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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144985
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】インクジェット捺染装置
(51)【国際特許分類】
   D06B 11/00 20060101AFI20241004BHJP
   D06B 23/00 20060101ALI20241004BHJP
   D06H 3/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
D06B11/00 A
D06B23/00
D06H3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057195
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001933
【氏名又は名称】弁理士法人 佐野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 智士
【テーマコード(参考)】
3B154
【Fターム(参考)】
3B154AB19
3B154AB27
3B154BA09
3B154BB47
3B154BD01
3B154BD02
3B154BF01
3B154BF17
3B154CA12
3B154DA13
3B154DA21
(57)【要約】
【課題】捺染印刷の前後でシートの手触りが変わることを抑制する。
【解決手段】インクジェット捺染装置は、シートにインクを吐出してシートに画像を形成する画像形成部と、画像が形成されたシートに後処理剤を塗布する後処理部と、画像が形成される前のシートの摩擦係数である第1摩擦係数を測定する第1測定部と、画像が形成された後であって後処理剤が塗布される前のシートの摩擦係数である第2摩擦係数を測定する第2測定部と、制御部と、を備え、制御部は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差に基づき、シートに対する後処理剤の塗布量を制御する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートにインクを吐出して前記シートに画像を形成する画像形成部と、
前記画像が形成された前記シートに後処理剤を塗布する後処理部と、
前記画像が形成される前の前記シートの摩擦係数である第1摩擦係数を測定する第1測定部と、
前記画像が形成された後であって前記後処理剤が塗布される前の前記シートの摩擦係数である第2摩擦係数を測定する第2測定部と、
前記後処理部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第2摩擦係数から前記第1摩擦係数を減じた摩擦係数差に基づき、前記シートに対する前記後処理剤の塗布量を制御する、インクジェット捺染装置。
【請求項2】
前記シートに対する前記後処理剤の塗布量が多いほど、前記シートの摩擦係数が小さくなり、
前記制御部は、前記摩擦係数差が大きいほど、前記シートに対する前記後処理剤の塗布量を多くする、請求項1に記載のインクジェット捺染装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記シートに対する単位面積当たりの前記インクの吐出量が多いほど、前記シートに対する前記後処理剤の塗布量を多くする、請求項1に記載のインクジェット捺染装置。
【請求項4】
前記シートの種類を入力する入力部と、
温度を検知する温度検知部と、を備え、
前記制御部は、前記摩擦係数差に所定係数を乗じた値に基づき、前記シートに対する前記後処理剤の塗布量を設定し、
前記制御部は、前記シートに対する単位面積当たりの前記インクの吐出量が多いほど、前記所定係数を大きい値に設定し、
前記制御部は、前記入力部により入力された前記シートの種類および前記温度検知部により検知された温度の少なくとも1つに基づき、前記所定係数を補正する、請求項3に記載のインクジェット捺染装置。
【請求項5】
前記シートは、シート搬送方向と直交する幅方向に並ぶ複数のシート領域に区分され、
複数の前記シート領域にそれぞれ割り当てられ、対応する前記シート領域の前記第2摩擦係数を測定する複数の前記第2測定部を備え、
前記制御部は、複数の前記シート領域のそれぞれの前記第2摩擦係数から前記第1摩擦係数を減じることにより、複数の前記シート領域にそれぞれ対応する複数の前記摩擦係数差を求め、複数の前記シート領域のそれぞれの前記摩擦係数差に基づき、複数の前記シート領域のそれぞれ毎に前記後処理剤の塗布量を制御する、請求項1に記載のインクジェット捺染装置。
【請求項6】
複数の前記シート領域にそれぞれ割り当てられ、対応する前記シート領域の前記第1摩擦係数を測定する複数の前記第1測定部を備え、
複数の前記シート領域のそれぞれ毎に前記後処理剤の塗布量を制御するとき、前記制御部は、複数の前記シート領域のそれぞれの前記第2摩擦係数から、同じ前記シート領域の前記第1摩擦係数を減じることにより、複数の前記シート領域のそれぞれの前記摩擦係数差を求める、請求項5に記載のインクジェット捺染装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット捺染装置は、繊維製品からなるシートに画像を形成する。たとえば、シートに対する画像形成後、シートに後処理剤を塗布する後処理が行われる。これにより、風合い向上、着色堅牢性向上、滑り性向上、帯電防止、変色防止および難燃性向上などの効果がシートに付与される(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-11466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シートに対して後処理が行われても、捺染印刷の前後でシートの風合いが変わる場合がある。たとえば、捺染印刷の前後でシートの手触りが変わる場合がある。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、捺染印刷の前後でシートの手触りが変わることを抑制することが可能なインクジェット捺染装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一局面によるインクジェット捺染装置は、シートにインクを吐出してシートに画像を形成する画像形成部と、画像が形成されたシートに後処理剤を塗布する後処理部と、画像が形成される前のシートの摩擦係数である第1摩擦係数を測定する第1測定部と、画像が形成された後であって後処理剤が塗布される前のシートの摩擦係数である第2摩擦係数を測定する第2測定部と、後処理部を制御する制御部と、を備える。制御部は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差に基づき、シートに対する後処理剤の塗布量を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の構成では、捺染印刷の前後でシートの手触りが変わることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態によるインクジェット捺染装置の概略図である。
図2】一実施形態によるインクジェット捺染装置のブロック図である。
図3】一実施形態によるインクジェット捺染装置で実行される印刷ジョブの流れを示すフローチャートである。
図4】シートの種類によるシートの摩擦係数と後処理剤の塗布量との関係を示すグラフである。
図5】シートに対するインク吐出量によるシートの摩擦係数と後処理剤の塗布量との関係を示すグラフである。
図6】一実施形態によるインクジェット捺染装置での捺染印刷の前後のシートの摩擦係数を示すグラフである。
図7】変形例によるインクジェット捺染装置で測定される摩擦係数の測定箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1図6を参照し、本発明の一実施形態によるインクジェット捺染装置100ついて説明する。以下の説明では、インクジェット捺染装置100が設置される平坦な床面に対して垂直な方向を上下方向と定義する。
【0010】
インクジェット捺染装置100は、記録媒体としてのシートSに画像を捺染印刷する印刷ジョブを実行する。シートSは、繊維製品である。なお、インクジェット捺染装置100は、直接捺染方式で印刷を行う捺染装置であり、シートSにインクを直接吐出することにより、シートSに画像を形成する。すなわち、インクジェット捺染装置100の印刷方式は転写捺染方式ではない。転写捺染方式とは、分散染料インク(昇華インク)を搭載したインクジェットプリンターで専用紙(転写紙)に画像を形成し、熱転写機によって転写紙上のインクを気化させ、そのインクのみを素材(主にポリエステル)に浸透させる方式である。直接捺染方式では、転写捺染方式と異なり、転写処理後の転写紙を破棄する必要がなく、工数も少ないので、低コストで捺染印刷を行える。
【0011】
インクジェット捺染装置100で印刷対象となるシートSとしては、織物、編物および不織布などがある。セルロース系繊維(綿、麻およびレーヨンなど)、蛋白質系繊維(絹および羊毛など)および合成繊維(ナイロン、ビニロンおよびポリエステルなど)から選択される一種または二種以上の繊維材料でシートSが構成される。
【0012】
<インクジェット捺染装置の全体構成>
図1に示すように、インクジェット捺染装置100は、たとえば、シートSとしての長尺の布帛を捺染印刷の対象とする。シートSが長尺であるため、インクジェット捺染装置100は、繰出部11および回収部12を備える。シートSは、繰出部11によって繰り出され、回収部12によって回収される。
【0013】
繰出部11は、回転軸110および回転軸110を回転させるモーター(図示せず)を有する。シートSは、回転軸110に巻かれる。繰出部11は、回転軸110を回転させることにより、シートSを繰り出す。
【0014】
回収部12は、回転軸120および回転軸120を回転させるモーター(図示せず)を有する。回収部12は、回転軸120を回転させ、繰出部11から繰り出されるシートSを回転軸120に巻き取る。すなわち、回収部12は、シートSを回収する。
【0015】
インクジェット捺染装置100は、第1ベルト搬送部21、第2ベルト搬送部22、第3ベルト搬送部23および第4ベルト搬送部24を備える。第1ベルト搬送部21、第2ベルト搬送部22、第3ベルト搬送部23および第4ベルト搬送部24は、繰出部11から回収部12に向かってこの順番で、繰出部11と回収部12との間に配置される。
【0016】
第1~第4ベルト搬送部21~24は、それぞれ、回転可能に張架された無端状の搬送ベルト20を有する。シートSは、回転軸110および120にそれぞれ巻き付けられることにより、各搬送ベルト20の外周面上に張られる。各搬送ベルト20は、その外周面をシートSの印刷面とは反対面に接触させる。シートSの両面のうち、画像が形成される面が印刷面である。
【0017】
第1~第4ベルト搬送部21~24は、それぞれ、搬送ベルト20の外周面にシートSを吸着保持し、回転する。これにより、繰出部11と回収部12との間でシートSが搬送される。第1~第4ベルト搬送部21~24の各設置領域では、搬送中のシートSの印刷面は上方を向く。
【0018】
第1~第4ベルト搬送部21~24によるシートSの搬送方向は上下方向と直交する方向である。以下の説明では、第1~第4ベルト搬送部21~24によるシートSの搬送方向を単に「シート搬送方向」と称する。また、シート搬送方向および上下方向と直交する方向を単に「幅方向」と称する。図1では、紙面に対して垂直な方向が幅方向である。
【0019】
インクジェット捺染装置100は、画像形成部3を備える。画像形成部3は、第1ベルト搬送部21の上方に配置される。画像形成部3は、第1ベルト搬送部21の上方から、搬送中のシートSにインクを直接吐出する。これにより、画像形成部3は、シートSの印刷面に画像を形成する。
【0020】
画像形成部3は、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの各色にそれぞれ対応する4色分の記録ヘッド30を備える。各記録ヘッド30はライン型であり、幅方向を長手方向とする。各記録ヘッド30は、下方を向く面をインク吐出面として有する。各記録ヘッド30は、複数のノズル(図示せず)をインク吐出面に有する。
【0021】
各記録ヘッド30は、第1ベルト搬送部21の搬送ベルト20の外周面と上下方向に所定間隔(たとえば、3mm)を隔てて配置される。搬送ベルト20によるシートSの搬送中、搬送ベルト20上のシートSと各記録ヘッド30とが上下方向に間隔を隔てて対向する。
【0022】
画像形成部3は、シートSに形成すべき画像データに基づき、各記録ヘッド30からインクを吐出させる。各記録ヘッド30は、それぞれ、対応する色のインクを吐出する。各記録ヘッド30から吐出されるインクはシートSに着弾する。これにより、シアン、マゼンタ、イエローおよびブラックの各色が重ね合わされたカラー画像がシートSの印刷面に形成される。
【0023】
捺染印刷に用いるインクの種類としては、染料インクおよび顔料インクのいずれでもよい。たとえば、顔料粒子を所定の濃度でポリマー溶液中に分散させた顔料分散体、ウレタンディスパージョン(ウレタン樹脂エマルション)、界面活性剤、ジエチレングリコールおよび水を所定の組成比で混合した顔料インクが用いられる。
【0024】
インクジェット捺染装置100は、画像乾燥部4を備える。画像乾燥部4は、第2ベルト搬送部22の上方に配置される。すなわち、画像乾燥部4は、画像形成部3のシート搬送方向下流側に配置される。画像乾燥部4は、ファン(図示せず)を備える。画像乾燥部4のファンは、第2ベルト搬送部22の搬送ベルト20の外周面と上下方向に対向する。第2ベルト搬送部22の搬送ベルト20上には、シートSのうち画像形成部3を通過した領域(すなわち、画像形成部3により形成された画像を含む領域)が吸着保持される。
【0025】
以下の説明では、シートSのうち画像形成部3を通過した領域(すなわち、画像形成部3により形成された画像を含む領域)を単に「印刷済み領域」と称する場合がある。これに対し、シートSのうち画像形成部3に到達前の領域を単に「印刷前領域」と称する場合がある。
【0026】
画像乾燥部4は、第2ベルト搬送部22の上方からシートSに向けて、ファンの駆動により発生する空気流を吹き付ける。これにより、画像乾燥部4は、シートSに形成された画像(すなわち、インク)を乾燥させる。なお、シートSにインクを十分に結着させるには、高温(たとえば、100℃から160℃)の熱風をシートSに吹き付けることが好ましい。
【0027】
インクジェット捺染装置100は、後処理部5を備える。後処理部5は、第3ベルト搬送部23の上方に配置される。すなわち、後処理部5は、画像形成部3よりもシート搬送方向下流側に配置される。後処理部5は、画像乾燥部4よりもシート搬送方向下流側に配置される。後処理部5は、複数のノズルを有するスプレー(図示せず)を備える。後処理部5の複数のノズルは、第3ベルト搬送部23の搬送ベルト20の外周面と上下方向に対向する。第3ベルト搬送部23の搬送ベルト20上には、シートSの印刷済み領域が吸着保持される。
【0028】
後処理部5は、後処理に用いる水系の後処理剤を収容する。後処理部5は、第3ベルト搬送部23の上方からシートSに向けて、後処理剤を吹き付ける。後処理部5の複数のノズルから、後処理剤が噴射される。これにより、シートSの印刷済み領域が後処理剤で被覆される。
【0029】
なお、後処理に用いる水系の後処理剤には、ワックスまたはシリコーンが含有される。すなわち、シートSに対して後処理が行われることにより、ワックスまたはシリコーンがシートSの印刷済み領域に塗布される。これにより、シートSの印刷済み領域に対して平滑性を付与できる。すなわち、シートSの印刷済み領域の滑り性が向上する。
【0030】
インクジェット捺染装置100は、後処理剤乾燥部6を備える。後処理剤乾燥部6は、第4ベルト搬送部24の上方に配置される。すなわち、後処理剤乾燥部6は、画像形成部3よりもシート搬送方向下流側に配置される。後処理剤乾燥部6は、後処理部5のシート搬送方向下流側に配置される。後処理剤乾燥部6は、ファン(図示せず)を備える。後処理剤乾燥部6のファンは、第4ベルト搬送部24の搬送ベルト20の外周面と上下方向に対向する。第4ベルト搬送部24の搬送ベルト20上には、シートSの印刷済み領域(具体的には、後処理剤が塗布された領域)が吸着保持される。
【0031】
後処理剤乾燥部6は、第4ベルト搬送部24の上方からシートSに向けて、ファンの駆動により発生する空気流を吹き付ける。これにより、後処理剤乾燥部6は、シートSに塗布された後処理剤を乾燥させる。なお、シートSに塗布された後処理剤を十分に乾燥させるには、高温(たとえば、100℃から160℃)の熱風をシートSに吹き付けることが好ましい。
【0032】
ここで、インクジェット捺染装置100は、シートSの摩擦係数を測定する測定部7を備える。測定部7は、搬送中のシートSの摩擦係数を測定する。測定部7により測定されるシートSの摩擦係数は、シート搬送方向の動摩擦係数である。測定部7の構成は特に限定されない。たとえば、測定部7は、押圧台71、押圧部材72および摩擦力センサー73を備える。
【0033】
押圧台71は、シートSの下方に配置される。押圧台71は、上方を向く押圧面を有する。押圧台71の押圧面にシートSが接触する。押圧部材72は、押圧台71と上下方向に対向するよう配置される。押圧部材72は、搬送中のシートSを押圧台71との間に挟み、搬送中のシートSを押圧台71に向けて所定荷重で押圧する。言い換えると、押圧部材72は、シートS上に配置される重りである。摩擦力センサー73は、押圧部材72に接続される。摩擦力センサー73は、搬送中のシートSと押圧部材72との間に生じる摩擦力に応じた値を出力する。
【0034】
測定部7は、搬送中のシートSと押圧部材72との間の摩擦係数を測定し、その測定値を出力する。測定部7から出力される測定値(摩擦係数)は、搬送中のシートSに対する押圧部材72の押圧力(荷重)と、搬送中のシートSと押圧部材72との間に生じる摩擦力とに応じた値である。たとえば、搬送中のシートSに対する押圧部材72の押圧力は一定である。このため、測定部7は、搬送中のシートSと押圧部材72との間に生じる摩擦力に応じて出力値(摩擦係数)を変化させる。
【0035】
測定部7は、画像形成部3よりもシート搬送方向上流側および画像形成部3よりもシート搬送方向下流側にそれぞれ配置される。画像形成部3よりもシート搬送方向上流側に配置される測定部7は「第1測定部」に相当し、以下の説明では、符号7Aを付して第1測定部7Aと称する。画像形成部3よりもシート搬送方向下流側に配置される測定部7は「第2測定部」に相当し、以下の説明では、符号7Bを付して第2測定部7Bと称する。
【0036】
第1測定部7Aは、繰出部11と画像形成部3とのシート搬送方向間に配置される。これにより、第1測定部7Aは、画像が形成される前のシートS(すなわち、インクが付着する前のシートS)の摩擦係数を測定する。言い換えると、第1測定部7Aは、シートSの印刷前領域の摩擦係数を測定する。以下の説明では、画像が形成される前のシートSの摩擦係数(すなわち、印刷前領域の摩擦係数)を第1摩擦係数と称する。
【0037】
第2測定部7Bは、画像乾燥部4と後処理部5とのシート搬送方向間に配置される。これにより、第2測定部7Bは、画像が形成された後(すなわち、インクが付着した後)であって後処理剤が塗布される前のシートSの摩擦係数を測定する。言い換えると、第2測定部7Bは、シートSの印刷済み領域の摩擦係数を測定する。以下の説明では、画像が形成された後であって後処理剤が塗布される前のシートSの摩擦係数(すなわち、印刷済み領域の摩擦係数)を第2摩擦係数と称する。
【0038】
また、図2に示すように、インクジェット捺染装置100は、制御部10を備える。制御部10は、CPUおよびASICなどの処理回路を含む。制御部10は、ROM、RAMおよびHDDなどの記憶デバイスを含む。
【0039】
制御部10は、印刷ジョブでシートSに形成すべき画像データを取得する。たとえば、インクジェット捺染装置100は、外部制御装置(たとえば、パーソナルコンピューター)と通信可能に接続される。インクジェット捺染装置100は、外部制御装置から、印刷ジョブでシートSに形成すべき画像データを受信する。制御部10は、外部制御装置から受信した画像データに基づき、繰出部11、回収部12および第1~第4ベルト搬送部21~24によるシートSの搬送を制御する。制御部10は、画像データに基づき、画像形成部3によるインクの吐出(すなわち、シートSに対する画像の形成)を制御する。
【0040】
制御部10は、画像乾燥部4および後処理剤乾燥部6を制御する。制御部10は、画像乾燥部4および後処理剤乾燥部6の各ファンの送風量を制御する。制御部10は、画像乾燥部4および後処理剤乾燥部6の各ファンの送風温度を制御する。
【0041】
制御部10は、後処理部5を制御する。制御部10は、シートSに対する後処理剤の塗布量を制御する。詳細は後述する。
【0042】
制御部10は、測定部7(すなわち、第1測定部7Aおよび第2測定部7B)を制御する。制御部10は、測定部7に測定を行わせ、第1摩擦係数および第2摩擦係数を認識する。または、制御部10は、測定部7により測定された摩擦力に基づき、第1摩擦係数および第2摩擦係数を算出する。
【0043】
インクジェット捺染装置100は、温度検知部8を備える。温度検知部8は、インクジェット捺染装置100の設置環境の温度を検知する。制御部10は、温度検知部8により検知される温度を認識する。
【0044】
インクジェット捺染装置100は、入力部9を備える。入力部9は、ユーザーから情報の入力を受け付ける。入力部9は、操作パネルであってもよいし、インクジェット捺染装置100に通信可能に接続されるパーソナルコンピューターであってもよい。制御部10は、入力部9が入力を受け付けた情報を認識する。たとえば、入力部9は、印刷ジョブで画像を形成すべきシートSの種類およびそのシートSのサイズなど、印刷ジョブに関する種々の情報の入力を受け付ける。すなわち、入力部9は、シートSの種類をインクジェット捺染装置100に入力する。
【0045】
<印刷ジョブの流れ>
印刷ジョブの実行に際して、繰出部11にロール状のシートSがセットされる。また、シートSの長手方向の端部が回収部12に巻き付けられる。そして、繰出部11からシートSが繰り出され、回収部12がシートSを巻き取る。これにより、シートSの一範囲に着目すると、その範囲は、繰出部11から、第1測定部7A、画像形成部3、画像乾燥部4、第2測定部7B、後処理部5、および、後処理剤乾燥部6をこの順番で経由し、回収部12に達する。すなわち、シートSが搬送される。また、シートSの一範囲に着目すると、その範囲に対し、図3に示すフローに沿った処理が行われる。
【0046】
具体的には、まず、制御部10は、第1摩擦係数の測定を第1測定部7Aに行わせる(ステップ♯1)。そして、制御部10は、シートSに対する画像の形成を画像形成部3に行わせる(ステップ♯2)。その後、画像乾燥部4により、シートSに形成された画像の乾燥が行われる(ステップ#3)。
【0047】
ここで、制御部10は、第2摩擦係数の測定を第2測定部7Bに行わせる(ステップ#4)。また、制御部10は、摩擦係数差Δμを求める(ステップ#5)。摩擦係数差Δμは、以下の式(1)に基づき求められる。
Δμ=μ2-μ1 ・・・(1)
【0048】
なお、上記式(1)において、μ1は、第1摩擦係数であり、μ2は、第2摩擦係数である。すなわち、摩擦係数差Δμは、第2摩擦係数μ2から第1摩擦係数μ1を減じた値である。
【0049】
制御部10は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた値である摩擦係数差に基づき、後処理部5によるシートSに対する後処理剤の塗布量を設定する(ステップ#6)。そして、制御部10は、後処理部5に後処理を行わせる(ステップ♯7)。後処理部5は、後処理として、シートSに対して後処理剤を塗布する処理を行う。制御部10は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差に基づき、シートSに対する後処理剤の塗布量を制御する。詳細は後述する。その後、後処理剤乾燥部6により、シートSに塗布された後処理剤の乾燥が行われる(ステップ#8)。
【0050】
<後処理剤の塗布量>
シートSに対する画像形成後、シートSにインクが付着することに起因して、シートSの平滑性(滑り性)は画像形成前よりも低くなる。言い換えると、印刷済み領域は印刷前領域よりも、平滑性が低い。さらに言い換えると、第2摩擦係数は第1摩擦係数よりも大きい。
【0051】
このため、画像形成の前後でシートSの風合い(平滑性)に違いが生じる。ユーザーによっては、画像形成の前後でシートSの平滑性が異なることにより、シートSの手触りが変わったと感じる。このため、画像形成の前後でシートSの摩擦係数に違いが生じないことが好ましい。
【0052】
ここで、図4に示すように、シートSの種類によってシートSの摩擦係数μが異なる。しかし、シートSの種類にかかわらず、シートSに対する後処理剤の塗布量Vが多くなるほど、シートSの摩擦係数μが小さくなる。図4では、種類AおよびBの各シートSの摩擦係数μを示す。
【0053】
さらに、図5に示すように、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量(すなわち、シートSに対する印字率)によっても、シートSの摩擦係数μが変わる。具体的には、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量が多いほど、すなわち、シートSに対する印字率が高いほど、シートSの摩擦係数μは大きい。しかし、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量の多少にかかわらず、シートSに対する後処理剤の塗布量Vが多くなるほど、シートSの摩擦係数μが小さくなる。
【0054】
そこで、制御部10は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差に基づき、後処理部5によるシートSに対する後処理剤の塗布量を制御する。具体的には、制御部10は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差が大きいほど、シートSに対する後処理剤の塗布量を多くする。言い換えると、制御部10は、画像形成後のシートSの平滑性(印刷済み領域の平滑性)と画像形成前のシートSの平滑性(印刷前領域の平滑性)との差が大きいほど、シートSに対する後処理剤の塗布量を多くする。
【0055】
たとえば、シートSに対する後処理剤の塗布量を調整するとき、制御部10は、後処理部5の複数のノズルのそれぞれからの単位時間当たりの後処理剤の噴出量を増減させる。この場合には、制御部10は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差が大きいほど、後処理部5の複数のノズルのそれぞれからの単位時間当たりの後処理剤の噴出量を多くする。
【0056】
また、たとえば、シートSに対する後処理剤の塗布量を調整するとき、制御部10は、後処理部5の複数のノズルのうち後処理剤を噴出させるノズル数を増減させる。この場合には、制御部10は、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差が大きいほど、後処理部5の複数のノズルのうち後処理剤を噴出させるノズル数を多くする。
【0057】
この構成では、画像形成後のシートSの摩擦係数(すなわち、第2摩擦係数)から画像形成前のシートSの摩擦係数(すなわち、第1摩擦係数)を減じた摩擦係数差が大きい場合、その分、シートSに対する後処理剤の塗布量が多くなるので、画像形成後のシートSの摩擦係数が小さくなり、画像形成後のシートSの摩擦係数を画像形成前のシートSの摩擦係数に近づけることができる。あるいは、画像形成後のシートSの摩擦係数と画像形成前のシートSの摩擦係数とを同じ(略同じを含む)にできる。これにより、シートSの手触り(すなわち、シートSの風合い)が捺染印刷の前後で変わることを抑制できる。
【0058】
制御部10は、以下の式(2)に基づき、後処理部5によるシートSに対する後処理剤の塗布量Vを設定する。以下の式(2)において、Δμは、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差である。
V=aΔμ・・・(2)
【0059】
上記式(2)において、aは、所定係数であり、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量(すなわち、シートSに対する印字率)に基づき設定される係数である。すなわち、所定係数aは、シートSに形成すべき画像に基づき設定される。制御部10は、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量が多いほど、所定係数aを大きい値に設定する。
【0060】
この構成では、制御部10は、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量が多いほど、シートSに対する後処理剤の塗布量を多くする。なお、制御部10は、印刷ジョブでシートSに形成すべき画像データに基づき、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量を求める。
【0061】
これにより、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量が多いほど、シートSに対する後処理剤の塗布量が多くなる。ここで、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量が多い場合には少ない場合よりも、シートSに対する後処理剤の塗布量を多くしなければ、シートSの平滑性が高くならない。このため、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量が多いほど、シートSに対する後処理剤の塗布量を多くすることが好ましい。たとえば、シートSに形成する画像を切り替えたとき、その切り替え後の画像に応じて、シートSに対する後処理剤の塗布量が調整される。
【0062】
また、或るシートSと別の種類のシートSとでは、シートSに対する後処理剤の塗布量が同じであっても、後処理剤の塗布後に得られる平滑性に違いが生じる。さらに、シートSの種類が同じであっても、インクジェット捺染装置100の設置環境の温度により、後処理剤の塗布後に得られる平滑性に違いが生じる。
【0063】
このため、制御部10は、印刷ジョブで画像を形成すべきシートSの種類(すなわち、入力部9により入力されたシートSの種類)、および、温度検知部8により検知された温度(すなわち、インクジェット捺染装置100の設置環境の温度)の少なくとも1つに基づき、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量に基づき設定した所定係数a(上記式(2)の所定係数a)を補正する。なお、シートSに対する単位面積当たりのインクの吐出量が多いほど、所定係数aは大きくなる。これにより、シートSに対する後処理剤の塗布量が適切に調整される。すなわち、印刷ジョブで画像を形成すべきシートSの種類を切り替えたとき、その切り替え後のシートSの種類に応じて、シートSに対する後処理剤の塗布量が調整される。また、インクジェット捺染装置100の設置環境の温度が変化したとき、その変化後の温度に応じて、シートSに対する後処理剤の塗布量が調整される。
【0064】
上記式(2)に基づき後処理剤の塗布量を設定して実際に捺染印刷を行った結果を図6に示す。図6に示すように、第1摩擦係数(A)は、0.6であった。第2摩擦係数(B)は、第1摩擦係数(A)よりも高い0.9であった。そして、回収部12に回収された捺染物としてのシートSの摩擦係数(C)を測定したところ、第1摩擦係数(A)と同じ0.6であった。すなわち、捺染印刷の前後でシートSの手触りが略同じになった。
【0065】
たとえば、シートSに対する後処理剤の塗布量を設定するための設定情報101が予め制御部10の記憶デバイスに記憶される(図2参照)。設定情報101では、シートSに対する後処理剤の塗布量が複数段階のレベルに区分される。また、設定情報101では、シートSに対する後処理剤の塗布量がレベル毎に予め定められる。なお、シートSに対する後処理剤の塗布量を何段階にレベル分けするかは特に限定されない。
【0066】
そして、制御部10は、上記式(2)に基づき後処理剤の塗布量を求め、設定情報101に基づき、当該求めた塗布量のレベルを対象レベルとして認識する。そして、制御部10は、シートSに対する後処理剤の塗布量を対象レベルに対応する量に設定する。
【0067】
なお、設定情報101の設定をユーザーが行えてもよい。具体的には、各レベルに対応付ける後処理剤の塗布量をユーザーが設定できてもよい。この構成では、ユーザーは任意に、或るレベルに対応する後処理剤の塗布量を初期値よりも増やすこともできるし減らすこともできる。すなわち、ユーザーは任意に、捺染印刷後のシートSの手触りを設定できる。これにより、ユーザーの利便性が向上する。
【0068】
<変形例>
変形例では、インクジェット捺染装置100は、複数の第2測定部7Bを備える。第2測定部7Bの個数は特に限定されない。以下の説明では、便宜上、第2測定部7Bの個数が3つであるとする。
【0069】
複数の第2測定部7Bは、幅方向に間隔を隔てて配列される。具体的には、図7に示すように、印刷ジョブで画像を形成すべきシートSは、幅方向に並ぶ複数のシート領域SAに区分される。そして、複数の第2測定部7Bは、それぞれ、互いに異なるシート領域SAに割り当てられる。複数の第2測定部7Bは、それぞれ、対応するシート領域SAの第2摩擦係数を測定する。なお、第2測定部7Bの個数が3つの場合には、シートSは3つのシート領域SA(すなわち、第2測定部7Bの個数と同数)に区分される。
【0070】
制御部10は、複数のシート領域SAのそれぞれの第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じることにより、複数のシート領域SAにそれぞれ対応する複数の摩擦係数差(=第2摩擦係数-第1摩擦係数)を求める。そして、制御部10は、複数のシート領域SAのそれぞれの摩擦係数差に基づき、複数のシート領域SAのそれぞれ毎に後処理剤の塗布量を制御する。
【0071】
変形例の構成では、後処理剤の塗布量を細かく制御できる。すなわち、第2摩擦係数から第1摩擦係数を減じた摩擦係数差が小さいにもかかわらず大量の後処理剤が無駄に塗布されることを抑制できる。たとえば、図7に示す例において、幅方向の中央のシート領域SAに対する後処理剤の塗布量を他のシート領域SAよりも多くする、という制御を行うことができる。
【0072】
また、別の変形例として、インクジェット捺染装置100は、第1測定部7Aも複数備えてもよい。たとえば、第1測定部7Aの個数は第2測定部7Bの個数と同数である。すなわち、第1測定部7Aの個数はシートSの幅方向の区分数と同数である。
【0073】
第1測定部7Aが複数存在する場合、複数のシート領域SAのそれぞれ毎に後処理剤の塗布量を制御するとき、制御部10は、複数のシート領域SAのそれぞれの第2摩擦係数から、同じシート領域Saの第1摩擦係数を減じることにより、複数のシート領域SAのそれぞれの摩擦係数差を求める。これにより、複数のシート領域SAのそれぞれ毎に後処理剤の塗布量を設定するための摩擦係数差を精度良く求めることができる。
【0074】
なお、インクジェット捺染装置100は、測定部7に加え、図示しないが、シートSの幅方向の摩擦係数を測定する測定部(以下、単に「幅方向測定部」と称する)を備えてもよい。制御部10は、幅方向測定部を制御する。
【0075】
たとえば、測定部7と幅方向測定部とで押圧台71が共用される。また、幅方向測定部は、シートSを押圧台71に向けて押圧する押圧部材、押圧部材に接続される摩擦力センサー、および、摩擦力センサーを幅方向に移動させるモーターを備える。
【0076】
シートSの搬送が停止されているとき、幅方向測定部は、シートSを押圧部材で押圧した状態で、モーターにより摩擦力センサーを幅方向に移動させる。このとき、シートSと押圧部材との間に生じる摩擦力に応じた値が摩擦力センサーから出力される。幅方向測定部は、シートSと押圧部材との間の摩擦係数を測定し、その測定値を制御部10に出力する。
【0077】
そして、制御部10は、第1測定部7Aが測定したシート搬送方向の摩擦係数と、幅方向測定部が測定した幅方向の摩擦係数との平均を第1摩擦係数として求める。制御部10は、第2測定部7Bが測定したシート搬送方向の摩擦係数と、幅方向測定部が測定した幅方向の摩擦係数との平均を第2摩擦係数として求める。なお、幅方向測定部に測定を行わせるとき、制御部10は、シートSを搬送させない。
【0078】
この構成では、シートSの摩擦係数を精度良く求めることができる。なお、幅方向測定部による測定は、画像形成前のシートSに対してのみ行われてもよいし、画像形成後のシートSに対してのみ行われてもよいし、画像形成前のシートSおよび画像形成後のシートSの両方に対して行われてもよい。
【0079】
今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0080】
3 画像形成部
5 後処理部
7A 第1測定部
7B 第2測定部
8 温度検知部
9 入力部
10 制御部
100 インクジェット捺染装置
S シート
SA シート領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7