(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144888
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】超音波カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61B 8/12 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61B8/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057057
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000189486
【氏名又は名称】上田日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】石原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】大久保 到
(72)【発明者】
【氏名】清水 克彦
(72)【発明者】
【氏名】山屋 将悟
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601BB14
4C601DD14
4C601DD15
4C601FE01
4C601FE04
4C601GB01
4C601GB30
(57)【要約】
【課題】振動子の側面から発振される超音波の反射を抑制して、超音波画像のノイズを低減するとともに分解能を向上できる超音波カテーテルを提供する。
【解決手段】長尺なシース15と、シース15内の超音波振動子41と、シース15内で超音波振動子41を保持し、超音波振動子41をシース15の中心軸C回りに回転させる駆動シャフト50と、を備え、超音波振動子41は、シース15の中心軸Cと略平行な、またはシース15の中心軸Cに対して15度以下の角度をなして傾斜する、超音波発振面41aと、超音波発振面41aが向く方向と反対方向を向く背面41bと、超音波発振面41aが向く方向と略直交する側面41cと、を有し、超音波振動子41は、背面41bと、側面41cのうち、超音波発振面41aの面方向と平行かつシース15の中心軸C方向と直交する方向を主に向く横方向側面部41eの少なくとも一部と、が超音波減衰部材43で覆われている超音波カテーテル10である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺なシースと、
前記シース内に収納された超音波振動子と、
前記シース内で前記超音波振動子を保持するとともに、前記超音波振動子を前記シースの中心軸回りに回転させる駆動シャフトと、を備え、
前記超音波振動子は、前記シースの中心軸と略平行な、または前記シースの中心軸に対して15度以下の角度をなして傾斜する、超音波発振面と、前記超音波発振面が向く方向と反対方向を向く背面と、前記超音波発振面が向く方向と略直交する側面と、を有し、
前記超音波振動子は、前記背面と、前記側面のうち、前記超音波発振面の面方向と平行かつ前記シースの中心軸方向と直交する方向を主に向く横方向側面部の少なくとも一部と、が超音波減衰部材で覆われている超音波カテーテル。
【請求項2】
前記超音波振動子は、前記側面のうち前記シースの基端側を主に向く後方側面部の少なくとも一部が超音波減衰部材で覆われている請求項1に記載の超音波カテーテル。
【請求項3】
前記超音波振動子は、前記側面のうち前記シースの先端側を主に向く前方側面部の少なくとも一部が超音波減衰部材で覆われている請求項2に記載の超音波カテーテル。
【請求項4】
前記超音波振動子は、前記超音波減衰部材に前記超音波発振面以外の面が埋込配置されている請求項3に記載の超音波カテーテル。
【請求項5】
前記超音波振動子は、前記後方側面部に前記超音波発振面から厚みを小さくする段差部を介して段落ちしたヘッダ部を有し、
前記超音波減衰部材は、前記段差部と連続する減衰部材段差部と、前記ヘッダ部と連続する減衰部材平面部と、を有する請求項4に記載の超音波カテーテル。
【請求項6】
前記超音波振動子は、単一の素子からなる請求項1~5のいずれか1項に記載の超音波カテーテル。
【請求項7】
前記超音波振動子は、前記背面と前記側面の少なくとも一部が、単一の前記超音波減衰部材で覆われている請求項1~5のいずれか1項に記載の超音波カテーテル。
【請求項8】
前記超音波振動子は、前記超音波発振面が向く方向と直交する方向における厚みが0.1mm以上0.5mm以下の範囲である請求項1~5のいずれか1項に記載の超音波カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓や血管などの内腔に挿入して画像を取得する超音波カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓や血管などから患部を診察する場合に、生体の内腔に挿入されて、超音波を利用して画像を取得する超音波カテーテルが使用される。超音波カテーテルは、超音波を送受信するための振動子と、この振動子を回転させる駆動シャフトと、振動子および駆動シャフトを回転可能に収容するシースとを有している。振動子は、シース内で駆動シャフトにより回転駆動されて超音波を送受信し、生体内の画像を取得する。
【0003】
振動子は、シース先端部の閉空間内において、シースの中心軸と直交する方向または当該方向からやや傾斜する方向を向くように配置される。このような超音波カテーテルとして、例えば特許文献1に挙げるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超音波カテーテルで画像を取得するため、振動子から超音波を発振する際、振動子が面する方向だけでなく、振動子の側面からも超音波が発振される。このため、画像を撮影したい方向とは異なる方向も超音波が一部向かい、これが反射することで、超音波画像上にノイズが出現する。また、取得した超音波画像の分解能を低下させる原因ともなる。特に、低周波の超音波を発生する超音波振動子ほど厚みが大きいため、側面から発振される超音波も増加し、ノイズがより多く発生する。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、振動子の側面から発振される超音波の反射を抑制して、超音波画像のノイズを低減するとともに分解能を向上できる超音波カテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する(1)超音波カテーテルは、長尺なシースと、前記シース内に収納された超音波振動子と、前記シース内で前記超音波振動子を保持するとともに、前記超音波振動子を前記シースの中心軸回りに回転させる駆動シャフトと、を備え、前記超音波振動子は、前記シースの中心軸と略平行な、または前記シースの中心軸に対して15度以下の角度をなして傾斜する、超音波発振面と、前記超音波発振面が向く方向と反対方向を向く背面と、前記超音波発振面が向く方向と略直交する側面と、を有し、前記超音波振動子は、背面と、前記側面のうち、前記超音波発振面の面方向と平行かつ前記シースの中心軸方向と直交する方向を主に向く横方向側面部の少なくとも一部と、が超音波減衰部材で覆われている。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成した超音波カテーテルは、厚みの比較的大きい超音波振動子において、超音波発振面の面方向と平行かつシースの中心軸方向と直交する方向を主に向く側面が超音波減衰部材で覆われているので、超音波振動子の側面から発振される超音波によって超音波画像に生じるノイズを低減できるとともに、超音波画像の分解能を向上させることができる。
【0009】
(2)上記(1)の超音波カテーテルにおいて、前記超音波振動子は、前記側面のうち前記シースの基端側を主に向く後方側面部の少なくとも一部が超音波減衰部材で覆われていてもよい。これにより、超音波振動子の後方側面部から発振される超音波によって発生する超音波画像のノイズを低減できる。
【0010】
(3)上記(1)または(2)の超音波カテーテルにおいて、前記超音波振動子は、前記側面のうち前記シースの先端側を主に向く前方側面部の少なくとも一部が超音波減衰部材で覆われていてもよい。これにより、超音波振動子の前方側面部から発振される超音波によって発生する超音波画像のノイズを低減できる。
【0011】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの超音波カテーテルにおいて、前記超音波振動子は、前記超音波減衰部材に前記超音波発振面以外の面が埋込配置されていてもよい。これにより、超音波振動子の側面全体が超音波減衰部材で覆われるので、超音波振動子の側面から発振される超音波が超音波画像に与える影響をより低減できる。
【0012】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの超音波カテーテルにおいて、前記超音波振動子は、前記後方側面部に前記超音波発振面から厚みを小さくする段差部を介して段落ちしたヘッダ部を有し、前記超音波減衰部材は、前記段差部と連続する減衰部材段差部と、前記ヘッダ部と連続する減衰部材平面部と、を有してもよい。これにより、超音波減衰部材が超音波振動子に対する配線の妨げとなることを防止できる。
【0013】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの超音波カテーテルにおいて、前記超音波振動子は、単一の素子からなるものであってもよい。これにより、超音波振動子から発振される超音波同士が干渉する、あるいは他の超音波振動子から発振される超音波を受信することで超音波画像にノイズが発生することを抑制できる。
【0014】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの超音波カテーテルにおいて、前記超音波振動子は、前記背面と前記側面の少なくとも一部が、単一の前記超音波減衰部材で覆われていてもよい。これにより、超音波減衰部材が一体的となり、超音波減衰部材の製造を容易にするとともに、超音波画像のノイズをより確実に抑制し、分解能を向上させることができる。
【0015】
(8)上記(1)~(7)のいずれかの超音波カテーテルにおいて、前記超音波振動子は、前記超音波発振面が向く方向と直交する方向における厚みが0.1mm以上0.5mm以下の範囲であってもよい。これにより、厚みの大きい超音波振動子を用いる場合に、超音波振動子の側面から発振される超音波を効果的に減衰させ、超音波画像に与える影響を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】超音波カテーテルの先端部付近の平面視拡大断面図である。
【
図3】超音波カテーテルの先端部付近の正面視拡大断面図である。
【
図5】超音波減衰部材に埋設した超音波振動子の斜視図である。
【
図6】超音波カテーテルで取得したステンレス製パイプの画像であって、(a)は超音波振動子の側面に超音波減衰部材を設けていない場合の画像、(b)は超音波振動子の側面に超音波減衰部材を設けた場合の画像である。
【
図7】本実施形態に係る超音波カテーテルシステムの使用例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、生体内に挿入する側を「先端側」、操作する側を「基端側」と称することとする。
【0018】
本実施形態に係る超音波カテーテル10は、
図1に示すように、長尺なシース15の基端部にハウジング60を備えている。シース15は、外シース20と、内シース30とを備え、シース15の内部には振動子ユニット40と、振動子ユニット40を保持する駆動シャフト50と、が設けられる。
【0019】
外シース20は、生体内腔内に挿入される管体である。外シース20は、基端から先端へ向かって、基端側管状部23と、屈曲部24と、先端側管状部25とを備えている。基端側管状部23、屈曲部24および先端側管状部25の内部には、基端から先端へ連通する収容ルーメン21が形成されている。
【0020】
基端側管状部23は、略直線状の軸心を有する管体である。基端側管状部23の基端部は、ハウジング60に固定されている。基端側管状部23の少なくとも先端部の軸心は、直線的な基準線X上に位置している。屈曲部24は、基端側管状部23の先端側に位置して屈曲した軸心を有する管体である。先端側管状部25は、屈曲部24の先端側に位置して直線状の軸心を有する管体である。先端側管状部25の先端部は、キャップ22に固定されている。
【0021】
屈曲部24の曲げ角度θは、特に限定されないが、10°~40°であることが好ましい。曲げ角度θが小さすぎると、外シース20の先端部の基端部に対するオフセット量が小さくなる。オフセット量とは、外シース20の屈曲部24よりも先端側の部位のうち、基準線Xから当該基準線Xと垂直な方向へ最も離れている部位の軸心までの長さである。曲げ角度θが大きすぎると、屈曲部24の内部で曲げられた状態で回転しつつ軸心方向へ移動する駆動シャフト50の回転および軸心方向への移動が妨げられやすい。これに対し、曲げ角度θが適切な大きさであることで、駆動シャフト50の回転および軸心方向への移動を安定して維持しつつ、外シース20のオフセット量を望ましい値に設定しやすくなる。
【0022】
基端側管状部23と屈曲部24の境界から外シース20の最先端までの、基準線Xに沿う長さである先端部長さは、特に限定されないが、20~150mmであることが好ましい。このため、外シース20の屈曲部24よりも先端側のオフセットした部位(軸心が、基準線Xから基準線Xの垂直方向へずれた部位)の基準線Xに沿う長さを、広い内腔を有する心蔵や血管内で使用するために適切に設定できる。また、先端部長さが短すぎると、外シース20の先端部の基端部に対するオフセット量が小さくなりやすい。先端部長さが長すぎると、外シース20の先端部の基端部に対するオフセット量が大きくなりやすい。これに対し、先端部長さが適切な長さであることで、外シース20のオフセット量を望ましい値に設定しやすくなる。
【0023】
オフセット量は、特に限定されないが、5~30mmであることが好ましい。オフセット量が適度な大きさを有することで、広い内腔を有する心臓や血管内で、外シース20を観察対象部位へ近づけることが容易となる。
【0024】
外シース20は、収容ルーメン21に、振動子ユニット40、内シース30および駆動シャフト50を収容している。外シース20内の振動子ユニット40、内シース30および駆動シャフト50は、外シース20の軸心に沿って、収容ルーメン21内を移動可能である。さらに、外シース20内の振動子ユニット40および駆動シャフト50は、外シース20の内部でシース15の中心軸C回りに回転可能である。外シース20は、基端のみが開口し、先端がキャップ22で閉鎖された筒体である。外シース20の基端部を形成する基端側管状部23の基端部は、ハウジング60に固定されている。外シース20の先端部を形成する先端側管状部25の先端部はキャップ22に固定されている。外シース20の基端部は、編組されたブレード線等の補強体が設けられてもよい。
【0025】
本実施形態において、屈曲部24は1つ設けられるが、設けられなくてもよく、または2つ以上設けられてもよい。
【0026】
図2、3に示すように、シース15の先端部には、振動子ユニット40が配置され、シース15を構成する外シース20の先端側の開口部20aはキャップ22で封止されている。
【0027】
振動子ユニット40は、体内で生体組織に向けて超音波を送受信する。振動子ユニット40は、超音波を送受信する超音波振動子41と、超音波振動子41が配置されると共に駆動シャフト50に固定される単一の素子からなる振動子保持部42と、を備えている。振動子ユニット40は、外シース20の収容ルーメン21内を、屈曲部24を超えて、外シース20の軸心方向へ移動可能である。また、振動子ユニット40は、収容ルーメン21内を、軸心を中心に回転可能である。
【0028】
超音波振動子41は、5MHz~20MHzの比較的低周波の超音波を発振する。超音波振動子41の厚みは、0.1mm~0.5mmの範囲であり、比較的大きい。このため、超音波振動子41は、超音波発振面41aだけでなく側面41cからも超音波がある程度発振される。
【0029】
振動子ユニット40において超音波振動子41は、シース15の中心軸Cと略平行な超音波発振面41aと、超音波発振面41aが向く方向と反対方向を向く背面41bと、超音波発振面41aが向く方向およびシース15の中心軸Cの方向と直交する方向を向く側面41cと、を有している。
図4に示すように、超音波振動子41は平面視で円形を有している。シース15の中心軸Cの方向に対して、超音波振動子41の中心位置から斜め前方45°の角度をなす第1線D1および第2線D2と、超音波振動子41の中心位置から斜め後方45°の角度をなす第3線D3および第4線D4とを想定する。この場合に、超音波振動子41の側面41cのうち、周方向において反時計回りに第1線D1から第2線D2までの領域は、シース15の中心軸Cに沿う先端方向を向く前方側面部41dである。超音波振動子41の側面41cのうち、周方向において反時計回りに第3線D3から第4線D4までの領域は、シース15の中心軸Cに沿う基端方向を向く後方側面部41fである。超音波振動子41の側面41cのうち、周方向において反時計回りに第2線D2から第3線D3までの領域と、第4線D4から第1線D1までの領域は、シース15の中心軸Cの方向と直交する方向を向く横方向側面部41eである。
【0030】
超音波振動子41の側面41cのうち、横方向側面部41eは、超音波発振面41aの面方向と平行かつシース15の中心軸C方向と直交する方向を主に向いている。ここで、超音波発振面41aの面方向と平行かつシース15の中心軸C方向と直交する方向を主に向いているとは、超音波振動子41の側面41cの任意の点Sにおいて、その法線ベクトルPを、シース15の中心軸Cの方向のベクトル成分P1と、シース15の中心軸Cの方向と直交し超音波発振面41aの面方向と平行な方向のベクトル成分P2と、シース15の中心軸Cの方向と直交しベクトル成分P2と直交する方向のベクトル成分P3と、に分解した場合に、ベクトル成分P2が最も大きいことを意味する。
【0031】
超音波振動子41の側面41cのうち、前方側面部41dは、シース15の先端側を主に向いており、後方側面部41fは、シース15の基端側を主に向いている。シース15の先端側を主に向いているとは、前述の法線ベクトルPのベクトル成分のうち、ベクトル成分P1が先端側を向いて最も大きいことを意味する。シース15の基端側を主に向いているとは、前述の法線ベクトルPのベクトル成分のうち、ベクトル成分P1が基端側を向いて最も大きいことを意味する。なお、本実施形態において、超音波振動子41の側面41cの任意の点Sにおける接平面は全て、超音波発振面41aと略直交する。このため、
図4に示すように、任意の点Sにおける法線ベクトルPのベクトル成分P3の大きさは、常にほぼゼロとなる。また、本実施形態において、超音波発振面41aはシース15の中心軸Cと略平行であるため、ベクトル成分P3は、超音波発振面41aの面方向と略直交する。
【0032】
なお、超音波振動子41は、シース15の中心軸Cに対して15℃以下の角度をなして傾斜していてもよい。超音波発振面41aは、シース15の中心軸Cから径方向外側に離間した位置に配置されている。
【0033】
図5に示すように、超音波振動子41は、単一部材からなる超音波減衰部材43に超音波発振面41aと反対側の背面41bと側面41cの全体とが覆われて、超音波発振面41aが露出するように埋設されている。すなわち、超音波振動子41は、超音波発振面41a以外の面、具体的には背面41bと側面41cの全体とが、超音波減衰部材43に埋込配置されている。超音波減衰部材43は、超音波振動子41から発振される超音波を減衰させる特性を有する。なお、ここで、「超音波を減衰させる特性」とは、超音波を散乱させたり、吸収したりする特性を指す。超音波減衰部材43としては、例えば樹脂に粒状のガラスビーズやポリエチレンビーズなどのフィラーを混合した超音波減衰部材を用いることができるが、これに限定されず、超音波を減衰させる任意の材料を用いることができる。
【0034】
超音波減衰部材43は、超音波振動子41の側面41cのうち、前方側面部41dと横方向側面部41eおよび後方側面部41fとを覆っている。超音波減衰部材43の前方側面部41dと横方向側面部41eとを覆う厚みは、最も薄い部分で0.25mm以上であれば、超音波振動子41の側面41cから発振される超音波を充分に減衰させることができる。超音波減衰部材43で超音波振動子41の前方側面部41dを覆うことで、超音波振動子41から先端側に向かって発振された超音波を減衰させることによって超音波画像に生じるリング状のノイズを低減できる。また、超音波減衰部材43で超音波振動子41の横方向側面部41eを覆うことで、超音波振動子41から中心軸Cと直交する方向に向かって発振された超音波が超音波振動子41に向かって反射することによって超音波画像の周方向に複数現れるノイズを低減できるとともに、超音波画像の分解能を向上させることができる。特に、超音波振動子41は、シース15の中心軸C回りに回転可能であることから、側面41cから発振される超音波や側面41cで受信する超音波の影響を受けやすく、超音波減衰部材43によってその影響を低減できる。
【0035】
超音波振動子41は、後方側面部41fに超音波発振面41aから厚みを小さくする段差部41gを介して段落ちしたヘッダ部41hを有している。段差部41gは、超音波振動子41の両面にそれぞれ形成されている。ヘッダ部41hには、両面にそれぞれ導線45が接続されている(
図3、4参照)。超音波減衰部材43は、超音波振動子41の段差部41gと連続する減衰部材段差部43aと、超音波振動子41のヘッダ部41hと連続する減衰部材平面部43bと、を有しており、超音波振動子41の形状に合わせて後方側が薄くなっている。超音波減衰部材43は、この形状によって超音波振動子41の後方側面部41fを覆うとともに、ヘッダ部41hに接続される導線45に干渉しないように配置される。超音波減衰部材43が超音波振動子41の後方側面部41fを覆うことで、超音波振動子41から基端側に向かって発振された超音波が超音波振動子41に向かって反射することによって超音波画像に生じるノイズを低減できる。
【0036】
キャップ22は、X線不透過性の材料を含んで形成されており、X線造影性を有する造影部を構成する。X線不透過性材料としては、例えば、硫酸バリウム、酸化ビスマス、タングステン、金、白金、タンタル等を用いることができる。
図2に示すように、キャップ22は、外シース20の開口部20aから外シース20内に延びる延長部70と、開口部20aから先端側に突出し、外シース20の外径と略同一の外径を有する先端突出部74とを有している。
【0037】
先端突出部74は、先端側に向かって凸状のドーム形状を有している。先端突出部74は、超音波カテーテル10の先端となるので、その形状がドーム形状であることにより、生体組織を傷付けることを防止できる。
【0038】
内シース30は、
図1に示すように、先端側の一部が外シース20に挿入される筒体である。内シース30の先端側の部位は、外シース20の内部に、外シース20の軸心に沿って移動可能に収容されている。内シース30の基端部は、外シース20およびハウジング60から基端側に導出されて、第2のハウジング(図示しない)に固定される。
【0039】
内シース30は、駆動シャフト50を回転可能に収容している。内シース30の先端部は、振動子ユニット40の基端側に、振動子ユニット40に近接して位置している。内シース30は、外シース20の内周面と駆動シャフト50の外周面の間に配置されて、駆動シャフト50の回転方向および軸方向への移動を安定させる。
【0040】
外シース20および内シース30の構成材料は、可撓性を有し、ある程度の強度を有すれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(エチレン・四フッ化エチレン共重合体)等のフッ素系ポリマー、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ポリイミド等が好適に使用できる。
【0041】
駆動シャフト50は、駆動ユニット(図示しない)から作用する回転力および軸心方向への移動力を振動子ユニット40に伝達する。駆動シャフト50が回転の動力を伝達することによって、振動子ユニット40が回転し、血管や心腔から、組織の内部構造を360度観察できる。また、駆動シャフト50は、外シース20の収容ルーメン21内を、外シース20の軸心に沿って移動可能である。
【0042】
ハウジング60には、外シース20の基端部が液密に固着されており、第1のポート62および第2のポート64を備えている。ハウジング60の構成材料は、ある程度の強度を有すれば特に限定されないが、例えば、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリサルホン、ポリアリレート、メタクリレート-ブチレン-スチレン共重合体等が好適に使用できる。
【0043】
超音波カテーテル10における超音波走査(スキャン)は、回転運動を駆動シャフト50に伝達し、駆動シャフト50の先端に固定された振動子ユニット40を回転させることにより行われる。これにより、超音波振動子41で送受信される超音波を略径方向に走査できる。さらに、駆動シャフト50を基端側へ牽引することで、超音波振動子41を回転させつつ基端側へ移動させることができる。このため、血管または心腔の包囲組織の360°の断面画像を、外シース20の軸心に沿って任意の位置まで走査的に得ることができる。
【0044】
シース15の先端部近傍に直径20mmのステンレス製パイプを配置し、超音波振動子41の側面41cを超音波減衰部材43で覆っていない場合と覆った場合のそれぞれについて、撮影を行った。
図6(a)に示すように、超音波振動子41の側面41cを超音波減衰部材43で覆っていない場合、超音波画像には、周方向に複数のノイズが発生する。
図6(b)に示すように、超音波振動子41の側面41cを超音波減衰部材43で覆った場合、超音波画像のノイズは低減される。また、超音波振動子41の側面41cを超音波減衰部材43で覆った場合、覆っていない場合より超音波画像の分解能が高いことも確認された。
【0045】
本実施形態に係る超音波カテーテル10は、例えば、
図7に示すように、大腿静脈Ivから右心房HRaに挿入し、治療用カテーテル100による処置状況を観察するために用いることができる。
【0046】
以上のように、本実施形態に係る(1)超音波カテーテル10は、長尺なシース15と、シース15内に収納された超音波振動子41と、シース15内で超音波振動子41を保持するとともに、超音波振動子41をシース15の中心軸C回りに回転させる駆動シャフト50と、を備え、超音波振動子41は、シース15の中心軸Cと略平行な、またはシース15の中心軸Cに対して15度以下の角度をなして傾斜する、超音波発振面41aと、超音波発振面41aが向く方向と反対方向を向く背面41bと、超音波発振面41aが向く方向と略直交する側面41cと、を有し、超音波振動子41は、背面41bと、側面41cのうち、超音波発振面41aの面方向と平行かつシース15の中心軸C方向と直交する方向を主に向く横方向側面部41eの少なくとも一部と、が超音波減衰部材43で覆われている。このように構成した超音波カテーテルは、厚みの比較的大きい超音波振動子41において、超音波発振面41aの面方向と平行かつシース15の中心軸C方向と直交する方向を主に向く側面41cが超音波減衰部材43で覆われているので、超音波振動子41の側面41cから発振される超音波によって超音波画像に生じるノイズを低減できるとともに、超音波画像の分解能を向上させることができる。
【0047】
(2)上記(1)の超音波カテーテル10において、超音波振動子41は、側面41cのうちシース15の基端側を主に向く後方側面部41fの少なくとも一部が超音波減衰部材43で覆われていてもよい。これにより、超音波振動子41の後方側面部41fから発振される超音波によって発生する超音波画像のノイズを低減できる。
【0048】
(3)上記(1)または(2)のの超音波カテーテル10において、超音波振動子41は、側面41cのうちシース15の先端側を主に向く前方側面部41dの少なくとも一部が超音波減衰部材43で覆われていてもよい。これにより、超音波振動子41の前方側面部41dから発振される超音波によって発生する超音波画像のノイズを低減できる。
【0049】
(4)上記(1))~(3)のいずれかの超音波カテーテル10において、超音波振動子41は、超音波減衰部材43に超音波発振面41a以外の面が埋込配置されていてもよい。これにより、超音波振動子41の側面41c全体が超音波減衰部材43で覆われるので、超音波振動子41の側面41cから発振される超音波が超音波画像に与える影響をより低減できる。
【0050】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの超音波カテーテル10において、超音波振動子41は、後方側面部41fに超音波発振面41aから厚みを小さくする段差部41gを介して段落ちしたヘッダ部41hを有し、超音波減衰部材43は、段差部41gと連続する減衰部材段差部43aと、ヘッダ部41hと連続する減衰部材平面部43bと、を有してもよい。これにより、超音波減衰部材43が超音波振動子41に対する配線の妨げとなることを防止できる。
【0051】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの超音波カテーテル10において、超音波振動子41は、単一の素子からなるものであってもよい。これにより、超音波振動子41から発振される超音波同士が干渉する、あるいは他の超音波振動子41から発振される超音波を受信することで超音波画像にノイズが発生することを抑制できる。
【0052】
(7)上記(1)~(6)のいずれかの超音波カテーテル10において、超音波振動子41は、背面41bと側面41cの少なくとも一部が、単一の超音波減衰部材43で覆われていてもよい。これにより、超音波減衰部材43が一体的となり、超音波減衰部材43の製造を容易にするとともに、超音波画像のノイズをより確実に抑制し、分解能を向上させることができる。
【0053】
(8)上記(1)~(7)のいずれかの超音波カテーテル10において、超音波振動子41は、超音波発振面41aが向く方向と直交する方向における厚みが0.1mm以上0.5mm以下の範囲であってもよい。これにより、厚みの大きい超音波振動子41を用いる場合に、超音波振動子41の側面41cから発振される超音波を効果的に減衰させ、超音波画像に与える影響を低減できる。
【0054】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 超音波カテーテル
15 シース
20 外シース
20a 開口部
21 収容ルーメン
22 キャップ
23 基端側管状部
24 屈曲部
25 先端側管状部
30 内シース
40 振動子ユニット
41 超音波振動子
41a 超音波発振面
41b 背面
41c 側面
41d 前方側面部
41e 横方向側面部
41f 後方側面部
41g 段差部
41h ヘッダ部
42 振動子保持部
43 超音波減衰部材
43a 減衰部材段差部
43b 減衰部材平面部
45 導線
50 駆動シャフト
60 ハウジング