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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144863
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20241004BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20241004BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241004BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M4/96 B
H01M4/96 M
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057013
(22)【出願日】2023-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年10月12日に242th ECS Meetingにて公開 (2)令和4年11月8日に第63回電池討論会にて公開 (3)令和5年1月13日に第8回NEXT-FC基盤研究報告会にて公開 (4)令和5年2月17日に令和4年(2022)年度修士論文試問
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(74)【代理人】
【識別番号】100229389
【弁理士】
【氏名又は名称】香田 淳也
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】野田 志云
(72)【発明者】
【氏名】西原 正道
(72)【発明者】
【氏名】松田 潤子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE12
5H018HH05
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】メソポーラスカーボン(MC)の細孔外表面及び細孔内表面に電子伝導性酸化物を固着させることができる電極材料の製造方法を提供する。
【解決手段】以下の工程(1)~(4)を含む電極材料の製造方法。(1):MCと無水アルコールとを接触させ、細孔内に無水アルコールが導入されたMCを含む分散液を得る工程。(2):無水アルコールを導入したMCを含む分散液と前記電子伝導性酸化物のスズアルコキシド溶液と水/アルコール溶媒とを混合して得られた混合溶液から溶媒を留去させ、MCにスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得る工程。(3):得られた乾燥物を熱処理し、MCの細孔内表面及び細孔外表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程。(4):得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に溶媒を留去して得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラスカーボン及び前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に固着した酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物からなる多孔質複合担体と、前記多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子と、を含む電極材料の製造方法であって、以下の工程(1)~(4)を含む製造方法。
工程(1):メソポーラスカーボンと無水アルコールとを接触させ、細孔内に無水アルコールが導入されたメソポーラスカーボンを含む分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた無水アルコールを導入したメソポーラスカーボンを含む分散液と、前記電子伝導性酸化物のスズアルコキシドを含むスズアルコキシド溶液と、水/アルコール溶媒とを混合して混合溶液を得た後に、当該混合溶液から溶媒を留去させ、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面にスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた乾燥物を熱処理し、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程
【請求項2】
工程(1)において、無水アルコールがメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノールから選択される1種以上である請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項3】
工程(2)において、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面にスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得た後に、得られた乾燥物をニオブアルコキシド溶液に分散した後に溶媒を留去させて乾燥物を得る、請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項4】
工程(2)において、前記混合溶液における水及びアルコール(前記分散液中の無水アルコール分含む)の合計100体積%における水の割合が、0.1体積%以上10体積%以下である請求項1から3のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
工程(3)において、熱処理温度が、350℃以上650℃以下である請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項6】
工程(4)において、前記電極触媒前駆体が、貴金属アセチルアセトナートである請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用電極に好適な電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、これを動力源とする燃料電池自動車(FCV)が既に市販され、今後トラックやバス、船舶などへの用途拡大と普及展開が期待されている。PEFCは、一般的に、固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を配置させた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly(MEA))を、ガス流路が形成されたセパレータで挟持した構造を有する。燃料電池用電極(特にはPEFC用電極)は、一般に、電極触媒活性を有する電極材料及び高分子電解質からなる電極触媒層と、ガス通気性と電子伝導性を兼ね備えたガス拡散層とから構成される。
【0003】
現在普及しているPEFC用電極材料として、炭素系担体に電極触媒微粒子(典型的にはPt又はPt合金微粒子)を分散させて担持した電極材料が用いられている。
【0004】
一方、PEFCの電解質膜は酸性(pH=0~3)であるため、PEFCの電極材料は酸性雰囲気下で使用されることになる。また、通常運転しているときのセル電圧は0.4~1.0Vであるが、起動停止時にはセル電圧が1.5Vまで上昇することが知られている。このようなPEFCの運転条件でのカソード及びアノードの状態は、カソードにおいては担体である炭素系材料が二酸化炭素(CO2)として分解する領域である。そのため、カソードでは、炭素担体が電気化学的に酸化されてCO2に分解する反応が起こり、結果として炭素担体が腐食されて(カーボン腐食)、触媒活性成分であるPt粒子の凝集・脱落等を引き起し、燃料電池の性能低下の要因となる。また、カソードだけでなく、アノードにおいても運転初期などに燃料ガスが不足すると、その部分での電圧低下、あるいは濃度分極が生じて局部的に通常と反対の電位となり、炭素の電気化学的酸化分解反応が起こることがある。
【0005】
上述した炭素担体の腐食の問題に対し、PEFC作動条件(強酸性、高電位)で熱力学的に安定な電子伝導性酸化物(SnO2、TiO2等)を使用した電極材料が報告されている(特許文献1,2)。このような電極材料では、金属酸化物に由来する優れた耐久性が得られる。
【0006】
また、近年、メソポーラスカーボンを触媒担体の骨格にし、メソポーラスカーボンの細孔(メソ孔)内に、Pt微粒子を担持した電極材料が注目されている(例えば、特許文献3、4)。メソポーラスカーボンは、導電性に優れ、ガス拡散もしやすく、且つ高表面積を有するため、これを固体高分子形燃料電池の電極触媒の担体として使用すると、優れた発電性能を有する電極を得ることができる。
【0007】
特許文献1,2での電子伝導性酸化物の担持(固着)方法は、有機溶媒に溶かした前駆体にアンモニア水または純水を滴下して電子伝導性酸化物を得る手法であるが、これらの方法では、反応速度が速く制御が困難であるため、生成した電子伝導性酸化物の一次粒子サイズが大きくなり(10nm以上)、一次粒子が凝集した状態でカーボン担体に担持(固着)されてしまう。そのため、特に当該電子伝導性酸化物の担持(固着)方法は、メソポーラスカーボンに適用しようとしても、メソポーラスカーボンのメソ孔内に電子伝導性酸化物を均一に担持(固着)させることは極めて困難であると考えられていた。
【0008】
一方、本発明者等は特許文献5においてメソポーラスカーボンと電子伝導性酸化物前駆体のアルコキシド化合物とを非水有機溶媒中で均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥させて得られた乾燥物を、水蒸気による加水分解を行うことによって、電子伝導性酸化物前駆体を分解し、次いで熱処理を行うことでメソポーラスカーボン表面に電子伝導性酸化物を固着させる工程を含む燃料電池用電極材料の製造方法を報告している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5322110号公報
【特許文献2】特許第6598159号公報
【特許文献3】特許第6969996号公報
【特許文献4】特許第6931808号公報
【特許文献5】特願2022-141541号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献5で開示したメソポーラスカーボンの細孔に電子伝導性酸化物前駆体を導入した後に、水蒸気を導入して加水分解を行う方法では、メソポーラスカーボンの細孔内部に電子伝導性酸化物を確実に形成できるが、生産性の面では改善の余地があった。
【0011】
かかる状況下、本発明の目的は、水蒸気による加水分解を行わずにメソポーラスカーボンの細孔外表面及び細孔内表面に電子伝導性酸化物を固着させることができ、カーボン腐食に対する優れた耐久性と、メソポーラスカーボンに起因する優れた電子伝導性を併せ持つ電極材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> メソポーラスカーボン及び前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に固着した酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物からなる多孔質複合担体と、前記多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子と、を含む電極材料の製造方法であって、以下の工程(1)~(4)を含む製造方法。
工程(1):メソポーラスカーボンと無水アルコールとを接触させ、細孔内に無水アルコールが導入されたメソポーラスカーボンを含む分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた無水アルコールを導入したメソポーラスカーボンを含む分散液と、前記電子伝導性酸化物のスズアルコキシドを含むスズアルコキシド溶液と、水/アルコール溶媒と、を混合して混合溶液を得た後に、当該混合溶液から溶媒を留去させ、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面にスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた乾燥物を熱処理し、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程
<2> 工程(1)において、無水アルコールがメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノールから選択される1種以上である<1>に記載の電極材料の製造方法。
<3> 工程(2)において、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面にスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得た後に、得られた乾燥物をニオブアルコキシド溶液に分散した後に溶媒を留去させて乾燥物を得る<1>または<2>に記載の電極材料の製造方法。
<4> 工程(2)において、前記混合溶液における水及びアルコール(前記分散液中の無水アルコール分含む)の合計100体積%における水の割合が、0.1体積%以上10体積%以下である<1>から<3>のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
<5> 工程(3)において、熱処理温度が、350℃以上650℃以下である<1>から<4>のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
<6> 工程(4)において、前記電極触媒前駆体が、貴金属アセチルアセトナートである<1>から<5>のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、カーボン腐食に対する優れた耐久性と、メソポーラスカーボンに起因する優れた電子伝導性を併せ持つ電極材料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は本発明に係る電極材料の概念模式図であり、(b)は細孔近傍の拡大模式図(電子伝導性酸化物が分散固着)、(c)は細孔近傍の拡大模式図(電子伝導性酸化物が連続固着(被覆))である。
図2】実験例の電極材料(電極触媒未担持)の作製手順のフローチャートである。
図3】実験例の電極材料(電極触媒未担持)のXRDプロファイルである。ある。
図4】実験例A3の電極材料(電極触媒未担持、600℃)の微細構造観察結果であり、(a)SEM像、(b)TEM像である。
図5】実験例A4の電極材料(電極触媒未担持、700℃)の微細構造観察結果(SEM像)である。
図6】実験例の電極材料(電極触媒未担持、400℃、500℃、600℃)の制限視野電子線回析である。
図7】実験例A3,A5~A7の電極材料(電極触媒未担持、SnO固着率20~75wt%)のSTEM/EDSマッピング像である。
図8】実験例A6の電極材料(電極触媒未担持、SnO固着率40wt%)のSTEM像(右図(a)~(c))及びメソ孔内部の酸化スズ粒子配置の模式図(左図)である。
図9】アセチルアセトナート法による電極触媒担持の手順のフローチャートである。
図10】実験例A3の電極材料(Pt/Sn0.98Nb0.022/MC)のSTEM/EDSである。
図11】起動停止サイクル試験の条件を示す図である。
図12】起動停止サイクル試験における実施例の電極材料(SnO固着率20~75wt%)及び比較例の電極材料(SnO固着率0wt%)の電気化学的有効表面積(ECSA)変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0017】
本発明は、メソポーラスカーボン及び前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に固着した酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物からなる多孔質複合担体と、前記多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子と、を含む電極材料の製造方法であって、以下の工程(1)~(4)を含む製造方法(以下、「本発明の電極材料の製造方法」又は単に「本発明の製造方法」と記載する。)に関する。
【0018】
工程(1):メソポーラスカーボンと無水アルコールとを接触させ、細孔内に無水アルコールが導入されたメソポーラスカーボンを含む分散液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた無水アルコールを導入したメソポーラスカーボンを含む分散液と、前記電子伝導性酸化物のスズアルコキシドを含むスズアルコキシド溶液と、水/アルコール溶媒と、を混合して混合溶液を得た後に、当該混合溶液から溶媒を留去させ、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面にスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた乾燥物を熱処理し、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程
【0019】
本発明の製造方法で製造される電極材料(以下、「本発明の電極材料」と称す場合がある。)において、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物はメソポーラスカーボンにおける細孔内表面及び細孔外表面の一部または全部に固着し、電極触媒粒子は当該電子伝導性酸化物に担持された構造を有する。すなわち、電極触媒粒子は、メソポーラスカーボンに、前記電子伝導性酸化物を介して担持されている。
【0020】
なお、以下において酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物の原料となるスズアルコキシド(及びドープ種となる元素を含む他のアルコキシド)を「原料アルコキシド」と称する場合がある。
【0021】
また、本明細書において、「固着」は、担体骨格であるメソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に、アルコキシドの加水分解物(電子伝導性酸化物前駆体)又は電子伝導性酸化物が容易に脱離(剥離)しない程度に固定されていることを意味する。
【0022】
詳細は後述するが、本発明の電極材料の製造方法の特徴のひとつは、工程(1)においてメソポーラスカーボンの細孔内に無水アルコールを導入することにある。
メソポーラスカーボンはメソ孔領域(2~50nm)の細孔を有する多孔質炭素であり、メソポーラスカーボン表面に原料アルコキシドの加水分解物(電子伝導性酸化物前駆体)を固着させるにあたり、未処理のメソポーラスカーボンでは細孔内に電子伝導性酸化物の前駆体化合物である原料アルコキシド及び当該原料アルコキシドの加水分解のための水を導入することは困難であるため、未処理のメソポーラスカーボンでは原料アルコキシドの加水分解物の大部分が細孔外表面に固着されるという課題がある。
この課題に対し、本発明の製造方法ではメソポーラスカーボンの細孔内に両親媒性溶媒である無水アルコールを導入することによって、工程(2)において、原料アルコキシドと水/アルコール溶媒がメソポーラスカーボンでは細孔内に導入されやすくなる。この状態で溶媒を留去するとアルコール成分が優先的に留去される結果、水が相対的に高濃度になり、原料アルコキシドの加水分解反応が進行し、メソポーラスカーボンの細孔外表面のみならず、細孔内表面にも原料アルコキシドの加水分解物(電子伝導性酸化物前駆体)を固着させることができる。そのため、工程(2)で得られる乾燥物を熱処理することによって、メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得ることができ(工程(3))、得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理することで多孔質複合担体に電極触媒粒子が担持された目的とする電極材料を得ることができる(工程(4))。
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0024】
図1(a)は本発明の電極材料の代表的な構成を示す模式図であり、図1(b)は、細孔近傍の拡大模式図である。
【0025】
図1(a)に示すように、本発明に係る電極材料1は、担体骨格であるメソポーラスカーボン2と、メソポーラスカーボン2(細孔内表面2a及び外表面2b)に固着された粒子状の電子伝導性酸化物3aと、からなる多孔質複合担体と、電子伝導性酸化物3aに担持された電極触媒粒子3bによって構成される。
【0026】
電極材料1の担体骨格であるメソポーラスカーボン2(以下、「本発明に係るメソポーラスカーボン」と称す場合がある。)は、メソ孔領域の細孔を多数有する多孔質炭素である。
【0027】
なお、本明細書において、「細孔」とは、例えば径が150nm以下の孔(特に径が100nm以下の孔)を包含するものとする。「メソ孔領域の細孔」とは径が2nm~50nmの細孔を意味するものとする。また、本明細書において「マイクロ孔領域の細孔」とは径が2nm未満の細孔を意味し、「マクロ孔領域の細孔」とは径が50nm超150nm以下の細孔を意味するものとする。
【0028】
メソポーラスカーボン2として、メソ孔領域(2~50nm)の細孔を有する多孔質炭素が使用できるが、好適には細孔径3nm以上40nm以下である。この範囲であれば、細孔の内壁に、電子伝導性酸化物や電極触媒を固着(担持)した場合でも細孔内部への物質拡散が著しく阻害されることなく、スムーズに行われる。
【0029】
また、本発明の電極材料を用いて燃料電池用電極を作製するにあたり、本発明の電極材料と、プロトン伝導性電解質材料(イオノマー)とを混合するが、プロトン伝導性電解質材料(イオノマー)は、大きさ数十nmであるため、細孔径の小さいメソ孔内には浸入できないため、メソポーラスカーボンの細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持された電極触媒金属に対するイオノマー由来の被毒を抑制することができる。
【0030】
本発明に係るメソポーラスカーボンは、メソ孔領域(2nm~50nm)の細孔以外の領域(マイクロ孔領域、マクロ細孔)を含んでいてもよいが、メソ孔領域の細孔の割合が多い方が好ましい。
【0031】
メソポーラスカーボンの細孔の構造(細孔径、形状等)は、電子顕微鏡で観察することにより確認できる。電子顕微鏡としては、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FESEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)が挙げられる。
【0032】
メソポーラスカーボン2におけるメソ孔領域の細孔は、他の細孔とは独立した単独孔の他、メソ孔領域の細孔の一部又は全部が隣接するメソ孔領域の細孔と相互に連通している連通孔を有しており、三次元的な網目構造を有することが好ましい。連通孔の存在により、メソポーラスカーボンの細孔内部の物質の拡散が促進される。
【0033】
電極材料の大きさや形状は、その骨格材料であるメソポーラスカーボンの大きさや形状に依存する。メソポーラスカーボンの大きさや形状は、燃料電池用電極を形成したときに電極材料が連続的に接触でき、かつ燃料電池用電極内の水素や酸素などのガス拡散及び水(蒸気)の排出がスムーズに行える程度の空間を形成できる範囲で決定される。
【0034】
本発明の電極材料に使用されるメソポーラスカーボンは、適宜合成して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、MgOを鋳型とするメソポーラスカーボンである東洋炭素株式会社製のCNovelシリーズ(設計メソ孔径:5~150nm)が挙げられる。
【0035】
(電子伝導性酸化物)
図1に示すように、本実施形態の電極材料1では、電子伝導性酸化物3aは、メソポーラスカーボン2におけるメソ孔領域の細孔の内表面2aに固着している。また、本実施形態の電極材料1では、電子伝導性酸化物3aは、メソポーラスカーボン2の外表面にも固着されている。
【0036】
電子伝導性酸化物の固着量は、粒径(薄膜状の場合は膜厚)や表面積等の電子伝導性酸化物の物性、電子伝導性酸化物の製造方法によっても最適値がかわるため、十分な量の電極触媒粒子が担持できる範囲で適宜決定される。例えば、電子伝導性酸化物及びメソポーラスカーボンの合計を100重量%としたとき、10重量%以上80重量%以下である。
【0037】
細孔内の電子伝導性酸化物の大きさは、メソポーラスカーボン2の細孔を閉塞せず、ガスなどの物質移動を阻害しない範囲で決定される。メソポーラスカーボン2の細孔径にもよるが、細孔の内表面に固着される電子伝導性酸化物の大きさは、好適には粒径0.5nm以上3nm以下である。
【0038】
外表面の電子伝導性酸化物3aは、メソ孔の閉塞に実質的に関与しないため、細孔内の電子伝導性酸化物より大きくてもよいが、電気抵抗を小さくするため、電極触媒粒子3bを分散担持することができる範囲内で粒径が小さい方が好ましい。外表面の電子伝導性酸化物を有する場合、その大きさは、好適には0.5nm以上10nm以下である。
【0039】
なお、「粒子状電子伝導性酸化物の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる任意の粒子状電子伝導性酸化物(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。
【0040】
なお、図1(a),(b)では、電子伝導性酸化物3aは、メソポーラスカーボン2に分散固着された粒子状電子伝導性酸化物であるがこれに限定されず、電子伝導性酸化物3aはメソポーラスカーボン2に固着されていればよい。例えば、図1(c)のように電子伝導性酸化物3aが分散せずに、連続してメソポーラスカーボン2の表面(特には細孔内表面)を被覆するように固着していてもよい。すなわち、本発明の電極材料において、固着した電子伝導性酸化物の形態は、本発明の目的を損なわない限り、粒子状、島状、薄膜状等のいずれの形態であってもよい。
【0041】
電子伝導性酸化物3aを構成する電子伝導性酸化物としては、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物が用いられる。ここで、本発明において「主体とする電子伝導性酸化物」とは、(A)母体酸化物のみからなるもの、及び(B)他元素をドープされた酸化物であって、母体酸化物が80mol%以上含まれるもの、を意味する。
酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物は、燃料電池(特には固体高分子形燃料電池)のカソード条件で十分な耐久性と電子伝導性を併せ持つため、本発明の電極材料は、燃料電池用カソードとして使用することが好ましい。
【0042】
元素としてスズ(Sn)は、PEFCのカソード条件で、酸化物であるSnO2が熱力学的に安定であり酸化分解が起こらない。また、酸化スズは、十分な電子伝導性を有し、電極触媒粒子(特には貴金属粒子)を高分散で担持が可能な担体となる。
なお、PEFCのカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味する。
【0043】
酸化スズを主体とする酸化物の中でも、より優れた電極性能を有する燃料電池用電極が形成できる点で、ニオブ(Nb)を0.1~20mol%ドープしたニオブドープ酸化スズが特に好ましい。
【0044】
なお、本発明の燃料電池用電極をアノードとして使用する場合には、酸化スズを主体とする酸化物はPEFCのアノード条件で還元され金属Snとなるため好ましくない。
【0045】
(電極触媒粒子)
電極触媒粒子3bは、電子伝導性酸化物3aに選択的に分散担持されている。ここで「電子伝導性酸化物に選択的に分散担持」とは、全ての電極触媒粒子(個数)のうち、80%以上、好適には90%以上、より好適には95%以上(100%を含む)が、電子伝導性酸化物に担持されていることを意味する。電子伝導性酸化物に担持された電極触媒粒子の割合は、評価対象となる電極材料を電子顕微鏡で観察した任意の電極触媒粒子(100個以上)を選出し、そのうち、電子伝導性酸化物に担持された個数と、メソポーラスカーボンに担持された個数とをカウントすることにより、評価することができる。
【0046】
電極触媒粒子3bは、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性を有するものであれば、貴金属系触媒、非貴金属系触媒のいずれでもよいが、好適には、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金から選択される。なお、「貴金属を含む合金」とは「上記の貴金属のみからなる合金」と、「上記の貴金属とそれ以外の金属からなる合金で上記の貴金属を10質量%以上含む合金」を含む。貴金属と合金化させる上記「それ以外の金属」は、特に限定されないが、Co,Ni,W,Ta,Nb,Snを好適な例として挙げることができ、これらを1種類あるいは2種類以上を使用してもよい。また、分相した状態で2種類以上の上記貴金属及び貴金属を含む合金を使用してもよい。なお、本明細書において、上記貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金を以下、「電極触媒金属」と呼ぶ場合がある。
【0047】
電極触媒金属の中でも、Pt及びPtを含む合金は、固体高分子形燃料電池の作動温度である80℃付近の温度域において、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性が高いため、特に好適に使用することができる。
【0048】
電極触媒粒子3bの形状は、特に制限されず公知の電極触媒粒子と同様の形状のものが使用できる。具体的な形状として球形、楕円形、多面体、コアシェル構造等が挙げられる。また、電極触媒粒子3bの構造は、結晶に限定されず、非晶質であってよく、結晶と非晶質の混合体であってもよい。
【0049】
電極触媒粒子3bの大きさは、小さいほど電気化学反応が進行する有効表面積が増加するため、電気化学的触媒活性が高くなる傾向がある。しかし、その大きさが小さすぎると、電気化学的反応活性が低下する。従って、電極触媒粒子3bの大きさは、平均粒子径として0.5~4nmであることが好ましい。
【0050】
なお、本発明における「電極触媒粒子の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる電極触媒粒子(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。電子顕微鏡像による平均粒径算出時は、微粒子の形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。
【0051】
電極触媒粒子の担持量は、触媒の種類、担体である電子伝導性酸化物の大きさ(厚み)等の条件を考慮して適宜決定される。触媒担持量が少なすぎると電極性能が不十分となり、多すぎると電極触媒粒子が凝集して性能が低下する場合がある。
【0052】
電極触媒粒子の担持量は、電極材料の全重量に対して、好ましくは0.1~60質量%、より好ましくは0.5~20質量%とすると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電極反応活性を得ることができる。
【0053】
また、電極触媒粒子の担持量は、電子伝導性酸化物に対して、通常、3~40質量%である。このような範囲であれば、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電気化学的触媒活性を得ることができる。
前記担持量が3質量%未満の場合は、電極反応活性が不十分であり、40質量%超の場合は電極触媒粒子の凝集が起こりやすく、酸素や水素の電気化学反応に対する有効表面積が低下するという問題がある。なお、電極触媒粒子の担持量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)によって調べることができる。
【0054】
本発明の電極材料の製造方法は、上述した通り、工程(1)~(4)を含む。以下、各工程について詳述する。
【0055】
<工程(1)>
工程(1)は、メソポーラスカーボンと無水アルコールとを接触させ、細孔内に無水アルコールが導入されたメソポーラスカーボンを含む分散液を得る工程である。
【0056】
無水アルコールは両親媒性溶媒(分散媒)であるため、メソポーラスカーボン(疎水性)と接触させることによって細孔内に無水アルコールを導入することができる。
【0057】
本発明において、無水アルコールとは、99.5体積%以上、より好ましくは99.7体積%以上、特に好ましくは99.8体積%以上の純度を有するアルコールを意味する。
また、アルコールは、メソポーラスカーボンの細孔内への浸透性の高いものであればよく、具体的にはメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノールから選択される1種以上であればよいが、好ましくはエタノールである。
【0058】
メソポーラスカーボンと無水アルコールを接触させる方法は、本発明の目的を損なわない限り制限されないが、典型的にはメソポーラスカーボンを無水アルコールに浸漬して攪拌する方法が挙げられる。
【0059】
メソポーラスカーボンに対する無水アルコールの量は、メソポーラスカーボンの細孔内を十分に充填できる限り任意である。なお、メソポーラスカーボンを含む分散液は次工程(工程(2))に供され、工程(1)の溶媒(分散媒)である無水アルコールは工程(2)の混合溶液の溶媒の一部になる。
【0060】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた無水アルコールを導入したメソポーラスカーボンを含む分散液と、前記電子伝導性酸化物のスズアルコキシドを含むスズアルコキシド溶液と、水/アルコール溶媒と、を混合して混合溶液を得た後に、当該混合溶液から溶媒を留去させ、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面にスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得る工程である。
【0061】
上述の通り、未処理のメソポーラスカーボンの細孔内には水は侵入しにくいが、本発明の製造方法では工程(1)において細孔内に両親媒性の無水アルコールを導入したメソポーラスカーボンを使用し、このメソポーラスカーボンを含む分散液と、スズアルコキシド溶液及び水/アルコール溶媒(水とアルコールの混合溶媒)を混合することによって、アルコール溶媒と共にスズアルコキシド(疎水性)及び水(親水性)をメソポーラスカーボンの細孔に導入することが可能となる。
【0062】
混合溶媒中の水とアルコールとの割合は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜決定される。メソポーラスカーボンの細孔内に確実に加水分解物を生成させるためには、工程(2)における混合溶液における水及びアルコールの合計100体積%における水の割合は0.1体積%以上10体積%以下(好適には0.5体積%以上5体積%以下)である。
溶媒中の水の割合が多すぎると加水分解反応が液中で急激に進行し、生成する加水分解物が凝集しやすくなったり、メソポーラスカーボン細孔内で反応するスズアルコキシドの割合が少なくなるため、細孔内で生成する加水分解物の量が少なくなる傾向にある。
なお、混合溶液中のアルコール量は、工程(2)において水/アルコール溶媒として添加したアルコール量と、工程(1)の溶媒(分散媒)である無水アルコール量の合計である。
【0063】
工程(2)において上記水濃度が適していることについては完全に明らかでない点もあるが、以下のように推測される。
スズアルコキシドは比較的水との反応性が低いアルコキシドであるため、混合溶液中の水の濃度が小さい場合には加水分解反応は進行しにくい。そのため、混合溶液に上記水の割合が上記範囲であれば、液中での加水分解反応は実質的に進行せず、スズアルコキシドと水が未反応のままメソポーラスカーボンの細孔内に導入される。この状態で溶媒を留去を行うとアルコールが優先的に除去されるため、スズアルコキシド及び水の濃度が相対的に大きくなる。その結果、スズアルコキシドの加水分解反応が進行し(メソポーラスカーボンの細孔内及び細孔外のいずれでも)、メソポーラスカーボンの表面(細孔内表面及び細孔外表面)にスズアルコキシドの加水分解物を保持した状態で乾燥させることができる。
【0064】
工程(2)で使用される水/アルコール溶媒におけるアルコールは、具体的にはメタノール、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノールから選択される1種以上であればよいが、工程(1)で使用した無水アルコールと同じであることが好ましい。すなわち、工程(1)で無水エタノールを使用した場合は、工程(2)においてエタノールを使用することが好ましい。
【0065】
スズアルコキシドとしては、スズメトキシド、スズエトキシド、スズプロポキシド、スズブトキシド、スズメトキシエトキシドおよびスズエトキシエトキシドを使用することができる。この中でも、スズエトキシドが好適である。
【0066】
例えば、目的とする電子伝導性酸化物が、ニオブ酸化物を含有するSn酸化物である場合には、上記スズアルコキシドと共に、ニオブアルコキシドを使用すればよい。ニオブアルコキシドとしては、ニオブメトキシド、ニオブエトキシド、ニオブプロポキシド、ニオブブトキシド、ニオブメトキシエトキシドおよびニオブエトキシエトキシドを使用することができる。この中でも、ニオブエトキシドが好適である。
【0067】
目的とする電子伝導性酸化物が、ニオブ酸化物を含有するSn酸化物である場合、実施例に示すように、上記の通り、メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面にスズアルコキシドの加水分解物が固着した乾燥物を得た後に、得られた乾燥物をニオブアルコキシド溶液に分散した後に溶媒を留去させて乾燥物を得る方法が好適である。ニオブアルコキシド溶液における溶媒はスズアルコキシドを含む前記混合溶液と同じ溶媒であることが好ましい。すなわち、スズアルコキシドを含む前記混合溶液の溶媒がエタノールである場合は、ニオブアルコキシド溶液の溶媒もエタノールであることが好ましい。
【0068】
メソポーラスカーボン量及び濃度は生成する加水分解物を十分に固着できる範囲で適宜決定すればよい。例えば、最終的な原料アルコキシド由来の電子伝導性酸化物を基準とし、電子伝導性酸化物及びメソポーラスカーボンの合計を100重量%としたとき、10重量%以上80重量%以下となるように設定すればよい。
【0069】
原料アルコキシド溶液には非水系有機溶媒は、原料アルコキシドが反応しないものであればよく、例えば、アセトン、アセチルアセトン、トルエン、キシレン、ケロシン等が挙げられる。
【0070】
溶媒を留去させて乾燥する方法は、本発明の目的を損なわない限り任意であるが、減圧による溶媒の留去が好ましい。具体例を挙げると、ロータリーエバポレータ等の減圧装置を使用して減圧乾燥させる方法が挙げられる。
【0071】
<工程(3)>
工程(3)は、工程(2)で得られた乾燥物を熱処理し、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程である。
【0072】
上述の通り、工程(2)で得られた乾燥物は、メソポーラスカーボンの表面(細孔内表面、細孔外表面)に加水分解により生成した加水分解物を保持した状態である。加水分解物は、水酸化物や不定比酸化物であり、結晶性が低く、担体であるメソポーラスカーボンへの付着性に乏しいが、熱処理することによって電子伝導性酸化物の結晶性が向上し、メソポーラスカーボンに強く付着(固着)される。
【0073】
熱処理の時の雰囲気は、アルコキシド化合物の加水分解物が酸化物に変化し、電子伝導性酸化物や炭素担体への影響がない雰囲気であればよく、通常、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気である。
【0074】
熱処理温度は、電子伝導性酸化物の結晶性が向上する温度以上であればよく、350℃以上であり、好適には500℃以上、より好適には550℃以上である。また、電子伝導性酸化物の主成分である酸化スズは700℃近くなると金属スズとなるため上限温度は650℃以下、好適には630℃以下である。
【0075】
熱処理時間は、結晶性が高まり、凝集などが生じない時間で設定すればよく、熱処理温度にもよるが、通常、20分~3時間程度である。
【0076】
<工程(4)>
工程(4)は、工程(3)で得られた多孔質複合担体(細孔内表面及び細孔外表面に電子伝導性酸化物が固着したメソポーラスカーボン)と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程である。
【0077】
工程(3)では、多孔質複合担体(表面に電子伝導性酸化物が固着したメソポーラスカーボン)における電子伝導性酸化物の上に電極触媒粒子前駆体が担持した乾燥物を得る。得られた乾燥物に含まれる多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子体は、不定比の金属酸化物を含むことがあり、そのままでは活性が低いため、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気、あるいは水素を含有する還元性雰囲気中で熱処理することで電極触媒となる金属の有する電気化学触媒作用を活性化する。
【0078】
工程(3)における電極触媒前駆体は、本発明の目的を損なわない限り制限はないが、電極触媒前駆体によっては、電極金属粒子の粒径や分散性の点で、本発明の目的を達成することができない場合がある。
【0079】
高分散で粒径の小さい電極触媒粒子を得ることが可能な電極触媒前駆体として、電極触媒のアセチルアセトナート化合物が好適である。電極触媒前駆体であるアセチルアセトナート化合物を多孔質複合担体へ担持した後に、電極触媒前駆体を電極触媒粒子へ直接的に変換される。この方法では、電極触媒前駆体に残留不純物を含まないため、触媒活性の向上が見込まれる。
アセチルアセトナート法では、電極触媒のアセチルアセトナート化合物をジクロロメタンなどの適当な溶媒に溶解させた溶液に多孔質複合担体を分散し、それを撹拌及び溶媒の留去を行うことにより、電極触媒前駆体の担持が行うことができる、この方法では塩素や硫黄といった不純物が混入することを回避でき、ナノサイズの粒径分布の揃った電極触媒粒子を高分散に担持することができる。また、溶液中に強い酸化剤や還元剤を用いることがないため、多孔質複合担体を構成する電子伝導性酸化物や炭素担体であるメソポーラスカーボンが劣化することを回避できるという利点がある。
【0080】
電極触媒のアセチルアセトナート化合物としては、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属のアセチルアセトナートが挙げられ、これらを1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、貴金属アセチルアセトナートを分散できる有機溶媒であればよく、代表例としては、ジクロロメタン、アセチルアセトンが挙げられる。
【0081】
アセチルアセトナート法による電極触媒微粒子の担持方法を提示すると、電子伝導性酸化物が担持された導電補助材と貴金属アセチルアセトナートとを所定の容器に入れ、氷冷しながら、超音波攪拌装置にて、溶媒が全て揮発するまで攪拌する方法が挙げられる。
【0082】
熱処理条件は、電子伝導性酸化物や、電極触媒となる金属や前駆体の種類にもよって、適宜選択される。例えば、酸化スズ等の還元性雰囲気では不安定な電子伝導性酸化物の場合には、電極触媒がPtやPt合金の場合、通常、180~400℃、好適には200~250℃である。温度が低すぎると電極触媒となる金属の活性化が不十分となり、温度が高すぎると電極触媒粒子が凝集し、有効反応表面積が小さくなりすぎる問題がある。雰囲気には必要に応じて水蒸気を加えてもよい。
【0083】
以上、本発明について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。特に、今回の開示において、明示的に開示されていない事項、例えば、操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用することができる。
【実施例0084】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、メソポーラスカーボンを、「MC」と記載する場合がある。
【0085】
1.電極材料の作製
実施例の電極材料として、以下の電極材料を製造した。
【0086】
使用した多孔質炭素、原料アルコキシド(電子伝導性酸化物前駆体)、電極触媒前駆体、溶媒は以下の通りである。
<多孔質炭素>
多孔質炭素として、下記メソポーラスカーボン(MC)(東洋炭素(株)製、「多孔質炭素CNovel MJ(4)010(グレード名)」)を使用した。
設計細孔径:10nm
比表面積:1100m2/g
全細孔容積:2.0mL/g
ミクロ孔容積:0.4mL/g
粒径:100mesh pass(粉砕して使用)
<電子伝導性酸化物前駆体>
Snアルコキシドとして、スズエトキシド(Sn(OC254)(Strem chemicals INC)、Nbアルコキシドとして、ニオブエトキシド(Nb(OC255)(Sigma Aldrich)を使用した。
<電極触媒前駆体>
電極触媒前駆体(貴金属前駆体化合物)として、Ptアセチルアセトナート(Pt(C5722、Platinum(II) acetylacetonate,97%,Sigma Aldrich)を使用した。なお、Ptアセチルアセトナートを、以下、Pt前駆体(Pt(acac)2)と記載する場合がある。
<溶媒(分散媒)>
無水エタノール(キシダ化学株式会社 特級エタノール(99.5))
【0087】
図2に示すフローチャートのとおり、ニオブドープ酸化スズをメソポーラスカーボン(MC)に固着した多孔質複合担体(「電極材料(電極触媒未担持)」と記載する場合がある。)を製造した。
【0088】
<実験例A1>
工程(1):無水エタノール50mLに担体骨格材である上記メソポーラスカーボン(MC)183.7mgを入れて、MC細孔内に無水エタノールが導入されるように十分に混合した。
工程(2):無水エタノールを導入したMC及びスズエトキシド溶液(スズエトキシド375mgをアセチルアセトン6mLに溶解)をエタノール及び水の混合溶媒に入れ十分に混合することで混合溶液を得た。混合溶液の内容物のモル比は、スズエトキシド:水:MC=1.8:55.6:15.3であり、混合溶液中の溶媒量は100mL(エタノール92mL(工程(1)の無水エタノール分も含む)、水2mL、アセチルアセトン6mL)である。
工程(3):得られた混合溶液を、減圧するための真空ポンプと制御ユニット及び回転機能が備わったロータリーエバポレータを使用し、超音波撹拌をしながら減圧し、溶媒を蒸発させることで、MC表面(細孔内表面及び外表面)にスズエトキシドが均一に吸着した乾燥粉末を得た。次いで、得られた乾燥粉末を再度エタノールに分散し、エタノール203.4μLに溶解されたニオブエトキシド11.663mgを加えた。溶媒がすべて蒸発するまで減圧乾燥させMC表面(細孔内表面及び細孔外表面)にスズエトキシド及びニオブエトキシドが吸着した乾燥粉末を得た。
工程(4):得られた乾燥粉末を粉砕後、400℃で2時間、N雰囲気中で熱処理した後に、自然冷却で室温に戻すことによってニオブドーブ酸化スズを固着したMCからなる実験例A1の電極材料(電極触媒未担持、「Sn0.98Nb0.022/MC-400℃」)を得た。
なお、実験例A1の電極材料において、酸化物(Sn0.98Nb0.022)60wt%(仕込み量)である。
【0089】
<実験例A2>
原料アルコキシド(スズエトキシド及びニオブエトキシド)を吸着させた乾燥粉末の熱処理条件を400℃で2時間、次いで500℃で30分に変更した以外は、実験例A1と同様にして、実験例A2の電極材料(電極触媒未担持、「Sn0.98Nb0.022/MC-500℃」)を得た。
【0090】
<実験例A3>
原料アルコキシド(スズエトキシド及びニオブエトキシド)を吸着させた乾燥粉末の熱処理条件を400℃で2時間、次いで600℃で30分に変更した以外は、実験例A1と同様にして、実験例A3の電極材料(電極触媒未担持、「Sn0.98Nb0.022/MC-600℃」)を得た。
【0091】
<実験例A4>
原料アルコキシド(スズエトキシド及びニオブエトキシド)を吸着させた乾燥粉末の熱処理条件を400℃で2時間、次いで700℃で30分に変更した以外は、実験例A1と同様にして、実験例A4の電極材料(電極触媒未担持、「Sn0.98Nb0.022/MC-700℃」)を得た。
【0092】
<実験例A5>
酸化物(Sn0.98Nb0.022)20wt%(仕込み量)にした以外は実験例A3(60wt%(仕込み量))と同様にして、実験例A5の電極材料(電極触媒未担持)を得た。
【0093】
<実験例A6>
酸化物(Sn0.98Nb0.022)40wt%(仕込み量)にした以外は実験例A3と同様にして、実験例A6の電極材料(電極触媒未担持)を得た。
【0094】
<実験例A7>
酸化物(Sn0.98Nb0.022)75wt%(仕込み量)にした以外は実験例A3と同様にして、実験例A7の電極材料(電極触媒未担持)を得た。
【0095】
2.電極材料(電極触媒未担持)の評価
実験例A1~A4の電極材料(電極触媒未担持)の結晶性をX線回折法、微細構造を電子顕微鏡で評価した。
図3に、熱処理温度600℃(実験例A3)、700℃(実験例A4)及び参照として熱処理なしのXRDプロファイルを示す。
また、図4に熱処理温度600℃(実験例A3)のFE-SEM像及びTEM像、図5に熱処理温度700℃(実験例A4)のFE-SEM像、図6に熱処理温度400℃(実験例A1)、500℃(実験例A2)の制限視野電子線回析を示す。
【0096】
図3に示す通り熱処理温度600℃(実験例A3)ではSnO結晶を示すXRDシグナルが明確に確認された、図4においてもMC以外に微粒子が存在することが確認された。また、熱処理温度400℃(実験例A1)及び500℃(実験例A2)ではSnO結晶を示すXRDシグナルが熱処理温度600℃と比較して明確ではなかったものの(図示せず)、図6に示す制限視野電子線回析から、熱処理温度400℃(実験例A1)及び500℃(実験例A2)にもSnO結晶が存在し、熱処理温度を上げるとSnOの結晶性が向上することが確認された。
【0097】
一方、熱処理温度700℃(実験例A4)では、図5に示す通り、非常に大きな粒子がMC外に生成されることが確認された。そして、図3の通り、熱処理温度700℃(実験例A4)では、SnO結晶を示すXRDシグナルと共に、金属Snのピークが確認されたことから、700℃の高温熱処理によって酸化スズがカーボンと反応し酸化スズが還元されたと共にカーボンが消失してMCのメソ構造が消え、金属スズの凝集が進行したと判断した。
【0098】
熱処理温度600℃で、酸化物固着量を変化させた実験例A3、実験例A5~A7についてSTEM/EDSマッピングによる評価を行った結果を図7に示す。
実験例A3(20wt%)や実験例A5(40wt%)ではSnのシグナルが分離しているのに対し、実験例A6(60wt%)及び実験例A7(75wt%)はSnのシグナルが接触していることから、酸化スズが高担持になると粒子同士が接触していると判断した。一方、酸化スズの担持量を増やしても、特に大きな凝集は確認されなかった。この結果から、メソポーラスカーボンの多孔構造が酸化スズの粒成長を抑え、凝集を抑制していると判断した。
【0099】
次に実験例A6(酸化スズ固着率40wt%)を使用し、MCにおけるメソ孔内の微細構造観察を行った結果を図8に示す。
図8右は、同じ範囲をSTEMのフォーカスを変えて撮影した像でありm、(a)は手前にフォーカス(メソ孔表面近傍)、(b)メソ孔内部、(c)はメソ孔内部、である。
MCの細孔サイズである約10nmの円の中に粒子が存在していることから、メソ孔内部に酸化スズ粒子が担持されていることが確認された。また、フォーカスを変えるごとに異なる粒子から格子縞が観察できたことから、酸化スズが階層をなして存在しており(図8左イメージ図参照)、表面付近で凝集することなく、メソ孔の奥まで分散担持できていることが確認された。
【0100】
3.電極材料(Pt担持)の作製及び微細構造評価
図9に示すフローチャートのとおり、実験例A3、実験例A5~A7の電極材料(電極触媒未担持)に、白金アセチルアセトナート法により、電極触媒粒子であるPt触媒粒子を担持した。Pt前駆体(Pt(acac)2)の量は、Ptが30wt%になるようにした。
ナスフラスコに、ニオブドーブ酸化スズを固着したMCからなる実験例1の電極材料(電極触媒未担持)およびPt前駆体(Pt(acac)2)を加え、さらにアセトンを加え溶解させた。次いで、超音波洗浄器で超音波をかけながらロータリーエバポレータで減圧し溶媒がすべて蒸発するまで回転させて乾燥粉末を得た。次いで、得られた乾燥粉末をN2雰囲気下で、210℃で3時間、240℃で3時間熱処理を施すことで、実験例A3、実験例A5~A7の電極材料(「Pt/Sn0.98Nb0.022/MC」)を得た。
【0101】
<比較例1>
比較例として、MCに白金アセチルアセトナート法により、Ptを担持した比較例1の電極材料(Pt/MC)を得た。
【0102】
(2)電極材料(Pt担持)
の電極材料(Pt/Sn0.98Nb0.022/MC)のSTEM/EDSを示す。図10の通り、実験例A3の電極材料ではPt微粒子がSn(Nb)Oを介してMCに分散担持されていることが確認された。また、図示しないが、実験例A5~A7の電極材料についても同様であった。なお、比較例1の電極材料では、Pt微粒子が直接MCに担持されていることが確認された。
【0103】
4.電気化学的評価(ハーフセル)
4-1.サイクリックボルタンメトリー(CV)の評価
実験例A3,A5~7及び比較例1の電極材料について、サイクリックボルタンメトリー(CV)による評価を行った。CVから求めた水素吸着量から電気化学的表面積(ECSA)を算出した。なお、ECSAは、電極材料に含まれるPtの有効表面積に相当する。
【0104】
評価用の燃料電池電極は、以下の手順で作製した。
まず、超純水19mLと2-プロパノール6mLの混合溶液を、電極材料粉末の入ったサンプル瓶に加え、続けて5%Nafion分散液100μLを加えた後、氷水にサンプル瓶を浸した状態で超音波撹拌を30分間行って電極材料分散液とした。なお、電極材料粉末の量は、電極上に電極材料の分散液10μLを滴下した際に、電極上の単位面積当たりのPt質量が17.3μg-Pt・cm-2となるようにした。調製した電極材料分散液10μLを、マイクロピペットを用いてAuディスク電極上に滴下し、恒温器に入れて60℃で約15分間乾燥を行うことで、Nafion膜を形成させて電極材料をAu電極上に固定し、評価用の燃料電池電極(作用極)を得た。
【0105】
CVの測定条件は以下の通りである。なお、1原子のPtに付き1原子のHが吸着すると仮定すると210μC/cm2の電気量となる。

測定:三電極式セル(作用極:評価用の燃料電池電極、対極:Pt、参照極:Ag/AgCl)
電解液:0.1M HClO4(pH:約1)
測定電位範囲:0.05~1.2V(可逆水素電極基準)
走査速度 :50 mV/s
水素吸着量:0.05~0.4Vの水素吸着を示すピーク面積から算出
電気化学的表面積(ECSA):下記式より算出

ECSA=(水素吸着量)[μC] / 210[μC/cm2]
【0106】
4-2.ORR活性の評価
実験例A3,A5~7及び比較例1の電極材料についてORR活性の評価を行った。
ORR活性は、回転ディスク電極法(RDE法)でリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を行い、得られる活性化支配電流(ik)を基に算出するMass activity(単位Pt質量当たりの活性)を指標とした。

Mass activity = i / 電極上のPt質量

活性化支配電流(ik)は、回転電極測定によって得られた電流-電位曲線について、任意の電位においてi-1とω-1/2でプロットして得られるKoutecky-Levichプロットを作成し、得られた直線を外挿することによって切片から求めた。
具体的な手順として、まず、O2を50mL/分で30分間バブリングした後、0.2VRHEから貴な方向に向けて10mV/sで1.20VRHEまで電位を走査し、測定を行った。なお、測定中は常にO2を50mL/分でパージした。なお、VRHEは可逆水素電極(RHE)基準の電位である。
【0107】
実験例A3,A5~7の電極材料(Pt/Sn0.98Nb0.022/MC)及び比較例1(Pt/MC)についてCV及びLSVを行い、電気化学的表面積(ECSA)、Mass activity(j(0.9VRHE))、Specific activity(j)を求めた。結果を表1にまとめて示す。






【0108】
【表1】

【0109】
4-3.起動停止サイクル試験
実験例A3,A5~7及び比較例1の電極材料について燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨する方法(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)で起動停止サイクル試験を行った。起動停止サイクル試験は、カーボン腐食を促進させるサイクル試験であり、具体的には図11に示す1.0~1.5VRHEの短形波を、1サイクル当たり2秒印加することを繰り返し、サイクル試験後の電極触媒の劣化挙動をECSA変化として評価する。
【0110】
図12に起動停止サイクル試験(6万サイクル迄)における実験例A3,A5~7及び比較例1の電極材料のECSA変化(相対値)を示す。
図12からわかるように、比較例1の電極材料(Pt/MC、0wt%)を使用した電極は、起動停止サイクル試験直後からECSAが大きく減少し、1万サイクルで初期値の50%程度となり、2万サイクルまで試験を継続できなかった(ECSA維持率はほぼ0)。
これに対し、実験例A3,A5~7の電極材料(Pt/Sn0.9Nb0.12/MC)を使用した電極では、ECSAの減少が緩やかであり、いずれも6万サイクルまで試験が可能であった。
特に、実験例A3(酸化物固着率、60wt%)初期値の30%程度、実験例A7(酸化物固着率、75wt%)では初期値の55%程度を保持できることが確認された。
この結果から、PtがMCに直接接触せず、酸化物を介して担持されることで劣化を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明の電極材料によれば、優れた電極触媒活性、電子伝導性、ガス拡散性、及び優れた耐久性を有する燃料電池用電極を供することができ、自動車、電力、ガス、家電業界で使用される固体高分子形燃料電池の電極構成部材として有望である。特に、負荷変動が激しい燃料電池自動車向けに使用されることが期待される。
【符号の説明】
【0112】
1 電極材料
2 多孔質炭素(メソポーラスカーボン)
2a 細孔内表面
2b 外表面
3a 電子伝導性酸化物
3b 電極触媒粒子
P 細孔(メソ孔)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12