(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144849
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20241004BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20241004BHJP
F02P 5/145 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F02D45/00 368Z
F02D43/00 301B
F02D43/00 301Z
F02P5/145 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023056994
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 仁司
【テーマコード(参考)】
3G022
3G384
【Fターム(参考)】
3G022AA03
3G022DA01
3G022EA01
3G022GA01
3G022GA05
3G022GA09
3G022GA13
3G384AA01
3G384AA06
3G384BA24
3G384BA26
3G384CA25
3G384DA54
3G384EB03
3G384FA28Z
3G384FA33Z
3G384FA56Z
(57)【要約】
【課題】エンジンの制御装置に関し、間欠連鎖失火の発生を抑制し、エンジンの作動状態の安定性を改善する。
【解決手段】開示のエンジンの制御装置9は、点火リタード制御が実施可能であって吸気弁2及び排気弁3のバルブオーバーラップが設定されうる複数の気筒1を有するエンジン10を制御するものである。排気弁3は、複数の気筒1にそれぞれ設けられる。制御装置9は、複数の気筒1で点火リタード制御及びバルブオーバーラップの実施中に、複数の気筒1の一つである第一気筒が失火した場合に、第一気筒が失火しない場合と比較して、第一気筒が有する排気弁3の開放時に開放状態となる排気弁3を有する、第一気筒とは別の気筒である第二気筒の点火時期を進角させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
点火リタード制御が実施可能であって吸気弁及び排気弁のバルブオーバーラップが設定されうる複数の気筒を有するエンジンを制御する制御装置であって、
前記排気弁は、前記複数の気筒にそれぞれ設けられ、
前記複数の気筒で前記点火リタード制御及び前記バルブオーバーラップの実施中に、前記複数の気筒の一つである第一気筒が失火した場合に、前記第一気筒が失火しない場合と比較して、前記第一気筒が有する前記排気弁の開放時に開放状態となる前記排気弁を有する、前記第一気筒とは別の気筒である第二気筒の点火時期を進角させる
ことを特徴とする、エンジンの制御装置。
【請求項2】
前記第二気筒の前記バルブオーバーラップが大きいほど、前記第二気筒の点火時期の進角量を増加させる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記第二気筒の点火時期のリタード量が大きいほど、前記第二気筒の点火時期の進角量を増加させる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記エンジンの温度が低いほど、前記第二気筒の点火時期の進角量を増加させる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記第一気筒の失火後に前記第二気筒が間欠連鎖失火した場合に、前記第二気筒が間欠連鎖失火しない場合と比較して、前記第二気筒が有する前記排気弁の開放時に開放状態となる前記排気弁を有する、前記第二気筒とは別の第三気筒の点火時期を進角させるとともに、前記第三気筒の前記バルブオーバーラップを増加させる
ことを特徴とする、請求項1記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、点火リタード制御が実施可能であって吸気弁及び排気弁のバルブオーバーラップが設定されうる多気筒のエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多気筒のエンジン(内燃機関)の制御において、失火が発生した気筒の燃料噴射時期を変更することでエンジンの始動性や作動状態の安定性を改善する技術が知られている。例えば、失火が発生した気筒における次の燃焼サイクルにおいて、燃料噴射時期を通常時よりも進角方向に移動させる制御が知られている(特許文献1参照)。このような制御により、燃料の着火性を改善でき、その気筒での失火の再発を抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件の発明者は、吸気弁及び排気弁のバルブオーバーラップが設定されうる多気筒のエンジンにおいて、異なる気筒間で三行程以上の間隔をあけて間欠的かつ連鎖的に失火が発生する現象を発見した。以下、この現象を「間欠連鎖失火」と呼ぶ。間欠連鎖失火は、一つの気筒の失火による一時的なエキゾーストマニホールド圧力(エキマニ圧)の低下が、別の気筒の吸気状態に悪影響を与えることで発生するものと考えられる。
【0005】
例えば、バルブオーバーラップが設定されたエンジンにおいては、インテークマニホールドよりエキゾーストマニホールドの方が高圧となることにより、バルブオーバーラップの期間中に排気ガスの一部が吸気ポート側へと逆流する吹き返しが発生する。これにより、吸気ポート内の付着燃料が短時間で気化された上で、気筒内へと導入される。一方、ある気筒が失火した場合には、その気筒の燃焼行程での筒内圧が低下し、排気バルブを開いた際にエキマニの内部に存在する気体(排気ガスや未燃ガス)が筒内に逆流することで、一時的にエキマニ圧が低下してしまう。また、エキマニの内部に存在する気体の温度も低下する。
【0006】
ここで、低下したエキマニ圧が回復するまでの間に別の気筒がバルブオーバーラップの期間に入ると、その気筒において吸気ポート側へと逆流する気体が少なくなり、温度も低くなる。これにより、吸気ポート内で気化する燃料量が減少し、失火が発生しやすくなる。このとき失火が発生する可能性は、点火時期が最適点火時期MBT(Minimum spark advance for Best Torque)よりも遅角方向に移動しているほど(すなわち、点火リタード制御のリタード量が大きいほど)上昇する。
【0007】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、間欠連鎖失火の発生を抑制し、エンジンの作動状態の安定性を改善できるようにしたエンジンの制御装置を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示のエンジンの制御装置は、以下に開示する態様(適用例)として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。態様2以降の各態様は、何れもが付加的に適宜選択されうる態様であって、何れもが省略可能な態様である。態様2以降の各態様は、何れもが本件にとって必要不可欠な態様や構成を開示するものではない。
【0009】
態様1.開示のエンジンの制御装置は、点火リタード制御が実施可能であって吸気弁及び排気弁のバルブオーバーラップが設定されうる複数の気筒を有するエンジンを制御する制御装置である。前記排気弁は、前記複数の気筒にそれぞれ設けられる。また、本制御装置は、前記複数の気筒で前記点火リタード制御及び前記バルブオーバーラップの実施中に、前記複数の気筒の一つである第一気筒が失火した場合に、前記第一気筒が失火しない場合と比較して、前記第一気筒が有する前記排気弁の開放時に開放状態となる前記排気弁を有する、前記第一気筒とは別の気筒である第二気筒の点火時期を進角させる。
【0010】
態様2.上記の態様1において、前記第二気筒の前記バルブオーバーラップが大きいほど、前記第二気筒の点火時期の進角量を増加させることが好ましい。
態様3.上記の態様1又は2において、前記第二気筒の点火時期のリタード量が大きいほど、前記第二気筒の点火時期の進角量を増加させることが好ましい。
態様4.上記の態様1~3の何れかにおいて、前記エンジンの温度が低いほど、前記第二気筒の点火時期の進角量を増加させることが好ましい。
【0011】
態様5.上記の態様1~4の何れかにおいて、前記第一気筒の失火後に前記第二気筒が間欠連鎖失火した場合に、前記第二気筒が間欠連鎖失火しない場合と比較して、前記第二気筒が有する前記排気弁の開放時に開放状態となる前記排気弁を有する、前記第二気筒とは別の第三気筒の点火時期を進角させるとともに、前記第三気筒の前記バルブオーバーラップを増加させることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
開示のエンジンの制御装置によれば、一つの気筒の失火による一時的なエキゾーストマニホールド圧力の低下が別の気筒の吸気状態に悪影響を与えた場合であっても、失火を発生しにくくすることができる。したがって、間欠連鎖失火の発生を抑制でき、エンジンの作動状態の安定性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の制御装置が適用されるエンジンの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示すエンジンの燃焼サイクルを示す図である。
【
図3】エンジンの作動状態の経時変化を示すグラフであり、(A)は筒内圧(#1気筒)のグラフ、(B)はバルブリフト(#1気筒)のグラフ、(C)は排気弁(#1気筒)の通過流量のグラフ、(D)はエキマニ圧のグラフ、(E)はバルブリフト(#2気筒)のグラフ、(F)は吸気弁(#2気筒)の通過流量のグラフである。
【
図4】(A)はバルブオーバーラップと進角量との関係を示すグラフ、(B)はリタード量と進角量との関係を示すグラフ、(C)はエンジン冷却水温(シリンダー温度)と進角量との関係を示すグラフである。
【
図5】制御装置による制御手順を例示するフローチャートである。
【
図6】制御装置による制御手順を例示するフローチャートである。
【
図7】多気筒エンジンの燃焼サイクルを示す図であり、(A)は5気筒直列エンジン、(B)は6気筒直列エンジン、(C)は8気筒直列エンジンの例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
開示の制御装置は、以下の実施例に示すエンジンに適用される。このエンジンは、例えば車両や工作機械,船舶,発電機,各種試験装置等に搭載される内燃機関である。以下の実施例では、車両に搭載されるエンジンが想定されている。また、本件に係るエンジンは、点火リタード制御が実施可能なエンジンであり、かつ、吸気弁及び排気弁のバルブオーバーラップ(VOL,valve overlap)が設定されうる多気筒のエンジンである。
【0015】
本件に係るエンジンは、少なくとも点火プラグ,吸気弁,排気弁を有する気筒が複数設けられたエンジンであって、点火プラグによる点火時期を制御するための手段を有するエンジンである。バルブオーバーラップは、吸気弁及び排気弁の開放期間が重複するように予め固定的に設定されていてもよいし、その重複期間が可変であってもよい。後者の場合、バルブオーバーラップは、例えばエンジンの作動状態(エンジン回転数,負荷,吸入空気量,空燃比,シリンダー温度,エンジン冷却水温,油温等)に応じて設定されうる。なお、本件に係る「点火」とは、筒内における燃焼反応のきっかけとなる火花を生成することを意味する。本件に係るエンジンにはSI(Spark Ignition,火花点火)エンジンやSCCI(Spark Controlled Compression Ignition,火花制御圧縮点火)エンジンが含まれる。
【0016】
本件に係る点火リタード制御とは、各気筒における点火時期を通常時(点火リタード制御が行われていない場合)よりも遅角側へ移動させる制御を意味する。本実施形態では、最適点火時期MBTよりも遅角側へ移動させる。最適点火時期MBTとは、その時点の運転条件で最大のエンジントルクが見込まれる点火時期を意味し、例えば筒内へ導入される空気量(充填効率),空燃比(燃料量),圧縮比等に応じて決定される。一方、点火時期を常に最適点火時期MBTに設定すると、運転条件によってはノッキングが発生しやすくなり、あるいは燃焼安定性や排気温度が上昇しにくくなる。点火リタード制御は、このような実情を踏まえて実施される制御である。点火リタード制御では、例えば予想されるノッキング強度やエンジンの燃焼安定性,排気温度(排気浄化触媒の活性温度),要求トルク等に基づいて点火時期のリタード量(最適点火時期MBTを基準とした遅角量)が制御される。
【実施例0017】
[1.構成]
図1は、実施例としての制御装置9が適用されるエンジン10を示すブロック図である。このエンジン10は四気筒直列エンジンであり、列設された四つの気筒1の各々に点火プラグ4が設けられる。各気筒1には、吸気ポート11及び排気ポート12が接続される。各気筒1と吸気ポート11との境界部分には吸気弁2が開閉可能に設けられ、各気筒1と排気ポート12との境界部分には排気弁3が開閉可能に設けられる。
図1に示す例では、各気筒1に吸気ポート11及び排気ポート12が二本ずつ接続されている。
【0018】
各気筒1の吸気ポート11には、吸気ポート11の内部に燃料を噴射する燃料噴射弁5(ポート噴射弁)が設けられる。本実施例では、吸気弁2及び排気弁3の開閉状態(バルブリフト量,バルブタイミング)と点火プラグ4による点火時期と燃料噴射弁5からの噴射状態(噴射量,噴射タイミング)とが制御装置9によって制御される。なお、エンジン10は、ポート噴射の代わりに筒内噴射が実施されるものであってもよいし、ポート噴射及び筒内噴射が併用されるものであってもよい。
【0019】
各気筒1の吸気ポート11よりも上流側にはインマニ13(インテークマニホールド)が接続され、その上流側の吸気通路15にはスロットルバルブ16が介装される。スロットルバルブ16を通過した吸入空気は、分岐形成されたインマニ13の内部を通過して各気筒1へと導入される。また、各気筒1の排気ポート12よりも下流側にはエキマニ14(エキゾーストマニホールド)が接続され、その下流側の排気通路17には排気浄化触媒18が介装される。各気筒1から排出される排気ガスは、エキマニ14の内部を通過して排気浄化触媒18へと導入され、排気浄化触媒18で浄化される。
【0020】
制御装置9は、車両の走行状態に応じてエンジン10の作動状態を制御するためのコンピュータ(電子制御装置,ECU,Electronic Control Unit)である。制御装置9は、プロセッサ(演算処理装置)及びメモリ(記憶装置)を内蔵する。制御装置9が実施する制御の内容(制御プログラム)はメモリに保存され、その内容がプロセッサに適宜読み込まれることによって実行される。
【0021】
制御装置9には、ノックセンサー6,エンジン回転数センサー7,温度センサー8が接続される。ノックセンサー6は、エンジン10のノッキング振動(振動変位,たわみ,加速度等)を検出するセンサーであり、シリンダーブロック等に取り付けられる。ここで検出されたノッキング振動の情報は、点火リタード制御におけるリタード量の設定に用いられる。
【0022】
エンジン回転数センサー7は、エンジン10の回転速度(単位時間あたりの回転数,角速度)を検出するセンサーであり、クランクシャフトやフライホイールの近傍等に取り付けられる。ここで検出された回転速度の情報は、各気筒1の失火判定に利用されるほか、点火リタード制御におけるリタード量の設定に用いられる。
【0023】
温度センサー8は、エンジン10の温度(シリンダー温度,エンジン冷却水温,油温等)を検出するセンサーであり、シリンダーブロックや冷却系装置等に取り付けられる。ここで検出された温度の情報は、例えばバルブオーバーラップの設定や、点火リタード制御におけるリタード量の設定や、後述する連鎖切断制御における進角量の設定等に用いられる。
【0024】
本実施例の制御装置9は、間欠連鎖失火を防止するための制御を実施する機能を持つ。間欠連鎖失火とは、異なる気筒1間で三行程以上の間隔をあけて間欠的かつ連鎖的に生じる失火である。間欠連鎖失火は、一つの気筒1の失火による一時的なエキマニ圧の低下が、別の気筒1の吸気状態に悪影響を与えた結果、その気筒1の燃焼安定性を低下させることによって引き起こされるものと考えられる。
【0025】
図2及び
図3を用いて、間欠連鎖失火の発生メカニズムを説明する。
図2はエンジン10の各気筒1の燃焼サイクルを示す図である。
図2中の#1,#2,#3,#4は、
図1中の#1,#2,#3,#4に対応する気筒番号であり、各気筒1の物理的な配置順序に対応するように付番されている。本実施例の点火順序は#1,#3,#4,#2の順である。
図2中に示すクランク角[°CA]は、#1気筒の圧縮行程が開始される下死点を基準としたクランクシャフトの回転角を表す。
【0026】
また、
図3はエンジン10の作動状態の経時変化を示すグラフである。
図3(A)は筒内圧(#1気筒)のグラフ、
図3(B)はバルブリフト(#1気筒)のグラフ、
図3(C)は排気弁(#1気筒)の通過流量のグラフ、
図3(D)はエキマニ圧のグラフ、
図3(E)はバルブリフト(#2気筒)のグラフ、
図3(F)は吸気弁(#2気筒)の通過流量のグラフである。
【0027】
図2に示すように、#1気筒の燃焼行程において、何らかの原因により失火が発生した場合について検討する。各々の気筒1には所定のバルブオーバーラップが設定されており、点火時期は点火リタード制御により最適点火時期MBTよりも遅角側に制御されているものとする。#1気筒に失火が発生すると、
図3(A)に示すように、失火が発生しなかった場合と比較して#1気筒の燃焼行程における筒内圧が大きく低下する。これにより、排気弁3が開放される直前(燃焼行程後半)には、#1気筒の筒内圧が負圧(大気圧以下の圧力、少なくともエキマニ圧より圧力が低い状態)となる。
【0028】
#1気筒の排気弁3は、
図3(B)に示すように、360[°CA]前後のクランク角で開放され始め、排気行程に突入する。このとき、#1気筒の筒内圧が負圧となっているため、エキマニ14や排気ポート12の内部に存在する排気ガスが#1気筒へと逆流する。
図3(C)に破線で示すように、#1気筒の排気弁3を通過する気体の流量は、排気行程の初期においては負の値となる。これにより、
図3(D)に破線で示すように、エキマニ圧が一時的に負圧となる。
【0029】
このとき#2気筒は、
図3(E)に示すように、燃焼サイクルが排気行程から吸気行程へと移行する時期であり、吸気弁2及び排気弁3がともに開放された状態(バルブオーバーラップの期間)となっている。ここで仮に、エキマニ圧がある程度の高さに保たれていたならば、エキマニ14の内部に存在する高温の排気ガスが#2気筒の吸気弁2及び排気弁3を通過して逆流し、#2気筒の吸気ポート11内における付着燃料の気化が促進されていたはずである。この場合、
図3(F)に実線で示すように、エキマニ14内の排気ガスがインマニ13に流れ込むことにより、#2気筒の吸気弁2を通過する気体の流量は大きく負値に振れる(逆流する)。
【0030】
しかし、#1気筒の排気行程初期におけるエキマニ圧が低下しているため、#2気筒の吸気ポート11側への逆流量(吹き返し量)が減少する。
図3(F)に破線で示すように、#2気筒の吸気弁2を通過する気体の流量は少ししか負値に振れず、あるいは流量がほぼ0となる。また、#1気筒の燃焼行程で高温の排気ガスが生成されていないため、たとえ逆流が発生したとしてもその気体の温度は低くなる。
【0031】
これらの理由により、#2気筒の吸気ポート11内における付着燃料が気化しにくくなり、#2気筒の吸気行程で#2気筒へ流入する燃料量が減少し、#2気筒の空燃比が想定よりも希薄になる。その結果、#2気筒の燃焼行程(
図2中でクランク角が720[°CA]以降の時期)において#2気筒の失火が発生する。つまり、#1気筒の失火後、#3気筒及び#4気筒は失火しないにもかかわらず、#2気筒だけが三行程分の間隔をあけて失火することになる。
【0032】
また、間欠連鎖失火はその後も継続して発生する。すなわち、#2気筒の失火による一時的なエキマニ圧の低下は、その後の#4気筒の吸気状態に悪影響を与え、三行程分の間隔をあけて#4気筒の失火を誘発する。さらに、#4気筒の失火による一時的なエキマニ圧の低下は、三行程分の間隔をあけて#3気筒の失火を誘発する。したがって、間欠連鎖失火は、#1,#2,#4,#3,#1,#2,#4,#3…といったように、点火順序とは逆の順序で周期的に継続されることになる。
【0033】
上記のような間欠連鎖失火を抑制すべく、本実施例の制御装置9は間欠連鎖を断ち切るための制御(連鎖切断制御)を実施する。連鎖切断制御とは、複数の気筒1のうち、一つの気筒1(第一気筒)が失火した場合に、別の気筒1を対象として、失火後における最初の点火時期を進角させる制御である。ここで、失火した気筒1を第一気筒とおき、点火時期を進角させる対象となる気筒1を第二気筒とおく。第二気筒の定義は、以下の条件を満たす気筒1である。以下の条件を満たさない気筒1は、点火時期を進角させる対象にはならない。また、全ての気筒1のバルブオーバーラップがゼロの場合には、上記のようなメカニズムによる間欠連鎖失火は発生しないため、連鎖切断制御は実施されない。
・第一気筒の排気弁3の開放直後に、第二気筒が吸気工程になる。
・第一気筒の排気弁3の開放時に、第二気筒の排気弁3が開放状態である。
・第二気筒のバルブオーバーラップが、第一気筒の排気弁3の開放時以後の期間を含んで設定される。
【0034】
連鎖切断制御は、少なくとも上記の第一気筒の失火時に第二気筒に対する点火リタード制御がなされている場合に実施される。また、連鎖切断制御の実施条件には、以下の条件を含ませてもよい。
・エンジン10の温度が所定温度未満である(冷態状態である)。
・排気浄化触媒18の触媒暖機制御が実施されている。
・点火リタード制御のリタード量が所定量R0を超えている。
(点火時期がある程度大きく遅角方向に制御された状態である。)
・バルブオーバーラップが所定値V0を超えている。
(排気ガスの吸気ポート側への吹き返しがある程度見込まれる状態である。)
【0035】
本実施形態では、触媒暖機のために点火リタード、及びバルブオーバーラップにより排気温度を上昇させている場合の失火とする。
また、第二気筒は、以下のように定義されてもよい。
・仮に第一気筒が失火しなかった場合に、第一気筒によって排出された排気ガスを筒内に吸引していたはずだった気筒1
【0036】
図2に示す#1気筒が失火した時点において、第一気筒は#1気筒であり、第二気筒は#2気筒である。したがって、#1気筒が失火した直後における#3気筒や#4気筒の点火時期は進角方向へと制御されず、その後の#2気筒の点火時期のみが進角方向へと制御される。また、この#2気筒が失火した場合には、#2気筒が第一気筒となり、#4気筒が第二気筒となる。したがって、#2気筒が失火した直後における#1気筒や#3気筒の点火時期は進角方向へと制御されず、その後の#4気筒の点火時期のみが進角方向へと制御される。このような連鎖切断制御における点火時期の進角制御は、第一気筒の失火後の第二気筒の最初の点火時に一回のみ行われればよいが、第二気筒の以降の点火時にも継続して行ってもよい。
【0037】
連鎖切断制御における点火時期の進角量は、その時点で実施されている点火リタード制御におけるリタード量以下の範囲内で設定されることが好ましい。すなわち、点火時期は、最適点火時期MBTよりも遅角側の範囲内で調節されることが好ましい。また、この進角量は、バルブオーバーラップに応じて設定してもよいし、リタード量に応じて設定してもよく、エンジン10の温度に応じて設定してもよい。あるいは、これらを組み合わせて(例えばバルブオーバーラップ及びリタード量に応じて)進角量を設定してもよい。
【0038】
例えば、
図4(A)~(C)に示すような関係を利用して進角量を設定してもよい。
図4(A)はバルブオーバーラップと進角量との関係を示すグラフである。
図4(A)に示すように、第二気筒のバルブオーバーラップが大きいほど、第二気筒の点火時期の進角量を増加させてもよい。
図4(A)中の所定値V
0は、点火時期を進角させるためのバルブオーバーラップの最小値に相当し、0以上の値に設定される。
【0039】
図4(B)はリタード量と進角量との関係を示すグラフである。
図4(B)に示すように、第二気筒の点火時期のリタード量が大きいほど、第二気筒の点火時期の進角量を増加させてもよい。
図4(B)中の所定量R
0は、点火時期を進角させるためのリタード量の最小値に相当し、0以上の値に設定される。また、
図4(B)中の破線は、進角後の点火時期が最適点火時期MBTに達する進角量をプロットした線(進角量がリタード量と同一値になる線)である。
【0040】
図4(C)はエンジン冷却水温(シリンダー温度)と進角量との関係を示すグラフである。
図4(C)に示すように、エンジン10の温度(エンジン冷却水温やシリンダー温度)が低いほど、第二気筒の点火時期の進角量を増加させてもよい。なお、ここで参照されるエンジン10の温度は、温度センサー8で検出された温度であってもよいし、温度センサー8で検出された温度に基づいて算出された温度であってもよい。
【0041】
上記の連鎖切断制御において、バルブオーバーラップを増加させる制御を追加してもよい。例えば、
図2に示す#1気筒が失火した時点において、#2気筒のバルブオーバーラップを一時的に増加させるとともに、#2気筒の点火時期を進角方向へと移動させてもよい。また、間欠連鎖失火が発生したことを条件として、バルブオーバーラップを増加させる制御を追加してもよい。例えば、
図2に示す#1気筒が失火した時点において、#2気筒の点火時期を進角方向へと移動させたにもかかわらず、#2気筒で失火が発生した場合に、その後の#4気筒(第二気筒の排気弁3の開放時に、排気弁3が開放状態となる第三気筒)のバルブオーバーラップを一時的に増加させるとともに、#4気筒の点火時期を進角方向へと移動させてもよい。第二気筒の間欠連鎖失火の後における第三気筒のバルブオーバーラップの増加は、第三気筒のみではなくすべての気筒で行ってもよい。
【0042】
上記の連鎖切断制御において、燃料噴射量を増加させる制御を追加してもよい。例えば、
図2に示す#1気筒が失火した時点において、#2気筒の燃料噴射量を一時的に増加させるとともに、#2気筒の点火時期を進角方向へと移動させてもよい。また、間欠連鎖失火が発生したことを条件として、燃料噴射量を増加させる制御を追加してもよい。例えば、
図2に示す#1気筒が失火した時点において、#2気筒の点火時期を進角方向へと移動させたにもかかわらず、#2気筒で失火が発生した場合に、その後の#4気筒の燃料噴射量を一時的に増加させるとともに、#4気筒の点火時期を進角方向へと移動させてもよい。
【0043】
[2.フローチャート]
図5は、連鎖切断制御の手順を例示するフローチャートである。このフローチャートに示す連鎖切断制御は、エンジン10の作動中に点火リタード制御及びバルブオーバーラップが行われている場合に、所定の周期で繰り返し実行される。本実施形態では、触媒暖機時に実行される。ここでは四つの気筒1が全て同一のバルブオーバーラップを持ち、点火リタード制御によるリタード量も同一であるとする。
【0044】
ステップA1では、温度センサー8で検出された温度に基づき、エンジン10が冷態状態であるか否かが判定される。ステップA1の条件が不成立の場合、連鎖切断制御の実施条件が満たされない(失火が発生しにくい状態であり、連鎖切断制御が不要)と判断されて、本フローは終了する。一方、ステップA1の条件が成立する場合にはステップA2に進む。ステップA2では、バルブオーバーラップが所定値V0を超えているか否かが判定される。ステップA2の不成立の場合、連鎖切断制御の実施条件が満たされない(エキマニ14内の排気ガスがインマニ13に逆流しにくい状態であり、間欠連鎖失火が発生しにくいため、連鎖切断制御が不要)と判断されて、本フローは終了する。一方、ステップA2の条件が成立する場合にはステップA3に進む。
【0045】
ステップA3では、点火リタード制御におけるリタード量が所定量R0を超えているか否かが判定される。ステップA3の条件が不成立の場合、連鎖切断制御の実施条件が満たされない(失火が発生しにくい状態であり、連鎖切断制御が不要)と判断されて、本フローは終了する。一方、ステップA3の条件が成立する場合にはステップA4に進む。ステップA4以降では、失火の判定がなされるとともに、失火した気筒1の気筒番号に応じて連鎖切断制御の実施対象となる気筒1が特定された上で、連鎖切断制御が実施される。
【0046】
まず、ステップA4では、エンジン回転数センサー7で検出されたエンジン10の回転速度に基づき、#1気筒が失火したか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップA5に進み、#2気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて本フローは終了する。なお、連鎖切断制御を第二気筒の一回目の点火時期にのみ行う場合は、ステップA5の後の#2気筒の点火完了後に、#2気筒における点火時期の進角方向への補正を元に戻す。以下のステップA7,A9,A11においても同様である。ステップA4の条件が不成立の場合にはステップA6に進む。ステップA6では、エンジン10の回転速度に基づき、#2気筒が失火したか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップA7に進み、#4気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて本フローは終了する。ステップA6の条件が不成立の場合にはステップA8に進む。
【0047】
ステップA8では、エンジン10の回転速度に基づき、#4気筒が失火したか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップA9に進み、#3気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて本フローは終了する。ステップA8の条件が不成立の場合にはステップA10に進む。ステップA10では、エンジン10の回転速度に基づき、#3気筒が失火したか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップA11に進み、#1気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて本フローは終了する。ステップA10の条件が不成立の場合には、失火が発生しておらず連鎖切断制御の実施条件が満たされないと判断されて、本フローは終了する。
【0048】
図6は、
図5のステップA5,A7,A9,A11の何れかが実行された後に実施される制御の手順を例示するフローチャートである。このフローチャートには、間欠連鎖失火の発生を阻止できなかった場合の対策が規定されている。ステップB1では、間欠連鎖失火が発生したか否かが判定される。例えば、
図5のステップA5で#2気筒の点火時期を進角させたにもかかわらず#2気筒で失火が発生した場合に、ステップB1の条件が成立する。あるいは、
図5のステップA7で#4気筒の点火時期を進角させたにもかかわらず#4気筒で失火が発生した場合にも、ステップB1の条件が成立する。ステップB1の条件が不成立であれば、本フローは終了する。一方、ステップB1の条件が成立した場合にはステップB2に進む。
【0049】
ステップB2では、2回目の失火が#1気筒であるか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップB3に進み、#2気筒のバルブオーバーラップを増加させるとともに#2気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて、本フローは終了する。ステップB2の条件が不成立の場合には、ステップB4に進む。ステップB4では、2回目の失火が#2気筒であるか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップB5に進み、#4気筒のバルブオーバーラップを増加させるとともに#4気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて、本フローは終了する。ステップB4の条件が不成立の場合には、ステップB6に進む。
【0050】
ステップB6では、2回目の失火が#4気筒であるか否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップB7に進み、#3気筒のバルブオーバーラップを増加させるとともに#3気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて、本フローは終了する。ステップB6の条件が不成立の場合(すなわち、2回目の失火が#3気筒である場合)には、ステップB8に進む。ステップB8では、#1気筒のバルブオーバーラップを増加させるとともに#1気筒の点火時期を進角方向へ補正する連鎖切断制御が実施されて、本フローは終了する。
【0051】
[3.効果]
(1)本実施例の制御装置9は、点火リタード制御が実施可能であって吸気弁2及び排気弁3のバルブオーバーラップが設定されうる複数の気筒1を有するエンジン10を制御する制御装置9である。排気弁3は、複数の気筒1にそれぞれ設けられる。本制御装置9は、複数の気筒1で点火リタード制御及びバルブオーバーラップの実施中に、複数の気筒1の一つである第一気筒が失火した場合に、第一気筒が失火しない場合と比較して、第一気筒が有する排気弁3の開放時に開放状態となる排気弁3を有する、第一気筒とは別の気筒である第二気筒の点火時期を進角させる。
【0052】
このような構成により、第一気筒の失火による一時的なエキマニ圧の低下により第二気筒に排気ガスが流入しにくいような場合であっても、第二気筒における失火を発生しにくくすることができる。したがって、間欠連鎖失火の発生を抑制でき、エンジン10の作動状態の安定性を改善できる。なお、点火時期の制御は、吸入空気量の制御と比較して応答性が高いため、より効果的に間欠連鎖失火の発生を抑制できる。また、点火時期の制御は、燃料噴射量を増加させることなく失火の発生確率を低下させることができ、エンジン10の燃費を悪化させることなく間欠連鎖失火の発生を抑制できる。
【0053】
さらに、上記の連鎖切断制御では、複数の気筒1のうち第二気筒に該当しないものについては点火時期が変更されない。つまり、
図2に示す#1気筒が失火した場合に、#3気筒及び#4気筒の点火時期は点火リタード制御によって遅角方向に制御されたまま、#2気筒の点火時期のみが進角方向へ移動する。これにより、エンジントルクや排気温度の急変を抑えつつ、間欠連鎖失火の発生を抑制できる。また、例えば、触媒暖機制御の実施中に#1気筒が失火した場合に、#3気筒及び#4気筒の点火時期をリタードさせたままにすることができ、排気浄化触媒18を短時間で昇温させつつ#2気筒の間欠連鎖失火を回避できる。
【0054】
(2)バルブオーバーラップは、失火が発生する可能性に影響を与えるパラメーターであり、バルブオーバーラップが大きいほど失火の可能性が高まる。一方、上記の制御装置9は、
図4(A)に示すように、第二気筒のバルブオーバーラップが大きいほど、第二気筒の点火時期の進角量を増加させうる。このような構成により、間欠連鎖失火の発生をより効果的に抑制でき、エンジン10の作動状態の安定性をさらに改善できる。
【0055】
(3)点火時期のリタード量は、失火が発生する可能性に影響を与えるパラメーターであり、リタード量が大きいほど失火の可能性が高まる。一方、上記の制御装置9は、
図4(B)に示すように、第二気筒の点火時期のリタード量が大きいほど、第二気筒の点火時期の進角量を増加させうる。このような構成により、間欠連鎖失火の発生をより効果的に抑制でき、エンジン10の作動状態の安定性をさらに改善できる。
【0056】
(4)エンジン10の温度(シリンダー温度,エンジン冷却水温,油温等)は、失火が発生する可能性に影響を与えるパラメーターであり、温度が低いほど失火の可能性が高まる。一方、上記の制御装置9は、
図4(C)に示すように、エンジン10の温度が低いほど、第二気筒の点火時期の進角量を増加させうる。このような構成により、間欠連鎖失火の発生をより効果的に抑制でき、エンジン10の作動状態の安定性をさらに改善できる。
【0057】
(5)上記の連鎖切断制御では、間欠連鎖失火が発生した場合にバルブオーバーラップを増加させる制御が追加される。制御装置9は、第一気筒の失火後に第二気筒が間欠連鎖失火した場合に、第二気筒が間欠連鎖失火しない場合と比較して、第二気筒が有する排気弁3の開放時に開放状態となる排気弁3を有する、第二気筒とは別の第三気筒の点火時期を進角させるとともに、第三気筒のバルブオーバーラップを増加させる。このような構成により、間欠連鎖失火のさらなる継続をより効果的に阻止することができ、エンジン10の作動状態の安定性をさらに改善できる。
【0058】
[4.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。
【0059】
上記の実施例では、吸気ポート11に燃料が噴射されるエンジン10を例示したが、気筒1の内部に燃料が噴射されるエンジン10を対象として連鎖切断制御を実施してもよい。この場合、吸気ポート11内に付着燃料が存在しないため、付着燃料の気化状態は問題にならない。しかし、第一気筒の失火直後に第二気筒へ逆流する気体の温度が低下することから、第二気筒での燃焼状態が不安定となり、失火が生じる可能性がある。一方、連鎖切断制御を実施することで、筒内での燃焼状態が安定しやすくなる。したがって、間欠連鎖失火の発生を抑制でき、エンジン10の作動状態の安定性を改善できる。
【0060】
上記の実施例では四気筒直列のエンジン10を例示したが、気筒1の数はこれに限定されない。また、連鎖切断制御の対象となる気筒1や対象気筒数は、エンジン10の総気筒数に応じて変化しうる。
図7は多気筒エンジンの燃焼サイクルを示す図であり、
図7(A)は5気筒直列エンジン、
図7(B)は6気筒直列エンジン、
図7(C)は8気筒直列エンジンの例である。なお、
図7中の気筒番号は点火順序を表す。
【0061】
図7(A)に示す5気筒直列エンジンでは、#1X気筒の排気行程の開始タイミング(360[°CA]前後のクランク角)が#5X気筒の排気行程と重なり、その直後に#5X気筒がバルブオーバーラップ状態となる。つまり、#1X気筒の失火による一時的なエキマニ圧の低下が、#5X気筒の吸気状態に悪影響を与える。これにより、#1X気筒の失火後に、#2X~#4X気筒は失火せず、#5X気筒だけが四行程分の間隔をあけて失火する可能性がある。したがって、#1X気筒の失火に際し、#5X気筒を対象として連鎖切断制御を実施すればよい。
【0062】
図7(B)に示す6気筒直列エンジンでは、#1Y気筒の排気行程の開始タイミング(360[°CA]前後のクランク角)が#6Y気筒の排気行程と重なり、その直後に#6Y気筒がバルブオーバーラップ状態となる。つまり、#1Y気筒の失火による一時的なエキマニ圧の低下が、#6Y気筒の吸気状態に悪影響を与える。これにより、#1Y気筒の失火後に、#2Y~#5Y気筒は失火せず、#6Y気筒だけが五行程分の間隔をあけて失火する可能性がある。したがって、#1Y気筒の失火に際し、#6Y気筒を対象として連鎖切断制御を実施すればよい。
【0063】
図7(C)に示す8気筒直列エンジンでは、#1Z気筒の排気行程の開始タイミング(360[°CA]前後のクランク角)が#7Z気筒,#8Z気筒の排気行程と重なり、その直後に#7Z気筒,#8Z気筒の各々が順番にバルブオーバーラップ状態となる。つまり、#1Z気筒の失火による一時的なエキマニ圧の低下が、#7Z気筒,#8Z気筒の吸気状態に悪影響を与える。これにより、#1Z気筒の失火後に、#2Z~#6Z気筒は失火せず、#7Z気筒及び#8Z気筒が六~七行程分の間隔をあけて失火する可能性がある。したがって、#1Z気筒の失火に際し、少なくとも#7Z気筒及び#8Z気筒の何れか(好ましくは両気筒)を対象として連鎖切断制御を実施すればよい。
本件は、エンジンの制御装置の製造産業に利用可能であり、エンジン及びその制御装置が搭載された車両の製造産業や、エンジン及びその制御装置を含む駆動システム(工作機械駆動装置,船舶駆動装置,発電機駆動装置等)の製造産業に利用可能である。