(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144829
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】正極活物質、リチウムイオン二次電池、および正極活物質の識別方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241004BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241004BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20241004BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241004BHJP
H01M 10/0525 20100101ALI20241004BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/36 B
H01M10/54
H01M4/587
H01M10/0525
H01M4/131
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056967
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】肥後野 貴史
【テーマコード(参考)】
5H029
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029AM09
5H031HH03
5H031RR02
5H050AA17
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050GA28
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】正極活物質として用いた材料の種類や出所を把握することができ、電池のリサイクルを適切に実施することができる、正極活物質、リチウムイオン二次電池、正極活物質の識別方法を提供すること。
【解決手段】蓄電池の正極用の活物質であって、第4周期の遷移元素を含む金属酸化物である第1成分と、第5周期または第6周期に属する少なくとも1種の遷移金属元素を含む第2成分と、を有し、前記第1成分と前記第2成分が混合されている、正極活物質。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の正極用の活物質であって、
第4周期の遷移元素を含む金属酸化物である第1成分と、
第5周期または第6周期に属する少なくとも1種の遷移金属元素を含む第2成分と、
を有し、
前記第1成分と前記第2成分が混合されている、
正極活物質。
【請求項2】
前記第2成分の含有量は、前記第1成分の含有量に対して0.1~1000ppmである、
請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記第2成分は、第5周期または第6周期に属する遷移金属元素のうち2種類以上を含む、
請求項1または2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記第2成分は、均一に分散している、
請求項1~3の何れか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の正極活物質を含む蓄電池から正極を取り出す第1取り出し工程と、
前記正極から正極活物質の少なくとも一部を取り出す第2取り出し工程と、
前記第2取り出し工程で取り出された前記正極活物質の構成元素の種類および含有量の少なくとも一方を含む情報を特定する解析工程と、
前記蓄電池または前記正極が製造された状況を記録した製造プロファイル情報と、前記解析工程で取得された情報を照会し、前記正極活物質の製造に関する情報を識別する識別工程と、
を含む、正極活物質の識別方法。
【請求項6】
リチウム遷移金属複合酸化物と、第4周期の遷移元素を含む金属酸化物である第1成分と、第5周期または第6周期に属する少なくとも1種の遷移金属元素を含む第2成分とを有し、前記第1成分と前記第2成分が混合されている正極活物質を含む正極と、
リチウムを吸蔵し、放出する負極活物質として難黒鉛化炭素及び黒鉛を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に介在し少なくともリチウム塩を含む電解質と、
を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記第2成分は、前記正極内で均一に分散している、
請求項6に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、リチウムイオン二次電池、および正極活物質の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希少金属を用いたバッテリの需要が高まり続けている。バッテリは製造コストが高いため、可能であればリユースに回され、リユースが難しいものはリサイクルされるのが一般的である。リサイクルをする費用は高いため、最適なリサイクル実施判断が求められる。
【0003】
特許文献1には、電極の表面に有機/無機複合体が導入され、電気化学デバイスの出所、種類などを確認する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、バッテリ、特に正極のリサイクル判断を適切に行うことができない場合があった。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、より適切に、正極のリサイクル判断および識別を行うことができる正極活物質、リチウムイオン二次電池、および正極活物質の識別方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る正極活物質、リチウムイオン二次電池、および正極活物質の識別方法の各態様の要旨は次の通りである。
【0008】
[1]本発明の一態様にかかる正極活物質は、蓄電池の正極用の活物質であって、
第4周期の遷移元素を含む金属酸化物である第1成分と、
第5周期または第6周期に属する少なくとも1種の遷移金属元素を含む第2成分と、
を有し、
前記第1成分と第2成分が混合されている。
[2]上記[1]に記載の正極活物質においては、前記第2成分の含有量は、前記第1成分の含有量に対して0.1~1000ppmであってもよい。
[3]上記[1]または[2]に記載の正極活物質においては、前記第2成分は、第5周期または第6周期に属する遷移金属元素のうち2種類以上を含んでもよい。
[4]上記[1]~[3]の何れかに記載の正極活物質においては、前記第2成分は、均一に分散していてもよい。
[5]本発明の一態様にかかる正極活物質の識別方法は、上記[1]~[4]の何れかに載の正極活物質を含む蓄電池から正極を取り出す第1取り出し工程と、
前記正極から正極活物質の少なくとも一部を取り出す第2取り出し工程と、
前記第2取り出し工程で取り出された前記正極活物質の構成元素の種類および含有量の少なくとも一方を含む情報を特定する解析工程と、
前記蓄電池または前記正極が製造された状況を記録した製造プロファイル情報と、前記解析工程で取得された情報を照会し、前記正極活物質の製造に関する情報を識別する識別工程と、
を含む。
[6]本発明の一態様にかかるリチウムイオン二次電池は、
リチウム遷移金属複合酸化物と、第4周期の遷移元素を含む金属酸化物である第1成分と、第5周期または第6周期に属する少なくとも1種の遷移金属元素を含む第2成分とを有し、前記第1成分と第2成分が混合されている正極活物質を含む正極と、
リチウムを吸蔵し、放出する負極活物質として難黒鉛化炭素及び黒鉛を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に介在し少なくともリチウム塩を含む電解質と、
を備える。
[7]上記[6]に記載のリチウムイオン二次電池においては、前記第2成分は、前記正極内で均一に分散していてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の各態様によれば、電池または正極より正極活物質が剥離した場合であっても、正極活物質として用いた材料の種類や出所を把握することができる。また、正極活物質として用いた材料の種類や出所を把握することができるため、電池のリサイクルを適切に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る正極活物質の製造方法の他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照し、本発明の正極活物質、リチウムイオン二次電池、および正極活物質の識別方法の実施形態について説明する。
【0012】
<正極活物質>
本実施形態に係る正極活物質は、蓄電池の正極用の活物質であって、第4周期の遷移元素を含む金属酸化物である第1成分と、第5周期または第6周期に属する少なくとも1種の遷移金属元素を含む第2成分と、を有する。
【0013】
(第1成分)
正極活物質の第1成分は、第4周期の遷移元素を含む金属酸化物であり、例えば、ニッケル、コバルト、およびマンガンの何れか1種以上を含む酸化物である。具体的には、第1成分は、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。正極活物質としては、例えば、リチウムマンガン複合酸化物(LixMn2O4又はLixMnO2)、リチウムニッケル複合酸化物(LixNiO2)、リチウムコバルト複合酸化物(LixCoO2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi1-yCoyO2)、リチウムマンガンコバルト複合酸化物(LiMnyCo1-yO2)、スピネル構造リチウムマンガンニッケル複合酸化物(LixMn2-yNiyO4)、オリビン構造リチウムリン酸化物(LixFePO4、LixFe1-yMnyPO4、LixCoPO4)、LiNiCoAlO2、Li2MnO3、Li2-x-yFexMnyO2、Li2Fe1-xMnxSiO4、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2などを単独で又は複数混合して用いることができる(但し、前記した化合物におけるx,yは0を超え1以下の範囲であることが好ましい。)。
【0014】
(第2成分)
正極活物質の第2成分は、第5周期または第6周期に属する少なくとも1種の遷移金属元素を含む。具体的には、第2成分は、例えば、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンや、REM(希土類元素)が挙げられる。REM(希土類元素)は、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)の2元素と、ランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称である。
【0015】
第2成分は、上記金属元素を単体から構成されてもよく、2種以上から構成されてもよい。また第2成分は、上記金属元素を含む化合物として存在していてもよく、例えば、上記金属元素を含む酸化物として存在していてもよい。
【0016】
本実施形態の正極活物質においては、第1成分と第2成分が混合されている。つまり、第2成分は、正極活物質全体の内部に分散して存在しており、例えば、層状、膜状で存在していない。このように、第1成分とは全く異なる成分から構成される第2成分は、第1成分と混合して、正極活物質全体に分散して存在することで、電池から正極が分離されたり、電池が解体されたりした状況であっても、容易かつ正確に第2成分を検出することが可能となる。そしてその結果、正極活物質を適切に識別することができる。
【0017】
第2成分の含有量は、第1成分の含有量に対して0.1~1000ppmであることが好ましい。第2成分は、識別用材料としての機能を有する。識別力を安定して発揮させるには、一定量以上を含有させることが好ましい。具体的には、第2成分の含有量は、第1成分の含有量に対して0.1ppm以上がよい。より好ましくは、10ppm以上である。一方、正極活物質全体に占める第2成分の割合が過度に増大すると、容量の低下や抵抗の上昇、また耐久性の低下など、電極としての機能が低下するおそれがある。したがって、第2成分の含有量は、第1成分の含有量に対して1000ppm以下がよい。より好ましくは、100ppm以下である。
【0018】
また、第2成分は、第5周期または第6周期に属する遷移金属元素のうち2種類以上を含むことが好ましい。正極活物質の主成分としては、従来より、第4周期の遷移元素を含む金属酸化物が用いられることが多い。そのため、識別材料としての第2成分としては、電極性能等に大きな影響を与えない第5周期または第6周期に属する遷移金属元素の1種を用いれば、識別効果は得られる。一方で、識別力をさらに向上させるためには、第2成分は、第5周期または第6周期に属する遷移金属元素のうち2種類以上を含むことが好ましい。例えば、第2成分として、ジルコニウム酸化物、ニオブ酸化物、およびモリブデン酸化物を含んでもよい。
【0019】
また、第2成分は、正極活物質全体において均一に分散していることが好ましい。換言するに、第2成分は、正極活物質全体において、偏在することなく、第1成分と混同されていることが好ましい。上記のとおり、第2成分は識別用材料としての機能を有する。そのため、第2成分は、層状・膜状ではなく、かつ偏在することなく正極活物質全体に分散して存在していることが好ましい。このように、第2成分が正極活物質全体に均一に分散されていることで、正極活物質を安定して識別することができる。また、第2成分が正極活物質全体に均一に分散されていることで、正極活物質の取り出し方法によらず正極活物質中における第2成分の濃度変化が少ない。そのため、好ましい濃度である状態を維持することができ、また、定量分析による識別も可能になる。
【0020】
なお、正極活物質の識別方法については、後に詳述する。
【0021】
<正極活物質の製造方法>
次に、上述した正極活物質の製造方法について、図面を参照しながら以下説明する。
図1は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の一例を示すフローであり、
図2は、本実施形態に係る正極活物質の製造方法の他の例を示すフローである。
なお、以下の説明では、正極活物質の製造方法として、リチウムイオン二次電池で用いる正極活物質を共沈法によって製造する場合を例に挙げて説明するが、本実施形成の正極活物質は、当該方法によって限定されるものではない。正極活物質の製造方法としては他に、例えば、固相反応法、ゾルゲル法、水熱法、噴霧熱分解法などがあり、いずれも本実施形態の正極活物質の製造方法として適用可能である。
【0022】
まず、
図1に示すように、リサイクル金属A化合物~リサイクル金属C化合物と、第2成分である識別用金属化合物の混合物を含む溶液に沈殿剤を添加し、金属A~金属Cおよび第2成分である識別用金属イオンを塩として沈殿させる。なお、用いる金属種によって沈殿が生じるタイミングが異なる場合には、溶液のpHを調整したり、沈殿剤の添加量を調整したりするとよい。なお、
図1では、3種の金属化合物(リサイクル金属A化合物~リサイクル金属C化合物)を例示しているが用いる金属化合物数はこれに限らない。また、第2成分である識別用金属化合物も、2種以上用いても構わない。
【0023】
次に、得られた沈殿物を高温で熱処理を行うことで、正極活物質の前駆体を得ることができる。熱処理は、乾燥が好ましい。熱処理工程は公知の条件で実施してよい。
【0024】
次に、得られた前駆体とリチウム化合物とを混合し、その後、焼成することで正極活物質が製造される。リチウム化合物は、層状岩塩型結晶構造を有する遷移金属酸化物であることが好ましい。層状岩塩型結晶構造を有する遷移金属酸化物は、LiNixCoyMnzO2で表される化合物が好ましい(x+y+z=1)。
【0025】
なお、
図1では、沈殿剤を添加する前の段階で第2成分である識別用金属化合物を添加していたが、本実施形態では、第2成分の添加のタイミングはこれに限らない。例えば、
図2に示すように、予め、リサイクル金属A化合物~リサイクル金属C化合物を混合して、金属A~金属Cを含む前駆体を作製しておき、この前駆体とリチウム化合物とを混合する際に、第2成分である識別用金属化合物を添加してもよい。
【0026】
図1に示すようなタイミングで識別用金属化合物を添加することで、正極活物質の骨格となる第1成分(
図1の場合では、リサイクル金属A化合物~リサイクル金属C化合物)と混ざりやすくなるため、結果的に、正極活物質の識別性を向上させることができる。また、
図2に示すように、予め前駆体を作製しておき、その後、第2成分を混ぜる場合は、例えば、スプレーコーティング法や塗布法において好適に適用できる。
【0027】
以上のように、正極活物質の製造段階で、第2成分である識別用金属化合物を混ぜ込むことで、第1成分と第2成分が十分に混合された正極活物質を製造できる。
【0028】
なお、
図1および
図2に示す製造フローでは、「リサイクル金属A化合物~リサイクル金属C化合物」を用いた例を掲載しているが、金属A化合物~金属C化合物がリサイクルされた材料でなくとも、当然よい。例えば、リサイクルされた金属A化合物~金属C化合物を用いて正極活物質を製造する場合は第2成分を添加し、リサイクル材料ではない金属A化合物~金属C化合物を用いて正極活物質を製造する場合は第2成分を添加しなかった場合においては、それぞれの正極を分析して第2成分の検出の有無を調べることで、正極活物質の使用材料がリサイクル材料であるか否かを識別できる。
【0029】
<リチウムイオン二次電池>
次に、上記で説明した正極活物質を用い蓄電池の一例として、リチウムイオン二次電池について説明する。
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在し電解質を含むセパレータとをそれぞれ長尺帯状に形成し、これらを重ねた状態でコイル状に巻いて形成される円柱状の発電素子を図示しない円筒状の電池缶内に封入して形成されている。なお、リチウムイオン二次電池の形状は円柱状に限られず、四角柱状に形成することもできる。
【0030】
正極は、上述した正極活物質と、電子導電剤と、結着剤とを溶媒に分散させたものをアルミニウム箔などの導電体上に積層することで形成される。
【0031】
電子導電剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛、カーボンファイバーなどを用いることができる。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素系ゴムなどを用いることができる。
溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、水などを用いることができる。
【0032】
負極は、負極活物質と、電子導電剤と、結着剤とを溶媒に分散させたものを銅箔などの導電体上に積層することで形成される。
【0033】
負極は、負極活物質としてリチウムを吸蔵し、放出する負極活物質として難黒鉛化炭素及び黒鉛を含むものであればよい。
【0034】
難黒鉛化炭素(ハードカーボン)とは、1000~1400℃で加熱処理された炭素材料であって、熱処理により黒鉛化が進みにくい炭素材料をいい、3000℃程度の加熱処理によっても乱層構造から黒鉛構造への転換が起こらず、黒鉛結晶子の発達が認められない炭素材料をいう。このような難黒鉛化炭素としては、例えば、ポリアセンやシリコン入り難黒鉛化炭素などを挙げることができる。
【0035】
黒鉛(グラファイト)は、従来公知のものを用いることができる。例えば、人造黒鉛、メソフェーズ系黒鉛、天然黒鉛を基材とするものであれば用いることができる。
【0036】
電解質は、少なくとも無機又は有機のリチウム塩を含み、当該リチウム塩を有機電解液又はイオン液体(常温溶融塩)などの非水溶媒に溶解することにより調整され、セパレータに含浸等して正極及び負極の間に介在し得るものであればよい。このような電解質としては、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiBOB、LiTFSI、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、LiN(CF3SO2)(C4F9SO2)、LiC(CF3SO2)3などのリチウム塩を単独で又は複数混合して用いることができる。なお、電解質は、必要に応じて常用される溶媒や添加剤を含んでいてもよい。
【0037】
有機電解液としては、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトンなどの環状エステルや、低沸点溶媒であるジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどの鎖状エステルを用いることができる。これらの有機電解液は単独で用いてもよいし、複数混合して用いてもよい。
【0038】
イオン液体としては、イミダゾリウム塩を陽イオンとするイオン液体や環状第四級アンモニウム塩を陽イオンとするイオン液体を用いることができる。
【0039】
イミダゾリウム塩を陽イオンとするイオン液体としては、1,3-ジメチルイミダゾリウム塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-エチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-ブチルイミダゾリウム塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩などのジアルキルイミダゾリウム塩を陽イオンとするイオン液体や、1,2,3-トリメチルイミダゾリウム塩、1,2-ジメチル-3-エチルイミダゾリウム塩、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウム塩、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム塩などのトリアルキルイミダゾリウム塩を陽イオンとするイオン液体を挙げることができる。
【0040】
環状第四級アンモニウム塩を陽イオンとするイオン液体としては、トリメチルエチルアンモニウム塩、トリメチルプロピルアンモニウム塩、トリメチルヘキシルアンモニウム塩、テトラペンチルアンモニウム塩などのテトラアルキルアンモニウム塩を陽イオンとするイオン液体や、N-メチルピリジニウム塩、N-エチルピリジニウム塩、N-プロピルピリジニウム塩、N-ブチルピリジニウム塩、1-エチル-2メチルピリジニウム塩、1-ブチル-4-メチルピリジニウム塩、1-ブチル-2,4ジメチルピリジニウム塩などのアルキルピリジニウム塩を陽イオンとするイオン液体を挙げることができる。また、環状第四級アンモニウムを陽イオンとするイオン液体としては他にもピラゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピペリジニウム塩などを陽イオンとするイオン液体を挙げることができる。
【0041】
セパレータは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリオレフィン系合成樹脂やセルロースで作製した多孔質フィルム又は不織布を用いることができる。
【0042】
以上に説明した要素で構成される発電素子を円柱状に形成して円筒状の電池缶内に封入した後、電解質を溶解した非水溶媒を当該発電素子内に注入し、円筒状の電池缶の開口部に缶蓋を被せて溶接等により接合して封入することで本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0043】
本実施形態の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池によれば、識別用金属化合物である第2成分が正極内で均一に分散されている。そのため、例えば、損傷や解体などによって電池または正極から活物質が離脱や剥離した状態となったでも、第2成分をより正確に検出することができるため、正極活物質の原料特定や出所の識別の精度を高めることができる。
【0044】
<正極活物質の識別方法>
次に、本実施形態に係る正極活物質の識別方法について説明する。
本実施形態に係る正極活物質の識別方法は、
(I)上記正極活物質を含む蓄電池から正極を取り出す第1取り出し工程と、
(II)正極から正極活物質の少なくとも一部を取り出す第2取り出し工程と、
(III)第2取り出し工程で取り出された正極活物質の構成元素の種類および含有量の少なくとも一方を含む情報を特定する解析工程と、
(IV)蓄電池または正極が製造された状況を記録した製造プロファイル情報と、解析工程で取得された情報を照会し、正極活物質の製造に関する情報を識別する識別工程と、
を含む。
【0045】
(I:第1取り出し工程)
まず、蓄電池(例えば、リチウムイオン二次電池)から、正極を取り出す。正極の取り出し方は特に限定しないが、正極の少なくとも一部を取り出せばよい。また、蓄電池がすでに解体、破損等している場合には、正極を含む部位を取り出せばよい。
【0046】
(II:第2取り出し工程)
次に、取り出した正極から正極活物質の少なくとも一部を取り出す。その後、正極活物質の表面を洗浄し、後述する解析工程を実施する。
【0047】
(III:解析工程)
次に、第2取り出し工程で取り出された正極活物質の構成元素の種類および含有量の少なくとも一方を含む情報を特定する。具体的には、正極活物質の構成元素の種類を特定する定性分析、もしくは、正極活物質の構成元素の含有量の定量分析を実施する。
【0048】
定性分析としては、SEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)を用いるとよい。具体的には、正極活物質の表面をSEM-EDXによって分析し、得られた元素マッピングによって、正極活物質の構成元素を調査する。調査結果から、第2成分(識別用金属)の含有の有無が判別される。
【0049】
定量分析としては、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いるとよい。具体的には、硫酸や硝酸などの酸性水溶液を用いて、あらかじめ準備しておいて検量線によって水溶液中の目標金属の濃度を求めておき、さらに逆算することで正極活物質中の構成元素の含有量を求めることができる。
【0050】
上記定性分析および定量分析はともに実施してもよい。
【0051】
(IV:識別工程)
最後に、蓄電池または正極が製造された状況を記録した製造プロファイル情報と、解析工程で取得された情報(定量分析結果、定性分析結果)を照会し、正極活物質の製造に関する情報を識別する。「蓄電池または正極が製造された状況」とは、例えば、正極材料の原料としてリサイクル原料を用いたか否か、用いた場合にはその原料がいかなる種別か、などである。
【0052】
この識別工程を実施することで、例えば、リサイクルされた金属化合物を用いて正極活物質を製造する際には第2成分を添加し、リサイクル材料ではない金属化合物を用いて正極活物質を製造する際には第2成分を添加しなかった場合において、定性分析によって第2成分が検出された結果が得られた場合には、当該電池がリサイクル材料を用いて製造された電池であると判定できる。
【0053】
以下、正極の製造プロファイル情報と、定性分析結果もしくは定量分析結果の照会の具体例、および正極活物質の製造に関する情報の識別方法の例について、表1、表2を用いながら具体的に説明する。
【0054】
<<定性分析の場合>>
表1は、正極活物質の製造時、金属A化合物にリサイクル品を用いる場合には識別用の第2成分として成分αを添加し、金属B化合物にリサイクル品を用いる場合には第2成分として成分βを添加し、金属C化合物にリサイクル品を用いる場合には第2成分として成分γを添加する、という製造プロファイルであった場合の照会例である。表1に示すように、定性分析によって正極活物質の構成元素の種類を特定することで、正極を構成する金属化合物がリサイクル材料であるか否かを識別できる。例えば、定性分析によって正極から成分αおよび成分βの2種が検出され、成分γが検出されなかった場合には、金属A化合物および金属B化合物にリサイクル品が使用され、金属C化合物にはリサイクル品が使用されていないという製造情報が得られる。
【0055】
【0056】
<<定量分析の場合>>
定量分析の場合には、例えば、識別用金属成分である各第2成分の含有量の組み合わせを識別符号とし、正極活物質の製造に関する各種の情報を識別することが可能である。具体的には、例えば表2に示すように、第2成分として「α」、「β」および「γ」を添加するとともに、その比率が10:10:10(ppm)の場合、金属A、B、C化合物ともにリサイクル品を用い、かつ、製造プロセスXにて製造した、というプロファイル情報をあらかじめ準備しておく。同じように、第2成分として「α」、「β」および「γ」を添加するとともに、その比率が10:20:10(ppm)の場合、金属A、B化合物ともにリサイクル品を用い、かつ、製造プロセスXにて製造した、というプロファイル情報をあらかじめ準備しておく。このようにして、例えば表2に示すような製造プロファイル情報を作製しておくことで、正極活物質の構成材料の出所、製造条件など、製造に関する情報を識別することができる。なお、定量分析結果としては、表2に示すような絶対値(表の場合は単位ppm)ではなく、比率であってもよい。また、表2に示す「プロセス;X,Y,Z」とは、種々のプロセス情報を含んでもよい。例えば、「プロセス」としては、製造条件(温度、pHなど)、製造場所(工場、事業所など)、製造ロットNo.なとの情報が含まれてもよい。
【0057】
【0058】
上述した本実施形態によれば、電池または正極より正極活物質が剥離した場合であっても、正極活物質として用いた材料の種類や出所を把握することができる。また、正極活物質として用いた材料の種類や出所を把握することができるため、電池のリサイクルを適切に実施することができる。
【0059】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。