IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ナリス化粧品の特許一覧

特開2024-14481表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法
<>
  • 特開-表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法 図1
  • 特開-表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法 図2
  • 特開-表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法 図3
  • 特開-表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014481
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20240125BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240125BHJP
   A61K 8/96 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/34
A61K45/00
A61P17/00
A61Q19/00
A61K8/96
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117333
(22)【出願日】2022-07-22
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 浩子
【テーマコード(参考)】
4B063
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ35
4B063QR15
4B063QR77
4B063QX01
4C083AA011
4C083AA012
4C083CC02
4C083EE11
4C083EE16
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA89
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質を探索するための新たなスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明では細胞老化を指標とすることで、被験物質の表皮角化細胞のメラニン蓄積に対する効果を予測し、選択することができる。また、本発明のスクリーニング方法を用いることにより選択された物質は、老化細胞の発生や細胞老化の連鎖、老化細胞を除去することが出来、これまで困難であったシミの予防・改善に有効な可能性がある。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞老化を指標とした、表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
細胞老化を指標とした、表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法であって、次の(A)~(D)の工程を含む表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法。
(A):表皮角化細胞を培養するステップ
(B):表皮角化細胞と被験物質を共存させるステップ
(C):表皮角化細胞の細胞老化を確認するステップ
(D):細胞老化を指標に表皮角化細胞のメラニン蓄積量を減少させる物質を選別するステップ
【請求項3】
細胞老化を指標とした、表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法であって、
細胞老化を確認するマーカーが下記(1)及び/又は(2)である請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
(1) 表皮角化細胞のSA-β-GAL活性
(2) 表皮角化細胞の形態特徴
【請求項4】
請求項1又は2に記載の方法で評価した細胞老化による表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消効果の高い物質を有効成分として配合したシミ予防・改善剤。
【請求項5】
請求項3に記載の方法で評価した細胞老化による表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消効果の高い物質を有効成分として配合したシミ予防・改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮角化細胞の細胞老化を指標とした、表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法に関する。
例えば、表皮角化細胞のSA-β-GAL(senescence-associated β-galactosidase)活性を抑制させる物質や細胞老化の形態特徴の変化を遅延させる物質をスクリーニングする方法であり、本スクリーニング方法で選択された物質を配合した組成物を、シミ部における表皮角化細胞のメラニン蓄積予防解消剤、シミ予防剤、又はシミ改善剤として提供する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シミは、皮膚内で作られるメラニン色素が沈着し、周囲の皮膚の色調と異なった部位のことを指す。 臨床的には加齢によって多くの人に発症する典型的なシミである老人性色素斑(日光黒子)や、女性ホルモンが関与することが示唆されている肝斑等、いくつかの種類が存在する。シミの発生要因としては、長年繰り返される肌への紫外線照射の影響が大きく、その形成メカニズムとしては紫外線により表皮基底層に存在する表皮角化細胞の遺伝子に異常がおこり、メラニンを作り出す色素細胞であるメラノサイトを刺激する因子を放出し続けることであると考えられている。
【0003】
このような背景から、シミ予防・改善のためのアプローチとして、メラノサイトのメラニン生成機構に作用し、メラニン合成反応のキー酵素であるチロシナーゼを抑制することで問題を解決する方法や、表皮角化細胞のメラニン産生を刺激する因子の産生を抑制する方法等がこれまでに提案されてきた(特許文献1、2)。これらの方法は共通してメラノサイトにおけるメラニン合成を抑制するという概念のものである。
【0004】
一方、老人性色素斑部の皮膚組織学所見では、表皮基底層の表皮角化細胞に大量のメラニンが蓄積した像が確認されている。その部位ではメラノサイト数の増加が報告されているが、その周辺部のメラノサイトの数と比較すると、その増加率は1~2倍であり、メラノサイト数の増加だけでは表皮角化細胞内の過剰なメラニン蓄積の理由を説明することは難しい(非特許文献1)。このことから、シミ部における表皮角化細胞内のメラニン蓄積はメラノサイト活性化や数の増加によって表皮角化細胞に受け渡されるメラニン量が過剰になったことだけが原因ではなく、表皮角化細胞自体に何等かの異常が生じていると考えられている。
【0005】
このような背景から、近年では、メラニンを受け取る側である表皮角化細胞のメラニン蓄積の予防又は解消に着目した美白剤が多数開発されている。それら美白剤に含まれる有効成分を選別する方法として、直接的にメラノソーム(メラニンを含む小胞)を取り込ませた表皮角化細胞のメラニン量の増減を指標に有効成分を見出す方法や(特許文献3)、間接的に、例えば表皮角化細胞のメラニンの取り込みがPAR-2(Protease-Activated Receptor-2)に関与することから、表皮角化細胞のPAR-2の発現を指標に有効成分を見出す方法等が報告されている(特許文献4)。
【0006】
前述した表皮角化細胞におけるメラニン蓄積量をメラニン量の増減で評価する方法では、評価の際に使用するメラノソームを調製するのに時間がかかることや、評価がしやすいよう適切なメラノソーム添加量を検討しなければならないという問題があった。
また、メラニンの取り込み、あるいは分解といった、肌色の決定に直接関与する作用機序に対してアプローチすると、肌全体を明るくする効果は期待できるものの、シミ部のメラニン蓄積に対し局所的に効果を発揮すること、つまりシミを薄くすることは難しいと考えられた。
【0007】
細胞老化とは細胞が分裂を停止し、増殖できなくなった状態が不可逆的に引き起こされることを指す。ゲノムの不安定化などによって引き起こされ、細胞ががん化することを抑制する防御反応であると考えられている。細胞老化をおこした細胞は自ら死んで壊れるアポトーシスをおこすことなく、分裂停止した状態でその場に残存する。さらに細胞老化をおこした細胞は様々なタンパク質を分泌して、周囲の細胞に働きかけることにより、慢性的な炎症を引き起こすことが知られている。このような現象はSASP(サスプ:細胞老化随伴分泌現象/Senescence-Associated Secretory Phenotype)と呼ばれており、SASPにより周囲の正常な細胞にも細胞老化が引き起こされる。また、細胞老化には進行段階があり、開始期(増殖停止)、早期(炎症を抑える)、完成期(炎症と代謝増加)、後期(炎症と代謝減少)と少なくとも4つのバリエーションがあることが報告されている(非特許文献2、3)
【0008】
細胞老化をおこした細胞の特徴には、形態的な変化(肥大化、扁平化)、代謝の変化、クロマチンの再構成、遺伝子発現の変化などが挙げられ、細胞老化をおこした細胞は細胞質内で広範囲に渡り空胞を形成しており、多核である場合もある。またリソソーム内容物の増加とリソソーム活性の変化も見られ、β-ガラクトシダーゼの活性上昇に反映されるため、SA-β-GaL 活性は細胞老化のバイオマーカーとして広く受け入れられている。
【0009】
ところで、細胞老化と個体の老化は異なる現象であり、細胞老化が個体の老化にどの程度影響しているのかについては明らかになっていない。個体の老化は時間の経過に従って進行的に起こるが、細胞老化は全生存期間中に起こりえる現象であり、発生や創傷治癒時にも重要な役割を果たしている。一般的には広義の意味において、老齢の個体から取り出した細胞を「老化細胞」と呼ぶ場合があるが、この「老化細胞」は「細胞老化をおこした細胞」という意味とは異なる。老齢の個体から取り出した細胞であっても、そのほとんどは増殖活性を持つ「細胞老化していない細胞」であり、一部「細胞老化した細胞」が混在している状態と予想される。また、同じ年齢の老齢個体であっても、内的要因、外的要因により、個体から取り出した細胞の中に含まれる「細胞老化した細胞」の割合は異なるため、年齢という基準だけでは、細胞老化がどの程度生じているのかは判断できない。また、一過性の刺激によって細胞分裂が停止し、その後何等かの刺激によって元の細胞分裂能を回復させることが出来るような細胞に関しては、本発明の老化細胞とは異なる。ここより以下は「細胞老化した細胞」のみを「老化細胞」と呼ぶ。
【0010】
これまで何故シミ部でのみ表皮基底層の表皮角化細胞に過剰にメラニンが蓄積しているのか、もしくは過剰に蓄積された状態が継続してしまうかについての詳細な報告はなかった。そのためシミ部における表皮基底層の表皮角化細胞におけるメラニン蓄積に、細胞老化が関与しているとは考えられていなかった。またシミは加齢に伴い生じる現象であるが、シミの形成と細胞老化の関連性についての知見はなく、細胞老化の抑制をターゲットとしたシミ改善剤のスクリーニング方法は全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006-69954
【特許文献2】特開2014-74017
【特許文献3】特開2015-51931
【特許文献4】特開2017-100960
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Muriel Cario-Andre, Sebastien Lepreux, Catherine Pain, Carine Nizard, Emmanuelle Noblesse, Alain Taieb、J Cutan Pathol. 2004 Jul;31(6):441-7 Perilesional vs. lesional skin changes in senile lentigo
【非特許文献2】Cell Signaling Technology, Inc.細胞老化(Cellular Senescence)、[online]、[令和4年7月10日]、インターネット〈URL:https://www.cellsignal.jp/science-resources/overview-of-cellular-senescence〉
【非特許文献3】Mitsuyoshi Nakao, Hiroshi Tanaka, Tomoaki Koga, Trends Cell Biol. 2020 Dec;30(12):919-922. Cellular Senescence Variation by Metabolic and Epigenomic Remodeling
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質を探索するための新たなスクリーニング方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような状況下、発明者が鋭意検討した結果、培養している表皮角化細胞では継代数が同一であっても細胞集団中にメラニンを蓄積しやすい細胞と、ほとんど蓄積しない細胞が存在していることを発見した。さらにメラニンを蓄積しやすい細胞では細胞が肥大化している傾向があり、肥大化は細胞老化の特徴であることから細胞老化マーカーであるSA-β-GALで染色したところ、メラニン蓄積細胞ではSA-β-GAL陽性であることを確認した。
【0015】
細胞老化は細胞の不可逆的な老化であり、一度細胞老化が進めば、その細胞を元に戻すことは不可能であると言われている。シミ部での表皮角化細胞のメラニン蓄積の原因に細胞老化が大きく寄与している場合、シミ部の表皮角化細胞におけるメラニン蓄積を予防又は解消するためには、細胞老化に特徴的な変化をターゲットに老化細胞を増やさない又は減らすことが重要であると考えた。すなわち老化細胞を皮膚内に発生させないことがシミ発生の予防となり、細胞老化をこれ以上進めない、すなわち細胞老化随伴分泌現象をもたらす因子(SASP因子)等による細胞老化の連鎖を抑制することがシミ進行予防になり、老化細胞を取り除くことがシミ改善につながると考え、本発明の完成に至った。
【0016】
即ち本発明は、次のとおりである。
<第1の発明>
細胞老化を指標とした、表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法。
<第2の発明>
細胞老化を指標とした、表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法であって、次の(A)~(D)の工程を含む表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法。
(A):表皮角化細胞を培養するステップ
(B):表皮角化細胞と被験物質を共存させるステップ
(C):表皮角化細胞の細胞老化を確認するステップ
(D):細胞老化を指標に表皮角化細胞のメラニン蓄積量を減少させる物質を選別するステップ
<第3の発明>
細胞老化を指標とした、表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング方法であって、
細胞老化を確認するマーカーが下記(1)及び/又は(2)である請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
(1)表皮角化細胞のSA-β-GAL活性
(2)表皮角化細胞の形態特徴
<第4の発明>
第1~3の発明に記載の方法で評価した細胞老化による表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防及び/又は解消効果の高い物質を有効成分として配合したシミ予防・改善剤。
【発明の効果】
【0017】
本発明では細胞老化を指標とすることで、スクリーニングの際にメラノソームもしくはメラニンを用いずとも、被験物質の表皮角化細胞のメラニン蓄積に対する効果を予測し、選択することができる。また、本発明のスクリーニング方法を用いることにより選択された物質は、老化細胞の発生や細胞老化の連鎖、老化細胞を除去することが出来、さらにこれまで困難であったシミの予防・改善に有効であると考えられる。
もしくは、上記の表皮角化細胞の細胞老化を抑制する物質は、少なくとも、表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防、解消する効果が期待でき、さらにシミ部のメラニン蓄積を予防・解消する候補物質として期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】メラニンを多量に蓄積した細胞と、そうでない細胞の写真
図2】メラノソームを取り込ませた細胞のSA-β-GAL活性図2に相当するカラー写真を、本出願と同日付の物件提出書に添付して提出する。(赤色はSPiDER-βGal陽性細胞:老化細胞、青色は生細胞を染色)
図3】細胞の面積と細胞内メラニン蓄積量の関係性
図4】SPiDER-βGAL染色量と細胞内メラニン蓄積量の関係性
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明における一つの実施形態は、細胞老化を指標とした、表皮角化細胞の細胞内メラニン蓄積を予防及び/又は解消する物質のスクリーニング法である。
【0020】
本発明において老化細胞とは、形態的な変化(肥大化、扁平化)、細胞質内の多数の空胞形成、多核、SA-β-GAL活性の上昇等の細胞老化の特徴を有する細胞のことを指す。本細胞は、細胞分裂が完全に停止、もしくは細胞分裂速度が極めて遅延しており、DNA障害といった何らかの致命的な欠陥により、細胞機能が修復不可能になってしまった状態にある。
【0021】
本発明において細胞老化を指標にするとは、解析対象とする細胞集団中における細胞老化マーカーの増減を効果判定の基準にするという意味である。使用できる細胞老化マーカーとしてSA-β-GAL活性、細胞の形態特徴である面積量、細胞内の空胞数、核の数等が例として挙げられるが、その限りではない。詳細は後述する。段落<0007>に記載があるとおり、細胞老化には進行段階があり、進行と共に、細胞老化マーカーの変動も大きくなる。本発明では細胞老化の特徴的な形態変化の一つである細胞面積の増加とメラニン蓄積量の増加が相関していることを確認しており、細胞老化の進行に従い、メラニン蓄積量が増加することを発見した。
そのため、本発明では細胞老化マーカーの増減から、解析対象となる細胞を、老化細胞か、そうでない細胞かの2つに分類し、解析対象における全細胞中の老化細胞の割合の変動等から被験物質のメラニン蓄積抑制効果の有無を判断することができる。もしくは、老化細胞における細胞老化の進行度に重みづけをするという意味で、解析対象における細胞老化マーカーの検出量の増減をそのまま使用し、効果の有無を判定することが、より好ましい。
【0022】
つまり本発明は、老化細胞の割合を減少させる物質、もしくは細胞老化に伴い増加するマーカーを減少させる物質および、細胞老化に伴い減少するマーカーを増加させる物質を表皮角化細胞のメラニン蓄積の予防または解消に効果を発揮する物質として、選択するというものである。
【0023】
例えば、被験物質の存在により、コントロール(被験物質の溶媒で処置又は無処置)に比べ細胞老化マーカーの検出量を減少させることができる場合、その被験物質は表皮角化細胞における細胞老化抑制効果を有しており、メラニン蓄積の予防及び/又は解消効果ありと判定することができる。
【0024】
例えば、細胞老化度として、数1の式からコントロールと比べた被験物質処置による細胞老化の増減を算出することもできる。
【0025】
【数1】
【0026】
数1より算出した細胞老化度の値が、例えば0~0.5である物質は非常に高いメラニン蓄積予防及び/又は解消効果を持つ物質と判断することができ、おおむね0.8以下の物質は高いメラニン蓄積予防及び/又は解消効果を持つ物質を持つ物質と判断することができる。判定にあたっては試験を実施した全ての細胞を解析対象としても良いし、その1部を解析対象としても良く、解析対象とした細胞の個数がコントロールと被験物質を添加した細胞の個数と凡そ一致していることが好ましい。細胞の個数を一致させるという観点では、細胞の1個あたりの細胞老化マーカーの検出量で比較すると、さらに好ましい。
【0027】
本発明では、細胞老化を確認するマーカーは特に限定されず、SA-β-GAL活性、細胞の形態特徴、DNA損傷、細胞周期、SASP因子から選ばれる細胞老化マーカーを1つもしくは複数の組み合わせで用いることが出来る。
【0028】
例えば、SA-β-GAL活性は細胞老化を確認するときに、最も頻繁に使用されるマーカーである。細胞のSA-β-GAL活性とはSA-β-GALの基質分解能力を示すものであり、細胞内のSA-β-GAL量が増加する、もしくは細胞内環境によりSA-β-GALの反応が進行しやすくなることによって増加すると考えられる。SA-β-GAL活性を検出するための呈色反応による細胞の染色は試薬を培地に添加するだけの簡単な作業で行うことができ、PCRやELISA等の生化学的手法を実施するための熟練した技術を必要としないことが利点である。
例えば、X-GALを基質とした青色呈色の程度により細胞老化を評価することが出来る。具体的には市販の細胞老化検出キット(製造元:BioVision)を用いて、基質であるX-GAL分解物の青色呈色の程度を確認することができる。SA-β-GAL活性を青色呈色で評価する場合、呈色反応終了後、顕微鏡で細胞の写真を撮影し、Image J(製造元:米国国立衛生研究所)等の画像解析ソフトにて呈色部を選択できるように閾値を設定し、二値化することにより呈色部の面積を算出し、その値を用いることが出来る。
他には、SA-β-GALの酵素反応で蛍光を呈するSPiDER-βGal(登録商標、製造元:同仁化学研究所)等を用いて細胞老化を評価することが出来る。
更に他には、細胞老化(SA-β-GAL)プレートアッセイキット(製造元:同仁化学研究所)のような市販のキットを使用している場合は、プレートリーダーを用いて定量することが出来る。
【0029】
次に、細胞の形態特徴をマーカーとする場合について説明する。
本発明において細胞老化を確認するための表皮角化細胞の形態特徴とは、一般的に細胞の形態特徴として認識されている、細胞の面積(鳥瞰される細胞面積)、扁平度といった細胞輪郭形状に関するものだけではなく、多核、細胞質の空胞形成など非染色状態でも顕微鏡観察等で確認することができる特徴も含む。
【0030】
細胞の形態特徴をマーカーとする場合は、例えば細胞面積、空胞形成、多核などを顕微鏡を用いて、明視野下、非染色で目視評価すること等が可能である。顕微鏡にて鳥瞰観察すると、例えば細胞面積であれば、肥大化している細胞は、通常の細胞老化を起こしていない細胞(SA―β-GALで染色されない等)に比べ2~10倍以上の大きさであり、凡そ5倍以上の大きさの細胞では細胞質内に多数の空胞(凡そ10個以上)や2つ以上の核が目視で観察される場合がある。このような特徴を持つ細胞ではメラニン蓄積が多い傾向がある。
例として図1にメラニンを多量に蓄積した細胞と、そうでない細胞の写真を掲載した。青色が細胞の核であり、黒色の塊がメラニン、細胞の輪郭は境界部が明るくなっているため目視で確認できる。
【0031】
撮影した画像を用いて解析を行う場合、Image J等の画像解析ソフトによって、それぞれの形態特徴の定量値を算出することもできる。細胞面積であれば、細胞膜を染色し、膜で囲われた部分の面積を算出し、面積値とする。また細胞を剥離させ、フローサイトメーターでソーティングすることで、大きさの分布を測定し、細胞の肥大化度として評価する方法等もある。面積値を算出するために、PlasMem Bright Green(細胞膜染色試薬、製造元:同仁化学研究所)等で膜を染色し、膜で囲われた部分の面積を算出し、その増減で細胞老化を評価することが出来る。
【0032】
例えば、DNA損傷をマーカーとして使用する場合、H2AXのリン酸化等を確認することで細胞老化を評価することが出来る。細胞周期をマーカーとして使用する場合はp21やp16といった細胞周期関連タンパクの発現を、SASP因子をマーカーとして使用する場合は、炎症性サイトカインであるIL-6や IL-1β、ケモカインであるIL-8やMCP-1等の発現を免疫染色等の手法によって評価することが出来るし、それらの遺伝子発現量をリアルタイムPCRで見る方法や、タンパク発現量をウェスタンブロッティング法やELISA法で確認することも可能である。
【0033】
細胞老化は、上記マーカーのいずれか一つのみを用いて判断すればよい。好ましくは、SA-β-GAL活性及び細胞形態特徴のいずれか一つ以上を用いるのがよく、さらに好ましくは、SA-β-GAL活性と、細胞形態特徴の一つ以上を組み合わせて総合的に判断するのが良い。
複数のマーカーを選択して確認したときに結果が異なる場合は、他のマーカーで追加確認する等により、判断を行うこともできる。
【0034】
本発明のスクリーニング方法は、大まかに以下のステップに分けることもできる。
次の(A)~(D)の工程を含む表皮角化細胞の細胞老化度を指標とした、メラニン蓄積予防又は解消剤のスクリーニング方法
(A):表皮角化細胞を培養するステップ
(B):表皮角化細胞と被験物質を共存させるステップ
(C):表皮角化細胞の細胞老化度を確認するステップ
(D):細胞老化度を指標に表皮角化細胞のメラニン蓄積量を減少させる物質を選別するステップ
【0035】
以下の説明では、上記ステップの順に現れる内容に関し、説明していく。
【0036】
(A):表皮角化細胞を培養するステップ
【0037】
本発明で用いる表皮角化細胞は、特に限定されない。表皮角化細胞は組織から単離したものでも、皮膚モデル等を用いる等、組織中に存在するものでも良い。正常表皮角化細胞だけでなく、HaCaTのような不死化した株化細胞でも良いが、細胞老化の見やすさという点から正常表皮角化細胞のほうが好ましい。当該表皮角化細胞の由来動物としては、マウス、ラット等の細胞でも良いが、ヒトであることが好ましい。例えば市販の細胞ではHuman Epidermal Keratinocytes、adult(HEKa、製造元:サーモフィッシャーサイエンティフィック)等を使用することが出来る。
【0038】
細胞の培養条件は、特に限定されない。一般的な培養条件であればよく、例えば37℃、5%濃度のCO条件になるように、COインキュベーター内で実施することができる。培地は、特に限定されないが、細胞購入先の推奨培地を用いるのが良く、例えばMedium 154(製造元:サーモフィッシャーサイエンティフィック)に成長因子としてHuman Keratinocyte Growth Supplement (HKGS、製造元:サーモフィッシャーサイエンティフィック)を添加したもの等が使用できる。播種濃度については、特に限定されないが、培養容器内の面積に応じて適宜調整すると良い。例えば播種翌日に20~40%コンフルエントになるように調整して用いることができる。
【0039】
さらに、細胞培養において、SASP因子を用いる事も有効である。
細胞老化随伴分泌現象をもたらすSASP因子はパラクライン的に自己以外の細胞に作用し,周囲の細胞の細胞老化を誘導することが知られている。被験物質を添加する前もしくは添加と同時にSASP因子であるIL-8やMCP-1を添加して物質を評価することは、シミ部におけるメラニン蓄積の進行を抑制する効果も期待できるため、さらに望ましい。
【0040】
(B):表皮角化細胞と被験物質を共存させるステップ
【0041】
被験物質は特に限定されない。被験物質の種類は天然物であっても合成物でも良く、また単一成分であっても組成物もしくは混合物であっても良い。植物乾燥物より抽出したエキスや、市場にある製品化されたエキスも用いることができる。エキスの抽出の方法は、特に限定されない。被験物質がそのままでは培地に溶解しない場合は、界面活性剤等の可溶化剤を適宜使用することにより溶解させることで被験物質として用いることができる。
【0042】
被験物質の添加濃度については、被験物質添加から24時間後に明らかに細胞が死滅していなければ、どの濃度でも問題ない。なお、被験物質の溶媒として、エタノールや1,3-ブチレングリコール、界面活性剤等が含まれている場合は、溶媒のみを同濃度になるように細胞に添加したサンプルをコントロールとするほうが、より正確に被験物質の効果を評価できるが、無処置のものをコントロールとしても良い。
【0043】
被験物質を添加するタイミングは、特に限定されない。被験物質の添加は、特に培地交換を行うことなく培養開始時の培地にそのまま行っても良いし、培地交換の際に行っても良い。また播種と同時に行うことも出来る。このように、表皮角化細胞と被験物質を共存させることができれば、その順序は問わない。細胞老化の予防効果を確認するには、培養初期(播種から24時間以内)に被験物質を添加するのが良く、細胞老化した細胞を取り除く効果を見るためには播種から時間が経過した細胞に添加するのが良い。
【0044】
(C):表皮角化細胞の細胞老化を確認するステップ
【0045】
被験物質の添加から、細胞老化の評価までの時間(被験物質の適用時間)については特に限定はされない。任意の時間で行うことができるが、被験物質の添加から短時間ではコントロールとの差が判別しにくい可能性があるため、被験物質の添加から十分に時間が経過した48時間から96時間後に確認することが好ましい。
【0046】
(D):細胞老化を指標に表皮角化細胞のメラニン蓄積量を減少させる物質を選別するステップ
【0047】
細胞老化に伴い増加するマーカーを減少させる物質、又は細胞老化に伴い減少するマーカーを増加させる物質を表皮角化細胞のメラニン蓄積量を減少させる物質として選択する。
例えば細胞老化マーカーとしてSA-β-GAL活性を使用する場合、被験物質の存在により、SA-β-GAL活性をコントロール(被験物質の溶媒で処置又は無処置)より減少させることができた時、表皮角化細胞のメラニン蓄積予防及び/又は解消効果ありと判定することができる。
【0048】
以下、本発明を実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例0049】
実験1:細胞集団中におけるメラニン蓄積の確認および細胞老化との関係性
表皮角化細胞にメラノソームを添加し、48時間経過した後に細胞を観察するとメラニンの蓄積量が多い細胞と、少ない細胞があることを確認した。メラニンの蓄積が多い細胞では細胞の肥大化、空胞形成等の特徴があったため、細胞老化との関係性を調べた。
【0050】
<メラノソーム懸濁液の調整>
ヒト由来メラノーマ細胞HM3KOを5%CO下、37℃のインキュベーター内で、10%FBSを含むD-MEM培地(製造元:サーモフィッシャーサイエンティフィック)を用いて培養した。100%コンフルエント近くになりメラニン産生が進んだ細胞を、トリプシンを用いて7.0×10cells/ tubeになるようにエッペンドルフチューブに回収、遠心(1000g、4℃、3分)によって細胞ペレットを作成した。その後ペレットをPBS(-)にて洗浄した。
【0051】
細胞ペレットに対し、1mLの細胞溶解液(1% Triton X-100、0.01% SDS含有0.1M Tris-HCl溶液pH7.5)を添加した。これを10分ごとに攪拌しながら、20分室温にて静置した。この分散溶液を遠心分離し(1000g、4℃、3分)、不要物を沈殿させ、メラノソームを含む上清を回収した。回収した上清を再度、遠心分離し(1000g、4℃、3分)、上清を回収した。この上清を遠心分離し(20000g、4℃、3分)、得られた沈殿をメラノソームリッチ画分とした。上清を吸引除去し、メラノソームのペレットをPBS(-)にて2度洗浄した(20000g、4℃、3分)。最後にPBS(-)を添加し、50回以上ピペッティングすることによってメラノソームを分散させた。これをメラノソーム懸濁液とした。メラノソーム懸濁液の濃度(合成メラニン換算)は市販の合成メラニン(製造元:SIGMA)をPBS(-)に溶解したサンプルで検量線を作成し、算出した。
【0052】
<細胞の培養>
ヒト成人由来の表皮角化細胞を6.0×10cell/mLになるようにM154培地(成長因子を含む)に懸濁し、96 wellクリアボトムカルチャープレート(製造元:サーモフィッシャーサイエンティフィック, collagenコート)に150μLずつ播種し、COインキュベーター内(37℃、5%CO)で培養した。24時間培養後、あらかじめ調製したメラノソーム懸濁液を合成メラニン換算で1wellあたり0.375μgになるように添加した。さらに48時間培養後、培地を抜き取り、細胞をPBS(-)で洗浄し、培地に溶解したSPiDER-βGal(1μmol/L)及びHoechst 33342(1μg/mL)溶液を各wellに150μLずつ添加し、20分染色した。その後、PBS(-)で細胞を洗浄し、M154培地に置換して蛍光顕微鏡(キーエンスBZ-X700、製造元:キーエンス)にて細胞を撮影した。(10倍対物レンズを使用、蛍光画像、赤:SPiDER‐βGal、青:核、および明視野画像、同一視野)なお、顕微鏡付属の画像解析ソフト(製造元:BZ-X Analyzer)これらの画像を重ね合わせたものが図2である。
【0053】
<画像解析>
取得したそれぞれの画像をImageJで解析した。ImageJのソフトを開き、明視野画像を読み込み、細胞の輪郭をポリゴンセレクションで200細胞分をランダムに囲いROIマネージャー上に保存した。メラニン蓄積部分を指定できるように閾値を設定し、2値化処理を行った。保存したROIを呼び出し、Analyze→measureで測定した。ROIとして指定した部分はArea(細胞の面積)として、閾値以上の面積はmean×area÷255(細胞に含まれるメラニン蓄積量)として算出した。それらの値について縦軸にメラニン蓄積量、横軸に細胞面積をプロットしたグラフ(図3)を作成し、ピアソンの相関係数を算出した。次に、取得した蛍光画像を読み込み、赤色で蛍光染色された部分を選択できるように閾値を設定し、2値化処理を行った。保存したROIを呼び出し、Analyze→measureで測定した。ROIとして指定した部分はarea(細胞の面積)として、閾値以上の面積はmean×area÷255(細胞のSPiDER-βGal染色量)として算出され、同一ROIに含まれる、先ほど計算したメラニン蓄積量(縦軸)と、SPiDER-βGal染色量(横軸)をプロットしたグラフを作成し(図4)、ピアソンの相関係数を算出した。
【0054】
その結果、細胞面積が大きくなるにつれ、細胞中のメラニン蓄積量が増加することが確認された(ピアソンの相関係数r = 0.6753、図3)。また、細胞におけるSPiDER-βGal染色量すなわちSA-β-GAL活性が増加するにつれ、細胞中のメラニン蓄積量も増加することが確認された(ピアソンの相関係数 r = 0.7288、図4)。このことから、メラニンを取り込ませずしても細胞老化マーカーである細胞の面積や、SA-β-GAL活性の増減を指標に細胞のメラニン蓄積量を予測できることが示唆された。また、細胞老化によって表皮角化細胞のメラニン蓄積が進行し、それがシミの形成と関連するものである場合、老化細胞を 皮膚内に発生させないことがシミ発生の予防となり、細胞老化をこれ以上進めない、すなわち細胞老化関連因子細胞老化随伴分泌現象をもたらす因子(SASP因子)による細胞老化の連鎖を抑制することがシミ進行予防になり、老化細胞を取り除くことがシミ改善につながると考えられた。
【0055】
実験2:細胞老化の発生を予防する物質のスクリーニング
【0056】
<細胞の培養およびSA-β-GAL活性の検出>
正常成人皮膚由来の表皮角化細胞を6.0×10cell/mLになるように、M154培地(HKGSを含む)に懸濁し、96 well black plate(製造元:Tecan)に100μLずつ播種し、COインキュベーター内で培養した(37℃、5% CO)。24時間培養後、事前に細胞毒性を与えないことを確認した濃度(細胞生存率が90%以上)の被験物質を細胞に添加した(N=4)。コントロールは、被験物質の溶媒を添加した(N=4)。48時間培養後 、PBS(-)で細胞を2回洗浄し、培地に溶解したSPiDER‐βGalおよびHoechst33342による染色を20分間CO2インキュベーター内で行った。その後、PBS(-)で細胞を洗浄し、M154培地に置換して蛍光顕微鏡にて細胞を撮影した。(10倍対物レンズを使用、蛍光画像、赤:SPiDER‐βGal、青:核、および明視野画像、同一視野)
【0057】
<画像解析>
得られた赤の画像(SPiDER-βGalの蛍光検出画像)については、ImageJにて一定の閾値を設定し2値化することでSPiDER-βGalの蛍光強度を算出した。なお、閾値設定の際には明視野画像で最も面積が小さい細胞群(非老化細胞)でも僅かに検出されるバックグラウンドの蛍光は除去できるように閾値を設定した。また青色の取得画像も2値化し、解析対象画像中に含まれる核の個数を算出した後、SPiDER-βGalの蛍光強度を核個数で割ることで、1細胞あたりのSPiDER-βGal検出量とした。SA-β-GAL活性は細胞老化によって増加する指標であるため、数1に代入して1細胞あたりの細胞老化度(SA-β-GAL活性)を計算した(N=4平均値)。
被験物質の添加により細胞老化度が概ね0.8以下になる場合かつ、N=4のデータを統計処理し、統計的有意差がでる場合に、その被験物質は細胞老化の発生を低減できる成分であり、細胞老化による表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防し、シミ発生の予防効果が期待できると判断した。
【0058】
実験3:細胞老化連鎖を予防するシミ進行予防成分のスクリーニング
【0059】
<細胞の培養および細胞膜の染色>
正常成人皮膚由来の表皮角化細胞を6.0×10 cell/mLになるように、M154培地(HKGSを含む)に懸濁し、96 well black plate(製造元:Tecan)に100μLずつ播種し、COインキュベーター内で培養した(37℃、5% CO2)。24時間培養後、事前に細胞毒性を与えないことを確認した濃度(細胞生存率が90%以上)の被験物質を細胞に添加した(N=3)。被験物質の溶媒コントロールはN=6で準備した。被験物質の添加と同時にSASP因子として知られているMCP-1(製造元:R&D SYSTEMS)を400 ng/mLになるように培地に添加した。なお、溶媒コントロールN=6のうち、N=3は無処置サンプルとしてMCP-1を添加しなかった。48時間培養後 、PBS(-)で細胞を2回洗浄し、培地に溶解したPlasMem Bright Greenによる染色を5分間COインキュベーター内で行った。その後、PBS(-)で細胞を洗浄し、M154培地に置換して蛍光顕微鏡にて撮影した(10倍対物レンズを使用、緑:PlasMem Bright Green)
【0060】
<画像解析>
得られた緑の細胞膜染色画像については、Image JやWinROOF(製造元:三谷商事)等の画像解析ソフトウェアによって、自動または手動で染色された部分を2値化処理によって抽出し、囲われた部分の面積をそれぞれ計算し、面積の平均値を細胞あたりの面積とした(N=3平均値)。細胞の面積は細胞老化が進行するに従って増加する指標であるため、今回の試験ではMCP-1のみ添加した細胞の細胞老化度とMCP-1に加え被験物質を添加した細胞の細胞老化度を数1より算出し、比較した。その結果、無処置の細胞老化度は1、MCP-1処置の細胞老化度が3.5であったため、MCP-1と被験物質処置によって細胞老化度が3.0以下になる物質、すなわちMCP-1による細胞老化の進行を20%以上抑制できる物質は、SASPによる細胞老化の連鎖を抑制し、細胞老化による表皮角化細胞のメラニン蓄積を予防し、シミ部の増悪を防ぐ物質の候補となると判断した。
【0061】
実験4:老化細胞を除去する物質のスクリーニング例
【0062】
<細胞の培養および肥大化細胞の経時観察>
正常成人皮膚由来の表皮角化細胞を1.2×10cell/mLになるように、M154培地(HKGSを含む)に懸濁し、96 well black plate(製造元:Tecan)に100μLずつ播種し、COインキュベーター内で48時間培養した(37℃、5% CO2)。インキュベート後、顕微鏡を用いて細胞の肥大化(細胞老化の外観的特徴が見られない細胞に対して凡そ5倍以上)および空胞形成もしくは多核といった特徴を持つ細胞が多く存在している視野を10倍の対物レンズを用いて明視野画像を撮影し、その撮影位置を保存した。その後、事前に細胞毒性を与えないことを確認した濃度(細胞生存率が90%以上)の被験物質を細胞に添加した。さらに48時間培養後 、同じ場所を再度同じ条件で撮影し肥大化細胞が消失している(数が減っている)、もしくは細胞の培養面からの剥離が観察された場合、被験物質に老化細胞除去効果があると判断した。
【0063】
上記で選択した細胞老化した細胞を除去する物質は、表皮角化細胞のメラニン蓄積解消効果を有していると考えられ、ヒトのシミ部分においても同様にメラニン蓄積した表皮角化細胞を除去、すなわちターンオーバーや代謝により皮膚上からメラニンを多く含む細胞を減少させることにより、シミを改善する効果が期待できる。
図1
図2
図3
図4