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特開2024-144902サイフォン式ろ過装置およびサイフォン式ろ過システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144902
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】サイフォン式ろ過装置およびサイフォン式ろ過システム
(51)【国際特許分類】
   B01D 24/00 20060101AFI20241004BHJP
   B01D 24/46 20060101ALI20241004BHJP
   B01D 29/66 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B01D29/08 520A
B01D29/08 530D
B01D29/08 540A
B01D29/38 510B
B01D29/38 520A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057074
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000193508
【氏名又は名称】水道機工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101982
【弁理士】
【氏名又は名称】久米川 正光
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽介
(72)【発明者】
【氏名】谷田部 芳男
【テーマコード(参考)】
4D116
【Fターム(参考)】
4D116BA05
4D116BA07
4D116DD01
4D116FF02A
4D116GG09
4D116GG27
4D116KK04
4D116QA29C
4D116QA29E
4D116QA29F
4D116QA30C
4D116QA30E
4D116QA30F
4D116QA46C
4D116QA46E
4D116QA46F
4D116QC04B
4D116RR01
4D116RR04
4D116RR16
4D116VV07
(57)【要約】
【課題】サイフォンを迅速に生起させる新規なサイフォン式ろ過装置を提供する。
【解決手段】ろ過水室2bは、ろ過室2aにてろ過されたろ過水を集水する。洗浄水室2cは、ろ過水室2bに集水されたろ過水を逆洗水として貯留する。排水槽3は、ろ過室2aの洗浄によって生じた排水を集水する。逆洗排水管4は、洗浄水室2cからろ過水室2bを介してろ過室2aに流入した逆洗水を排水槽3に排出する。逆洗起動機構5は、圧縮空気が所定圧力に到達した場合、この圧縮空気に由来したエアリフトを用いて逆洗排水管4の内封圧縮空気を噴出させることによって、逆洗排水管4内にサイフォンを形成して逆洗を起動する。この圧縮空気は、逆洗排水管4の内封圧縮空気とは別に生成され、かつ、ろ過損失水頭の上昇に応じて加圧される。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイフォン式ろ過装置において、
ろ層を通過させることによって原水をろ過するろ過室と、
前記ろ過室にてろ過されたろ過水を集水するろ過水室と、
前記ろ過水室に集水されたろ過水を逆洗水として貯留する洗浄水室と、
前記ろ過室の洗浄によって生じた排水を集水する排水槽と、
前記ろ過室内に臨んだ一端から上方に向かって延在する流入部と、前記排水槽内に臨んだ他端から上方に向かって延在する流出部と、前記流入部および前記流出部が屈曲して接続された管頂部とを有し、前記洗浄水室から前記ろ過水室を介して前記ろ過室に流入した逆洗水を、前記排水槽に排出する逆洗排水管と、
前記逆洗排水管の内封圧縮空気とは別に生成され、かつ、ろ過損失水頭の上昇に応じて加圧される圧縮空気が所定圧力に到達した場合、前記圧縮空気に由来したエアリフトを用いて前記逆洗排水管の内封圧縮空気を噴出させることによって、前記逆洗排水管内にサイフォンを形成して逆洗を起動する逆洗起動機構と
を有することを特徴とするサイフォン式ろ過装置。
【請求項2】
前記逆洗起動機構は、
前記圧縮空気の加圧によって管内水位が徐々に押し下げられる逆洗起動管と、
下端が前記逆洗排水管の流出部および前記逆洗起動管の下端側の双方に接続され、上端が大気中に開放されるように上方に向かって起立した脱気管とを有し、
前記逆洗起動管内の水位が所定水深に低下した時点で、前記圧縮空気に由来したエアリフトを前記脱気管内に生じさせることによって、前記逆洗排水管の内封圧縮空気を噴出させることを特徴とする請求項1に記載されたサイフォン式ろ過装置。
【請求項3】
前記逆洗起動機構は、
空気を貯留する内部空間に前記逆洗起動管の上端が臨んだ空気タンクと、
下端が前記ろ過室内に臨んでおり、上端が前記空気タンク内に臨んでおり、ろ過損失水頭を検出する損失水頭検出管とをさらに有し、
前記空気タンク内に貯留された空気は、前記損失水頭検出管の上端を超えた水位の上昇によって徐々に加圧され、前記圧縮空気として前記逆洗起動管に供給されることを特徴とする請求項2に記載されたサイフォン式ろ過装置。
【請求項4】
前記脱気管の上端開口は、前記排水槽の静止水位から所定の突出高だけ突出していることを特徴とする請求項2に記載されたサイフォン式ろ過装置。
【請求項5】
前記逆洗排水管の管頂部は、最大ろ過損失水頭よりも低い高さに設置され、
前記空気タンクは、最大ろ過損失水頭よりも低い高さに設置されていることを特徴とする請求項3に記載されたサイフォン式ろ過装置。
【請求項6】
前記逆洗起動管より分岐して前記脱気管にそれぞれが接続されている共に、それぞれの下端水深が互いに異なる複数の分岐管と、
前記複数の分岐管のそれぞれに対応して設けられ、前記複数の分岐管のいずれかを選択するために用いられる複数の選択弁と
をさらに有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載されたサイフォン式ろ過装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載され、かつ、前記排水槽が共用された複数のサイフォン式ろ過装置を有し、
前記排水槽の越流壁の上部には、前記排水槽に集水された排水を放出する放出口が設けられており、
前記放出口は、前記逆洗排水管による水の流入能力よりも低い放出能力を有し、かつ、前記逆洗排水管による流入が行われていない状態において、前記脱気管の上端が露出するまで前記排水槽内の水位を低下させることを特徴とするサイフォン式ろ過システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイフォン式ろ過装置およびサイフォン式ろ過システムに係り、特に、貯留水を用いた逆洗(逆流洗浄)に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理施設などで使用されるろ過装置の一種として、サイフォンの原理を利用して、内部に貯留した水にて逆洗を行うサイフォン式ろ過装置が知られている。例えば、特許文献1には、水の流下によって生成された負圧を用いてサイフォンの生起を促進するサイフォン式ろ過装置が開示されている。図9に示すように、このろ過装置20において、ろ過部21aは、原水を収容しつつ、収容した原水をろ過する。集水部21bは、ろ過部21aと連通しており、ろ過部21aでろ過されることにより得られるろ過水を集水する。貯留部21cは、逆洗水を貯留するとともに、集水部21bと連通しており、逆洗水を集水部21b経由でろ過部21aに供給する。逆洗サイフォン管22は、ろ過部21aに接続されており、ろ過部21a内の原水を排出することで逆洗水をろ過部21aに流入させて、ろ過部21aを洗浄する。また、ろ過装置20は、サイフォン促進機構23を備えており、このサイフォン促進機構23は、原水を放出するサイフォン促進管23aを有する。このサイフォン促進管23aは、逆洗サイフォン管22における管頂部C直下の上流側より分岐し、排水槽24に向かって立ち下がった後、その開口下端が排水槽24内に臨んでいる。サイフォン促進管23aは、逆洗サイフォン管22より供給された水が自己の流出部を流下する際に生じるエジェクタ効果によって負圧化され、この負圧によって、逆洗サイフォン管の管頂部近傍の空気が徐々に吸引される。これにより、逆洗サイフォン管22内の水位が管頂部Cに到達し易くなるため、サイフォンの生起が促進・補助される。
【0003】
また、ろ過装置20において、サイフォン促進管23aには、原水の水質に応じて開閉が選択される開閉弁25が設けられている。具体的には、原水の水質が比較的不良の場合には、開閉弁25が閉状態に設定される。したがって、サイフォン促進機構23による負圧補助は機能しない。これに対して、原水の水質が比較的良好の場合には、開閉弁25が開状態に設定される。これにより、サイフォン促進管23aを経由した水の排出が促進され、サイフォン促進機構23による負圧補助を機能させることで、ろ過部21aの洗浄が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-134595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1のろ過装置20では、開閉弁25の開状態時において、逆洗サイフォン管22内を上昇する水位がサイフォン促進管23aの分岐レベルの高さに到達した後、逆洗サイフォン管22より流入した水がサイフォン促進管23a内を流下することによって負圧を発生させる。この負圧は、水の流下時間の経過に伴って緩やかに増大していく。そのため、サイフォンを生起させるのに必要な負圧に達するまで、換言すれば、逆洗サイフォン管22内の水が管頂部Cを乗り越えるまでに時間を要するといった問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、サイフォンを迅速に生起させる新規なサイフォン式ろ過装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決すべく、本発明は、ろ過室と、ろ過水室と、洗浄水室と、逆洗排水管と、逆洗起動機構とを有するサイフォン式ろ過装置を提供する。ろ過室は、ろ層を通過させることによって原水をろ過する。ろ過水室は、ろ過室にてろ過されたろ過水を集水する。洗浄水室は、ろ過水室に集水されたろ過水を逆洗水として貯留する。排水槽は、ろ過室の洗浄によって生じた排水を集水する。逆洗排水管は、ろ過室内に臨んだ一端から上方に向かって延在する流入部と、排水槽内に臨んだ他端から上方に向かって延在する流出部と、流入部および流出部が屈曲して接続された管頂部とを有する。この逆洗排水管は、洗浄水室からろ過水室を介してろ過室に流入した逆洗水を排水槽に排出する。逆洗起動機構は、圧縮空気が所定圧力に到達した場合、圧縮空気に由来したエアリフトを用いて逆洗排水管の内封圧縮空気を噴出させることによって、逆洗排水管内にサイフォンを形成して逆洗を起動する。この圧縮空気は、逆洗排水管の内封圧縮空気とは別に生成され、かつ、ろ過損失水頭の上昇に応じて加圧される。
【0008】
ここで、本発明において、上記逆洗起動機構は、逆洗起動管と、脱気管とを有することが好ましい。逆洗起動管は、圧縮空気の加圧によって管内水位が徐々に押し下げられる。脱気管の下端は、逆洗排水管の流出部および逆洗起動管の下端側の双方に接続され、その上端は、大気中に開放されるように上方に向かって起立している。そして、逆洗起動管内の水位が所定水深に低下した時点で、圧縮空気に由来したエアリフトを脱気管内に生じさせることによって、逆洗排水管の内封圧縮空気を噴出させる。この場合、上記逆洗起動機構は、空気タンクと、損失水頭検出管とをさらに設けてもよい。空気タンクは、空気を貯留する内部空間を備え、この内部空間には逆洗起動管の上端が臨んでいる。損失水頭検出管は、下端がろ過室内に臨んでおり、上端が空気タンク内に臨んでおり、ろ過損失水頭を検出する。ここで、空気タンク内に貯留された空気は、損失水頭検出管の上端を超えた水位の上昇によって徐々に加圧され、圧縮空気として逆洗起動管に供給される。
【0009】
本発明において、上記脱気管の上端開口は、排水槽の静止水位から所定の突出高だけ突出していることが好ましい。また、本発明において、上記逆洗排水管の管頂部は、最大ろ過損失水頭よりも低い高さに設置され、上記空気タンクは、最大ろ過損失水頭よりも低い高さに設置されていることが好ましい。
【0010】
本発明において、複数の分岐管と、複数の選択弁とを設けてもよい。複数の分岐管は、逆洗起動管より分岐して脱気管にそれぞれが接続されている共に、それぞれの下端水深が互いに異なる。複数の選択弁は、複数の分岐管のそれぞれに対応して設けられ、複数の分岐管のいずれかを選択するために用いられる。
【0011】
本発明において、複数のサイフォン式ろ過装置を用いて、サイフォン式ろ過システムを構成してもよい。この場合、複数のサイフォン式ろ過装置は排水槽を共用しており、排水槽の越流壁の上部には、排水槽に集水された排水を放出する放出口が設けられている。この放出口は、逆洗排水管による水の流入能力よりも低い放出能力を有し、かつ、逆洗排水管による流入が行われていない状態において、脱気管の上端が露出するまで排水槽内の水位を低下させる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、逆洗排水管内の空気ではなく、逆洗排水管とは別系統で生成され、かつ、ろ過損失水頭の上昇に応じて加圧される圧縮空気が用いられ、これが所定圧力に到達した場合、逆洗排水管の内封圧縮空気を噴出させる。これにより、逆洗排水管内にサイフォンを迅速に生起させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1の実施形態に係るサイフォン式ろ過装置の構成図
図2】逆洗動作の説明図
図3】逆洗動作の説明図
図4】逆洗動作の説明図
図5】逆洗動作の説明図
図6】第2の実施形態に係るサイフォン式ろ過装置の要部構成図
図7】第3の実施形態に係るサイフォン式ろ過装置の要部構成図
図8】堰部の取付状態を示す正面図
図9】従来のサイフォン式ろ過装置の説明図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るサイフォン式ろ過装置の構成図である。このサイフォン式ろ過装置1は、処理槽2と、排水槽3と、逆洗排水管4と、逆洗起動機構5とを主体に構成されている。処理槽2は、ろ過室2a、ろ過水室2bおよび洗浄水室2cによって構成された3層構造となっている。処理槽2の中段に位置するろ過室2aの側部には、開閉弁6a付きの原水管6の一端が接続されている。開閉弁6aは、ろ過、洗浄を問わず常時開状態に設定されており、メンテナンス等で停止・水抜きする場合にのみ閉状態に設定される。また、原水管6の他端は、処理槽2よりも高い位置に設置された原水槽(図示せず)に接続されており、ろ過室2aへの原水の導入は、開閉弁6aが開状態に設定された原水管6を介して行われる。ろ過室2aの底部には、集水板2e上に敷き均されたろ過砂などのろ層材料よりなるろ層2dが設けられており、ろ過室2aに導入された原水は、ろ層2dを通過することによってろ過される。
【0015】
処理槽2の下段に位置するろ過水室2bは、ろ過室2aにてろ過されたろ過水を集水する。このろ過水室2bの頂部には、処理槽2の内部を上下に延在する連絡管2fの下端開口が臨んでいる。処理槽2の上段に位置する洗浄水室2cの底部には、連絡管2fの上端開口が臨んでおり、ろ過水室2bに集水されたろ過水は、連絡管2fを介して、ろ過室2aとは区分された洗浄水室2c内に逆洗水として貯留される。また、ろ過水室2bの頂部には、処理槽2の内部を頂部近傍に至るまで上下を延在するろ過水流出管2gの下端開口が臨んでいる。このろ過水流出管2gの上端開口は、洗浄水室2cの最大水位の直上で開放されていると共に、処理槽2の側壁を貫通して外部に至るように途中で分岐しており、この分岐した流路によってろ過水が外部に放出される。
【0016】
排水槽3は、逆洗排水管4を介して、ろ過室2aの内部洗浄(ろ層2dの洗浄)によって生じた排水を集水する。この排水槽3は、処理槽2の直近において処理槽2よりも低い位置、より正確には、洗浄水室2c内の水面よりも排水槽3内の水面が低いことが常に保証される位置に設けられている。逆洗排水管4は、その配管形状として、流入部Aと、流出部Bと、管頂部Cとを有する。流入部Aは、その下端開口がろ過室2aの頂部中央に臨んでおり、そこから鉛直上方に立ち上がった後、斜め上方に屈曲して処理槽2の外部に至る。流出部Bは、その下端開口が排水槽3の内部において所定の水深(例えば水面下1000mm+α)に至るように水没しており、そこから鉛直上方に立ち上がっている。管頂部Cは、流入部Aと流出部Bとが屈曲して接続された部位であり、この部位において逆洗排水管4の高さが最も高くなる。本実施形態では、一例として、洗浄水室2cの満水時の水位を基準とした管頂部Cの高さHを550mmに設定している。
【0017】
逆洗工程では、洗浄水室2cに貯留された逆洗水をろ過工程とは逆向き、すなわち、連絡管2f、ろ過水室2b、ろ過室2aの順に流すことによって、ろ過室2aに設けられたろ層2dの洗浄が行われる。このような逆洗によって、ろ層2dに付着・堆積していた懸濁物質は、ろ層2dより分離してろ過室2a内の水中に放出される。逆洗排水管4は、サイフォンの原理を利用して、上記逆洗を形成すると共に、ろ過室2aに放出された懸濁物質を含む逆洗水を排水として排水槽3に排出する。排水槽3に集水された排水は、その全量が次設備(図示せず)に排出される。
【0018】
逆洗起動機構5は、自己が生成した「圧縮空気」を用いて逆洗排水管4内に水封された圧縮空気(以下、「内封圧縮空気」という。)を噴出させることによって、逆洗排水管4内にサイフォンを形成して逆洗を起動する。この「圧縮空気」は、逆洗排水管4(管頂部Cを主体とした内部空間)の「内封圧縮空気」を用いることなく、逆洗排水管4とは別系統で設けられた逆洗起動機構5によって生成される。「圧縮空気」は、ろ過損失水頭の上昇に応じて加圧され、これが所定圧力に到達した場合にサイフォンが生起される(逆洗の起動)。
【0019】
本実施形態において、逆洗起動機構5は、損失水頭検出管5aと、空気タンク5bと、逆洗起動管5cと、脱気管5dとを主体に構成されている。損失水頭検出管5aは、その下端開口がろ過室2aの側部上方に臨んでおり、そこから鉛直上方に向かって立ち上がっている。損失水頭検出管5aは、洗浄水室2cとの水位差であるろ過損失水頭を検出し、このろ過損失水頭に相当する管内水位は、ろ層2dに懸濁物質が付着するなどして水の通過抵抗が増大するに従って、経時的に徐々に上昇していく。空気タンク5bは、処理槽2の直近において処理槽2よりも高い位置に設けられ、その内部空間に空気(加圧される圧縮空気を含む。)を貯留する。空気タンク5b内の底部には、損失水頭検出管5aの上端開口が臨んでいると共に、その頂部近傍には逆洗起動管5cの上端開口が臨んでいる。空気タンク5b内に貯留された空気は、損失水頭検出管5aの上端を超えた空気タンク5b内の水位上昇(本実施形態では、後述する水封管5eを設けている関係上、水封管5eの下端に到達した後の水位上昇)によって徐々に加圧され、上述した「圧縮空気」として逆洗起動管5cに供給される。
【0020】
空気タンク5bには、吸排気弁5f付きの水封管5eが設けられている。水封管5eは、その下端開口が空気タンク5bの内部空間に臨んでおり、その上端開口は大気中に開放されている。ここで、水封管5eと逆洗起動管5cとの位置的関係として、水封管5eの下端レベルは、逆洗起動管5cの上端レベルよりも低く設定されている。また、水封管5eに設けられた吸排気弁5fは、水封管5eの水封状態に応じて開閉し、水封管5eが水で満たされていない非水封時(水封管5e内に水が存在しない場合を含む。)には開状態、水封管5eが水で満たされた水封時には閉状態にそれぞれ設定される。
【0021】
本実施形態では、一例として、洗浄水室2cの満水下における最大ろ過損失水頭Δhを1500mmとし、ろ過損失水頭h1が500mmに到達すると水封管5eの下端に水面が接し、そこからの水面の上昇分(ろ過損失水頭h2)を1000mm(大気状態)に設定している。ただし、ろ過損失水頭h1が500mmに到達した後は、吸排気弁5fが閉じて空気タンク5b内が圧縮される状態になるため、空気タンク5bにおける実際の水位の最大上昇分は1000mmよりも小さい40mm程度に抑制される。本実施形態の特徴と一つとして、空気タンク5b内を圧縮してその水位上昇を抑制することで、空気タンク5bの設置高を最大ろ過損失水頭Δh(1500mm)よりも低くしている点が挙げられる。
【0022】
逆洗起動管5cは、鉛直下方に向かって立ち下がった後、その下端開口が排水槽3の内部において所定の深度に至っている。逆洗起動管5c内の水位は、空気タンク5bにおいて徐々に加圧される圧縮空気に起因した水面の押し下げによって徐々に低下していく。脱気管5dは、その下端側が排水槽3の内部に位置し、逆洗排水管4の流出部Bおよび逆洗起動管5cの下端側の双方に接続されている。また、脱気管5dは、その上端開口が大気中に開放されるように鉛直上方に向かって立ち上がったリフト部Dを備えている。リフト部Dの先端、すなわち、脱気管5dの開口した上端は、排水槽3が有する越流壁3aの高さによって規定される静止水位よりも上方に突出している。本実施形態では、一例として、この突出高を30mmに設定している。このような突出を設けることで、逆洗排水管4における内封圧縮空気の圧力よりも脱気管5dの水柱が突出高分だけ勝るため、逆洗排水管4の内封圧縮空気が脱気管5dを介して噴出することを有効に抑止できる。
【0023】
逆洗起動管5cに供給される圧縮空気が所定圧力に到達した場合、換言すれば、逆洗起動管5c内の水位が所定の水深(逆洗起動管5cの下端レベル)に到達した場合、その時点で、脱気管5dのリフト部Dにおいて、逆洗起動管5cより導入された圧縮空気に由来したエアリフト(気泡の上昇)が生じる。このエアリフトに誘発されて、脱気管5dと連通した逆洗排水管4の流出部Bの内封圧縮空気を強力に噴出させる。これによって、逆洗排水管4における流入部A内の水が管頂部Cを乗り越えてサイフォンが生起され、逆洗が開始する。
【0024】
逆洗排水管4の管頂部Cの近傍には、サイフォン破壊管7の上端開口が臨んでいる。サイフォン破壊管7は、鉛直下方に向かって立ち下がって処理槽2を貫通し、その下端開口は、洗浄水室2c内の底部近傍に臨んでいる。逆洗工程では、上述したサイフォンによって洗浄水室2c内の逆洗水が放出され、これによって、洗浄水室2c内の水位は徐々に低下していく。そして、この水位がサイフォン破壊管7の下端位置に到達した時点で、サイフォン破壊管7より吸入された空気が逆洗排水管4に一気に導入される。その結果、逆洗排水管4内に形成されていたサイフォンが破壊されて、逆洗が終了する。
【0025】
逆洗の終了時おいて、逆洗排水管4内およびサイフォン破壊管7内の双方に吸入・内封される空気容積は、ろ過開始と共に水封密閉された最大ろ過損失水頭まで加圧収縮させた状態においても、逆洗排水管4の管頂部Cの内部容積と、逆洗排水管4の流出部Bの内部容積との和を超える容積となるよう設定されている。これにより、最大ろ過損失水頭Δhに到達しても内封圧縮空気により逆洗排水管4の流出部Aの水面が管頂部Cを乗り換えることのないように抑制される。そして、逆洗起動機構5によって逆洗排水管4の内封圧縮空気を一気に噴出させることでサイフォンが形成される。
【0026】
なお、逆洗排水管4の流出部Bおよび原水管6は、開閉弁8a付きの強制逆洗起動管8を介して接続されている。開閉弁8aを開いて原水管6の原水を逆洗排水管4に強制的に導入することで、逆洗起動機構5が関与することなく逆洗排水管4内にサイフォンが強制的に形成され、逆洗が開始する。
【0027】
つぎに、図2から図5を参照しつつ、本実施形態に係る逆洗動作について説明する。まず、図2に示すように、逆洗終了直後の状態では、洗浄水室2cの水位がサイフォン破壊管7の下端レベルに低下しており、水封管5eに設けられた吸排気弁5fが開いているため、空気タンク5b内は大気圧相当になっている。その結果、逆洗排水管4の流入部Aおよび損失水頭検出管5aの水位レベルは、洗浄水室2cのそれとほぼ同じになると共に、逆洗排水管4の流出部B、逆洗起動管5cおよび脱気管5dの水位レベルは、排水槽3の静止水位とはほぼ同じになる。
【0028】
つぎに、図3に示すように、原水管6からろ過室2aに原水を連続的に導入する。ろ過室2aに導入された原水は、ろ層2dによってろ過され、ろ過水室2bにおいて集水された後、連絡管2fおよびろ過水流出管2gに流入する。これによって、洗浄水室2cおよびろ過水流出管2gの双方の水位が徐々に上昇していく。洗浄水室2cの水位上昇によって、サイフォン破壊管7の下端が水封されるので、逆洗排水管4内に存在する空気は水封状態となる。この内封空気は、管内水位の上昇に伴い徐々に加圧されるため、大気状態と比べて緩やかに上昇していく。そして、洗浄水室2cと共に上昇するろ過水流出管2gの水位が所定の水位に到達すると、ろ過流出管2gから外部にろ過水が放出される。逆洗排水管4において、流入部Aの水位上昇に伴い、内封圧縮空気は徐々に圧縮されて容積を収縮しつつ、流出部Bの水位を徐々に低下させる。
【0029】
つぎに、図4に示すように、損失水頭検出管5aにおけるろ過損失水頭がh1(=500mm)に到達すると、損失水頭検出管5aより空気タンク5bに流入した原水によって水封管5eの下端が水封される。これによって、空気タンク5bの内部上方は密閉された状態となる。ただし、この時点では、吸排気弁5fは未だ開状態のままである。また、逆洗排水管4における流入部Aの水位レベルは、500mmのろ過損失水頭に応じたものになるが、排水槽3における脱気管5dの水位レベルは、排水槽3の静止水位から30mm突出している分だけ浅い水位に保たれる。その後、水封管5eの水位上昇に伴い、吸排気弁5fのフロートが押し上げられて開状態から閉状態に移行する。そして、ろ過損失水頭が例えば1100mmに到達すると、逆洗排水管4の内封圧縮空気の余剰分が逆洗排水管4の下端より気泡として放出され始める。しかしながら、この状態においても、脱気管5dに封入された空気の放出は依然として抑制され続けている。
【0030】
そして、図5に示すように、損失水頭検出管5aにおけるろ過損失水頭がΔh(=1500mm)に到達すると、逆洗起動管5cの水位はその下端レベル(例えば排水槽3の水面下1000mm)に到達する。それに伴い、逆洗起動管5c内の圧縮空気は、脱気管5dのリフト部D内を気泡となって上昇し、この上昇気泡によるエアリフト効果に誘発されて、脱気管5dと連通した逆洗排水管4の内封圧縮空気が噴出する。これにより、上昇が抑制されていた逆洗排水管4の流入部Aの水位は、間近に迫っていた管頂部Cを一気に乗り越える。そして、管頂部Cを乗り越えた水は、流出部Bを連続的に流下する。これによって、逆洗排水管4内にサイフォンが迅速に生起されて、逆洗が開始する。上述したように、逆洗は、洗浄水室2c内の水位がサイフォン破壊管7の下端位置に到達するまで継続し、この下端位置に到達した時点で終了する(図2の状態)。
【0031】
このように、本実施形態によれば、ろ過損失水頭の上昇に応じて加圧される空気タンク5b内の圧縮空気を用いて逆洗起動管5c内の水位を押し下げ、上述した所定の水深(所定の圧力)に到達した時点で、脱気管5d内に圧縮空気に由来したエアリフトを生じさせる。これにより、逆洗排水管4(流出部B)の内封圧縮空気を噴出させ、逆洗排水管4内にサイフォンを迅速に生起させることができる。
【0032】
また、本実施形態によれば、圧縮空気によって空気タンク5b内の水位上昇が抑制される。これにより、最大ろ過損失水頭Δhよりも低い空気タンク5b内の水位でサイフォンが生起され、逆洗を開始することができる。これは、逆洗排水管4の管頂部Cの高さを抑えられることと相まって、サイフォン式ろ過装置1の全体的な高さを抑える上で有利である。この点を上述した特許文献1と比較して説明すると、例えば最大ろ過損失水頭Δhが1500mmの場合、特許文献1のろ過装置では、逆洗サイフォン管の管頂部を1500mm程度に設定する必要がある。これに対して、本実施形態では、逆洗排水管4の内封圧縮空気を用いることなく、それとは別系統で生成される圧縮空気を利用することで、逆洗排水管4の管頂部Cをそれよりも低い550mm程度の高さに抑制できる。
【0033】
(第2の実施形態)
逆洗の開始タイミングは、排水槽3に水没させた逆洗起動管5cの下端レベルの水深(下端水深)、換言すれば、水面下における管内の圧縮空気圧力によって決定される。具体的には、この下端水深を浅くすれば、逆洗開始損失水頭を低く設定することができる。実際、使用先のニーズの一つとして、ろ過損失水頭の上昇が遅く、早めの逆洗を望むケースもある。そこで、第2の実施形態では、第1の実施形態に係る逆洗起動機構5を拡張して、逆洗の開始タイミングを可変に選択できる機能を提供する。
【0034】
図6は、第2の実施形態に係るサイフォン式ろ過装置1の要部構成図であり、排水槽3まわりの逆洗起動機構5の構成を示している。この逆洗起動機構5は、第1の実施形態に係る基本構成に加えて、複数の分岐管5gと、複数の選択弁5hとを有する。複数の分岐管5gは、逆洗起動管5cの下端側より分岐して並んで延在していると共に、脱気管5dのリフト部Dにおける異なる水深位置に接続されている。複数の選択弁5hは、複数の分岐管5gのそれぞれに設けられ、いずれかの選択弁5hを開くことで、これに対応する分岐管5gが選択される。
【0035】
例えば、同図に示した3本の分岐管5gの下端水深について、左側が最も深く、右側が最も浅く、中央が中間的な深さとなっている。ここで、下端水深が最も深い左側の分岐管5gが選択された場合、逆洗の開始を規定するろ過損失水頭(以下、「逆洗開始損失水頭」という。)は、最大ろ過損失水頭となる。また、下端水深が最も浅い右側の分岐管5gが選択された場合、逆洗開始損失水頭は最も小さくなる。さらに、下端水深が中間である中央の分岐管5gが選択された場合、逆洗開始損失水頭も中間となる。なお、同図に示した構成以外は第1の実施形態と同様なので、ここでの説明を省略する(後述する第3の実施形態についても同様。)。
【0036】
このように、本実施形態によれば、下端水深が互いに異なる複数の分岐管5gを設け、選択弁5hによって分岐管5gを選択することで、逆洗開始損失水頭を段階的に選択でき、原水の水質に応じて逆洗開始損失水頭を変えたい場合に有用である。
【0037】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、1つの排水槽3を共用する排水環境下で複数のサイフォン式ろ過装置1を併設したシステムに関する。複数のサイフォン式ろ過装置1を併設した場合、それぞれのサイフォン式ろ過装置1の逆洗が同時期に重複して行われる可能性がある。逆洗が重複すると、排水槽3の収容能力を超えた排水が流入するため、排水槽3から排水が溢れ出して周辺に被害を及ぼすことが懸念される。そこで、第3の実施形態は、排水槽3における単純な水利作用を用いて、複数のサイフォン式ろ過装置1における逆洗の同時発生を回避する機能を提供する。
【0038】
図7は、第3の実施形態に係るサイフォン式ろ過システム9の要部構成図であり、排水槽3まわりの構成を示している。1つの排水槽3は、複数のサイフォン式ろ過装置1A,1Bで共用されており、それぞれのろ過装置1A,1Bにおける逆洗排水管4、逆洗起動管5cおよび脱気管5dが排水槽3内に設けられている。この排水槽3において、静止水位を規定する越流壁3aの頂部には堰部3bが取り付けられている。
【0039】
図8は、堰部3bの取付状態を示す正面図である。板状の部材である堰部3bは、越流壁3aの頂部に取り付けられ、この頂部から上方に向かって所定の高さ分だけ突出している。ここで、越流壁3aの幅をw1、堰板3bの幅をw2(<w1)とすると、堰板3bと排水槽3の側壁との間に、Δw(=w1-w2)分の隙間が生じ、この隙間が排水槽3に集水された排水を放出する放出口3cとして機能する。この放出口3cは、逆洗排水管4による排水槽3への流入能力よりも低い放出能力を有する。
【0040】
第1の実施形態で述べたように、脱気管5dの上端開口は、排水槽3の静止水位に対して30mmほど突出しており、脱気管5dの水柱によって逆洗排水管4の内封圧縮空気の噴出が抑止される。したがって、先に逆洗が開始された一方のサイフォン式ろ過装置1Aからの排水流入に起因した水位上昇を少なくとも静止水位から40mm以上とすることで、他方のサイフォン式ろ過装置1Bの脱気管5dに追加背圧が作用するため、他方のサイフォン式ろ過装置1Bにおける逆洗の同時発生を回避できる。かかる観点より、堰板3bは、その頂部が静止水位から40mmになるような高さで越流壁3aに取り付けられる。そして、一方のサイフォン式ろ過装置1Aの逆洗が終了した場合、放出口3cからの放出が継続することで、排水槽3の水位は静止水位に到達するまで降下していく。この降下過程において脱気管5dの上部開口が水面から露出すると、その時点で、他方のサイフォン式ろ過装置1Bの逆洗が開始される。
【0041】
なお、図8では、堰板3bの片側のみに放出口3cを設ける例を示したが、堰板3bの両側に放出口3cを設けてもよい。また、放出口3cは、三角堰板、切欠付き全幅堰板、オリフィス穴付き全幅堰板などを用いて形成してもよい。さらに、別体で形成された堰板3bを越流壁3aに取り付ける形態に限らず、越流壁3aの一部として放出口3cを形成してもよい。
【0042】
このように、本実施形態によれば、別体化された堰部3bを越流壁3aの上部に取り付けることによって、あるいは、放出口3c付きの堰部3bとしての機能を越流壁3a自体に付加することによって、複数のサイフォン式ろ過装置1A,1Bにおける逆洗の同時発生を回避できる。
【符号の説明】
【0043】
1,1A,1B サイフォン式ろ過装置
2 処理槽
2a ろ過室
2b ろ過水室
2c 洗浄水室
2d ろ層
2e 集水板
2f 連絡管
2g ろ過水流出管
3 排水槽
3a 越流壁
3b 堰部
3c 放出口
4 逆洗排水管
5 逆洗起動機構
5a 損失水頭検出管
5b 空気タンク
5c 逆洗起動管
5d 脱気管
5e 水封管
5f 吸排気弁
5g 分岐管
5h 選択弁
6 原水管
6a 開閉弁
7 サイフォン破壊管
8 強制逆洗起動管
8a 開閉弁
9 サイフォン式ろ過システム

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9