IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 五洋建設株式会社の特許一覧

特開2024-145002浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム
<>
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図1
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図2
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図3
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図4
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図5
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図6
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図7
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図8
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図9
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図10
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図11
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図12
  • 特開-浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145002
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20241004BHJP
   E02D 1/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057216
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 彩加
(72)【発明者】
【氏名】堤 彩人
(72)【発明者】
【氏名】山本 敦
【テーマコード(参考)】
2D040
2D043
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040CB03
2D040GA00
2D043AA05
2D043AC05
(57)【要約】
【課題】浸透固化処理工法において有効注入圧力を精度よく推定し、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できる浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】この浸透固化処理工法の注入管理方法は、改良対象地盤に設置された薬液の注入管の薬液注入口から離れて改良対象範囲内に水圧計を設置するステップと、水圧計による注入中の間隙水圧と薬液注入口における薬液の有効注入圧力との関係をシミュレーションしデータベース化するステップS05と、改良対象地盤へ薬液の注入を開始し、水圧計で測定した注入中の間隙水圧をデータベースで参照し、間隙水圧から有効注入圧力を推定するステップS08と、を含み、推定した有効注入圧力が限界注入圧を超えないように薬液の注入速度を制御する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浸透固化処理工法による改良対象地盤に設置された薬液の注入管の薬液注入口から離れて改良対象範囲内に水圧計を設置するステップと、
前記水圧計による注入中の間隙水圧と前記薬液注入口における薬液の有効注入圧力との関係をシミュレーションしデータベース化するステップと、
前記改良対象地盤へ薬液の注入を開始し、前記水圧計で測定した注入中の間隙水圧を前記データベースで参照し、前記間隙水圧から有効注入圧力を推定するステップと、を含み、
前記推定した有効注入圧力が限界注入圧を超えないように前記薬液の注入速度を制御する浸透固化処理工法の注入管理方法。
【請求項2】
前記改良対象地盤において前記薬液の粘度の経時変化を計測し、
前記計測した薬液の粘度の経時変化を考慮して前記有効注入圧力を推定する請求項1に記載の浸透固化処理工法の注入管理方法。
【請求項3】
前記水圧計を設置する前に前記水圧計設置のための孔を用いて現場透水試験を行い、前記改良対象地盤の透水係数を決定する請求項1に記載の浸透固化処理工法の注入管理方法。
【請求項4】
前記水圧計設置のための孔と隣接して別の水圧計設置のための孔を形成する際に、前記決定された透水係数に基づいて前記別の水圧計設置のための孔の位置を決める請求項3に記載の浸透固化処理工法の注入管理方法。
【請求項5】
前記推定した有効注入圧力Pと前記薬液注入を行うポンプの元圧Ppumpとから管内損失(Ppump-P)の経時変化を記録し、前記水圧計を設置していない前記薬液注入口における有効注入圧力の推定を前記管内損失に基づいて行う請求項1に記載の浸透固化処理工法の注入管理方法。
【請求項6】
浸透固化処理工法による改良対象地盤に設置された薬液の注入管の薬液注入口から離れて改良対象範囲内に設置された水圧計による注入中の間隙水圧と、前記薬液注入口における薬液の有効注入圧力と、の関係をシミュレーションしデータベース化するための手段と、
前記改良対象地盤への薬液の注入開始後に前記水圧計で測定された注入中の間隙水圧が前記データベースで参照されて前記間隙水圧から有効注入圧力を推定するための手段と、
前記推定した有効注入圧力が限界注入圧を超えないように前記薬液の注入速度を制御するための手段と、を備える浸透固化処理工法の注入管理システム。
【請求項7】
前記改良対象地盤において前記薬液の粘度の経時変化を計測するための手段を備え、
前記計測した薬液の粘度の経時変化を考慮して前記有効注入圧力を推定する請求項6に記載の浸透固化処理工法の注入管理システム。
【請求項8】
前記推定した有効注入圧力Pと前記薬液注入を行うポンプの元圧Ppumpとから管内損失(Ppump-P)の経時変化を記録するための手段を備え、
前記水圧計を設置していない前記薬液注入口における有効注入圧力の推定を前記管内損失に基づいて行う請求項6に記載の浸透固化処理工法の注入管理システム。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の浸透固化処理工法の注入管理方法または請求項6乃至8のいずれかに記載の浸透固化処理工法の注入管理システムを用いて浸透固化処理工法による対象地盤の改良を行う地盤改良工法。
【請求項10】
請求項6乃至8のいずれかに記載の浸透固化処理工法の注入管理システムにおける前記各手段としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
既設構造物直下の地震による液状化の対策工法として、地表面から地盤内を削孔し、薬液を注入し浸透させることで地盤を固化し改良する浸透固化処理工法が公知である。この浸透固化処理工法は、地盤内の土粒子間の間隙水を薬液に置き換えることで地盤の液状化を防止する工法である。地盤を構成する土粒子骨格を壊すことなく浸透注入を実施することで地盤の隆起や薬液の逸走を防止しつつ品質の高い地盤改良を行うことができる(非特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1は、シェル型浸透固化処理工法において薬液及び薬液浸透域拡張液を注入する注入位置の周囲であって、薬液浸透域の拡張予定半径より外側に拡張液検知手段として電気伝導度又は塩分濃度を計測する計測器を配置し、拡張液検知手段が薬液浸透域拡張液を検知した際には、薬液浸透域拡張液が薬液浸透域から漏れ出したと判断し、その判断に基づき薬液及び薬液浸透域拡張液の注入を管理する薬液注入工法の施工管理方法を開示する。
【0004】
特許文献2は、非アルカリ性シリカグラウトを用いて注入孔間隔、注入ステージ、注入量、注入速度、注入時間に対応し、注入範囲外への逸脱を低減するための地盤注入工法の注入外管理方法を開示し、注入地盤データ・削孔データ、注入装置データ、計測装置と計測データ、環境データなどのいずれかのデータを現場集中管理装置に蓄積し、施工現場からのデータを既存のデータと共に解析し、その結果を施工現場にフィードバックする。環境データとしては地下水のpH、地盤の変位、構造物の位置や変位等がある。
【0005】
特許文献3は、地盤内に設置された注入外管と注入外管に圧入管と吸入管を介して接続された圧入装置および吸入装置を備え、注入外管、圧入装置および吸入装置による可塑状ゲル注入材の圧入と吸入の繰り返しによって、周辺地盤の土粒子間の結合が解放され、塊状ゲル体の周囲に形成された空隙に可塑状ゲル注入材が圧入されて、塊状ゲル体が徐々に拡大して周辺地盤が締め固められるようにした地盤注入装置において、圧入管または改良範囲近傍の地盤内に水圧計が備えられ、可塑状ゲル注入材の圧入・吸引によって乗じた間隙水圧の上昇を観測し、最適な圧入速度、周波数で効率的な改良を行うことを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-155506号公報
【特許文献2】特開2021-185301号公報
【特許文献3】特開2017-119997号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山崎浩之・前田健一・高橋邦夫・善功企・林健太郎「溶液型注入固化材による液状化対策工法の開発」港湾技研資料,No.905,6-7頁(1998年)
【非特許文献2】一般財団法人沿岸技術研究センター「浸透固化処理工法技術マニュアル(改訂版)」44-45頁,136-137頁 (2020年)
【非特許文献3】公益社団法人地盤工学会「土質試験 基本と手引き 第二回改訂版」100頁 (2010年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
浸透固化処理工法における薬液の注入形態は、地盤の透水性や注入速度・圧力により変化し、注入速度の上昇につれ、浸透・割裂浸透・割裂へと推移する。割裂が大きく進展し、注入形態として浸透注入よりも割裂注入が発達すると、改良体が均質でなくなり十分な改良効果が得られなくなるため、注入は割裂浸透までの緩やかな注入速度で行うことが一般的である。そこで、限界注入速度試験を行い、浸透注入が可能であり、ほぼ良好な固結状態が得られる最大の注入速度を求めている。
【0009】
図1に、浸透固化処理工法の実施のための一般的な薬液注入システムを示す。図1の薬液注入システムは、薬液の全自動ミキサー1と、薬液注入ポンプ2と、薬液の流量および薬液注入ポンプ2による元圧Ppumpを検出する流量計検出部3と、ホースプラーコントローラー4と、ホースプラー5と、を備え、グラウトホース6,パッカーホース7,二重管注入ホース8を用いて、地盤内に設置された二重注入管9の注入パッカー10,10間の薬液注入口11から薬液を地盤内に注入する。薬液は、薬液注入ポンプ2から元圧Ppumpで送られ、薬液注入口11から有効注入圧力Pで地盤内に注入される。この注入経路において二重管注入ホース8や注入管9等により圧力の管内損失(損失圧力Ploss)が生じる。
【0010】
理論的背景(非特許文献1参照)
割裂とは、注入孔先端にかかる圧力(有効注入圧)に対して、土が抵抗できず破壊する現象と捉えることができる。このような現象はハイドロリック・フラクチャリング現象とよばれ次の数1の式(1)の条件が成立したときに発生する。
【0011】
【数1】
【0012】
ここで、Pfhは割裂が発生する地盤内の注入圧、Pは鉛直全応力、σは土の引張強さ、mは割裂の状況等による係数で1~2程度の値をとる。mは1と考えれば安全側で、砂のような引っ張り抵抗が無視できる場合には、割裂抵抗力は水圧を含む土被り圧と考えることができる。
【0013】
一方、理論的な最適注入速度については、Maagの考え方を応用できる。図1のように球状に浸透注入が発生すると考えると、有効注入圧hと注入速度qの関係は次の数2の式(2)で定義される。
【0014】
【数2】
【0015】
ここで、kは地盤の透水係数、rは注入管の半径、μは注入材の粘性係数、μは水の粘性係数である。
【0016】
上記式(1),(2)により浸透注入と割裂限界の関係を模式的に表すと図2のようになる。
【0017】
実務では、限界注入圧力(図2のPfhに相当)を限界注入速度試験(非特許文献2、44~45頁参照)により決定している。限界注入速度試験は、清水を使用して有効注入圧力P(MPa)と薬液吐出量q(L/m)を求め、浸透注入が可能で最も経済的となる注入速度を設定するものである。図3は限界注入速度試験により得られた注入速度qと有効注入圧力Pとの関係(P-q関係)を示す模式図である。ここで、有効注入圧力Pとは、次の数3の式(3)のように、図1の薬液注入口11に至るまでの注入管9等の送液経路における損失圧力Plossを元圧Ppumpから差し引いた値である。
【0018】
【数3】
【0019】
注入管理においては、図3で決定した限界注入速度以下の注入速度qcontrolによる一定速度で薬液を注入する。このとき、割裂注入とならないよう、注入圧力の管理値として限界注入圧Pfhを設定する。ただし、現状の管理方法では、有効注入圧Pを直接計測できないため、損失圧力Plossを仮定し、元圧Ppumpによる圧力管理を行っているのが実情である。例えば、非特許文献2では、限界注入速度試験で決定した限界注入圧Pfhを基に、Ploss = 0.2MPaを仮定して、元圧Ppumpによる注入圧力の管理を実施している。すなわち、管理基準は次の数4の式(4)で表される。
【0020】
【数4】
【0021】
現行の管理法における問題点
仮定を含む元圧Ppumpによる管理のため、有効注入圧が正しく評価されていないことに加え、以下の(1)(2)の二つの不確定要因から、実際の地盤には割裂限界を超える有効注入圧が作用している可能性(過大評価)、または、限界注入圧を過小評価し極端に保守的な注入管理をしている可能性が考えられる。
【0022】
不確定要因(1)
図2図3に示す有効注入圧力Pと注入速度qの関係(P-q関係)は、地盤の透水係数に依存する(式(2)参照)。実際の地盤は不均質であり、地盤の透水係数が施工範囲内で唯一となることはなく、空間的にばらつきを有することが一般的である。図4(a)(b)に改良対象As1層(後述の図9参照)においてMaag式と限界注入速度試験結果とにより推定した透水係数を複数地点A~J毎に示す。同じ改良対象As1層であるにも関わらず、透水係数のバラツキが大きいことがわかる。
【0023】
一方で、注入管理上は、唯一のP-q関係を仮定しているため、有効注入圧を適正に評価できない場合には、透水係数のバラツキが大きいと限界注入速度を過大評価、または過小評価している箇所が多く存在することになる。すなわち、図5(a)のように、地盤の透水係数kが小さい箇所は、限界注入圧Pfhを過大評価し、割裂注入となっている可能性が高い。また、図5(b)のように、地盤の透水係数kが大きい箇所は、限界注入圧Pfhを過小評価し、本来出せるはずの注入速度より小さい速度で注入しているため、施工生産性を低下させている。
【0024】
不確定要因(2)
図2図3に示すP-q関係は、地盤の透水係数に加えて薬液の粘性係数にも依存する(式(2)参照)。図6に薬液の粘度(粘性係数)の経時変化の例を示す。薬液は、設計注入量の全量を注入した時点でゲル化するように、複数の薬剤を調合して作製する。ここで、ゲル化までに要する時間をゲルタイムと呼ぶ。薬液の粘度はゲル化前にも時間とともに増加するが、特にゲルタイム付近で急激に増加する特徴を有する。一方、注入管理では、薬液の粘度の経時変化が考慮されていない。
【0025】
図7(a)~(c)を参照して薬液の粘度の変化による施工上の不具合事例を説明する。施工では、図7(b)のように限界注入速度以下の任意の注入速度qcontrolによる一定速度で薬液を注入する。しかし、注入中には薬液の粘度が増加するため、図7(a)のように、P-q関係が左方向にシフトすることになり、図7(c)のように、注入中に有効注入圧力は徐々に増加してしまう。このとき、割裂限界Pfhより大きな設定限界注入圧Ppump-set(=Pfh+0.2)で注入管理がなされている場合には(Pfhの過大評価)、Pfh以上の有効注入圧が地盤に作用することになり、割裂注入モードとなるため、改良体の品質確保の観点から望ましくない。
【0026】
特許文献1,2の薬液注入工法の施工管理方法は、上述のような地盤の透水係数や薬液の粘度の経時変化が有効注入圧力Pと注入速度qの関係に及ぼす影響を考慮するものではない。特許文献3は、地盤内に備えた水圧計により、可塑状ゲル注入材の圧入・吸引によって乗じた間隙水圧の上昇を観測するが、地盤の透水係数や薬液の粘度の経時変化による影響を考慮するものではない。
【0027】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、浸透固化処理工法において有効注入圧力を精度よく推定し、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できる浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記目的を達成するための浸透固化処理工法の注入管理方法は、浸透固化処理工法による改良対象地盤に設置された薬液の注入管の薬液注入口から離れて改良対象範囲内に水圧計を設置するステップと、前記水圧計による注入中の間隙水圧と前記薬液注入口における薬液の有効注入圧力との関係をシミュレーションしデータベース化するステップと、前記改良対象地盤へ薬液の注入を開始し、前記水圧計で測定した注入中の間隙水圧を前記データベースで参照し、前記間隙水圧から有効注入圧力を推定するステップと、を含み、前記推定した有効注入圧力が限界注入圧を超えないように前記薬液の注入速度を制御するものである。
【0029】
この浸透固化処理工法の注入管理方法によれば、改良対象地盤に設置された薬液の注入管の薬液注入口から離れて改良対象範囲内に設置した水圧計による注入中の間隙水圧と薬液注入口における薬液の有効注入圧力との関係をシミュレーションしデータベース化し、改良対象地盤への薬液注入開始後に、水圧計で測定した注入中の間隙水圧から有効注入圧力を精度よく推定することができ、この推定した有効注入圧力が限界注入圧を超えないように薬液の注入速度を制御することで、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できる。
【0030】
上記浸透固化処理工法の注入管理方法において、前記改良対象地盤において前記薬液の粘度の経時変化を計測し、前記計測した薬液の粘度の経時変化を考慮して前記有効注入圧力を推定することが好ましい。
【0031】
また、前記水圧計を設置する前に前記水圧計設置のための孔を用いて現場透水試験を行い、前記改良対象地盤の透水係数を決定することができる。
【0032】
また、前記水圧計設置のための孔と隣接して別の水圧計設置のための孔を形成する際に、前記決定された透水係数に基づいて前記別の水圧計設置のための孔の位置を決めることが好ましい。
【0033】
また、前記推定した有効注入圧力Pと前記薬液注入を行うポンプの元圧Ppumpとから管内損失(Ppump-P)の経時変化を記録し、前記水圧計を設置していない前記薬液注入口における有効注入圧力の推定を前記管内損失に基づいて行うことができる。
【0034】
上記目的を達成するための浸透固化処理工法の注入管理システムは、浸透固化処理工法による改良対象地盤に設置された薬液の注入管の薬液注入口から離れて改良対象範囲内に設置された水圧計による注入中の間隙水圧と、前記薬液注入口における薬液の有効注入圧力と、の関係をシミュレーションしデータベース化するための手段と、前記改良対象地盤への薬液の注入開始後に前記水圧計で測定された注入中の間隙水圧が前記データベースで参照されて前記間隙水圧から有効注入圧力を推定するための手段と、前記推定した有効注入圧力が限界注入圧を超えないように前記薬液の注入速度を制御するための手段と、を備える。
【0035】
上記浸透固化処理工法の注入管理システムによれば、改良対象地盤に設置された薬液の注入管の薬液注入口から離れて改良対象範囲内に設置した水圧計による注入中の間隙水圧と薬液注入口における薬液の有効注入圧力との関係をシミュレーションしデータベース化し、改良対象地盤への薬液注入開始後に、水圧計で測定した注入中の間隙水圧から有効注入圧力を精度よく推定することができ、この推定した有効注入圧力が限界注入圧を超えないように薬液の注入速度を制御することで、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できる。
【0036】
上記浸透固化処理工法の注入管理システムにおいて、前記改良対象地盤において前記薬液の粘度の経時変化を計測するための手段を備え、前記計測した薬液の粘度の経時変化を考慮して前記有効注入圧力を推定することが好ましい。
【0037】
また、前記推定した有効注入圧力Pと前記薬液注入を行うポンプの元圧Ppumpとから管内損失(Ppump-P)の経時変化を記録するための手段を備え、前記水圧計を設置していない前記薬液注入口における有効注入圧力の推定を前記管内損失に基づいて行うことができる。
【0038】
上記目的を達成するための地盤改良工法は、上述の浸透固化処理工法の注入管理方法または上述の浸透固化処理工法の注入管理システムを用いて浸透固化処理工法による対象地盤の改良を行うものである。
【0039】
この地盤改良工法によれば、浸透固化処理工法を実施する際に、薬液注入口における有効注入圧力を精度よく推定し、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できる。
【0040】
上記目的を達成するためのコンピュータプログラムは、上述の浸透固化処理工法の注入管理システムにおける前記各手段としてコンピュータを機能させるためのものである。
【0041】
このコンピュータプログラムによれば、注入管理システムを作動させることができ、浸透固化処理工法を実施する際に、薬液注入口における有効注入圧力を精度よく推定し、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できる。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、浸透固化処理工法において薬液注入口における薬液の有効注入圧力を精度よく推定し、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できる浸透固化処理工法の注入管理方法、注入管理システム、これらを用いた地盤改良工法およびコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】浸透固化処理工法の実施のための一般的な薬液注入システムを概略的に示す図である。
図2】浸透注入と割裂限界の関係を示す模式図である。
図3】限界注入速度試験により得られた注入速度qと有効注入圧力Pとの関係(P-q関係)を示す模式図である。
図4】改良対象As1層においてMaag式と限界注入速度試験結果とにより推定した透水係数を複数地点A~J毎に示す表(a)とグラフ(b)である。
図5】従来の唯一のP-q関係を仮定した場合、地盤の透水係数kが小さい箇所で限界注入圧Pfh を過大評価することを説明するための模式図(a)、および、地盤の透水係数kが大きい箇所で限界注入圧Pfhを過小評価することを説明するための模式図(b)である。
図6】薬液の粘度(粘性係数)の経時変化の例を示すグラフである。
図7】薬液の粘度が時間とともに増加するためP-q関係が左方向にシフトすることを示す模式図(a)、限界注入速度以下の任意の注入速度qcontrolによる一定速度で薬液を注入することを示す模式図(b)、および、有効注入圧力が時間ととともに増加することを示す模式図(c)である。
図8】本実施形態による浸透固化処理工法の注入管理方法のステップS01~S09を説明するためのフローチャートである。
図9】対象地盤の改良範囲の土層ごとにN値の代表値の例を示す概略図である。
図10】対象地盤の改良範囲内に設けた水圧計設置孔を示す断面図(a)および図10(a)の水圧計設置孔内に設置した水圧計を示す断面図(b)である。
図11図10(a)の注入位置と水圧計との距離を1m,2m,3mとした場合(a)~(c)に有効注入圧力を0.06MPa、0.09MPa、0.12MPaとして間隙水圧をシミュレーションした結果を示すグラフである。
図12図8の浸透固化処理工法の注入管理方法を実施可能な注入管理システムを概略的に示すブロック図である。
図13】本実施形態における水圧計の平面設置位置を説明するための地盤面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態による浸透固化処理工法の注入管理方法について図8図12を参照して説明する。図8は、本実施形態による浸透固化処理工法の注入管理方法のステップS01~S09を説明するためのフローチャートである。図9は、対象地盤の改良範囲の土層ごとにN値の代表値の例を示す概略図である。図10は、対象地盤の改良範囲内に設けた水圧計設置孔を示す断面図(a)および図10(a)の水圧計設置孔内に設置した水圧計を示す断面図(b)である。図11は、注入位置と水圧計との距離を1m,2m,3mとした場合(a)~(c)に有効注入圧力を0.06MPa、0.09MPa、0.12MPaとして間隙水圧をシミュレーションした結果を示すグラフである。図12は、図8の浸透固化処理工法の注入管理方法を実施可能な注入管理システムを概略的に示すブロック図である。
【0045】
事前準備として地震による液状化対策を施す空港等の既設構造物における対象地盤の地層構成や物性(変形係数E、ポアソン比μ、透水係数k等)をFEMモデル化しておく。変形係数Eは、N値より推定し、透水係数kは、後述の水圧計設置孔を用いて現場透水試験により決定できる(非特許文献3、第11章「土の透水試験」参照)が、理論式(Maag)と限界注入速度試験結果とを用いて推定するようにしてもよい。このとき、使用するN値は、図9のように改良範囲の土層ごとに代表値(平均値または最小値など)を設定する。
【0046】
各種データ値は、図12の注入管理システム30のパーソナルコンピュータ(パソコン)PCの入力デバイスにより入力され、パソコンPCに内蔵のHDDやSSD等の記憶装置から構成される記憶部に記録される。
【0047】
本実施形態による浸透固化処理工法は、図1の薬液注入システムを用いて行うことができる。まず、図10(a)のように薬液注入口11a,11bを有する二重注入管9(図1)を対象地盤内に鉛直方向に設置する(S01)。同様に、薬液注入口11c,11d、薬液注入口11e,11f、薬液注入口11g,11h、薬液注入口11i,11jをそれぞれ有する二重注入管9(図1)を対象地盤内に鉛直方向に設置する。なお、図10(a)では注入管9(図1)の図示を省略している。また、各注入管9(図1)は薬液注入口をさらに有していてもよい。
【0048】
次に、図10(a)(b)のように、間接的に有効注入圧力を計測するために、改良範囲内で薬液注入口11から離れた位置に水圧計を設置するための孔20を設ける(S02)。水圧計設置孔20は、たとえば径150mmの上部孔20aと、たとえば径50mmの下部孔20bを有する。複数の注入管9の位置に応じて複数箇所に水圧計設置孔20を形成する。
【0049】
次に、水圧計設置前に各水圧計設置孔20を用いて現場透水試験を行い、対象地盤の透水係数kを決定する(S03)。透水係数kは、図12のパソコンPCに入力し、パソコンPCの記憶部に記録される。
【0050】
次に、水圧計設置孔20の下部孔20bの下端近傍に水圧計21を設置し(S04)、上部孔20aにロガーバッテリー23を配置し、水圧計21からの出力信号に基づいて間隙水圧を計測できるようにする。下部孔20bの下端からたとえば1mの範囲に砂を充填し、下端からたとえば1m以浅には、薬液リークを防ぐためセメントベントナイト(CB)を充填する。同様に、別の水圧計設置孔20にも水圧計22を設置するようにして必要数の水圧計が設置される。
【0051】
ここで、各水圧計の設置位置について説明する。図11より地盤の透水係数が小さいほど間隙水圧の伝搬距離は短くなる。すなわち、水圧計の計測可能範囲は地盤の透水係数に依存するため、透水係数に応じて水圧計の設置位置を決める必要がある。浸透固化処理工法の適用限界である透水係数1.0E-05(cm/s)の地盤の場合、図11より間隙水圧の伝搬距離は1m程度である。そのため、平面的には、注入外管から1m以内の位置に水圧計を設置することが好ましい。また、深度方向には注入口と略同じ深度に水圧計を設置する。また、図4にあるような透水係数1.0E-04(cm/s)の地盤の場合、図11より間隙水圧の伝搬距離は3m程度である。そのため、平面的には、注入外管から3m以内の位置に水圧計を設置することが好ましい。また、深度方向には注入口と略同じ深度に水圧計を設置する。なお、透水係数1.0E-03(cm/s)以上の地盤である場合、平面的な設置位置は8m以内に設定することが好ましく、深度方向には注入口と略同じ深度に水圧計を設置する。
【0052】
注入位置となる各薬液注入口11a~11cと水圧計21との各距離、および、各薬液注入口11e~11hと水圧計22との各距離を、パソコンPCに入力し、パソコンPCの記憶部に記録する。
【0053】
また、水圧計の平面設置位置に関し、最初に代表的な水圧計設置位置を決めて、その透水係数に基づいて周辺の設置位置を決めていくことが好ましい。たとえば、図13の地盤面の平面図のように、まず、地盤面の一箇所に水圧計設置孔20を形成する。この形成位置は、たとえば、薬液注入に伴い隆起が大きくなり易い細粒分含有率の大きい箇所や改良範囲の中心地点とする。次に、水圧計設置孔20で実施した現場透水試験(図8のステップS03)で得た透水係数により上述のように水圧計設置孔20に設置した水圧計の平面的な計測可能範囲rが決まる。水圧計設置孔20~20の設置位置は、水圧計設置孔20の水圧計の平面的な計測可能範囲外にある注入外管を網羅し、三角形配置あるいは四角形配置となるように決めることが好ましい。たとえば、図13のように、複数の注入外管の平面設置位置101~130の間隔が標準施工間隔の2mであり、透水係数が1.0E-04(cm/s)の場合、計測可能範囲rが3mとなり、水圧計設置孔20の水圧計は、平面設置位置101、102,110,11,112,113,114の各注入外管の計測を担当し、水圧計設置孔20の水圧計は、平面設置位置123,124,125,126,127の各注入外管の計測を担当し、水圧計設置孔20の水圧計は、平面設置位置115,116,117,120.121,122の各注入外管の計測を担当する。
【0054】
一方、事前準備で作成したモデルを使い有効注入圧Pを仮定して注入中に水圧計21,22で計測される間隙水圧(全水頭)をシミュレーションする(S05)。一例として、図11(a)~(c)に、薬液注入口(注入位置)と水圧計との距離1m,2m,3mごとに、対象地盤の透水係数kを1.0E-03(cm/s)、1.0E-04(cm/s)、1.0E-05(cm/s)とし、有効注入圧力Pを0.06MPa、0.09MPa、0.12MPaとした場合に間隙水圧を演算したシミュレーション結果を示す。これより、注入位置(薬液注入口)と水圧計との距離に応じて、水圧計で測定した間隙水圧から有効注入圧Pを逆算できる。
【0055】
かかるシミュレーションは図12のパソコンPCの記憶部に格納されたシミュレーションプログラムにより行われ、そのシミュレーション結果は、たとえば、間隙水圧と有効注入圧との関係がテーブルや近似式等の所定の形式とされて図12のデータベースDBに保管される。この場合、薬液注入口(注入位置)と水圧計との距離および対象地盤の透水係数kは、パソコンPCの記憶部に記録されたデータを用いるとともに、有効注入圧力はできるだけデータ数を多く仮定して間隙水圧のシミュレーションを行うことが望ましい。後述の有効注入圧力の推定時に、間隙水圧が中間値の場合は、内挿や外挿等による補完を行うようにしてもよい。
【0056】
また、注入日ごとに現地の薬液の粘度の経時変化を、図1の薬液の全自動ミキサー1に設けた薬液の粘度計25(図12)により計測する(S06)。薬液の全自動ミキサー1から作液直後の薬液を採取し、粘度計25により薬液の粘度を計測する。粘度計25は回転振動式のものが好ましい。計測した薬液の粘度(粘性係数)の経時変化は、たとえばテーブル形式でパソコンPCに入力し、パソコンPCの記憶部に記録する。
【0057】
次に、対象地盤内において薬液注入を開始する(S07)。薬液注入はたとえば図10(a)の薬液注入口11aから行い、この薬液注入中に水圧計21により計測した間隙水圧が図11のパソコンPCに入力され、薬液注入口11aと水圧計21との距離が記憶部から読み出され、データベースDBで参照され、有効注入圧力が推定される(S08)。この推定のとき薬液の粘度の経時変化が次のように考慮される。すなわち、透水係数kと薬液粘度ηには、次の数5の関係式が成り立つ。
【0058】
【数5】
【0059】
【数6】
【0060】
そこで、薬液注入時間に応じた薬液粘度ηを図6のような薬液の粘度(粘性係数)の経時変化のグラフから求め、初期の粘度ηとの比x(=η/η)を次の数7の式から求め、上記数5の関係式に代入し、数8の式を求めることができる。数8をηについて数6に代入すると数9の関係式が得られ、これを解くことである時間が経過した時の透水係数を求めることができる。
【0061】
【数7】
【0062】
【数8】
【0063】
【数9】
【0064】
上記推定ステップS08において数8,数9の式で推定した透水係数を用い、水圧計21で計測した間隙水圧から有効注入圧力Pを推定し、この推定結果に基づいて薬液の注入速度qを制御する。すなわち、推定した有効注入圧力Pが限界注入圧Pfhを超えないような注入速度qcontrolで薬液を注入するように図1の薬液注入システムの薬液注入ポンプ2を制御する。かかる制御は、推定された有効注入圧力PがパソコンPCの液晶パネル等からなるモニタMIに表示され、かかる表示により薬液注入ポンプ2を操作することで行うことができるが、推定された有効注入圧力Pに対応する電気信号がパソコンPCから薬液注入ポンプ2へ出力し、薬液注入ポンプ2が自動的に制御されるようにしてもよい。
【0065】
上述のように、水圧計21により計測した間隙水圧から推定した有効注入圧力Pが限界注入圧Pfhを超えないように注入速度qcontrolを制御し管理しながら薬液注入を続け、所定量が注入されると、注入が完了する(S09)。
【0066】
次の薬液注入を行う場合(S10のYes)、ステップS06に戻り、たとえば、図10(a)の別の薬液注入口11bから薬液注入を行うようにしてステップS07~S09を同様に行う。このときは、薬液注入口11bと水圧計21との距離を用いる。このようにして薬液注入を続け、改良対象地盤の予定改良範囲への薬液注入が終了すると(S10のNo)、施工完了となる。
【0067】
なお、ステップS08において、上述のように推定した有効注入圧力Pと元圧Ppumpとから管内損失Ploss(Ppump-P)の経時変化をたとえばテーブル形式で図12のパソコンPCの記憶部に記録しておき、水圧計を設置していない、たとえば図10(a)の薬液注入口11i,11jにおける有効注入圧力の推定に使用する。
【0068】
従来は、注入管の圧力損失Plossを一定の所定値に仮定し、元圧Ppumpから仮定の圧力損失Plossを差し引いたものを有効注入圧力Pとしており、透水係数のバラツキ等による有効注入圧力のバラツキや薬液粘度の経時変化を考慮できていなかったのに対し、本実施形態の浸透固化処理工法の注入管理方法によれば、水圧計による間隙水圧の計測データと事前解析によって、有効注入圧力のバラツキや薬液粘度の経時変化を考慮することで、薬液注入中の有効注入圧力Pを精度よく推定できるので、有効注入圧力Pが限界注入圧Pfhを越えないように薬液の注入速度qcontrolを制御できる結果、割裂注入を防止し、注入速度を最適化し施工の生産性を向上することができる。
【0069】
図8のステップS05のシミュレーションが必要な理由について説明する。図10(a)のように、水圧計21,22により計測する間隙水圧は、水圧計21,22の位置における間隙水圧である一方、推定したい有効注入圧力は薬液注入口11a~11jの位置における圧力である。有効注入圧力は、薬液注入口11a~11jの位置で最も大きい値であるが、薬液が土中に浸透しながら水圧計21,22に到達する頃には小さくなる。このため、水圧計21,22で計測した間隙水圧から薬液注入口11a~11jでの有効注入圧力を推定する必要がある。このため、有効注入圧を仮定して注入中に水圧計21,22で計測される間隙水圧のシミュレーションが必要となる。なお、注入圧力がどの程度小さくなるかについては、浸透する土の透水性や距離に依存するので、図11(a)~(c)では、透水係数と距離に応じた計算例を示している。
【0070】
なお、図12のパソコンPCは、その記憶部に上述のシミュレーションプログラムに加えてFEMモデル化・有効注入圧力の推定・各記録・注入速度の制御等のためのプログラムが格納されており必要に応じて読み出され、注入管理システムの各手段として機能するようになっている。
【0071】
また、パソコンPCとそのモニタMIは、図1の薬液の全自動ミキサー1や薬液注入ポンプ2の近傍の管理室に設置されてよいが、インターネット等を介して、離れた管理事務所等に設置されたパソコンに各種データが送信されるようにしてもよい。
【0072】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。たとえば、本実施形態は薬液注入管を対象地盤内に鉛直方向に設置した場合を例にしたが、本発明はこれに限定されず、薬液注入管を対象地盤内に水平方向に設置し薬液注入を行う場合にも適用することができる。
【0073】
また、図12のデータベースDBは、パソコンPCの記憶部内に構築できるが、これに限定されず、外付けの記憶装置や外部コンピュータやクラウドコンピュータ等に構築してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、浸透固化処理工法において有効注入圧力を精度よく推定し、割裂注入を防止し、薬液注入速度を最適化し施工の生産性を向上できるので、浸透固化処理工法による地盤改良工法を精度よくかつ施工性よく実施可能である。
【符号の説明】
【0075】
2 薬液注入ポンプ
9 二重注入管、注入管
11,11a~11j 注入管の薬液注入口
20,20,20 水圧計設置孔
21,22 水圧計
25 粘度計
30 注入管理システム
101~130 注入外管の平面設置位置
r 水圧計の平面的な計測可能範囲
DB データベース
MI モニタ
PC パソコン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13