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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144991
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】太陽電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/043 20140101AFI20241004BHJP
   H01L 31/0445 20140101ALI20241004BHJP
【FI】
H01L31/04 510
H01L31/04 530
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057202
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】小泉 玄介
【テーマコード(参考)】
5F251
【Fターム(参考)】
5F251AA02
5F251AA03
5F251AA20
5F251BA11
5F251DA16
5F251EA19
5F251EA20
5F251FA04
(57)【要約】
【課題】曲面に設置しても発電効率の低下を抑制する太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】太陽電池モジュール100は、薄膜系太陽電池セル20が直列接続された薄膜系太陽電池デバイス2と、結晶シリコン系太陽電池セル10が直列接続された結晶シリコン系太陽電池デバイス1とを備えるタンデム型の太陽電池モジュールである。薄膜系太陽電池セル20は、集積方向に分割され、集積方向と交差する方向に延在する複数のユニットセルが分離溝を介して集積方向に直列に接続されて集積化された集積構造を有する。太陽電池モジュール100は、設置状態において、水平に配置された水平領域と、水平面に対して傾斜して配置された傾斜領域とを有する。薄膜系太陽電池デバイス2において、傾斜領域における薄膜系太陽電池セル20のユニットセルの集積方向の幅は、水平領域における薄膜系太陽電池セル20のユニットセルの集積方向の幅よりも広い。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受光面側に配置され、複数の薄膜系太陽電池セルが直列接続された薄膜系太陽電池デバイスと、
裏面側に配置され、複数の結晶シリコン系太陽電池セルが直列接続された結晶シリコン系太陽電池デバイスと、
を備えるタンデム型の太陽電池モジュールであって、
前記複数の薄膜系太陽電池セルは、集積方向に分割され、前記集積方向と交差する方向に延在する複数のユニットセルが分離溝を介して前記集積方向に直列に接続されて集積化された集積構造を有し、
前記太陽電池モジュールは、設置状態において、水平に配置された水平領域と、水平面に対して傾斜して配置された傾斜領域とを有し、
前記薄膜系太陽電池デバイスにおいて、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅は、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅よりも広い、
太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記薄膜系太陽電池デバイスにおいて、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅は、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅よりも広い、請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅Wu2と、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅Wu1とは、以下の関係式を満たし、
Wu2=Wu1/sinθ
ここで、θは、入射光に対する、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記受光面の傾斜角度である、
請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅Ws2と、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅Ws1とは、以下の関係式を満たし、
Ws2=Ws1/sinθ
ここで、θは、入射光に対する、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記受光面の傾斜角度である、
請求項2に記載の太陽電池モジュール。
【請求項5】
複数の薄膜系太陽電池セルが直列接続された薄膜系太陽電池デバイスを備えるタンデム型の太陽電池モジュールであって、
前記複数の薄膜系太陽電池セルは、集積方向に分割され、前記集積方向と交差する方向に延在する複数のユニットセルが分離溝を介して前記集積方向に直列に接続されて集積化された集積構造を有し、
前記太陽電池モジュールは、設置状態において、水平に配置された水平領域と、水平面に対して傾斜して配置された傾斜領域とを有し、
前記薄膜系太陽電池デバイスにおいて、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅は、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅よりも広い、
太陽電池モジュール。
【請求項6】
前記薄膜系太陽電池デバイスにおいて、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅は、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅よりも広い、請求項5に記載の太陽電池モジュール。
【請求項7】
前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅Wu2と、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅Wu1とは、以下の関係式を満たし、
Wu2=Wu1/sinθ
ここで、θは、入射光に対する、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記受光面の傾斜角度である、
請求項5に記載の太陽電池モジュール。
【請求項8】
前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅Ws2と、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルの分離溝の前記集積方向の分離溝幅Ws1とは、以下の関係式を満たし、
Ws2=Ws1/sinθ
ここで、θは、入射光に対する、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記受光面の傾斜角度である、
請求項6に記載の太陽電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の太陽電池セルを含む太陽電池デバイスを、ガラスまたは透明樹脂等の保護部材および封止材によって封止した太陽電池モジュールが知られている。太陽電池セルとしては、光電変換層として結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン系太陽電池セル、或いは光電変換層として、アモルファスシリコン薄膜等の無機系薄膜、または、ペロブスカイト薄膜等の有機系薄膜(詳細には、有機/無機ハイブリット系薄膜)を用いた薄膜系太陽電池セルが知られている。
【0003】
また、近年、広波長範囲の光を有効に利用して太陽電池セルの変換効率を高める目的で、バンドギャップが異なる光電変換層をスタックした多接合(タンデム)型太陽電池モジュールが知られている。例えば、特許文献1および2には、異なる光電変換層をそれぞれ含む2種類の太陽電池セルをスタックした多接合型太陽電池モジュールが開示されている。この太陽電池モジュールでは、例えば、光電変換層として結晶シリコン基板を含むボトムセルから構成された結晶シリコン系太陽電池デバイスと、光電変換層としてペロブスカイト薄膜を含むトップセルから構成されたペロブスカイト系(薄膜系)太陽電池デバイスとが、2種類の太陽電池デバイスとしてスタックされている。
【0004】
また、特許文献1および2には、ペロブスカイト系(薄膜系)太陽電池セルにおいて、集積方向に分割され、集積方向と交差する方向に延在する複数のユニットセルが集積方向に直列に接続されて集積化された集積構造を有することが記載されている。ユニットセルの間には分離溝が形成され、この分離溝では光が通過可能である。分離溝を通過する光は結晶シリコン系太陽電池デバイスに入射する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-157175号公報
【特許文献2】特開2018-157176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽電池モジュールの設置場所は、多様であり、例えば建物の壁または車両のボディ等の曲面がある。タンデム型の太陽電池モジュールが曲面に配置されると、比較的に水平な箇所に配置される水平領域と、水平面に対して傾斜した箇所に配置される傾斜領域とが生じる。
【0007】
傾斜領域に配置される薄膜系太陽電池セルでは、水平領域に配置される薄膜系太陽電池デバイスと比較して、入射光に対して集積構造のユニットセルが傾斜するため、出力電流が低下する。そのため、これらの薄膜系太陽電池セルを直列接続すると、傾斜領域に配置される薄膜系太陽電池セルによって、水平領域に配置される薄膜系太陽電池セルの出力電流が制限される。そのため、薄膜系太陽電池デバイスの発電効率が低下してしまい、その結果、太陽電池モジュールの発電効率が低下してしまう。
【0008】
本発明は、曲面に設置しても発電効率の低下を抑制する太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る太陽電池モジュールは、受光面側に配置され、複数の薄膜系太陽電池セルが直列接続された薄膜系太陽電池デバイスと、裏面側に配置され、複数の結晶シリコン系太陽電池セルが直列接続された結晶シリコン系太陽電池デバイスとを備えるタンデム型の太陽電池モジュールであって、前記複数の薄膜系太陽電池セルは、集積方向に分割され、前記集積方向と交差する方向に延在する複数のユニットセルが分離溝を介して前記集積方向に直列に接続されて集積化された集積構造を有する。前記太陽電池モジュールは、設置状態において、水平に配置された水平領域と、水平面に対して傾斜して配置された傾斜領域とを有する。前記薄膜系太陽電池デバイスにおいて、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅は、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅よりも広い。
【0010】
本発明に係る別の太陽電池モジュールは、複数の薄膜系太陽電池セルが直列接続された薄膜系太陽電池デバイスを備えるタンデム型の太陽電池モジュールであって、前記複数の薄膜系太陽電池セルは、集積方向に分割され、前記集積方向と交差する方向に延在する複数のユニットセルが分離溝を介して前記集積方向に直列に接続されて集積化された集積構造を有する。前記太陽電池モジュールは、設置状態において、水平に配置された水平領域と、水平面に対して傾斜して配置された傾斜領域とを有する。前記薄膜系太陽電池デバイスにおいて、前記傾斜領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅は、前記水平領域における薄膜系太陽電池セルのユニットセルの前記集積方向のユニットセル幅よりも広い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、太陽電池モジュールにおいて、曲面に設置しても発電効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る太陽電池モジュールの概略断面図である。
図2図1に示す太陽電池モジュールの太陽電池デバイスにおける薄膜系太陽電池デバイスを受光面側から示す概略平面図である。
図3図1に示す太陽電池モジュールの太陽電池デバイスにおける結晶シリコン系太陽電池デバイスを受光面側から示す概略平面図である。
図4図2に示す薄膜系太陽電池デバイスの集積構造の概略断面図である。
図5図1に示す太陽電池モジュールの設置場所が集積方向に曲面である場合の、比較的に水平な水平領域における薄膜系太陽電池セルを示す概略断面図である。
図6図1に示す太陽電池モジュールの設置場所が集積方向に曲面である場合の、水平面に対して傾斜した傾斜領域における薄膜系太陽電池セルを示す概略断面図である。
図7】本実施形態の変形例に係る太陽電池モジュールの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0014】
(太陽電池モジュール)
図1は、本実施形態に係る太陽電池モジュールの概略断面図である。図1に示す太陽電池モジュール100は、タンデム型の太陽電池デバイス101を備えるタンデム型の太陽電池モジュールである。
【0015】
太陽電池デバイス101は、受光面側から順にスタックされた薄膜系太陽電池デバイス2と結晶シリコン系太陽電池デバイス1とを備える。結晶シリコン系太陽電池デバイス1は、配線部材6を用いて直列に接続された複数の薄膜系太陽電池セル20を含む。薄膜系太陽電池デバイス2は、配線部材6を用いて直列に接続された複数の結晶シリコン系太陽電池セル10を含む。結晶シリコン系太陽電池デバイス1と薄膜系太陽電池デバイス2との間には、例えば後述する封止材5等の絶縁部材が介在する。結晶シリコン系太陽電池デバイス1および薄膜系太陽電池デバイス2の詳細は後述する。
【0016】
太陽電池デバイス101は、受光側保護部材3と裏側保護部材4とによって挟み込まれている。受光側保護部材3と裏側保護部材4との間には、液体状または固体状の封止材5が充填されており、これにより、太陽電池デバイス101は封止される。
【0017】
封止材5は、太陽電池デバイス101を封止して保護するもので、太陽電池デバイス101の受光側の面と受光側保護部材3との間、および、太陽電池デバイス101の裏側の面と裏側保護部材4との間に介在する。封止材5の形状としては、特に限定されるものではなく、例えばシート状が挙げられる。シート状であれば、面状の太陽電池デバイス101の表面および裏面を被覆しやすいためである。
【0018】
封止材5の材料としては、特に限定されるものではないが、光を透過する特性(透光性)を有すると好ましい。また、封止材5の材料は、太陽電池デバイス101と受光側保護部材3とを接着させる接着性、および、太陽電池デバイス101と裏側保護部材4とを接着させる接着性を有すると好ましい。このような材料としては、例えば、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/α-オレフィン共重合体、エチレン/酢酸ビニル/トリアリルイソシアヌレート(EVAT)、ポリビニルブチラート(PVB)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、または、シリコーン樹脂等の透光性樹脂が挙げられる。
【0019】
受光側保護部材3は、封止材5を介して、太陽電池デバイス101の表面(受光面)を覆って、その太陽電池デバイス101を保護する。受光側保護部材3の形状としては、特に限定されるものではないが、面状の受光面を間接的に覆う点から、板状またはシート状が好ましい。
【0020】
受光側保護部材3の材料としては、特に限定されるものではないが、封止材5同様に、透光性を有しつつも紫外光に耐性の有る材料が好ましく、例えば、ガラス、または、アクリル樹脂若しくはポリカーボネート樹脂等の透明樹脂が挙げられる。また、受光側保護部材3の表面は、凹凸状に加工されていても構わないし、反射防止コーティング層で被覆されていても構わない。これらのようになっていると、受光側保護部材3は、受けた光を反射させ難くして、より多くの光を太陽電池デバイス101に導けるためである。また、受光側保護部材3の材料が樹脂である場合、受光側保護部材3の裏面または表面には、水蒸気の通過を防止するバリアフィルムが設けられていてもよい。これにより、太陽電池デバイス101を、水蒸気から保護することができる。
【0021】
裏側保護部材4は、封止材5を介して、太陽電池デバイス101の裏面を覆って、その太陽電池デバイス101を保護する。裏側保護部材4の形状としては、特に限定されるものではないが、受光側保護部材3同様に、面状の裏面を間接的に覆う点から、板状またはシート状が好ましい。
【0022】
裏側保護部材4の材料としては、特に限定されるものではないが、水等の浸入を防止する(遮水性の高い)材料が好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、オレフィン系樹脂、含フッ素樹脂、若しくは含シリコーン樹脂等の樹脂フィルム、またはガラス、ポリカーボネート、アクリル等の透光性を有する板状の樹脂部材と、アルミニウム箔等の金属箔との積層体が挙げられる。裏側保護部材4の材料が樹脂である場合、裏側保護部材4の表面または裏面には、水蒸気の通過を防止するバリアフィルムが設けられていてもよい。これにより、太陽電池デバイス101を、水蒸気から保護することができる。
【0023】
(太陽電池デバイス)
図2は、図1に示す太陽電池モジュール100の太陽電池デバイス101における薄膜系太陽電池デバイス2を受光面側から示す概略平面図であり、図3は、図1に示す太陽電池モジュール100の太陽電池デバイス101における結晶シリコン系太陽電池デバイス1を受光面側から示す概略平面図である。
【0024】
(結晶シリコン系太陽電池デバイス)
図3に示すように、結晶シリコン系太陽電池デバイス1は、複数の結晶シリコン系太陽電池セル10を含む。複数の結晶シリコン系太陽電池セル10は、配線部材6によって直列に接続されている。配線部材6としては、例えば、断面円形状または断面多角形状であるワイヤ形態の複数の配線部材(Y方向に延在するインターコネクタ)、および、公知の平角形状のタブ等のインターコネクタ(X方向に延在するインターコネクタ)を用いる。なお、ワイヤ形態の配線部材は、複数のワイヤを含むことから、マルチワイヤとも称される。
【0025】
<<結晶シリコン系太陽電池セル>>
結晶シリコン系太陽電池セル10は、光電変換層として半導体基板を含む。半導体基板は光を吸収して、光キャリアを発生させる。半導体基板は、単結晶シリコンまたは多結晶シリコン等の結晶シリコン基板である。
【0026】
半導体基板は、受光面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有していてもよい。これにより、受光面において入射光の反射が低減し、半導体基板における光閉じ込め効果が向上する。
【0027】
また、半導体基板は、裏面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有していてもよい。これにより、半導体基板に吸収されず通過してしまった光の回収効率が高まる。
【0028】
結晶シリコン系太陽電池セル10としては、第1導電型単結晶シリコン基板の受光面側に第2導電型の拡散層を設けた拡散型セルや、第1導電型単結晶シリコン基板の両面にシリコン系薄膜を設けたヘテロ接合セル等が挙げられる。
【0029】
単結晶シリコン基板の表裏にシリコン系薄膜を備えるヘテロ接合セルの場合、結晶シリコン系太陽電池セル10は、光電変換層の受光面側に形成された導電型シリコン系薄膜と、光電変換層の裏面側に形成された導電型シリコン系薄膜とを有する。
【0030】
単結晶シリコン基板は、p型でもn型でもよい。正孔と電子とを比較した場合、電子の方が移動度が大きいため、n型単結晶シリコン基板を用いた場合は、特に変換特性に優れる。導電型シリコン系薄膜は、p型シリコン系薄膜またはn型シリコン系薄膜である。
【0031】
光電変換層としての単結晶シリコン基板と導電型シリコン系薄膜との間には、真性シリコン系薄膜が設けられていることが好ましい。単結晶シリコン基板の表面に真性シリコン系薄膜が設けられることにより、単結晶シリコン基板への不純物の拡散を抑えつつ表面パッシベーションを有効に行うことができる。単結晶シリコン基板の表面に真性シリコン系薄膜として真性非晶質シリコン薄膜が設けられることにより、単結晶シリコン基板の表面に対する高いパッシベーション効果が得られる。
【0032】
結晶シリコン系太陽電池セル10は、両面電極型(両面接合型ともいう。)のセルであってもよいし、裏面電極型(裏面接合型、バックコンタクト型ともいう。)のセルであってもよい。なお、裏面電極型のセルの場合、両面電極型のセルと比較して、太陽電池モジュールの出力を向上することができ、また太陽電池モジュールの意匠性を向上することができる。
【0033】
結晶シリコン系太陽電池セル10は、規定サイズ(例えば、6インチのセミスクエア形状)の大判半導体基板(Wafer)であってもよいし、大判半導体基板(Wafer)を2つに切断したハーフカットセルであってもよい。
【0034】
上述したように、半導体基板は、受光面側に、テクスチャ構造と呼ばれるピラミッド型の微細な凹凸構造を有していてもよい。これにより、結晶シリコン系太陽電池セルは、受光面側に凹凸構造を有してもよい。
【0035】
(薄膜系太陽電池デバイス)
図2に示すように、薄膜系太陽電池デバイス2は、複数の薄膜系太陽電池セル20を含む。複数の薄膜系太陽電池セル20は、配線部材6によって直列に接続されている。配線部材6としては、例えば公知の平角形状のタブ等のインターコネクタを用いる。
【0036】
<<薄膜系太陽電池セル>>
薄膜系太陽電池セルは、光電変換層として薄膜の半導体層を含む。半導体層は光を吸収して、光キャリアを発生させる。半導体層は、上述した結晶シリコン系太陽電池セルの半導体基板と異なるバンドギャップを有する。そのため、上述した半導体基板と半導体層とは、異なる波長範囲に分光感度特性を有する。したがって、上述した結晶シリコン系太陽電池デバイス1と、薄膜系太陽電池デバイス2とがスタックされたタンデム型太陽電池モジュールでは、より広い波長の光を光電変換に寄与させることができる。
【0037】
具体的には、半導体層を構成する薄膜としては、無機半導体薄膜、有機半導体薄膜または有機無機ハイブリッド半導体薄膜が挙げられる。有機無機ハイブリッド半導体薄膜としては、ペロブスカイト型結晶構造の感光性材料を含有するペロブスカイト薄膜が挙げられる。
【0038】
ペロブスカイト型結晶材料を構成する化合物は、一般式RNHまたはHC(NHで表される。式中、Rはアルキル基であり、炭素数1~5のアルキル基が好ましく、特にメチル基が好ましい。Mは2価の金属イオンであり、PbやSnが好ましい。Xはハロゲンであり、F,Cl,Br,Iが挙げられる。なお、3個のXは、全て同一のハロゲン元素であってもよく、複数のハロゲンが混在していてもよい。
【0039】
ペロブスカイト型結晶材料を構成する化合物の好ましい例として、式CHNHPb(I1-xBrで(ただし、0≦x≦1)表される化合物が挙げられる。ペロブスカイト材料は、ハロゲンの種類や比率を変更することにより、分光感度特性を変化させることができる。ペロブスカイト半導体薄膜は、各種のドライプロセスや、スピンコート等の溶液製膜により形成できる。
【0040】
図4は、図2に示す薄膜系太陽電池セル20の概略断面図である。薄膜系太陽電池セル20は、1つの基材20b上において、X方向(集積方向:第1方向)に分割され、X方向と交差するY方向(第2方向)に延在する複数のユニットセル20uを含む。薄膜系太陽電池セル20は、複数のユニットセル20uが分離溝20sを介してX方向に直列に接続されて集積化された集積構造を有する。これにより、X方向の導電距離を短くし、且つ、一つのユニットセル20u当たりの電流量を減らすことができ、その結果、電極24,25、特に透明電極(ITO)から構成される電極24,25による抵抗損失を減らすことができる。
【0041】
ユニットセル20uは、フィルム状の基材20b上に形成されている。基材20bの材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)、ガラス等が挙げられる。
【0042】
ユニットセル20uは、光電変換層としてのペロブスカイト層21と、電荷輸送層22,23を有する。電荷輸送層22、23は、一方が正孔輸送層であり、他方が電子輸送層である。
【0043】
正孔輸送層の材料としては、例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等のポリチオフェン誘導体、2,2’,7,7’-テトラキス-(N,N-ジ-p-メトキシフェニルアミン)-9,9’-スピロビフルオレン(Spiro-OMeTAD)等のフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール等のカルバゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ジフェニルアミン誘導体、ポリシラン誘導体、ポリアニリン誘導体等が挙げられる。
【0044】
電子輸送層の材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム等の金属酸化物が挙げられる。
【0045】
ユニットセル20uにおける電荷輸送層22側には、光生成キャリアを取り出すための電極24が形成されている。ユニットセル20uにおける電荷輸送層23側には、光生成キャリアを取り出すための電極25が形成されている。
【0046】
電極24は、透明電極と金属電極とを含んでいてもよいし、透明電極のみを含んでいてもよいし、金属電極のみを含んでいてもよい。同様に、電極25は、透明電極と金属電極とを含んでいてもよいし、透明電極のみを含んでいてもよいし、金属電極のみを含んでいてもよい。透明電極の材料としては、ITO、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物が好ましく用いられる。金属電極の材料としては、銀、銅、アルミニウム等が好ましく用いられる。
【0047】
上述した太陽電池モジュール100の設置場所は、多様であり、例えば建物の壁または車両のボディ等の曲面がある。タンデム型の太陽電池モジュール100が曲面に配置されると、比較的に水平な箇所に配置される水平領域と、水平面に対して傾斜した箇所に配置される傾斜領域とが生じる。
【0048】
図5は、太陽電池モジュール100の設置場所がX方向(集積方向)に曲面である場合の、比較的に水平な水平領域R1における薄膜系太陽電池セル20を示す概略断面図であり、図6は、太陽電池モジュール100の設置場所がX方向(集積方向)に曲面である場合の、水平面に対して傾斜した傾斜領域R2における薄膜系太陽電池セル20を示す概略断面図である。
【0049】
図5および図6に示すように、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20では、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20と比較して、入射光に対して集積構造のユニットセル20uが傾斜するため、出力電流が低下する。そのため、これらの薄膜系太陽電池セル20を直列接続すると、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20によって、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20の出力電流が制限される。そのため、薄膜系太陽電池デバイス2の発電効率が低下してしまい、その結果、太陽電池モジュール100の発電効率が低下してしまう。
【0050】
また、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20では、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20と比較して、入射光に対して集積構造の分離溝20sが傾斜するため、分離溝20sを通過して結晶シリコン系太陽電池セル10に入射する光が減少する。そのため、傾斜領域R2に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10では、水平領域R1に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10と比較して、出力電流が低下する。そのため、これらの結晶シリコン系太陽電池セル10を直列接続すると、傾斜領域R2に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10によって、水平領域R1に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10の出力電流が制限される。そのため、結晶シリコン系太陽電池デバイス1の発電効率が低下してしまい、その結果、太陽電池モジュール100の発電効率が低下してしまう。
【0051】
また、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20では、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20と比較して、任意の一方向からみた集積構造のユニットセル20uのユニットセル幅および分離溝20sの分離溝幅が狭い。そのため、太陽電池モジュール100の受光面の見た目の統一感(意匠性)が低下する。
【0052】
これらの点に関し、図5および図6に示すように、本実施形態の太陽電池モジュール100では、薄膜系太陽電池デバイス2において、傾斜領域R2における薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのX方向(集積方向)のユニットセル幅Wu2は、水平領域R1における薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのX方向のユニットセル幅Wu1よりも広い。例えば、ユニットセル幅Wu2とユニットセル幅Wu1とは、以下の関係式を満たすことが好ましい。
Wu2=Wu1/sinθ
ここで、θは、入射光に対する、傾斜領域R2における薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uの受光面の傾斜角度である。
【0053】
これにより、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20の出力電流を、増加させることができ、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20の出力電流と同等とすることができる。そのため、これらの薄膜系太陽電池セル20を直列接続しても、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20によって、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20の出力電流が制限されることを抑制することができる。そのため、薄膜系太陽電池デバイス2の発電効率の低下を抑制することができ、その結果、太陽電池モジュール100の発電効率の低下を抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態の太陽電池モジュール100では、薄膜系太陽電池デバイス2において、傾斜領域R2における薄膜系太陽電池セル20の分離溝20sのX方向(集積方向)の分離溝幅Ws2は、水平領域R1における薄膜系太陽電池セル20の分離溝20sのX方向の分離溝幅Ws1よりも広い。例えば、分離溝幅Ws2と分離溝幅Ws1とは、以下の関係式を満たすことが好ましい。
Ws2=Ws1/sinθ
【0055】
これにより、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20の分離溝20sを通過して結晶シリコン系太陽電池セル10に入射する光を、増加させることができ、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20の分離溝20sを通過して結晶シリコン系太陽電池セル10に入射する光と同等とすることができる。そのため、傾斜領域R2に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10の出力電流を、増加させることができ、水平領域R1に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10の出力電流と同等とすることができる。そのため、これらの結晶シリコン系太陽電池セル10を直列接続しても、傾斜領域R2に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10によって、水平領域R1に配置される結晶シリコン系太陽電池セル10の出力電流が制限されることを抑制することができる。そのため、結晶シリコン系太陽電池デバイス1の発電効率の低下を抑制することができ、その結果、太陽電池モジュール100の発電効率の低下を抑制することができる。
【0056】
更に、これらにより、任意の一方向からみたとき、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのユニットセル幅および分離溝20sの分離溝幅を、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのユニットセル幅および分離溝20sの分離溝幅と同等とすることができる。そのため、太陽電池モジュール100の受光面の見た目の統一感(意匠性)の低下を抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。
【0058】
(変形例)
例えば、上述した実施形態では、タンデム型の太陽電池デバイス101を備える太陽電池モジュール100について説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、シングル型の太陽電池デバイス、すなわち薄膜系太陽電池デバイスのみを備えるシングル型の太陽電池モジュールに適用可能である。
【0059】
図7は、本実施形態の変形例に係る太陽電池モジュールの概略断面図である。図7に示す変形例の太陽電池モジュール100は、図1に示す本実施形態の太陽電池モジュール100と比較して、タンデム型の太陽電池デバイス101に代えてシングル型の太陽電池デバイス101、すなわち薄膜系太陽電池デバイス2のみを含む構成で異なる。変形例の太陽電池モジュール100のその他の構成は、本実施形態の太陽電池モジュール100と同一である。
【0060】
この変形例の太陽電池モジュール100でも、上述した本実施形態の太陽電池モジュール100と同様の利点を得ることができる。
【0061】
すなわち、変形例の太陽電池モジュール100でも、薄膜系太陽電池デバイス2において、傾斜領域R2における薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのX方向(集積方向)のユニットセル幅Wu2は、水平領域R1における薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのX方向のユニットセル幅Wu1よりも広い。例えば、ユニットセル幅Wu2とユニットセル幅Wu1とは、以下の関係式を満たしてもよい。
Wu2=Wu1/sinθ
【0062】
これにより、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20の出力電流を、増加させることができ、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20の出力電流と同等とすることができる。そのため、これらの薄膜系太陽電池セル20を直列接続しても、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20によって、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20の出力電流が制限されることを抑制することができる。そのため、薄膜系太陽電池デバイス2の発電効率の低下を抑制することができ、その結果、太陽電池モジュール100の発電効率の低下を抑制することができる。
【0063】
また、変形例の太陽電池モジュール100でも、薄膜系太陽電池デバイス2において、傾斜領域R2における薄膜系太陽電池セル20の分離溝20sのX方向(集積方向)の分離溝幅Ws2は、水平領域R1における薄膜系太陽電池セル20の分離溝20sのX方向の分離溝幅Ws1よりも広い。例えば、分離溝幅Ws2と分離溝幅Ws1とは、以下の関係式を満たしてもよい。
Ws2=Ws1/sinθ
【0064】
これらにより、任意の一方向からみたとき、傾斜領域R2に配置される薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのユニットセル幅および分離溝20sの分離溝幅を、水平領域R1に配置される薄膜系太陽電池セル20のユニットセル20uのユニットセル幅および分離溝20sの分離溝幅と同等とすることができる。そのため、太陽電池モジュール100の受光面の見た目の統一感(意匠性)の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 結晶シリコン系太陽電池デバイス
2 薄膜系太陽電池モジュール
3 受光側保護部材
4 裏側保護部材
5 封止材
6 配線部材
10 結晶シリコン系太陽電池セル
20 薄膜系太陽電池セル
20b 基材(基板)
20u ユニットセル
20s 分離溝
21 光電変換層
22,23 電荷輸送層
24,25 電極
100 太陽電池モジュール
101 太陽電池デバイス
R1 水平領域
R2 傾斜領域
Wu1,Wu2 ユニットセル幅
Ws1,Ws2 分離溝幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7