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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144838
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】延伸フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056979
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹原 一芳
(72)【発明者】
【氏名】森 恵一
(72)【発明者】
【氏名】大島 滉主
【テーマコード(参考)】
4F071
【Fターム(参考)】
4F071AA15
4F071AA81
4F071AA82
4F071AA84A
4F071AF08Y
4F071AF15Y
4F071AH04
4F071BA01
4F071BB04
4F071BB07
4F071BC01
4F071BC12
(57)【要約】
【課題】水蒸気バリア性とリサイクル性に優れた延伸フィルムを提供することを目的とする。
【解決手段】延伸フィルムは、粘度平均分子量(Mv)が50万~300万である超高分子量ポリエチレンを主成分とし、50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・day以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度平均分子量(Mv)が50万~300万である超高分子量ポリエチレンを主成分とする延伸フィルムであって、
50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・day以下である
ことを特徴とする延伸フィルム。
【請求項2】
前記粘度平均分子量(Mv)が100万~250万であり、
前記50μmあたりの水蒸気透過度が1.00g/m・day以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の延伸フィルム。
【請求項3】
前記粘度平均分子量(Mv)が150万~200万であり、
前記50μmあたりの水蒸気透過度が0.50g/m・day以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の延伸フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超高分子量を有するポリエチレンを主成分とする原料により形成された原反フィルムである超高分子量ポリエチレンフィルム(以下、単に「ポリエチレンフィルム」という場合がある。)を延伸することにより得られる延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、パウチ等に用いられる包装フィルムとしては、例えば、樹脂材料により構成されたベースフィルムと、ベースフィルムを構成する樹脂材料とは異なる材料により構成されたシーラントフィルムとが積層された積層体が採用されている。
【0003】
ここで、プラスチック全般に環境負荷の低減が求められており、包装フィルムにおいてもリサイクル性が求められているが、上述の異種材料からなるフィルムが積層された積層体の場合、材料の分離が難しいため、リサイクルが困難になるという問題があった。
【0004】
そこで、近年、包装フィルムを単一素材化するモノマテリアル化の動きが活発になっている。モノマテリアルである包装フィルムに使用される樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられ、このうち、ポリエチレンは、既存の包装フィルムにおいて最も使用率が高く、特にモノマテリアル化が求められている素材である。
【0005】
このポリエチレンが使用されている包装フィルムとしては、例えば、ベースフィルムと、シーラントフィルムとを備え、ベースフィルムとシーラントフィルムがポリエチレンから構成され、ベースフィルムに延伸処理が施されている積層体が提案されている。そして、このような構成により、ベースフィルムとシーラントフィルムを同一の材料により構成することができるため、積層体のリサイクル性を向上することができると記載されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-171860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、被包装物が医薬品や食品である場合、包装フィルムには水蒸気バリア性が求められており、上記特許文献1に記載の延伸フィルムにおいては、ベースフィルムを構成する樹脂として、0.945g/cm以上の密度を有する高密度ポリエチレンが使用されているが、当該ベースフィルムでは、水蒸気バリア性が不十分であるため、ベースフィルムを構成するポリエチレンとは異なる材料により構成されたバリアコート層を設ける必要がある。従って、リサイクル性が低下するため、水蒸気バリア性とリサイクル性を両立させることが困難であるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、水蒸気バリア性とリサイクル性に優れた延伸フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の延伸フィルムは、粘度平均分子量(Mv)が50万~300万である超高分子量ポリエチレンを主成分とする延伸フィルムであって、50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・day以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水蒸気バリア性とリサイクル性に優れた延伸フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係る延伸フィルムを使用した積層体を説明するための断面図である。
図2】本発明に係る(実施例1に係る)延伸フィルムのDSCチャートにおける吸熱ピークを説明するための図である。
図3】本発明に係る延伸フィルムを使用した積層体を説明するための平面図である。
図4】本発明に係る超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを製造するための装置を示す概略図である。
図5】実施例8における延伸フィルムのDSCチャートである。
図6】比較例9における延伸フィルムのDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の延伸フィルムについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して適用することができる。
【0013】
本発明の延伸フィルムは、固体粉末の超高分子量ポリエチレンを主成分とする超高分子量ポリエチレンフィルムを延伸して得られる延伸フィルムである。
【0014】
図1は、本発明の延伸フィルムを使用した積層体を示す断面図である。
【0015】
積層体1は、ベースフィルムとなる本発明の延伸フィルム3と、延伸フィルム3に積層されたシーラントフィルム2とを備えている。
【0016】
<シーラントフィルム>
本発明のシーラントフィルム2は、モノマテリアルの観点から、ポリエチレン系樹脂が好ましい。より具体的には、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖上低密度ポリエチレン(LLDPE)などが挙げられる。
【0017】
なお、ヒートシール性を向上させるとの観点から、ベースフィルムとの融点差を設けるために、ベースフィルムよりも融点の低い低密度ポリエチレン(LDPE)または直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
【0018】
また、シーラントフィルム2におけるポリエチレンの含有量は70%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0019】
また、シーラントフィルム2の厚みは、20μm~200μmであることが好ましく、30μm~150μmであることがより好ましい。
【0020】
また、シーラントフィルム2には、シーラントフィルム2の特性を損なわない範囲において、上述のポリエチレン系樹脂以外の他の成分が含有されていてもよい。
【0021】
他の成分としては、オレフィン系樹脂、アマイド系アンチブロッキング剤(ステアリン酸アマイド等)、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、着色剤、防曇剤、金属石鹸、ワックス、防カビ剤、抗菌剤、造核剤、難燃剤、滑剤等が挙げられる。
【0022】
<超高分子量ポリエチレン>
本発明の延伸フィルム3の主成分である超高分子量ポリエチレンは、固体粉末であり、粘度平均分子量(Mv)が50万~300万のものを使用することができる。これは、粘度平均分子量(Mv)が50万未満の場合は、後述の延伸処理の際に伸び切り鎖結晶が生成しないため、ポリエチレンの結晶化度が向上せず、水蒸気バリア性を向上させることが困難になる場合があるためである。また、粘度平均分子量(Mv)が300万よりも大きい場合は、溶融粘度が高過ぎるため、一般的なサイズのロールでは、固相ロール圧延による成形が困難になる場合があるためである。
【0023】
すなわち、粘度平均分子量(Mv)が50万~300万である固体粉末の超高分子量ポリエチレンを使用することにより、ロール圧延による成形性を確保することができるとともに、延伸処理の際に伸び切り鎖結晶が生成して、延伸フィルムの水蒸気バリア性を向上させることが可能になる。
【0024】
なお、超高分子量ポリエチレンとしては、例えば、ミペロンXM-220(三井化学社製、粘度平均分子量:200万)等の市販品を使用することができる。
【0025】
また、架橋剤や電子線照射等により架橋された架橋ポリエチレンや、50万~300万の粘度平均分子量に高分子量化されたもの(合成されたもの)を使用してもよい。
【0026】
なお、粘度平均分子量は、100万~250万が好ましく、150万~200万がより好ましい。
【0027】
また、上記「粘度平均分子量」とは、JIS K 7367-3:1999に準拠して算出されるものを言う。
【0028】
また、超高分子量ポリエチレンの密度は、0.930~0.950g/cmであり、0.945g/cm未満であることが好ましく、0.940g/cm未満であることがより好ましい。なお、超高分子量ポリエチレンは分子鎖が折りたたまれて結晶が形成される際、その高い分子量のため嵩高くなり、通常の高密度ポリエチレンに比し、形成される結晶量が少なくなるため、密度は低くなる。
【0029】
また、超高分子量ポリエチレンとしては、重合直後の固体粉末の融点が135℃~150℃の範囲のものが好ましく、137℃~150℃の範囲のものがより好ましく、140℃~150℃の範囲のものがさらにより好ましい。また、再結晶化後の融点については、130℃~140℃の範囲のものが好ましい。
【0030】
より具体的には、後述の超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン030S、粘度平均分子量:50万、密度:0.949g/cm)においては、固体粉末の融点が136.2℃であり、再結晶化後の融点が132.8℃である。
【0031】
また、後述の超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:115万、密度:0.940g/cm)においては、固体粉末の融点が138.4℃であり、再結晶化後の融点が132.5℃である。
【0032】
また、後述の超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ミペロンXM220、粘度平均分子量:200万、密度:0.938g/cm)においては、固体粉末の融点が140.3℃であり、再結晶化後の融点が132.7℃である。
【0033】
なお、上記「再結晶」とは、重合直後の高分子を融解させる際の昇温過程において結晶構造が変化することにより起こる現象であり、一度、再結晶化した結晶構造は、重合直後の状態には戻らない。
【0034】
また、上記「融点」とは、JIS K 7121:1987に準拠して測定されるものを言い、示差走査熱量計(DSC)により主吸熱ピークが現れる温度を測定することにより求められる。
【0035】
<他の成分>
本発明の延伸フィルムには、主成分である超高分子量ポリエチレンの他に、各種添加剤が含有されていてもよい。添加剤としては、延伸フィルムに通常用いられる公知の添加剤を用いることができ、例えば、ステアリン酸カルシウム(金属石鹸)、ステアリルアルコール、セリルアルコール等の高級脂肪族アルコール、n-デカン、n-ドデカン等のn-アルカン、流動パラフィン、灯油、パラフィンワックス等が挙げられる。なお、これらの添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
<延伸フィルム>
延伸フィルム3における超高分子量ポリエチレンと添加剤との配合比は、本発明の延伸フィルムの特徴を損なわない限り、特に制限はないが、添加剤に起因する延伸フィルムの機械的強度(引張強度)の低下を抑制するとの観点から、延伸フィルムの全体に対する超高分子量ポリエチレンの配合量が90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上がより好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。また、加工助剤等を含まない、超高分子量ポリエチレンのみ(すなわち、100質量%)からなる延伸フィルムも提供することができる。
【0037】
また、本発明の延伸フィルムにおいては、DSC測定において、137℃以上160℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有する。より具体的には、図2のDSCチャート(後述の実施例1における延伸フィルムのDSCチャート)に示すように、本発明の延伸フィルムは2つの吸熱ピークを有しており、137~145℃付近の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶(斜方晶)の融解ピークであり、150~160℃付近の吸熱ピークは伸び切り鎖結晶の転移(斜方晶→六方晶)ピークである。
【0038】
また、延伸前の固相ロール圧延フィルム(原反フィルム)は、図2のDSCチャート(後述の比較例1における原反フィルムのDSCチャート)に示すように、130~160℃の間に少なくとも2つの吸熱ピークを有しており、130~135℃付近の吸熱ピークはラメラ結晶の融解ピークである。
【0039】
伸び切り鎖結晶の融解熱量は、ラメラ結晶に比べて少量であるため、転移ピーク(150~155℃付近の吸熱ピーク)しか観測されない場合もある。
【0040】
そして、図2に示すDSCチャートにおいて、本発明の延伸フィルムは、137~145℃付近の伸び切り鎖結晶の融解ピークと150~155℃付近の伸び切り鎖結晶の転移ピークの2つの吸熱ピーク(すなわち、137℃以上160℃未満に少なくとも1つ以上の吸熱ピーク)を有することにより、延伸フィルムの結晶化度と密度が増加するため、水蒸気バリア性が発現しているものと考えられる。
【0041】
なお、上記「DSCチャート」とは、JIS K7121に準拠して測定されたものをいう。
【0042】
以上より、本発明においては、上述の粘度平均分子量(Mv)が50万~300万である超高分子量ポリエチレンを使用するとともに、上述の伸び切り鎖結晶により、水蒸気バリア性が発現し、延伸フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・day以下となるため、水蒸気バリア性とリサイクル性に優れた延伸フィルムを提供することが可能になる。
【0043】
なお、水蒸気バリア性を向上させるとの観点から、延伸フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度は2.00g/m・day以下が好ましく、1.00g/m・day以下がより好ましく、0.50g/m・day以下がさらに好ましい。
【0044】
また、ここでいう「水蒸気透過度」とは、水蒸気透過度測定機を用いて、JIS K 7129-1に準拠して、温度40℃および湿度90%の雰囲気下で測定されたものをいう。
【0045】
また、本発明の延伸フィルムにおいては、図3に示す、フィルムの機械軸(長手)方向(以下、「MD」という。)またはMDと直交する方向(以下、「TD」という。)のうち、少なくとも1方向における引張破断応力が200MPa以上であることが好ましい。引張破断応力が200MPa以上であれば、フィルムの配向が促進されて水蒸気バリア性が向上する。
【0046】
なお、フィルムの配向をさらに促進させるとの観点から、延伸フィルムの引張破断応力は300MPa以上がより好ましく、400MPa以上がさらに好ましい。
【0047】
また、上記「引張破断応力」とは、JIS K 7127に準拠して測定された応力のことを言う。
【0048】
また、本発明の延伸フィルムの厚みは、10~100μmが好ましく、15~80μmがより好ましく、20~50μmがさらに好ましい。厚みが10μm以下の場合は、延伸フィルムの強度と水蒸気バリア性が低下する場合があるためであり、厚みが100μmよりも大きい場合は、フィルムの剛性が大きくなるため、加工性が低下すとともに、コストが増大する場合があるためである。
【0049】
<延伸フィルムの製造方法>
次に、本発明の延伸フィルムの製造方法について、詳細に説明する。
【0050】
本発明の延伸フィルムは、まず、上述の粘度平均分子量50万~300万の超高分子量ポリエチレンを単独で、あるいは当該超高分子量ポリエチレンを上述の添加剤と混合した、超高分子量ポリエチレンを主成分とする原料を、固体粉末のままロール圧延機でフィルム状に成形して超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムを製造し、次に、この粘度平均分子量(Mv)が50万~300万である超高分子量ポリエチレンを主成分とする原反フィルムに対して延伸処理を行うことにより製造される。
【0051】
なお、本発明による超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムの製造方法は、加工助剤等を用いて後に除去する湿式法に対し、加工助剤等を使用しない、または後に加工助剤を除去する工程を備えていない乾式法によるフィルムの製造方法である。
【0052】
図4は、本実施形態に係る超高分子量ポリエチレンフィルムを製造するための装置(ロール圧延機)を示す概略図である。
【0053】
図4に示すように、ロール圧延機10は、原料供給機11において超高分子量ポリエチレンMの固体粉末を、原料供給機11の出口11aから、ロール圧延機を構成する一対のロール12,13の間に供給して、原料である超高分子量ポリエチレンMを挟圧し、一対のロール12,13の間を通過させてロールによるフィルム成形を行う。そして、フィルムを成形しながら、当該フィルムを、移送ロール4~7を介して、矢印Yの方向に搬送し、引取ロール8により、矢印Zの方向に引取ることにより、超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムPを得ることができる。
【0054】
なお、図1に示すように一対のロール12,13は、超高分子量ポリエチレンMの供給方向(図中の矢印Xの方向)に設けられるとともに、互いに対向して配置されている。また、一対のロール12,13は所定の間隔で離間して設けられている。
【0055】
また、一対のロール12,13、移送ロール4~7、及び引取ロール8としては、金属ロールやゴムロールを使用することができる。
【0056】
上記のロール圧延機によるフィルム成形の温度(フィルム成形時のロールの温度)に関しては、原料である超高分子量ポリエチレンの融点付近で加熱することが固相ロール圧延によるフィルム成形の特徴であり、ロール上に原料を残存させることなくフィルムを成形するために重要である。フィルム成形の温度は、超高分子量ポリエチレンの融点(超高分子量ポリエチレンの重合直後の個体粉末の融点)をMp[℃]とした場合、下限値としては、Mp-5℃以上の温度であることが必要である。また、上限値としては、Mp+10℃未満の範囲であることが必要である。これは、Mp+10℃よりも高い温度で成形すると、原料の凝集に起因してフィルムに穴が形成され、フィルム成形が困難になる場合があるためである。また、Mp-5℃よりも低い温度で成形すると、原料の粉末部分が残り、フィルム成形が困難になる場合がある。
【0057】
また、本発明においては、原料である超高分子量ポリエチレンを、ロール圧延機を構成する一対のロール12,13の間に通過させてロール成形を行うが、固相ロール圧延で個体粉末を圧着してフィルム状にするとの観点から、一対のロールを構成する2つのロール12,13のロール間線圧は4kg/cm以上300kg/cm以下が好ましく、4kg/cm以下がより好ましく、100kg/cm以下がさらに好ましい。
【0058】
また、ロール圧延速度は、ロール径が3インチの場合、0.1~3.0m/分の範囲に設定することが好ましい。これは、ロール圧延速度が3.0m/分を超えると、フィルムの破断が発生する場合があり、ロール圧延速度が0.1m/分未満の場合は、生産効率が低下する場合があるためである。
【0059】
なお、延伸処理前の原反フィルムの厚みは、50~300μmが好ましく、100~200μmがより好ましい。原反フィルムの厚みが50μm以上であれば、巻取り時のシワや、スリット時のトリミングのカット性などのハンドリング性を確保できる。また、原反フィルムの厚みが300μm以下であれば、延伸処理後の延伸フィルムにおいて、十分な水蒸気バリア性を得ることができる。
【0060】
また、延伸処理前の原反フィルムの製造方法は、上述のロール圧延に限定されず、例えば、加熱圧縮成形を行うことにより押し固めたビレット状の超高分子量ポリエチレンをスライスして、シート・フィルム状に加工するスカイブ法等を使用してもよい。
【0061】
次に、引き取られた超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムに対して、MD、またはTDに一軸延伸処理を行うことにより、図1図3に示す本発明の延伸フィルムを製造する。
【0062】
より具体的には、例えば、原反フィルムである高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルムに対して、MDに延伸処理を行うことにより、MDの分子配向が進行して、ラメラ結晶が伸び切り鎖結晶へ変化する。
【0063】
MDの延伸処理における延伸温度、及び延伸倍率は、使用する超高分子量ポリエチレンに対応して、適宜変更することができる。
【0064】
より具体的には、後述の超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン030S、粘度平均分子量:50万、密度:0.949g/cm)においては、延伸温度は120~130℃が好ましく、120℃がより好ましい。また、延伸倍率は2.0~3.0倍が好ましく、3.0倍がより好ましい。
【0065】
また、後述の超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:115万、密度:0.940g/cm)においては、延伸温度は120~135℃が好ましく、120℃がより好ましい。また、延伸倍率は1.5~2.0倍が好ましく、1.7~2.0倍がより好ましく、2.0倍がさらに好ましい。
【0066】
また、後述の超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ミペロンXM220、粘度平均分子量:200万、密度:0.938g/cm)においては、延伸温度は120~150℃が好ましく、130~150℃がより好ましい。また、延伸倍率は1.5~2.0倍が好ましい。
【0067】
また、後述の超高分子量ポリエチレンフィルム(作新工業株式会社製、商品名:ニューライトフィルム♯25W、粘度平均分子量:50万~300万、密度:0.940g/cm)においては、延伸温度は120~130℃が好ましく、120℃がより好ましい。また、延伸倍率は4.0~4.5倍が好ましく、4.5倍がより好ましい。
【0068】
これは、上述の各延伸温度の上限値よりも高い温度で成形すると、フィルムの形状を維持していた超高分子量ポリエチレンの分子鎖の絡み合いが解けることにより破断し、水蒸気バリア性が発現しなくなる場合や、フィルムが溶融する場合があるためである。また、上述の各延伸温度の下限値よりも低い温度で成形すると、延伸が不十分になり、フィルムが破断する場合があるためである。
【0069】
また、延伸倍率が、上述の各延伸倍率の下限値未満の場合は、延伸フィルムの密度と分子配向が不十分となるため、水蒸気バリア性が発現しにくくなるためである。また、上述の各延伸倍率の上限値よりも大きい場合は、フィルムが破断する場合があるためである。
【0070】
なお、ここでいう「延伸倍率」とは、延伸方向(すなわち、MD)における、延伸前のフィルムの長さに対する延伸後のフィルムの長さの倍数のことをいう。
【0071】
そして、上述の方法により製造された本発明の延伸フィルムは、上述の伸び切り鎖結晶により、水蒸気バリア性が発現し、延伸フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・day以下となるため、優れた水蒸気バリア性を得ることが可能になる。
【0072】
また、ベースフィルムとなる延伸フィルムは、単層であってもよく、2層以上の複層であってもよい。延伸フィルムが複層の場合、各層の組成や厚みは同じであってもよく、異なっていてもよい。延伸フィルムが複層である場合の厚みとは、この複層の全体の厚みのことを意味する。
【0073】
次に、上述の高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖上低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン系樹脂を含有する原料を準備し、Tダイを備えた押出機にて溶融押し出しによりフィルム状に成形することにより、シーラントフィルムを作製する。
【0074】
そして、例えば、接着剤を介して、延伸フィルムとシーラントフィルムとを積層することにより、図1に示す積層体1が製造される。
【実施例0075】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0076】
(実施例1)
<延伸フィルムの作製>
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン030S、粘度平均分子量:50万、再結晶化後の融点:132.8℃、密度:0.949g/cm)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、表1に示す厚みを有するのポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製した。
【0077】
次に、この原反フィルムに対して、表1に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、表1に示す厚みを有する延伸フィルムを作製した。
【0078】
<50μmあたりの水蒸気透過度の算出>
次に、作製した延伸フィルムの水蒸気透過度[g/m・day]を、水蒸気透過度測定機(SYSTEC illinois社製、商品名:水蒸気透過度計 Lyssy L80-6000)を用いて、JIS K 7129-1に準拠して、温度40℃および湿度90%の雰囲気下で測定した。そして、測定した水蒸気透過度に、延伸フィルムの厚み[μm]/50[μm]を乗じて、50μmあたりの水蒸気透過度[g/m・day]を算出した。以上の結果を表1に示す。
【0079】
なお、実施例1においては、測定した水蒸気透過度が2.17[g/m・day]であり、延伸フィルムの厚みが40.2μmであるため、50μmあたりの水蒸気透過度は、2.17×(40.2/50)=1.74[g/m・day]となる。
【0080】
<引張破断応力の測定>
JIS K 7127に準拠して、作製した延伸フィルムの引張破断応力[MPa]を測定した。より具体的には、試験片タイプ3号ダンベルの試験フィルムを用意し、引張試験機(島津製作所社製、商品名:オートグラフAG-5000A)を用いて、温度25℃、引張速度100mm/分の条件で引張試験を行い、MDにおける引張破断応力[MPa]を測定した。以上の結果を表1に示す。
【0081】
<DSC測定>
また、作製した延伸フィルムのDSC測定を行った、より具体的には、をJIS K 7121試験法に準拠し、示差走差熱量計(日立ハイテクサイエンス社製、商品名:DSC7000X)に、試料を約1mg採取して封入した後、キャリヤーガスとして窒素を30cc/分流し、10℃/分の昇温速度の条件で、DSCチャートを得た。また、同様の条件で、延伸前の固相ロール圧延フィルム(原反フィルム)のDSCチャートを得た。以上の結果を図2に示す。
【0082】
図2に示すように、作製した延伸フィルムのDSC曲線においては、137℃以上155℃未満(141℃以上152℃以下)に2つの吸熱ピーク(すなわち、137~145℃付近の伸び切り鎖結晶の融解ピークと150~155℃付近の伸び切り鎖結晶の転移ピークの2つの吸熱ピーク)を有しており、その結果、延伸フィルムの水蒸気バリア性が発現しているものと考えられる。
【0083】
(実施例2~3)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ハイゼックスミリオン145M、粘度平均分子量:115万、再結晶化後の融点:132.5℃、密度:0.940g/cm)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、表1に示す厚みを有する原反フィルムであるポリエチレンフィルムを作製するとともに、この原反フィルムに対して、表1に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、表1に示す厚みを有する延伸フィルムを作製した。
【0084】
その後、上述の実施例1と同様にして、50μmあたりの水蒸気透過度の算出、引張破断応力の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0085】
(実施例4~9)
超高分子量ポリエチレン(三井化学社製、商品名:ミペロンXM220、粘度平均分子量:200万、再結晶化後の融点:132.7℃、密度:0.938g/cm)を原料として使用し、表1に示す製造条件の下、ロール圧延機(ロール径:75mm)でフィルム状に成形することにより、表1に示す厚みを有する原反フィルムであるポリエチレンフィルムを作製するとともに、この原反フィルムに対して、表1に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、表1に示す厚みを有する延伸フィルムを作製した。
【0086】
その後、上述の実施例1と同様にして、50μmあたりの水蒸気透過度の算出、引張破断応力の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0087】
(実施例10~11)
原反フィルムとして、スカイブ法により製造された超高分子量ポリエチレンフィルム(作新工業株式会社製、商品名:ニューライトフィルム♯25W、粘度平均分子量:50万~300万、再結晶化後の融点:136℃、密度:0.940g/cm)を使用し、この原反フィルムに対して、表1に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、表1に示す厚みを有する延伸フィルムを作製した。
【0088】
その後、上述の実施例1と同様にして、50μmあたりの水蒸気透過度の算出、引張破断応力の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表1に示す。
【0089】
(比較例1)
実施例1と同様にして、ポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製し、この原反フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度の算出、引張破断応力の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表2に示す。なお、この原反フィルムに対して、MDに延伸処理を行わず、延伸フィルムを作製しなかった。
【0090】
(比較例2)
実施例2と同様にして、ポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製し、この原反フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度の算出、引張破断応力の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表2に示す。なお、この原反フィルムに対して、MDに延伸処理を行わず、延伸フィルムを作製しなかった。
【0091】
(比較例3)
実施例4と同様にして、ポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製し、この原反フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度の算出、引張破断応力の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表2に示す。なお、この原反フィルムに対して、MDに延伸処理を行わず、延伸フィルムを作製しなかった。
【0092】
(比較例4)
実施例2と同様にして、ポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製するとともに、この原反フィルムに対して、表2に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、延伸フィルムの作製を試みたが、延伸温度が135℃よりも高いため、フィルムが溶融した。
【0093】
(比較例5)
実施例4と同様にして、ポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製するとともに、この原反フィルムに対して、表2に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、延伸フィルムの作製を試みたが、延伸倍率が2倍よりも大きいため、MDの延伸処理においてフィルムが破断した。
【0094】
(比較例6)
実施例4と同様にして、ポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製するとともに、この原反フィルムに対して、表2に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、延伸フィルムの作製を試みたが、延伸温度が150℃よりも高いため、フィルムが溶融した。
【0095】
(比較例7~8)
実施例10と同様に、原反フィルムとして、スカイブ法により製造された超高分子量ポリエチレンフィルムを使用し、この原反フィルムに対して、表2に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、延伸フィルムの作製を試みたが、比較例7においては、延伸倍率が4.5倍よりも大きいため、MDの延伸処理においてフィルムが破断した。また、比較例8においては、延伸温度が130℃よりも高いため、フィルムが溶融した。
【0096】
(比較例9)
高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製、商品名:ハイゼックス3600F、数平均分子量:10万、再結晶化後の融点:133℃、密度:0.958g/cm)を原料として使用し、この高密度ポリエチレンを、Tダイを備えた押出機(プライムポリマー社製)にて、溶融押し出し(押出温度:230℃)によりフィルム状に成形し、当該フィルムを巻取りロールで巻き取ることにより、表3に示す厚みを有するのポリエチレンフィルム(延伸前の原反フィルム)を作製した。
【0097】
次に、この原反フィルムに対して、表3に示す延伸温度と延伸倍率の条件で、MDに延伸処理を行うことにより、表3に示す厚みを有する延伸フィルムを作製した。
【0098】
その後、上述の実施例1と同様にして、50μmあたりの水蒸気透過度の算出、引張破断応力の測定、及びDSC測定を行った。以上の結果を表3に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
表1に示すように、実施例1~11の延伸フィルムにおいては、DSCチャートにおいて、137℃以上160℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有しており、延伸フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・day以下となっているため、水蒸気バリア性に優れていることが分かる。
【0103】
なお、実施例8における延伸フィルムのDSCチャートを図5に示す。図5に示すように、DSCチャートにおける吸熱ピーク温度が142.8℃と152.3℃であり、137℃以上160℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有している。すなわち、伸び切り鎖結晶が存在しているため、延伸フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・day以下となっており、水蒸気バリア性に優れていることが分かる。
【0104】
一方、表2に示すように、比較例1~3においては、原反フィルムに対して、MDに延伸処理を行っていないため、原反フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・dayよりも大きくなっており、水蒸気バリア性に乏しいことが分かる。
【0105】
また、表3に示すように、比較例9においては、超高分子量ポリエチレンを使用しておらず、平均分子量が小さい高密度ポリエチレンを使用しているため、延伸フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・dayよりも大きくなっており、水蒸気バリア性に乏しいことが分かる。なお、比較例9における延伸フィルムのDSCチャートを図6に示す。図6に示すように、DSCチャートにおける吸熱ピーク温度が134.9℃であり、137℃以上155℃未満の間に少なくとも1つの吸熱ピークを有していない。すなわち、伸び切り鎖結晶が存在しないため、延伸フィルムの50μmあたりの水蒸気透過度が2.15g/m・dayよりも大きくなっており、水蒸気バリア性に乏しいことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
以上説明したように、本発明は、超高分子量ポリエチレンを主成分とする原反フィルムを延伸して得られる延伸フィルムに適している。
【符号の説明】
【0107】
1 積層体
2 シーラントフィルム
3 延伸フィルム
4~7 移送ロール
8 引取ロール
10 ロール圧延機
11 原料供給機
12~13 一対のロール
M 超高分子量ポリエチレン
P 超高分子量ポリエチレン固相ロール圧延フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6