(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144802
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】溶接用の多関節ロボットの教示方法
(51)【国際特許分類】
B25J 9/10 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056917
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(71)【出願人】
【識別番号】305017815
【氏名又は名称】十一屋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大附 和敬
(72)【発明者】
【氏名】平松 剛
(72)【発明者】
【氏名】西羅 康平
(72)【発明者】
【氏名】森 貴久
(72)【発明者】
【氏名】田原 健一
(72)【発明者】
【氏名】相馬 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 聡
(72)【発明者】
【氏名】二村 倫也
(72)【発明者】
【氏名】大棟 康亜
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一道
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707BS12
3C707CS01
3C707HS27
3C707JS02
3C707JU14
3C707LS02
3C707LS04
3C707MT07
(57)【要約】
【課題】上部鋼管柱と下部鋼管柱とのR角部に沿った開先における溶接の品質を確保することができる多関節ロボットの教示方法を提供する。
【解決手段】溶接用の多関節ロボット80の教示方法は、台車81をレール73に沿って走行させ、かつ、ロボット本体80Aの動作によりトーチ92を移動させながら、隣接する一方の平面部10aの一部から、R角部10bを通過して、他方の平面部10aの一部までの開先30に沿って、鋼管柱1を連続して溶接するための教示方法である。R角部の設定長さをLmとし、トーチ92の最大速度をVsとし、台車81がレール73を走行する最大速度をVcとし、設定区間GAに沿って移動するトーチ92の先端の移動期間に、台車81が移動する距離をLsとしたときに、Ls≦Vc×(Lm/Vs)を満たすように、多関節ロボットの姿勢の教示を行う。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部鋼管柱と下部鋼管柱との開先に、多関節ロボットに取付けられたトーチの先端から、溶融した溶接材料を供給しながら前記トーチを前記開先に沿って移動させ、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱とを溶接するための溶接用の多関節ロボットの教示方法であって、
前記上部鋼管柱と下部鋼管柱は、複数の平面部と、隣接する前記平面部同士の間を繋ぐように所定の曲率半径で湾曲したR角部と、を有した角形の鋼管柱であり、
前記多関節ロボットは、多関節のロボット本体と、水平方向に延在した直線状のレール上を走行する台車と、を含み、
前記教示方法は、前記台車を前記レールに沿って走行させ、かつ、前記ロボット本体の動作により前記トーチを移動させながら、隣接する前記平面部同士の一方の平面部の一部から、前記R角部を通過して、他方の平面部の一部までの前記開先に沿って、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱とを連続して溶接するように、前記ロボット本体の姿勢と前記台車の位置とを教示する方法であり、
前記R角部を溶接する溶接区間内に、前記ロボット本体の姿勢と前記台車の位置とを教示する教示点を少なくとも2つ設定し、
設定した2つの前記教示点同士の間にある設定区間であり、前記溶接区間に沿った前記設定区間の長さをLmとし、
前記設定区間に沿って移動する前記トーチの先端の最大速度をVsとし、
前記台車が前記レールを走行することができる走行性能としての最大速度をVcとし、
前記設定区間に沿って移動する前記トーチの先端の移動期間に、前記台車が移動する距離をLsとしたときに、
以下の式(1)を満たすように、前記多関節ロボットの教示を行うことを特徴とする溶接用の多関節ロボットの教示方法。
Ls≦Vc×(Lm/Vs) …(1)
【請求項2】
前記設定区間は、前記溶接区間の中央を含む区間であることを特徴とする請求項1に記載の多関節ロボットの教示方法。
【請求項3】
前記設定区間は、前記溶接区間の両端に前記教示点が設定された区間であることを特徴とする請求項2に記載の多関節ロボットの教示方法。
【請求項4】
前記設定区間は、前記溶接区間を複数の区間に分割するように前記教示点が設定された複数の設定区間からなることを特徴とする請求項1に記載の多関節ロボットの教示方法。
【請求項5】
前記溶接区間に沿って移動する前記トーチの先端の移動期間において、前記台車を等速で移動させることを特徴とする請求項1に記載の溶接用の多関節ロボットの教示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部鋼管柱と下部鋼管柱とを溶接用の多関節ロボットの教示方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術として、たとえば、特許文献1には、エレクションピースを建て入れ冶具で連結して仮固定された上部鋼管柱と下部鋼管柱との開先に、溶接用ロボットに取付けられたトーチの先端から、溶融した溶接材料を供給しながら、上部鋼管柱と下部鋼管柱の溶接する鋼管柱の溶接方法が提案されている。この溶接方法では、溶接用ロボットに多関節ロボットを用いており、多関節ロボット本体を台車に搭載し、台車をレール部材に沿って走行させながら、多関節ロボットを動作させながら、溶接を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多関節ロボットは、上部鋼管柱と下部鋼管柱との開先に沿って、トーチを移動させる際に、同じ開先の位置であっても、様々な姿勢を採ることができ、多関節ロボットの姿勢を教示する際に、その教示方法を多関節ロボットの一義的に決定することができない。また、多関節ロボットの台車の位置が異なれば、同じ地点を溶接する場合であっても、多関節ロボットの姿勢は異なる。
【0005】
特に、鋼管柱が、複数の平面部と、隣接する平面部同士の間を繋ぐR角部を有した多角形の鋼管柱である場合、R角部に沿った開先にトーチを移動させようとすると、多関節ロボットの姿勢を大きく変化させることがあり、その際に、レール部材を走行する台車の移動量も大きくなることがある。この際、多関節ロボットに教示する姿勢によっては、台車の移動量が大きくなり過ぎて、台車の最大移動速度を超えてしまい、教示した多関節ロボットの姿勢に対して、教示した台車の位置まで、所定の時間内に台車が移動できないことがあり、溶接の品質の低下を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、このような点を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上部鋼管柱と下部鋼管柱とのR角部に沿った開先における溶接の品質を確保することができる多関節ロボットの教示方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を鑑みて、本発明に係る溶接用の多関節ロボットの教示方法は、上部鋼管柱と下部鋼管柱との開先に、多関節ロボットに取付けられたトーチの先端から、溶融した溶接材料を供給しながら前記トーチを前記開先に沿って移動させ、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱とを溶接するための溶接用の多関節ロボットの教示方法である。前記上部鋼管柱と下部鋼管柱は、複数の平面部と、隣接する前記平面部同士の間を繋ぐように所定の曲率半径で湾曲したR角部と、を有した角形の鋼管柱である。前記多関節ロボットは、多関節のロボット本体と、水平方向に延在した直線状のレール上を走行する台車と、を含む。前記教示方法は、前記台車を前記レールに沿って走行させ、かつ、前記ロボット本体の動作により前記トーチを移動させながら、隣接する前記平面部同士の一方の平面部の一部から、前記R角部を通過して、他方の平面部の一部までの前記開先に沿って、前記上部鋼管柱と前記下部鋼管柱とを連続して溶接するように、前記ロボット本体の姿勢と前記台車の位置とを教示する方法である。前記R角部を溶接する溶接区間内に、前記ロボット本体の姿勢と前記台車の位置とを教示する教示点を少なくとも2つ設定する。
設定した2つの前記教示点同士の間にある設定区間であり、前記溶接区間に沿った前記設定区間の長さをLmとし、前記設定区間に沿って移動する前記トーチの先端の最大速度をVsとし、前記台車が前記レールを走行することができる走行性能としての最大速度をVcとし、前記設定区間に沿って移動する前記トーチの先端の移動期間に、前記台車が移動する距離をLsとしたときに、以下の式(1)を満たすように、前記多関節ロボットの教示を行うことを特徴とする。
Ls≦Vc×(Lm/Vs) …(1)
【0008】
この発明によれば、開先に沿った教示点において、ロボット本体の姿勢と台車の位置とが教示される。教示された多関節ロボットは、台車をレールに沿って走行させ、かつ、ロボット本体の動作によりトーチの先端を移動させながら、隣接する平面部同士の一方の平面部の一部から、略円弧状のR角部を通過して、他方の平面部の一部までの開先に沿って、上部鋼管柱と下部鋼管柱とを連続して溶接することができる。
【0009】
ここで、R角部を溶接する溶接区間内に、ロボット本体の姿勢と台車の位置とを教示する教示点を少なくとも2つ設定する。この設定した2つの教示点の間の設定区間の長さをLmとし、設定区間に沿って移動するトーチの先端の最大速度をVsとしたときに、Lm/Vsは、トーチの先端が設定区間を溶接する溶接時間であり、設定区間GAに沿って移動するトーチ92の先端の移動期間(移動時間)に相当する。この溶接時間は、トーチの先端の最大速度Vsから算出した時間であるので、トーチの先端が設定区間を実際に溶接するに要する時間は、この溶接時間以上の時間となる。
【0010】
この溶接時間に、台車がレールを走行することができる走行性能としての最大速度Vcを乗じた台車の距離(最大移動可能距離)を超えて、台車を移動させようとすると、台車が、所定の時間内に教示した位置まで移動できないことがある。したがって、台車が最大移動可能距離以下となるように、ロボット本体の姿勢と台車の位置とを教示すれば、台車が教示した目標となる位置に遅れることなく到達するので、上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を安定して行うことができる。
【0011】
より好ましい態様としては、前記設定区間は、前記溶接区間の中央を含む区間である。ここで、溶接区間の中央とは、略円弧状のR部に沿った中央(円弧の両端から同じ長さとなる位置)である。溶接区間の中央近傍では、溶接時にロボット本体の姿勢が大きく変化し、台車の移動量も大きくなる。したがって、溶接区間の中央を含む区間では、台車が、所定の時間内に教示した位置まで移動できないことがある。そこで、本態様によれば、設定区間を、溶接区間の中央を含む区間とし、この設定区間において、式(1)を適用して、多関節ロボットの教示を行うことにより、上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接を安定して行うことができる。
【0012】
より好ましい態様としては、前記設定区間は、前記溶接区間の両端に前記教示点が設定された区間である。この態様によれば、設定区間を、溶接区間の両端に教示点が設定された区間とすることにより、R角部の溶接区間において、溶接に安定したロボット本体の姿勢と台車の位置をより簡単に教示することができる。
【0013】
より好ましい態様としては、前記設定区間は、前記溶接区間を複数の区間に分割するように前記教示点が設定された複数の設定区間からなる。この態様によれば、R角部を溶接する溶接区間を複数の設定区間に設定するので、R角部の溶接区間の設定区間ごとに、トーチの先端の最大速度に合わせた台車の移動距離を設定することができる。この結果、R角部の溶接区間において、上部鋼管柱と下部鋼管柱との溶接をより安定して行うことができる。
【0014】
より好ましい態様としては、前記溶接区間に沿って移動する前記トーチの先端の移動期間において、前記台車を等速で移動させる。この態様によれば、溶接区間に沿って移動する前記トーチの先端の移動期間(R角部を溶接する溶接期間)に、ロボット本体の姿勢が大きく変化するが、台車を等速で移動させることにより、教示後の多関節ロボットの制御の簡素化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上部鋼管柱と下部鋼管柱とを繋ぐ略円弧状のR角部に沿った開先における溶接の品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】仮固定された上部鋼管柱と下部鋼管柱を説明するための側面図である。
【
図2】仮固定された上部鋼管柱と下部鋼管柱を用いた、多関節ロボットの教示方法とその溶接方法を説明するための模式的斜視図である。
【
図3】建て入れ治具を取付けた状態の多関節ロボットの教示方法とその溶接方法を説明するための模式的平面図である。
【
図4】多関節ロボットの教示点を説明するための平面図である。
【
図5】(a)は、第1~第3溶接区間における教示点ごとのトーチの先端の位置を説明するための概念図であり、(b)は、台車の位置関係を説明するための概念図である。
【
図6】(a)~(f)は、第1~第3溶接区間における教示点ごとのロボット本体の姿勢と、台車の位置関係を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る鋼管柱の溶接方法について、図面を参照しながら説明する。
【0018】
本実施形態に係る教示方法は、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との開先30に、多関節ロボット80に取付けられたトーチ92の先端から、溶融した溶接材料を供給しながらトーチ92を開先30に沿って移動させ、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とを溶接するため方法である。
【0019】
ここで、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とは、4つの平面部と4つの湾曲部によって形成された多角形鋼管からなり、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20のそれぞれの4つの平面部10a、20aには、たとえば、平面部10a、20aの中央にエレクションピース11、21が取付けられている。平面部10a、10a(20a、20a)同士の間には、これらの繋ぐように、表面が所定の曲率半径で湾曲した4つのR角部10b(20b)が形成されている。なお、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とは、
図1および
図2等に示す四角形の角形鋼管柱に限定されるものではなく、たとえば、四角形以外の多角形の角形鋼管柱(具体的には三面以上の多角形鋼管)であってもよい。
【0020】
ここで、角形鋼管柱としては、冷間ロール成形角形鋼管(BCR)、冷間プレス成形角形鋼管(BCP)などを挙げることができる。同じ肉厚の角形鋼管柱では、冷間プレス成形角形鋼管(BCP)に比べて、冷間ロール成形角形鋼管(BCR)の方が、R角部の曲率半径が小さい。したがって、冷間ロール成形角形鋼管(BCR)の方が、上述した課題が生じ易いため、後述する教示方法を適用することが好ましい。
【0021】
上部鋼管柱10の下端縁面13は、外側に向いて傾斜したテーパ面であり、下部鋼管柱20の上端縁面23は、下部鋼管柱20の長手方向に対して直交するように形成された平坦面である。これにより、下部鋼管柱20の上端縁面23に対向するように、上部鋼管柱10の下端縁面13を配置すると、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との間に、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20の周方向に沿った開先30を形成することができる。
【0022】
さらに、本実施形態では、下部鋼管柱20の内壁面には、裏当金(図示せず)が周方向に沿って取付けられている。たとえば、裏当金は、下部鋼管柱20の上端縁面23から鉛直方向(下部鋼管柱20の長手方向)の上向きに突出しており、下部鋼管柱20に上部鋼管柱10を配置する際に、裏当金の突出した部分が、上部鋼管柱10に内挿される。上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との間隙を、裏当金で覆うことができるので、溶接時に、溶融した溶接材料が、鋼管柱1の内部に入り込むことを防止することができる。
【0023】
図2は、仮固定された上部鋼管柱と下部鋼管柱を用いた、多関節ロボット80の教示方法とその溶接方法を説明するための模式的斜視図である。
図3は、建て入れ治具3を取付けた状態の多関節ロボット80の教示方法とその溶接方法を説明するための模式的平面図である。
【0024】
本実施形態では、下部鋼管柱20を挟むように、下部鋼管柱20に一対のレール73、73が、取付けられている。下部鋼管柱20の4つの平面部のうち、反対側に位置する2つの平面部のそれぞれには、一対の支持片78、78が溶接されている。下部鋼管柱20に、第1支持部材71で挟むように、支持片78、78に、第1支持部材71が固定されている。第1支持部材71は、H形鋼などの長尺状の部材であり、後述する多関節ロボット80が、走行するレール73と直交する方向に延在している。
【0025】
一対の第2支持部材72は、下部鋼管柱20を挟むように、一対の第1支持部材71に跨って固定されている。第2支持部材72は、長尺状の部材であり、第2支持部材72には、長手方向に沿ってレール73が取付けられている。レール73は、水平方向に延在した直線状の部材である。下部鋼管柱20を挟むように、一対のレール73、73は、配置されている。なお、本実施形態では、第1支持部材71と第2支持部材72とを用いて、下部鋼管柱20にレール73を取付けたが、たとえば、剛性が確保することができるのであれば、下部鋼管柱20に、レール73を取付けてもよい。レール73は、リニアガイドレールであり、レール73には、多関節ロボット80を構成する台車81が取付けられている。
【0026】
多関節ロボット80は、多関節のロボット本体80Aと、レール73上を走行する台車81と、を含む。多関節ロボット80の台車81は、図示しないモータにより、レール73に沿って走行自在となっている。多関節のロボット本体80Aは、6軸で回動するロボットの機構であり、溶接機(図示せず)に接続された多関節ロボットの機構である。
【0027】
多関節ロボット80のロボット本体80Aは、台車81に取付けられる基台82と、基台82に対して旋回する旋回台83と、を備えている。旋回台83には、ロアアーム84が枢動自在に取付けられている。ロアアーム84の先端には、関節部85が、枢動自在に取付けられている。関節部85には、アッパアーム86が、長手方向を軸心として回動自在に取付けられている。
【0028】
さらに、アッパアーム86の先端には、エンドエフェクタとなる溶接機のトーチ92を支持する支持アーム87が取付けられている。トーチ92には、溶接ワイヤを送給するケーブル91が接続されており、ケーブル91の基端は溶接ワイヤを送給する送給装置(図示せず)に接続されている。
【0029】
上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接は、多関節ロボット80で行われる。本実施形態では、
図3に示すように、対向するレール73、73の間の空間を境界線で仕切った領域A、Bにおいて、それぞれの多関節ロボット(溶接用ロボット)80が溶接を行うように、多関節ロボット80の教示を行う。
【0030】
この設定された領域A、B内において、各多関節ロボット80で溶接する際には、トーチ92を開先30の溶接ラインに沿って移動させながら、トーチ92の先端から開先30に溶接材料を供給する。具体的には、周方向に沿って周回する開先30(の溶接ライン)を、4つの治具間溶接区間1L、1R、…に分割する。本実施形態では、エレクションピース11、21を挟んだ4つの区間で開先30の溶接ラインを分割している。
【0031】
図3に示す治具間溶接区間1L、1R、2L、2Rごとに溶接する場合、たとえば、治具間溶接区間1L、1Rの境界にあるエレクションピース11(21)を、多関節ロボット80が通過する際に、一旦溶接が中断され、溶接条件が変更されるため、より合理的に溶接をすることができる。
【0032】
ここで、トーチ92を開先30の溶接ラインに沿って複数回移動させながら、溶接材料を供給し、多層肉盛り部となる溶接部分(ビード)が形成される。この際には、トーチ92の先端部に位置する溶接点の位置とトーチ92の方向は、移動ごとに異なるため、このような溶接を行う際には、多関節ロボットにより溶接を行うことが適している。また、各治具間溶接区間において、トーチ92を移動させて、溶接材料を肉盛る回数は同じである。
【0033】
本実施形態では、一対の多関節ロボット80、80のトーチ92の先端を、鋼管柱1の中心軸を挟んで対向させながら、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を行う。これにより、上部鋼管柱10および下部鋼管柱20への溶接時の熱を、鋼管柱1の中心軸を挟んで対称に入熱することができる。この結果、鋼管柱1の中心軸の歪み等を抑えることができる。
【0034】
本実施形態では、台車81の走行制御、ロボット本体80Aの駆動制御、トーチ92による溶接条件に応じた溶接等は、制御装置(図示せず)により行われる。また、台車81の走行制御、ロボット本体80Aの駆動制御を実行するため、ロボット本体80Aの姿勢と台車81の位置とを教示する教示方法は、ティーチングペンダント(図示せず)を介して行われる。この教示したデータおよび溶接条件は、制御装置に入力される。
【0035】
本実施形態では、鋼管柱1の周方向に沿って仮固定された建て入れ治具3、3間において、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20との溶接を、多関節ロボット80で行う際に、一方の建て入れ治具3から他方の建て入れ治具3までの間の各治具間溶接区間1R、1L、2R、2Lを、第1~第3溶接区間Pa~Pcに区分する。
【0036】
図1および
図3に示すように、第1溶接区間Paは、一方の建て入れ治具3からR角部10b(20b)手前(始端)までの平面部10a(20a)により形成された開先30に沿った区間であり、直線状の溶接ラインに位置する区間である。第2溶接区間Pbは、R角部10b(20b)の始端から終端までのR角部10b(20b)により形成された開先30に沿った区間であり、円弧状の溶接ラインに位置する区間である。第3溶接区間Pcは、R角部10b(20b)の終端から、他方の建て入れ治具3までの平面部10a(20a)により形成された開先30に沿った区間であり、直線状の溶接ラインに位置する区間である。
【0037】
第1溶接区間Paに相当する一方の平面部10a(20a)の一部(一方の建て入れ治具3)から、第2溶接区間Pbに相当するR角部を通過して、第2溶接区間Pbに相当する他方の平面部(10a(20a))の一部(他方の建て入れ治具3)まで、上部鋼管柱10と下部鋼管柱20とを連続して溶接する。この際、台車81をレール73に沿って走行させ、かつ、ロボット本体80Aの動作によりトーチ92の先端を開先30に沿って移動させる。このような溶接を行うべく、治具間溶接区間1R、1L、2R、2Lごとに、第1~第3溶接区間Pa~Pcにおいて、トーチ92の先端の位置を教示点の基準として、ロボット本体80Aの姿勢と台車の81の位置とを教示する。
【0038】
図4は、多関節ロボット80の教示点P1~P9、P11~P19を説明するための平面図である。
図5(a)は、教示点における第1~第3溶接区間Pa~Pcにおけるトーチ92の先端の位置を説明するための概念図であり、(b)は、台車81の位置関係を説明するための概念図である。
図6(a)~(f)は、第1~第3溶接区間における教示点ごとのロボット本体80Aの姿勢と、台車81の位置関係を説明するための平面図である。
【0039】
本実施形態では、第1~第3溶接区間Pa~Pcまでの治具間溶接区間1R、1L(2R、2L)において、トーチ92の先端の位置を基準とした教示点P1~P9(P11~P19)が設定される。各教示点では、ロボット本体80Aの姿勢と、その姿勢となる台車81の位置が設定される。トーチ92の先端の教示点P1~P9(P11~P19)を移動するように、教示されたロボット本体80Aの姿勢が連続して変化し、その姿勢となる台車81の位置が連続して変化するように、ロボット本体80Aの動作と台車81の移動が制御される。
【0040】
ここで、教示点は、第1~第3溶接区間Pa~Pcまでにおいて、等間隔に設定されていてもよいが、本実施形態では、説明の便器上、第2溶接区間Pbにおいて、教示点をより多く設定している。したがって、
図4に示す教示点は、その一例である。
【0041】
本実施形態では、第1溶接区間Paに、教示点P1~P3が設定される。教示点P3は、第2溶接区間Pbと共通する教示点である。第1溶接区間Paでは、
図6(a)から
図6(c)に示すように、ロボット本体80Aの姿勢と、その姿勢となる台車81の位置が設定される。
図6(a)~
図6(c)は、教示点P1~P3のそれぞれに対応している。
【0042】
第1溶接区間Paでは、一方の建て入れ治具3に対向する位置(教示点P1)から、トーチ92の移動方向の前方側に向かってトーチ92を傾斜させる。この状態で、トーチ92を移動するに従って、鋼管柱1の表面の法線方向に対してトーチ92の傾斜角度(後退角度)αを減少させながら溶接を行い、鋼管柱1の表面の法線方向に対してトーチ92の傾斜角度(後退角度)αを一定角度となるまで減少させながら溶接を行う(教示点P2)。その後、鋼管柱1の表面の法線方向に対してトーチ92の傾斜角度(後退角度)αを一定角度に保持しながら、溶接を行う(教示点P3)。このような溶接が実行できるように、教示点P1~P3において、ロボット本体80Aの姿勢を教示する。
【0043】
この際、教示点P1では、台車81の位置は、エレクションピース11(22)が設けられている鋼管柱1の中央を0としたときに、治具間溶接区間1R(2R)寄りに距離aだけ進んだ位置C1に教示される。教示点P2では、台車81の位置は、鋼管柱1の中央から離れる方向に距離bだけ進んだ位置C2に教示される。教示点P3では、台車81の位置は、鋼管柱1の中央から離れる方向に距離aだけ進んだ位置C3に教示される。ここで、位置C1と位置C3は、同じ位置であるが、この位置は、異なっていてもよい。このように、第1溶接区間Paでは、台車81は、鋼管柱1の中心から離れる方向に移動し、最終的には、鋼管柱1の中心から近づく方向に移動する(本実施形態では元の位置C3に戻る)。このような台車81の位置を教示することにより、第2溶接区間Pbにおける台車81の移動距離を短くすることができる。
【0044】
ところで、第2溶接区間Pbに沿ってトーチ92を移動させようとすると、ロボット本体80Aの姿勢を大きく変化させることがあり、その際に、レール73を走行する台車81の移動量も大きい。この際、ロボット本体80Aの教示する姿勢によっては、台車81の移動量が大きくなり過ぎて、台車81の走行性能としての最大移動速度を超えてしまい、教示したロボット本体80Aの姿勢に対して、所定の時間内に、教示した台車81の位置まで台車81が移動できず、溶接の品質の低下を招くおそれがある。このような点から、第2溶接区間Pbにおける台車81の移動距離を短くすることは、有効である。
【0045】
本実施形態では、第2溶接区間Pbに、教示点P3~P7が設定される。教示点P3は、第1溶接区間Pbと共通する教示点であり、教示点P7は、第3溶接区間Pcと共通する教示点である。第2溶接区間Pbでは、
図6(c)から
図6(e)に示すように、ロボット本体80Aの姿勢と、その姿勢となる台車81の位置が設定される。
図6(c)から
図6(e)は、教示点P3、P6、P7のそれぞれに対応している。
【0046】
第2溶接区間Pbでは、R角部の開始位置PS(教示点P3)から、R角部の終了位置PE(教示点P7)まで、トーチ92の傾斜角度(後退角度)αを一定角度に保持する。このような溶接が実行できるように、教示点P3~P7において、ロボット本体80Aの姿勢を教示する。
【0047】
ここで、本実施形態では、設定した2つの教示点P3、P7同士の間に、設定区間GAを設ける。設定区間GAは、第2溶接区間Pbの両端に教示点P3、P7が設定された区間である。したがって、第2溶接区間Pbと設定区間GAとは、一致している。
【0048】
第2溶接区間Pbに沿った設定区間GAの長さをLmとし、設定区間GAに沿って移動するトーチ92の先端の最大速度をVsとし、台車81がレール73を走行することができる走行性能としての最大速度をVcとし、設定区間GAに沿って移動するトーチ29の先端の移動期間(設定区間GAで溶接する溶接期間)に、台車81が移動する距離をLsとする。このときに、以下の式(1)を満たすように、多関節ロボット80の教示を行う。
Ls≦Vc×(Lm/Vs) …(1)
【0049】
具体的には、
図5(a)、(b)に示すように、設定区間GAの距離Lmにおいて、台車81の移動区間HAの距離Lsが、式(1)よりを満たすように、教示点P3~P7ごとに、台車81の位置C3~C7を教示した上で、その決定した位置におけるロボット本体80Aの姿勢を教示する。なお、トーチ92の先端の最大速度Vsは、実際に実施される溶接におけるトーチの先端の最大速度であり、トーチ92の先端の速度が一定の場合には、最大値は、その一定速度になる。
【0050】
この設定した2つの教示点の間の設定区間GAの長さをLmとし、設定区間GAに沿って移動するトーチ92の先端の最大速度をVsとしたときに、Lm/Vsは、トーチ92の先端が設定区間GAを溶接する溶接時間であり、設定区間GAに沿って移動するトーチ92の先端の移動期間(移動時間)に相当する。この溶接時間は、トーチの先端の最大速度Vsから算出した時間であるので、トーチ92の先端が設定区間GAを実際に溶接するに要する時間は、この溶接時間以上の時間となる。
【0051】
この溶接時間に、台車81がレール73を走行することができる走行性能としての最大速度Vcを乗じたキャリジの距離(最大移動可能距離)を超えて、台車81を移動させようとすると、台車81が、教示した位置まで所定の時間で移動できないことがある。したがって、台車81が最大移動可能距離以下となるように、ロボット本体80Aの姿勢と台車81の位置とを教示すれば、台車81が教示した目標となる位置に遅れることなく到達するので、鋼管柱1の溶接を安定して行うことができる。
【0052】
設定区間GAを、第2溶接区間Pbの両端に教示点P3、P7が設定された区間とすることにより、後述するように、第2溶接区間Pbに複数の設定区間GC1~GC4を設けた場合に比べて、溶接に安定したロボット本体80Aの姿勢と台車81の位置をより簡単に教示することができる。
【0053】
なお、
図5(a)に示すように、設定区間GAは、第2溶接区間Pbの中央(教示点P5)を含む区間である。ここで、第2溶接区間Pbの中央とは、略円弧状のR部に沿った中央(円弧の両端から同じ長さとなる位置)である。第2溶接区間Pbの中央近傍では、溶接時にロボット本体80Aの姿勢が大きく変化し、台車81の移動量も大きくなりやすい。設定区間GAを、第2溶接区間Pbの中央を含む区間とし、この設定区間GAにおいて、式(1)を適用して、多関節ロボット80の教示を行うことにより、鋼管柱1の溶接を安定して行うことができる。
【0054】
このような点から、たとえば、
図5(a)、(b)に示すように、第2溶接区間Pbよりも短く、第2溶接区間Pbの中央を含む、教示点P4と教示点P6の区間に、設定区間GBを設定してもよい。設定区間GBの距離Lmにおいて、台車81の移動区間HBの距離Lsが、式(1)を満たすように、教示点P4~P6ごとに、台車81の位置C4~C6を教示した上で、その決定した位置におけるロボット本体80Aの姿勢を教示する。
【0055】
さらに、
図5(a)、(b)に示すように、第2溶接区間Pbを複数の区間に分割するように教示点P4~P6が設定された複数の設定区間GC1~GC4からなってもよい。設定区間GC1~GC4の移動距離Lm1~Lm4において、台車81の移動区間HC1~HC4のそれぞれの距離Ls1~Ls4が、式(1)を満たすように、教示点P3~P7ごとに、台車81の位置C3~C7を教示した上で、その決定した位置におけるロボット本体80Aの姿勢を教示する。このようにして、第2溶接区間Pbの設定区間GC1~GC4ごとに、トーチ92の先端の最大速度に合わせた台車81の移動距離Lm1~Lm4を設定することができる。この結果、第2溶接区間Pbにおいて、鋼管柱1の溶接をより安定して行うことができる。
【0056】
上述した全ての例において、第2溶接区間Pbに沿って移動するトーチ92の先端の移動期間(第2溶接区間Pb内の溶接期間)において、台車81を等速で移動させてもよい。この場合、第2溶接区間Pbに沿って移動するトーチ92の先端の移動期間(R角部を溶接する溶接期間)に、ロボット本体80Aの姿勢が大きく変化するが、台車81を等速で移動させることにより、教示後の多関節ロボット80の制御の簡素化を図ることができる。
【0057】
最後に、第3溶接区間Pcに、教示点P7~P9が設定される。教示点P7は、第2溶接区間Pbと共通する教示点である。第3溶接区間Pcでは、
図6(e)から
図6(f)に示すように、ロボット本体80Aの姿勢と、その姿勢となる台車81の位置が設定される。
図6(e)、
図6(f)は、教示点P7、P9のそれぞれに対応している。
【0058】
第3溶接区間Pcでは、R角部の終了位置PE(教示点P7)から、一方の建て入れ治具3が対向する位置(教示点P9)まで、トーチ92の傾斜角度(後退角度)αを一定角度に保持した後、その角度を前進角βにする。このような溶接が実行できるように、教示点P7~P9において、ロボット本体80Aの姿勢を教示する。
【0059】
この際、教示点P7では、台車81の位置は、柱1の中央を0としたときに、治具間溶接区間1R(2R)寄りに距離aだけ進んだ位置C7に教示される。教示点P8では、台車81の位置は、鋼管柱1の中央から離れる方向に進んだ位置C8に教示される。教示点P9では、台車81の位置は、鋼管柱1の中央から離れる方向に進んだ位置C9に教示される。
【0060】
なお、本実施形態では、多関節ロボット80により、治具間溶接区間1Rの溶接を行った後、多関節ロボット80の姿勢を入れ替えて、治具間溶接区間1Lを引き続き行う。治具間溶接区間1Lでも、第1溶接区間Pa~Pcを設定し、治具間溶接区間1Rとは、建て入れ治具3を挟んで、略線対称となるようなロボット本体80Aの姿勢、台車81の位置に、教示点P11~P19を設定すればよい。
【0061】
これを1パス目の溶接として、2パス目は、治具間溶接区間1Lにおいて、境界部分の建て入れ治具3から順に、第1溶接区間Pa~Pcを設定し、溶接を行い、続けて、治具間溶接区間1Rにおいて、レール73と対向する建て入れ治具3から順に、第1溶接区間Pa~Pcを設定し、溶接を行う。これらの区間を往復するように、複数回溶接を繰り返す。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0063】
1:鋼管柱、3:建て入れ治具、10:上部鋼管柱、11:エレクションピース、20:下部鋼管柱、21:エレクションピース、30:開先、80:溶接用ロボット(多関節ロボット)、80A:ロボット本体、81:台車、92:トーチ、1L、1R、2R、2L:治具間溶接区間、Pa:第1溶接区間、Pb:第2溶接区間(溶接区間)、Pc:第3溶接区間、GA、GB、GC1~GC4:設定区間