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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144990
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】アンモニアの燃焼方法
(51)【国際特許分類】
   F23C 1/00 20060101AFI20241004BHJP
   C10L 1/00 20060101ALI20241004BHJP
   F02D 19/08 20060101ALI20241004BHJP
   F02M 25/00 20060101ALI20241004BHJP
   F02M 37/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
F23C1/00 301
C10L1/00
F02D19/08 Z
F02M25/00 F
F02M37/00 341Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057201
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000105567
【氏名又は名称】コスモ石油株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 千織
(72)【発明者】
【氏名】仁木 洋一
(72)【発明者】
【氏名】川内 智詞
【テーマコード(参考)】
3G092
3K091
4H013
【Fターム(参考)】
3G092AA02
3G092AA06
3G092AB03
3G092AB19
3K091AA01
3K091BB01
3K091CC02
3K091DD01
3K091DD04
3K091DD07
3K091DD10
4H013AA05
4H013AA06
(57)【要約】
【課題】燃焼時に亜酸化窒素(NO)の生成を抑制しつつ安定した燃焼を可能にする新規なアンモニアの燃焼方法を提供する。
【解決手段】アンモニアの燃焼方法であって、(a)アンモニアと、(b)15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm、30℃における動粘度が2.000~5.200mm/秒、引火点が50.0℃~70.0℃、セタン指数が49.0~65.0、飽和炭化水素の含有割合が56.0容量%以上、芳香族炭化水素の含有割合が40.0容量%以下である石油系留分からなるアンモニア混合用基材とを混合して燃焼させることを特徴とするアンモニアの燃焼方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアの燃焼方法であって、
(a)アンモニアと、
(b)15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm
30℃における動粘度が2.000~5.200mm/秒、
引火点が50.0℃~70.0℃、
セタン指数が49.0~65.0、
飽和炭化水素の含有割合が56.0容量%以上、
芳香族炭化水素の含有割合が40.0容量%以下
である石油系留分からなるアンモニア混合用基材とを
混合して燃焼させる
ことを特徴とするアンモニアの燃焼方法。
【請求項2】
前記(a)アンモニアの混焼率が10~90%である請求項1に記載のアンモニアの燃焼方法。
【請求項3】
前記(a)アンモニアと前記(b)アンモニア混合用基材とを、ディーゼル内燃機関の燃焼室内に別々に供給して燃焼させる請求項1または請求項2に記載のアンモニアの燃焼方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニアの燃焼方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル内燃機関に使用されるディーゼル内燃機関用燃料油は、シリンダ内でピストンによって圧縮された高温の空気に霧状に噴射され、燃料が自着火することでその燃焼エネルギー(熱エネルギー)を得る圧縮自着火用燃料油である。
上記ディーゼル内燃機関用燃料油は、石油系燃料として通常軽油やA重油と称され、オンロード走行用車輛またはオフロード走行用車輛の燃料油や、漁船の燃料油等、幅広い分野で使用されている。
【0003】
昨今、地球温暖化防止の観点から燃焼時に二酸化炭素(CO)を排出しない新燃料として、ディーゼル内燃機関用燃料油としても、炭素(C)を含まないアンモニア(NH)や水素(H)等への移行が求められるようになっている。
特に船舶業界においては、日本政府が援助金を交付してアンモニア燃料船の開発を行っており、2028年までのできる限り早期に商業運行することを目標にしている。
【0004】
しかしながら、アンモニアは、従来の石油系燃料に比べて着火温度が非常に高く、燃焼速度が極めて遅い難燃性物質であるため、単独で安定に燃焼させることが困難である。
このため、アンモニアの燃焼を補助する助燃剤として、例えばヒドロキシアンモニウムナイトレート等をアンモニアに混合して燃焼させる(アンモニアと混燃する)技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-222432号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記アンモニアの助燃剤として、例えば軽油等の石油系燃料も検討されていたが、極性の高い液化アンモニアと軽油等の液体の非極性炭化水素とは、液相ではほとんど相溶しないため、ディーゼル内燃機関用燃料油として、これ等を均一かつ安定に混合して燃焼させることは困難と考えられていた。
【0007】
一方、本発明者等は、ディーゼル内燃機関において、アンモニアと軽油等の石油系燃料とを予め混合した状態で燃焼室(シリンダー)内に供給することに代えて、アンモニアと石油系燃料を燃焼室内に別々に供給することにより、上記技術課題を解決することを着想した。
【0008】
ところで、アンモニアを燃焼させた場合、地球温暖化係数の高い亜酸化窒素(NO)を排出することが知られており、本発明者等が検討したところ、アンモニアと石油系燃料とを混合して燃焼した(混焼した)場合には、亜酸化窒素(NO)を生成し易くなることが判明した。
【0009】
このような状況下、本発明は、燃焼時に亜酸化窒素(NO)の生成を抑制しつつ安定した燃焼を可能にする新規なアンモニアの燃焼方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記技術課題を解決するために本発明者等が鋭意検討したところ、驚くべきことに、(a)アンモニアと、(b)15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm、30℃における動粘度が2.000~5.200mm/秒、引火点が50.0~70.0℃、セタン指数が49.0~65.0、飽和炭化水素の含有割合が56.0容量%以上、芳香族炭化水素の含有割合が40.0容量%以下である石油系留分からなるアンモニア混合用基材とを混合して燃焼させることにより、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)アンモニアの燃焼方法であって、
(a)アンモニアと、
(b)15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm
30℃における動粘度が2.000~5.200mm/秒、
引火点が50.0℃~70.0℃、
セタン指数が49.0~65.0、
飽和炭化水素の含有割合が56.0容量%以上、
芳香族炭化水素の含有割合が40.0容量%以下
である石油系留分からなるアンモニア混合用基材とを
混合して燃焼させる
ことを特徴とするアンモニアの燃焼方法、
(2)前記(a)アンモニアの混焼率が10~90%である上記(1)に記載のアンモニアの燃焼方法、
(3)前記(a)アンモニアと前記(b)アンモニア混合用基材とを、ディーゼル内燃機関の燃焼室内に別々に供給して燃焼させる上記(1)または(2)に記載のアンモニアの燃焼方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃焼時に亜酸化窒素(NO)の生成を抑制しつつ安定した燃焼を可能にする新規なアンモニアの燃焼方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「~」は、その上限および下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「~」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本明細書において、好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0014】
本明細書において、下記項目の値は、特に断らない限り、以下の試験法方及び計算を用いて求めた値を意味する。
・「15℃における密度」;
JIS K 2249-1「原油および石油製品の密度試験方法並びに密度・質量・容量換算表」。
・「30℃における動粘度」
JIS K2283 「原油および石油製品-動粘度試験方法および粘度指数算出方法」。
・「引火点」
JIS K 2265-1「引火点の求め方-第1部:タグ密閉法」
・「セタン指数」
JIS K 2280-5「石油製品-オクタン価、セタン価およびセタン指数の求め方」。
・「飽和炭化水素(飽和分)の含有割合」、「芳香族炭化水素(芳香族分)の含有割合」
(1)先ず、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、以下の条件により飽和分と芳香族分とを分取する。
測定装置:(株)島津製作所製 Prominence ISO-UV System (CBM20A)
カラム:Develosil 30-3 (4.6mmx250mm 野村化学(株)製)
カラム温度:室温
移動相:n-ヘキサン (HPLC用) 1.0mL/min 5.3MPa
試料希釈:n-ヘキサンで20容量%に希釈
サンプルラック温度:室温
(2)上記(1)で分取した飽和分と芳香族分とを下記の条件で水素炎イオン化検出器付ガスクロマトグラフ(GC-FID)で測定し、それぞれの面積比を質量%として算出する。
測定装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent 7890B
カラム:DB-HT SimDis 5m×0.53mmI.D.×0.15um (145-1001 Agilent社)
オーブン温度:40℃(1min)-(30℃/min)-350℃(2min)
注入口温度:オーブントラックモード(オーブン+3℃)
検出器:FID 400℃
キャリアガス:He 0.45702psi 3.51mL/min コンスタントフロー 27.453cm/秒
注入方法:オンカラム注入4μl
(3)次に、上記(1)で分取した飽和分および芳香族分を以下の条件でガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で測定し、平均マススペクトルを求めた後、上記(2)で求めた飽和分の含有割合(質量%)をASTM D 2786に記載の計算式により容量%に換算し、上記(2)で求めた芳香族分の含有割合(質量%)をASTM D 3239に記載の計算式により容量%に換算する(平均炭素数:16(最小)~32(最大)、計算ファクター:n-パラフィン)。
装置:アジレント・テクノロジー社製Agilent 7890A Agilent 5975C 四重極質量分析計
カラム:DB-1HT 30m×0.32mmI.D.×0.10um
オーブン温度:40℃(2min)-(20℃/min)-300℃(5min)
注入口温度:オーブントラックモード(オーブン+3℃)
トランスファライン温度:300℃
キャリアガス:He定圧モード30kPa 初期2.1mL/min 52cm/秒
溶媒待ち時間:2.5分
質量範囲:30-750 Threshold:100 Sampling♯2 2.07scan/秒
イオン化電圧:EI 70eV
注入方法:オンカラム注入0.5μl
・「常圧蒸留性状」
(常圧蒸留による10容量%留出温度、常圧蒸留による50容量%留出温度および常圧蒸留による90容量%留出温度)
JIS K2254「石油製品-蒸留性状の求め方-常圧法」
・「総発熱量」
JIS K 2279「原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-」に規定されている方法。
・「真発熱量」
JIS K 2279 「原油及び石油製品-発熱量試験方法及び計算による推定方法-」に規定されている方法。
・「亜酸化窒素(NO)濃度」
フーリエ変換赤外分光(FT-IR)法。
【0015】
先ず、本発明に係るアンモニアの燃焼方法について説明する。
本発明に係るアンモニアの燃焼方法は、
アンモニアの燃焼方法であって、
(a)アンモニアと、
(b)15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm
30℃における動粘度が2.000~5.200mm/秒、
引火点が50.0℃~70.0℃、
セタン指数が49.0~65.0、
飽和炭化水素の含有割合が56.0容量%以上、
芳香族炭化水素の含有割合が40.0容量%以下
である石油系留分からなるアンモニア混合用基材とを
混合して燃焼させる
ことを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(a)アンモニアとしては特に制限されない。
上記アンモニアとしては、通常、液体状の無水アンモニアが使用される。
【0017】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材は、
15℃における密度が0.8000~0.8600g/cm
30℃における動粘度が2.000~5.200mm/秒、
引火点が50.0℃~70.0℃、
セタン指数が49.0~65.0、
飽和炭化水素の含有割合が56.0容量%以上、
芳香族炭化水素の含有割合が40.0容量%以下
である石油系留分からなるものである。
【0018】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分としては、石油精製プロセスから得られる中間留分、すなわち灯軽油留分(灯油留分および軽油留分)が挙げられる。
【0019】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分として、具体的には、常圧蒸留装置より得られる直留灯油又は脱硫処理した脱硫灯油、常圧蒸留装置より得られる直留軽油や直留軽油を脱硫処理した脱硫軽油、間接脱硫装置から得られる間接脱硫軽油、直接脱硫装置から得られる直接脱硫軽油、流動接触分解装置より得られる軽質サイクル油、および上記脱硫軽油や軽質サイクル油を常圧蒸留装置から得られる軽油留分と混合して更に脱硫処理した脱硫軽油留分、重油を熱分解して得られる熱分解軽質軽油と軽質サイクル油を混合し、10~18MPaの水素分圧で水素化処理して得られる高圧水素化処理軽油等、通常軽油やA重油の基材として使用されるものから選ばれる一種以上を挙げることができる。
【0020】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の15℃における密度は、0.8000~0.8600g/cmであり、0.8000~0.8590g/cmであることが好ましく、0.8100~0.8580g/cmであることがより好ましい。
【0021】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の15℃における密度が上記範囲内にあることにより、容量あたりの炭化水素含有量が多くなり、発熱量が向上して燃焼時に良好な燃焼状態を容易に発揮することができる。
【0022】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の30℃における動粘度は、2.000~5.200mm/秒であり、2.000~5.000mm/秒であることが好ましく、2.000~4.900mm/秒であることがより好ましい。
【0023】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の30℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、燃料噴射ポンプによる安定した噴射を容易に行うことができるとともに、ディーゼルエンジンからの粒子状物質の排出を容易に抑制することができる。
【0024】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の引火点は、50.0~70.0℃であり、50.0~68.0℃であることが好ましく、50.0~65.0℃であることがより好ましい。
【0025】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の引火点が上記範囲内にあることにより、(b)アンモニア混合用基材を取り扱う際における静電気等による着火を低減することができる。
【0026】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分のセタン指数は、49.0~65.0であり、49.0~63.0であることが好ましく、49.0~58.0であることがより好ましい。
【0027】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の飽和炭化水素(飽和分)の含有割合は、56.0容量%以上であり、56.0~80.0容量%であることが好ましく、58.0~78.0容量%であることがより好ましい。
【0028】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分の芳香族炭化水素(芳香族分)の含有割合は、40.0容量%以下であり、20.0~40.0容量%であることが好ましく、22.0~40.0容量%であることがより好ましい。
【0029】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分のセタン指数、飽和炭化水素の含有割合および芳香族炭化水素の含有割合が各々上記範囲内にあることにより、アンモニアを燃焼する際に亜酸化窒素(NO)の生成を抑制しつつ安定して燃焼させることができる。
【0030】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法においては、(b)アンモニア混合用基材を構成する石油系留分として、セタン指数が高い等の特定の規定を満たすものを採用することにより、着火遅れ期間を短縮し、燃焼系内に投入したアンモニアがアンモニア混合用基材とともに適切な時点で燃焼することで燃焼温度を高く維持することができ、燃焼系内に順次投入されるアンモニアを安定して燃焼させることができる。
上記燃焼系内の温度が低くなると、燃焼系内に投入されるアンモニアによって亜酸化窒素(NO)を多量に発生し得るが、上述したとおり、本発明に係るアンモニアの燃焼方法においては、(b)アンモニア混合用基材として、セタン指数が高い等の特定の規定を満たす特定の石油留分を採用することにより、均一、迅速に安定してアンモニアを燃焼し得ることから、亜酸化窒素(NO)の生成を好適に抑制することができる。
【0031】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材は、各種添加剤を含有してなるものであってもよい。
上記添加剤としては、流動性向上剤、潤滑性向上剤、酸化防止剤、金属不活性剤、静電気防止剤、腐食防止剤等の公知の燃料添加剤から選択される一種以上が挙げられる。
【0032】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法においては、(a)アンモニアの混焼率が、10~90%であることが好ましく、15~85%であることがより好ましく、18~80%であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法においては、(a)アンモニアとともに特定の(b)アンモニア混合用基材とを混合して燃焼させることから、上記混焼率の範囲内において、燃焼時に亜酸化窒素(NO)の生成を抑制しつつ安定して燃焼させることができる。
【0034】
なお、本出願書類において、混焼率は、下記式
{単位時間あたりに燃焼室に供給されるアンモニア(NH)の低位発熱量[J]/(単位時間あたりに燃焼室に供給されるアンモニア混合用基材の低位発熱量[J]+単位時間あたりに燃焼室に供給されるアンモニア(NH)の低位発熱量[J])}×100
により算出される値を意味し、ここで、低位発熱量[J]は、真発熱量[J]を意味する。
【0035】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法においては、(a)アンモニアと(b)アンモニア混合用基材とを、ディーゼル内燃機関の燃焼室内に別々に供給して燃焼させることが好ましい。
【0036】
上述したとおり、ディーゼル内燃機関用燃料油として難燃性物質であるアンモニアを使用する場合、助燃剤を使用することが必須とされていたが、助燃剤として軽油等の石油系燃料を使用した場合には、極性の高い液化アンモニアと軽油等の液体の非極性炭化水素とは、液相ではほとんど相溶しないため、ディーゼル内燃機関用燃料油として、これ等を均一かつ安定に混合して燃焼させることは困難であった。
【0037】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法においては、(a)アンモニアと(b)アンモニア混合用基材とを、予め混合した状態で燃焼室(シリンダー)内に供給することに代えて、ディーゼル内燃機関の燃焼室内に別々に供給し、燃焼室内で混合して燃焼させることにより、(a)アンモニアと(b)アンモニア混合用基材との混合物を、ディーゼル内燃機関用燃料油として好適に使用することができる。
【0038】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(a)アンモニアをディーゼル内燃機関の燃焼室内に供給する方法としては、例えば、(a1)燃焼室に空気を供給する吸気管から供給する方法、(a2)燃焼室に燃料を供給する噴射口から供給する方法および(a3)燃焼室に別途設けた専用のアンモニア供給口から供給する方法のいずれかの方法を挙げることができる。
【0039】
また、本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(b)アンモニア混合用基材をディーゼル内燃機関の燃焼室内に供給する方法としては、例えば、(b1)燃焼室に燃料を供給する噴射口から供給する方法および(b2)燃焼室に別途設けた専用のアンモニア混合用基材供給口から供給する方法のいずれかの方法を挙げることができる。
【0040】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法において、(a)アンモニアおよび(b)アンモニア混合用基材の両者を、燃焼室に燃料を供給する噴射口から供給する場合(上記(a2)の供給方法および(b1)の供給方法を併用する場合)、(a)アンモニアおよび(b)アンモニア混合用基材を各々異なるタイミングで燃焼室内に噴射しつつ供給することが好ましい。
【0041】
本発明に係るアンモニアの燃焼方法においては、燃焼系内に、(a)アンモニアおよび(b)アンモニア混合用基材以外の成分をさらに添加してもよいが、単位時間あたり、燃焼系内に添加される全添加成分に占める(a)アンモニアおよび(b)アンモニア混合用基材の合計添加割合が、97~100容量%/分であることが好ましく、98~100容量%/分であることがより好ましく、99~100容量%/分であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明によれば、燃焼時に亜酸化窒素(NO)の生成を抑制しつつ安定した燃焼を可能にする新規なアンモニアの燃焼方法を提供することができる。
【実施例0043】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれ等の例により何ら限定されるものではない。
【0044】
(基材)
以下の実施例および比較例において、(b)アンモニア混合用基材として以下の基材を使用した。各基材の特性を表1に示す。
・基材1
脱硫軽油と脱硫灯油とを、脱硫軽油70.0:脱硫灯油30.0の容量比で混合したもの。
・基材2
脱硫軽油と脱硫灯油とを、脱硫軽油70.0:脱硫灯油30.0の容量比で混合したもの。
・基材3
脱硫軽油と軽質サイクル油と脱硫灯油とを、脱硫軽油40.0:軽質サイクル油12.5: 脱硫灯油47.5の容量比で混合したもの。
・比較用基材1
高圧水素化処理軽油と軽質サイクル油とを、高圧水素化処理軽油57.5:軽質サイクル油42.5の容量比で混合したもの。
・比較用基材2
高圧水素化処理軽油と軽質サイクル油と脱硫灯油とを、高圧水素化処理軽油50.0: 軽質サイクル油40.0: 脱硫灯油10.0の容量比で混合したもの。
・比較用基材3
脱硫軽油と直留軽油と間接脱硫軽油と軽質サイクル油とを、脱硫軽油5.0: 直留軽油5.0: 間接脱硫軽油60.0: 軽質サイクル油30.0の容量比で混合したもの。
・比較用基材4
脱硫軽油と高圧水素化処理軽油と間接脱硫軽油と軽質サイクル油とを、脱硫軽油30.0:高圧水素化処理軽油30.0: 間接脱硫軽油10.0: 軽質サイクル油30.0の容量比で混合したもの。
・比較用基材5
高圧水素化処理軽油と間接脱硫軽油と軽質サイクル油とを脱硫灯油とを、高圧水素化処理軽油47.5: 間接脱硫軽油32.5: 軽質サイクル油7.5: 脱硫灯油12.5の容量比で混合したもの。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例1~実施例4)
以下の小型試験用単気筒中速ディーゼル機関を用い、アンモニアと基材1とを、アンモニアの混焼率が、各々、18%(実施例1)、43%(実施例2)、67%(実施例3)、78%(実施例4)となるように、上記アンモニアを空気供給用の吸気管から燃焼室内に供給するとともに、基材1を燃焼室に設けた噴射口から燃焼室内に供給することにより、燃焼室内に両者を別々に供給し、燃焼室内で混合しつつ燃焼させた。
【0047】
<小型試験用単気筒中速ディーゼル機関>
型式 :AVLベース(Base engine AVL type 520 Type 4-stroke Bore/stroke 112/110 mm Num. Cyl. 1 Displacement 1.08 L Comp. Ratio 18.5 Aspiration NA)
様式 :自然吸気
回転速度 :1500 min-1固定
出力 :7.8kW一定に調整
基材噴射時期(SoI):-10 aTDC deg.で噴射開始
燃料 :出力 7.8kWに合わせて噴射量を増減
【0048】
上記各燃焼の結果得られた排ガスを、FTIR式排気ガス分析器(FAST2200 岩田電業)を用い、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)法により亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0049】
(実施例5~実施例7)
基材1に代えて基材2を用い、アンモニアと基材2とを、アンモニアの混焼率が、各々、18%(実施例5)、67%(実施例6)、78%(実施例7)となるように、燃焼室内に別々に噴射し、混合して燃焼させた以外は、実施例1と同様にして燃焼させ、排ガス中の亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例8~実施例9)
基材1に代えて基材3を用い、アンモニアと基材3とを、アンモニアの混焼率が、各々、18%(実施例8)、67%(実施例9)となるように、燃焼室内に別々に噴射し、混合して燃焼させた以外は、実施例1と同様にして燃焼させ、排ガス中の亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例1~比較例2)
基材1に代えて比較用基材1を用い、アンモニアと比較用基材1とを、アンモニアの混焼率が、各々、67%(比較例1)、78%(比較例2)となるように、燃焼室内に別々に噴射し、混合して燃焼させた以外は、実施例1と同様にして燃焼させ、排ガス中の亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0052】
(比較例3)
基材1に代えて比較用基材2を用い、アンモニアと比較用基材2とを、アンモニアの混焼率が67%となるように、燃焼室内に別々に噴射し、混合して燃焼させた以外は、実施例1と同様にして燃焼させ、排ガス中の亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0053】
(比較例4)
基材1に代えて比較用基材3を用い、アンモニアと比較用基材3とを、アンモニアの混焼率が67%となるように、燃焼室内に別々に噴射し、混合して燃焼させた以外は、実施例1と同様にして燃焼させ、排ガス中の亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0054】
(比較例5)
基材1に代えて比較用基材4を用い、アンモニアと比較用基材4とを、アンモニアの混焼率が43%となるように、燃焼室内に別々に噴射し、混合して燃焼させた以外は、実施例1と同様にして燃焼させ、排ガス中の亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0055】
(比較例6)
基材1に代えて比較用基材5を用い、アンモニアと比較用基材5とを、アンモニアの混焼率が43%となるように、燃焼室内に別々に噴射し、混合して燃焼させた以外は、実施例1と同様にして燃焼させ、排ガス中の亜酸化窒素(NO)濃度を求めた。結果を表3に示す。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表2より、実施例1~実施例9においては、(a)アンモニアと、(b)特定の特性を有する石油系留分からなるアンモニア混合用基材とを混合して燃焼させていることから、上記(a)アンモニアを均一、迅速かつ安定して燃焼させて、亜酸化窒素(NO)の生成を好適に抑制し得ることが分かる。
【0059】
一方、表3より、比較例1~比較例6においては、アンモニア混合用基材を構成する石油系留分において、密度が特定の範囲外であったり(比較例1~比較例5)、セタン指数が特定の範囲外であったり(比較例1~比較例6)、飽和分の含有割合が特定の範囲外であったり(比較例1、比較例2、比較例4)、芳香族分の含有割合が特定の範囲外である(比較例1~比較例4)ことから、いずれの例においても、(a)アンモニアを安定して燃焼させ難く、亜酸化窒素(NO)の生成を抑制し得ないものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、燃焼時に亜酸化窒素(NO)の生成を抑制しつつ安定した燃焼を可能にする新規なアンモニアの燃焼方法を提供することができる。