(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144934
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】コアシェル粒子、および、コアシェル粒子分散組成物
(51)【国際特許分類】
C09C 1/40 20060101AFI20241004BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20241004BHJP
C09D 17/00 20060101ALI20241004BHJP
C09C 1/22 20060101ALI20241004BHJP
C09C 1/04 20060101ALI20241004BHJP
C09C 1/28 20060101ALI20241004BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20241004BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241004BHJP
【FI】
C09C1/40
C09C3/06
C09D17/00
C09C1/22
C09C1/04
C09C1/28
C09D4/00
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057119
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】軽部 允也
(72)【発明者】
【氏名】漆原 誠
(72)【発明者】
【氏名】山口 健志
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA15
4J037AA18
4J037AA25
4J037CA03
4J037EE03
4J037FF05
4J037FF15
4J038FA111
4J038HA216
4J038HA446
4J038KA08
4J038KA15
4J038NA19
4J038PA17
4J038PB08
(57)【要約】
【課題】紫外光の透過性と可視光域における光吸収性に優れ、高精細な黒色パターンを形成する黒色顔料として特に適したコアシェル粒子を提供する。
【解決手段】絶縁体で構成され、平均粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされたコア粒子11と、このコア粒子11の外周面に形成され、厚さが6nm以下の金属膜12と、を備え、コア粒子11を構成する絶縁体は、複素誘電率の実部が、波長300nm以上900nm以下の領域で1以上7以下の範囲内とされており、金属膜12を構成する金属は、複素誘電率の実部が、波長150nmにおいて-2以上、かつ、波長250nmにおいて-4以下で、かつ複素誘電率の虚部が、波長365nmにおいて3以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁体で構成され、平均粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされたコア粒子と、このコア粒子の外周面に形成され、厚さが6nm以下の金属膜と、を備え、
前記コア粒子を構成する前記絶縁体は、複素誘電率の実部が、波長300nm以上900nm以下の領域で1以上7以下の範囲内とされており、
前記金属膜を構成する金属は、複素誘電率の実部が、波長150nmにおいて-2以上、かつ、波長250nmにおいて-4以下で、かつ複素誘電率の虚部が、波長365nmにおいて3以下であることを特徴とするコアシェル粒子。
【請求項2】
前記金属膜の外周面に、厚さ14nm以下の絶縁体被膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のコアシェル粒子。
【請求項3】
前記コア粒子は、2種類以上の絶縁材の複合体とされていることを特徴とする請求項1に記載のコアシェル粒子。
【請求項4】
前記コア粒子を構成する前記絶縁体は、Al2O3,Fe3O4,GeO2,Sc2O3,SiO2,ZnOから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のコアシェル粒子。
【請求項5】
前記金属膜を構成する金属は、Mg,Pbのいずれか1種または2種であることを特徴とする請求項1に記載のコアシェル粒子。
【請求項6】
溶媒中に、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のコアシェル粒子が分散されていることを特徴とするコアシェル粒子分散組成物。
【請求項7】
前記溶媒が紫外線硬化樹脂を含み、前記金属膜を構成する金属の複素誘電率の実部が、波長150nm以上250nm以下の範囲のいずれかで、前記溶媒の複素誘電率の実部の-2倍となることを特徴とする請求項6に記載のコアシェル粒子分散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色顔料として特に適したコアシェル粒子、および、コアシェル粒子分散組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁性黒色顔料は、例えば、ディスプレイ用のカラーフィルターのブラックマトリックスやCMOSカメラモジュール内の遮光材を構成する黒色パターンの材料として利用されている。
黒色パターンを形成する方法としては、紫外線硬化樹脂と絶縁性黒色顔料とを含む黒色感光性組成物を用いたフォトリソグラフィー法が知られている。
【0003】
フォトリソグラフィー法では、黒色感光性組成物を基板に塗布してフォトレジスト膜を成膜する。次いで、このフォトレジスト膜に紫外光をパターン状に露光することにより、露光されて硬化した硬化部分と露光されていない未硬化部分とからなるパターンを作成する。そして、未硬化部分を除去して黒色パターンを形成する。このフォトリソグラフィー法により黒色パターンを形成する際に用いる絶縁性黒色顔料は、フォトレジスト膜を硬化させる紫外光を透過すること、すなわち紫外光透過性を有することが必要となる。
【0004】
そこで、紫外光透過性を有する絶縁性黒色顔料として、窒化ジルコニウム粉末が知られている。
特許文献1においては、窒化ジルコニウム粉末の紫外光透過性を向上させるために、窒化ジルコニウムに、マグネシウム及び/又はアルミニウムを添加することが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年のディスプレイの高解像度化やCMOSカメラモジュールの小型化に伴って、黒色パターンの高精細化が要求されている。高精細な黒色パターンを、フォトリソグラフィー法を用いて形成するためには、黒色顔料の紫外光透過性を向上させること、特に、紫外光露光装置で一般的に利用されている波長365nmの紫外光(i線)の透過性を向上させることが有効である。
しかしながら、黒色顔料の紫外光の透過性を向上させると、可視光域における光吸収性が低下してしまい、形成した黒色パターンにおいて可視光を十分に遮蔽することができなくなるおそれがある。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、紫外光の透過性と可視光域における光吸収性に優れ、高精細な黒色パターンを形成する黒色顔料として特に適したコアシェル粒子、および、このコアシェル粒子を用いたコアシェル粒子分散組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、絶縁体からなるコア粒子の外周面に金属膜を形成したコアシェル粒子において、コア粒子を構成する絶縁体および金属膜を構成する金属の特性及びサイズを規定することにより、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性が向上するとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の態様1のコアシェル粒子は、絶縁体で構成され、平均粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされたコア粒子と、このコア粒子の外周面に形成され、厚さが6nm以下の金属膜と、を備え、前記コア粒子を構成する前記絶縁体は、複素誘電率の実部が、波長300nm以上900nm以下の領域で1以上7以下の範囲内とされており、前記金属膜を構成する金属は、複素誘電率の実部が、波長150nmにおいて-2以上、かつ、波長250nmにおいて-4以下で、かつ複素誘電率の虚部が、波長365nmにおいて3以下であることを特徴としている。
【0010】
本発明の態様1のコアシェル粒子によれば、絶縁体で構成され、平均粒径が10nm以上100nm以下の範囲内とされたコア粒子と、このコア粒子の外周面に形成され、厚さが6nm以下の金属膜と、を備えた構造のコアシェル粒子において、コア粒子の平均粒径および波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率、並びに、金属膜の厚さおよび波長150nm、250nmにおける複素誘電率の実部と波長365nmにおける複素誘電率の虚部が、上述のように規定されているので、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れている。よって、本発明の態様1のコアシェル粒子を黒色顔料として用いることにより、高精細な黒色パターンを構成することが可能となる。
【0011】
本発明の態様2は、態様1のコアシェル粒子において、前記金属膜の外周面に、厚さ14nm以下の絶縁体被膜が形成されていることを特徴としている。
本発明の態様2のコアシェル粒子によれば、金属膜の外周面に絶縁体被膜が形成されているので、金属膜の酸化等を抑制することができる。また、絶縁体被膜の厚さが4nm以下に制限されているので、可視光域における光吸収性を十分に維持することができる。
【0012】
本発明の態様3は、態様1または態様2のコアシェル粒子において、前記コア粒子は、2種類以上の絶縁材料の複合体とされていることを特徴としている。
本発明の態様3のコアシェル粒子によれば、コア粒子が2種類以上の絶縁材料の構成されている場合であったても、コア粒子の平均粒径が10nm以上100nm以下の範囲内および波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率の実部が1以上7以下の範囲内であれば、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れ、黒色顔料として特に適したコアシェル粒子を提供することができる。
【0013】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれかひとつのコアシェル粒子において、前記コア粒子を構成する前記絶縁体は、Al2O3,Fe3O4,GeO2,Sc2O3,SiO2,ZnOから選択される1種または2種以上であることを特徴としている。
本発明の態様4のコアシェル粒子によれば、コア粒子を構成する絶縁体が上述の絶縁材料とされているので、コア粒子の波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率の実部を1以上7以下の範囲内とすることが可能となり、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れ、黒色顔料として特に適したコアシェル粒子を提供することができる。
【0014】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれかひとつのコアシェル粒子において、前記金属膜を構成する金属は、Mg,Pbのいずれか1種または2種であることを特徴としている。
本発明の態様5のコアシェル粒子によれば、前記金属膜を構成する金属は、Mg,Pbのいずれか1種または2種とされているので、金属膜の波長150nmにおける複素誘電率の実部を-2以上、かつ、波長250nmにおける複素誘電率の実部を-4以下とすることが可能となり、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れ、黒色顔料として特に適したコアシェル粒子を提供することができる。
【0015】
本発明の態様6のコアシェル粒子分散組成物は、溶媒中に、態様1から態様5のいずれかひとつのコアシェル粒子が分散されていることを特徴としている。
本発明の態様6のコアシェル粒子分散組成物によれば、溶媒中に態様1から態様5のいずれかひとつのコアシェル粒子が分散されているので、このコアシェル粒子分散組成物によって、高精密な黒色パターンを形成することができる。
【0016】
本発明の態様7は、態様6のコアシェル粒子分散組成物において、前記溶媒が紫外線硬化樹脂を含み、前記金属膜を構成する金属の複素誘電率の実部が、波長150nm以上250nm以下の範囲のいずれかで、前記溶媒の複素誘電率の実部の-2倍となることを特徴としている。
本発明の態様7のコアシェル粒子分散組成物によれば、前記金属膜を構成する金属の複素誘電率の実部が、波長150nm以上250nm以下の範囲のいずれかで、前記溶媒の複素誘電率の実部の-2倍とされているので、紫外光に透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れており、紫外光によって溶媒を硬化することができ、高精密な黒色パターンを形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、紫外光の透過性と可視光における光吸収性に優れ、高精細な黒色パターンを形成する黒色顔料として特に適したコアシェル粒子、および、このコアシェル粒子を用いたコアシェル粒子分散組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態であるコアシェル粒子の概略説明図である。
【
図3】本発明の他の実施形態であるコアシェル粒子の概略断面説明図である。
【
図4】実施例におけるコアシェル粒子の透過スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。なお、以下に示す各実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0020】
本実施形態であるコアシェル粒子10は、例えば、ディスプレイやCMOSカメラモジュール等において、高精細な黒色パターンを形成する際に用いられる黒色顔料として使用されるものであり、紫外光の透過率が高く、かつ、可視光域における光吸収率が高いことが求められている。
【0021】
本実施形態であるコアシェル粒子10は、
図1に示すように、絶縁体からなるコア粒子11と、このコア粒子11の表面に形成された金属膜12と、を有しており、いわゆるコアシェル構造とされている。
【0022】
ここで、コア粒子11の平均粒径dが10nm以上100nm以下の範囲内とされている。
コア粒子11の平均粒径dが100nmを超えると、ブロードな光透過スペクトルとなり、可視光域における光吸収率が不十分となるおそれがある。一方、コア粒子11の平均粒径dが10nm未満の場合、作製や取り扱いが非常に困難となるおそれがある。
なお、コア粒子11の平均粒径dの下限は、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。また、コア粒子11の平均粒径dの上限は、80nm以下であることが好ましく、60nm以下であることがより好ましい。
【0023】
また、金属膜11の平均厚さtは6nm以下とされている。金属膜11は、コア粒子11の外周面全面を覆うように形成されていることが好ましい。
金属膜11の平均厚さtが6nmを超えると、光吸収のピーク位置が可視光域の中心がずれてしまい、長波長側の可視光が透過してしまうおそれがある。なお、金属膜11の平均厚さtの下限に特に制限はないが、製造上の観点から実質1nm以上となる。
なお、金属膜12の平均厚さtの上限は、5nm以下であることが好ましく、4nm以下であることがより好ましい。なお、金属膜12の平均厚さtの下限は、1.5nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。
【0024】
さらに、本実施形態であるコアシェル粒子10においては、コア粒子11の平均粒径dと金属膜12の平均膜厚tとの比t/dが0.03以上0.12以下の範囲内であることが好ましい。
コア粒子11の平均粒径dと金属膜12の平均膜厚tとの比t/dが0.03以上0.12以下の範囲内であるときに、光吸収のピーク位置が可視光域の中心に位置する傾向があり、可視光域における光吸収性が特に良好となる。
なお、コア粒子11の平均粒径dと金属膜12の平均膜厚tとの比t/dは、0.04以上であることがより好ましく、0.05以上であることがさらに好ましい。また、コア粒子11の平均粒径dと金属膜12の平均膜厚tとの比t/dは、0.10以下であることがより好ましく、0.08以下であることがさらに好ましい。
【0025】
そして、本実施形態であるコアシェル粒子10においては、コア粒子11を構成する絶縁体、波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率の実部が1以上7以下の範囲内とされている。
波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率の実部が1以上7以下の範囲内とすることにより、光吸収のピーク位置が可視光域の中心に位置し、可視光域における光吸収性が良好となる。
なお、コア粒子11を構成する絶縁体の波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率の実部は、6.5以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
【0026】
また、本実施形態であるコアシェル粒子10においては、金属膜12を構成する金属は、複素誘電率の実部が、波長150nmにおいて-2以上、かつ、波長250nmにおいて-4以下とされている。
金属膜12を構成する金属の波長150nmにおける複素誘電率の実部を-2以上、波長250nmにおける複素誘電率の実部を-4以下とすることにより、紫外光の透過性と可視光域における光吸収性が良好となる。
なお、金属膜12を構成する金属の波長150nmにおける複素誘電率の実部は-1.8以上であることが好ましく、-1.6以上であることがより好ましい。一方、金属膜12を構成する金属の波長250nmにおける複素誘電率の実部は-4.2以下であることが好ましく、-4.4以下であることがより好ましい。
【0027】
また、本実施形態であるコアシェル粒子10においては、金属膜12を構成する金属は、複素誘電率の虚部が、波長365nmにおいて3以下とされている。
金属膜12を構成する金属の波長365nmにおける複素誘電率の虚部を3以下とすることにより、紫外光の透過性が良好となる。
なお、金属膜12を構成する金属の波長365nmにおける複素誘電率の虚部は2.5以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0028】
ここで、本実施形態において、コア粒子11は、2種類以上の絶縁材の複合体とされていてもよい。すなわち、コア粒子11自体が、異なる複数の絶縁材によってコアシェル構造とされていてもよい。
また、本実施形態では、コア粒子11を構成する絶縁体は、Al
2O
3,Fe
3O
4,GeO
2,Sc
2O
3,SiO
2,ZnOから選択される1種または2種以上であることが好ましい。これらの絶縁材の誘電率を
図2に示す。これらの絶縁材は、波長300nm以上900nm以下の領域で複素誘電率の実部が1以上7以下の範囲内とされていることが確認される。
【0029】
また、本実施形態において、金属膜12を構成する金属は、Mg,Pbのいずれか1種または2種であることが好ましい。
なお、Mgの波長150nmにおける複素誘電率の実部は-0.94であり、波長250nmにおける複素誘電率の実部は-4.07であり、波長365nmにおける複素誘電率の虚部は1.01である。
また、Pbの波長150nmにおける複素誘電率の実部は-0.48であり、波長250nmにおける複素誘電率の実部は-4.22であり、波長365nmにおける複素誘電率の虚部は1.89である。
【0030】
上述した本実施形態であるコアシェル粒子10は、コア粒子11を準備し、このコア粒子11の外周面に金属膜12を成膜することにより製造される。
成膜方法としては、例えば、アークプラズマ法において、粉末担持モデルの成膜装置を用いた方法が挙げられる。コア粒子11を攪拌容器内に収容し、金属膜12を構成する金属組成のターゲットを配置し、パルス放電することにより、金属膜12をスパッタ成膜することが可能となる。
【0031】
本実施形態であるコアシェル粒子分散組成物は、溶媒中に、本実施形態であるコアシェル粒子10が分散されたものである。
ここで、本実施形態であるコアシェル粒子分散組成物においては、溶媒として、紫外線硬化樹脂を含むものを用いることが好ましい。そして、波長150nm以上250nm以下の範囲のいずれかで、金属膜12を構成する金属の複素誘電率の実部が、溶媒の複素誘電率の実部の-2倍となる溶媒を用いることが好ましい。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態であるコアシェル粒子10によれば、絶縁体で構成され、平均粒径dが10nm以上100nm以下の範囲内とされたコア粒子11と、このコア粒子11の外周面に形成され、平均厚さtが6nm以下の金属膜12と、を備えており、コア粒子11を構成する絶縁体の複素誘電率の実部が波長300nm以上900nm以下の領域で1以上7以下の範囲内とされ、金属膜12を構成する金属の波長150nmにおける複素誘電率の実部が-2以上、かつ、波長250nmにおける複素誘電率の実部が-4以下で、波長365nmにおける複素誘電率の虚部が3以下とされているので、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れている。よって、高精細な黒色パターンを構成する黒色顔料として特に適している。
【0033】
本実施形態であるコアシェル粒子10において、コア粒子11が2種類以上の絶縁材料の複合体とされている場合であっても、コア粒子11の平均粒径が10nm以上100nm以下の範囲内および波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率の実部が1以上7以下の範囲内であれば、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れ、黒色顔料として特に適し適したコアシェル粒子を提供することができる。
【0034】
本実施形態であるコアシェル粒子10において、コア粒子11を構成する絶縁体が、Al2O3,Fe3O4,GeO2,Sc2O3,SiO2,ZnOから選択される1種または2種以上である場合には、コア粒子11の波長300nm以上900nm以下の領域における複素誘電率の実部が1以上7以下の範囲内となり、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れ、黒色顔料として特に適し適したコアシェル粒子を提供することができる。
【0035】
本実施形態であるコアシェル粒子10において、金属膜12を構成する金属がMg,Pbのいずれか1種または2種である場合には、金属膜11の波長150nmにおける複素誘電率の実部が-2以上、かつ、波長250nmにおける複素誘電率の実部が-4以下となり、また波長365nmにおける複素誘電率の虚部が3以下となり、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れており、黒色顔料として特に適したコアシェル粒子を提供することができる。
【0036】
本実施形態であるコアシェル粒子分散組成物においては、溶媒中に、本実施形態であるコアシェル粒子10が分散されている構成とされているので、このコアシェル粒子分散組成物によって、高精密な黒色パターンを形成することができる。
【0037】
ここで、本実施形態であるコアシェル粒子分散組成物において、溶媒が紫外線硬化樹脂を含み、金属膜12を構成する金属の複素誘電率の実部が、波長150nm以上250nm以下の範囲のいずれかで、溶媒の複素誘電率の実部の-2倍とされている場合には、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れており、紫外光によって溶媒を硬化することができ、高精密な黒色パターンを形成することができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、
図3に示すように、金属膜12の外周面に絶縁体被膜13(厚さt2:14nm以下)が形成されたコアシェル粒子110であってもよい。
このコアシェル粒子110によれば、金属膜12の外周面に絶縁体被膜13が形成されているので、金属膜12の酸化等を抑制することができる。また、絶縁体被膜13の厚さt2が14nm以下に制限されているので、可視光域における光吸収性を十分に維持することができる。
【実施例0039】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
【0040】
表1に示す構造のコアシェル粒子(従来例においては窒化ジルコニウム粉末)について、コア粒子、金属膜、絶縁体被膜の構造(材質、サイズ等)、および、このコアシェル粒子が分散される溶媒の複素誘電率から、Mie散乱理論により光透過スペクトルを得た。なお、溶媒としてPMMA(アクリル樹脂)を用いた。また、コアシェル粒子(従来例においては窒化ジルコニウム粉末)の含有量を5vol%とした。得られた光透過スペクトルを
図4に示す。
【0041】
得られた透過スペクトルから、下式により性能指数(FOM)を定義し、FOMが低いほど性能が良いものと定める。ここで、wは波長範囲の重みづけのための係数で、Sは透過スペクトルをある波長範囲において積分した値である。コアシェル粒子の構造および評価結果を表1に示す。
FOM=-1*[(1-w)*S(355~375nm)-w*S(400~830nm)] (w=0.044 )
【0042】
【0043】
従来例においては、窒化ジルコニウム粉末とされており、性能指数(FOM)が-2.16となった。また、光透過スペクトルを確認すると、光吸収のピーク位置が可視光域の中心がずれており、紫外光の透過率が低くなった。
比較例1においては、Sc2O3で構成されたコア粒子の平均粒径が120nmとされており、性能指数(FOM)が-7.01となった。また、光透過スペクトルを確認すると、光吸収のピーク位置が可視光域の中心がずれていた。
比較例2においては、Mgで構成された金属膜の平均厚さが7nmとされるとともに、TiO2からなる絶縁体被膜の厚さが20nmとされており、性能指数(FOM)が-4.40となった。また、光透過スペクトルを確認すると、光吸収のピーク位置が可視光域の中心がずれていた。
【0044】
本発明例1においては、Sc2O3で構成されたコア粒子の平均粒径が84nmとされ、Mgで構成された金属膜の厚さが6nmとされており、性能指数(FOM)が-11.69となった。
本発明例2においては、コア粒子が平均粒径52nmのFe3O4粒子の表面に厚さ25nmのZnO膜を形成した複合粒子とされ、Mgで構成された金属膜の厚さが5nmとされており、性能指数(FOM)が-11.30となった。
【0045】
本発明例3においては、コア粒子が平均粒径50nmのAl2O3粒子の表面に厚さ25nmのGeO2膜を形成した複合粒子とされ、Pbで構成された金属膜の厚さが5nmとされており、性能指数(FOM)が-11.08となった。
本発明例4においては、SiO2で構成されたコア粒子の平均粒径が74nmとされ、Mgで構成された金属膜の平均厚さが7nmとされるとともに、TiO2からなる絶縁体被膜の厚さが4nmとされており、性能指数(FOM)が-11.71となった。
【0046】
以上の確認実験の結果から、本発明例によれば、性能指数(FOM)が従来例、比較例1-3に比べて十分に低く、紫外光の透過性に優れ、かつ、可視光域における光吸収性に優れていることが確認された。