(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014493
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】光ファイバテープ心線巻取体の製造方法およびその製造装置
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
G02B6/44 371
G02B6/44 391
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117364
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002255
【氏名又は名称】SWCC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 敬汰
(72)【発明者】
【氏名】永井 傑朗
(72)【発明者】
【氏名】野呂 亙
【テーマコード(参考)】
2H201
【Fターム(参考)】
2H201AX07
2H201AX24
2H201BB06
2H201BB08
2H201BB22
2H201BB23
2H201BB24
2H201BB33
2H201BB34
2H201BB59
2H201BB60
2H201BB67
2H201BB75
2H201DD05
2H201DD07
2H201DD09
2H201DD14
2H201KK02
2H201KK24C
2H201KK26A
2H201KK26B
2H201KK26C
2H201KK29A
2H201KK29B
2H201KK29C
2H201KK34C
2H201KK62
2H201KK63
2H201KK72
2H201MM03
2H201MM15
2H201MM18
(57)【要約】
【課題】光ファイバテープ心線の巻き取り形状の不良に伴う伝送損失の増大を抑制する光ファイバテープ心線巻取体の製造方法を提供する。
【解決手段】光ファイバテープ心線巻取体の製造方法は、並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバが間欠的に連結された光ファイバテープ心線を製造する工程と、前記光ファイバテープ心線に滑剤を塗布する工程と、前記滑剤が塗布された光ファイバテープ心線を巻き取る工程とを含む。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバが間欠的に連結された光ファイバテープ心線を製造する工程と、
前記光ファイバテープ心線に滑剤を塗布する工程と、
前記滑剤が塗布された光ファイバテープ心線を巻き取る工程と、
を含む、
光ファイバテープ心線巻取体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光ファイバテープ心線巻取体の製造方法において、
前記光ファイバテープ心線を製造する工程は、
前記複数本の単心被覆光ファイバをテープ樹脂層で一体的に被覆する工程と、
前記テープ樹脂層に間欠的に切り込みを入れて、隣り合う前記単心被覆光ファイバ同士を連結する複数の連結部と、隣り合う前記単心被覆光ファイバ同士を分離する複数の分離部とを形成する工程と、
を含む、
光ファイバテープ心線巻取体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光ファイバテープ心線巻取体の製造方法において、
前記滑剤を塗布する工程は、前記光ファイバテープ心線の進行方向の複数の位置でそれぞれ行われる、
光ファイバテープ心線巻取体の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光ファイバテープ心線巻取体の製造方法において、
前記巻き取る工程の前に、前記光ファイバテープ心線をアキュームレータにより蓄線する工程をさらに含み、
前記滑剤を塗布する工程は、前記蓄線する工程の前と後にそれぞれ行う、
光ファイバテープ心線巻取体の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光ファイバテープ心線巻取体の製造方法において、
前記滑剤は、シリコーンと、アルコール溶媒とを含む溶液である、
光ファイバテープ心線巻取体の製造方法。
【請求項6】
並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバを、テープ樹脂層で一体的に被覆するダイスと、
前記テープ樹脂層に間欠的に切り込みを入れて、隣り合う前記単心被覆光ファイバ同士を連結する複数の連結部と、隣り合う前記単心被覆光ファイバ同士を分離する複数の分離部とを形成する分離ダイスと、
前記複数の連結部と前記複数の分離部とを有する光ファイバテープ心線に滑剤を塗布する滑剤塗布部と、
前記滑剤が塗布された光ファイバテープ心線を巻き取る巻取部と
を有する、
光ファイバテープ心線巻取体の製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の光ファイバテープ心線巻取体の製造装置において、
前記分離ダイスと前記巻取部との間に配置された、前記光ファイバテープ心線を蓄線するアキュームレータをさらに含み、
前記滑剤塗布部として、
前記アキュームレータの、前記光ファイバテープ心線の進行方向の前段に配置された第1滑剤塗布部と、
前記アキュームレータの、前記光ファイバテープ心線の進行方向の後段に配置された第2滑剤塗布部と、
を含む、
光ファイバテープ心線巻取体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバテープ心線巻取体の製造方法およびその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及や5G商用の本格化、自動車の自動運転などにより、データトラフィックが飛躍的に増加しており、それを支える高速大容量光ファイバ通信網の整備・構築に関して、世界的に需要が高まってきている。
なかでも、欧米諸国における情報通信用ケーブルは、地下埋設のダクトに布設されることが多く、ダクト内の布設スペースに物理的な制約をうける。欧米諸国の高速大容量な光ファイバ通信網の整備・構築を経済的に実現させるには、既存ダクトを用いたまま従来ケーブルよりも光ファイバ心線が高密度なケーブルを導入することで布設コストを低減させることが強く求められている。
【0003】
特許文献1には、光ケーブルに用いられる間欠連結型光ファイバテープ心線が開示されている。当該光ファイバテープ心線は、並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバを搬送しながら光硬化型樹脂をテープ状に塗布して、テープ層を形成する工程、テープ層の光硬化型樹脂に光照射して硬化させる工程、硬化したテープ層の一部を除去して、間欠的に分離部および連結部を形成する工程、得られた光ファイバテープ心線を巻き取る工程を経て得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、巻き取り工程では、ボビンに光ファイバテープ心線を巻き付ける。このとき、光ファイバテープ心線表面の摩擦が大きいため、巻き付けに偏りが生じたり、乱れたりしやすく、巻き状態が悪化しやすい。例えばボビンの鍔部付近で巻きが盛り上がりやすく、その部分に光ファイバテープ心線がさらに巻き付けられることで、乗り上げた光ファイバテープ心線の間欠形状(例えば、複数の分離部と複数の連結部とにより形成される間欠形状)が開いたり、光ファイバテープ心線同士が交差したりしやすい。その結果、光ファイバテープ心線に局所的に不均一な圧力が加わりやすく、伝送損失が増大しやすいという問題があった。
したがって本発明の主な目的は、光ファイバテープ心線の巻き状態の悪化を抑制し、伝送損失の増大を抑制しうる光ファイバテープ心線巻取体の製造方法およびその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバが間欠的に連結された光ファイバテープ心線を製造する工程と、
前記光ファイバテープ心線に滑剤を塗布する工程と、
前記滑剤が塗布された光ファイバテープ心線を巻き取る工程と、
を含む、
光ファイバテープ心線巻取体の製造方法が提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、
並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバを、テープ樹脂層で一体的に被覆するダイスと、
前記テープ樹脂層に間欠的に切り込みを入れて、隣り合う前記単心被覆光ファイバ同士を連結する複数の連結部と、隣り合う前記単心被覆光ファイバ同士を分離する複数の分離部とを形成する分離ダイスと、
前記複数の連結部と前記複数の分離部とを有する光ファイバテープ心線に滑剤を塗布する滑剤塗布部と、
前記滑剤が塗布された光ファイバテープ心線を巻き取る巻取部と
を有する、
光ファイバテープ心線巻取体の製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光ファイバテープ心線の巻き形状の悪化を抑制し、伝送損失の増大を抑制しうる光ファイバテープ心線巻取体の製造方法およびその製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】光ファイバテープ心線の概略構成を示す平面図である。
【
図3】光ファイバテープ心線巻取体の製造装置の概略構成を示す模式図である。
【
図4】
図3の光ファイバテープ心線製造部の主要構成を示す斜視図である。
【
図5】光ファイバテープ心線巻取体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図6】スロットレス型光ケーブルの概略構成を示す断面図である。
【
図7】OTDR装置による伝送損失の測定結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施形態にかかる光ファイバテープ心線巻取体の製造方法および製造装置を説明する。まず、光ファイバテープ心線の構成について説明した後、光ファイバテープ心線巻取体の製造方法および製造装置について説明する。本明細書では、数値範囲を示す「~」の記載に関し下限値および上限値はその数値範囲に含まれる。
【0011】
[光ファイバテープ心線]
図1は、光ファイバテープ心線1の概略構成を示す平面図である。
図2は、
図1のX-X線の断面図である。
図1に示すとおり、光ファイバテープ心線1は、並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバ2と、これらを一体的に被覆するテープ樹脂層4と、テープ樹脂層4に形成された複数の連結部6および複数の分離部8とを有する。ここでは、複数本(
図1では4本)の単心被覆光ファイバ2が1心毎に独立して連結されているが、2心毎にまとまって連結されていてもよい。
【0012】
単心被覆光ファイバ2は、光ファイバ素線2aが1次被覆層2bおよび2次被覆層2cで順に被覆された構成を有している(
図2参照)。
【0013】
テープ樹脂層4は、複数本の単心被覆光ファイバ2を一体的に被覆しており、上記のとおり、複数の連結部6と、複数の分離部8とを有する(
図1参照)。
連結部6は、隣り合う単心被覆光ファイバ2間を連結した部分であり、長さ方向および幅方向に間欠的に設けられている。連結部6の断面の厚さcは、例えば0.10~0.27mmとしうる。テープ樹脂層4による樹脂被覆部を含めた光ファイバの外径dは、例えば0.26~0.29mmとしうる。連結部6の長手方向の長さAは、例えば35~45mmとしうる。連結部6の長手方向における周期間隔Pは、例えば150mm以下である。
分離部8は、隣り合う単心被覆光ファイバ2間を分離した部分であり、長さ方向および幅方向に間欠的に設けられている。分離部8には、分離部8同士を幅方向に視た場合に、隣り合う分離部8同士が重複する非連結部8Aが形成されている。分離部8の長手方向の長さBは、連結部6の長手方向の長さAと同じかそれよりも長くてよく、例えば95~105mmとしうる。
連結部6の断面の厚さcは、任意に5部位を選択しその測定値の平均値である。
樹脂被覆部を含めた光ファイバの外径dは、任意に5部位を選択し、キーエンス社製マイクロスコープで計測した近似円直径の平均値である。
それにより、隣り合う単心被覆光ファイバ2同士がその長手方向および幅方向に間欠的に連結または分離されている。
【0014】
テープ樹脂層4は、主に、光硬化型樹脂の硬化物、熱硬化型樹脂の硬化物または熱可塑性樹脂、好ましくは光硬化型樹脂の硬化物で構成されている。光硬化型樹脂は、特に限定されないが、例えばエポキシアクリレート系光硬化型樹脂またはウレタンアクリレート系光硬化型樹脂などである。
【0015】
[光ファイバテープ心線巻取体の製造装置および製造方法]
(1)光ファイバテープ心線巻取体の製造装置
図3は、光ファイバテープ心線巻取体の製造装置10の概略構成を示す図である。
図4は、
図3の光ファイバテープ心線製造部(
図3の破線で囲まれた部分)の主要構成を示す図である。
図3に示すとおり、光ファイバテープ心線巻取体の製造装置10は、単心被覆光ファイバ2の進行方向Aに沿って順に、供給部20、テープダイス30、分離ダイス40、光照射装置50、引取機60、第1滑剤塗布部70、アキュームレータ80、第2滑剤塗布部90および巻取部100を有している。
【0016】
供給部20は、複数本の単心被覆光ファイバ2をそれぞれのボビンから繰り出して供給する。繰り出された複数本の単心被覆光ファイバ2は、ガイドローラR1を介して搬送され、集線ローラR2によって平行一列に並べられる。
【0017】
テープダイス30は、複数本の単心被覆光ファイバ2の周囲を、テープ樹脂材料である光硬化型樹脂で一括被覆する汎用的なダイスである。そして、テープダイス30は、これを通過する複数本の単心被覆光ファイバ2に対し未硬化の光硬化型樹脂をテープ状に塗布して、テープ樹脂層4を形成するようになっている。
【0018】
分離ダイス40には、上下に昇降自在な複数本の分離ニードル42、44、46が設置されている(
図4では3本)。各分離ニードル42、44、46は単心被覆光ファイバ2間の上方に配置されており、中央部の分離ニードル44と両側部の分離ニードル42、46とが未硬化の光硬化型樹脂に対し交互に昇降し、間欠的に複数の分離部8および複数の連結部6を形成するようになっている。
分離ダイス40には、余分な光硬化型樹脂を吸引するための樹脂吸引装置48が設置されている。樹脂吸引装置48は、分離ニードル42、44、46の下降により堰き止められた余分な光硬化型樹脂を吸引するようになっている。
【0019】
光照射装置50は、上流側の光照射装置52と、下流側の光照射装置54とを有する。
上流側の光照射装置52は、未硬化の光硬化型樹脂に対し光を照射するものであり、当該光硬化型樹脂を半硬化させるようになっている。「半硬化」とは樹脂が完全硬化していない状態、つまり樹脂が光エネルギーにより部分的に架橋された状態にあることをいう。
下流側の光照射装置54は、半硬化の光硬化型樹脂に対し光をさらに照射するものであり、当該光硬化型樹脂を完全硬化させるようになっている。「完全硬化」とは樹脂が完全または完全に近い状態まで硬化している状態、つまり、樹脂が光エネルギーにより完全または完全に近い状態まで架橋された状態にあることをいう。
下流側の光照射装置54の積算照射量は、上流側の光照射装置52の積算照射量よりも多いことが好ましい。
そして、複数の分離部8および複数の連結部6が形成された光ファイバテープ心線1が得られる。なお、テープ樹脂層4として光硬化型樹脂を用いない場合、例えば熱可塑性樹脂を用いる場合は、光照射装置50はなくてもよい。
【0020】
引取機60は、ガイドローラR3で搬送される光ファイバテープ心線1を引き取る。引取機60の種類は、特に制限されず、キャプスタン式であってもよいし、ベルト式であってもよい。
図3では、ベルト式である。
【0021】
第1滑剤塗布部70は、アキュームレータ80の、光ファイバテープ心線1の進行方向Aの前段(
図3では引取機60とアキュームレータ80との間)に配置され、光ファイバテープ心線1に滑剤を塗布する。第1滑剤塗布部70は、滑剤を塗布可能に構成されていればよく、例えばダイスやスプレーなどでありうる。
【0022】
アキュームレータ80は、巻取部100でボビンの取り換えを行う際に、光ファイバテープ心線1を滞留させる(蓄線する)装置であり、例えば複数のローラで構成されている。アキュームレータ80は、分離ダイス40と巻取部100との間(
図3では引取機60と巻取部100の間)に配置されている。
【0023】
第2滑剤塗布部90は、アキュームレータ80の、光ファイバテープ心線1の進行方向Aの後段(
図3ではアキュームレータ80と巻取部100との間)に配置され、当該アキュームレータ80を経た光ファイバテープ心線1に滑剤を塗布する。第2滑剤塗布部90としては、第1滑剤塗布部70と同様のものを使用できる。
【0024】
巻取部100は、ガイドローラR4で搬送される光ファイバテープ心線1を、ボビンに巻き取る。それにより、光ファイバテープ心線巻取体が得られる。
【0025】
(2)光ファイバテープ心線巻取体の製造方法
図5は、本発明の一実施形態にかかる光ファイバテープ心線巻取体の製造方法を示すフローチャートである。
図5に示すとおり、上記光ファイバテープ心線巻取体の製造方法は、光ファイバテープ心線1を製造する工程(光ファイバテープ心線製造工程、ステップS1)、光ファイバテープ心線1に滑剤を塗布する工程(第1滑剤塗布工程、ステップS2)、光ファイバテープ心線1をアキュームレータ80により蓄線する工程(蓄線工程、ステップS3)、光ファイバテープ心線1に滑剤を塗布する工程(第2滑剤塗布工程、ステップS4)、および、滑剤が塗布された光ファイバテープ心線1を巻き取る工程(巻取工程、ステップS5)を含む。
以下、
図3および
図4を参照しながら、各工程について説明する。
【0026】
まず、光ファイバテープ心線製造工程(ステップS1)では、
図3に示すとおり、複数本の単心被覆光ファイバ2を、それぞれのボビンから繰り出し、ガイドローラR1を介して集線ローラR2で平行一列に並べる。
そして、並列に並べられた複数本の単心被覆光ファイバ2を進行方向Aに沿って搬送させた状態で(搬送速度は好ましくは60~300m/分である)、はじめに、複数本の単心被覆光ファイバ2に対し、テープダイス30でテープ樹脂材料である未硬化の光硬化型樹脂をテープ状に塗布し、テープ樹脂層4を形成する。それにより、複数本の単心被覆光ファイバ2をテープ樹脂層4で一体的に被覆する。なお、テープ樹脂材料は、必要に応じて各種添加剤などをさらに含みうるが、滑剤は実質的に含まない。
次いで、当該テープ樹脂層4に対し分離ダイス40の分離ニードル42、44、46を昇降させて、テープ樹脂層4に間欠的に切り込みを入れる。それにより、テープ樹脂層4に複数の分離部8および複数の連結部6を形成する。
次いで、テープ樹脂層4に対し光照射装置52で光を照射し、未硬化の光硬化型樹脂を半硬化させ、最終的に光照射装置54でさらに光を照射し半硬化の光硬化型樹脂を完全硬化させる。これら工程の処理中は、テープダイス30の温度を、分離ダイス40の温度より高く設定する。それにより、複数の分離部8および複数の連結部6が形成された光ファイバテープ心線1が得られる。なお、テープ樹脂層4として光硬化型樹脂を用いない場合は、光硬化型樹脂を硬化させる工程はなくてよい。
【0027】
次いで、第1滑剤塗布工程(ステップS2)では、ガイドローラR3により搬送され、引取機60で引取られた光ファイバテープ心線1に、第1滑剤塗布部70により滑剤を塗布する。具体的には、滑剤を光ファイバテープ心線1のテープ樹脂層4の表面、特に単心被覆光ファイバ2を被覆した部分に塗布する。
【0028】
滑剤の種類は、特に制限されず、例えばシリコーン系化合物、低分子量ワックス、これらをアルコール溶媒などの溶剤で希釈した溶液などを使用することができる。中でも、均一に塗布しやすく、良好な滑り性を塗布しうることから、シリコーン系化合物とアルコール溶媒とを含む溶液が好ましい。当該溶液のシリコーン系化合物の濃度は、特に制限されないが、製造中におけるローラやアキュームレータ80からの脱線防止や後工程の取り回しの観点では、1質量%以下であることが好ましく、0.1~0.5質量%であることがより好ましい。本実施形態では、滑剤は、例えば滴下装置により塗布しうる。
【0029】
滑剤の塗布量は、滑剤の種類にもよるが、製造工程全体でのトータルの滑剤の塗布量が、例えば0.6~3.0mg/mとなるように調整されうる。滑剤の塗布量が0.6mg/m以上、好ましくは1.2mg/m以上であると、光ファイバテープ心線1の表面の摩擦を一層低減しうるため、巻取体の巻き状態は一層良好となる。滑剤の塗布量が3.0mg/m以下であると、滑りすぎることによる製造時のローラやアキュームレータ80からの脱線を生じにくい。このうち、第1滑剤塗布工程での滑剤の塗布量は、例えば0.3~1.5mg/mとしうる。なお、滑剤の塗布量とは、光ファイバテープ心線1の表面に塗布した、滑剤中の不揮発成分(または有効成分)の量を意味する。
【0030】
次いで、蓄線工程(ステップS3)では、巻取部100でのボビンの取り換え時に、滑剤が塗布された光ファイバテープ心線1を滞留させ、蓄線する。蓄線工程では、光ファイバテープ心線1が連続で複数のローラを通るため、捻じれたり力が加わったりしやすく、間欠形状が破壊されやすい。本実施形態では、光ファイバテープ心線1に滑剤が塗布されているため、光ファイバテープ心線1の表面の摩擦が低減されており、適度な滑り性を有する。それにより間欠形状の破壊を抑制できる。
【0031】
次いで、第2滑剤塗布工程(ステップS4)では、アキュームレータ80を経た光ファイバテープ心線1に、第2滑剤塗布部90により滑剤を塗布する。
第2滑剤塗布工程での滑剤の種類や塗布量は、第1滑剤塗布工程での滑剤の種類や塗布量と同じであってもよいし、異なってもよい。本実施形態では、第2滑剤塗布工程での滑剤の種類は、第1滑剤塗布工程での滑剤の種類と同じである。第2滑剤塗布工程での滑剤の塗布量は、巻取体の巻き状態の低下を一層抑制する観点では、例えば0.3~1.5mg/mとしうる。
【0032】
その後、巻取工程(ステップS5)では、ガイドローラR4で搬送され、滑剤が塗布された光ファイバテープ心線1を、巻取部100でボビンに巻き取る。それにより、光ファイバテープ心線巻取体が得られる。
光ファイバテープ心線巻取体の巻き長は、特に制限されないが、例えば1000~12000mとしうる。
【0033】
以上の実施形態によれば、光ファイバテープ心線製造工程(ステップS1)と、光ファイバテープに滑剤を塗布する工程(ステップS2、S4)と、滑剤が塗布された光ファイバテープ心線を巻き取る工程(ステップS5)とを含む。それにより、光ファイバテープ心線1の表面の摩擦は低減されており、良好な滑り性を有するため、巻き乱れを生じにくく、光ファイバテープ心線1の乗り上げや間欠形状の開き、交差などの巻き状態の悪化を抑制できる。それにより、巻き状態の悪化に起因する光ファイバテープ心線の伝送損失の増大を抑制できる。
【0034】
特に本実施形態では、光ファイバテープ心線1は、第1滑剤塗布工程(ステップS2)により、光ファイバテープ心線1が適度な滑り性を有するため、ローラが多いアキュームレータ80を通る時の間欠形状の破壊を抑制できる。さらに、第2滑剤塗布工程(ステップS4)により、巻き取り直前に光ファイバテープ心線1の滑り性がさらに高められるため、巻き取りが安定しやすい。したがって、光ファイバテープ心線1を均一にボビンに巻き取りやすくなるため、巻き状態の悪化を一層抑制できる。
【0035】
[スロットレス型光ケーブル]
図6は、光ファイバテープ心線1を使用したスロットレス型光ケーブル120の概略構成を示す断面図である。
スロットレス型光ケーブル120では、複数枚の光ファイバテープ心線1が束ねられ撚り合されており、これが押巻き122で固定されている。たとえば、12心の光ファイバテープ心線1が12枚ずつ束ねられて、これが6本撚り合され、当該撚体が押巻き122で固定される。
押巻き122は好ましくは吸水性の不織布が使用され、具体的には不織布上に吸水性ポリマーが張り合わされたものが使用される。
押巻き122にはポリエチレン樹脂などが押し出され、押巻き122は外被124で被覆されている。外被124には上下にテンションメンバ126が1本ずつ設置され、その左右には外被124を引き裂くためのリップコード128も1本ずつ設置されている。
【0036】
以上のスロットレス型光ケーブル120によれば、テンションメンバ126が
図6中の上下に設置されているため、左右方向の可とう性が担保され、ダクト内に敷設する際の作業性を向上させることができる。リップコード128も
図6中の左右対称(180度対角)の位置に設置されているため、外被124を2等分に剥離しやすく、ケーブル端末を処理する際や中間分岐させる際の作業性を向上させることができる。
【0037】
[変形例]
なお、上記実施形態では、並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバ2をテープ樹脂層4で一括被覆した後、間欠的に切り込みを入れて、複数本の単心被覆光ファイバが間欠的に連結された光ファイバテープ心線1を製造しているが、これに限定されない。例えば、並列に配置された複数本の単心被覆光ファイバ2に間欠的に連結樹脂を塗布して、複数本の単心被覆光ファイバが間欠的に連結された光ファイバテープ心線を製造してもよい。その場合、光ファイバテープ心線巻取体の製造装置10は、分離ダイス40を有さなくてもよい。
【0038】
また、上記実施形態では、光ファイバテープ心線巻取体の製造方法において、滑剤塗布工程(ステップS2、S4)を、光ファイバテープ心線1の進行方向Aの複数の位置でそれぞれ行っているが、これに限らず、光ファイバテープ心線1の進行方向の1つの位置のみで行ってもよい。例えば、第1滑剤塗布工程(ステップS2)と第2滑剤塗布工程(ステップS4)のどちらか一方のみを行ってもよい。
また、上記実施形態では、蓄線工程(ステップS3)の前と後で、滑剤塗布工程(ステップS2、S4)をそれぞれ行っているが、これに限定されない。例えば、蓄線工程(ステップS3)の後の、光ファイバテープ心線1の進行方向Aの複数の位置で滑剤塗布工程をそれぞれ行ってもよい。また、滑剤塗布工程は、当該進行方向Aの2つの位置に限らず、3つ以上の異なる位置でそれぞれ行ってもよい。
【0039】
また、上記実施形態では、光ファイバテープ心線製造工程(ステップS1)において、分離ダイス40で切り込みを入れることで、分離部8と連結部6とを形成しているが、これに限らず、レーザー照射などでテープ樹脂層4の一部を間欠的に除去することにより、分離部8と連結部6とを形成してもよい。
【実施例0040】
(1)サンプルの作製
(1.1)光ファイバテープ心線巻取体サンプル1
はじめに、外径125μmの石英ガラス系SM光ファイバ上に、23℃におけるヤング率が約5MPaのウレタンアクリレート系光硬化型樹脂からなる1次被覆、および23℃におけるヤング率が約700MPaのウレタンアクリレート系光硬化型樹脂からなる2次被覆を施した外径250μmの単心被覆光ファイバを準備した。
次いで、
図3および
図4と同様の製造装置を使用し、単心被覆光ファイバを並列に12本(12心)整列させながら、ウレタンアクリレート系光硬化型樹脂(25℃での硬化前粘度が5.2±0.5Pa・sで、硬化後のヤング率が550MPaである。)を塗布した。
次いで、塗布したテープ層に光を照射して光硬化型樹脂を硬化させた後、得られた光ファイバテープ心線をベルトに回収した。
次いで、ベルト(引取機)から引き出した光ファイバテープ心線の表面に、滴下装置により滑剤(シリコーンとアルコール溶媒との混合物、濃度0.2質量%)を0.6mg/m塗布した。
次いで、滑剤を搬送しながら乾燥させた後、アキュームレータで蓄線した。
その後、アキュームレータを経た光ファイバテープ心線を、12,000mの光ファイバテープ心線サンプルを巻き張力300gfでボビンに巻き取り、巻取体を得た。
なお、作製した光ファイバテープ心線の連結部6の断面の厚さcは0.18mm、樹脂被覆部を含めた光ファイバ外径dは0.28mm、連結部6の長手方向の長さAは40mm、分離部8の長手方向の長さBは100mm、連結部6の長手方向における周期間隔Pは140mmとした。
【0041】
(1.2)光ファイバテープ心線巻取体サンプル2
アキュームレータで蓄線した光ファイバテープ心線を巻き出した後、ボビンに巻き取る前に、滴下装置により上記滑剤を0.6mg/mさらに塗布した以外は光ファイバテープ心線巻取体サンプル1と同様にして光ファイバテープ心線巻取体サンプル2を得た。
【0042】
(1.3)光ファイバテープ心線巻取体サンプル3
滑剤を塗布しなかった以外は光ファイバテープ心線巻取体サンプル1と同様にして光ファイバテープ心線巻取体サンプル3を得た。
【0043】
(2)サンプルの評価
(2.1)伝送損失段差発生率の測定
12,000mの光ファイバテープ心線を巻き張力300gfでボビンに巻いた状態で、一端部をボビンから繰り出し励振機を介してOTDR装置(Optical Time Domain Reflectmeter、横河電機製AQ7280)に接続し、光ファイバ内に入射した光がレーリー散乱等によって戻ってくる現象を利用して光損失を測定した(測定波長は1,550nmとした)。
それにより、
図7に示すような、縦軸が光レベル(dB)、横軸が距離(m)のグラフを得た。得られたグラフにおいて、光レベルが0.05dB以上急激に低下する段差(伝送損失段差)が1箇所でも発生した場合、「段差あり」と判断した。「急激に低下」とは、1cm程度の区間で0.05dB以上の低下が認められたという意味である。
上記測定を10枚の光ファイバテープ心線1について行い、下記式に基づいて伝送損失段差発生率(%)を求めた。測定結果を表1に示す。
伝送損失段差発生率(%)=(段差が発生した光ファイバテープ心線1の枚数/10枚)×100
なお、上記式の伝送損失段差発生率(%)の「段差が発生した光ファイバテープ心線1の枚数」には、12心の単心被覆光ファイバのうち1心でも段差が発生すれば当該枚数にカウントしている。
【0044】
(2.2)伝送損失の測定
上記測定により、光損失を測定した(測定波長は1,550nmとした)。
測定結果を表1に示す。表1中、「◎」は測定値が0.25dB/km以内を示し、「○」は測定値が0.25dB/km超で0.28dB/km以内を示し、「×」は測定値が0.28dB/km超を示す。
【0045】
【0046】
(3)まとめ
表1に示すとおり、サンプル3では、ボビンの鍔部付近で巻きが盛り上がった。また、盛り上がった部分に乗り上げた光ファイバテープ心線の間欠形状が開いたり、交差したりし、巻き状態が悪かった。それにより、伝送損失段差発生率が高く、伝送損失も大きかった。
これに対し、サンプル1や2は、上記のような巻き状態の悪化はみられず、巻き状態は良好であった。それにより、サンプル3よりも伝送損失段差発生率および伝送損失も低減された。これは、滑剤を塗布したことで、光ファイバテープ心線の表面の摩擦が小さくなり、巻き状態に偏りが少なくなったこと、光ファイバテープ心線の乗り上げや交差が低減されたことなどによると考えられる。
特にサンプル2は、伝送損失段差発生率および伝送損失もさらに低減されることがわかる。これは、滑剤を塗布する工程を、巻取体の製造ライン上の複数の位置でそれぞれ行うことで、間欠形状の破壊を抑制しつつ、巻き取り直前で光ファイバテープ心線1の表面の摩擦がさらに低減され、巻き状態がさらに良好になるためと考えられる。