(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144969
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】複層塗膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/36 20060101AFI20241004BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20241004BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241004BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20241004BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20241004BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241004BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20241004BHJP
C09C 1/40 20060101ALI20241004BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
B05D1/36 B
B05D5/06 101A
B05D7/24 303C
C09D201/00
C09D7/20
C09D5/00 D
C09D7/62
C09C1/40
C09C3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057172
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 了
(72)【発明者】
【氏名】橋田 智史
【テーマコード(参考)】
4D075
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AE06
4D075BB16X
4D075BB24Z
4D075BB60Z
4D075CA13
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4D075EC11
4D075EC30
4D075EC31
4D075EC47
4D075EC51
4D075EC54
4J037AA05
4J037AA24
4J037CA09
4J037CA24
4J037EE03
4J037FF01
4J038BA021
4J038CD021
4J038CD091
4J038CG001
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4J038DD001
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4J038JA56
4J038KA06
4J038KA15
4J038NA01
4J038NA12
4J038PA06
4J038PA07
4J038PA19
4J038PB07
4J038PB09
(57)【要約】
【課題】 本発明の目的は、プライマー塗膜を必要とせずとも基材との付着性に優れ、未硬化の金属調塗膜上にクリアー塗料を塗装しても、優れたメッキサテン調外観を有する複層塗膜の形成方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の目的は、基材上に、金属調塗料(I)を塗装し、未硬化の金属調塗膜を形成する金属塗膜形成工程、該未硬化の金属調塗膜の上に、上塗塗料(II)を塗装し、未硬化の上塗塗膜を形成する上塗塗膜形成工程、及び、該未硬化の金属調塗膜、上塗塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程、を少なくとも有する複層塗膜の形成方法であり、該金属調塗料(I)が、樹脂(I-A)と、有機溶剤(I-B)と、少なくとも無機酸化物に被覆された蒸着アルミニウム顔料(I-C)とを含有し、該上塗塗料(II)が、樹脂(II-A)と、有機溶剤(II-B)とを含有し、SP値が8.0~9.0であり、かつ酢酸ブチルを1.0としたときの蒸発速度が0.1以上1.0未満である有機溶剤(II-B1)を、該有機溶剤(II-B)全量に対して10~30質量%含むことを特徴とする複層塗膜の形成方法、によって達成された。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、金属調塗料(I)を塗装し、未硬化の金属調塗膜を形成する金属塗膜形成工程、該未硬化の金属調塗膜の上に、上塗塗料(II)を塗装し、未硬化の上塗塗膜を形成する上塗塗膜形成工程、及び、該未硬化の金属調塗膜、上塗塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程、を少なくとも有する複層塗膜の形成方法であり、
該金属調塗料(I)が、樹脂(I-A)と、有機溶剤(I-B)と、少なくとも無機酸化物に被覆された蒸着アルミニウム顔料(I-C)とを含有し、
該上塗塗料(II)が、樹脂(II-A)と、有機溶剤(II-B)とを含有し、SP値が8.0~9.0であり、かつ酢酸ブチルを1.0としたときの蒸発速度が0.1以上1.0未満である有機溶剤(II-B1)を、該有機溶剤(II-B)全量に対して10~30質量%含むことを特徴とする複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
更に、SP値が9.0~10.0であり、かつ酢酸ブチルを1.0とした蒸発速度が2.0以上6.0未満である有機溶剤(II-B2)を、前記有機溶剤(II-B)全量に対して20~50質量%含むことを特徴とする請求項1に記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
前記金属調塗料(I)における水の含有量が3.0質量%未満であり、前記蒸着アルミニウム顔料(I-C)を被覆している無機酸化物が、少なくともシリカを含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複層塗膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の表面にメッキサテン調外観を付与するための複層塗膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内装部品や家電製品、自転車、釣具などに高い意匠性を付与させるため、メッキ部品が多く用いられている。しかし、メッキ部品の生産には前処理から排水処理まで設備コストがかかる上、意匠面では表現できる色・素材形状が限られるため、メッキ調の塗装方法や、メッキ調外観を有する複層塗膜の形成方法が検討されている。中でも、メッキサテン調の外観は、落ち着いた質感があり、車の内装部品やエンブレムなどに多く使用されている。
【0003】
特開2010-247055号公報(特許文献1)には、プラスチック素材上に塗料固形分量に対して30~70質量%のノンリーフィング蒸着アルミ顔料を含有するメタリックベース塗料を塗装し、その上に2液型アクリルウレタンクリアー塗料を塗装し、形成された複層塗膜を同時に硬化させる塗膜形成方法が記載されている。特許文献1に記載されたメタリックベース塗料に用いる蒸着アルミ顔料について、表面処理に関する記載はなく、塗膜の強度不足による基材との付着性に改善の余地がある。さらに、未硬化のメタリックベース塗膜上にクリアー塗料を塗装するため、求められるメッキ調外観が得られにくいといった課題も認められる。
【0004】
特開2003-053260号公報(特許文献2)には、自動車部品などの被塗物上に着色ベース塗膜、活性エネルギー線硬化型のメタリック塗膜、クリアー塗膜の順に塗装するメッキ調被膜形成方法が記載されている。特許文献2に記載されたメッキ調被膜は、ベース塗膜が必須であり、プラスチック基材に直接塗装した場合、付着性が不十分である。また、メタリック塗膜は、活性エネルギー線により硬化するため、紫外線照射装置等の設備が必要となる。
【0005】
特開2020-157691号公報(特許文献3)には、サテンめっき調外観を有する加飾フィルム成形体の製造方法が記載されている。特許文献3に記載された加飾フィルム成形体は、接着層に対して、塗装ではなく蒸着により金属調層を形成しているため、真空蒸着装置等の設備が必要な他、金属調層を形成させる基材の大きさや形に制限が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-247055号公報
【特許文献2】特開2003-053260号公報
【特許文献3】特開2020-157691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、プライマー塗膜を必要とせずとも基材との付着性に優れ、未硬化の金属調塗膜上にクリアー塗料を塗装しても、優れたメッキサテン調外観を有する複層塗膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、基材上に、少なくとも無機酸化物に被覆された蒸着アルミニウム顔料を含有する金属調塗料を塗装し、次いで、特定のSP値・蒸発速度を有する有機溶剤を特定量含む上塗塗料を塗装し、同時に乾燥させることで、基材との付着性に優れ、且つ優れたメッキサテン調外観を有する複層塗膜が形成可能である事を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
したがって、本発明の1つの態様は、基材上に、金属調塗料(I)を塗装し、未硬化の金属調塗膜を形成する金属塗膜形成工程、該未硬化の金属調塗膜の上に、上塗塗料(II)を塗装し、未硬化の上塗塗膜を形成する上塗塗膜形成工程、及び、該未硬化の金属調塗膜、上塗塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程、を少なくとも有する複層塗膜の形成方法であり、該金属調塗料(I)が、樹脂(I-A)と、有機溶剤(I-B)と、少なくとも無機酸化物に被覆された蒸着アルミニウム顔料(I-C)とを含有し、該上塗塗料(II)が、樹脂(II-A)と、有機溶剤(II-B)とを含有し、SP値が8.0~9.0であり、かつ酢酸ブチルを1.0としたときの蒸発速度が0.1以上1.0未満である有機溶剤(II-B1)を、該有機溶剤(II-B)全量に対して10~30質量%含むことを特徴とする複層塗膜の形成方法である。
【0010】
本発明における複層塗膜の形成方法の好適例においては、更に、SP値が9.0~10.0であり、かつ酢酸ブチルを1.0とした蒸発速度が2.0以上6.0未満である有機溶剤(II-B2)を、前記有機溶剤(II-B)全量に対して20~50質量%含む。
【0011】
本発明における複層塗膜の形成方法の好適例においては、前記金属調塗料(I)における水の含有量が3.0質量%未満であり、前記蒸着アルミニウム顔料(I-C)を被覆している無機酸化物が、少なくともシリカを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プライマー塗膜を必要とせずとも基材との付着性に優れ、未硬化の金属調塗膜上にクリアー塗料を塗装しても、優れたメッキサテン調外観を有する複層塗膜の形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明における複層塗膜の形成方法を詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。
【0014】
<複層塗膜の形成方法>
本発明における複層塗膜の形成方法は、基材上に、金属調塗料(I)を塗装し、未硬化の金属調塗膜を形成する金属塗膜形成工程、該未硬化の金属調塗膜の上に、上塗塗料(II)を塗装し、未硬化の上塗塗膜を形成する上塗塗膜形成工程、及び、該未硬化の金属調塗膜、上塗塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する乾燥工程、を少なくとも有することを特徴とする。
【0015】
<金属塗膜形成工程>
本工程は、基材上に、金属調塗料(I)を塗装し、未硬化の金属調塗膜を形成する工程である。
【0016】
<基材>
本発明の基材としては、特に限定されるものではないが、プラスチック基材であることが好ましい。プラスチック基材としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂;及びABS樹脂等が挙げられる。また、塗装体の用途に応じて、様々な形状の基材を選択することができ、自動車内装用の部品に用いられるプラスチック成形体や、接着層を有するプラスチックフィルム等が挙げられる。さらに、メッキサテン調の外観を際立たせるため、基材の色は黒色であることがより好ましい。
【0017】
<金属調塗料(I)>
本発明の金属調塗料(I)としては、樹脂(I-A)と、有機溶剤(I-B)と、少なくとも無機酸化物に被覆された蒸着アルミニウム顔料(I-C)とを含有することを特徴とする。
【0018】
<<樹脂(I-A)>>
金属調塗料(I)に使用する樹脂(I-A)としては、特に限定はなく、通常のアクリル樹脂、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂等を使用することができ、アクリル樹脂、セルロース樹脂であることが好ましい。樹脂(I-A)の含有量は、金属調塗料(I)における固形分の10~90質量%であり、50~90質量%であることが好ましい。ここで、固形分とは、塗膜形成時に塗膜中に残存する成分を指す。
【0019】
アクリル樹脂としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルを主成分とする重合体または共重合体であることが好ましい。ここで主成分とは、50モル%以上含まれることをいう。本発明におけるアクリル樹脂は、90質量%以上が、水酸基価5mg/KOHg未満であることが好ましく、アクリル樹脂の水酸基は少ない方が好ましい。また、ガラス転移温度(以下、Tg)が50℃以上であることが好ましい。
【0020】
本発明におけるTgとは、次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
【0021】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・+Wn/Tgn
上記FOX式において、Tgは、n種類のモノマーからなるポリマーのガラス転移温度(K)であり、Tg(1、2、i、n)は、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、W(1、2、i、n)は、各モノマーの質量分率であり、W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1である。
【0022】
また、セルロース樹脂としては、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリル変性セルロース誘導体、ポリエステル変性セルロース誘導体、及びポリウレタン変性セルロース誘導体等が挙げられ、特にニトロセルロースが好ましい。ニトロセルロースは、窒素含有量が10%以上であることが好ましい。具体的には、市販の工業用硝化綿(T.N.C.INDUSTRIAL社製)等を使用することができる。
【0023】
<<有機溶剤(I-B)>>
金属調塗料(I)に使用する有機溶剤(I-B)は、通常塗料に使用する溶剤を限定なく使用することができる。例えばトルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-2-メトキシプロピル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシエチルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシプロピル-2-アセテート、3-メトキシ-1-ブチルアセテート等のグリコールエステル系溶剤、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、分子式CnH2n+2で表せる飽和鎖状化合物で直鎖、および分岐構造を有するオクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン等のパラフィン系炭化水素溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等のナフテン系炭化水素溶剤等が挙げられる。有機溶剤(I-B)としては、樹脂(I-A)への溶解性と有機溶剤の蒸発速度を考慮し、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0024】
ここで、本発明における有機溶剤の蒸発速度とは、酢酸ブチルを1とした時の相対蒸発速度によって測定される値である。蒸発速度は、ASTM D3539-11に基づいて測定される。
【0025】
有機溶剤(I-B)としては、蒸発速度が3.0以上の有機溶剤を、有機溶剤(I-B)全量に対して50~90質量%含むことが好ましい。蒸発速度が3.0以上の有機溶剤の含有量が前記範囲であれば、有機溶剤の揮発により塗膜の体積収縮が生じ、金属調塗膜中における蒸着アルミニウム顔料(I-C)が配向しやすいことから、より優れた外観を有する金属調塗膜を形成することができる。また、未硬化の金属調塗膜中に含まれる有機溶剤(I-B)の量が少なくなることで、上塗塗料(II)を塗装する際にも蒸着アルミニウム顔料(I-C)の配向が乱れにくいことから、より優れたメッキサテン調外観を有する複層塗膜を形成することができる。蒸発速度が3.0以上の有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、へプタン等が挙げられる。
【0026】
さらに、有機溶剤(I-B)としては、蒸発速度が0.2以下の有機溶剤を、有機溶剤(I-B)全量に対して1.0~10質量%含むことが好ましい。蒸発速度が0.2以下の有機溶剤の含有量が前記範囲であれば、未硬化の金属調塗膜中に少量の有機溶剤が留まることから、樹脂(I-A)中に蒸着アルミニウム顔料(I-C)が均一に分布しやすくなり、色ムラが少ない優れた外観を有する金属調塗膜を形成することができる。蒸発速度が0.2以下の有機溶剤としては、例えば、ジイソブチルケトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、3-メトキシ-1-ブチルアセテート等が挙げられる。
【0027】
<<蒸着アルミニウム顔料(I-C)>>
金属調塗料(I)に使用する蒸着アルミニウム顔料(I-C)は、少なくとも表面の一部が無機酸化物に被覆された蒸着アルミニウム顔料である。少なくとも表面の一部が無機酸化物に被覆されていることで、塗膜中における蒸着アルミニウム顔料の凝集を防ぎ、塗膜強度が向上することから、プライマー塗膜を必要とせずとも付着性に優れた複層塗膜を形成することが可能となる。被覆する無機酸化物としては、シリカや酸化チタン等が挙げられ、シリカであることが好ましい。また、無機酸化物の被覆に加えて、リン酸塩やモリブデン酸塩、シランカップリング剤等を用いた有機金属処理を施したものも使用することができる。
【0028】
蒸着アルミニウム顔料(I-C)は、平均粒径が5~15μm、アスペクト比が100~5000の範囲であることが好ましい。ここで、平均粒子径は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D50)を指し、粒度分布測定装置(例えばレーザ回折/散乱式粒度分布測定装置)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。蒸着アルミニウム顔料における粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。また、アスペクト比は、平均粒径/平均厚みで表される。
【0029】
本発明の蒸着アルミニウム顔料(I-C)としては、市販の蒸着アルミニウム顔料であるMETALURE、HYDROSHINE(ECKART社製)、SPLENDAL(Benda-Lutz社製)、トーヤルシャイン(東洋アルミニウム社製)、Decomet(SCHLENK社製)等を使用することができる。蒸着アルミニウム顔料(I-C)の含有量は、金属調塗料(I)における固形分の10~50質量%であり、15~30質量%であることが好ましい。蒸着アルミニウム顔料(I-C)の含有量が前記範囲であれば、より優れた外観を有する金属調塗膜を形成することができる。
【0030】
<<その他添加剤>>
本発明の金属調塗料(I)には、塗料業界で通常使用される添加剤、例えば、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、シランカップリング剤、乾燥剤、可塑剤、着色顔料、体質顔料、防錆剤、殺虫剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。また、金属調塗料(I)における水の含有量は、金属調塗料(I)の全量に対して3.0質量%以下であり、0.5質量%以下であることが好ましく、実質的に水を含まないことがさらに好ましい。
【0031】
<上塗塗膜形成工程>
本工程は、未硬化の金属調塗膜の上に、上塗塗料(II)を塗装し、未硬化の上塗塗膜を形成する上塗塗膜形成工程である。本工程は、いわゆるウエットオンウエット塗装と呼ばれるものである。ウエットオンウエットで塗装することにより、乾燥工程の短縮が可能で、CO2の排出量を節減することができるので、環境負荷を低減する観点で好ましい。
【0032】
<上塗塗料(II)>
本発明の上塗塗料(II)としては、樹脂(II-A)と、有機溶剤(II-B)とを含有し、SP値が8.0~9.0であり、かつ酢酸ブチルを1.0としたときの蒸発速度が0.1以上1.0未満である有機溶剤(II-B1)を、前記有機溶剤(II-B)全量に対して10~30質量%含有することを特徴とする。
【0033】
ここで、SP値とは、相溶性を判断する際の目安となるもので、種々の計算方法や実測方法がある。本発明の一液型塗料組成物におけるSP値は、構造に基づいてHoy法によって算出された溶解度パラメーター(Solubility Parameter)で示される。有機溶剤のSP値は、Hoyの提唱した蒸気圧法を用い、文献[K.L.Hoy,J.Paint Technology,42,(541),76(1970)]に記載された方法に準拠して計算した値である。
【0034】
<<樹脂(II-A)>>
上塗塗料(II)に使用する樹脂(II-A)としては、特に限定はなく、通常の自動車内外装部品や家電製品、自転車、釣具などに使用される上塗塗料を使用することができる。上塗塗料に使用する樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、有機変性シリコーン系樹脂(例えば、アクリルシリコーン系樹脂)、ポリエステル系樹脂及びメラミン系樹脂等を挙げることができ、特にアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂を使用することが好ましい。
【0035】
アクリル系樹脂としては、特に限定はないが、水酸基価が30~150mgKOH/gの範囲であるアクリル樹脂を含むことが好ましい。水酸基価が上記範囲内であると、硬化剤や架橋剤と効率的に反応し、塗膜の架橋密度を高めることが可能となり、耐水性や耐油性、及び耐薬品性等の各性能が向上する。
【0036】
アクリル系樹脂の含有量としては、上塗塗料(II)の塗料固形分に対して、40~80質量%含まれることが好ましい。尚、本発明において、アクリル樹脂は1種類だけでもよいし、2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【0037】
また、アクリル系樹脂を用いる場合には、イソシアネート樹脂やエポキシ樹脂、メラミン樹脂等を硬化剤として使用することができる。これら硬化剤を配合する場合においては、例えば、イソシアネート類を硬化剤として用いる場合には、OH/NCO=0.5~1.5当量の範囲で混合することが好ましい。
【0038】
イソシアネート類としては、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、これらのポリイソシアネートをウレタン変性したり、アロファネート変性、カルボジイミド変性、イソシアヌレート変性した変性ポリイソシアネート、これらの混合物等が代表的なものとして挙げられる。
【0039】
<<有機溶剤(II-B)>>
上塗塗料(II)に使用する有機溶剤(II-B)は、通常塗料に使用する溶剤を限定なく使用することができる。例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-2-メトキシプロピル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシエチルアセテート、2-エトキシエチルアセテート、3-メトキシ-3-メチルブタノール、3-メトキシ-3-メチルブチルアセテート、1-メトキシ-2-プロパノール、1-メトキシプロピル-2-アセテート、3-メトキシ-1-ブチルアセテート等のグリコールエステル系溶剤、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、分子式CnH2n+2で表せる飽和鎖状化合物で直鎖、および分岐構造を有するオクタン、ノナン、デカン、ドデカン、テトラデカン等のパラフィン系炭化水素溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等のナフテン系炭化水素溶剤等が挙げられる。有機溶剤(II-B)としては、樹脂(II-A)への溶解性と有機溶剤の蒸発速度を考慮し、2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0040】
<<有機溶剤(II-B1)>>
有機溶剤(II-B1)は、SP値が8.0~9.0であり、かつ蒸発速度が0.1以上1.0未満の有機溶剤であり、本発明では、有機溶剤(II-B)全量に対して10~30質量%含有する。有機溶剤(II-B1)は、未硬化の金属調塗膜に含まれる樹脂(I-A)を溶解しにくく、かつ蒸発速度が比較的遅いことから、上塗塗料(II)のレベリング性を向上させる。そのため、有機溶剤(II-B1)が前記範囲であれば、優れたメッキサテン調外観を有する複層塗膜を形成することができる。有機溶剤(II-B1)の含有量が10質量%未満であると、未硬化の金属調塗膜が溶解されやすくなり、蒸着アルミニウム顔料(I-C)の配向が乱れ、優れたメッキサテン調外観が得られない。一方で、有機溶剤(II-B1)の含有量が30質量%を超えると、上塗塗料(II)中の樹脂(II-A)の溶解性や乾燥性が低下し、塗装時の作業性や硬化後の塗膜外観に影響を与える。有機溶剤(II-B1)としては、例えば、キシレン(SP値:9.0、蒸発速度:0.76)、ジイソブチルケトン(SP値:8.7、蒸発速度:0.20)等が挙げられる。
【0041】
<<有機溶剤(II-B2)>>
有機溶剤(II-B2)は、SP値が9.0~10.0であり、かつ蒸発速度が2.0以上6.0未満の有機溶剤であり、本発明では、有機溶剤(II-B)全量に対して20~50質量%含有することが好ましい。有機溶剤(II-B2)は、樹脂(II-A)との相溶性が高く、かつ蒸発速度が速いため、有機溶剤(II-B2)が前記範囲であれば、上塗塗料(II)の乾燥性や塗装作業性を向上させることができる。有機溶剤(II-B2)としては、例えば、トルエン(SP値:9.0、蒸発速度:2.00)、ベンゼン(SP値:9.1、蒸発速度:4.12)、酢酸メチル(SP値:9.7、蒸発速度:5.10)、酢酸エチル(SP値:9.5、蒸発速度:4.20)、酢酸プロピル(SP値:9.4、蒸発速度:2.14)等が挙げられる。
【0042】
<<艶消し剤>>
本発明の上塗塗料(II)には艶消し剤を含むことができ、艶消し剤の添加量により、メッキサテン調のマット感を調整することが可能である。メッキサテン調のマット感を強くする場合には艶消し剤を多く含み、マット感を弱める場合には艶消し剤を少ない又は含まないことが好ましい。艶消し剤を含む場合は、上塗塗料(II)の固形分中に、0.1~10.0質量%含むことが好ましく、3.0~10.0質量%含むことが更に好ましい。
【0043】
上塗塗料(II)に使用する艶消し剤としては、通常塗料に使用する艶消し剤を限定なく使用することができる。例えば、シリカ系艶消し剤、樹脂ビーズ、ガラスビーズ及びタルク等の体質顔料等が挙げられる。
【0044】
<<その他添加剤>>
本発明の上塗塗料(II)には、塗料業界で通常使用される添加剤、例えば、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、シランカップリング剤、着色顔料、体質顔料、防錆剤、乾燥剤、可塑剤、殺虫剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。メッキサテン調の外観を得るため、上塗塗料(II)としては、着色顔料や体質顔料を実質的に含まないクリアー塗料や、透明性を失わない程度に着色顔料等を含むカラークリアー塗料であることが好ましい。
【0045】
<乾燥工程>
本工程は、未硬化の金属調塗膜、上塗塗膜を同時に乾燥させて複層塗膜を形成する工程である。
【0046】
<<乾燥条件>>
本発明の乾燥工程においては、基材が物性強度低下や、熱変形、発泡等の不具合を起こさない温度で焼付乾燥する。焼付温度としては、基材表面温度で70~100℃であることが好ましく、焼付時間としては、例えば、10~60分間であり、20~40分間であることが好ましい。
【0047】
<<塗装方法>>
塗装方法としては、特に制限されず、公知の塗布方法、例えば、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ブレードコート法及びエアーナイフコート法等が挙げられる。これらの中でも、膜厚の制御を容易に行う観点から、スプレーコート法が好ましい。本発明における金属調塗膜の乾燥膜厚は、0.1~10μmであり、0.5~5μmであることが好ましい。また、上塗塗膜の乾燥膜厚は、10~100μmであり、15~50μmであることが好ましい。
【実施例0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
<金属調塗料(I)の調製>
表1に示す配合処方に従い原料を混合し、公知の手法により分散させ、金属調塗料(I)を調製した。使用した材料は、下記の通りである。
【0050】
<<樹脂(I-A)>>
・ニトロセルロース溶液(工業用硝化綿TR7、T.N.C.INDUSTRIAL社製、固形分:70質量%、溶剤:イソプロパノール)
<<有機溶剤(I-B)>>
・酢酸エチル(SP値:9.5、蒸発速度:4.20)
・酢酸ブチル(SP値:9.3、蒸発速度:1.00)
・シクロヘキサン(SP値:8.8、蒸発速度:4.50)
・イソブタノール(SP値:10.9、蒸発速度:0.64)
・エチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:11.0、蒸発速度:0.08)
<<蒸着アルミニウム顔料(I-C)>>
・蒸着アルミニウム顔料ペースト-1(HYDROSHINE WS-4140、ビックケミー・ジャパン社製、平均粒子径:13~15μm、シリカ被覆、固形分:10質量%、溶剤:イソプロパノール/エチレングリコールモノブチルエーテル)
・蒸着アルミニウム顔料ペースト-2(HYDROSHINE WS-4001、ビックケミー・ジャパン社製、平均粒子径:9~12μm、シリカ被覆、固形分:10質量%、溶剤:イソプロパノール/エチレングリコールモノブチルエーテル)
・蒸着アルミニウム顔料ペースト-3(Decomet STV2002 12/10 S0、SCHLENK社製、平均粒子径:12μm、シリカ被覆及び有機金属処理、固形分:10質量%、溶剤:イソプロパノール)
<<その他の蒸着アルミニウム顔料>>
・蒸着アルミニウム顔料ペースト-4(METALURE C-51010MA、ECKART社製、平均粒子径:9~11μm、被覆なし、固形分:10質量%、溶剤:1-メトキシプロピル-2-アセテート)
・蒸着アルミニウム顔料ペースト-5(METALURE L 55350、ビックケミー・ジャパン社製、平均粒子径:11.5μm、被覆なし、固形分:10質量%、溶剤:酢酸エチル)
【0051】
【0052】
<上塗塗料(II)の調製>
表2に示す配合処方に従い原料を混合し、公知の手法により分散させ、上塗塗料(II)を調製した。使用した材料は、下記の通りである。上塗塗料(II)は、塗装の直前に主剤と硬化剤、希釈剤をそれぞれ混合して使用する。
【0053】
[主剤]
<<樹脂(II-A)>>
・アクリル樹脂溶液-1(アクリディックAC-3734、DIC社製、水酸基価:13~19mgKOH/g、固形分:50質量%、溶剤:酢酸イソブチル/酢酸ブチル)
・アクリル樹脂溶液-2(アクリディックA-851-HP、DIC社製、水酸基価:66~74mgKOH/g、固形分:70質量%、溶剤:酢酸ブチル)
<<有機溶剤(II-B)>>
・酢酸ブチル(SP値:9.3、蒸発速度:1.00)
<<添加剤>>
・艶消し剤(ACEMATT OK607、Evonic社製、シリカ)
・分散剤(ディスパロンDA-7301、楠本化成社製、固形分:75%)
・紫外線吸収剤(TINUVIN292、BASF社製)
・光安定剤(TINUVIN384-2、BASF社製)
【0054】
[硬化剤]
<<樹脂(II-A)>>
・イソシアネート系硬化剤(デスモジュールN3300、住化コベストロウレタン社製、固形分:100質量%)
<<有機溶剤(II-B)>>
・酢酸ブチル(SP値:9.3、蒸発速度:1.00)
【0055】
[希釈剤]
<<有機溶剤(II-B1)>>
・ジイソブチルケトン(SP値:8.7、蒸発速度:0.20)
<<有機溶剤(II-B2)>>
・酢酸エチル(SP値:9.5、蒸発速度:4.20)
<<その他有機溶剤(II-B)>>
・石油系炭化水素
・メチルイソブチルケトン(SP値:9.0、蒸発速度:1.60)
・シクロヘキサン(SP値:8.8、蒸発速度:4.50)
・ミネラルスピリット(SP値:8.7)
・3-メトキシ-1-ブチルアセテート(SP値:9.5、蒸発速度:0.14)
【0056】
【0057】
<塗膜形成方法>
黒色のABS基材上に、スプレー塗装を用いて乾燥膜厚が1.0μmとなるような塗布量にて、表1の配合1-1に示した金属調塗料(I)を塗装し、7分間放置させ、次いで、未硬化の金属調塗膜上に、乾燥膜厚が35μmとなるような塗布量にて、表2の配合2-1に示した上塗塗料(II)を塗装し、7分間放置させ、その後80℃にて30分間乾燥させ、メッキサテン調複層塗膜を形成し、実施例1の塗装体を得た。
【0058】
表3に示した組み合わせにより、表1に記載の金属調塗料(I)及び表2に記載の上塗塗料(II)を用いて、実施例1の塗装体と同様に実施例2~5、比較例1~4の塗装体を得た。これら試料塗装体を試験体として下記試験を行い、得られた結果を表3に示す。
【0059】
【0060】
<複層塗膜の付着性>
前記試験体を用い、塗膜表面に切込み角60°でカッターナイフにより基材まで到達する直線の切れ込みを入れ、その切れ込みに対して角度60°で再び切れ込みを入れる。その後、切れ込みを覆うようにセロハンテープをしっかりと貼り付け、セロハンテープを塗膜表面に対して45°に引き剥がす。セロハンテープ剥離後、塗膜の剥がれの程度を以下の評価基準にて目視で判定した。○以上は、製品として採用可能なレベルである。
○:はがれが全くない。
△:カット部にわずかにはがれがある。
×:切込み部分の塗膜表面が完全にはがれる。
【0061】
<メッキサテン調外観>
前記試験体を目視にて観察し、以下の評価基準で判定した。○以上は、製品として採用可能なレベルである。
◎:金属によるメッキサテン処理と同等のメッキサテン調外観を示す。
○:金属によるメッキサテン処理には劣るが、通常のメタリック塗膜よりも優れたメッキサテン調外観を示す。
×:十分なメタリック感を有するが、メッキサテン調外観には至らない。
【0062】
表3の結果から、本発明によれば、優れたメッキサテン調外観を有しながら、付着性にも優れる複層塗膜を形成可能であることが分かった。