(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145031
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】液相吸込式空気潤滑システム
(51)【国際特許分類】
B63B 1/38 20060101AFI20241004BHJP
【FI】
B63B1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057254
(22)【出願日】2023-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2~4年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度(委託研究)、「マルチスケールバブルによる摩擦抵抗低減効果の向上」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】拾井 隆道
(72)【発明者】
【氏名】久米 健一
(72)【発明者】
【氏名】川島 英幹
(72)【発明者】
【氏名】川北 千春
(57)【要約】
【課題】船底への気泡吹き出しによる船体の摩擦抵抗低減効果を従来よりも高めることのできる空気潤滑システムを提供する。
【解決手段】液相吸込式空気潤滑システムは、船体1の船底2の前方に設けた空気吹出口10と、空気吹出口10よりも後方の船底2に設けた液相吸込口20と、液相吸込口20から船底表面近傍の気泡の介在しない液相の水を吸込む吸込手段30と、吸込手段30を制御する制御手段40とを備え、制御手段40が液相吸込口20からの水の吸込み流量と液相吸込口20の幅と船速により決まる液相吸い込み厚さを所定の範囲になるように吸込手段30を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶の船底に気泡を吹き出して船体の摩擦抵抗を低減する空気潤滑システムであって、前記船体の前記船底の前方に設けた空気吹出口と、前記空気吹出口よりも後方の前記船底に設けた液相吸込口と、前記液相吸込口から船底表面近傍の前記気泡の介在しない液相の水を吸込む吸込手段と、前記吸込手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段が前記液相吸込口からの前記水の吸込み流量と前記液相吸込口の幅と船速により決まる液相吸い込み厚さを所定の範囲になるように前記吸込手段を制御することを特徴とする液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項2】
式(1)に基づいて求まる前記液相吸い込み厚さの前記所定の範囲を、0.12[mm]以上0.38[mm]以下にしたことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【数1】
ここで、t
Suction:液相吸い込み厚さ、Q
Suction:水の吸込み流量、B:液相吸込口の幅、V:船速。
【請求項3】
前記液相吸込口を前記船底における前記気泡の流れに沿って所定の間隔を開けて複数段設けたことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項4】
前記空気吹出口を前記船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の前記空気吹出口のうちの前記船底の中央部に位置するものを前方に、両側部に位置するものを後方に逆V字状に配置するとともに、前記液相吸込口を前記船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の前記液相吸込口を逆V字状に配置したことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項5】
前記空気吹出口を前記船底の船幅方向に複数設け、前記液相吸込口を前記船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の前記液相吸込口のうちの前記船底の中央部に位置するものを後方に両側部に位置するものを前方にV字状に配置したことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項6】
前記液相吸込口を前記船底に設けるとともに、さらに前記液相吸込口を前記船体の船側又は船尾の少なくとも一方の前記船体が3次元形状を成す部分に設けたことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項7】
前記液相吸込口を多孔板を用いて形成し、前記多孔板の全面から前記水を吸い込むことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項8】
前記液相吸込口の内部経路を側面視した状態で前記液相吸込口の開口部から前方に向かって斜め方向に形成したことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項9】
前記制御手段が、前記吸込み流量を前記船速及び船体姿勢の少なくとも一方に基づいて制御することを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項10】
前記制御手段が、前記吸込手段で吸い込んだ前記水の中の計測された前記気泡の混入量に基づいて、前記吸込み流量を制御することを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項11】
前記制御手段が、前記空気吹出口からの前記気泡の吹き出しを周期的に行うように制御するとともに、前記吸込手段による前記水の吸込みを同調させて周期的に行うことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項12】
前記制御手段が、計測された前記船舶の船体運動に基づいて、前記空気吹出口から吹き出した前記気泡の前記液相吸込口に至る位相差を考慮して前記吸込み流量を制御することを特徴とする請求項11に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項13】
前記液相吸込口を前記船舶の取水口であるシーチェストと兼ねたことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項14】
前記吸込手段を、前記船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口と前記液相吸込口とを調節弁を介して配管で接続することにより構成したことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項15】
前記吸込手段を、前記船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口と前記液相吸込口とをポンプを介して配管で接続することにより構成したことを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【請求項16】
前記液相吸込口から前記吸込手段で吸い込んだ前記水を、前記船体の船尾のプロペラの前方及び前記船底の両側部の少なくとも一方から吐出することを特徴とする請求項1に記載の液相吸込式空気潤滑システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶の船底に気泡を吹き出して船体の摩擦抵抗を低減する空気潤滑システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶においては、航行時に船底に気泡を流すことによって摩擦抵抗の低減を図る技術が知られている。
例えば、特許文献1には、船長方向中央部に平底を有する船体と、平底の両側部に配設されたキール板と、船首部船底に形成された気泡吐出口と、平底の船尾側端部に形成された気泡回収口と、気泡回収口と気泡吐出口との間で延在する空気通路と、空気通路に加圧空気を供給する空気圧縮機とを備え、気泡回収口上方の空気通路内に自由水面が形成され、気泡吐出口から吐出した気泡が気泡回収口上方の自由水面から空気通路に戻る気泡潤滑船が開示されている。
また、特許文献2には、船体の船底に設けられた空気吹き出し口から空気を水中に吹き出す空気吹き出し装置と、船底に設けられた空気回収口から空気を船体内に回収する空気回収装置とを具備し、空気回収口は、空気吹き出し口より船尾側且つ船体に設けられたプロペラより船首側に配置され、プロペラは船体のセンターライン上に配置され、空気回収口は、センターラインをまたぐように設けられた中央空気回収口と、中央空気回収口よりも左舷側に張り出すようにセンターラインよりも左舷側に設けられた左舷側空気回収口と、中央空気回収口よりも右舷側に張り出すようにセンターラインよりも右舷側に設けられた右舷側空気回収口とを備え、左舷側空気回収口及び右舷側空気回収口は中央空気回収口よりも船首側に配置され、中央空気回収口、左舷側空気回収口、及び右舷側空気回収口の各々は複数空気回収孔によって形成された摩擦抵抗低減型船舶が開示されている。
また、特許文献3には、船体の船底に設けられた空気吹き出し口から空気を水中に吹き出す空気吹き出し装置と、船底に設けられた空気回収口から空気を船体内に回収する空気回収装置とを具備し、空気回収口は、空気吹き出し口より船尾側且つ船体に設けられたプロペラより船首側に配置され、空気回収装置は、空気を船底に設けられた空気再吹き出し口から水中に吹き出し、空気再吹き出し口は、空気吹き出し口より船尾側且つ空気回収口より船首側に配置される摩擦抵抗低減型船舶が開示されている。
また、特許文献4には、船舶の船底に設けた船底に沿って気泡を噴出する気体噴出口と、気体噴出口に気体を送気するブロワーと、ブロワーを駆動する電動機と、船底の少なくとも気体噴出口の後方に噴出した気泡を水とともに吸引する気液分離器とを具備する船舶の気泡保持装置が開示されている。
【0003】
非特許文献1には、抵抗低減量はボイド率のピーク値と正の相関が見られることが記載されている。
また、非特許文献2には、吹出位置から下流に行くに従って、乱流による下向きの揚力及び拡散力の影響により壁面近傍のボイド率ピーク位置は壁面から離れる方向に移動し、抵抗低減効果も小さくなることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-274713号公報
【特許文献2】特開2011-213303号公報
【特許文献3】特開2011-213306号公報
【特許文献4】特開2013-216325号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Madan Mohan Guin,外4名,“Reduction of skin friction by microbubbles and its relation with near-wall bubble concentration in a channel”,Journal of Marine Science and Technology,1996,Volume 1,Issue 5, p.241-254
【非特許文献2】川島久宜,外1名,“マイクロバブルによる摩擦抵抗低減に関する実験的研究”,日本流体力学会誌「ながれ」,一般社団法人日本流体力学会,2006年6月,第25巻,第3号,p.209-217
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2に記載されているような吹出位置から下流に行くに従って抵抗低減効果が小さくなる現象は、流下距離の長い実船においてはより顕著に発生していると考えられる。
ここで、特許文献1には、吹出位置から下流に行くに従って抵抗低減効果が小さくなる現象への対策については何ら開示されていない。
また、特許文献2の第5の実施形態、及び特許文献3には、空気回収口から回収した空気を船底の中間部分に設けられた空気再吹き出し口から水中に吹き出すことが記載されている。しかし、気泡が船底の船首側部分に設けられた空気吹き出し口から船尾部分に設けられた空気回収口に至るまでに船底から離脱してしまうことへの対策については何ら開示されていない。
また、特許文献4には、気体噴出口の後方に噴出した気泡を気泡吸引手段により水分吸込口から気液分離器内に吸引することにより気泡を船底近傍に再び引き付けることが記載されている。しかし気泡吸引手段が液相から吸い込む水の流量を制御するものではない
そこで本発明は、船底への気泡吹き出しによる船体の摩擦抵抗低減効果を液相の水を吸い込むことにより、従来よりも高めることのできる空気潤滑システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載に対応した液相吸込式空気潤滑システムにおいては、船舶の船底に気泡を吹き出して船体の摩擦抵抗を低減する空気潤滑システムであって、船体の船底の前方に設けた空気吹出口と、空気吹出口よりも後方の船底に設けた液相吸込口と、液相吸込口から船底表面近傍の気泡の介在しない液相の水を吸込む吸込手段と、吸込手段を制御する制御手段とを備え、制御手段が液相吸込口からの水の吸込み流量と液相吸込口の幅と船速により決まる液相吸い込み厚さを所定の範囲になるように吸込手段を制御することを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、液相吸い込み厚さを所定の範囲になるように制御することにより、気泡による摩擦抵抗低減効果を従来よりも向上させることができる。また、液相の水を吸込むことにより、気液分離器を無くすことができる。
【0008】
請求項2記載の本発明は、式(1)に基づいて求まる液相吸い込み厚さの所定の範囲を、0.12[mm]以上0.38[mm]以下にしたことを特徴とする。
【数1】
ここで、t
Suction:液相吸い込み厚さ、Q
Suction:水の吸込み流量、B:液相吸込口の幅、V:船速。
請求項2に記載の本発明によれば、気泡による摩擦抵抗低減効果を従来よりも確実に大きくすることができる。
【0009】
請求項3記載の本発明は、液相吸込口を船底における気泡の流れに沿って所定の間隔を開けて複数段設けたことを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、前段の液相吸込口の下流側において船底から離れ出した気泡を後段の液相吸込口近辺で再び船底へ引き寄せることができる。
【0010】
請求項4記載の本発明は、空気吹出口を船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の空気吹出口のうちの船底の中央部に位置するものを前方に、両側部に位置するものを後方に逆V字状に配置するとともに、液相吸込口を船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の液相吸込口を逆V字状に配置したことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、空気吹出口を逆V字状に配置することでなるべく空気吹出口を船首側に設置でき、また、液相吸込口も空気吹出口に合わせて逆V字状に配置することで、各空気吹出口から吹き出された気泡が船底から離脱するのを効果的に防止できる。
【0011】
請求項5記載の本発明は、空気吹出口を船底の船幅方向に複数設け、液相吸込口を船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の液相吸込口のうちの船底の中央部に位置するものを後方に両側部に位置するものを前方にV字状に配置したことを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、船側への気泡の回り込みが大きい場合、両側部からの気泡の離脱を効果的に防止することができる。
【0012】
請求項6記載の本発明は、液相吸込口を船底に設けるとともに、さらに液相吸込口を船体の船側又は船尾の少なくとも一方の船体が3次元形状を成す部分に設けたことを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、船底から離脱した気泡を船側又は船尾に引き寄せて、船側又は船尾での抵抗低減を可能とすることができる。
【0013】
請求項7記載の本発明は、液相吸込口を多孔板を用いて形成し、多孔板の全面から水を吸い込むことを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、液相吸込口の吸込速度を均一化させ、流場への影響を小さくして液相の水を確実に吸い込むことができる。
【0014】
請求項8記載の本発明は、液相吸込口の内部経路を側面視した状態で液相吸込口の開口部から前方に向かって斜め方向に形成したことを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、液相吸込口から水を吸い込む際に、船体の後方へ向かう気泡の流れに対し前方に向かって吸い込むため、気泡の混入を少なくすることができる。
【0015】
請求項9記載の本発明は、制御手段が、吸込み流量を船速及び船体姿勢の少なくとも一方に基づいて制御することを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、吸込み流量を適切に制御し、液相吸い込み厚さを船速や船体姿勢に応じた所定の範囲に制御することができる。
【0016】
請求項10記載の本発明は、制御手段が、吸込手段で吸い込んだ水の中の計測された気泡の混入量に基づいて、吸込み流量を制御することを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、液相吸込口から吸い込む水に混入する気泡の量を少なくし、液相の水を主体に吸い込むことができる。
【0017】
請求項11記載の本発明は、制御手段が、空気吹出口からの気泡の吹き出しを周期的に行うように制御するとともに、吸込手段による水の吸込みを同調させて周期的に行うことを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、気泡の吹き出しを周期的に行う場合に、気泡が存在する位相のみ吸い込みを行い、摩擦抵抗低減効果を維持しつつ、空気の吹き出しや水の吸込みに必要なエネルギーの低減を図ることが可能となる。
【0018】
請求項12記載の本発明は、制御手段が、計測された船舶の船体運動に基づいて、空気吹出口から吹き出した気泡の液相吸込口に至る位相差を考慮して吸込み流量を制御することを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、船体運動があっても気泡を効率よく船底へ引き寄せることができる。
【0019】
請求項13記載の本発明は、液相吸込口を船舶の取水口であるシーチェストと兼ねたことを特徴とする。
請求項13に記載の本発明によれば、液相吸込口とシーチェストを別々に設ける場合と比べて船底やシステムの構成を簡素化することができ、また吸い込んだ水を主機関の冷却等に活用することができる。
【0020】
請求項14記載の本発明は、吸込手段を、船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口と液相吸込口とを調節弁を介して配管で接続することにより構成したことを特徴とする。
請求項14に記載の本発明によれば、動力を用いずに液相吸込口から水を吸い込むことができる。
【0021】
請求項15記載の本発明は、吸込手段を、船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口と液相吸込口とをポンプを介して配管で接続することにより構成したことを特徴とする。
請求項15に記載の本発明によれば、船体表面の負圧を利用して、水の吸込みに使用するポンプの吸込動力を削減することができる。
【0022】
請求項16記載の本発明は、液相吸込口から吸込手段で吸い込んだ水を、船体の船尾のプロペラの前方及び船底の両側部の少なくとも一方から吐出することを特徴とする。
請求項16に記載の本発明によれば、吸い込んだ水を船体の船尾のプロペラの前方に吐出することで、プロペラへの気泡の流入を防ぎ、気泡混入による伴流係数及びプロペラ効率の悪化を防ぐことができ、それにより推進効率の低下を防げるため、空気潤滑による馬力低減効果を向上させることができる。また、吸い込んだ水を船底の両側部から吐出することで、船底の両側部からの気泡の離脱を防ぎ、気泡による摩擦抵抗低減効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の液相吸込式空気潤滑システムによれば、液相吸い込み厚さを所定の範囲になるように制御することにより、気泡による摩擦抵抗低減効果を従来よりも向上させることができる。また、液相の水を吸込むことにより、気液分離器を無くすことができる。
【0024】
また、式(1)に基づいて求まる液相吸い込み厚さの所定の範囲を、0.12[mm]以上0.38[mm]以下にした場合には、気泡による摩擦抵抗低減効果を従来よりも確実に大きくすることができる。
【0025】
また、液相吸込口を船底における気泡の流れに沿って所定の間隔を開けて複数段設けた場合には、前段の液相吸込口の下流側において船底から離れ出した気泡を後段の液相吸込口近辺で再び船底へ引き寄せることができる。
【0026】
また、空気吹出口を船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の空気吹出口のうちの船底の中央部に位置するものを前方に、両側部に位置するものを後方に逆V字状に配置するとともに、液相吸込口を船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の液相吸込口を逆V字状に配置した場合には、空気吹出口を逆V字状に配置することでなるべく空気吹出口を船首側に設置でき、また、液相吸込口も空気吹出口に合わせて逆V字状に配置することで、各空気吹出口から吹き出された気泡が船底から離脱するのを効果的に防止できる。
【0027】
また、空気吹出口を船底の船幅方向に複数設け、液相吸込口を船底の船幅方向に複数設け、かつ複数の液相吸込口のうちの船底の中央部に位置するものを後方に両側部に位置するものを前方にV字状に配置した場合には、船側への気泡の回り込みが大きい場合、両側部からの気泡の離脱を効果的に防止することができる。
【0028】
また、液相吸込口を船底に設けるとともに、さらに液相吸込口を船体の船側又は船尾の少なくとも一方の船体が3次元形状を成す部分に設けた場合には、船底から離脱した気泡を船側又は船尾に引き寄せて、船側又は船尾での抵抗低減を可能とすることができる。
【0029】
また、液相吸込口を多孔板を用いて形成し、多孔板の全面から水を吸い込む場合には、液相吸込口の吸込速度を均一化させ、流場への影響を小さくして液相の水を確実に吸い込むことができる。
【0030】
また、液相吸込口の内部経路を側面視した状態で液相吸込口の開口部から前方に向かって斜め方向に形成した場合には、液相吸込口から水を吸い込む際に、船体の後方へ向かう気泡の流れに対し前方に向かって吸い込むため、気泡の混入を少なくすることができる。
【0031】
また、制御手段が、吸込み流量を船速及び船体姿勢の少なくとも一方に基づいて制御する場合には、吸込み流量を適切に制御し、液相吸い込み厚さを船速や船体姿勢に応じた所定の範囲に制御することができる。
【0032】
また、制御手段が、吸込手段で吸い込んだ水の中の計測された気泡の混入量に基づいて、吸込み流量を制御する場合には、液相吸込口から吸い込む水に混入する気泡の量を少なくし、液相の水を主体に吸い込むことができる。
【0033】
また、制御手段が、空気吹出口からの気泡の吹き出しを周期的に行うように制御するとともに、吸込手段による水の吸込みを同調させて周期的に行う場合には、気泡の吹き出しを周期的に行う場合に、気泡が存在する位相のみ吸い込みを行い、摩擦抵抗低減効果を維持しつつ、空気の吹き出しや水の吸込みに必要なエネルギーの低減を図ることが可能となる。
【0034】
また、制御手段が、計測された船舶の船体運動に基づいて、空気吹出口から吹き出した気泡の液相吸込口に至る位相差を考慮して吸込み流量を制御する場合には、船体運動があっても気泡を効率よく船底へ引き寄せることができる。
【0035】
また、液相吸込口を船舶の取水口であるシーチェストと兼ねた場合には、液相吸込口とシーチェストを別々に設ける場合と比べて船底やシステムの構成を簡素化することができ、また吸い込んだ水を主機関の冷却等に活用することができる。
【0036】
また、吸込手段を、船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口と液相吸込口とを調節弁を介して配管で接続することにより構成した場合には、動力を用いずに液相吸込口から水を吸い込むことができる。
【0037】
また、吸込手段を、船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口と液相吸込口とをポンプを介して配管で接続することにより構成した場合には、船体表面の負圧を利用して、水の吸込みに使用するポンプの吸込動力を削減することができる。
【0038】
また、液相吸込口から吸込手段で吸い込んだ水を、船体の船尾のプロペラの前方及び船底の両側部の少なくとも一方から吐出する場合には、吸い込んだ水を船体の船尾のプロペラの前方に吐出することで、プロペラへの気泡の流入を防ぎ、気泡混入による伴流係数及びプロペラ効率の悪化を防ぐことができ、それにより推進効率の低下を防げるため、空気潤滑による馬力低減効果を向上させることができる。また、吸い込んだ水を船底の両側部から吐出することで、船底の両側部からの気泡の離脱を防ぎ、気泡による摩擦抵抗低減効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第一の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図
【
図5】同液相吸込口と船体負圧部との接続の例を示す図
【
図6】同液相吸込口から吸い込んだ水を船尾からの吹き出しに用いる例を示す図
【
図7】同液相吸込口から吸い込んだ水を船側からの吹き出しに用いる例を示す図
【
図8】本発明の第二の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図
【
図9】本発明の第三の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図
【
図10】本発明の第四の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図
【
図11】本発明の第五の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図
【
図12】本発明の第六の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図
【
図13】本発明の第七の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図
【
図16】検証試験において空気の吹き出しは行わず流体だけの吸い込みを実施したときの抵抗低減率の変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムについて説明する。
図1は船舶に設けた第一の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図であり、
図1(a)は側面図、
図1(b)は下面図である。
図2は液相吸込式空気潤滑システムの概念図である。
図1及び
図2には、船体1にプロペラ3と舵4を備えた船舶を示している。液相吸込式空気潤滑システムは、船舶の船底2に気泡を吹き出して船体1の摩擦抵抗を低減する空気潤滑システムであって、船体1の船底2の前方に設けた空気吹出口10と、空気吹出口10よりも後方の船底2に設けた液相吸込口20と、液相吸込口20から船底表面近傍の気泡の介在しない液相の水を吸込む吸込手段30と、吸込手段30を制御する制御手段40を備える。
船底2の船首側部分に配置した空気吹出口10から吹き出された空気が気泡となって船底2を覆うことにより航行中の船体1の摩擦抵抗を低減できる。しかし、上述のように、空気吹出口10から下流側へ遠くなるにつれて気泡が船底2から離れ摩擦抵抗低減効果が薄れてしまう。そこで、本実施形態の液相吸込式空気潤滑システムは、船底2のうち船長方向の略中間部分に設けた吸込手段30を利用して水(船舶が海洋を航海している場合は海水)を液相吸込口20から吸い込むことにより、気泡(ボイド率のピーク位置)を船底2の壁面(船底表面)に再び近づける。これにより空気吹出口10から離れた場所において摩擦抵抗低減効果が薄れるのを防止することができる。
【0041】
但し、液相の吸込み流量が大きすぎると、気泡が混入してボイド率が下がり摩擦抵抗低減効果が薄れてしまう。そこで、制御手段40は、液相吸い込み厚さが所定の範囲となるように吸込手段30を制御する。液相吸い込み厚さを所定の範囲になるように制御することにより、気泡による摩擦抵抗低減効果を従来よりも向上させることができる。また、液相の水を吸込むことにより、気液分離器を無くすことができる。
図2には、液相吸い込み厚さが所定の範囲となるように制御した場合(図中「吸込時」)と、液相吸い込み厚さを制御しない場合(図中「無制御時」)との差のイメージを示している。なお、液相とは、
図2の拡大図に示すように流体(気液二相流体)のボイド率が19%以下となる領域を液相と称する。壁面からの距離y=0.38[mm]での局所ボイド率が19[%]である場合、水と空気一体の流体(気液二相流体)を吸い込むと、吸い込んだ流体(気液二相流体)のボイド率は平均化され約10[%]となる。このように、吸い込んだ流体(気液二相流体)のボイド率を約10[%]以下とするためには、液相吸い込み厚さを0.38[mm]以下とし、吸い込む流体(気液二相流体)、すなわち液相のボイド率が19[%]以下である必要がある。
【0042】
液相吸い込み厚さは、液相吸込口20からの水の吸込み流量と液相吸込口20の幅と船速により決まり、下式(1)で表される。
【数1】
ここで、t
Suction:液相吸い込み厚さ、Q
Suction:水の吸込み流量、B:液相吸込口の幅、V:船速である。
【0043】
液相吸い込み厚さの所定の範囲は、約0.12[mm]以上0.38[mm]以下とすることが好ましく、約0.20[mm]以上0.30[mm]以下とすることがより好ましい。これにより、気泡による摩擦抵抗低減効果を従来よりも確実に大きくすることができる。
液相吸込口20は、
図1に示すように船幅方向に複数の区画に分けてもよく、この場合は、区画毎に液相の吸込み流量を調節することも可能である。
【0044】
制御手段40は、GPSや電磁ログ等により検出される船速や、傾斜計やジャイロ等により検出される船体姿勢(トリム、ピッチ)などを条件に、吸込手段30を制御する。これにより、液相吸込口20からの水の吸込み流量が調節される。下表1に制御手段40の制御方法の例を示す。例えば、船首トリムの場合は吸込み流量を多くし、船尾トリムの場合は吸込み流量を少なくするというように、船体1のトリムに応じて吸込み流量を制御する。
【表1】
このように、制御手段40は、吸込み流量を船速及び船体姿勢の少なくとも一方に基づいて制御する。これにより、吸込み流量を適切に制御し、液相吸い込み厚さを船速や船体姿勢に応じた所定の範囲に制御することができる。
【0045】
制御手段40は、吸込手段30で吸い込んだ水の中の計測された気泡の混入量に基づいて、吸込み流量を制御することもできる。これにより、液相吸込口20から吸い込む水に混入する気泡の量を少なくし、液相の水を主体に吸い込むことができる。
気泡の混入量は、例えばボイド率で判断する。
図3はボイド率計測部の例を示す図である。ボイド率計測部70は、液相吸込口20の下流の管路などに設置する。
吸い込んだ水のボイド率を計測し、制御手段40は、気泡を含まない程度の吸込み流量となるように、吸込手段30の制御を行う。ボイド率の計測方法としては、プローブ法(静電容量式、光ファイバー式)、ワイヤーメッシュセンサー、X線CT計測、中性子計測などの手法を適用することができる。
【0046】
制御手段40は、ブロワーやコンプレッサー等の吹出手段50に対する制御により、空気吹出口10からの空気(気泡)の吹き出しを周期的に行うように制御することもできる。但し、空気吹き出しを周期的に行う場合、気泡が存在しない位相において液相吸込口20から吸い込みを行うと抵抗増加となり、吹出手段50の消費エネルギーも増大する。
そのため制御手段40は、空気吹き出しを周期的に行う場合、吸込手段30による水の吸込みを、空気吹き出しに同調させて周期的に行う。これにより、気泡が存在する位相のみ吸い込みを行うことができるため、摩擦抵抗低減効果を維持しつつ、空気の吹き出しや水の吸込みに必要なエネルギーの低減を図ることが可能となる。気泡が存在する位相は、例えば、船側と流下距離から計算する。
制御手段40は、計測された船舶の船体運動に基づいて、空気吹出口10から吹き出した気泡の液相吸込口20に至る位相差を考慮して吸込手段30を制御することにより、吸込み流量を制御することもできる。船体運動を検知して、流下距離から計算される位相差も考慮し吸い込み量を動的に変化させることにより、船体運動があっても気泡を効率よく船底2へ引き寄せることができる。
【0047】
図4は液相吸込口の例を示す図であり、
図4(a)は面吸込構造の例を示す下面図、
図4(b)は船尾向き吸込構造の例を示す側面図である。
図4(a)の面吸込構造は、液相吸込口20を多孔板を用いて形成し、多孔板の全面から水を吸い込むものである。これにより、液相吸込口20の吸込速度を均一化させ、流場への影響を小さくして液相の水を確実に吸い込むことができる。
図4(b)の船尾向き吸込構造は、液相吸込口20の内部経路を、側面視した状態で液相吸込口20の開口部から前方に向かって斜め方向に形成したものである。このように液相吸込口20の開口部を船尾に向けることにより、液相吸込口20から水を吸い込む際に、船体1の後方へ向かう気泡の流れに対し前方に向かって吸い込むため、気泡の混入を少なくすることができる。
【0048】
液相吸込口20は、船舶の取水口であるシーチェストと兼ねることもできる。液相吸込口20をシーチェストとすることにより、液相吸込口20とシーチェストを別々に設ける場合と比べて船底2やシステムの構成を簡素化することができ、また吸い込んだ水を主機関の冷却等に活用することができる。
また、吸込み動力としてバラスト水ポンプを利用することもできる。
【0049】
図5は液相吸込口と船体負圧部との接続の例を示す図であり、
図5(a)は側面図、
図5(b)は下面図である。
図5に示す吸込手段30は、船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口31と液相吸込口20とを調節弁33を介して配管32で接続することにより構成される。このように船舶の推進時に生じる船体表面の負圧部分と液相吸込口20を接続することにより、ポンプ等の動力を用いずに液相吸込口20から水を吸い込むことができる。
なお、船型により負圧の生じる部分は異なるが、一般的な商船の船型においては、
図5に示すような船体後半かつプロペラ3の前方の3次元的に船体形状が変化する箇所(特にビルジ部分)に負圧部分が生じる。
また、吸込手段30を、船舶の推進時に船体表面に負圧を生じる部分に設けた開口31と液相吸込口20とを、調節弁33ではなくポンプを介して配管32で接続することにより構成してもよい。吸込手段30の吸い込み用のポンプに船舶の推進時に生じる船体表面の負圧部分を接続することにより、船体表面の負圧を利用して、水の吸込みに使用するポンプの吸込動力を削減することができる。
吸込手段30のその他の構成としては、液相吸込口20から、空中に通ずる配管を設置し、配管上部を大気開放状態とすることも可能である。この構成においては、配管内の水位が水面と一致するまでは動力を要せずとも水の吸込みが可能である。
また、吸込手段30の更にその他の構成としては、液相吸込口20から、吸い込み用のポンプを通じて空中に通ずる配管を設置し、配管上部を大気開放状態とすることも可能である。この構成においては、配管内の水位が水面と一致するまでは気泡を吸い込む動力を削減することが可能である。
【0050】
図6は液相吸込口から吸い込んだ水を船尾からの吹き出しに用いる例を示す図であり、
図6(a)は側面図、
図6(b)は下面図である。
図7は液相吸込口から吸い込んだ水を船側からの吹き出しに用いる例を示す図であり、
図7(a)は側面図、
図7(b)は下面図、
図7(c)は液相吸込口が設けられた部分の断面図である。
液相吸込口20から吸込手段30で吸い込んだ水は、船体1の船尾のプロペラ3の前方及び船底2の両側部の少なくとも一方から吐出するようにしてもよい。
プロペラ3の前方から吐出する場合は、
図6に示すように、液相吸込口20で吸い込んだ水を配管内で気液分離し、船尾においてプロペラ3の前方に設けた液相吹出口80から吐出する。液相のみをプロペラ3の前方で吹き出すことにより、気泡を船体表面から離脱させプロペラ面への気泡の流入を防ぐことができる。これにより、プロペラ3への気泡の流入を防ぎ、気泡混入による伴流係数及びプロペラ効率の悪化を防止して推進効率の低下を防ぎ、空気潤滑による馬力低減効果を向上させることができる。
また、船底2の側部から吐出する場合は、
図7に示すように、液相吸込口20で吸い込んだ水をビルジ部分に設けた液相吹出口80から吹き出す。これにより、船底2の両側部からの気泡の離脱を防ぎ、気泡による摩擦抵抗低減効果を高めることができる。
【0051】
次に、本発明の第二の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図8は船舶に設けた第二の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図であり、
図8(a)は側面図、
図8(b)は下面図である。
本実施形態の液相吸込式空気潤滑システムは、液相吸込口20を船長方向に三段設けている。船首から一段目の液相吸込口21は船長方向の略中間部分よりも前方に位置し、二段目の液相吸込口22は略中間部分に位置し、三段目の液相吸込口23は略中間部分よりも後方に位置する。
液相吸込口20で引き寄せた気泡は、下流に向かうにつれて再び船底2から離れだすが、本実施形態のように液相吸込口20を船底2における気泡の流れに沿って所定の間隔を開けて複数段設けることにより、前段の液相吸込口20の下流側において船底2から離れ出した気泡を後段の液相吸込口20の近辺で再び船底2へ引き寄せることができる。なお、液相吸込口20は船幅方向に複数設けることも可能である。
【0052】
次に、本発明の第三の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図9は船舶に設けた第三の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成を示す下面図である。
船底2の壁面からの気泡の離脱は、空気吹出口10からの距離の影響が大きいため、空気吹出部の配置に対応して、液相吸込部を逆V字状など2次元的に配置することもできる。
本実施形態の液相吸込式空気潤滑システムでは、空気吹出口10を三つ一組とし、船幅方向中央部の空気吹出口11を両側部の空気吹出口12,13よりも前方に配置した、船体後方側から見て逆V字状の配置としている。そして、液相吸込口20も三つ一組とし、船幅方向中央部の液相吸込口24を両側部の液相吸込口25,26よりも前方に配置した、船体後方側から見て逆V字状の配置としている。
本実施形態のように、空気吹出口10を船底2の船幅方向に複数設け、かつ複数の空気吹出口10のうちの船底2の中央部に位置するものを前方に、両側部に位置するものを後方に逆V字状に配置するとともに、液相吸込口20を船底2の船幅方向に複数設け、かつ複数の液相吸込口20を逆V字状に配置することで、空気吹出口10をなるべく船首側に設置でき、また、各空気吹出口10から吹き出された気泡が船底2から離脱するのを効果的に防止できる。
【0053】
次に、本発明の第四の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図10は船舶に設けた第四の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成を示す下面図である。
空気吹出口10を第一の実施形態のように船幅方向に一列の配置としたとき、船幅方向中央部よりも船幅方向両側部において船底2の壁面からの気泡の離脱が大きい場合がある。
そこで本実施形態の液相吸込式空気潤滑システムは、三つ一組の空気吹出口10を船幅方向に一列に配置する一方で、三つ一組の液相吸込口20は、船幅方向中央部の液相吸込口24を両側部の液相吸込口25,26よりも後側に配置した、船体後方側から見てV字状の配置としている。
本実施形態のように、空気吹出口10を船底2の船幅方向に複数設け、液相吸込口20を船底2の船幅方向に複数設け、かつ複数の液相吸込口20のうちの船底2の中央部に位置するものを後方に両側部に位置するものを前方にV字状に配置することで、船側への気泡の回り込みが大きい場合、船底2の側部からの気泡の離脱を効果的に防止できる。
【0054】
次に、本発明の第五の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図11は船舶に設けた第五の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図であり、
図11(a)は側面図、
図11(b)は下面図である。
本実施形態の液相吸込式空気潤滑システムは、液相吸込口20として、船底2に設けた液相吸込口27と、両船側に設けた液相吸込口28を備える。液相吸込口20を船底2に設けるとともに、船体1が3次元形状を成す部分である船体1の船側にも設けることにより、船底2から離脱した気泡を船側に引き寄せて、船側での抵抗低減が可能となる。
【0055】
次に、本発明の第六の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図12は船舶に設けた第六の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図であり、
図12(a)は側面図、
図12(b)は下面図である。
本実施形態の液相吸込式空気潤滑システムは、液相吸込口20として、船底2に設けた液相吸込口27と、船尾に設けた液相吸込口29を備える。液相吸込口20を船底2に設けるとともに、船体1が3次元形状を成す部分である船体1の船尾にも設けることにより、プロペラ3の吸い込みにより気泡が船体1から離脱して摩擦抵抗低減効果が小さくなることを防ぎ、船尾での抵抗低減が可能となる。
【0056】
次に、本発明の第七の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムについて説明する。なお、上記した実施形態と同一機能部材には同一符号を付して説明を省略する。
図13は船舶に設けた第七の実施形態による液相吸込式空気潤滑システムの概略構成図であり、
図13(a)は側面図、
図13(b)は下面図である。
空気吹出口10から吹き出された気泡は、船長方向の中ほどに設けられた液相吸込口20によって船底2へ引き寄せられるため、船尾においても船底2の近傍に留まる量が多くなる。それにより気泡による摩擦抵抗低減効果は高められるが、その一方でプロペラ3に気泡が流入するとプロペラ効率の悪化等を招く場合がある。
そこで本実施形態の液相吸込式空気潤滑システムでは、さらに、気泡を中心的に吸い込む気相吸込口60を船尾のプロペラ3の前方に設けている。気相吸込口60が気泡を吸い込むことにより、船尾において気泡を船体表面から離脱させプロペラ面への気泡の流入を防止できる。これにより、プロペラ3への気泡混入による伴流係数及びプロペラ効率の悪化を防いで推進効率の低下を防ぎ、空気潤滑による馬力低減効果を向上させることができる。
また、気相吸込口60から空中に通ずる配管61を設置し、配管61の上部を大気開放状態としている。これにより、動力なく気相吸込口60から気相を吸い込む機構を持たせることができるため、気相吸込口60から吸い込まれた気泡は、動力によらずに大気中に放出される。
【0057】
次に、本発明に関して実施した検証試験の結果について説明する。
図14は本試験に用いたユニットの概要図、
図15は本試験における計測結果を示す図である。
水平チャネル(試験部長さ3,000[mm]、高さ20[mm]、幅100[mm])において本発明の検証試験を行った。空気吹出口の約1,000[mm]下流において液相吸込口から液相吸込みを行い、その約500[mm]下流においてせん断応力計を用いて摩擦抵抗を評価した。
計測は断面内平均流速U
m=7[m/s]において実施した。相当空気膜厚さt
Airは下式(2)、液相吸い込み厚さt
Suctionは下式(3)のように定義される。相当空気膜厚さt
Airは、吹き出した空気が空気膜として存在すると仮定した場合の空気膜の厚さである。液相吸い込み厚さt
Suctionも同様に吸い込んだ流量を厚みとして表現した変数である。
【数2】
【数3】
ここで、Q
Air:空気流量、Q
Suction:水の吸込み流量、B:流路幅である。
また、
図15において、縦軸のC
f/C
f0は抵抗低減率であり、C
fは気泡流中の摩擦抵抗係数、C
f0は単相流中(無気泡時)の摩擦抵抗係数である。t
Air=2.0[mm]において、液相の吸い込み量(厚さ)をt
Suction=0.1,0.2,0.3,0.35[mm]と変化させた。吸い込みを行わなかったとき、摩擦抵抗の低減率は17.2[%]であったが、吸い込み量の増加ととともに摩擦抵抗低減量は向上し、t
Suction=約0.3[mm]のとき本試験条件で最大の1.4[%]の向上を示した。
【0058】
液相を吸い込むことで抵抗低減することは、いわゆる「境界層吸い込み」でも見られる現象である。境界層吸い込みによる抵抗低減(境界層制御)は、層流から乱流への遷移を遅らせることを目的に実施されるものである。これに対して、本試験は遷移レイノルズ数より十分に高いレイノルズ数で実施しているため境界層吸い込みによる抵抗低減ではなく、本発明の原理によって発生したものであると言える。
【0059】
境界層からの一様吹き出し、一様吸い込みによる抵抗低減も研究されており、制御領域において吹き出しによる抵抗低減と吸い込みによる抵抗の増加が確認されている。吸い込みによる抵抗増加は、乱流境界層の壁面から遠方の高速流体が壁面近傍に近づいたためと言われている。
そこで、本試験においても、空気の吹き出しは行わず流体だけの吸い込みを実施した。
図16はその結果であり、液相吸込による抵抗低減率の変化を示しているが、吸い込みにより抵抗増加が確認された。これにより、液相吸込だけでは抵抗低減は発生せず、液相吸込により気泡が船底の壁面に近づいた効果により摩擦抵抗低減効果が大きくなったことが確認できた。
【0060】
ここで、液相吸い込みによる抵抗変化の要因について整理する。まずはボイド率ピークの壁面への接近による抵抗低減効果がある。これは、吸い込み流量の変化に対して変化は小さい。次に高速流体の壁面への接近による抵抗増加効果がある。この抵抗増加は吸い込み流量の増加に伴い大きくなる(
図16参照)。最後に気泡吸い込みによる抵抗増加効果がある。これは液相の吸い込みに気泡が混入してしまうことによりボイド率が下がり、抵抗が増加(抵抗低減量が減少)するという効果である。吸い込み量が多い場合、気泡の混入量も増加しこの抵抗増加の影響は大きくなる。
図15に示すように、本試験条件では、吸い込み量t
Suction=0.3[mm]未満において吸い込み量の増加に伴い抵抗低減効果が大きくなり、t
Suction=0.3[mm]超において吸い込み量の増加に伴い抵抗低減効果が小さくなり、t
Suction=0.3[mm]のとき抵抗低減効果が最大となった。下表2に、吸い込み量t
Suction=0.3[mm]未満とt
Suction=0.3[mm]超の場合における液相吸込みによる各抵抗変化要因の大小を示す。
【表2】
【0061】
これより、t
Suction=0.3[mm]未満においては、ボイド率ピークの壁面への接近による抵抗低減効果が支配的で、吸い込み量の増加に伴い抵抗低減効果が大きくなるが、t
Suction=0.3[mm]超においては、高速流体の壁面への接近による抵抗増加効果と、気泡吸い込みによる抵抗増加効果の影響が大きくなり、吸い込み流量の増加に伴い抵抗低減効果が小さくなると考えられる。また、上記の抵抗変化の要因のバランスから、液相吸い込みの吸い込み量には抵抗低減効果が最大となる最適値が存在する。
図15より、その最適値は、t
Suction=0.3[mm]であることがわかる。また、t
Suction=0.3[mm]超においては抵抗低減効果が急減するため、液相吸込式空気潤滑システムは、t
Suction=0.3[mm]以下で利用するのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の液相吸込式空気潤滑システムを適用することで、船舶の推進効率が向上し、船舶から排出されるGHGの削減に寄与する。また、本発明の液相吸込式空気潤滑システムは、新たに空気潤滑システムを搭載しようとする船舶のみならず、既に空気潤滑システムが搭載されている船舶においても追加で適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 船体
2 船底
3 プロペラ
10 空気吹出口
20 液相吸込口
30 吸込手段
31 開口
32 配管
33 調節弁
40 制御手段