(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144885
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】二次電池負極用炭素材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20241004BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20241004BHJP
【FI】
H01M4/587
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057051
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】519100310
【氏名又は名称】APB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 龍朗
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AC27A
4G146AD23
4G146AD25
4G146BA13
4G146BA22
4G146BA32
4G146BC33A
4G146BC34A
5H050AA08
5H050AA09
5H050BA15
5H050BA17
5H050CB09
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
【課題】高容量かつ高充放電効率な二次電池負極用炭素材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】炭素前駆体とリン系化合物を含む樹脂組成物を焼成することによって得られる二次電池負極用炭素材及びその製造方法であって、炭素前駆体がピッチ系炭素前駆体、樹脂系炭素前駆体、ピッチ系炭素前駆体と樹脂系炭素前駆体の混合物、及び、天然系炭素前駆体からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素前駆体であり、リン系化合物と炭素前駆体とにより得た二次電池負極用炭素材の質量に対して二次電池負極用炭素材中のリン含有量が0.3~1.5質量%であり、焼成温度が500℃以上、1100℃以下であり、かつ、昇温速度が500℃/時以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素前駆体とリン系化合物を含む樹脂組成物を焼成することによって得られる二次電池負極用炭素材であって、
前記炭素前駆体がピッチ系炭素前駆体、樹脂系炭素前駆体、ピッチ系炭素前駆体と樹脂系炭素前駆体の混合物、及び、天然系炭素前駆体からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素前駆体であり、
前記リン系化合物と前記炭素前駆体とにより得た前記二次電池負極用炭素材の質量に対して前記二次電池負極用炭素材中のリン含有量が0.3~1.5質量%であり、
焼成温度が500℃以上、1100℃以下であり、かつ、昇温速度が500℃/時以下である、
ことを特徴とする二次電池負極用炭素材。
【請求項2】
請求項1に記載の二次電池負極用炭素材を含有することを特徴とする二次電池負極材。
【請求項3】
請求項2に記載の二次電池負極材を用いたことを特徴とする二次電池。
【請求項4】
炭素前駆体とリン系化合物を含む樹脂組成物を焼成する工程を有する二次電池負極用炭素材の製造方法であって、
前記炭素前駆体がピッチ系炭素前駆体、樹脂系炭素前駆体、ピッチ系炭素前駆体と樹脂系炭素前駆体の混合物、及び、天然系炭素前駆体からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素前駆体であり、
前記リン系化合物と前記炭素前駆体とにより得た前記二次電池負極用炭素材の質量に対して前記二次電池負極用炭素材中のリン含有量が0.3~1.5質量%であり、
焼成工程における焼成温度が500℃以上、1100℃以下であり、かつ、昇温速度が500℃/時以下である、
ことを特徴とする二次電池負極用炭素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池負極用炭素材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話などの小型電気製品から自動車など大型機械製品まで種々の技術分野で二次電池が利用されている。二次電池としては、電解質として有機電解質などを使用する非水電解液二次電池、または固体電解質を使用する固体電池など種々のタイプが存在する。いずれのタイプの二次電池においても、二次電池の電荷担体となる化学種(例えばリチウムイオンなど)が、正極の電極活物質層と負極の電極活物質層とを移動することによって充電および放電が繰り返される。
【0003】
かかる二次電池において、負極材として炭素材が含有されることが一般的であり、負極の電池性能を改善するために、上記炭素材にリンを含有させることが提案されている(特許文献1~3)。
【0004】
特許文献1は、炭素材の製造方法、二次電池用負極材、非水電解質二次電池に関し、二次電池の負極材としてリン含有炭素材を用いることにより、細孔容積が大きくなり、充放電特性に優れた非水電解質二次電池用の負極材が得られると説明されている。また、特許文献2は、非水電解質二次電池負極活物質及び非水電解質二次電池負極活物質の製造方法に関し、炭素材に対してリン化合物を添着させた状態で焼成を行うことにより、充放電特性に優れる非水電解質二次電池負極用活物質が得られると説明されている。特許文献3は、二次電池負極用炭素材、二次電池負極用活物質、二次電池負極および二次電池に関し、所定範囲の量のリンを含有するとともに、炭酸ガスの吸着量が所定範囲以下である炭素材を含有する負極用活物質を使用することにより、充電容量及び充放電効率に優れる負極を得ることができると説明されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1~3に開示されたリン系化合物含有炭素材を用いた二次電池負極材について、高容量と高充放電効率の両立という点で、未だ改善の余地があった。
【0006】
二次電池負極用炭素材は、従来、700℃~1000℃の低温焼成により高容量化が図られていた。しかし、低温焼成には不可逆容量を大きくしてしまうという問題があった。この不可逆容量を低減する方法としては、例えば、負極用活物質に黒鉛を用いる方法があるが、この方法では負極用活物質の設計の自由度を制限することとなるため好ましくない(特許文献3)。また別の方法として、化学気相含浸(CVI)法が紹介されているが(非特許文献1)、CVI法は工程が複雑で、品質の安定やコストの点で導入が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006-089349号公報
【特許文献2】特開2009-224323号公報
【特許文献3】特開2016-164862号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】2007 [No.230] 362-368 大澤喜美他 愛知工業大学
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決する為になされたものである。すなわち本発明の目的は、高容量で高充放電効率な二次電池負極用炭素材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、炭素前駆体とリン系化合物を含む樹脂組成物を焼成することによって得られる二次電池負極用炭素材であって、前記炭素前駆体がピッチ系炭素前駆体、樹脂系炭素前駆体、ピッチ系炭素前駆体と樹脂系炭素前駆体の混合物、及び、天然系炭素前駆体からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素前駆体であり、前記リン系化合物と前記炭素前駆体とにより得た前記二次電池負極用炭素材の質量に対して前記二次電池負極用炭素材中のリン含有量が0.3~1.5質量%であり、焼成温度が500℃以上、1100℃以下であり、かつ、昇温速度が500℃/時以下である、ことを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の二次電池負極用炭素材を含有することを特徴とする二次電池負極材である。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の二次電池負極材を用いたことを特徴とする二次電池である。
【0013】
請求項4に記載の発明は、炭素前駆体とリン系化合物を含む樹脂組成物を焼成する工程を有する二次電池負極用炭素材の製造方法であって、前記炭素前駆体がピッチ系炭素前駆体、樹脂系炭素前駆体、ピッチ系炭素前駆体と樹脂系炭素前駆体の混合物、及び、天然系炭素前駆体からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素前駆体であり、前記リン系化合物と前記炭素前駆体とにより得た前記二次電池負極用炭素材の質量に対して前記二次電池負極用炭素材中のリン含有量が0.3~1.5質量%であり、焼成工程における焼成温度が500℃以上、1100℃以下であり、かつ、昇温速度が500℃/時以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本願請求項1~4に記載の発明によれば、焼成温度が500℃以上、1100℃以下なので、得られる二次電池負極用炭素材を高容量化できる。一方、所定の割合で含有されるリン系化合物が触媒となって炭素前駆体の構造を変化させるため、不可逆容量を低減でき、充放電効率を維持することができる。そのため、二次電池負極用炭素材における高容量と高充放電効率の両立が可能となる。また、CVI法などの複雑でコストのかかる工程を用いる必要がないので、工程を簡便化し、コストを削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る二次電池負極用炭素材とその製造方法の実施形態について説明する。
【0016】
[炭素前駆体]
本発明に用いる樹脂組成物は、炭素前駆体を含む。炭素前駆体とは、熱処理により実質的に炭素へ変化する有機物を意味する。本発明に用いる炭素前駆体は、ピッチ系炭素前駆体、樹脂系炭素前駆体、ピッチ系炭素前駆体と樹脂系炭素前駆体の混合物、及び、天然系炭素前駆体からなる群より選ばれる少なくとも1つの炭素前駆体である。
【0017】
ピッチ系炭素前駆体の具体例としては、石炭ピッチ、石油ピッチ、ナフタレンなどの芳香族化合物を重合した合成ピッチなどが挙げられる。
【0018】
樹脂系炭素前駆体の具体例としては、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルブチラールなどの熱可塑性樹脂、及び、フェノール樹脂、フラン樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0019】
天然系炭素前駆体の具体例としては、おが屑などが挙げられる。
【0020】
[リン系化合物]
本発明に用いる樹脂組成物は、さらに、リン系化合物を含む。リン系化合物としては特に限定されないが、リン酸類を好適に用いることができる。リン酸類の具体例としては、リン酸(オルトリン酸)、二リン酸、三リン酸などの直鎖状ポリリン酸、環状ポリリン酸、五酸化二リン、亜リン酸、次亜リン酸などのほか、各種リン酸エステル化合物が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0021】
中でも、固形のリン含有化合物としては、五酸化二リン、または各種リン酸エステル化合物が好ましく、溶液状のリン含有化合物としては、リン酸が好ましい。
【0022】
本発明において、上記、リン系化合物と炭素前駆体とにより得た二次電池負極用炭素材の質量に対して二次電池負極用炭素材中のリン含有量が0.3~1.5質量%であることが好ましい。このような割合でリンを含有すると、リンが触媒となって炭素前駆体の構造を変化させるため、不可逆容量を低減でき、充放電効率を維持することができる。その結果として、CVI法などの複雑でコストのかかる工程を用いる必要がなくなり、工程を簡便化し、コストを削減することができる。含有量が0.3質量%未満ではリンを添加する効果が十分得られないおそれがあり、含有量が1.5質量%を超えると炭素前駆体の炭化が過剰に促進されるおそれがある。
【0023】
「その他の成分」
本発明に用いる樹脂組成物には、必要に応じてさらに任意の添加剤が含まれていてもよい。添加剤の具体例としては、硬化剤、有機酸、無機酸、含窒素化合物、含酸素化合物、芳香族化合物、非鉄金属原子などが挙げられる。これら添加剤は、用いる樹脂の種類や性状などにより、1種または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
[樹脂組成物]
本発明に用いる樹脂組成物の調整方法は特に限定されないが、例えば、粉砕混合する方法、溶融混合する方法、粉砕混合した後に溶融混合する方法、あるいは、溶液状態で混合する方法、などを挙げることができる。
【0025】
[二次電池負極用炭素材の製造方法]
本発明の二次電池負極用炭素材の製造方法は、以上説明した炭素前駆体とリン系化合物を含む樹脂組成物を500℃以上、1100℃以下の焼成温度で、かつ、500℃/時以下の昇温速度で焼成する焼成工程を有することを特徴とする。焼成温度が500℃未満では充放電効率や導電性が低下するおそれがあり、1100℃を超えると放電容量が低下するおそれがある。500℃/時より速い昇温速度で焼成すると炭化ムラが起こり、品質に影響する。
【0026】
本発明が低焼成温度と低昇温速度を特徴とする焼成工程を有することにより、二次電池負極用炭素材の高容量化が可能となる。一般に、焼成温度を低くすると、不可逆容量が多くなり、負極用炭素材の充放電効率が低下する。しかしながら、本発明においては、前述のとおり、炭素前駆体と所定量のリン系化合物を含有する構成を有するので、不可逆容量を低減して充放電効率を維持でき、高容量でありながら高充放電効率な二次電池負極用炭素材を得ることができる。
【0027】
[二次電池負極用炭素材]
本発明の二次電池負極用炭素材は、以上説明した製造方法により得られる。そして、本発明の二次電池負極用炭素材は、ハードカーボンであることが好ましい。
【0028】
[二次電池負極材]
本発明の二次電池負極材は、以上説明した二次電池負極用炭素材を含有することを特徴とする。二次電池負極材の構成は特に限定されないが、例えば、本発明の二次電池負極用炭素材100質量部に対し、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを含むフッ素系高分子、ブチルゴム、ブタジエンゴムなどのゴム状高分子などの有機高分子結着剤1~30質量部、及びN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの粘度調整用溶剤を適量添加して混練し、ペースト状にした混合物を圧縮成形、ロール成形などによりシート状、ペレット状などに成形して得ることができる。また、粘度調整用溶剤にてスラリー状にした混合物を銅箔、ニッケル箔などの集電体に塗布成形して得ることもできる。
本発明の二次電池負極材は、上記二次電池負極用炭素材を含有するので、不可逆容量を低減して充放電効率を維持でき、高容量でありながら高充放電効率である。
【0029】
[二次電池]
本発明の二次電池は、以上説明した二次電池負極材を用いたことを特徴とする。特に、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池、カルシウムイオン電池、カリウムイオン電池に好適に用いることができる。
本発明の二次電池は、上記二次電池負極材を用いるので、不可逆容量を低減して充放電効率を維持でき、高容量でありながら高充放電効率である。