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特開2024-144982アルミニウム電線及びワイヤーハーネス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144982
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】アルミニウム電線及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20241004BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
H01B7/00
H01B7/02 F
H01B7/00 301
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057192
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】菊池 優海
【テーマコード(参考)】
5G309
【Fターム(参考)】
5G309LA01
5G309RA05
(57)【要約】
【課題】柔軟性と癖付性との向上を図ることができるアルミニウム電線及びワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】導体10と絶縁体20とを備え、導体10が中心撚線11と中心撚線11の外周に2層以上に積層された複数本の外周撚線12とで構成され、中心撚線11及び外周撚線12が純アルミニウムからなる素線を撚って構成され、素線は、それぞれ素線径が0.21mm以上1.0mm未満であり、導体10と絶縁体20とは、密着力が6N以上45N以下であり、絶縁体20は、厚さが0.72mm以上1.80mm以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と前記導体を被覆した絶縁体とを備え、前記導体が中心撚線と前記中心撚線の外周に2層以上に積層された複数本の外周撚線とで構成され、前記中心撚線及び前記外周撚線が純アルミニウムからなる素線を撚って構成されたアルミニウム電線であって、
前記素線は、それぞれ素線径が0.21mm以上1.0mm未満であり、
前記導体と前記絶縁体とは、密着力が6N以上45N以下であり、
前記絶縁体は、厚さが0.72mm以上1.80mm以下である
ことを特徴とするアルミニウム電線。
【請求項2】
前記絶縁体は架橋ポリエチレンである
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項3】
前記導体は、断面積が30sq以上230sq以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項4】
前記導体は、前記中心撚線の撚りピッチが撚り外径の15倍以上30倍以下であり、前記外周撚線の撚りピッチが該当する層の外径の8倍以上15倍以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム電線を備えることを特徴とするワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム電線及びワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム導体の外周に絶縁体を被覆したアルミニウム電線が提案されている(例えば特許文献1~3参照)。これらのアルミニウム電線は、絶縁体に特定の材料が用いられることで柔軟性の向上が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-99412号公報
【特許文献2】特開2012-104227号公報
【特許文献3】特開2019-179628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、電線の柔軟性は、導体の材質、素線径、及び撚り構成、絶縁体の材質及び厚さ、並びに、導体と絶縁体との間の密着状態といった種々の要因のトータルとして決定するものである。このため、特許文献1~3に記載の電線は、柔軟性について向上の余地があるものであった。
【0005】
また、銅電線は導体の曲げ癖が付き難く配索時の電線曲げRが大きくなる。このため、銅電線の配索時には機器類や電線類等との干渉を防止するためプロテクタやバンドクランプによる経路規制が行われていた。これに対して、アルミニウム電線は、銅電線よりも曲げ癖が付きやすい。しかし、アルミニウム電線であっても未だ癖付性が不充分であり、バンドクランプ等による経路規制を行わなければならないものもあった。
【0006】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、柔軟性と癖付性との向上を図ることができるアルミニウム電線及びワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るアルミニウム電線は、導体と前記導体を被覆した絶縁体とを備え、前記導体が中心撚線と前記中心撚線の外周に2層以上に積層された複数本の外周撚線とで構成され、前記中心撚線及び前記外周撚線が純アルミニウムからなる素線を撚って構成されたアルミニウム電線であって、前記素線は、それぞれ素線径が0.21mm以上1.0mm未満であり、前記導体と前記絶縁体とは、密着力が6N以上45N以下であり、前記絶縁体は、厚さが0.72mm以上1.80mm以下であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るワイヤーハーネスは、上記に記載のアルミニウム電線を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、柔軟性と癖付性との向上を図ることができるアルミニウム電線及びワイヤーハーネスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るアルミニウム電線を含むワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。
図2図1に示したアルミニウム電線の一例を示す断面図である。
図3図2に示したアルミニウム電線の一部構成の一例を示す断面図である。
図4】実施例及び比較例を示す第1の図表である。
図5】実施例及び比較例を示す第2の図表である。
図6】密着力の測定方法を示す概略図であり、(a)は密着力を測定するためのサンプルを示し、(b)は密着力の測定方法を示している。
図7】柔軟性試験の様子を示す概念図である。
図8】癖付性試験の結果を示す図表である。
図9】実施例3のアルミニウム電線と比較例10の銅電線との比較結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係るアルミニウム電線を含むワイヤーハーネスの一例を示す斜視図である。図1に示すように、ワイヤーハーネスWHは、アルミニウム電線1と、他部材Oとを備えて構成されている。他部材Oは、例えばコネクタO1や端子O2等である。なお、他部材Oは、コネクタO1や端子O2等に限らず他の電線等であってもよい。
【0013】
図2は、図1に示したアルミニウム電線1の一例を示す断面図であり、図3は、図2に示したアルミニウム電線1の一部構成の一例を示す断面図である。図2に示すように、アルミニウム電線1は、導体10と、導体10の外周を接触状態で覆う絶縁体20とを備えている。
【0014】
導体10は、中心撚線11と、複数本の外周撚線12とを備えている。複数本の外周撚線12は、中心撚線11の外周側に2層以上の層を形成するように配置されている。なお、外周撚線12は、中心撚線11の周囲に集合撚りされることを想定しているが、特に集合撚りに限らず同心撚りされていてもよい。中心撚線11及び外周撚線12は、図3に示すように、純アルミニウムより構成される複数本の素線11a,12aが撚られることで構成されている。
【0015】
ここで、本実施形態において中心撚線11及び外周撚線12を構成する複数本の素線11a,12aは、素線径が0.21mm以上1.0mm未満とされている。素線径が0.21mm未満であると素線11a,12aが細過ぎて断線し易くなってしまうからであり、素線径が1.0mm以上となると素線11a,12aが太過ぎて柔軟性が損なわれてしまうからである。
【0016】
また、本実施形態において導体10と絶縁体20との密着力は6N以上45N以下である。密着力が6N未満であると、電線曲げ時に導体10と絶縁体20とが単独で動き易くなり過ぎてしまい、癖付性が大きく低下してしまうからである。また、密着力が45Nを超えると密着力が高過ぎとなって導体10と絶縁体20とが単独で動き難く一本の太い棒のように作用してしまい柔軟性が損なわれてしまうからである。
【0017】
さらに、本実施形態において絶縁体20は、厚さが0.72mm以上1.80mm以下である。厚さが0.72mm未満であると絶縁体20が薄過ぎて耐摩耗性を確保できなくなるためである。また、厚さが1.80mmを超えると絶縁体20が厚過ぎとなってしまい柔軟性が確保できなくなってしまうためである。
【0018】
加えて、本実施形態において絶縁体20は、架橋ポリエチレンによって構成されていることが好ましい。架橋ポリエチレンであると耐熱性とコストとのバランスを図り、耐熱性とコストとがより優れたアルミニウム電線1を提供し易くできるからである。
【0019】
また、導体10は断面積(サイズ)が30sq以上230sq以下であることが好ましい。断面積が30sq未満であると同じサイズの銅電線と比較して軽量化効果が低くなってしまうからである。また、断面積が230sqを超えるとサイズが大きくなり過ぎてしまい例えば車両用に適用し難くなってしまうからである。
【0020】
さらに、中心撚線11の撚りピッチが撚り外径の15倍以上30倍以下(好ましくは20倍)であり、且つ、外周撚線12の撚りピッチが該当する層の外径の8倍以上15倍以下(好ましくは11倍)であることが好ましい。ここで、該当する層とは、1層目に属する外周撚線12の場合は1層目であり、2層目に属する外周撚線12の場合は2層目である。すなわち、1層目の外周撚線12の撚りピッチは1層目の外径の8倍以上15倍以下であり、2層目の外周撚線12の撚りピッチは2層目の外径の8倍以上15倍以下であることが好ましい。これらの撚りピッチを採用すると、断線、撚り浮き及び撚り崩れが発生してしまうことの防止に寄与することができるからである。
【0021】
次に、本発明の実施例及び比較例を説明する。図4及び図5は、実施例及び比較例を示す図表である。
【0022】
まず、図4及び図5に示すように、実施例1において導体を構成する素線は全て純アルミニウムで構成した。また、実施例1において導体サイズは50sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが32本であり素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は48.9mmであり外径は10.0mmとなった。また、実施例1において絶縁体は架橋PE(polyethylene)により厚さ1.50mmで構成した。このような実施例1に係るアルミニウム電線は外径が13.0mmとなった。さらに、後述するISO19642に準拠する測定方法で密着力を測定した結果、密着力は6Nであった。
【0023】
また、実施例2に係るアルミニウム電線は密着力が45Nである点を除き、実施例1と同じとした。
【0024】
実施例3において素線は全て純アルミニウムで構成した。導体サイズは95sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが62本であり素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は94.7mmであり外径は13.9mmとなった。また、実施例3において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような実施例3に係るアルミニウム電線は外径が16.9mmとなった。さらに、密着力は9Nであった。
【0025】
一方、比較例1において導体を構成する素線は全て純銅で構成した。また、比較例1において導体サイズは30sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚り及び下撚りを19本とし素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は29.0mmであり外径は7.8mmとなった。また、比較例1において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.30mmで構成した。このような比較例1に係るアルミニウム電線は外径が10.4mmとなった。さらに、密着力は86Nであった。
【0026】
比較例2において導体を構成する素線は全て純銅で構成した。また、比較例2において導体サイズは35sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが23本であり素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は35.2mmであり外径は8.4mmとなった。また、比較例2において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような比較例2に係るアルミニウム電線は外径が11.4mmとなった。さらに、密着力は95Nであった。
【0027】
比較例3において導体を構成する素線は全て純銅で構成した。また、比較例3において導体サイズは40sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが26本であり素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は39.7mmであり外径は9.1mmとなった。また、比較例3において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.40mmで構成した。このような比較例3に係る電線は外径が11.9mmとなった。さらに、密着力は110Nであった。
【0028】
比較例4において導体を構成する素線は全て純アルミニウムで構成した。また、比較例4において導体サイズは50sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが83本であり素線径を0.20mmとした。このような導体の断面積は50.6mmであり外径は9.9mmとなった。また、比較例4において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような比較例4に係るアルミニウム電線は外径が12.9mmとなった。なお、このアルミニウム電線は、製造時に素線切れがあり製品として成立せず、密着力等の測定を行わなかった。
【0029】
比較例5において導体を構成する素線は全て純アルミニウムで構成した。また、比較例5において導体サイズは50sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが32本であり素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は48.9mmであり外径は10.0mmとなった。また、比較例5において絶縁体は架橋PEにより厚さ0.50mmで構成した。このような比較例5に係るアルミニウム電線は外径が11.0mmとなった。なお、このアルミニウム電線は、絶縁体の厚さが薄過ぎて耐摩耗性が確保できないうえに被覆厚が安定せず製品として成立しなかった。このため、比較例5については密着力等の測定を行わなかった。
【0030】
比較例6において導体は比較例5と同じとした。また、比較例6において絶縁体は架橋PEにより厚さ0.72mmで構成した。このような比較例6に係るアルミニウム電線は外径が11.4mmとなった。密着力は5Nであった。
【0031】
比較例7において導体は比較例5と同じとした。また、比較例7において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.80mmで構成した。このような比較例7に係るアルミニウム電線は外径が13.6mmとなった。密着力は52Nであった。
【0032】
比較例8において導体を構成する素線は全て純アルミニウムで構成した。また、比較例8において導体サイズは50sqとし、撚線については、素線径1.0mmの素線を61本撚って構成した。このような導体の断面積は47.9mmであり外径は9.0mmとなった。また、比較例8において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような比較例8に係るアルミニウム電線は外径が12.0mmとなった。さらに、密着力は28Nであった。
【0033】
比較例9において導体を構成する素線は全て純アルミニウムで構成した。また、比較例9において導体サイズは50sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが13本であり素線径を0.5mmとした。このような導体の断面積は48.5mmであり外径は9.4mmとなった。また、比較例9において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような比較例9に係るアルミニウム電線は外径が12.4mmとなった。さらに、密着力は200Nであった。
【0034】
比較例10において導体を構成する素線は全て純銅で構成した。また、比較例10において導体サイズは70sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが46本であり素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は70.3mmであり外径は12.0mmとなった。また、比較例10において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような比較例10に係る電線は外径が15.0mmとなった。さらに、密着力は120Nであった。
【0035】
比較例11において導体を構成する素線は全て純アルミニウムで構成した。また、比較例11において導体サイズは95sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが25本であり素線径を0.5mmとした。このような導体の断面積は93.2mmであり外径は12.9mmとなった。また、比較例11において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような比較例11に係るアルミニウム電線は外径が15.9mmとなった。さらに、密着力は55Nであった。
【0036】
比較例12において導体を構成する素線は全てアルミニウム合金で構成した。また、比較例12において導体サイズは50sqとし、中心撚線及び外周撚線については、本撚りが19本であり下撚りが32本であり素線径を0.32mmとした。このような導体の断面積は48.9mmであり外径は10.0mmとなった。また、比較例12において絶縁体は架橋PEにより厚さ1.50mmで構成した。このような比較例12に係るアルミニウム電線は外径が13.0mmとなった。さらに、密着力は54Nであった。
【0037】
なお、密着力については以下のように測定した。図6は、密着力の測定方法を示す概略図であり、(a)は密着力を測定するためのサンプルを示し、(b)は密着力の測定方法を示している。
【0038】
密着力を測定するにあたっては、まず図6(a)に示すように、全長75mmの電線に対して、一端から25mmの長さだけ絶縁体を剥ぎ取って導体を露出させた。そして、図6(b)に示すように、導体外径+0.1mmの径を有する板材の孔部に導体を挿入し、導体を挿入側から200mm/minの速度で引き、導体が絶縁体と分離するまで引き抜いたときの力(最大値)を密着力とした。
【0039】
以上のような実施例1~3及び比較例1~12の電線に対して柔軟性試験を行い、実施例1~3及び比較例2,6の電線に対して癖付性試験を行った。
【0040】
図7は、柔軟性試験の様子を示す概念図である。柔軟性試験については、導体上に絶縁体が被覆された400mmの電線をサンプルとする。そして、図7に示すように、サンプルの他端部を固定し、一端部から荷重を掛けていき、サンプルが180度曲がった時点の荷重を柔軟性とした。
【0041】
図8は、癖付性試験の結果を示す図表である。癖付性試験は、図8に示すように、φ75及びφ50の円柱に対して電線を巻き付けて結束バンド等で固定し1分間静止した後に固定部を解放したときの電線の広がり具合を評価した。図4及び図5における評価については、円筒の中心を通過する線上(図8の破線参照)における電線の広がりが75mm以上であれば癖付性を「×」とし、75mm未満であれば癖付性を「〇」とした。なお、φ75及びφ50の円柱を採用した理由は、電線の大凡5倍径での癖付性を確認するためである。
【0042】
図4及び図5に示すように、実施例1~3については、柔軟性が7N以上11N以下となり、柔軟性に優れる結果となった。同様に比較例1,2,6についても柔軟性に優れる結果となった。特に、実施例1~3のアルミニウム電線は、比較例1,2の銅電線よりも太いにもかかわらず同程度の柔軟性を発揮できることがわかった。一方、比較例3,7~12は、柔軟性が11Nを超えており、実施例1~3ほどの柔軟性が得られなかった。なお、比較例4,5について製品として成立せず、柔軟性の測定を行わなかった。
【0043】
また、図4図5、及び図8に示すように、実施例1~3(図8において実施例3は省略)についてはアルミニウム電線の広がりが75mm未満であり、癖付性は良好な結果、すなわちプロテクタやバンドクランプによる経路規制を要しない電線となった。一方、比較例2,6に(図8において比較例2は省略)ついては、電線の広がりが75mm以上であり、経路規制を要するものとなった。
【0044】
以上より、実施例1~3に係るアルミニウム電線は、柔軟性と癖付性との向上を図れるものであることが分かった。
【0045】
なお、実施例に係るアルミニウム電線は銅電線と比較して外径があまり大きくならず、大きな軽量化も可能となっている。図9は、実施例3のアルミニウム電線と比較例10の銅電線との比較結果を示す図表である。周囲温度を105℃とし、250Aを連続通電した場合、図9に示すように、実施例3に係るアルミニウム電線の導体の最大温度は136.9℃となり、比較例10に係る銅電線の導体の最大温度は137.2℃となった。すなわち、両者は略同じ温度となった。
【0046】
ここで電線外径を比較すると、実施例3に係るアルミニウム電線は16.9mmであり、比較例10に係る銅電線は15.0mmであった。すなわち、実施例3のアルミニウム電線は、比較例10の銅電線に対して外径が約113.5%となり、両者の大きな差はなかった。
【0047】
これに対して、重量を比較すると、実施例3に係るアルミニウム電線は288.5g/mであり、比較例10に係る銅電線は731.3g/mであった。すなわち、実施例3のアルミニウム電線は、比較例10の銅電線に対して重量が約60.6%も削減される結果となった。
【0048】
このようにして、本実施形態に係るアルミニウム電線1及びワイヤーハーネスWHによれば、導体10は、素線11a,12aを撚って形成した中心撚線11と外周撚線12とで構成されるだけでなく、素線径が1.0mm未満である。このため、素線11a,12aが太くなり過ぎてアルミニウム電線1の柔軟性が損なわれてしまう事態を抑制することとなる。また、素線径が0.21mm以上であるため、電線曲げ時に断線してしまう可能性も低減される。
【0049】
さらに、導体10と絶縁体20との密着力が6N以上であるため、或る程度の密着力が確保されて導体10と絶縁体20とがバラバラに動き難くなりそれぞれが単独で動くことによる癖付性の低下が抑制される。また、導体10と絶縁体20との密着力が45N以下であるため、導体10と絶縁体20とが一体化されて太い物体を曲げるときのような柔軟性の低下が抑制される。
【0050】
加えて、絶縁体20は、厚さが0.72mm以上1.80mm以下であるため、絶縁体20が薄過ぎて耐摩耗性を確保できなくなったり、厚過ぎて柔軟性が低下してしまったりすることが抑制される。
【0051】
従って、柔軟性と癖付性との向上を図ることができるアルミニウム電線1及びワイヤーハーネスWHを提供することができる。
【0052】
また、絶縁体20は架橋ポリエチレンであるため、耐熱性とコストとのバランスを図り、両者により優れたアルミニウム電線1を提供することができる。
【0053】
また、導体10は、断面積が30sq以上であるため、同じサイズの銅電線と比較して軽量化効果を或る程度大きくしつつ、断面積が230sq以下であるため、サイズが大きくなり過ぎず例えば車両用に適用し易くすることができる。
【0054】
また、中心撚線11の撚りピッチが撚り外径の15倍以上30倍以下であり、外周撚線12の撚りピッチが撚り外径の8倍以上15倍以下である。このため、加工限界を超える可能性が大きく低減され、断線、撚り浮き及び撚り崩れが発生してしまうことの防止に寄与することができる。
【0055】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、周知及び公知の技術を組み合わせてもよい。
【0056】
例えば本実施形態に係るワイヤーハーネスWHは他部材Oの例としてコネクタO1及び端子O2を例示したが、他部材Oは特にこれらに限られず、例えば同種のアルミニウム電線1等であってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 :アルミニウム電線
10 :導体
11 :中心撚線
12 :外周撚線
11a,12a :素線
20 :絶縁体
O :他部材
WH :ワイヤーハーネス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-07-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と前記導体を被覆した絶縁体とを備え、前記導体が中心撚線と前記中心撚線の外周に2層以上に積層された複数本の外周撚線とで構成され、前記中心撚線及び前記外周撚線が純アルミニウムからなる素線を撚って構成されたアルミニウム電線であって、
前記素線は、それぞれ素線径が0.21mm以上1.0mm未満であり、
前記導体と前記絶縁体とは、密着力が6N以上45N以下であり、柔軟性が7N以上11N以下であり、
前記絶縁体は、厚さが0.72mm以上1.80mm以下である
ことを特徴とするアルミニウム電線。
【請求項2】
前記絶縁体は架橋ポリエチレンである
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項3】
前記導体は、断面積が30sq以上230sq以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項4】
前記導体は、前記中心撚線の撚りピッチが撚り外径の15倍以上30倍以下であり、前記外周撚線の撚りピッチが該当する層の外径の8倍以上15倍以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム電線。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のアルミニウム電線を備えることを特徴とするワイヤーハーネス。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明に係るアルミニウム電線は、導体と前記導体を被覆した絶縁体とを備え、前記導体が中心撚線と前記中心撚線の外周に2層以上に積層された複数本の外周撚線とで構成され、前記中心撚線及び前記外周撚線が純アルミニウムからなる素線を撚って構成されたアルミニウム電線であって、前記素線は、それぞれ素線径が0.21mm以上1.0mm未満であり、前記導体と前記絶縁体とは、密着力が6N以上45N以下であり、柔軟性が7N以上11N以下であり、前記絶縁体は、厚さが0.72mm以上1.80mm以下であることを特徴とする。