(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144895
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】ドロップアクションを有するピアノ
(51)【国際特許分類】
G10C 3/163 20190101AFI20241004BHJP
G10C 3/12 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G10C3/163
G10C3/12 100
G10C3/12 150
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057064
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001410
【氏名又は名称】株式会社河合楽器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】山下 光夫
(57)【要約】
【課題】下側の第2鍵の支持構造の部品点数及び加工工数の削減によって、製造コストを削減し、上下方向長さを低減するとともに、第2鍵の安定した動作を確保できる、ドロップアクションを有するピアノを提供する。
【解決手段】本発明によるドロップアクションを有するピアノ1は、回動自在の上側の第1鍵2Aと、支持部材31に回動自在に支持され、前端部に第1鍵2Aが当接する下側の第2鍵2Bを備え、第1鍵2Aの押鍵に伴い、第2鍵2Bが回動し、連結材(線材33)を介してアクション3のウィッペン21を持ち上げることで、ハンマー4による打弦が行われる。支持部材31の複数の支持壁31bには、鉛直方向に対して斜めに延びる軸受溝31dが形成され、第2鍵2Bは、両側方に突出する一対の軸部2d、2dを有し、軸部2dが2つの支持壁31bの軸受溝31dの底部に係合した状態で、支持部材31に回動自在に支持されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後方向に延び、後端部において回動自在に支持され、演奏者によって操作される第1鍵と、
前記第1鍵の下側に配置され、中央部において支持部材に回動自在に支持されるとともに、前端部に前記第1鍵が当接する第2鍵と、
前記第2鍵の下方に配置され、上方への回動によりハンマーを駆動し、打弦を行わせるウィッペンを有するアクションと、
前記第2鍵の後端部と前記ウィッペンに連結され、前記第1鍵が押鍵されるのに応じて前記第2鍵の後端部が上方に回動するのに伴い、前記ウィッペンを持ち上げ、上方に回動させる連結材と、を備え、
前記支持部材は、上下方向に延び、左右方向に並ぶ複数の支持壁を有し、当該複数の支持壁の各々には、鉛直方向に対して斜めに延び、上方に開放し下方に閉鎖する軸受溝が形成され、隣り合う各2つの前記支持壁の間には鍵ガイド溝が画成されており、
前記第2鍵は、前記中央部に側方両側に突出する一対のピン状の軸部を有し、前記鍵ガイド溝に収容されるとともに、前記軸部が前記2つの支持壁の前記軸受溝の底部に係合した状態で、前記支持部材に回動自在に支持されていることを特徴とする、ドロップアクションを有するピアノ。
【請求項2】
前記第1鍵は白鍵及び黒鍵によって構成され、前記支持部材の前記各支持壁には、前記軸受溝として、白鍵用軸受溝と黒鍵用軸受溝が前後方向の異なる位置に設けられており、前記白鍵に対応する前記第2鍵は前記白鍵用軸受溝に係合・支持され、前記黒鍵に対応する前記第2鍵は前記黒鍵用軸受溝に係合・支持されていることを特徴とする、請求項1に記載のドロップアクションを有するピアノ。
【請求項3】
前記支持部材は、合成樹脂の成形品で構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のドロップアクションを有するピアノ。
【請求項4】
前記第2鍵には、上面後端部に調整ねじがねじ込まれ、当該調整ねじの後ろ側に、上下方向に貫通するガイド孔が形成されており、
前記連結材は、可撓性を有し、前記ガイド孔に通され、前記調整ねじと前記ウィッペンの間に張設される線材であり、
前記第2鍵の後端面には、上下方向に貫通するとともに前記ガイド孔に連通するスリットが形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のドロップアクションを有するピアノ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍵盤の下方に配置されたアクションであるドロップアクションを有するピアノに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドロップアクションを有するピアノとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。このピアノは、前後方向に延び、中央部においてバランスピンに回動自在に支持された複数の鍵(白鍵及び黒鍵)と、鍵の後方に配置され、押鍵時、ハンマーを駆動するアクションを備える。アクションの構成は、アップライトピアノの通常のアクションと基本的に同じであり、主な構成要素として、回動自在のウィッペンと、ウィッペンに取り付けられたジャックと、ハンマーを一体に有し、ジャックが下側から当接する回動自在のバットなどを有する。
【0003】
ウィッペンには、金属製のエクステンションレバーの下端部が連結され、エクステンションレバーの上端部は、鍵の後端部にねじ込まれたキャプスタンスクリューに連結されている。以上の構成では、鍵は、押鍵時、バランスピンを中心として回動し、その後端部が上方に移動することにより、エクステンションレバーを介して、ウィッペンを持ち上げる。これに伴い、ウィッペンが上方に回動し、ジャックがバットを突き上げ、ハンマーを後方に回動させることによって、ハンマーによる打弦が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来のピアノでは、その構成上、例えば鍵の押鍵ストロークと同程度のウィッペンの回動ストロークを確保しようとすると、鍵の支点であるバランスピンから鍵の後端までの長さを、前端までの長さと同程度に設定することが必要になり、その分、鍵の全体長さ、ひいてはピアノの奥行(前後方向長さ)が増大してしまう。このような不具合を解消するために、鍵を上下2段で構成し、上側の第1鍵を後端部において、下側の第2鍵を中央部において、それぞれ回動自在に支持し、第2鍵の後端部とウィッペンを連結材で連結するとともに、第1鍵で第2鍵の前端部を押下することによって、連結材を介してウィッペンを上方に回動させるように構成することが考えられる。
【0006】
しかし、上述した鍵の2段構成において、第1鍵及び第2鍵の支持を、従来のピアノに開示されるようなバランスピンを用いて行った場合には、以下の不具合がある。すなわち、バランスピンによる支持構造は、筬や、筬に立設されるバランスピン、鍵本体の上面に貼られる座板、バランスピン孔の壁面に貼られるブッシングクロスなどを鍵ごとに設けなければならず、部品点数が多いとともに、これらの部品の設置に加えて、鍵本体及び座板へのバランスピン孔の形成などが必要であり、加工工数も多いことから、製造コストが増大しやすい。また、筬に鍵本体が載置され、鍵本体にバランスピンが通される構成であるため、上下方向の長さが大きくなりやすい。このため、第1鍵と第2鍵をいずれもバランスピンで支持した場合には、製造コストが増大するとともに、鍵支持構造の上下方向長さ、ひいてはピアノの高さが増大してしまう。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、上側の第1鍵と下側の第2鍵を有する場合において、第2鍵の支持構造の部品点数及び加工工数の削減によって、製造コストを削減し、支持構造の上下方向長さを低減するとともに、第2鍵の安定した動作を確保することができる、ドロップアクションを有するピアノを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ドロップアクションを有するピアノであって、前後方向に延び、後端部において回動自在に支持され、演奏者によって操作される第1鍵と、第1鍵の下側に配置され、中央部において支持部材に回動自在に支持されるとともに、前端部に第1鍵が当接する第2鍵と、第2鍵の下方に配置され、上方への回動によりハンマーを駆動し、打弦を行わせるウィッペンを有するアクションと、第2鍵の後端部とウィッペンに連結され、第1鍵が押鍵されるのに応じて第2鍵の後端部が上方に回動するのに伴い、ウィッペンを持ち上げ、上方に回動させる連結材と、を備え、支持部材は、上下方向に延び、左右方向に並ぶ複数の支持壁を有し、複数の支持壁の各々には、鉛直方向に対して斜めに延び、上方に開放し下方に閉鎖する軸受溝が形成され、隣り合う各2つの支持壁の間には鍵ガイド溝が画成されており、第2鍵は、中央部に側方両側に突出する一対のピン状の軸部を有し、鍵ガイド溝に収容されるとともに、軸部が2つの支持壁の軸受溝の底部に係合した状態で、支持部材に回動自在に支持されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によるピアノは、演奏者によって操作される第1鍵と、その下側に配置された第2鍵と、第2鍵の下方に配置されたウィッペンを含むアクションと、第2鍵の後端部とウィッペンに連結された連結材を備える。演奏時、第1鍵が押鍵されると、第2鍵は、その前端部が第1鍵の前端部で押下されることによって、軸部が係合する支持部材の軸受溝の底部を中心として、鍵ガイド溝で案内されながら回動する。これに伴い、第2鍵の後端部が上方に回動し、連結材がウィッペンを持ち上げ、上方に回動させることによって、ハンマーが駆動され、ハンマーによる打弦が行われる。
【0010】
以上のように、本発明において第2鍵を支持するのに必要な構成は、基本的に、第2鍵に設けられた軸部と、この軸部が係合する軸受溝が形成された支持部材だけである。したがって、筬やバランスピン、座板、ブッシングクロス、バランスピン孔などが第2鍵ごとに必要であるバランスピンによる支持構造と比較し、部品点数及び加工工数を削減でき、製造コストの削減を図ることができる。また、バランスピンが筬から立ち上がる場合と比較して、第2鍵の支持構造の上下方向長さを低減でき、ひいてはピアノの高さを低減することができる。
【0011】
また、第2鍵は、支持部材に形成された鍵ガイド溝に収容されており、回動の際、鍵ガイド溝によって案内されることによって、第2鍵の横ぶれが抑制される。さらに、第2鍵の軸部が係合する軸受溝が鉛直方向に対して斜めに延びていることによって、押鍵時における第2鍵の上方へのリバウンドが抑制される。以上により、第2鍵の安定した動作を確保することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のドロップアクションを有するピアノにおいて、第1鍵は白鍵及び黒鍵によって構成され、支持部材の各支持壁には、軸受溝として、白鍵用軸受溝と黒鍵用軸受溝が前後の異なる位置に設けられており、白鍵に対応する第2鍵は白鍵用軸受溝に係合・支持され、黒鍵に対応する第2鍵は黒鍵用軸受溝に係合・支持されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、第1鍵は白鍵と黒鍵で構成され、支持部材の各支持壁には、軸受溝として、白鍵に対応する第2鍵(白鍵用第2鍵)を係合・支持するための白鍵用軸受溝と、黒鍵に対応する第2鍵(黒鍵用第2鍵)を係合・支持するための黒鍵用軸受溝が設けられている。このように、白鍵用第2鍵と黒鍵用第2鍵を単一の支持部材で支持するので、別個に構成された支持部材で支持する場合と比較して、部品点数及び加工工数を削減するとともに、第2鍵の組立て精度を高めることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のドロップアクションを有するピアノにおいて、支持部材は、合成樹脂の成形品で構成されていることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、軸受溝及び鍵ガイド溝をそれぞれ有する複数の支持壁などを一体に備えた支持部材を、合成樹脂の成形品として安価に得ることができ、それにより、製造コストをさらに削減することができる。また、成形品が高い寸法精度を有することから、第2鍵の所要の組立て精度を容易に確保でき、加工工数をさらに削減することができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に記載のドロップアクションを有するピアノにおいて、第2鍵には、上面後端部に調整ねじがねじ込まれ、調整ねじの後ろ側に、上下方向に貫通するガイド孔が形成されており、連結材は、可撓性を有し、ガイド孔に通され、調整ねじとウィッペンの間に張設される線材であり、第2鍵の後端面には、上下方向に貫通するとともにガイド孔に連通するスリットが形成されていることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、第2鍵とアクションのウィッペンを連結する連結材として用いられる線材を、スリットを介してガイド孔に容易に出し入れすることができ、製造や修理などの際の線材の着脱を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明を適用したピアノの鍵盤装置、アクション及びハンマーなどを離鍵状態において示す側面図である。
【
図2】
図1のピアノを打弦状態において示す側面図である。
【
図3】鍵盤装置を示す(a)平面図、及び(b)側面図である。
【
図4】黒鍵用第2鍵を示す(a)平面図、及び(b)側面図、白鍵用第2鍵を示す(c)平面図、及び(d)側面図である。
【
図5】支持部材を示す(a)平面図、(b)側面図、及び(c)部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1及び
図2に示すように、本発明を適用したピアノ1は、鍵盤2、ドロップアクションとしてのアクション3、及びハンマー4などを備える。なお、以下の説明では、演奏者側から見たときのピアノ1の手前側を「前」、奥側を「後」、左側を「左」、右側を「右」として説明する。
【0020】
図3に示すように、鍵盤2は、ピアノ1の左右方向に並んだ多数の第1鍵2A(白鍵2AW及び黒鍵2AB)と、各第1鍵2Aの下側に配置され、左右方向に並んだ多数の第2鍵2B(1つのみ図示)を有する。各第1鍵2Aは、前後方向(
図1の左右方向)に延び、その後端部において、棚板5上の筬6にバランスピン孔6bを通って立設されたバランスピン6aに回動自在に支持され、前部においてフロントピン7によって案内されている。
【0021】
第1鍵2Aの下面の前部には、棚板5を貫通して下方に延びるアクチュエータピン8が一体に設けられている。アクチュエータピン8の下端部には調整用のキャップ8aが嵌められている。キャップ8aの穴にパンチング(図示せず)を挿入したり、アクチュエータピン8の先端を削ったりすることによって、アクチュエータピン8の長さが調整される。また、キャップ8aの下面にはブッシングクロス8bが貼られており、アクチュエータピン8は、ブッシングクロス8bを介して第2鍵2Bの上面前端部に当接している。
【0022】
第2鍵2Bは、棚板5とその下側の底板9との間に配置され、支持部材31に回動自在に支持されている。
図4に示すように、第2鍵2Bは、黒鍵2ABに対応する(a)(b)の黒鍵用第2鍵2BBと、白鍵2AWに対応する(c)(d)の白鍵用第2鍵2BWによって構成されている。黒鍵用第2鍵2BBと白鍵用第2鍵2BWはそれぞれ、互いに同じ形状及び寸法を有する鍵本体2cと、鍵本体2cの前後方向の異なる位置に設けられた一対の軸部2d、2dを有する。
【0023】
鍵本体2cは、前後方向に延び、若干屈曲した「へ」の字状の平面形状と、若干盛り上がった後端部を除いて高さ一定の直線的な側面形状を有する。鍵本体2cの上面後端部には調整ねじ32がねじ込まれ、そのすぐ後ろ側には、上下方向に貫通するガイド孔2eが形成されており、後述する線材33の上端部が、調整ねじ32の軸部に巻き付けられ、ガイド孔2eに通されている。鍵本体2cの後端面には、上下方向に貫通するとともにガイド孔2eに連通するスリット2fが形成されている。また、鍵本体2cの調整ねじ32とガイド孔2eとの間に、重り34が取り付けられている。なお、図示しないが、後述するダンパー26bが設けられない第2鍵2Bについては、押鍵後の鍵の戻り具合に応じて、重り34が2個、設置される場合もある。
【0024】
第2鍵2Bの軸部2d、2dは、ピン状(短円柱状)のものであり、鍵本体2cの左右の側面に一体に設けられ、左右両側に突出している。また、各軸部2dには、後述する支持壁31bとの摩擦を軽減するためのフッ素樹脂などから成るワッシャ36が取り付けられている。白鍵用第2鍵2BWの場合、軸部2dは、鍵本体2cの上下方向のほぼ中間の位置に配置され、前後方向においては、前端から全体長さの約1/3の位置に配置されている。これに対し、黒鍵用第2鍵2BBの場合、軸部2dは、白鍵用第2鍵2BWよりも若干高く且つ後ろ側に配置されており、以上により、白鍵用第2鍵2BWと黒鍵用第2鍵2BBの設置高さが同じになるように調整される。
【0025】
第2鍵2Bを支持する支持部材31は、合成樹脂(例えば炭素繊維又は炭素粉入りABS、ABS、ポリアセタールなど)の成形品で構成されており、
図5に示すように、ベース31aと、ベース31aに立設された複数(本例では6つ)の支持壁31bを一体に有する。支持部材31は、ベース31aを介して底板9にねじ止めされている。複数の支持壁31bは、ベース31aから上方に延びるとともに、左右方向に並んでおり、隣り合う各2つの間に鍵ガイド溝31cが画成されている。各支持壁31bには、前側に白鍵用軸受溝31dWが、後ろ側に黒鍵用軸受溝31dBが、設けられている。両軸受溝31dW、31dBは、互いに平行で、鉛直方向に対して斜めに延び、上方に開放し下方に閉鎖しており、同じ深さ(長さ)を有する。なお、
図3(a)では、支持部材31を点線で示したときの図面の煩雑さを回避するため、支持部材31をすべて実線で示している。
【0026】
図3に示すように、白鍵用第2鍵2BWの軸部2d、2dは、該当する2つの支持壁31b、31bの白鍵用軸受溝31dW、31dWに上方から挿入されている。それにより、白鍵用第2鍵2BWは、鍵本体2cが鍵ガイド溝31cに収容され、各軸部2dが支持壁31bの軸受溝31dWの底部に係合した状態で、支持部材31に回動自在に支持されている。一方、黒鍵用第2鍵2BBの軸部2d、2dは、該当する2つの支持壁31b、31bの黒鍵用軸受溝31dB、31dBに上方から挿入されている。それにより、黒鍵用第2鍵2BBは、鍵本体2cが鍵ガイド溝31cに収容され、各軸部2dが支持壁31bの黒鍵用軸受溝31dBの底部に係合した状態で、支持部材31に回動自在に支持されている。
【0027】
アクション3は、第1鍵2A及び第2鍵2Bの後方かつ下方に配置されており、第1鍵2Aごとに設けられたウィッペン21を有する。ウィッペン21は、その後端部において、左右方向に渡されたセンターレール22に、ウィッペンフレンジ21aを介して回動自在に支持されている。ウィッペン21の前端部には、リング部23aを有する取付ねじ23がねじ込まれており、このリング部23aに線材33の下端部が係合し、取り付けられている。
【0028】
線材33は、適度な可撓性及び強度を有する材料、例えば、芯材として高強度ナイロンを用い、その表面をファイバーやカーボンなどでコーティングしたもので構成されており、第2鍵2Bの調整ねじ32とウィッペン21の取付ねじ23の間に張設されている。その引張度合は、調整ねじ32を回し、その軸部への線材33の巻取り量を変更することによって、調整される。
【0029】
アクション3のウィッペン21以外の構成は、アップライトピアノの通常のアクションと基本的に同じであり、以下、簡単に説明する。アクション3は、ジャック24、バット25及びダンパーレバー26などを有し、これらは第1鍵2Aごとに設けられている。
【0030】
ジャック24は、前方に延びる基部と、基部の後端部から上方に延びるハンマー突上げ部からL字状に形成されており、両者の角部において、ウィッペン21の中央部に回動自在に取り付けられている。
【0031】
バット25は、センターレール22にバットフレンジ25aを介して回動自在に支持されており、第1鍵2Aの離鍵状態において、ジャック24のハンマー突上げ部が下側から当接している。バット25の上面にはハンマー4のハンマーシャンク4aが立設され、その上端部にはハンマーヘッド4bが設けられている。ハンマーヘッド4bは、第1鍵2Aの離鍵状態において、後方に張られた弦Sに対向している。
【0032】
また、ダンパーレバー26は、上下方向に延び、その中央部において、センターレール22にダンパーフレンジ26aを介して回動自在に支持されており、上端部にはダンパー26bが設けられている。第1鍵2Aの離鍵状態において、ダンパー26bは弦Sを押圧しており、ダンパーレバー26の下端部には、ウィッペン21の後端部に立設されたスプーン27が前方から対向している。
【0033】
次に、上述した構成のピアノ1の動作について説明する。演奏者により、
図1に示す離鍵状態から第1鍵2Aが押鍵されると、第1鍵2Aは、後端部のバランスピン6aを中心として下方(
図1の時計方向)に回動し、アクチュエータピン8を介して第2鍵2Bの前端部を押下する。これにより、第2鍵2Bは、軸部2cが係合する軸受溝31dの底部を中心として、第1鍵1Aと同様、時計方向に回動し、その後端部が上方に移動することによって、線材33を介してウィッペン21を持ち上げる。これに伴い、ウィッペン21が上方に回動し、ウィッペン21に設けられたジャック24がバット25を突き上げることによって、バット25と一体のハンマー4が後方に回動し、弦Sを打弦する(
図2の状態)。
【0034】
また、ウィッペン21の回動に伴い、それと一体のスプーン27が後方に移動し、ダンパーレバー26の下端部を押圧することによって、ダンパーレバー26が時計方向に回動し、ダンパー26bが弦Sから離れることで、弦Sの振動による発音が確保される。
【0035】
以上のように、本実施形態によれば、第2鍵2Bを支持するのに必要な構成は、基本的に、第2鍵2Bに設けられた軸部2dと、軸部2dが係合する軸受溝31dが形成された支持部材31だけである。したがって、筬やバランスピン、座板、ブッシングクロス、バランスピン孔などが第2鍵ごとに必要であるバランスピンによる支持構造と比較し、部品点数及び加工工数を削減でき、製造コストの削減を図ることができる。また、バランスピンが筬から立ち上がる場合と比較して、第2鍵2Bの支持構造の上下方向長さを低減でき、ひいてはピアノ1の高さを低減することができる。
【0036】
また、軸受溝31dとして、白鍵用軸受溝31dWと黒鍵用軸受溝31dBが支持部材31に形成され、白鍵用第2鍵2BWと黒鍵用第2鍵2BBを単一の支持部材31で支持するので、別個の支持部材で支持する場合と比較して、部品点数及び加工工数をさらに削減することができる。
【0037】
また、第2鍵2Bは、支持部材31に形成された鍵ガイド溝31cに収容されており、回動の際、鍵ガイド溝31cで案内されることによって、第2鍵2Bの横ぶれが抑制される。さらに、第2鍵2Bの軸部2dが係合する軸受溝31dが鉛直方向に対して斜めに延びていることによって、押鍵時における第2鍵2Bの上方へのリバウンドが抑制される。以上により、第2鍵2Bの安定した動作を確保することができる。
【0038】
さらに、支持部材31が安価で高い寸法精度を有する合成樹脂の成形品で構成されているので、製造コストをさらに削減できるとともに、第2鍵2Bの所要の組立て精度を容易に確保でき、加工工数をさらに削減することができる。
【0039】
また、第2鍵2Bの後端面に形成されたスリット2fを介して、線材33をガイド孔2eに容易に出し入れすることができ、製造や修理などの際の線材33の着脱を容易に行うことができる。
【0040】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、白鍵用第2鍵2BW及び黒鍵用第2鍵2BBの設置高さを同じにするために、両第2鍵2BW、2BBの軸部2dの高さを異ならせ、白鍵用軸受溝31dW及び黒鍵用軸受溝31dBの深さを同じに設定している。この関係を逆にし、両第2鍵2BW、2BBの軸部2dの高さを同じに設定し、両軸受溝31dW、31dBの深さを異ならせてもよい。
【0041】
また、実施形態では、1つの支持部材31によって、5つの第2鍵2Bを支持しているが、その数は任意であり、例えば1オクターブ分の第2鍵2Bを支持してもよい。
【0042】
さらに、第2鍵2Bの後端部とウィッペン21を連結する連結材として、可撓性を有する線材33を用いているが、従来の場合と同様、金属などから成る剛性を有する材質を採用することも、本発明の範囲内である。さらに、線材33として、例えば、芯材に高強度ナイロンを用い、表面をファイバーやカーボンなどでコーティングしたものを用いると説明したが、適度な可撓性及び強度を有する限り、他の材質のものを採用してもよい。さらに、実施形態では、第1鍵2Aの動きを第2鍵2Bに伝達するためのアクチュエータピン8を、第1鍵2A側に設けているが、第2鍵2B側に設け、上方に突出するように構成してもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 ピアノ
2A 第1鍵
2AW 白鍵
2AB 黒鍵
2B 第2鍵
2BW 白鍵用第2鍵(白鍵に対応する第2鍵)
2BB 黒鍵用第2鍵(黒鍵に対応する第2鍵)
2d 軸部
2e ガイド孔
2f スリット
3 アクション
4 ハンマー
21 ウィッペン
31 支持部材
31b 支持壁
31c 鍵ガイド溝
31d 軸受溝
31dW 白鍵用軸受溝
31dB 黒鍵用軸受溝
32 調整ねじ
33 線材(連結材)