IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特開2024-145009焼結用バインダー及びセラミックス焼結体の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145009
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】焼結用バインダー及びセラミックス焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/634 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
C04B35/634 240
C04B35/634 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057226
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼御堂 成剛
(57)【要約】
【課題】セラミックス焼結体の製造において、低温で焼結することができ、分解性が高く、かつ高密度のセラミックス焼結体を得ることができるセラミックスの焼結用バインダーを提供すること。
【解決手段】セラミックスの焼結用バインダーであって、弾性コア層と、前記弾性コア層を被覆するシェル層と、を有するコアシェル粒子を含有し、前記シェル層が、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基を有する重合体を含有する焼結用バインダーである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスの焼結用バインダーであって、
弾性コア層と、前記弾性コア層を被覆するシェル層と、を有するコアシェル粒子を含有し、
前記シェル層が、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基を有する重合体を含有することを特徴とする焼結用バインダー。
【請求項2】
前記弾性コア層が(メタ)アクリル系ゴムを含有する、請求項1に記載の焼結用バインダー。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系ゴムのガラス転移温度が0℃未満である、請求項2に記載の焼結用バインダー。
【請求項4】
前記シェル層が、(メタ)アクリル系モノマー、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を構成モノマーとして含む重合体を含有する、請求項1又は2に記載の焼結用バインダー。
【請求項5】
少なくともセラミックス原料粉末と、請求項1又は2に記載の焼結用バインダーとを混合した混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成型した成型物を得る成型工程と、
前記成型物を脱脂してセラミックス焼結前駆体を得る脱脂工程と、
前記セラミックス焼結前駆体を焼成してセラミックス焼結体を得る焼成工程と、
を含むことを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結用バインダー及びセラミックス焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファインセラミックスは、電子材料、構造材料、医療材料などとして使用されており、低コスト、低環境負荷での製造技術が求められている。
【0003】
通常、セラミックスは、原料粉末と、成型助剤(有機物)とを混合して成型する工程が必要とされる。このような成型助剤としては、従来、ポリビニルアルコール(PVA)が汎用されている。成型助剤は、成型には必要であるものの、最終的に得られるセラミックス製品に有機物が残存した場合、製品性能が悪化するため、セラミックス製品においては不要な成分である。したがって、セラミックスの製造においては、成型後、成型助剤を除去するために脱脂が行われる。
【0004】
例えば、焼成性及び脱バインダー性に優れ、特にシート形成時での膜強度と共に、高い伸び率及び柔軟性を有し、成型加工時における取り扱い性、作業性、及び加工性に優れた焼結用バインダー樹脂組成物として、アルキル(メタ)アクリレートと複素環含有(メタ)アクリレートとの少なくともいずれかのモノマーと、水酸基含有(メタ)アクリレートとが共重合した樹脂成分を含有する焼結用バインダー樹脂組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
低環境負荷の観点から、近年、過熱水蒸気法で脱脂することが注目されている。しかしながら、従来の成型助剤、特にポリビニルアルコール(PVA)は、過熱水蒸気法により脱脂された場合、セラミックス焼結体に割れや欠けが発生してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014-47338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、セラミックス焼結体の製造において、低温で焼結することができ、分解性が高く、かつ高密度のセラミックス焼結体を得ることができるセラミックスの焼結用バインダーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、本発明の焼結用バインダーは、セラミックスの焼結用バインダーであって、弾性コア層と、前記弾性コア層を被覆するシェル層と、を有するコアシェル粒子を含有し、前記シェル層が、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基を有する重合体を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、セラミックス焼結体の製造において、低温で焼結することができ、分解性が高く、かつ高密度のセラミックス焼結体を得ることができるセラミックスの焼結用バインダーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、実施例1において、タブレット形状に成型した脱脂前(成型後)の成型物、脱脂後のセラミックス焼結前駆体、及び焼結後セラミックス焼結体タブレットの外観の一例を示す図である。
図1B図1Bは、実施例2において、タブレット形状に成型した脱脂前(成型後)の成型物、脱脂後のセラミックス焼結前駆体、及び焼結後セラミックス焼結体タブレットの外観の一例を示す図である。
図1C図1Cは、実施例3において、タブレット形状に成型した脱脂前(成型後)の成型物、脱脂後のセラミックス焼結前駆体、及び焼結後セラミックス焼結体タブレットの外観の一例を示す図である。
図1D図1Dは、実施例4において、タブレット形状に成型した脱脂前(成型後)の成型物、脱脂後のセラミックス焼結前駆体、及び焼結後セラミックス焼結体タブレットの外観の一例を示す図である。
図1E図1Eは、実施例5において、タブレット形状に成型した脱脂前(成型後)の成型物、脱脂後のセラミックス焼結前駆体、及び焼結後セラミックス焼結体タブレットの外観の一例を示す図である。
図1F図1Fは、実施例5において、タブレット形状に成型した脱脂後のセラミックス焼結前駆体及び焼結後セラミックス焼結体タブレットの外観を示す図1Eの拡大写真である。
図1G図1Gは、比較例1において、タブレット形状に成型した脱脂前(成型後)の成型物、脱脂後のセラミックス焼結前駆体、及び焼結後セラミックス焼結体タブレットの外観の一例を示す図である。
図2図2は、実施例1、実施例2、実施例4、及び比較例1の脱脂工程における質量変化と温度との関係を示すグラフである。縦軸は質量変化(質量%)を示し、横軸は脱脂の温度(℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(焼結用バインダー)
本発明の焼結用バインダーは、セラミックスの焼結用バインダーであって、弾性コア層と、前記弾性コア層を被覆するシェル層と、を有するコアシェル粒子を含有し、前記シェル層が、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基を有する重合体を含有する。本発明の焼結用バインダーは、更に必要に応じて、前記コアシェル粒子以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0012】
本発明の焼結用バインダーは、前記コアシェル粒子を含有するため、従来セラミックスの焼結用バインダーとして使用されていたポリビニルアルコール(PVA)と比較して、低温で脱脂することができるためエネルギー効率に優れ、脱脂後の成型物における有機物の残存が少なく、かつ脱脂後の成型物の保形性に優れ、更に高密度のセラミックスの焼結体を得ることができるものである。
【0013】
<コアシェル粒子>
前記コアシェル粒子は、弾性コア層と、前記弾性コア層を被覆するシェル層と、を有し、更に必要に応じて、その他の層を有する。
【0014】
<<弾性コア層>>
前記弾性コア層は、前記シェル層で被覆されてなる。したがって、前記弾性コア層は、前記コアシェル粒子の最下層(最内部)に存在する。
【0015】
本明細書において「弾性」とは、応力を加えるとひずみが生じるが、除荷すれば元の寸法に戻る性質を意味する。前記弾性コア層の弾性により、前記コアシェル粒子は、ゴムのような性質を有する。そのため、前記コアシェル粒子の前記弾性コア層は、ゴムとしての性質を有するゴム状重合体からなることが好ましい。これにより、前記セラミックス焼結用バインダーを用いて得られるセラミックス焼結体を高密度化することができる。
【0016】
前記弾性コア層を構成するゴム状重合体としては、例えば、天然ゴム、ポリシロキサンゴム、主となるモノマー(以下、「第1モノマー」と称することがある)として共役ジエン系モノマーを重合することにより得られるジエン系ゴム、第1モノマーとして(メタ)アクリレート系モノマーを重合することにより得られる(メタ)アクリル系ゴムなどが挙げられる。また、これらの第1モノマーと、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアン系モノマー等のビニル系モノマー(以下、「第2モノマー」と称することがある)を重合することにより得られる重合体であってもよい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記セラミックス焼結用バインダーを用いて得られるセラミックス焼結体を高密度化する点から、ジエン系ゴム、(メタ)アクリル系ゴムが好ましく、(メタ)アクリル系ゴムがより好ましい。
【0017】
-ポリシロキサンゴム-
前記ポリシロキサンゴムとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ジメチルシリルオキシ単位、ジエチルシリルオキシ単位、メチルフェニルシリルオキシ単位、ジフェニルシリルオキシ単位、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシ単位等の、アルキル或いはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系ポリマーや、側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシ単位等の、アルキル或いはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ジメチルシリルオキシ単位から構成されるポリマーが容易に入手できて経済的でもあることからより好ましい。
【0018】
-共役ジエン系モノマー-
前記共役ジエン系モノマー(第1モノマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等のブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
-(メタ)アクリレート系モノマー-
前記弾性コア粒子が(メタ)アクリレート系ゴムを含む場合、多種のモノマーの組合せにより、弾性体の幅広い重合体設計が可能となる。
【0020】
前記(メタ)アクリレート系モノマー(第1モノマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、芳香環含有(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0022】
前記芳香環含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0023】
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0024】
前記グリシジル(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0025】
前記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-メトキシメチル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシメチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、4-エトキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
前記アリルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0027】
前記多官能性(メタ)アクリレートとしては、例えば、モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
前記(メタ)アクリル系ゴムのガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、0℃未満が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-40℃以下が更に好ましい。前記(メタ)アクリル系ゴムのガラス転移温度(Tg)が0℃以下であると、前記セラミックス焼結用バインダーを用いて得られるセラミックス焼結体を高密度化する効果が高まる。
【0029】
前記(メタ)アクリル系ゴムのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することができる。本発明における前記(メタ)アクリル系ゴムのガラス転移温度は、DSC測定により測定された最も低いピーク温度とする。
【0030】
-ビニル系モノマー-
前記第1モノマーと共重合可能な前記ビニル系モノマー(第2モノマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ビニルアレーン、ビニルカルボン酸、ビニルシアン、ハロゲン化ビニル、アルケン、多官能性モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記ビニルアレーンとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどが挙げられる。前記ビニルカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。前記ビニルシアンとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。前記ハロゲン化ビニルとしては、例えば、塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどが挙げられる。前記アルケンとしては、例えば、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどが挙げられる。これらの中でも、前記ビニル系モノマーとしては、前記ビニルアレーンが好ましく、スチレンがより好ましい。
【0032】
前記弾性コア層がゴムとしての性質を好適に有するために、該弾性コア層を構成するゴム状重合体は、架橋構造を有する架橋ゴム重合体であることが好ましい。
【0033】
[弾性コア層の架橋構造]
前記ゴム状重合体に架橋構造を導入する方法としては、特に制限はなく、一般的に用いられる手法の中から適宜選択して採用することができ、例えば、前記モノマーを重合してなるポリマー成分に、後述する多官能性モノマー等の架橋性モノマーを添加し、次いで重合する方法などが挙げられる。
【0034】
前記弾性コア層のゲル含量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、該弾性コア層がゴムとしての性質を有するために、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
【0035】
本明細書においてゲル含量の算出方法は下記の通りである。
先ず、前記コアシェル粒子(粉体)2gをメチルエチルケトン(MEK)50mLに溶解する。その後、得られたMEK溶解物を、MEKに可溶な成分(MEK可溶分)とMEKに不溶な成分(MEK不溶分)とに分離する。具体的には、遠心分離機(例えば、CP60E、日立工機株式会社製)を用い、回転数30,000rpmにて1時間、得られたMEK溶解物を遠心分離に供し、当該溶解物を、MEK可溶分とMEK不溶分とに分離する。ここで、遠心分離作業は合計3セット実施する。得られたMEK可溶分とMEK不溶分との重量を測定し、次式よりゲル含量を算出する。
ゲル含量(%)=(メチルエチルケトン不溶分の質量)/{(メチルエチルケトン不溶分の質量)+(メチルエチルケトン可溶分の質量)}×100
【0036】
-多官能性モノマー-
前記多官能性モノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アリルアルキル(メタ)アクリレート、多官能性(メタ)アクリレート、芳香族多価カルボン酸エステル、シアヌル酸誘導体、芳香族ビニル系の多官能性モノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
前記アリルアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記多官能性(メタ)アクリレートとしては、例えば、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。前記芳香族多価カルボン酸エステルとしては、例えば、ジアリルフタレートなどが挙げられる。前記シアヌル酸誘導体としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどが挙げられる。前記芳香族ビニル系の多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらの中でも、前記多官能性モノマーとしては、アリルアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、アリル(メタ)アクリレートがより好ましい。
なお、本明細書において、前記ゴム状重合体に架橋構造を導入するための前記多官能性モノマーには、前記共役ジエン系モノマー(第1モノマー)としてのブタジエン、イソプレンなどは含まれない。
【0038】
前記弾性コア層の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、球形であることが好ましい。
【0039】
前記弾性コア層の形状が球形である場合、該弾性コア層の体積平均粒子径(Mv)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、0.03μm~2μmが好ましく、0.05μm~1μmがより好ましく、0.05μm~0.5μmが更に好ましい。前記弾性コア層の体積平均粒子径が0.03μm未満のものを安定的に得ることは難しい場合が多い。また、前記弾性コア層の体積平均粒子径が0.5μm以下であると、セラミックス焼結体の密度を向上しやすい。
【0040】
前記弾性コア層の体積平均粒子径は、粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラック UPA 150、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0041】
前記弾性コア層は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。前記弾性コア層が多層構造である場合は、該弾性コア層における各層のポリマー組成は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
前記コアシェル粒子における前記弾性コア層の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記コアシェル粒子の全質量に対して、40質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。また、前記コアシェル粒子における前記弾性コア層の含有量の上限値としても、特に制限はないが、前記焼結用バインダー中での前記コアシェル粒子の分散状態を良好にする点から、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましい。
【0043】
<<シェル層>>
前記シェル層は、前記セラミックス焼結用バインダーをセラミックスの焼結に使用する際に、セラミックス原料粉末を分散させる溶剤と、前記弾性コア層との相溶性を向上させ、前記セラミックス原料粉末を分散させる媒体中において前記コアシェル粒子が好適に分散することを可能にする役割を担うシェル重合体からなる。
【0044】
前記シェル層は、該シェル層の形成に用いるモノマー(以下、「シェル層形成用モノマー」と称することがある)が、前記弾性コア層を形成するポリマーに重合、好ましくはグラフト重合して、実質的にシェル層と弾性コア層とが化学結合して弾性コア層を被覆するものである。したがって、前記シェル層は、前記コアシェル粒子の最表面に存在する。
【0045】
即ち、好ましくは、前記シェル重合体は、前記弾性コア層の存在下で、前記シェル重合体の構成成分であるモノマーをグラフト重合させることで形成され、このようにすることで、前記シェル重合体が、前記弾性コア層にグラフト重合される。
【0046】
前記弾性コア層は、前記シェル層によって、全部が被覆されていてもよく、一部が被覆されていてもよい。前記シェル層による、前記弾性コア層の被覆は、以下のグラフト率により確認することができる。
【0047】
前記コアシェル粒子における前記シェル層のグラフト率としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0048】
本明細書において、前記コアシェル粒子における前記シェル層のグラフト率は、以下のようにして算出する。
前記コアシェル粒子のパウダー2gをメチルエチルケトン(MEK)100gに23℃で24時間浸漬した後に、MEK可溶分をMEK不溶分と分離し、更にMEK可溶分からメタノール不溶分を分離する。そして、MEK不溶分とメタノール不溶分との合計質量に対するMEK不溶分の比率を求めることによって算出する。
【0049】
前記シェル層は、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基を有する重合体(シェル重合体)を含有する。これにより、前記コアシェル粒子の構造を維持しやすく、また前記焼結用バインダー中での分散性が向上する。
前記水酸基としては、特に制限はないが、末端に水酸基を有するポリオキシエチレン基が好ましい。
【0050】
なお、前記シェル層は、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基以外のその他の官能基を更に有していてもよい。前記シェル層が有する前記その他の官能基としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)基(末端に水酸基を有しないものを含む)などが挙げられる。
【0051】
前記シェル重合体としては、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基を有する重合体を含有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、セラミックス原料粉末を分散させる溶剤との相溶性を有するものであることが好ましく、(メタ)アクリル系モノマー、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を構成モノマーとして含む重合体を含有することがより好ましい。
【0052】
そのため、前記シェル層形成用モノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマー、芳香族ビニルモノマー、及びシアン化ビニルモノマーからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
-(メタ)アクリル系モノマー-
前記(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートや、2-アミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記(メタ)アクリル系モノマーの具体例としては、(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)PE-90、PE-200、PE-350、AE-90U、AE-200、AE-400等)、(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)PP-500、PP-500D、PP-800、PP-1000、PP-2000D、AP-200、AP-400、AP-400D、AP-550、AP-800、AP-1000D等)、(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)50PEP-300等)、(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)55PET-800、50PEP-500D等)、(ポリ)プロピレングリコール-(ポリ)ブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)10PPB-500B、10PPB-500BD等)、メトキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)PME-100、PME-200、PME-400、PME-1000、PME-2000、AME-400等;新中村化学工業株式会社製のNKエステルM-20G、M-40G、M-90G、M-130G、M-230G、M-450G、AM-30G、AM-90G、AM-130G、AM-230G等)、メトキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、新中村化学工業株式会社製のNKエステルM-20G、M-40G、M-90G、M-130G、M-230G、M-450G等)、ラウロキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)PLE-1300等)、ステアロキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)PSE-1300等)、オクチル(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)50POEP-800B等)、フェノキシ(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート(新中村化学工業株式会社製のNKエステルPHE-1G、AMP-30GY等)、フェノキシ(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)ブチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)43PAEP-600B等)、ノニルフェノキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)ANP-300等)、ノニルフェノキシ(ポリ)エチレングリコール-(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、日油株式会社製のブレンマー(登録商標)75ANEP-600等)、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル類(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル等)、不飽和ニトリル系単量体(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)などが挙げられる。これらの親水性基質は、1分子中に1種有していてもよく、2種以上をランダムに有していてもよい。
【0055】
前記(メタ)アクリル系モノマーのガラス転移温度(Tg)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、70℃以上が更に好ましい。前記(メタ)アクリル系モノマーのガラス転移温度(Tg)が50℃以上であると、前記コアシェル粒子の強度を向上することができる。
【0056】
前記(メタ)アクリル系ゴムのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)により、弾性コア層と同様の方法で測定することができる。
【0057】
-芳香族ビニルモノマー-
前記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
-シアン化ビニルモノマー-
前記シアン化ビニルモノマーとしては、例えば、アクロニトリル、メタアクロニトリルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
また、前記コアシェル粒子における前記シェル層の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記コアシェル粒子の全質量に対して、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。また、前記コアシェル粒子における前記シェル層の含有量の上限値としても、特に制限はないが、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。前記コアシェル粒子の全質量に対する前記シェル層の含有量が、10質量%以上であると、前記コアシェル粒子が凝集し難く、ハンドリング性が良好であり、40質量%以下であると、前記コアシェル粒子における前記弾性コア層の含有量が低下しすぎず、セラミックス焼結体の密度を向上しやすい。
なお、前記コアシェル粒子において、前記弾性コア層の含有量と、前記シェル層の含有量の合計含有量は100質量%である。
【0060】
前記シェル層は、構成モノマーとして、前記(メタ)アクリル系モノマーに由来する構成モノマー、芳香族ビニルモノマーに由来する構成モノマー、及びシアン化ビニルモノマーに由来する構成モノマーを合計で、前記シェル層(共重合体)100質量%中に、10質量%~95質量%含むことが好ましく、30質量%~92質量%含むことがより好ましく、50質量%~90質量%含むことが更に好ましく、60質量%~87質量%含むことが特に好ましい。
【0061】
なお、前記コア層の含有量及び前記シェル層のモノマー構成及び含有量は、製造の際の仕込み量から算出することができるが、仕込み量が不明の場合は、例えば、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、プロトン核磁気共鳴法(H-NMR)、示差走査熱量測定法(DSC)などの方法を、1種又は2種以上を組み合わせて分析する方法などが挙げられる。
【0062】
<<コアシェル粒子の製造方法>>
前記コアシェル粒子の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、以下に製造方法の一実施形態について説明する。前記コアシェル粒子の製造方法の一実施形態は、弾性コア層形成工程、シェル層形成工程を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0063】
-コア層形成工程-
前記コアシェル粒子を構成する前記弾性コア層を形成するポリマーが、ジエン系モノマー(共役ジエン系モノマー)及び(メタ)アクリレート系モノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマー(第1モノマー)を重合して形成される場合には、前記弾性コア層の形成方法としは、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって行うことができる。具体例としては、国際公開第2005/028546号明細書に記載の方法を用いることができる。
【0064】
また、前記弾性コア層を形成するポリマーがポリシロキサン系ポリマーを含んで構成される場合には、弾性コア層の形成は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって行うことができる。具体例としては、国際公開第2006/070664号明細書に記載の方法を用いることができる。
【0065】
-シェル層の形成方法-
前記シェル層は、前記弾性コア層(粒子)の存在下、前記シェル層形成用モノマーを、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。前記弾性コア層(粒子)をエマルジョンとして得た場合には、前記シェル層形成用モノマーの重合は乳化重合法により行うことが好まし。具体例としては、国際公開第2005/028546号明細書に記載の方法に従って製造することができる。
【0066】
<その他の成分>
前記焼結用バインダーは、本発明の効果を損なわない限り、前記コアシェル粒子以外のその他の成分を含んでいてもよい。
前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、溶剤、分散剤、可塑剤、乳化剤、消泡剤、pH調整剤、潤滑剤、流動化剤、防腐剤、防黴剤、着色剤(色素、顔料等)、保存剤、安定化剤等の各種添加剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0067】
前記焼結用バインダーにおける前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0068】
<<溶剤>>
前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記セラミックス原料粉末及び前記焼結用バインダーを分散することができる溶剤が好ましく、例えば、水、有機溶剤などが挙げられる。
【0069】
前記有機溶剤としては、例えば、アルコール類、ケトン類、エーテル類、変性エーテル類、ケトン類、エステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
前記アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブチルアルコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、グリセリンなどが挙げられる。
前記ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。
前記エーテル類としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタンなどが挙げられる。
前記変性エーテル類としては、例えば、エーテル変性アルキレングリコール類等のエーテル変性エーテル類、エステル変性アルキレングリコール類等のエステル変性エーテル類などが挙げられ、具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などが挙げられる。
前記エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが挙げられる。
前記炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、トルエンなどが挙げられる。
前記ハロゲン化炭化水素類としては、例えば、クロロホルム、四塩化炭素などが挙げられる。
【0071】
これらの中でも、前記溶剤としては、生体に対する安全性と、除去の容易さの点から、水又は水溶性有機溶剤であることが好ましく、水、エタノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、2-エトキシエタノール、2-(2-エトキシエトキシ)エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、テトラヒドロフラン、ヘキサン、トルエンなどがより好ましく、水が更に好ましい。
【0072】
<<分散剤>>
前記分散剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム(例えば、クエン酸三アンモニウム等)、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル共重合体樹脂、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルなど)、非イオン系界面活性剤、オレイングリセリド、アミン系界面活性剤、オリゴ糖アルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
<<可塑剤>>
前記可塑剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
<<乳化剤>>
前記乳化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アルキルエーテル、フェニルエーテル、ソルビタン誘導体、アンモニウム塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
<<消泡剤>>
前記消泡剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アルコール、ポリエーテル、ポリエチレングリコール、シリコーン、ワックスなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
<<pH調整剤>>
前記pH調整剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化アンモニウムを含む)、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
<<潤滑剤>>
前記潤滑剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ポリオキシエチレンあるキレートエーテル、ワックスなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
[用途]
本発明の焼結用バインダーは、セラミックス焼結体の製造において、低温で焼結することができ、分解性が高く、かつ高密度のセラミックス焼結体を得ることができるため、セラミックスの製造において好適に利用される。
【0079】
(セラミックス焼結体の製造方法)
本発明のセラミックス焼結体の製造方法は、混合工程と、成型工程と、脱脂工程と、焼成工程と、を含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0080】
<混合工程>
前記混合工程は、少なくともセラミックス原料粉末と、本発明の焼結用バインダーとを混合した混合物を得る工程である。また、前記混合工程では、前記セラミックス原料粉末及び前記焼結用バインダーの他に、溶剤や分散剤等のその他の成分を混合してもよい。前記混合工程により、前記セラミックス原料粉末及び前記焼結用バインダー、更に必要に応じて、その他の成分の混合物が得られ、好ましくは、前記溶剤中に、前記セラミックス原料粉末及び前記焼結用バインダー、更に必要に応じて、その他の成分が分散したスラリー状の混合物が得られる。
【0081】
前記スラリー状の混合物は、前記セラミックス原料粉末が前記溶剤中に均一に分散していることが好ましい。前記セラミックス焼結体の製造方法が後述する乾燥工程を含む場合、前記セラミックス原料粉末が前記溶剤中に均一に分散しているスラリー状の混合物を乾燥工程に用いることにより、例えば、噴霧乾燥を行うような場合にスプレーノズルでの詰まりの発生を抑制することができる。
【0082】
また、前記スラリー状の混合物は、生産性の点から、泡立ちがないものであることが好ましい。前記スラリー状の混合物に泡立ちが生じた場合は、前記スラリー状の混合物を静置する、適宜公知の消泡剤を添加するなどにより、泡が消えてから次工程に用いてもよい。
【0083】
前記混合工程における各材料の混合方法としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、ロールミル、コロイドミル、高圧噴射式分散機、超音波分散機、振動ミル、遊星ミル、ビーズミル等による機械的分散方法などが挙げられる。また、前記スラリー状の組成物は、還流処理、水熱処理等の熱或いは圧力による分散処理が施されたものであってもよい。これらの方法は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
<<セラミックス原料粉末>>
前記セラミックス原料粉末の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、フォルステライト、ステアタイト、コージライト、サイアロン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、ムライトなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
前記混合物における前記セラミックス原料粉末の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができる点から、前記混合物の全質量に対して、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。また、前記混合物における前記セラミックス原料粉末の含有量の下限値としても、特に制限はないが、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上が更に好ましい。
【0086】
<<焼結用バインダー>>
前記混合物における前記焼結用バインダーの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができる点から、前記混合物の全質量に対して、前記コアシェル粒子の含有量が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量が更に好ましい。また、前記混合物における前記焼結用バインダーの含有量の下限値としても特に制限はないが、前記コアシェル粒子の含有量が、0.01質量%以上となる量が好ましく、0.05質量%以上となる量がより好ましく、0.1質量%以上となる量が更に好ましい。
【0087】
前記セラミックス原料粉末の含有量に対する前記焼結用バインダーの含有量の質量比としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、前記セラミックス原料粉末100質量部に対して、前記焼結用バインダー中の前記コアシェル粒子の含有量が、0.1質量部以上20質量部以下となる量が好ましく、0.3質量部以上15質量部以下となる量がより好ましく、0.5質量部以上10質量部以下となる量が更に好ましい。前記セラミックス原料粉末100質量部に対して、前記焼結用バインダー中の前記コアシェル粒子の含有量が、0.1質量部以上20質量部以下となる量であると、前記セラミックス焼結体を高密度化しやすい。
【0088】
<<溶剤>>
前記混合物中の前記溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、前記(焼結用バインダー)の<その他の成分>の<<溶剤>>の項目に記載のものと同様のものなどが挙げられる。
【0089】
前記混合物における前記溶剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができ、より緻密なセラミックス焼結体を得ることができる点から、前記混合物の全質量に対する前記溶剤の合計含有が、70質量%以下となる量が好ましく、60質量%以下となる量であることがより好ましく、50質量%以下となる量であることが更に好ましい。
なお、ここでの「溶剤の合計含有量」とは、前記焼結用バインダー中に含まれる溶剤の含有量と、前記混合工程で添加する溶剤の質量との合計質量を意味する。
【0090】
<<その他の成分>>
前記混合物中の前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、前記(焼結用バインダー)の<その他の成分>の項目に記載の各種添加剤と同様のものなどが挙げられる。
【0091】
前記混合物における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0092】
<成型工程>
前記成型工程は、前記混合物を成型した成型物を得る工程である。
【0093】
前記粉末組成物を成型する成型方法としては、特に制限はなく、目的とする成型物の形状に応じて、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、加圧成型法、押出し成型法、テープ成型法、鋳込み成型法、射出成型法、ドクターブレード法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記混合物を成型する成型方法としては、加圧処理法が好ましい。前記混合物を加圧処理法により成型することで、前記成型物の密度を向上させ、セラミックス焼結体の密度も向上させることができる。
【0094】
-加圧成型法-
前記加圧成型法を行う場合、前記混合物は、後述する乾燥工程により得られた粉末組成物の形態であることが、取扱い性の点から好ましい。
【0095】
前記加圧成型法としては、特に制限はなく、例えば、一軸プレス等の一方向に加圧する方法、冷間静水圧プレス(CIP:Cold Isostatic Press)法、温間静水圧プレス(WIP:Warm Isostatic Press)法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、冷間静水圧プレスが好ましい。
【0096】
前記CIPで処理する際の圧力は、高い方が所望とする成型物が得られやすいため好ましい。前記CIPで処理する際の圧力としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、100Mpa以上が好ましく、150Mpa以上がより好ましく、200MPa以上が更に好ましい。また、前記CIPで処理する際の圧力が100MPa以上であると、高密度のセラミックス焼結体が得られる。また、前記CIPで処理する際の圧力の上限値としても、特に制限はないが、生産効率の点から、300MPa以下が更に好ましい。
【0097】
前記CIPで処理する際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、5℃以上が好ましく、10℃がより好ましく、15℃以上が更に好ましい。また、前記CIPで処理する際の温度の上限値としても、特に制限はないが、生産効率の点から、300℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、50℃以下が更に好ましい。
【0098】
前記成型工程で得られる成型物の密度としては、特に制限はなく、成型物の製造方法などによって適宜選択することができる。前記成型物の密度が高い程、得られるセラミックス焼結体の密度も向上する。
【0099】
前記成型工程で得られる成型物の形状としては、特に制限はなく、用途に応じて所望の形状とすることができる。
前記成型物は、単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。前記成型物を多層構造とすることで、最終的に得られるセラミックス焼結体を多層構造とすることができる。
【0100】
<脱脂工程>
前記脱脂工程は、前記成型物を脱脂してセラミックス焼結前駆体を得る工程である。前記成型物は前記焼結用バインダーを含有するため、欠けや割れのないセラミックス焼結前駆体を得ることができる。
【0101】
前記成型物を脱脂する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、過熱水蒸気脱脂法、加圧脱脂法などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
前記過熱水蒸気脱脂法は、過熱水蒸気と前記成型物とを接触させつつ、加熱する方法である。なお、本明細書において、「過熱水蒸気」とは、100℃よりも高い温度を有する水蒸気を意味する。
【0103】
前記過熱水蒸気の存在下での加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、200℃以上が更に好ましい。また、前記過熱水蒸気の存在下での加熱温度の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、900℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましく、700℃以下が更に好ましい。前記過熱水蒸気の存在下での加熱温度が120℃以上であると、前記セラミックス焼結用バインダー中の有機物の残渣の発生を効果的に抑制することができる。また、前記過熱水蒸気の存在下での加熱温度が900℃以下であると、焼結が過剰に進行して加工が困難になるのを抑制することができる。前記過熱水蒸気の存在下での加熱温度は、前記好ましい温度の範囲内で変化させてもよく、一定であってもよく、またある時間では温度は変化し、かつ他の時間では温度が一定であってもよい。
【0104】
前記過熱水蒸気の存在下での加熱温度を前記好ましい温度の範囲内で昇温させる場合、その昇温速度としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、1℃/分間以上であることが好ましく、5℃/分間以上であることがより好ましく、10℃/分間以上であることが更に好ましい。また、前記昇温速度の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、150℃/分間以下であることが好ましく、50℃/分間以下であることがより好ましく、20℃/分間以下であることが更に好ましい。前記昇温速度が5℃/分間以上であることにより、前記セラミックス焼結前駆体の生産性が向上する。また、前記昇温速度が150℃/分間以下であることにより、前記成型物又は前記セラミックス焼結前駆体における内部と外部との体積差を抑制でき、また、前記成型物が有機物を含む場合に該有機物の急激な分解を抑制でき、前記セラミックス焼結前駆体におけるクラックの発生又は破壊を抑制することができる。
【0105】
前記過熱水蒸気の存在下での加熱時間としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、目的とするセラミックス焼結前駆体を生産性良く、安定して得ることができる点から、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上が更に好ましい。また、前記過熱水蒸気の存在下での加熱時間の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、生産効率の点から、10時間以下が好ましく、8時間以下がより好ましく、6時間以下が更に好ましい。
【0106】
前記脱脂工程は、過熱水蒸気発生器を接続した焼結炉を用いて行うことができる。過熱水蒸気発生器の種類としては、特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、市販のスチームヒーターなどを用いることができる。また、上記脱脂温度範囲に制御できるものが好ましい。前記焼結炉の種類としても、特に制限はなく、例えば、一般工業界で用いられる電気炉及び脱脂炉などを用いることができる。
【0107】
前記セラミックス焼結前駆体は、後述する焼成工程でセラミックス焼結体とする前に、切削(ミリング)によって用途に応じた所望の形状とすることができる。例えば、前記セラミックス焼結体を歯科用補綴物等の歯科材料として使用される場合に、このような用途に使用されるセラミックス焼結体を得るために、それに対応する形状になるように前記セラミックス焼結前駆体を切削(ミリング)することができる。切削(ミリング)の方法としては、特に制限はなく、例えば、公知のミリング装置を用いて行うことができる。
【0108】
<焼成工程>
前記焼成工程は、前記セラミックス焼結前駆体を焼成してセラミックス焼結体を得る工程である。前記セラミックス焼結前駆体は、前記焼結用バインダーを含有するため、これを焼成することにより、欠けや割れのないセラミックス焼結体を得ることができる。なお、このような方法で得られたセラミックス焼結体も、本発明の範囲に含まれる。
【0109】
前記焼成工程における焼結温度としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、900℃以上が好ましく、1,000℃以上がより好ましく、1,200℃以上が更に好ましい。前記焼結温度が900℃以上であると、焼結を十分に進行させることができ、緻密なセラミックス焼結体を容易に得ることができる。また、前記焼成工程では、前記焼結用バインダー等に含まれる有機物を十分に焼結することが好ましいため、その上限値としては、特に制限はないが、生産効率の点から、1,500℃以下が好ましい。前記焼結温度は、前記好ましい温度の範囲内で変化させてもよく、一定であってもよく、またある時間では温度は変化し、かつ他の時間では温度が一定であってもよい。
【0110】
前記焼結温度を前記好ましい温度の範囲内で昇温させる場合、その昇温速度又は降温速度としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、1℃/分間以上であることが好ましく、5℃/分間以上であることがより好ましく、10℃/分間以上であることが更に好ましい。前記昇温速度又は降温速度が1℃/分間以上であることにより、前記セラミックス焼結体の生産性が向上する。また、前記昇温速度又は降温速度の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、50℃/分間以下であることが好ましく、20℃/分間以下であることがより好ましく、15℃/分間以下であることが更に好ましい。前記昇温速度が50℃/分間以下であることにより、前記セラミックス焼結前駆体又は前記セラミックス焼結体における内部と外部との体積差を抑制でき、また、前記セラミックス焼結前駆体中の有機物の急激な分解を抑制でき、前記セラミックス焼結体におけるクラックの発生又は破壊を抑制することができる。
【0111】
前記焼成工程における焼結時間としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。
【0112】
前記焼成工程は、公知の焼結炉を用いて行うことができる。前記焼結炉の種類としても、特に制限はなく、例えば、一般工業界で用いられる電気炉及び脱脂炉などを用いることができる。なお、前記脱脂工程と、前記焼成工程とは、同じ焼結炉で行ってもよく、異なる焼結炉で行ってもよい。
【0113】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、乾燥工程、表面保護処理工程、塗装工程などが挙げられる。
【0114】
<<乾燥工程>>
前記乾燥工程は前記混合物を乾燥した粉末組成物を得る工程である。
【0115】
前記混合物を乾燥させる際の乾燥方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から適宜選択することができ、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、超臨界乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥、濾過乾燥、減圧乾燥などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、乾燥時に粒子同士の凝集を抑制することができ、より緻密なセラミックス焼結体を得ることができる点から、噴霧乾燥、超臨界乾燥、凍結乾燥が好ましく、噴霧乾燥がより好ましい。
【0116】
前記乾燥方法として超臨界乾燥を行う場合の超臨界流体としては、特に制限はなく、例えば、水、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化二窒素、窒素、メタン、エタン、プロパン、2,3-ジメチルブタン、エチレン、ジメチルエーテルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0117】
前記各乾燥方法における乾燥条件としては、特に制限はなく、公知の乾燥条件を適宜採用することができる。なお、分散媒として有機溶剤を使用する場合には、乾燥時の爆発のリスクを下げるために、不燃性の気体の存在下に乾燥を行うことが好ましく、窒素の存在下に乾燥を行うことがより好ましい。
【0118】
前記乾燥工程で得られる前記粉末組成物の水分含量としては、特に制限はないが、1.5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
前記粉末組成物の水分含量は、例えば、カールフィッシャー法により測定することができる。
【0119】
<<表面保護処理工程>>
前記表面保護処理工程は、前記セラミックス焼結前駆体の表面に保護層を形成等する工程である。この表面保護処理工程を行うことにより、前記セラミックス焼結前駆体を、例えば、そのまま使用等することができる耐久性等を該セラミックス焼結前駆体の表面に与えることができる。
【0120】
前記保護層の具体例としては、耐水性層、耐候性層、耐光性層、断熱性層、光沢層などが挙げられる。
【0121】
前記表面保護処理は、公知の表面保護処理装置、例えば、スプレー装置、コーティング装置などにより行うことができる。
【0122】
<<塗装工程>>
前記塗装工程は、前記セラミックス焼結前駆体に塗装を行う工程である。前記塗装工程を行うことにより、前記セラミックス焼結前駆体を所望の色に着色させることができる。
【0123】
前記塗装は、公知の塗装装置、例えば、スプレー、ローラ、刷毛等による塗装装置などにより行うことができる。
【実施例0124】
以下に製造例、実施例、及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの製造例及び実施例に何ら限定されるものではない。なお、製造例、実施例、及び比較例において、別段の断りない限り、「%」は「質量%」を示し、「部」は「質量部」を示す。
【0125】
(製造例1:コアシェル粒子を含有するラテックスL-1の製造)
<弾性コア層の形成>
脱イオン水2,730g及びエマール2FG(ラウリル硫酸ナトリウム、固形分濃度30%、花王株式会社製)5.0gを8L重合器に投入した後、50℃に昇温し、窒素をフローした。次に、ブチルアクリレート150g、アリルメタクリレート0.375g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)0.3gの混合物を前記8L重合器に投入し、続いて硫酸第一鉄・七水和物(FeSO・7HO)0.00864g及びエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム(EDTA)0.03456gを脱イオン水8.6gに溶解した溶液を投入し、更にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)48.0gを投入し、30分間攪拌した。次に、エマール2FG 4.7gを前記8L重合器に投入し、続いて、ブチルアクリレート1,650g、アリルメタクリレート4.125g、フォスファノール RD-510Y(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、東邦化学工業株式会社製)27.0g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gの混合物を前記8L重合器に165分間かけて投入した。前記混合物の投入終了時に、t-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gを前記8L重合器に投入し、30分間攪拌した。これにより、固形分濃度40.0%のアクリル系ゴム粒子を含むラテックスを得た。
【0126】
<シェル層の形成>
得られたアクリル系ゴム粒子を含むラテックス(固形分濃度40.0%)4,500gを前記8L重合器に仕込み、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)60.0gを投入した。続いて、メチルメタクリレート1,050g、スチレン60g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレン基の平均付加モル数:4.5、商品名:ブレンマー(登録商標)PE-200、日油株式会社製)90g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.3gの混合物を前記8L重合器に120分間かけて投入し、重合を開始した。なお、重合反応中に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及びt-ブチルハイドロパーオキサイドを適宜添加した。重合開始から80分間後に重合反応を終了させた。その後、重合物を含むラテックスにエマルゲンLS-110(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、花王株式会社製)を10.5g添加し、転化率100%、固形分濃度49.0%、体積平均粒子径230nmの、アクリル系ゴム粒子を弾性コア層とし、水酸基(ポリオキシエチレン基)を有するシェル層を有するコアシェル構造を有する重合体粒子(コアシェル粒子)を含有するラテックスL-1を得た。
【0127】
(製造例2:コアシェル粒子を含有するラテックスL-2の製造)
<弾性コア層の形成>
脱イオン水90g及びリン酸水素2ナトリウム(固形分濃度10%)10gを100L耐圧オートクレーブに投入し、続いて硫酸第一鉄・七水和物(FeSO・7HO)0.237g及びエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム(EDTA)0.395gを脱イオン水125.8gに溶解した溶液を投入し、-0.01MPaで15分間、脱酸を実施した。次に、ネオペレックス G-15(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、固形分濃度15.0%、花王株式会社製)66.7g、1,3-ブタジエン9,000g、スチレン11,000g、及びt-ドデシルメルカプタン150gを前記100L耐圧オートクレーブに投入し、内温50℃に昇温した。続いて、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)140.0g及びパラメンタンハイドロパーオキサイド(固形分濃度52%)7.7gを投入し、重合を開始した。重合開始から15時間目に、減圧下にて脱気して、重合に使用されずに残存したブタジエンを脱気除去することにより重合を終了した。これにより、固形分濃度45.0%のスチレン-ブタジエン系ゴム粒子を含むラテックスを得た。
なお、重合反応中に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、硫酸第一鉄・七水和物(FeSO・7HO)、及びエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム(EDTA)を、それぞれ任意の量及び任意の時点で前記100L耐圧オートクレーブに添加した。
【0128】
<<シェル層の形成>>
得られたスチレン-ブタジエン系ゴム粒子を含むラテックス(固形分濃度45.0%)2,000gを8L重合器に仕込み、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)60.0gを投入した。続いて、スチレン237.6g、メチルメタクリレート26.4g、ポリオキシメチレンメタクリレート36g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.3gの混合物を前記8L重合器に120分間かけて投入し、重合を開始した。なお、重合反応中に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及びt-ブチルハイドロパーオキサイドを適宜添加した。重合開始から80分間後に重合反応を終了させた。これにより、転化率100%、固形分濃度46.0%、体積平均粒子径200nmの、スチレン-ブタジエン系ゴム粒子を弾性コア層とし、水酸基(ポリオキシエチレン基)を有するシェル層を有するコアシェル構造を有する重合体粒子(コアシェル粒子)を含有するラテックスL-2を得た。
【0129】
(製造例3:コアシェル粒子を含有するラテックスL-3の製造)
<弾性コア層の形成>
脱イオン水2,730g及びエマール2FG(ラウリル硫酸ナトリウム、固形分30%、花王株式会社製)5.0gを8L重合器に投入した後、50℃に昇温し、窒素をフローした。次に、ブチルアクリレート150g、アリルメタクリレート0.375g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)0.3gの混合物を前記8L重合器に投入し、続いて硫酸第一鉄・七水和物(FeSO・7HO)0.00864g及びエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム(EDTA)0.03456gを脱イオン水8.6gに溶解した溶液を投入し、更にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)48.0gを投入し、30分間攪拌した。次に、エマール2FG 4.7gを前記8L重合器に投入し、続いて、ブチルアクリレート2,850g、アリルメタクリレート4.125g、フォスファノール RD-510Y(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、東邦化学工業株式会社製)27.0g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gの混合物を前記8L重合器に165分間かけて投入した。前記混合物の投入終了時に、t-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gを前記8L重合器に投入し、30分間攪拌した。これにより、固形分40.0%のアクリル系ゴム粒子を含むラテックスを得た。
【0130】
<シェル層の形成>
得られたアクリル系ゴム粒子を含むラテックス(固形分濃度40.0%)4,500gを前記8L重合器に仕込み、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)60.0gを投入した。続いて、メチルメタクリレート1,050g、スチレン60g、メタクリル酸メチル90g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.3gの混合物を前記8L重合器に120分間かけて投入し、重合を開始した。なお、重合反応中に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及びt-ブチルハイドロパーオキサイドを適宜添加した。重合開始から80分間後に重合反応を終了した。その後、重合物を含むラテックスにエマルゲンLS-110(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、花王株式会社製)を10.5g添加し、転化率100%、固形分濃度49.0%、体積平均粒子径230nmの、アクリル系ゴム粒子を弾性コア層とし、カルボキシル基を有するシェル層を有するコアシェル構造を有する重合体粒子(コアシェル粒子)を含有するラテックスL-3を得た。
【0131】
(製造例4:コアシェル粒子を含有するラテックスL-4の製造)
<弾性コア層の形成>
脱イオン水2,730g及びエマール2FG(ラウリル硫酸ナトリウム、固形分30%、花王株式会社製)5.0gを8L重合器に投入した後、50℃に昇温し、窒素をフローした。次に、ブチルアクリレート150g、アリルメタクリレート0.375g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)0.3gの混合物を前記8L重合器に投入し、続いて硫酸第一鉄・七水和物(FeSO・7HO)0.00864g及びエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム(EDTA)0.03456gを脱イオン水8.6gに溶解した溶液を投入し、更にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)48.0gを投入し、30分間攪拌した。次に、エマール2FG 4.7gを前記8L重合器に投入し、続いて、ブチルアクリレート2,850g、アリルメタクリレート4.125g、フォスファノール RD-510Y(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、東邦化学工業株式会社製)27.0g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gの混合物を前記8L重合器に165分間かけて投入した。前記混合物の投入終了時に、t-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gを前記8L重合器に投入し、30分間攪拌した。これにより、固形分40.0%のアクリル系ゴム粒子を含むラテックスを得た。
【0132】
<シェル層の形成>
得られたアクリル系ゴム粒子を含むラテックス(固形分濃度40.0%)4,500gを前記8L重合器に仕込み、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)60.0gを投入した。続いて、スチレン832.5g、アクリロニトリル277.5g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレン基の平均付加モル数:4.5、商品名:ブレンマー(登録商標)PE-200、日油株式会社製)90g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.3gの混合物を前記8L重合器に120分間かけて投入し、重合を開始した。なお、重合反応中に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及びt-ブチルハイドロパーオキサイドを適宜添加した。重合開始から80分間後に重合反応を終了した。その後、重合物を含むラテックスにエマルゲンLS-110(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、花王株式会社製)を10.5g添加し、転化率100%、固形分濃度49.0%、体積平均粒子径230nmの、アクリル系ゴム粒子を弾性コア層とし、水酸基(ポリオキシエチレン基)を有するシェル層を有するコアシェル構造を有する重合体粒子(コアシェル粒子)を含有するラテックスL-4を得た。
【0133】
(製造例5:コアシェル粒子を含有するラテックスL-5の製造)
<弾性コア層の形成>
脱イオン水2,730g及びエマール2FG(ラウリル硫酸ナトリウム、固形分30%、花王株式会社製)5.0gを8L重合器に投入した後、50℃に昇温し、窒素をフローした。次に、ブチルアクリレート150g、アリルメタクリレート0.375g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)0.3gの混合物を前記8L重合器に投入し、続いて硫酸第一鉄・七水和物(FeSO・7HO)0.00864g及びエチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム(EDTA)0.03456gを脱イオン水8.6gに溶解した溶液を投入し、更にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)48.0gを投入し、30分間攪拌した。次に、エマール2FG 4.7gを前記8L重合器に投入し、続いて、ブチルアクリレート1,850g、スチレン1,000g、アリルメタクリレート4.125g、フォスファノール RD-510Y(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸、東邦化学工業株式会社製)27.0g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gの混合物を前記8L重合器に165分間かけて投入した。前記混合物の投入終了時に、t-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.0gを前記8L重合器に投入し、30分間攪拌した。これにより、固形分40.0%のアクリル系ゴム粒子を含むラテックスを得た。
【0134】
<シェル層の形成>
得られたアクリル系ゴム粒子を含むラテック(固形分濃度40.0%)4,500gを前記8L重合器に仕込み、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(固形分濃度5%)60.0gを投入した。続いて、メチルメタクリレート1,050g、スチレン60g、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(オキシエチレン基質の平均付加モル数:4.5、商品名:ブレンマー(登録商標)PE-200、日油株式会社製)90g、及びt-ブチルハイドロパーオキサイド(固形分濃度69%)3.3gの混合物を前記8L重合器に120分間かけて投入し、重合を開始した。なお、重合反応中に、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート及びt-ブチルハイドロパーオキサイドを適宜添加した。重合開始から80分間後に重合反応を終了した。その後、重合物を含むラテックスにエマルゲンLS-110(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、花王株式会社製)を10.5g添加し、転化率100%、固形分濃度49.0%、体積平均粒子径230nmの、アクリル系ゴム粒子を弾性コア層とし、水酸基(ポリオキシエチレン基)を有するシェル層を有するコアシェル構造を有する重合体粒子(コアシェル粒子)を含有するラテックスL-5を得た。
【0135】
<<ガラス転移温度(Tg)の測定>>
製造例1~5の製造工程で得られた弾性コア層、並びに、後述する比較例1で使用したポリビニルアルコール(商品名:セルナWF-804、中京油脂株式会社製)のガラス転移温度(Tg)を、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。
具体的には、示差走査熱量計(セイコーインスツル株式会社製)を使用し、測定温度範囲を-100℃~200℃として、窒素雰囲気下(流量50mL/分間)、昇温速度10℃/分間にて測定し、最も低い吸熱ピーク温度を弾性コア層又はポリビニルアルコールのガラス転移温度とした。結果は下記表1に示した。
【0136】
【表1】
【0137】
(実施例1)
<混合工程>
アルミナ150g、蒸留水150g、及び直径10mmのジルコニアボール600gの入ったポットミルにて24時間混合してアルミナの水分散スラリーを得た。次いで、ここにポリカルボン酸アンモニウム系分散剤(固形分濃度:10%、商品名:セルナD-305、中京油脂株式会社製)を1.5g(粉末材料に対する固形分添加量0.4%)と、製造例1で得られたラテックスL-1(固形分濃度:49.0%)1.53g(固形分量:0.75g)を添加し、ポットミルにて1時間混合後、ジルコニアボールを除去してスラリー状の組成物を得た。得られたスラリー状の組成物の外観を目視にて観察したところ、アルミナが均一に分散しており、良好な状態であった。
【0138】
<乾燥工程>
小型スプレードライヤー(ADL311S-A、ヤマト科学株式会社製)を用い、前記混合工程で得られたスラリー状の組成物を、粉末状の組成物とした。
【0139】
<成型工程>
前記乾燥工程で得られた粉末状の組成物を金型に投入し、10MPaにて60秒間の条件で一軸成型した。次に、金型の中心に芯金を配置して、23℃、250MPaにて60秒間の条件で冷間静水圧プレス(CIP)加工を行った。これにより、直径22.5mm、高さ11mmの円形のタブレット形状の圧粉体を得た。
【0140】
<脱脂工程>
前記成型工程で得られた圧粉体について、過熱水蒸気処理装置(高砂工業株式会社製)により、以下に示す脱脂条件で過熱水蒸気脱脂を行い、セラミックス焼結前駆体を得た。
[脱脂条件]
開始温度を室温(23±1℃)、終了温度150℃とし、窒素(N)を10L/分間で注入しながら、窒素雰囲気下で10℃/分間で昇温した。
以下の昇温及び降温は、過熱水蒸気を5kg/時間で注入しながら、過熱水蒸気下で行った。過熱水蒸気下で150℃にて0.5時間保持した後、150℃から700℃まで10℃/分間で昇温し、700℃にて1時間保持した後、700℃から200℃まで10℃/分間で降温した。
次に、大気雰囲気下で200℃から室温まで炉冷した。
【0141】
<焼成工程>
前記脱脂工程の後、セラミックス焼結前駆体を大気雰囲気高温炉(SH-2025、株式会社モトヤマ製)により、以下に示す焼結条件で焼結を行い、実施例1のセラミックス焼結体を得た。
[焼結条件]
焼結は、大気雰囲気下で行った。開始温度を室温(23±1℃)、終了温度1,400℃とし、10℃/分間で昇温した後、1,400℃で1時間保持し、1,400℃から室温まで10℃/分間で降温して炉冷した。
【0142】
(実施例2)
実施例1の混合工程において、使用した焼結用バインダーを、製造例1で得られたラテックスL-1(固形分濃度:49.0%)1.53g(固形分量:0.75g)から、製造例2で得られたラテックスL-2(固形分濃度:46.0%)1.63g(固形分量:0.75g)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、混合工程、乾燥工程、成型工程、脱脂工程、及び焼成工程を行い、実施例2のセラミックス焼結体を得た。なお、混合工程で得られたスラリー状の組成物の外観を目視にて観察したところ、アルミナが均一に分散しており、良好な状態であった。
【0143】
(実施例3)
実施例1の混合工程において、使用した焼結用バインダーを、製造例1で得られたラテックスL-1から、製造例3で得られたラテックスL-3に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、混合工程、乾燥工程、成型工程、脱脂工程、及び焼成工程を行い、実施例4のセラミックス焼結体を得た。なお、混合工程で得られたスラリー状の組成物の外観を目視にて観察したところ、アルミナが均一に分散しており、良好な状態であったが、泡立ちが激しく、次の乾燥工程での粉末化の効率が悪かった。
【0144】
(実施例4)
実施例1の混合工程において、使用した焼結用バインダーを、製造例1で得られたラテックスL-1から、製造例4で得られたラテックスL-4に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、混合工程、乾燥工程、成型工程、脱脂工程、及び焼成工程を行い、実施例4のセラミックス焼結体を得た。なお、混合工程で得られたスラリー状の組成物の外観を目視にて観察したところ、アルミナが均一に分散しており、良好な状態であった。
【0145】
(実施例5)
実施例1の混合工程において、使用した焼結用バインダーを、製造例1で得られたラテックスL-1から、製造例5で得られたラテックスL-5に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、混合工程、乾燥工程、成型工程、脱脂工程、及び焼成工程を行い、実施例5のセラミックス焼結体を得た。なお、混合工程で得られたスラリー状の組成物の外観を目視にて観察したところ、アルミナが均一に分散しており、良好な状態であった。
【0146】
(比較例1)
実施例1の混合工程において、使用した焼結用バインダーを、製造例1で得られたラテックスL-1(固形分濃度:49.0%)1.53g(固形分量:0.75g)から、ポリビニルアルコール(有効成分濃度:10質量%、商品名:セルナWF-804、中京油脂株式会社製)7.5g(固形分量:0.75g)に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で、混合工程、乾燥工程、成型工程、脱脂工程、及び焼成工程を行い、実施例2のセラミックス焼結体を得た。なお、混合工程で得られたスラリー状の組成物の外観を目視にて観察したところ、アルミナが均一に分散しており、良好な状態であった。
【0147】
<<成型工程後の成型物のサイズ及び質量>>
実施例1~5及び比較例1の成型工程で得られた成型物の径及び厚さをデジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)で測定し、またこれらの成型物の質量を電子天秤(METTLER TOLEDO社製)で測定した。結果は下記表2に示した。
【0148】
【表2】
【0149】
実施例1~5及び比較例1のいずれの成型物も、径及び厚さに大きな差はなかった。なお、質量については、比較例1で少し大きかったが、これは、焼結用バインダーに使用したアクリルモノマーと、ポリビニルアルコールとの比重の大きさの違いによるものと考えられた。
【0150】
<<脱脂工程後のセラミックス焼結前駆体の質量変化及び外観>>
実施例1~5及び比較例1の脱脂工程で得られたセラミックス焼結前駆体の質量を電子天秤(METTLER TOLEDO社製)で測定した。結果は下記表3に示した。この測定値より、下記式に基づき脱脂工程前後の質量の変化率を算出した。また、脱脂前の成型物及び脱脂後のセラミックス焼結前駆体をデジタルカメラで撮影した外観の一例を図1A(実施例1)、図1B(実施例2)、図1C(実施例3)、図1D(実施例4)、図1E及び図1F(実施例5)、並びに図1G(比較例1)に示した。実施例5は、弾性コア層のTgが高かったため、成形工程で得られた脱脂前の成型物に亀裂及び/又は欠けが発生したため、脱脂後のセラミックス焼結前駆体においても亀裂及び/又は欠けが発生した。なお、図1E及び図1Fは、実施例5の一例として、脱脂前の成型物及び脱脂後のセラミックス焼結前駆体に亀裂が発生したサンプルを示した。
変化率(%)=(脱脂後質量-脱脂前質量)/脱脂前質量×100
【0151】
【表3】
【0152】
実施例1~5及び比較例1の混合工程において添加した有機物の含有量は約1質量%(固形分量)であった。したがって、変化率が1質量%に近い程、脱脂工程で有機物が脱脂されたことを意味する。表3の結果より、実施例1~5及び比較例1のいずれの成型物も、変化率に大きな差はなかった。
一方、脱脂工程において有機物が炭化した場合、セラミックス焼結前駆体の外観が黒っぽくなる。図1A図1Gの結果、実施例2及び比較例1の脱脂後に、少し黒くなっていた。
また、成形工程後や脱脂工程後に形状が保持できず、セラミックス焼結前駆体に割れや欠けが生じた場合、最終的なセラミックス焼結体の割れや欠けに繋がる。図1A図1D及び図1Gより、実施例1~4及び並びに比較例1のセラミックス焼結前駆体は、いずれも割れや欠けは生じていなかった。図1E及び図1Fより、実施例5は、成形工程で得られた脱脂前の成型物に亀裂及び/又は欠けが生じたため、脱脂後のセラミックス焼結前駆体にも亀裂及び/又は欠けが生じた。
【0153】
<<焼成工程後のセラミックス焼結体のサイズ、質量、密度、及び外観>>
-焼成工程後のセラミックス焼結体のサイズの測定-
実施例1~5及び比較例1の焼成工程で得られたセラミックス焼結体の径及び厚さをデジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)で測定し、またこれらのセラミックス焼結体の質量を電子天秤(METTLER TOLEDO社製)で測定した。結果は下記表4に示した。
また、実施例1、実施例2、実施例4、及び比較例1については、焼成工程における温度変化と質量変化との関係を、図2に示した。なお、実施例3及び実施例5は、焼成工程における温度変化と質量変化との関係は検討しなかった。
【0154】
-焼成工程後のセラミックス焼結体の密度の測定-
実施例1~5及び比較例1の焼成工程で得られたセラミックス焼結体の密度を、自動比重計(株式会社東洋機械製作所製)で測定した。結果は下記表4に示した。
【0155】
-焼成工程後のセラミックス焼結体の外観の観察-
実施例1~5及び比較例1の焼成工程で得られたセラミックス焼結体をデジタルカメラで撮影した外観の一例を、図1A(実施例1)、図1B(実施例2)、図1C(実施例3)、図1D(実施例4)、図1E及びF(実施例5)、並びに図1G(比較例1)に示した。
図1A図1D及び図1Gより、実施例1~4及び並びに比較例1のセラミックス焼結体は、いずれも割れや欠けは生じていなかった。図1E及び図1Fより、実施例5は、成形工程で得られた脱脂前の成型物及び脱脂後のセラミックス焼結前駆体に亀裂及び/又は欠けが生じたため、焼成工程で得られたセラミックス焼結体において、更に亀裂及び/又は欠けが促進されていた。なお、図1E及び図1Fは、実施例5の一例としてセラミックス焼結体に欠けが発生したサンプルを示した。
【0156】
【表4】
【0157】
表4の結果より、実施例1~5のセラミックス焼結体は、比較例1のセラミックス焼結体と比較して、密度が向上していた。
また、図2の結果より、実施例1、実施例2、及び実施例4は、比較例1と比較して低温で焼結可能であり、焼結用バインダー由来の有機物が残存し難いことが分かった。
【0158】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> セラミックスの焼結用バインダーであって、
弾性コア層と、前記弾性コア層を被覆するシェル層と、を有するコアシェル粒子を含有し、
前記シェル層が、水酸基及びカルボキシル基の少なくともいずれかの官能基を有する重合体を含有することを特徴とする焼結用バインダーである。
<2> 前記弾性コア層が(メタ)アクリル系ゴムを含有する、前記<1>に記載の焼結用バインダーである。
<3> 前記(メタ)アクリル系ゴムのガラス転移温度が0℃未満である、前記<1>又は<2>に記載の焼結用バインダーである。
<4> 前記シェル層が、(メタ)アクリル系モノマー、芳香族ビニル化合物、及びシアン化ビニル化合物からなる群より選択される少なくとも1種を構成モノマーとして含む重合体を含有する、前記<1>から<3>のいずれかに記載の焼結用バインダーである。
<5> 少なくともセラミックス原料粉末と、前記<1>から<4>のいずれかに記載の焼結用バインダーとを混合した混合物を得る混合工程と、
前記混合物を成型した成型物を得る成型工程と、
前記成型物を脱脂してセラミックス焼結前駆体を得る脱脂工程と、
前記セラミックス焼結前駆体を焼成してセラミックス焼結体を得る焼成工程と、
を含むことを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法である。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2