IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

特開2024-144832蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置
<>
  • 特開-蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置 図1
  • 特開-蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置 図2
  • 特開-蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置 図3
  • 特開-蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置 図4
  • 特開-蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置 図5
  • 特開-蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置 図6
  • 特開-蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144832
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20241004BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241004BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M10/54
H01M4/139
H01M4/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056970
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】玉井 敦
(72)【発明者】
【氏名】新庄 紗枝
【テーマコード(参考)】
5H031
5H050
【Fターム(参考)】
5H031RR02
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA04
5H050GA12
5H050HA04
(57)【要約】
【課題】環境負荷を抑制しつつも、電極としての性能を十分に回復することが可能な蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置を提供することを目的とする。
【解決手段】使用済み蓄電装置の電極の回復方法であって、前記使用済み蓄電装置から前記電極を取り出す第1工程S20と、前記第1工程S20で取り出された前記電極の表層の少なくとも一部を、機械的処理によって除去する第2工程S30と、を含む蓄電装置の電極の回復方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み蓄電装置の電極の回復方法であって、
前記使用済み蓄電装置から前記電極を取り出す第1工程と、
前記第1工程で取り出された前記電極の表層の少なくとも一部を、機械的処理によって除去する第2工程と、
を含む
ことを特徴とする蓄電装置の電極の回復方法。
【請求項2】
前記機械的処理によって除去される前記電極の前記表層の部位は、前記電極の表面から前記電極の厚みの20%未満の部位である
ことを特徴とする請求項1に記載の蓄電装置の電極の回復方法。
【請求項3】
前記第2工程の前に、前記電極の厚みの増加分を算出する算出工程をさらに含み、
前記算出工程で算出された前記厚みの増加分に相当する厚さを、前記機械的処理によって除去する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄電装置の電極の回復方法。
【請求項4】
前記機械的処理は、前記電極の表層の少なくとも一部を切削する処理である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄電装置の電極の回復方法。
【請求項5】
前記機械的処理は、レーザビームを照射することにより前記電極の表層の少なくとも一部を加熱する処理である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の蓄電装置の電極の回復方法。
【請求項6】
蓄電装置の製造方法であって、
使用済み蓄電装置から電極を取り出す第1工程と、
前記第1工程で取り出された前記電極の表層の少なくとも一部を、機械的処理によって除去する第2工程と、
前記第2工程で処理を施した前記電極を含む蓄電装置を組み立てる第3工程と、
を含む
ことを特徴とする蓄電装置の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の蓄電装置の製造方法によって製造された
ことを特徴とする蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、EV(Electric Vehicle:電気自動車)やHEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド電気自動車)等、二次電池等の蓄電装置(バッテリとも称する)から供給される電力を利用する電動モータで走行する車両の開発が進んでいる。使用によって劣化したと判断されたバッテリは回収され、電極の取出し、活物質との分離、セルの再構築といったリサイクル処理が施されて再生バッテリとして利用される。
また近年では、より多くの人々が手ごろで信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する二次電池に関する研究開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、使用済みリチウムイオン電池を、塗工された電極(集電体に塗工された電極活物質層)の形態を保持したまま、その電極を再生・再利用して再生電池を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-022969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、二次電池に関する技術においては、使用済みの二次電池を回復させる際の環境負荷を抑制しつつも、電極としての性能を十分に回復することが課題である。特許文献1の技術では、電極を極性溶媒で洗浄することで、電池の解体後に、電極の形状を保持したままで電極の再生・再利用を試みているが、洗浄のみでは電極表層に生じる劣化した層を除去することができないという問題がある。これにより、電極としての性能を十分に回復できない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、環境負荷を抑制しつつも、電極としての性能を十分に回復することが可能な蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様に係る蓄電装置の電極の回復方法は、
使用済み蓄電装置の電極の回復方法であって、
前記使用済み蓄電装置から前記電極を取り出す第1工程と、
前記第1工程で取り出された前記電極の表層の少なくとも一部を、機械的処理によって除去する第2工程と、
を含むことを特徴とする。
上記構成からなる蓄電装置の電極の回復方法は、電極としての性能が劣化した電極の表層の少なくとも一部を機械的処理によって除去することにより、電極としての機能を回復することができかつ、電極から活物質を分離することなく電極の回復ができるため環境負荷を抑制できる。
(2)上記(1)に記載の蓄電装置の電極の回復方法では、
前記機械的処理によって除去される前記電極の前記表層の部位は、前記電極の表面から前記電極の厚みの20%未満の部位であってもよい。
上記構成からなる蓄電装置の電極の回復方法は、電極の厚みの20%未満の部位を除去することにより、上記の効果に加え、電極の形状を維持しつつも電極として活用できる表面を再形成できるため、電極としての機能を効果的に回復することができる。
(3)上記(1)又は(2)に記載の蓄電装置の電極の回復方法では、
前記第2工程の前に、前記電極の厚みの増加分を算出する算出工程をさらに含み、
前記算出工程で算出された前記厚みの増加分に相当する厚さを、前記機械的処理によって除去してもよい。
上記構成からなる蓄電装置の電極の回復方法は、電極の厚みの増加分に相当する厚さを除去するため、上記の効果に加え、電極の厚みを初期状態に戻すことができ、更なる工程を実施せずに所望の性能まで電極としての機能を回復することができる。
(4)上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の蓄電装置の電極の回復方法では、
前記機械的処理は、前記電極の表層の少なくとも一部を切削する処理であってもよい。
上記構成からなる蓄電装置の電極の回復方法は、切削により除去を実施することにより、上記の効果に加え、より効率的に電極の新生面を露出させることができる。
(5)上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の蓄電装置の電極の回復方法では、
前記機械的処理は、レーザビームを照射することにより前記電極の表層の少なくとも一部を加熱する処理であってもよい。
上記構成からなる蓄電装置の電極の回復方法は、レーザビームの照射により電極の表層を加熱して除去することにより、上記の効果に加え、より効率的に電極の新生面を露出させることができる。
(6)本発明の一態様に係る蓄電装置の製造方法は、
蓄電装置の製造方法であって、
使用済み蓄電装置から電極を取り出す第1工程と、
前記第1工程で取り出された前記電極の表層の少なくとも一部を、機械的処理によって除去する第2工程と、
前記第2工程で処理を施した前記電極を含む蓄電装置を組み立てる第3工程と、
を含むことを特徴とする。
上記構成からなる蓄電装置の製造方法は、電極としての機能を回復することができかつ、電極から活物質を分離することなく電極の回復ができるため環境負荷を抑制できる。
(7)本発明の一態様に係る蓄電装置は、
上記(6)に記載の蓄電装置の製造方法によって製造された蓄電装置である。
上記構成からなる蓄電装置は、より環境負荷が抑制された製造方法により電極としての機能を回復して、再生された蓄電装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る蓄電装置の電極の回復方法、蓄電装置の製造方法及び蓄電装置によれば、蓄電装置の製造に係る環境負荷を抑制しつつも、電極としての性能を十分に回復できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る蓄電装置を構成するセル(単電池)の基本構成を説明するための概略図である。
図2】実施形態に係る蓄電装置の電極の回復方法の全体の流れを説明するためのフロー図である。
図3】実施形態に係る蓄電装置の負極を切削する工程を説明するための概略的な断面図であって、切削刃を負極活物質層へ侵入させた状態を示す図である。
図4】実施形態に係る蓄電装置の負極を切削する工程を説明するための概略的な断面図であって、切削刃を負極活物質層(SEI被膜)の所定の深さまで侵入させた状態を示す図である。
図5】実施形態に係る蓄電装置の負極を切削する工程を説明するための概略的な断面図であって、切削刃を負極活物質層(SEI被膜)の所定の深さまで侵入させて、面内方向へ移動させた状態を示す図である。
図6】実施形態に係る蓄電装置の負極を切削する工程を説明するための概略的な断面図であって、切削刃を、SEI被膜を含む負極活物質層の所定の深さまで侵入させた状態を示す図である。
図7】実施形態に係る検量線を作成するためのグラフを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されないことは自明である。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。また、以下の実施形態の各構成要素は、互いに組み合わせることができる。
また本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書中において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0011】
(蓄電装置)
本実施形態に係る蓄電装置は、再生・再利用が可能な蓄電装置であれば、特に制限されるものではない。例えば、リチウムイオンバッテリ等の二次電池であってもよい。本実施形態に係る蓄電装置を形態・構造で区別した場合には、巻回型(円筒型)電池、積層型(扁平型)電池等、従来公知のいずれの形態・構造にも適用し得るものである。
【0012】
また、本実施形態の蓄電装置は、例えば、リチウムイオン電池等、充電と放電とを繰り返すことが可能な二次電池である。蓄電装置を構成する二次電池としては、例えば、鉛蓄電池、ニッケル・水素電池、ナトリウムイオン電池等の他、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ、または二次電池とキャパシタとを組み合わせた複合電池等も考えられる。蓄電装置は、車両等に対して着脱自在に装着される、例えば、カセット式等のバッテリパックであってもよい。この場合、蓄電装置は、車両などの外部の充電器から導入される電力を蓄え、車両の走行のための放電を行う。本実施形態の蓄電装置は、再生可能な電池である。蓄電装置は、モバイルバッテリ(Mobile Battery)とも称される可搬バッテリであってもよい。
【0013】
図1は、本実施形態の蓄電装置を構成するセル(単電池)1の基本構成を説明するための概略図である。図1に示すように、再生・再利用が可能な蓄電装置のセル1は、実際に充放電反応が進行する発電のための構成要素が、外装材(図示せず)の内部に封止された構造を有する。ここで、セル1は、負極集電体21の片面に負極活物質層22が配置された負極20と、正極集電体31の片面に正極活物質層32が配置された正極30と、負極20と正極30との間に設けられた電解質層40とを積層した構成を有している。
【0014】
図1の例では、1つの負極活物質層22とこれに隣接する正極活物質層32とが、電解質層40を介して対向するようにして、負極20、電解質層40及び正極30がこの順に積層されている。
正極集電体31及び負極集電体21はそれぞれ、電極タブ等(図示せず)に接続される。
【0015】
(集電体)
正極集電体31又は負極集電体21は、導電性材料から構成される。正極集電体31又は負極集電体21の大きさは、蓄電装置の使用用途に応じて決定されればよい。例えば、大型のバッテリとして用いられるのであれば、面積の大きな集電体が用いられることが好ましい。正極集電体31又は負極集電体21の厚さについても特に制限はなく、通常、厚さは1~100μm程度である。
【0016】
正極集電体31又は負極集電体21を構成する材料に特に制限はない。例えば、金属や、導電性高分子材料または非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が採用されうる。具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材、あるいは、これらの金属の組み合わせのめっき材等が好ましく用いられる。また、金属表面にアルミニウムが被覆された箔が用いられてもよい。
【0017】
導電性高分子材料としては、製造コストの抑制や集電体の軽量化の観点から、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリアクリロニトリル、およびポリオキサジアゾール等が好ましく用いられる。
【0018】
非導電性高分子材料としては、耐電位性、耐溶媒性の観点から、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデンまたはポリスチレン等が好ましく用いられる。
【0019】
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されてもよい。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に限定されず、例えば、導電性、耐電位性、あるいはリチウムイオンの遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボン等が挙げられる。金属としては、特に限定されないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、Sb、及びKからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金またはこれらの金属の金属酸化物を含むことが好ましい。導電性カーボンとしては、特に限定されないが、アセチレンブラック、バルカン、ブラックパール、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーンおよびフラーレン等が挙げられる。
【0020】
(正負極活物質層)
正極活物質層32又は負極活物質層22は、活物質を含み、必要に応じてその他の添加剤をさらに含む。
【0021】
正極活物質層32は、正極活物質を含む。正極活物質としては、例えば、LiMn、LiCoO、LiNiO、Li(Ni-Co-Mn)O、LiFePO及びこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの等のリチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム-遷移金属リン酸化合物、リチウム-遷移金属硫酸化合物等が挙げられる。2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記に例示した以外の正極活物質が用いられてもよい。
【0022】
負極活物質層22は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、MCMB(メソフェーズカーボンマイクロビーズ)型黒鉛、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、Si、Ge、Sn、Pb、Al、In、Zn等のリチウムと合金化する材料、リチウム合金系負極材料などが挙げられる。2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記に例示した以外の負極活物質が用いられてもよい。
【0023】
正極活物質層32及び負極活物質層22は、バインダを含む。正極活物質層32及び負極活物質層22に用いられるバインダとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、セルロース、カルボキシメチルセルロース、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物等の熱可塑性高分子、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体、ポリフッ化ビニル等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム、ビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0024】
耐熱性に優れ、さらに電位窓が非常に広く正極電位、負極電位双方に安定であり活物質層に使用が可能となるという観点から、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。これらのバインダは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
正極活物質層32及び負極活物質層22に含まれうるその他の添加剤としては、例えば、導電助剤、電解質塩(リチウム塩)、イオン伝導性ポリマー等が挙げられる。導電助剤とは、正極活物質層32及び負極活物質層22の導電性を向上させるために配合される添加物をいう。導電助剤としては、アセチレンブラック等のカーボンブラック、グラファイト、気相成長炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。活物質層が導電助剤を含むと、活物質層の内部における電子ネットワークが効果的に形成され、電池の出力特性の向上に寄与しうる。電解質塩(リチウム塩)としては、Li(CSON、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiBETI等が挙げられる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)系およびポリプロピレンオキシド(PPO)系のポリマーが挙げられる。
【0026】
正極活物質層32及び負極活物質層22中に含まれる成分の配合比は、特に限定されない。この配合比は、蓄電装置の所望の性能に対して調整されうる。
【0027】
正極活物質層32及び負極活物質層22の厚さについても特に限定されず、蓄電装置のセルとしての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、正極活物質層32及び負極活物質層22の厚さは、それぞれ2~100μm程度であることが好ましい。より好ましくは、正極活物質層32の厚さは、45~85μmである。より好ましくは、負極活物質層22の厚さは、60~80μmである。
【0028】
負極活物質層22の負極集電体21が接続されていない側の表面、換言すると、電解質層40側に位置する負極活物質層22の表面上には、SEI(solidele ctrolyte interface)被膜23が形成される。SEI被膜23は、電解質が分解することによって生じる被膜であり、負極活物質層22と電解質層40との界面に形成される。このSEI被膜23が薄すぎると電解質の分解反応が進んでしまうが、SEI被膜23が厚くなり過ぎると電気抵抗が高くなり、電池としての寿命や効率に影響を及ぼす。
【0029】
正極活物質層32の正極集電体31が接続されていない側の表面、換言すると、電解質層40側に位置する正極活物質層32の表面上には、蓄電装置の使用と共に、正極活物質層32の結晶構造が変化して劣化した変質層(図示せず)が形成される。このような変質層は、電池としての寿命や効率に影響を及ぼす。
【0030】
(電解質層(電解液含浸セパレータ))
電解質層40を構成する電解質としては、電解液(液体電解質)が用いられてもよい。液体電解質は、可塑剤である有機溶媒に支持塩であるリチウム塩が溶解した形態を有する。可塑剤として用いられる有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)等のカーボネート類が挙げられる。また、支持塩(リチウム塩)としては、LiBETI等の電極の活物質層に添加されうる化合物が挙げられる。
【0031】
なお、電解質層40を構成するセパレータの具体的な形態としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンからなる微多孔膜が挙げられる。また、不織布からなるセパレータを用いることもできる。さらに、表面に有機樹脂または無機粒子からなる耐熱層を設けたセパレータを用いることもできる。
【0032】
上述した正極30、負極20及び電解質層40は、所望の蓄電装置の形状に応じて、図1に示すような単層構造を有していてもよく、正極活物質層32、正極集電体31、負極活物質層22、負極集電体21及び電解質層40が適宜積層された構造を有していてもよい。あるいは、上述した正極30及び負極20、これらを隔てる電解質層40が重ねられて巻き取られた構造を有していてもよい。
【0033】
(電極タブ)
電池外部に電流を取り出すため、上記の正極集電体31及び負極集電体21はそれぞれが電極タブ(図示せず)に接続されてもよい。電極タブはこれらの集電体に電気的に接続され、例えば、セルの外装材の外部に取り出される。
【0034】
電極タブを構成する材料は、特に制限されず、電極タブとして従来用いられている公知の高導電性材料が好ましく用いられる。電極タブの構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、これらの合金等の金属材料が好ましく、より好ましくは軽量、耐食性、高導電性の観点からアルミニウム、銅などが挙げられる。
【0035】
(電池外装材)
電池外装材としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルムを用いた袋状のケースが用いられてもよい。該ラミネートフィルムには、例えば、ポリプロピレン、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができる。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、電池外装材としてはラミネートフィルムが望ましい。
【0036】
電極タブに接続される正負極端子リード(共に図示せず)に関しても、必要に応じて使用すればよい。正極端子リード及び負極端子リードの材料は、公知のものを用いることができる。なお、電池外装材から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆するのが好ましい。また、巻回型の蓄電装置では、電極タブに代えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成してもよい。
【0037】
再生・再利用が可能な蓄電装置は、例えば、巻回型では、円筒型形状のものであってもよく、円筒型形状のものを長方形状の扁平な形状に変形させたものであってもよい。円筒型形状のものでは、その外装材に、ラミネートシートを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよく、特に制限はない。好ましくは、発電要素(電池要素)がアルミニウムラミネートフィルムで外装されていてもよい。
【0038】
本実施形態の蓄電装置としては、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車等の車両駆動用電源や補助電源に好適に利用されるバッテリ等が挙げられる。
【0039】
以下に、図2から図7を参照しながら、本実施形態の蓄電装置の電極の回復方法を説明する。
図2に、本実施形態に係る蓄電装置の電極の回復方法の全体の流れを説明するためのフロー図を示す。図3から図6に、セルを分解して取り出した負極20を切削する工程を説明するための概略的な断面図を示す。また、図7に、後述する算出工程で用いる検量線を作成するためのグラフの一例を示す。
【0040】
先ず、図2の第1工程(S20)及び第2工程(S30)について説明する。図2の算出工程(S10)については後述する。
【0041】
[第1工程]
第1工程(S20)では、使用済み蓄電装置から電極を取り出す。上述のように、蓄電装置の形状によって電極の形状が異なるが、捲回体や積層体から構成される電極を正極30及び負極20に分けて取り出す。電極は、例えばシート状の電極である。そして、電極を平板状に整え、第2工程(S30)に供する。
【0042】
[第2工程]
第2工程(S30)では、第1工程(S20)で取り出された電極(正極30又は負極20)の表層の少なくとも一部を、機械的処理によって除去する。電極の表層とは、各電極において集電体(正極集電体31又は負極集電体21)が配されていない、電解質層40と接する表面側の層を意味する。表層の少なくとも一部を除去してもよく、所望の厚みで、表層の全部を除去してもよい。
【0043】
機械的処理によって除去される正極30又は負極20の表層の部位は、正極30又は負極20の表面から正極30又は負極20の厚みの20%未満の部位であってもよい。これにより、電極の形状を維持しつつも、正極30又は負極20として活用できる表面を再形成できるため、各電極としての機能を効果的に回復することができる。正極30又は負極20の厚みは、マイクロメータによる手動測定、あるいはβ線厚み計によるインライン検出によって測定する。厚みは、正極30又は負極20のそれぞれについて、両端部及び中央部の3箇所を測定して、その算術平均とする。
【0044】
第2工程(S30)における機械的処理とは、電極の表層の少なくとも一部を切削する処理であってもよい。切削に用いられるのは、電極の活物質層を切削できる手段であれば特に限定されないが、例えば、ダイヤモンドナイフが挙げられる。ダイヤモンドナイフは、ダイヤモンド製の切削刃であり、例えば、刃幅1~5mmである。
【0045】
図3から図6を用いて、負極20を切削する工程を例に挙げて説明する。図3から図6は、負極20の表層近傍を拡大して示す概略的な図である。図3から図6の例では、負極活物質層22上のSEI被膜23のみを切削して除去する例を示す。これは図2のS40の工程に相当する。
【0046】
先ず、図3に示すように、切削刃Bを所定の角度及び移動速度で、負極活物質層22(ここではSEI被膜23)に対して、SEI被膜23の表面23a側から侵入させる。切削刃Bは、例えば、すくい角15~25°、逃げ角5~15°であってもよい。切削においては、できる限り薄く削ることが望ましいため、薄い切削刃Bを用いて、侵入角度αを調節して切削を開始することが好ましい。なお、負極20の表面に平行な方向(図3等のX座標軸の正方向)における移動速度は1μm/s程度であってもよい。切削刃Bを負極活物質層22(すなわち、SEI被膜23)に侵入させる初期の段階では、例えば、負極20の表面に垂直な方向(図3等のZ座標軸の正方向)における移動速度が0.1μm/sかつ負極20の表面に平行な方向(図3等では、X座標軸の正方向)における移動速度が1μm/sとなるように切削刃Bを移動させる。
【0047】
図4に示すように、切削刃Bが目標の深さd(図4等の一点鎖線lの位置)に到達した段階で、負極20の表面に垂直な方向の移動を停止させ、図5に示すように負極20の表面に平行な方向のみに切り替えて切削を進める。
【0048】
なお、切削刃Bにかかる負荷は削った量に対応するため、切削刃Bにかかる負荷が一定値を超えないように調整しながら切削することが好ましい。例えば、負荷が抜けてしまった場合には、電極の集電体まで切削刃が到達してしまったと判断する。
【0049】
なお、円筒形セルの電極であれば、巻き芯に近い部分は反応に寄与しにくいため、巻き芯側から切削を開始することにより、削り始めの十分削られない部分の損失を低減させることができる。
【0050】
本実施形態の蓄電装置の回復方法では、図6に示すように、切削刃Bの目標の深さをSEI被膜23の厚さよりも大きくすることで、負極20の負極活物質層22の一部も切削して除去してもよい。これは図2のS50の工程に相当する。
【0051】
図6に示すように、負極20を一定量(一定深さ)除去することで、より効率的に電極の新生面を露出させることができる。
【0052】
例えば、リチウムイオン電池の反応機構は電解質層を介して電極の表層から進行するため、電極の表層から集電体に向けて劣化が進行する。蓄電装置の使用によって劣化した負極には、充放電に寄与しない失活した金属Liを含む被膜が厚く成長し、正極側においてもこのような被膜が薄く生成する。本実施形態の蓄電装置の回復方法では、洗浄等の処理では除去できない、このような劣化した層を除去することができる。
【0053】
なお、図1及び図3から図6において、切断面はX座標軸及びZ座標軸と平行である。図1及び図3から図6のX座標軸、Y座標軸、Z座標軸はそれぞれが互いに直交する。
【0054】
本実施形態の蓄電装置の回復方法では、機械的処理とは、レーザビームを照射することにより電極の表層の少なくとも一部を加熱する処理であってもよい。レーザビームを照射することにより電極表層の酸化物や有機物を焼き飛ばすことで、正極表層に形成された変質層や、負極表層のSEI被膜を除去することができる。このような手段は、例えば、レーザーピーリングやレーザークリーニングとも言われる。
【0055】
レーザ照射は、湿式、乾式のいずれで行ってもよい。レーザビームの出力及び走査速度を調整することで、電極を加熱する深さを調整してもよい。また、この処理によって熱分解された活物質やバインダは超音波の振動や洗浄により電極表面から除去されることが好ましい。
【0056】
なお、上記の例では、SEI被膜23を有する負極20を切削する例を挙げたが、機械的処理は、負極20及び正極30のいずれかあるいは双方に実施してもよい。また、正極30側に機械的処理を施す場合には、正極30表層に形成された変質層のみを除去してもよく、変質層と共に正極活物質層32の一部まで除去してもよい。
【0057】
[算出工程]
本実施形態の蓄電装置の電極の回復方法では、図2の第1工程(S20)に先立ち、算出工程(S10)を実施してもよい。そして、算出工程(S10)で算出された厚みの増加分に相当する厚さを、第2工程(S30)において機械的処理によって除去してもよい。
【0058】
算出工程(S10)は、図2のS10の工程として示すように、第1工程の前に実施してもよい。この場合、蓄電装置から電極を取り出す前に、正極及び負極を含む使用済み蓄電装置の容量の劣化状態を診断することで容量低下率を測定し、予め作成した検量線を基に負極の厚みの増加分を算出する。算出工程(S10)では、使用済み蓄電装置の初期状態における微分容量曲線(dV/dQ曲線)と使用済み蓄電装置の微分容量曲線とを比較することで(例えば、正極又は負極のピーク幅の変化を比較することで)、正極又は負極の容量低下率を算出してもよい。なお、算出工程(S10)では、使用済み蓄電装置の充放電時に得られる物理量データに基づき、使用済み蓄電装置の容量の劣化状態の診断が実施されてもよい。物理量データとは、例えば、充電時の電圧値及び電流値等である。
【0059】
図7に、検量線を作成するためのグラフの一例を示す。図7のグラフの横軸は初期状態に対する容量低下率であり、縦軸は初期状態に対する負極の厚みの増加分である。対象とする蓄電装置と同仕様の蓄電装置について、初期状態に対する容量低下量と負極の厚みの増加とを測定し、これらの関係から、図7に例示するような検量線を作成する。そして、容量低下率を測定し、この検量線に基づいて負極の厚みの増加を算出する。厚みの増加分は、負極中のリチウムの減少量を換算して算出する。負極中のリチウムの量はICP発光分光分析法を用いて測定する容量低下率と負極中のリチウムの減少量は相関を有するため、このような検量線を用いることが好ましい。
【0060】
第2工程(S30)では、算出工程(S10)によって得られた負極20の厚みの増加分を機械的処理によって除去する。これにより、負極20の厚みを初期状態に戻すことができ、更なる工程を実施せずに所望の性能まで電極としての機能を回復することができる。
【0061】
第2工程において、負極20の一部を除去した場合には(S50)、化成処理(S60)を実施して、被膜を形成する。化成処理では、蓄電装置に組み立てた後に、一定の電圧で一定時間静置することで、負極20の表面にSEI被膜23を再び形成する。
【0062】
本実施形態の蓄電装置の電極の回復方法は、電極としての性能が劣化した電極の表層の少なくとも一部を機械的処理によって除去することにより、電極としての機能を回復することができるため、電極から活物質を分離することなく電極の回復ができるため環境負荷を抑制できる。特に、電池容量の回復に加え、劣化した電極の表層を除去するため、電極の電気抵抗の低減にも効果がある。
【0063】
なお、通常使用における充電時に劣化の状態及び劣化の要因を診断することにより、使用済み蓄電装置の状態に関する情報を得て、例えば、上述した正極又は負極の容量低下率が10%以上である場合に、本実施形態の蓄電装置の電極回復方法を実施するようにしてもよい。
【0064】
本発明の他の実施形態に係る蓄電装置の製造方法は、使用済み蓄電装置から電極を取り出す第1工程と、第1工程で取り出された電極の表層の少なくとも一部を、機械的処理によって除去する第2工程と、第2工程で処理を施した電極を含む蓄電装置を組み立てる第3工程とを含む。
【0065】
第1工程及び第2工程は、上述した蓄電装置の電極の回復方法の実施形態と同様である。本実施形態の蓄電装置の製造方法では、回復した正極又は負極を用いて、再生された蓄電装置を組み立てる工程をさらに含む。本実施形態の蓄電装置の製造方法により、電極としての機能を回復することができかつ、電極から活物質を分離することなく電極の回復ができるため環境負荷を抑制できる。
【0066】
蓄電装置の製造方法とは、再生回復方法を意味する。電解質層や外装材等の電極以外の蓄電装置の構成要素は、適切な処理を施した上で再利用してもよく、新たな構成要素を採用して蓄電装置を製造してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 セル
20 負極
21 負極集電体
22 負極活物質層
23 SEI被膜
30 正極
31 正極集電体
32 正極活物質層
40 電解質層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7