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特開2024-14495包装部材、食肉包装体および食肉包装体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014495
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】包装部材、食肉包装体および食肉包装体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 85/50 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B65D85/50 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117368
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000154129
【氏名又は名称】株式会社不二製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高村 渓太
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 香代子
(72)【発明者】
【氏名】山崎 昌博
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亜希
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 恵一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英治
(72)【発明者】
【氏名】藤平 耕一
(72)【発明者】
【氏名】内海 裕介
【テーマコード(参考)】
3E035
【Fターム(参考)】
3E035AA04
3E035BA01
3E035BA04
3E035BA08
3E035BC02
3E035BC03
3E035BD10
3E035DA01
(57)【要約】
【課題】食肉を保管している間の多種多様な細菌の増殖をより効果的に抑制できる包装部材、および当該包装部材をもちいた食肉包装体を提供すること。
【解決手段】本発明は、食肉と接する表面に、抗菌性を有する凹凸構造が形成されている、食肉を包装するときに前記食肉と接触して配置される包装部材に関する。また、本発明は、食肉と、前記食肉と接触して配置され、前記食肉と接する表面に、抗菌性を有する凹凸構造が形成されている包装部材と、を有する食肉包装体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食肉を包装するときに前記食肉と接触して配置される包装部材であって、
前記食肉と接する表面に、抗菌性を有する凹凸構造が形成されている、
包装部材。
【請求項2】
面積収縮率が70%以上90%以下のフィルムである、請求項1に記載の包装部材。
【請求項3】
食肉と、前記食肉と接触して配置された包装部材と、を有する食肉包装体であって、
前記包装部材は、前記食肉と接する表面に、抗菌性を有する凹凸構造が形成されている、
食肉包装体。
【請求項4】
前記包装部材は、面積収縮率が70%以上90%以下のフィルムである、請求項3に記載の食肉包装体。
【請求項5】
抗菌性を有する凹凸構造が表面に形成された包装部材の、前記凹凸構造に食肉を接触させる工程と、
前記包装部材に接触している食肉を包装する工程と、
を有する、食肉包装体の製造方法。
【請求項6】
前記包装部材は、面積収縮率が70%以上90%以下のフィルムである、請求項5に記載の食肉包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、包装部材、食肉包装体および食肉包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食肉は、鮮度保持のためのフィルムやシートに包装されて保管される。このフィルムとして、ブロック状生肉を長期間冷凍保存したときの雑菌の増殖を防止するため、最内面のヒートシール層に抗菌剤を含有させたフィルムが特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4-148640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保管中の細菌の増殖を抑制することは、食肉のシェルフライフ延長に有用である。この意味で、特許文献1に記載のように、食肉を包装するためのフィルムに抗菌剤を含有させることは、食肉のシェルフライフを延長させると期待される。しかし、抗菌剤は、特定の細菌種にしか抗菌作用を有さないため、多種多様な細菌の増殖を十分に抑制しきれるわけではない。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、食肉を保管している間の多種多様な細菌の増殖をより効果的に抑制できる包装部材、ならびに当該包装部材を用いた食肉包装体およびその製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための本発明の一形態は、下記[1]~[2]の包装部材に関する。
[1]食肉を包装するときに前記食肉と接触して配置される包装部材であって、
前記食肉と接する表面に、抗菌性を有する凹凸構造が形成されている、
包装部材。
[2]面積収縮率が70%以上90%以下のフィルムである、[1]に記載の包装部材。
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の別の形態は、下記[3]~[4]の食肉包装体に関する。
[3]食肉と、前記食肉と接触して配置された包装部材と、を有する食肉包装体であって、
前記包装部材は、前記食肉と接する表面に、抗菌性を有する凹凸構造が形成されている、
食肉包装体。
[4]前記包装部材は、面積収縮率が70%以上90%以下のフィルムである、[3]に記載の食肉包装体。
【0008】
上記の課題を解決するための本発明の別の形態は、下記[5]~[6]の食肉包装体の製造方法に関する。
[5]抗菌性を有する凹凸構造が表面に形成された包装部材の、前記凹凸構造に食肉を接触させる工程と、
前記包装部材に接触している食肉を包装する工程と、
を有する、食肉包装体の製造方法。
[6]前記包装部材は、面積収縮率が70%以上90%以下のフィルムである、[5]に記載の食肉包装体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、食肉を保管している間の多種多様な細菌の増殖をより効果的に抑制できる包装部材、ならびに当該包装部材を用いた食肉包装体およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは鋭意検討の結果、食肉を包装する際に、抗菌性を有する凹凸構造が表面に形成された包装部材を使用し、当該包装部材の凹凸構造が形成された表面を食肉に接触させて当該食肉を包装することで、保管時の多種多様な菌の増殖を抑制し得ることを見出した。
【0011】
1.包装部材
上記知見に基づく本発明の一態様は、食肉を包装するための包装部材に関する。当該包装部材は、食肉を包装するときに食肉に接触して配置される。そして、当該包装部材の、食肉と接する表面には、抗菌性を有する凹凸構造が形成されている。
【0012】
上記食肉は、畜産肉でもよいし、狩猟や漁猟等により得られた肉であってもよい。上記食肉の例には、牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉(鶏、七面鳥、鴨などの肉)、魚肉などが含まれる。また、上記食肉は、カット肉、ブロック肉、およびスライスされたりミンチにされたりした、切断された生肉であってもよいし、ハム、ソーセージ等に加工した肉であってもよい。
【0013】
包装部材は、可撓性を有するフィルム状またはシート状の部材であってもよいし、可撓性を有さない板状の部材であってもよい。また、包装部材は、内部に食肉を収容する袋状の部材であってもよいし、食肉を包装する際に当該食肉の全体を包み込む包装材であってもよいし、食肉を包装してなる食肉包装体の内部に当該食肉の一部に接触するように配置される、内包材であってもよい。さらには、包装材は、食肉を内部に収容する容器であってもよいし、当該容器を密閉するための蓋材であってもよい。包装部材が上記袋状の部材であるときは、その内面に、上記抗菌性を有する凹凸構造が形成される。また、包装部材が内包材であるときは、食肉包装体に必要に応じて内包される緩衝材や断熱材などの表面に上記抗菌性を有する凹凸構造を形成して、これを食肉に接触させてもよいし、これらとは別に包装部材を食肉包装体に内包させてもよい。
【0014】
包装部材の材料は特に限定されず、樹脂であってもよく、金属であってもよく、セラミックであってもよく、これらの複合部材であってもよい。
【0015】
通常、食肉は曲線的な表面を有する。この食肉の表面に沿った形状に変形して、食肉の表面の広い範囲に接触しやすいため、包装部材は、可撓性を有するフィルム状またはシート状の部材であることが好ましく、また包装部材の材料は樹脂であることが好ましい。
【0016】
上記フィルム状またはシート状であるときの、包装部材の厚みは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、3μm以上800μm以下であることがより好ましく、5μm以上500μm以下であることがさらに好ましく、10μm以上300μm以下であることが特に好ましい。
【0017】
上記樹脂の例には、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、エチレンービニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、および各種アイオノマーなどが含まれる。上記ポリオレフィンの例には、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、およびポリプロピレンなどが含まれる。上記ポリアミドの例には、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6-66、ナイロンMXD6、およびナイロン6I6Tなどが含まれる。上記ポリエステルの例には、ポリエチレンテレフタレート、およびイソフタル酸などとエチレンテレフタレートなどとの共重合体などが含まれる。また、上記ポリエステルは、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ-ε-カプロラクトンやこれらの共重合体等の生分解性ポリエステルであってもよい。
【0018】
また、包装部材は、食肉と接触する、抗菌性を有する凹凸構造が形成された表面の水に対する接触角が、60°以上140°以下であることが好ましく、70°以上105°以下であることがより好ましく、80°以上100°以下であることがさらに好ましい。接触角が上記範囲であると、食肉への密着性が高まり、また凹凸構造に細菌を捕捉しやすくして抗菌性を高めることができる(細菌の捕捉については後述)。
【0019】
上記抗菌性を有する凹凸構造は、包装部材の表面を加工して、あるいは当該凹凸構造が表面に形成されるように包装部材を成形して、形成された凹凸構造である。上記凹凸構造は、たとえば、ブラスト処理やサンドペーパーおよびグラインダによる研磨処理、大気圧プラズマ処理、レーザーによる加工、成形時に使用する金型の内面への凹凸構造の形成、凹凸構造を有する型の押しつけ、などの方法により形成することができる。
【0020】
これらの形成方法は包装部材の材料や形状などに応じて選択することができる。たとえば、後述するように延伸されたフィルムを包装部材とするときは、延伸してフィルムを作製した後に、各種処理で凹凸構造を表面に形成すればよい。
【0021】
なお、本明細書において、抗菌性を有するとは、細菌を接種し、接種直後および接種から24時間後に、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法と同様の方法で生菌数を測定して求められる、Δlog菌数(未加工コントロール品の24時間後の生菌数の対数値-表面が上記粗領域である評価用サンプルの24時間後の生菌数の対数値)が2.0以上であることを意味する。なお、Δlogは3.0以上であることがさらに好ましく、4.0以上であることが特に好ましい。
【0022】
上記凹凸構造は、その凹部に細菌を捕捉し、細菌の自由な運動および増殖を抑制することにより、十分な抗菌性を発揮すると考えられる。上記凹凸構造は、規則的なパターンを形成していてもよいし、不規則な形状であってもよい。細菌の捕捉性を高める観点から、上記凹凸構造は、多数の窪みを有することが好ましい。
【0023】
また、上記凹凸構造は、フィルム状、シート状および板状などの形状を有する包装部材の、表裏両面に形成されていてもよいが、食肉と接触する一方の表面のみに形成されていることが好ましい。
【0024】
また、細菌の捕捉性をより高める観点から、上記凹凸構造は、算術平均粗さRaが0.03μm以上0.60μm以下であることが好ましい。上記Raが0.03μm以上であると、上記粗領域に、細菌を捕捉するための十分な高さ(深さ)の窪みを形成することができる。一方で、上記Raが0.60μm以下であると、凹凸の高さが高すぎないため、凸部および凹部の両方で(凹凸構造が有する斜辺および底部の両方で)で細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくすることができる。また、上記Raが0.60μm以下であると、使用時に凸部が摩耗しにくくなり、抗菌性効果を維持しやすくなる。また、上記Raが0.60μm以下であると、凹凸構造による食肉の外観(表面)の変形が生じにくい。上記観点から、上記Raは、0.03μm以上0.50μm以下であることが好ましく、0.05μm以上0.30μm以下であることがより好ましく、0.10μm以上0.30μm以下であることがさらに好ましく、0.10μm以上0.25μm以下であることが特に好ましい。
【0025】
また、細菌の捕捉性をより高める観点から、上記凹凸構造は、輪郭曲線要素の平均長さRsmが20μm以上200μm以下であることが好ましい。上記Rsmが20μm以上であると、凸部と凸部との間の凹部の長さが細菌1個の大きさよりも大きく、細菌を窪みにはまり込ませやすくなる。細菌の運動をより確実に抑制する観点からは、Rsmは25μm以上であることが好ましい。一方で、上記Rsmが200μm以下であると、単位長さ(単位面積)中に十分な数の凹部を粗領域が有するため、上記粗領域による十分な抗菌性が奏される。上記観点から、上記Rsmは、25μm以上200μm以下であることがより好ましく、30μm以上180μm以下であることがさらに好ましく、30μm以上150μm以下であることが特に好ましい。
【0026】
また、上記Rsmに対する上記Raの比(Ra/Rsm)は、0.00015以上0.03以下であることが好ましい。上記Ra/Rsmが0.00015以上0.03以下であると、それぞれの窪みの傾斜が適度な傾きになるため、凸部および凹部の両方で(凹凸構造が有する斜辺および底部の両方で)細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくできる。上記観点から、上記Ra/Rsmは0.0009以上0.01以下であることがより好ましく、0.0013以上0.004以下であることがさらに好ましく、0.002以上0.0035以下であることが特に好ましい。
【0027】
なお、本明細書において、算術平均粗さRaおよび輪郭曲線要素の平均長さRsmは、JIS B 0601(2013年)に準拠して定められるパラメータである。具体的には、まず、基材の断面を形状解析レーザー顕微鏡(Vk-X250)にて撮像する。そして、得られた画像を処理して、表面をなぞる開折れ線を特定する。その後、当該開折れ線から、常法により傾きやうねりを除去し、粗さ曲線を得る。その粗さ曲線の任意の位置の10μm分について、絶対値の平均値を算術平均粗さRaとし、輪郭曲線要素の長さの平均値を輪郭曲線要素の平均長さRsmとする。上記RaおよびRsmは、キーエンス社製の形状解析レーザー顕微鏡(Vk-X250)を用いて測定された値とすることができる。
【0028】
また、本明細書において、上記微小突起の高さは、以下の方法で測定された値とすることができる。まず、基材の断面のレーザー顕微鏡の解析結果の開折れ線の非閉鎖部側を突起の底部、底部に対する開折れ線側を突起とする。そして、各突起における開折れ線上の任意の1頂点と底部側における開折れ線上の任意の2頂点を結んで形成される三角形のうち、底部側の2頂点を結ぶ辺(底辺と呼ぶ)からの高さが最も大きな三角形の高さを、各突起の高さとする。
【0029】
なお、食肉包装体の作製時に、加熱により包装部材が収縮するときは、収縮した後の食肉と接触する面に抗菌性を有する凹凸構造が形成されるように、包装部材の凹凸形状を設計することが好ましい。また、食肉に密着して抗菌性が十分に発揮できるように、包装部材の凹凸形状を設計することも好ましい。
【0030】
このような凹凸構造は、多種多様な細菌に対する抗菌性を有する。たとえば、上記粗領域は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、乳酸菌、および緑膿菌などの各種細菌に対する抗菌性を有する。
【0031】
食肉は、中心部は無菌であり、上記細菌が存在するのは主に表面である。そのため、上記凹凸構造により表面に存在する細菌を捕捉し、その自由な運動および増殖を抑制することで、食肉の保管中の細菌の増殖を抑制することが、食肉のシェルフライフ延長に有用であると考えられる。また、上記凹凸構造は抗菌剤のような薬剤によらずとも十分な抗菌性を発揮できるので、溶出した薬剤による食肉の劣化を生じさせにくく、かつ人体への影響を少なくするための抗菌剤の制限による抗菌活性の不足も生じにくい。さらには、薬剤により抗菌性を付与すると、食肉の保管中に薬剤が溶出した後は抗菌性が低下してしまうが、上記凹凸構造は、食肉の保管中に変形しにくく、保管中の抗菌性の低下が生じにくい。上記凹凸構造は、これらの作用により、抗菌剤により抗菌性を付与するよりも効率的に、かつ長期間にわたって抗菌性を発揮し、食肉のシェルフライフを向上させると考えられる。
【0032】
上記包装部材は、80℃の熱水中に10秒浸漬したときの面積収縮率が70%以上90%以下の樹脂製のフィルムとすることができる。上記フィルムは、熱を加えられると収縮するため、食肉を真空包装した後、熱処理により収縮させて食肉に密着させることができる。この密着により、凹凸構造を食肉の表面のうちより広い範囲に接触させることで、上記包装部材による抗菌性をより十分に発揮させることができる。一方で、上記フィルムは、上記面積収縮率が90%以下であるので、熱処理されたときに食肉を過剰に締め付けることがなく、上記締め付けによる食肉の劣化(肉汁(ドリップ)の流出等)を抑制することができる。上記密着による抗菌性の向上と、締め付けによる劣化の抑制とをより十分に両立させる観点から、上記面積収縮率は、70%以上80%以下であることがより好ましい。
【0033】
上記面積収縮率は、80℃の熱水中にフィルムを10秒浸漬したときの、フィルムのMD方向(製造時の流れ方向)への収縮量と、TD方向(MD方向に垂直な方向)への収縮量と、から下記の式により求めることができる。
面積収縮率 = (1-(MD(S)×TD(S))/(MD×TD))×100
MD(S):浸漬後のフィルムのMD方向への長さ
TD(S):浸漬後のフィルムのTD方向への長さ
MD: 浸漬前のフィルムのMD方向への長さ
TD: 浸漬前のフィルムのTD方向への長さ
【0034】
フィルムの面積収縮率は、材料の選択や、製造時のMD方向およびTD方向への延伸倍率などにより上記範囲に調整することができる。
【0035】
このような包装部材は、溶融温度が80℃以上130℃以下であることが好ましく、80℃以上100℃以下であることがより好ましく、80℃以上95℃以下であることがさらに好ましく、85℃以上95℃以下であることが特に好ましい。溶融温度が80℃以上だと、フィルム状への製膜および延伸が容易である。溶融温度が130℃以下だと、加熱により互いに融着させて密閉状態の食肉包装体を作製しやすい。
【0036】
このような包装部材は、単層のフィルムであってもよいし、多層のフィルムであってもよい。多層のフィルムは、たとえば表面層、中間層、ガスバリア層、中間層、およびシール層を有する構造とすることができる。また、これらの層間の接着性を高めるための接着層を有していてもよい。そして、シール層の食肉と接触する表面(表面層等の他の層とは反対側の表面)に上記凹凸構造が形成されている。また、多層のフィルムは、シール層が、上記溶融温度を有することが好ましい。
【0037】
上記包装部材は、公知の方法で食肉包装用のフィルムを製造した後、その一方の面に、上述した各方法で凹凸構造を形成する方法により、得ることができる。
【0038】
なお、上記包装部材は、銀、銅、亜鉛、錫、鉛、ビスマスなどの抗菌性を有する金属粒子、またはイオン化されたこれらの金属がゼオライトなどに担持された金属担持体、ならびに各種アルカリ性物質などの公知の抗菌剤を含んでいてもよいが、これらの抗菌剤を実質的に含まないことが好ましい。なお、実質的に含まないとは、包装部材(包装部材が多層構造であるときは、そのうち食肉に接触する層)の全質量に対する、上記抗菌剤の含有量が1質量%未満であることを意味する。
【0039】
2.食肉包装体
上記知見に基づく本発明の他の態様は、抗菌性を有する凹凸構造が形成された包装部材の、上記抗菌性を有する凹凸構造を有する表面が食肉に接触している、食肉包装体に関する。包装部材は、上記抗菌性を有する凹凸構造が、食肉の少なくとも一部に、他の部材を介さずに直接に接触していればよい。
【0040】
包装部材は、上述した包装部材であればよい、たとえば、包装部材は、食肉を被覆して包装する袋状や筒状や容器状などの部材あるいはその蓋材であってもよいし、食肉包装体の内部に内包された部材であってもよい。また、包装部材は、単層であってもよいし、多層であってその食肉に接触する層の食肉に接触する面に抗菌性を有する凹凸構造が形成されていてもよい。
【0041】
包装部材は、80℃の熱水中に10秒浸漬したときの面積収縮率が70%以上90%以下、好ましくは70%以上80%以下の樹脂製のフィルムとすることができる。
【0042】
3.食肉包装体の製造方法
上記知見に基づく本発明のさらに他の態様は、抗菌性を有する凹凸構造が表面に形成された包装部材の、上記凹凸構造に食肉を接触させる工程(第1工程)と、上記包装部材に接触している食肉を包装する工程(第2工程)と、を有する食肉包装体の製造方法に関する。
【0043】
第1工程では、上述した包装部材の、抗菌性を有する凹凸構造に食肉を接触させる。たとえば、内面に上記凹凸構造が形成された袋状の包装部材の内部に食肉を挿入してもよいし、フィルム状またはシート状の包装部材の上に食肉を載置(あるいは食肉の上にフィルム状またはシート状の包装部材を載置)してもよい。
【0044】
なお、ブラスト処理、サンドペーパーおよびグラインダなどにより上記凹凸構造を形成したときは、これらの処理に使用した砥粒などの粒子を除去するため、本工程における接触の前に、アルコールなどにより包装部材の上記凹凸構造を有する表面を洗浄することが好ましい。
【0045】
第2工程では、公知の方法で食肉を包装する。たとえば、袋状の包装部材の内部を真空脱気し、ヒートシールやインパルスシールにより口部を熱溶着させる。その後、熱水シャワーや熱水槽への浸漬により包装部材を収縮させて食肉に密着させる。そして、冷水シャワー(チラー)により上記収縮時に上昇した温度を低下させる。なお、ヒートシールやインパルスシールによる口部の熱溶着を行わず、代わりに、上記包装部材の収縮を行う際に、口部を熱溶着させてもよい。上記収縮のための熱処理の条件は、たとえば75℃以上90℃以下、好ましくは75℃以上88℃以下、より好ましくは75℃以上85℃以下で、2秒以上10秒以下、好ましくは2秒以上5秒以下とすることができる。
【0046】
なお、上述の製造方法は、食肉を真空包装するための方法を例示的に記載したが、その他の包装であってもよく、たとえば抗菌性を有する凹凸構造を形成した鮮度保持シートに食肉を接触して、そのまま当該食肉をくるみ込んだりしてもよい。
【実施例0047】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0048】
[実験1]
1.包装部材の用意
以下の7種類の樹脂フィルムを用意した。
【0049】
1-1.樹脂フィルムX
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、三井化学東セロ株式会社製、TUS-TCS#60、厚さ53μm)を、樹脂フィルムXとした。
【0050】
1-2.樹脂フィルムY
株式会社不二製作所製のブラスト装置であるFDDSR-4を用い、上記基材フィルムの表面をブラスト処理した。基材フィルムに対し、加工圧力を0.1MPa、噴射量を3kg/min、ノズル角度を70~90度、ノズルとブラスト対象物との間の距離を150mmとして、樹脂からなる母材中に砥粒が分散してなる研磨材(株式会社不二製作所製、SIG080-7)を、ノズル径が6mmのノズルから噴射した。上記研磨材の噴射は、水を付与して基材フィルムを冷却しながら行った。ブラスト処理による加工時間は0.4sec/cmとした。ブラスト処理後、基材フィルムをアルコールで洗浄および乾燥して、微細な凹凸構造を有するフィルム(樹脂フィルムY)を得た。
【0051】
1-3.樹脂フィルムA~樹脂フィルムE
超低密度ポリエチレン(ULDPE、DOW社製 Attane 4607GC)に下記の抗菌剤を配合して、150mm幅のTダイを用いて平面状に溶融押出し、厚み80~100μmのフィルムA~フィルムEを製造した。なお、表1に記載の抗菌剤の量は、樹脂フィルムの全質量に対する抗菌剤の量である。
抗菌剤A:ホタテ貝殻焼成カルシウム
抗菌剤B:水酸化カルシウム
【0052】
【表1】
【0053】
2.包装部材の抗菌性の評価
樹脂フィルムX、樹脂フィルムY、および樹脂フィルムA~樹脂フィルムEのそれぞれに、大腸菌(Escherichia coli, NBRC No. 3972)または乳酸菌(Lactobacillus casei NBRC No.15883)を摂取して、標準寒天培地(日本製薬株式会社製)により35℃±1℃で24時間培養した。
【0054】
接種から24時間後に、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法に準じて生菌数を測定し、その対数値を求めた。
【0055】
24時間後の生菌数の対数値について、コントロール(フィルムXおよびフィルムA)の値から、凹凸構造の形成(ブラスト処理)または抗菌剤の付与により抗菌性を付与した樹脂フィルムの値を減算して、得られた値を抗菌活性とした。そして、抗菌活性が2.0以上のとき、その樹脂フィルムには抗菌性があると評価した。
【0056】
表2に、使用した樹脂フィルムおよび抗菌性の付与方法、24時間後の大腸菌および乳酸菌の生菌数の対数と、および大腸菌および乳酸菌のそれぞれに対する抗菌活性を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示すように、凹凸構造の形成により抗菌性を付与した樹脂フィルムYは、菌種を問わず抗菌活性が確認できたが、抗菌剤により抗菌性を付与した樹脂フィルムB~樹脂フィルムEは、特定の最近(本実験では大腸菌)のみにしか抗菌活性を有さなかった。
【0059】
[実験2]
1.食肉包装体の用意
以下の2種類の食肉包装体を用意した。
【0060】
1-1.食肉包装体X
牛モモ肉を5cm×5cm×2cmにカットし、15cm×8cmにカットした樹脂フィルムXで包み、10cm×10cmに製袋した非収縮性フィルムパウチに入れて真空包装し、食肉包装体Xを得た。
【0061】
1-2.食肉包装体Y
樹脂フィルムXのかわりに樹脂フィルムYを使用した以外は食肉包装体Xと同様の方法で、食肉包装体Yを得た。
【0062】
2.食肉包装体の抗菌性の評価
2-1.菌数の評価
食肉包装体Xおよび食肉包装体Yを、4℃で58日間保管した。食肉包装体の作製前、および保管後に、牛モモ肉1gあたりの一般細菌数、大腸菌群数および乳酸菌数を、以下の方法(混釈平板培養法)で測定した。
【0063】
(一般細菌数の測定)
牛モモ肉の表面から10g程度の肉を採取し、10倍希釈となる量の滅菌生理食塩水により菌を洗い出した。この菌を洗い出した滅菌生理食塩水(希釈液)を検査液として混釈平板法にて菌数を測定した。標準寒天培地(日本製薬株式会社製)により35℃で2日間培養し、形成されたコロニー数から元の一般細菌数を算出した。
【0064】
(大腸菌群数の測定)
デゾキシコレート寒天培地(日本製薬株式会社製)により35℃で1日間培養した以外は一般細菌数の測定と同様にして、形成されたコロニー数から元の大腸菌群数を算出した。
【0065】
(大腸菌群数の測定)
BCP寒天培地(日本製薬株式会社製)により35℃で3日間培養した以外は一般細菌数の測定と同様にして、形成されたコロニー数から元の乳酸菌数を算出した。
【0066】
2-2.食肉包装体の外観の評価
食肉包装体Xおよび食肉包装体Yを、4℃で58日間保管した。保管後、開封前の食肉包装体の外観を観察し、牛モモ肉から発生したガスが確認できるかどうかを評価した。
【0067】
表3に、使用した樹脂フィルムへの抗菌方法、ならびに菌数および外観の評価結果を示す。なお、表3の外観については、ガス発生が認められたものを「×」、ガス発生が認められなかったものを「○」としている。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、凹凸構造の形成により抗菌性を付与した樹脂フィルムYを使用すれば、菌種を問わず、長期間保管しても菌の増殖が抑制できたが、抗菌性を付与しなかった樹脂フィルムXを使用したら、長期間保管時に菌の増殖が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、食肉の保管期間をより長期化させることができる。本発明は、食肉の劣化を防ぐことにより、より効率的な食肉の流通や販売を可能とするほか、食肉の廃棄量を低減し、環境問題の解決にも寄与すると期待される。