IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヱビナ電化工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144833
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】熱輸送デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20241004BHJP
   F28D 15/02 20060101ALI20241004BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
F28D15/02 M
H05K7/20 F
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056971
(22)【出願日】2023-03-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】399061363
【氏名又は名称】EBINAX株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096002
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 弘之
(74)【代理人】
【識別番号】100091650
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 規之
(72)【発明者】
【氏名】相澤 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】海老名 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】中田 広樹
(72)【発明者】
【氏名】那須 猛
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AB06
5E322EA06
5E322EA11
5E322FA04
5F136BA06
5F136CB07
5F136FA02
5F136FA03
5F136GA12
5F136GA21
5F136GA30
5F136GA37
(57)【要約】
【課題】熱輻射伝熱、熱対流伝熱、沸騰伝熱により、高熱源からの熱を効率的に輸送可能なデバイスを提供する。
【解決手段】高熱源18に密着配置される基材12と、基材12の表面に形成された第1のユニットセル14とを備え、第1のユニットセル14が、基板12上に金属製の複数の凸状セル16を規則的に配列させたものよりなり、各凸状セル16が、(1)高さH:0.35μm~50μm、(2)底部幅B:0.175~25μm、(3)凸状セル16間の間隔D: 0.49μm~50μm、の条件を満たしている第1の熱輸送デバイス10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源に密着配置される基材と、
基材の表面に形成されたユニットセルとを備え、
ユニットセルが、基材上に金属製の複数の凸状セルを規則的に配列させたものよりなり、
各凸状セルが、以下の条件を満たすことを特徴とする熱輸送デバイス。
高さH:0.35μm~50μm
【請求項2】
上記凸状セルが、さらに以下の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載の熱輸送デバイス。
底部幅B:0.175μm~25μm
凸状セル間の間隔D:0.49μm~50μm
【請求項3】
熱源に密着配置される基材と、
基材の表面に形成されたユニットセルとを備え、
ユニットセルが、基材上に金属製の複数の凸状セルを準規則的に配列させたものよりなり、
各凸状セルが、以下の条件を満たすことを特徴とする熱輸送デバイス。
平均高さHave:0.35μm~50μm
高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
【請求項4】
上記凸状セルが、さらに以下の条件を満たすことを特徴とする請求項3に記載の熱輸送デバイス。
平均底部幅Bave:0.175μm~25μm
底部幅偏差Bdev:平均底部幅Bの50%以内
凸状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
凸状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
【請求項5】
熱源に密着配置される基材と、
基材の表面に密着配置された金属製のユニットセルとを備え、
ユニットセルの表面には、複数の凹状セルが規則的に配列されており、
各凹状セルが、以下の条件を満たすことを特徴とする熱輸送デバイス。
高さH:0.35μm~50μm
【請求項6】
上記凹状セルが、さらに以下の条件を満たすことを特徴とする請求項5に記載の熱輸送デバイス。
底部幅B:0.175μm~25μm
凹状セル間の間隔D:0.49μm~50μm
【請求項7】
熱源に密着配置される基材と、
基材の表面に密着配置された金属製のユニットセルとを備え、
ユニットセルの表面には、複数の凹状セルが準規則的に配列されており、
各凹状セルが以下の条件を満たすことを特徴とする熱輸送デバイス。
平均高さHave:0.35μm~50μm
高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
【請求項8】
上記凹状セルが、さらに以下の条件を満たすことを特徴とする請求項7に記載の熱輸送デバイス。
平均底部幅Bave:0.175μm~25μm
底部幅偏差Bdev:平均底部幅Bの50%以内
凹状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
凹状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
【請求項9】
各凸状セルの表面に、複数の微細な凸状セルまたは凹状セルが形成されていることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の熱輸送デバイス。
【請求項10】
各凹状セルの表面に複数の微細な凸状セルまたは凹状セルが形成されていることを特徴とする請求項5~8の何れかに記載の熱輸送デバイス。
【請求項11】
基材が管状体よりなり、
ユニットセルが上記管状体の外周面または内周面に形成されることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載の熱輸送デバイス。
【請求項12】
上記基材とユニットセルが同一素材により一体的に形成されていることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載の熱輸送デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は熱輸送デバイスに係り、特に、発熱源に密着させることにより、抜熱・冷却機能を発揮する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
すべての動力機関は、熱力学にしたがい、外部から供給したエネルギーの多くを熱として排出するため、それを熱輸送しなければ、機関を構成する材料の温度は上昇し、熱機関の機能は低下、あるいは劣化する。
パワー半導体、集積回路、CPUボード、レーザ発振器、中継局などは、発熱を抑制するために、種々の熱輸送ユニットが組み込まれている。
【0003】
代表的な熱輸送ユニットが、ヒートシンクである。
高熱伝導率を有する銅あるいはアルミニウム板表面に突起状のフィンを作製し、片面を発熱する半導体基板、CPUボード、レーザ発振器等に接着・接合して使用する。
熱伝導してきた熱流束を、フィンを介して気体あるいは液体の冷媒に伝達することで、発熱を抑えている。
【0004】
原子力発電所などでは、加熱した液体あるいは気体、さらには気相が混入した液相(2相)の流れを利用してタービンを回転させるため、高熱流束による抜熱を、冷却水の沸騰を利用した伝熱機構で行っている。
温暖化対策として、宇宙空間への放射冷却により、ヒートアップした住宅から窓素材を介した輻射伝熱も行われている。
この熱輸送方式には、以下の4つの機構(メカニズム)がある。
【0005】
(1) 熱伝導伝熱
熱伝導伝熱では、高熱源から固体を介して熱輸送されるため、その固体の熱伝導率および固体と高熱源との熱抵抗(ギャップコンダクタンス)が、その伝熱特性を決定する。
銀、銅あるいはアルミニウムなどの高伝導率を有する材料が使用され、例えば半導体基材などに利用される。さらにグラフェンやグラファイトなども、固体熱拡散素材として広く利用されはじめている。
【0006】
(2) 熱輻射伝熱
熱輻射伝熱は、高熱源から電磁波として熱を放射する伝熱機構であり、空気などの気相への伝熱では対流伝熱を伴い、真空中では電磁波放射により熱輸送する。
例えば、自然界では太陽からの熱輻射伝熱により、宇宙空間を介して地球表面も加熱される。
【0007】
この熱輻射伝熱は、プランクの法則にしたがい、高熱源の温度に依存して放射されるエネルギーおよび電磁波の波長が決定される。
したがって、低温で赤色-赤外-遠赤外の周波数帯の電磁波放射を行うには、高熱源表面を特殊な構造にする必要がある。
非特許文献1のようにナノ・フォトニック構造を利用する方法、あるいは非特許文献2のようにメタマテリアルを利用する方法で、ともに電磁波の近接場効果を利用するものである。
赤外線の波長選択性に関しては、マイクロパターンを有したフォトニックスを利用した赤外線センサー・ヒーターの研究(非特許文献3)あるいは凹型マイクロキャビティを用いた波長選択性の研究などがあり(非特許文献4)、低温での波長選択した熱放射デバイスの可能性が示されている。
特に、非特許文献5に報告されているように、凹型マイクロキャビティでのエミッター温度の低下は、高熱源表面温度の10%程度にとどまっている。
【0008】
(3) 熱対流伝熱
熱対流伝熱は、高熱源表面を介して、気体あるいは液体の流れによって熱輸送する機構であり、その伝熱挙動は、冷却に用いる気体あるいは液体のレイノルズ数、プラントル数で決定される。
冷却用の気体・液体の速度が同一で、冷媒特性も同一であれば、熱伝達係数も同一となるため、伝熱面形状設計が熱対流伝熱向上にとって重要となる。
【0009】
ヒートシンクは、表面に突起状のピラーを設け、冷媒との接触面積を増大させるとともに、ピラー間のクリアランスにおいて低圧損で冷却容量を増加させる設計が採用されている(特許文献1)。
ただし、狭い冷却空間での熱対流伝熱では、従来のmm級のピラーを持つヒートシンクでは、効率的に冷媒を流すことは難しく、最近ではマイクロチャネルを用いたヒートシンクなど、従来と異なるデバイスが提案されている。
なお、このヒートシンクは閉ループであるため、高熱源を直接冷媒で熱対流伝熱することはできない(特許文献2)。
この対流伝熱においても、新しい発想での熱輸送デバイスの必要性がある。
【0010】
(4) 沸騰伝熱
沸騰伝熱は、冷却材の液相から気相への相変態を伴う熱伝達であり、冷却水では、水から水蒸気への相変態を伴うことで、高い熱流束での伝熱機構を実現する。
その特性は、熱流束の過熱度に対する応答、すなわち沸騰曲線で記述されるため、この伝熱機構を狭小な空間で利用するには、ベイパーチャンバー(Vapor Chamber)のように、マイクロチャネル内で繰り返し相変態を生じさせながら対流伝熱をはかる必要がある(特許文献3)
ただし、1つ1つの相変態を伴う伝熱機構は、通常の沸騰伝熱で支配される(特許文献4)。
【0011】
より自由度があり、限界熱流束をこえる沸騰伝熱デバイスは、シリコンテクノロジーを用いて開発されている(非特許文献6)。
この手法は、規則的なマイクロ構造をシリコン上に作製できる点で優れているが、脆性なシリコンを利用するデバイスでは、実用上の十分な耐久性を確保できない。
この沸騰伝熱においても、実用上の耐久性をもつ金属によるマイクロ構造を備えた熱輸送デバイスの必要性がある。
【0012】
【非特許文献1】Nanophotonic control of thermal radiation for energy applications/Optics Express vol.26, Issue 12, pp. 15995-16021 (2018)/Wei Li and Shanhui Fan
【非特許文献2】A Review of Tunable Wavelength Selectivity of Metamaterials in Near-Field and Far-Field Radiative Thermal Transport/Materials 2018, 11(5), 862 May 22 2018/Yanpei Tian, Alok Ghanekar, Matt Ricci, Mikhail Hyde, Otto Gregory, Yi Zheng
【非特許文献3】中赤外プラズモン共鳴のスペクトル制御とその応用/光学 第44巻第2号(2015年2月)/長尾忠昭、DAO Duy Thang、CHEN Kai、石井智
【非特許文献4】Unidirectional radiative heat transfer with a spectrally selective planar absorber/emitter for high-efficiency solar thermophotovoltaic systems/Applied Physics Express 9, 112302(2016)/Asaka Kohiyama, Makoto Shimizu1, Hiroo Yugami
【非特許文献5】新規ヒートシンクタイプ放射材の開発/平成24年度戦略的基盤技術高度化支援事業報告書(2013)/オキツモ株式会社、国立大学法人東北大学
【非特許文献6】マイクロンピンフィンおよびサブミクロン粗さを有するシリコンチップ上のFC-72の沸騰熱伝達/日本機械学会論文集68巻656号(2002)p519-p526/本田博司、高松洋、魏進家
【特許文献1】特許第6582114号
【特許文献2】特許第5778302号
【特許文献3】特開2021-014936号
【特許文献4】特許第6623296号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
熱輸送デバイスには、各伝熱形態に共通する特性として、要求される放熱面の面積の大小、形状の相違に拘らず、加熱面に接着・接合できることが求められる。
また、熱輸送デバイスなしの無垢の金属面による抜熱能力を超える必要がある。熱輸送する空間が狭小であっても、抜熱する機能を保有する必要もある。
さらに、高熱源から冷媒などの低熱源への効率的な熱輸送が求められる。
【0014】
熱輻射伝熱では、熱輸送デバイス表面に、高熱源から伝達する熱を、赤外、遠赤外線として効率よく放射するマイクロ/ナノ構造を作製する。
また、比較的低温の高熱源(エミッター)からも気体・真空を介して、熱輻射伝熱により対面する対象物に熱輸送する。
この熱輻射により、高熱源に接着、接合した熱輸送デバイスの表面温度を低減する。
【0015】
熱対流伝熱では、自然空冷あるいは強制空冷条件下でも、熱輸送デバイスを介して、迅速に伝熱面の表面温度を低下させる。
銅、アルミニウムなどの高伝熱伝導率を有する金属面よりも抜熱速度を向上させる。
【0016】
沸騰伝熱では、沸騰開始過熱度を低下させ、早期から発泡を促進することで、より高い熱流束での抜熱を行う。
過熱度のわずかな増加でも熱流束を増大させ、熱輸送デバイスの表面温度を低下させ、高熱源からの熱伝達を効率化する。
さらに、限界熱流束をも高める。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、この発明に係る第1の熱輸送デバイスは、熱源に密着配置される基材と、基材の表面に形成されたユニットセルとを備え、ユニットセルが、基板上に金属製の複数の凸状(凸型)セルを規則的に配列させたものよりなり、各凸状セルの高さHが、0.35μm~50μmの条件を満たすことを特徴としている。
この第1の熱輸送デバイスの凸状セルは、さらに以下の条件を満たすことが望ましい。
底部幅B:0.175μm~25μm
凸状セル間の間隔D:0.49μm~50μm
【0018】
また、この発明に係る第2の熱輸送デバイスは、熱源に密着配置される基材と、基材の表面に形成されたユニットセルとを備え、ユニットセルが、基板上に金属製の複数の凸状セルを準規則的に配列させたものよりなり、各凸状セルが以下の条件を満たすことを特徴としている。
平均高さHave:0.35μm~50μm
高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
この第2の熱輸送デバイスの凸状セルは、さらに以下の条件を満たすことが望ましい。
平均底部幅Bave:0.175μm~25μm
底部幅偏差Bdev:平均底部幅Bの50%以内
凸状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
凸状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
【0019】
この発明に係る第3の熱輸送デバイスは、熱源に密着配置される基材と、基材の表面に密着配置された金属製のユニットセルとを備え、ユニットセルの表面には、複数の凹状(凹型)セルが規則的に配列されており、各凹状セルの高さHが、0.35μm~50μmの条件を満たすことを特徴としている。
この第3の熱輸送デバイスの凹状セルは、さらに以下の条件を満たすことが望ましい。
底部幅B:0.175μm~25μm
凹状セル間の間隔D:0.49μm~50μm
【0020】
この発明に係る第4の熱輸送デバイスは、熱源に密着配置される基材と、基材の表面に密着配置された金属製のユニットセルとを備え、ユニットセルの表面には、複数の凹状セルが準規則的に配列されており、各凹状セルが以下の条件を満たすことを特徴としている。
平均高さHave:0.35μm~50μm
高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
この第4の熱輸送デバイスの凹状セルは、さらに以下の条件を満たすことが望ましい。
平均底部幅Bave:0.175μm~25μm
底部幅偏差Bdev:平均底部幅Bの50%以内
凹状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
凹状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
【0021】
上記の各凸状セルまたは凹状セルの表面に、複数の微細な凸状セルまたは凹状セルを形成することもできる。
また、上記基材として管状体を採用し、上記ユニットセルを当該管状体の外周面または内周面に形成するように構成することもできる。
さらに、上記基材とユニットセルを、同一素材により一体的に形成することもできる。
【発明の効果】
【0022】
この発明に係る熱輸送デバイスは上記の形状・寸法条件を満たすマイクロ構造の凸状セルあるいは凹状セルを表面に多数備えているため、熱源から伝導した熱を熱輻射伝熱、熱対流伝熱、沸騰伝熱を介して効率的に輸送することができる。
また、凸状セル及び凹状セルは金属材よりなるため、高い耐久性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明に係る第1の熱輸送デバイスを示す斜視図及び側面図である。
図2】基材の金属候補、ポリマー候補、セラミックス&無機物候補、及びセルの金属候補を例示する表である。
図3】第1の熱輸送デバイスを熱輻射伝熱に用いる例を示す模式図である。
図4】第1の熱輸送デバイスを熱対流伝熱に用いる例を示す模式図である。
図5】第1の熱輸送デバイスを沸騰伝熱に用いる例を示す模式図である。
図6】セル形状のバリエーションを例示する図である。
図7】円柱形状の凸状セルを銅シート材上に規則的に配列した例を示すSEM像である。
図8】この発明に係る第2の熱輸送デバイスを示す斜視図及び側面図である。
図9】第2の熱輸送デバイスの凸状セルの高さ分布を示すSEM像である。
図10】SEM像上で、第2の熱輸送デバイスの第2のユニットセルを、各凸状セルを囲繞する複数の領域に区画する様子を示す図である。
図11】各領域の近似楕円の中心座標をプロットすることにより、凸状セル間のピッチを算出する様子を示す図である。
図12】各凸状セルの高さを算出する手順を示す図である。
図13】第2の熱輸送デバイスに含まれる凸状セルの底部幅、凸状セル間の間隔、高さの統計分布を示す図である。
図14】基材として銅シート材を用い、その表面に複数の凸状セルを準規則配列させた第2の熱輸送デバイスを示す平面写真である。
図15】第2の熱輸送デバイスの凸状セルを示すSEM像である。
図16】基材としてステンレス鋼板を用い、その表面に複数の凸状セルを準規則配列させた第2の熱輸送デバイスを示す平面写真である。
図17】基材として銅パイプを用い、その内周面に複数の凸状セルを準規則配列させた第2の熱輸送デバイスの断面を示す写真である。
図18】第2の熱輸送デバイスの赤外分光測定の実験装置を示す図である。
図19】第2の熱輸送デバイスの赤外分光測定の結果を示すグラフである。
図20】第2の熱輸送デバイスの熱輻射伝熱の実験装置を示す図である。
図21】第2の熱輸送デバイスの熱輻射伝熱の実験結果を示す図である。
図22】第2の熱輸送デバイスの熱輻射伝熱の実験結果を示すグラフである。
図23】高熱源と熱伝導で連結した第2の熱輸送デバイスにおける表面温度の低下を示す図である。
図24】第2の熱輸送デバイスにおける強制空冷下での対流伝熱による温度変化を測定するための実験装置を示す図である。
図25】第2の熱輸送デバイスにおける強制空冷下での対流伝熱による温度変化の測定結果を示すグラフである。
図26】第2の熱輸送デバイスによる沸騰曲線を測定するための実験装置を示す図である。
図27】第2の熱輸送デバイスによる沸騰曲線の測定結果を示すグラフである。
図28】この発明に係る第3の熱輸送デバイスを示す斜視図及び断面図である。
図29】この発明に係る第4の熱輸送デバイスを示す斜視図及び断面図である。
図30】この発明に係る第5の熱輸送デバイスを示す断面図である。
図31】この発明に係る第6の熱輸送デバイスを示す断面図である。
図32】この発明に係る熱輸送デバイスの表面特性を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1に示すように、この発明に係る第1の熱輸送デバイス10は、平板状の基材12と、基材12の表面に形成された第1のユニットセル14よりなる。
【0025】
基材12は、各種金属、ポリマー、セラミックス、無機物より構成される。
図2(a)に基材12の金属候補を、図2(b)にポリマー候補を、図2(c)にセラミックス&無機物候補を例示する。
この発明では、基材12の厚さが1mm未満の場合をシート材と、1mm以上の場合を板材と称する。
【0026】
第1のユニットセル14は、複数の凸状セル16より構成され、各凸状セル16は相互に一定の間隔をおいて縦横に規則的に配列されている。各凸状セル16の形状及び寸法も同一に形成されている。
凸状セル16は、例えば図2(d)に例示する金属材よりなる。
また各凸状セル16は、例えばレーザ加工、プレス加工、エッチング加工、ブラスト加工、メッキ加工等によって作成される。
【0027】
各凸状セル16は、以下の寸法条件を満たすように作成されている。
(1) 高さH:0.35μm~50μm
(2) 底部幅B:0.175~25μm
(3) 凸状セル間の間隔(ピッチ)D:0.49μm~50μm
ここで「高さH」は凸状セル16の下端から先端までの縦寸法を、「底部幅」は凸状セルの付け根部分の横寸法を指している。
【0028】
上記の寸法設定は、以下の考察から導かれている。
1)放射伝熱の視点から
赤外線も含め電磁波は、波長(λ)によって特性、挙動が変化する。その中で、λ>0.7μm以上が近赤外、λ>2μmが遠赤外となる。
放射伝熱では、近赤外、遠赤外が「熱輸送」に関与する。
赤外レンズも主として遠赤外線の光学特性が重要となる。
基材を伝導してきた熱が、マイクロテクスチュア(高さH)から電磁波として放射される条件は、λ>2Hであり、近赤外では、Hは0.35μm以上が必要であり、遠赤外では、Hは1μm以上が必要となる。
空気あるいは真空を伝搬してきた近赤外、遠赤外線に対して、デバイスの実効屈折率を変化させて、無反射特性(Anti-Reflection)を得るには、H>2λが第1条件として必要となる。特に遠赤外として対象とするλ=25μmまでを考慮すると、Hが50μm必要となる。
また、無反射特性獲得ではD<0.7 ×λが求められるため、近赤外線では、Dは0.49μm以下とならなければならない。
【0029】
2)対流伝熱の視点から
対流伝熱では、冷媒(空気、水ほか)の速度によって、デバイス表面に形成される粘性層の厚さ(y)が変化する。
対象としている対流伝熱では、レイノルズ数で10000以下の乱流対流伝熱までであるので、粘性層厚は最大10μmとなる。
H<yでは、デバイスのテクスチュアは、冷媒の流れには影響しない。
しかし抜熱量を制御するには、H>yを利用し、テクスチュアを伝導してきた熱と冷媒流れと干渉する領域を利用する必要があり、H=50μmは必要となる。
テクスチュアでは、H/B、D/B比も重要で、H/B>2、D/B>2が低圧損で熱伝達向上に必要となる。Hが0.35μm以上、50μm以下とすると、Bは0.175μmから25μm、Dも0.49μmから50μmとなる。
【0030】
図3に示すように、第1の熱輸送デバイス10は熱輻射伝熱に用いることができる。
すなわち、高熱源18上に第1の熱輸送デバイス10を接合、接着し、気体あるいは真空を介して熱放射伝熱し、輻射対象物を加熱することで、長距離の熱輸送を行う。
特に、第1の熱輸送デバイス10の凸状セル16の形状、寸法および配列を変化させて吸収・放射する赤外・遠赤外線波長領域を制御することで、用途に適した熱輻射機構を具現化する。
この熱輻射に伴い、高熱源18の温度が一定の場合、第1の熱輸送デバイス10の温度を低減させる。
【0031】
図4に示すように、第1の熱輸送デバイス10を熱対流伝熱に用いることもできる。
高熱源18上あるいは高熱源18と熱伝導状態にある面に第1の熱輸送デバイス10を接合、接着し、冷媒として作用する液体あるいは気体に熱対流伝熱することで、第1の熱輸送デバイス10のない場合と比較して、より急速により大きな温度低下を伴う抜熱挙動を実現する。
特に、第1の熱輸送デバイス10を介しての熱透過率(K)および圧損(p)を、凸状セル16の形状・寸法および配列を変化させることにより、それぞれを増加または減少させることができる。
【0032】
図5に示すように、第1の熱輸送デバイス10を沸騰伝熱に用いることもできる。
高熱源18上あるいは高熱源18と熱伝導状態にある面に第1の熱輸送デバイス10を接合、接着し、冷媒として作用する液体に沸騰伝熱することで、液体の相変化に伴う発泡を活性化させ、より低い過熱度での沸騰伝熱開始、急峻な熱流束増大および限界熱流束を超える抜熱状態を発現する。
特に、発泡開始過熱度(ΔTi)、過熱度に対する熱流束増加率(q/ΔT)および限界熱流束(qc)を、第1の熱輸送デバイス10のユニットセル形状、寸法および配列を変化させて、それぞれ減少または増加・増大させる。
【0033】
図1、及び図3図5においては円錐台形状の凸状セル16が示されているが、凸状セル16の形状に限定はなく、図6に示すように、角柱形状、円柱形状、円錐形状、先丸円錐形状、角錐形状、多角錐形状、角錐台形状、多角錐台形状、方尖塔形状、円尖塔形状など様々な形状を採り得る。
図7(a)は、円柱形状の凸状セル16を銅シート材よりなる基材12上に規則的に配列した例を示すSEM像であり、同図(b)は一つの凸状セル16を拡大したものである。
【0034】
上記においては、形状・寸法の揃った凸状セル16を等間隔で規則的に配列させる例を示したが、この発明はこれに限定されるものではなく、所定の範囲内で形状・寸法や間隔を変化させた凸状セル16を備えたユニットセルを用いることもできる。
すなわち、図8に示すように、この発明に係る第2の熱輸送デバイス20は、平板状の基材12と、基材12の表面に形成された第2のユニットセル24よりなり、第2のユニットセル24は形状・寸法の異なる円錐台形状の凸状セル16を複数備えている。各凸状セル16間の間隔も一定ではない。
凸状セル16は、例えば図2(d)に例示する金属材よりなる。
また各凸状セル16は、例えばレーザ加工、プレス加工、エッチング加工、ブラスト加工、メッキ加工等によって作成される。
【0035】
各凸状セル16は、以下の寸法条件を満たすように作成されている。
(1) 平均高さHave:0.35μm~50μm
(2) 高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
(3) 平均底部幅Bave:0.175μm~25μm
(4) 底部幅偏差Bdev:平均底部幅Baveの50%以内
(5) 隣接する凸状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
(6) 隣接する凸状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
このように各凸状セル16の形状・寸法や間隔が同一ではないが、変化の幅が所定の範囲内に収まっていることを「準規則配列」と定義する。
上記H、B、Dの偏差をそれぞれの平均値に対して50%以内とすることにより、全体頻度の66%が入る「標準偏差」をばらつきの許容範囲としている。
【0036】
図9は、銅シート材よりなる基材12上に、略円錐形状の凸状セル16をメッキ加工によって複数形成した第2の熱輸送デバイス20の一部領域のSEM像であり、多数の凸状セル16が準規則的に配列されている様子が示されている。
【0037】
図10に示すように、上記SEM像は所定の画像処理プログラム(例えば「ImageJ」)によって各凸状セル16を囲む複数の領域26に区画され、各領域26に連番が割り振られる。この後、画像処理プログラムによって各領域26に最もフィットする近似楕円が生成され、各楕円の寸法に基づいて凸状セル16の底部幅が算出される。
また図11に示すように、上記画像プログラム上で各領域の近似楕円の中心座標をプロットすることにより、凸状セル16間のピッチが算出される。
【0038】
各凸状セル16の高さについては、以下の手順により求められる。
まず、図12 (a)に示すように、SEMで0°(真上から見た)の画像を取得した後、図12(b)に示すように、同じ領域をSEMで30°傾けて各凸状セル16をSEM上で測長する。
つぎに、測長した高さと同図(a)の画像の凸状セル16の頂点位置のグレースケール(8ビットの値)の値から明るさに応じた高さの値を換算して、SEM画像の全領域内の針の高さ分布を算出する。
【0039】
図13(a)は、この第2のユニットセル24に含まれる各凸状セル16の底部幅の統計分布を示すものであり、図13(b)は各凸状セル16間の間隔の統計分布を、図13(c)は各凸状セル16の高さの統計分布を示すものである。
この第2の熱輸送デバイス20のテクスチュア寸法は以下の通りであり、上記に定義した準規則配列の条件を満たしている。
平均高さHave=3.0 μm
高さ偏差Hdev=+0.8μm, -0.9μm
平均底部幅Bave=2μm
底部幅偏差Bdev=+2.5μm, -1.5μm
平均ピッチDave=2.25μm
ピッチ偏差Ddev=+1.5μm, -1.5μm
【0040】
基材12の熱伝導性を活用するには、銅シート材・板材あるいはアルミニウムシート材・板材を基材12として利用した熱輸送デバイスが適している。
図14に、基材12として銅シート材を用い、その表面に複数の凸状セル16をメッキにより準規則配列させた第2の熱輸送デバイス20を示す。図示の通り、肉眼では一面黒色に見える。
【0041】
図15(a)は、この第2の熱輸送デバイス20の表面SEM像を示しており、複数の凸状セル16が以下に示す平均寸法を備えている。
平均高さHave=3.8 μm
平均底部幅Bave=2μm
平均ピッチDave=3μm
【0042】
また、図15(b)はより小さな寸法の凸状セル16が準規則的に配列された第2の熱輸送デバイス20の表面SEM像を示しており、複数の凸状セル16が以下に示す平均寸法を備えている。
平均高さHave=1.2 μm
平均底部幅Bave=0.8μm
平均ピッチDave=0.9μm
【0043】
このように、第2のユニットセル24を構成する凸状セル16の高さ、底部幅、間隔を設計、制御することで、伝熱機構に応じた表面テクスチュアをもつ第2の熱輸送デバイス20を製作できる。
熱伝導率と板厚で決まる熱ギャップコンダクタンスを介して、製品表面に第2の熱輸送デバイス20を接着・接合することで、熱対流伝熱、熱輻射伝熱及び沸騰伝熱に供することができる。
【0044】
この発明に係る熱輸送デバイスの特徴は、実験室規模の小面積シート・板材からメートル級の大面積シート・板材まで、抜熱・冷却に要する面積に応じたデバイスを供給できることにある。
図16には、A4版大のステンレス鋼板よりなる基材12上に、凸状セル16を準規則的に創成した第2の熱輸送デバイス20の事例が示されている。
ステンレス鋼よりなる基材12の表面に形成する凸状セル16の配列を設計、制御することで、伝熱機構に適った第2の熱輸送デバイス20を設計できる。
【0045】
図17に示すように、高熱伝導性を有する銅、アルミのパイプを基材12として用い、その内面に凸状セル16を規則的あるいは準規則的に形成することにより、パイプ型の熱輸送デバイスとすることもできる。
この場合も、熱輸送デバイスのテクスチュアは、用途に応じたユニットセル形状、寸法および配列を設計、製作できる。
基材12としての銅やアルミ製パイプの外面に、凸状セルを規則的あるいは準規則的に形成し、パイプ型の熱輸送デバイスとすることもできる。
【0046】
[熱輸送デバイスによる赤外・遠赤外放射]
熱輻射伝熱における熱輸送デバイスでは、赤色-赤外-遠赤外の電磁波の波長が熱輸送デバイス表面のマイクロ・ナノテクスチュアと同等の寸法になると、その空間周波数(以下、λで表す)あるいはその波数(周波数の逆数:以下、Λで表す)帯に対応する赤色-赤外-遠赤外線を吸収、放射する。
そこで、図9に示した第2の熱輸送デバイス20の赤外分光測定(FT-IR:Fast Transform-Infrared)を行い、赤色-赤外-遠赤外線の周波数領域での電磁波透過率を求めた。
図18(a)は測定法の模式図であり、図18(b)は実際の測定装置の外観を、また図18(c)は測定装置の要部を示している。
【0047】
図19に、第2の熱輸送デバイス20の透過率分布を示す。
顕著な透過率低下、言い換えれば、顕著な吸収ピークが2つ、Λ=1500 cm-1と1700 cm-1あるいはλ= 6.67μmと5.90μmを中心に観察される。
この赤外吸収は、第2の熱輸送デバイス20の低部を節に、その表面を腹とする共鳴によって生じることから、凸状セル16の高さの倍の波長と対応する。
平均ユニットセル高さがHave= 3.7μmであることから、熱輸送デバイスによる赤外吸収ピーク波長は、7.2μmとなり実測値と同等であることが示された。
なお、図19で吸収ピークがブロードとなるのは、第2のユニットセル24に含まれる凸状セル16の高さの分散(Hdev)ならびに準規則配列による分散性に起因する。
【0048】
[熱輸送デバイスによる空気を介した熱輻射伝熱]
熱輻射伝熱は、気体の対流なしに対象物への熱輸送を可能とする。
ここでは、一定温度に加熱した高熱源上に熱輸送デバイスを設置し、空気対流影響を最小限とした環境での熱輻射伝熱実験を行った。
図20(a)は測定法の模式図であり、図20(b)は実際の測定装置の外観を示している。
この実験では、図20(a)に示すように、100℃に一定加熱したホットプレートの表面に第2の熱輸送デバイス20を設置し、加熱面から150mm離れた位置に厚さ2mmの黒色のポリカーボネート板(PC-板)を置き、サーモグラフィーによりポリカーボネート板の上面の温度変化を測定した。
【0049】
まず銅シート材のみからなる試料を設置し、黒色の遮蔽布によるノイズの除去、遮蔽布に沿った空気強制流入により対流伝熱で加熱された空気を除去し、600s経過後もポリカーボネート板上面の温度上昇が生じないことを確認した。
次に十分な冷却後、100℃に一定加熱したホットプレート表面に第2の熱輸送デバイス20を設置し、ポリカーボネート板の上面における温度変化を測定した。
図21に示すように、ポリカーボネート板の上面温度は、中心部分から同心状に拡散し、次第に上表面全体が一定温度まで上昇することを確認した。
図22に示すように、温度は時間とともに単調に上昇し、この実験条件では、約4℃の温度上昇を確認した。
【0050】
[高熱源と熱伝導で連結した熱輸送デバイスにおける表面温度の低下]
高熱源にシート材の熱伝導を介して連結した第2の熱輸送デバイス20では、その表面からの輻射伝熱、対流伝熱により、表面温度は高熱源温度よりも低下する。
ここでは、図23に示すように、100℃に保持したホットプレート上に第2の熱輸送デバイス20を置き、その表面に焦点を合わせてサーモグラフィーで温度分布を実測した。
なお、サーモグラフィーでホットプレート温度を測定し、別途熱電対でも温度を実測し、100℃を事前に確認している。
図示の通り、ホットプレートの表面温度は100℃であるのに対して、第2の熱輸送デバイス20は熱輻射と熱対流により空気中に熱拡散しているため、その表面温度は50℃まで低減している。
【0051】
[熱輸送デバイスによる強制空冷下における対流伝熱]
高熱源から空気などの気体あるいは水などの液体を介して、対流により熱伝達することで、その表面温度は低下する。
ここでは、図24に示すように、50℃に保持したホットプレート上に第2の熱輸送デバイス20を置き、その表面に焦点を合わせ、エアノズルからの空気送出による強制空冷条件下において、サーモグラフィーで表面温度の時間変化を測定した。
【0052】
図25において、同一条件で実験、測定した対流伝熱による冷却応答を、銅シート材のみの場合と比較した。
対流伝熱による冷却速度は、第2の熱輸送デバイス20により加速し、10秒後の表面温度は、銅シート材のみでは42.3℃で7.7℃の低下に留まるのに対して、熱輸送デバイスでは10秒後に40.8℃となり、9.2℃も低下している。
【0053】
[熱輸送デバイスによる沸騰曲線制御]
沸騰伝熱は、冷却水などの液相から、蒸気などの気相への相変態を伴う伝熱であり、高い熱流束を達成する伝熱機構として広く利用されている。
その際の熱工学指針となるのが、熱流束の過熱度にともなう線図、すなわち沸騰曲線である。
脱気した純水に対して過熱度を上昇させると、純水単相で自然対流(あるいは強制対流)伝熱していた状態が、加熱面上に発生する気泡(相変態した水蒸気)を伴う2相状態に変化し、熱対流による熱流束は過熱度に対して急峻に上昇する。
さらに過熱度を増加させると発泡密度は増大、合体し、膜状に水蒸気が加熱面を覆う過熱度で熱流束が最大となる(この時の熱流速が限界熱流束となる)。
これ以上の過熱度拡大は、加熱面を構成する材料温度の急速な上昇(バーンアウト)を伴うため、この過熱度と限界熱流束が、沸騰伝熱機構の限界を規定する。
【0054】
ここでは、図26(a)の実験系を用い、チャネルを流れる冷却水の速度(以下、レイノルズ数:Reと呼ぶ)をパラメータとして、過熱度増加に伴う熱流束をビデオ観測を通じて測定し、各レイノルズ数での沸騰曲線を求めた。
図26(b)に示すように、銅ブロックの先端の表面に第2の熱輸送デバイス20を直接、接着接合した。
【0055】
図27において、銅ブロックのみの沸騰曲線と第2の熱輸送デバイス20の沸騰曲線と比較する。
銅ブロックのみでは、レイノルズ数に拘らず、ほぼ一定の沸騰曲線となる。これは、沸騰伝熱現象と冷却水流れとは独立した事象であるという従前の熱工学の定説に合致する。
一方、第2の熱輸送デバイス20を用いた場合、冷却水のレイノルズ数増加に伴い、沸騰曲線はより低い過熱度で急峻に立ち上がり、高い熱流束増加を実現している。
【0056】
すなわち、レイノルズ数増加により、自然対流(あるいは強制対流)による伝熱機構は、より低い過熱度で沸騰伝熱に遷移し、数℃の過熱度増加で発泡が活性化した沸騰伝熱状態となり、限界熱流束も銅ブロックのみのそれよりも大きくなる。
このことは、第2の熱輸送デバイス20の形状効果により、デバイス表面での伝熱機構と冷却水の流れとが連成し、低い過熱度での沸騰伝熱機構が実現することを示している。
【0057】
上記においては、基材12の表面に複数の凸状セル16を規則的または準規則的に立設・配置した熱輸送デバイスについて説明したが、この発明はこれに限定されるものではない。
すなわち、図28に示すように、この発明に係る第3の熱輸送デバイス30は、基材12の表面に、同一の形状・寸法を備えた複数の凹状セル32を縦横に等間隔で規則的に配列した平板状の第3のユニットセル34を形成している。
【0058】
基材12の素材としては、図2(a)~図2(c)の表に記載した物質が適用できる。
また、第3のユニットセル34の素材としては、図2(d)の表に記載した金属材が適用できる。
基材12と第3のユニットセル34を同一の素材(例えば銅)より構成する場合には、両者を別体とする必要はなく、基材及びユニットセル兼用の板材に複数の凹状セル32を形成することにより、第3の熱輸送デバイス30となすこともできる。
あるいは第3のユニットセル34を管状に形成し、その内周面あるいは外周面に凹状セル32を規則的に複数形成することにより、第3の熱輸送デバイス30となすこともできる。
【0059】
凹状セル32の形状としても、図28(b)に示した逆円錐台形状に限定されるものではなく、図6に示した各種形状を採用できる。
また、各凹状セル32は、以下の寸法条件を満たすように作成されている。
(1) 高さ(深さ)H:0.35μm~50μm
(2) 底部幅(開口径)B:0.175μm~25μm
(3) 凹状セル間の間隔D:0.49μm~50μm
各凹状セル32は、例えばレーザ加工、プレス加工、エッチング加工、ブラスト加工、メッキ加工等によって作成される。
【0060】
上記においては、形状・寸法の揃った凹状セル32を等間隔で規則的に配列させる例を示したが、この発明はこれに限定されるものではなく、所定の範囲内で形状・寸法や間隔を変化させた凹状セル32を備えたユニットセルを用いることもできる。
すなわち、図29に示すように、この発明に係る第4の熱輸送デバイス40は、平板状の基材12と、基材12の表面に形成された第4のユニットセル42よりなり、第4のユニットセル42は形状・寸法の異なる逆円錐台形状の凹状セル32を複数備えている。各凹状セル32間の間隔も一定ではない。
【0061】
基材12の素材としては、図2(a)~図2(c)の表に記載した物質が適用できる。
また、第4のユニットセル42の素材としては、図2(d)の表に記載した金属材が適用できる。
基材12と第4のユニットセル42を同一の素材(例えば銅)より構成する場合には、両者を別体とする必要はなく、基材及びユニットセル兼用の板材に複数の凹状セル32を形成することにより、第4の熱輸送デバイス40となすこともできる。
あるいは第4のユニットセル42を管状に形成し、その内周面あるいは外周面に凹状セル32を準規則的に複数形成することにより、第4の熱輸送デバイス40となすこともできる。
【0062】
凹状セル32の形状としても、図29(b)に示した逆円錐台形状に限定されるものではなく、図6に示した各種形状を採用できる。
また、各凹状セル32は、以下の寸法条件を満たすように作成されている。
(1) 平均高さ(深さ)Have:0.35μm~50μm
(2) 高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
(3) 平均底部幅(開口径)Bave:0.175μm~25μm
(4) 底部幅偏差Bdev:平均底部幅Baveの50%以内
(5) 隣接する凹状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
(6) 隣接する凹状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
上記凹状セル32は、例えばレーザ加工、プレス加工、エッチング加工、ブラスト加工、メッキ加工等によって作成される。
【0063】
図30は、この発明に係る第5の熱輸送デバイス50を示すものであり、基材12と、その表面に形成された第5のユニットセル52からなり、第5のユニットセル52は、比較的大きなサイズ(例えば高さH:10μm)の複数の第1の凸状セル16と、第1の凸状セル16の表面及び基材12の表面に形成された、より微細なサイズ(例えば高さH: 1μm)の複数の第2の凸状セル54を備えている。
第1の凸状セル16は、例えばレーザ加工、プレス加工、エッチング加工により形成され、第2の凸状セル54は、例えばめっき加工やエッチング加工によって形成される。
【0064】
第1の凸状セル16及び第2の凸状セル54は、規則的配列及び準規則的配列の何れであってもよい。また、少なくとも第1の凸状セル16については、その高さH、底部幅B、ピッチDに係る上記の各条件がそれぞれ適用される。
【0065】
図31は、この発明に係る第6の熱輸送デバイス60を示すものであり、基材12及びその表面に配置された第6のユニットセル62を備えている。
第6のユニットセル62には、比較的大きなサイズ(例えば高さH:10μm)の第1の凹状セル32が複数形成されると共に、各第1の凹状セル32の内面には、より微細なサイズ(例えば高さH:1μm)の第2の凹状セル64が複数形成されている。
第1の凹状セル32は、例えばレーザ加工、プレス加工、エッチング加工により形成され、第2の凹状セル64は、例えばめっき加工やエッチング加工によって形成される。
【0066】
第1の凹状セル32及び第2の凹状セル64は、規則的配列及び準規則的配列の何れであってもよい。また、少なくとも第1の凹状セル32については、その高さH、底部幅B、ピッチDに係る上記の各条件がそれぞれ適用される。
【0067】
図示は省略したが、第1の凸状セル16及び基材12の表面に、より微細な複数の第2の凹状セル64を複数形成することにより、熱輸送デバイスを構成することもできる。
あるいは、第1の凹状セル16の内面に、より微細な複数の第2の凸状セル54を複数形成することにより、熱輸送デバイスを構成することもできる。
【0068】
[熱輸送デバイスの表面特性]
シート材・板材・パイプ材よりなる基材12の表面に、上記の凸状セル16あるいは凹状セル32を備えたユニットセルを形成することで、それらの表面特性を変化させることができる。
【0069】
例えば、銅材のみの場合、純水への接触角度は40~60度程度であるに対して、凸状セル16を備えた第2のユニットセル24を銅よりなる基材12に接着接合した場合、図32(a)のように、接触角度は10~20度あるいはそれ以下に低下する。
すなわち、凸状セル16を備えた熱輸送デバイスは、親水性を助長する機能を発揮する。
【0070】
一方、凹状セル32を備えた第4のユニットセル42をアルミニウムよりなる基材12材に接着接合した場合、図32(b)のように、接触角度は90度以上となる。
すなわち、凹状セル32を備えた熱輸送デバイスは、元々親水性を備えた素材の表面を撥水化させる機能を発揮する。
【0071】
これらのことは、純水を含む液体あるいは溶融体に対しても、当該熱輸送デバイスの表面プロファイルの設計により、その表面特性を制御できることを示している。
【符号の説明】
【0072】
10 第1の熱輸送デバイス
12 基材
14 第1のユニットセル
16 凸状セル(第1の凸状セル)
18 高熱源
20 第2の熱輸送デバイス
24 第2のユニットセル
26 領域
30 第3の熱輸送デバイス
32 凹状セル(第1の凹状セル)
34 第3のユニットセル
40 第4の熱輸送デバイス
42 第4のユニットセル
50 第5の熱輸送デバイス
52 第5のユニットセル
54 第2の凸状セル
60 第6の熱輸送デバイス
62 第6のユニットセル
64 第2の凹状セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
【手続補正書】
【提出日】2024-02-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源に密着配置される基材と、
基材の表面に形成されたユニットセルとを備え、
ユニットセルが、基材上に金属製の複数の凸状セルを準規則的に配列させたものよりなり、
各凸状セルが、以下の条件を満たすことを特徴とする熱輸送デバイス。
平均高さHave:0.35μm~50μm
高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
【請求項2】
上記凸状セルが、さらに以下の条件を満たすことを特徴とする請求項に記載の熱輸送デバイス。
平均底部幅Bave:0.175μm~25μm
底部幅偏差Bdev:平均底部幅Baveの50%以内
凸状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
凸状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
【請求項3】
熱源に密着配置される基材と、
基材の表面に密着配置された金属製のユニットセルとを備え、
ユニットセルの表面には、複数の凹状セルが準規則的に配列されており、
各凹状セルが以下の条件を満たすことを特徴とする熱輸送デバイス。
平均高さHave:0.35μm~50μm
高さ偏差Hdev:平均高さHaveの50%以内
【請求項4】
上記凹状セルが、さらに以下の条件を満たすことを特徴とする請求項に記載の熱輸送デバイス。
平均底部幅Bave:0.175μm~25μm
底部幅偏差Bdev:平均底部幅Baveの50%以内
凹状セル間の平均間隔Dave:0.49μm~50μm
凹状セル間の間隔偏差Ddev:平均間隔Daveの50%以内
【請求項5】
各凸状セルの表面に、複数の微細な凸状セルまたは凹状セルが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱輸送デバイス。
【請求項6】
各凹状セルの表面に複数の微細な凸状セルまたは凹状セルが形成されていることを特徴とする請求項3または4に記載の熱輸送デバイス。
【請求項7】
基材が管状体よりなり、
ユニットセルが上記管状体の外周面または内周面に形成されることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の熱輸送デバイス。
【請求項8】
上記基材とユニットセルが同一素材により一体的に形成されていることを特徴とする請求項1~の何れかに記載の熱輸送デバイス。