(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144954
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057148
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 龍介
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA11
4F206AA50
4F206AB11
4F206AC01
4F206JA07
4F206JF01
4F206JL02
4F206JM01
4F206JN01
(57)【要約】
【課題】繊維端材の廃棄量の低減と樹脂成形品の成形性の向上との両立を図ることができる樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形品の製造方法は、熱可塑性樹脂製のベース樹脂に、リサイクル材であり、溶融状態においてベース樹脂よりも流動性が高い熱可塑性樹脂製の繊維端材を混合して混合物とする混合工程と、混合物を加熱して溶融させる加熱工程と、溶融した混合物を成形型に注入することで樹脂成形品を成形する成形工程と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製のベース樹脂に、リサイクル材であり、溶融状態において当該ベース樹脂よりも流動性が高い熱可塑性樹脂製の繊維端材を混合して混合物とする混合工程と、
前記混合物を加熱して溶融させる加熱工程と、
溶融した前記混合物を成形型に注入することで樹脂成形品を成形する成形工程と、
を備える、
樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程の前に、前記繊維端材を粉砕する粉砕工程を備え、
前記混合工程において、粉砕された状態の前記繊維端材と前記ベース樹脂とを混合する、
請求項1に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記繊維端材は、互いに異なる繊維径の繊維を含む、
請求項1または請求項2に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記繊維端材は、第1繊維と、前記第1繊維よりも繊維径の大きい第2繊維と、を含み、
前記第2繊維の目付量は、前記第1繊維の目付量よりも大きい、
請求項3に記載の樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記第1繊維、前記第2繊維、及び前記ベース樹脂が同種の熱可塑性樹脂であり、且つ当該熱可塑性樹脂の分子の重合度は、前記第1繊維、前記第2繊維、及び前記ベース樹脂の順で小さい、
請求項4に記載の樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動車の空調装置に用いられるフィルタエレメントが開示されている。フィルタエレメントは、全体の輪郭が直方体形状をなした所謂パネル形である。また、フィルタエレメントは、エアに含まれる異物を濾過する濾過部を備える。
【0003】
濾過部を形成する濾材は、メルトブロー法によって製造された不織布である。この不織布を所定の長さ及び所定の幅に裁断した後に襞折りすることによって濾過部が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうしたフィルタエレメントの製造時においては、不織布を裁断した際に繊維端材が発生する。こうした繊維端材は、通常、再生利用が難しいために廃棄されるとともに焼却される。
【0006】
しかしながら、近年、二酸化炭素排出量の削減の観点から、こうした繊維端材の廃棄量を減らすことが求められている。
また、こうした課題は、フィルタエレメントの製造時に発生する繊維端材の再生利用に限らず、熱可塑性樹脂製の他の繊維製品の製造時に発生する繊維端材の再生利用においても同様にして生じる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための樹脂成形品の製造方法は、熱可塑性樹脂製のベース樹脂に、リサイクル材であり、溶融状態において当該ベース樹脂よりも流動性が高い熱可塑性樹脂製の繊維端材を混合して混合物とする混合工程と、前記混合物を加熱して溶融させる加熱工程と、溶融した前記混合物を成形型に注入することで樹脂成形品を成形する成形工程と、を備える。
【0008】
同方法によれば、ベース樹脂よりも高い流動性を有する繊維端材をベース樹脂に混合することで、溶融状態において混合物の流動性が高められる。これにより、樹脂成形品の成形性を向上させることができる。また、樹脂成形品の製造において繊維端材を用いることで、繊維端材の廃棄量を減らすことができる。したがって、繊維端材の廃棄量の低減と樹脂成形品の成形性の向上との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る樹脂成形品の製造工程を順に示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、同実施形態に係る濾過部及び繊維端材の分解斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、同実施形態に係る第1繊維の断面図であり、
図3(b)は、同実施形態に係る第2繊維の断面図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る混合工程を示す断面図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る射出装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、
図1~
図5を参照して、樹脂成形品の製造方法の一実施形態について説明する。
樹脂成形品の製造方法は、新品の熱可塑性樹脂製のベース樹脂10及びリサイクル材であり、溶融状態においてベース樹脂10よりも流動性が高い熱可塑性樹脂製の繊維端材11を用いて樹脂成形品を製造する方法である。
【0011】
そして、
図1に示すように、樹脂成形品の製造方法は、第1加熱工程と、冷却工程と、粉砕工程と、混合工程と、第2加熱工程と、成形工程とを順に備える。
まず、ベース樹脂10及び繊維端材11について説明する。
【0012】
ベース樹脂10は、熱可塑性樹脂である。ベース樹脂10は、例えばポリプロピレンである。なお、ポリプロピレンの融点は、約200℃である。
図2に示すように、繊維端材11は、自動車の空調装置に用いられるフィルタエレメントを製造する際に発生するものである。
【0013】
詳しくは、繊維端材11は、不織布のシートから、矩形シート状のフィルタエレメントの濾過部30を裁断する際に発生する。
図3(a)及び
図3(b)に示すように、繊維端材11は、第1繊維12と、第1繊維12よりも繊維径の大きい第2繊維13とを含む。第1繊維12の繊維径R1は、例えば1μm以上、15μm以下である。第2繊維13の繊維径R2は、例えば85μm以上、95μm以下である。
【0014】
第1繊維12及び第2繊維13は、ベース樹脂10と同種の熱可塑性樹脂である。本実施形態における第1繊維12及び第2繊維13は、ポリプロピレンである。また、第1繊維12及び第2繊維13は、メルトブロー法によって紡糸された繊維である。
【0015】
第1繊維12、第2繊維13、及びベース樹脂10のポリプロピレン分子の重合度は、同順で小さい。したがって、第1繊維12、第2繊維13、及びベース樹脂10の流動性の指標であるMFR(Melt Flow Rate)は、同順で大きい。第1繊維12、第2繊維13、及びベース樹脂10のMFRは、例えば約1200g/10min、約125g/10min、及び約21g/10minである。
【0016】
また、繊維端材11における第2繊維13の目付量は、第1繊維12の目付量よりも大きい。第1繊維12及び第2繊維13の目付量は、それぞれ例えば約12g/m2及び約90g/m2である。
【0017】
次に、樹脂成形品の製造方法の各工程について詳細に説明する。
<第1加熱工程>
第1加熱工程では、図示しない粉砕加熱装置によって繊維端材11を粉砕した後、加熱して溶融させるとともに、溶融状態の樹脂を押し出して外部のトレイに収容する。
【0018】
<冷却工程>
冷却工程では、トレイに押し出された樹脂(以下、リサイクル樹脂14という)を冷却することで固化させる。
【0019】
<粉砕工程>
粉砕工程では、図示しない粉砕機によってリサイクル樹脂14を粉砕する。
<混合工程>
図4に示すように、混合工程では、粒状のベース樹脂10と、粉砕されたリサイクル樹脂14とを混合させて混合物15を形成する。なお、ベース樹脂10には、予めフィラーとしてのタルク16が混合されている。混合物15のMFRは、第1繊維12及び第2繊維13のMFRより小さく、ベース樹脂10のMFRより大きい。混合物15のMFRは、例えば約35g/10minである。
【0020】
<第2加熱工程>
図5に示すように、第2加熱工程では、射出装置20に投入された混合物15を加熱する。
【0021】
射出装置20は、混合物15を加熱しながら図示しない成形型に射出する装置である。射出装置20は、シリンダ21、スクリュー22、ホッパ23、駆動装置24、及びヒータ25を備える。
【0022】
シリンダ21は、水平方向に延在している。シリンダ21の延在方向の先端(
図5の左端)には、射出口26が設けられている。
スクリュー22は、シリンダ21内において回転可能に収容されている。
【0023】
ホッパ23は、シリンダ21の上側に配置されるとともに、シリンダ21内に連通している。
スクリュー22の基端部には、駆動装置24のモータの出力軸が連結されている。
【0024】
シリンダ21の外周において、ホッパ23が配置される部分よりも先端側(
図5の左側)には、ヒータ25が配置される。
図5の矢印Aに示すように、ホッパ23に投入された混合物15は、自重によってシリンダ21内に進入する。シリンダ21内において、混合物15は、スクリュー22の回転によって射出口26に向かって移動する。また、混合物15がヒータ25によってベース樹脂10及びリサイクル樹脂14の融点以上の温度で加熱されることで、ベース樹脂10及びリサイクル樹脂14が溶融する。
【0025】
<成形工程>
図5の矢印Bに示すように、成形工程では、射出装置20の射出口26から射出される溶融状態の混合物15を図示しない成形型内に注入する。そして、成形型とともに混合物15を冷却することで樹脂成形品が成形される。
【0026】
なお、本実施形態における第2加熱工程が、「課題を解決するための手段」に記載の加熱工程に対応する。
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0027】
(1)混合工程において、ベース樹脂10に、リサイクル材であり、溶融状態においてベース樹脂10よりも流動性が高い繊維端材11を混合して混合物15とする。そして、混合物15を加熱及び溶融させて成形型に注入することで、樹脂成形品が形成される。
【0028】
同方法によれば、ベース樹脂10よりも高い流動性を有する繊維端材11をベース樹脂10に混合することで、溶融状態において混合物15の流動性が高められる。これにより、樹脂成形品の成形性を向上させることができる。また、樹脂成形品の製造において繊維端材11を用いることで、繊維端材11の廃棄量を減らすことができる。したがって、繊維端材11の廃棄量の低減と樹脂成形品の成形性の向上との両立を図ることができる。
【0029】
(2)混合工程の前に、リサイクル樹脂14を粉砕する。
同方法によれば、リサイクル樹脂14が粉砕された状態でベース樹脂10に混合されるため、リサイクル樹脂14がベース樹脂10と混合されやすくなる。そのため、混合物15中においてリサイクル樹脂14が偏在しにくくなる。これにより、混合物15中において流動性が高い部分と低い部分とが生じることを抑制できるので、成形性を一層向上できる。
【0030】
(3)繊維端材11は、第1繊維12と、第1繊維12よりも繊維径の大きい第2繊維13とを含む。
熱可塑性樹脂製の繊維を紡糸する場合、当該繊維の繊維径が小さいほど、紡糸用の口金において溶融樹脂の流通する通路が細くなる。このため、一般に、繊維の繊維径が小さい場合ほど、流動性の高い樹脂が用いられる。
【0031】
上記方法によれば、繊維端材11が互いに繊維径の異なる第1繊維12及び第2繊維13を含むため、例えば第2繊維13のみによって繊維端材11が構成される場合に比べて、混合物15の流動性を向上させることができる。
【0032】
ただし、第1繊維12のみによって繊維端材11が構成される場合、混合物15の流動性が高くなり過ぎるという問題が生じるおそれがある。このため、こうした問題を回避しようとすると、ベース樹脂10に混合される繊維端材11の量が自ずと制限されることとなるので、繊維端材11のリサイクル効率を向上させる上で改善の余地がある。
【0033】
この点、上記方法によれば、繊維端材11が互いに異なる繊維径の第1繊維12及び第2繊維13を含むため、混合物15の流動性が高くなり過ぎることを抑制しつつ、ベース樹脂10に混合される繊維端材11の量を増やすことができる。混合物15中の繊維端材11の量を増やすことで、ベース樹脂10の使用量を減らすことができる。
【0034】
したがって、繊維端材11の廃棄量の低減と樹脂成形品の成形性の向上とを一層高い次元で両立させることができる。
(4)第2繊維13の目付量は、第1繊維12の目付量よりも大きい。
【0035】
同方法によれば、第2繊維13よりも繊維径の小さい第1繊維12が多く含まれることに起因して混合物15の流動性が高くなり過ぎることを抑制できるので、樹脂成形品に成形不良が発生することを抑制できる。また、第2繊維13の目付量が第1繊維12の目付量以下である場合と比較して、混合物15の流動性が高くなり過ぎることを抑制しつつ、ベース樹脂10に混合される繊維端材11の量を増やすことができる。
【0036】
したがって、繊維端材11の廃棄量の低減と樹脂成形品の成形性の向上との両立をより一層高い次元で図ることができる。
(5)第1繊維12、第2繊維13、及びベース樹脂10が同種の熱可塑性樹脂であり、且つ当該熱可塑性樹脂の分子の重合度は、第1繊維12、第2繊維13、及びベース樹脂10の順で小さい。
【0037】
同方法によれば、溶融した混合物15中において第1繊維12、第2繊維13、及びベース樹脂10が互いに混合されやすくなる。したがって、樹脂成形品の成形性を一層向上させることができる。
【0038】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0039】
・タルク16は、予めベース樹脂10に混合されていなくてもよい。混合工程において、粉砕されたリサイクル樹脂14、ベース樹脂10、及びタルク16を同時に混合してもよい。
【0040】
・樹脂成形品は、タルク16を有していないものであってもよい。
・第1繊維12、第2繊維13、及びベース樹脂10は、全て同種の熱可塑性樹脂であるものに限定されない。溶融状態における繊維端材11の流動性がベース樹脂10の流動性より高ければよく、例えば、ベース樹脂10がポリカーボネートで、繊維端材11がポリエチレンテレフタレートなどの他の熱可塑性樹脂であってもよい。
【0041】
・繊維端材11における第2繊維13の目付量は、繊維端材11における第1繊維12の目付量以下であってもよい。
・繊維端材11は、繊維径が等しい繊維のみで構成されていてもよい。
【0042】
・第1加熱工程において粉砕された繊維端材11を、粉砕されたままの状態でベース樹脂10に混合してもよい。
・第1加熱工程において、繊維端材11を粉砕せずに加熱して溶融してもよい。
【0043】
・第1加熱工程、冷却工程、及び粉砕工程を省略して、粉砕されていない繊維端材11をベース樹脂10に混合してもよい。
・ベース樹脂10は、新品のものに限定されず、リサイクル材であってもよい。
【符号の説明】
【0044】
10…ベース樹脂
11…繊維端材
12…第1繊維
13…第2繊維
14…リサイクル樹脂
15…混合物
16…タルク
20…射出装置
21…シリンダ
22…スクリュー
23…ホッパ
24…駆動装置
25…ヒータ
26…射出口
30…濾過部
R1,R2…繊維径