IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図1
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図2
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図3
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図4
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図5
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図6
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図7
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図8
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図9
  • 特開-車両制御システム、及び鞍乗型車両 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145022
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】車両制御システム、及び鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20241004BHJP
   B62J 45/00 20200101ALI20241004BHJP
   B62J 45/412 20200101ALI20241004BHJP
   B62J 45/415 20200101ALI20241004BHJP
【FI】
B60T8/1755 A
B62J45/00
B62J45/412
B62J45/415
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057242
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】中河原 正樹
(72)【発明者】
【氏名】能勢 翼
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246AA11
3D246BA02
3D246DA01
3D246GB05
3D246HA15A
3D246HA43A
3D246HA64A
3D246HA85A
3D246HA86A
3D246HA93A
3D246HC01
(57)【要約】
【課題】鞍乗型車両が傾斜状態に変化する又は変化した際の操舵の安定化を図れる車両制御システム、及び鞍乗型車両を提供する。
【解決手段】運転者の制動操作に応じて前輪FWを制動可能なブレーキユニット61を備える鞍乗型車両の一実施形態としての自動二輪車1の電子制御ユニットECUは、慣性計測ユニットIMUの検出値に基づいて、自動二輪車1の車体フレームが傾斜状態に変化する又は変化したと判定し、ブレーキ液圧センサSe2の検出値に基づいて、ブレーキユニット61の制動力が減少すると判定した場合に、ブレーキユニット61の制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレーム(10)と、前記車体フレームに操舵自在に支持される操舵装置(50)と、前記操舵装置に回転自在に支持される操舵輪としての前輪(FW)と、乗員の制動操作に応じて前記前輪を制動可能な制動装置(61)と、前記車体フレームのロール角又はロール角速度を検出する第1センサ(IMU)と、前記制動装置の制動力に関する所定のパラメータを検出する第2センサ(Se2)と、を備える鞍乗型車両(1)を制御する車両制御システム(ECU、65、CTR)であって、
前記車両制御システムは、
前記制動装置の制動力を制御可能に構成され、
前記第1センサによって検出された前記ロール角又は前記ロール角速度に基づいて、前記車体フレームが傾斜状態に変化する又は変化したと判定し、
且つ、前記第2センサによって検出された前記パラメータに基づいて、前記制動力が減少すると判定した場合に、前記制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する、
車両制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御システムであって、
前記制動装置は、ブレーキ液圧によって前記前輪を制動可能な液圧式の制動装置であり、
前記第2センサは、前記パラメータとして前記ブレーキ液圧を検出し、
前記車両制御システムは、
前記ブレーキ液圧を制御することにより前記制動力を制御可能に構成され、
単位時間当たりの前記ブレーキ液圧の変化量である液圧変化率が所定の閾値よりも大きい場合、又は前記ブレーキ液圧が所定の閾値よりも小さくなった場合に、前記制動力が減少すると判定して、前記抑制制御を実行し、
前記抑制制御において、前記制動力の減少を抑制するように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両制御システムであって、
前記鞍乗型車両は、前記操舵装置に対する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ(Se1)をさらに備え、
前記車両制御システムは、前記抑制制御において、前記操舵トルクセンサによって検出される前記操舵トルクが前記ロール角速度に応じた所定の目標値となるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【請求項4】
請求項2に記載の車両制御システムであって、
前記車両制御システムは、前記抑制制御において、前記液圧変化率が大きいほど当該液圧変化率が小さくなるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載の車両制御システムであって、
前記車両制御システムは、
前記前輪の垂直荷重を推定可能に構成され、
前記抑制制御において、さらに、推定された前記前輪の垂直荷重の変化量が大きいほど前記液圧変化率が小さくなるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【請求項6】
請求項4に記載の車両制御システムであって、
前記車両制御システムは、
前記抑制制御において、さらに、前記ロール角速度が大きいほど前記液圧変化率が小さくなるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【請求項7】
請求項3から6のいずれか1項に記載の車両制御システムであって、
前記鞍乗型車両は、当該鞍乗型車両の走行速度である車速を検出する車速センサ(Se3)をさらに備え、
前記車両制御システムは、
前記ロール角が第1所定値以下、且つ前記車速が第2所定値以下の場合には、前記抑制制御を実行しない、又は、前記ロール角が前記第1所定値より大きい若しくは前記車速が前記第2所定値より大きい場合に比べて前記抑制制御による前記制動力の抑制を小さくする、
車両制御システム。
【請求項8】
請求項3から6のいずれか1項に記載の車両制御システムであって、
前記鞍乗型車両は、当該鞍乗型車両の走行速度である車速を検出する車速センサ(Se3)をさらに備え、
前記車両制御システムは、
前記ロール角が第3所定値よりも大きく、且つ前記車速が第4所定値よりも大きい場合には、前記抑制制御を実行しない、又は、前記ロール角が前記第3所定値以下若しくは前記車速が前記第4所定値以下の場合に比べて前記抑制制御による前記制動力の抑制を小さくする、
車両制御システム。
【請求項9】
車体フレーム(10)と、前記車体フレームに操舵自在に支持される操舵装置(50)と、前記操舵装置に回転自在に支持される操舵輪としての前輪(FW)と、乗員の制動操作に応じて前記前輪を制動可能な制動装置(61)と、前記車体フレームのロール角又はロール角速度を検出する第1センサ(IMU)と、前記制動装置の制動力に関する所定のパラメータを検出する第2センサ(Se2)と、車両制御システム(ECU、65、CTR)と、を備える鞍乗型車両(1)であって、
前記車両制御システムは、
前記制動装置の制動力を制御可能に構成され、
前記第1センサによって検出された前記ロール角又は前記ロール角速度に基づいて、前記車体フレームが傾斜状態に変化する又は変化したと判定し、
且つ、前記第2センサによって検出された前記パラメータに基づいて、前記制動力が減少すると判定した場合に、前記制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する、
鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御システム、及び鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動二輪車等の鞍乗型車両にあっては、安全上の観点から、旋回前(換言するとコーナリング前)に減速することが望まれる。このため、鞍乗型車両の乗員は、例えばブレーキレバーを操作するといった所定の制動操作を旋回前に行うことにより制動装置を動作させ、鞍乗型車両を減速させる。そして、鞍乗型車両がある程度減速すると、乗員は、制動装置による制動力を弱めつつ、鞍乗型車両をロール方向に傾斜(いわゆるバンク)させて旋回する。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、車体の傾斜角を増大させる運転操作が行われたことが検出され、且つ、車体の傾斜角の時間的変化率である傾斜角変化率の大きさが判定値以上であるときに車輪に働くブレーキ力をリリースするようにABS(アンチロックブレーキングシステム)を制御するようにした技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-244876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、主に、熟練度が低い運転者(例えば初心者)に対してはより安全にコーナリングすることを可能にする一方、熟練度が高い運転者に対しては自身のテクニックを駆使したコーナリングを行うことを許容するようにしたものであり、コーナリング時(換言すると旋回時)における鞍乗型車両の操作性を向上させる観点から改善の余地があった。
【0006】
本発明は、鞍乗型車両が傾斜状態に変化する又は変化した際の操舵の安定化を図れる車両制御システム、及び鞍乗型車両を提供する。そして、鞍乗型車両における操作性を向上させて、延いては交通の安全性を改善し、持続可能な輸送システムの発展に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
車体フレーム(10)と、前記車体フレームに操舵自在に支持される操舵装置(50)と、前記操舵装置に回転自在に支持される操舵輪としての前輪(FW)と、乗員の制動操作に応じて前記前輪を制動可能な制動装置(61)と、前記車体フレームのロール角又はロール角速度を検出する第1センサ(IMU)と、前記制動装置の制動力に関する所定のパラメータを検出する第2センサ(Se2)と、を備える鞍乗型車両(1)を制御する車両制御システム(ECU、65、CTR)であって、
前記車両制御システムは、
前記制動装置の制動力を制御可能に構成され、
前記第1センサによって検出された前記ロール角又は前記ロール角速度に基づいて、前記車体フレームが傾斜状態に変化する又は変化したと判定し、
且つ、前記第2センサによって検出された前記パラメータに基づいて、前記制動力が減少すると判定した場合に、前記制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する、
車両制御システムである。
【0008】
また、本発明の他の一態様は、
車体フレーム(10)と、前記車体フレームに操舵自在に支持される操舵装置(50)と、前記操舵装置に回転自在に支持される操舵輪としての前輪(FW)と、乗員の制動操作に応じて前記前輪を制動可能な制動装置(61)と、前記車体フレームのロール角又はロール角速度を検出する第1センサ(IMU)と、前記制動装置の制動力に関する所定のパラメータを検出する第2センサ(Se2)と、車両制御システム(ECU、65、CTR)と、を備える鞍乗型車両(1)であって、
前記車両制御システムは、
前記制動装置の制動力を制御可能に構成され、
前記第1センサによって検出された前記ロール角又は前記ロール角速度に基づいて、前記車体フレームが傾斜状態に変化する又は変化したと判定し、
且つ、前記第2センサによって検出された前記パラメータに基づいて、前記制動力が減少すると判定した場合に、前記制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する、
鞍乗型車両である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、鞍乗型車両が傾斜状態に変化する又は変化した際の操舵の安定化を図れる車両制御システム、及び鞍乗型車両を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の自動二輪車1を左側からみた側面図である。
図2】自動二輪車1のハンドル51を上方からみた上面図である。
図3】自動二輪車1の前輪FWを制動可能なブレーキユニット61の制御に関する機能的構成の一例を示すブロック図である。
図4】第1実施形態の電子制御ユニットECUが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図5図4のステップS6の処理による操舵トルクの制御例を示す図である。
図6】第2実施形態の電子制御ユニットECUが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図7図6のステップS16の処理によるブレーキ液圧の制御例を示す図である。
図8】第3実施形態の電子制御ユニットECUが実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図9図8のステップS26の処理によるブレーキ液圧の制御例を示す図である。
図10】各実施形態の変形例の電子制御ユニットECUが行う補正の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の車両制御システム、及び鞍乗型車両の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図面は、符号の向きに見るものとする。以下の実施形態は特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち2つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、以下では、同一又は類似の要素には同一又は類似の符号を付して、その説明を適宜省略又は簡略化することがある。
【0012】
本明細書等では説明を簡単且つ明確にするために、前後、左右、上下の各方向は、自動二輪車の乗員である運転者から見た方向にしたがって記載し、図面には、自動二輪車の前方をFr、後方をRr、左方をL、右方をR、上方をU、下方をD、として示す。
【0013】
(第1実施形態)
<車体の構造>
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1に示すように、本発明の鞍乗型車両の一実施形態としての自動二輪車1は、車体フレーム10と、車体フレーム10に装着されて自動二輪車1の少なくとも一部の外面を覆うカウル部材20と、前輪FW及び後輪RWと、車体フレーム10に搭載されたパワーユニット31及び燃料タンク32と、を備える。
【0014】
パワーユニット31は、前輪FWと後輪RWとの間に配置され、車体フレーム10に固定されている。パワーユニット31は、エンジン311と、不図示の摩擦クラッチを備えるクラッチユニット312と、不図示の変速機構と、を備える。そして、摩擦クラッチが接続状態のとき、パワーユニット31は、エンジン311の動力を、変速機構を介して出力軸から出力する。一方、摩擦クラッチが解放状態のとき、パワーユニット31の出力軸からエンジン311の動力は出力されない。
【0015】
燃料タンク32は、パワーユニット31の上方に配置され、車体フレーム10に固定されている。燃料タンク32には、ガソリンや軽油等の燃料が貯留される。パワーユニット31のエンジン311は、燃料タンク32に貯留された燃料によって動力を発生させる。
【0016】
したがって、本実施形態の自動二輪車1は、パワーユニット31のエンジン311が後輪RWを駆動する駆動力を出力する原動機であり、パワーユニット31のエンジン311の動力によって後輪RWが駆動する自動二輪車である。
【0017】
自動二輪車1は、自動二輪車1の動力源であるパワーユニット31のエンジン311で発生した動力を後輪RWに伝達する動力伝達ユニット40を備える。
【0018】
動力伝達ユニット40は、パワーユニット31の出力軸に連結されてパワーユニット31の出力軸と一体に回転するドライブスプロケット41と、後輪RWと一体に同軸回転するドリブンスプロケット42と、ドライブスプロケット41とドリブンスプロケット42とに掛け回されるチェーン43と、を備える。パワーユニット31から出力される回転動力は、ドライブスプロケット41及びチェーン43を介してドリブンスプロケット42に伝達され、後輪RWは、ドリブンスプロケット42に伝達されたパワーユニット31の回転動力によって回転駆動する。
【0019】
自動二輪車1は、後輪RWの左右両側に配置されるとともに前後方向に延在する左右一対のスイングアーム11を備える。左右一対のスイングアーム11は、後端部で後輪RWを支持している。左右一対のスイングアーム11の前端部は、それぞれ車体フレーム10に設けられた不図示のスイングアームピボットに軸支されている。左右一対のスイングアーム11はそれぞれ、スイングアームピボットを支点軸として、上下に回動可能となっている。左右一対のスイングアーム11は、後輪RWを車体フレーム10に連結するための骨組みとしての機能を有すると同時に、後輪RWに入力された衝撃を吸収する緩衝装置の一部としての機能も有する。
【0020】
自動二輪車1は、後輪RWに入力された衝撃を吸収する緩衝装置の一部としての機能する左右一対の不図示のリヤサスペンションを備える。左右一対のリヤサスペンションは、それぞれ上端部が車体フレーム10に連結し、下端部が左右のスイングアーム11に連結する。左右一対のリヤサスペンションは、それぞれ、例えば、円筒形状を有するダンパーユニットと、当該ダンパーユニットを取り囲むように巻回されたコイルスプリングと、を備える。後輪RWに入力された衝撃は、スイングアーム11を介して、リヤサスペンションで減衰される。
【0021】
自動二輪車1は、前輪FWの左右両側に配置される左右一対のフロントフォーク13を備える。左右一対のフロントフォーク13は、下方に向かうにしたがって前方に傾斜して上下方向に延在する円筒形状を有し、下端部で前輪FWを支持している。左右一対のフロントフォーク13は、前輪FWを車体フレーム10に連結するための骨組みとしての機能を有すると同時に、前輪FWに入力された衝撃を吸収する緩衝装置としての機能も有する。前輪FWに入力された衝撃は、フロントフォーク13で減衰される。
【0022】
自動二輪車1は、燃料タンク32の前方で、車体フレーム10に対して回動自在に支持されて左右一対のフロントフォーク13を支持する転舵ユニット50を備える。
【0023】
より具体的に説明すると、転舵ユニット50は、左右方向に延在し前輪FWを転舵する回動自在なバー形状のハンドル51と、左右のフロントフォーク13の上端部同士を連結固定するトップブリッジ52と、トップブリッジ52よりも下方で左右のフロントフォーク13を連結固定するアンダーブラケット53と、を備える。したがって、左右のフロントフォーク13は、トップブリッジ52とアンダーブラケット53とに固定される。
【0024】
転舵ユニット50は、アンダーブラケット53と一体に形成された不図示のステムシャフトを備える。ステムシャフトは、左右のフロントフォーク13の左右方向中間点で、アンダーブラケット53の上面から上方に向かって後方に傾斜して上下方向に延在している。車体フレーム10の前端にはヘッドパイプ10aが設けられており、ステムシャフトは、車体フレーム10のヘッドパイプ10aを挿通して、トップブリッジ52の上面からボルト等の締結部材によって、上端部がトップブリッジ52に固定される。
【0025】
したがって、自動二輪車1の運転者RDがハンドル51を回動させると、転舵ユニット50は、ステムシャフト(車体フレーム10のヘッドパイプ10a)を軸に一体に回動する。このとき、転舵ユニット50のトップブリッジ52及びアンダーブラケット53に固定された左右のフロントフォーク13と、左右のフロントフォーク13の下端部に支持された前輪FWも、ステムシャフト(車体フレーム10のヘッドパイプ10a)を軸に転舵ユニット50と一体に回動する。このようにして、ハンドル51は、前輪FWを転舵する。これにより、自動二輪車1の運転者RDは、走行時にハンドル51を回動することによって前輪FWを転舵して、自動二輪車1を左右方向に旋回させることができる。
【0026】
すなわち、自動二輪車1において、転舵ユニット50は、車体フレーム10に操舵(換言すると転舵)自在に支持される操舵装置となっており、前輪FWは、この転舵ユニット50に回転自在に支持される操舵輪(換言すると転舵輪)となっている。
【0027】
図2も参照して、左右方向に延在するハンドル51の左端部には、左側ハンドルグリップ51aが設けられている。自動二輪車1の運転者RDは、走行時において、左手で左側ハンドルグリップ51aを握持する。左右方向に延在するハンドル51の右端部には、アクセルグリップ51bが設けられている。自動二輪車1の運転者RDは、走行時において、右手でアクセルグリップ51bを握持する。
【0028】
アクセルグリップ51bは、運転者RDからの駆動指示に相当する駆動操作を受け付ける駆動指示入力装置の一例である。アクセルグリップ51bは左右方向から見て、時計回り及び反時計回りに回動可能である。そして、運転者RDが、例えば、右手で握持したアクセルグリップ51bを、右側から見て反時計回りに回動させるほど、自動二輪車1における駆動力を大きくする旨の駆動操作(駆動指示)となり、これによってエンジン311に対する要求駆動力Freqは上昇する。一方、運転者RDが、例えば、右手で握持したアクセルグリップ51bを、右側から見て時計回りに回動させるほど、自動二輪車1における駆動力を小さくする旨の駆動操作となり、これによってエンジン311に対する要求駆動力Freqは低下する。
【0029】
ハンドル51の左側部分には、クラッチレバー54が設けられている。クラッチレバー54は、自動二輪車1の走行時において、運転者RDが左手を左側ハンドルグリップ51aから離すことなく操作可能なように、左側ハンドルグリップ51aの前方を左右方向に延在するように設けられている。運転者RDによってクラッチレバー54が操作されていない状態のとき、パワーユニット31のクラッチは接続状態に維持される。一方、運転者RDによってクラッチレバー54が操作されたとき、パワーユニット31のクラッチは解放状態となる。
【0030】
ハンドル51の右側部分には、運転者RDからの制動指示に相当する制動操作を受け付ける制動指示入力装置の一例としてのブレーキレバー55が設けられている。ブレーキレバー55は、自動二輪車1の走行時において、運転者RDが右手をアクセルグリップ51bから離すことなく操作可能なように、アクセルグリップ51bの前方を左右方向に延在するように設けられている。運転者RDによってブレーキレバー55が操作されたとき(すなわち制動操作が行われたとき)、前輪FW又は後輪RWに設けられたブレーキユニットが動作して、前輪FW及び後輪RWの少なくとも一方を制動する。
【0031】
本実施形態では、運転者RDによってブレーキレバー55が操作されたとき、すなわち制動操作が行われたとき、前輪FWに設けられたブレーキユニット61(図3を用いて後述)によって前輪FWが制動されるものとするが、これに限られない。例えば、制動操作が行われたとき、ブレーキユニット61によって前輪FWが制動されるとともに、後輪RWに設けられた他のブレーキユニットによって後輪RWも制動されるようにしてもよい。
【0032】
ハンドル51の右側部分には、アクセルグリップ51bの車幅方向中央側に隣接して、スタータスイッチ56が搭載されている。自動二輪車1の電源システムがオン状態のときに、運転者RDがスタータスイッチ56を操作すると、エンジン311が始動する。
【0033】
自動二輪車1は、運転者RDが着座可能な乗員シート21を備える。乗員シート21は、燃料タンク32の後部から後方に向かって前後方向に延在し、車体フレーム10の上部に配置されている。乗員シート21は、車体フレーム10に固定されている。なお、乗員シート21は、運転者RDに加えて、運転者RDの後方に同乗者が着座可能であってもよい。
【0034】
自動二輪車1は、自動二輪車1全体を統括制御するコンピュータとしての電子制御ユニットECUを備える。電子制御ユニットECUは、例えば、各種演算を行うプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit)、各種情報を記憶する記憶装置(例えばフラッシュメモリ)、電子制御ユニットECUの内部と外部とのデータの入出力を制御する入出力装置(インターフェース)等を含んで構成される。電子制御ユニットECUは、例えば、乗員シート21の下方、カウル部材20によって囲まれた空間に配置される。ただし、電子制御ユニットECUの配置位置は、これに限られず、自動二輪車1における任意の位置に配置されてよい。
【0035】
自動二輪車1には、イグニッションスイッチ(不図示)が搭載されており、自動二輪車1は、運転者RDによってイグニッションスイッチが操作されると、電子制御ユニットECUを含む自動二輪車1の電源システムがオン状態となり、電子制御ユニットECUによる各種制御対象の制御が開始される。
【0036】
一例として、電子制御ユニットECUは、運転者RDの駆動操作(換言すると駆動指示)に応じた要求駆動力Freqが出力されるように、エンジン311を制御する。エンジン311からの出力は、例えば、エンジン311に設けられた不図示のスロットルバルブの開度や、エンジン311に設けられた不図示の燃料噴射装置による燃料噴射を制御することで制御可能である。
【0037】
また、電子制御ユニットECUは、運転者RDの制動操作に応じて、前輪FWを制動可能な制動装置としてのブレーキユニット61も制御し得る。以下、図3を参照しながら、電子制御ユニットECUによるブレーキユニット61の制御に関する自動二輪車1の構成について詳細に説明する。
【0038】
<ブレーキユニットの制御に関する自動二輪車の構成>
図3に示すように、自動二輪車1は、ブレーキユニット61の制御に関する構成として、例えば、電子制御ユニットECUと、ブレーキユニット61と、加圧モジュレータ65と、慣性計測ユニットIMUと、操舵トルクセンサSe1と、ブレーキ液圧センサSe2と、車速センサSe3と、を含んで構成される。
【0039】
ブレーキユニット61は、例えば、「ブレーキフルード」と称される作動油による油圧(以下、「ブレーキ液圧」とも称する)を利用して前輪FWを制動可能に構成された液圧式の制動装置である。
【0040】
より具体的には、本実施形態では、ブレーキユニット61は、油圧ディスクブレーキとなっており、ブレーキレバー55に対する操作(すなわち制動操作)に応じたブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、前輪FWの側方に取り付けられて前輪FWと一体に回転するブレーキディスクと、このブレーキディスクを挟んで制動させるブレーキキャリパ等を含んで構成されている(いずれも不図示)。ブレーキユニット61のブレーキキャリパには、ブレーキディスクを挟むように配置されたブレーキパッドや、ブレーキ液圧が高まることによって押し出されてブレーキパッドをブレーキディスクに押し付けるピストン等が設けられている。
【0041】
このようなブレーキユニット61によれば、運転者RDのブレーキレバー55に対する操作(すなわち制動操作)に応じた制動力が発生するように前輪FWを制動することができる。すなわち、自動二輪車1において、ブレーキユニット61は、自動二輪車1の乗員である運転者RDの制動操作に応じて前輪FWを制動可能な制動装置となっている。なお、ここでは、ブレーキユニット61が油圧ディスクブレーキであるものとしたが、これに限られない。例えば、ブレーキユニット61は、油圧ドラムブレーキであってもよい。
【0042】
加圧モジュレータ65は、例えば、電動モータ、この電動モータによって駆動されるポンプ、及び電子制御ユニットECUからの指示にしたがって上記の電動モータを制御するMCU(Micro Controller Unit)等を含み、電子制御ユニットECUからの指示にしたがって、ブレーキユニット61のブレーキ液圧、すなわちブレーキユニット61による制動力を制御可能に構成される。加圧モジュレータ65のMCUは、後述するブレーキ液圧センサSe2、車速センサSe3等の検出値を電子制御ユニットECUに渡したりもする。
【0043】
なお、加圧モジュレータ65は、運転者RDの制動操作によって前輪FWがロックされたこと又はロックされそうなことを検知した場合に、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を自動的に調整することで前輪FWのロックを抑制するABS(Antilock Braking System)モジュレータであってもよい。
【0044】
本実施形態の自動二輪車1において、電子制御ユニットECUと、電子制御ユニットECUからの指示にしたがってブレーキユニット61を制御可能な加圧モジュレータ65とは、ブレーキユニット61を制御可能な制御システムCTRを構成する。この制御システムCTRは、本発明の車両制御システムの一例である。
【0045】
なお、本実施形態では、電子制御ユニットECUと、加圧モジュレータ65とのそれぞれを別体とした例を説明するが、これに限られない。例えば、加圧モジュレータ65の内部に電子制御ユニットECUが設けられていてもよく、具体的な一例としては、前述した加圧モジュレータ65のMCUが電子制御ユニットECUとして機能するようにしてもよい。
【0046】
慣性計測ユニットIMUは、車体フレーム10(すなわち自動二輪車1)のピッチ方向、ロール方向及びヨー方向の各角速度と、車体フレーム10の前後方向、左右方向及び上下方向の各加速度とを検出可能に構成されたセンサであり、本発明における第1センサの一例である。慣性計測ユニットIMUによる各角速度及び各加速度の検出値は、検出信号として電子制御ユニットECUへ送られる。
【0047】
操舵トルクセンサSe1は、自動二輪車1における操舵装置である転舵ユニット50の操舵トルク(以下、単に「操舵トルク」とも称する)を検出可能に構成されたトルクセンサである。ここで、操舵トルクは、例えば、転舵ユニット50のステムシャフト(車体フレーム10のヘッドパイプ10a)を軸とした回転力の強さである。操舵トルクセンサSe1による操舵トルクの検出値は、検出信号として電子制御ユニットECUへ送られる。
【0048】
ブレーキ液圧センサSe2は、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を検出可能に構成された圧力センサである。前述したように、ブレーキユニット61では、ブレーキレバー55に対する操作、すなわち制動操作に応じたブレーキ液圧が発生し、そのブレーキ液圧に応じた制動力が発生し得る。したがって、ブレーキ液圧は、ブレーキユニット61の制動力をあらわすパラメータと言える。ブレーキ液圧センサSe2によるブレーキ液圧の検出値は、検出信号として加圧モジュレータ65へ送られ、さらに加圧モジュレータ65を介して電子制御ユニットECUへ送られる。なお、ブレーキ液圧センサSe2の検出値は、電子制御ユニットECUへ直接送られるようにしてもよい。
【0049】
車速センサSe3は、例えば、前輪FWの回転数を検出することで、自動二輪車1の走行速度である車速を検出可能に構成されたセンサである。車速センサSe3による車速(又は前輪FWの回転数)の検出値は、検出信号として加圧モジュレータ65へ送られ、さらに加圧モジュレータ65を介して電子制御ユニットECUへ送られる。なお、車速センサSe3の検出値は、電子制御ユニットECUへ直接送られるようにしてもよい。
【0050】
<第1実施形態の電子制御ユニットが実行する処理の一例>
第1実施形態の電子制御ユニットECUは、例えば、イグニッションスイッチが操作されることにより自動二輪車1の電源システムがオン状態(いわゆるイグニッションオン)となると、図4に示す処理を実行する。
【0051】
図4に示す処理において、電子制御ユニットECUは、まず、車体フレーム10(すなわち自動二輪車1)のロール角及びロール角速度と、車速と、ブレーキ液圧とを取得する(ステップS1)。ステップS1の処理において、電子制御ユニットECUは、例えば、慣性計測ユニットIMUの検出値からロール角速度を取得するとともに、ロール角速度を時間積分することによりロール角を取得する。また、ステップS1の処理において、電子制御ユニットECUは、例えば、車速センサSe3の検出値から車速を取得し、ブレーキ液圧センサSe2の検出値からブレーキ液圧を取得する。
【0052】
次に、電子制御ユニットECUは、操舵トルクセンサSe1の検出値から操舵トルクを取得する(ステップS2)。
【0053】
次に、電子制御ユニットECUは、ステップS1の処理により取得したロール角速度が、あらかじめ設定された閾値(ここでは20[deg/s]とする)より大きいか否か判定する(ステップS3)。ロール角速度が20[deg/s]のような閾値より大きい場合、自動二輪車1の倒し込み(いわゆるバンク)が行われている可能性が高い。よって、ロール角速度が20[deg/s]のような閾値より大きい場合、車体フレーム10(すなわち自動二輪車1)が直立状態から傾斜状態に変化していると推定することができる。ここで、直立状態は、例えば、車体フレーム10のロール角が0[deg]の状態とすることができる。また、傾斜状態は、例えば、車体フレーム10のロール角の絶対値が0[deg]よりも大きい状態とすることができる。
【0054】
ロール角速度が20[deg/s]以下である場合(ステップS3;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS1の処理に復帰する。一方、ロール角速度が20[deg/s]より大きい場合(ステップS3;Yes)、電子制御ユニットECUは、ステップS1の処理により取得したロール角が、あらかじめ設定された閾値(ここでは10[deg]とする)より大きいか否か判定する(ステップS4)。ロール角が10[deg]のような閾値より大きい場合、自動二輪車1は、ふらつきによる僅かな傾斜状態ではなく、旋回に伴って十分に倒し込まれたことによる傾斜状態である可能性が高い。よって、ロール角が10[deg]のような閾値より大きい場合、車体フレーム10が、旋回時の倒し込みに伴う十分な傾斜状態に変化したと推定することができる。
【0055】
ロール角が10[deg]以下である場合(ステップS4;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS1の処理に復帰する。一方、ロール角が10[deg]より大きい場合(ステップS4;Yes)、電子制御ユニットECUは、ステップS1の処理より取得したブレーキ液圧に基づいて、ブレーキ液圧の変化率(以下、「液圧変化率」とも称する)が、あらかじめ設定された閾値(ここでは0.2[MPa/s]とする)より大きいか否か判定する(ステップS5)。
【0056】
ここで、液圧変化率は、単位時間当たりのブレーキ液圧の変化量をあらわし、本実施形態では、変化前のブレーキ液圧より変化後のブレーキ液圧の方が減圧される方向を正とする。すなわち、液圧変化率が0[MPa/s]より大きい場合には、運転者RDによる制動操作がブレーキユニット61による制動力を減少させるように変化した(換言すると、ブレーキリリースが行われた)と推定することができる。さらに、液圧変化率が0.2[MPa/s]のような閾値より大きい場合には、運転者RDによる制動操作がブレーキユニット61による制動力を急激に減少させるように変化した推定することができる。
【0057】
詳細は後述するが、自動二輪車1における操舵トルクは、前輪FWの接地点を動かそうとした際の左右方向の摩擦力の大きさに依存する。そして、この摩擦力は、ブレーキユニット61による制動力によって変化する前輪FWの垂直荷重に比例する。このため、液圧変化率が0.2[MPa/s]のような閾値より大きい状態を放置すると、ブレーキユニット61による制動力が急激に減少し、これに伴い、操舵トルクも急激に減少し得る。このように操舵トルクが急変してしまうのは、自動二輪車1の操舵の安定化を図る観点から好ましくない。
【0058】
そこで、液圧変化率が0.2[MPa/s]より大きい場合(ステップS5;Yes)、電子制御ユニットECUは、操舵トルクが所定の目標値となるようにブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する(ステップS6)。これにより、操舵トルクが急変してしまうのを抑制して、自動二輪車1の操舵の安定化を図ることが可能となる。一方、液圧変化率が0.2[MPa/s]以下である場合(ステップS5;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS1の処理に復帰する。
【0059】
ステップS6の処理において、電子制御ユニットECUは、例えば、操舵トルクセンサSe1によって検出される操舵トルクを参照しながら、操舵トルクが所定の目標値となるように、加圧モジュレータ65を介して、ブレーキ液圧をフィードバック制御する。このように、ブレーキ液圧、すなわちブレーキユニット61による制動力を介して、操舵トルクを間接的に制御するようにすることで、操舵トルクを直接制御するためのモータ等を自動二輪車1に設けずとも、操舵トルクを制御することが可能となる。なお、ステップS6の処理による操舵トルクの具体的な制御例については、図5を用いて後述する。
【0060】
次に、電子制御ユニットECUは、ブレーキ液圧が、あらかじめ設定された閾値(ここでは0.2[MPa]とする)より小さくなったか否か判定する(ステップS7)。ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなっていない場合(ステップS7;No)、電子制御ユニットECUは、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなるまでステップS6の処理を繰り返す。これにより、ブレーキ液圧、すなわちブレーキユニット61による制動力は漸減していく。すなわち、ブレーキリリースした運転者RDの意思にしたがって、ブレーキユニット61による制動力を弱めていくことができる。
【0061】
そして、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなった場合(ステップS7;Yes)、電子制御ユニットECUは、ステップS6の処理を終了して、自動二輪車1の電源システムがオフ状態(いわゆるイグニッションオフ)とされたか否かを判定する(ステップS8)。イグニッションオフとされていない場合(ステップS8;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS1の処理に復帰する。一方、イグニッションオフとされた場合(ステップS8;Yes)、電子制御ユニットECUは、図4に示す処理を終了する。
【0062】
なお、ここで説明した例では、車体フレーム10(すなわち自動二輪車1)が直立状態から傾斜状態に変化している、又は変化したことを、ロール角速度及びロール角の双方を用いて判定するようにしたが、これに限られない。例えば、車体フレーム10が直立状態から傾斜状態に変化している、又は変化したことを、ロール角とロール角速度とのうちの一方のみを用いて判定するようにしてもよい。換言すると、前述したステップS3の処理とステップS4の処理とのうちの一方を省略してもよい。
【0063】
<ステップS6の処理による操舵トルクの制御例>
図5に示す目標値TQtarは、ステップS6の処理に用いられる操舵トルクの目標値の一例である。目標値TQtarに示すように、本実施形態では、それぞれのロール角速度に対応する操舵トルクの目標値が自動二輪車1の製造者等によってあらかじめ定められている。そして、電子制御ユニットECUには、目標値TQtarを示す情報があらかじめ記憶されている。
【0064】
ステップS6の処理において、電子制御ユニットECUは、例えば、目標値TQtarを示す情報を参照して、ステップS1の処理により取得したロール角速度に対応する目標値を導出し、操舵トルクセンサSe1によって検出される操舵トルクが当該目標値となるように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。
【0065】
例えば、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を大きくすれば、ブレーキユニット61による制動力が増加するため、自動二輪車1の減速度が増加する。自動二輪車1の減速度が増加すると、自動二輪車1のピッチ方向のモーメントのつり合いから前輪FWの垂直荷重も増加する。そして、前輪FWの垂直荷重が増加すると、前輪FWの接地点を動かそうとした際の左右方向の摩擦力が大きくなるため、操舵トルクも大きくなる。したがって、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を大きくすることで、操舵トルクを大きくできる。
【0066】
反対に、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を小さくすれば、ブレーキユニット61による制動力が減少するため、自動二輪車1の減速度が減少する。自動二輪車1の減速度が減少すると、前輪FWの垂直荷重も減少する。そして、前輪FWの垂直荷重が減少すると、前輪FWの接地点を動かそうとした際の左右方向の摩擦力が小さくなるため、操舵トルクも小さくなる。したがって、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を小さくすることで、操舵トルクを小さくできる。
【0067】
このようなブレーキユニット61のブレーキ液圧と操舵トルクとの関係を利用して、電子制御ユニットECUは、操舵トルクセンサSe1によって検出される操舵トルクが所定の目標値となるように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。
【0068】
例えば、図5に示す曲線C1は、自動二輪車1における第1期間の操舵トルクとロール角速度との時系列的な推移をあらわしている。そして、曲線C1上の点P1は、第1期間に含まれる時期t1における操舵トルクとロール角速度とをあらわしており、より具体的には、時期t1における操舵トルクがTQ1であり、ロール角速度がω1であることをあらわしている。
【0069】
ここで、TQ1は、目標値TQtarにおいて、ω1のロール角速度に対応する目標値であるTQ11よりも小さい。このような場合、電子制御ユニットECUは、時期t1では、符号αを付した矢印で示すように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を大きくして前輪FWの垂直荷重を増加させることで、操舵トルクがTQ11となるようにする。これにより、ロール角速度(換言すると自動二輪車1における倒し込み速度)に対する操舵トルクの変化分を補償(補正)することが可能となる。
【0070】
このように、操舵トルクがそのときのロール角速度に応じた所定の目標値となるようにブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する制御は、ブレーキユニット61による制動力の減少を抑制する抑制制御の一例である。
【0071】
また、図5に示す曲線C2は、自動二輪車1における第2期間の操舵トルクとロール角速度との時系列的な推移をあらわしている。そして、曲線C2上の点P2は、第2期間に含まれる時期t2における操舵トルクとロール角速度とをあらわしており、より具体的には、時期t2における操舵トルクがTQ2であり、ロール角速度がω2であることをあらわしている。
【0072】
ここで、TQ2は、目標値TQtarにおいて、ω2のロール角速度に対応する目標値であるTQ12よりも大きい。このような場合、電子制御ユニットECUは、時期t2では、符号βを付した矢印で示すように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を小さくして前輪FWの垂直荷重を減少させることで、操舵トルクがTQ12となるようにする。これにより、この場合も、ロール角速度に対する操舵トルクの変化分を補償することが可能となる。
【0073】
なお、ここでは、操舵トルクがそのときのロール角速度に対応する目標値よりも大きい場合、操舵トルクが小さくなるようにブレーキ液圧を制御する例を説明したが、これに限られない。例えば、操舵トルクがそのときのロール角速度に対応する目標値に比べて、小さい場合には操舵トルクが目標値となるようにブレーキ液圧を大きくする一方、大きい場合には操舵トルクを変化させるためのブレーキ液圧の制御を行わないようにしてもよい。
【0074】
以上に説明したように、本発明の鞍乗型車両の一実施形態である自動二輪車1は、車体フレーム10と、車体フレーム10に操舵(換言すると転舵)自在に支持される操舵装置としての転舵ユニット50と、転舵ユニット50に回転自在に支持される操舵輪(換言すると転舵輪)としての前輪FWと、自動二輪車1の乗員である運転者RDの制動操作に応じて前輪FWを制動可能な制動装置としてのブレーキユニット61と、車体フレーム10のロール角速度を検出する慣性計測ユニットIMUと、ブレーキユニット61の制動力に関するパラメータであるブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサSe2と、を備える。
【0075】
また、上記自動二輪車1を制御する電子制御ユニットECUを含む制御システムCTRは、ブレーキユニット61の制動力を制御可能に構成される。そして、制御システムCTR(例えば電子制御ユニットECU)は、慣性計測ユニットIMUによって検出されたロール角速度又は当該ロール角速度に基づき得られた車体フレーム10のロール角に基づいて、車体フレーム10(すなわち自動二輪車1)が傾斜状態に変化する又は変化したと判定し(例えばステップS3及びステップS4を参照)、且つ、ブレーキ液圧センサSe2によって検出されたブレーキ液圧に基づいて、ブレーキユニット61の制動力が減少すると判定した場合に(例えばステップS5を参照)、ブレーキユニット61の制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する(例えばステップS6を参照)。
【0076】
したがって、上記自動二輪車1では、車体フレーム10が傾斜状態に変化する又は変化した際にブレーキユニット61の制動力を急激に減少させるような操作が行われたとしても、ブレーキユニット61の制動力の減少を抑制することができる。これにより、前輪FWの垂直荷重を確保できるため、自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制して、運転者RDの操舵の安定化を図れる。よって、自動二輪車1における操作性を向上させて、延いては交通の安全性を改善し、持続可能な輸送システムの発展に寄与できる。
【0077】
また、ブレーキユニット61は、ブレーキ液圧によって前輪FWを制動可能な液圧式の制動装置とされ、電子制御ユニットECUは、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御することによりブレーキユニット61の制動力を制御可能に構成される。そして、電子制御ユニットECUは、単位時間当たりのブレーキ液圧の変化量である液圧変化率が所定の閾値よりも大きい場合に、ブレーキユニット61の制動力が減少すると判定し(例えばステップS5を参照)、ブレーキユニット61の制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する(例えばステップS6を参照)。
【0078】
したがって、上記自動二輪車1では、抑制制御により、ブレーキユニット61による制動力の減少を抑制するようにブレーキ液圧を制御することで、前輪FWの垂直荷重を確保できるため、自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制して、運転者RDの操舵の安定化を図り、自動二輪車1における操作性を向上させることが可能となる。また、上記自動二輪車1では、一般的な鞍乗型車両が備え得る液圧式の制動装置と同様に構成されたブレーキユニット61を活用することによって、自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制して、運転者RDの操舵の安定化を図れる。すなわち、このようなブレーキユニット61による制動力を介して、操舵トルクを間接的に制御するようにすることで、操舵トルクを直接制御するためのモータ等を自動二輪車1に設けずとも操舵トルクを制御することが可能となる。これにより、自動二輪車1の構成が複雑化するのを抑制しながら、自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制して、運転者RDの操舵の安定化を図れる。
【0079】
また、電子制御ユニットECUは、上記抑制制御では、例えば、操舵トルクセンサSe1によって検出される操舵トルクがそのときのロール角速度に応じた所定の目標値となるようにブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。これにより、そのときのロール角速度に応じた適切な操舵トルクとすることができるため、運転者RDの操舵の安定化を図れる。例えば、操舵トルクがそのときのロール角速度に応じた目標値よりも小さい場合には、当該目標値となるように操舵トルクを増加させることが可能となる。これにより、自動二輪車1が軽い力で倒れ込んでしまうのを抑制し、運転者RDの操舵の安定化を図れる。
【0080】
なお、以上に説明した例では、電子制御ユニットECUが、液圧変化率が所定の閾値よりも大きい場合に、ブレーキユニット61の制動力が減少すると判定し、上記抑制制御を実行するようにしたが、これに限られない。例えば、電子制御ユニットECUが、ブレーキユニット61のブレーキ液圧が所定の閾値よりも小さくなった場合に、ブレーキユニット61の制動力が減少すると判定し、上記抑制制御を実行するようにしてもよい。
【0081】
また、以上に説明した例では、ロール角速度を検出可能な慣性計測ユニットIMUを自動二輪車1に設けたが、これに限られない。例えば、このような慣性計測ユニットIMUに代えて又は加えて、車体フレーム10のロール角を検出可能なセンサを自動二輪車1に設けるようにしてもよい。そして、電子制御ユニットECUは、慣性計測ユニットIMUによって検出されたロール角速度に代えて又は加えて、上記センサによって検出されたロール角及び/又は当該ロール角を時間微分することにより得られるロール角速度に基づいて、車体フレーム10(すなわち自動二輪車1)が直立状態から傾斜状態に変化する又は変化したかを判定するようにしてもよい。
【0082】
また、以上に説明した例では、ブレーキユニット61の制動力が減少するかを判定するためのパラメータに、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を用いるようにしたが、これに限られない。例えば、ブレーキレバー55に対する操作量を検出可能なセンサを自動二輪車1に設けて、電子制御ユニットECUが、当該センサによって検出された操作量に基づいて、ブレーキユニット61の制動力が減少するかを判定するようにしてもよい。
【0083】
また、以上に説明した例では、操舵トルクを制御する際の制御対象となる制動装置を、液圧式の制動装置であるブレーキユニット61としたが、これに限られない。例えば、操舵トルクを制御する際の制御対象となる制動装置は、前輪FWに対して駆動力又は回生制動力を出力可能なモータ(いわゆるトラクションモータ)であってもよい。この場合、電子制御ユニットECUは、例えば、アクセルグリップ51bに対する操作量をあらわすアクセル開度から、モータによる回生制動力が減少すると判定した場合に、モータの回生制動力の減少を抑制するような抑制制御を実行すればよい。
【0084】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以下では、前述した第1実施形態とは異なる部分を中心に説明し、第1実施形態と共通する部分の説明は適宜省略又は簡略化する。
【0085】
<第2実施形態の電子制御ユニットが実行する処理の一例>
第2実施形態の電子制御ユニットECUは、例えば、自動二輪車1がイグニッションオンとなると、図4に示した処理に代えて、図6に示す処理を実行する。
【0086】
図6に示す処理において、電子制御ユニットECUは、まず、車体フレーム10のロール角及びロール角速度と、車速と、ブレーキ液圧とを取得する(ステップS11)。ステップS11の処理において、電子制御ユニットECUは、例えば、前述したステップS1の処理と同様に、ロール角、ロール角速度、車速、及びブレーキ液圧を取得する。
【0087】
次に、電子制御ユニットECUは、前輪FWの垂直荷重を推定し、推定した前輪FWの垂直荷重に基づいて、前輪FWの垂直荷重の変化量である垂直荷重変化量を取得する(ステップS12)。ここで、垂直荷重変化量は、例えば、今回のステップS12の処理によって推定された前輪FWの垂直荷重と、前回のステップS12の処理によって推定された前輪FWの垂直荷重との差とすることができる。なお、前輪FWの垂直荷重の推定例については後述するため、ここでの説明を省略する。
【0088】
次に、電子制御ユニットECUは、前述したステップS3の処理と同様に、ステップS11の処理により取得したロール角速度が20[deg/s]より大きいか否か判定する(ステップS13)。
【0089】
ロール角速度が20[deg/s]以下である場合(ステップS13;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS11の処理に復帰する。一方、ロール角速度が20[deg/s]より大きい場合(ステップS13;Yes)、電子制御ユニットECUは、前述したステップS4の処理と同様に、ステップS1の処理により取得したロール角が10[deg]より大きいか否か判定する(ステップS14)。
【0090】
ロール角が10[deg]以下である場合(ステップS14;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS11の処理に復帰する。一方、ロール角が10[deg]より大きい場合(ステップS14;Yes)、電子制御ユニットECUは、前述したステップS5の処理と同様に、ステップS11の処理より取得したブレーキ液圧に基づいて、液圧変化率が0.2[MPa/s]より大きいか否か判定する(ステップS15)。
【0091】
液圧変化率が0.2[MPa/s]以下である場合(ステップS15;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS11の処理に復帰する。一方、液圧変化率が0.2[MPa/s]より大きい場合(ステップS15;Yes)、電子制御ユニットECUは、液圧変化率及び垂直荷重変化量に応じてブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する(ステップS16)。ステップS16の処理によるブレーキ液圧の具体的な制御例については、図7を用いて後述する。
【0092】
次に、電子制御ユニットECUは、前述したステップS7の処理と同様に、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなったか否か判定する(ステップS17)。ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなっていない場合(ステップS17;No)、電子制御ユニットECUは、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなるまでステップS16の処理を繰り返す。
【0093】
そして、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなった場合(ステップS17;Yes)、電子制御ユニットECUは、ステップS16の処理を終了して、自動二輪車1がイグニッションオフとされたか否かを判定する(ステップS18)。イグニッションオフとされていない場合(ステップS18;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS11の処理に復帰する。一方、イグニッションオフとされた場合(ステップS18;Yes)、電子制御ユニットECUは、図6に示す処理を終了する。
【0094】
<前輪FWの垂直荷重の推定例>
ここで、前述したステップS12の処理における前輪FWの垂直荷重の推定例について説明する。
【0095】
自動二輪車1の減速度(すなわち前後方向の加速度)をaとし、自動二輪車1の質量をMとし、前輪FWに対する制動力(すなわち前後方向にはたらく力)をFfとすると、これらの関係は、例えば下記(1)式によってあらわすことができる。
【0096】
a=M/Ff ・・・(1)
【0097】
また、前輪FWの垂直荷重をdFfとし、地面から自動二輪車1の重心までの鉛直方向の高さ(以下、「重心高」とも称する)をHとし、前輪FWと後輪RWとの間のホイールベースをLとすると、これらの関係は、自動二輪車1のピッチ方向のモーメントのつり合いから、上記のa及びMも用いて、例えば下記(2)式によってあらわすことができる。
【0098】
dFf×L=M×a×H ・・・(2)
【0099】
自動二輪車1の質量であるM、重心高であるH、及びホイールベースであるLは、それぞれ既知の値をとる。また、自動二輪車1の減速度であるaは、車速センサSe3によって検出される車速、又は慣性計測ユニットIMUによって検出される前後方向の加速度に基づいて取得可能である。したがって、電子制御ユニットECUは、例えば、あらかじめ設定された質量M、重心高H、及びホイールベースLと、車速センサSe3又は慣性計測ユニットIMUの検出値から取得した減速度aと、上記(2)式とに基づいて、前輪FWの垂直荷重を推定することができる。
【0100】
<ステップS16の処理によるブレーキ液圧の制御例>
図7に示す抑制率マップMp1は、前輪FWの垂直荷重の変化量である垂直荷重変化量と、単位時間当たりのブレーキ液圧の変化量である液圧変化率との組み合わせごとの抑制率を規定したマップ(情報)の一例である。本実施形態では、前述した目標値TQtarを示す情報に代えて、抑制率マップMp1が電子制御ユニットECUにあらかじめ記憶されている。
【0101】
抑制率マップMp1において、垂直荷重変化量としての「±20[N]」は、例えば、垂直荷重変化量の絶対値が20[N]以下であることを意味する。また、垂直荷重変化量としての「±30[N]」は、例えば、垂直荷重変化量の絶対値が20[N]より大きく且つ30[N]以下であることを意味する。
【0102】
以下同様に、垂直荷重変化量「±40[N]」は垂直荷重変化量の絶対値が30[N]より大きく且つ40[N]以下、「±60[N]」は垂直荷重変化量の絶対値が40[N]より大きく且つ60[N]以下、「±100[N]」は垂直荷重変化量の絶対値が60[N]より大きく且つ100[N]以下、であることをそれぞれ意味する。なお、自動二輪車1では、通常、垂直荷重変化量の絶対値が100[N]を超えることはない。
【0103】
また、抑制率マップMp1において、液圧変化率としての「0.2[MPa/s]」は、例えば、液圧変化率の絶対値が0.2[MPa/s]以上且つ0.3[MPa/s]未満であることを意味する。また、液圧変化率としての「0.3[MPa/s]」は、例えば、液圧変化率の絶対値が0.3[MPa/s]以上且つ0.4[MPa/s]未満であることを意味する。
【0104】
以下同様に、液圧変化率「0.4[MPa/s]」は液圧変化率の絶対値が0.4[MPa/s]以上且つ0.5[MPa/s]未満、「0.5[MPa/s]」は液圧変化率の絶対値が0.5[MPa/s]以上且つ0.6[MPa/s]未満、「0.6[MPa/s]」は液圧変化率の絶対値が0.6[MPa/s]以上且つ0.8[MPa/s]未満、「0.8[MPa/s]」は液圧変化率の絶対値が0.8[MPa/s]以上且つ1.0[MPa/s]未満、「1.0[MPa/s]」は液圧変化率の絶対値が1.0[MPa/s]以上、であることをそれぞれ意味する。
【0105】
図7に示すように、抑制率マップMp1では、垂直荷重変化量が大きくなるほど抑制率も大きくなるように、それぞれの垂直荷重変化量に対応する抑制率が規定されている。また、図7に示すように、抑制率マップMp1では、液圧変化率が大きくなるほど抑制率も大きくなるように、それぞれの液圧変化率に対応する抑制率が規定されている。なお、図7に示す垂直荷重変化量、液圧変化率、及び抑制率の各値はあくまで一例であって、これに限られるものではない。すなわち、抑制率マップMp1における垂直荷重変化量、液圧変化率、及び抑制率の各値は、自動二輪車1の製造者が適宜定めることができる。
【0106】
ステップS16の処理において、電子制御ユニットECUは、抑制率マップMp1を参照して、ステップS12の処理により取得した垂直荷重変化量と、ステップS11の処理より取得したブレーキ液圧に基づき得られた液圧変化率とに対応する抑制率を導出する。例えば、取得された垂直荷重変化量が100[N]であり、且つ取得された液圧変化率が1.0[MPa/s]であった場合、電子制御ユニットECUは、符号700を付した楕円で示すように、50[%]の抑制率を導出する。
【0107】
そして、電子制御ユニットECUは、導出した抑制率を用いて、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。より具体的には、このとき、電子制御ユニットECUは、ステップS16の処理を行わないようにした場合(換言すると抑制制御なしとした場合)の液圧変化率に、導出した抑制率をかけ合わせることにより、補正後の液圧変化率を導出する。
【0108】
例えば、50[%]の抑制率が導出された場合、電子制御ユニットECUは、符号710を付した矢印、抑制制御なしとした場合の液圧変化率711、及び補正後の液圧変化率712で示すように、液圧変化率711の傾き(変化率)を0.5倍したものを、補正後の液圧変化率712として導出する。そして、電子制御ユニットECUは、実際の液圧変化率が、補正後の液圧変化率712となるように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。これにより、抑制制御なしとした場合に比べて、液圧変化率を小さくすることができる。このように、液圧変化率が小さくなるようにブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する制御は、ブレーキユニット61による制動力の減少を抑制する抑制制御の他の一例である。
【0109】
以上に説明したように、本実施形態によれば、前述した第1実施形態と同様に、車体フレーム10が直立状態から傾斜状態に変化する又は変化した際にブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われたとしても、ブレーキユニット61の制動力の減少を抑制することができる。これにより、前輪FWの垂直荷重を確保できるため、自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制して、運転者RDの操舵の安定化を図れる。よって、自動二輪車1における操作性を向上させて、延いては交通の安全性を改善し、持続可能な輸送システムの発展に寄与できる。
【0110】
さらに、本実施形態によれば、操舵トルクセンサSe1の検出値を使わずに、ブレーキユニット61の制動力を適切に制御することが可能となる。よって、本実施形態の自動二輪車1では、図3に示した構成のうち操舵トルクセンサSe1を省略してもよく、自動二輪車1の構成の簡素化を図れる。
【0111】
また、本実施形態の電子制御ユニットECUは、例えば、抑制制御において、抑制率マップMp1を参照することで、液圧変化率が大きいほど当該液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御することができる。これにより、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われた際の液圧変化率に応じて、ブレーキ液圧を適切に制御することが可能となる。例えば、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われた際の液圧変化率が比較的大きい場合には、当該液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御して、ブレーキユニット61の制動力及び自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制し、運転者RDの操舵の安定化を図れる。一方、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われた際の液圧変化率が比較的小さい場合には、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により運転者RDに違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。
【0112】
さらに、本実施形態の電子制御ユニットECUは、前輪FWの垂直荷重を推定可能に構成される。そして、電子制御ユニットECUは、例えば、抑制制御において、抑制率マップMp1を参照することで、推定された前輪FWの垂直荷重の変化量(すなわち垂直荷重変化量)が大きいほど液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御することができる。これにより、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われたことによる前輪FWの垂直荷重の変化量に応じて、ブレーキ液圧を適切に制御することが可能となる。例えば、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われたことによる前輪FWの垂直荷重の変化量が比較的大きい場合には、液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御して、ブレーキユニット61の制動力及び自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制し、運転者RDの操舵の安定化を図れる。一方、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われたことによる前輪FWの垂直荷重の変化量が比較的小さい場合には、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により運転者RDに違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。
【0113】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、以下では、前述した第1実施形態又は第2実施形態とは異なる部分を中心に説明し、第1実施形態又は第2実施形態と共通する部分の説明は適宜省略又は簡略化する。
【0114】
<第3実施形態の電子制御ユニットが実行する処理の一例>
第3実施形態の電子制御ユニットECUは、例えば、自動二輪車1がイグニッションオンとなると、図4又は図6に示した処理に代えて、図8に示す処理を実行する。
【0115】
図8に示す処理において、電子制御ユニットECUは、まず、車体フレーム10のロール角及びロール角速度と、車速と、ブレーキ液圧とを取得する(ステップS21)。ステップS21の処理において、電子制御ユニットECUは、例えば、前述したステップS1の処理と同様に、ロール角、ロール角速度、車速、及びブレーキ液圧を取得する。
【0116】
次に、電子制御ユニットECUは、前述したステップS3の処理と同様に、ステップS11の処理により取得したロール角速度が20[deg/s]より大きいか否か判定する(ステップS23)。
【0117】
ロール角速度が20[deg/s]以下である場合(ステップS23;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS21の処理に復帰する。一方、ロール角速度が20[deg/s]より大きい場合(ステップS23;Yes)、電子制御ユニットECUは、前述したステップS4の処理と同様に、ステップS21の処理により取得したロール角が10[deg]より大きいか否か判定する(ステップS24)。
【0118】
ロール角が10[deg]以下である場合(ステップS24;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS21の処理に復帰する。一方、ロール角が10[deg]より大きい場合(ステップS24;Yes)、電子制御ユニットECUは、前述したステップS5の処理と同様に、ステップS21の処理より取得したブレーキ液圧に基づいて、液圧変化率が0.2[MPa/s]より大きいか否か判定する(ステップS25)。
【0119】
液圧変化率が0.2[MPa/s]以下である場合(ステップS25;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS21の処理に復帰する。一方、液圧変化率が0.2[MPa/s]より大きい場合(ステップS25;Yes)、電子制御ユニットECUは、液圧変化率及びロール角速度に応じてブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する(ステップS26)。ステップS26の処理によるブレーキ液圧の具体的な制御例については、図9を用いて後述する。
【0120】
次に、電子制御ユニットECUは、前述したステップS7の処理と同様に、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなったか否か判定する(ステップS27)。ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなっていない場合(ステップS27;No)、電子制御ユニットECUは、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなるまでステップS26の処理を繰り返す。
【0121】
そして、ブレーキ液圧が0.2[MPa]より小さくなった場合(ステップS27;Yes)、電子制御ユニットECUは、ステップS26の処理を終了して、自動二輪車1がイグニッションオフとされたか否かを判定する(ステップS28)。イグニッションオフとされていない場合(ステップS28;No)、電子制御ユニットECUは、ステップS21の処理に復帰する。一方、イグニッションオフとされた場合(ステップS28;Yes)、電子制御ユニットECUは、図8に示す処理を終了する。
【0122】
<ステップS26の処理によるブレーキ液圧の制御例>
図9に示す抑制率マップMp2は、ロール角速度と、単位時間当たりのブレーキ液圧の変化量である液圧変化率との組み合わせごとの抑制率を規定したマップの一例である。本実施形態では、前述した目標値TQtarを示す情報又は抑制率マップMp1に代えて、抑制率マップMp2が電子制御ユニットECUにあらかじめ記憶されている。
【0123】
抑制率マップMp2において、ロール角速度としての「±20[deg/s]」は、例えば、ロール角速度の絶対値が20[deg/s]以下であることを意味する。また、ロール角速度としての「±30[deg/s]」は、例えば、ロール角速度の絶対値が20[deg/s]より大きく且つ30[deg/s]以下であることを意味する。
【0124】
以下同様に、ロール角速度「±40[deg/s]」はロール角速度の絶対値が30[deg/s]より大きく且つ40[deg/s]以下、「±60[deg/s]」はロール角速度の絶対値が40[deg/s]より大きく且つ60[deg/s]以下、「±100[deg/s]」はロール角速度の絶対値が60[deg/s]より大きく且つ100[deg/s]以下、であることをそれぞれ意味する。なお、自動二輪車1では、通常、ロール角速度の絶対値が100[deg/s]を超えることはない。
【0125】
なお、抑制率マップMp2における各液圧変化率があらわす意味は、抑制率マップMp1における各液圧変化率と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0126】
図9に示すように、抑制率マップMp2では、ロール角速度が大きくなるほど抑制率も大きくなるように、それぞれのロール角速度に対応する抑制率が規定されている。また、図9に示すように、抑制率マップMp2では、液圧変化率が大きくなるほど抑制率も大きくなるように、それぞれの液圧変化率に対応する抑制率が規定されている。なお、図9に示すロール角速度、液圧変化率、及び抑制率の各値はあくまで一例であって、これに限られるものではない。すなわち、抑制率マップMp2におけるロール角速度、液圧変化率、及び抑制率の各値は、自動二輪車1の製造者が適宜定めることができる。
【0127】
ステップS26の処理において、電子制御ユニットECUは、抑制率マップMp2を参照して、ステップS21の処理により取得したロール角速度と、ステップS11の処理より取得したブレーキ液圧に基づき得られた液圧変化率とに対応する抑制率を導出する。例えば、取得されたロール角速度が100[deg/s]であり、且つ取得された液圧変化率が1.0[MPa/s]であった場合、電子制御ユニットECUは、符号900を付した楕円で示すように、50[%]の抑制率を導出する。
【0128】
そして、電子制御ユニットECUは、前述したステップS16の処理と同様に、導出した抑制率を用いて、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。これにより、例えば、50[%]の抑制率が導出された場合、電子制御ユニットECUは、符号910を付した矢印、抑制制御なしとした場合の液圧変化率911、及び補正後の液圧変化率912で示すように、液圧変化率911の傾き(変化率)を0.5倍したものを、補正後の液圧変化率912として導出する。そして、電子制御ユニットECUは、実際の液圧変化率が、補正後の液圧変化率912となるように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。これにより、前述したステップS16の処理と同様に、抑制制御なしとした場合に比べて、液圧変化率を小さくすることができる。
【0129】
以上に説明したように、本実施形態によれば、前述した第1実施形態及び第2実施形態と同様に、車体フレーム10が直立状態から傾斜状態に変化する又は変化した際にブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われたとしても、ブレーキユニット61の制動力の減少を抑制することができる。これにより、前輪FWの垂直荷重を確保できるため、自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制して、運転者RDの操舵の安定化を図れる。よって、自動二輪車1における操作性を向上させて、延いては交通の安全性を改善し、持続可能な輸送システムの発展に寄与できる。
【0130】
さらに、本実施形態によれば、操舵トルクセンサSe1の検出値を使わずに、ブレーキユニット61の制動力を適切に制御することが可能となる。よって、本実施形態の自動二輪車1では、図3に示した構成のうち操舵トルクセンサSe1を省略してもよく、自動二輪車1の構成の簡素化を図れる。また、本実施形態によれば、前輪FWの垂直荷重の推定を必要とせず、電子制御ユニットECUの処理負担の低減を図れる。
【0131】
また、本実施形態の電子制御ユニットECUは、例えば、抑制制御において、抑制率マップMp2を参照することで、第2実施形態の電子制御ユニットECUと同様に、液圧変化率が大きいほど当該液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御することができる。これにより、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われた際の液圧変化率に応じて、ブレーキ液圧を適切に制御することが可能となる。
【0132】
さらに、本実施形態の電子制御ユニットECUは、例えば、抑制制御において、抑制率マップMp2を参照することで、ロール角速度が大きいほど液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御することができる。これにより、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われた際のロール角速度に応じて、ブレーキ液圧を適切に制御することが可能となる。例えば、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われた際のロール角速度が比較的大きい場合には、液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御して、ブレーキユニット61の制動力及び自動二輪車1における操舵トルクが急変するのを抑制し、運転者RDの操舵の安定化を図れる。一方、ブレーキユニット61の制動力を減少させるような操作が行われた際のロール角速度が比較的小さい場合には、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により運転者RDに違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。
【0133】
<各実施形態の変形例>
次に、前述した各実施形態の変形例について説明する。なお、以下では、前述した各実施形態とは異なる部分を中心に説明し、各実施形態と共通する部分の説明は適宜省略又は簡略化する。
【0134】
図10に示す補正係数マップMp3は、ロール角と、車速との組み合わせごとの補正係数を規定したマップの一例である。本例では、補正係数マップMp3が電子制御ユニットECUにあらかじめ記憶されている。
【0135】
補正係数マップMp3において、ロール角としての「±10[deg]」は、例えば、ロール角の絶対値が10[deg]以下であることを意味する。また、ロール角としての「±20[deg]」は、例えば、ロール角の絶対値が10[deg]より大きく且つ20[deg]以下であることを意味する。
【0136】
以下同様に、ロール角「±30[deg]」はロール角の絶対値が20[deg]より大きく且つ30[deg]以下、「±40[deg/s]」はロール角の絶対値が30[deg]より大きく且つ40[deg]以下、「±50[deg]」はロール角の絶対値が40[deg]より大きい、ということをそれぞれ意味する。
【0137】
補正係数マップMp3において、車速としての「20[km/h]」は、例えば、車速が20[km/h]以下であることを意味する。また、車速としての「30[km/h]」は、例えば、車速が20[km/h]より大きく且つ30[km/h]以下であることを意味する。
【0138】
以下同様に、車速「40[km/h]」は車速が30[km/h]より大きく且つ40[km/h]以下、「50[km/h]」は車速が40[km/h]より大きく且つ50[km/h]以下、「60[km/h]」は車速が50[km/h]より大きく且つ60[km/h]以下、「80[km/h]」は車速が60[km/h]より大きく且つ80[km/h]以下、「100[km/h]」は車速が80[km/h]より大きい、ということをそれぞれ意味する。
【0139】
図10に示すように、補正係数マップMp3では、ロール角「±10[deg]」と車速「20[km/h]」、ロール角「±10[deg]」と車速「30[km/h]」、ロール角「±20[deg]」と車速「20[km/h]」、及びロール角「±20[deg]」と車速「30[km/h]」のそれぞれの組み合わせには、1よりも小さい0.1という補正係数が設定されている。同様に、補正係数マップMp3では、ロール角「±50[deg]」を含む組み合わせ、及び車速「100[km/h]」を含む組み合わせのそれぞれにも、1よりも小さい0.5という補正係数が設定されている。なお、図10に示すロール角、車速、及び補正係数の各値はあくまで一例であって、これに限られるものではない。すなわち、補正係数マップMp3におけるロール角、車速、及び補正係数の各値は、自動二輪車1の製造者が適宜定めることができる。
【0140】
本例において、電子制御ユニットECUは、抑制制御による抑制量を、ロール角及び車速に応じた補正係数で補正する。例えば、取得されたロール角が50[deg]であり、且つ取得された車速が100[km/h]であった場合、電子制御ユニットECUは、補正係数マップMp3を参照して、符号1001を付した楕円で示すように、0.5の補正係数を導出する。
【0141】
そして、電子制御ユニットECUは、導出した補正係数を用いて、抑制制御による抑制量、すなわちブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。より具体的には、図10において、液圧変化率1011は、抑制制御なしとした場合の液圧変化率をあらわす。また、液圧変化率1012は、抑制制御あり且つ補正なしとした場合の液圧変化率をあらわす。そして、液圧変化率1013は、抑制制御あり且つ補正ありとした場合の液圧変化率をあらわす。ここで、液圧変化率1013は、例えば、抑制制御あり且つ補正なしとした場合の液圧変化率1012の0.5倍の傾き(変化率)を有する。
【0142】
例えば、上記のように0.5の補正係数が導出された場合、電子制御ユニットECUは、符号1020を付した矢印で示すように、抑制制御あり且つ補正なしとした場合の液圧変化率1012の傾きを0.5倍した抑制制御あり且つ補正ありとした場合の液圧変化率1013となるように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。
【0143】
また、図示は省略するが、例えば、0.1の補正係数が導出された場合、電子制御ユニットECUは、抑制制御あり且つ補正なしとした場合の液圧変化率1012の傾きを0.1倍した液圧変化率となるように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。
【0144】
一方、1.0の補正係数が導出された場合、電子制御ユニットECUは、抑制制御あり且つ補正なしとした場合の液圧変化率1012となるように、ブレーキユニット61のブレーキ液圧を制御する。
【0145】
以上の内容をまとめると、本例の電子制御ユニットECUは、例えば、補正係数マップMp3にしたがって、ロール角の絶対値が第1所定値である20[deg]以下、且つ車速が第2所定値である30[km/h]以下の場合には、ロール角が20[deg](すなわち第1所定値)より大きい、又は車速が30[km/h](すなわち第2所定値)より大きい場合に比べて抑制制御による制動力の抑制を小さくしてもよい。
【0146】
すなわち、ロール角及び車速の双方がある程度小さい場合には、ほぼ直進と同等(例えば車線変更)とみなせるため、運転者RDが十分に余裕を持って自動二輪車1を操舵できると想定される。そこで、電子制御ユニットECUは、上記のように、このような場合には、抑制制御による制動力の抑制を小さくすることで、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により運転者RDに違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。また、電子制御ユニットECUは、このような場合には、抑制制御自体を実行しないようにしてもよい。
【0147】
また、本例の電子制御ユニットECUは、例えば、補正係数マップMp3にしたがって、ロール角の絶対値が第3所定値である40[deg]より大きく、且つ車速が第4所定値である100[km/h]よりも大きい場合には、ロール角が第3所定値以下若しくは車速が第4所定値以下の場合に比べて抑制制御による制動力の抑制を小さくしてもよい。
【0148】
すなわち、ロール角及び車速の双方がある程度大きい場合には、前輪FWの慣性力によって操舵トルクがある程度確保されると想定される。そこで、電子制御ユニットECUは、上記のように、このような場合には、抑制制御による制動力の抑制を小さくすることで、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により運転者RDに違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。また、ロール角及び車速の双方がある程度大きい場合には、運転者RDの技量が高かったり、自動二輪車1がサーキット等の走行中であったりする可能性もある。したがって、電子制御ユニットECUは、このような場合には、抑制制御による制動力の抑制を小さくすることで、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により運転者RDに違和感や不快感を与えてしまうのも回避できる。また、電子制御ユニットECUは、このような場合には、抑制制御自体を実行しないようにしてもよい。
【0149】
以上、本発明の各実施形態について、図面を参照しながら説明したが、本発明が前述した実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、前述した実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0150】
なお、前述した実施形態では、本発明の車両制御システムを、自動二輪車1に搭載された電子制御ユニットECUを含む制御システムCTRによって実現した例を説明したが、これに限られない。例えば、前述した電子制御ユニットECUの機能の一部又は全部は、電子制御ユニットECUと通信可能な他のコンピュータ(例えばサーバ)によって実現してもよい。また、前述した電子制御ユニットECUの機能の一部又は全部は、電子制御ユニットECUと、電子制御ユニットECUと通信可能な他のコンピュータとが協働することによって実現されてもよく、例えば、前述した電子制御ユニットECUが行う処理のうちの一部が他のコンピュータによって行われてもよい。
【0151】
また、前述した実施形態で説明した制御方法は、あらかじめ用意されたプログラムをコンピュータ(換言するとプロセッサ)で実行することによって実現できる。本プログラム(制御プログラム)は、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶され、記憶媒体から読み出されることによって実行される。また、本プログラムは、フラッシュメモリなどの不揮発性(非一過性)の記憶媒体に記憶された形で提供されてもよいし、インターネットなどのネットワークを介して提供されてもよい。本プログラムを実行するコンピュータは、自動二輪車1等の鞍乗型車両に含まれるものであってもよいし、鞍乗型車両と通信可能な外部装置(例えばサーバ)に含まれるものでもあってもよい。
【0152】
本明細書等には少なくとも以下の事項が記載されている。なお、括弧内には、前述した実施形態において対応する構成要素を示しているが、これに限定されるものではない。
【0153】
(1) 車体フレーム(車体フレーム10)と、前記車体フレームに操舵自在に支持される操舵装置(転舵ユニット50)と、前記操舵装置に回転自在に支持される操舵輪としての前輪(前輪FW)と、乗員の制動操作に応じて前記前輪を制動可能な制動装置(ブレーキユニット61)と、前記車体フレームのロール角又はロール角速度を検出する第1センサ(慣性計測ユニットIMU)と、前記制動装置の制動力に関する所定のパラメータを検出する第2センサ(ブレーキ液圧センサSe2)と、を備える鞍乗型車両(自動二輪車1)を制御する車両制御システム(電子制御ユニットECU、加圧モジュレータ65、制御システムCTR)であって、
前記車両制御システムは、
前記制動装置の制動力を制御可能に構成され、
前記第1センサによって検出された前記ロール角又は前記ロール角速度に基づいて、前記車体フレームが傾斜状態に変化する又は変化したと判定し、
且つ、前記第2センサによって検出された前記パラメータに基づいて、前記制動力が減少すると判定した場合に、前記制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する、
車両制御システム。
【0154】
(1)によれば、車体フレーム(すなわち鞍乗型車両)が傾斜状態に変化する又は変化した際に制動装置の制動力を急激に減少させるような操作が行われたとしても、制動力の減少を抑制することができる。これにより、操舵輪である前輪の垂直荷重を確保できるため、鞍乗型車両における操舵装置の操舵トルクが急変するのを抑制して、乗員の操舵の安定化を図れる。よって、鞍乗型車両における操作性を向上させて、延いては交通の安全性を改善し、持続可能な輸送システムの発展に寄与できる。
【0155】
(2) (1)に記載の車両制御システムであって、
前記制動装置は、ブレーキ液圧によって前記前輪を制動可能な液圧式の制動装置であり、
前記第2センサは、前記パラメータとして前記ブレーキ液圧を検出し、
前記車両制御システムは、
前記ブレーキ液圧を制御することにより前記制動力を制御可能に構成され、
単位時間当たりの前記ブレーキ液圧の変化量である液圧変化率が所定の閾値よりも大きい場合、又は前記ブレーキ液圧が所定の閾値よりも小さくなった場合に、前記制動力が減少すると判定して、前記抑制制御を実行し、
前記抑制制御において、前記制動力の減少を抑制するように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【0156】
制動装置による前輪の制動力が減少すると、前輪の垂直荷重が減少して、操舵トルクが小さくなる。(2)によれば、抑制制御により、制動装置による制動力の減少を抑制するようにブレーキ液圧を制御することで、前輪の垂直荷重を確保できるため、鞍乗型車両における操舵装置の操舵トルクが急変するのを抑制して、乗員の操舵の安定化を図り、鞍乗型車両における操作性を向上させることが可能となる。また、(2)によれば、前輪を制動可能な液圧式の制動装置を活用することによって、鞍乗型車両における操舵トルクが急変するのを抑制して、乗員の操舵の安定化を図れる。すなわち、このような制動装置による制動力を介して、操舵トルクを間接的に制御するようにすることで、操舵トルクを直接制御するためのモータ等を鞍乗型車両に設けずとも操舵トルクを制御することが可能となる。これにより、鞍乗型車両の構成が複雑化するのを抑制しながら、鞍乗型車両における操舵トルクが急変するのを抑制して、乗員の操舵の安定化を図れる。
【0157】
(3) (2)に記載の車両制御システムであって、
前記鞍乗型車両は、前記操舵装置に対する操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ(操舵トルクセンサSe1)をさらに備え、
前記車両制御システムは、前記抑制制御において、前記操舵トルクセンサによって検出される前記操舵トルクが前記ロール角速度に応じた所定の目標値となるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【0158】
(3)によれば、ロール角速度に応じた適切な操舵トルクとすることができるため、乗員の操舵の安定化を図れる。例えば、操舵トルクがそのときのロール角速度に応じた目標値よりも小さい場合には、当該目標値となるように操舵トルクを増加させることが可能となる。これにより、鞍乗型車両が軽い力で倒れ込んでしまうのを抑制し、乗員の操舵の安定化を図れる。
【0159】
(4) (2)に記載の車両制御システムであって、
前記車両制御システムは、前記抑制制御において、前記液圧変化率が大きいほど当該液圧変化率が小さくなるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【0160】
(4)によれば、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われた際の液圧変化率に応じて、ブレーキ液圧を適切に制御することが可能となる。これにより、例えば、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われた際の液圧変化率が比較的大きい場合には、当該液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御して、制動装置の制動力及び鞍乗型車両における操舵トルクが急変するのを抑制し、乗員の操舵の安定化を図れる。一方、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われた際の液圧変化率が比較的小さい場合には、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により乗員に違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。
【0161】
(5) (4)に記載の車両制御システムであって、
前記車両制御システムは、
前記前輪の垂直荷重を推定可能に構成され、
前記抑制制御において、さらに、推定された前記前輪の垂直荷重の変化量が大きいほど前記液圧変化率が小さくなるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【0162】
(5)によれば、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われたことによる前輪の垂直荷重の変化量に応じて、ブレーキ液圧を適切に制御することが可能となる。これにより、例えば、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われたことによる前輪の垂直荷重の変化量が比較的大きい場合には、液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御して、制動装置の制動力及び鞍乗型車両における操舵トルクが急変するのを抑制し、乗員の操舵の安定化を図れる。一方、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われたことによる前輪の垂直荷重の変化量が比較的小さい場合には、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により乗員に違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。
【0163】
(6) (4)に記載の車両制御システムであって、
前記車両制御システムは、
前記抑制制御において、さらに、前記ロール角速度が大きいほど前記液圧変化率が小さくなるように前記ブレーキ液圧を制御する、
車両制御システム。
【0164】
(6)によれば、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われた際のロール角速度に応じて、ブレーキ液圧を適切に制御することが可能となる。これにより、例えば、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われた際のロール角速度が比較的大きい場合には、液圧変化率が小さくなるようにブレーキ液圧を制御して、制動装置の制動力及び鞍乗型車両における操舵トルクが急変するのを抑制し、乗員の操舵の安定化を図れる。一方、制動装置の制動力を減少させるような操作が行われた際のロール角速度が比較的小さい場合には、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により乗員に違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。
【0165】
(7) (3)から(6)のいずれかに記載の車両制御システムであって、
前記鞍乗型車両は、当該鞍乗型車両の走行速度である車速を検出する車速センサ(車速センサSe3)をさらに備え、
前記車両制御システムは、
前記ロール角が第1所定値以下、且つ前記車速が第2所定値以下の場合には、前記抑制制御を実行しない、又は、前記ロール角が前記第1所定値より大きい若しくは前記車速が前記第2所定値より大きい場合に比べて前記抑制制御による前記制動力の抑制を小さくする、
車両制御システム。
【0166】
ロール角及び車速の双方がある程度小さい場合には、ほぼ直進と同等(例えば車線変更)とみなせるため、乗員が十分に余裕を持って鞍乗型車両を操舵できると想定される。(7)によれば、このような場合には、抑制制御を実行しない、又は、抑制制御による制動力の抑制を小さくすることで、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により乗員に違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。
【0167】
(8) (3)から(7)のいずれかに記載の車両制御システムであって、
前記鞍乗型車両は、当該鞍乗型車両の走行速度である車速を検出する車速センサ(車速センサSe3)をさらに備え、
前記車両制御システムは、
前記ロール角が第3所定値よりも大きく、且つ前記車速が第4所定値よりも大きい場合には、前記抑制制御を実行しない、又は、前記ロール角が前記第3所定値以下若しくは前記車速が前記第4所定値以下の場合に比べて前記抑制制御による前記制動力の抑制を小さくする、
車両制御システム。
【0168】
ロール角及び車速の双方がある程度大きい場合には、前輪の慣性力によって操舵トルクがある程度確保されると想定される。そこで、(8)によれば、このような場合には、抑制制御を実行しない、又は、抑制制御による制動力の抑制を小さくすることで、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により乗員に違和感や不快感を与えてしまうのを回避できる。また、ロール角及び車速の双方がある程度大きい場合には、乗員の技量が高かったり、鞍乗型車両がサーキットの走行中であったりする可能性もある。(8)によれば、このような場合には、抑制制御を実行しない、又は、抑制制御による制動力の抑制を小さくすることで、ブレーキ液圧を過剰に制御してしまうのを抑制し、過剰な制御介入により乗員に違和感や不快感を与えてしまうのも回避できる。
【0169】
(9) 車体フレーム(車体フレーム10)と、前記車体フレームに操舵自在に支持される操舵装置(転舵ユニット50)と、前記操舵装置に回転自在に支持される操舵輪としての前輪(前輪FW)と、乗員の制動操作に応じて前記前輪を制動可能な制動装置(ブレーキユニット61)と、前記車体フレームのロール角又はロール角速度を検出する第1センサ(慣性計測ユニットIMU)と、前記制動装置の制動力に関する所定のパラメータを検出する第2センサ(ブレーキ液圧センサSe2)と、車両制御システム(電子制御ユニットECU、加圧モジュレータ65、制御システムCTR)と、を備える鞍乗型車両(自動二輪車1)であって、
前記車両制御システムは、
前記制動装置の制動力を制御可能に構成され、
前記第1センサによって検出された前記ロール角又は前記ロール角速度に基づいて、前記車体フレームが傾斜状態に変化する又は変化したと判定し、
且つ、前記第2センサによって検出された前記パラメータに基づいて、前記制動力が減少すると判定した場合に、前記制動力の減少を抑制する抑制制御を実行する、
鞍乗型車両。
【0170】
(9)によれば、車体フレーム(すなわち鞍乗型車両)が傾斜状態に変化する又は変化した際に制動装置の制動力を急激に減少させるような操作が行われたとしても、制動力の減少を抑制することができる。これにより、操舵輪である前輪の垂直荷重を確保できるため、鞍乗型車両における操舵装置の操舵トルクが急変するのを抑制して、乗員の操舵の安定化を図れる。よって、鞍乗型車両における操作性を向上させて、延いては交通の安全性を改善し、持続可能な輸送システムの発展に寄与できる。
【符号の説明】
【0171】
1 自動二輪車(鞍乗型車両)
10 車体フレーム
50 転舵ユニット(操舵装置)
61 ブレーキユニット(制動装置)
CTR 制御システム(車両制御システム)
ECU 電子制御ユニット(車両制御システム)
65 加圧モジュレータ(車両制御システム)
FW 前輪
IMU 慣性計測ユニット(第1センサ)
RD 運転者(乗員)
Se1 操舵トルクセンサ
Se2 ブレーキ液圧センサ(第2センサ)
Se3 車速センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10