角、前記軸支持巻線(113)の電流値、及び、前記モータ巻線(115)の電流値に基づいて決定される、
ベアリングレスモータシステム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項のベアリングレスモータシステム(100)と、
前記ベアリングレスモータ(100)により駆動されて流体を圧縮する圧縮機構(102,103)と
を備える、
圧縮機。
【請求項6】
請求項5の圧縮機(10)を備える、
冷凍装置。