IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社パイロットコーポレーションの特許一覧

特開2024-14500筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014500
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/16 20140101AFI20240125BHJP
   B43K 7/12 20060101ALI20240125BHJP
   B43K 8/24 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K7/12
B43K8/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022117375
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】高田 結衣
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA04
2C350NA11
2C350NA21
4J039BC07
4J039BC19
4J039BC33
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039CA03
4J039CA06
4J039EA41
4J039EA42
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】 筆記先端部における耐ドライアップ性能に優れ、カスレ等の筆記不良を抑制して良好な筆跡を形成できる筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供する。
【解決手段】 少なくとも、着色剤と、深共晶溶媒とを含んでなる筆記具用インキ組成物とし、さらに、前記深共晶溶媒が、水素結合ドナー性の化合物と、水素結合アクセプター性の化合物とを含んでなり、前記水素結合ドナー性の化合物を、アルコール、糖類、有機酸、窒素含有化合物からなる群から選ばれる化合物とし、前記水素結合アクセプター性の化合物を、非金属塩、ベタイン、アミノ酸、多価カルボン酸、リン酸エステルからなる群から選ばれる化合物とした筆記具用インキ組成物とし、前記筆記具用インキ組成物を収容してなる筆記具とする。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色剤と、深共晶溶媒とを含んでなる筆記具用インキ組成物。
【請求項2】
前記深共晶溶媒が、水素結合ドナー性の化合物と、水素結合アクセプター性の化合物とを含んでなる、請求項1記載のインキ組成物。
【請求項3】
前記水素結合ドナー性の化合物が、アルコール、糖類、有機酸、窒素含有化合物からなる群から選ばれる化合物であり、かつ、前記水素結合アクセプター性の化合物が、非金属塩、ベタイン、アミノ酸、多価カルボン酸、リン酸エステルからなる群から選ばれる化合物である、請求項1又は2記載のインキ組成物。
【請求項4】
水をさらに含んでなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のインキ組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のインキ組成物を収容してなる、筆記具。
【請求項6】
前記筆記具が出没式筆記具である、請求項5記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。さらに詳細には、筆記先端部における乾燥を抑制して、良好な筆跡を形成できる筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、筆記具用インキ組成物としては、水を主溶媒とする「水性インキ組成物」と、ベンジルアルコールやフェニルグリコール等の有機溶剤を主溶媒とする「油性インキ組成物」に大別される。これらのインキ組成物を収容した筆記具はいずれも、筆記先端部を露出した状態で大気中に放置されると、筆記先端部から水や有機溶剤が蒸発して筆記先端部が乾燥(いわゆるドライアップ)し、インキ吐出性が低下することにより筆記の際にカスレ等の筆記不良を生じることがあった。
そこで、添加剤を配合してインキ組成物の耐ドライアップ性能を向上させる検討が行われている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
特許文献1には、エチレングリコールやグリセリン等の多価アルコールから選ばれる溶剤により筆記先端部の保湿性を良好とした、水性インキ組成物が開示されている。
【0004】
特許文献2には、ショ糖脂肪酸エステルにより筆記先端部を乾燥し難くした、油性インキ組成物が開示されている。
【0005】
上記のインキ組成物は、特定の化合物を用いることにより筆記先端部における乾燥を抑制する一定の効果はあるものの、耐ドライアップ性能としては未だ不十分であり、カスレ等の筆記不良のない良好な筆跡を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-209055号公報
【特許文献2】特開2001-200186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、筆記先端部における耐ドライアップ性能に優れ、良好なインキ吐出性を奏する筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも、着色剤と、深共晶溶媒とを含んでなる筆記具用インキ組成物を要件とする。
また、前記深共晶溶媒が、水素結合ドナー性の化合物と、水素結合アクセプター性の化合物とを含んでなること、前記水素結合ドナー性の化合物が、アルコール、糖類、有機酸、窒素含有化合物からなる群から選ばれる化合物であり、前記水素結合アクセプター性の化合物が、非金属塩、ベタイン、アミノ酸、多価カルボン酸、リン酸エステルからなる群から選ばれる化合物であること、水をさらに含んでなることを要件とする。
さらには、前記インキ組成物を収容してなる筆記具を要件とする。
また、前記筆記具が出没式筆記具であることを要件とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、筆記先端部における耐ドライアップ性能に優れ、カスレ等の筆記不良を抑制して良好な筆跡を形成できる筆記具用インキ組成物およびそれを収容してなる筆記具を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による筆記具用インキ組成物(以下、「インキ組成物」、または「インキ」と表すことがある)は、少なくとも、着色剤と、深共晶溶媒を含んでなる。以下に、本発明によるインキ組成物を構成する各成分について説明する。
【0011】
本発明に適用される着色剤としては特に限定されるものでないが、後述する深共晶溶媒に溶解または分散可能な、染料または顔料であれば特に限定されるものではない。
【0012】
染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料、油溶性染料、分散染料等が挙げられる。
【0013】
酸性染料としては、例えば、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等を例示できる。
【0014】
塩基性染料としては、例えば、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等を例示できる。
【0015】
直接染料としては、例えば、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファーストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等を例示できる。
【0016】
油溶性染料としては、例えば、C.I.Solvent Black 7、C.I.Solvent Black 123、C.I.Solvent Blue 2、C.I.Solvent Blue 25、C.I.Solvent Blue 55、C.I.Solvent Blue 70、C.I.Solvent Red 8、C.I.Solvent Red 49、C.I.Solvent Red 100、C.I.Solvent Violet 8、C.I.Solvent Violet 21、C.I.Solvent Green 3、C.I.Solvent Yellow 21、C.I.Solvent Yellow 44、C.I.Solvent Yellow 61、C.I.Solvent Orange 37等を例示できる。
【0017】
分散染料としては、例えば、C.I.Disperse Yellow 82、C.I.Disperse Yellow 3、C.I.Disperse Yellow 54、C.I.Disperse Red 191、C.I.Disperse Red 60、C.I.Disperse Violet 57等を例示できる。
【0018】
顔料としては、無機顔料、有機顔料、光輝性顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0019】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、鉄黒、黄色酸化鉄、弁柄、群青等を例示できる。
【0020】
有機顔料としては、例えば、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリノン系顔料、イソインドリン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アントラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、スレン系顔料、インジゴ系顔料、フタロン系顔料、メチン・アゾメチン系顔料、金属錯体系顔料等を例示できる。
【0021】
顔料としては、予め界面活性剤や樹脂を用いて顔料を微細に安定的に水性媒体中に分散させた、水分散顔料等を用いることもできる。
【0022】
顔料を分散する樹脂としては、例えば、ポリアミド、ウレタン樹脂、ポリエステル、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、アラビアゴム、セルロース、デキストラン、カゼイン、およびそれらの誘導体、上記の樹脂の共重合体等を例示できる。
【0023】
光輝性顔料としては、ガラス片等の芯物質の表面を金、銀等で被覆した金属光沢顔料、天然雲母、合成雲母、薄片状酸化アルミニウム等の芯物質の表面を酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料、コレステリック液晶型顔料、金属粉顔料、フィルム等の基材に形成したアルミニウム等の金属蒸着膜を剥離して得られる金属顔料、無色透明または着色透明フィルムにアルミニウム等の金属蒸着膜を形成し粉末処理した金属顔料等が挙げられる。
【0024】
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が挙げられる。
【0025】
蓄光顔料としては、太陽や電灯等の光線を吸収、蓄積し、暗所において光を徐々に放出して発光する(これを残光とよんでいる)特性を有するものであれば汎用のものが用いられ、CaS/Bi系、CaSrS/Bi系、ZnS/Cu系、ZnCdS/Cu系、SrAl2O4/稀土類金属系等の蓄光顔料が挙げられる。
【0026】
着色剤は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0027】
着色剤として上記の顔料を用いる場合、必要に応じて顔料分散剤を用いることができる。顔料分散剤としては、アニオン系、ノニオン系等の界面活性剤;ポリアクリル酸、スチレン-アクリル酸等のアニオン性高分子;PVP、PVA等の非イオン性高分子等が挙げられる。
【0028】
上記した染料または顔料は、そのまま用いても有効であるが、染料または顔料をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料や、染料または顔料を含有させた樹脂粒子も、着色剤として用いることができる。特に、染料または顔料は、マイクロカプセルに内包させることにより外部環境から隔離、保護され、内包物の耐水性や耐光性を向上させることができる。
【0029】
マイクロカプセル顔料は、上記した染料または顔料を油性媒体中に溶解または分散させた着色体を、マイクロカプセルに内包させることによって形成することができる。
【0030】
油性媒体としては、例えば、一塩基酸エステル、二塩基酸モノエステル、二塩基酸ジエステル、多価アルコールの部分エステルないし完全エステル等のエステル類、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等の芳香族炭化水素類、高級アルコール類、ケトン類、エーテル類等を例示できる。
油性媒体は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0031】
マイクロカプセル顔料のマイクロカプセル化は、従来公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン-ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。カプセルの材質としては、例えば、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート樹脂等を例示できる。
【0032】
マイクロカプセルの表面には、目的に応じてさらに二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0033】
染料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に上記した染料が均質に溶解または分散された樹脂粒子や、樹脂粒子に染料が染着された樹脂粒子等が挙げられる。
【0034】
樹脂粒子を構成する樹脂としては特に限定されるものではないが、熱硬化性樹脂が好ましい。
熱硬化性樹脂は、熱可塑性樹脂と比較して耐溶剤性や耐熱性に優れると共に、含有される染料の耐移行性にも優れており、樹脂から染料が溶出することを抑制できるため好適である。
熱硬化性樹脂の中でも、染料の溶出をいっそう抑制できることから、グアナミン樹脂またはメラミン樹脂が好ましい。
【0035】
顔料を含有させた樹脂粒子としては、樹脂粒子中に上記した顔料が均質に分散された樹脂粒子や、樹脂粒子の表面が顔料で被覆された樹脂粒子等が挙げられる。
【0036】
樹脂粒子を構成する樹脂としては特に限定されるものではなく、汎用の樹脂を用いることができる。
【0037】
樹脂粒子は、粉砕法、スプレードライング法、あるいは、水性または油性媒体中において、染料または顔料の存在下で重合する重合法により製造することができる。重合法としては、懸濁重合法、懸濁重縮合法、分散重合法、乳化重合法等が挙げられる。
【0038】
樹脂粒子の形状としては特に限定されるものではなく、真球状、楕円球状、略球状等の球状、多角形状、扁平状等の樹脂粒子を用いることができる。これらの中でも、球状の樹脂粒子を用いることが好ましい。
【0039】
着色剤が染料もしくは顔料、または、上記したマイクロカプセル顔料もしくは樹脂粒子である場合、インキ組成物の総質量に対する着色剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~50質量%、より好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは1~20質量%の範囲である。着色剤の含有率が50質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し易く、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、含有率が0.01質量%未満では、筆記具としての好適な筆跡濃度が得られ難くなる。
【0040】
着色剤として、温度変化により色変化する熱変色性材料や、光の照射により色変化する光変色性材料等の変色性材料を用いることもできる。これらの色変化は可逆的であっても、不可逆的であってもよい。温度変化あるいは光の照射により繰り返し色変化を発現できることから、可逆熱変色性材料や可逆光変色性材料が好適である。
【0041】
可逆熱変色性材料としては、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)上記(イ)、(ロ)成分の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が挙げられる。
【0042】
可逆熱変色性組成物としては、特公昭51-44706号公報、特公昭51-44707号公報、特公平1-29398号公報等に記載された、ヒステリシス幅(ΔH)が比較的小さい特性(ΔH=1~7℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることができる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱または冷熱が適用されている間は維持されるが、熱または冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る。
【0043】
可逆熱変色性組成物としては、特公平4-17154号公報、特開平7-179777号公報、特開平7-33997号公報、特開平8-39936号公報、特開2005-1369号公報等に記載されているヒステリシス幅が大きい特性(ΔH=8~80℃)を有する加熱消色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱消色型とは、加熱により消色し、冷却により発色することを意味する。この可逆熱変色性組成物は、温度変化による発色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と、逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度t以下の温度域での発色状態、または完全消色温度t以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔発色開始温度t~消色開始温度tの間の温度域(実質二相保持温度域)〕で色彩記憶性を有する。
【0044】
なお、本発明に上記の色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を適用する場合、可逆熱変色性組成物としては、具体的には、完全発色温度tを冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、かつ、完全消色温度tを摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度の範囲に特定し、ΔH値を40~100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0045】
冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度は、-50~0℃であり、好ましくは-40~-5℃、より好ましくは-30~-10℃の範囲である。
ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度は、50~95℃であり、好ましくは50~90℃、より好ましくは60~80℃の範囲である。
【0046】
可逆熱変色性組成物として、特公昭51-44706号公報、特開2003-253149号公報等に記載された、没食子酸エステルを用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を用いることもできる。加熱発色型とは、加熱により発色し、冷却により消色することを意味する。
【0047】
可逆熱変色性組成物は、上記の(イ)、(ロ)、(ハ)成分を必須成分とする相溶体であり、各成分の割合は、濃度、変色温度、変色形態や各成分の種類に左右される。一般的に所望の特性が得られる成分比は、(イ)成分1に対して、(ロ)成分0.1~100、好ましくは0.1~50、より好ましくは0.5~20、(ハ)成分1~800、好ましくは5~200、より好ましくは10~100の範囲である(上記した割合はいずれも質量部である)。
【0048】
可逆光変色性材料としては、太陽光、紫外光、または、ピーク発光波長が400~495nmの範囲にある青色光を照射すると発色し、照射を止めると消色する従来公知のスピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体、ナフトピラン誘導体等のフォトクロミック化合物が挙げられる。
【0049】
スピロオキサジン誘導体としては、例えば、従来公知のインドリノスピロベンゾオキサジン系化合物、インドリノスピロナフトオキサジン系化合物、インドリノスピロフェナントロオキサジン系化合物、インドリノスピロキノリノオキサジン系化合物等を例示できる。
【0050】
さらに、光メモリー性(色彩記憶性光変色性)を有するフォトクロミック化合物として、例えば、従来公知のフルギド誘導体、ジアリールエテン誘導体等を例示できる。
【0051】
また、可逆光変色性材料として、上記のフォトクロミック化合物を各種オリゴマーに溶解した可逆光変色性組成物を用いることもできる。
オリゴマーとしては、スチレン系オリゴマー、アクリル系オリゴマー、テルペン系オリゴマー、テルペンフェノール系オリゴマーが挙げられる。
【0052】
スチレン系オリゴマーとしては、例えば、低分子量ポリスチレン、スチレン・α-メチルスチレン共重合体、α-メチルスチレン重合体、α-メチルスチレン・ビニルトルエン共重合体等を例示できる。
【0053】
アクリル系オリゴマーとしては、例えば、アクリル酸エステル共重合体等を例示できる。
【0054】
テルペン系オリゴマーとしては、例えば、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、d-リモネン重合体等を例示できる。
【0055】
テルペンフェノール系オリゴマーとしては、例えば、α-ピネン・フェノール共重合体等を例示できる。
【0056】
フォトクロミック化合物を各種オリゴマーに溶解することにより、フォトクロミック化合物の耐光性を向上させると共に、発色濃度の向上、さらには変色感度を調整することができる。
【0057】
オリゴマーは一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0058】
上記した可逆熱変色性組成物または可逆光変色性組成物は、そのまま用いても有効であるが、マイクロカプセルに内包して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料を形成したり、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂中に分散させて可逆熱変色性樹脂粒子または可逆光変色性樹脂粒子を形成したりして、本発明に適用される着色剤として用いることもできる。
なお、以下において、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料および可逆光変色性マイクロカプセル顔料を「マイクロカプセル顔料」と、可逆熱変色性樹脂粒子および可逆光変色性樹脂粒子を「樹脂粒子」と表すことがある。
【0059】
可逆熱変色性組成物または可逆光変色性組成物は、マイクロカプセルに内包して可逆熱変色性マイクロカプセル顔料または可逆光変色性マイクロカプセル顔料とすることが好ましい。これは、マイクロカプセルに内包させることにより、化学的、物理的に安定なマイクロカプセル顔料を構成することができ、さらに、種々の使用条件において可逆熱変色性組成物または可逆光変色性組成物は同一の組成に保たれ、同一の作用効果を奏することができるからである。
【0060】
マイクロカプセル化は、従来公知のイソシアネート系の界面重合法、メラミン-ホルマリン系等のin Situ重合法、液中硬化被覆法、水溶液からの相分離法、有機溶媒からの相分離法、融解分散冷却法、気中懸濁被覆法、スプレードライング法等があり、用途に応じて適宜選択される。カプセルの材質としては、例えば、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、イソシアネート樹脂等を例示できる。
【0061】
マイクロカプセルの表面には、目的に応じてさらに二次的な樹脂皮膜を設けて耐久性を付与させたり、表面特性を改質させて実用に供することもできる。
【0062】
上記のマイクロカプセル顔料は、内包物:壁膜の質量比が7:1~1:1であることが好ましく、内包物と壁膜の質量比が上記の範囲内にあることにより、発色時の色濃度および鮮明性の低下を防止することができる。より好ましくは、内包物:壁膜の質量比が6:1~1:1である。
【0063】
マイクロカプセル顔料中に一般の染料または顔料等の非変色性着色剤を配合させることにより、有色(1)から有色(2)への変色挙動を呈するマイクロカプセル顔料とすることもできる。
【0064】
着色剤が上記した変色性材料である場合、インキ組成物の総質量に対する着色剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは5~40質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは15~35質量%の範囲である。着色剤の含有率が40質量%を超えると、インキ組成物を収容した筆記具のインキ吐出性が低下し、カスレや線飛び等の筆記不良が発生し易くなる。一方、含有率が5質量%未満では、筆記具としての好適な変色性および筆跡濃度が得られ難く、変色機能を十分に満たすことができ難くなる。
【0065】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料もしくは樹脂粒子、または、可逆光変色性マイクロカプセル顔料もしくは樹脂粒子の平均粒子径は、好ましくは0.01~5μm、より好ましくは0.1~3μm、さらに好ましくは0.5~3μmの範囲である。上記のマイクロカプセル顔料または樹脂粒子の平均粒子径が5μmを超えると、筆記具に用いた場合に良好なインキ吐出性が得られ難くなる。一方、平均粒子径が0.01μm未満では、高濃度の発色性を示し難くなる。
【0066】
なお、平均粒子径の測定は、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア〔マウンテック(株)製、製品名:マックビュー〕を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。
【0067】
また、全ての粒子或いは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置〔ベックマン・コールター(株)製、製品名:Multisizer 4e〕を用いて、コールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することも可能である。
【0068】
さらに、上記したソフトウェアまたはコールター法による測定装置を用いて計測した数値を基にして、キャリブレーションを行ったレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置〔(株)堀場製作所製、製品名:LA-300〕を用いて、体積基準の粒子径および平均粒子径を測定しても良い。
【0069】
本発明に適用される深共晶溶媒(DESs:Deep Eutectic Solvents)は、水素結合ドナー性の化合物(以下、「水素結合ドナー」と表すことがある)と水素結合アクセプター性の化合物(以下、「水素結合アクセプター」と表すことがある)とを含んでなり、水素結合ドナーと水素結合アクセプターとを一定の割合で混合した混合物により形成される、常温で液体である化合物である。ここで、水素結合ドナーと水素結合アクセプターは、両方またはいずれか一方が常温(例えば、25℃)付近で固体ある。常温とは、JIS Z8703で規定される20℃±15℃(5~35℃)の温度域である。
【0070】
深共晶溶媒は、常温で液体である。これは、水素結合ドナー性の化合物と水素結合アクセプター性の化合物を混合することにより生じる、共晶融点降下によるものである。各化合物により調製される混合物の融点は、水素結合ドナーと水素結合アクセプターの少なくとも一方が常温で固体であっても各化合物の融点よりも大きく低下するため、深共晶溶媒は常温で液体状態となる。
【0071】
深共晶溶媒は、蒸気圧が低く不揮発性であるという特徴を有する。一般的にインキ組成物を筆記具、特に出没式筆記具に収容して用いる場合、その筆記先端部(以下、「ペン先」と表すことがある)は乾燥し易い環境に置かれるため、カスレ等の筆記不良を生じ易く、筆記不能になることがある。なお、ペン先が乾燥した状態を「ドライアップ」という。深共晶溶媒は、本発明による筆記具用インキにおいてドライアップを抑制する効果を奏し、筆記先端部からのインキ吐出性を良好とする。
すなわち、深共晶溶媒を用いたインキ組成物は耐ドライアップ性能に優れ、筆記先端部における乾燥が抑制されるため、優れた筆記性能を達成することができる。
【0072】
水素結合ドナー性の化合物としては、水素結合アクセプター性の化合物と混合することによって深共晶溶媒を形成するものであれば、特に限定されるものではない。
【0073】
水素結合ドナー性の化合物としては、金属元素のハロゲン化物(以下、「金属ハロゲン化物」と表すことがある)等の金属化合物を例示できる。
【0074】
金属ハロゲン化物を構成する金属元素としては、例えば、リチウム、アルミニウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、イットリウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、ランタン等を例示できる。
【0075】
金属ハロゲン化物を構成するハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を例示でき、好ましくは塩素原子または臭素原子である。
【0076】
金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化リチウム、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)、塩化銅(I)、塩化銅(II)、塩化亜鉛(II)、塩化ガリウム(III)、塩化イットリウム(III)、塩化銀、塩化カドミウム、塩化ジルコニウム(III)、塩化インジウム(III)、塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、塩化ランタン(III)等を例示できる。
金属ハロゲン化物は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0077】
金属ハロゲン化物は水和物であってもよく、金属ハロゲン化物の水和物としては、例えば、塩化クロム(III)六水和物、塩化コバルト(II)六水和物、塩化銅(II)二水和物、塩化ニッケル(II)六水和物、塩化鉄(III)六水和物等を例示できる。
【0078】
水素結合ドナー性の化合物としては、アルコール、糖類、有機酸、窒素含有化合物等の非金属化合物を用いることもできる。
【0079】
アルコールはヒドロキシ基(-OH)を含む有機化合物であり、モノオール、ジオール、トリオールのみならず、糖アルコールも含まれる。
アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、イソソルビド、キシリトール、リビトール、ガラクチトール、エリスリトール、マルチトール、アラビトール、レゾルシノール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、アドニトール等を例示できる。
アルコールは一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0080】
糖類としては、単糖、二糖のみならず、オリゴ糖も含まれる。
糖類としては、例えば、スクロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、セロビオース、アラビノース、リボース、リブロース、ガラクトース、ラムノース、ラフィノース、キシロース、マンノース、トレハロース、スクロース、ブドウ糖、ショ糖、グルクロン酸、シアル酸等を例示できる。
糖類は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0081】
有機酸はカルボキシ基(-COOH)を含む有機化合物であり、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、およびこれらの塩が含まれる。
有機酸としては、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、クエン酸、ステアリン酸、アジピン酸、オレイン酸、イスベリン酸、リノール酸、マレイン酸、ピルビン酸、フマル酸、マロン酸、シュウ酸、コハク酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸、レブリン酸、イタコン酸、スベリン酸、蟻酸、酢酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸、テチラコサン酸、ヘキサコサン酸、オクタコサン酸、トリアコンタン酸、グリコール酸、グルタル酸、アコニット酸、ノイラミン酸等の脂肪族カルボン酸;安息香酸、フェニル酢酸、3-フェニルプロピオン酸、4-ヒドロキシ安息香酸、コーヒー酸、p-クマル酸、trans-ケイ皮酸、没食子酸等の芳香族カルボン酸等を例示できる。
有機酸は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0082】
窒素含有化合物としては、尿素化合物、アミド化合物、アゾール系化合物、ピリジン化合物等が挙げられる。
【0083】
尿素化合物としては、例えば、尿素、1-メチル尿素、1,3-ジメチル尿素、1,1-ジメチル尿素、エチレン尿素、プロピレン尿素、テトラメチル尿素、トリフルオロメチル尿素、チオ尿素等を例示できる。
【0084】
アミド化合物としては、例えば、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、ベンズアミド、2,2,2-トリフルオロアセトアミド等を例示できる。
【0085】
アゾール系化合物としては、例えば、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、イミダゾリン、チアゾール、オキサゾール等を例示できる。
【0086】
ピリジン化合物としては、例えば、4-プロピルピリジン、2-ヒドロキシピリジン等を例示できる。
【0087】
窒素含有化合物は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0088】
水素結合ドナー性の化合物としては取り扱い性に優れることから、非金属化合物であるアルコール、糖類、有機酸、窒素含有化合物からなる群から選ばれる化合物が好ましく、窒素含有化合物としては尿素化合物が好ましい。
【0089】
水素結合アクセプター性の化合物としては、水素結合ドナー性の化合物と混合することによって深共晶溶媒を形成するものであれば、特に限定されるものではない。
【0090】
水素結合アクセプター性の化合物としては、塩、ベタイン、アミノ酸、多価カルボン酸、リン酸エステル等が挙げられる。
【0091】
塩としては、金属元素の塩(以下、「金属塩」と表すことがある)や、非金属元素の塩(以下、「非金属塩」と表すことがある)が挙げられる。
【0092】
金属塩としては、金属元素のハロゲン化物(以下、「金属ハロゲン化物」と表すことがある)、金属炭酸塩、金属硝酸塩、金属リン酸塩等の金属化合物が挙げられる。
【0093】
金属ハロゲン化物としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、、塩化カリウム、塩化鉄(III)、塩化銅(II)、塩化亜鉛(II)、臭化亜鉛(II)、塩化ジルコニウム(III)、塩化スズ(II)等を例示できる。
【0094】
金属炭酸塩としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等を例示できる。金属硝酸塩としては、例えば、硝酸ナトリウム等を例示できる。金属リン酸塩としては、例えば、リン酸二水素ナトリウム等を例示できる。
【0095】
金属塩は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0096】
非金属塩としては、アンモニウム塩、アミン塩酸塩、ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0097】
アンモニム塩としては、例えば、塩化コリン、フッ化コリン、塩化エチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、アセチルコリンクロリド、クロロコリンクロリド、フルオロコリンブロミド、フルオロコリンクロミド、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジエチルアンモニウムクロリド、N-(2-ヒドロキシエチル)-N,N-ジメチルベンゼンメタンアミニウムクロリド、2-(クロロカルボニルオキシ)-N,N,N-トリメチルエタンアンモニウムクロリド、N,N-ジエチルエタノールアンモニウムクロリド、トリメチルフェニルアンモニウムクロリド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド、コリンニトラート、コリンテトラフルオロボラート等の第4級アンモニウム塩等を例示できる。
【0098】
アミン塩酸塩としては、例えば、2-(ジエチルアミノ)エタノール塩酸塩、エチルアミン塩酸塩、グアニジン塩酸塩等を例示できる。
【0099】
ホスホニウム塩としては、例えば、臭化メチルトリフェニルホスホニウム、塩化ベンジルトリフェニルホスホニウム、テトラブチルホスホニウムブロミド、アリルトリフェニルホスホニウムブロミド等の第4級ホスホニウム塩等を例示できる。
【0100】
非金属塩は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0101】
ベタインは一般的に双性イオンであり、第4級アンモニウムカチオンや第4級ホスホニウムカチオン等のカチオン性官能基と、カルボキシ基やスルホ基等のアニオン性官能基を有し、分子全体で電荷を持たない化合物のことである。ベタインとしては、例えば、トリメチルグリシン等を例示できる。
ベタインは一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0102】
アミノ酸としては、天然に存在する天然アミノ酸だけでなく、人工アミノ酸(非天然アミノ酸)であってもよい。また、アミノ酸には、α-、β-、γ-、δ-アミノ酸が含まれる。
アミノ酸としては、例えば、γ-アミノ酪酸、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン、リシン、アルギニン、セリン、グリシン、プロリン、トレオニン、カルニチン、システイン等を例示できる。
アミノ酸は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0103】
多価カルボン酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸等を例示できる。
多価カルボン酸は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0104】
リン酸エステルとしては、例えば、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル等を例示できる。
リン酸エステルは一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0105】
水素結合アクセプター性の化合物としては取り扱い性に優れることから、非金属化合物である非金属塩、ベタイン、アミノ酸、多価カルボン酸、リン酸エステルからなる群から選ばれる化合物が好ましく、非金属塩としては第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩が好ましい。
【0106】
従来、深共晶溶媒のような不揮発性を示す材料としてイオン液体(ILs:Ionic Liquids)がある。深共晶溶媒はイオン液体と類似の特徴を有することで知られているが、深共晶溶媒はイオン液体とは全く異なるものである。イオン液体は、「イオンのみからなる液体」、「100%イオンからなる液体の電解質」、「完全にイオンから成るもの」等と定義される材料である。一方で、深共晶溶媒は上述したように、「水素結合ドナー性の化合物と水素結合アクセプター性の化合物からなるもの」である。すなわち、深共晶溶媒は、水素結合ドナー性の化合物を含む点でイオンのみからなるものではないため、イオン液体ではない。
また、深共晶溶媒は不揮発性を有すると共に、イオン液体より有利な点を有する。
【0107】
深共晶溶媒は調製する際に化学反応を伴わず、水素結合ドナーと水素結合アクセプターを混合するだけで調製可能である。さらに、水素結合ドナー性の化合物や水素結合アクセプター性の化合物は容易に入手でき、比較的安価であることから、イオン液体と比較して低コストであると考えられる。
【0108】
水素結合ドナー性の化合物や水素結合アクセプター性の化合物には、環境に対する影響が小さいものが多いことから、深共晶溶媒はイオン液体と比較して廃棄時の環境負荷が低いと考えられる。
【0109】
深共晶溶媒において、水素結合ドナー性の化合物が、アルコール、糖類、有機酸、窒素含有化合物からなる群から選ばれる化合物であり、かつ、水素結合アクセプター性の化合物が、非金属塩、ベタイン、アミノ酸、多価カルボン酸、リン酸エステルからなる群から選ばれる化合物であることが好ましい。この組み合わせによる深共晶溶媒は金属塩を含まないため取り扱い性に優れ、さらに環境に対する影響が小さいと考えられるため、好適である。
さらに、水素結合ドナー性の化合物が、アルコール、有機酸、尿素化合物からなる群から選ばれる化合物であり、かつ、水素結合アクセプター性の化合物が、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩からなる群から選ばれる化合物であることがより好ましい。この組み合わせによる深共晶溶媒は多くが生分解性を有し、より低コストに調製することができるため、より好適である。
【0110】
深共晶溶媒の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法を用いることができる。
具体的には、水素結合ドナー性の化合物と水素結合アクセプター性の化合物を直接混合することにより製造することができる。この際、各化合物を混合して調製される混合物を加熱して融解させた後、常温まで冷却して製造してもよく、これにより完全に均質化した深共晶溶媒を得ることができる。また、各化合物が常温(例えば、25℃)で固体である場合、一方の化合物(好ましくは、二つの化合物のうち融点が低い化合物)を加熱して融解させた後、他方の化合物を混合あるいは溶解させることにより製造することもできる。
【0111】
各化合物が常温で固体である場合、水素結合ドナー性の化合物と水素結合アクセプター性の化合物を直接混合すると共に、水またはグリセリンの少なくとも一方を配合させてもよい。ここで、配合される水またはグリセリンの量は少量である。具体的には、水またはグリセリンの量は、常温で固体である各化合物を完全に溶解させるには不十分な量、または、常温で固体である各化合物が同時に飽和する量である。このような場合であっても、混合物は常温で液体となり、深共晶溶媒を得ることができる。
【0112】
水またはグリセリンの量が、常温で固体である各化合物を完全に溶解させるには不十分な量である具体的な例としては、ソルビトール(水素結合ドナー)149gと、アラニン(水素結合アクセプター)47gと、水60gとからなる深共晶溶媒が挙げられる。25℃においてアラニンは、60gの水に対して約33gしか溶解せず、このため、60gの水はアラニンを完全に溶解させるには不十分な量である。しかしながら、ここにソルビトールを混合させることにより液体とすることができ、深共晶溶媒として用いることができる。なお、各化合物の溶解度は25℃で評価されるものである。
【0113】
水またはグリセリンの量が、常温で固体である各化合物が同時に飽和する量である具体的な例としては、フルクトース(水素結合ドナー)73gと、塩化ナトリウム(水素結合アクセプター)7.2gと、水20gとからなる深共晶溶媒が挙げられる。25℃において73gのフルクトースは、20gの水に対して飽和状態であり、ここに73gの塩化ナトリウムを混合させると各化合物が同時に水に飽和するため、深共晶溶媒として用いることができる。また、25℃において7.2gの塩化ナトリウムは、20gの水に対して飽和状態であるが、ここに73gのフルクトースを混合させても、同様に深共晶溶媒として用いることができる。すなわち、塩化ナトリウムおよびフルクトースは、25℃において深共晶溶媒中で同時に水に飽和するため、深共晶溶媒とすることができる。なお、各化合物の溶解度は25℃で評価されるものである。
【0114】
水またはグリセリンの少なくとも一方の、深共晶溶媒に対する含有率は、好ましくは0~50質量%、より好ましくは0~30質量%、さらに好ましくは0~20質量%の範囲である。
【0115】
深共晶溶媒は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0116】
本発明によるインキ組成物において、深共晶溶媒は主溶媒であることが好ましい。ここで、本発明における「主溶媒」とは、インキ組成物の総質量に対する含有率が50質量%以上である溶媒のことである。深共晶溶媒を主溶媒したインキ組成物は、従来の水性インキ組成物や油性インキ組成物とは異なる新規の溶媒を用いるものであり、添加剤を配合することなく耐ドライアップ性能に優れるインキ組成物とすることができる。
深共晶溶媒が主溶媒である場合、インキ組成物の総質量に対する深共晶溶媒の含有率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上の範囲である。
【0117】
本発明によるインキ組成物が、深共晶溶媒を主溶媒として用いるインキ組成物である場合、水または水溶性有機溶剤の少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。水または水溶性有機溶剤の少なくとも一方を配合させることにより、インキ組成物を低粘度化させることができ、筆記先端部からのインキ吐出性を良好とし筆記感を向上させることができる。
【0118】
水としては、例えば、水道水、イオン交換水、限外ろ過水、蒸留水等を例示できる。
【0119】
水溶性有機溶剤としては、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、スルフォラン、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等を例示できる。
水溶性有機溶剤は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0120】
本発明によるインキ組成物が水または水溶性有機溶剤の少なくとも一方を含む場合、インキ組成物の総質量に対する水または水溶性有機溶剤の少なくとも一方の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは10~25質量%の範囲である。
【0121】
本発明によるインキ組成物は、水を主溶媒とした水性インキ組成物(水性インキ)であってもよい。ここで、本発明における「水性インキ組成物」とは、インキ組成物の総質量に対する水の含有率が50質量%以上であるインキ組成物のことである。水性インキ組成物に深共晶溶媒を配合させることにより、筆記先端部からの水分蒸発を抑制して、水性インキ組成物の耐ドライアップ性能を向上させることができる。
【0122】
水が主溶媒である場合、インキ組成物の総質量に対する水の含有率は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上の範囲である。
また、インキ組成物の総質量に対する深共晶溶媒の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~20質量%、より好ましくは3~15質量%の範囲である。
【0123】
本発明によるインキ組成物には、増粘剤を配合させることができ、良好な経時安定性を有するインキ組成物とすることができる。
増粘剤としては、従来公知の物質を用いることが可能であるが、インキ組成物に剪断減粘性を付与できる物質(剪断減粘性付与剤)を用いることが好ましい。
【0124】
剪断減粘性付与剤を用いたインキ組成物は、静置状態、あるいは応力の低いときには高粘度で流動し難く、外部から応力が加わった際に容易に低粘度化する。このため、非筆記時には、インキの漏出を防止したり、インキの分離や逆流を防止したりすることができ、筆記時には、ペン先からのインキ吐出安定性を良好とすることが容易となる。
【0125】
とりわけ、ペン先としてボールペンチップを備えた形態の筆記具(ボールペン)にこのようなインキ組成物を用いた際には、剪断応力が加わらない静置時には高粘度であるため、ボールペン内にインキ組成物が安定的に保持される。このため、筆記時にはボールの回転によりインキ組成物に強い剪断応力が加わり、ボール近傍のインキ組成物がより低粘度化し易くなることから、インキ吐出安定性を良好とすることができる。
【0126】
本発明によるインキ組成物が増粘剤を含む場合、インキ組成物の総質量に対する増粘剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~20質量%の範囲である。
【0127】
剪断減粘性付与剤としては、例えば、水溶性多糖類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万~15万の重合体、ポリ-N-ビニルカルボン酸アミド架橋物、ベンジリデンソルビトールおよびその誘導体、ベンジリデンキシリトールおよびその誘導体、アルカリ増粘型アクリル樹脂、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、HLB値が8~12のノニオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等を例示できる。
【0128】
剪断減粘性付与剤は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0129】
水溶性多糖類としては、例えば、キサンタンガム、ウェランガム、ゼータシーガム、ダイユータンガム、マクロホモプシスガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量が約100万~800万)、グアーガム、ローカストビーンガムおよびその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物等を例示できる。
【0130】
本発明によるインキ組成物には、高分子凝集剤を配合させることができる。高分子凝集剤は、マイクロカプセル顔料を含む顔料間に緩い橋かけ作用を生じさせ、顔料が高分子凝集剤を介して緩やかな凝集体を形成するため、顔料同士が直接凝集することを抑制して、顔料の分散安定性を向上させることができる。
高分子凝集剤は、後述するマーキングペンに備えられるインキ吸蔵体の毛細間隙において、インキ組成物中の顔料の沈降を抑制する効果を奏する。よって、高分子凝集剤を配合するインキ組成物は、インキ吸蔵体を備えるマーキングペンに適用されることが好適である。
【0131】
本発明によるインキ組成物が高分子凝集剤を含む場合、インキ組成物の総質量に対する高分子凝集剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.05~1質量%の範囲である。
【0132】
高分子凝集剤としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、水溶性多糖類等が挙げられる。
【0133】
水溶性多糖類としては、例えば、トラガントガム、グアーガム、プルラン、サイクロデキストリン、水溶性セルロース誘導体等を例示できる。
【0134】
水溶性セルロース誘導体としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等を例示できる。
【0135】
本発明によるインキ組成物には、分散剤を配合させることもでき、顔料の分散性を高めることができる。また、高分子凝集剤と分散剤を併用させることもできる。高分子凝集剤と分散剤の両者を併用する場合、高分子凝集剤を介して形成される緩やかな凝集体の分散性を向上させることができる。
【0136】
分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルエーテル、スチレン-マレイン酸共重合体、ケトン樹脂、ヒドロキシエチルセルロースおよびその誘導体、スチレン-アクリル酸共重合体等の合成樹脂、アクリル系高分子、PO・EO付加物、ポリエステルのアミン系オリゴマー等を例示できる。
顔料がマイクロカプセル顔料を含む場合、マイクロカプセル顔料の分散性に優れることから、分散剤としてはアクリル系高分子分散剤が好ましく、カルボキシ基を有するアクリル系高分子分散剤がより好ましく、側鎖にカルボキシ基を有する櫛形構造のアクリル系高分子分散剤がさらに好ましい。特に好ましくは、側鎖に複数のカルボキシ基を有する櫛形構造のアクリル系高分子分散剤であり、具体的には、日本ルーブリゾール(株)製、製品名:ソルスパース43000を例示できる。
【0137】
本発明によるインキ組成物が分散剤を含む場合、インキ組成物の総質量に対する分散剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.1~1.5質量%の範囲である。分散剤の含有率が2質量%を超えると、外部から振動等が加わった際に顔料が沈降または浮上し易くなる。一方、含有率が0.01質量%未満では、分散性向上の効果が発現され難くなる。
【0138】
本発明によるインキ組成物には、界面活性剤を配合させることができ、インキ組成物の表面張力を適切な範囲に調整することができる。
界面活性剤には、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等があるが、何れも好適に用いることができる。
【0139】
界面活性剤としては、例えば、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、フッ素系界面活性剤等を例示でき、これらの界面活性剤は、インキ組成物の成分や用途などに応じて適切に選択される。
【0140】
本発明によるインキ組成物が界面活性剤を含む場合、インキ組成物の総質量に対する界面活性剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.01~2質量%、より好ましくは0.05~1質量%の範囲である。
【0141】
本発明によるインキ組成物には、pH調整剤を配合させることができ、インキ組成物のpHを適切な範囲に調整することができる。pH調整剤としては、各種の酸性物質や塩基性物質を用いることができる。
【0142】
酸性物質としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸、ホウ酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等を例示できる。
【0143】
塩基性物質としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、酢酸ナトリウム等を例示でき、また、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類を適用することもできる。
【0144】
本発明によるインキ組成物がpH調整剤を含む場合、インキ組成物の総質量に対するpH調整剤の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~5質量%、より好ましくは0.5~2質量%の範囲である。
【0145】
本発明によるインキ組成物には、例えば、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の水溶性樹脂を配合させることができ、紙面への固着性および粘性を付与することができる。
水溶性樹脂は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0146】
本発明によるインキ組成物が水溶性樹脂を含む場合、インキ組成物の総質量に対する水溶性樹脂の含有率は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~30質量%、より好ましくは1~10質量%の範囲である。
【0147】
本発明によるインキ組成物がボールペンチップを備える筆記具(ボールペン)に用いられる場合、インキ組成物には潤滑剤を配合させることもできる。潤滑剤は、チップ本体内部に設けられるボール受け座と、チップ本体の前端に備えられるボールとの潤滑性を向上させて、ボール受け座の摩耗を容易に防止することができ、筆記感を向上させることができるものである。
【0148】
潤滑剤としては、例えば、オレイン酸等の高級脂肪酸;長鎖アルキル基を有するノニオン系界面活性剤;ポリエーテル変性シリコーンオイル;チオ亜リン酸トリ(アルコキシカルボニルメチルエステル)やチオ亜リン酸トリ(アルコキシカルボニルエチルエステル)等のチオ亜リン酸トリエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルまたはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、あるいは、これらのリン酸エステルの金属塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカノールアミン塩等のリン酸エステル系界面活性剤を例示できる。
【0149】
本発明によるインキ組成物には、その他必要に応じて、各種添加剤を配合させることもできる。
【0150】
添加剤としては、例えば、防錆剤、防腐剤あるいは防黴剤、気泡吸収剤、湿潤剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を例示できる。
【0151】
防錆剤としては、例えば、ジシクロヘキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、サポニン等が例示できる。
【0152】
防腐剤あるいは防黴剤としては、例えば、石炭酸、1,2-ベンゾチアゾリン3-オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン等が例示できる。
【0153】
気泡吸収剤としては、例えば、アスコルビン酸類、エリソルビン酸類、α-トコフェロール、カテキン類、合成ポリフェノール、コウジ酸、アルキルヒドロキシルアミン、オキシム誘導体、α-グルコシルルチン、α-リポ酸、ホスホン酸塩、ホスフィン酸塩、亜硫酸塩、スルホキシル酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、二酸化チオ尿素等が例示できる。
【0154】
湿潤剤としては、例えば、還元または非還元デンプン加水分解物、トレハロース等の二糖類、オリゴ糖、ショ糖、サイクロデキストリン、ぶどう糖、デキストリン、ソルビット、マンニット、ピロリン酸ナトリウム等が例示できる。
【0155】
消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサン等を例示できる。
【0156】
酸化防止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドロキシトルエン、フラボノイド、ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸誘導体、α-トコフェロール、カテキン類等を例示できる。
【0157】
紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2′-ヒドロキシ-3′-tert-ブチル-5′-メチルフェニル)-5- クロロベンゾトリアゾール、2-(2′-ヒドロキシ-5′- メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、p-安息香酸-2-ヒドロキシベンゾフェノン等を例示できる。
【0158】
本発明によるインキ組成物の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の任意の方法を用いることができる。
具体的には、上記の各成分を配合した混合物を、プロペラ攪拌、ホモディスパー、もしくはホモミキサー等の各種攪拌機で攪拌することにより、またはビーズミル等の各種分散機等で分散することにより、インキ組成物を製造することができる。
【0159】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、その粘度は、20℃の環境下において、回転速度1rpm(剪断速度3.84sec-1)の条件で測定した場合、インキ組成物をより安定的に保持させることができることから、以下の範囲が好ましい。詳細には、この場合のインキ組成物の粘度は、好ましくは1~30,000mPa・s、より好ましくは100~25,000mPa・sの範囲である。
また、20℃の環境下において、回転速度100rpm(剪断速度384sec-1)の条件で測定した場合、ボールペンのペン先からのインキ吐出性を良好とすることができることから、粘度は、以下の範囲が好ましい。詳細には、この場合のインキ組成物の粘度は、好ましくは1~15,000mPa・s、より好ましくは10~5,000mPa・sの範囲である。
インキ組成物の粘度が上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の安定性や、ボールペンの機構内におけるインキ組成物の易流動性を高いレベルで維持することができる。
【0160】
なお、インキ組成物の粘度は、レオメーター〔TAインスツルメンツ社製、製品名:Discovery HR-2、コーンプレート(直径40mm、角度1°)〕を用いて、インキを20℃の環境下に置いて、回転速度1rpm(剪断速度3.84sec-1)、または、回転速度100rpm(剪断速度384sec-1)の条件で測定した値である。
【0161】
本発明によるインキ組成物がマーキングペンに用いられる場合、その粘度は、20℃の環境下において、回転数50rpmの条件で測定した場合、インキ組成物の安定性と流動性を高いレベルで維持することができることから、以下の範囲が好ましい。詳細には、この場合のインキ組成物の粘度は、好ましくは1~30mPa・s、より好ましくは1~20mPa・s、さらに好ましくは1~10mPa・sの範囲である。
【0162】
なお、インキ組成物の粘度は、E型回転粘度計〔東機産業(株)製、製品名:RE-85L、コーン型ローター:標準型(1°34′×R24)〕を用いて、インキ組成物を20℃の環境下に置いて測定した値である。
【0163】
本発明によるインキ組成物がボールペンまたはマーキングペンに用いられる場合、そのpHは、好ましくは4~10、より好ましくは5~9の範囲である。pHが上記の範囲内にあることにより、インキ組成物の過度な高粘度化や変質を抑制することができる。
【0164】
なお、インキ組成物のpHは、pHメーター〔東亜ディーケーケー(株)製、製品名:IM-40S〕を用いて、インキを20℃の環境下に置いて測定した値である。
【0165】
本発明によるインキ組成物がボールペンに用いられる場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンレフィルまたはボールペンに充填して用いられる。
【0166】
ボールペンチップは、チップ本体と、チップ本体の前端に備えられるボールとからなる。ボールペンチップは、例えば、金属製のパイプからなるチップ本体の先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属材料からなるチップ本体に、ドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、金属またはプラスチック製チップ本体の内部に樹脂製のボール受け座を設けたチップ、あるいは、上記チップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を例示できる。
【0167】
チップ本体およびボールの材質としては特に限定されるものではなく、例えば、超硬合金(超硬)、ステンレス鋼、ルビー、セラミック、樹脂、ゴム等を例示できる。さらに、ボールにはDLCコート等の表面処理を施すこともできる。
【0168】
ボールの直径は、一般的には0.2~3mmであり、好ましくは0.2~2mm、より好ましくは0.2~1.5mm、さらに好ましくは0.2~1mmの範囲である。
【0169】
インキ充填機構としては、例えば、インキを直に充填することのできるインキ収容体を例示できる。
【0170】
インキ収容体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体が用いられる。
【0171】
インキ収容体に、ボールペンチップを直接、または接続部材を介して連結させ、インキ収容体にインキを直接充填することにより、ボールペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒内に収容することでボールペンを形成することができる。
【0172】
インキ収容体に充填されるインキの後端にはインキ逆流防止体が充填される。インキ逆流防止体としては、液栓または固体栓が挙げられる。
【0173】
液栓は不揮発性液体および/または難揮発性液体からなり、例えば、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等を例示できる。
不揮発性液体および/または難揮発性液体は一種、または二種以上を併用して用いることができる。
【0174】
不揮発性液体および/または難揮発性液体には、増粘剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましい。
増粘剤としては、例えば、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイト等の粘土系増粘剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸;トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物;セルロース系化合物等を例示できる。
【0175】
固体栓としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等からなる固体栓を例示できる。
【0176】
インキ逆流防止体として、上記した液栓と固体栓を併用して用いることもできる。
【0177】
また、軸筒自体をインキ充填機構とし、軸筒内にインキを直接充填すると共に、軸筒の前端部にボールペンチップを装着することで、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンを形成することもできる。
【0178】
インキ充填機構に充填されるインキが低粘度である場合、ボールペンチップと、インキ充填機構とを備えたボールペンは、さらに、インキ充填機構に充填されるインキをペン先に供給するためのインキ供給機構を備えていてもよい。
【0179】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、(1)繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(2)櫛溝状のインキ流量調節体を備え、これを介在させてインキをペン先に供給する機構、(3)多数の円盤体が櫛溝状の間隔を開け並列配置され、円盤体を軸方向に縦貫するスリット状のインキ誘導溝および該溝より太幅の通気溝が設けられ、軸心にインキ充填機構からペン先へインキを誘導するためのインキ誘導芯が配置されてなるペン芯を介して、インキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
【0180】
ペン芯の材質としては、多数の円盤体を櫛溝状とした構造に射出成形できる合成樹脂であれば特に制限されるものではない。
合成樹脂としては、例えば、汎用のポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)等を例示できる。特に、成形性が高く、ペン芯性能を得られ易いことから、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)が好適に用いられる。
【0181】
ボールペンが上記のインキ供給機構を備えてなる場合、インキ充填機構としては、上記したインキ収容体や軸筒のほか、インキを充填できるインキ吸蔵体を用いることができる。
【0182】
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させた繊維集束体であり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲になるように調整して構成されたものである。
【0183】
また、インキ収容体にインキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにインキ供給機構が、インキ収容体の前端に備えられると共に、インキ供給機構に接続するようにボールペンチップを、直接または接続部材を介してインキ供給機構に連結させることにより、ボールペンチップと、インキ充填機構と、インキ供給機構とを備えたボールペンレフィルを形成することもできる。あるいは、インキ収容体にインキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにインキ供給機構が、インキ収容体の内部に備えられると共に、インキ供給機構に接続するようにボールペンチップを、直接または接続部材を介してインキ収容体に連結させることによっても、ボールペンレフィルを形成することができる。
【0184】
本発明によるインキ組成物を収容するボールペンの構成として具体的には、(1)軸筒内に、インキを充填したインキ収容体を有し、インキ収容体には、直接または接続部材を介してボールペンチップが連結され、インキの端面にはインキ逆流防止体が充填されたボールペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や、繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン、(4)軸筒内に、インキを含浸させた繊維集束体からなるインキ吸蔵体が収容され、繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるボールペン等を例示できる。
【0185】
本発明によるインキ組成物がマーキングペンに用いられる場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンレフィルまたはマーキングペンに充填して用いられる。
【0186】
マーキングペンチップとしては、例えば、繊維の樹脂加工体、熱溶融性繊維の融着加工体、フェルト体等の従来より汎用の気孔率が概ね30~70%の範囲から選ばれる連通気孔の多孔質部材、または、軸方向に延びる複数のインキ導出孔を有する合成樹脂の押出成形体等を例示でき、一端を砲弾形状、長方形状、チゼル形状等の目的に応じた形状に加工して実用に供される。
【0187】
インキ充填機構としては、例えば、インキを充填できるインキ吸蔵体を例示できる。
インキ吸蔵体は、捲縮状繊維を長手方向に集束させた繊維集束体であり、プラスチック筒体やフィルム等の被覆体に内在させて、気孔率が概ね40~90%の範囲に調整して構成される。
【0188】
軸筒内に、インキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介して軸筒に連結させることにより、マーキングペンを形成することができる。
【0189】
また、インキ収容体にインキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介してインキ収容体に連結させることにより、マーキングペンレフィル(以下、「レフィル」と表すことがある)を形成することができる。このレフィルを軸筒に収容することでマーキングペンを形成することができる。
【0190】
インキ収容体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の熱可塑性樹脂からなる成形体や、金属製管状体が用いられる。
【0191】
マーキングペンチップと、インキ充填機構とを備えたマーキングペンは、さらに、インキ充填機構に充填されるインキ組成物をペン先に供給するためのインキ供給機構を備えていてもよい。
【0192】
インキ供給機構としては特に限定されるものではなく、例えば、上記したボールペンに備えられるインキ供給機構に加えて、(4)弁機構によるインキ流量調節体を備え、開弁によりインキをペン先に供給する機構等が挙げられる。
【0193】
弁機構は、チップの押圧により開放する、従来より汎用のポンピング式形態が使用でき、筆圧により押圧開放可能なバネ圧に設定したものが好適である。
【0194】
マーキングペンがインキ供給機構を備えてなる場合、インキ充填機構としては、上記したインキ吸蔵体のほか、インキを直接充填できるインキ収容体を用いることができる。また、軸筒自体をインキ充填機構として、インキを直接充填してもよい。
【0195】
また、インキ収容体にインキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにインキ供給機構が、インキ収容体の前端に備えられると共に、インキ供給機構に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介してインキ供給機構に連結させることにより、マーキングペンチップと、インキ充填機構と、インキ供給機構とを備えたマーキングペンレフィルを形成することもできる。あるいは、インキ収容体にインキを含浸させたインキ吸蔵体を収容し、インキ吸蔵体に接続するようにインキ供給機構が、インキ収容体の内部に備えられると共に、インキ供給機構に接続するようにマーキングペンチップを、直接または接続部材を介してインキ収容体に連結させることによっても、マーキングペンレフィルを形成することができる。
【0196】
本発明によるインキ組成物を収容するマーキングペンの構成として具体的には、(1)軸筒内に、インキを含浸させた繊維集束体からなるインキ吸蔵体が収容され、毛細間隙が形成された、繊維加工体または樹脂成形体からなるマーキングペンチップが、インキ吸蔵体とチップが接続するように、直接または接続部材を介して軸筒に連結されたマーキングペン、(2)軸筒内に直接インキが充填され、櫛溝状のインキ流量調節体や繊維束等からなるインキ誘導芯をインキ流量調節体として介在させてインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(3)軸筒内に直接インキが充填され、上記のペン芯を介してインキをペン先に供給する機構が備えられるマーキングペン、(4)チップの押圧により開弁する弁機構を介してチップとインキ収容体とが備えられ、インキ収容体に直接インキが充填されるマーキングペン、(5)軸筒内に、インキを含浸させた繊維集束体からなるインキ吸蔵体を収容したインキ収容体を有し、毛細間隙が形成された、繊維加工体または樹脂成形体からなるマーキングペンチップが、インキ吸蔵体とチップが接続するように、直接または接続部材を介してインキ収容体に連結されたマーキングペン等を例示できる。
【0197】
本発明によるボールペンまたはマーキングペンがインキを直接充填するものである場合、マイクロカプセル顔料を含む顔料の再分散を容易とするために、インキが充填されるインキ収容体または軸筒に、インキを攪拌する攪拌ボール等の攪拌体を内蔵させることもできる。攪拌体の形状としては、球状体、棒状体等が挙げられる。攪拌体の材質としては特に限定されるものではなく、例えば、金属、セラミック、樹脂、硝子等を例示できる。
【0198】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具は、着脱可能な構造としてインキカートリッジ形態とすることもできる。この場合、筆記具のインキカートリッジに収容されるインキを使い切った後に、新たなインキカートリッジと取り替えることで、再び筆記具を使用することができる。
【0199】
インキカートリッジとしては、筆記具本体に接続することで筆記具を構成する軸筒を兼ねたものや、筆記具本体に接続した後に軸筒(後軸)を被覆して保護するものが用いられる。なお、後者においては、インキカートリッジ単体で用いるほか、使用前の筆記具において、筆記具本体とインキカートリッジが接続されているものや、筆記具のユーザーが使用時に軸筒内のインキカートリッジを接続して使用を開始するように非接続状態で軸筒内に収容したもののいずれであってもよい。
【0200】
本発明によるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、ペン先(筆記先端部)を覆うように装着されるキャップを設けてキャップ式筆記具とすることにより、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
【0201】
また、軸筒内にレフィルが収容されるボールペンまたはマーキングペン等の筆記具には、軸筒内に、軸筒から筆記先端部を出没可能とする出没機構を設けて出没式筆記具とすることができ、筆記先端部が汚染・破損されることを防ぐことができる。
【0202】
出没式筆記具は、筆記先端部が外気に晒された状態で軸筒内に収容されており、出没機構の作動によって軸筒開口部から筆記先端部が突出する構造であれば全て用いることができる。
また、軸筒内に複数のレフィルを収容してなり、出没機構の作動によっていずれかのレフィルの筆記先端部を軸筒開口部から出没させる複合タイプの出没式筆記具とすることもできる。
【0203】
出没機構としては、例えば、(1)軸筒の後部側壁より前後方向に移動可能な操作部(クリップ)を径方向外方に突設させ、操作部を前方にスライド操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドスライド式の出没機構、(2)軸筒後端に設けた操作部を前方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる後端ノック式の出没機構、(3)軸筒側壁外面より突出する操作部を径方向内方に押圧することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させるサイドノック式の出没機構、(4)軸筒後部の操作部を回転操作することにより軸筒前端開口部から筆記先端部を出没させる回転式の出没機構等を例示できる。
【0204】
ボールペンやマーキングペンの形態は上記した構成に限らず、相異なる形態のチップを装着させたり、相異なる色調あるいは色相のインキを導出させるチップを装着させたりするほか、相異なる形態のチップを装着させると共に、各チップから導出されるインキの色調あるいは色相が相異なる複合式筆記具(両頭式やペン先繰り出し式等)であってもよい。
【0205】
本発明による筆記具として好ましくは、軸筒内にレフィルが収容される出没式筆記具(出没式ボールペンまたは出没式マーキングペン)である。
一般的に出没式筆記具は筆記先端部が常に露出した状態であり、筆記先端部が乾燥することにより筆記不良を生じ易いものであるが、本発明によるインキ組成物は耐ドライアップ性能に優れ、筆記先端部における乾燥を抑制してカスレ等の筆記不良を生じ難くすることができるため、出没式筆記具に好適に用いられる。
【0206】
着色剤として、可逆熱変色性組成物、可逆熱変色性マイクロカプセル顔料、または可逆熱変色性樹脂粒子等を用いる場合、本発明によるインキ組成物を収容した筆記具を用いて被筆記面に形成される筆跡は、指による擦過や、加熱具または冷却具により変色させることができる。
【0207】
加熱具としては、PTC素子等の抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等の媒体を充填した加熱変色具、スチームやレーザー光等を用いた加熱変色具、ヘアドライヤーの適用等が挙げられるが、簡便な方法により変色させることができることから、摩擦部材および摩擦体が好ましい。
【0208】
冷却具としては、ペルチエ素子を用いた通電冷熱変色具、冷水や氷片等の冷媒を充填した冷熱変色具、畜冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用等が挙げられる。
【0209】
摩擦部材および摩擦体としては、弾性感に富み、擦過時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好ましいが、プラスチック成形体、石材、木材、金属、布帛等を用いることもできる。
【0210】
なお、鉛筆による筆跡を消去するために用いられる一般的な消しゴムを使用して、筆跡を擦過してもよいが、擦過時に消しカスが発生するため、消しカスが殆ど発生しない上記の摩擦部材および摩擦体が好適に用いられる。
【0211】
摩擦部材および摩擦体の材質としては、例えば、シリコーン樹脂、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS樹脂)等を例示できる。シリコーン樹脂は擦過により消去した部分に樹脂が付着し易く、繰り返し筆記した際に筆跡がはじかれる傾向にあるため、SEBS樹脂がより好適に用いられる。
【0212】
上記の摩擦部材または摩擦体は、筆記具とは別体の任意形状の部材であってもよいが、筆記具に設けることにより携帯性に優れるものとすることができる。また、筆記具と、筆記具とは別体の任意形状の摩擦部材または摩擦体とを組み合わせて、筆記具セットを得ることもできる。
【0213】
キャップを備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)あるいは軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)等に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【0214】
出没機構を備える筆記具の場合、摩擦部材または摩擦体を設ける箇所は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、さらにクリップを設ける場合には、クリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)、あるいはノック部に摩擦部材または摩擦体を設けることができる。
【実施例0215】
以下に実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特に断らない限り実施例中の「部」は、「質量部」を示す。
【0216】
深共晶溶媒Aの調製
水素結合ドナー性の化合物として尿素46.25部と、水素結合アクセプター性の化合物として塩化コリン53.75部とをビーカーに入れ、100℃で加熱しながらビーカーの内容物をスターラーで30分攪拌、混合し、深共晶溶媒Aを調製した。なお、水素結合ドナー性の化合物:水素結合アクセプター性の化合物とのモル比は、2:1である。
【0217】
深共晶溶媒B~Dの調製
深共晶溶媒B~Dは、水素結合ドナー性の化合物および水素結合アクセプター性の化合物の種類と配合量を、以下の表1に記載のものに変更した以外は、深共晶溶媒Aと同様にして調製した。また、水素結合ドナー性の化合物:水素結合アクセプター性の化合物のモル比を、以下の表1に記載した。
なお、表中の括弧内の数字は質量部を示す。
【0218】
【表1】
【0219】
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料の調製
(イ)成分として、3′,6′-ビス〔フェニル(3-メチルフェニル)アミノ〕スピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9′-[9H]キサンテン]-3-オン3部と、(ロ)成分として、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン3部、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5部と、(ハ)成分として、カプリン酸4-ベンジルオキシフェニルエチル50部とからなる可逆熱変色性組成物を、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー35部と、助溶剤40部とからなる混合溶液に投入した後、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5部を加え、さらに攪拌を続けてマイクロカプセル分散液を調製した。マイクロカプセル分散液から遠心分離法により、平均粒子径が1.9μmの可逆熱変色性マイクロカプセル顔料を得た。
マイクロカプセル顔料は完全発色温度tが-20℃、完全消色温度tが60℃であり、温度変化により青色から無色に可逆的に変化した。
【0220】
実施例1
筆記具用インキ組成物の調製
青色染料〔住友化学工業(株)製、製品名:アシッドブルーPH〕10部と、深共晶溶媒A90部とを混合し、筆記具用インキ組成物を調製した。
【0221】
筆記具の作製
上記のインキ組成物を、ポリプロピレン製からなるインキ収容体に吸引充填した後、樹脂製ホルダーを介して、直径0.5mmの超硬合金(超硬)製のボールを先端に抱持したボールペンチップと連結させた。次いで、インキ収容体の後端より、ポリブテンを主成分とする粘弾性を有するインキ逆流防止体(液栓)を充填し、さらに尾栓をパイプの後部に嵌合させ、遠心により脱気処理を行い、ボールペンレフィルを得た。
次いで、上記のレフィルを軸筒内に組み込み、筆記具(ボールペン)を作製した。
上記のボールペンは、ボールペンレフィルに設けられたチップが外気に晒された状態で軸筒内に収納されており、軸筒の後端に設けられた操作部を前方に押圧することによって軸筒前端開口部からチップが突出する、後端ノック式の出没機構が設けられる。
【0222】
実施例2~7、ならびに、比較例1および2
筆記具用インキ組成物の調製
実施例2~7、ならびに、比較例1および2の各筆記具用インキ組成物は、配合する材料の種類と配合量を以下の表2に記載のものに変更した以外は、実施例1と同様にして調製した。
【0223】
筆記具の作製
実施例2~7、ならびに、比較例1および2の筆記具(ボールペン)は、実施例1と同様にして作製した。
【0224】
実施例8
筆記具用インキ組成物の調製
青色染料〔住友化学工業(株)製、製品名:アシッドブルーPH〕3部と、深共晶溶媒B5部と、水92部とを混合し、筆記具用インキ組成物を調製した。
【0225】
筆記具の作製
ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆したインキ吸蔵体内に上記のインキ組成物を含浸させ、ポリプロピレンからなる軸筒内に収容し、軸筒先端部にポリエステル繊維の樹脂加工ペン体(チゼル型)を、樹脂製のホルダーを介してインキ吸蔵体と接続させ、キャップを装着して筆記具(マーキングペン)を作製した。
【0226】
比較例3
筆記具用インキ組成物の調製
比較例3の筆記具用インキ組成物は、配合する材料の種類と配合量を以下の表3に記載のものに変更した以外は、実施例8と同様にして調製した。
【0227】
筆記具の作製
比較例3の筆記具(マーキングペン)は、実施例8と同様にして作製した。
【0228】
【表2】
【0229】
【表3】
【0230】
表2および表3中の材料の内容を、注番号に沿って説明する。
(1)青色染料〔住友化学工業(株)製、製品名:アシッドブルーPH〕
(2)黒色染料〔オリヱント化学工業(株)製、製品名:ウォーターブラック R510〕
(3)エリスロシン〔ダイワ化成(株)製、製品名:食用赤色3号〕
(4)カーボンブラック〔三菱化学(株)製、製品名:MA-100〕
(5)可逆熱変色性マイクロカプセル顔料
(6)ポリビニルピロリドン〔BASF社製、製品名:ソカランK-30〕
(7)ノニオン系界面活性剤〔日光ケミカルズ(株)製、製品名:PBC-34〕
(8)リン酸エステル系界面活性剤〔第一工業製薬(株)製、製品名:プライサーフAL〕
【0231】
[初期筆記性能の評価]
実施例1~7、ならびに、比較例1および2で作製したボールペンを用いて、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、15cmの直線を手書きで筆記し、これを5行分行った。また、実施例8および比較例3で作製した各マーキングペンを用いて、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、ペン体の幅広面を紙面に密着させて15cmの直線を手書きで筆記し、これを5行分行った。なお、試験用紙には旧JIS P3201に準拠した筆記用紙Aを用いた。
得られた筆跡を目視にて確認し、下記基準で筆跡を評価した。評価結果は、以下の表4および表5に記載のとおりであり、評価「A」および「B」を合格とした。
A:筆跡にカスレ等がなく、良好な筆跡が得られた。
B:筆跡にカスレが少し確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
C:筆跡にカスレが多数確認された。
【0232】
[耐ドライアップ性能評価]
前述の筆記試験を行った各ボールペンの筆記先端部を突出状態(ノックオン状態)とし、室温(20℃)環境下で1日、横向きの状態で静置させた。1日経過後、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、15cmの直線を手書きで筆記し、これを5行分行った。また、前述の筆記試験を行った各マーキングペンのキャップを外し、室温(20℃)環境下で30分間、横向きの状態で静置させた。30分経過後、室温(20℃)環境下で、A4サイズの試験用紙(縦向き)の短手方向と平行方向に、ペン体の幅広面を紙面に密着させて15cmの直線を手書きで筆記し、これを5行分行った。なお、試験用紙には旧JIS P3201に準拠した筆記用紙Aを用いた。
得られた筆跡を目視にて確認し、下記基準で筆跡を評価した。評価結果は、以下の表4および表5に記載のとおりであり、評価「A」および「B」を合格とした。
A:筆跡にカスレ等がなく、初期の筆跡と同様の良好な筆跡が得られた。
B:初期の筆跡と比べて筆跡にカスレが少し確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
C:初期の筆跡と比べて、筆跡にカスレが多数確認された。
【0233】
【表4】
【0234】
【表5】