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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024145034
(43)【公開日】2024-10-15
(54)【発明の名称】温度槽及び試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/18 20060101AFI20241004BHJP
   G01N 19/00 20060101ALI20241004BHJP
【FI】
G01N3/18
G01N19/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023057262
(22)【出願日】2023-03-31
(71)【出願人】
【識別番号】000108797
【氏名又は名称】エスペック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】西川 太平
(72)【発明者】
【氏名】菊池 郁織
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061AC03
2G061AC04
2G061AC09
2G061BA01
2G061BA11
2G061CA01
2G061CA10
2G061CB01
2G061DA19
2G061EA01
2G061EA02
2G061EA03
2G061EA04
2G061EB05
(57)【要約】
【課題】試験時に空調されるべき空間がより小さい温度槽を提供することを課題とする
【解決手段】供試体100に計測器70のプローブ71、72を接触させた状態で当該供試体100を所望の環境下にさらすことが可能な温度槽2であって、前記供試体100の一部を囲う供試体領域10と、前記プローブ71、72が挿通されるプローブ領域11と、を有し、前記供試体領域10に気体を導入する導入部があり、前記プローブ領域11は供試体領域10と連通しており、前記導入部から導入された気体の一部又は全部が前記プローブ領域11を通過して排気される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体に計測器のプローブを接触させた状態で当該供試体を所望の環境下にさらすことが可能な温度槽であって、
前記供試体の一部を囲う供試体領域と、前記プローブが挿通されるプローブ領域と、を有し、
前記供試体領域に気体を導入する導入部があり、
前記プローブ領域は前記供試体領域と連通しており、前記導入部から導入された気体の一部又は全部が前記プローブ領域を通過して排気されることを特徴とする温度槽。
【請求項2】
前記供試体領域に第一開口と第二開口があり、
前記供試体の中央部が前記供試体領域に配され、前記供試体の両端部側が各々前記第一開口又は前記第二開口を経て前記供試体領域の外部に出るものであることを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項3】
前記プローブ領域の横断面の面積は前記供試体領域の横断面の面積よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項4】
前記プローブ領域と前記供試体領域の間に狭窄部があることを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項5】
前記プローブ領域に狭窄部があることを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項6】
前記導入部に対向する前記供試体領域の壁面の周辺に傾斜面又は曲面があることを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項7】
前記プローブ領域の開放端側に乾燥気体を供給することが可能であることを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項8】
前記供試体領域に供試体の一部を挿通する開口があり、当該開口の領域に乾燥気体を供給することが可能であることを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項9】
前記供試体領域に気体を供給する気体供給装置を有し、当該気体供給装置は供給する気体の温度を変更することができるものであることを特徴とする請求項1に記載の温度槽。
【請求項10】
供試体を保持する一対の保持部材を有し当該保持部材で供試体を保持して当該供試体に外力を加える外力付与装置と、プローブを有する計測器と、請求項1乃至9のいずれかに記載の温度槽を使用し、
前記供試体の中央部を前記供試体領域に位置するように前記供試体の両端を前記保持部材で保持し、
前記プローブの先端が前記供試体領域内において前記供試体に接触するように前記プローブを配置し、
温度調節された気体を前記導入部から前記供試体領域に導入し、
その状態で前記外力付与装置を駆動して前記供試体に外力を加えて前記計測器で前記供試体の変形状態を測定することを特徴とする試験方法。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれかに記載の温度槽と、前記供試体に外力を与える外力付与装置を備えた試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に所望の温度環境を作ることができる温度槽に関するものであり、所定の温度環境下における素材の材料特性を試験する用途に使用されることが望ましい温度槽に関するものである。
また本発明は、材料試験等の試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属素材やゴム等の基本特性を試験する材料試験装置が知られている。材料試験装置には、例えば引っ張り試験装置、圧縮試験装置、剪断試験装置、硬さ試験装置、衝撃試験装置等がある。ゴムや樹脂を供試体とするクリープ試験装置も知られている。
引っ張り試験装置には、一対の掴み具と、一方の掴み具を移動させる移動装置と、掴み具の移動量を検知する伸び量計と、引っ張り荷重を検知する荷重計を有するものがある。
代表的な引っ張り試験は、所定形状に成形された供試体の両端を、前記した一対の掴み具で掴み、移動装置で一方の掴み具を他方から離れる方向に移動させる。そしてその間の供試体の伸びを伸び量計で測定し、供試体に掛かっている引っ張り荷重を荷重計で測定し、供試体の応力・歪み線図等を作成するときの資料とする。
【0003】
また低温環境下や高温環境下における素材の材料特性を試験する試験装置が知られている。例えば引っ張り試験を行う試験装置であるならば、恒温装置(環境試験装置)を備え、恒温装置の試験室(温度槽)に供試体を設置して引っ張り試験を実施するものである。以下、試験室(温度槽)を備える試験装置を通常の試験装置と区別するために「複合試験装置」と称する。また所望の環境下に供試体をおいて供試体に外力を加える試験を「複合試験」と称する。
【0004】
複合試験装置の一つたる複合型の引っ張り試験装置は、恒温装置と、供試体を引っ張る引っ張り試験装置によって構成されている。引っ張り試験装置には、前記した引っ張り試験装置と同様に、一対の掴み具と、一方の掴み具を移動させる移動装置と、掴み具の移動量を検知する伸び量計と、荷重計を有するものがある。
【0005】
特許文献1には、複合試験装置の一例が開示されている。特許文献1に開示された複合試験装置についても、恒温装置と引っ張り試験装置によって構成されている。
特許文献1に開示された複合試験装置は、試験時に空調されるべき試験空間(以下、空調空間と称する)をできるだけ小さくすることを目的として開発されたものであり、恒温装置として恒温槽の上部に蛇腹が設けられた構造が採用されている。
特許文献1に開示された複合試験装置では、恒温槽と蛇腹によって外部と仕切られた空間が空調空間である。特許文献1に開示された複合試験装置では、恒温槽と蛇腹によって外部と仕切られた空間内に、一対の掴み具と、供試体の全部が入る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-228067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された複合試験装置は、旧来のものに比べると空調空間が小さい。
しかしながら、特許文献1に開示された複合試験装置では、空調空間内に一対の掴み具と、供試体の全部を入れた状態で試験を行うものであるから、少なくともこれらを収容することができる容積を持つことが必須である。そのため、特許文献1に開示された複合試験装置は、空調空間が十分に小さいとは言えず、容積がさらに小さい温度槽の開発が望まれている。
本発明は、試験時に空調されるべき空間がより小さい温度槽を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するための態様は、供試体に計測器のプローブを接触させた状態で当該供試体を所望の環境下にさらすことが可能な温度槽であって、前記供試体の一部を囲う供試体領域と、前記プローブが挿通されるプローブ領域と、を有し、前記供試体領域に気体を導入する導入部があり、前記プローブ領域は前記供試体領域と連通しており、前記導入部から導入された気体の一部又は全部が前記プローブ領域を通過して排気されることを特徴とする温度槽である。
【0009】
本態様の温度槽は、供試体に計測器のプローブを接触させた状態で供試体を所望の環境下にさらすことが可能な温度槽であり、複合試験を実施する際に使用することが推奨されるものである。
本態様の温度槽は、供試体領域を有し、導入部から供試体領域に気体が導入される。供試体領域内の温度は、供給される気体の温度に依存することとなる。
本態様の温度槽の供試体領域は、供試体の一部を囲うものであるから、従来技術に比べて空調空間が小さい。そのため供試体領域内の温度を短時間の内に所望の温度に至らせることができる。また消費エネルギーが少ない。
本態様の温度槽は、供試体領域内の温度を短時間で変更することができるので、例えば熱サイクル試験と称される様な環境温度が周期的に変化する環境下に供試体をさらす試験や、熱衝撃試験と称される様な急激に温度が変化する環境下に供試体にさらす試験を実施するのに適している。
ところで、供試体を高温環境や低温環境といった外気温度から離れた環境下に置き、高温状態や低温状態となっている供試体にプローブを接触させると、プローブを経由した熱移動を無視することができなくなる場合がある。即ち供試体の温度が高い場合には、供試体の熱がプローブに移動し、供試体の温度が低下してしまう可能性がある。逆に供試体の温度が低い場合には、プローブの熱が供試体に移動し、供試体の温度が上昇してしまう可能性がある。
本態様の温度槽は、この問題を解決するため、プローブが挿通されるプローブ領域を設け、前記導入部から導入された気体の一部又は全部が前記プローブ領域を通過して排気される構成とした。
本態様の温度槽によると、プローブ領域の温度が供試体領域内の温度に近づき、プローブと供試体の温度差が小さいものとなる。そのためプローブを経由した熱移動が抑制され、供試体を所望の温度に維持することができる。
【0010】
上記した態様において、前記供試体領域に第一開口と第二開口があり、前記供試体の中央部が前記供試体領域に配され、前記供試体の両端部側が各々前記第一開口又は前記第二開口を経て前記供試体領域の外部に出るものであることが望ましい。
【0011】
本態様の温度槽の供試体領域は、供試体の中央部分だけを囲むものであるから、容積が小さい。そのため供試体領域内の温度をより短時間の内に所望の温度にすることができる。
【0012】
上記した各態様において、前記プローブ領域の横断面の面積は前記供試体領域の横断面の面積よりも小さいことが望ましい。
【0013】
本態様によると、プローブ領域の断面積が供試体領域の断面積よりも小さいので、供試体領域内の気体が排出されにくく、当該気体が供試体領域内に留まりやすい。そのため供試体領域内の温度を所望の温度に維持し易い。
【0014】
上記した各態様において、前記プローブ領域と前記供試体領域の間に狭窄部があることが望ましい。
【0015】
本態様によると、プローブ領域と供試体領域の間が狭くなっているので、供試体領域内の気体が排出されにくく、当該気体が供試体領域内に留まり易い。そのため供試体領域内の温度を所望の温度に維持し易い。
【0016】
上記した各態様において、前記プローブ領域に狭窄部があることが望ましい。
【0017】
本態様によると、プローブ領域の一部が狭くなっているので、供試体領域内の気体が排出されにくく、当該気体が供試体領域内に留まり易い。そのため供試体領域内の温度を所望の温度に維持し易い。
【0018】
上記した各態様において、前記導入部に対向する前記供試体領域の壁面の周辺に傾斜面又は曲面があることが望ましい。
【0019】
本態様の温度槽では、導入部に対向する供試体領域の壁の周辺に傾斜面又は曲面がある。そのため導入部から導入された気体が当該傾斜面や曲面に沿って供試体の下流側に回り込み、供試体の周囲を通風環境とすることができる。
【0020】
上記した各態様において、前記プローブ領域の開放端側に乾燥気体を供給することが可能であることが望ましい。
【0021】
プローブ領域の端部は、プローブを挿通する必要から開口している。そのため供試体領域に供給された気体が、プローブ領域の端部から漏れる。ここで気体が低温であるならば、プローブ領域の端部近傍が結露する可能性がある。
本態様はこの問題を解決するものであり、プローブ領域の開口部分に乾燥気体を供給することによって結露の発生を抑制することができる。
【0022】
上記した各態様において、前記供試体領域に供試体の一部を挿通する開口があり、当該開口の領域に乾燥気体を供給することが可能であることが望ましい。
【0023】
本態様の温度槽では、供試体領域に供試体の一部を挿通する開口がある。そのため供試体領域に供給された気体が当該開口から漏れる。ここで気体が低温であるならば、開口の近傍が結露する可能性がある。
本態様はこの問題を解決するものであり、開口の領域に乾燥気体を供給することによって結露の発生を抑制することができる。
【0024】
上記した各態様において、前記供試体領域に気体を供給する気体供給装置を有し、当該気体供給装置は供給する気体の温度を変更することができるものであることが望ましい。
【0025】
本態様によると、供試体の温度を変化させつつ、供試体に外力を加えることができる。
【0026】
試験方法に関する態様は、供試体を保持する一対の保持部材を有し当該保持部材で供試体を保持して当該供試体に外力を加える外力付与装置と、プローブを有する計測器と、請求項1乃至10のいずれかに記載の温度槽を使用し、前記供試体の中央部を前記供試体領域に位置するように前記供試体の両端を前記保持部材で保持し、前記プローブの先端が前記供試体領域内において前記供試体に接触するように前記プローブを配置し、温度調節された気体を前記導入部から前記供試体領域に導入し、その状態で前記外力付与装置を駆動して前記供試体に外力を加えて前記計測器で前記供試体の変形状態を測定することを特徴とする。
【0027】
本態様によると、低温環境下や高温環境下における素材の材料特性を試験することができる。
【0028】
試験装置に関する発明は、前記したいずれかの温度槽と、前記供試体に外力を与える外力付与装置を備えた試験装置である。
【0029】
本態様によると、所望の環境下に供試体を置いて、供試体に外力を与えることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の温度槽は、試験時に空調されるべき空間がより小さく、供試体領域内の温度を短時間で所望の温度にすることができる。
また本発明の試験方法及び試験装置によると、所望の環境下に被試験物を置いて、供試体に外力を与える試験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施形態の試験装置(複合試験装置)の斜視図である。
図2図1の試験装置(複合試験装置)の温度槽近傍の斜視図である。
図3】本発明の実施形態の温度槽の分解斜視図である。
図4図1の試験装置(複合試験装置)の要部を示す説明図である。
図5】(a)は、図2のA-A断面図であり(b)は、図2のB-B断面図である。
図6】(a)、(b)は、本発明の他の実施形態の温度槽の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の試験装置1は、複合試験装置であり、より詳細には複合型の引っ張り試験装置である。
本実施形態の試験装置1は、図1に示すように、温度槽2と、外力付与装置3と、伸び量計(計測器)5によって構成されている。
また温度槽2に付属する装置として、空調装置(気体供給装置)6がある。
さらに試験装置1には、乾燥空気を噴射するノズル7a、7b、8が設けられている。
【0033】
後記する様に、本実施形態の温度槽2は、二分割構造となっているが、説明の都合上、一体化された状態を基準として説明する。
温度槽2の外形形状は、図2の様に二つの直方体の箱が繋がった形をしている。
即ち比較的大きな立方体に近い直方体の箱部があり、その側面に、細長い直方体の箱部が接続された形をしている。
温度槽2は、内部が二つの空間に区切られた小さな箱である。温度槽2の内部は空洞であり、図2乃至図3の様に、供試体領域10と、プローブ領域11がある。即ち比較的大きな箱部によって供試体領域10が構成され、細長い箱部によってプローブ領域11が構成されている。
【0034】
供試体領域10は、図2の様に6面が覆われた立方体に近い形の箱である。即ち供試体領域10は、正面壁15と、裏面壁16、上面壁17、底面壁18、第1側面壁20及び第2側面壁21を有している。
【0035】
正面壁15には、観察窓22が設けられている。観察窓22には、ガラス等の透明な部材がはめ込まれており、供試体領域10内を外から観察することができる。
上面壁17と底面壁18にはスリット状の第1開口25及び第2開口26が設けられている。
本実施形態では、供試体100としてダンベル型の試験片を例示している。供試体100は、その中間領域101の一部又は全部が供試体領域10内に位置し、両端の保持部102が供試体領域10外に位置するよう、第1開口25及び第2開口26に挿入される。
【0036】
第1側面壁20には、導入管28が設けられている。導入管28は、供試体領域10の内外を連通するものである。即ち導入管28は、供試体領域10内に開口している。本実施形態では、導入管28の供試体領域10内に開く開口が、供試体領域10に気体を導入する導入部30(図5参照)として機能する。
【0037】
第2側面壁21は、導入部30が設けられた第1側面壁20に対向する面である。
本実施形態では、第2側面壁21の各辺部は、いずれも曲面である。
即ち第2側面壁21は、第1側面壁20以外の4壁面と隣接している。本実施形態では、第2側面壁21と正面壁15との境界部23aが曲面である。第2側面壁21と裏面壁16との境界部23bが曲面である。第2側面壁21と上面壁17との境界部23cが曲面である。第2側面壁21と底面壁18との境界部23dが曲面である。
この様に、本実施形態では、導入部30に対向する第2側面壁21と他の壁との境界となる各角が曲面となっている。即ち、本実施形態では、導入部30に対向する供試体領域10の壁面の周辺に傾斜面がある。
本実施形態では、全ての角が曲面となっているが、必ずしも全ての角が曲面である必要はない。また曲面に代わって傾斜面であってもよい。曲面や傾斜面は必須ではなく、直角であってもよい。
【0038】
プローブ領域11は、角筒状である。
プローブ領域11は、正面と裏面と上下面が壁に覆われており、一端が供試体領域10の第2側面壁21に接続されている。長手方向の他端は開放されている。即ちプローブ領域11の自由端側は開放されている。
即ちプローブ領域11は、正面壁31、裏面壁32、上面壁33及び底面壁35を有し、両側面は開放されている。
プローブ領域11の自由端側の開口は、プローブ挿入口36として機能する。換言するとプローブ領域11の自由端は、開放端となっている。
プローブ領域11の下面には、排気管37が接続されている。
【0039】
前記した様に、温度槽2の内部は空洞であり、供試体領域10とプローブ領域11は連通している。供試体領域10とプローブ領域11の横断面の面積を比較すると、プローブ領域11の横断面の面積は供試体領域10の横断面の面積よりも小さい。
即ち、プローブを挿通する方向に対して垂直方向の断面(横断面)を想定し、供試体領域10の横断面と、プローブ領域11の横断面を比較すると、プローブ領域11の横断面の面積は供試体領域10の横断面の面積よりも小さい。
【0040】
本実施形態の温度槽2は、二分割構造となっている。
即ち本実施形態の温度槽2は、正面側部材40と裏面側部材41に分割されており、両者が接続部材38で接続されたものである。
温度槽2は縦割状に分割されており、割面は、供試体領域10の第1側面壁20の中間部、上面壁17の中間部、第2側面壁21の中間部の上部側、プローブ領域11の上面壁33の中間部、底面壁35の中間部、供試体領域10の第2側面壁21の中間部の下部側、供試体領域10の底面壁18の中間部であり、これらを境として正面側部材40と裏面側部材41に分割されている。
【0041】
供試体領域10とプローブ領域11は、概ね正面壁15、31側と、裏面壁16、32側に二分割されているが、図3の様に導入管28は、裏面側部材41に属している。また排気管37は、正面側部材40に属している。
第1開口25及び第2開口26は、正面壁15、31側と裏面壁16、32側に分割されている。
即ち正面側部材40と裏面側部材41の合わせ面に凹部42、43、45、46があり、これらが合致してスリット状の第1開口25及び第2開口26が構成される。
接続部材38は例えばトグル式のものである。
【0042】
次に外力付与装置3について説明する。
外力付与装置3は、公知の引っ張り試験装置である。外力付与装置3は、図1に示すように基台部50と、門型フレーム51を有している。
門型フレーム51には、図示しないガイドレールがあり、門型フレーム51のガイドレールに昇降桟52が係合している。
そして昇降桟52の下部に上ロッド55が設けられており、当該上ロッド55の先端に上側掴み具(保持部材)57が設けられている。即ち移動部材たる昇降桟52に、上ロッド55を介して保持部材たる上側掴み具57が取り付けられている。
【0043】
また基台部50には、下ロッド60が設けられており、当該下ロッド60の先端に下側掴み具(保持部材)61が設けられている。
外力付与装置3は、公知の引っ張り試験装置と同様に、昇降桟52を昇降して上側掴み具57を上方に移動させることができる。
また外力付与装置3は、引っ張り荷重を検知する荷重計63を有している。
荷重計63は、昇降桟52に取り付けられており、上ロッド55及び上側掴み具57の重量を検知することによって供試体(被試験物)100に掛かる引っ張り荷重を検知するものである。
【0044】
伸び量計5は公知の計測器であり、図4に示すように本体部70からプローブ71、72が突出したものである。なおプローブ71、72は、測定や実験などのために、被測定物に接触または挿入する針である。
本実施形態で採用する伸び量計5は、プローブ71、72の間隔の変化によって供試体100の伸びを測定するものである。
【0045】
空調装置(気体供給装置)6は、内部に図示しない冷凍装置、ヒータ及び送風機が内蔵されたものであり、所望の温度に調節された空気を排出することができるものである。本実施形形態で採用する空調装置6は、低温から高温に至る広範囲の温度に調整された空気を排出することができる。また排出する空気の温度を比較的短時間で変化させることができる。
空調装置6は、湿度も調整することができる物であることが望ましい。
【0046】
ノズル7a、7b、8は図示しない乾燥気体供給装置に接続されている。ここで「乾燥気体」とは、含有する水蒸気量が外気に比べて少ない気体を意味する。
【0047】
次に試験装置1を構成する各部材間の関係について説明する。
本実施形態の試験装置1は、前記した様に、温度槽2と、外力付与装置3と、伸び量計5によって構成されており、さらに温度槽2には空調装置(気体供給装置)6が付属する。また試験装置1には、乾燥空気を噴射するノズル7a、7b、8が設けられている。
【0048】
本実施形態の試験装置1では、図1の様に、温度槽2が外力付与装置3の門型フレーム51の枠内であって、上側掴み具(保持部材)57と下側掴み具(保持部材)61の間の中空に支持されている。
支持方法は限定するものでないが、本実施形態では、図1の様に門型フレーム51の柱部80に支持部材81を取り付け、当該支持部材81で温度槽2を上側掴み具(保持部材)57と下側掴み具(保持部材)61の間に保持している。
より詳細には温度槽2の裏面側部材41が支持部材81によって上側掴み具(保持部材)57と下側掴み具(保持部材)61の間に支持されている。
【0049】
図1の様に、門型フレーム51の柱部82に、伸び量計5の本体部70が固定され、プローブ71、72が温度槽2に向かって配置される。
【0050】
温度槽2と空調装置6はダクト73によって接続されている。
即ち温度槽2の導入管28に、空調装置6の排気部がダクト73を介して接続されている。
【0051】
図2に示すように、ノズル7aは、温度槽2の第1開口25の近傍にあり、第1開口25に向かって乾燥気体を噴射することができる。ノズル7bは、温度槽2の第2開口26の近傍にあり、第2開口26に向かって乾燥気体を噴射することができる。
ノズル8は、プローブ領域11の自由端の近傍にあり、プローブ領域11の開放端側に乾燥気体を噴射することができる。
【0052】
次に、本実施形態の試験装置1を使用した試験方法及び本実施形態の試験装置1の作用について説明する。
本実施形態の試験装置1を使用して引っ張り試験を行う場合は、供試体100を所定の形状に成形する。例えばダンベル型試験片の形状に成形する。
そして温度槽2の裏面側部材41から正面側部材40を外し、供試体領域10の内部とプローブ領域11の内部を露出状態とする。
この状態で、供試体100の両端を上側掴み具57と下側掴み具61で掴む。
【0053】
またプローブ領域11に伸び量計5のプローブ71、72を挿通し、当該プローブ71、72の先端を供試体100の側面に接触させる。
そして正面側部材40を裏面側部材41に合致させて両者を結合する。
この状態の様子は、図2図4の通りであり、供試体100の中間領域101の一部だけが、供試体領域10内に収容され、他の部位は、供試体領域10の外にある。
具体的には、供試体100の保持部102の全てと中間領域101の一部が、供試体領域10の外に出ている。
【0054】
その後、空調装置6を起動して、所定の温度に調整された空気を供試体領域10に供給し、供試体領域10内を所定の温度環境に調整する。例えば熱サイクル試験を行うのであれば、空調装置6から排出される空気の温度を周期的に変化させる。
またノズル7aから第1開口25に向かって乾燥気体を噴射し、ノズル7bから第2開口26に向かって乾燥気体を噴射する。さらにノズル8からプローブ領域11の開放端側に乾燥気体を噴射する。
そして外力付与装置3を起動し、上ロッド55を一定の速度で上昇させて供試体100に引っ張り荷重を掛け、破断する。そしてその間の供試体100の伸びを伸び量計5で測定し、荷重を荷重計63で測定して両者の関係を記録する。
【0055】
試験中における温度槽2内の空気の流れは、図5の矢印の通りである。即ち空調装置6の送風機を起動することにより、温度槽2の導入部30から空調された空気が供試体領域10に導入される。
導入部30から供試体領域10に導入された空気の一部は、直接的に供試体100に当たり、下流に流れる。また供試体領域10に導入された他の空気は、供試体領域10の内壁に沿って流れる。ここで本実施形態では、導入部30に対向する第2側面壁21と他の壁との境となる各角が曲面となっているから、供試体領域10の内壁に沿って流れた空気は、当該曲面に沿って流れ、供試体100の反対側に回り込む。
そのため供試体100の全周が通風環境となり、供試体100と空気との接触機会が増加する。
【0056】
供試体領域10に供給された空気は、プローブ領域11側に流れるが、プローブ領域11の横断面の面積が、供試体領域10の横断面の面積よりも小さいので、供試体領域10内の空気が排出されにくい。そのため温度調節された空気が供試体領域10内に留まり易く、供試体領域10の温度を維持しやすい。即ち本実施形態では、プローブ領域11が供試体領域10に開く部分(プローブ領域11と供試体領域10の境界)が狭窄部となっており、供試体領域10内の空気が排出されにくい。
【0057】
プローブ領域11側に流れた空気の一部は、プローブ領域11に設けられた排気管37から外部に排出される。
またプローブ領域11側に流れた空気の残部は、プローブ領域11の全域を通過して自由端側の開口から排気される。
そのためプローブ領域11の温度は、供試体領域10の温度に近いものとなる。
その結果、プローブ71、72のプローブ領域11内に位置する部分の温度が、供試体領域10の温度と近いものとなり、供試体100の表面温度との差が小さいものとなる。そのため、プローブ71、72を経由した熱移動が抑制され、プローブ71、72によって供試体100の温度が変わってしまうという問題が解消される。
【0058】
この効果は、温度槽2内の温度を一定に維持している場合だけでなく、温度を変化させる場合にも有効である。即ち、温度槽2内の温度が変化している状況においては、温度槽2内と外との温度差が広がる傾向にある。この際、プローブ71、72は、温度槽2外の温度の影響を受け、その温度変化に遅れが生じやすい。本実施形態の温度槽2では、プローブ71、72のプローブ領域11内に位置する部分が、供試体領域10の温度と近い空気によってすぐに温められたり冷やされたりする。そのため、温度槽2内の温度を変化させる場合においても、供試体100の表面温度との差が小さく、プローブ71、72を経由した熱移動が抑制される。
【0059】
温度槽2には、導入部30及び排気管37以外に開口が3か所存在する。即ち、温度槽2の供試体領域10には、第1開口25と第2開口26がある。またプローブ領域11の自由端には、プローブ挿入口36がある。
そのため導入部30から供給された空気は、第1開口25、第2開口26及びプローブ挿入口36からも排気される。
前記した様に、熱サイクル試験を実施すると、一定間隔で導入部30から冷気が供給され、当該冷気が前記した第1開口25、第2開口26及びプローブ挿入口36からも排気される。そのため第1開口25、第2開口26及びプローブ挿入口36が結露する可能性がある。
しかしながら本実施形態では、ノズル7aから第1開口25に向かって乾燥気体が噴射され、ノズル7bから第2開口26に向かって乾燥気体が噴射され、ノズル8からプローブ領域11の開放端側に乾燥気体が噴射されるので、結露する可能性のある領域が乾燥空気で覆われ、温度低下しても結露が生じない。
【0060】
本実施形態では、温度槽2が開放空間に設置されており、ノズル7a、ノズル7b、ノズル8は、いずれも開放空間に乾燥気体を噴射するが、温度槽2の周囲をカバー等で覆い、当該カバーによって略閉塞された空間に乾燥気体を供給してもよい。
例えば温度槽2の全体を箱で囲って第二の槽を構成し、当該第二の槽を乾燥空気で満たしてもよい。
この場合であっても、プローブ領域の開放端側と、第1開口25及び第2開口26に乾燥空気を供給することが可能である。
【0061】
本実施形態の温度槽2は、供試体100のプローブ71、72が取り付けられた部分だけを覆い、供試体100のプローブ71、72が取り付けられた部分だけを局所的に温度制御するものである。
本実施形態の温度槽2は、空調空間が極めて小さいので、当該空調空間の温度を極めて短い時間で変化させることができる。また、供試体領域10に供給された空調空気をプローブ領域11を介して排気させるため、供試体100とプローブ71、72との温度差を小さくすることができる。そのため本実施形態の温度槽2は、熱サイクル試験や熱衝撃試験の様な温度変化を伴う試験を行うのに好適である。
また本実施形態の温度槽2は、空調空間が極めて小さいので、空調空気の必要量が少なく、省エネルギーに寄与する。
【0062】
以上説明した実施形態では、プローブ領域11の断面積を供試体領域10の断面積よりも小さくすることによって、供試体領域10内に温度調節された空気が長く滞留するようにした。
同様の効果が期待できる構造としては、図6(a)の様に、供試体領域10とプローブ領域11の間に仕切り83を設けて狭窄部85を形成し、狭窄部85を通過させてプローブ領域11に空気を流す構造が考えられる。
【0063】
図6(b)の様に、プローブ領域11の中間部に仕切り86を設けて狭窄部87を形成し、狭窄部87を通過させてプローブ領域11の下流側に空気を流す構造も考えられる。
【0064】
以上説明した実施形態では、プローブ領域11に排気管37を設け、温度槽2に供給された気体の一部を排気管37から排気し、他の気体はプローブ領域11を通過させてプローブ挿入口36から排出した。即ち上記した実施形態では、導入部30から導入された気体の一部がプローブ領域11を通過して排気される。
しかしながら本発明はこの構成に限定されるものではなく、排気管37を設けず、導入部30から導入された気体の全部が、プローブ領域11を通過してプローブ挿入口36から排出されるものであってもよい。
【0065】
上記した実施形態の温度槽2は、前後方向に二分割されており、接続部材38で一体化される。
本実施形態の温度槽2では、前面側が開放されるので、供試体100を取り換え易い。
温度槽2をどの位置で分割するかは任意である。また分割する個数についても任意である。例えば、供試体領域10の前面側とプローブ領域11の前面側を、個別に取り外すことができる構造であってもよい。
各パーツがヒンジで結合されていて開放可能であってもよい。
【0066】
供試体領域10の形状は限定するものではなく、例えば円柱状や樽型、あるいは球形であってもよい。プローブ領域11についても同様であり、円管状であってもよい。
【0067】
乾燥気体を供給する構成は任意であり、例えば低温環境における試験を行わないのであれば乾燥気体は不要である。
【0068】
本実施形態の温度槽2でダンベル型試験片を用いる場合は、第1開口25及び第2開口26は、ダンベル型試験片の中間領域101が通過可能であるが、両端の保持部102は通過することができない大きさに設定されるのが望ましい。ダンベル型試験片を用いる場合は、この構成とすることにより、第1開口25及び第2開口26から空気が排出されにくくなり、供試体領域10の温度を維持し易くなる。
しかしながら、そもそも本発明は、供試体100をダンベル型試験片に限定するものではないので、第1開口25及び第2開口26の大きさについても限定されない。
【0069】
以上説明した実施形態では、門型フレーム51の柱部80、82に温度槽2と伸び量計5を固定したが、これらの固定位置や固定手段は限定されるものでない。
例えば別途独立した支持台等を準備し、この支持台に温度槽2や伸び量計5を固定してもよい。
【0070】
プローブ71、72を挿通する方向における供試体領域10の長さとプローブ領域11の長さが、同じであっても異なっていてもよい。例えば、プローブ領域11の長さを供試体領域10よりも長くする場合、プローブ領域11に含まれるプローブ71、72の部分が増えることとなる。この場合、プローブ領域11に含まれるプローブ71、72がプローブ領域11で加熱又は冷却されることとなるため、供試体100と接するプローブ71、72の部分と供試体100との温度差がより生じにくい。
【0071】
上記した実施形態では、プローブ領域11の自由端側が全面的に開放されているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば自由端側を窄ませたり、仕切りを設ける等により、自由端側の開口面積が制限されていてもよい。即ち、プローブ領域11の自由端側の少なくとも一部に開口があればよい。
【0072】
上記した実施形態では、温度槽2が上側掴み具57と下側掴み具61の間の位置に保持された状態で供試体100及びプローブ71、72の一部を温度槽2に配置したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
例えば、供試体100の両端を上側掴み具57と下側掴み具61で掴んだ後で、供試体100の中央部が供試体領域10に位置するように温度槽2を配置してもよい。その状態で、プローブ71、72をプローブ領域11に挿入してプローブ71、72の先端を供試体100に接触させてもよい。
また、供試体100の両端を上側掴み具57と下側掴み具61で掴み、前記プローブの先端を供試体100に接触させた後で、供試体100の中央部が供試体領域10に位置すると共にプローブ71、72の少なくとも一部分が供試体領域10及びプローブ領域11内に位置するように温度槽2を配置してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 試験装置
2 温度槽
3 外力付与装置
5 伸び量計(計測器)
6 空調装置(気体供給装置)
7a、7b、8 ノズル
10 供試体領域
11 プローブ領域
25 第1開口
26 第2開口
30 導入部
36 プローブ挿入口
40 正面側部材
41 裏面側部材
57 上側掴み具(保持部材)
61 下側掴み具(保持部材)
71、72 プローブ
85、87 狭窄部
100 供試体
101 中間領域
102 保持部
図1
図2
図3
図4
図5
図6