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特開2024-144891過給アシスト装置、および過給アシスト方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144891
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】過給アシスト装置、および過給アシスト方法
(51)【国際特許分類】
   F02B 37/10 20060101AFI20241004BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20241004BHJP
   F02D 23/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F02B37/10 A
F02D41/04
F02D23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057060
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 健吾
(72)【発明者】
【氏名】寺門 貴芳
(72)【発明者】
【氏名】小柴 勇紀
(72)【発明者】
【氏名】田村 太郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 孝
(72)【発明者】
【氏名】首藤 進太郎
(72)【発明者】
【氏名】小川 久雄
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕幸
【テーマコード(参考)】
3G005
3G092
3G301
【Fターム(参考)】
3G005DA02
3G005DA09
3G005EA04
3G005EA16
3G005FA04
3G005FA35
3G005GB14
3G005GC07
3G005JA02
3G005JB20
3G092AA02
3G092AA18
3G092AC08
3G092BB01
3G092DB03
3G092EA01
3G092EA17
3G092FA03
3G092FA18
3G092HA11Z
3G092HF01Z
3G301HA02
3G301HA11
3G301HA27
3G301JA03
3G301JA24
3G301KA07
3G301MA11
3G301NE01
3G301PA17Z
3G301PF12Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ターボチャージャが搭載される非常用発電用エンジンを起動する際に、発電機から要求される負荷に対する応答を早め、且つスモークの発生を抑制する。
【解決手段】過給アシスト装置は、アシスト用の空気を吐出可能な供給源と、一端が供給源に接続され他端がターボチャージャのコンプレッサに接続されるアシスト用空気ラインであって、アシスト用の空気が供給源からコンプレッサに向かって流通するアシスト用空気ラインと、アシスト用空気ラインに設けられる電磁弁と、電磁弁の開閉を制御可能に構成される制御装置と、を備え、非常用発電用ディーゼルエンジンは、エンジン本体に負荷が投入されるまでの所定期間において、予め設定されているハイアイドル回転数域でエンジン本体が運転されるように構成されており、制御装置は、所定期間内において、エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前に開弁するように電磁弁を制御する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常用発電用ディーゼルエンジンに搭載されるターボチャージャの過給を支援するための過給アシスト装置であって、
アシスト用の空気を吐出可能な供給源と、
一端が前記供給源に接続され他端が前記ターボチャージャのコンプレッサに接続されるアシスト用空気ラインであって、前記アシスト用の空気が前記供給源から前記コンプレッサに向かって流通するアシスト用空気ラインと、
前記アシスト用空気ラインに設けられる電磁弁と、
前記電磁弁の開閉を制御可能に構成される制御装置と、を備え、
前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、
エンジン本体に負荷が投入されるまでの所定期間において、予め設定されているハイアイドル回転数域で前記エンジン本体が運転されるように構成されており、
前記制御装置は、
前記所定期間内において、前記エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前に開弁するように前記電磁弁を制御する、
過給アシスト装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記エンジン本体に負荷が投入される時点から第2時間後に閉弁するように前記電磁弁を制御する、
請求項1に記載の過給アシスト装置。
【請求項3】
前記第2時間は、前記エンジン本体に負荷が投入される時点から前記エンジン本体の回転数が低下から増大に転じるまでの時間よりも長い、
請求項2に記載の過給アシスト装置。
【請求項4】
前記第1時間は、1秒以上10秒未満である、
請求項1から3の何れか一項に記載の過給アシスト装置。
【請求項5】
非常用発電用ディーゼルエンジンに搭載されるターボチャージャの過給を支援するための過給アシスト方法であって、
前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、
アシスト用の空気を吐出可能な供給源と、
一端が前記供給源に接続され他端が前記ターボチャージャのコンプレッサに接続されるアシスト用空気ラインであって、前記アシスト用の空気が前記供給源から前記コンプレッサに向かって流通するアシスト用空気ラインと、
前記アシスト用空気ラインに設けられる電磁弁と、を含んでおり、
前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、
エンジン本体に負荷が投入されるまでの所定期間において、予め設定されているハイアイドル回転数域で前記エンジン本体が運転されるように構成されており、
前記所定期間内において、前記エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前に前記電磁弁を開弁するステップを備える、
過給アシスト方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非常用発電用ディーゼルエンジンに搭載されるターボチャージャの過給を支援するための過給アシスト装置、および過給アシスト方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非常用発電用ディーゼルエンジンは、停電のような非常時に起動させ、発電機から要求される負荷に応答するように構成されている。特許文献1には、非常時に発電機が非常用電力を確実に発電するように、非常用発電用ディーゼルエンジンを保守運転させる制御装置について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-096368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、非常用発電用ディーゼルエンジンは、発電機から要求される負荷に対して速やかに応答すること(良好な負荷投入性能を有すること)が要望される。しかしながら、非常用発電用ディーゼルエンジンに負荷が投入され始めてからしばらくの間は、タービンに供給される排ガスのエネルギーが低いため、コンプレッサによって圧縮される空気の量が少ない。このため、非常用発電用ディーゼルエンジンは、発電機から要求される負荷に対して応答可能な状態になるまでに時間がかかる虞がある。また、コンプレッサによって圧縮される空気の量が少ないと、排ガスに煤などが含まれ、黒煙のようなスモークを発生させる虞がある。
【0005】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、ターボチャージャが搭載される非常用発電用エンジンを起動する際に、発電機から要求される負荷に対する応答を早め、且つスモークの発生を抑制することができる過給アシスト装置、および過給アシスト方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る過給アシスト装置は、非常用発電用ディーゼルエンジンに搭載されるターボチャージャの過給を支援するための過給アシスト装置であって、アシスト用の空気を吐出可能な供給源と、一端が前記供給源に接続され他端が前記ターボチャージャのコンプレッサに接続されるアシスト用空気ラインであって、前記アシスト用の空気が前記供給源から前記コンプレッサに向かって流通するアシスト用空気ラインと、前記アシスト用空気ラインに設けられる電磁弁と、前記電磁弁の開閉を制御可能に構成される制御装置と、を備え、前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、エンジン本体に負荷が投入されるまでの所定期間において、予め設定されているハイアイドル回転数域で前記エンジン本体が運転されるように構成されており、前記制御装置は、前記所定期間内において、前記エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前に開弁するように前記電磁弁を制御する。
【0007】
上記目的を達成するため、本開示に係る過給アシスト方法は、非常用発電用ディーゼルエンジンに搭載されるターボチャージャの過給を支援するための過給アシスト方法であって、前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、アシスト用の空気を吐出可能な供給源と、一端が前記供給源に接続され他端が前記ターボチャージャのコンプレッサに接続されるアシスト用空気ラインであって、前記アシスト用の空気が前記供給源から前記コンプレッサに向かって流通するアシスト用空気ラインと、前記アシスト用空気ラインに設けられる電磁弁と、を含んでおり、前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、エンジン本体に負荷が投入されるまでの所定期間において、予め設定されているハイアイドル回転数域で前記エンジン本体が運転されるように構成されており、前記所定期間内において、前記エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前に前記電磁弁を開弁するステップを備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の過給アシスト装置、および過給アシスト方法によれば、ターボチャージャが搭載される非常用発電用エンジンを起動する際に、発電機から要求される負荷に対する応答を早め、且つスモークの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る過給アシスト装置を備える非常用発電用ディーゼルエンジンの構成を概略的に示す図である。
図2】一実施形態に係るエンジン制御装置の概略的な機能ブロック図である。
図3】一実施形態に係るエンジン本体の回転数の時間的変化の一例を説明するための図である。
図4】一実施形態に係る電磁弁が開閉している期間を示す図である。
図5】一実施形態に係る過給アシスト装置の作用・効果を説明するための図である。
図6】一実施形態に係る過給アシスト装置の作用・効果を説明するための図である。
図7】一実施形態に係る過給アシスト方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施の形態による過給アシスト装置および過給アシスト方法について、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0011】
図1は、一実施形態に係る過給アシスト装置1を備える非常用発電用ディーゼルエンジン100の構成を概略的に示す図である。非常用発電用ディーゼルエンジン100は、非常用発電機150とともに商業施設、ホテル、病院、及びデータセンタなどに設置されている。非常用発電用ディーゼルエンジン100は、停電のような非常時に非常用発電機150を駆動させて非常用電力を発電させる。一実施形態では、図1に例示するように、非常用発電用ディーゼルエンジン100は、吸気ライン102と、排ガスライン104と、エンジン本体110と、ターボチャージャ120と、エンジン制御装置200と、過給アシスト装置1と、を含む。
【0012】
吸気ライン102は、エンジン本体110に供給される空気Aが流通する。吸気ライン102は、空気Aの流通方向の上流側の一端102aが大気に開放され、空気Aの流通方向の下流側の他端102bがエンジン本体110に接続されている。排ガスライン104は、エンジン本体110から排出される排ガスGが流通する。排ガスライン104は、排ガスGの流通方向の上流側の一端104aがエンジン本体110に接続され、排ガスGの流通方向の下流側の他端104bが大気に開放されている。
【0013】
エンジン本体110は、内部に燃焼室111が形成されている気筒112と、燃焼室111に燃料Fを噴射する燃料噴射装置114と、燃焼室111に配置されている不図示のピストンの往復運動を回転運動に変換するクランク軸116と、クランク軸116の回転運動を伝達するかしないかを切り換え可能な伝達装置118(クラッチ)と、を含む。エンジン本体110に供給された空気Aは、気筒112の燃焼室111に流入し、燃料Fが混合される。気筒112は、燃料Fの燃焼後の排ガスGを排出する。クランク軸116には、クランク軸116の回転運動によって発電可能に構成される非常用発電機150が接続されている。非常用発電機150は、電力供給系統160を介して、非常用設備170に電力を供給する。
【0014】
本開示では、クランク軸116の回転数(以下、回転数Nと記載する)をエンジン本体110の回転数(回転速度)として説明する。幾つかの実施形態では、エンジン本体110の回転数は、クランク軸116の回転数から予め定められた方法によって算出される。尚、エンジン本体110の回転数は、クランク軸116以外のエンジン本体110の構成要素から取得、または算出されてもよい。
【0015】
ターボチャージャ120は、排ガスライン104に設けられるタービン122と、吸気ライン102に設けられるコンプレッサ124と、タービン122とコンプレッサ124とを接続する回転シャフト126と、を含む。コンプレッサ124は、排ガスライン104を流通する排ガスGによって回転駆動するタービン122の動力が回転シャフト126を介して伝達され、吸気ライン102を流通する空気Aを圧縮する。
【0016】
尚、不図示であるが、非常用発電用ディーゼルエンジン100は、コンプレッサ124よりも吸気ライン102の上流側に設けられ、吸気ライン102に取り込まれた空気Aから塵芥などの異物を取り除くためのエアフィルタをさらに含んでもよい。不図示であるが、非常用発電用ディーゼルエンジン100は、コンプレッサ124よりも吸気ライン102の下流側に設けられ、コンプレッサ124によって昇温された空気Aを冷却するための冷却器(インタークーラ)をさらに含んでもよい。
【0017】
エンジン制御装置200は、エンジン本体110と電気的に接続されており、エンジン本体110の運転を制御する。このようなエンジン制御装置200は、電子制御装置などのコンピュータであって、たとえば図示しないCPUやGPUといったプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、及びI/Oインターフェイスなどを備える。エンジン制御装置200は、メモリにロードされたプログラムの命令に従ってプロセッサが動作(演算等)することで、エンジン制御装置200が備える各機能部を実現する。
【0018】
図2は、一実施形態に係るエンジン制御装置200の概略的な機能ブロック図である。図3は、一実施形態に係る回転数N(エンジン本体110の回転数)および必要負荷W(非常用発電機150にかかる負荷)の時間的変化の一例を説明するための図である。尚、図3には、非常用発電用ディーゼルエンジン100に過給アシスト装置1が設けられいない場合(ターボチャージャ120の過給が支援されていない場合)の回転数Nが図示されている。
【0019】
図2に示すように、エンジン制御装置200は、起動部202と、負荷投入部204と、を含む。
【0020】
停電のような非常時には、商用系統400と電力供給系統160との接続が遮断器420によって遮断される。そして、発電セット統合制御装置300は、遮断器420を介して、非常用設備170への電力供給指令を受ける。発電セット統合制御装置300の起動部202は、電力供給指令を受けるとエンジン制御装置200にエンジン起動信号を送り、燃料噴射装置114に燃料Fを噴射させることで、エンジン本体110を起動させる。発電セット統合制御装置300には、あらかじめ決められた制御シーケンスが組み込まれており、この制御シーケンスに基づき、エンジン本体110は、ローアイドル運転(およそ600rpm)およびローアイドル運転よりも高い回転数Nで運転させるハイアイドル運転(およそ1500rpm)を実行する。エンジン本体110は、例えば、1500rpm±10rpmの予め設定されているハイアイドル回転数域で運転される。
【0021】
図3に示すように、エンジン本体110は、予め設定されたローアイドル運転期間PLでローアイドル運転が実行され、移行期間PSを経て、ハイアイドル運転の実行に移行される。ハイアイドル運転に移行後、予め設定されたハイアイドル運転期間PHが経過すると、負荷投入ステップに移行し、非常用設備170の稼働に必要な必要負荷Wが非常用発電機150にかかる。そして、エンジン本体110には、非常用発電機150に必要負荷Wがかかると同時に、あるいは直後に、この必要負荷Wに応じたエンジン負荷が投入される。エンジン負荷は、必要負荷Wと比較して緩やかに上昇する(図3および図5を参照)。尚、エンジン本体110は、ローアイドル運転およびハイアイドル運転中には、エンジン負荷が投入されていない。
【0022】
図3に示すように、非常用発電機150に必要負荷WがかかったタイミングT1(負荷投入開始時点)から、回転数Nが一時的に低下する。負荷投入部204においては、エンジン制御装置200がエンジン本体110を元の回転数N(およそ1500rpm)に戻すために、燃料噴射量を増量する。燃料噴射量の増量に伴いエンジン負荷が増大し、排ガス温度の上昇、排ガスエネルギーの増大に伴い、ターボチャージャ120の回転数が増大し、給気圧力が増大、給気量が増量する。燃料噴射量の増量に対して給気量の増量が遅れるため、気筒112内の空気過剰率が低下し、黒煙排出濃度が増大する。
【0023】
本開示では、図3に示すように、タイミングT1から低下した回転数Nが元の回転数N(タイミングT1における回転数N)に戻り、且つ安定したタイミング(回転数回復時点)をTs1とする。タイミングT1とタイミングTs1との間において、回転数Nが最も小さくなったタイミング(回転数最小時点)をTs2とする。タイミングT1における回転数NとタイミングTs2における回転数Nとの差を低下量Y1とする。言い換えると、低下量Y1は、エンジン本体110にエンジン負荷が投入されることによって低下した回転数Nの大きさである。タイミングT1からタイミングTs1までの時間(回転数Nが元に戻るまでの時間)を回復時間Y2とする。低下量Y1が小さく、且つ回復時間Y2が短くなると、非常用発電用ディーゼルエンジン100の負荷投入性能が向上していることを意味する。
【0024】
<過給アシスト装置>
(構成)
図1に戻って、一実施形態に係る過給アシスト装置1について説明する。過給アシスト装置1は、ターボチャージャ120の過給を支援する。図1に示すように、過給アシスト装置1は、供給源2と、アシスト用空気ライン4と、電磁弁6と、制御装置8と、を含む。
【0025】
供給源2は、アシスト用の空気Aを吐出可能に構成されている。一実施形態では、供給源2は、圧縮された空気Aが貯められている空気タンクである。この空気タンクは、アシスト用空気ライン4に脱着可能に構成されており、交換可能となっている。幾つかの実施形態では、供給源2は、空気Aが流通する空気ラインである。この場合、過給アシスト装置1は、アシスト用空気ライン4を介して、空気ラインを流通する空気Aの一部を抽出する。
【0026】
アシスト用空気ライン4は、一端4aが供給源2に接続され他端4bがターボチャージャ120のコンプレッサ124に接続される。そして、アシスト用空気ライン4は、アシスト用の空気Aが供給源2からコンプレッサ124に向かって流通するように構成されている。一実施形態では、アシスト用空気ライン4の他端4bはコンプレッサ124のコンプレッサインペラに向かって開口している。このため、アシスト用の空気Aがコンプレッサインペラに向かって噴射されるようになっている。このような構成によれば、エンジン本体110に供給される空気Aの量の増加に加え、ターボチャージャ120の回転数を増加させることもできる。
【0027】
電磁弁6は、アシスト用空気ライン4に設けられる。電磁弁6は、制御装置8と電気的に接続されており、制御装置8から送信される指示に従って開弁又は閉弁する。電磁弁6が開弁されると、供給源2に貯められている空気Aがコンプレッサ124に向かってアシスト用空気ライン4を流通し、コンプレッサ124のコンプレッサインペラに吹き付けられる。電磁弁6が閉弁されると、供給源2からコンプレッサ124へのアシスト用の空気Aの流入が停止する。
【0028】
制御装置8は、電磁弁6の開閉を制御可能に構成される。このような制御装置8は、電子制御装置などのコンピュータであって、たとえば図示しないCPUやGPUといったプロセッサ、ROMやRAMといったメモリ、及びI/Oインターフェイスなどを備える。制御装置8は、メモリにロードされたプログラムの命令に従ってプロセッサが動作(演算等)することで、制御装置8が備える各機能部を実現する。一実施形態では、エンジン制御装置200と制御装置8とが一体である。言い換えると、上述したエンジン制御装置200は、制御装置8の各機能部を含んでいる。幾つかの実施形態では、エンジン制御装置200と制御装置8とは互いに別体である。
【0029】
制御装置8は、図2に示すように、電磁弁6に開閉を指示する電磁弁開閉指示部10を含む。図4は、一実施形態に係る電磁弁6が開閉している期間を示す図である。電磁弁開閉指示部10は、ハイアイドル期間PH内において、タイミングT1(非常用発電機150に負荷がのった時点)よりも第1時間t1前に開弁するように電磁弁6に指示する。電磁弁6は、タイミングT1の第1時間t1前(以下、電磁弁開弁タイミングToとする)からタイミングT1まで開弁し続けている。つまり、エンジン本体110にエンジン負荷が投入される前から、アシスト用の空気Aがコンプレッサ124に流入される(図6の(a)を参照)。一実施形態では、第1時間t1は、1秒以上10秒未満である。
【0030】
一実施形態では、電磁弁開閉指示部10は、タイミングT1から第2時間t2後に閉弁するように電磁弁6に指示する。電磁弁6は、タイミングT1から第2時間t2後(以下、電磁弁閉弁タイミングTcとする)まで開弁し続けている。つまり、エンジン本体110にエンジン負荷が投入され始めてから第2時間t2が経過するまで、アシスト用の空気Aがコンプレッサ124に流入し続けている(図6の(a)を参照)。
【0031】
図3を参照して説明したように、回転数NはタイミングT1から一時的に低下した後、タイミングTs2にて再び増大し、タイミングTs1にて元の回転数Nに回復する。一実施形態では、第2時間t2はタイミングT1からタイミングTs2までの時間よりも長い。言い換えると、電磁弁6はタイミングTs2を過ぎてから閉弁される。一実施形態では、電磁弁6はタイミングTs1の前に閉弁される。
【0032】
(作用・効果)
一実施形態に係る過給アシスト装置1の作用・効果について説明する。図5および図6のそれぞれは、一実施形態に係る過給アシスト装置1の作用・効果を説明するための図であって、観測対象の時間的変化を示している。図5の(a)は、回転数Nの時間的変化を示す。図5の(b)は、エンジン本体110にかかる負荷の時間的変化を示す。図5の(c)は、燃料噴射装置114から噴射される燃料Fの量の時間的変化を示す。図5の(d)は、ターボチャージャ120の回転数(回転シャフト126の回転数)の時間的変化を示す。図6の(a)は、エンジン本体110に供給される空気Aの圧力(給気圧力)の時間的変化を示す。図6の(b)は、燃焼室111の空気Aの量および燃料Fの量に基づいて算出される値(空気過剰率)の時間的変化を示す。図6の(c)は、タービン122に供給される排ガスGの温度の時間的変化を示す。図6の(d)は、黒煙排出濃度の時間的変化を示す。
【0033】
尚、図5および図6のそれぞれにおいて、過給アシスト装置1が設けられていない場合(比較例1)の観測対象の時間的変化を一点鎖線で図示し、過給アシスト装置1が設けられているがタイミングT1に電磁弁6を開弁する場合(比較例2)の観測対象の時間的変化を点線で図示している。
【0034】
図5のおよび図6の比較例2に示すように、エンジン本体110にエンジン負荷が投入されるタイミングT1からしばらくの間は、エンジン本体110から排出される排ガスGの温度が低く、コンプレッサ124に伝達されるタービン122の動力も小さい。このため、エンジン本体110に供給される空気の量が少なく、ターボチャージャ120の回転数が低い。エンジン本体110に供給される空気Aの量が少なく、ターボチャージャ120の回転数が低いと、回転数Nの低下量Y1が大きくなり、回復時間Y2が長くなる。
【0035】
一実施形態によれば、タイミングT1よりも第1時間t1前から電磁弁6が開弁されるので、図6の(a)および(b)に示すように、コンプレッサ124にアシスト用の空気Aが流入され、エンジン本体110に供給される空気Aの量を増やす。このため、図5の(d)に示すように、タイミングT1の前に、ターボチャージャ回転数を高めておくことができる。よって、図5の(a)に示すように、比較例1や比較例2と比べて、エンジン本体110にエンジン負荷が投入されることによる回転数Nの低下を抑制し、回復時間Y2を短くすることができる。言い換えると、非常用発電用ディーゼルエンジン100の負荷投入性能を向上させることができる。よって、非常用発電機150にかかる必要負荷Wに対するエンジン本体110のエンジン負荷応答を早めることができる。
【0036】
図6の(d)に示すように、エンジン本体110に負荷が投入されるタイミングT1からしばらくの間、エンジン本体110に供給される空気Aの量が少なくなっていると、燃料Fの完全燃焼が行われず排ガスGに煤などが含まれるようになり、黒煙のようなスモークを発生させる虞がある。一実施形態によれば、タイミングT1よりも第1時間t1前から電磁弁6が開弁されるので、図6の(a)および図6の(b)に示すように、コンプレッサ124にアシスト用の空気Aが流入され、エンジン本体110に供給される空気Aの量を増やす。このため、図6の(d)に示すように、黒煙排出を抑制することができる。一実施形態によれば、図5の(c)に示すように、燃料Fの量を抑制することができる。
【0037】
一実施形態によれば、タイミングT1から第2時間t2が経過するまでは、アシスト用の空気Aがコンプレッサ124に流入し続けている。このため、排ガスGの温度(エネルギー)が十分に大きくなるまで、コンプレッサ124にアシスト用の空気Aを継続して流入させることができる。
【0038】
一実施形態によれば、電磁弁6はタイミングTs2を過ぎてから閉弁されるので、回転数Nが低下し続けてエンジン本体110が停止に至ることを防ぐことができる。
【0039】
第1時間t1が1秒よりも短いと、タイミングT1において、エンジン本体110に供給される空気Aの量が不足している虞がある。一方で、第1時間t1を10秒よりも長くしても、エンジン本体110に供給される単位時間当たりの空気Aの増量効果とターボチャージャ120の回転数上昇の効果が得られなくなるので、無駄になるアシスト用の空気Aが発生する虞がある。一実施形態によれば、第1時間t1は、1秒以上10秒未満であるので、タイミングT1におけるエンジン本体110に供給される空気Aの量を十分に確保しつつ、無駄になるアシスト用の空気Aの発生を抑制することができる。
【0040】
<過給アシスト方法>
図7は、一実施形態に係る過給アシスト方法のフローチャートである。図7に示すように、過給アシスト方法は、起動ステップS1と、電磁弁開弁ステップS2と、負荷投入ステップS3と、電磁弁閉弁ステップS4と、を含む。
【0041】
起動ステップS1は、停電のような非常時にエンジン本体110を起動させる。エンジン本体110は、上述したような制御シーケンスに基づいて、ローアイドル運転およびハイアイドル運転の順に実行する。負荷投入ステップS3は、非常用発電機150から要求される必要負荷Wをエンジン本体110に投入させる。
【0042】
電磁弁開弁ステップS2は、ハイアイドル期間PH内において、負荷投入ステップS3が実行されるタイミングT1(エンジン本体110にエンジン負荷が投入される時点)よりも第1時間t1前に電磁弁6を開弁する。電磁弁閉弁ステップS4は、タイミングT1から第2時間t2後に電磁弁6を閉弁する。
【0043】
図7に示す過給アシスト方法によれば、エンジン本体110に負荷が投入されるタイミングT1よりも第1時間t1前から電磁弁6が開弁されるので、コンプレッサ124にアシスト用の空気Aが流入され、エンジン本体110に供給される空気の量を増やす。このため、エンジン本体110に負荷が投入されることによる回転数Nの低下を抑制し、回復時間Y2を短くすることができる。言い換えると、非常用発電用ディーゼルエンジン100の負荷投入性能を向上させることができる。よって、非常用発電機150にかかる必要負荷Wに対するエンジン本体110のエンジン負荷応答を早めることができる。
【0044】
図7に示す過給アシスト方法によれば、タイミングT1よりも第1時間t1前から電磁弁6が開弁されるので、コンプレッサ124にアシスト用の空気Aが流入され、エンジン本体110に供給される空気の量を増やす。このため、スモークの発生を抑制することができる。
【0045】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0046】
[1]本開示に係る過給アシスト装置(1)は、非常用発電用ディーゼルエンジン(100)に搭載されるターボチャージャ(120)の過給を支援するための過給アシスト装置であって、
アシスト用の空気(A)を吐出可能な供給源(2)と、
一端(4a)が前記供給源に接続され他端(4b)が前記ターボチャージャのコンプレッサ(124)に接続されるアシスト用空気ラインであって、前記アシスト用の空気が前記供給源から前記コンプレッサに向かって流通するアシスト用空気ライン(4)と、
前記アシスト用空気ラインに設けられる電磁弁(6)と、
前記電磁弁の開閉を制御可能に構成される制御装置(8)と、を備え、
前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、
エンジン本体(110)に負荷が投入されるまでの所定期間(PH)において、予め設定されているハイアイドル回転数域で前記エンジン本体が運転されるように構成されており、
前記制御装置は、
前記所定期間内において、前記エンジン本体に負荷が投入される時点(T1)よりも第1時間(t1)前に開弁するように前記電磁弁を制御する。
【0047】
エンジン本体に負荷が投入されてからしばらくの間は、エンジン本体から排出される排ガスのエネルギーが低く、コンプレッサに伝達されるタービンの動力も小さい。このため、コンプレッサによって圧縮される空気の量も少なく、エンジン本体に供給される空気の量が少ない。エンジン本体に供給される空気の量が少ないと、ターボチャージャの回転数も低く、エンジン本体に発電機から要求される負荷が投入されることによるエンジン本体の回転数の低下量が大きくなり、エンジン本体の回転数がハイアイドル回転数域に戻るまでの時間が長くなる。上記[1]に記載の構成によれば、エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前から電磁弁が開弁され、コンプレッサにアシスト用の空気が流入され、エンジン本体に供給される空気の量を増やす。このため、エンジン本体に負荷が投入されることによるエンジン本体の回転数の低下を抑制し、エンジン本体の回転数がハイアイドル回転数域に戻るまでの時間を短くすることができる。よって、発電機から要求される負荷に対するエンジン本体の応答を早めることができる。
【0048】
エンジン本体に負荷が投入されてからしばらくの間、エンジン本体に供給される空気の量が少なくなっていると、燃料の完全燃焼が行われず排ガスに煤などが含まれるようになり、黒煙のようなスモークを発生させる虞がある。上記[1]に記載の構成によれば、エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前から電磁弁が開弁され、コンプレッサにアシスト用の空気が流入され、エンジン本体に供給される空気の量を増やす。このため、スモークの発生を抑制することができる。
【0049】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載の構成において、
前記制御装置は、前記エンジン本体に負荷が投入される時点から第2時間(t2)後に閉弁するように前記電磁弁を制御する。
【0050】
上記[2]に記載の構成によれば、排ガスのエネルギーが十分に大きくなるまで、コンプレッサにアシスト用の空気を継続して流入させることができる。
【0051】
[3]幾つかの実施形態では、上記[2]に記載の構成において、
前記第2時間は、前記エンジン本体に負荷が投入される時点から前記エンジン本体の回転数(N)が低下から増大に転じるまでの時間よりも長い。
【0052】
上記[3]に記載の構成によれば、エンジン本体の回転数が低下し続けてエンジン本体が停止に至ることを防ぐことができる。
【0053】
[4]幾つかの実施形態では、上記[1]から[3]の何れか1つに記載の構成において、
前記第1時間は、1秒以上10秒未満である。
【0054】
第1時間が1秒よりも短いと、エンジン本体に負荷が投入される時点において、エンジン本体に供給される空気の量が不足している虞がある。一方で、第1時間を10秒よりも長くしても、エンジン本体に供給される単位時間当たりの空気の増量効果とターボチャージャの回転数上昇の効果が得られなくなるので、無駄になるアシスト用の空気が発生する虞がある。上記[4]に記載の構成によれば、エンジン本体に負荷が投入される時点におけるエンジン本体に供給される空気の量を十分に確保しつつ、無駄になるアシスト用の空気の発生を抑制することができる。
【0055】
[5]本開示に係る過給アシスト方法は、非常用発電用ディーゼルエンジンに搭載されるターボチャージャの過給を支援するための過給アシスト方法であって、
前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、
アシスト用の空気を吐出可能な供給源と、
一端が前記供給源に接続され他端が前記ターボチャージャのコンプレッサに接続されるアシスト用空気ラインであって、前記アシスト用の空気が前記供給源から前記コンプレッサに向かって流通するアシスト用空気ラインと、
前記アシスト用空気ラインに設けられる電磁弁と、を含んでおり、
前記非常用発電用ディーゼルエンジンは、
エンジン本体に負荷が投入されるまでの所定期間において、予め設定されているハイアイドル回転数域で前記エンジン本体が運転されるように構成されており、
前記所定期間内において、前記エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前に前記電磁弁を開弁するステップ(S2)を備える。
【0056】
エンジン本体に負荷が投入されてからしばらくの間は、エンジン本体から排出される排ガスのエネルギーが低く、コンプレッサに伝達されるタービンの動力も小さい。このため、コンプレッサによって圧縮される空気の量も少なく、エンジン本体に供給される空気の量が少ない。エンジン本体に供給される空気の量が少ないと、ターボチャージャの回転数も低く、エンジン本体に発電機から要求される負荷が投入されることによるエンジン本体の回転数の低下量が大きくなり、エンジン本体の回転数がハイアイドル回転数域に戻るまでの時間が長くなる。上記[5]に記載の方法によれば、エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前から電磁弁が開弁され、コンプレッサにアシスト用の空気が流入され、エンジン本体に供給される空気の量を増やす。このため、エンジン本体に負荷が投入されることによるエンジン本体の回転数の低下を抑制し、エンジン本体の回転数がハイアイドル回転数域に戻るまでの時間を短くすることができる。よって、発電機から要求される負荷に対するエンジン本体の応答を早めることができる。
【0057】
エンジン本体に負荷が投入されてからしばらくの間、エンジン本体に供給される空気の量が少なくなっていると、燃料の完全燃焼が行われず排ガスに煤などが含まれるようになり、黒煙のようなスモークを発生させる虞がある。上記[5]に記載の方法によれば、エンジン本体に負荷が投入される時点よりも第1時間前から電磁弁が開弁され、コンプレッサにアシスト用の空気が流入され、エンジン本体に供給される空気の量を増やす。このため、スモークの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 過給アシスト装置
2 供給源
4 アシスト用空気ライン
6 電磁弁
8 制御装置
10 電磁弁開閉指示部
100 非常用発電用ディーゼルエンジン
102 吸気ライン
104 排ガスライン
110 エンジン本体
111 燃焼室
112 気筒
114 燃料噴射装置
116 クランク軸
118 伝達装置
120 ターボチャージャ
122 タービン
124 コンプレッサ
126 回転シャフト
150 非常用発電機
160 電力供給系統
170 非常用設備
200 エンジン制御装置
202 起動部
204 負荷投入部
300 発電セット統合制御装置
400 商用系統
420 遮断器
A 空気
F 燃料
G 排ガス
N 回転数
PH ハイアイドル期間(所定期間)
PL ローアイドル期間
S1 起動ステップ
S2 電磁弁開弁ステップ
S3 負荷投入ステップ
S4 電磁弁閉弁ステップ
Tc 電磁弁閉弁タイミング
To 電磁弁開弁タイミング
Y1 低下量
Y2 回復時間
t1 第1時間
t2 第2時間
T1 非常発電機の負荷がかかり始めるタイミング
Ts1 エンジン回転数が回復するタイミング
Ts2 エンジン回転数が低下から増大に転じるタイミング

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7