IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニデックの特許一覧

<>
  • 特開-染色システム 図1
  • 特開-染色システム 図2
  • 特開-染色システム 図3
  • 特開-染色システム 図4
  • 特開-染色システム 図5
  • 特開-染色システム 図6
  • 特開-染色システム 図7
  • 特開-染色システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145032
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】染色システム
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20241004BHJP
   G02C 7/00 20060101ALN20241004BHJP
【FI】
D06P5/00 D
G02C7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057255
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100184550
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 珠美
(72)【発明者】
【氏名】阿部 功児
(72)【発明者】
【氏名】田中 基司
(72)【発明者】
【氏名】細井 良晋
(72)【発明者】
【氏名】中村 成伸
(72)【発明者】
【氏名】中根 諒人
【テーマコード(参考)】
2H006
4H157
【Fターム(参考)】
2H006BA01
2H006BA06
4H157AA03
4H157DA02
4H157DA45
4H157FA23
4H157FA24
4H157GA04
4H157JA10
4H157JB03
(57)【要約】
【課題】樹脂体の変形を抑制しつつ、適切に樹脂体を染色することが可能な染色システムを提供する。
【解決手段】染色システム1は、搬送装置10、染料定着装置50、および温度低下速度減少部を備える。搬送装置10は、樹脂体を含む搬送ユニットを搬送する。染料定着装置50は、搬送装置10によって搬送された搬送ユニットに含まれる、染料が付着した樹脂体を加熱することで、樹脂体に染料を定着させる。温度低下速度減少部は、染料定着装置50による加熱定着工程の終了後、搬送装置10によって加熱定着位置から搬送される樹脂体の温度低下速度を減少させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂体を染色する染色システムであって、
樹脂体を含む搬送ユニットを搬送する搬送装置と、
前記搬送装置によって搬送された前記搬送ユニットに含まれる、染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着装置と、
前記染料定着装置による加熱定着工程の終了後、前記搬送装置によって加熱定着位置から搬送される前記樹脂体の温度低下速度を減少させる温度低下速度減少部と、
を備えたことを特徴とする染色システム。
【請求項2】
請求項1に記載の染色システムであって、
前記温度低下速度減少部は、前記搬送装置によって前記加熱定着位置から搬送される前記樹脂体の周囲を外気から遮蔽するための遮蔽部材を、前記搬送ユニットに設置する樹脂体遮蔽部を備えることを特徴とする染色システム。
【請求項3】
請求項2に記載の染色システムであって、
シート状の基体に染料を印刷する印刷装置と、
前記搬送装置によって搬送された前記搬送ユニットの樹脂体を、前記染料が印刷された前記基体に対向させた状態で、前記染料を前記樹脂体に転写する転写装置と、
をさらに備え、
前記樹脂体遮蔽部は、前記搬送ユニットへの前記基体の設置、および、前記搬送ユニットからの前記基体の除去を行う基体着脱部を備え、
前記基体着脱部は、
前記転写装置による染料の転写工程の終了後、前記染料定着装置による加熱定着工程の開始前に、前記搬送ユニットから前記基体を除去し、
前記染料定着装置による加熱定着工程の終了後、除去されていた前記基体を前記遮蔽部材として前記搬送ユニットに再度設置することで、前記加熱定着位置から搬送される前記樹脂体の周囲を外気から遮蔽することを特徴とする染色システム。
【請求項4】
請求項2または3に記載の染色システムであって、
前記搬送ユニットに含まれる樹脂体に関する情報を取得する樹脂体情報取得部をさらに備え、
前記染色システムの制御部は、前記加熱定着位置から搬送される前記樹脂体の周囲を、前記遮蔽部材によって外気から遮蔽するか否かを、前記樹脂体情報取得部によって取得された前記樹脂体に関する情報に応じて切り換えることを特徴とする染色システム。
【請求項5】
請求項4に記載の染色システムであって、
前記制御部は、
前記樹脂体情報取得部によって取得された前記樹脂体の素材および形状の少なくともいずれかの情報に応じて、前記加熱定着位置から搬送される前記樹脂体の周囲を前記遮蔽部材によって外気から遮蔽するか否かを切り換えることを特徴とする染色システム。
【請求項6】
請求項2から5のいずれかに記載の染色システムであって、
前記染料定着装置による前記加熱定着工程の終了後に、前記染料が定着された前記樹脂体の色情報を計測する色情報計測器をさらに備え、
前記染色システムの制御部は、
前記搬送ユニットから前記遮蔽部材が除去された状態で、前記色情報計測器によって前記樹脂体の色情報を計測し、
前記色情報計測器による前記樹脂体の色情報の計測の終了後に、除去されていた前記遮蔽部材を前記樹脂体遮蔽部によって前記搬送ユニットに再度設置することで、前記樹脂体の周囲を外気から遮蔽することを特徴とする染色システム。
【請求項7】
請求項6に記載の染色システムであって、
前記染料定着装置によって前記染料が定着された前記樹脂体の温度を測定する温度測定部をさらに備え、
前記制御部は、
前記温度測定部によって測定された前記樹脂体の温度が計測基準温度以下に低下した以後に、前記色情報計測器によって前記樹脂体の色情報を計測することを特徴とする染色システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の染色システムであって、
自然冷却による温度低下速度よりも大きい温度低下速度で、加熱定着工程の終了後における前記搬送ユニット中の前記樹脂体の温度を低下させる強制冷却部と、
前記搬送ユニットに含まれる樹脂体に関する情報を取得する樹脂体情報取得部と、
をさらに備え、
前記染色システムの制御部は、
前記樹脂体情報取得部によって取得された前記樹脂体に関する情報に応じて、前記強制冷却部によって前記樹脂体の温度を低下させるか否かを切り換えることを特徴とする染色システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の染色システムであって、
前記温度低下速度減少部は、
前記加熱定着工程の終了後に、前記搬送装置によって前記加熱定着位置から搬送される前記搬送ユニットの搬送経路の周囲を覆うカバー部材を備えたことを特徴とする染色システム。
【請求項10】
請求項9に記載の染色システムであって、
前記温度低下速度減少部は、
前記カバー部材によって覆われている前記加熱定着位置からの前記搬送経路の少なくとも一部を遮蔽する可動シャッターをさらに備えたことを特徴とする染色システム。
【請求項11】
請求項1から10に記載の染色システムであって、
前記搬送ユニットに含まれる樹脂体に関する情報を取得する樹脂体情報取得部と、
前記染料定着装置によって前記染料が定着された前記樹脂体の温度を測定する温度測定部と、
前記染料定着装置による前記加熱定着工程の終了後に、前記染料が定着された前記樹脂体の色情報を計測する色情報計測器と、
をさらに備え、
前記搬送装置によって前記加熱定着位置から前記色情報計測器へ搬送される前記搬送ユニットの搬送経路として、変形が生じにくい樹脂体の搬送経路である第1搬送経路と、変形が生じやすい樹脂体の搬送経路である第2搬送経路が設けられており、
前記染色システムの制御部は、
前記第1搬送経路および前記第2搬送経路のうち、前記加熱定着工程が終了した樹脂体の搬送ユニットを搬送させる搬送経路を、前記樹脂体情報取得部によって取得された前記樹脂体に関する情報に応じて振り分けると共に、
前記第1搬送経路または前記第2搬送経路に振り分けられて搬送された1つまたは複数の樹脂体のうち、前記温度測定部によって測定された温度が計測基準温度以下に低下した樹脂体の色情報を、前記色情報計測器によって計測することを特徴とする染色システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂体を染色する染色システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズ等の樹脂体を染色するための種々の技術が提案されている。例えば、浸染法と言われる染色方法では、樹脂体を染色液の中に浸漬することで樹脂体が染色される。しかし、浸染法では、作業環境を良好にすることが難しく、また、一部の樹脂体(例えば高屈折率のレンズ等)を染色するのが困難である。
【0003】
そこで、染料を樹脂体の表面に転写し、染料が付着した樹脂体を加熱することで樹脂体を染色する技術が提案されている。例えば、特許文献1に記載の染色方法では、昇華性の染料が、インクジェットプリンタによって基体に塗布(印刷)される。次いで、真空中で樹脂体と基体が非接触で配置された状態で、基体に塗布された昇華性の染料が昇華されることで、染料が樹脂体に転写される。次いで、染料が転写された樹脂体が加熱されることで、染料が樹脂体に定着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-127722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
染料を樹脂体に定着させるためには、樹脂体を非常に高い温度に加熱する必要がある。従来の染色方法では、樹脂体への染料の加熱定着工程が終了した後、高い温度に加熱された樹脂体が冷却される過程で、樹脂体の部位毎の温度差(例えば、表面と内部の温度差、中央部と外周部の温度差、または上部と下部の温度差等)に起因して、樹脂体に変形(例えば、歪みおよび亀裂等)が生じてしまう場合があった。樹脂体の変形を抑制するための処理(例えば、樹脂体に熱を加えて残留応力を取り除くことで変形を抑制するアニール処理等)を、染色された樹脂体に対して別途行うことも考えられる。しかし、処理を別途行うと効率が悪化してしまう。従って、染色工程中における樹脂体の変形を抑制しつつ、適切に樹脂体を染色することが可能な技術が望まれる。
【0006】
本開示の典型的な目的は、樹脂体の変形を抑制しつつ、適切に樹脂体を染色することが可能な染色システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する染色システムは、樹脂体を染色する染色システムであって、樹脂体を含む搬送ユニットを搬送する搬送装置と、前記搬送装置によって搬送された前記搬送ユニットに含まれる、染料が付着した樹脂体を加熱することで、前記樹脂体に前記染料を定着させる染料定着装置と、前記染料定着装置による加熱定着工程の終了後、前記搬送装置によって加熱定着位置から搬送される前記樹脂体の温度低下速度を減少させる温度低下速度減少部と、を備える。
【0008】
本開示に係る染色システムは、樹脂体の変形を抑制しつつ、適切に樹脂体を染色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】染色システム1のシステム構成を示すブロック図である。
図2】2つのレンズLが設置された状態の染色用トレイ80を右斜め上方から見た斜視図である。
図3】転写装置40、染料定着装置50、および第1基体着脱部52を右斜め上方から見た斜視図である。
図4】定着後搬送経路11、強制冷却部55、第2基体着脱部57、および色情報計測器を右斜め上方から見た斜視図である。
図5図4に示す構成から、定着後搬送経路11のカバー部材13、強制冷却部55、および色情報計測器60を取り外した状態の斜視図である。
図6】第1実施形態の染色システム1が実行する染色処理のフローチャートである。
図7】第2実施形態の染色システム1が実行する染色処理のフローチャートである。
図8】第3実施形態の染色システム101のシステム構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本開示で例示する染色システムは、搬送装置、染料定着装置、および温度低下速度減少部を備える。搬送装置は、樹脂体を含む搬送ユニットを搬送する。染料定着装置は、搬送装置によって搬送された搬送ユニットに含まれる、染料が付着した樹脂体を加熱することで、樹脂体に染料を定着させる。温度低下速度減少部は、染料定着装置による加熱定着工程の終了後、搬送装置によって加熱定着位置から搬送される樹脂体の温度低下速度を減少させる。
【0011】
本開示の染色システムによると、加熱定着位置から搬送される高温の樹脂体の温度低下速度が、樹脂体がそのまま外気に直接晒される場合に比べて減少する。換言すると、本開示の温度低下速度減少部は、樹脂体をそのまま外気に晒す場合に比べて、樹脂体の温度低下速度を減少させる。その結果、樹脂体の温度が低下する際の、部位毎の温度差(例えば、表面と内部の温度差、中央部と外周部の温度差、または上部と下部の温度差等)が生じにくくなるので、温度差に起因する樹脂体の変形が生じにくくなる。従って、本開示の染色システムは、樹脂体の変形を抑制しつつ、適切に樹脂体を染色することが可能である。
【0012】
染料定着装置の構成には、種々の構成を採用できる。例えば、染料定着装置は、樹脂体の表面にレーザ光を照射して加熱することで、樹脂体に付着した染料を樹脂体に定着させるレーザ定着装置であってもよい。レーザ定着装置は、オーブン等を用いる場合に比べて、染料定着工程に要する時間を短縮し易い。また、染料定着装置は、樹脂体の全体を加熱することで、樹脂体に付着した染料を樹脂体に定着させるオーブン定着装置であってもよい。オーブン定着装置は、例えば、樹脂体の基材の種類および染色する色等に関わらず、染料を樹脂体に適切に定着させ易い。また、複数の染料定着装置を併用することも可能である。例えば、レーザ定着装置とオーブン定着装置が併用されてもよい。
【0013】
温度低下速度減少部は、搬送装置によって加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を外気から遮蔽するための遮蔽部材を搬送ユニットに設置する樹脂体遮蔽部を備えていてもよい。樹脂体遮蔽部によって遮蔽部材が搬送ユニットに設置されることで、樹脂体がそのまま外気に直接晒される場合に比べて、樹脂体の温度低下速度が簡易な構成で適切に減少する。
【0014】
なお、加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を遮蔽する方法(つまり、樹脂体の周囲の気体と、その外部の気体の間を遮蔽する方法)は、樹脂体の周囲を隙間なく遮蔽する方法(つまり、内部に樹脂体を密閉する方法)に限定されない。仮に、樹脂体が内部に隙間なく密閉されていなくても、樹脂体の周囲が遮蔽されることで、周囲が遮蔽されない場合に比べて樹脂体の温度低下速度が減少すれば、温度が低下する際の樹脂体の変形は適切に抑制される。
【0015】
また、温度低下速度減少部の構成を変更することも可能である。例えば、温度低下速度減少部は、搬送装置によって加熱定着位置から搬送される樹脂体に適度な熱を加えることで、樹脂体の温度低下速度を減少させる加熱部を備えていてもよい。加熱部が用いられる場合でも、樹脂体の温度低下速度は適切に減少する。加熱部には、例えば、樹脂体を加熱することが可能なヒーター、または、樹脂体に温風を流すことが可能な温風発生部等の少なくともいずれかを用いることが可能である。
【0016】
染色システムは、印刷装置と転写装置をさらに備えていてもよい。印刷装置は、シート状の基体に染料を印刷する。転写装置は、搬送装置によって搬送された搬送ユニットの樹脂体を、染料が印刷された基体に対向させた状態で、染料を前記樹脂体に転写する。樹脂体遮蔽部は、搬送ユニットへの基体の設置、および、搬送ユニットからの基体の除去を行う基体着脱部を備えていてもよい。基体着脱部は、転写装置による染料の転写工程の終了後、染料定着装置による加熱定着工程の開始前に、搬送ユニットから基体を除去してもよい。基体着脱部は、染料定着装置による加熱定着工程の終了後、除去されていた基体を遮蔽部材として搬送ユニットに再度設置することで、加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を外気から遮蔽してもよい。
【0017】
この場合、染色システムは、転写装置による転写工程に用いられる基体を利用することで、加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を遮蔽して、温度低下速度を減少させることができる。つまり、樹脂体の周囲を遮蔽するための遮蔽部材を、基体とは別で使用しなくても、樹脂体の温度低下速度が適切に減少する。よって、温度が低下する際の樹脂体の変形が、効率良く抑制される。
【0018】
なお、基体着脱部は、染料定着装置による加熱定着工程の終了後、基体を搬送ユニットに毎回再設置してもよい。また、後述するように、基体着脱部は、染料定着装置による加熱定着工程が終了した一部の搬送ユニットに対して、基体を再度設置してもよい。
【0019】
なお、基体の材質は金属であってもよい。この場合、金属である基体によって樹脂体の周囲の気体が滞留し易くなることに加えて、基体が加熱されることによって生じる輻射熱が樹脂体に伝わることで、樹脂体の温度低下速度がより適切に減少し易くなる。
【0020】
また、基体の材質は紙であってもよい。この場合、紙である基体によって樹脂体の周囲の気体が適切に滞留し易くなることに加えて、断熱性が高い紙によって樹脂体の周囲の少なくとも一部が外気から遮蔽されるので、樹脂体の温度低下速度がより適切に減少し易くなる。
【0021】
搬送ユニットには、樹脂体が載置される染色用トレイが含まれていてもよい。基体着脱部は、樹脂体が載置されている染色用トレイに基体を設置し、染色用トレイと基体によって樹脂体の周囲を遮蔽してもよい。この場合、染色工程に用いられる染色用トレイと基体が利用されることで、樹脂体の周囲が効率良く外気から遮蔽される。以上のように、樹脂体遮蔽部(例えば基体着脱部)によって搬送ユニットに設置される遮蔽部材は、樹脂体の周囲を単独で遮蔽する部材に限定されない。つまり、樹脂体遮蔽部(例えば基体着脱部)は、樹脂体の周囲を外気から遮蔽する複数の遮蔽部材(例えば、基体および染色用トレイ)のうちの少なくとも一部の遮蔽部材(例えば基体)を搬送ユニットに設置することで、樹脂体の周囲を外気から遮蔽してもよい。
【0022】
ただし、樹脂体遮蔽部は、転写工程に用いられる基体とは異なる部材を遮蔽部材として、加熱定着位置から搬送される搬送ユニットに設置してもよい。この場合でも、樹脂体がそのまま外気に晒される場合に比べて、樹脂体の温度低下速度が簡易な構成で適切に減少する。なお、遮蔽部材には、例えば、板状の部材、蓋状の部材、箱状の部材等の種々の部材を採用できる。
【0023】
また、本開示では、染料を樹脂体に転写する転写方式として、真空中で樹脂体と染料付基体を非接触で対向させた状態で、基体に印刷された昇華性の染料を昇華させることで、染料を樹脂体に転写する気相転写方式を例示する。しかし、転写方式を変更することも可能である。例えば、染料付基体を樹脂体に接触させた状態で、染料が樹脂体に転写されてもよい。
【0024】
染色システムは、搬送ユニットに含まれる樹脂体に関する情報を取得する樹脂体情報取得部をさらに備えていてもよい。染色システムの制御部は、加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を、遮蔽部材によって外気から遮蔽するか否かを、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体に関する情報に応じて切り換えてもよい。
【0025】
樹脂体の温度が低下する際の、樹脂体の変形の生じ易さは、染色される樹脂体に応じて異なる場合がある。樹脂体の温度低下速度に関わらず、温度が低下する際の樹脂体の変形が生じにくい場合には、樹脂体の温度を短時間で低下させた方が、染色工程に要する時間が短縮され易くなる。また、前述したように、温度が低下する際の樹脂体の変形が生じやすい場合には、樹脂体の温度低下速度を減少させることで、樹脂体の変形を抑制することが望ましい。従って、染色システムは、加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を遮蔽部材によって外気から遮蔽するか否かを、樹脂体に関する情報に応じて切り換えることで、より効率良く且つ適切に染色工程を実行することが可能である。
【0026】
制御部は、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体の素材および形状の少なくともいずれかの情報に応じて、加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を遮蔽部材によって外気から遮蔽するか否かを切り換えてもよい。
【0027】
樹脂体の温度が低下する際の、樹脂体の変形の生じ易さは、樹脂体の素材に応じて異なる場合が多い。また、樹脂体の形状が異なると、樹脂体の温度が低下する際の、樹脂体の変形の生じ易さも異なる場合が多い。従って、遮蔽部材によって樹脂体を外気から遮蔽するか否かが、樹脂体の素材および形状の少なくともいずれかの情報に応じて切り換えられることで、より効率良く且つ適切に染色工程が実行され易くなる。
【0028】
一例として、染色される樹脂体がレンズである場合について説明する。レンズが凹レンズ(マイナスレンズ)である場合には、レンズが凸レンズ(プラスレンズ)である場合に比べて、厚みが薄いレンズの中心部近傍で変形が生じやすくなる場合が多い。従って、制御部は、レンズの形状の情報として、レンズが凹レンズおよび凸レンズのいずれであるかを示す情報(レンズがマイナスレンズおよびプラスレンズのいずれであるかを示す情報でもよい)を取得してもよい。レンズが凹レンズ(マイナスレンズ)であるである場合には、制御部は、加熱定着工程の終了後に遮蔽部材を搬送ユニットに設置することで、レンズの温度低下速度を減少させてもよい。レンズが凸レンズ(プラスレンズ)である場合には、制御部は、加熱定着工程の終了後に、遮蔽部材を搬送ユニットに設置せずに、レンズの温度低下速度の減少を抑制してもよい。この場合、より効率良く且つ適切に染色工程が実行され易くなる。
【0029】
また、レンズの度数が異なると、レンズの形状が変化する。従って、制御部は、レンズの形状の情報として、レンズの度数を示す情報を取得してもよい。制御部は、遮蔽部材を搬送ユニットに設置するか否かを、レンズの度数の情報に応じて切り換えてもよい。この場合、レンズの度数に応じた適切な染色工程が、レンズ毎に実行される。例えば、制御部は、レンズのマイナスの度数の度合いが閾値以上である条件を満たす場合に、加熱定着工程の終了後に遮蔽部材を搬送ユニットに設置してもよい。
【0030】
なお、制御部は、樹脂体に関する情報と共に、または、樹脂体に関する情報の代わりに、他の情報を参照することで、樹脂体の周囲を遮蔽部材によって外気から遮蔽するか否かを切り換えてもよい。例えば、染色システムの設置場所の気温が低い程、加熱定着工程の終了後における樹脂体の温度低下速度は上昇し易くなる。従って、制御部は、染色システムの設置場所の気温に応じて、加熱定着位置から搬送される樹脂体の周囲を遮蔽部材によって遮蔽するか否かを切り換えてもよい。また、制御部は、染色システムの設置場所の気圧に応じて、樹脂体の周囲を遮蔽部材によって遮蔽するか否かを切り換えてもよい。
【0031】
染色システムは、染料定着装置による加熱定着工程の終了後に、染料が定着された樹脂体の色情報を計測する色情報計測器をさらに備えてもよい。制御部は、搬送ユニットから遮蔽部材が除去された状態で、色情報計測器によって樹脂体の色情報を計測してもよい。制御部は、色情報計測器による樹脂体の色情報の計測の終了後に、除去されていた遮蔽部材を樹脂体遮蔽部によって搬送ユニットに再度設置することで、樹脂体の周囲を外気から遮蔽してもよい。
【0032】
この場合、樹脂体の色情報の計測時には、搬送ユニットから遮蔽部材が除去されているので、色情報計測器による色情報の計測が高い精度で行われる。さらに、色情報の計測の終了後には、除去されていた遮蔽部材が搬送ユニットに再度設置されることで、樹脂体の温度低下速度が再度減少する。従って、染色システムは、樹脂体の色情報を適切に計測したうえで、樹脂体の変形をさらに生じにくくすることが可能である。
【0033】
なお、制御部は、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体に関する情報に基づいて、色情報計測器による樹脂体の色情報の計測の終了後に、除去されていた遮蔽部材を樹脂体遮蔽部によって搬送ユニットに再度設置してもよい。つまり、制御部は、色情報計測器による樹脂体の色情報の計測の終了後、遮蔽部材を樹脂体遮蔽部によって搬送ユニットに再度設置するか否かを、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体に関する情報に応じて切り換えてもよい。前述したように、樹脂体の温度が低下する際の、樹脂体の変形の生じ易さは、染色される樹脂体に応じて異なる場合がある。温度が低下する際の樹脂体の変形が生じにくい場合には、遮蔽部材を搬送ユニットに再度設置する工程が省略されることで、染色工程が簡素化される。従って、染色システムは、遮蔽部材を搬送ユニットに再度設置するか否かを、樹脂体に関する情報に応じて切り換えることで、より効率良く且つ適切に染色工程を実行することが可能である。
【0034】
また、制御部は、色情報計測器による樹脂体の色情報の計測の終了後に、除去されていた遮蔽部材を樹脂体遮蔽部によって搬送ユニットに再度設置するか否かを、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体の素材および形状の少なくともいずれかの情報に応じて切り換えてもよい。この場合、樹脂体の変形の生じ易さに関連し易い、樹脂体の素材および形状の少なくともいずれかの情報に基づいて、色情報の計測終了後に遮蔽部材を再度設置するか否かが切り替えられる。その結果、より適切に染色工程が実行され易くなる。
【0035】
色情報の計測の終了後に搬送ユニットに再度設置される遮蔽部材にも、前述した基体を利用することも可能である。換言すると、基体着脱部が、色情報の計測の終了後に、除去されていた基体を搬送ユニットに再度設置してもよい。この場合、樹脂体の周囲を外気から遮蔽するための遮蔽部材を、基体とは別で使用しなくても、樹脂体の温度低下速度が適切に減少する。
【0036】
なお、染色ユニットは、複数の基体着脱部を備えていてもよい。例えば、染色ユニットは、染料定着装置による加熱定着工程の前後で搬送ユニットに対して基体を着脱する基体着脱部と、色情報計測器による色情報の計測の前後で搬送ユニットに対して基体を着脱する基体着脱部を、別で備えていてもよい。
【0037】
染色システムは、染料定着装置によって染料が定着された樹脂体の温度を測定する温度測定部をさらに備えていてもよい。制御部は、温度測定部によって測定された樹脂体の温度が計測基準温度以下に低下した以後に、色情報計測器によって樹脂体の色情報を計測してもよい。
【0038】
樹脂体の温度に応じて、樹脂体の基材に変色(例えば黄変等)が生じる場合がある。また、染色された樹脂体の温度に応じて、樹脂体に定着した染料自体に変色が生じる場合もある。これに対し、樹脂体の温度が計測基準温度以下に低下した以後に、色情報計測器によって樹脂体の色情報を計測することで、温度に応じて生じ得る樹脂体および染料の変色の影響が抑制された状態で、樹脂体の色情報が計測される。よって、染色された樹脂体の色情報が安定して計測され易くなる。
【0039】
さらに、樹脂体の温度が低下する際に変形が生じる温度は、樹脂体の色情報が安定して計測され易くなる温度の上限(前述した計測基準温度)よりも低い場合が多い。従って、樹脂体の温度が計測基準温度以下となり、樹脂体の色情報が計測された後に、遮蔽部材が搬送ユニットに再度設置されることで、樹脂体の色情報の計測と、樹脂体の変形の抑制が、適切に両立され易くなる。
【0040】
なお、計測基準温度は、例えば、樹脂体の基材の種類、および染料の種類の少なくともいずれかに応じて適宜設定されればよい。一例として、計測基準温度を80℃以下に設定すれば、色情報の計測結果に及ぼす樹脂体および染料の変色の影響は抑制され易い。また、計測基準温度を60℃以下に設定することで、樹脂体の基材の種類等に関わらず、変色の影響はさらに抑制され易くなる。さらに、計測基準温度を50℃以下(例えば、40℃等)とすることで、温度による変色の影響がより適切に抑制される。
【0041】
染色システムは、強制冷却部と樹脂体情報取得部をさらに備えていてもよい。強制霊薬部は、自然冷却による温度低下速度よりも大きい温度低下速度で、加熱定着工程の終了後における搬送ユニット中の樹脂体の温度を低下させる。樹脂体情報取得部は、搬送ユニットに含まれる樹脂体に関する情報を取得する。制御部は、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体に関する情報に応じて、強制冷却部によって樹脂体の温度を低下させるか否かを切り換えてもよい。
【0042】
前述したように、樹脂体の温度低下速度に関わらず、温度が低下する際の樹脂体の変形が生じにくい場合には、樹脂体の温度を短時間で低下させた方が、染色工程に要する時間が短縮され易くなる。また、温度が低下する際の樹脂体の変形が生じやすい場合には、樹脂体の温度低下速度を減少させることで、樹脂体の変形を抑制することが望ましい。従って、染色システムは、強制冷却部による冷却を実行するか否かを、樹脂体に関する情報に応じて切り換えることで、より効率良く且つ適切に染色工程を実行することが可能である。
【0043】
強制冷却部の具体的な構成は、適宜選択できる。例えば、樹脂体に気体(例えば空気等)を送風する冷却ファンが、強制冷却部として使用されてもよい。また、冷蔵庫およびペルチェ素子等の少なくともいずれかが、強制冷却部として使用されてもよい。また、染色システムは、強制冷却部を備えずに、自然冷却のみによって樹脂体の温度を低下させることも可能である。
【0044】
なお、変形が生じにくい樹脂体であっても、非常に高い温度の樹脂体に対して強制冷却を実行すると、樹脂体における部位毎の温度差が大きくなり、樹脂体に変形が生じてしまう場合がある。従って、制御部は、樹脂体の温度を取得し、強制冷却を行っても樹脂体の変形が生じにくくなる冷却開始温度以下に樹脂体の温度が低下することを条件として、強制冷却部による樹脂体の強制冷却を開始してもよい。この場合、染色システムは、樹脂体が変形することを適切に抑制しつつ、染色工程に要する時間を短縮することが可能である。
【0045】
なお、制御部は、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体に関する情報に基づいて、強制冷却部による樹脂体の冷却(以下、「強制冷却」という)を実行するか否かを切り換えてもよい。前述したように、樹脂体の温度が低下する際の、樹脂体の変形の生じ易さは、染色される樹脂体に応じて異なる場合がある。従って、染色システムは、樹脂体の強制冷却を実行するか否かを、樹脂体に関する情報に応じて切り換えることで、より効率良く且つ適切に染色工程を実行することが可能である。
【0046】
また、制御部は、強制冷却を実行するか否かを、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体の素材および形状の少なくともいずれかの情報に応じて切り換えてもよい。この場合、樹脂体の変形の生じ易さに関連し易い、樹脂体の素材および形状の少なくともいずれかの情報に基づいて、強制冷却を実行するか否かが切り替えられる。その結果、より適切に染色工程が実行され易くなる。
【0047】
温度低下速度減少部は、加熱定着工程の終了後に、搬送装置によって加熱定着位置から搬送される搬送ユニットの搬送経路の周囲を覆うカバー部材を備えていてもよい。この場合、加熱定着位置から搬送経路を通じて搬送される樹脂体の温度低下速度が、搬送経路が外部に露出されている場合に比べて減少する。その結果、樹脂体の温度が低下する際の部位毎の温度差が生じにくくなるので、温度差に起因する樹脂体の変形が生じにくくなる。
【0048】
温度低下速度減少部は、カバー部材によって覆われている加熱定着位置からの搬送経路の少なくとも一部を遮蔽する可動シャッターをさらに備えていてもよい。この場合、可動シャッターによって搬送経路が遮蔽されることで、搬送経路内における気体の流動がさらに抑制される。その結果、搬送経路内にある樹脂体の温度低下速度がさらに減少し易くなるので、樹脂体の変形がさらに生じにくくなる。
【0049】
なお、強制冷却部として冷却ファンが設けられている場合、可動シャッターは、カバー部材によって覆われている加熱定着位置からの搬送経路と、冷却ファンの間を遮断する位置に設けられていてもよい。この場合、冷却ファンから冷却対象の樹脂体に送風された気体が、搬送経路中に位置する樹脂体に流れることが抑制される。従って、搬送経路中に位置する樹脂体の温度低下速度が適切に減少する。
【0050】
染色システムは、樹脂体情報取得部、温度測定部、および色情報計測器をさらに備えていてもよい。樹脂体情報取得部は、搬送ユニットに含まれる樹脂体に関する情報を取得する。温度測定部は、染料定着装置によって染料が定着された樹脂体の温度を測定する。色情報計測器は、染料定着装置による加熱定着工程の終了後に、染料が定着された樹脂体の色情報を計測する。制御部は、搬送装置によって加熱定着位置から色情報計測器へ搬送される搬送ユニットの搬送経路として、変形が生じにくい樹脂体の搬送経路である第1搬送経路と、変形が生じやすい樹脂体の搬送経路である第2搬送経路が設けられていてもよい。制御部は、第1搬送経路および第2搬送経路のうち、加熱定着工程が終了した樹脂体の搬送ユニットを搬送させる搬送経路を、樹脂体情報取得部によって取得された樹脂体に関する情報に応じて振り分けてもよい。制御部は、第1搬送経路または第2搬送経路に振り分けられて搬送された1つまたは複数の樹脂体のうち、温度測定部によって測定された温度が計測基準温度以下に低下した樹脂体の色情報を、色情報計測器によって計測してもよい。
【0051】
この場合、樹脂体の色に関する情報に応じて、加熱定着位置から色情報計測器への樹脂体の搬送経路が、第1搬送経路と第2搬送経路のいずれかに振り分けられる。第1搬送経路または第2搬送経路に振り分けられた樹脂体のうち、温度が計測基準温度以下に低下した樹脂体の色情報が計測される。従って、染色システムは、第1搬送経路を搬送される樹脂体の温度低下速度を極力高くすることで、染色工程に要する時間を短縮することができる。また、染色システムは、第2搬送経路を搬送される樹脂体の温度低下速度を極力減少させることで、温度が低下する際の樹脂体の変形を抑制することができる。さらに、搬送経路を1つとする場合には、温度低下速度を減少させた樹脂体が搬送経路中に滞留することで、温度低下速度を高くした樹脂体を含む複数の樹脂体が搬送経路中に滞留し、染色工程の効率が低下する場合がある。これに対し、第1搬送経路と第2搬送経路を設けることで、複数の樹脂体が搬送経路中に滞留することが適切に抑制される。
【0052】
前述したカバー部材および可動シャッターの少なくとも一方は、第2搬送経路に設けられていてもよい。この場合、第2搬送経路を搬送される樹脂体の温度低下速度が適切に減少する。また、第1搬送経路には、カバー部材および可動シャッターが設けられていなくてもよい。この場合、第1搬送経路を搬送される樹脂体の温度低下速度が高くなり易い。
【0053】
第1搬送経路と第2搬送経路の具体的な構成も、適宜選択できる。例えば、染色システムは、第1搬送経路上から搬送ユニットを離脱させて待機させる第2搬送経路を備えていてもよい。この場合、染色システムは、第2搬送経路上で搬送ユニットを待機させて、第2搬送経路中の樹脂体の温度を徐々に低下させる間に、第1搬送経路に他の搬送ユニットを搬送させることができる。詳細には、染色システムは、第1搬送経路上から搬送ユニットを上方にリフトさせて待機させる第2搬送経路を備えていてもよい。この場合、リフトされている搬送ユニットの下方の第1搬送経路上を、他の搬送ユニットが適切に搬送される。
【0054】
<実施形態>
以下、本開示に係る典型的な実施形態について、図面を参照して説明する。染色システム1は、樹脂体を自動的に連続して染色する。本実施形態では、染色する対象とする樹脂体は、眼鏡に使用されるプラスチック製のレンズL(図2等参照)である。しかし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、レンズL以外の樹脂体を染色する場合にも適用できる。例えば、ゴーグル、携帯電話のカバー、ライト用のカバー、アクセサリー、玩具、フィルム(例えば、厚みが400μm以下)、板材(例えば、厚みが400μm以上)等、種々の樹脂体を染色する場合に、本開示で例示する技術の少なくとも一部を適用することも可能である。染色される樹脂体には、樹脂体とは異なる部材(例えば、木材またはガラス等)に付加された樹脂体も含まれる。また、本実施形態の染色システム1は、複数の樹脂体を連続して搬送しながら染色する。しかし、樹脂体を1セットずつ搬送して染色する染色システムにも、本開示で例示する技術の少なくとも一部を採用できる。
【0055】
図1を参照して、本実施形態の染色システム1のシステム構成について概略的に説明する。本実施形態の染色システム1は、搬送装置10、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、強制冷却部55、色情報計測器60、および制御装置70を備える。
【0056】
搬送装置10は、搬送ユニットU(図2図3図5参照)を、染色システム1内の各装置に連続して搬送する。搬送ユニットUは、搬送装置10によって搬送される単位である。本実施形態の搬送ユニットUには、染色用トレイ80(図2参照)と、染色用トレイ80に載置されたレンズLが含まれる。さらに、搬送ユニットUには、表面に染料が印刷されるシート状の基体Sが含まれる場合もある。なお、本実施形態の搬送装置10は、搬送経路に沿って搬送ユニットUを搬送するベルトコンベアを含む。しかし、搬送装置10の構成を変更することも可能である。例えば、搬送装置10は、搬送ユニットUを把持して搬送するロボットアーム等を含んでいてもよい。
【0057】
印刷装置30は、シート状の基体に染料を印刷する。本実施形態では、基体には、適度な硬さの紙または金属製(本実施形態ではアルミニウム製)のフィルムが使用される。しかし、基体の材質には、ガラス板、耐熱性樹脂、セラミック等の他の材質を用いることも可能である。なお、本実施形態の染色システム1では、染料の凝集等を防ぎつつ染料を適切にレンズLに転写するために、真空(略真空を含む)の環境下で基体とレンズLを離間させて対向させた状態で、基体の染料が加熱されることで、染料がレンズLの表面に転写(蒸着)される(本実施形態における染色方法を、気相転写染色方法という)。従って、印刷装置30には、昇華性染料を含有したインクを基体に印刷するインクジェットプリンタが使用される。印刷装置30は、情報処理装置(本実施形態ではパーソナルコンピュータ(以下「PC」という)である制御装置70によって作成された印刷データに基づいて印刷を実行する。その結果、基体の適切な位置に適切な量のインク(染料)が付着する。グラデーションの染色を行うための染料付基体の作成も容易である。
【0058】
なお、印刷装置30の構成を変更することも可能である。例えば、印刷装置はレーザープリンタであってもよい。この場合、トナーに昇華性染料が含まれていてもよい。また、印刷装置30の代わりに、ディスペンサー(液体定量塗布装置)、ローラ等によって、基体に染料が付着されてもよい。
【0059】
転写装置40は、基体に付着した染料を、レンズLに対向させた状態で、染料を基体からレンズLに転写する。前述したように、本実施形態では、気相転写法によって基体からレンズLに染料が転写される。ただし、染料をレンズLに転写する方法を変更することも可能である。例えば、基体の染料とレンズLを接触させた状態で、染料が基体からレンズLに転写されてもよい。
【0060】
染料定着装置50は、転写装置40によって染料が転写されたレンズLを加熱することで、レンズLの表面に付着した染料を樹脂体に定着させる。つまり、染料定着装置50は、レンズLに対する染料の加熱定着工程を実行する。本実施形態の染料定着装置50は、電磁波であるレーザ光をレンズLに照射することで、レンズLを加熱する。ただし、染料定着装置50の構成を変更することも可能である。例えば、レーザ光以外の電磁波をレンズLに照射する装置(例えばオーブン等)が、染料定着装置として用いられてもよい。
なお、染料定着装置50には、搬送ユニットUからの基体Sの除去、および、搬送ユニットUへの基体Sの設置を行う第1基体着脱部52が付属して設けられている。
【0061】
強制冷却部55は、自然冷却によるレンズLの温度低下速度よりも大きい温度低下速度で、染料定着装置50による加熱定着工程の終了後におけるレンズLの温度を低下させる。つまり、強制冷却部55は、レンズLを強制的に(自然冷却よりも急速に)冷却する。強制冷却部55によってレンズLが冷却される場合には、染料定着装置50による染料の定着工程が終了した以後、色情報計測器60による色情報の計測結果が取得されるまでに要する時間が短縮される。本実施形態では、レンズLに気体(空気)を送風する冷却ファンが、強制冷却部55として使用されている。なお、強制冷却部55には、搬送ユニットUからの基体Sの除去、および、搬送ユニットUへの基体Sの設置を行う第2基体着脱部57が付属して設けられている。また、強制冷却部55には、染料定着装置50によって染料が定着されたレンズLの温度を測定する温度測定部58が設けられている。
【0062】
色情報計測器60は、染料が定着されたレンズLの色情報を計測するために使用される。本実施形態の色情報計測器60は、レンズLの分光スペクトル(詳細には、本実施形態では透過スペクトル)を色情報として計測する分光計測器である。従って、RGBカメラ等を用いる場合に比べて、照明環境等の外乱光の影響が抑制された状態で色情報が取得される。また、複数の染料が用いられてレンズLが染色された場合でも、波長毎の強度の分布である分光スペクトルが取得されるので、染色されたレンズLの色情報が適切に取得される。取得した分光スペクトルのデータを利用して、CIEL*a*b*表色系、XYZ表色系、L*C*h*表色系、マンセル表色系等の値を使用しても良い。ただし、分光計測器以外のデバイス(例えばRGBカメラ等)が、色情報計測器として使用されてもよい。
【0063】
制御装置70は、染色システム1における各種制御を司る。制御装置70には、種々の情報処理装置(例えば、PC、サーバ、および携帯端末等の少なくともいずれか)を使用できる。制御装置70は、制御を司るコントローラ(例えばCPU等)71と、各種データを記憶するデータベース72を備える。なお、制御装置70の構成を変更することも可能である。まず、複数のデバイスが協働して制御装置70として機能してもよい。例えば、染色システム1における各種制御を司る制御装置と、データベース72を備えた制御装置が別のデバイスであってもよい。また、複数のデバイスのコントローラが協働して、染色システム1における各種制御を実行してもよい。例えば、搬送装置10、印刷装置30、転写装置40、および染料定着装置50の少なくともいずれかがコントローラを備える場合も多い。この場合、制御装置70のコントローラと他の装置のコントローラが協働して、染色システム1の制御を司ってもよい。
【0064】
染色システム1は、搬送ユニットU(染色用トレイ80と、染色用トレイ80に載置されたレンズLを含む)毎に情報を読み取る読取部2を備える。一例として、本実施形態の読取部2は、搬送ユニットU毎(例えば、染色用トレイ80毎)に設けられた識別子を読み取る識別子読取部である。読取部2によって読み取られる識別子によって、搬送ユニットUが特定される。搬送ユニットUが特定されることで、搬送ユニットUに含まれるレンズLに関する情報等が取得される。つまり、本実施形態の読取部2は、搬送ユニットUに含まれるレンズLに関する情報を取得するレンズ情報取得部(樹脂体情報取得部)として機能する。
【0065】
本実施形態の読取部2は、使用されている識別子に対応する識別子リーダー(例えば、QRコード(登録商標)リーダー、バーコードリーダー、識別穴リーダー等)である。また、読取部2は、情報を書き込み可能なタグ(例えばICタグ等)から情報を読み取るタグ読取部であってもよい。本実施形態では、印刷装置30、転写装置40、染料定着装置50、強制冷却部55、および色情報計測器60の各々に読取部2が設けられている。しかし、読取部2の設置数および設置位置等を変更することも可能である。
【0066】
なお、本実施形態の染色システム1のうち、染料定着装置50における加熱定着位置から搬送装置10によって搬送される搬送ユニットUの搬送経路である定着後搬送経路11には、経路の周囲を覆うカバー部材13が設けられている。また、染色システム1は、カバー部材13によって覆われている定着後搬送経路11を遮蔽する可動シャッター14を備える。カバー部材13および可動シャッター14の詳細については後述する。
【0067】
(搬送ユニットU・染色用トレイ)
図2を参照して、搬送ユニットUおよび染色用トレイ80について説明する。図2は、2つのレンズLが設置(載置)され、且つ基体S(図3図5参照)が設置されていない状態の染色用トレイ80(搬送ユニットU)の斜視図である。本実施形態の染色用トレイ80は、トレイ本体81、載置枠89、およびスペーサ87を備える。載置枠89には、染色対象となる樹脂体(本実施形態ではレンズL)が載置される。本実施形態の載置枠89は、レンズLよりもやや大きい外径を有するリング状に形成されている。スペーサ87は、載置枠89のうち、レンズLが載置される部位の外周部から上方に筒状(円筒状)に延びる。トレイ本体81には装着部82が形成されている。装着部82には、載置枠89およびスペーサ87が着脱可能に装着される。本実施形態では、1つのトレイ本体81に2つの装着部82が形成されている。従って、1つの眼鏡に使用される一対(左右)のレンズLが、1つの染色用トレイ80に載置された状態で染色される。
【0068】
トレイ本体81の上面には、染料が付着した基体S(図3図5参照)が着脱可能に載置される。トレイ81の上面に基体Sが載置された状態で、基体Sに付着した染料をレンズLに転写させる転写工程が行われる。また、トレイ81の上面に基体Sが設置(載置)されることで、染色用トレイ80に載置されたレンズLの周囲が、染色用トレイ80のスペーサ87および載置枠89と、基体Sとによって遮蔽される。その結果、レンズLの周囲の気体(空気)が滞留し易くなるので、基体Sが設置されていない場合に比べて、高温状態のレンズLの温度低下速度が減少する。つまり、本実施形態では、基体Sは、レンズLの周囲を遮蔽してレンズLの温度低下速度を減少させる遮蔽部材として利用される。
【0069】
前述したように、本実施形態では、基体Sとして、適度な硬さの金属製(本実施形態ではアルミニウム製)のフィルム、または紙が使用される。基体Sの材質に金属が用いられる場合、基体Sによって遮蔽されるレンズLの周囲の気体が滞留し易くなる。さらに、基体Sが高温のレンズLの熱で加熱されることによって生じる輻射熱が、レンズLに加わることで、レンズLの温度低下速度がより適切に減少し易くなる。また、基体Sの材質に紙が用いられる場合も同様に、基体Sによって遮蔽されるレンズLの周囲の気体が滞留し易くなる。さらに、断熱性が高い紙によってレンズLの周囲の少なくとも一部(本実施形態では、レンズLの上方)が遮蔽されるので、レンズLの温度低下速度がより適切に減少し易くなる。
【0070】
(装置構成)
図3図5を参照して、本実施形態の染色システム1の一部の構成について詳細に説明する。まず、図3を参照して、転写装置40、染料定着装置50、および第1基体着脱部52の構成について説明する。図3は、搬送装置10の一部、転写装置40、染料定着装置50、および第1基体着脱部52が組付けられた状態の斜視図である。本実施形態の搬送装置10は、概略的には、搬送方向の上流側(図3の紙面左側)から下流側(図3の紙面右側)へ、複数の搬送ユニットUを連続して搬送する。搬送装置10は、転写装置40、第1基体着脱部52、染料定着装置50、第1基体着脱部52の順に搬送ユニットUを搬送する。なお、システム中における染料定着装置50と第1基体着脱部52の配置は逆であってもよい。
【0071】
転写装置40は、基体Sに付着した染料がレンズLに対向配置された状態で、基体Sを閉塞室内にセットし、閉塞室内の気圧を低下させて、閉塞室内を略真空状態とする。その後、転写装置40は、気圧が低下した閉塞室内で、基体Sに電磁波を照射して加熱することで、基体Sに付着した染料を基体Sに転写(本実施形態では蒸着)させる。その後、レンズLと基体Sが設置された搬送ユニットUは、染料定着装置50を一旦通過し、第1基体着脱部52に搬送される。
【0072】
第1基体着脱部52は、下方を向く吸着口からポンプによって基体を吸引することで、基体Sを保持することができる。染色システム1のコントローラ71は、第1基体着脱部52の前方の基体着脱位置に搬送された搬送ユニットUの基体Sに、第1基体着脱部52の吸引口を接触させた状態で、ポンプを駆動させる。その結果、吸引口によって基体Sが吸引されて保持されることで、基体Sが搬送ユニットUから除去される。その後、搬送ユニットUは、搬送装置10によって染料定着装置50に搬送される。また、第1基体着脱部52は、染料定着装置50による加熱定着工程の終了後に、基体Sを搬送ユニットUに再度設置することも可能である。この場合、コントローラ71は、基体着脱位置に搬送ユニットUが搬送された状態で、ポンプの駆動を停止させることで、第1基体着脱部52による基体Sの保持を解除する。その結果、第1基体着脱部52によって保持されていた基体Sが、搬送ユニットUの上部に再度設置(載置)される。
【0073】
染料定着装置50は、搬送ユニットUに含まれるレンズLを加熱することで、レンズLの表面に付着した染料をレンズLに定着させる加熱定着工程を実行する。一例として、本実施形態の染料定着装置50は、装置の直下の加熱定着位置に搬送ユニットUが配置された状態で、電磁波であるレーザ光をレンズLに照射する(詳細には、レーザ光をレンズL上で二次元方向に走査する)ことで、レンズLを加熱する。但し、オーブン等が染料定着装置として用いられてもよい。加熱定着工程が終了すると、搬送ユニットUは、染料定着装置50による加熱定着位置から、第1基体着脱部52を経て、定着後搬送経路11(図4および図5参照)へ搬送される。
【0074】
次に、図4および図5を参照して、定着後搬送経路11、強制冷却部55、第2基体着脱部57、および色情報計測器60の構成について説明する。図4は、搬送装置10の一部(定着後搬送経路11を含む)、強制冷却部55、第2基体着脱部57、および色情報計測器60が組付けられた状態の斜視図である。図5は、図4に示す構成から、定着後搬送経路11のカバー部材13、強制冷却部55、および色情報計測器60を取り外した状態の斜視図である。搬送装置10は、染料定着装置50(図3参照)による加熱定着位置から、定着後搬送経路11、強制冷却部55および第2基体着脱部57、色情報計測器60の順に搬送ユニットUを搬送する。
【0075】
図4に示すように、強制冷却部55は、直下の強制冷却位置に配置された搬送ユニットUのレンズLを、自然冷却による温度低下速度よりも大きい温度低下速度で冷却することができる。本実施形態では、レンズLに気体(空気)を送風する冷却ファンが、強制冷却部55として使用されている。詳細は後述するが、本実施形態では、強制冷却部55によるレンズLの強制冷却が実行される場合と実行されない場合が、強制冷却位置に搬送されたレンズLに関する情報に応じて切り換えられる。また、強制冷却部55には、強制冷却位置に配置された搬送ユニットUのレンズL(つまり、染料定着装置50によって染料が定着されたレンズL)の温度を測定する温度測定部58(図1参照)が設けられている。詳細は後述するが、染色システム1は、温度測定部58によって測定されたレンズLの温度が、色情報計測器60による計測基準温度以下に低下した以後に、色情報計測器60によってレンズLの色情報を計測する。
【0076】
第2基体着脱部57は、搬送装置10による搬送ユニットUの搬送経路のうち、強制冷却部55による強制冷却位置と同一の位置(近接した位置でもよい)に設けられている。第2基体着脱部57は、下方を向く吸着口からポンプによって基体を吸引することで、基体Sを保持することができる。搬送ユニットUから基体Sを除去する場合、コントローラ71は、強制冷却位置に搬送された搬送ユニットUの基体Sに、第2基体着脱部57の吸引口を接触させた状態で、ポンプを駆動させる。その結果、基体Sが第2基体着脱部57によって保持される。コントローラ71は、第2基体着脱部57のうち、基体Sを保持した部位を、アクチュエータ(モータ等)によって搬送経路上から離脱させることで、搬送ユニットUから基体Sを除去する。なお、強制冷却部55によるレンズLの強制冷却は、第2基体着脱部57によって基体Sが搬送ユニットUから除去された状態で実行される。また、搬送ユニットUに基体Sを再度設置する場合、コントローラ71は、第2基体着脱部57のうち、基体Sを保持した部位を、搬送経路上の強制冷却位置に戻し、ポンプの駆動を停止させることで、第2基体着脱部57による基体Sの保持を解除する。その結果、第2基体着脱部57によって保持されていた基体Sが、搬送ユニットUの上部に再度設置(載置)される。なお、本実施形態では、強制冷却部55によるレンズLの強制冷却が実行されない場合には、搬送ユニットUから基体Sが除去されずに、基体SによってレンズLの周囲が遮蔽された状態で、レンズLの温度が計測基準温度以下となるまでレンズLが強制冷却位置で徐冷される。
【0077】
温度測定部58によって測定されたレンズLの温度が計測基準温度以下に低下すると、搬送装置10は、強制冷却位置から、色情報計測器60による色情報計測位置に搬送ユニットUを搬送する。色情報計測器60は、色情報計測位置に搬送された搬送ユニットUのレンズLの色情報を計測する。なお、色情報計測器60の設置位置の近傍には、色情報の計測結果が基準を満たさなかったレンズLを退避させる退避部61が設けられている。コントローラ71は、レンズLの色情報の計測結果が基準を満たさなかった場合に、搬送ユニットUを搬送経路から離脱させて、退避部61へ移動させる。また、コントローラ71は、レンズLの色情報の計測結果が基準を満たす場合、搬送ユニットUを搬送経路の下流側に搬送する。
【0078】
図4に示すように、搬送ユニットUが加熱定着位置から搬送される定着後搬送経路11には、経路の周囲を覆うカバー部材13が設けられている。強制冷却部55による強制冷却位置に、別の搬送ユニットUが存在する場合には、コントローラ71は、定着後搬送経路11のカバー部材13内でレンズLを待機させることで、レンズLを徐冷する。従って、定着後搬送経路11が外部に露出されている場合に比べて、レンズLの周囲の気体が滞留し易くなるので、定着後搬送経路11上のレンズLの温度低下速度が適切に減少し易くなる。カバー部材13は、レンズLの温度低下速度を減少させる温度低下速度減少部の一例である。
【0079】
定着後搬送経路11には、カバー部材13によって覆われている筒状の経路の少なくとも一部(本実施形態では、経路の出口近傍)を遮蔽する可動シャッター14が設けられている。可動シャッター14が、アクチュエータによって搬送経路から退避されることで、定着後搬送経路11から下流側への搬送ユニットUの搬送が可能となる。また、可動シャッター14が、アクチュエータによって定着後搬送経路11を遮蔽する位置へ移動されることで、カバー部材13によって覆われている定着後搬送経路11内の気体がさらに滞留し易くなる。その結果、定着後搬送経路11内のレンズLの温度低下速度が適切に減少し易くなる。
【0080】
図4および図5に示すように、可動シャッター14は、定着後搬送経路11と強制冷却部55の間を遮断する位置に設けられている。従って、強制冷却部55から強制冷却位置のレンズLに送風された気体が、定着後搬送経路11内に流れることが抑制される。従って、定着後搬送経路11内のレンズLの温度低下速度がさらに減少する。
【0081】
以上説明したように、第1基体着脱部52および第2基体着脱部57は、基体Sを遮蔽部材として搬送ユニットUに設置することで、搬送ユニットUのレンズLの温度低下速度を減少させることができる。従って、本実施形態の第1基体着脱部52および第2基体着脱部57は、レンズLの周囲を遮蔽するレンズ遮蔽部(樹脂体遮蔽部)、および、レンズLの温度低下速度を減少させる温度低下速度減少部の一例である。
【0082】
(第1実施形態)
図6を参照して、第1実施形態の染色システム1が実行する染色処理について説明する。染色システム1のコントローラ71は、データベース72に記憶された染色制御プログラムに従って、図6に例示する染色処理を実行する。
【0083】
図6に示すように、染色処理では、印刷工程処理(S1)、転写工程処理(S2,S3)、加熱定着工程処理(S4~S7)、および色情報計測工程処理(S11~S23)が繰り返し実行されることで、複数の搬送ユニットUの各々に設置された複数のレンズLが連続して染色される。なお、本実施形態では、コントローラ71は、印刷工程処理、転写工程処理、加熱定着工程処理、および色情報計測工程処理の2つ以上を、複数の搬送ユニットUのレンズLに対して並行して実行することができる。その結果、染色工程に要する時間が短縮される。ただし、処理の流れの理解を容易にするために、図6および図7に示すフローチャートでは、1つの搬送ユニットUのレンズLに対して染色処理が行われる場合を示す。
【0084】
印刷工程処理(S1)では、コントローラ71は、搬送ユニットUが搬送装置10によって印刷装置30に搬送されると、搬送された搬送ユニットUについて読取部2によって読み取られた情報を取得する。コントローラ71は、読取部2によって読み取られた情報に基づいて印刷装置30の駆動を制御することで、レンズLを目的の色に染色するための染料を基体Sに印刷させる。印刷が完了すると、コントローラ71は、染料が印刷された基体Sを搬送ユニットUに設置し、基体Sが設置された搬送ユニットUを、搬送装置10によって転写装置40に搬送する。
【0085】
転写工程処理(S2)では、コントローラ71は、搬送ユニットUが搬送装置10によって転写装置40に搬送されると、転写装置40の駆動を制御し、搬送ユニットUに設置された基体Sを加熱することで、基体Sに付着した染料をレンズLに転写させる。転写が完了すると、コントローラ71は、基体Sが設置された状態の搬送ユニットUを、搬送装置10によって染料定着装置50に搬送する(S3)。
【0086】
加熱定着工程処理(S4~S7)では、コントローラ71は、搬送ユニットUが搬送装置10によって染料定着装置50に搬送されると、第1基体着脱部52の駆動を制御することで、搬送ユニットUに設置されている基体Sを搬送ユニットUから除去する(S4)。つまり、第1基体着脱部52は、転写装置40による染料の転写工程の終了後、染料定着装置50による加熱定着工程の開始前に、搬送ユニットUから基体Sを除去する。次いで、コントローラ71は、染料定着装置50の駆動を制御することで、加熱定着位置に搬送されたレンズLに対する加熱定着工程を実行する(S5)。加熱定着工程では、染料が表面に転写されたレンズLが加熱されることで、表面に付着している染料がレンズLに定着される。なお、加熱定着工程におけるレンズLの加熱処理は、搬送ユニットUについて読取部2によって読み取られた情報に応じて変更される。その結果、レンズLおよび染料等に適した加熱定着工程が実行される。
【0087】
次いで、コントローラ71は、第1基体着脱部52の駆動を制御することで、S4において搬送ユニットUから一旦除去されていた基体Sを、遮蔽部材として搬送ユニットUに再度設置させる(S6)。その結果、搬送ユニットUのレンズLの周囲が、基体Sおよび染色用トレイ80によって遮蔽される。従って、基体Sが搬送ユニットUに再度設置されない場合に比べて、レンズLの温度低下速度が減少する。よって、レンズLの温度が低下する際のレンズLの変形が、効率良く抑制される。なお、前述したように、本実施形態では、レンズLの周囲を遮蔽する遮蔽部材として、転写工程に用いられる基体Sが利用される。つまり、レンズLの周囲を遮蔽するための遮蔽部材を、基体Sとは別で使用しなくても、レンズLの温度低下速度が効率良く且つ適切に減少する。その後、コントローラ71は、搬送装置10の駆動を制御することで、搬送ユニットUを加熱定着位置から定着後搬送経路11(図1図4図5参照)に搬送させる。
【0088】
色情報計測工程処理(S11~S23)では、コントローラ71は、定着後搬送経路11に搬送された搬送ユニットU(定着後搬送経路11で待機中の搬送ユニットUの場合もある)を、強制冷却部55による強制冷却位置に搬送できるか否かを判断する(S11)。強制冷却位置に別の搬送ユニットUが配置されており、強制冷却位置に搬送ユニットUを搬送できない場合、および、定着後搬送経路11に搬送ユニットUが存在しない場合には(S11:NO)、S11の処理が繰り返される。
【0089】
前述したように、定着後搬送経路11の周囲はカバー部材13(図1および図4参照)によって覆われている。さらに、定着後搬送経路11と強制冷却部55の間は、可動シャッター14によって遮断されている。その結果、定着後搬送経路11内のレンズLの周囲における気体が滞留し易くなる。よって、定着後搬送経路11内のレンズLの温度低下速度は、カバー部材13および可動シャッター14が設けられていない場合に比べて適切に減少する。
【0090】
強制冷却位置に別の搬送ユニットUが配置されていない状態であれば(S11:YES)、コントローラ71は、可動シャッター14による定着後搬送経路11の遮断状態を一旦開放した後、搬送装置10によって、定着後搬送経路11から強制冷却部55による強制冷却位置に搬送ユニットUを搬送させる(S12)。なお、コントローラ71は、定着後搬送経路11の外部へ搬送ユニットUが搬送されると、可動シャッター14によって、定着後搬送経路11を再度遮断する。
【0091】
次いで、コントローラ71は、強制冷却位置に搬送された搬送ユニットUのレンズLに関する情報を取得する(S13)。前述したように、レンズLに関する情報は、読取部2によって読み取られる。本実施形態では、S13において取得される情報には、搬送ユニットUのレンズLの素材および形状に関する情報が含まれる。
【0092】
コントローラ71は、強制冷却部55によるレンズLの強制冷却を実行するか否かを、S13において取得されたレンズLに関する情報に基づいて判断する(S15)。レンズLの温度が低下する際の、レンズLの変形の生じ易さは、レンズLに応じて異なる場合がある。変形が生じにくいレンズLであり、強制冷却を実行すると判断された場合には(S15:YES)、コントローラ71は、第2基体着脱部57によって搬送ユニットUから基体Sを除去させて(S16)、強制冷却部55によるレンズLの強制冷却を実行する(S17)。その結果、染色工程に要する時間が短縮される。一方で、変形が生じやすいレンズLであり、強制冷却を実行しないと判断された場合には(S15:NO)、処理はそのままS19へ移行する。その結果、レンズLは、基体Sによって覆われた状態で徐冷されるので、レンズLの変形が適切に抑制される。
【0093】
なお、レンズLの温度が低下する際の、レンズLの変形の生じ易さは、レンズLの素材に応じて異なる場合が多い。また、レンズLの形状が異なると、レンズLの温度が低下する際の、樹脂体の変形の生じ易さも異なる場合が多い。従って、本実施形態のS13では、搬送ユニットUのレンズLの素材および形状に関する情報が取得される。S15では、レンズLの素材および形状の情報に基づいて、レンズLの強制冷却を実行するか否かの判断(つまり、レンズLが、変形し難いレンズであるか、変形し易いレンズであるかの判断)が行われる。換言すると、S15では、レンズLの素材および形状の情報に応じて、レンズLに対する強制冷却を実行するか否かが切り替えられる。その結果、レンズLに応じた適切な処理が実行される。
【0094】
なお、レンズLが凹レンズ(マイナスレンズ)である場合には、レンズLが凸レンズ(プラスレンズ)である場合に比べて、厚みが薄いレンズLの中心部近傍で変形が生じやすくなる場合が多い。従って、S13では、コントローラ71は、レンズLの形状の情報として、レンズLが凹レンズおよび凸レンズのいずれであるかを示す情報(レンズLがマイナスレンズおよびプラスレンズのいずれであるかを示す情報でもよい)を取得する。レンズLが凹レンズ(マイナスレンズ)である場合には、コントローラ71は、レンズLの強制冷却を実行せずに待機させる(S15:NO)。レンズLが凸レンズ(プラスレンズ)である場合には、コントローラ71は、レンズLの強制冷却を実行する(S15:YES,S16,S17)。その結果、より効率良く且つ適切に染色工程が実行され易くなる。
【0095】
また、レンズLの度数が異なると、レンズLの形状が変化する。従って、S13では、コントローラ71は、レンズLの形状の情報として、レンズLの度数を示す情報を取得する。S15では、コントローラ71は、レンズLの度数に応じて、レンズLの強制冷却を実行するか否かを判断する。この場合、レンズLの度数に応じた適切な染色工程が、レンズ毎に実行される。本実施形態のS15では、コントローラ71は、レンズLのマイナスの度数の度合いが閾値以上である場合に、レンズLの強制冷却を実行せずに待機させる(S15:NO)。なお、レンズLの素材と度数の両方に応じて、強制冷却を実行するか否かが判断されてもよい。この場合、レンズLの素材に応じて、強制冷却を実行するか否かを判断するための度数の閾値が異なっていてもよい。コントローラ71は、レンズLのマイナスの度数の度合いが閾値未満である場合に、レンズLの強制冷却を実行する(S15:YES,S16,S17)。
【0096】
なお、変形が生じにくいレンズLであっても、非常に高い温度のレンズLに対して強制冷却部55による強制冷却を実行すると、レンズLの部位毎の温度差が大きくなり、レンズLに変形が生じてしまう場合がある。従って、本実施形態では、コントローラ71は、温度測定部(例えば、温度測定部58等)によって測定されてレンズLの温度を取得し、レンズLの温度が冷却開始温度以下に低下する条件と、変形が生じにくいレンズLである条件(S15:YES)を共に満たした場合に、強制冷却部55によるレンズLの強制冷却を開始する。従って、本実施形態の染色システム1は、レンズLが変形することをさらに適切に抑制しつつ、染色工程に要する時間を短縮することができる。
【0097】
レンズLの温度が冷却開始温度以下に低下したか否かを判断するタイミングは適宜選択できる。例えば、コントローラ71は、搬送ユニットUが強制冷却位置に搬送された以後に、温度測定部58によって測定されている強制冷却部のレンズLの温度が冷却開始温度以下に低下したか否かを判断してもよい。この場合、レンズLは、強制冷却が実行されるか否かに関わらず、温度が冷却開始温度以下に低下するまで、強制冷却位置で徐冷される。
【0098】
また、染色システム1は、定着後搬送経路11に温度測定部を備えていてもよい。コントローラ71は、定着後搬送経路11に位置するレンズLの温度が冷却開始温度以下に低下することを条件として、搬送ユニットUを強制冷却位置に搬送させてもよい。この場合、レンズLの温度が冷却開始温度以下に低下するまで、レンズLの周囲は、カバー部材13および可動シャッター14によって覆われた状態となる。その結果、レンズLの温度低下速度が適切に減少するので、レンズLの変形がさらに生じにくくなる。
【0099】
また、コントローラ71は、各々の搬送ユニットUを、定着後搬送経路11に所定時間以上待機させることを条件として、定着後搬送経路11から搬送ユニットUを搬送させてもよい。この場合、レンズLの温度がある程度低下するまで、レンズLの周囲は、カバー部材13および可動シャッター14によって覆われた状態となる。その結果、レンズLの変形がさらに生じにくくなる。なお、各々の搬送ユニットUを、定着後搬送経路11に待機させる時間には、レンズLの温度が定着後搬送経路11内で冷却開始温度以下に低下すると予測される時間等が適宜設定されていてもよい。
【0100】
次いで、コントローラ71は、温度測定部58によって測定されている強制冷却部のレンズLの温度が、計測基準温度以下に達したか否かを判断する(S19)。レンズLの温度が高いと、レンズLの基材に変色(例えば黄変等)が生じている場合がある。また、染色されたレンズLの温度に応じて、レンズLに定着した染料自体に変色が生じる場合もある。これらの場合、色情報計測器60による色情報の計測の精度が低下する可能性がある。従って、レンズLの温度が計測基準温度よりも大きければ(S19:NO)、待機状態となる。レンズLの温度が計測基準温度以下となると(S19:YES)、コントローラ71は、染色ユニットUを色情報計測器60による計測位置に搬送させて、レンズLの色情報の計測を実行させる(S20)。S20では、搬送ユニットUに基体Sが未だ設置されている場合には、色情報が計測される前に、第2基体着脱部57によって基体Sが搬送ユニットUから除去される。
【0101】
なお、計測基準温度は、例えば、レンズLの素材の種類、および染料の種類の少なくともいずれかに応じて適宜設定されればよい。一例として、計測基準温度を80℃以下に設定すれば、色情報の計測結果に及ぼすレンズLおよび染料の変色の影響は抑制され易い。また、計測基準温度を60℃以下に設定することで、レンズLの素材の種類等に関わらず、変色の影響はさらに抑制され易くなる。さらに、計測基準温度を50℃以下(例えば、40℃等)とすることで、温度による変色の影響がより適切に抑制される。
【0102】
次いで、コントローラ71は、S13において取得されたレンズLに関する情報に基づいて、搬送ユニットUに基体Sを再度設置するか否かを判断する(S21)。前述したように、レンズLの温度が低下する際の、レンズLの変形の生じ易さは、レンズLに応じて異なる場合がある。変形が生じやすいレンズLであり、基体Sを再度設置する必要があると判断すると(S21:YES)、コントローラ71は、第2基体着脱部57の駆動を制御することで、S20において一旦除去されていた基体Sを、搬送ユニットUに再度設置する(S22)。その結果、レンズLの周囲が基体Sによって遮蔽されるので、レンズLの温度低下速度が適切に減少する。なお、レンズLの温度が低下する際に変形が生じる温度は、レンズLの色情報が安定して計測され易くなる温度の上限(前述した計測基準温度)よりも低い場合が多い。従って、レンズLの温度が計測基準温度以下となり、レンズLの色情報が計測された後に、基体S(遮蔽部材)が搬送ユニットUに再度設置されることで、レンズLの色情報の計測と、レンズLの変形の抑制が、適切に両立され易くなる。その後、搬送ユニットUは、色情報の計測位置から経路の下流側へ搬送される(S23)。
【0103】
一方で、変形が生じにくいレンズLであり、基体Sを再度設置する必要が無いと判断すると(S21:NO)、コントローラ71は、基体Sを再度設置せずに廃棄して、搬送ユニットUを経路の下流側へ搬送させる(S23)。その結果、S22の工程が省略されるので、染色工程が簡素化される。なお、S21において、変形が生じにくいレンズLであると判断された場合には、搬送ユニットUを強制冷却位置に再度搬送し、強制冷却部55によるレンズLの強制冷却を実行してもよい。その後、搬送ユニットUが経路の下流側へ搬送されてもよい。
【0104】
S21における判断(つまり、レンズLが、変形し難いレンズであるか、変形し易いレンズであるかの判断)には、前述したS15と同様に、レンズLの素材および形状の少なくともいずれかの情報が用いられていてもよい。S21における判断基準にも、前述したS15と同様の判断基準が用いられてもよい。
【0105】
また、S23において、コントローラ71は、S20で計測されたレンズLの色情報が、品質の基準を満たしているか否かを判定する。コントローラ71は、レンズLの色情報が品質の基準を満たしている場合には、通常の搬送経路へ搬送ユニットUを搬送させる。一方で、コントローラ71は、レンズLの色情報が品質の基準を満たしていない場合には、計測結果が基準を満たさなかったレンズLを退避させる退避部61(図4および図5参照)に搬送ユニットUを搬送させる。
【0106】
(第2実施形態)
図7を参照して、第2実施形態の染色システム1が実行する染色処理について説明する。第2実施形態の染色処理では、染料定着装置50による加熱定着工程の実行後に、基体Sを搬送ユニットUに選択的に再設置する点(S31~S33)等が、第1実施形態の染色処理とは異なる。第2実施形態の染色処理のうち、S31~S33以外の処理の少なくとも一部には、前述した第1実施形態の染色処理と同様の処理を採用できる。従って、第2実施形態における複数のステップのうち、第1実施形態と同様の処理を採用できるステップについては、第1実施形態の染色処理(図6参照)と同じステップ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0107】
図7に示すように、第2実施形態における加熱定着工程処理(S3~S7)では、第1実施形態と同様に、基体Sを搬送ユニットUから除去する処理(S4)、および、レンズLに対する加熱定着工程(S5)が実行される。加熱定着工程(S5)が完了すると、コントローラ71は、搬送ユニットUのレンズLに関する情報を取得する(S31)。前述したように、レンズLに関する情報は、読取部2によって読み取られる。コントローラ71は、S4で除去された基体Sを搬送ユニットUに再度設置するか否かを、S31において取得されたレンズLに関する情報に基づいて判断する(S32)。前述したように、レンズLの温度が低下する際の、レンズLの変形の生じ易さは、レンズLに応じて異なる場合がある。変形が生じにくいレンズLであり、基体Sを再度設置する必要が無いと判断すると(S32:NO)、コントローラ71は、第1基体着脱部によって保持されていた基体Sを廃棄し、基体Sが除去された状態の搬送ユニットUをそのまま定着後搬送経路11に搬送させる(S7)。その結果、変形が生じにくいレンズLの温度が下がり易くなるので、染色工程に要する時間が短縮され易くなる。一方で、コントローラ71は、変形が生じやすいレンズLであり、基体Sを再度設置する必要があると判断すると(S32:YES)、S4で除去されていた基体Sを、第1基体着脱部52によって搬送ユニットUに再度設置し(S33)、搬送ユニットUを定着後搬送経路11に搬送させる(S8)。その結果、変形が生じにくいレンズLの温度低下速度が適切に減少する。つまり、第2実施形態の染色システム1は、加熱定着位置から搬送されるレンズLの周囲を基体S(遮蔽部材)によって外気から遮蔽するか否かを、レンズLに関する情報に応じて切り換えることで、より効率良く且つ適切に染色工程を実行することが可能である。
【0108】
なお、S32における判断(つまり、レンズLが、変形し難いレンズであるか、変形し易いレンズであるかの判断)には、前述した第1実施形態のS15およびS21と同様に、レンズLの素材および形状の少なくともいずれかの情報が用いられていてもよい。S32における判断基準にも、前述したS15およびS21と同様の判断基準が用いられてもよい。
【0109】
第2実施形態における色情報計測工程処理(S11~S23)は、第1実施形態における色情報計測工程処理(S11~S23)とほぼ同様である。ただし、第2実施形態のS15において、強制冷却を実行すると判断された場合には(S15:YES)、基体Sは搬送ユニットUから既に除去された状態なので、第1実施形態で実行されるS16の処理(基体Sを除去する処理)は省略される。また、第2実施形態のS21では、基体Sを搬送ユニットUに再度設置するか否かの判断方法を変更することも可能である。例えば、第2実施形態のS21では、S20において色情報の計測前に基体Sが除去されている場合に、基体Sを再度設置すると判断してもよい。
【0110】
(第3実施形態)
図8を参照して、第3実施形態の染色システム101について説明する。第3実施形態の染色システム101では、定着後搬送経路11として第1搬送経路11Aと第2搬送経路11Bが設けられている点、搬送ユニットUを搬送させる定着後搬送経路を振り分ける点、および、カバー部材13と可動シャッター14の設置位置等が、第1実施形態および第2実施形態の染色システム1とは異なる。第3実施形態の染色システム101のうち、上記以外の構成には、第1実施形態および第2実施形態の染色システム1と同様の構成を採用できる。従って、第3実施形態における複数の構成のうち、第1実施形態および第2実施形態と同様の構成を採用できる箇所については、第1実施形態および第2実施形態の染色システム1と同じ番号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0111】
図8に示すように、第3実施形態の染色システム101では、染料定着装置50における加熱定着位置から、色情報計測器60へ搬送ユニットUを搬送させる定着後搬送経路11として、第1搬送経路11Aと第2搬送経路11Bが設けられている。第1搬送経路11Aは、変形が生じにくいレンズLの搬送経路である。第2搬送経路11Bは、変形が生じやすいレンズLの搬送経路である。なお、第3実施形態では、第2搬送経路11Bにも、染料が定着されたレンズLの温度を測定する温度測定部59が設けられている。
【0112】
コントローラ71は、第1搬送経路11Aおよび第2搬送経路11Bのうち、加熱定着工程が終了した搬送ユニットUを搬送させる搬送経路を、読取部2によって取得された搬送ユニットU内のレンズLに関する情報に応じて振り分ける。つまり、コントローラ71は、レンズLに関する情報に基づいて、変形が生じにくいレンズLであると判断すると、搬送ユニットUを第1搬送経路11Aに搬送させる。一方で、コントローラ71は、レンズLに関する情報に基づいて、変形が生じやすいレンズLであると判断すると、搬送ユニットUを第2搬送経路11Bに搬送させる。また、コントローラ71は、第1搬送経路11Aまたは第2搬送経路11Bに振り分けられて搬送された1つまたは複数のレンズLのうち、温度測定部58,59によって測定された温度が計測基準温度以下に低下したレンズLから順に、色情報計測器60によって色情報を計測する。
【0113】
第3実施形態の染色システム101によると、温度低下速度を減少させた搬送ユニットUが1つの搬送経路に留まることで、複数の搬送ユニットUが搬送経路中に滞留してしまうことが抑制される。従って、複数のレンズLに対する染色工程が、より効率良く実行される。
【0114】
また、第3実施形態の染色システム101は、第1搬送経路11Aを搬送されるレンズLの温度低下速度を極力高くすることで、染色工程に要する時間を短縮すると共に、第2搬送経路11Bを搬送されるレンズLの温度低下速度を極力低下させることで、レンズLの変形を抑制することができる。その結果、染色工程がさらに効率良く且つ適切に実行される。
【0115】
具体的には、第3実施形態では、第1搬送経路11A上に強制冷却部55を設置することで、第1搬送経路11Aを搬送されるレンズLに対して強制冷却が実行される。また、第1搬送経路11Aには、レンズLの温度低下速度を減少させるためのカバー部材13および可動シャッター14は設置されていない。その結果、変形が生じにくいレンズLの温度低下速度が高くなり、染色工程に要する時間が短縮される。
【0116】
また、第3実施形態では、第2搬送経路11B上には、強制冷却部55は設置されておらず、レンズLの温度低下速度を減少させるためのカバー部材13および可動シャッター14が設置されている。従って、変形が生じやすいレンズLの温度低下速度が適切に減少する。
【0117】
なお、第1搬送経路11Aと第2搬送経路11Bの具体的な構成は、適宜選択できる。例えば、染色システム101は、第1搬送経路11A上から搬送ユニットUを離脱させて待機させる第2搬送経路11Bを備えていてもよい。この場合、染色システム101は、第2搬送経路11B上で搬送ユニットUを待機させて、第2搬送経路11B中のレンズLの温度を徐々に低下させる間に、第1搬送経路11Aに他の搬送ユニットUを搬送させることができる。詳細には、染色システム101は、第1搬送経路11A上から搬送ユニットUを上方にリフトさせて待機させる第2搬送経路11Bを備えていてもよい。この場合、第2搬送経路11B上にリフトされている搬送ユニットUの下方の第1搬送経路11A上を、他の搬送ユニットUが適切に搬送される。
【0118】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、上記実施形態で例示した複数の技術の一部のみを採用してもよい。例えば、温度低下速度減少部として、カバー部材13および可動シャッター14の少なくとも一方を採用せずに、遮蔽部材を搬送ユニットUに設置する構成のみを採用することも可能である。また、染料定着工程の終了後に、遮蔽部材を搬送ユニットUに設置する構成を省略することも可能である。この場合、遮蔽部材を搬送ユニットUに再度設置する工程が省略されるので、染色工程に要する時間が短縮され易くなる。また、温度低下速度減少部の構成を変更することも可能である。例えば、温度低下速度減少部は、搬送装置10によって加熱定着位置から搬送されるレンズLに適度な熱を加えることで、レンズLの温度低下速度を減少させる加熱部を備えていてもよい。加熱部には、例えば、レンズLを加熱することが可能なヒーター、または、レンズLに温風を流すことが可能な温風発生部等の少なくともいずれかを用いることが可能である。また、染色システム1,101は、転写工程に用いられる基体Sとは異なる部材を遮蔽部材として、加熱定着位置から搬送される搬送ユニットUに設置してもよい。この場合でも、レンズLがそのまま外気に晒される場合に比べて、レンズLの周囲の気体が滞留し易くなるので、レンズLの温度低下速度が適切に減少する。
【符号の説明】
【0119】
1 染色システム
2 読取部
10 搬送装置
11 定着後搬送経路
13 カバー部材
14 可動シャッター
30 印刷装置
40 転写装置
50 染料定着装置
52 第1基体着脱部
55 強制冷却部
57 第2基体着脱部
58,59 温度測定部
60 色情報計測器
70 制御装置
71 コントローラ
80 染色用トレイ
U 搬送ユニット
S 基体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8