IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ポーラ化成工業株式会社の特許一覧

特開2024-144995非表在性色素沈着部位の肌の評価方法
<>
  • 特開-非表在性色素沈着部位の肌の評価方法 図1
  • 特開-非表在性色素沈着部位の肌の評価方法 図2
  • 特開-非表在性色素沈着部位の肌の評価方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024144995
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】非表在性色素沈着部位の肌の評価方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057208
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】河野 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】水越 興治
(72)【発明者】
【氏名】山地 史哉
(72)【発明者】
【氏名】中山 和紀
【テーマコード(参考)】
4C117
【Fターム(参考)】
4C117XB13
4C117XD05
4C117XE43
(57)【要約】
【課題】
本発明は、新規な、肌の評価方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
上記課題を解決する手段は、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価することを特徴とする、非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価することを特徴とする、非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価方法。
【請求項2】
皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いと判定することを特徴とする、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記指標は、非侵襲的に得られた被験者の皮膚内部構造を示すデータから得られるメラニン量である、
請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記の皮膚内部構造を示すデータは、少なくとも、皮膚の深さ方向について、表皮基底層以下の真皮領域を含む画像データである、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
請求項1又は2の評価方法の評価結果に基づき、前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度を評価するくすみ評価方法であり、
非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いほどくすみの程度が低いと判定する、くすみ評価方法。
【請求項6】
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として、
前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度を評価する、くすみ評価方法。
【請求項7】
皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、
前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度が低いと判定する、
請求項6に記載のくすみ評価方法。
【請求項8】
被験者に任意の刺激(だたし、医療行為は除く)を適用する適用工程と、
前記適用工程後所定期間経過後に、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を取得する測定工程と、
前記測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた請求項1又は2の評価方法の評価結果に基づき、前記被験者に適した刺激かを判定する判定工程と、
を有することを特徴とする、被験者に適した刺激の選択方法。
【請求項9】
皮膚に物質を適用する適用工程と、
前記適用工程後所定期間経過後に、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を取得する測定工程と、
前記測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた請求項1又は2の評価方法の評価結果に基づき、前記被験者に適した物質かを判定する判定工程と、
を有することを特徴とする、被験者に適した物質の選択方法。
【請求項10】
非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価可能とするプログラムであって、
コンピュータを、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を受け付ける真皮メラニン量受付手段と、
メラニン量を指標として、非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価する評価手段と、
として機能させ、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として非表在性色素沈着部位の肌の明度を判定可能とすることを特徴とする、非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価プログラム。
【請求項11】
前記の非表在性色素沈着部位のくすみの程度を評価可能な評価プログラムであって、
コンピュータを、
前記の非表在性色素沈着部位のくすみの程度を評価する皮膚のくすみ評価手段として機能させ、
前記くすみ評価手段は、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いほどくすみの程度が低いと判定する、請求項10に記載の評価プログラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非表在性色素沈着部位の肌の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
くすみは、顔全体の皮膚明度の低下で定義され、従来、キメの乱れや角化不全などの表皮状態の悪化や表皮中におけるメラニン量を指標としてそのくすみの程度が評価されていた。
また、従来、肝斑のような表皮に色素沈着を伴う色素性病変では真皮メラニンが蓄積していることが知られており、真皮メラニンによる色素性病変部位の色調への影響が示唆されていた。
【0003】
ここで、肌の状態を客観的に評価する従来技術として、測定領域からの反射光、又は、前記測定領域を透過した透過光に基づき、肌の色を測定する方法が知られている(特許文献1)。
また、従来技術として、光音響測定装置を用い、表層におけるメラニン量を観測できることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-151245号公報
【特許文献2】特開2022-63799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、非表在性色素沈着部位についての、真皮メラニンと肌色の関係は解明されていなかった。また、くすみは表皮部分に顕著な色素沈着を伴わないため、従前、真皮メラニンによる非表在性色素沈着部位の色調への影響は検討されていなかった。
上記先行技術のあるところ本発明者らが鋭意研究したところ、真皮メラニンが皮膚色に影響を与えることを解明し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、新規な、肌の評価方法の提供を課題とする。
特に、本発明の好ましい実施の形態では、真皮メラニンを指標とした、新規くすみ評価方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価することを特徴とする、非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価方法である。
本発明によれば、上記指標を用いて、非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価できる。
【0008】
本発明において、「皮膚」とは、表皮層、真皮層及び皮下脂肪層を含む生体組織を指し、組織の構造に特に着目する場合に用いる。
【0009】
また、本発明において、「肌」は、生体組織としては「皮膚」と同義であるが、組織の構造に特に着目しない、外部から視認可能な評価対象である皮膚表面部分を指すときに用いる。
【0010】
ここで、本明細書における「非表在性色素沈着部位」とは、肌表面において、表在性色素沈着のない部位をいう。より具体的には、「非表在性色素沈着部位」とは、肌表面において、視認できるシミやその他顕著な色素沈着、創傷等の異常がない正常な領域をいう。
【0011】
また、本明細書において、「真皮にあるメラニン量」とは、基底層及び表皮に存在するメラニンを除いた、皮膚における真皮のみにあるメラニンの量をいう。
【0012】
また、本発明の「評価」は、医療診断を含まない。
【0013】
後述する実施例に示す通り、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高い。
すなわち、本発明では、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いと評価することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、
前記指標は、非侵襲的に得られた被験者の皮膚内部構造を示すデータから得られるメラニン量である。
上記形態とすることで、非侵襲的に、非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価できる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、
前記の皮膚内部構造を示すデータは、少なくとも、皮膚の深さ方向について、表皮基底層以下の真皮領域を含む画像データである。
【0016】
また、本発明は、
前述の評価方法の評価結果に基づき、前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度を評価するくすみ評価方法であり、
非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いほどくすみの程度が低いと判定する、くすみ評価方法でもある。
【0017】
また、本発明は、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として、
前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度を評価する、くすみ評価方法でもある。
【0018】
本発明のくすみ評価方法における好ましい実施の形態では、
皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、
前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度が低いと判定する。
【0019】
また、本発明は、
被験者に任意の刺激(だたし、医療行為は除く)を適用する適用工程と、
前記適用工程後所定期間経過後に、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を取得する測定工程と、
前記測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた前述の評価方法の評価結果に基づき、前記被験者に適した刺激かを判定する判定工程と、
を有することを特徴とする、被験者に適した刺激の選択方法でもある。
【0020】
また、本発明は、
皮膚に物質を適用する適用工程と、
前記適用工程後所定期間経過後に、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を取得する測定工程と、
前記測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた前述の評価方法の評価結果に基づき、前記被験者に適した物質かを判定する判定工程と、
を有することを特徴とする、被験者に適した物質の選択方法でもある。
【0021】
また、本発明は、
非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価可能とするプログラムであって、
コンピュータを、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を受け付ける真皮メラニン量受付手段と、
メラニン量を指標として、非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価する評価手段と、
として機能させ、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として非表在性色素沈着部位の肌の明度を判定可能とすることを特徴とする、非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価プログラムでもある。
【0022】
本発明の評価プログラムにおける好ましい実施の形態では、
前記の非表在性色素沈着部位のくすみの程度を評価可能な評価プログラムであって、
コンピュータを、
前記の非表在性色素沈着部位のくすみの程度を評価する皮膚のくすみ評価手段として機能させ、
前記くすみ評価手段は、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いほどくすみの程度が低いと判定する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、新規の肌の明度の評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】真皮の断層画像と肌の表層画像の対比を示す代表図である。
図2】真皮メラニンスコアとL*値の関係を示す図である。
図3】本発明の推定方法の具体的な態様を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0026】
<1>非表在性色素沈着部位の肌の明度評価方法
以下、本発明の非表在性色素沈着部位の肌の明度評価方法の実施形態を説明する。
【0027】
本発明の非表在性色素沈着部位の肌の明度評価方法は、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価することを特徴とする。
【0028】
以下、本発明における、指標について、より詳細を説明する。
【0029】
本発明では、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標とする。
【0030】
ここで、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量は、非侵襲的に得られた被験者の皮膚内部構造を示すデータから得られるメラニン量であることが好ましい。
【0031】
本発明において、皮膚内部構造を示すデータは、少なくとも、皮膚の深さ方向について、表皮基底層以下の真皮領域を含む画像データであることが好ましい。
【0032】
画像データとして取得する表皮基底層以下の真皮領域は、基底層から深度方向に、皮下組織に到達するまでの領域であることが好ましい。
【0033】
本発明において、画像データとして取得する表皮基底層以下の真皮領域は、基底層底面部分から深度方向に、好ましくは基底層から500umの領域、より好ましくは基底層から1000umの領域、より好ましくは基底層から1500umの領域、より好ましくは基底層から2000umの領域、より好ましくは基底層から2500umの領域、さらに好ましくは真皮全層の領域である。
本発明によれば、上記領域における、真皮にあるメラニン量に基づき、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価することができる。
【0034】
ここで、本発明において、皮膚内部構造を示すデータは、皮膚の三次元画像データであっても、皮膚の断層画像データであってもよい。
【0035】
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、皮膚内部構造を示すデータは、断層画像データである。
後述する実施例に示す通り、皮膚の断層画像データにおける真皮にあるメラニン量が少ないほど、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度が高い(図1 参照)。ここで、後述する実施例に示す肌の明度(L値)は、肌の評価部位における平均値である。
すなわち、皮膚の断層画像データであっても、肌の評価部位全域の肌の明度を評価することができる。
【0036】
また、評価部位は、例えば、肌における、皮膚の断層画像データの表皮方向の長さを一辺の長さとし、皮膚の断層画像データの位置を略中線に配置した略正方形状の肌領域を、目安とすることができる(図1 参照)。
【0037】
評価部位のサイズとしては、例えば、肌における、好ましくは5mm×5mm~15mm×15mmの範囲の区画を設定することができる。
【0038】
なお、評価部位は、例えば、肌における、皮膚の断層画像データの表皮方向の長さを直径とした、皮膚の断層画像データの位置を略中線に配置した略円形状の肌領域を、目安とすることもできる。
【0039】
ここで、非侵襲的に得られた被験者の皮膚内部構造を示すデータの取得方法としては、光音響法により得られた画像データを好ましく挙げることができる。
ここで、画像データは、光音響法等によって得られた測定画像データそのものであってもよいし、測定画像データを加工した加工画像データであってもよい。
【0040】
また、光音響法により画像データを取得する方法としては、波長650nmのパルス光を用いた光音響法により取得した測定画像データを挙げることができる。
波長650nmのパルス光を用いた光音響法により取得した測定画像データを用いることで、より効率よく、被験者の皮膚内部構造におけるメラニンを可視化することができる。
【0041】
以下、本発明における、評価の基準について、より詳細を説明する。
【0042】
後述する実施例に示す通り、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高い。
すなわち、本発明では、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いと評価することができる。
【0043】
ここで、本発明における評価内容は、定量的な評価でもよく、予め設定した「非表在性色素沈着部位の肌の明度の指標」を基準とした相対的かつ定性的な評価でもよい。
【0044】
定量的な推定手法として、具体的には、顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)と非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値との相関関係を示す式又はモデルを予め作成しておき、対象者より取得した顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)を当該式又はモデルと照合することにより、対象者の肌の明度を評価する実施の形態を好ましく挙げることができる。このような実施の形態とすることにより評価精度を向上させることができる。
【0045】
ここで、顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)と非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値との相関関係は、回帰分析等の多変量解析により予め求めておくことができる。該多変量解析としては、目的変数と説明変数との関係を利用できるものが好ましく、判別分析、回帰分析(MLR、PLS、PCR、ロジスティック)を好ましく例示することができる。
【0046】
これらの内、特に好ましいのは重回帰分析(MLR)、非線形回帰分析(PLS:PaRtialLeastSquaRes)である。例えば、測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)を説明変数、対象者の肌の明度を目的変数として重回帰分析をおこなうことで、重回帰式を得ることができる。また、同様にPLSをおこなえば予測式(予測モデル)を得ることができる。
【0047】
精度良い式又はモデルを得る手法として、主成分分析、因子分析、数量化理論一類、数量化理論二類、数量化理論三類、多次元尺度法、教師ありクラスタリング、ニューラルネットワーク、アンサンブル学習法、等の多変量解析を適宜用いることができる。中でも好ましいのは、ニューラルネットワーク、判別分析及び数量化理論一類である。これらの多変量解析は、フリーソフトや市販されているものを用いておこなうことができる。
【0048】
ここで、精度良い式又はモデルを得るために、顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)と非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値との相関関係を、入力情報として記憶する記憶部と、
前記相関関係を教師データとして、対象者の顔画像データから該対象者の非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値を推定するための変数が機械学習された学習済みモデルを生成する学習部と、
を備える、学習装置を用いることもできる。
【0049】
以下、顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)と非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値との相関関係を示す式又はモデルの用意の方法について説明する。
【0050】
顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)と非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値との相関関係を示す式又はモデルを作成するため、顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)と非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値との相関関係を関連付けたデータベース(DB)を作成することが好ましい。
ここで、DBの人数は、好ましくは10人以上、より好ましくは15人以上、より好ましくは20人以上、さらに好ましくは30人以上である。
DBの構造としては、例えば行列形式(マトリックス)であれば、行に顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)を、列に対象者の肌の明度の測定値を入力することができる。
【0051】
このDBは、新規に取得した対象者の顔画像データから得られる測定値(皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量)と非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価値との相関関係を推定したあと、該推定値を追加することで、更新してもよい。必要に応じて、更新したDBに対し上述した多変量解析を行って、式又はモデルを更新することもできる。
【0052】
式又はモデルの作成、又は上記DBの作成にあたって必要となる情報の取得方法は、前述の説明及び、実施例の方法を採ることができる。
【0053】
ここで、本発明の好ましい実施の形態では、上記の非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価結果に基づき、非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度を評価する形態とすることもできる。
【0054】
<2> くすみ評価方法
また、本発明は、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として、前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度を評価する、くすみ評価方法でもある。
【0055】
ここで、本発明において、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、前記の非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度が低いと判定する形態であることが好ましい。
【0056】
本発明におけるくすみ評価方法の好ましい実施の形態は、前述の説明を援用することができる。
【0057】
<3>被験者に適した刺激又は物質の選択方法
次に、本発明における評価方法を利用した、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度の向上に適した刺激又は物質の選択方法について説明する。なお、各指標の取得方法等は、上記の記載を援用できる。
【0058】
本発明は、被験者に任意の刺激(だたし、医療行為は除く)を適用する適用工程と、
前記適用工程後所定期間経過後に、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を取得する測定工程と、
前記測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた前述の評価方法の評価結果に基づき、前記被験者に適した刺激かを判定する判定工程と、
を有することを特徴とする。
【0059】
ここで、任意の刺激としては、旅行体験、会話体験(カウンセリング、コミュニケーション)、芸術鑑賞(音楽、演劇、パフォーマンス、絵画、読書、美術品)、食事体験、スポーツ体験(運動体験、スポーツ鑑賞)、入浴体験(温泉、サウナ)、睡眠、アニマルセラピー(動物とのふれあい)、創作活動、趣味、美容手段を挙げることができる。
【0060】
美容手段としては、顔パック、マッサージ手法、アロマ等を挙げることができる。
【0061】
また、本発明は、
皮膚に物質を適用する適用工程と、
前記適用工程後所定期間経過後に、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を取得する測定工程と、
前記測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた前述の評価方法の評価結果に基づき、前記被験者に適した物質かを判定する判定工程と、
を有することを特徴とする、被験者に適した物質の選択方法でもある。
【0062】
また、本発明は、2種以上の物質を、2以上の対象者に対し各々適用する適用工程と、
前記適用工程後所定期間経過後に、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を取得する測定工程と、
前記測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた前述の評価方法の評価結果に基づき、前記被験者に適した物質かを判定する判定工程と、
を有する被験者に適した物質の選択方法とすることもできる。
【0063】
物質としては、市販の化合物(ペプチドを含む)、公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術によって得られた化合物群、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物などの物質を挙げることができる。
【0064】
動植物由来の抽出物は、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。
また、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等を挙げることができる。
【0065】
ここで、前記適用工程の期間は、好ましくは1週間以上、より好ましくは2週間以上、さらに好ましくは4週間以上、さらに好ましくは8週間以上、特に好ましくは12週間以上である。
さらに、被験者に任意の刺激、又は物質を適用する頻度は、1週間あたり1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは1日1回以上、さらに好ましくは1日2回以上とすることができる。
【0066】
ここで、前記適用工程の後の、所定期間は、好ましくは1週間以上、より好ましくは2週間以上、さらに好ましくは4週間以上、さらに好ましくは8週間以上、特に好ましくは12週間以上である。
なお、本発明において、適用する刺激又は物質の効果をみるために必要な期間であれば、前記適用工程の後の、所定期間に特に制限はない。
【0067】
本発明における、任意の刺激及び物質の適用範囲は、好ましくは顔全体及び頸部である。より好ましくは顔全体であり、さらに好ましくは頬部全体である。また、前記適用範囲は、各指標の好ましい形態に合わせて、頬上部、頬下部、又は頬部全体の何れかを選択してもよい。
【0068】
また、本発明により被験者に適していると判定された刺激又は物質の結果は、肌の手入れ(スキンケア)や化粧方法に関するカウンセリングにおいても有用な指標となり得る。
【0069】
<4>プログラム
また、本発明は非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価するプログラムにも関する。
以下に、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0070】
本発明の肌の明度を評価するプログラムは、コンピュータを、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値を受け付ける真皮メラニン量受付手段と、
メラニン量を指標として、非表在性色素沈着部位の肌の明度を評価する評価手段と、
として機能させ、
被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量を指標として非表在性色素沈着部位の肌の明度を判定可能とすることを特徴とする、実施の形態とすることが好ましい。
【0071】
また、本発明は、コンピュータを、
前記の非表在性色素沈着部位のくすみの程度を評価する皮膚のくすみ評価手段として機能させ、
前記くすみ評価手段は、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いほどくすみの程度が低いと判定する形態とすることができる。
【0072】
また本発明は、コンピュータを、 被験者に適した刺激又は物質の選択プログラムの形態とすることもできる。
【0073】
ここで、本発明のプログラムの好ましい実施の形態は、前述の説明を援用することができる。
【0074】
[本発明のプログラムの実施の形態]
以下、本発明の実施の態様を、図3を用いて説明する。
なお、本発明の実施の形態が下記の形態に限定されるものではないことは、いうまでもない。
【0075】
(1)非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価方法/非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度の評価方法
図3は、本発明の非表在性色素沈着部位の肌の明度の評価方法を示すフローチャートである。
【0076】
・真皮メラニン量受付工程(S11)
まず、ステップS11にて、真皮メラニン量受付手段により、真皮メラニン量の測定値にかかる情報を受け付ける。ここで、真皮メラニン量受付手段が受け付ける真皮メラニン量の測定値にかかる情報は、前述の説明の内容の通りである。
【0077】
・評価工程(明度評価工程(S12)、くすみ評価工程(S13))
次にステップS12及び/又はステップS13にて、評価手段(明度評価手段及び/又はくすみ評価手段)により、肌の明度の高低及び/又は肌のくすみの程度を評価する。ここで、真皮メラニン量に基づく、肌の明度の評価基準、肌のくすみの評価基準は前述の説明の内容の通りである。
【0078】
・結果表示工程
また、本発明の好ましい形態ではステップS12及び/又はステップS13で得られた結果を表示する、結果表示工程を有していてもよい。
ここで、結果表示手段は、前記結果を表示できるものであればよく、例えば、液晶ディスプレイ等による表示装置、スピーカー等の音声出力装置あるいはプリンタ等が挙げられる。
【0079】
(2)被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度の向上に適した刺激又は物質の選択方法
次に、図3を参照しつつ、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度の向上に適した刺激又は物質の選択方法を説明する。
【0080】
・適用工程(S11-1)
まず、ステップS11-1にて、被験者に任意の刺激(だたし、医療行為は除く)又は物質を適用する。
【0081】
・真皮メラニン量受付工程(S11-2)
真皮メラニン量受付手段により、適用工程(S11-1)後の真皮メラニン量の測定値にかかる情報を受け付ける。ここで、真皮メラニン量の測定値にかかる情報は、前述の説明の内容の通りである。
【0082】
・評価工程(明度評価工程(S12)、くすみ評価工程(S13))
評価手段により、肌の明度の高低及び/又は肌のくすみの程度を評価する。ここで、真皮メラニン量に基づく、肌の明度の評価基準、肌のくすみの評価基準は前述の説明の内容の通りである。
【0083】
ここで、明度評価工程(S12)、くすみ評価工程(S13)は、測定工程の測定値と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを対比する形態とすることが好ましい。
【0084】
・適否判定工程(S14)
適否判定手段により、真皮メラニン量受付工程(S11-2)で受けつけた真皮メラニン量の測定値にかかる情報と、予め取得した、被験者の皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量の測定値とを用いた評価結果に基づき、被験者に任意の刺激(だたし、医療行為は除く)又は物質かを判定する。ここで、被験者に任意の刺激(だたし、医療行為は除く)又は物質かの判定基準は前述の説明の内容の通りである。
【0085】
なお、本発明において、上記の全ての工程を必ずしも行う必要はない。
【実施例0086】
以下、本願発明の基となった試験結果を示す。
【0087】
<試験>肌の明度と真皮におけるメラニン量の相関の導出
被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度と真皮におけるメラニン量の相関の検討を行った。
【0088】
(1)基底膜より深部に局在するメラニン(真皮メラニン)の量を定量化
光音響法(Hadatomo Z)を用いて、被験者の測定部位(頬部位)に対して、650nmの入射光に対する光音響シグナルおよび超音波のシグナルを取得した。
このとき、視認により、表在性色素沈着のない部位(非表在性色素沈着部位)を測定部位として選定した(図1 参照)。
【0089】
得られた断層画像光音響シグナルおよび超音波のシグナルのデータから、真皮におけるメラニン量を可視化した(図1 参照)。
このとき、基底層及び表皮に存在するメラニンを除いた、皮膚における真皮のみのメラニンの量を、真皮におけるメラニン量と定義した。
【0090】
そして、専門の評価者より、真皮におけるメラニン量について、下記を基準として、最小評価点を1点、最大評価点を5点とし、0.1点単位で評点を付した。
専門の評価者3名の平均を、真皮におけるメラニン量(真皮メラニンスコア)とした。
【0091】
評点1: 真皮に、メラニンがほとんどない(図1 サンプルNo1 参照)。
評点5: 真皮に、非常にメラニンが多い(図1 サンプルNo2 参照)。
【0092】
(2)被験者の非表在性色素沈着部位の肌の明度の測定
測定部位と同一部位を分光測色計およびVisiaで測定・撮影し、L*値および皮膚表面の画像データを取得した(図1 参照)。
【0093】
(3)肌の明度と真皮におけるメラニン量の相関の導出
(1)、(2)で得られたデータを、サンプルごとに、真皮におけるメラニン量を縦軸、肌の明度を横軸をとし、肌の明度と真皮におけるメラニン量の関係を図示した(図2 参照、N=30)。
【0094】
(4)結果/考察
図2に示すとおり、肌の明度と真皮におけるメラニン量には、相関を確認することができた。具体的には、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いことがわかった。
すなわち、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌の明度が高いと評価できることがわかった。
【0095】
また、図1図2の結果から、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、非表在性色素沈着部位の肌のくすみの程度が低いことがわかった。
すなわち、皮膚における非表在性色素沈着部位の真皮にあるメラニン量が少ないほど、くすみの程度が低いと評価できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、被験者の非表在性色素沈着部位の肌の評価に応用できる。

図1
図2
図3