(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144922
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】N-アルキルモルホリンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 295/03 20060101AFI20241004BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
C07D295/03
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057102
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】390014856
【氏名又は名称】日本乳化剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 修平
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA42
4H039CG10
4H039CH20
(57)【要約】
【課題】N-アルキルジエタノールアミンを原料として用いてN-アルキルモルホリンを製造するに当たり、得られたN-アルキルモルホリンの保存時における経時的な着色を抑制しうる手段を提供する。
【解決手段】N-アルキルジエタノールアミンを、酸触媒の存在下で、120~160℃の反応温度で反応させて、N-アルキルモルホリンを製造する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1:
【化1】
式中、Rは、炭素原子数1~8のアルキル基を表す、
で表されるN-アルキルジエタノールアミンを、酸触媒の存在下で、120~160℃の反応温度で反応させて、下記化学式2:
【化2】
式中、Rは、炭素原子数1~8のアルキル基を表す、
で表されるN-アルキルモルホリンを得ることを含む、N-アルキルモルホリンの製造方法。
【請求項2】
前記酸触媒が濃硫酸を含む、請求項1に記載のN-アルキルモルホリンの製造方法。
【請求項3】
前記反応温度が140~150℃である、請求項1または2に記載のN-アルキルモルホリンの製造方法。
【請求項4】
無溶媒で、前記酸触媒を初期仕込みした状態で、前記N-アルキルジエタノールアミンを滴下により添加して前記反応を実施する、請求項1または2に記載のN-アルキルモルホリンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N-アルキルモルホリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-アルキルモルホリン等のモルホリン化合物は、例えば、医薬品、農薬、高分子材料等の原料等として幅広く使用されている。
【0003】
従来、N-アルキルモルホリンの製造方法としては、アミノアルコールであるN-アルキルジエタノールアミンなどを水および塩酸の存在下で加熱して環形成(環化)を起こし、モルホリンを蒸留によって単離して得る方法が知られている。また、この方法による場合の環形成(環化)温度は、175~190℃である(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、本発明者らは、上述した特許文献1に記載されている反応温度を採用してN-アルキルジエタノールアミンからのN-アルキルモルホリンの製造を行った。そうしたところ、製造されたN-アルキルモルホリンを大気中で長期間保存した場合、経時で着色するという問題が生じることが判明した。このような着色はN-アルキルモルホリン自体の商品価値を低下させるのみならず、それを原料として製造される誘導品の品質にも重大な影響を与える可能性がある。
【0006】
そこで本発明は、N-アルキルジエタノールアミンを原料として用いてN-アルキルモルホリンを製造するに当たり、得られたN-アルキルモルホリンの保存時における経時的な着色を抑制しうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、N-アルキルジエタノールアミンを原料としてN-アルキルモルホリンを製造する際に、反応温度を従来知られている範囲よりも低い範囲に制御することで、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態は、下記化学式1:
【0009】
【0010】
式中、Rは、炭素原子数1~8のアルキル基を表す、
で表されるN-アルキルジエタノールアミンを、酸触媒の存在下で、120~160℃の反応温度で反応させて、下記化学式2:
【0011】
【0012】
式中、Rは、炭素原子数1~8のアルキル基を表す、
で表されるN-アルキルモルホリンを得ることを含む、N-アルキルモルホリンの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る製造方法によれば、得られたN-アルキルモルホリンの保存時における経時的な着色を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の反応工程において得られた反応液(N-エチルモルホリンを含む)の上層液を蒸留に付し、捕集を開始した最初のフラクション(留分1)について、ガスクロマトグラフィー(GC)を実施した際に取得されたGCクロマトグラムである。
【
図2】実施例2の反応工程において得られた反応液(N-メチルモルホリンを含む)の上層液を蒸留に付し、捕集を開始した最初のフラクション(留分1)について、ガスクロマトグラフィー(GC)を実施した際に取得されたGCクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、使用方法および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。本明細書に記載される実施の形態は、任意に組み合わせることにより、他の実施の形態とすることができる。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~60%の条件で測定する。
【0016】
本発明の一形態は、上記化学式1で表されるN-アルキルジエタノールアミンを、酸触媒の存在下で、120~160℃の反応温度で反応させて、上記化学式2で表されるN-アルキルモルホリンを得ることを含む、N-アルキルモルホリンの製造方法である。
【0017】
(N-アルキルジエタノールアミン)
本発明に係る製造方法においては、原料として上記化学式1で表されるN-アルキルジエタノールアミンが用いられる。ここで、化学式1において、Rは、炭素原子数1~8のアルキル基を表し、好ましくは炭素原子数1~4のアルキル基を表し、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基を表し、さらに好ましくは炭素原子数1または2のアルキル基を表し、特に好ましくは炭素原子数2のアルキル基(エチル基)を表す。
【0018】
原料である上記N-アルキルジエタノールアミンは、例えば、従来公知の方法に従って、1モルのアルキルアミンに2モルのエチレンオキサイドを付加させることにより製造することができる。
【0019】
(酸触媒)
本発明に係る製造方法においては、酸触媒の存在下で反応を実施する点に特徴の1つがある。反応系に酸触媒が存在することで、求核置換(SN2)反応による原料の分子内での環化反応の進行が促進される。この際、分子内脱水を伴う。
【0020】
使用可能な酸触媒としては、硫酸(好ましくは濃硫酸)、塩酸、臭化水素酸および硝酸等の無機酸類;シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸等の有機酸類等が挙げられる。これらの酸触媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。なかでも、反応率を高めるという観点から、酸触媒は濃硫酸を含むことが好ましい。また、酸触媒の使用量についても特に制限はなく、原料化合物1モルに対して0.8~3.0モル程度であり、好ましくは1.0~2.0モルである。
【0021】
(反応溶媒)
本発明に係る製造方法において、反応系には反応溶媒が存在してもよいし、存在しない条件(無溶媒)であってもよい。反応をより効率的に進行させるという観点からは、可能であれば無溶媒条件下で反応工程を実施することが好ましい。
【0022】
一方、反応溶媒を使用する場合、用いられうる反応溶媒は、原料等を均一に混合できる溶媒であればよいが、反応速度や収率の観点からは極性を有する溶媒(極性溶媒)であることが好ましい。極性溶媒である有機溶媒としては、シアノ基、エーテル基、エステル基、カルボニル基、アミド基等の極性基を有するものが挙げられる。シアノ基を有する極性溶媒としては、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられ、エーテル基を有する極性溶媒としてはジエチルエーテル、ジ-n-プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル等の鎖状エーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテルが挙げられる。エステル基を有する極性溶媒としては酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル等が挙げられる。カルボニル基を有する極性溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、アミド基を有する極性溶媒としてはN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等が挙げられる。また、溶媒は1種のみを単独で用いてもよく、他の極性溶媒および/または非極性溶媒と混合して用いてもよい。なお、反応工程において進行する反応は分子内脱水を伴うものであることから、反応溶媒は水を含まないことが好ましい。
【0023】
反応溶媒を使用する場合の使用量について特に制限はなく、従来公知の知見を参照することにより適宜設定されうる。
【0024】
(反応条件)
本発明に係る製造方法のもう1つの特徴は、反応温度を従来公知の範囲(175~190℃(特許文献1))よりも低く設定したことにある。具体的に、本発明では、反応温度を120~160℃とし、好ましくは140~150℃とする。なお、本明細書において、「反応温度」とは、反応容器の温度ではなく、反応の進行時における反応物そのものの温度を意味し、反応の全期間に亘る最高温度を意味する。反応温度をかような範囲内の値に制御する手段としては、ジャケットや蛇管などの熱交換器を用いて熱交換を行ったり、反応液を十分に攪拌したりするなどの手法が挙げられる。
【0025】
上述した120~160℃の温度範囲は従来公知の反応温度よりも低いことから、所望の反応が十分には進行しないのではないかとの懸念もあった。しかしながら、驚くべきことに、比較的低温で反応を進行させた場合であっても、所望の反応は十分に進行し、所望のN-アルキルモルホリンが高収率で製造されうることが判明した。また、さらに驚くべきことには、このように比較的低温で反応を進行させることで、得られるN-アルキルモルホリンの経時的な着色が抑制されることも判明したのである(後述する実施例の欄を参照)。
【0026】
反応温度は、反応進行中、常に略一定に保持する必要はなく、本発明の作用効果を損なわない範囲であれば、反応温度のプロファイルに特に制限はない。例えば、適当な昇温時間(または昇温速度)で設定温度(上述した温度範囲)まで昇温し、その後、反応系を当該設定温度に保持すればよい。
【0027】
なお、反応に際して、反応系内の圧力や雰囲気は、特に限定されない。圧力については、常圧(大気圧)下、減圧下、加圧下のいずれの圧力下であってもよい。ただし、反応率を高めるという観点からは、常圧(大気圧)下で反応工程を実施することが好ましい。また、反応系内の雰囲気は、空気雰囲気でもよいが、不活性雰囲気とするのがよい。例えば、反応開始前に系内を窒素などの不活性ガスで置換することが好ましい。
【0028】
本発明の製造方法において、原料(N-アルキルジエタノールアミン)や酸触媒、必要に応じて使用する反応溶媒の添加形態について特に制限はなく、すべてを一括で初期仕込みしてから反応系を昇温させてもよいし、反応溶媒に加えて原料および/または酸触媒の一部を初期仕込みした状態で、残りを反応系に一括、分割または滴下により添加してもよい。なかでも、反応率を高めるという観点から、酸触媒を初期仕込みした状態で、原料を滴下により添加することが好ましい。この際、反応溶媒も併せて初期仕込みしてもよいが、上述したように無溶媒で実施することがより好ましい。この実施形態において、原料を滴下する時間は特に制限されないが、好ましくは1~10時間程度である。
【0029】
反応時間についても特に制限はないが、全ての原料を添加した後に反応を進行させる時間(熟成時間)は、好ましくは2~20時間であり、より好ましくは5~15時間である。熟成時間が20時間以下であれば、熟成に要するエネルギーの浪費が防止されうる。
【0030】
(その他の工程)
本発明に係る製造方法においては、反応工程の後に、その他の工程を実施してもよい。その他の工程としては、例えば、酸触媒を中和するための中和工程や、目的生成物を有機層に回収するための分離工程、目的生成物を精製するための蒸留精製工程などが挙げられる。
【0031】
中和工程は、酸触媒を中和することができるのであればその具体的な操作については特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。このような中和工程としては、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといった塩基を1種または2種以上含むアルカリ水溶液を添加し、適当な温度および時間で中和する方法が挙げられる。
【0032】
また、分離工程についても、目的生成物を有機層に回収することができるのであればその具体的な操作については特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。
【0033】
さらに、蒸留精製工程についても、目的生成物を精製することができるのであればその具体的な操作については特に制限はなく、従来公知の方法を採用することができる。このような蒸留精製のための装置や蒸留条件については特に限定されず、目的とするN-アルキルモルホリンに応じて、常圧蒸留や減圧蒸留などの手法を選択すればよい。例えば、操作圧力は、混合物の組成、加熱源、冷却源の温度等によって適宜決定されるものであり、特に制限されるものではないが、副反応の抑制という観点から、常圧または減圧下で行うことが好ましい。また、蒸留精製工程を2回以上実施してもよく、2回の蒸留精製工程の間に、上述した中和工程および/または分離工程をさらに実施してもよい。
【0034】
(N-アルキルモルホリン)
本発明に係る製造方法においては、目的生成物として上記化学式2で表されるN-アルキルモルホリンが生成する。ここで、化学式2において、Rは、原料として用いたN-アルキルジエタノールアミンにおけるRと同じである。
【0035】
上述したように、本発明によれば、従来法では、上述したような蒸留生成工程を実施したとしても回避することができなかった経時的な着色の発生が抑制されたN-アルキルモルホリン製品も提供されうる。すなわち、本発明の第2の形態によれば、上述した化学式2で表されるN-アルキルモルホリンを含むN-アルキルモルホリン製品であって、50℃に設定された恒温槽中に22日間静置する加速試験に供した直後に、日本産業規格JIS K 0071-1:2017に従い、窒素雰囲気下で測定した色相(APHA)の値が200以下であるN-アルキルモルホリン製品もまた、提供される。この色相(APHA)の値は、好ましくは150以下であり、より好ましくは100以下であり、さらに好ましくは60以下であり、特に好ましくは30以下である。
【0036】
なお、後述する実施例の欄において確認されているように、本発明に係る製造方法により製造されたN-アルキルモルホリン製品は、特定の不純物の含有量が非常に少ないという特徴もある。実施例の欄の検討によれば、当該不純物の含有量が少ないほど、N-アルキルモルホリン製品の経時的な着色が抑制されるものと推測される。すなわち、本発明の第3の形態によれば、上述した化学式2で表されるN-アルキルモルホリンを含むN-アルキルモルホリン製品であって、後述する実施例の欄に記載の条件で実施したガスクロマトグラフィーにおいて、N-アルキルモルホリンのピークAの面積率(「GC%」とも称する)が99.8%以上であり、N-アルキルモルホリンのピークAの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が0.70以下の範囲に現れるピークBの面積率が0.2%以下である、N-アルキルモルホリン製品もまた、提供される。ここで、ピークAの面積率は、好ましくは99.85%以上であり、より好ましくは99.9%以上である。一方、ピークBの面積率は、好ましくは0.15%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。
【実施例0037】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は25℃で行われた。
【0038】
《N-エチルモルホリンの製造例》
[比較例1]
(反応工程)
撹拌機、滴下ロート、温度計およびコンデンサーを備えたガラス製フラスコに、98%濃硫酸1,600重量部を入れ、175℃まで昇温させた後、そこにN-エチルジエタノールアミン1,600重量部を5時間かけて滴下しながら、反応温度175℃で反応させた。滴下終了から10時間反応後、反応系に48%水酸化ナトリウム水溶液2,000重量部を投入して、中和を行った。その後、得られた中和液を常圧にて粗留することにより、2,100重量部の留出液を得た。次いで、得られた留出液に48%水酸化ナトリウム水溶液1,500重量部をさらに添加して50℃以下で静置して分層した。
【0039】
(蒸留工程)
規則充填塔、温度計およびコンデンサーを備えたガラス製フラスコに、上記で得られた上層液を入れ、常圧蒸留精製を行った。蒸留を開始し、塔底温度145℃、塔頂温度135℃になったことを確認した後、全ての留分を捕集し、精製N-エチルモルホリンを得た。
【0040】
[実施例1]
反応工程における反応温度を145℃に変更したこと以外は、上述した比較例1と同じ方法により、N-エチルモルホリンを合成し、蒸留工程に付して精製し、精製N-エチルモルホリンを得た。
【0041】
《N-エチルモルホリンの着色性試験》
日本産業規格JIS K 0071-1:2017に従い、窒素雰囲気下で、 実施例および比較例で得られたN-エチルモルホリンについて、色相(APHA)を測定した。
【0042】
具体的に、ここでは、20℃にて6ヶ月の保存に相当する試験として、50℃に設定された恒温槽中に22日間静置する加速試験を行い、加速試験の前後における色相をそれぞれ測定した。その結果、比較例1のサンプルについては、加速試験前の色相(APHA)が60であったのに対し、加速試験後には200以上へと大きく上昇した。これに対し、実施例1のサンプルについては、加速試験前の色相(APHA)が5であったのに対し、加速試験後であっても30と低い値に抑えられていた。
【0043】
ここで、上述した実施例1と同じ方法により反応工程を行った。その後、上層液について蒸留を開始し、塔底温度145℃、塔頂温度135℃になったことを確認した後、留出液をいくつかのフラクションに分けて分取した。捕集を開始した最初のフラクションを留分1とし、順次留分2、3および4を得た。各留分の質量は全留分の質量に対しそれぞれ5%、7%、8%および80%であった。分取した各留分中のN-エチルモルホリンの純度を、以下の分析条件のガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。
【0044】
・GC分析条件
装置:アジレント・テクノロジー社製 Agilent 7820A GC
カラム:HP-5(30m×0.32mmID×0.25μm)
キャリアガス:ヘリウム
流速:0.95mL/min
温度:60℃(hold 10min)→(20℃/minにて昇温)→ 300℃ 合計22min
検出器:FID
検出器温度:300℃
注入量:0.2 μL
スプリット比:50/1。
【0045】
得られた留分1のGCクロマトグラムを
図1に示す。
図1に示すように、本実施例では、保持時間が約7.17minの位置にN-エチルモルホリンに対応するメインピークが確認された。また、これに加えて、保持時間が約2.96minの位置に不純物と思われるピークが確認された。そこで得られたフラクションのうち4つの留分について、上記と同じ方法により保持時間約7.17minの位置に検出される目的物の純度(GC%)および保持時間約2.96minの位置に検出される特定の不純物の濃度(GC%)を測定するとともに、着色性試験を行って経時での着色性を評価した。結果を下記の表1に示す。
【0046】
【0047】
表1に示す結果から、比較例1においても確認された特定の不純物の濃度に依存して、加速試験の前後における経時的な着色が進行することがわかる。
【0048】
同様に、比較例1および実施例1で得られた精製N-エチルモルホリンについて、上記と同じ方法により保持時間約7.17minの位置に検出される目的物の純度(GC%)および保持時間約2.96minの位置に検出される特定の不純物の濃度(GC%)を測定した。その結果、比較例1のN-エチルモルホリンの純度は99.70%であり、0.20%の不純物ピークが確認されたのに対し、実施例1のN-エチルモルホリンの純度は99.90%であり、不純物ピークは確認されなかった。
【0049】
《N-メチルモルホリンの製造例》
[実施例2]
(反応工程)
原料として、98%濃硫酸1,850重量部およびN-メチルジエタノールアミン1,600重量部を用いたこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により反応工程を行った。
【0050】
(蒸留工程)
規則充填塔、温度計およびコンデンサーを備えたガラス製フラスコに、上記で得られた上層液を入れ、常圧蒸留精製を行った。蒸留を開始し、塔底温度125℃、塔頂温度115℃になったことを確認した後、実施例1と同様にして、留出液を4つのフラクションに分けて分取し、留分1の純度を上記と同じGC分析方法により測定した。得られたGCクロマトグラムを
図2に示す。保持時間が約4.36minの位置にN-メチルモルホリンに対応するメインピーク(99.70%)が確認され、保持時間が約2.73minの位置に特定の不純物と思われるピーク(0.27%)が確認された。実施例1および比較例1と同様に着色性試験を行って経時での着色性を評価した結果、特定の不純物の濃度に依存して、加速試験の前後における経時的な着色が進行することが確認された。
【0051】
以上の結果から、N-アルキルジエタノールアミンを原料として用いてN-アルキルモルホリンを製造するに当たり、反応温度を120~160℃の範囲内に制御することで、得られたN-アルキルモルホリンの保存時における経時的な着色が抑制されることがわかる。また、このような効果が奏されるのは、より低い反応温度を採用することにより、実施例1および実施例2のGCクロマトグラムで見られるような特定の不純物の生成が抑制されたことによるものと考えられる。