(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014488
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】自己位置推定装置および該方法
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G01C21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117346
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】依田 大輝
(72)【発明者】
【氏名】勝谷 泰荘
(72)【発明者】
【氏名】浅胡 武志
【テーマコード(参考)】
2F129
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129AA05
2F129AA06
2F129BB19
2F129BB23
2F129CC14
2F129CC15
2F129EE78
2F129GG17
2F129GG18
2F129HH12
2F129HH21
(57)【要約】
【課題】本発明は、推定精度を改善できる自己位置推定装置および該方法を提供する。
【解決手段】本発明の自己位置推定装置Dは、過去推定タイミングで検出した過去検出物標の位置を物標存在確率分布に変換し、現在推定タイミングでオドメトリで求めた仮自己位置を移動体存在確率分布に変換し、これらに基づいて、前記仮自己位置から見た前記過去検出物標の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布として求め、所定の高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在推定タイミングで検出した現在検出物標の物標存在確率分布、ならびに、前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、自己位置を推定する自己位置推定装置であって、
高精度地図を記憶する地図記憶部と、
前記移動体の周囲に存在する物標を検出し、前記検出した物標の、前記移動体に対する相対位置を検出する物標検出部と、
過去に自己位置を推定した過去推定タイミングから、現在の自己位置を推定する現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動状況に関する所定の移動情報を検出し、前記検出した移動情報に基づいて現在の自己位置を仮自己位置として検出する仮自己位置検出部と、
前記物標検出部で検出した物標の相対位置を、物標の存在確率の分布である所定の物標存在確率分布に変換する第1確率分布変換部と、
前記仮自己位置検出部で検出した仮自己位置を、移動体の存在確率の分布である所定の移動体存在確率分布に変換する第2確率分布変換部と、
前記過去推定タイミングにおいて前記物標検出部で検出した物標を過去検出物標とした場合に、前記過去検出物標の、前記第1確率分布変換部で求められる物標存在確率分布、および、前記現在推定タイミングにおいて前記仮自己位置検出部で検出した仮自己位置の、前記第2確率分布変換部で求められる移動体存在確率分布に基づいて、前記仮自己位置から見た前記過去検出物標の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布として求める物標存在確率分布処理部と、
前記現在推定タイミングにおいて前記物標検出部で検出した物標を現在検出物標とした場合に、前記地図記憶部に記憶された高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の、前記第1確率分布変換部で求められる物標存在確率分布、ならびに、前記物標存在確率分布処理部で求めた前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定する推定部とを備える、
自己位置推定装置。
【請求項2】
前記物標検出部は、前記移動体と前記物標との間の距離が短いほど小さい誤差で前記物標を検出し、
前記推定部は、誤差が所定の閾値以下である前記現在検出物標および前記過去検出物標、または、前記誤差が前記所定の閾値より小さい前記現在検出物標および前記過去検出物標、を用いて、前記現在の自己位置を推定する、
請求項1に記載の自己位置推定装置。
【請求項3】
前記物標検出部は、前記移動体と前記物標との間の距離が短いほど小さい誤差で前記物標を検出し、
前記推定部は、前記現在検出物標および前記過去検出物標の個数の総和が所定の第2閾値以上である場合、または、前記現在検出物標および前記過去検出物標の個数の総和が前記所定の第2閾値より多い場合、前記現在検出物標および前記過去検出物標の中から、誤差が小さい順に所定の個数だけ抽出し、前記抽出した前記現在検出物標および前記過去検出物標を用いて、前記現在の自己位置を推定する、
請求項1に記載の自己位置推定装置。
【請求項4】
移動体で実行される、自己位置を推定する自己位置推定方法であって、
前記移動体の周囲に存在する物標を検出し、前記検出した物標の、前記移動体に対する相対位置を検出する物標検出工程と、
過去に自己位置を推定した過去推定タイミングから、現在の自己位置を推定する現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動状況に関する所定の移動情報を検出し、前記検出した移動情報に基づいて現在の自己位置を仮自己位置として検出する仮自己位置検出工程と、
前記物標検出工程で検出した物標の相対位置を、物標の存在確率の分布である所定の物標存在確率分布に変換する第1確率分布変換工程と、
前記仮自己位置検出工程で検出した仮自己位置を、移動体の存在確率の分布である所定の移動体存在確率分布に変換する第2確率分布変換工程と、
前記過去推定タイミングにおいて前記物標検出工程で検出した物標を過去検出物標とした場合に、前記過去検出物標の、前記第1確率分布変換工程で求められる物標存在確率分布、および、前記現在推定タイミングにおいて前記仮自己位置検出工程で検出した仮自己位置の、前記第2確率分布変換工程で求められる移動体存在確率分布に基づいて、前記仮自己位置から見た前記過去検出物標の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布として求める物標存在確率分布処理工程と、
前記現在推定タイミングにおいて前記物標検出工程で検出した物標を現在検出物標とした場合に、所定の高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の、前記第1確率分布変換工程で求められる物標存在確率分布、ならびに、前記物標存在確率分布処理工程で求めた前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定する推定工程とを備える、
自己位置推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己(自機)の位置を推定する自己位置推定装置および自己位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、運転者の運転操作をアシスト(手助け)する場合や自律走行する場合、移動体は、自己(自機)の位置(自己位置)を推定することが必要である。このような自己位置を推定する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
この特許文献1に開示された自己位置推定装置は、自車両に搭載され、自車両の周囲に存在する物標と自車両との間の相対位置を検出する物標検出センサを備え、前記物標検出センサによって検出された相対位置を自車両の移動量だけ移動させて物標位置データとして蓄積し、蓄積された前記物標位置データと、地図上に存在する物標の物標位置情報を含む地図情報とを照合して、自車両の現在位置である自己位置を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、過去に得られた物標の位置に基づいて現在の自己位置を推定する場合、前記過去の時点から前記現在の時点までに前記自己が移動した移動量およびその移動方向がさらに必要となる。このため、前記過去に得られた物標の位置に基づいて推定した現在の自己位置における推定精度は、物標の位置を検出する第1装置の検出精度と、前記自己が移動した移動量およびその移動方向を検出する第2装置の検出精度とに依存し、推定精度には改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、推定精度を改善できる自己位置推定装置および自己位置推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかる自己位置推定装置は、移動体に搭載され、自己位置を推定する自己位置推定装置であって、高精度地図を記憶する地図記憶部と、前記移動体の周囲に存在する物標を検出し、前記検出した物標の、前記移動体に対する相対位置を検出する物標検出部と、過去に自己位置を推定した過去推定タイミングから、現在の自己位置を推定する現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動状況に関する所定の移動情報を検出し、前記検出した移動情報に基づいて現在の自己位置を仮自己位置として検出する仮自己位置検出部と、前記物標検出部で検出した物標の相対位置を、物標の存在確率の分布である所定の物標存在確率分布に変換する第1確率分布変換部と、前記仮自己位置検出部で検出した仮自己位置を、移動体の存在確率の分布である所定の移動体存在確率分布に変換する第2確率分布変換部と、前記過去推定タイミングにおいて前記物標検出部で検出した物標を過去検出物標とした場合に、前記過去検出物標の、前記第1確率分布変換部で求められる物標存在確率分布、および、前記現在推定タイミングにおいて前記仮自己位置検出部で検出した仮自己位置の、前記第2確率分布変換部で求められる移動体存在確率分布に基づいて、前記仮自己位置から見た前記過去検出物標の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布として求める物標存在確率分布処理部と、前記現在推定タイミングにおいて前記物標検出部で検出した物標を現在検出物標とした場合に、前記地図記憶部に記憶された高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の、前記第1確率分布変換部で求められる物標存在確率分布、ならびに、前記物標存在確率分布処理部で求めた前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定する推定部とを備える。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記移動情報は、過去に自己位置を推定した過去推定タイミングから、現在の自己位置を推定する現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動方向および移動量それぞれを表す情報である。好ましくは、前記移動体の移動方向および移動量は、オドメトリ(デッドレコニング)によって得られる。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記高精度地図は、物標の種類およびその位置を少なくとも含み、前記物標検出部は、前記物標をその種類で検出し、前記推定部は、前記現在検出物標の種類および前記過去検出物標の種類に基づいて、前記地図記憶部に記憶された高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置を求める。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記物標検出部は、前記物標を所定の検出範囲で検出し、前記過去推定タイミングは、前記現在推定タイミングにおける前記物標検出部の検出範囲外に位置する過去検出物標を検出した過去推定タイミングである。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記物標存在確率分布は、前記物標検出部の検出誤差(検出精度)に応じて予め適宜に設定される。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記移動体存在確率分布は、前記仮自己位置検出部の検出誤差(検出精度)に応じて予め適宜に設定される。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記物標検出部の個々におけるエラーのクセを勘案するために、前記第1確率分布変換部は、前記物標の相対位置を、予め設定された第1オフセット量だけずらしてから、前記物標存在確率分布を求める。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記仮自己位置検出部の個々におけるエラーのクセを勘案するために、前記第2確率分布変換部は、前記仮自己位置を、予め設定された第2オフセット量だけずらしてから、前記移動体存在確率分布を求める。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記標存在確率分布処理部は、前記物標存在確率分布および前記移動体存在確率分布それぞれを分散共分散行列で表した場合に、前記過去検出物標の前記物標存在確率分布の分散共分散行列と、前記仮自己位置の前記移動体存在確率分布の分散共分散行列との和を求めることによって、前記移動体考慮物標存在確率分布を求める。好ましくは、上述の自己位置推定装置において、前記推定部は、推定結果を評価するための所定の評価関数(コスト関数)を最適化することによって、前記現在の自己位置を推定し、前記評価関数は、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の物標存在確率分布、ならびに、前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づく関数である。好ましくは、前記評価関数は、前記現在検出物標の物標存在確率分布に対する前記現在検出物標の位置におけるマハラノビス距離、および、前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に対する前記過去検出物標の位置におけるマハラノビス距離の二乗和である。
【0008】
このような自己位置推定装置は、物標検出部で検出した物標の相対位置を、所定の物標存在確率分布に変換するので、前記物標検出部の検出誤差(検出精度)を考慮でき、仮自己位置検出部で検出した仮自己位置を、所定の移動体存在確率分布に変換するので、前記仮自己位置検出部の検出誤差(検出精度)を考慮できるから、推定精度を改善できる。
【0009】
他の一態様では、上述の自己位置推定装置において、前記物標検出部は、前記移動体と前記物標との間の距離が短いほど小さい誤差で前記物標を検出し、前記推定部は、誤差が所定の閾値以下である前記現在検出物標および前記過去検出物標、または、前記誤差が前記所定の閾値より小さい前記現在検出物標および前記過去検出物標、を用いて、前記現在の自己位置を推定する。
【0010】
このような自己位置推定装置は、誤差が所定の閾値以下またはより小さい前記現在検出物標および前記過去検出物標を用いて、前記現在の自己位置を推定するので、より高い精度で自己位置を推定できる。
【0011】
他の一態様では、上述の自己位置推定装置において、前記物標検出部は、前記移動体と前記物標との間の距離が短いほど小さい誤差で前記物標を検出し、前記推定部は、前記現在検出物標および前記過去検出物標の個数の総和が所定の第2閾値以上である場合、または、前記現在検出物標および前記過去検出物標の個数の総和が前記所定の第2閾値より多い場合、前記現在検出物標および前記過去検出物標の中から、誤差が小さい順に所定の個数だけ抽出し、前記抽出した前記現在検出物標および前記過去検出物標を用いて、前記現在の自己位置を推定する。
【0012】
このような自己位置推定装置は、所定の個数で現在の自己位置を推定するので、推定処理を簡略化できる。
【0013】
本発明の他の一態様にかかる自己位置推定方法は、移動体で実行される、自己位置を推定する自己位置推定方法であって、前記移動体の周囲に存在する物標を検出し、前記検出した物標の、前記移動体に対する相対位置を検出する物標検出工程と、過去に自己位置を推定した過去推定タイミングから、現在の自己位置を推定する現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動状況に関する所定の移動情報を検出し、前記検出した移動情報に基づいて現在の自己位置を仮自己位置として検出する仮自己位置検出工程と、前記物標検出工程で検出した物標の相対位置を、物標の存在確率の分布である所定の物標存在確率分布に変換する第1確率分布変換工程と、前記仮自己位置検出工程で検出した仮自己位置を、移動体の存在確率の分布である所定の移動体存在確率分布に変換する第2確率分布変換工程と、前記過去推定タイミングにおいて前記物標検出工程で検出した物標を過去検出物標とした場合に、前記過去検出物標の、前記第1確率分布変換工程で求められる物標存在確率分布、および、前記現在推定タイミングにおいて前記仮自己位置検出工程で検出した仮自己位置の、前記第2確率分布変換工程で求められる移動体存在確率分布に基づいて、前記仮自己位置から見た前記過去検出物標の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布として求める物標存在確率分布処理工程と、前記現在推定タイミングにおいて前記物標検出工程で検出した物標を現在検出物標とした場合に、所定の高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の、前記第1確率分布変換工程で求められる物標存在確率分布、ならびに、前記物標存在確率分布処理工程で求めた前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定する推定工程とを備える。
【0014】
このような自己位置推定方法は、物標検出工程で検出した物標の相対位置を、所定の物標存在確率分布に変換するので、前記物標検出工程での検出誤差(検出精度)を考慮でき、仮自己位置検出工程で検出した仮自己位置を、所定の移動体存在確率分布に変換するので、前記仮自己位置検出工程での検出誤差(検出精度)を考慮できるから、推定精度を改善できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にかかる自己位置推定装置および自己位置推定方法は、推定精度を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態における自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】前記自己位置推定装置の物標検出部による物標の検出の様子を説明するための図である。
【
図3】位置を存在確率分布に変換する処理を説明するための図である。
【
図4】オドメトリで求めた現在の仮自己位置から見た過去検出物標の物標存在確率分布を求める処理を説明するための図である。
【
図5】方位に関する分散共分散行列の算出方法の考え方を説明するための図である。
【
図6】前記自己位置推定装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0018】
図1は、実施形態における自己位置推定装置の構成を示すブロック図である。
図2は、前記自己位置推定装置の物標検出部による物標の検出の様子を説明するための図である。
図3は、位置を存在確率分布に変換する処理を説明するための図である。
図3Aは、物標の相対位置を物標存在確率分布に変換する場合を示し、
図3Bは、仮自己位置を移動体存在確率分布に変換する場合を示す。
図4は、オドメトリで求めた現在の仮自己位置から見た過去検出物標の物標存在確率分布を求める処理を説明するための図である。
図4Aは、一例として、過去検出物標の物標存在確率分布および現在の自機の移動体存在確率分布を示し、
図4Bは、一例として、移動体考慮物標存在確率分布を示す。
図5は、方位に関する分散共分散行列の算出方法の考え方を説明するための図である。
【0019】
実施形態における自己位置推定装置は、移動体に搭載され、自己(自機)の位置(自己位置)を推定する装置である。前記移動体は、自機の位置を変えることができる装置であり、例えば車両やロボット等である。前記車両は、例えば自動車(乗用車、トラック、バス等)および工場内の部品搬送車等である。ここでは、一例として、前記移動体が前記車両である場合について説明する。すなわち、自己位置推定装置は、車両に搭載され、自己(自車両)の位置を推定する。
【0020】
この自己位置推定装置Dは、例えば、
図1に示すように、物標検出部1と、仮自己位置検出部2と、制御処理部3と、表示部4と、記憶部5とを備える。
【0021】
物標検出部1は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、前記移動体(ここでは車両)の周囲に存在する物標を検出し、前記検出した物標の、前記移動体に対する相対位置を検出する装置である。物標検出部1は、その検出結果を制御処理部3へ出力する。物標検出部1は、所定の検出範囲で前記物標をその種類で検出する。前記相対位置は、自車両から物標までの距離(相対距離)および自車両から見た物標の方向(方位)によって表される。このような物標検出部1は、例えば、
図2に示すように、自車両VCの前端部(例えばバンパーの中央位置)に配設され、所定の検出範囲RGで物標Obを探知するレーダと、自車両VC内において、フロントガラス近傍の天井面(ルーフ内側面)に、前記検出範囲RGをカバーして撮像できるように配設され、前記自車両VCの前方を撮像するカメラとを備え、前記カメラで生成した画像から、機械学習済みの学習モデルによって物標を検出してその種類を推定し、この検出した物標の相対位置(相対距離および方位)を前記レーダの探知結果から求めて出力する。本実施形態では、物標検出部1は、その検出した物標の種類および相対位置を前記検出結果として制御処理部3へ出力する。自車両VCに設定されるローカル座標系は、例えば、
図2に示すように、自車両VCの中央位置を座標原点とし、車長方向をx軸方向とし、車幅方向をy軸方向とするxy直交座標系であり、前記方位は、x軸方向を0とした時計回りの角度によって表される。なお、この例では、ローカル座標系の座標原点を自車両VCの中央位置としているので、自車両VCにおける物標検出部1の取り付け位置に応じて物標検出部1の測定結果がシフトされ、物標の相対位置が前記ローカル座標系での座標値で表される。
【0022】
なお、物標検出部1は、カメラおよびレーダを備えて構成される場合に限らず、本実施形態では、物標の種類および相対位置を検出できればよく、例えば、カメラおよびレーダに代え、ステレオカメラを備えて構成されてもよい。この場合では、ステレオカメラの一方のカメラが前記カメラとして機能し、前記ステレオカメラが前記レーダとして機能できる。
【0023】
仮自己位置検出部2は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、過去に自己位置を推定した過去推定タイミングから、現在の自己位置を推定する現在推定タイミングまでにおける前記移動体(ここでは車両)の移動状況に関する所定の移動情報を検出し、前記検出した移動情報に基づいて現在の自己位置を仮自己位置として検出する装置である。仮自己位置検出部2は、この検出した仮自己位置を制御処理部3へ出力する。前記移動情報は、前記過去推定タイミングから前記現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動方向および移動量それぞれを表す情報であり、これら移動体の移動方向および移動量は、オドメトリ(デッドレコニング)によって得られる。より具体的には、仮自己位置検出部2は、例えば、自車両における車輪の回転数を測定するロータリエンコーダ21と、前記自車両のヨーレートを測定するヨーレートセンサ22と、所定のサンプリング間隔で、前記ロータリエンコーダ21で測定した車輪の回転数に基づいて前記自車両の移動量を求めるとともに、前記ヨーレートセンサ22で測定した自車両のヨーレートに基づいて前記自車両の移動方向を求め、これらを順次に累積(連結)して前記過去推定タイミングから前記現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動方向および移動量を求めることによって仮自己位置を求める自律航法処理部32(23)とを備える。前記仮自己位置は、後述の高精度地図と同じ所定のワールド座標系での座標値で表される。
【0024】
表示部4は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って、所定の情報を表示する装置であり、例えば、液晶表示装置や有機EL(Electro Luminescence)表示装置等である。例えば、表示部4は、インストルメントパネルに配設され、地図および自己位置を表示する。
【0025】
記憶部5は、制御処理部3に接続され、制御処理部3の制御に従って各種の所定のプログラムおよび各種の所定のデータを記憶する回路である。前記各種の所定のプログラムには、例えば、制御プログラムや、自律航法処理プログラムや、第1確率分布変換プログラムや、第2確率分布変換プログラムや、物標存在確率分布処理プログラムや、推定プログラム等が含まれる。前記制御プログラムは、自己位置推定装置DSの各部1、2、4、5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御するプログラムである。前記自律航法処理プログラムは、所定のサンプリング間隔で、前記ロータリエンコーダ21で測定した車輪の回転数に基づいて前記自車両の移動量を求めるとともに、前記ヨーレートセンサ22で測定した自車両のヨーレートに基づいて前記自車両の移動方向を求め、これらを順次に累積(連結)して前記過去推定タイミングから前記現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動方向および移動量を求めることによって仮自己位置を求めるプログラムである。前記第1確率分布変換プログラムは、前記物標検出部1で検出した物標の相対位置を、物標の存在確率の分布である所定の物標存在確率分布に変換するプログラムである。前記第2確率分布変換プログラムは、前記仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置を、移動体(ここでは車両)の存在確率の分布である所定の移動体存在確率分布に変換するプログラムである。前記物標存在確率分布処理プログラムは、前記過去推定タイミングにおいて前記物標検出部1で検出した物標を過去検出物標とした場合に、前記過去検出物標の、前記第1確率分布変換プログラムで求められる物標存在確率分布、および、前記現在推定タイミングにおいて前記仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置の、前記第2確率分布変換プログラムで求められる移動体存在確率分布に基づいて、前記仮自己位置から見た前記過去検出物標の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布として求めるプログラムである。前記推定プログラムは、前記現在推定タイミングにおいて前記物標検出部1で検出した物標を現在検出物標とした場合に、前記高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の、前記第1確率分布変換プログラムで求められる物標存在確率分布、ならびに、前記物標存在確率分布処理プログラムで求めた前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定するプログラムである。前記各種の所定のデータには、例えば高精度地図、前記物標存在確率分布および前記移動体存在確率分布等の各プログラムを実行する上で必要なデータ等が含まれる。記憶部5は、例えば不揮発性の記憶素子であるROM(Read Only Memory)や書き換え可能な不揮発性の記憶素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)等を備える。そして、記憶部5は、前記所定のプログラムの実行中に生じるデータ等を記憶するいわゆる制御処理部3のワーキングメモリとなるRAM(Random Access Memory)等を含む。
【0026】
記憶部5は、前記高精度地図を記憶する高精度地図記憶部51を機能的に備える。前記高精度地図は、前記移動体(ここでは車両)の移動に役立つ情報を備えて構成され、例えば、道路、鉄道、河川、建築物、建造物、信号機および道路標識等を物標としてその種類および位置を少なくとも含む。もちろん、名称や地名や住所等が含まれてよい。高精度地図における物標の位置は、例えば、赤道を0°とする緯度および旧グリニッジ天文台跡を通る南北線を0°とする経度等の、所定のワールド座標系の座標値で表される。このような高精度地図は、例えば、いわゆるADAS(Advanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)で利用される地図である。
【0027】
後述のように、物標に基づき自己位置が推定されるので、自己位置の推定に用いる物標は、地面に固定されている固定物であることが好ましく、前記移動体が車両で有る場合には、走行中に検出し易いので、道路標識が好ましく、案内標識(経路案内標識、地点案内標識および附属施設案内標識)がより好ましい。
【0028】
制御処理部3は、自己位置推定装置Dの各部1、2、4、5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、自己位置を推定するための回路である。制御処理部3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)およびその周辺回路を備えて構成される。制御処理部3は、前記制御処理プログラムが実行されることによって、制御部31、自律航法処理部32(23)、第1確率分布変換部33、第2確率分布変換部34、物標存在確率分布処理部35および推定部36を機能的に備える。
【0029】
制御部31は、自己位置推定装置Dの各部1、2、4、5を当該各部の機能に応じてそれぞれ制御し、自己位置推定装置Dの全体制御を司るものである。
【0030】
自律航法処理部32(23)は、仮自己位置検出部2の一構成要素であり、上述した通り、所定のサンプリング間隔で、前記ロータリエンコーダ21で測定した車輪の回転数に基づいて前記自車両の移動量を求めるとともに、前記ヨーレートセンサ22で測定した自車両のヨーレートに基づいて前記自車両の移動方向を求め、これらを順次に累積(連結)して前記過去推定タイミングから前記現在推定タイミングまでにおける前記移動体の移動方向および移動量を求めることによって現在の自己位置を仮自己位置として求めるものである。
【0031】
第1確率分布変換部33は、前記物標検出部1で検出した物標の相対位置を、物標の存在確率の分布である所定の物標存在確率分布に変換するものである。
【0032】
前記物標存在確率分布は、最も存在確率が高いピークを備え、前記ピークの位置から離れるに従って存在確率が低くなるプロファイルであり、予め適宜に設定される。前記物標存在確率分布は、前記物標検出部1の検出誤差(検出精度)に応じて予め適宜に設定されることが好ましい。前記物標存在確率分布は、例えば、ガウス関数等で表される。前記物標存在確率分布は、例えば、前記ピークの位置から等方的に存在確率が変化してよく、あるいは例えば、前記ピークの位置から非等方的に存在確率が変化してよい。
【0033】
より具体的には、第1確率分布変換部33は、例えば、前記物標検出部1で検出した物標の相対位置に、前記物標存在確率分布におけるピークの位置を合わせることによって、前記物標の相対位置を、前記物標存在確率分布に変換する(第1変換の第1態様)。例えば、
図3Aに示すように、位置PVに位置する自車両VCにおいて、第1相対位置POb-1に第1物標Ob-1を物標検出部1で検出した場合に、第1確率分布変換部33は、前記第1相対位置POb-1に、物標存在確率分布PD1におけるピークの位置を合わせることによって、前記第1相対位置POb-1を、前記物標存在確率分布PD1に変換する。
【0034】
あるいは例えば、前記物標検出部1の個々におけるエラーのクセを勘案するために、前記第1確率分布変換部33は、前記物標の相対位置を、予め設定された第1オフセット量だけずらしてから、前記物標存在確率分布を求める(第1変換の第2態様)。すなわち、前記第1確率分布変換部33は、前記物標の相対位置を、前記第1オフセット量だけずらした位置に、前記物標存在確率分布におけるピークの位置を合わせることによって、前記物標の相対位置を、前記物標存在確率分布に変換する。例えば、
図3Aに示すように、位置PVに位置する自車両VCにおいて、第2相対位置POb-2に第2物標Ob-2を物標検出部1で検出した場合に、第1確率分布変換部33は、前記第2相対位置POb-2を、第1オフセット量OS1だけずらした位置SPOb-2に、物標存在確率分布PD1におけるピークの位置を合わせることによって、前記第2相対位置POb-2を、前記物標存在確率分布PD1に変換する。この場合において、第1オフセット量OS1だけずらすずらし方向は、前記エラーのクセ等に応じて予め適宜に設定され、例えば、相対位置POb-2における方位に応じて決定される。前記エラーのクセは、個々の製品において、物標検出部1が物標を検出する場合に、各検出ごとに示す検出誤差の同様な傾向である。
【0035】
これら第1変換の第1態様および第1変換の第2態様は、いずれか一方のみが用いられてよく、あるいは、両方が用いられてよい。両方が用いられる場合には、予め設定された規約に基づき両方のうちの一方に切り換えられて前記一方が用いられる。例えば相対位置の方位に応じて両方のうちの一方に切り換えられて前記一方が用いられる。例えば物標が0°≦(前記物標の方位)≦90°の間で検出された場合には、第1変換の第2態様が用いられ、物標が270°≦(前記物標の方位)<360°(=0°)の間で検出された場合には、第1変換の第1態様が用いられる。
【0036】
なお、前記物標存在確率分布が非等方的である場合には、非等方な分布の配置は、前記エラーのクセ等に応じて予め適宜に設定される。例えば存在確率の等しい点を連結した等位線(等レベル線)が楕円形状となる物標存在確率分布である場合、前記楕円形状の長軸が前記相対位置における方位の方向に一致するように、前記相対位置が前記物標存在確率分布に変換される。
【0037】
第2確率分布変換部34は、前記仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置を、移動体(ここでは車両)の存在確率の分布である所定の移動体存在確率分布に変換するものである。前記移動体存在確率分布は、上述の物標存在確率分布と同様に、最も存在確率が高いピークを備え、前記ピークの位置から離れるに従って存在確率が低くなるプロファイルであり、予め適宜に設定される。前記移動体存在確率分布は、前記仮自己位置検出部2の検出誤差(検出精度)に応じて予め適宜に設定されることが好ましい。前記移動体存在確率分布は、例えば、ガウス関数等で表される。前記移動体存在確率分布は、例えば、前記ピークの位置から等方的に存在確率が変化してよく、あるいは例えば、前記ピークの位置から非等方的に存在確率が変化してよい。
【0038】
より具体的には、第2確率分布変換部34は、例えば、前記仮自己位置検出部2で検出した物標の相対位置に、前記移動体存在確率分布におけるピークの位置を合わせることによって、前記仮自己位置を、前記移動体存在確率分布に変換する(第2変換の第1態様)。例えば、
図3Bに示すように、過去推定タイミングt
k-1で位置PV(t
k-1)に位置する自車両VCが移動して仮自己位置検出部2で現在推定タイミングt
kでの自己位置が仮自己位置PVT(t
k)であると検出(推定)した場合において、第2確率分布変換部34は、前記仮自己位置PVT(t
k)に、移動体存在確率分布PD2におけるピークの位置を合わせることによって、前記仮自己位置PVT(t
k)を、前記移動体存在確率分布PD2に変換する。
【0039】
あるいは例えば、前記仮自己位置検出部2の個々におけるエラーのクセを勘案するために、前記第2確率分布変換部34は、前記仮自己位置を、予め設定された第2オフセット量だけずらしてから、前記移動体存在確率分布を求める(第2変換の第2態様)。すなわち、前記第2確率分布変換部34は、前記仮自己位置を、前記第2オフセット量だけずらした位置に、前記移動体存在確率分布におけるピークの位置を合わせることによって、前記仮自己位置を、前記移動体存在確率分布に変換する。この場合において、第2オフセット量だけずらすずらし方向は、前記エラーのクセ等に応じて予め適宜に設定され、例えば、過去推定タイミングから現在推定タイミングまでの自車両の移動方向に応じて決定される。前記エラーのクセは、個々の製品において、仮自己位置検出部2が仮自己位置を検出する場合に、各検出ごとに示す検出誤差の同様な傾向である。
【0040】
なお、前記移動体存在確率分布が非等方的である場合には、非等方な分布の配置は、前記エラーのクセ等に応じて予め適宜に設定される。例えば存在確率の等しい点を連結した等位線(等レベル線)が楕円形状となる物標存在確率分布である場合、前記楕円形状の長軸が過去推定タイミングから現在推定タイミングまでの自車両の移動方向に一致するように、前記仮自己位置が前記位相対存在確率分布に変換される。
【0041】
物標存在確率分布処理部35は、過去に自己位置を推定した過去推定タイミングにおいて前記物標検出部1で検出した物標を過去検出物標とした場合に、前記過去検出物標の、前記第1確率分布変換部33で求められる物標存在確率分布、および、現在の自己位置を推定する現在推定タイミングにおいて前記仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置の、前記第2確率分布変換部34で求められる移動体存在確率分布に基づいて、前記仮自己位置から見た前記過去検出物標の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布として求めるものである。なお、前記過去検出物標が複数である場合(すなわち、過去推定タイミングにおいて物標検出部1で複数の物標を検出した場合)には、第1確率分布変換部323は、前記複数の過去検出物標それぞれについて、当該過去検出物標の相対位置を物標存在確率分布に変換し、物標存在確率分布処理部35は、前記複数の過去検出物標それぞれについて、当該過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布を求める。
【0042】
例えば、
図4Aに示すように、過去推定タイミングt
k-1で位置PV(t
k-1)に位置する自車両VCが移動して仮自己位置検出部2で現在推定タイミングt
kでの自己位置が仮自己位置PVT(t
k)であると検出(推定)し、過去推定タイミングt
k-1で物標検出部1で第1および第2物標Ob-1、Ob-2を検出した場合において、現在推定タイミングt
kでは前記第1物標Ob-1が第1過去検出物標Ob-1となり、前記第2物標Ob-2が第2過去検出物標Ob-2となり、物標存在確率分布処理部35は、第1過去検出物標Ob-1について、第1確率分布変換部33で求められる物標存在確率分布PD1、および、現在推定タイミングにおいて仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置PVT(t
k)の、第2確率分布変換部34で求められる移動体存在確率分布PD2に基づいて、前記仮自己位置PVT(t
k)から見た前記第1過去検出物標Ob-1の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布PDCとして求め、第2過去検出物標Ob-2について、第1確率分布変換部33で求められる物標存在確率分布PD1、および、現在推定タイミングにおいて仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置PVT(t
k)の、第2確率分布変換部34で求められる移動体存在確率分布PD2に基づいて、前記仮自己位置PVT(t
k)から見た前記第2過去検出物標Ob-2の物標存在確率分布を移動体考慮物標存在確率分布PDCとして求める。
【0043】
より具体的には、物標存在確率分布処理部35は、前記物標存在確率分布および前記移動体存在確率分布それぞれを分散共分散行列で表した場合に、前記過去検出物標の前記物標存在確率分布の分散共分散行列と、前記仮自己位置の前記移動体存在確率分布の分散共分散行列の和を求めることによって、前記移動体考慮物標存在確率分布を求める。
【0044】
ここで、仮自己位置検出部2では、ロータリエンコーダ21の測定結果に基づいて移動量を求め、ヨーレートセンサ22の測定結果に基づいて方位を求めているので、仮自己位置には、移動量および方位それぞれに誤差が生じ得る。このため、前記仮自己位置の前記移動体存在確率分布の分散共分散行列は、分散の加法性から、過去推定タイミングから現在推定タイミングまでの移動による移動量の誤差に関する分散共分散行列Σodoと、前記過去推定タイミングから前記現在推定タイミングまでの移動による方位の誤差に関する分散共分散行列Σangleとの和で表すことができる。したがって、前記過去検出物標の前記物標存在確率分布の分散共分散行列Σcamとした場合、分散の加法性から、前記移動体考慮物標存在確率分布の分散共分散行列Σobjは、次式1によって表される。
【0045】
【0046】
物標存在確率分布が例えばガウス関数で表され、その分散共分散行列Σcamを次式2とした場合、物標位置μ1(x’a、y’b)、分散共分散行列Σcamの測定データにおける真値位置ν1(x1、y1)の確率密度関数f(ν1)は、次式3によって表される。分散共分散行列Σcamにおいて、aは、xの分散であり、cは、yの分散であり、bは、xとyとの共分散である。
【0047】
【0048】
【0049】
同様に、移動量に関し、移動体存在確率分布が例えばガウス関数で表され、その分散共分散行列Σodoを次式4とした場合、仮自己位置μ2(xc、yd)、分散共分散行列Σodoの測定データにおける真値位置ν2(x2、y2)の確率密度関数は、次式5によって表される。分散共分散行列Σcamにおいて、dは、xの分散であり、fは、yの分散であり、eは、xとyとの共分散である。
【0050】
【0051】
【0052】
方位に関し、その分散をσとした場合、
図5に示すように、自車両VCから見た、方位θ、距離lにある物標を方位の精度(分散)σで観測しているとみなすことができる。σ<<1として近似すると、方位θに直交する方向に精度がlsinσだけ劣化すると考えられ、分散共分散行列Σ
angleは、次式6によって表される。
【0053】
【0054】
推定部36は、前記現在推定タイミングにおいて前記物標検出部1で検出した物標を現在検出物標とした場合に、前記高精度地図記憶部51に記憶された高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の、前記第1確率分布変換部33で求められる物標存在確率分布、ならびに、前記物標存在確率分布処理部35で求めた前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定するものである。これによって統計的に最も起こり易い位置で現在の自己位置が推定される。例えば、上述の
図4Bに示すように、現在推定タイミングt
kで物標検出部1で第3物標Ob-3を検出した場合において、推定部36は、前記高精度地図記憶部51に記憶された高精度地図における、前記現在検出物標の第3物標Ob-3および前記過去検出物標の第1および第2物標Ob-1、Ob-2それぞれの各位置、前記現在検出物標である第3物標Ob-3の、前記第1確率分布変換部33で求められる物標存在確率分布PD1、ならびに、前記物標存在確率分布処理部35で求めた前記過去検出物標である第1物標Ob-1の移動体考慮物標存在確率分布PDC、および、前記物標存在確率分布処理部35で求めた前記過去検出物標である第2物標Ob-2の移動体考慮物標存在確率分布PDC、に基づいて、現在の自己位置PV(t
k)を推定する。ここで、前記過去推定タイミングは、前記現在推定タイミングにおける前記物標検出部の検出範囲外に位置する過去検出物標を検出した過去推定タイミングであってよい。例えば、
図4に示す場合では、現在推定タイミングt
kでは、物標検出部1の検出範囲RG外に位置する過去検出物標の第1および第2物標Ob-1、Ob-2を検出した過去推定タイミングt
k-1が用いられる。
【0055】
より具体的には、推定部36は、前記現在検出物標の種類および前記過去検出物標の種類に基づいて、前記高精度地図記憶部51に記憶された高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置を求める。なお、推定部36は、前記高精度地図記憶部51に記憶された高精度地図における検索範囲を絞り込んでもよい。すなわち、推定部36は、現在推定タイミングでの仮自己位置を中心に所定範囲内における高精度地図から、物標検出部1で検出した前記現在検出物標の種類と一致する種類の物標を選定し、前記選定した物標の位置を前記現在検出物標の位置として求め、過去推定タイミングでの自己位置(または仮自己位置)を中心に所定範囲内における高精度地図から、物標検出部1で検出した前記過去検出物標の種類と一致する種類の物標を選定し、前記選定した物標の位置を前記過去検出物標の位置として求める。後述のように、本実施形態では、各推定タイミングで繰り返し自己位置が推定されているので、前記過去検出物標の位置には、前記過去推定タイミングが現在推定タイミングであった際に現在検出物標の位置として求められた位置が用いられてもよい。
【0056】
そして、推定部36は、推定結果を評価するための所定の評価関数(コスト関数)を最適化することによって、前記現在の自己位置を推定し、前記評価関数は、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の物標存在確率分布、ならびに、前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づく関数である。前記評価関数の最適化は、当該評価関数の評価が最も高くなる前記現在の自己位置を探索することであり、前記評価関数が最適化された場合における自己位置が、推定部36で推定した前記現在の自己位置となる。前記評価関数は、例えば、前記現在検出物標の物標存在確率分布に対する前記現在検出物標の位置におけるマハラノビス距離、および、前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に対する前記過去検出物標の位置におけるマハラノビス距離の二乗和である。このため、前記評価関数(コスト関数)の最適化は、当該評価関数の値が最も小さくなる前記現在の自己位置を探索することである。定性的には、前記現在検出物標および前記過去検出物標について、マハラビノス距離で最もフィットする自己位置が探索される。前記評価関数の最適化には、公知の常套手段、例えば、全量探索のグリッドサーチ、勾配法の最急降下方、確率的最急降下法およびADAM(Adaptive Moment Estimation)、ならびに、解析的手法の最小二乗法等が用いられる。
【0057】
この評価関数f(P、A)は、ワールド座標系での自己位置における位置および方位(自車両の向き)それぞれをP(X、Y)およびAとした場合、次式7によって表され、前記過去検出物標および前記現在検出物標における物標iのマハラノビス距離の二乗diは、次式8によって表され、物標iのワールド座標系での分散共分散行列Σ’objiは、ローカル座標系からワールド座標系への変換から、次式9によって表され、方位Aへの回転行列Rは、次式10によって表される。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
ここで、miは、物標iの高精度地図での位置(Xmi、Ymi)である。物標検出部1で検出された物標iのワールド座標系での位置oi(Xi、Yi)は、物標検出部1で検出されたローカル座標系での位置μi(x’ai、y’bi)に対し、次式11によって表される。
【0063】
【0064】
なお、上述では、ローカル座標系およびワールド座標系が2次元である場合について説明したが、ローカル座標系およびワールド座標系は、3次元であってよく、この場合も上述と同様に説明できる。
【0065】
このような制御処理部3および記憶部5は、いわゆるECU(Electronic Control Unit)と呼称される、車両に搭載されたコンピュータによって構成可能である。
【0066】
次に、本実施形態の動作について説明する。
図6は、前記自己位置推定装置の動作を示すフローチャートである。
【0067】
このような自己位置推定装置DSは、車両が稼働を始めると、必要な各部の初期化を実行し、その稼働を始める。その制御処理プログラムの実行によって、制御処理部3には、制御部31、自律航法処理部32、第1確率分布変換部33、第2確率分布変換部34、物標存在確率分布処理部35および推定部36が機能的に構成される。
【0068】
自己位置推定装置Dは、車両の稼働終了等の終了まで、所定の時間間隔ごとの各推定タイミングで
図6に示す処理S1ないし処理S8の各処理を繰り返し、実行する。ここで、前記現在推定タイミングは、今回の推定タイミングであり、前記過去推定タイミングは、例えば、前回の推定タイミングとする。なお、前記過去推定タイミングは、前々回の推定タイミング等としてもよい。
【0069】
図6において、現在推定タイミング(今回の推定タイミング)になると、自己位置推定装置Dは、制御処理部3の制御部31によって、物標検出部1から、その検出した物標における種類および相対位置を取得し、これらを前記今回の推定タイミングと対応付けて記憶部5に記憶し、仮自己位置検出部2におけるロータリエンコーダ21およびヨーレートセンサ22それぞれから取得した各測定結果に基づき、自律航法処理部32(23)によって仮自己位置を求め、これを前記今回の推定タイミングと対応付けて記憶部5に記憶する(S1)。前記推定タイミングは、例えば番号で表され、最初の推定タイミングから順番に各推定タイミングに連番で番号が割り振られる。この処理S1で物標検出部1で検出した物標は、前記現在推定タイミングにおいて前記物標検出部1で検出した物標であるので、現在検出物標である。
【0070】
続いて、自己位置推定装置DSは、制御処理部3の制御部31によって、前記処理S1で求めた仮自己位置で自己位置が特定できるか否かを判定する(S2)。この判定の結果、特定できる場合には、自己位置推定装置DSは、次に、処理S7を実行する。例えば、制御部31は、前記仮自己位置に基づき前記処理S1で検出した物標の相対位置をワールド座標系の位置に変換し、前記処理S1で検出した物標の種類を検索キーとして、高精度地図記憶部51に記憶されている高精度地図から、前記処理S1で検出した物標に対応する物標を選定し、前記高精度地図から、前記選定した物標の位置を取り出し、前記変換した位置と前記取り出した位置との差が所定の範囲(第1範囲)内である場合には、前記処理S1で求めた仮自己位置で自己位置が特定できると、判定する。あるいは例えば、物標検出部1が、移動体(上述では車両)と物標との間の距離が短いほど小さい誤差で前記物標を検出できる場合、前記処理S1で検出した物標までの距離(相対距離)が所定の範囲(第2範囲)内である場合には、制御部31は、前記処理S1で求めた仮自己位置で自己位置が特定できると、判定する。なお、この場合、前記誤差で前記仮自己位置が補正され、補正後の仮自己位置が前記自己位置とされてもよい。一方、前記判定の結果、特定できない場合には、自己位置推定装置Dは、次に、処理S3を実行する。上述の例では、前記変換した位置と前記取り出した位置との差が前記第1範囲外である場合や前記処理S1で検出した物標までの距離(相対距離)が前記第2範囲外である場合には、制御部31は、前記処理S1で求めた仮自己位置で自己位置が特定できないと、判定する。
【0071】
この処理S3では、自己位置推定装置Dは、制御処理部3の第1確率分布変換部33によって、過去推定タイイングにおいて前記物標検出部1で検出した物標(過去検出物標)の相対位置を、物標存在確率分布に変換し、これを記憶部5に記憶する。なお、前記過去推定タイミングにおいて複数の物標(過去検出物標)が検出された場合には、第1確率分布変換部33は、前記複数の過去検出物標それぞれについて、当該過去検出物標の相対位置を物標存在確率分布に変換する。
【0072】
続いて、自己位置推定装置Dは、制御処理部3の第2確率分布変換部34によって、前記処理S1において前記仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置を移動体存在確率分布に変換し、これを記憶部5に記憶する(S4)。
【0073】
続いて、自己位置推定装置Dは、制御処理部3の物標存在確率分布処理部35によって、前記処理S3で求めた過去検出物標の物標存在確率分布、および、前記処理S4で求めた仮自己位置の移動体存在確率分布に基づいて、前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布を求め、これを記憶部5に記憶する(S5)。なお、前記過去推定タイミングにおいて複数の物標(過去検出物標)が検出された場合には、物標存在確率分布処理部35は、前記複数の過去検出物標それぞれについて、当該過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布を求める。
【0074】
続いて、自己位置推定装置Dは、第1確率分布変換部33によって前記現在検出物標の物標存在確率分布を求め、制御処理部3の推定部36によって、前記高精度地図記憶部51に記憶された高精度地図における、前記現在検出物標および前記過去検出物標それぞれの各位置、前記現在検出物標の物標存在確率分布、ならびに、前記処理S5で求めた前記過去検出物標の移動体考慮物標存在確率分布に基づいて、現在の自己位置を推定し、これを前記今回の推定タイミングと対応付けて記憶部5に記憶する(S6)。
【0075】
続いて、自己位置推定装置DSは、制御部31によって、前記処理S6で求めた現在の自己位置を表示部4に表示する。例えば、高精度地図記憶部51に記憶された高精度地図が表示部4に表示され、この表示された高精度地図上に、現在の自己位置が所定のマークで表示される。
【0076】
続いて、自己位置推定装置Dは、制御部31によって、終了か否かを判定する。この判定の結果、終了である場合(Yes)には、自己位置推定装置Dは、本処理を終了する。例えば、前記処理S1ないし処理S7の各処理の間に、車両の稼働終了等があった場合には、制御部31は、終了と判定する。一方、前記判定の結果、終了ではない場合(No)には、次回の推定タイミングで前記処理S1ないし処理S8の各処理を実行するために、制御部31は、処理を処理S1に戻す。
【0077】
以上説明したように、実施形態における自己位置推定装置Dおよびこれに実装された自己位置推定方法は、物標検出部1で検出した物標の相対位置を、所定の物標存在確率分布に変換するので、前記物標検出部1の検出誤差(検出精度)を考慮でき、仮自己位置検出部2で検出した仮自己位置を、所定の移動体存在確率分布に変換するので、前記仮自己位置検出部の検出誤差(検出精度)を考慮できるから、推定精度を改善できる。
【0078】
なお、上述の実施形態において、物標検出部1が物標を検出する際の誤差に応じて、推定部36で現在の自己位置を推定する際に用いる現在検出物標および過去検出物標が限定されてもよい。
【0079】
例えば、第1態様として、物標検出部1は、移動体(上述では車両)と物標との間の距離が短いほど小さい誤差で前記物標を検出し、推定部36は、誤差が所定の第1閾値Th1以下である前記現在検出物標および前記過去検出物標、または、前記誤差が前記所定の第1閾値Th1より小さい前記現在検出物標および前記過去検出物標、を用いて、前記現在の自己位置を推定する。前記所定の第1閾値Th1は、予め適宜に設定される。このような自己位置推定装置Dは、誤差が所定の第1閾値Th1以下またはより小さい前記現在検出物標および前記過去検出物標を用いて、前記現在の自己位置を推定するので、より高い精度で自己位置を推定できる。
【0080】
また例えば、第2態様として、物標検出部1は、移動体(上述では車両)と物標との間の距離が短いほど小さい誤差で前記物標を検出し、推定部36は、前記現在検出物標および前記過去検出物標の個数の総和が所定の第2閾値Th2以上である場合、または、前記現在検出物標および前記過去検出物標の個数の総和が前記所定の第2閾値Th2より多い場合、前記現在検出物標および前記過去検出物標の中から、誤差が小さい順に所定の個数Nだけ抽出し、前記抽出した前記現在検出物標および前記過去検出物標を用いて、前記現在の自己位置を推定する。前記所定の第2閾値Th2は、予め適宜に設定される。このような自己位置推定装置Dは、所定の個数で現在の自己位置を推定するので、推定処理を簡略化できる。
【0081】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0082】
D 自己位置推定装置
1 物標検出部
2 仮自己位置検出部
3 制御処理部
4 表示部
5 記憶部
21 ロータリエンコーダ
22 ヨーレートセンサ
31 制御部
32(23) 自律航法処理部
33 第1確率分布変換部
34 第2確率分布変換部
35 物標存在確率分布処理部
36 推定部
51 高精度地図記憶部