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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144830
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】スプールバルブ
(51)【国際特許分類】
   F16K 3/314 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
F16K3/314 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056968
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桝谷 和弘
【テーマコード(参考)】
3H053
【Fターム(参考)】
3H053AA35
3H053BA01
3H053DA12
(57)【要約】
【課題】電動デバイスを備えたスプールバルブの安定動作を可能にする。
【解決手段】スプールバルブ1は、スプール2と、スプールを軸Xに沿って往復移動可能に収容するハウジング3と、スプールを軸に沿って移動させることによって作動油の経路を切り替える電動デバイス4と、を備え、スプールは、軸に直交する第1端面24を有し、ハウジングは、スプールの第1端面に係止することによってスプールを中立位置に位置づける係止面35を有し、第1端面及び係止面の少なくとも一方は、凹凸を有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油の経路を切り替えるスプールバルブであって、
スプールと、
前記スプールが内挿されるスリーブ孔を有しかつ、前記スプールを軸に沿って往復移動可能に収容するハウジングと、
前記スプールに接続されかつ、前記スプールを前記軸に沿って移動させることによって作動油の経路を切り替える電動デバイスと、を備え、
前記スプールは、前記軸に沿う方向について第1側の端面であって、前記軸に直交する第1端面を有し、
前記ハウジングは、前記軸に直交する面であって、前記スプールの第1端面に係止する係止面を有し、
前記第1端面及び前記係止面の少なくとも一方は、凹凸を有している、スプールバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のスプールバルブにおいて、
前記第1端面及び前記係止面の少なくとも一方には、面から凹んだ凹部が形成されている、スプールバルブ。
【請求項3】
請求項1に記載のスプールバルブにおいて、
前記第1端面及び前記係止面の少なくとも一方には、面から突出する凸部が形成されている、スプールバルブ。
【請求項4】
請求項1に記載のスプールバルブにおいて、
前記第1端面又は前記係止面には、前記第1端面と前記係止面との間に介在するシムが固定されている、スプールバルブ。
【請求項5】
請求項4に記載のスプールバルブにおいて、
前記シムには、前記軸に直交する方向に延びる切り欠きが形成されている、スプールバルブ。
【請求項6】
請求項1に記載のスプールバルブにおいて、
前記軸に沿う方向について前記第1端面とは逆の第2端面に当たって、前記スプールを中立位置へ付勢するスプリングをさらに備え、
前記電動デバイスは、前記スプールの前記第1端面に接続されかつ、前記スプリングの付勢力に抗して、前記スプールを前記第1端面と前記係止面とが離れる方向へ移動させる、スプールバルブ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のスプールバルブにおいて、
航空機用である、スプールバルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、スプールバルブに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スプールバルブを備えた油圧供給装置が記載されている。スプールバルブのスプールは、スプリングによって中立位置へ付勢されている。調圧回路に接続された調圧ポートに作動油が供給されることによって、スプールは、スプリングの付勢力に抗して、中立位置から第2位置へ移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-125576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、航空機を含む移動体の技術分野では電動化が進められている。作動油の経路を切り替えるスプールバルブに関しても、油圧によって動作する従来のスプールバルブに代わって、電動デバイス、例えば電動モータによってスプールを移動させるスプールバルブの採用が検討されている。
【0005】
ところが、電動デバイスを備えたスプールバルブにおいて、その電動デバイスがスプールを移動可能な能力を有していても、スプールが移動しない現象が起きることに、本願発明者は気付いた。
【0006】
ここに開示する技術は、電動デバイスを備えたスプールバルブの安定動作を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
電動デバイスを備えたスプールバルブでは、スプールの第1側と、第1側とは逆側の第2側との両方に均等な油圧による荷重が作用していることを前提に、電動デバイスの能力が設定される。つまり、スプールの移動方向について、スプールに作用する油圧による荷重は、通常であれば、実質的に相殺されている。
【0008】
ところが、本願発明者の検討によれば、スプールの第1側に作用する油圧による荷重と第2側に作用する油圧による荷重とが不均等になる場合があることがわかった。この現象は、スプールの第1側の第1端面とハウジングの係止面とが当接している状態において、その第1端面と係止面との間に作動油が供給され難い、又は、供給に長時間がかかることに起因することを、本願発明者は見出した。
【0009】
図8は、電動デバイス40を備えたスプールバルブ10を例示している。スプール20は、軸Xに沿う方向に往復移動可能に、ハウジング30に収容されている。スプール20は、軸Xに沿う方向に延びている。スプール20の第1側(つまり、図8の右側)に作用する油圧による荷重と、第2側(つまり、図8の左側)に作用する油圧による荷重とは、基本的には等しい。
【0010】
電動デバイス40は、スプール20の第1端面240に接続されている。スプール20の第2端面250には、スプリング340が位置している。スプリング340は、スプール20を、第1側の方向へ付勢している。電動デバイス40は、第2側の方向へ、スプリング340の付勢力に抗して、スプール20を押す。
【0011】
図8に拡大して示すように、このスプールバルブ10においては、スプリング340の付勢力によって、スプール20の第1端面240とハウジング30の係止面350とが互いに係止することにより、スプール20は、中立位置に位置づけられる。中立位置の位置精度を確保するために、第1端面240と係止面350とは、軸Xに直交する平面同士が当接している。
【0012】
ここで、第1端面240及び係止面350の加工精度が高いと、軸Xに直交する平面同士が、第1端面240と係止面350との全面にわたって密着するため、第1端面240と係止面350との隙間が極めて小さくなる。
【0013】
第1端面240と係止面350との隙間が極めて小さいと、作動油が当該隙間に供給され難い、又は、供給に長時間がかかってしまう(図8の破線の矢印参照)。その結果、スプール20の第1側に作用する油圧による荷重と第2側に作用する油圧による荷重とが不均等になる。この場合、第2側に作用する油圧による荷重の方が、第1側に作用する油圧による荷重よりも高い。電動デバイス40が、スプール20を、中立位置から第2位置へ移動させようとしたときに、電動デバイス40は、スプリング340の付勢力、及び、スプール20の移動に際してスプール20に作用する摩擦に対抗するだけでなく、スプール20に作用している油圧による荷重差に対抗して、スプール20を移動させなければならない。電動デバイス40の能力が不足し、スプール20が移動しなくなる。
【0014】
前述した特許文献に記載されている従来のスプールバルブは、仮にスプールの両側に作用する油圧による荷重が不均等であったとしても、調圧ポートに高い油圧を供給することによって、スプールは移動できる。油圧を利用する従来のスプールバルブでは、スプールの両側に作用する油圧による荷重が不均等であることは、技術課題として顕在化していなかった。
【0015】
ここで、スプールバルブが航空機用のスプールバルブである場合、航空機は、例えば50℃を超えるような気温の高い地域を離着陸すると共に、-50℃を下回るような極低温の上空を飛行する。航空機に搭載されるスプールバルブが使用される温度範囲は、一般的な環境下で使用されるスプールバルブの温度範囲と比べて、大幅に広い。使用される温度範囲が広いことに起因して、作動油の粘度が低粘度から高粘度まで大きく変化する。
【0016】
前述したスプールが移動しない現象は特に、作動油の温度が低い場合に顕著であることが、本願発明者の検討により明らかになった。これは、作動油の温度が低いと、作動油の粘度が高くなって、作動油が、より一層、第1端面と係止面との間に供給され難い、又は、供給に、より一層時間がかかるためと考えられる。
【0017】
スプールが移動しない現象を解決するために、電動デバイスの能力を高めることが考えられる。しかしながら能力の大きい電動デバイスは、スプールバルブの大型化を招く。大型のスプールバルブは、移動体に搭載されるスプールバルブとして不利である。
【0018】
そこで、本願発明者は、スプールが移動しない現象の原因に鑑みて、第1端面と係止面との間に作動油が供給されやすい構造を採用することにより、スプールバルブが安定的に動作するようにした。具体的には、不具合の原因が、平面同士が、第1端面と係止面との全面にわたって密着していることであるため、本願発明者は、第1端面と係止面との間に作動油が流れる隙間が形成される構造を、スプールバルブに採用した。
【0019】
具体的に、ここに開示する技術は、作動油の経路を切り替えるスプールバルブに係る。このスプールバルブは、
スプールと、
前記スプールが内挿されるスリーブ孔を有しかつ、前記スプールを軸に沿って往復移動可能に収容するハウジングと、
前記スプールに接続されかつ、前記スプールを前記軸に沿って移動させることによって作動油の経路を切り替える電動デバイスと、を備え、
前記スプールは、前記軸に沿う方向について第1側の端面であって、前記軸に直交する第1端面を有し、
前記ハウジングは、前記軸に直交する面であって、前記スプールの第1端面に係止する係止面を有し、
前記第1端面及び前記係止面の少なくとも一方は、凹凸を有している。
【0020】
それぞれ軸に直交する面である、スプールの第1端面とハウジングの係止面とは、互いに係止する。スプールの第1端面と、ハウジングの係止面とは、例えばスプールが中立位置に位置している状態において係止してもよい。
【0021】
第1端面及び係止面の少なくとも一方は、凹凸を有している。凹凸は、第1端面と係止面とが、第1端面と係止面との全面にわたって平面同士で密着してしまうことを抑制し、第1端面と係止面との間に、部分的な隙間を形成する。尚、凹凸には、例えばスリット等の貫通しているものも含まれる。
【0022】
スプールの第1端面とハウジングの係止面とが係止している状態において、作動油は、第1端面と係止面との間に形成された隙間を通じて、第1端面と係止面との間に供給されている。作動油が低温になって、その粘度が高くなっても、第1端面と係止面との間に、作動油が供給される。
【0023】
その結果、スプールの第1側に作用する油圧による荷重と、第1側とは逆の第2側に作用する油圧による荷重とが均等、又は、略均等になる。スプールに対し、軸に沿う方向に作用する油圧による荷重が、実質的に相殺されるから、電動デバイスの能力を大きくしなくても、スプールが移動できる。従って、スプールバルブは、安定的に動作する。また、スプールバルブが大型にならない。
【0024】
前記第1端面及び前記係止面の少なくとも一方には、面から凹んだ凹部が形成されている、としてもよい。
【0025】
第1端面及び/又は係止面から凹んだ凹部は、係止面及び/又は第1端面と密着せずに隙間を形成する。作動油は、凹部を通って、第1端面と係止面との間に供給される。
【0026】
また、第1端面と係止面とのそれぞれにおいて、凹部が形成されていない箇所は、平面同士が当接する。第1端面と係止面との係止状態がスプールの中立位置を定める場合、平面同士の当接は、スプールの中立位置を精度良く定める。
【0027】
前記第1端面及び前記係止面の少なくとも一方には、面から突出する凸部が形成されている、としてもよい。
【0028】
第1端面及び/又は係止面から突出する凸部は、係止面及び/又は第1端面の平面に当たるため、第1端面と係止面とのそれぞれにおいて、凸部が形成されていない箇所には、隙間が形成される。作動油は、その隙間を通って、第1端面と係止面との間に供給される。
【0029】
また、第1端面と係止面との係止状態がスプールの中立位置を定める場合、凸部と平面とが当たることによって、スプールの中立位置が精度良く定まる。
【0030】
前記第1端面又は前記係止面には、前記第1端面と前記係止面との間に介在するシムが固定されている、としてもよい。
【0031】
第1端面又は係止面に固定されたシムが、係止面又は第1端面に当たるため、第1端面と係止面との間には隙間が形成される。作動油は、その隙間を通って、第1端面と係止面との間に供給される。
【0032】
また、第1端面と係止面との係止状態がスプールの中立位置を定める場合、シムと、係止面又は第1端面とが当たることによって、スプールの中立位置が精度良く定まる。
【0033】
前記シムには、前記軸に直交する方向に延びる切り欠きが形成されている、としてもよい。
【0034】
切り欠きは、第1端面と係止面とが係止した状態において、第1端面と係止面との間に、軸に直交する方向に延びる隙間を形成する。軸に直交する方向に延びる隙間は、第1端面と係止面との間への作動油の供給を促進する。
【0035】
前記スプールバルブは、前記軸に沿う方向について前記第1端面とは逆の第2端面に当たって、前記スプールを中立位置へ付勢するスプリングをさらに備え、
前記電動デバイスは、前記スプールの前記第1端面に接続されかつ、前記スプリングの付勢力に抗して、前記スプールを前記第1端面と前記係止面とが離れる方向へ移動させる、としてもよい。
【0036】
前述したように、スプールに対し、軸に沿う方向に作用する油圧による荷重が、実質的に相殺されるから、電動デバイスは、スプリングの付勢力、及び、移動するスプールの摩擦に対抗する力を出力すればよい。電動デバイスの能力が、必要最低限の能力に設定できるため、電動デバイスの小型化、及び、スプールバルブの小型化が可能である。
【0037】
尚、スプールバルブは、スプールの第1端面に接続される第1電動デバイスと、第2端面に接続される第2電動デバイスとを備えた復動タイプであってもよい。この構造の場合、ハウジングは、スプールの第1端面に係止する第1係止面と、スプールの第2端面に係止する第2係止面とを有し、第1端面及び第1係止面の少なくとも一方は、凹凸を有し、第2端面及び第2係止面の少なくとも一方は、凹凸を有する、としてもよい。
【0038】
第1端面と第1係止面との隙間、及び、第2端面と第2係止面との隙間のそれぞれへ、作動油が供給されやすいから、スプールの第1端面に作用する油圧による荷重と、第2端面に作用する油圧による荷重とが均等、又は、略均等になる。復動タイプのスプールバルブは、安定的に動作する。
【0039】
前記スプールバルブは、航空機用である、としてもよい。
【0040】
航空機用のスプールバルブは、使用される温度範囲が広いため、作動油の粘度が大幅に高くなった状態で使用される場合がある。前述したスプールバルブは、作動油の粘度が高くても、第1端面と係止面との間に作動油が安定的に供給されるため、スプールバルブは、安定的に動作する。前述したスプールバルブは、航空機用のスプールバルブに適している。
【発明の効果】
【0041】
前述した電動デバイスを備えたスプールバルブは、安定的に動作する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1図1は、スプールバルブの断面図である。
図2図2は、スプールバルブの拡大断面図である。
図3図3は、スプールの斜視図である。
図4図4(a)(b)(c)は、スプールの変形例である。
図5図5(a)(b)(c)は、スプールの変形例である。
図6図6は、スプールバルブの変形例であり、(b)は、(a)のb-b断面である。
図7図7は、スプールバルブの変形例である。
図8図8は、従来のスプールバルブを示している。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、スプールバルブの実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するスプールバルブは例示である。
【0044】
(スプールバルブの全体構造)
図1及び図2は、スプールバルブ1を例示している。スプールバルブ1は、例えば航空機に搭載される油圧回路において、作動油の経路を切り替える切替バルブとして用いられる。尚、スプールバルブ1の用途は、航空機用に限定されない。スプールバルブ1は、例えば自動車や鉄道車両といった、様々な移動体に搭載可能である。
【0045】
スプールバルブ1は、スプール2と、ハウジング3と、電動デバイス4と、を有している。
【0046】
ハウジング3は、スプール2を収容している。ハウジング3は、スリーブ31とハウジング本体33とを有している。スリーブ31は、軸Xに沿って延びるスリーブ孔311を有している。スリーブ31には、複数のポート32が形成されている。複数のポート32は、軸Xに沿う方向に並んでいる。複数のポート32はそれぞれ、スリーブ孔311に連通している。
【0047】
尚、スリーブ31を省略し、ハウジング本体33に、軸Xに沿って延びるスリーブ孔と、ポートとが形成されてもよい。
【0048】
ハウジング本体33は、スリーブ31を保持している。ハウジング本体33は、ポート32に連通する油路331を有している。また、ハウジング本体33は、スプリング34を支持している。スプリング34は、軸Xに沿う方向に伸縮する。
【0049】
スプール2は、スリーブ孔311に内挿されている。スプール2は、軸Xに沿って延びている。スプール2は、スリーブ孔311内を、軸Xに沿って往復移動できる。
【0050】
スプール2は、第1ランド21及び第2ランド22を有している。第1ランド21及び第2ランド22はそれぞれ、スリーブ孔311の内径に対応する外径を有している。第1ランド21は、スプール2の第1端に位置し、第2ランド22は、スプール2の第2端に位置している。スプール2の第1端は、図1における右の端であり、スプール2の第2端は、第1端とは逆の端であって、図1における左の端である。スプール2が軸Xに沿って往復移動することに伴い、第1ランド21及び第2ランド22が、複数のポート32を開閉する。それによってスプールバルブ1は、作動油の経路を切り替えることができる。
【0051】
スプール2の第2ランド22は、第2端面25を有している。第2端面25は、第2ランド22のスプリング34側の面であって、軸Xに直交する面である。尚、図例のスプール2では、第2端面25の外径は、第2ランド22の外径よりも小さく、図1に示すように、第2端面25の外周囲には、段差210が形成されている。第2端面25には、前述したスプリング34が当たっている。スプリング34は、スプール2を、図1における右方向へ付勢している。
【0052】
スプール2の第1ランド21は、第1端面24を有している。第1端面24は、スプリング34とは反対側の第1ランド21の面であって、軸Xに直交する面である。
【0053】
ハウジング3は、係止面35を有している。係止面35は、軸Xに直交する面であって、第1端面24が係止する面である。スプリング34が、スプール2を、図1における右方向へ付勢すると、第1端面24と係止面35とが係止することにより、スプール2が、それ以上に右方向へ移動することが制限される。第1端面24と係止面35とが係止したスプール2の位置が、スプール2の中立位置である。スプリング34は、スプール2が中立位置となるように、スプール2を付勢している。
【0054】
スプール2の第1ランド21には、ロッド23が接続されている。より詳細に、ロッド23は、第1端面24に接続されている。このため、第1端面24は、図3に示すように、円環状である。
【0055】
ここで、軸Xに沿う方向について、スプール2の第1側の受圧面積と、第2側の受圧面積とは等しくされている。第1側の受圧面積は、円環状の第1端面24の面積と、ロッド23の端面(後述するカム421が当たる面)との合計面積であり、第2側の受圧面積は、円形状の第2端面25の面積と、第2端面25の外周囲の段差210の部分との合計面積である。これにより、スプール2の第1側に作用する油圧による荷重と、第2側に作用する油圧による荷重とが等しくなり、スプール2に対し、軸Xに沿う方向に作用する油圧による荷重が、実質的に相殺される。
【0056】
スプール2とロッド23とは一体化されている。ロッド23は、第1端面24から、スプリング34の反対方向へ延びている。ロッド23は、係止面35に形成された貫通孔36を通って、スリーブ孔311の外へ突出している。
【0057】
電動デバイス4は、電気モータ41と、変換機構42とを有している。変換機構42は、電気モータ41のトルクを、スプール2の、軸Xに沿う方向の移動へ変換する。具体的に変換機構42は、電気モータ41のシャフト411に取り付けれたカム421を有している。シャフト411は、軸Xに直交する方向に延びている。カム421は、ロッド23の端に当たっている。電気モータ41が駆動をしてカム421が回転し、カム421の山がスプリング34の方へ移動すると、カム421の山が、ロッド23を、スプリング34の方へ押す。これによりスプール2は、スプリング34の付勢力と、移動するスプール2の摩擦とに対抗して、スプリング34の方へ移動する。また、カム421の回転によってカム421の山がスプリング34と反対方向へ移動すると、スプリング34の付勢力によって、スプール2は、スプリング34の反対方向へ移動する。こうして、スプール2は、スリーブ孔311の中を、軸Xに沿って往復移動する。
【0058】
尚、電動デバイス4は、前述した電気モータ41と変換機構42との組み合わせに限定されない。また、変換機構42は、カム421を利用した機構に限定されない。
【0059】
(第1端面の構造)
図2及び図3に示すように、このスプールバルブ1の第1端面24は、凹凸を有している。より具体的に、第1端面24には、シム5が固定されている。シム5は、第1端面24よりも小さい径を有していると共に、所定の厚みtを有する平板である。また、シム5は、スプール2のロッド23が挿入される挿入孔51を有していると共に、径方向に延びて挿入孔51につながる切り欠き52を有している。シム5は、全体として、C字状を有している。
【0060】
第1端面24にシム5が固定されることによって、スプリング34によってスプール2が付勢されたときに、シム5の表面と係止面35とが直接的に当接する(図2も参照)。このため、スプール2が中立位置にある状態で、第1端面24と係止面35との間には、第1端面24の周縁に沿って延びる隙間61が形成されると共に、切り欠き52の箇所において第1端面24の径方向に延びる隙間62が形成される。また、挿入孔51は、貫通孔36に連通する。
【0061】
図8に示すように、第1端面240と係止面350とが、第1端面240と係止面350との全面にわたって平面同士で密着している場合、第1端面240と係止面350との間に作動油が供給され難い、又は、供給に時間がかかる。
【0062】
これに対し、図2に示すように、第1端面24と係止面35との間にシム5が介在することによって凹凸が設けられると、貫通孔36から、第1端面24と係止面35との間に形成される隙間61、62を通って、作動油が第1端面24と係止面35との間に供給されやすい。
【0063】
その結果、スプール2の第1側に作用する油圧による荷重と、第2側に作用する油圧による荷重とが、均等又は略均等になり、第1端面24が係止面35へ押し付けられる力が弱くなる。電動デバイス4は、スプール2を安定的に移動できる。
【0064】
また、作動油の温度が下がって、その粘度が高くなっても、作動油は第1端面24と係止面35との間に供給される、又は、速やかに供給される。スプールバルブ1は、低温下においても、安定的に動作する。スプールバルブ1は、航空機用のスプールバルブ1として、有用である。
【0065】
また、第1端面24が係止面35へ押し付けられる力が弱くなるから、電動デバイス4は、スプリング34の付勢力及びスプール2の移動抵抗に対抗する能力が確保できればよい。スプールバルブ1には、小型の電気モータ41を採用できる。スプールバルブ1が小型化する。小型のスプールバルブ1は、航空機用をはじめとする各種の移動体用のスプールバルブに適している。
【0066】
(変形例)
前述したシム5は、スプール2の第1端面24に固定される代わりに、ハウジング3の係止面35に固定されてもよい。また、スプール2の第1端面24を、図3に示すような形状に削ることによって、スプール2は、第1端面24にシム5を固定したことと同様の構造を得るようにしてもよい。
【0067】
また、シム5の形状は、図3に示すようなC字状に限定されない。但し、径方向に延びる切り欠き52は、第1端面24と係止面35との間に、ハウジング3の貫通孔36に対して、挿入孔51を通じて連続する隙間62であって、軸Xに直交する方向に延びる隙間62を形成するから、作動油は、第1端面24と係止面35との間に速やかに供給される。
【0068】
ここに開示する技術は、第1端面24及び係止面35の少なくとも一方が凹凸を有し、その凹凸が、第1端面24と係止面35との間に、作動油が流れる隙間を形成することを特徴とする。凹凸は、シム5を用いなくても、形成可能である。
【0069】
第1端面24と係止面35との間にシム5を介在させる代わりに、例えば図4に示すように、第1端面24から凹んだ凹部を、第1端面24に形成してもよい。凹部の形状は、様々な形状を採用することができる。
【0070】
例えば図4(a)に例示するように、第1端面24の径方向に延びる溝71が、放射状に複数、形成されてもよい。また、複数の溝が放射状に形成されることに限らず、例えば図4(b)に例示するように、特定の一方向に延びる溝72が、第1端面24に、一つ又は複数、形成されてもよい。また、周方向に延びる溝が、一つ又は複数、第1端面24に形成されてもよい。さらに、ランダムな方向に延びる複数の溝が、第1端面24に形成されてもよい。
【0071】
また、図4(c)に例示するように、複数の凹孔73が、第1端面24の周方向に、間隔を空けて並んで形成されてもよい。
【0072】
尚、凹部の形状は、図4に例示する以外であってもよい。
【0073】
第1端面24に形成された、これらの凹部71、72、73は、第1端面24と係止面35とが係止した状態において、係止面35とは当接せずに隙間を形成する。作動油は、これらの凹部71、72、73を通って、第1端面24と係止面35との間に供給される。
【0074】
また、第1端面24と係止面35とのそれぞれにおいて、凹部71、72、73が形成されていない箇所は、平面同士が当接する。これは、スプール2の中立位置を精度良く定めることを可能にする。
【0075】
第1端面24に凹部71、72、73を形成する代わりに、例えば図5に示すように、第1端面24から突出する凸部を、第1端面24に形成してもよい。凸部の形状は、様々な形状を採用することができる。
【0076】
例えば図5(a)に例示するように、第1端面24の径方向に延びる凸条81が、放射状に複数、形成されてもよい。また、複数の凸条が放射状に形成されることに限らず、例えば図5(b)に例示するように、特定の一方向に延びる凸条82が、第1端面24に、一つ又は複数、形成されてもよい。また、周方向に延びる凸条が、一つ又は複数、第1端面24に形成されてもよい。さらに、ランダムな方向に延びる複数の凸条が、第1端面24に形成されてもよい。
【0077】
また、図5(c)に例示するように、複数の突起83が、第1端面24の周方向に、間隔を空けて並んで形成されてもよい。
【0078】
尚、凸部の形状は、図5に例示する以外であってもよい。
【0079】
第1端面24に形成された、これらの凸部81、82、83は、係止面35に当たるため、第1端面24と係止面35とのそれぞれにおいて、凸部が形成されていない箇所には、隙間が形成される。作動油は、それらの隙間を通って、第1端面24と係止面35との間に供給される。
【0080】
また、凸部81、82、83と係止面35とが当たることによって、スプール2の中立位置が精度良く定まる。
【0081】
スプール2の第1端面24が凹凸を有する代わりに、ハウジング3の係止面35が凹凸を有してもよい。例えば図6に示すように、係止面35に形成される凹部として、径方向に延びる溝91が、放射状に複数、係止面35に形成されてもよい。溝91は、貫通孔36につながっていてもよい。
【0082】
係止面35に形成される凹部は、図4(a)(b)(c)に示すように、様々な形状を採用できる。また、図5(a)(b)(c)に示される凸部が、係止面35に形成されてもよい。
【0083】
また、第1端面24と係止面35とのそれぞれが凹凸を有していてもよい。但し、第1端面24と係止面35とは、スプール2の中立位置を定めるため、少なくとも一部において、平らな面同士が当接することが好ましい。
【0084】
尚、図1及び図2に示すスプールバルブ1では、ハウジング本体33が係止面35を有しているが、例えば図7に例示するように、スリーブ31が、その端の開口を塞ぐような蓋部37を有している場合、その蓋部37が、スプール2の第1端面24に係止する係止面38を構成する。この場合、蓋部37の係止面38に、例えば図6と同様の溝91、又は、各種の凹部/凸部が形成されてもよい。また、蓋部37の係止面38に、シム5が固定されてもよい。
【0085】
尚、蓋部37の係止面38に、各種の凹部/凸部が形成される代わりに、第1端面24に各種の凹部/凸部が形成されてもよいし、係止面38に当たるシム5が固定されてもよい。
【0086】
尚、スプールバルブは、復動タイプであってもよい。復動タイプのスプールバルブは、スプリング34に代えて第2電動デバイスを備える。第2電動デバイスは、スプール2の第2端面25に接続される。ハウジング3は、スプール2の第1端面24に係止する(第1)係止面35の他に、スプール2の第2端面25に係止する第2係止面を有する。復動タイプのスプールバルブでは、第1端面24及び第1係止面35の少なくとも一方は、凹凸を有し、第2端面25及び第2係止面の少なくとも一方は、凹凸を有する、としてもよい。第1端面24と第1係止面35との隙間、及び、第2端面25と第2係止面との隙間のそれぞれへ、作動油が供給されやすいから、スプール2の第1端面24に作用する油圧による荷重と、第2端面25に作用する油圧による荷重とが均等、又は、略均等になる。復動タイプのスプールバルブは、安定的に動作する。
【符号の説明】
【0087】
1 スプールバルブ
2 スプール
24 第1端面
25 第2端面
3 ハウジング
311 スリーブ孔
34 スプリング
35 係止面
4 電動デバイス
5 シム
52 切り欠き
71 溝(凹部)
72 溝(凹部)
73 凹孔(凹部)
81 凸条(凸部)
82 凸条(凸部)
83 突起(凸部)
91 溝(凹部)
X 軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8