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特開2024-144868挿し口突部の製造方法および挿し口突部を備えた管体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144868
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】挿し口突部の製造方法および挿し口突部を備えた管体
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20241004BHJP
   F16L 21/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B23K9/04 Q
F16L21/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057019
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 慧
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】高 業飛
(57)【要約】      (修正有)
【課題】生産性を向上させることが可能な挿し口突部の製造方法および挿し口突部を備えた管体を提供する。
【解決手段】挿し口突部の製造方法は、管体(P)を軸心回りに回転可能に保持する工程と、第1の溶接材料を送り出すための第1の溶接ワイヤ(21)、および、第2の溶接材料を送り出すための第2の溶接ワイヤ(22)を、鉛直方向に対して挿し口側に傾けた状態で管体(P)の外周面(1a)に向けてセッティングする工程と、第1溶接材料(21)に通電させて発生したアークにより挿し口の外周面に溶融部を形成し、溶融部が硬化する前に第2の溶接材料(22)を非通電で溶融部に宛がうことにより、突部を溶接肉盛りで形成する工程とを備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に挿し口が設けられる管体において、前記挿し口の外周面において径方向外側に向かって突出する挿し口突部を形成する挿し口突部の製造方法であって、
前記管体を軸心回りに回転可能に、かつ、水平に保持する工程と、
第1の溶接材料を送り出すための第1の溶接ワイヤ、および、第2の溶接材料を送り出すための第2の溶接ワイヤを、鉛直方向に対して前記挿し口側に傾けた状態で前記管体の外周面に向けてセッティングする工程と、
前記第1の溶接材料に通電させて発生したアークにより前記挿し口の外周面に溶融部を形成し、前記溶融部が硬化する前に前記第2の溶接材料を非通電で前記溶融部に宛がうことにより、前記突部を溶接肉盛りで形成する工程とを備えた、挿し口突部の製造方法。
【請求項2】
前記セッティング工程において、前記第1の溶接ワイヤおよび前記第2の溶接ワイヤの鉛直方向に対する傾斜角度は、10°以上30°以下である、請求項1に記載の挿し口突部の製造方法。
【請求項3】
前記セッティング工程において、前記第1の溶接ワイヤおよび前記第2の溶接ワイヤは、鉛直中心線に対して前記管体の回転方向上流側にずれた位置に配置される、請求項1または2に記載の挿し口突部の製造方法。
【請求項4】
前記セッティング工程において、前記第1の溶接ワイヤは、前記管体の軸心を向くように配置されている、請求項3に記載の挿し口突部の製造方法。
【請求項5】
先端に挿し口が設けられ、前記挿し口の外周において径方向外側に向かって突出する挿し口突部を備えた管体であって、
前記挿し口に設けられ、前記挿し口の外周面よりも半径方向外側に突出する溶接金属から形成される突部と、
前記突部の内径側に位置し、前記挿し口の母材と前記溶接金属とが融合した溶け込み部とを備え、
前記溶け込み部は、その肉厚が最大となる肉厚最大部を有し、
前記溶け込み部の挿し口側端部から前記肉厚最大部までの軸方向長さは、前記溶け込み部の受け口側端部から前記肉厚最大部までの軸方向長さよりも長い、挿し口突部を備えた管体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿し口突部の製造方法および挿し口突部を備えた管体に関し、特に先端に挿し口が設けられる管体において、挿し口の外周面において径方向外側に向かって突出する挿し口突部を形成する挿し口突部の製造方法および挿し口突部を備えた管体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の流体を移送するために使用される管体として、その継ぎ手部に伸縮機能と離脱防止機能を備えたものがある。この種の継ぎ手構造は耐震管継手とも呼ばれ、たとえば、図8に示すように、管体Pの挿し口1の外周に設けた突部10が、対向する別の管体Pの受け口2の内周溝に嵌め込んだロックリング4に係合して、抜け止め機能を発揮するようになっている。また、挿し口1の突部10が、受け口2の内面の奥端面3とロックリング4との間で所定距離だけ(図中の区間Aおよび区間Bに相当)移動することで、管軸方向への伸縮が可能となっている。また、挿し口1と受け口2との間にゴム輪5を備えたことで、挿し口1の外周面1aと受け口2の内面2aとの間の液密性も確保されている。
【0003】
このような挿し口1の突部10は、溶接金属を肉盛りすることによって形成されるが、このような手法を開示する文献として、たとえば、特許文献1(特開2022-310号公報)が挙げられる。特許文献1には、第1の溶接材料と第2の溶接材料を用いて、第1の溶接材料に通電させて発生したアークにより挿し口の外周面に溶接部を形成し、溶接部が硬化する前に第2の溶接材料を非電通で溶接部に宛がうことで、突部を溶接肉盛りで形成する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の製造方法で挿し口突部を成形する場合、溶接肉盛りしたビード表面を削って完成形状に成形していく必要があるが、ビード表面の形状が完成形の形状とは異なる形状であるため、切削量が多くなり、生産性が悪い。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、生産性を向上させることが可能な挿し口突部の製造方法および挿し口突部を備えた管体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の本発明の一態様に係る挿し口突部の製造方法は、先端に挿し口が設けられる管体において、挿し口の外周面において径方向外側に向かって突出する挿し口突部を形成する挿し口突部の製造方法であって、管体を軸心回りに回転可能に、かつ、水平に保持する工程と、第1の溶接材料を送り出すための第1の溶接ワイヤ、および、第2の溶接材料を送り出すための第2の溶接ワイヤを、鉛直方向に対して挿し口側に傾けた状態で管体の外周面に向けてセッティングする工程と、第1の溶接材料に通電させて発生したアークにより挿し口の外周面に溶融部を形成し、溶融部が硬化する前に第2の溶接材料を非通電で溶融部に宛がうことにより、突部を溶接肉盛りで形成する工程とを備える。
【0008】
好ましくは、セッティング工程において、第1の溶接ワイヤおよび第2の溶接ワイヤの鉛直方向に対する傾斜角度は、10°以上30°以下である。
【0009】
好ましくは、セッティング工程において、第1の溶接ワイヤおよび第2の溶接ワイヤは、鉛直中心線に対して管体の回転方向上流側にずれた位置に配置される。
【0010】
好ましくは、セッティング工程において、第1の溶接ワイヤの先端は、管体の軸心を向くように配置されている。
【0011】
この発明の本発明の一態様に係る挿し口突部を備えた管体は、先端に挿し口が設けられ、挿し口の外周において径方向外側に向かって突出する挿し口突部を備えた管体であって、挿し口に設けられ、挿し口の外周面よりも半径方向外側に突出する溶接金属から形成される突部と、突部の内径側に位置し、挿し口の母材と溶接金属とが融合した溶け込み部とを備え、溶け込み部は、その肉厚が最大となる肉厚最大部を有し、溶け込み部の挿し口側端部から肉厚最大部までの軸方向長さは、溶け込み部の受け口側端部から肉厚最大部までの軸方向長さよりも長い。
【発明の効果】
【0012】
本発明の挿し口突部の製造方法および挿し口突部を備えた管体によれば、生産性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る管体に形成される挿し口突部を示す断面図である。
図2】溶接時における母材と溶接位置との位置関係を示す斜視図である。
図3】溶接時における母材と溶接位置との位置関係を示す横断面図である。
図4】溶接時における母材と溶接位置との位置関係を示す模式図であり、(A)は軸方向から見た図であり、(B)は軸方向に対して直交する方向から見た模式図である。
図5】変形例を示す図であり、図4(A)に対応する図である。
図6】第1の溶接ワイヤおよび第2の溶接ワイヤを挿し口側に傾け、鉛直方向に対する傾斜角度をθ=0°にして溶接肉盛りした後の突部を示す写真である。
図7】第1の溶接ワイヤおよび第2の溶接ワイヤを挿し口側に傾け、鉛直方向に対する傾斜角度θを変更して溶接肉盛りした後の突部を示す写真であり、(A)はθ=10°、(B)はθ=20°、(C)はθ=30°である。
図8】従来技術における継手を示す縦端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0015】
図1図4図8を参照して、本発明の実施形態に係る挿し口1に突部10を備えた管体Pについて説明する。管体Pの主たる構成は、従来例の説明で利用した図8の通りであるのでその説明を省略し、以下、この発明の特徴である挿し口突部10の構成を中心に説明する。なお、図1および図4(B)の矢印Aは挿し口側であり、軸方向先端側ともいう。また、矢印Aの逆方向は、受け口側であり、軸方向後端側ともいう。図2図4の矢印Rは、管体Pの回転方向を示している。
【0016】
(挿し口突部について)
図8に示すように、本実施の形態の管体Pは、基本的な構成として、軸方向先端側に設けられる挿し口1と、軸方向後端側に設けられる受け口2とを備える。挿し口1には、挿し口1の外周面1aよりも径方向外側に突出する突部10が設けられる。突部10は、管体Pの円周方向全周に亘って連続的に設けられる。この突部10を「挿し口突部」ともいう。
【0017】
図1に示すように、突部10は、溶接金属によって形成された溶接肉盛りの突部100を切削することで形成される。挿し口1を構成する金属製の母材に対して溶接肉盛り(溶接ビード)が形成されており、その溶接金属により形成された部分が突部100である。なお、図1において、完成形の突部10の形状を一点鎖線で図示している。
【0018】
溶接肉盛り後の突部100は、軸方向断面視において山状の形態であり、ビード表面14により形成されている。具体的には、突部100は、軸方向の断面形状が左右非対称の台形形状であり、挿し口側の傾斜部100aが受け口側の傾斜部100bよりも長い形状である。ここで、突部100は溶接金属から構成されているとしているが、突部100を構成する素材に溶接金属内に溶融した挿し口1の母材が含まれていることを排除するものではない。
【0019】
同図の一点鎖線で示すように、完成形の突部10は、軸方向の断面形状が左右非対称の台形形状である。具体的には、突部10は、軸線方向に延びる円筒部10dと、円筒部10dの挿し口1側に連なり、先端1bに向かって徐々に縮径するテーパ部10cと、円筒部10dの受け口2側に設けられ、外周面1aの延長線と垂直に直交する段部10bとで形成される。突部10のテーパ部10cと外周面1aの延長線とがなす角度θは、15°以上30°以下であり、本実施の形態では20°または25°である。外周面1aから円筒部10dの径方向高さは、2mm以上3mm以下であり、本実施の形態では2.5mmである。
【0020】
突部100の内径側には、溶け込み部11が設けられる。溶け込み部11の形状は、挿し口1の外周面1aよりも径方向内側に溶け込んだ形態である。溶け込み部11は、挿し口1の外周面1aよりも内径側に深さt1だけ入り込んで、挿し口1の母材と溶接金属とが融合している。溶け込み部11の最大の深さt1は、挿し口1の外周面1aから挿し口1の母材の肉厚t0に対して10%~80%の深さに至っている。
【0021】
溶け込み部11は、その肉厚が最大となる肉厚最大部15を有している。挿し口側端部16(溶け込み部11と挿し口1側の外周面1aとが交わる部分)から肉厚最大部15までの軸方向長さL1は、受け口側端部17(溶け込み部11と受け口2側の外周面1aとが交わる部分)から肉厚最大部15までの軸方向長さL2よりも長い。具体的には、軸方向長さL1は、たとえば、軸方向長さL2の1.2倍以上2.5倍以下である。
【0022】
溶け込み部11は、挿し口側領域12と、受け口側領域13とを含む。肉厚最大部15から径方向外方に延びる線と管体Pの外周面1aとが交わる交点を交点部18とした場合に、挿し口側領域12は、挿し口側端部16、肉厚最大部15、および交点部18で囲まれる領域であり、受け口側領域13は、受け口側端部17、肉厚最大部15、および交点部18で囲まれる領域である。この場合、挿し口側領域12は、受け口側領域13の断面積よりも大きい。溶け込み部11は、突部100と同じように、その断面形状が左右非対称に設けられている。溶け込み部11の肉厚最大部15の深さ(外周面1aから肉厚最大部15までの径方向寸法)は、突部100の最大高さ(外周面1aから頂部までの径方向寸法)と略同じであり、たとえば0.8倍以上1.2倍以下である。また、溶け込み部11の挿し口側領域12の角度θは、突部10のテーパ部10cと外周面1aの延長線とがなす角度θと略同一か、その差が10°以内である。
【0023】
なお、突部100を形成する前の管体Pは、遠心鋳造法によって製造される。遠心鋳造法は、円筒状の金型を駆動力によって回転するローラ上に載せて、金型を軸周りに回転させながら、その金型内に金属の溶湯を注入し、その溶湯を硬化させることで管体Pを形成する。金型には、注入された溶湯が外部に漏れ出ることを防止する堰が設けられている。硬化後の管体Pは金型の外に引き抜かれる。管体Pは、所定の熱処理等によって材質を整えられ、その後、挿し口1の突部10の加工が行われる。
【0024】
(溶接装置について)
突部100の加工を行う溶接装置20を、図2および図3に示す。この溶接装置20は、コールドタンデム(登録商標)溶接を行うための装置であり、アーク溶接用の第1の溶接材料21を通電状態で供給するアーク溶接用トーチ23と、非通電状態の第2の溶接材料22を供給する溶接材料供給装置24とを備えている。アーク溶接用トーチ23と溶接材料供給装置24とは、連結部材25で連結されて所定の間隔に維持されている。この所定の間隔は、調整により増減することもできる。
【0025】
アーク溶接用トーチ23は、送り出し装置28によって第1の溶接材料21を母材である挿し口1の外周面1aの先端(溶接位置)aに送り出す。第1の溶接材料21は電流を流す電極として機能し、電源27から供給された溶接電流が第1の溶接材料21に通電することで、母材との間にアークを発生させる。第1の溶接材料21としては、周知の溶接ワイヤ、例えば、FeNi φ0.8~1.6mmを用いることができる。このほかにも、第1の溶接材料21として、周知のソリッドワイヤ、フラックスワイヤ、各種溶接棒、帯状電極等、各種の素材を用いることができる。この実施形態では、第1の溶接材料21として溶接ワイヤを用いているので、以下これを第1の溶接ワイヤ21と称する。
【0026】
溶接材料供給装置24は、送り出し装置26によって第2の溶接材料22を、通電することなく、母材である挿し口1の外周面1aの先端(溶接位置)bに向かって送り出す。第2の溶接材料22としては、例えば、FeNi φ0.8~1.6mmを用いることができる。このほかにも、第2の溶接材料22として、周知のソリッドワイヤ、フラックスワイヤ、各種溶接棒、帯状電極等、各種の素材を用いることができる。この実施形態では、第2の溶接材料22として溶接ワイヤを用いているので、以下これを第2の溶接ワイヤ22と称する。
【0027】
(挿し口突部の製造方法)
次に、図2図4を参照して、本実施形態に係る挿し口突部10の製造方法について説明する。図3および図4において、鉛直方向を一点鎖線で示している。
【0028】
第1に、管体Pを軸心回りに回転可能に保持する(管体保持工程)。具体的には、図2に示すように、管体Pを把持装置Hによって軸心回りに回転可能に、かつ、水平に保持する。この管体Pの回転により、連結部材25で連結された状態のアーク溶接用トーチ23および溶接材料供給装置24は、母材である管体Pの挿し口1に対して回転方向に相対移動する。
【0029】
第2に、第1の溶接ワイヤ21の先端aおよび第2の溶接ワイヤ22の先端bを管体Pの外周面1aに向けてセッティングする(セッティング工程)。第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22をセッティングする条件として、軸方向に対する傾斜角度、周方向に対する傾斜角度、周方向の位置などが挙げられる。以下、各項目について説明する。
【0030】
図4(B)を参照して、軸方向に対する傾斜角度について説明する。第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22を、略同一の角度で軸方向に傾斜させる。具体的には、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22を、鉛直方向に対して挿し口1側に傾けた状態で管体Pの外周面1aに向ける。換言すると、ワイヤ21,22の先端a,bを軸方向に対して軸方向後端側(矢印Aの逆側)に向けた状態で傾斜させる。具体的には、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22の鉛直方向の傾斜角度θを10°以上30°以下にする。傾斜角度θが10°未満になると、溶接肉盛り後の突部100の軸方向の断面形状が略等脚台形(左右対称)となり、完成形の突部10の形状とは異なる形状となるからである。傾斜角度θが30°を超えると、その断面形状は左右非対称の形状になるものの、その高さが不十分であるからである。傾斜角度θを10°以上30°以下にすることで、溶接直後の突部100の形状を完成形の突部10の形状に近づけることができる。さらに、溶け込み部11の軸方向長さがL1>L2(図1)の関係になる。
【0031】
図4(A)を参照して、周方向に対する傾斜角度について説明する。第1の溶接ワイヤ21を鉛直方向に対して傾斜させずに、鉛直方向に対してほぼ平行にする。第2の溶接ワイヤ22を鉛直中心線に対して回転方向の上流側に傾斜させる。具体的には、第2の溶接ワイヤ22の鉛直方向に対する傾斜角度θを35°以上55°以下にする。回転方向の上流側とは、管体Pが回転する回転方向Rを基準とした側であり、図4(A)の紙面上の右側が鉛直中心線に対する回転方向の上流側、その左側が下流側である。
【0032】
同図を参照して、周方向の位置について説明する。第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22を鉛直中心線に対して管体Pの回転方向上流側にずれた位置に配置する。ここで、鉛直中心線とは、管体Pの軸心を通過する鉛直方向に延びる線である。すなわち、本実施の形態のように、管体Pが正面視半時計回り方向に回転する場合、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22を鉛直中心線よりも右側に位置させる。
【0033】
第1の溶接ワイヤ21の先端aおよび第2の溶接ワイヤ22の先端bを鉛直中心線よりも下流側に配置すると、管体Pの回転速度が速い場合に第2の溶接ワイヤ22による溶融金属が垂れてしまうおそれがある。しかし、本実施の形態の製造方法では、第1の溶接ワイヤ21の先端aおよび第2の溶接ワイヤ22の先端bを回転方向の上流側に配置させている。そのため、管体Pの回転速度が速い場合であっても、第2の溶接ワイヤ22による溶融金属が垂れるおそれはない。したがって、本実施の形態の製造方法は、管体Pの回転速度が速い製造方法にも対応することができる。
【0034】
また、第1の溶接ワイヤ21を第2の溶接ワイヤ22よりも回転方向の上流側に位置させる。
【0035】
第3に、突部100を溶接肉盛りで形成する(溶接肉盛り工程)。具体的には、図3に示すように、第1の溶接ワイヤ21と第2の溶接ワイヤ22を用い、第1の溶接ワイヤ21に通電させて発生したアークにより、挿し口1の外周面1aに溶融部Wを形成し、その溶融部Wが硬化する前に、第2の溶接ワイヤ22を非通電の状態で溶融部Wに宛がう。これにより、挿し口1の外周面1aに、外径側へ突出する突部100が溶接肉盛り(溶接ビード)によって形成される。このとき、第2の溶接ワイヤ22は非通電の状態であるが、第1の溶接ワイヤ21のアークによって生じた溶融部Wに宛がわれることで熱を帯び、その第2の溶接ワイヤ22の金属が溶け出して、溶接金属として溶融部Wに供給されている。
【0036】
また、同時に、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22による溶接金属と、挿し口1の母材とが融合した溶け込み部11が、挿し口1の外周面1aから挿し口1の母材の肉厚t0に対して10%以上80%未満の深さに形成される。ここで、溶け込み部11の最大の深さt1の母材の肉厚t0に対する比率は、20%以上60%未満であればさらに好ましい。この深さの比率が低すぎると溶け込み不足によって突部10の強度が不足する可能性があり、また、この深さの比率が大きすぎると母材が貫通してしまう可能性があるからである。このような深さの比率を設定するのに際し、上記のコールドタンデム溶接の手法が最適である。
【0037】
すなわち、挿し口1の突部100を溶接肉盛りで形成するに際し、コールドタンデム溶接を用いたことにより、単位時間当たりの溶接金属の供給量が増加し、単位時間当たりの溶融量(溶接速度)の増大を図ることができる。また、非通電の第2の溶接ワイヤ22を溶融部Wに添えることにより、溶融部Wにおける金属素材の溶融プールの冷却を図ることができ、溶け込み深さの低減と、溶接金属のたれ防止を可能としている。これらの効果により、従来のリングを用いた溶接手法と同等の速度で、所望の突部100のビード形状を得ることができた。
【0038】
最後に、溶接肉盛り後の突部100を切削して完成形状の突部10を成形する(切削工程)。具体的には、溶接肉盛り後の突部100のビード表面14を削って、図1の一点鎖線で示す完成形状の突部10の形状にする。図1では、突部10の先端が挿し口1の先端1bと一致しているので、図中の符号Sで示すラインで管体Pを切断する構成となっているが、この切断は突部10の先端と挿し口1の先端1bとの位置関係に応じて行えばよく、必須の工程ではない。完成形状への突部10の成形は、高周波グラインダや旋盤加工を組み合わせて行うことができる。
【0039】
本実施の形態の挿し口突部10の製造方法は、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22の位置や向きなどを上述の条件でセッティングした上で溶接肉盛り工程を行うため、溶接直後の突部100の形状を完成形状の突部10(断面形状が左右非対称の台形形状)に近い形状にすることができ、切削量を減らすことができる。これにより、突部10の成形をより容易に且つより精度のよいものにすることができ、品質を維持しながらも製造時間を短縮することが可能となる。
【0040】
従来は、管軸周りに2回転以上回転させる複層溶接を行わなければ、所望の突部の形状で溶接肉盛りをすることができなかったが、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22を上述した条件にセッティングして溶接肉盛りをすることで、管軸周りに1回転させる間に全周の突部100を仕上げる「1層溶接」で仕上げることが可能である。これにより、さらに製造時間を短縮することが可能となる。
【0041】
(他の製造方法について)
図5を参照して、他の実施の形態に係る製造方法について説明する。以下の製造方法は、基本的には上述した製造方法のセッティング条件と同様であるが、第1の溶接ワイヤ21の周方向に対する傾斜角度が異なる。上記した挿し口突部10の製造方法では、第1の溶接ワイヤ21を鉛直方向と平行にセッティングしていたが、図5に示すように、同じ位置で管体Pの軸心を向くようにセッティングしてもよい。具体的には、第1の溶接ワイヤ21の延長線が軸心を通るように、第1の溶接ワイヤ21を傾斜して配置させる。これにより、第1の溶接ワイヤ21と第2の溶接ワイヤ22とがなす周方向の角度が、上述した実施の形態と比較して大きくなる。第1の溶接ワイヤ21の延長線を管体Pの軸心を向くようにセッティングした場合であっても、上述した実施の形態と同様に、溶接肉盛り後の突部100の形状を完成形状の突部10に近い形状にすることができる。
【0042】
(実験例について)
次に、図6および図7を参照して、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22の軸方向における鉛直方向に対する傾斜角度θを変更してセッティングした場合の溶接肉盛り後の突部の形状について説明する。図6および図7の実験では、第1の溶接ワイヤ21および第2の溶接ワイヤ22の軸方向にける鉛直方向の傾斜角度をθだけを異ならせ、他のセッティング条件については同一とした。また、図6および図7において、完成形状の突部の形状を実線で示している。なお、紙面上の左側が挿し口側であり、紙面上の右側が受け口側である。
【0043】
図6は、傾斜角度θを0°にした場合の溶接肉盛り後の突部の写真である。図6に示すように、傾斜角度θを0°にすると、溶接肉盛り後の突部は、ビード表面の形状が左右対称の台形のような形状になっている。すなわち、傾斜角度θが0°であると、溶接肉盛りの突部の形状は、完成形の突部の形状に沿ったものにはならないことがわかる。
【0044】
図7(A)は傾斜角度θを10°にした場合の溶接肉盛り後の突部の写真であり、図7(B)は傾斜角度θを20°にした場合の溶接肉盛り後の突部の写真であり、図7(C)は傾斜角度θを30°にした場合の溶接肉盛り後の突部の写真である。図7(A)~(C)に示すように、傾斜角度θを10°,20°,30°にすると、突部および溶け込み部ともに、断面形状が左右非対称の形状になっていることがわかる。具体的には、溶接肉盛り後の突部は、ビード表面と管体の左側の外周面とのなす角が、ビード表面と右側の外周面とのなす角よりも小さくなり、完成形の突部の形状に沿った形状となっていることがわかる。
【0045】
さらに、傾斜角度θが10°,20°,30°と大きくなるにつれ、溶接肉盛り後の突部の径方向寸法が小さくなっている。これにより、傾斜角度θが10°未満であると、溶接肉盛り後の突部の形状が完成形の突部の形状よりもかなり大きくなることがわかった。傾斜角度θが30°を超えると、高さが不十分であるため一層溶接で仕上げることができなくなることがわかった。
【0046】
また、傾斜角度θが10°,20°,30°のいずれの場合も、溶け込み部の挿し口側端部から肉厚最大部までの軸方向長さは、溶け込み部の受け口側端部から肉厚最大部までの軸方向長さよりも長いことがわかった。さらに、傾斜角度θが10°,20°,30°のいずれの場合も、管体の外周面から溶け込み部の肉厚最大部までの径方向寸法は、ビード表面の最大高さまでの径方向寸法とほぼ等しいことが分かった。これにより、傾斜角度θを10°以上30°以下にすれば、溶接肉盛り後の突部の形状は、溶け込み部の挿し口側端部から肉厚最大部までの軸方向長さが、溶け込み部の受け口側端部から肉厚最大部までの軸方向長さよりも長くなり、肉厚最大部までの径方向寸法が、ビード表面の最大高さまでの径方向寸法とほぼ等しくなることがわかった。
【0047】
この実施形態では、挿し口1の突部10を形成する前の管体Pを遠心鋳造法によって製造したが、突部10を形成する前の管体Pの製造方法は、遠心鋳造法以外、例えば、重力で鋳型内に溶湯を注ぎ込んで凝固させる置注鋳造法等であってもよい。また、突部10を形成する挿し口1が、溶接に対応した金属製のものであれば、種々の管体Pにこの発明を適用できる。
【0048】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 挿し口、1a 外周面、10 突部、11 溶け込み部、15 肉厚最大部、16 挿し口側端部、17 受け口側端部、20 溶接装置、21 第1の溶接材料(第1の溶接ワイヤ)、22 第2の溶接材料(第2の溶接ワイヤ)、100 突部、P 管体。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8